(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099601
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】ゴルフボール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20220628BHJP
A63B 45/00 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
A63B37/00 214
A63B45/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213452
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】藤江 武晴
(57)【要約】
【課題】 エッジ部分も含めてディンプル表面に厚い塗膜を均一に形成することができ、耐傷つき性と耐剥離性の両方の特性に優れたゴルフボール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のゴルフボールの製造方法は、複数のディンプルを有するカバーの表面に第1の塗膜を形成し、第1の塗膜の表面に第2の塗膜を形成する。第2の塗膜は、ポリウレタン塗料と沸点が80℃以下の溶剤とを含む第2の塗料組成物によって形成される。第2の塗膜は弾性回復率が50%以上である。これにより得られる本発明のゴルフボールは、ディンプルの中央部分における第2の塗膜の膜厚に対するディンプルのエッジ部分における第2の塗膜の膜厚の比であるエッジ比が50%以上である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のディンプルを有するカバーの表面に、第1の塗膜を形成するステップと、
前記第1の塗膜の表面に、第2の塗膜を形成するステップと
を含むゴルフボールの製造方法であって、
前記第2の塗膜が、ポリウレタン塗料と、沸点が80℃以下の溶剤とを含む第2の塗料組成物によって形成され、
前記第2の塗膜は弾性回復率が50%以上であるゴルフボールの製造方法。
【請求項2】
前記ディンプルのエッジ部分における前記第2の塗膜の膜厚が10μm以上である請求項1に記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項3】
前記第1の塗膜が、アクリル樹脂とウレタン樹脂とを含む第1の塗料組成物によって形成され、前記アクリル樹脂と前記ウレタン樹脂の合計の質量に対する前記アクリル樹脂の比率が50質量%以上である請求項1又は2に記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項4】
前記第2の塗膜がスプレー塗装によって形成される請求項1~3のいずれか一項に記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項5】
前記第2の塗料組成物全量に対する前記沸点が80℃以下の溶剤の配合量が、20質量%以上である請求項1~4のいずれか一項に記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項6】
コアと、複数のディンプルを有するカバーと、前記カバー表面に位置する塗膜とを備えるゴルフボールであって、前記塗膜が、ゴルフボールの内側の第1の塗膜と、ゴルフボールの外側の第2の塗膜とを少なくとも含む積層構造を有し、前記第2の塗膜がポリウレタン塗料を含み、前記第2の塗膜は弾性回復率が50%以上であり、前記ディンプルの中央部分における前記第2の塗膜の膜厚に対する前記ディンプルのエッジ部分における前記第2の塗膜の膜厚の比であるエッジ比が50%以上であるゴルフボール。
【請求項7】
前記ディンプルのエッジ部分における前記第2の塗膜の膜厚が10μm以上である請求項6に記載のゴルフボール。
【請求項8】
前記第1の塗膜が、アクリル樹脂とウレタン樹脂とを含み、前記アクリル樹脂と前記ウレタン樹脂の合計の質量に対する前記アクリル樹脂の比率が50質量%以上である請求項6又は7に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの表面を保護する目的や、美的外観を良好に維持する目的のため、通常、ゴルフボールの表面には塗料組成物による塗装が施されている。ゴルフボールの表面に傷がつくと、傷が小さくてもそこに土や芝などが入り込み、ゴルフボールの表面に汚れが生じる。
【0003】
そこで、ゴルフボールの表面に耐傷つき性の高い塗膜を形成するために、弾性仕事回復率の高い塗膜を形成することができる塗料組成物が提案されている。例えば、特開2017-077357号公報には、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とするゴルフボール用塗料組成物であって、ポリオールとして、アクリル系ポリオールを用いると共に、当該組成物による塗膜の弾性仕事回復率が70%以上であることを特徴とするゴルフボール用塗料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような塗料組成物による弾性回復率が高い塗膜は、耐傷つき性が高いものの、ゴルフボールのカバーとの密着性に課題があった。弾性回復率の高い塗膜は、通常の塗膜と比べて、材料自体が脆く、特にカバーの硬度が硬い場合、カバーから又はカバーに印刷されたマークから剥がれ易いという傾向がある。
【0006】
耐傷つき性と密着性(耐剥離性)を両立させるために鋭意検討としたところ、塗膜の厚さを上げることで、耐傷つき性および耐剥離性の両方を向上し得る知見が得られたものの、上記の弾性回復率の高い塗料組成物は、特にディンプルのような窪んだ曲面がある表面では、厚い塗膜を均一に形成することが難しいことがわかった。特に、ディンプルがディンプル以外のボール表面(土手部分)と隣接する部分であるエッジ部分で膜厚が薄くなり、そのため、耐傷つき性および耐剥離性を十分に向上させることができず、また、ゴルフボールの空力性能の低下にもつながり得るという問題が生じた。
【0007】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、エッジ部分も含めてディンプル表面に厚い塗膜を均一に形成することができ、耐傷つき性と耐剥離性の両方の特性に優れたゴルフボール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、ゴルフボールの製造方法であって、この製造方法は、複数のディンプルを有するカバーの表面に、第1の塗膜を形成するステップと、前記第1の塗膜の表面に、第2の塗膜を形成するステップとを含み、前記第2の塗膜は、ポリウレタン塗料と、沸点が80℃以下の溶剤とを含む第2の塗料組成物によって形成され、前記第2の塗膜は弾性回復率が50%以上である。
【0009】
前記ディンプルのエッジ部分における前記第2の塗膜の膜厚は10μm以上であることが好ましい。
【0010】
前記第1の塗膜は、アクリル樹脂とウレタン樹脂とを含む第1の塗料組成物によって形成されることが好ましい。また、前記アクリル樹脂と前記ウレタン樹脂の合計の質量に対する前記アクリル樹脂の比率が50質量%以上であることが好ましい。
【0011】
前記第2の塗膜は、スプレー塗装によって形成されることが好ましい。
【0012】
前記第2の塗料組成物全量に対する前記沸点が80℃以下の溶剤の配合量は、20質量%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明は、また別の態様として、コアと、複数のディンプルを有するカバーと、前記カバー表面に位置する塗膜とを備えるゴルフボールであって、前記塗膜は、ゴルフボールの内側の第1の塗膜と、ゴルフボールの外側の第2の塗膜とを少なくとも含む積層構造を有し、前記第2の塗膜はポリウレタン塗料を含み、前記第2の塗膜は弾性回復率が50%以上であり、前記ディンプルの中央部分における前記第2の塗膜の膜厚に対する前記ディンプルのエッジ部分における前記第2の塗膜の膜厚の比であるエッジ比は50%以上である。
【0014】
前記ディンプルのエッジ部分における前記第2の塗膜の膜厚は10μm以上であることが好ましい。
【0015】
前記第1の塗膜は、アクリル樹脂とウレタン樹脂とを含む第1の塗料組成物によって形成されることが好ましい。また、前記アクリル樹脂と前記ウレタン樹脂の合計の質量に対する前記アクリル樹脂の比率が50質量%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、複数のディンプルを有するカバーの表面に、第1の塗膜と、弾性回復率が50%以上となるポリウレタン塗料を含む第2の塗膜を順に形成し、塗膜を内側塗膜と外側塗膜との少なくとも2層の積層構造とするとともに、第2の塗膜(外側塗膜)を形成する第2の塗料組成物に、沸点が80℃以下の溶剤を配合させることで、ディンプルの中央部分における外側塗膜の膜厚に対するディンプルのエッジ部分における外側塗膜の膜厚の比であるエッジ比が50%以上となり、エッジ部分も含めてディンプル表面に厚い塗膜を均一に形成することができ、よって、耐傷つき性と耐剥離性の両方の特性に優れたゴルフボールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るゴルフボールのディンプル周辺部を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るゴルフボール及びその製造方法の一実施の形態について説明する。
【0019】
本実施の形態のゴルフボールの製造方法は、複数のディンプルを有するカバーの表面に第1の塗膜(「内側塗膜」とも呼ぶ)を形成するステップと、第1の塗膜の表面に第2の塗膜(「外側塗膜」とも呼ぶ)を形成するステップとを含む。
【0020】
内側塗膜を形成するための第1の塗料組成物は、これに限定されないが、主剤としてアクリル樹脂とウレタン樹脂とを含むものが好ましい。ゴルフボールのカバーには、主剤としてアイオノマー樹脂やウレタン樹脂などが配合されていることから、カバーと外側塗膜との双方に接する内側塗膜にアクリル樹脂とウレタン樹脂を用いることで、カバーとの親和力および外側塗膜との密着性を高くすることができる。
【0021】
アクリル樹脂とウレタン樹脂との比率(アクリル樹脂:ウレタン樹脂)は、質量比で、30:70~80:20が好ましく、50:50~80:20がより好ましく、60:40~70:30が更に好ましい。特にアクリル樹脂の比率を上げることで、カバーに配合されているアイオノマー樹脂との密着性を高くすることができることから、アクリル樹脂の比率は50質量%以上が好ましい。一方で、ウレタン樹脂の比率を上げると、ウレタン樹脂には柔軟性があるため、塗膜全体(内側塗膜と外側塗膜との積層体)としての耐摩耗性を高くすることができる。
【0022】
アクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびそのエステルよりなる群から選択される1種以上のアクリル系モノマーを重合させて得られる樹脂や、1種以上のアクリル系モノマーとアクリル系モノマー以外の1種以上のモノマーとを共重合させて得られる樹脂を用いることができる。アクリル系モノマーのうち、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられ、また、アクリル系モノマー以外のモノマーの具体例としては、スチレンなどが挙げられる。これらのうち、アクリル樹脂としては、密着性向上のため、アクリル酸エステルを用いることが好ましい。
【0023】
ウレタン樹脂としては、例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応によって得られるウレタン結合を有する樹脂を用いることができる。ポリオール成分としては、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等が挙げられ、ポリイソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン-ジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素化MDI)、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等が挙げられる。これらのうち、ウレタン樹脂としては、柔軟性付与のため、ポリエーテル型を用いることが好ましい。
【0024】
第1の塗料組成物は、水性塗料組成物とすることが好ましい。水性塗料組成物とは、主剤である樹脂が水中に溶解あるいは分散しているものをいう。水性塗料組成物は、水中での樹脂の安定化状態によって、水溶性塗料組成物と水分散性塗料組成物とに分類される。本実施の形態では、水分散性塗料組成物が好ましい。水分散性塗料組成物は、樹脂の粒径によって、コロイダルディスパージョン型(粒径0.005~0.05μm程度)と、エマルジョン型(粒径0.05~0.5μm程度)に分類される。本実施の形態では、コロイダルディスパージョン型でもエマルジョン型でもよいし、例えば、アクリル樹脂をエマルジョン型の塗料、ウレタン樹脂をコロイダルディスパージョン型の塗料として、これらを混合して水分散性塗料組成物としてもよい。
【0025】
第1の塗料組成物は、上記の主剤の他、架橋剤を含んでもよい。架橋剤は、アクリル樹脂やウレタン樹脂が架橋反応性基を有する場合に、架橋反応性基に応じて、配合することができる。架橋剤としては、これらに限定されないが、例えば、メチロール化合物、ポリエポキシ化合物、アミノ樹脂、ポリアジリジン化合物、ポリオキサゾリン化合物、ポリイソシアネート化合物、硫黄系化合物、ヒドラジン系化合物、シランカップリング剤、キレート剤などが挙げられる。架橋剤は、水性塗料組成物の溶媒に溶解するものが好ましい。水性塗料組成物の溶媒としては、主に水が用いられる。架橋剤の配合量は、主剤100質量部に対して、例えば、0.1~5質量部とすることが好ましい。
【0026】
内側塗膜の膜厚は、耐衝撃性向上のため、3μm以上とすることが好ましく、4μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい。膜厚の上限としては、飛び向上性維持のため、12μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0027】
カバーの表面に内側塗膜を形成する方法は、特に限定されず、カバー表面にゴルフボール塗料を塗装する公知の方法を用いることができ、例えば、スプレー塗装法や静電塗装法などの方法を用いることができる。
【0028】
外側塗膜を形成するための第2の塗料組成物は、ポリウレタン塗料と、沸点が80℃以下の溶剤とを含む。また、この第2の塗料組成物により形成された塗膜の弾性回復率が50%以上となることを要するものである。弾性回復率とは、材料の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、以下の数式によって弾性回復率が算出される。
弾性回復率(%)=Welast/Wtotal×100
【0029】
弾性回復率は、エリオニクス社製の超微小硬度計である商品名ENT-2100で測定することができる。弾性回復率は、押し込み荷重をマイクロニュートン(μN)オーダーで制御し、押し込み時の圧子深さをナノメートル(nm)の精度で追跡する超微小硬さ試験方法であり、塗膜の物性を評価するナノインデンテーション法の1つのパラメータである。従来の方法では、最大荷重に対応した変形痕(塑性変形痕)の大きさしか測定できなかったが、ナノインデンテーション法では自動的・連続的に測定することにより、押し込み荷重と押し込み深さとの関係を得ることができる。そのため、従来のような変形痕を光学顕微鏡で目視測定するときのような個人差がなく、精度高く塗膜層の物性を評価することができる。より好ましい弾性回復率は、60%以上である。ゴルフボールの最外面に形成される外側塗膜が高い弾性力を有することで自己修復機能が高く、耐傷つき性に非常に優れる。
【0030】
このような弾性回復率を有する材料として、以下のポリウレタン塗料を用いることができる。ポリウレタン塗料は、主剤であるポリオールと、硬化剤であるポリイソシアネートとからなる。ポリオールとしては、これに限定されないが、ポリカーボネートポリオールや、ポリエステルポリオールを用いることが好ましく、2種類のポリエステルポリオール、すなわち、ポリエステルポリオール(A)とポリエステルポリオール(B)とを用いてもよい。これらの2種類のポリエステルポリオールを用いる場合は、重量平均分子量(Mw)が異なるものであり、(A)成分の重量平均分子量(Mw)が20,000~30,000であり、且つ、(B)成分の重量平均分子量(Mw)が800~1,500であることが好適である。(A)成分の重量平均分子量(Mw)は22,000~29,000がより好ましく、23,000~28,000が更に好ましい。(B)成分の重量平均分子量(Mw)は900~1,200がより好ましく、1,000~1,100が更に好ましい。
【0031】
ポリエステルポリオールは、ポリオールと多塩基酸との重縮合により得られる。このポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジメチロールヘプタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類、トリオール、テトラオール、脂環構造を有するポリオールが挙げられる。多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂環構造を有するジカルボン酸、トリス-2-カルボキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。特に、(A)成分のポリエステルポリオールとしては、樹脂骨格に環状構造が導入されたポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有するポリオールと多塩基酸との重縮合、或いは、脂環構造を有するポリオールとジオール類又はトリオールと多塩基酸との重縮合により得られるポリエステルポリオールが挙げられる。一方、(B)成分のポリエステルポリオールとしては、多分岐構造を有するポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、東ソー社製の「NIPPOLAN 800」等の枝分かれ構造を有するポリエステルポリオールが挙げられる。
【0032】
また、上述したようなポリエステルポリオールを用いた場合、主剤全体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは13,000~23,000であり、より好ましくは15,000~22,000である。また、主剤全体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,100~2,000であり、より好ましくは1,300~1,850である。これらの平均分子量(Mw及びMn)が上記範囲を逸脱すると、外側塗膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、示差屈折率計検出によるゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)測定による測定値(ポリスチレン換算値)である。2種類のポリエステルポリオールを用いた場合も主剤全体のMwとMnは上述した範囲である。
【0033】
上記2種類のポリエステルポリオール(A)、(B)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分の配合量は、溶剤も含む主剤全量に対して20~30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2~18質量%であることが好ましい。
【0034】
ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、一般的に用いられている芳香族、脂肪族、脂環式などのポリイソシアネートであり、具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-4-イソシアナトメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらは、単独または混合で使用することができる。
【0035】
上記のヘキサメチレンジイソシアネートの変性体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリエステル変性体やウレタン変性体などが挙げられる。上記のヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(イソシアヌレート体)やビュレット体、アダクト体が挙げられる。
【0036】
主成分であるポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料において、ポリオールが有する水酸基(OH基)とポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)は、下限として、0.6以上が好ましく、0.65以上がより好ましい。また、このモル比は、上限として、1.5以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.9以下が更に好ましい。このモル比が上記の下限値を下回ると、場合には未反応の水酸基が残り、外側塗膜としての性能及び耐水性が悪くなるおそれがある。一方、上記の上限値を超えるとイソシアネート基が過剰となるため、水分との反応でウレア基(脆い)が生成することになり、その結果、外側塗膜の性能が低下するおそれがある。
【0037】
ポリオールとポリイソシアネートの反応を促進する硬化触媒(有機金属化合物)としては、アミン系触媒や有機金属系触媒を使用することができ、この有機金属化合物としては、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ等の金属石鹸等、従来から2液硬化型のウレタン塗料の硬化剤として配合されているものを好適に使用することができる。
【0038】
主剤であるポリオールと硬化剤であるポリイソシアネートに用いる溶剤としては、それぞれ沸点が80℃以下の溶剤を使用する。これにより、厚い塗膜を形成する場合であっても、ディンプルのエッジ部分を含め、ゴルフボール表面にほぼ均等の厚さの塗膜を形成することができる。沸点が80℃以下の溶剤としては、例えば、ノルマルヘキサン(68℃)、シクロヘキサン(80℃)、ベンゼン(80℃)等の炭化水素系溶剤、酢酸メチル(57℃)、酢酸エチル(77℃)等のエステル系溶剤、アセトン(56℃)、メチルエチルケトン(79℃)等のケトン系溶剤などが挙げられる(カッコ内は沸点)。人体や環境への影響を考慮すると、これらのうち、酢酸エチル等のエステル系溶剤や、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系溶剤がより好ましい。
【0039】
なお、これら2種類以上を混合して使用してもよいし、これら溶剤と沸点が80℃超の溶剤とを混合して使用してもよい。沸点が80℃以下の溶剤の配合量は、塗料組成物全質量に対して、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。なお、塗料組成物全質量とは、溶剤を含む主剤全質量と溶剤を含む硬化剤全質量との合計である。
【0040】
ディンプルのエッジ部分における外側塗膜の膜厚は、耐傷つき性および耐剥離性の観点から、10μm以上とすることが好ましく、12μm以上とすることがより好ましい。外側塗膜の膜厚が厚いほど、耐傷つき性および耐剥離性が向上するものの、厚過ぎるとゴルフボールの空力特性に影響を与え得る。よって、ディンプルのエッジ部分における外側塗膜の膜厚の上限は、25μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。
【0041】
ディンプルの中央部分の膜厚に対するディンプルのエッジ部分の膜厚の比であるエッジ比は、100%に近いほどディンプルにおける膜厚が均一であることを示し、塗膜の均一性を評価する指標となるものである。エッジ比は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。通常、ディンプルの窪んだ表面に厚い塗膜を形成しようとすると、窪みの浅い部分であるエッジ部分の膜厚が薄くなり、窪みの深い中央部分の膜厚が厚くなる。弾性回復率が高い塗膜を形成する場合は、この傾向が顕著になり、ディンプルのエッジ部分に10μm以上の膜厚を形成するのは困難になる。本実施の形態では、沸点が80℃以下の溶剤を使用することで、弾性回復率が50%以上の外側塗膜をディンプルのエッジ部分に10μm以上の膜厚で形成する場合でも、エッジ比を50%以上にすることができる。
【0042】
また、外側塗膜を形成する第2の塗料組成物には、必要に応じて、公知の塗料配合成分を更に添加してもよい。具体的には、増粘剤や紫外線吸収剤、蛍光増白剤、顔料等を適量配合することができる。
【0043】
外側塗膜を形成する方法は、特に限定されず、カバー表面にゴルフボール塗料を塗装する公知の方法を用いることができ、例えば、スプレー塗装法や静電塗装法などの方法を用いることができる。これにより、内側塗膜の表面に外側塗膜を形成することができる。
【0044】
内側塗膜および外側塗膜は、どちらも塗膜形成後に、塗膜を乾燥させるステップを行ってもよい。乾燥条件は、ウレタン塗料を乾燥させる公知の条件と同様でよく、本実施の形態では、例えば、乾燥温度を約40℃以上、特に40~60℃、乾燥時間を20~90分、特に40~50分としてもよい。
【0045】
このように説明してきたゴルフボールの製造方法によって、本実施の形態のゴルフボールを得ることができる。本実施の形態のゴルフボールは、コアと、複数のディンプルを有するカバーと、カバー表面に位置する塗膜とを備え、この塗膜は、ゴルフボールの内側の第1の塗膜(内側塗膜)と、ゴルフボールの外側の第2の塗膜(外側塗膜)とを少なくとも含む積層構造を有するものである。外側塗膜はポリウレタン塗料を含み、弾性回復率が50%以上であることや、外側塗膜のエッジ比が50%以上であること等の塗膜の特徴は既に説明したことから、以下は、コアおよびカバーについて説明する。
【0046】
コアは、主に基材ゴムにより形成することができる。基材ゴムとしては、広くゴム(熱硬化性エラストマー)を用いることができ、例えば、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリウレタンゴム(PU)、ブチルゴム(IIR)、ビニルポリブタジエンゴム(VBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、シリコーンゴムを用いることができるが、これらに限定されない。ポリブタジエンゴム(BR)としては、例えば、1,2-ポリブタジエンやシス1,4-ポリブタジエン等を用いることができる。
【0047】
コアには、主成分となる基材ゴムの他、任意に、例えば、共架橋材、架橋剤、充填材、老化防止剤、異性化剤、素練り促進剤、硫黄、及び有機硫黄化合物を添加することができる。また、主成分として、基材ゴムに代えて、熱可塑性エラストマー、アイオノマー樹脂、またはこれらの混合物を用いることもできる。
【0048】
コアは、実質的に球状の形状を有している。コアの外径は、上限として、約42mm以下が好ましく、約41mm以下がより好ましく、約40mm以下がさらに好ましい。また、コアの外径は、下限として、約5mm以上が好ましく、約15mm以上がより好ましく、約25mm以上が最も好ましい。なお、コアは中実であっても中空であってもよい。また、コアは一層でもよいし、センターコアとその包囲層などの複数の層からなるコアでもよい。
【0049】
コアの成形法は、ゴルフボールのコアの公知の成形法を採用することができる。例えば、これに限定されないが、基材ゴムを含む材料を混練機で混練した後、この混練物を丸型金型で加圧加硫成形して得ることができる。また、複数の層を有するコアの成形法は、多層構造のソリッドコアの公知の成形法を採用することができる。例えば、センターコアを、材料を混練機で混練し、この混練物を丸型金型で加圧加硫成形して得た後、包囲層として、材料を混練機で混練し、この混練物をシート状に成形し、このシートでセンターコアを覆ったものを丸型金型で加圧加硫成形することで、複数層のコアを得ることができる。
【0050】
カバーは、これらに限定されないが、熱可塑性ポリウレタン、アイオノマー樹脂、またはこれらの混合物を使用して形成することができ、特に、内側塗膜との親和力から、アイオノマー樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
熱可塑性ポリウレタン材料の構造は、高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤及びポリイソシアネートからなる。ここで、原料となる高分子ポリオールとしては、特に限定されるものではないが、本発明では、ポリエステル系ポリオール及びポリエーテル系ポリオールが好ましい。ポリエステル系ポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリプロピレンアジペートグリコール、ポリブタジエンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール等のアジペート系ポリオールやポリカプロラクトンポリオール等のラクトン系ポリオールが挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)及びポリ(テトラメチレングリコール)等が挙げられる。
【0052】
鎖延長剤としては、特に限定されるものではないが、本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が2,000以下である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2~12の脂肪族ジオールが好ましい。具体的には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4-ブチレングリコールが好ましい。
【0053】
ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではないが、本発明では、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがあり、よって、本発明では、生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0054】
アイオノマー樹脂としては、これに限定されないが、以下の(a)成分及び/又は(b)成分をベース樹脂とするものを用いることができる。また、このベース樹脂には、任意に、以下の(c)成分を添加することができる。(a)成分は、オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はその金属塩、(b)成分は、オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はその金属塩、(c)成分は、ポリオレフィン結晶ブロック、ポリエチレン/ブチレンランダム共重合体を有する熱可塑性ブロックコポリマーである。
【0055】
また、カバー用の樹脂には、上記の熱可塑性ポリウレタンまたはアイオノマー樹脂の主成分の他に、熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性樹脂又はエラストマーを配合することができる。具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添スチレンブタジエンゴム、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体又はその変性物、エチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体又はその変性物、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体又はその変性物、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン及びナイロン樹脂から選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。特に、生産性を良好に維持しつつ、イソシアネート基との反応により、反発性や耐擦過傷性が向上することなどの理由から、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー及びポリアセタールを採用することが好適である。上記成分を配合する場合、その配合量は、カバー材の硬度の調整、反発性の改良、流動性の改良、接着性の改良などに応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、熱可塑性ポリウレタン成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上とすることができる。また、配合量の上限も特に制限されないが、熱可塑性ポリウレタン成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは75質量部以下、更に好ましくは50質量部以下とすることができる。その他、ポリイソシアネート化合物、脂肪酸又はその誘導体、塩基性無機金属化合物、充填材などを添加することができる。
【0056】
カバーの形成法は、ゴルフボールのカバーの公知の成形法を採用することができる。例えば、特に限定されないが、金型内にコアを配置し、カバー用の樹脂組成物を射出成形することによって、コアを覆うようにカバーを形成することができる。このカバー成型用の金型は、カバー表面にディンプルを形成するための複数の突起部を有する。カバー表面に形成されるディンプルの大きさ、形状、数などは、ゴルフボールの所望する空気力学的特性に応じて、適宜、設計することができる。
【0057】
カバーの厚さは、これに限定されないが、下限は、0.2mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましく、上限は、4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましい。
【0058】
カバーの材料硬度は、これに限定されないが、上限として、ショアDにて、約60以下が好ましく、約55以下がより好ましく、約50以下が更に好ましい。また、下限として、ショアDにて、約35以上が好ましく、約40以上がより好ましい。カバーの材料硬度は、カバーの樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置し、その後、ショアD硬度として、ASTM D2240-95規格に準拠して計測する。
【実施例0059】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0060】
実施例および比較例のゴルフボールの作製に際し、表1に示す塗料配合を用いて、ゴルフボールの塗膜を作製した。表1中の配合は、質量部で表した。そして作製したゴルフボールについて、塗膜の膜厚を測定するとともに、砂摩耗試験および砂水摩耗試験を行って耐剥離性および耐傷つき性を評価した。
【0061】
表1中の内側塗膜の塗料配合において、主剤の1つであるアクリル樹脂として、DSM Coating Resins社製の商品名NeoCryl A-6092のエマルジョン系の熱可塑性アクリル系樹脂を用いた。また、主剤の1つであるウレタン樹脂として、DSM Coating Resins社製の商品名NeoRez R-967の水性ウレタンディスパージョンを用いた。また、内側塗膜には、上記の主剤の他に、架橋剤を配合した。架橋剤としては、DSM Coating Resins社製のNeoCryl CX-100のアジリジン系架橋剤を用いた。そして、主剤:架橋剤:水を100:1.3:3で配合した塗料をスプレー塗装で、ディンプルが形成されたカバー表面に塗布し、内側塗膜を形成した。なお、比較例3では、内側塗膜は形成せず、カバー表面にプラズマ処理を行った。すなわち、比較例3では、塗膜を外側塗膜のみの1層とした。
【0062】
表1中の外側塗膜の塗料配合において、主剤のポリオール(固形分)としては、重量平均分子量(Mw)28,000のポリエステルポリオールを用いた。これは、以下の方法によって合成した。環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4、水酸基価170、重量平均分子量(Mw)28,000のポリエステルポリオールを得た。
【0063】
硬化剤のイソシアネート(固形分)として、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)には、旭化成社製の商品名デュラネートTPA-100(NCO含有量23.1%、不揮発分100%)のヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体(イソシアヌレート体)を用いた。
【0064】
外側塗膜の主剤および硬化剤の溶剤としては、酢酸エチル(沸点:77℃)、酢酸ブチル(沸点:126℃)を用いた。そして、主剤と硬化剤を混合した塗料を、スプレー塗装で内側塗膜の上に塗布し、外側塗膜を形成した。表1中の外側塗膜の弾性回復率は、以下の測定方法で測定したものである。
【0065】
[弾性回復率の測定方法]
各配合で厚み50μmの塗膜シートを形成し、この塗膜シートを使用して測定した。測定装置は、エリオニクス社の超微小硬度計「ENT-2100」を用い、測定の条件は、以下の通りとした。
・圧子:バーコビッチ圧子(材質:ダイヤモンド、角度α:65.03°)
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:10秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、次の数式によって弾性回復率を算出した。
弾性回復率(%)=Welast/Wtotal×100
【0066】
いずれのゴルフボールも、カバーの配合は、三井・ダウポリケミカル社製のエチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー樹脂である商品名ハイミラン1605を50質量部、同商品名AM7329を50質量部とした。カバーの材料硬度は、ショアDで63であった。
【0067】
いずれのゴルフボールも、中間層の配合は、三井・ダウポリケミカル社製のエチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー樹脂である商品名ハイミラン1706を35質量部、同商品名ハイミラン1557を15質量部、同商品名ハイミラン1605を50質量部、トリメチロールプロパンを1.1質量部とした。
【0068】
いずれのゴルフボールも、コアの配合は、基材ゴムとしてJSR社製の商品名BR51のポリブタジエンを20質量部、JSR社製の商品名BR-01のポリブタジエンを80質量部、アクリル酸亜鉛(和光純薬社製)を28.5質量部、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(日本油脂社製の商品名パークミルD)を1.0質量部、老化防止剤として2,2-メチレンビス(4-メチル-6-ブチルフェノール)(大内新興化学工業社製の商品名ノクラックNS-6)を0.1質量部、硫酸バリウム(堺化学工業社製の商品名沈降性硫酸バリウム#100)を33.0質量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製の商品名三種酸化亜鉛)を4.0質量部、有機硫黄化合物としてペンタクロロチオフェノール亜鉛塩(和光純薬社製)を0.5質量部とした。
【0069】
[膜厚の測定方法]
表1中の内側塗膜および外側塗膜のディンプルの中央部分とエッジ部分の各膜厚については、以下の測定方法によって算出した。先ず、
図1に示すカバー10のディンプル12の横断面において、1~5本の線を等間隔に垂直に引き、ディンプルのエッジ部分Eからそれに対向するエッジ部分E’までに順にNo.1、No.2、No.3、No.4、No.5とし、各線における内側塗膜22と外側塗膜20の膜厚をそれぞれ測定した。膜厚の測定は、ゴルフボールを切断し、各位置における断面の膜厚をマイクロスコープを用いて測定した。そして、内側塗膜、外側塗膜それぞれにおいて、No.1、No.5における膜厚の平均値をディンプルのエッジ部分の膜厚とし、No.2、No.3、No.4における膜厚の平均値をディンプルの中央部分の膜厚とした。
【0070】
そして、ディンプルの中央部分の膜厚に対するエッジ部分の膜厚との比であるエッジ比を、次の数式で算出した。
エッジ比[%]=(エッジ部分の膜厚)/(中央部分の膜厚)×100
【0071】
[砂摩耗試験]
表1中の砂摩耗試験は、以下の方法で行った。外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂を約4kg入れ、このポットミルに15個のゴルフボールを投入した。そして、ポットミルにて50~60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ゴルフボールをポットミルから取り出し、以下の基準により、ゴルフボール表面の外観を観察し、耐剥離性および耐傷つき性の2つを評価した。
【0072】
耐剥離性は、UVライトをゴルフボールに照射して、各ゴルフボールの表面における摩耗による剥離具合を観察した。剥離なしを5点、小さな剥離が見られる場合を3点、大きな剥離が目立つ場合を1点とする判断基準により点数化し、5個のゴルフボールの評価結果の平均値を、耐剥離性とした。そして、2点以下を×、2点超~2.5点を△、2.5点超~4点を〇、4点超を◎と評価した。
【0073】
耐傷つき性は、ルーペによりゴルフボールの表面を拡大して、微細な塗膜の傷つき程度を観察した。目立った傷なしを5点、小さな傷が見られる場合を3点、大きな傷や艶の減退などが目立つ場合を1点とする判断基準により評価し、5個のゴルフボールの評価結果の平均値を、耐傷つき性とした。そして、2点以下を×、2点超~2.5点を△、2.5点超~4点を〇、4点超を◎と評価した。
【0074】
[砂水摩耗試験]
表1中の砂水摩耗試験は、以下の方法で行った。外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂及び水を約4kg入れ、このポットミルに15個のボールを投入した。そして、ポットミルにて50~60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ゴルフボールをポットミルから取り出し、UVライトをゴルフボールに照射して、各ゴルフボールの表面における摩耗による剥離具合を観察した。剥離なしを5点、小さな剥離が見られる場合を3点、大きな剥離が目立つ場合を1点とする判断基準により評価し、5個のゴルフボールの評価結果の平均値を、耐剥離性とした。そして、2点以下を×、2点超~2.5点を△、2.5点超~4点を〇、4点超を◎と評価した。
【0075】
【0076】
表1に示すように、実施例1~4は、沸点が80℃以下の溶剤を外側塗膜の配合に用いたため、70%以上という高いエッジ比で、10mm以上の膜厚の外側塗膜をディンプルのエッジ部分に形成することができた。また、弾性回復率が60%の外側塗膜をこのような膜厚で形成できたことから、耐傷つき性に優れるとともに、砂摩耗試験および砂水摩耗試験の両方において耐剥離性も優れていた。特に、実施例4は、80%以上という高いエッジ比で、15mmと顕著に厚い外側塗膜をディンプルのエッジ部分に形成することができ、耐傷つき性および耐剥離性も顕著に優れていた。
【0077】
また、実施例5は、沸点が80℃以下の溶剤と沸点が80℃超の溶剤とを外側塗膜の配合に併用したが、沸点が80℃以下の溶剤の配合比率が20%以上であったことから、エッジ比が57%で、8mmの膜厚の外側塗膜をディンプルのエッジ部分に形成することができた。よって、耐傷つき性および耐剥離性の両方について良好な結果を得ることができた。
【0078】
一方、比較例1は、外側塗膜の配合に用いた溶剤の沸点が80℃超であったため、エッジ比が43%と低く、ディンプルのエッジ部分における外側塗膜の膜厚は6mmと薄くなってしまった。よって、弾性回復率が60%と高いにも関わらず、耐傷つき性で大きく劣り、また、砂水摩耗試験での耐剥離性も劣る結果となった。
【0079】
また、比較例2は、外側塗膜の配合に用いた溶剤の沸点が80℃以下であったため、64%という高いエッジ比で、9mmの膜厚の外側塗膜をディンプルのエッジ部分に形成することができ、砂摩耗試験でも砂水摩耗試験でも優れた耐剥離性を得ることができたが、外側塗膜の塗料配合によって外側塗膜の弾性回復率は20%と低かったため、耐傷つき性は大きく劣る結果となった。
【0080】
更に、比較例3は、外側塗膜の配合に用いた溶剤の沸点が80℃以下であったため、約70%という高いエッジ比で、10mmの膜厚の外側塗膜をディンプルのエッジ部分に形成することができたものの、カバー表面に内側塗膜を形成せずに外側塗膜の1層のみの塗膜としたことから、弾性回復率が60%と高いにも関わらず、耐傷つき性で劣り、また、砂摩耗試験および砂水摩耗試験の耐剥離性も実施例1~4のような向上は見られなかった。