(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099606
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】研磨用組成物及びシリコンウェーハの研磨方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20220628BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220628BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220628BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213457
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】杉田 規章
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED02
3C158ED05
3C158ED10
3C158ED21
3C158ED26
5F057AA03
5F057AA04
5F057AA28
5F057BA12
5F057BB03
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5F057DA03
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5F057EA01
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5F057EA21
5F057EA27
5F057EA33
5F057EA37
5F057EA40
(57)【要約】
【課題】研磨後の半導体ウェーハの微小欠陥を低減することができる研磨用組成物を提供する。
【解決手段】研磨用組成物は、砥粒と、塩基性化合物と、濡れ剤と、非イオン性界面活性剤とを含み、表面張力γ
udが64mN/m以下であり、水で20倍に希釈したときの表面張力γ
dの前記表面張力γ
udに対する比γ
d/γ
udが1.10以上1.40以下である。ただし、前記表面張力γ
ud及び比γ
dは、25℃で測定した値とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、
塩基性化合物と、
濡れ剤と、
非イオン性界面活性剤とを含み、
表面張力γudが64mN/m以下であり、
水で20倍に希釈したときの表面張力γdの前記表面張力γudに対する比γd/γudが1.10以上1.40以下である、研磨用組成物。
ただし、前記表面張力γd及びγudは、25℃で測定した値とする。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨用組成物であって、
前記濡れ剤は、セルロース誘導体、多糖類、及びビニルポリマーからなる群から選択される1種以上である、研磨用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の研磨用組成物であって、
前記塩基性化合物は、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の塩、アンモニア、アンモニウム塩、及び第四級アンモニウム水酸化物からなる群から選択される1種以上である、研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨用組成物であって、
5~100倍に希釈されて使用される、研磨用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の研磨用組成物であって、
シリコンウェーハの研磨に用いられる、研磨用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨することを含む、シリコンウェーハの研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物及びシリコンウェーハの研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CMPによる半導体ウェーハの研磨は、多段階の研磨を行うことで、高精度の平滑化・平坦化を実現している。最終段階で行われる仕上げ研磨工程は、微小欠陥の低減を主な目的としている。
【0003】
半導体ウェーハの研磨の中でも、特にシリコンウェーハの仕上げ研磨工程で使用される研磨用組成物は、一般的に、例えば特開2001-15461号公報、特開2010-34509号公報、及び特開2011-61089号公報に記載されているようなヒドロキシエチルセルロース等の水溶性高分子を含有する。水溶性高分子は、半導体ウェーハの表面を親水化させる役割があり、表面への砥粒の付着、過度なケミカルエッチング、砥粒の凝集等による半導体ウェーハへのダメージを抑制する。これによって、微小欠陥を低減できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-216723号公報
【特許文献2】特開2009-147267号公報
【特許文献3】国際公開第2013/137212号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体デバイスのデザインルールの微細化が進んでいることにともなって、半導体ウェーハの表面の微小欠陥についても、より厳しい管理が求められている。上述した技術によっても研磨後の表面品質に関する近年の要求レベルとしては不十分であり、さらなる改善が求められている。
【0006】
本発明の目的は、研磨後の半導体ウェーハの微小欠陥を低減することができる研磨用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による研磨用組成物は、砥粒と、塩基性化合物と、濡れ剤と、非イオン性界面活性剤とを含み、表面張力γudが64mN/m以下であり、水で20倍に希釈したときの表面張力γdの前記表面張力γudに対する比γd/γudが1.10以上1.40以下である。ただし、前記表面張力γud及びγdは、25℃で測定した値とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、研磨後の半導体ウェーハの微小欠陥を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、研磨用組成物のγ
d/γ
udと、研磨後のウェーハの微小欠陥の数(相対値)との関係を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するため、種々の検討を行った。その結果、研磨用組成物の表面張力γud、及びこの研磨用組成物を水で20倍に希釈したときの表面張力γdの表面張力γudに対する比γd/γudをそれぞれ所定の範囲に調整することで、砥粒及びウェーハ表面の保護効果と水とのなじみ性とのバランスがよくなり、微小欠陥を低減できることを見出した。
【0011】
本発明は、この知見に基づいて完成された。以下、本発明の一実施形態による研磨用組成物を詳述する。
【0012】
本発明の一実施形態による研磨用組成物は、砥粒と、塩基性化合物と、濡れ剤と、非イオン性界面活性剤とを含み、表面張力γudが64mN/m以下であり、水で20倍に希釈したときの表面張力γdの表面張力γudに対する比γd/γudが1.10以上1.40以下である。ただし、前記表面張力γud及びγdは、25℃で測定した値とする。
【0013】
砥粒は、この分野で常用されるものを使用することができ、例えば、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルアルミナ、ヒュームドアルミナ及びセリア等が挙げられ、コロイダルシリカ又はヒュームドシリカが特に好ましい。砥粒の粒径は、特に限定されないが、例えば平均二次粒子径で30~100nmのものを用いることができる。砥粒の平均二次粒子径の下限は、好ましくは40nmであり、さらに好ましくは50nmである。砥粒の平均二次粒子径の上限は、好ましくは90nmである。
【0014】
砥粒の含有量は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.10~20.0重量%である。砥粒の含有量の下限は、好ましくは1.0重量%であり、好ましくは3.0重量%であり、さらに好ましくは5.0重量%である。砥粒の含有量の上限は、好ましくは18.0重量%であり、さらに好ましくは15.0重量%であり、さらに好ましくは12.0重量%である。
【0015】
研磨用組成物は、研磨時に例えば5~100倍に希釈されて使用される。本実施形態による研磨用組成物は、砥粒の濃度が100~8000ppm(重量ppm。以下同じ。)になるように希釈して用いることが好ましい。希釈倍率の下限は、好ましくは10倍であり、さらに好ましくは15倍である。希釈倍率の上限は、好ましくは80倍であり、さらに好ましくは60倍であり、さらに好ましくは50倍である。
【0016】
塩基性化合物は、ウェーハ表面と効率よく反応し、化学機械研磨(CMP)の研磨特性に貢献する。塩基性化合物は、例えば、アンモニア、アンモニウム化合物、アミン化合物、無機アルカリ化合物等である。
【0017】
アンモニウム化合物は、例えば、アンモニウム塩、第四級アンモニウム水酸化物等である。具体的には、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)等が挙げられる。
【0018】
アミン化合物は、例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、複素環式アミン、及びそれらの塩等である。具体的には、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ピペラジン塩酸塩、炭酸グアニジン等が挙げられる。
【0019】
無機アルカリ化合物は、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の塩等が挙げられる。無機アルカリ化合物は、具体的には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等である。
【0020】
上述した塩基性化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。上述した塩基性化合物の中でも、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の塩、アンモニア、アンモニウム塩、及び第四級アンモニウム水酸化物が特に好ましい。
【0021】
塩基性化合物の含有量(二種以上含有する場合は、その総量)は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.01~1.50重量%である。塩基性化合物の含有量の下限は、好ましくは0.05重量%であり、さらに好ましくは0.10重量%である。塩基性化合物の含有量の上限は、好ましくは1.20重量%であり、さらに好ましくは1.00重量%であり、さらに好ましくは0.80重量%である。
【0022】
濡れ剤は、ウェーハの表面を親水性に保つのに効果的な物質である。ウェーハの表面の親水性が低下すると、ウェーハ上に異物が付着しやすくなるとともに、洗浄によって除去されずに残留しやすくなる。ウェーハ上に異物が残留すると、ウェーハの表面精度が低下するおそれがある。
【0023】
濡れ剤は、例えば、セルロース誘導体、ビニルポリマー、及び多糖類等である。セルロース誘導体は例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。ビニルポリマーは例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルホルムアミド、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの共重合体、変性ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの共重合体等が挙げられる。多糖類は例えば、デンプン、シクロデキストリン、トレハロース、プルラン等が挙げられる。その他の濡れ剤としては例えば、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。
【0024】
変性ポリビニルアルコールは例えば、下記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂である。すなわち、この変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールの構造単位に加えて、式(1)で表される1,2-ジオール構造単位を有する。高分子中の1,2-ジオール構造単位の変性量は、特に限定されないが、例えば1~20モル%である。
【0025】
【化1】
但し、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R
4、R
5、及びR
6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を示す。
【0026】
1,2-ジオール構造単位を有する変性ポリビニルアルコールの中でも、一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位中のR
1~R
6がすべて水素原子であり、Xが単結合であるものが特に好ましい。すなわち、下記の式(2)の構造単位を含むものが特に好ましい。
【化2】
【0027】
濡れ剤の中でも、ウェーハの表面に濡れ性を与える能力が高く、また容易に洗い落とすことができてウェーハ上に残留しないことから、セルロース誘導体及び変性ポリビニルアルコールが好ましい。また、セルロース誘導体の中ではヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。変性ポリビニルアルコールの中では上述した1,2-ジオール構造単位を有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。
【0028】
濡れ剤の含有量(二種以上含有する場合は、その総量)は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.01~1.20重量%である。濡れ剤の含有量の下限は、好ましくは0.05重量%であり、さらに好ましくは0.10重量%である。濡れ剤の含有量の上限は、好ましくは0.90重量%であり、さらに好ましくは0.60重量%である。
【0029】
非イオン性界面活性剤は、微小欠陥の低減に有効である。非イオン性界面活性剤は例えば、エチレンジアミンテトラポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(ポロキサミン)、オキシアルキレン重合体単体、複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型、トリブロック型、ランダム型、交互型共重合体)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレンメチルグルコシド等である。
【0030】
オキシアルキレン重合体単体としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。複数種のオキシアルキレンの共重合体としては、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン)エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキレングリセリルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンパラクミルフェニルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン等が挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルアミドとしては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンステアリルアミド等が挙げられる。ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート等が挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。ポリオキシアルキレンヒマシ油としては、例えば、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。ポリオキシアルキレンメチルグルコシドとしては、例えば、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリオキシプロピレンメチルグルコシド等が挙げられる。
【0031】
非イオン性界面活性剤の含有量(二種以上含有する場合は、その総量)は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.1~1000ppmである。非イオン性界面活性剤の含有量の下限は、好ましくは5ppmであり、さらに好ましくは10ppmであり、さらに好ましくは30ppmであり、さらに好ましくは50ppmであり、さらに好ましくは80ppmである。非イオン性界面活性剤の含有量の上限は、好ましくは800ppmであり、さらに好ましくは600ppmである。
【0032】
本実施形態による研磨用組成物は、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。本実施形態による研磨用組成物のpHは、好ましくは8.0~12.0である。
【0033】
本実施形態による研磨用組成物の残部は主に水である。本実施形態による研磨用組成物は、上記の他、研磨用組成物の分野で一般に知られた配合剤、例えば有機酸、無機酸、防腐剤、消泡剤及びキレート剤等を任意に配合することができる。
【0034】
本実施形態による研磨用組成物は、表面張力γudが64mN/m以下であり、かつ、水で20倍に希釈したときの表面張力γdの表面張力γudに対する比γd/γudが、1.10以上1.40以下である。ただし、表面張力γd及びγudは、25℃で測定した値とする。
【0035】
すなわち、本実施形態による研磨用組成物は、希釈前の原液の表面張力γudが64mN/m以下であり、この原液を20倍で希釈したとき、換言すれば、原液と水とを重量比1:19で混合したときの表面張力をγdとして、γd/γudが1.10以上1.40以下である。これによって、微小欠陥を低減することができる。
【0036】
研磨用組成物の表面張力を低くすることで、砥粒表面に対する濡れ剤及び非イオン性界面活性剤の濡れ性やなじみ性がよくなる。これによって、砥粒表面への濡れ剤及び非イオン性界面活性剤による保護効果が高まり、ウェーハを研磨した際に砥粒による傷が付きにくくなる、異物が残りにくくなる、異物が除去されやすくなるといった効果が得られる。また、砥粒表面への保護効果と同様に、ウェーハ表面に対しても濡れ剤及び非イオン性界面活性剤による保護効果が高まる。
【0037】
一方、研磨用組成物の表面張力が低すぎると水で希釈した際に水となじみにくくなり、研磨性能が安定しなくなる。γud及びγd/γudをそれぞれ所定の範囲に調整することで、砥粒及びウェーハ表面の保護効果と水とのなじみ性とのバランスがよくなり、微小欠陥を低減することができる。
【0038】
γud及びγdは、砥粒の種類及び含有量、塩基性化合物の種類及び含有量、濡れ剤の種類及び含有量、並びに非イオン性界面活性剤の種類及び含有量よって調整することができる。中でも、濡れ剤の種類及び含有量、並びに非イオン性界面活性剤の種類及び含有量の影響が大きく、特に非イオン性界面活性剤の種類及び含有量の影響が相対的に大きい。種類によって異なるが、濡れ剤の含有量が多いほど表面張力は低下する傾向がある。また、同じく種類によって異なるが、表面張力の含有量が多いほど表面張力は低下する傾向がある。上記以外に、防腐剤や消泡剤も表面張力に影響を与える。
【0039】
なお、二種類の研磨用組成物のγudが同程度であっても、γd/γudは異なる場合がある。すなわち、研磨用組成物の配合によって、希釈したときの表面張力の増加度合いが異なる場合がある。希釈したときの表面張力の増加度合いは、主に濡れ剤や非イオン性界面活性剤の種類や濃度に依存する。
【0040】
γudの上限は、好ましくは62mN/mであり、さらに好ましくは60mN/mであり、さらに好ましくは58mN/mであり、さらに好ましくは56mN/mである。γudの下限は、特に限定されないが、好ましくは40mN/mであり、さらに好ましくは45mN/mであり、さらに好ましくは50mN/mである。
【0041】
γd/γudの上限は、好ましくは1.35であり、さらに好ましくは1.30であり、さらに好ましくは1.25である。γd/γudの下限は、好ましくは1.15である。
【0042】
本実施形態による研磨用組成物は、砥粒、塩基性化合物、濡れ剤、非イオン性界面活性剤等を適宜混合して水を加えることによって作製される。本実施形態による研磨用組成物は、あるいは、砥粒、塩基性化合物、濡れ剤、非イオン性界面活性剤等を、順次、水に混合することによって作製される。これらの成分を混合する手段としては、ホモジナイザー、超音波等、研磨用組成物の技術分野において常用される手段が用いられる。
【0043】
以上で説明した研磨用組成物は、適当な濃度となるように水で希釈した後、半導体ウェーハの研磨に用いられる。希釈に用いる水は例えば、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等である。
【0044】
本実施形態による研磨用組成物は、シリコンウェーハ(ベアウェーハ)の研磨、特に仕上げ研磨に好適に用いることができる。本発明の一実施形態によるシリコンウェーハの研磨方法は、上記の研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨することを含む。
【実施例0045】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0046】
表1に示す実施例1~15、及び比較例1~12の研磨用組成物を作製した。
【0047】
【0048】
表1の研磨用組成物の残部は水である。砥粒は、平均二次粒子径が50nm及び70nmのコロイダルシリカを使用した。濡れ剤の「種類」の欄のHEC-1、HEC-2、及びHEC-3は、重量平均分子量Mwがそれぞれ80万、50万、25万のヒドロキシエチルセルロースである。変性PVAは、重合度450、けん化度:98モル%以上(完全けん化)のブテンジオールビニルアルコールポリマーである。非イオン性界面活性剤の「種類」の欄のS1~S7については、表2に示すとおりである。
【0049】
【0050】
これらの研磨用組成物の希釈前の表面張力γud、及び20倍に希釈したときの表面張力γdを測定した。表面張力は、全自動接触角計(協和界面科学株式会社製 Drop Master DM 500)を用いて測定した。25℃で、1つの研磨用組成物につき5回の表面張力測定を行い、その平均値を表面張力の値(γud又はγd)とした。
【0051】
表面張力の値については、研磨用組成物の比重も考慮して解析を行った。研磨用組成物の比重は、次の様に求めた。まず、電子天秤で乾燥した空の比重瓶の重量W1を秤量する。空の比重瓶に純水を満たして蓋をし、表面についた純水を拭き取り、合計重量W2を秤量する。純水を捨て、比重瓶に研磨用組成物を満たして蓋をし、表面についた研磨用組成物を拭き取り、合計重量W3を秤量する。研磨用組成物の比重を、下記の式で求める。
研磨用組成物の比重=(W3-W1)/(W2-W1)
【0052】
表面張力の測定は、ペンダント・ドロップ法(懸滴法)を使用した。解析は、カーブフィッティング法(Young-Laplace法)を使用した。
【0053】
これら実施例及び比較例の研磨用組成物を使用して、12インチのシリコンウェーハの研磨を行った。シリコンウェーハの導電型はP型で、抵抗率が0.1Ωcm以上100Ωcm未満のものを使用した。研磨面は<100>面とした。研磨装置は、株式会社岡本工作機械製作所製のSPP800S片面研磨装置を使用した。研磨パッドは、スエードパッドを使用した。研磨用組成物を表1の「希釈倍率」の欄に記載の倍率で希釈して、1L/分の供給速度で供給した。定盤の回転速度は50rpm、キャリアの回転速度は49rpm、研磨荷重面圧は100gf/cm2として、3分間の研磨を行った。なお、実施例及び比較例の研磨用組成物で研磨する前に、研磨スラリーNanopure(登録商標)NP7050S(ニッタ・デュポン株式会社製)を用いて2分間の予備研磨を実施した。
【0054】
研磨後のシリコンウェーハの微小欠陥を、ウェーハ表面検査装置(レーザーテック株式会社製MAGICS M5640)を用いて測定した。結果を表1の「Defect」の欄に示す。同欄の数値は、比較例1を100としたときの相対値である。
【0055】
研磨後のシリコンウェーハの濡れ性を評価した。具体的には、研磨後のシリコンウェーハの表面を15秒間流水でリンスし、その後、シリコンウェーハを垂直に立てて静置した。静置してから5秒間経過後に各シリコンウェーハの濡れ性を評価した。研磨面における外周からの撥水部分の距離が5mm以下である場合を「○」、6-10mmである場合を「△」、11mm以上である場合を「×」と評価した。結果を表1の「ウェーハ濡れ性」の欄に示す。
【0056】
表1に示すように、γudが64mN/m以下であり、かつ、γd/γudが1.10以上1.40以下であった実施例1~15の研磨用組成物では、比較例1の研磨用組成物と比較して、微小欠陥の数が50%以下になっていた。また、ウェーハへの濡れ性付与特性も良好であった。
【0057】
図1は、研磨用組成物のγ
d/γ
udと、研磨後のウェーハの微小欠陥の数(相対値)との関係を示す散布図である。白抜きのマークは、濡れ剤がヒドロキシエチルセルロース系(HEC-1、HEC-2、又はHEC-3)であることを示し、中実のマークは、濡れ剤が変性ポリビニルアルコールであることを示す。
図1から、濡れ剤がヒドロキシエチルセルロース系及び変性ポリビニルアルコールのいずれの場合であっても、γ
d/γ
udを1.10以上1.40以下にすることで、微小欠陥を低減できることが分かる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。