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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099627
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20220628BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20220628BHJP
   B60L 58/26 20190101ALI20220628BHJP
【FI】
B60H1/22 671
B60H1/00 101Z
B60H1/22 651C
B60L58/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213493
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】515134276
【氏名又は名称】サンデン・オートモーティブクライメイトシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 耕平
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
【テーマコード(参考)】
3L211
5H125
【Fターム(参考)】
3L211AA11
3L211BA60
3L211CA11
3L211DA29
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC23
5H125BC19
5H125CD06
5H125EE05
5H125EE25
(57)【要約】
【課題】車室内の空調を優先させる空調優先モードによる運転中においても、バッテリを十分に冷却することによりバッテリの劣化を抑制する。
【解決手段】冷媒を圧縮する圧縮機、車室内に供給する空気から吸熱する吸熱器、被温調対象熱交換器、を含む冷媒回路と、前記冷媒回路と前記被温調対象熱交換器を介して接続され、車両に搭載される被温調対象の温度を前記被温調対象熱交換器により調整する機器温度調整回路と、前記冷媒回路及び前記機器温度調整回路を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記車室内の空調を優先させる空調優先モードによって、前記車室内の空調と前記被温調対象の冷却を同時に行う運転時において、前記被温調対象の温度に基づいて、前記吸熱器の目標吸熱器温度を目標吸熱器温度補正値に補正する、車両用空調装置を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機、車室内に供給する空気から吸熱する吸熱器、被温調対象熱交換器、を含む冷媒回路と、
前記冷媒回路と前記被温調対象熱交換器を介して接続され、車両に搭載される被温調対象の温度を前記被温調対象熱交換器により調整する機器温度調整回路と、
前記冷媒回路及び前記機器温度調整回路を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記車室内の空調を優先させる空調優先モードによって前記車室内の空調と前記被温調対象の冷却を同時に行う運転時において、
前記被温調対象の温度に基づいて、前記吸熱器の目標吸熱器温度を目標吸熱器温度補正値に補正する、車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記被温調対象の温度が予め設定された目標被温調対象温度よりも高くなった場合に、前記目標吸熱器温度を低下させるように前記目標吸熱器温度補正値を算出する請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記被温調対象の温度が予め設定された目標被温調対象温度よりも低くなった場合に、前記目標吸熱器温度を上昇させるように前記目標吸熱器温度補正値を算出する請求項1又は請求項2記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記被温調対象の温度が予め設定された目標被温調対象温度と同じ温度に到達した場合に、前記目標吸熱器温度を保持する請求項1~請求項3の何れか1項記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記被温調対象の温度は、前記被温調対象に設けられた被温調対象温度センサにより検出された前記被温調対象の温度、又は、前記機器温度調整回路に設けられた熱媒体温度センサにより検出された前記機器温度調整回路を循環する熱媒体の温度である、請求項1~請求項4の何れか1項記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記目標吸熱器温度補正値と前記吸熱器の温度との差分に基づいて前記圧縮機の回転数を制御する請求項1~請求項5の何れか1項記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される車両用空調装置であって、特に、車両に搭載されたバッテリ冷却と車室内の空調とを同時に行うことができる車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に適用される空気調和装置では、圧縮機、室内熱交換器(冷房時は蒸発器、暖房時は凝縮器)、室外熱交換器(冷房時は凝縮器、暖房時は蒸発器)、及び膨張弁が接続された冷媒回路を備え、室内熱交換器において冷媒と熱交換した空気を車室内に供給して車室内の空調を行っている。
【0003】
ところで、近年、車両に搭載された走行用バッテリから供給される電力によって走行用モータを駆動するハイブリッド自動車や電気自動車等の車両が普及している。走行用バッテリは、車両の走行継続及び急速充電等の充放電によって熱を放出して高温となる場合があり、高温下で使用が継続されるとバッテリ性能の低下や劣化を招く。
このため、車両用空調装置において、車室内の空調を行うと共に走行用バッテリを冷却するものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1の車両用空調装置では、冷媒回路に設けられる第1蒸発器とは別にバッテリ冷却用の第2蒸発器を設け、冷媒回路を循環する冷媒を第2蒸発器に循環させて熱媒体と熱交換させると共に、熱交換した熱媒体をバッテリに循環させることで、バッテリを冷却することができるようにしている。そして、空調とバッテリ冷却とを同時に行う場合には、第2蒸発器の冷媒上流側に設けられた第2膨張弁の開度を、第1蒸発器や冷媒の温度などに基づいて制御する第1蒸発器優先制御(車室内の空調温度を優先)と、第2蒸発器の冷媒状態に基づいて制御する第2蒸発器優先制御(バッテリ冷却を優先)とを適宜切り変えて制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-209938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の車両用空調装置において、第1蒸発器優先制御による運転中にバッテリの温度が上昇した場合には、バッテリ冷却を優先させるべく第2蒸発器優先制御又はバッテリ冷却単独運転に切り替え、第2蒸発器優先制御による運転中に車室内が冷却不足となった場合には、車室内の温度を優先させるべく第1蒸発器優先制御に切り替えている。このような制御では、バッテリや車室内の温度変化に従って、第1蒸発器優先制御と第2蒸発器優先制御とを逐次切り替えるので制御が煩雑になる。また、第2蒸発器優先制御から第1蒸発器優先制御に切り替えた場合には、切り替え前の優先冷却対象であるバッテリの冷却目標が達成できず、バッテリが十分に冷却されない場合がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車室内の空調とバッテリ冷却を両立させ、車室内の空調を優先させる空調優先モードによる運転中においてもバッテリを十分に冷却することによりバッテリの劣化を抑制すること、などを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、冷媒を圧縮する圧縮機、車室内に供給する空気から吸熱する吸熱器、被温調対象熱交換器、を含む冷媒回路と、前記冷媒回路と前記被温調対象熱交換器を介して接続され、車両に搭載される被温調対象の温度を前記被温調対象熱交換器により調整する機器温度調整回路と、前記冷媒回路及び前記機器温度調整回路を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記車室内の空調を優先させる空調優先モードによって前記車室内の空調と前記被温調対象の冷却を同時に行う運転時において、前記被温調対象の温度に基づいて、前記吸熱器の目標吸熱器温度を補正する、車両用空調装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車室内の空調を優先させる空調優先モードによる運転中においても、被温調対象の温度を適切に維持することができる。例えば、被温調対象としてのバッテリを十分に冷却することによりバッテリの劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の概略構成及び冷媒の流れを示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の制御装置としての空調コントローラの概略構成を示すブロック図である。
図3】参考例に係る車両用空調装置の空調コントローラにおける圧縮機の目標回転数TGNCcを算出する制御ブロック図である。
図4】参考例に係る空調コントローラにおけるチラー膨張弁の開閉制御のブロック図である。
図5】、参考例に係る車両用空調装置において、圧縮機の回転数、吸熱器温度Te、チラー水温Tw、チラー膨張弁、室内膨張弁の動作を示すタイミングチャートである。
図6】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の空調コントローラにおける目標吸熱器温度TEOの下げ量TEO_PCを算出する制御ブロック図である。
図7】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の空調コントローラにおける目標吸熱器温度補正値TEO2を算出する制御ブロック図である。
図8】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の空調コントローラにおける目標圧縮機回転数TGNCcを算出する制御ブロック図である。
図9】本発明の実施形態に係る車両用空調装置において、圧縮機の回転数、吸熱器温度Te、チラー水温Tw、チラー膨張弁、室内膨張弁の動作を示すタイミングチャートである。
図10】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の空調コントローラによる目標吸熱器温度補正値TEO2及び目標圧縮機回転数TGNCcの算出処理に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一の符号は同一の機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用空調装置1の概略構成を示す。車両用空調装置1は、例えば、エンジン(内燃機関)が搭載されていない電気自動車(EV)やエンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車などの車両に適用することができる。このような車両は、バッテリ55(例えば、リチウム電池)が搭載され、外部電源からバッテリ55に充電された電力を、走行用モータ(電動モータ)を含むモータユニット65に供給することで駆動し、走行する。車両用空調装置1も、バッテリ55から給電されて駆動される。
【0013】
車両用空調装置1は、ヒートポンプ運転を行うための冷媒回路Rと、バッテリ55やモータユニット65等の被温調対象の温度を調整する機器温度調整回路61とを備えている。機器温度調整回路61は、冷媒回路Rに対して後述する冷媒-熱媒体熱交換器64(被温調対象熱交換器)を介して熱交換可能に接続される。車両用空調装置1は、冷媒回路Rを用いたヒートポンプ運転により暖房運転や冷房運転等の空調運転を含む各種運転モードを選択的に実行することで、車室内の空調及びバッテリ55やモータユニット65等の被温調対象の温調を行う。
【0014】
冷媒回路Rは、冷媒を圧縮する電動式の圧縮機(電動圧縮機)2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられ、圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱する室内熱交換器(加熱部)としての室内コンデンサ4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる室外膨張弁6と、冷房時には冷媒を放熱させる放熱器(凝縮器)として機能し、暖房時には冷媒を吸熱させる蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせるための室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時(除湿時)に車室内外から冷媒に吸熱させて車室内に供給する空気を冷却するための吸熱器9と、アキュムレータ12等が冷媒配管13A~13Gにより接続されて構成されている。
【0015】
室外膨張弁6及び室内膨張弁8は、いずれも図示しないパルスモータにより駆動される電子膨張弁であり、パルスモータに加えられるパルス数によって全閉から全開までの間で開度が適宜制御される。室外膨張弁6は、室内コンデンサ4から流出し室外熱交換器7に流入する冷媒を減圧膨張させる。また、室外膨張弁6は、室外熱交換器7を用いた暖房運転時に、室内コンデンサ4の冷媒出口における過冷却の達成度合いの指標となるSC(サブクール)値が予め定めた目標値となるように、後述する空調コントローラ32により開度が制御される(SC制御)。室内膨張弁8は、吸熱器9に流入する冷媒を減圧膨張させると共に、吸熱器9における冷媒の吸熱量、つまり通過空気の冷却能力を調整する。
【0016】
室外熱交換器7の冷媒出口と吸熱器9の冷媒入口とは冷媒配管13Aにより接続されている。冷媒配管13Aには、室外熱交換器7側から順に、逆止弁18と室内膨張弁8とが設けられている。逆止弁18は、吸熱器9に向かう方向が順方向となるように冷媒配管13Aに設けられる。冷媒配管13Aは、逆止弁18よりも室外熱交換器7側の位置で冷媒配管13Bに分岐している。
【0017】
冷媒配管13Aから分岐した冷媒配管13Bは、アキュムレータ12の冷媒入口に接続されている。冷媒配管13Bには、室外熱交換器7側から順に、暖房時に開放される電磁弁21及び逆止弁20が設けられている。逆止弁20は、アキュムレータ12に向かう方向が順方向となるように接続されている。冷媒配管13Bの電磁弁21と逆止弁20との間は冷媒配管13Cに分岐している。冷媒配管13Bから分岐した冷媒配管13Cは、吸熱器9の冷媒出口に接続されている。アキュムレータ12の冷媒出口と圧縮機2とは、冷媒配管13Dにより接続されている。
【0018】
圧縮機2の冷媒出口と室内コンデンサ4の冷媒入口とは、冷媒配管13Eにより接続されている。室内コンデンサ4の冷媒出口には冷媒配管13Fの一端が接続され、冷媒配管13Fの他端側は室外膨張弁6の手前(冷媒上流側)で冷媒配管13Gと冷媒配管13Hに分岐している。分岐した一方の冷媒配管13Hが室外膨張弁6を介して室外熱交換器7の冷媒入口側に接続されている。また、分岐した他方の冷媒配管13Gは、冷媒配管Aの逆止弁18と室内膨張弁8との間に接続されている。冷媒配管13Gの冷媒配管13Aとの接続点より冷媒上流側には、電磁弁22が設けられている。
【0019】
これにより、冷媒配管13Gは室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18の直列回路に対して並列に接続され、室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18をバイパスする回路となる。
【0020】
吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されている(図1では吸込口25で代表して示す)。吸込口25には吸込切換ダンパ26が設けられている。吸込切換ダンパ26により、車室内の空気である内気(内気循環)と、車室外の空気である外気(外気導入)とを適宜切り換えて吸込口25から空気流通路3内に導入する。吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0021】
図1において補助ヒータ23は、補助加熱装置として機能する。補助ヒータ23は、例えば、PTCヒータ(電気ヒータ)から構成されており、空気流通路3の空気の流れに対して、室内コンデンサ4の空気下流側となる空気流通路3内に設けられている。補助ヒータ23が通電されて発熱することにより車室内の暖房を補完する。
【0022】
室内コンデンサ4の空気上流側における空気流通路3内には、空気流通路3内に流入し、吸熱器9を通過した後の空気流通路3内の空気(内気や外気)を室内コンデンサ4及び補助ヒータ23に通風する割合を調整するエアミックスダンパ28が設けられている。
【0023】
なお、補助暖房手段として、例えば、圧縮機廃熱によって加熱した温水を空気流通路3に配置したヒータコアに循環させることにより、送風空気を加熱する形態とすることもできる。
【0024】
機器温度調整回路61は、バッテリ55やモータユニット65等の被温調対象に熱媒体を循環させてバッテリ55やモータユニット65の温度を調整する。なお、モータユニット65には、走行用の電動モータと電動モータを駆動するインバータ回路等の発熱機器も含まれる。被温調対象として、バッテリ55やモータユニット65の他に、車両に搭載されて発熱する機器を適用することができる。
【0025】
機器温度調整回路61は、バッテリ55やモータユニット65に熱媒体を循環させるための循環装置としての第1循環ポンプ62及び第2循環ポンプ63と、冷媒-熱媒体熱交換器64と、熱媒体加熱ヒータ66と、空気-熱媒体熱交換器67と、流路切換装置としての三方弁81とを備えている。
【0026】
機器温度調整回路61は、冷媒-熱媒体熱交換器64を介して冷媒回路Rと接続されている。冷媒回路Rにおいて、冷媒配管13Aの、冷媒配管13Gとの接続点と室内膨張弁8との間には、分岐回路としての分岐配管72の一端が接続され、分岐配管72の他端は冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに接続されている。分岐配管72にはチラー膨張弁73が設けられている。チラー膨張弁73は、図示しないパルスモータにより駆動される電子膨張弁であり、パルスモータに加えられるパルス数によって全閉から全開までの間で開度が適宜制御される。チラー膨張弁73は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入する冷媒を減圧膨張させる。
【0027】
冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bの出口には冷媒配管74の一端が接続され、冷媒配管74の他端は、冷媒配管Bの逆止弁20とアキュムレータ12との間に接続されている。冷媒-熱媒体熱交換器64は、冷媒回路Rの一部を構成すると同時に、機器温度調整回路61の一部をも構成する。
【0028】
冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体吐出側に熱媒体配管68Aの一端が接続されている。熱媒体配管68Aには、冷媒-熱媒体熱交換器64側から順に、熱媒体加熱ヒータ66、バッテリ55、第1循環ポンプ62、逆止弁82が設けられている。熱媒体配管68Aの他端は、後述する熱媒体配管68Bに接続される。熱媒体配管68Aは、熱媒体加熱ヒータ66よりも冷媒-熱媒体熱交換器64側の位置で熱媒体配管68Bに分岐している。分岐した熱媒体配管68Bの他端には、空気-熱媒体熱交換器67が設けられている。熱媒体配管68Bは、空気-熱媒体熱交換器67のよりも熱媒体の上流側で熱媒体配管68Cに分岐し、熱媒体配管68Cの他端は三方弁81を介して冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体入口に接続されている。空気-熱媒体熱交換器67は、室外送風機15によって通風される外気(空気)の流れ(風路)に対して、室外熱交換器7の風下側に配置される。
【0029】
熱媒体配管68Bの空気-熱媒体熱交換器67より熱媒体下流側には三方弁81が設けられ、熱媒体配管68Bの三方弁81と冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体入口との間には、熱媒体配管13Aの他端が接続されている。熱媒体配管68Bは、熱媒体配管68Bの空気-熱媒体熱交換器67より熱媒体上流側において熱媒体配管13Cに分岐し、分岐した熱媒体配管13Cの他端は三方弁81に接続されている。熱媒体配管13Cには、第2循環ポンプ63及びモータユニット65が設けられている。
【0030】
機器温度調整回路61で使用される熱媒体としては、例えば水、HFO-1234yfのような冷媒、クーラント等の液体、空気等の気体が採用可能である。尚、本実施形態では水を熱媒体として採用している。また、バッテリ55やモータユニット65の周囲には例えば、熱媒体が当該バッテリ55やモータユニット65と熱交換関係で流通可能なジャケット構造が施されているものとする。
【0031】
三方弁81が入口と冷媒-熱媒体熱交換器64側の出口を連通する状態に切り換えられ、第1循環ポンプ62が運転されると、第1循環ポンプ62から吐出された熱媒体は、熱媒体配管68Aを、逆止弁82、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64A、ヒータ66、バッテリ55の順に流れて第2循環ポンプ63に吸い込まれる。このような流路制御状態では、バッテリ55と冷媒-熱媒体熱交換器64の間で熱媒体が循環される。
【0032】
三方弁81が入口と冷媒-熱媒体熱交換器64側の出口を連通する状態に切り換えられ、第2循環ポンプ63が運転されると、第2循環ポンプ63から吐出された熱媒体は熱媒体配管68Cを、モータユニット65、三方弁81の順に流れ、三方弁81から熱媒体配管68Bに入り、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aの順に流れた後、再び熱媒体配管68Cに流れて第2循環ポンプ63に吸い込まれる。このような流路制御状態では、モータユニット65と冷媒-熱媒体熱交換器64の間で熱媒体が循環される。
【0033】
チラー膨張弁73が開いている場合、冷媒配管13Gや室外熱交換器7から流出した冷媒の一部又は全部は、分岐配管72に流入しチラー膨張弁73で減圧された後、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発する。冷媒は、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bを流れる過程で熱媒体流路を流れる熱媒体から吸熱した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる。
【0034】
図2に、車両用空調装置1の制御を司る制御装置としての空調コントローラ32の概略構成を示す。空調コントローラ32は、モータユニット65の駆動制御やバッテリ55の充放電制御を含む車両全般の制御を司る車両コントローラ35(ECU)に車両通信バスを介して接続され、情報の送受信を行う。空調コントローラ32及び車両コントローラ35(ECU)には何れもプロセッサを備えたコンピュータの一例としてのマイクロコンピュータを適用することができる。
【0035】
空調コントローラ32(制御装置)には、以下の各センサや検出器が接続され、これらの各センサや検出器等の出力が入力される。
具体的には、空調コントローラ32(制御装置)には、車両の外気温度Tamを検出する外気温度センサ33と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気の温度、すなわち内気温度内気Tinを検出する内気温度センサ37と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力(吐出圧力Pd)を検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒温度TSを検出する吸込温度センサ44と、室内コンデンサ4の温度(室内コンデンサ4を経た冷媒の温度、又は、室内コンデンサ4自体の温度:室内コンデンサ温度TCI)を検出する室内コンデンサ温度センサ46と、室内コンデンサ4の圧力(本実施形態では、室内コンデンサ4を出た直後の冷媒圧力:室内コンデンサ出口圧力Pci)を検出する室内コンデンサ圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9を経た空気の温度、又は、吸熱器9自体の温度:吸熱器温度Te)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た直後の冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、設定温度や空調運転の切り換えを設定するための空調操作部53と、室外熱交換器7の温度(本実施形態においては室外熱交換器7から吐出直後の吐出冷媒温度TXO)を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力(本実施形態においては室外熱交換器7から吐出直後の吐出冷媒圧力値PXO)を検出する室外熱交換器圧力センサ56と、が接続されている。
【0036】
上記のほか、空調コントローラ32には、バッテリ55の温度を検出するバッテリ温度センサ76や、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路を出てバッテリ55に入る熱媒体の温度Tw(以下、「チラー水温」という)を検出する熱媒体温度センサ79が接続されている。バッテリ55の温度を把握するには、バッテリ温度センサ76又は熱媒体温度センサ79の何れかを適宜用いることができる。
【0037】
また、空調コントローラ32には、モータユニット65の温度(モータユニット65自体の温度、モータユニット65を出た熱媒体の温度、及びモータユニット65に入る熱媒体の温度のうちいずれかの温度:モータ温度Tm)を検出するモータ温度センサ78も接続されている。
【0038】
一方、空調コントローラ32の出力には、圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、電磁弁21,22の各電磁弁と、補助ヒータ23、第1及び第2循環ポンプ62、63、チラー膨張弁73、三方弁81が接続されている。空調コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定、車両コントローラ35からの情報に基づいてこれらを制御する。
【0039】
このように構成された車両用空調装置1では、冷房運転時において、車室内の冷房とバッテリ55の冷却を同時に行う場合、バッテリ55の冷却を優先させるバッテリ優先モードと、車室内の空調を優先させる空調優先モードとを切り替えて実行することができる。
【0040】
バッテリ優先モードは、例えば、バッテリ55の急速充電時等の、バッテリ55の発熱量が高く、バッテリ55に対する冷却能力の要求が高い場合等に実行される運転モードである。一方、空調優先モードは、例えば、車両の通常走行時等の、バッテリの発熱量が高く、空調側もバッテリ側も共に冷却能力の要求が高い場合等に実行される運転モードである。
【0041】
以下、本実施形態においては、車室内の空調を優先させる空調優先モードによる冷房運転時の動作について説明する。
図1は、空調優先モードによる運転時の冷媒回路Rの冷媒の流れ(実線矢印)を示している。なお、バッテリ優先モードと空調優先モードとは、圧縮機2の回転数や及び冷媒回路Rを循環する冷媒量が互いに異なる場合があるものの、冷媒回路Rにおける冷媒の流れは同様となる。
【0042】
空調コントローラ32により(オートモード)、或いは、空調操作部53へのマニュアル操作(マニュアルモード)により冷房運転が選択される。冷房運転、特に、空調優先モードでは、空調コントローラ32は室外膨張弁6、室内膨張弁8、及び、チラー膨張弁73を開き、電磁弁21及び電磁弁22を閉じる。この状態で、空調コントローラ32は、圧縮機2、室外送風機15及び室内送風機27を運転し、エアミックスダンパ28を室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4及び補助ヒータ23に通風される割合を調整可能な状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。尚、補助ヒータ23には通電されない。
【0043】
放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されるものの、その割合は小さくなるので(冷房時のリヒート(再加熱)のみのため)、ここは殆ど通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Fを経て冷媒配管13Hに至り、室外熱交換器7に流入し、室外送風機15により通風される外気によって空冷され、凝縮液化する。
【0044】
室外熱交換器7を出た冷媒の一部は冷媒配管13A、逆止弁18を経て室内膨張弁8に至り、室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出されて吸熱器9と熱交換する空気が冷却される。吸熱器9で蒸発した冷媒は、冷媒配管13Cを経てアキュムレータ12に至り、そこから冷媒配管13Dを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却された空気は吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。
【0045】
一方、室外熱交換器7を出た冷媒の残りは、冷媒配管13A及び逆止弁18を経て分岐配管72に入り、チラー膨張弁73で減圧された後、分岐配管72を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発する。このときに吸熱作用を発揮する。冷媒流路64Bで蒸発した冷媒は、冷媒配管74を経て冷媒配管13Bの逆止弁20下流側に入り、アキュムレータ12、冷媒配管13Dを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0046】
(参考例における空調優先モードによる冷房運転時の制御)
まず、図3図5に従って、参考例に係る車両用空調装置において、空調優先モードによる冷房運転を行う場合の制御について説明する。なお、参考例に係る車両用空調装置は、本実施形態に係る車両用空調装置と制御動作が異なるものの、同一の構成を有している。このため、以下の説明において、便宜上、本実施形態に係る車両用空調装置と同一の構成には同一の符号を付す。
【0047】
図3は、参考例に係る空調コントローラ32における圧縮機の目標回転数TGNCcを算出する制御ブロック図である。図3に示すように、空調コントローラ32は吸熱器温度Teが予め設定された目標吸熱器温度TEOとなるように、吸熱器温度Teに基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
【0048】
空調コントローラにおいて、F/F(フィードフォワード)操作量演算部123は吸熱器温度Teと、吸熱器温度Teの目標値である目標吸熱器温度TEOに基づいて目標圧縮機回転数のF/F操作量TGNCcF/Fを算出する。
【0049】
また、F/B(フィードバック)操作量演算部124は目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teに基づくPID(比例積分微分)演算、又はPI(比例積分)演算により目標圧縮機回転数のF/B操作量TGNCcF/Bを算出する。そして、F/F操作量演算部123が算出したF/F操作量TGNCcF/F及びF/B操作量演算部124が算出したF/B操作量TGNCcF/Bは加算器126で加算され、TGNCc00としてリミット設定部127に入力される。
【0050】
リミット設定部127では、TGNCc00に対して制御上の下限回転数TGNCcrLimLoと上限回転数TGNCcLimHiのリミットを付してTGNCc0として圧縮機OFF制御部128に入力し、圧縮機OFF制御部128において圧縮機2の目標回転数TGNCcを決定する。
【0051】
図4は、参考例に係る空調コントローラ32におけるチラー膨張弁73の開閉制御のブロック図を示している。空調コントローラ32は、目標チラー水温TWOに対して所定温度差を設けた上限温度TWOULと下限温度TWOLLとを予め設定している。空調コントローラ32は、バッテリ55の温度を把握するために、バッテリ温度センサ76により検出されたバッテリ温度又は熱媒体温度センサ79により検出されたチラー水温Twの入力を受け付ける。以下、バッテリ55の温度を把握するためにチラー水温Twを用いることとして説明する。
【0052】
空調コントローラ32は、チラー膨張弁73が閉状態であるときに、チラー水温Twが上昇して、上限温度TWOULとなった場合には、チラー膨張弁73を開状態とする。これにより、冷媒を冷媒-熱媒体熱交換器64に循環させてバッテリ55を冷却させる。
一方、空調コントローラ32は、チラー水温Twが下限温度TWOLLまで低下した場合には、チラー膨張弁73を閉状態として、冷媒-熱媒体熱交換器64への冷媒の流入を停止させる。
【0053】
このように、参考例において、空調コントローラ32は、吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数を可変することで空調温度を制御しながら、チラー水温Twに基づいてチラー膨張弁73の開閉を繰り返して冷媒-熱媒体熱交換器64への冷媒の流入量を調整することで、バッテリ55の温度を制御している。
【0054】
図5は、参考例に係る車両用空調装置において、圧縮機2の回転数、吸熱器温度Te、チラー水温Tw、チラー膨張弁73、及び室内膨張弁8の動作を示すタイミングチャートである。
【0055】
図5に示すように、通常の冷房運転(バッテリ冷却なし)を行っている状態において、バッテリ55の発熱により徐々にチラー水温Twが上昇し、時刻T1で、目標チラー水温TWOに対して設定された上限値(チラー膨張弁を開くべき温度)に到達する。このとき、空調コントローラ32は、空調とバッテリ冷却を同時に行うために通常の冷房運転モードから、空調優先モードに切り替えて、チラー膨張弁73を開状態とする。
【0056】
これにより、冷媒-熱媒体熱交換器64に冷媒が流入することでチラー水温Twが低下するが、一方で、吸熱器9に流入する冷媒量が減少するため吸熱器温度Teが上昇しはじめる。そこで、空調コントローラ32は、吸熱器温度Teが目標吸熱器温度TEOとなるような圧縮機2の回転数TGNCcを図3の制御ブロックに従って算出し、算出された回転数TGNCcで圧縮機2を駆動する。
【0057】
時刻T2~T3において、吸熱器温度Teが目標吸熱器温度TEOに近づいていくと、吸熱器9の負荷の低下に伴って、吸熱器9で必要とされる冷却能力が低下していくので圧縮機2の回転数も徐々に低下していく。これにより、冷媒-熱媒体熱交換器64に流入する冷媒の流入量が減少するため、チラー水温Twが再び上昇してしまう。このままチラー水温Twが上昇し続け、時刻T4に至るとチラー水温Twは運転者等に報知すべき温度(例えば、45℃)を超えてしまう。
【0058】
このように、参考例では、吸熱器9側の負荷が低い、すなわち、要求冷却能力が低い時には、圧縮機2の回転数が低下するため、冷媒-熱媒体熱交換器64側へ流入する冷媒の量も減少し、冷媒-熱媒体熱交換器64側の温度が上昇する。このため、チラー水温Twがバッテリ55のアラーム温度(Ex.TW>45℃)まで上昇してしまう状況が生じる虞があり、バッテリ55の過剰な発熱によりバッテリ55が劣化する要因となり得る。
【0059】
(本実施形態空調優先モードによる冷房運転時の制御)
そこで、本実施形態においては、空調優先モードによる冷房運転時であっても、バッテリ55を十分に冷却するために、空調コントローラ32が、被温調対象であるバッテリ55の温度に応じて、目標吸熱器温度TEOを目標吸熱器温度補正値TEO2に補正する。そして、この目標吸熱器温度補正値TEO2を目標として圧縮機2の回転数を算出し、制御する。
【0060】
以下、空調コントローラ32による、目標吸熱器温度補正値TEO2の算出、目標吸熱器温度補正値TEO2に従った目標圧縮機回転数TGNCcの算出について説明する。なお、本実施形態においては、バッテリ55の温度として、被温調対象の温度としてのチラー水温Twを検出する例について説明する。
【0061】
空調コントローラ32は、まず、目標吸熱器温度補正値TEO2の算出に際し、目標吸熱器温度TEOからの下げ量TEO_PCを算出する。
図6は、本実施形態に係る空調コントローラ32における目標吸熱器温度TEOの下げ量TEO_PCを算出する制御ブロック図である。図6に示すように、空調コントローラ32は、チラー水温Twが予め設定された目標チラー水温(目標被温調対象温度)TWOとなるように、チラー水温Twと目標チラー水温TWOとの差分に基づいて吸熱器温度TEOの下げ量TEO_PCを算出する。
【0062】
空調コントローラ32におけるTEO操作量演算部223では、チラー水温Tw、目標チラー水温TWO、及び予め定めた制御ゲインである定数K1,K2,K3が入力され、これらに基づいてPID(比例積分微分)演算、又はPI(比例積分)演算により吸熱器温度の下げ量に関する操作量が算出される。そして、操作量に対して、前回の下げ量TEO_PCがF/B(フィードバック)操作量として加算され、リミット設定部224に入力される。
【0063】
リミット設定部224では、制御上の下限下げ量と上限下げ量のリミットを付して下げ量TEO_PCを決定する。例えば、目標吸熱器温度TEOを10℃とし、目標吸熱器温度TEOの下限値を2.5℃とした場合、下げ量TEO_PCの範囲は0℃~7.5℃となる。
【0064】
図7は、空調コントローラ32において目標吸熱器温度補正値TEO2を算出する制御ブロック図であり、図7に示すように、空調コントローラ32は、このようにして算出された下げ量TEO_PCを、目標吸熱器温度TEOから減算することにより目標吸熱器温度補正値TEO2を算出する。
図6及び図7に示すように、下げ量TEO_PCは、直前の下げ量TEO_PCを考慮して定まる値であり、目標吸熱器温度補正値TEO2は、目標吸熱器温度TEOと下げ量TEO_PCとの差分によって求められる。
【0065】
図8は、本実施形態に係る空調コントローラ32における目標圧縮機回転数TGNCcを算出する制御ブロック図である。図8に示すように、空調コントローラ32は、吸熱器温度Teが目標吸熱器温度補正値TEO2となるように、吸熱器温度Teと目標吸熱器温度補正値TEO2との差分に基づいて目標圧縮機回転数TGNCcを算出する。
【0066】
空調コントローラ32におけるTGNCc操作量演算部233では、吸熱器温度Te、目標吸熱器温度補正値TEO2、及び予め定めた制御ゲインである定数K4,K5,K6が入力され、これらに基づいてPID(比例積分微分)演算、又はPI(比例積分)演算により圧縮機2の回転数に関する操作量が算出される。操作量に対して、目標圧縮機回転数TGNCcのI分項(積分要素)の前回値がF/B(フィードバック)操作量として加算され、リミット設定部234に入力される。また、TGNCc操作量演算部233では、吸熱器温度Teと目標吸熱器温度補正値TEO2との差分に定数K4を乗じた目標圧縮機回転数TGNCcのP分項(比例要素)が出力される。
【0067】
リミット設定部234では、制御上の下限下げ量と上限下げ量のリミットを付して目標圧縮機回転数TGNCcのI分項を出力する。圧縮機回転数TGNCcのI分項に、目標圧縮機回転数TGNCcのP分項(比例要素)を加算することにより、目標圧縮機回転数TGNCが算出される。
【0068】
このように、空調コントローラ32は、チラー水温Twに基づいて目標吸熱器温度TEOを目標吸熱器温度補正値TEO2に補正し、目標吸熱器温度補正値TEO2に基づく圧縮機回転数TGNCcを算出して制御している。
【0069】
図9は、本実施形態に係る車両用空調装置において、圧縮機2の回転数、吸熱器温度Te、チラー水温Tw、チラー膨張弁73、及び室内膨張弁8の動作を示すタイミングチャートである。
図9に示すように、車両用空調装置1が、通常の冷房運転(バッテリ冷却なし)を行っている状態において、バッテリ55の発熱により徐々にチラー水温Twが上昇し、目標チラー水温TWOに対して設定された上限値(チラー膨張弁を開くべき温度)に到達する(時刻T1)。このとき、空調コントローラ32は、空調とバッテリ冷却を同時に行うために、通常の冷房運転から空調優先モードに切り替えて、チラー膨張弁73を開状態とする。
【0070】
これにより、吸熱器9を循環していた冷媒の一部が冷媒-熱媒体熱交換器64に流入してチラー水温Twが低下する。一方で、吸熱器9に流入する冷媒量が減少するため吸熱器温度Teが上昇しはじめる。そこで、空調コントローラ32は、吸熱器温度Teと目標吸熱器温度TEOとの差分に基づいて目標圧縮機回転数TGNCcを算出し、圧縮機2を目標圧縮機回転数TGNCcで駆動する。ここで、吸熱器温度Teが上昇しているので、目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teとの差が大きいことから、目標圧縮機回転数TGNCcは高くなる。
【0071】
時刻T2~T3において、吸熱器温度Teが目標吸熱器温度TEOに近づいていくと、吸熱器9の負荷の低下に伴って、吸熱器9で必要とされる冷却能力が低下していくので圧縮機2の回転数も徐々に低下していく。これにより、冷媒-熱媒体熱交換器64に流入する冷媒の流入量が減少するため、チラー水温Twが再び上昇し、チラー目標水温TWOを超えてしまう(時刻T3)。
【0072】
このとき、空調コントローラ32は、図6及び図7に示した制御ブロック図に従って、目標吸熱器温度補正値TEO2を算出する。時刻T3から時刻T4の間では、チラー水温Twが目標チラー水温TWOを超えているので、目標吸熱器温度補正値TEO2が徐々に低下していく。
【0073】
目標吸熱器温度補正値TEO2の低下に伴って、吸熱器温度Teと目標吸熱器温度補正値TEO2との差分は、吸熱器温度Teと目標吸熱器温度TEOとの差分よりも大きくなり、圧縮機2の目標圧縮機回転数TGNCcが上昇する。目標圧縮機回転数TGNCcが上昇するので、冷媒-熱媒体熱交換器64に十分な冷媒が流入し、チラー水温Twが低下していく。チラー水温Twと目標チラー水温TWOとの差分が小さくなると、下げ量TEO_PCが小さくなっていく。なお、目標吸熱器温度補正値TEO2の下限値はTEO下限値(Ex.2.5℃)と等しい値とする。
【0074】
時刻T4において、チラー水温Twと目標チラー水温TWOとが等しくなると、目標吸熱器温度補正値TEO2が保持され、その結果、目標圧縮機回転数TGNCcも保持される。時刻T5において、チラー水温Twは目標チラー水温TWOを下回ると、目標吸熱器温度補正値TEO2を上昇させていく。なお、目標吸熱器温度補正値TEO2の上限値は目標吸熱器温度TEOとする。
【0075】
目標吸熱器温度補正値TEO2の上昇に伴って、吸熱器温度Teと目標吸熱器温度補正値TEO2との差分が徐々に小さくなり、圧縮機2の目標圧縮機回転数TGNCcが低下する。目標圧縮機回転数TGNCcが低下するので、冷媒-熱媒体熱交換器64に流入する冷媒量が減少し、チラー水温Twが徐々に上昇していく。チラー水温Twと目標チラー水温TWOとの差分が小さくなると、下げ量TEO_PCが小さくなっていく。
【0076】
図10は、空調コントローラ32による目標吸熱器温度補正値TEO2及び目標圧縮機回転数TGNCcの算出処理に関するフローチャートである。
図10に示すように、空調コントローラ32は、チラー水温Twを一定の時間間隔で取得する(ステップS11)。取得したチラー水温Twは予め保持されている目標チラー水温TWOと比較される(ステップS12)。
【0077】
チラー水温Twが目標チラー水温TWOよりも高い場合には、目標集熱器温度補正値TEO2を低下させ、目標圧縮機回転数TGNCcを上昇させる(ステップS12~ステップS14)。
チラー水温Twが目標チラー水温TWOと等しい場合には、目標集熱器温度補正値TEO2を保持する(ステップS12、ステップS15~ステップS17)。
チラー水温Twが目標チラー水温TWOよりも低い場合には、目標集熱器温度補正値TEO2を上昇させ、目標圧縮機回転数TGNCcを低下させる(ステップS12、ステップS18~ステップS19)。
【0078】
以上説明してきたように、本実施形態に係る車両用空調装置1によれば、空調コントローラ32が、被温調対象であるバッテリ55の温度に応じて、目標吸熱器温度TEOを目標吸熱器温度補正値TEO2に補正する。そして、この目標吸熱器温度補正値TEO2を目標として圧縮機2の回転数を制御する。特に、吸熱器9が目標吸熱器温度に到達して車室内が十分に冷房されている(吸熱器9側の要求冷却能力が低い)が、バッテリ55の温度が目標温度よりも高い(バッテリ55の要求冷却能力が高い)場合において、バッテリ55を十分に冷却するために目標吸熱器温度補正値TEO2を下げることで、圧縮機2の回転数を上昇させる。このようにすることで制御モードの切り替え等の煩雑な処理を行うことなく、車室内の空調(冷房)を維持しながら、冷媒-熱媒体熱交換器64に十分な冷媒を流入させてバッテリ55を冷却することができる。
【0079】
なお、上述した実施形態において、被温調対象の一例としてバッテリについて説明したが、被温調対象として、例えば、モータ、インバータ等の発熱機器についても本発明を適用することができる。 以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1:車両用空調装置,2:圧縮機,4:室内コンデンサ、6:室外膨張弁,7:室外熱交換器,8:室内膨張弁,9:吸熱器,32:空調コントローラ(制御装置),44:吸込温度センサ,54:室外熱交換器温度センサ,56:室外熱交換器圧力センサ,61:機器温度調整回路,63:第2循環ポンプ,64:冷媒-熱媒体熱交換器,65:モータユニット,73:チラー膨張弁,76:バッテリ温度センサ,79:熱媒体温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10