(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099633
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】超電導接合装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20220628BHJP
H01R 4/68 20060101ALI20220628BHJP
H01R 43/02 20060101ALI20220628BHJP
H01R 4/02 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
B23K20/10 ZAA
H01R4/68
H01R43/02 B
H01R4/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213511
(22)【出願日】2020-12-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】松本 明善
【テーマコード(参考)】
4E167
5E051
5E085
【Fターム(参考)】
4E167AA08
4E167AA09
4E167BE02
4E167BE04
4E167BE08
5E051LA04
5E051LB02
5E085BB01
5E085CC03
5E085CC08
5E085DD04
5E085HH31
5E085JJ06
5E085JJ38
(57)【要約】
【課題】屋外やトンネル内での超電導ケーブル敷設作業に適用可能な超電導接合装置を提供すること。
【解決手段】接合対象となる超電導線材に向かって波動エネルギーを出射する励振部10と、励振部10と所定の間隙を隔てて対向し、接合対象となる超電導線材20を前記間隙に介在し得る接合対向部30と、接合対向部30の間隙を可変とする接触面間隙可変機構40とを備え、接触面間隙可変機構40による前記間隙の調節に基づき、励振部10と接合対向部30とで超電導線材20を保持するように構成したものである。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合対象となる超電導線材に向かって波動エネルギーを出射する励振部と、
前記励振部と所定の間隙を隔てて対向し、前記接合対象となる超電導線材を前記間隙に介在し得る接合対向部と、
前記接合対向部の間隙を可変とする接触面間隙可変機構とを備え、
前記接触面間隙可変機構による前記間隙の調節に基づき、前記励振部と前記接合対向部とで前記超電導線材を保持するように構成した超電導線接合装置。
【請求項2】
前記超電導線材を保持する線材保持部は、
前記励振部の端部に設けられた励振部側保持部と、
前記接合対向部の端部に設けられた圧子部と、
を有する請求項1に記載の超電導線接合装置。
【請求項3】
前記接触面間隙可変機構は、
前記接合対向部と前記励振部とのなす角度が可変に係合するヒンジ部を有し、
前記ヒンジ部での回動により、前記励振部側保持部と前記圧子部との間隙が変化するように構成された請求項2に記載の超電導線接合装置。
【請求項4】
前記接触面間隙可変機構は、
把持部と、前記把持部に近設された操作部とを備え、
前記把持部と前記操作部は、前記接合対向部の圧子部と対をなす端部に設けられると共に、前記操作部の操作に応じて、前記励振部側保持部と前記圧子部との間隙が増減するように構成された請求項2に記載の超電導線接合装置
【請求項5】
前記接触面間隙可変機構は、さらに、前記励振部と接合対向部とを連結する連結部を有し、前記連結部は前記圧子部と前記把持部との中間的位置に位置する、請求項4に記載の超電導線接合装置。
【請求項6】
前記接合対向部は、前記把持部と前記励振部との間に位置する請求項4又は5に記載の超電導線接合装置。
【請求項7】
前記接合対向部は、超電導線材を保持あるいは落とし込む機構を有し、超電導線材を挟んで前記励振部の反対側に位置する、請求項4ないし請求項6のいずれかにに記載の超電導線接合装置。
【請求項8】
前記励振部は波動エネルギーとして超音波または音波として出射することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の超電導線接合装置。
【請求項9】
超電導線接合装置は可搬型であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の超電導線接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導特性の劣化を回避しながら、超電導線材同士を接合するための装置に関し、特に超電導線材の接合を簡便に行うことに好適で、構成部品を選択すること等により可搬型としても使用得る装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材の接合は強磁場マグネットや超電導送電ケーブル等において必要不可欠の技術である。従来は高温超電導線材では一般的に半田を用いた接合技術が主流であった。ところが、半田接合においては、半田の種類によっては300℃以上の温度で接合させる必要があった。他方で、超電導線材に含まれる酸化物超電導体は温度に敏感で、150℃以上の温度で長時間保持された場合、酸素の出入りにより、当初保持していた超電導特性が劣化するこという課題がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に示すように、超音波接合を用いた超電導線材の接合方法が提案されている。具体的には、超電導層に金属の安定化層が被覆された超電導線材の接合方法であって、2本の超電導線材それぞれ安定化層となる薄い金属同士を重ね合わせ、2本の超電導線材の重なった部分を手で持てる超音波接合機において接合を行なうものである。接合工程は室温あるいは100℃程度の低温で行う。しかしながら、特許文献1に示す超音波接合機では出力が非常に高く、超電導線材の接地現場での作業性が良くないという課題がある。
【0004】
他方で、特許文献2に示すような、超音波接合機が知られている。しかし、この超音波接合機は、熱可塑性プラスチックの接合用であり、酸化物高温超電導線材のような脆い材料の接合を前提としたものではなく、酸化物高温超電導線材のような脆い材料の接合に用いると、当初保持していた超電導特性が劣化する可能性があるこという課題がある。
【0005】
また、特許文献3に示すように、NbTiのような金属超電導線材の接合に用いて好適な超音波接合装置が提案されている。しかし、酸化物高温超電導線材のような脆い材料の接合においては、NbTiのような金属超電導線材の接合と異なる配慮が必要であり、このような脆さに対する配慮が不足すると、当初保持していた超電導特性が劣化する可能性があるこという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/043555号
【特許文献2】特開昭49-11968号公報
【特許文献3】特開昭60-35478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種の超電導ケーブルは電力供給用のケーブルであるため、その敷設は例えば屋外やトンネル内で敷設することになる。そのようなとき、特許文献1で開示された装置では装置自体が巨大であり、容易に持ち運びをすることができないという課題がある。また、小型プレス等においても複雑な機構を有して卓上型で40cm角程度の場所を必要とするとともに、その重量は30kgを超える重量となり、屋外への持ち出しおよび現場での接合は困難であるいう課題がある。
本発明の目的は、前記の課題に鑑みてなされたもので、超電導特性の劣化を回避しながら超電導線材同士を接合するための装置に関し、例えば、屋外やトンネル内での超電導ケーブル敷設作業にも適用が可能な超電導接合装置、構成部品の選定によっては、可搬型とすることも可能な超電導接合装置を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下説明の便宜上、可搬型タイプのものを主体に述べる。
本発明者は、前記従来の課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、可搬型超電導線接合装置においては、屋外やトンネル内での超電導ケーブル敷設作業現場での接続を可能にするために、手で持てる位の大きさ、重さを実現する必要があることを認識し、本発明における後述の実施の形態に想到するに至った。具体的には超音波振動子の出力は500W以下の物が好ましい。
【0009】
〔1〕本発明の実施の形態として記載される可搬型超電導接合装置は、例えば
図2B、
図3A、
図3B、
図3Cに示すように、接合対象となる超電導線材に向かって波動エネルギーを出射する励振部10と、励振部10と所定の間隙を隔てて対向し、接合対象となる超電導線材20を前記間隙に介在し得る接合対向部30と、接合対向部30の間隙を可変とする接触面間隙可変機構40とを備え、接触面間隙可変機構40による前記間隙の調節に基づき、超音波励振部10と接合対向部30とで超電導線材20を保持するように構成したものである。
【0010】
〔2〕本発明の実施の形態としての可搬型超電導接合装置において、好ましくは、超電導線材20を保持する線材保持部は、超音波励振部10の端部に設けられた励振部側保持部12と、接合対向部30の端部に設けられた圧子部32とを有するとよい。
〔3〕本発明の実施の形態としての可搬型超電導接合装置において、好ましくは、接触面間隙可変機構40は、接合対向部30と超音波励振部10とのなす角度が可変に係合するヒンジ部52を有し、ヒンジ部52での回動により、励振部側保持部12と圧子部32との間隙が変化するように構成されているとよい。
〔4〕本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置において、好ましくは、接触面間隙可変機構40は、把持部44と、把持部44に近設された操作部46とを備え、把持部44と操作部46は、接合対向部30の圧子部と対をなす端部に設けられると共に、操作部46の操作に応じて、励振部側保持部12と圧子部32との間隙が増減するように構成されているとよい。
〔5〕本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置において、好ましくは、接触面間隙可変機構40は、超音波励振部10と接合対向部30とを連結する連結部42を有し、連結部42は圧子部32と把持部44との中間的位置に位置するとよい。
〔6〕本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置において、好ましくは、接合対向部30は、把持部44と超音波励振部10との間に位置するとよい。
【0011】
〔7〕本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置において、好ましくは、前記接合対向部は、超電導線材を保持あるいは落とし込む機構を有し、超電導線材を挟んで前記励振部の反対側に位置するとよい。
〔8〕本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置において、好ましくは、前記励振部は波動エネルギーとして超音波または音波として出射するとよい。
〔9〕本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置において、好ましくは、超電導線接合装置は可搬型であるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の可搬型超電導接合装置によれば、励振部10での超音波振動子の出力を、例えば500W以下の小さなものとし、装置全体の重量を、例えば5kg以下とすることが可能であり、屋外やトンネル内での超電導ケーブル敷設作業に適した、可搬型の超電導接合装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の対象となる超電導線材同士の接合の概念的構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態を示す接合機の説明図で、(A)はホチキス型、(B)はガン型を示している。
【
図3A】本発明の一実施形態を示すガン型接合機の説明図で、接合される超電導線材の斜め上向からの構成斜視図である。
【
図3B】本発明の一実施形態を示すガン型接合機の説明図で、接合される超電導線材の斜め下向からの構成斜視図である。
【
図3C】本発明の一実施形態を示すガン型接合機の断面図である。
【
図4】本発明の比較例を示すもので、超電導接合ではなく接続した超電導線に対して液体窒素中で電流を流した結果を示すI-Vカーブ説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態を示す、臨界電流Icと抵抗率のデータ説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置は、例えば
図1に示すように、現場での接続を可能にするためには、手で持てる位の大きさ、重さを実現することが要請される。
その為の構成として以下に記載のように主に2つの要素からなる。接合に必要なエネルギーとしての超音波あるいは音波を発することができる振動子部分、換言すれば、接合に必要な波動エネルギーを接合対象に向かって出射するエネルギー供給源としての励振部と、それを支える取っ手部分である。重量は2つのパーツで人が持つことのできる5kg以下であることが望ましい。振動子は例えばプラスチックを接続するような小規模の超音波振動子を有していることが好適である。具体的には500W以下の物が好ましい。また、取っ手部分は手で握るあるいはトリガーを引くことで接続部分を水平に上下運動させる機構を有していることが望ましい。
【実施例0015】
図1は本発明の対象となる超電導線材同士の接合の一例に関する概念的構成図で、2枚のテープ状超電導線材を示している。2枚の超電導線材20a、20bは、超電導層を囲むように銀や銅などの金属部分が表面に出ている。超電導層には、例えばYBa
2Cu
3O
7-δ(Tc~93K)やBi
2Sr
2Ca
2Cu
3O
10(Tc~109K)等の銅酸化物高温超電導体やSmFeAs(O,F)等の鉄系超電導体等の高温超電導物質が用いられる。
中間箔22は、2枚の超電導線材20a、20bの接合面に位置するもので、例えばIn箔等の低融点の金属を挟み込む。なお、中間箔22を省略して、2枚の超電導線の表面を研磨して、直接接合してもよい。
超電導線材の接続は、2枚の超電導線材20a、20bの露出した金属部同士を接続するものである。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態を示す接合機の説明図で、(A)はホチキス型、(B)はガン型を示している。ホチキス型接合機は、ホッチキスのようなグリップ形状をした超音波接合機を用いている。ガン型接合機は、トリガーによって超電導線材を挟む先端部が上下する機構を有する。
【0017】
まず、第1の実施例を説明する。
図2(A)において、ホチキス型接合機は、超音波励振部10、接合対向部60、接触面間隙可変機構50を有する。
超音波励振部10は、超音波振動子が内部に収容されたペン型の筒状筐体を有しており、超音波振動子への駆動電力は外部の電子制御回路(図示せず)より供給されるもので、例えば超音波工業製の超音波ウェルダー、型名USW0438があげられるが、これに限定されるものではない。超音波励振部10と外部の電子制御回路との間は、例えば2本の信号線で接続されている。超音波励振部10の超電導線材側の先端部には、励振部側保持部12が設けられている。励振部側保持部12は、対となる圧子部62と共に、接合対象となる2枚のテープ状超電導線材の接合部位を位置決めして保持する。
【0018】
ここで、超音波振動子には、例えば電歪型振動子や磁歪型振動子が用いられる。電歪型振動子には、交流電圧を加えると振動するチタン酸ジルコン酸鉛(略称はPZT)が主に使われる。PZTの作動周波数は約400kHz以上となっており、このPZTを使用した低周波用振動子として、ボルト締めランジュバン型振動子が用いられる。この振動子は、PZT振動子を金属のブロックではさみ・ネジ(ボルト)で締め付け圧力をかけることで振動性能を向上させたものであり、金属部を含めて共振させる為、15kHz~200kHzの低い周波数で作動する。
【0019】
接合対向部60は、筒状の超音波励振部10と共に、接触面間隙可変機構50の一部をなすヒンジ部52で回動可能に超音波励振部10の筒状筐体に軸支されたもので、直線の棒状をしている。接合対向部60の先端部は、接合対象となる超電導線材20を励振部側保持部12と圧子部62の間隙に挿入することが可能な形状をしている。圧子部62は、接合対向部60の超電導線材側の先端部に設けられている。
接触面間隙可変機構50は、接合対向部60における励振部側保持部12と圧子部62の間隙を可変とする機構で、
図2(A)における矢印に示されるように保持部62の位置が超音波励振部10の長手方向に交わる方向に円弧状に移動するように、つまり実質上保持部62は音波励振部10の長手方向にほぼ直角な方向に移動するように、ヒンジ部52を用いて構成されている。例えばホチキス型接合機では接合対向部60に復元力を与える図示しないバネを有している。接触面間隙可変機構50のヒンジ部52を回動中心として、筒状の超音波励振部10と棒状の接合対向部60は相互の位置関係が側面からみて保持部62側に開いたV字型をしている。
なお、上記接触面間隙可変機構50では励振部10との間に設けられた図示していないばね部材よって復元力を実現しているが、その復元力については接合対向部60それ自体がバネ機能を有した弾性材から構成されていても良い。
【0020】
このように構成された装置においては、接触面間隙可変機構50が接合対向部60にマニュアル操作により押圧力を与えない状態では、励振部側保持部12と圧子部62の間隙を開いて、接合対象の2枚の超電導線材20a、20bの接合面を所定位置に保持する。次に、接触面間隙可変機構50にマニュアル操作により押圧力を与えて、接合対向部60と超音波励振部10とを閉じると、励振部側保持部12と圧子部62によって接合対象の2枚の超電導線材20a、20bの接合面が付勢力をもって接触する。続いて、超音波励振部10の超音波振動子の振動によって、接合対象の2枚の超電導線材20a、20bの接合面が接合される。接合が完了すると、接触面間隙可変機構50へのマニュアル操作に基づく押圧力を解除する。すると、バネの復元力によって、励振部側保持部12と圧子部62の間隙が元の状態に戻り、接合された2枚の超電導線材20a、20bを取り出せる状態となる。
【0021】
続いて、第2の実施例を説明する。
図2(B)において、ガン型接合機は、超音波励振部10、接合対向部30、接触面間隙可変機構40を有する。
図3Aは、ガン型接合機を、接合される超電導線材の斜め上向からみた構成斜視図である。
図3Bは、ガン型接合機を、接合される超電導線材の斜め下向からみた構成斜視図である。
図3Cは、ガン型接合機の断面図である。なお、
図2(B)、
図3A、
図3B、
図3Cにおいて、前記
図2(A)と同一作用をするものには同一符号を付して、説明を省略する。
【0022】
接合対向部30は、筒状の超音波励振部10と共に、接触面間隙可変機構40の一部をなす連結部42で連結されたもので、
図2(B)においては直線の棒状をしている。接合対向部30の先端部では、接合対象となる超電導線材20を励振部側保持部12と圧子部32の間隙に挿入することが可能な形状をしている。圧子部32は、接合対向部30の超電導線材側の先端部に設けられている。
アーム34は、
図3A、
図3B、
図3Cに示すように、接合対向部30に相当する機能を含むと共に、アーム34の圧子部32とは反対側の端部に設けられた圧子トリガー連動部41で、トリガー部46の動きに連動して、圧子部32と励振部側保持部12との間隔を調整する機構部材であり、アーム軸支部43によってブラケット49に軸支されている。
【0023】
接触面間隙可変機構40は、接合対向部30における励振部側保持部12と圧子部32の間隙を可変とする機構で、例えばガン型接合機ではトリガー部46に復元力を与える引張バネ47を有している。接触面間隙可変機構40は、圧子トリガー連動部41、連結部42、アーム軸支部43、把持部44、トリガー軸支部45、トリガー部46、引張バネ47、プレート48、ブラケット49を有している。
圧子トリガー連動部41は、L字形のトリガー部46の他端と、アーム34の圧子部32とは反対側の端部との接触部位に位置し、トリガー部46の動きをアーム34の回転運動に変換する。
連結部42は、筒状の超音波励振部10と接合対向部30を連結している。アーム軸支部43は、両端がブラケット49に取り付けられたもので、アーム34を軸支する。把持部44は、片手でガン型接合機を握るためのU字状の円弧フレーム形状をしているもので、例えばADC(アリル・ジグリコール・カーボネート)のようなエンジニアリングプラスチックを材料としている。トリガー軸支部45は、トリガー部46の回動中心であって、把持部44に固定されている。トリガー部46は、把持部44の円弧フレーム形状の内側に設けられたもので、トリガー軸支部45を屈曲部としてL字形をしている。引張バネ47は、アーム34とプレート48を連結するように設けられたもので、アーム34に対して圧子部32が励振部側保持部12から離れるような復元力を与えている。
プレート48は、接触面間隙可変機構40の基台となるもので、左右側面に取付られるブラケット49と共に、強固な剛性を有している。ブラケット49は、連結部42やアーム軸支部43をプレート48と一体に保持するもので、例えばA2017のような軽量で強度に優れたアルミ合金を材料としている。アルミ合金を材料としている部材としては、ブラケット49の他に、プレート48とアーム34がある。
【0024】
このように構成された装置においては、トリガー部46が引かれていない状態では、引張バネ47の復元力によって、圧子部32が励振部側保持部12から離れる姿勢となっている。そこで、接合対象の2枚の超電導線材20a、20bの接合面を圧子部32の所定位置に保持する。
次に、トリガー部46を引くと、トリガー軸支部45、圧子トリガー連動部41、アーム軸支部43、アーム34からなる接触面間隙可変機構40によって、圧子部32が励振部側保持部12に近づき、接合対向部30(圧子部32)と超音波励振部10(励振部側保持部12)との間隔が狭まるように閉じる。すると、励振部側保持部12と圧子部32によって接合対象の2枚の超電導線材20a、20bの接合面が付勢力をもって接触する。
続いて、超音波励振部10の超音波振動子の振動によって、接合対象の2枚の超電導線材20a、20bの接合面が接合される。接合が完了すると、トリガー部46を戻す。すると、引張バネ47の復元力によって、励振部側保持部12と圧子部32の間隙が元の状態に戻り、接合された2枚の超電導線材20a、20bを取り出せる状態となる。
【0025】
図4は、本発明の比較例を示すもので、超電導接合ではなく接続した超電導線に対して液体窒素中で電流を流した結果を示すI-Vカーブである。超電導接合ではないため、抵抗が発生して、電流印加とともに電圧が発生する。その後、ある閾値を超えると超電導が破れる。この閾値が出る電流値が、臨界電流と呼ばれている。臨界電流を超えた電流Iでは、大きな電圧Vが発生する。
【0026】
図5は、本発明の一実施形態を示す、臨界電流Icと抵抗率のデータ説明図で、左側縦軸に臨界電流Ic(A)、右側縦軸に抵抗率[nΩ/cm
2]、横軸に接合条件として半田接合、通常の卓上型超音波接合機、本発明の実施形態である可搬型接合機による結果を場合分けして示してある。ここでの測定は全て液体窒素中(-196℃)での測定である。
図中、臨界電流Icについては白抜き四角『□』、抵抗率についてはで黒丸『●』示してある。超電導線接合において、重要なのは抵抗率である。本発明の実施形態である可搬型接合機による超電導線接合は、半田接合と同等の抵抗率の低さを示している。また、研磨しただけで全く前処理を行わない場合においても、半田接合と同等の低抵抗を示すが、Inを挟んだり、2枚の超電導線の表面を研磨することによってより低い抵抗値を示すこともわかっている。他方、特許文献1に開示された接合方法を使った場合、1桁以上も高い抵抗率になる。
【0027】
なお、上記の本発明の実施の形態の説明においては可搬型のものを主体に説明したが、本発明は可搬式の超電導接合装置に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、本明細書には具体的に開示されていない超電導接合装置にも適用可能である。
また、本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置において、励振部側保持部12及び/又は圧子部62、32においては、超電導線材表面を破損させないために平滑な方が好ましい。また、接合終了後に超電導線材の取り出しを容易にするためにサンドブラスター等で表面処理を行ったものはより好ましい。
本発明の実施の形態の可搬型超電導接合装置において、圧子部62、32においては超電導線材を保持しやすくするために、例えば超電導線材の幅(例えば4mm)に合わせた溝が掘られており、その溝部分に超電導線材が納まるものが良い。その際に励振部側保持部も溝に納まるような幅4mm以下が良い。
以上詳細に説明したように、本発明の実施形態の可搬型超電導接合装置によれば、全体の重量を作業者が容易に持つことのできる重量、例えば5kg以下とすることが可能であると共に、超音波振動子も小型、例えば500W以下とすることでき、2つの超電導線材の金属部分を接合するのに好適である。さらに、接合に際して被接合材に損傷を与えたくない2枚の薄い金属板を接合させること、また、プラスチックのような有機材料についても適用可能である。例えば精密部品や電池材料の電極付けの補修等に使用可能である。