(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099646
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】体温計
(51)【国際特許分類】
G01K 13/20 20210101AFI20220628BHJP
G01J 5/10 20060101ALI20220628BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G01K13/20 341P
G01J5/10 Z
A61B5/01 350
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213535
(22)【出願日】2020-12-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000231590
【氏名又は名称】日本精密測器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】長田 直道
(72)【発明者】
【氏名】吉田 玲
(72)【発明者】
【氏名】権田 和也
【テーマコード(参考)】
2G066
4C117
【Fターム(参考)】
2G066AC13
2G066BB11
2G066CA15
2G066CA16
4C117XB01
4C117XE23
4C117XE48
4C117XG01
4C117XH12
4C117XJ13
4C117XJ46
4C117XJ48
4C117XP12
4C117XP20
(57)【要約】
【課題】非接触型の体温計について、どのような環境下でも適切な状態での使用を可能とし、利用者にとっての利便性が優れ、しかも温度測定を高精度に行うことができる技術を提供する。
【解決手段】測定対象体からの赤外線を検出する赤外線センサ31と、前記赤外線センサ31が検出した赤外線量に基づいて前記測定対象体の温度を求める測定部51と、前記赤外線センサ31および前記測定部51が温度測定可能状態であるか否かを判断する判断部52と、前記判断部52が温度測定可能状態であると判断したことを振動により報知する報知部53と、を備えて体温計1を構成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象体からの赤外線を検出する赤外線センサと、
前記赤外線センサが検出した赤外線量に基づいて前記測定対象体の温度を求める測定部と、
前記赤外線センサおよび前記測定部が温度測定可能状態であるか否かを判断する判断部と、
前記判断部が温度測定可能状態であると判断したことを振動により報知する報知部と、
を備える体温計。
【請求項2】
前記測定対象体との距離を検出する距離センサを備え、
前記判断部は、前記距離センサの検出結果が所定の距離範囲内であることを条件に、前記温度測定可能状態であると判断する
請求項1に記載の体温計。
【請求項3】
気温を検出する温度センサを備え、
前記判断部は、前記温度センサの検出結果が所定の温度範囲内であることを条件に、前記温度測定可能状態であると判断する
請求項1または2に記載の体温計。
【請求項4】
前記報知部は、前記判断部が温度測定可能状態であると判断したことに加えて、前記体温計が所定状態であることを振動により報知する
請求項1から3のいずれか1項に記載の体温計。
【請求項5】
前記報知部は、前記温度測定可能状態の場合と前記所定状態の場合とで異なる態様の振動により報知する
請求項4に記載の体温計。
【請求項6】
前記赤外線センサは、前記測定対象体である人体の額部からの赤外線を検出する
請求項1から5のいずれか1項に記載の体温計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定を行う体温計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルス感染予防の観点から、非接触型の体温計の重要度が非常に増している。非接触型の体温計としては、赤外線を利用することで、人体と非接触で体温を測定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非接触型の体温計は、例えば測定対象となる人体と体温計との間の距離を適切に保つといったように、その体温計の適切な状態での使用が、温度測定を精度良く行うためには必要である。しかしながら、従来における非接触型の体温計では、適切な状態で使用する上で、必ずしも利用者にとっての利便性が優れているとは言えない。
【0005】
非接触型の体温計は、近年の状況下において騒音環境下でも使用される頻度が高くなっているが、そのような場合に例えばブザー音等の音出力を利用して体温計の状態に関する報知を行っても、その音出力を聴き取れず、結果として利用者にとっては不便なものとなるおそれがある。また、非接触型の体温計は、病院や介護施設等での夜間の使用が想定されるが、音出力を利用した報知では被測定者の睡眠の妨げになることが考えられ、この点でも利用者にとって不便なものとなるおそれがある。さらに、夜間の使用では、体温計の液晶画面での表示出力を利用した報知であっても、その表示出力の視認が困難になることが考えられ、この点でも利用者にとって不便なものとなるおそれがある。
【0006】
本発明は、非接触型の体温計について、どのような環境下でも適切な状態での使用を可能とし、利用者にとっての利便性が優れ、しかも温度測定を高精度に行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために案出されたもので、
測定対象体からの赤外線を検出する赤外線センサと、
前記赤外線センサが検出した赤外線量に基づいて前記測定対象体の温度を求める測定部と、
前記赤外線センサおよび前記測定部が温度測定可能状態であるか否かを判断する判断部と、
前記判断部が温度測定可能状態であると判断したことを振動により報知する報知部と、
を備える体温計である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非接触型の体温計について、どのような環境下でも適切な状態での使用が可能となるので、利用者にとって利便性が優れたものとなり、しかも温度測定を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る体温計の外観構成例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る体温計の内部構成例を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る体温計の機能構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る体温計での体温測定機能による処理動作の手順の一具体例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る体温計での物体測定機能による処理動作の手順の一具体例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る体温計での気温測定機能による処理動作の手順の一具体例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る体温計の振動態様の一具体例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明に係る体温計について説明する。
【0011】
<1.体温計の構成例>
本実施形態で例に挙げて説明する体温計は、赤外線を利用することで、人体の体温をはじめとする測定対象体の温度を非接触で測定するように構成されたものである。さらに詳しくは、測定対象体である人体の体温測定のあたり、その人体の額部からの赤外線を利用するように構成されたものである。以下、体温計の構成例について説明する。
【0012】
(筐体構成)
図1は、本実施形態に係る体温計の外観構成例を示す斜視図である。
本実施形態の体温計1は、利用者(すなわち、測定行為者)が把持可能に形成された棒状(スティック状)の体温計筐体10を備えている。
【0013】
体温計筐体10の一端には、赤外線導入用の開口(以下「赤外線導入開口」という。)11が設けられている。また、体温計筐体10の一面には、情報の表示出力を行う画面表示部12と、測定行為者が操作するための測定スイッチ13およびモードスイッチ14と、が配されている。画面表示部12は、例えば、LCD(liquid crystal display)パネルによって構成されている。また、測定スイッチ13およびモードスイッチ14は、例えば、押釦スイッチによって構成されている。
【0014】
なお、体温計筐体10の他の一面には、開閉可能な開閉蓋(ただし不図示)が配されており、その開閉蓋を開けた状態で、電源としての乾電池(同じく不図示)を体温計筐体10の内部に装着し得るようになっている。
【0015】
図2は、本実施形態に係る体温計の内部構成例を示す分解斜視図である。
体温計筐体10の内部には、各種部品を収容可能な空間が設けられている。体温計筐体10の内部空間に装着される部品としては、電源としての乾電池の他に、少なくとも、センサ基板21と、メイン基板22と、アクチュエータ部40と、がある。
【0016】
(基板構成)
センサ基板21は、赤外線センサ31、温度センサ32および距離センサ33を搭載するプリント基板(PCB:printed circuit board)である。なお、赤外線センサ31、温度センサ32および距離センサ33については、詳細を後述する。
【0017】
メイン基板22は、少なくとも、CPU(central processing unit)等によって構成された制御部50を搭載するプリント基板(PCB)である。なお、制御部50については、詳細を後述する。また、メイン基板22には、制御部50の他に、LCDパネル等の画面表示部12、押釦スイッチ等の測定スイッチ13およびモードスイッチ14等が搭載される。さらに、メイン基板22には、通信モジュール60が搭載されていてもよい。通信モジュール60については、詳細を後述する。
【0018】
センサ基板21およびメイン基板22は、それぞれが別体の基板として構成されていることが好ましい。それぞれが別体の基板であれば、メイン基板22に発熱を伴う電子部品(例えば、制御部50、通信モジュール60)が搭載されていても、その発熱の影響がセンサ基板21に及んでしまうのを抑制できるからである。なお、別体の基板であっても、それぞれの間は、FPC(flexible printed circuits)またはFFC(flexible flat cable)といった導電ケーブル部材(ただし不図示)を介して電気的に接続されているものとする。
【0019】
(センサ構成)
上述のように、センサ基板21には、赤外線センサ31、温度センサ32および距離センサ33が搭載されている。
【0020】
赤外線センサ31は、センサパッケージ30に入射する赤外線を検出するものである。さらに詳しくは、赤外線センサ31は、例えばサーモパイルチップからなるもので、フィルタを介して受け取った赤外線の入射エネルギー量に応じた熱起電力を発生させるように構成されたものである。赤外線センサ31には、所定波長の赤外線を選択的に透過させる波長選択フィルタが付設されていてもよい。
【0021】
温度センサ32は、赤外線センサ31が置かれた環境の気温(周囲温度)を検出するものである。さらに詳しくは、温度センサ32は、赤外線センサ31の近傍に配置され、その配置箇所の温度に対応した電圧を出力するように構成されており、温度測定の際の冷接点補償により、赤外線センサ31の温度依存性を補正することを実現可能にするものである。なお、温度センサ32としては、例えばセンサパッケージを構成する赤外線センサ31に付設されたサーミスタを用いることも考えられるが、温度変化への追従性の観点から、赤外線センサ31とは別に設けられたものを用いることが好ましい。温度検出の方式については、特に限定されるものではなく、公知のものを利用することが可能である。
【0022】
距離センサ33は、測定対象となる人体の額部との距離を検出するものである。さらに詳しくは、距離センサ33は、例えば赤外線測距センサモジュールからなるもので、赤外線を発光する発光素子と反射光を受光する受光素子を有し、三角測量の原理を利用して測定対象体(具体的には被測定者の額部)との間の距離を測定するように構成されたものである。
【0023】
これらの各センサ31,32,33は、センサ基板21上において、以下に述べるように配置されている。すなわち、センサ基板21上では、赤外線センサ31の近傍に温度センサ32が配置され、さらに赤外線センサ31と距離センサ33とが並ぶように配置されている。そして、センサ基板21は、体温計筐体10の赤外線導入開口11を通じて、赤外線センサ31が外部からの赤外線を受光することができ、かつ、距離センサ33が赤外線の発光およびその反射光の受光を行うことができるように、体温計筐体10内の赤外線導入開口11の近傍位置に配置されている。
【0024】
(アクチュエータ部)
体温計筐体10の内部空間に装着されるアクチュエータ部40は、メイン基板22の制御部50からの電気信号を振動という物理的運動に変換するもので、その物理的運動によって体温計筐体10の全体に振動を伝えるように構成されたものである。振動発生の方式については、特に限定されるものではなく、例えば、直進的な振動を生み出すリニア共振アクチュエータ方式、円運動を生み出す偏心回転質量方式、ピエゾ素子を使用したピエゾアクチュエータ方式等といった公知のものを利用することが可能である。また、アクチュエータ部40は、体温計筐体10の全体に振動を伝え得るものであれば、その配置が限定されることはなく、例えばメイン基板22上に搭載されていてもよい。
【0025】
(制御部)
図3は、本実施形態に係る体温計の機能構成例を示すブロック図である。
メイン基板22に搭載される制御部50は、体温計1における処理動作を制御するものである。そのために、制御部50は、赤外線センサ31、温度センサ32および距離センサ33と電気的に接続しており、各センサ31,32,33のそれぞれから検出結果である電気信号を受け取るように構成されている。また、制御部50は、測定スイッチ13およびモードスイッチ14と電気的に接続しており、各スイッチ13,14のそれぞれから操作状態についての電気信号を受け取るように構成されている。また、制御部50は、画面表示部12と電気的に接続しており、その画面表示部12に対して情報の表示出力の内容を指示する電気信号を出力するように構成されている。また、制御部50は、例えばブザーやスピーカ等の音出力部16と電気的に接続しており、その音出力部16に対して音出力の内容を指示する電気信号を出力するように構成されている。また、制御部50は、アクチュエータ部40と電気的に接続しており、そのアクチュエータ部40に対して動作内容(振動の態様)を指示する電気信号を出力するように構成されている。
【0026】
制御部50は、予め設定されている制御プログラムを実行することで、体温計1における処理動作を制御する。さらに詳しくは、制御部50は、体温計1による温度測定に必要な制御処理を行うものであるが、制御プログラムを実行することで、少なくとも測定部51、判断部52および報知部53として機能するように構成されている。
【0027】
(測定部)
測定部51は、測定対象体の温度を求めるための制御処理を行う機能である。測定部51が行う制御処理には、少なくとも、モード選択処理と、演算処理と、が含まれる。
【0028】
モード選択処理は、体温計1が対応する動作モードの選択を行うため処理である。つまり、測定部51は、モード選択処理において、体温モードと、物体モードと、室温モードと、のいずれかを選択するように構成されている。
体温モードは、測定対象となる人体の体温を測定する動作モードである。
物体モードは、測定対象となる物体の温度を測定する動作モードである。
室温モードは、室温(周囲温度)を測定する動作モードである。
なお、モード選択処理の詳細(各モードの切り換えの手順等)については、詳細を後述する。
【0029】
演算処理は、赤外線センサ31および温度センサ32での検出結果を基に、温度測定結果を得るために必要な演算を行う処理である。つまり、測定部51は、演算処理において、赤外線センサ31および温度センサ32からの電気信号を基に、その受け取った電気信号について所定の演算を行って、測定対象体の温度を求めるように構成されている。測定部51が行う演算処理には、少なくとも、第一の補正処理と、第二の補正処理と、第三の補正処理と、が含まれる。
第一の補正処理は、赤外線センサ31が検出した赤外線の入射エネルギー量(以下、単に「赤外線量」という。)を温度値に変換する演算処理である。この第一の補正処理は、例えばシュテファン=ボルツマンの法則(Stefan-Boltzmann Law)を基に規定された所定の関係式に従って行われるものとする。
第二の補正処理は、温度センサ32の検出結果に基づき赤外線センサ31の温度依存性を補正する演算処理である。
第三の補正処理は、予め設定されている額温度と脳内温度の関係データに基づき、測定対象となる人体の額部についての温度として得られた温度値から当該人体の脳内温度を導き出す演算処理である。この第三の補正処理に必要となる関係データは、予めシミュレーションや試験等を通じて特定され、制御部50が読み出し可能な記憶領域に格納されているものとする。
なお、これらの演算処理の具体的な内容については、詳細を後述する。
【0030】
(判断部)
判断部52は、赤外線センサ31、温度センサ32および測定部51が温度測定を行うことが可能な状態(以下、単に「温度測定可能状態」という。)であるか否かを判断する機能である。例えば、判断部52は、距離センサ33の検出結果が所定の距離範囲内であると、温度測測定可能状態であると判断するように構成されている。また、例えば、判断部52は、温度センサ32の検出結果が所定の温度範囲内であると、温度測定可能状態であると判断するように構成されている。なお、温度測定可能状態であるか否かの判断処理の具体的な内容については、詳細を後述する。
【0031】
(報知部)
報知部53は、体温計1の状態を利用者に報知するための機能である。体温計1の状態には、上述した温度測定可能状態が含まれる。報知部53は、画面表示部12に対する情報表示出力指示、音出力部16に対する音出力指示、または、アクチュエータ部40に対する動作指示の少なくとも一つを行うことにより、体温計1の状態を報知するように構成されている。つまり、報知部53は、アクチュエータ部40の振動による報知を行い得るように構成されているとともに、振動以外の手段(すなわち、画面表示部12での表示出力または音出力部16での音出力)による報知も行い得るように構成されている。なお、報知処理の具体的な内容については、詳細を後述する。
【0032】
(通信モジュール)
メイン基板22に搭載される通信モジュール60は、外部機器との通信を行うものである。外部機器としては、パーソナルコンピュータ装置や、スマートホンやタブレット等の携帯型情報端末機器が挙げられる。通信モジュール60は、外部機器との間で、例えばBluetooth(登録商標)に準拠した近距離の無線通信を行うように構成されている。なお、通信モジュール60は、必須の構成ではなく、体温計1に設けられていなくてもよい。
【0033】
<2.体温計における処理動作例>
次に、上述した構成の体温計1における処理動作例について説明する。
体温計1における処理動作には、少なくとも、準備動作と、測定動作と、がある。
【0034】
(準備動作)
体温計1の使用にあたっては、電源投入の後、アクチュエータ部40による振動報知のON/OFFを設定する。例えば、測定スイッチ13の長押し操作があると、報知部53は、振動報知がONに設定されたものとする。このとき、報知部53は、測定スイッチ13の長押し操作に応じてアクチュエータ部40に動作指示を与え、振動報知がONに設定されたことをアクチュエータ部40の振動によって報知するようにしてもよい。そして、振動報知がONに設定されると、それ以降、報知部53は、体温計1の状態について、アクチュエータ部40の振動による報知を行うようにする。以下の説明では、振動報知がONに設定されている場合を例に挙げる。
【0035】
また、通信モジュール60による外部機器との通信を利用する場合には、その外部機器において専用アプリケーションを用い、通信に必要となる接続IDを登録する。これにより、外部機器との通信が確立されると、体温計1による測定結果を外部機器で出力することが可能となる。また、測定結果を外部機器に記憶蓄積させることで、その測定結果の管理を行うことも可能となる。
【0036】
(測定動作)
準備動作の完了後、制御部50は、体温計1の状態を、その体温計1を使用した温度測定を開始することが可能な測定待機状態とする。測定待機状態では、体温計1が対応する動作モードの選択を行うことが可能となる。
【0037】
例えば、体温計1の電源立ち上げ時には、測定部51は、動作モードとして体温モードを選択するように設定されているものとする。そして、測定待機状態において、モードスイッチ14の長押し操作があると、測定部51は、以下のような手順のモード選択処理を行う。すなわち、測定部51は、設定されている動作モードが体温モードであれば、動作モードの選択を体温モードから物体モードに切り換えて、測定待機状態に戻る。また、設定されている動作モードが物体モードであれば、動作モードの選択を物体モードから室温モードに切り換えて、測定待機状態に戻る。また、設定されている動作モードが室温モードであれば、動作モードの選択を室温モードから体温モードに切り換えて、測定待機状態に戻る。
【0038】
つまり、測定部51は、測定待機状態でのモードスイッチ14の操作がある度に、設定されている動作モードの選択を切り換える。これにより、体温計1を操作する測定行為者は、モードスイッチ14を操作することで、体温計1の動作モードを体温モード、物体モードまたは室温モードのいずれかに切り換えることができる。なお、動作モードが設定されると、報知部53は、どの動作モードであるかについて、視認可能な態様で画面表示部12に表示出力させるものとする。
【0039】
動作モードが設定された後の測定待機状態において、測定スイッチ13の短押し操作があると、測定部51は、その動作モードに応じた温度測定の処理動作を開始する。例えば、体温モードが設定されている場合であれば、測定部51は、体温測定機能による処理動作を開始する。また、物体モードが設定されている場合であれば、測定部51は、物体測定機能による処理動作を開始する。また、室温モードが設定されている場合であれば、測定部51は、気温測定機能による処理動作を開始する。以下、これらの処理動作の手順について、順に説明する。
【0040】
(体温測定機能による処理)
体温測定機能による処理動作は、体温モードにおいて、測定対象となる人体(すなわち、被測定者)の体温を測定するために行う処理動作である。
図4は、本実施形態に係る体温計での体温測定機能による処理動作の手順の一具体例を示すフローチャートである。
【0041】
体温計1の動作モードが体温モードに設定されている状態で、測定スイッチ13の短押し操作があると(ステップ101、以下ステップを「S」と略す。)、報知部53は、アクチュエータ部40に動作指示を与え、体温測定機能による処理動作を開始することをアクチュエータ部40の振動によって報知する(S102)。このときのアクチュエータ部40の振動態様については、詳細を後述する。
【0042】
体温測定機能による処理動作を開始すると、まず、判断部52は、温度センサ32からの電気信号を受け取って、その電気信号の電圧値を読み取ることで、体温計1が置かれている環境の気温を測定する(S103)。そして、判断部52は、気温の測定結果が所定の温度範囲内の適正気温であるか否かを判断する(S104)。具体的には、気温の測定結果が予め設定されている許容下限温度(例えば5℃)と許容上限温度(例えば40℃)との範囲内にあれば適正気温であると判断し、そうでなければ適正気温ではないと判断する。適正気温であれば、判断部52は、気温(周囲温度)に関して体温計1が温度測定可能状態であると判断する。一方、適正気温ではないと判断した場合、判断部52は、体温計1の正常な動作を保証できないので、その旨のアラーム出力を例えば画面表示部12に行わせる(S105)。これにより、正常な動作を保証できない環境下での体温計1の使用が回避される。
【0043】
適正気温であれば、続いて、判断部52は、距離センサ33に距離の測定を開始させ(S106)、その検出結果を監視し始める。距離センサ33が距離測定を開始すると、測定行為者は、例えば、体温計筐体10の赤外線導入開口11を被測定者(測定行為者と同一人であっても別人であってもよい。)の額部に向けた状態で、その体温計1を額部に徐々に近づける。そして、判断部52は、被測定者の額部と体温計1との間の距離についての距離センサ33による検出結果を監視し、その検出結果が所定の距離範囲内にあるか否かを判断する(S107)。具体的には、体温計1を額部に徐々に近づけている状態で、距離センサ33による距離の検出結果が、予め設定されている距離上限値(例えば5cm)以下になったら、検出結果が所定距離範囲内にあると判断する。また、体温計1を額部に近づけすぎて、距離センサ33による距離の検出結果が、予め設定されている距離下限値(例えば2cm)未満になったら、所定距離範囲から外れてしまったので、検出結果が所定距離範囲内にはないと判断する。つまり、判断部52は、距離センサ33による検出結果が所定距離範囲内にあるか否かを判断し、所定距離範囲内にあれば、体温測定のための適正距離に体温計1が位置しており、その体温計1が距離に関して温度測定可能状態であると判断する。なお、距離測定の開始から所定の時間が経過しても、距離センサ33による検出結果が所定距離範囲内とはならない場合、判断部52は、タイムアウトとし(S108)、体温計1の電源オフ動作を行う。
【0044】
以上のように、判断部52は、距離センサ33の検出結果が所定の距離範囲内であり、かつ、温度センサ32の検出結果が所定の温度範囲内であると、体温計1が温度測定可能状態であると判断する。なお、ここでは、気温と距離のいずれについても条件を満足したときに温度測定可能状態であると判断する場合を例に挙げたが、必ずしもこれに限定されることはなく、いずれか一方の条件を満足したときに温度測定可能状態であると判断してもよいし、全く異なる条件に基づいて温度測定可能状態であると判断するようにしてもよい。
【0045】
温度測定可能状態であると判断部52が判断すると(S107)、これに応じて、報知部53は、アクチュエータ部40に動作指示を与え、体温計1が温度測定可能状態にあることをアクチュエータ部40の振動によって報知する(S109)。これにより、測定行為者は、体温計1が温度測定可能状態にあること(例えば、体温測定のための適正距離に体温計1が位置しており、しかも正常な動作が保証される温度環境下にあること)を、視覚や聴覚等に頼らずに、体温計1を持つ手に伝わる振動によって認識することができる。なお、このときのアクチュエータ部40の振動態様については、詳細を後述する。
【0046】
また、通信モジュール60を備えている場合であれば、温度測定可能状態である旨の判断部52での判断に応じて、通信モジュール60が外部機器との通信を確立する。これにより、報知部53は、画面表示部12に所定の通信マーク(例えば、Bluetooth(登録商標)マーク)を表示出力させ、これにより外部機器と通信可能であることを報知する。
【0047】
体温計1が温度測定可能状態になると、その時点で、測定部51は、赤外線センサ31からの電気信号を受け取る(S110)。さらに、測定部51は、赤外線センサ31からの電気信号と合わせて、温度センサ32からの電気信号をも受け取る。
【0048】
このように、測定部51は、体温モード時に、距離センサ33の検出結果が所定距離範囲外から所定距離範囲内に状態遷移し、体温計1が温度測定可能状態になったことを、赤外線センサ31および温度センサ32の各検出結果の取得開始の契機とする。したがって、体温計1が温度測定可能状態になったら、赤外線センサ31等による検出結果を自動的に(すなわち、測定行為者による操作を要することなく)得ることになるので、測定行為者にとっての操作性が向上し、測定行為者および被測定者にとって非常に利便性が優れたものとなる。また、所定距離範囲内への状態遷移を契機の一つとすることで、例えば、体温測定にあたり体温計1を額部に徐々に近づけるといった形での使用が可能となるので、被測定者が乳幼児や老人等である場合にも安心して使用することができる。なお、ここでは、所定距離範囲内への状態遷移の例として額部に徐々に近づける場合を挙げているが、距離下限値未満の位置から徐々に遠ざけて所定距離範囲内となる場合についても、ここでいう状態遷移に含まれるものとする。
【0049】
赤外線センサ31および温度センサ32からの電気信号を受け取ると、測定部51は、受け取った電気信号についての演算処理を行う。具体的には、測定部51は、演算処理として、第一の補正処理(S111)、第二の補正処理(S112)および第三の補正処理(S113)を行う。
【0050】
第一の補正処理(S111)では、赤外線センサ31からの電気信号の電圧値に基づいて、その電圧値と一意に対応する赤外線センサ31への入射赤外線量を温度値に変換する演算処理を行う。この第一の補正処理は、所定の関係式に従って行えばよい。所定の関係式としては、例えば、シュテファン=ボルツマンの法則を基に規定された以下の(1)式のようなものが挙げられる。なお、(1)式において、Vは赤外線量と一意に対応する電圧値[単位:mV]、Tは温度値[単位:K]、σは比例係数(シュテファン=ボルツマン定数)である。
【0051】
V=σT4・・・(1)
【0052】
第二の補正処理(S112)では、温度センサ32からの電気信号の電圧値に基づいて、赤外線センサ31での検出結果を得た時点の体温計1が置かれている環境の気温を測定するとともに、赤外線センサ31での検出結果を基に得た温度値に対して、気温の測定結果を加味した補正をする演算処理を行う。すなわち、第二の補正処理(S112)では、温度センサ32の検出結果に基づき、赤外線センサ31の温度依存性を補正する演算処理を行う。これにより、気温が赤外線センサ31での検出結果に及ぼす影響を排除することができ、赤外線センサ31での検出結果についての精度向上が図れるようになる。具体的には、赤外線センサ31の温度依存性を補正するために、上述の(1)式が、以下の(2)式のように変換されることになる。なお、(2)式において、Tbは赤外線センサ31の検出結果を基に得た温度値[単位:K]、Tsは温度センサ32の検出結果を基に得た温度値[単位:K]である。
【0053】
V=σ(Tb4-Ts4)・・・(2)
【0054】
第三の補正処理(S113)では、第一の補正処理(S111)および第二の補正処理(S112)を経て得た温度値を被測定者の額部についての温度値とするとともに、予め設定されている額温度と脳内温度の関係データに基づき、被測定者の額部についての温度値から当該被測定者の脳内温度を導き出す演算処理を行う。このように、額温度から脳内温度を導き出すのは、一般に、人体の体温は脳内温度と等しく、額部には脳内温度が熱伝導により表れていると考えられるからである。このときの演算処理に必要となる関係データは、脳内から額部への熱伝導についてのもので、熱伝導シミュレーションによる解析や臨床試験による検証等を行った上で予め特定しておき、測定部51が読み出し可能な記憶領域に格納しておけばよい。なお、関係データに関するデータテーブルや計算方法等は、額温度から脳内温度を導き出すことが可能であれば、特に限定されるものではない。
【0055】
以上のような演算処理を行うことで、測定部51は、被測定者の脳内温度の値を、その被測定者の体温の測定結果として得ることになる。しかも、その測定結果は、距離センサ33による距離監視(S107)、第一の補正処理(S111)、第二の補正処理(S112)および第三の補正処理(S113)を経ていることから、非常に高精度なものとなる。
【0056】
被測定者の体温の測定結果を得たら、測定部51は、その測定結果が適正温度範囲内にあるか否かを判断する(S114)。具体的には、体温の測定結果が、人体の体温として想定し得る温度範囲内(例えば、32℃~42.5℃の範囲内)にあるか否かを判断する。そして、適正温度範囲内になければ、測定不良であると判断し、その旨のアラーム出力を例えば画面表示部12に行わせる(S115)。これにより、測定不良が生じた状態での体温計1の使用が回避される。
【0057】
測定結果が適正温度範囲内にあれば、測定部51は、被測定者の体温について正常に測定が行われたと判断する。そして、測定部51は、測定結果の温度値を、測定履歴として、例えば測定日時等の関連情報と対応付けて、測定部51がアクセス可能な記憶領域に読み出し可能に記憶しておく(S116)。測定結果の記憶は、例えば、最大で10回分について行うことができる。また、測定部51は、測定結果の温度値を、被測定者の体温の測定結果として、画面表示部12に対して出力して、その画面表示部12に表示出力させる(S117)。なお、過去の測定結果を記憶している場合に、モードスイッチ14の操作があると、画面表示部12での表示出力内容が切り替わり、モードスイッチ14の操作がある毎に最新の測定結果から古い測定結果に遡って表示出力されるものとする。
【0058】
画面表示部12が表示出力を行うと、報知部53は、アクチュエータ部40に動作指示を与え、被測定者の体温の測定結果を画面表示部12で表示出力することをアクチュエータ部40の振動によって報知する(S118)。これにより、測定行為者は、被測定者の体温の測定が完了したことを、体温計1を持つ手に伝わる振動によって認識することができる。したがって、赤外線センサ31等による検出開始が距離センサ33を利用して自動的に行われる場合であっても、測定行為者が測定完了を明確に把握し得るようになるので、測定行為者にとっての使い勝手が向上する。なお、このときのアクチュエータ部40の振動態様については、詳細を後述する。
【0059】
また、通信モジュール60を備えている場合であれば、被測定者の体温の測定が完了したことに応じて、最新の1回分測定結果のデータを通信モジュール60が外部機器へ転送する。これにより、体温計1による測定結果を、外部機器で出力したり、その外部機器で管理したりすることが可能となる。
【0060】
その後、制御部50は、例えば測定行為者による測定スイッチ13の長押し操作があるか否かに応じて、上述した一連の体温測定機能による処理動作を終了するか否かを判断し(S119)、終了しない場合は測定待機状態に戻る。一方、終了する場合は、体温計1の電源をオフ状態にして(S120)、一連の体温測定機能による処理動作を終了する。なお、測定行為者による操作がなくても、測定終了後に測定待機状態が所定時間(例えば1分程度)以上続くと、制御部50は、体温計1の電源を自動的にオフ状態にする。
【0061】
(物体測定機能による処理動作)
次に、物体測定機能による処理動作を説明する。物体測定機能による処理動作は、物体モードにおいて、測定対象となる物体の温度を測定するために行う処理動作である。
図5は、本実施形態に係る体温計での物体測定機能による処理動作の手順の一具体例を示すフローチャートである。
【0062】
体温計1の動作モードが物体モードに設定され、その体温計1が測定対象となる物体に向けられており、その物体から所定距離範囲内(例えば、2cm~5cmの範囲内)に位置している状態で、測定スイッチ13の短押し操作があると(S201)、報知部53は、アクチュエータ部40に動作指示を与え、物体測定機能による処理動作を開始することをアクチュエータ部40の振動によって報知する(S202)。このときのアクチュエータ部40の振動態様については、詳細を後述する。
また、通信モジュール60を備えている場合であれば、通信モジュール60が外部機器との通信を確立する。これにより、報知部53は、画面表示部12に所定の通信マーク(例えば、Bluetooth(登録商標)マーク)を表示出力させ、これにより外部機器と通信可能であることを報知する。
【0063】
物体測定機能による処理動作を開始すると、まず、判断部52は、温度センサ32からの電気信号を基に、体温計1が置かれている環境の気温を測定し(S203)、気温の測定結果が適正気温であるか否かを判断する(S204)。そして、適正気温ではないと判断した場合、判断部52は、その旨のアラーム出力を例えば画面表示部12に行わせる(S205)。ここまでは、上述した体温測定機能による処理動作の場合と同様である。
【0064】
適正気温であれば、その時点で、測定部51は、赤外線センサ31からの電気信号を受け取るとともに(S206)、これと合わせて、温度センサ32からの電気信号をも受け取る。このときも、測定行為者は、体温計筐体10の赤外線導入開口11を測定対象となる物体に向けた状態で、その物体から所定距離範囲内(例えば2cm~5cmの範囲内)に、体温計1を位置させているものとする。
【0065】
このように、物体測定機能による処理動作では、上述した体温測定機能による処理動作の場合とは異なり、距離センサ33による検出結果を基にすることなく、赤外線センサ31および温度センサ32の各検出結果を取得する。これは、測定対象が物体の場合には、測定中に物体が動いてしまうことがなく、体温計1が適正距離範囲内に位置する状態を維持することが非常に容易と考えられるからである。さらには、測定対象となる物体の表面色によっては赤外線の反射率が異なることから、距離センサ33に誤検出が生じてしまうおそれがあり、その影響が温度測定結果に及ぶのを排除するためである。
【0066】
赤外線センサ31および温度センサ32からの電気信号を受け取ると、測定部51は、受け取った電気信号についての演算処理を行う。具体的には、測定部51は、演算処理として、第一の補正処理(S207)および第二の補正処理(S208)を行う。
【0067】
第一の補正処理(S207)では、上述した体温測定機能による処理動作の場合における第一の補正処理(S111)と同様に、赤外線センサ31からの電気信号の電圧値に基づいて、その電圧値と一意に対応する赤外線センサ31への入射赤外線量を温度値に変換する演算処理を行う。
【0068】
また、第二の補正処理(S208)では、上述した体温測定機能による処理動作の場合における第二の補正処理(S112)と同様に、温度センサ32の検出結果に基づき、赤外線センサ31の温度依存性を補正する演算処理を行う。
【0069】
ただし、上述した体温測定機能による処理動作の場合とは異なり、第三の補正処理(S113)については行わない。物体測定機能による処理動作では、測定対象となる物体の表面の温度値を、その物体の温度の測定結果とするからである。つまり、体温測定機能による処理動作の場合のように、被測定者の額部の表面温度から脳内温度(すなわち、体温)を推定するのではなく、物体測定機能による処理動作では、物体の表面の温度値をそのまま測定結果とすればよいからである。
【0070】
以上のような演算処理を行うことで、測定部51は、測定対象となる物体の表面の温度の値を、その物体の温度の測定結果として得ることになる。しかも、その測定結果を得る際には、第一の補正処理(S207)および第二の補正処理(S208)を経る一方で、距離センサ33による距離監視および第三の補正処理が不要なので、測定結果の高精度を図りつつ、負荷軽減による処理の迅速化も図れるようになる。
【0071】
測定対象となる物体の温度の測定結果を得たら、測定部51は、その測定結果が適正温度範囲内にあるか否かを判断する(S209)。具体的には、物体の温度の測定結果が、物体の温度として想定し得る温度範囲内(例えば、0℃~100℃の範囲内)にあるか否かを判断する。そして、適正温度範囲内になければ、測定不良であると判断し、その旨のアラーム出力を例えば画面表示部12に行わせる(S210)。これにより、測定不良が生じた状態での体温計1の使用が回避される。
【0072】
測定結果が適正温度範囲内にあれば、測定部51は、測定対象となる物体の温度について正常に測定が行われたと判断する。そして、測定部51は、測定結果の温度値を、測定履歴として、例えば測定日時等の関連情報と対応付けて、測定部51がアクセス可能な記憶領域に読み出し可能に記憶しておく(S211)。測定結果の記憶は、例えば、最大で10回分について行うことができる。また、測定部51は、測定結果の温度値を、測定対象となる物体の温度の測定結果として、画面表示部12に対して出力して、その画面表示部12に表示出力させる(S212)。なお、過去の測定結果を記憶している場合に、モードスイッチ14の操作があると、画面表示部12での表示出力内容が切り替わり、モードスイッチ14の操作がある毎に最新の測定結果から古い測定結果に遡って表示出力されるものとする。
【0073】
画面表示部12が表示出力を行うと、報知部53は、アクチュエータ部40に動作指示を与え、測定対象となる物体の温度の測定結果を画面表示部12で表示出力することをアクチュエータ部40の振動によって報知する(S213)。これにより、測定行為者は、物体の温度の測定が完了したことを、体温計1を持つ手に伝わる振動によって認識することができる。このときのアクチュエータ部40の振動態様については、詳細を後述する。
【0074】
また、通信モジュール60を備えている場合であれば、測定対象となる物体の温度の測定が完了したことに応じて、最新の1回分測定結果のデータを通信モジュール60が外部機器へ転送する。これにより、体温計1による測定結果を、外部機器で出力したり、その外部機器で管理したりすることが可能となる。
【0075】
その後、制御部50は、例えば測定行為者による測定スイッチ13の長押し操作があるか否かに応じて、上述した一連の物体測定機能による処理動作を終了するか否かを判断し(S214)、終了しない場合は測定待機状態に戻る。一方、終了する場合は、体温計1の電源をオフ状態にして(S215)、一連の物体測定機能による処理動作を終了する。なお、測定行為者による操作がなくても、測定終了後に測定待機状態が所定時間(例えば1分程度)以上続くと、制御部50は、体温計1の電源を自動的にオフ状態にする。
【0076】
(気温測定機能による処理動作)
次に、気温測定機能による処理動作を説明する。気温測定機能による処理動作は、室温モードにおいて、体温計1が置かれている環境の室温(周囲温度)を測定するために行う処理動作である。
図6は、本実施形態に係る体温計での気温測定機能による処理動作の手順の一具体例を示すフローチャートである。
【0077】
体温計1の動作モードが室温モードに設定されると、制御部50は、気温測定機能による処理動作を開始する。気温測定機能による処理動作では、まず、測定部51が、温度センサ32からの電気信号を受け取って、その電気信号の電圧値を読み取る(S301)。そして、測定部51は、受け取った電気信号の電圧値を温度値に変換することで、体温計1が置かれている環境の気温(すなわち室温)の測定結果を得る(S302)。
【0078】
室温の測定結果を得たら、測定部51は、その測定結果が適正気温であるか否かを判断し(S303)、適正気温でなければその旨のアラーム出力を例えば画面表示部12に行わせる(S304)。
【0079】
適正気温であれば、測定部51は、室温について正常に測定が行われたと判断する。そして、測定部51は、測定結果の温度値を、室温(すなわち体温計1の周囲温度)の測定結果として、画面表示部12に対して出力して、その画面表示部12に表示出力させる(S305)。これにより、体温計1を利用する測定行為者に対して、室温(周囲温度)の測定結果を報知することができる。
【0080】
その後、制御部50は、例えば測定行為者による測定スイッチ13の長押し操作があるか否かに応じて、上述した一連の気温測定機能による処理動作を終了するか否かを判断し(S306)、終了しない場合は測定待機状態に戻る。一方、終了する場合は、体温計1の電源をオフ状態にして(S307)、一連の気温測定機能による処理動作を終了する。なお、測定行為者による操作がなくても、測定終了後に測定待機状態が所定時間(例えば1分程度)以上続くと、制御部50は、体温計1の電源を自動的にオフ状態にする。
【0081】
(アクチュエータ部の振動態様)
上述した一連の処理動作において、報知部53は、体温計1の状態について、アクチュエータ部40の振動による報知を行う。報知対象となる体温計1の状態としては、例えば、(i)準備動作における振動報知のON設定、(ii)体温モードまたは物体モードでの測定開始のための測定スイッチ13の短押し操作(
図4のS102、
図5のS202)、(iii)体温モードでの温度測定可能状態である旨の判断(
図4のS109)、(iv)体温モードまたは物体モードでの測定結果出力(
図4のS118、
図5のS213)がある。また、これらに加えて、(i)´体温計1の電源投入時、その後の動作モードの選択決定時の少なくとも一方に応じて、アクチュエータ部40の振動による報知を行うようにしてもよい。
【0082】
つまり、報知部53は、上記(iii)の温度測定可能状態に加えて、上記(i)、(i)´、(ii)、(iv)の所定状態についても、アクチュエータ部40の振動による報知を行うようになっている。このような振動報知を行う際に、報知部53は、少なくとも、上記(iii)の温度測定可能状態である場合と、上記(i)、(i)´、(ii)、(iv)の所定状態の場合とで、異なる態様の振動により報知を行うことが好ましい。体温計1を持つ測定行為者が、その体温計1の状態の違いを把握し得るようにするためである。
【0083】
以下、アクチュエータ部40の振動態様について、具体例を挙げて説明する。
図7は、本実施形態に係る体温計の振動態様の一具体例を示す説明図である。
【0084】
例えば、上記(i)、(i)´、(ii)の場合については、スイッチ操作等が受け付けられたことを測定行為者が把握できれば十分である。そのため、上記(i)、(i)´、(ii)の場合に、報知部53は、比較的短い動作時間で継続しない態様の振動動作をアクチュエータ部40に行わせる。具体的には、報知部53は、例えば、200ミリ秒(mS)の長さの動作を1回だけ行うように、アクチュエータ部40に対して動作指示を与える。このような振動態様でアクチュエータ部40を動作させれば、上記(i)、(i)´、(ii)の状態であることを測定行為者に把握させつつ、アクチュエータ部40が必要以上に無駄な動作を行うことを抑制できる。
【0085】
また、例えば、上記(iii)の場合については、測定行為者に温度測定可能状態を維持させる必要がある。その一方で、測定行為者の行為の妨げとなったり測定行為者が煩わしく感じたりする態様の振動は回避すべきである。そのため、上記(iii)の場合に、報知部53は、振動と停止を繰り返す間欠的な態様で、かつ、それを温度測定可能状態である間は継続する態様の振動動作をアクチュエータ部40に行わせる。具体的には、報知部53は、例えば、200mSの長さでON、100mSの長さでOFFを繰り返す間欠動作を温度測定可能状態である間は連続して行うように、アクチュエータ部40に対して動作指示を与える。このような振動態様でアクチュエータ部40を動作させれば、振動動作の有無によって上記(iii)の状態であることを測定行為者に把握させることができ、しかも振動の停止期間を含む間欠動作によって測定行為者の行為の妨げとなったり測定行為者が煩わしく感じたりすることを抑制できる。
なお、温度測定可能状態についてのタイムアウト発生時(
図4のS108)には、例えば、200mSの長さでON、100mSの長さでOFFの間欠動作を4回繰り返し、これによりタイムアウトである旨の報知を行うようにしてもよい。
【0086】
また、例えば、上記(iv)の場合については、温度測定が完了して測定結果が得られたことを確実に測定行為者に伝える必要がある。そのため、上記(iv)の場合に、報知部53は、比較的長い動作時間で継続しない態様で、かつ、上記(iii)の場合とは異なる態様の振動動作をアクチュエータ部40に行わせる。具体的には、報知部53は、例えば、上記(i)、(i)´、(ii)の場合よりも長時間である400mSの長さの動作を1回だけ行うように、アクチュエータ部40に対して動作指示を与える。このような振動態様でアクチュエータ部40を動作させれば、上記(iii)の場合との態様の違いが明確(すなわち、間欠動作ではなく限られた時間内の連続動作)であり、しかも上記(i)、(i)´、(ii)の場合よりも長時間の動作を行うので、上記(iv)の状態であることを測定行為者に確実に把握させることが可能となる。
【0087】
<3.本実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下に述べる一つまたは複数の効果を奏する。
【0088】
(a)本実施形態では、温度測定可能状態であると判断部52が判断すると、そのことを報知部53がアクチュエータ部40の振動によって報知するようになっている。これにより、測定行為者は、温度測定可能状態にあること(例えば、体温測定のための適正距離に体温計1が位置しており、しかも正常な動作が保証される温度環境下にあること)を、視覚や聴覚等に頼らずに、体温計1を持つ手に伝わる振動によって認識することができる。したがって、騒音環境下での使用や夜間での使用等であっても、体温計1の適切な状態での使用を保証でき、これにより温度測定を精度良く行うことが可能となり、その結果として利用者(測定行為者および被測定者の双方)にとっての利便性が非常に優れたものとなる。つまり、本実施形態によれば、非接触型の体温計1について、どのような環境下でも適切な状態での使用が可能となり、これにより利用者にとっての利便性が優れ、しかも温度測定を高精度に行えるようになる。
【0089】
(b)本実施形態では、距離センサ33の検出結果が所定の距離範囲内であることを条件に、判断部52が温度測定可能状態であると判断するようになっている。これにより、非接触型の体温計1は検出距離を適切に保つことが温度測定を精度良く行う上で必要なところ、その検出距離について適切な状態での体温計1の使用が保証される。このことは、非接触型の体温計1にとっては非常に重要な事項である。つまり、本実施形態によれば、特に検出距離に関して適切な状態での使用を保証できるので、非接触型の体温計1を構成する上で非常に有用なものとなる。
【0090】
(c)本実施形態では、温度センサ32の検出結果が所定の温度範囲内であることを条件に判断部52が温度測定可能状態であると判断するようになっている。これにより、非接触型の体温計1の様々な環境下での使用が想定されるところ、その体温計1が置かれる環境の気温について適切な状態での体温計1の使用が保証される。つまり、本実施形態によれば、特に環境温度に関して適切な状態での使用を保証できるので、様々な環境下で使用され得る非接触型の体温計1を構成する上で非常に有用なものとなる。
【0091】
(d)本実施形態では、判断部52が温度測定可能状態であると判断したことに加えて、体温計1が所定状態であることについても、報知部53がアクチュエータ部40の振動によって報知するようになっている。具体的には、例えば、上記(iii)の場合のみならず、上記(i)、(i)´、(ii)、(iv)の状態についても、アクチュエータ部40の振動により報知する。これにより、測定行為者は、体温計1が所定状態であることについても、視覚や聴覚等に頼らずに、体温計1を持つ手に伝わる振動によって認識することができる。つまり、本実施形態によれば、騒音環境下での使用や夜間での使用等であっても、測定行為者が体温計1の状態を的確に把握できるようになり、利用者にとっての利便性を向上させる上で非常に有用なものとなる。
【0092】
(e)本実施形態では、少なくとも、上記(iii)の温度測定可能状態である場合と、上記(i)、(i)´、(ii)、(iv)の所定状態の場合とで、報知部53が異なる態様の振動により報知を行うようになっている。これにより、体温計1を持つ測定行為者が、その体温計1の状態の違いを把握し得るようになる。この点でも、利用者にとっての利便性を向上させる上で非常に有用なものとなる。
【0093】
(f)本実施形態では、報知部53がアクチュエータ部40の振動により報知を行う際に、上記(i)、(i)´、(ii)の場合については、比較的短い動作時間で継続しない態様の振動動作をアクチュエータ部40に行わせる。これにより、上記(i)、(i)´、(ii)の状態であることを測定行為者に把握させつつ、アクチュエータ部40が必要以上に無駄な動作を行うことを抑制できる。
【0094】
(g)本実施形態では、報知部53がアクチュエータ部40の振動により報知を行う際に、上記(iii)の場合については、振動と停止を繰り返す間欠的な態様で、かつ、それを温度測定可能状態である間は継続する態様の振動動作をアクチュエータ部40に行わせる。これにより、振動動作の有無によって上記(iii)の状態であることを測定行為者に把握させることができ、しかも振動の停止期間を含む間欠動作によって測定行為者の行為の妨げとなったり測定行為者が煩わしく感じたりすることを抑制できる。
【0095】
(h)本実施形態では、報知部53がアクチュエータ部40の振動により報知を行う際に、上記(iv)の場合については、比較的長い動作時間で継続しない態様で、かつ、上記(iii)の場合とは異なる態様の振動動作をアクチュエータ部40に行わせる。これにより、上記(iii)の場合との態様の違いが明確であり、しかも上記(iv)の状態であることを測定行為者に確実に把握させることが可能となる。
【0096】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0097】
本実施形態では、距離センサ33の検出結果が所定の距離範囲内であり、かつ、温度センサ32の検出結果が所定の温度範囲内であると、判断部52が温度測定可能状態であると判断する場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、温度測定可能状態は、距離センサ33の検出結果が所定の距離範囲内である状態、または、温度センサ32の検出結果が所定の温度範囲内である状態のいずれか一方であってもよい。また、全く他の条件を満たす場合であっても、赤外線センサ31、温度センサ32および測定部51が温度測定を行うことが可能な状態であれば、温度測定可能状態であると判断するようにしても構わない。
【0098】
本実施形態では、温度値、距離値、振動時間値等について具体例を挙げて説明している箇所があるが、これらの数値は単なる一具体例に過ぎず、特定の値に限定されるものではない。
【0099】
本実施形態では、体温計筐体10が棒状(スティック状)である場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはなく、赤外線を利用して非接触で測定を行うものであれば、他の形状に形成されたものであっても適用可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…体温計、10…体温計筐体、21…センサ基板、22…メイン基板、31…赤外線センサ、32…温度センサ、33…距離センサ、40…アクチュエータ部、50…制御部、51…測定部、52…判断部、53…報知部、60…通信モジュール
【手続補正書】
【提出日】2021-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象体である人体の額部からの赤外線を非接触で検出する赤外線センサと、
前記赤外線センサが検出した赤外線量に基づいて前記測定対象体の温度を求める測定部と、
前記額部との距離を検出する距離センサと、
前記赤外線センサが置かれた環境の気温を検出する温度センサと、
前記距離センサの検出結果が所定の距離範囲内であり、かつ、前記温度センサの検出結果が所定の温度範囲内であると、前記赤外線センサおよび前記測定部が温度測定可能状態であると判断する判断部と、
前記判断部が温度測定可能状態であると判断したことを振動により報知する報知部と、
を備える体温計。
【請求項2】
前記測定部が求めた温度値を出力する画像表示部を備え、
前記報知部は、前記画像表示部が前記温度値を出力することを振動により報知する
請求項1に記載の体温計。
【請求項3】
前記報知部は、前記温度測定可能状態の場合と前記画像表示部が前記温度値を出力した場合とで異なる態様の振動により報知する
請求項2に記載の体温計。
【請求項4】
前記報知部は、前記温度測定可能状態の場合に、振動と停止を繰り返す間欠的な態様で、かつ、それを前記温度測定可能状態である間は継続する態様の振動動作を行う
請求項3に記載の体温計。
【請求項5】
前記報知部は、前記画像表示部が前記温度値を出力した場合に、所定時間の長さの振動動作を1回だけ行う
請求項3または4に記載の体温計。
【手続補正書】
【提出日】2021-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象体の温度を前記測定対象体と非接触で測定する体温計であって、
前記測定対象体である人体の額部からの赤外線を非接触で検出する赤外線センサと、
前記赤外線センサが検出した赤外線量に基づいて前記測定対象体の温度を求める測定部と、
前記額部との距離を検出する距離センサと、
前記赤外線センサが置かれた環境の気温を検出する温度センサと、
前記距離センサの検出結果が所定の距離範囲内であり、かつ、前記温度センサの検出結果が所定の温度範囲内であると、前記赤外線センサおよび前記測定部が温度測定可能状態であると判断する判断部と、
前記判断部が温度測定可能状態であると判断したことを振動により報知する報知部と、
を備える体温計。
【請求項2】
前記測定部が求めた温度値を出力する画像表示部を備え、
前記報知部は、前記画像表示部が前記温度値を出力することを振動により報知する
請求項1に記載の体温計。
【請求項3】
前記報知部は、前記温度測定可能状態の場合と前記画像表示部が前記温度値を出力した場合とで異なる態様の振動により報知する
請求項2に記載の体温計。
【請求項4】
前記報知部は、前記温度測定可能状態の場合に、振動と停止を繰り返す間欠的な態様で、かつ、それを前記温度測定可能状態である間は継続する態様の振動動作を行う
請求項3に記載の体温計。
【請求項5】
前記報知部は、前記画像表示部が前記温度値を出力した場合に、所定時間の長さの振動動作を1回だけ行う
請求項3または4に記載の体温計。