(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099654
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】経皮送達のために液体を霧化し、噴射するためのシステム
(51)【国際特許分類】
B05B 7/30 20060101AFI20220628BHJP
B05B 17/00 20060101ALI20220628BHJP
A61M 5/30 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
B05B7/30
B05B17/00
A61M5/30 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020213550
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ウラム・パク
(72)【発明者】
【氏名】シャーヒド・ナスィール
(72)【発明者】
【氏名】チン・カイ・リー
【テーマコード(参考)】
4C066
4D074
4F033
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066CC05
4C066DD04
4C066DD13
4C066FF02
4C066KK16
4D074AA10
4D074BB06
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4F033QA10
4F033QB02Y
4F033QB03X
4F033QB12Y
4F033QB17
4F033QD04
4F033QD14
4F033QE09
4F033QF01X
4F033QF07Y
(57)【要約】 (修正有)
【課題】液体を霧化し、噴射するための新規なシステムを提供する。
【解決手段】システム(10)は、液体(L)を保持するタンク(100)と、通路(210)がオリフィスを介してタンクに接続され、通路が先細部分、末広部分、スロート部分を備えるベンチュリ管(200)と、出口穴(330)が先細部分の入口に接続されるシリンダー(300)と、シリンダー内に配置され、シリンダー内の空気取り入れ空間を画定し、この空間が出口穴を介して先細部分の入口と連通するピストン(400)と、空間の体積が増加する方向にピストンを変位させる駆動ユニット(500)と、ピストンの変位に従って変形し、弾性エネルギーを蓄える弾性部材(600)とを備える。駆動ユニットは、弾性部材の弾性エネルギーを解放し、空間の体積が減少する方向にピストンを突進させる解放機構(M)を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮送達のために液体(L)を霧化し、噴射するためのシステム(10)であって、
前記液体(L)を保持するためのタンク(100)と、
長手方向中心軸(X1)、および前記長手方向中心軸(X1)に沿って伸びる内部通路(210)を備えるベンチュリ管(200)であって、前記内部通路(210)が、前記ベンチュリ管(200)に画定されたオリフィス(220)を介して前記タンク(100)に流体的に接続され、前記内部通路(210)が、先細部分(230)、末広部分(240)、および前記先細部分(230)と前記末広部分(240)との間に位置するスロート部分(250)を備える、ベンチュリ管(200)と、
長手方向中心軸(X2)、および前記長手方向中心軸(X2)に直交する端壁(310)、前記長手方向中心軸(X2)に沿って前記端壁(310)から伸びる円周壁(320)、および前記端壁(310)に形成された出口穴(330)を備えるシリンダー(300)であって、前記出口穴(330)が、前記ベンチュリ管(200)の前記先細部分(230)の入口(232)に流体的に接続される、シリンダー(300)と、
前記シリンダー(300)内でそれの前記長手方向中心軸(X2)に沿って変位可能であるように前記シリンダー(300)内に配置されたピストン(400)であって、前記ピストン(400)が前記シリンダー(300)と協働して前記シリンダー(300)内の空気取り入れ空間(V)を画定し、前記空気取り入れ空間(V)が、前記シリンダー(300)の前記出口穴(330)を介して前記ベンチュリ管(200)の前記先細部分(230)の前記入口(232)と流体的に連通する、ピストン(400)と、
前記シリンダー(300)内の前記空気取り入れ空間(V)の体積が増加する方向に前記ピストン(400)を変位させるための駆動ユニット(500)と、
前記ピストン(400)が、前記空気取り入れ空間(V)の体積が増加する前記方向に変位している間、前記ピストン(400)の前記変位に従って変形し、そこに弾性エネルギーを蓄える弾性部材(600)と
を備え、
前記駆動ユニット(500)が、前記弾性部材(600)に蓄えられた前記弾性エネルギーを解放し、それによって前記空気取り入れ空間(V)の体積が減少する方向に前記ピストン(400)を突進させる弾性エネルギー解放機構(M)を備える、システム(10)。
【請求項2】
前記ピストン(400)が、長手方向中心軸(X3)と、前記シリンダー(300)の前記端壁(310)に面する端壁(410)と、前記長手方向中心軸(X3)に沿って前記端壁(410)から伸びる円周壁(420)とを備え、前記長手方向中心軸(X3)に沿って伸びるラック(430)が、前記ピストン(400)の前記円周壁(420)の外表面に形成され、前記駆動ユニット(500)が、前記ピストン(400)の前記ラック(430)とかみ合い、前記ピストン(400)を直線的に動かす、一定の角度範囲にのみ歯を有する扇形歯車(510)を備え、前記扇形歯車(510)と前記ラック(430)の組合せが、前記弾性エネルギー解放機構(M)を形成する、請求項1に記載のシステム(10)。
【請求項3】
前記駆動ユニット(500)が、電力供給部(520)と、前記電力供給部(520)に電気的に接続され、直接または間接的に前記扇形歯車(510)を回転させるように動かす電気モーター(530)とをさらに備える、請求項2に記載のシステム(10)。
【請求項4】
前記駆動ユニット(500)が、前記電気モーター(530)の出力軸(532)に結合されたピニオン(540)と、前記ピニオン(540)の回転運動を前記扇形歯車(510)に伝えてそれを回転させるように動かす1つまたは複数の歯車(550、560)とをさらに備える、請求項3に記載のシステム(10)。
【請求項5】
前記1つまたは複数の歯車(550、560)が、前記ピニオン(540)とかみ合うかさ歯車(550)と、前記かさ歯車(550)と前記扇形歯車(510)の両方とかみ合う平歯車(560)とを含む、請求項4に記載のシステム(10)。
【請求項6】
前記駆動ユニット(500)が、前記平歯車(560)とかみ合うラッチ(570)をさらに備え、前記ラッチ(570)が、前記平歯車(560)が一方向のみに回転するように、前記平歯車(560)の回転の方向を調整する、請求項5に記載のシステム(10)。
【請求項7】
前記シリンダー(300)の前記円周壁(320)が、前記ピストン(400)の前記ラック(430)の少なくとも一部を露出するための線形切欠き(340)を有して形成され、前記扇形歯車(510)が、前記シリンダー(300)の前記円周壁(320)の前記切欠き(340)によって前記ラック(430)とかみ合う、請求項2から6のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項8】
前記弾性部材(600)が、少なくとも部分的に前記ピストン(400)の内部に収納されたコイルばねである、請求項2から7のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項9】
前記弾性部材(600)で囲まれるように配置された細長いガイドロッド(700)をさらに備え、前記ピストン(400)が、前記空気取り入れ空間(V)の体積が増加する方向に変位されるとき、前記ガイドロッド(700)が、少なくとも部分的に前記ピストン(400)に入る、請求項8に記載のシステム(10)。
【請求項10】
前記タンク(100)が、前記ベンチュリ管(200)の前記スロート部分(250)に流体的に接続される、請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項11】
前記ベンチュリ管(200)の前記先細部分(230)の前記入口(232)および前記シリンダー(300)の前記出口穴(330)が、互いに位置合わせされるように、前記ベンチュリ管(200)が、前記シリンダー(300)に直接接続される、請求項1から10のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項12】
前記ベンチュリ管(200)の前記先細部分(230)の最大内径(D1)と、前記ベンチュリ管(200)の前記スロート部分(250)の内径(D3)と、前記ベンチュリ管(200)の前記末広部分(240)の最大内径(D2)の比が、前記先細部分(230)の最大内径(D1)を基準として、1:0.1~0.7:1~1.5である、請求項1から11のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項13】
前記液体(L)が、経皮的に送達される化粧液である、請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム(10)。
【請求項14】
霧化された液体の経皮送達のための装置(1)であって、
請求項1から13のいずれか一項に記載のシステム(10)と、
前記システム(10)を少なくとも部分的に収納するケーシング(20)と
を備える、装置(1)。
【請求項15】
経皮送達のために液体(L)を霧化し、噴射するための方法であって、
タンク(100)を前記液体(L)で満たすステップであって、前記タンク(100)が、ベンチュリ管(200)の内部通路(210)に、前記ベンチュリ管(200)に画定されたオリフィス(220)を介して流体的に接続され、前記ベンチュリ管(200)の前記内部通路(210)が、先細部分(230)、末広部分(240)、および前記先細部分(230)と前記末広部分(240)との間に位置するスロート部分(250)を備える、満たすステップと、
シリンダー(300)内のピストン(400)を、前記シリンダー(300)内の空気取り入れ空間(V)の体積が増加する方向に変位させるステップであって、前記空気取り入れ空間(V)が、前記ピストン(400)と前記シリンダー(300)の端壁(310)との間に画定され、前記シリンダー(300)の前記端壁(310)に形成された出口穴(330)が、前記ベンチュリ管(200)の前記先細部分(230)の入口(232)に流体的に接続される、変位させるステップと、
前記ピストン(400)が、前記空気取り入れ空間(V)の前記体積が増加する前記方向に変位されている間、前記ピストン(400)の前記変位に従って変形するように配置され、その中に弾性エネルギーを蓄える弾性部材(600)を変形させるステップと、
前記弾性部材(600)に蓄えられた前記弾性エネルギーを解放し、それによって前記ピストン(400)を、前記空気取り入れ空間(V)の前記体積が減少する方向に突進させるステップと、
前記ピストン(400)の突進で、前記シリンダー(300)の前記端壁(310)の前記出口穴(330)を通って前記シリンダー(300)から空気が押し出されることによって、前記ベンチュリ管(200)の前記内部通路(210)に前記タンク(100)から供給された前記液体(L)を霧化し、外に噴射するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮送達、詳細には浅い経皮送達のために、たとえば水、油、ローションなどの液体を霧化し、噴射するためのシステムに関する。本発明はまた、そのようなシステムを含む、液体の経皮送達のための装置に関する。本発明はさらに、経皮送達のために液体を霧化し、噴射するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸を含む液体ローションなどの化粧液は、一般的に浅い経皮送達(すなわち、浅い深度の経皮送達)により、顔、手、および腕など、使用者の体の特定の部分に塗布される。そのような液体のより効果的な経皮送達のために、液体をマイクロメートルオーダーの微細液滴に霧化すること、およびそれを使用者の体の所望の部分に噴射することまたは吹きかけることが望ましい。
【0003】
従来技術では、化粧液を霧化し、噴射するためのいくつかのデバイスが知られている。これらの従来のデバイスの大部分は、化粧液の霧化および噴射のために、高圧ガス(たとえば、二酸化炭素ガス)または圧縮空気を使用する。高圧ガスを使用するデバイスは、交換可能なガスカートリッジを必要とする。このガスカートリッジ方法は、デバイスが頻繁に使用される場合、ガスカートリッジがすぐに使い果たされ、したがってそれの頻繁な交換が必要とされるという欠点を有する。一方、圧縮空気を使用するデバイスは、圧縮空気の外部ソース、すなわち、外部空気圧縮機または外部エアポンプを必要とする。これは、デバイスを全体として大きくする。そのようなデバイスは、移動および運搬が困難であり、特に扱いやすいことに適していない。したがって、液体を霧化し、噴射するためのデバイスに改善の必要がある。
【0004】
本明細書で開示する技法に少なくともある程度関係する従来技術の例は、以下の通りである。特許文献1(マルイ)は、圧縮空気を発生させるための電動ばね-ピストン-歯車機構について説明している。特許文献2(Gold NanoTech Inc.)は、ある量の加圧空気の放出を制御する電磁弁を使用することによって液体を霧化するデバイスについて説明している。このデバイスでは、液体を霧化するために加圧空気がベンチュリ管を通過する。しかしながら、引用文献1は、固体ペレット/発射体を放出するためにモデルエアガンまたはエアピストルのための圧縮空気を発生させることを意図されているにすぎない。一方、引用文献2に開示されているデバイスは、単に外部から供給される加圧空気で動作するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平7-22635号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0099104号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に鑑みて、本発明の目的は、経皮送達のために液体(特に、高分子量を有する液体フォーミュラ)を霧化し、噴射するための新規のシステムおよび方法、ならびにそのようなシステムを含む、液体の経皮送達のための新規の装置を提供することである。
【0007】
詳細には、本発明の目的は、高圧ガスカートリッジなどの、交換可能な、すなわちシングルユース/使い捨ての動力源を必要とせず、したがって使用者の必要に応じて多数回液体を霧化し、噴射することができる、経皮送達のために液体を霧化し、噴射するための新規のシステムおよび装置を提供することである。さらに、本発明の目的は、空気圧縮機またはエアポンプなどの外部の供給源を必要としない、したがって全体としてコンパクトであり(すなわち、物理的フットプリントが小さい)、移動、運搬、および扱いが容易である、経皮送達のために液体を霧化し、噴射するための新規のシステムおよび装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記で説明するように経皮送達(詳細には、浅い経皮送達)のために液体を霧化し、噴射するためのシステムを提供する。すなわち、本発明によるシステムは、(i)液体を保持するためのタンクと、(ii)長手方向中心軸、およびこの長手方向中心軸に沿って伸びる内部通路を備えるベンチュリ管であって、内部通路がベンチュリ管に画定されたオリフィスを介してタンクに流体的に接続され、内部通路が、先細部分、末広部分、および先細部分と末広部分との間に位置するスロート部分を含む、ベンチュリ管と、(iii)長手方向中心軸、この長手方向中心軸に直交する端壁、同じ長手方向中心軸に沿って端壁から伸びる円周壁、および端壁に形成された出口穴を含むシリンダーであって、出口穴がベンチュリ管の先細部分の入口に流体的に接続された、シリンダーと、(iv)シリンダー内でそれの長手方向中心軸に沿って変位可能であるようにシリンダー内に配置されたピストンであって、ピストンが、シリンダーと協働してシリンダー内の空気取り入れ空間を画定し、空気取り入れ空間が、シリンダーの出口穴を介してベンチュリ管の先細部分の入口と流体的に連通する、ピストンと、(v)シリンダー内の空気取り入れ空間の体積が増加する方向にピストンを変位させるための駆動ユニットと、(vi)空気取り入れ空間の体積が増加する方向にピストンが変位されている間、ピストンの変位に従って変形し、その中に弾性エネルギーを蓄える弾性部材とを備える。本発明では、駆動ユニットは、弾性部材に蓄えられた弾性エネルギーを解放し、それによって空気取り入れ空間の体積が減少する方向にピストンを突進させる弾性エネルギー解放機構を備える。
【0009】
本発明はまた、霧化した液体の経皮(詳細には、浅い経皮)送達のための装置を提供し、この装置は、上記で説明したように経皮送達のために液体を霧化し、噴射するためのシステムと、システムを少なくとも部分的に収納するケーシングとを備える。
【0010】
本発明はさらに、経皮(詳細には、浅い経皮)送達のために液体を霧化し、噴射するための方法を提供する。この方法は、(i)タンクを液体で満たすステップであって、タンクが、ベンチュリ管の内部通路に、ベンチュリ管に画定されたオリフィスを介して流体的に接続され、ベンチュリ管の内部通路が、先細部分、末広部分、および先細部分と末広部分との間に位置するスロート部分を備える、満たすステップと、(ii)シリンダー内の空気取り入れ空間の体積が増加する方向にシリンダー内のピストンを変位させるステップであって、空気取り入れ空間が、ピストンと、シリンダーの端壁との間に画定され、シリンダーの端壁に形成された出口穴が、ベンチュリ管の先細部分の入口に流体的に接続される、変位させるステップと、(iii)空気取り入れ空間の体積が増加する方向にピストンが変位されている間、ピストンの変位に従って変形するように配置され、その中に弾性エネルギーを蓄える弾性部材を変形させるステップと、(iv)弾性部材に蓄えられた弾性エネルギーを解放し、それによって空気取り入れ空間の体積が減少する方向にピストンを突進させるステップと、(v)ピストンの突進で、シリンダーの端壁の出口穴を通ってシリンダーから空気が押し出されることによって、ベンチュリ管の内部通路にタンクから供給された液体を霧化し、外に噴射するステップとを含む。
【0011】
本発明によれば、システムは、主としてシリンダーと、ピストンと、弾性部材と、駆動ユニットとからなる圧縮空気源、ならびに流体タンクと流体連通しているベンチュリ管を含む。本発明では、駆動ユニットは、弾性部材の変形でシリンダー内のピストンを変位させ、それによって所定の空気量がシリンダーに取り込まれる。その後、弾性部材に蓄えられた弾性エネルギーを瞬時に解放することによって、ピストンはシリンダー内のそれの元の位置に押し戻され、シリンダー内の空気を圧縮する。結果として、高圧空気がシリンダーの出口穴から高速で吐き出され、ベンチュリ管の内部通路に導入される。高速の空気がベンチュリ管を通過するとき、それの内部の圧力が下がり、したがってタンク内の少量の液体が、ベンチュリ管の内部通路に取り込まれる。このようにして取り込まれた少量の液体が、高速空気の作用によってベンチュリ管の内部で霧化され、空気と一緒にベンチュリ管の外に噴射される。本発明によれば、このように、経皮送達、詳細には浅い経皮送達に適した、微細に霧化された液体のジェット、すなわち、高速度霧化液体粒子を提供することが可能である。当業者によってよく知られているように、高分子量を有する液体は、単に表面的な塗布では皮膚に効果的に浸透しない。本発明によれば、液体は十分に微細に砕かれるので、高分子量を有する液体でも皮膚に効果的に浸透することができる。本明細書では、浅い経皮送達とは、皮膚の上面表皮までの送達を意味する。
【0012】
さらに、本発明によるシステム、装置、および方法は、経皮送達のために液体を霧化し、噴射するために高圧ガスカートリッジなどの、交換可能な、すなわちシングルユース/使い捨ての原動力源を必要としない。したがって、本発明によるシステム、装置、および方法は、何度も繰り返して液体を霧化し、噴射することができる。これに加えて、本発明によるシステム、装置、および方法は、空気圧縮機またはエアポンプなどの外部ソースを必要としない。すなわち、液体を霧化し、放出するための高速の空気ジェットを、内部で作り出すことができる。したがって、システムおよび装置は、手で持てるほど全体としてコンパクトであることが可能であり、移動、運搬、および扱いが容易である。
【0013】
本発明の好ましい一態様によれば、ピストンは、長手方向中心軸と、シリンダーの端壁に面する端壁と、長手方向中心軸に沿って端壁から伸びる円周壁とを備えてもよい。この態様では、ピストンの円周壁の外表面に、長手方向中心軸に沿って伸びるラックが形成されてもよい。また、この態様では、駆動ユニットは、一定の角度範囲にのみ歯を有する扇形歯車を備えてもよく、扇形歯車は、ピストンのラックとかみ合い、ピストンを直線的に動かす。さらに、この態様では、扇形歯車とラックの組合せは、弾性エネルギー解放機構を形成し得る。この態様によれば、弾性部材に蓄えられた弾性エネルギーを解放するための機構は、特に単純かつロバストにされ得る。しかしながら、弾性部材に蓄えられた弾性エネルギーを解放するために機械的、電気的、電磁気的、または流体的に動作する他の機構/手段が、適宜に採用されてもよい。
【0014】
本発明の好ましい一態様によれば、駆動ユニットが扇形歯車を備える場合には、駆動ユニットは、電力供給部と、電力供給部に電気的に接続され、直接または間接的に扇形歯車を回転させるように動かす電力モーターとをさらに備えてもよい。この態様によれば、駆動ユニットは、特に動作が容易である。
【0015】
本発明の好ましい一態様によれば、駆動ユニットが電気モーターを備える場合には、駆動ユニットは、電気モーターの出力軸に結合されたピニオンと、ピニオンの回転運動を扇形歯車に伝えて、扇形歯車を回転させるように動かす1つまたは複数の歯車とをさらに備えてもよい。詳細には、1つまたは複数の歯車は、ピニオンとかみ合うかさ歯車と、かさ歯車と扇形歯車の両方とかみ合う平歯車とを備えてもよい。この態様によれば、システムはできる限りコンパクトにされ得るように、モーターの出力軸および扇形歯車の回転軸は、互いに直交するように配置することができる。これに加えて、歯車のそのような組合せの使用は、システムを含む装置の所望の全体形状に応じて、電気モーターを適切に配置するのに役立つ。
【0016】
本発明の好ましい一態様によれば、駆動ユニットがかさ歯車および平歯車を備える場合には、駆動ユニットは、平歯車とかみ合うラッチをさらに備えてもよく、ラッチは、平歯車が一方向のみに回転するように、平歯車の回転の方向を調整する。この態様によれば、ラッチは、平歯車の逆回転を防ぐことができ、したがって変形した弾性部材の復元力によりピストンが戻ることを防ぐことができる。結果として、扇形歯車がピストンのラックから外れるそれの最終位置まで回転する前に(すなわち、弾性部材が十分な弾性エネルギーを蓄える前に)、ピストンが非意図的に、シリンダーに取り込まれた空気を発射するように動作することを防ぐことが可能である。
【0017】
本発明の好ましい一態様によれば、駆動ユニットが扇形歯車を備える場合には、シリンダーの円周壁は、ピストンのラックの少なくとも一部を露出するための線形切欠きを有して形成されてもよく、扇形歯車は、シリンダーの円周壁の切欠きによってラックとかみ合ってもよい。この態様によれば、システムは、シリンダーの円周壁にピストンのラックの少なくとも一部を露出するための切欠きがない場合と比較して、ピストンの変位方向に関してよりコンパクトにされ得る。
【0018】
本発明の好ましい一態様によれば、ピストンが、シリンダーの端壁に面する端壁と、それの端壁から伸びる円周壁とを備える場合には、弾性部材は、少なくとも部分的にピストンの内部に収納されたコイルばねであってもよい。この方法でもまた、システムは、ピストンの変位方向に関してコンパクトにされ得る。さらに、本発明の好ましい一態様によれば、システムは、コイルばねなどの弾性部材で囲まれるように配置された細長いガイドロッドをさらに備えてもよい。この場合、ガイドロッドは、空気取り入れ空間の体積が増加する方向にピストンが変位されるとき、少なくとも部分的にピストンに入ってもよい。この態様によれば、ピストンの変位方向に関してシステムをコンパクトにしながら、ピストンが変位されるとき、弾性部材、すなわちコイルばねが確実に圧縮されることが可能である。
【0019】
本発明の好ましい一態様によれば、タンクは、ベンチュリ管のスロート部分に、詳細にはベンチュリ管に画定されたオリフィスを介して、流体的に接続されてもよい。この態様によれば、特に効率的な液体霧化が可能である。また、本発明の好ましい一態様によれば、ベンチュリ管の先細部分の入口とシリンダーの出口穴が互いに位置合わせされるように、ベンチュリ管は、直接シリンダーに接続されてもよい。この態様によれば、ベンチュリ管の先細部分の入口とシリンダーの出口穴が、たとえば別個のパイプラインまたは別個の導管路で接続された場合と比較して、霧化された液体の特に効率的な噴射が可能である。
【0020】
本発明の好ましい一態様によれば、ベンチュリ管の先細部分の最大内径と、ベンチュリ管のスロート部分の内径と、ベンチュリ管の末広部分の最大内径の比は、先細部分の最大内径を基準として、1:0.1~0.7:1~1.5であってもよい。この態様によれば、霧化された液体の特に十分な噴射レートおよび噴射量が実現され得る。
【0021】
本発明の好ましい一態様によれば、液体は、経皮的に、詳細には浅い経皮的に、送達される化粧液であってもよい。しかしながら、本発明によれば、化粧液を含む様々な液体が霧化され、噴射され得る。本発明のための好適な液体は、たとえば、1×10-4Pa・s~200Pa・sの粘度、より好ましくは70Pa・s未満の粘度を有する。
【0022】
ここで、本発明の非限定的で代表的な実施形態について、添付の図面を参照して以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態による霧化された液体の浅い経皮送達のための装置の概略ブロック図である。
【
図2】
図1に示した装置に組み込まれることになる、浅い経皮送達のために液体を霧化し、噴射するためのシステムの、その構成要素であるベンチュリ管、ピストン、およびシリンダーの断面が示されている概略図である。
【
図3】
図2に示したシステムの構成要素であるタンクおよびベンチュリ管の拡大断面図である。
【
図4】
図2に示したシステムの駆動ユニットの駆動力伝達機構を形成する様々な歯車を分解した状態で示す斜視図である。
【
図5】駆動ユニットによってピストンが遠位に(すなわち、図では左側に)変位した状態を示す、浅い経皮送達のために液体を霧化し、噴射するためのシステムの
図2と同様の概略図である。
【
図6】駆動ユニットによってピストンがそれの最終位置まで遠位に変位した、浅い経皮送達のために液体を霧化し、噴射するためのシステムの
図2と同様の概略図である。
【
図7】コイルばねに蓄えられた弾性エネルギーが解放され、ピストンが近位に(すなわち、図では右側に)押し戻されている、浅い経皮送達のために液体を霧化し、噴射するためのシステムの
図2と同様の概略図である。
【
図8】ピストンがシリンダーの端壁と衝突し、シリンダーから押し出された高速の空気がベンチュリ管の出口から液体のミストを放出させる、浅い経皮送達のために液体を霧化し、噴射するためのシステムの
図2と同様の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、
図1~
図8を参照しながら、本発明のいくつかの例示的な実施形態について説明する。各図では、各要素の幅、長さ、高さ、直径などの縮尺比率は一定ではない場合があり、実際のものとは異なる場合がある。いくつかの図では、いくつかの要素または特徴が、強調のために実際よりも大きくまたは小さく描かれていることに留意されたい。
【0025】
本明細書で使用する「上」、「下」、「上に」、「下に」、「上方」、「下方」、「上部」、「下部」、「右」、「左」などの方向に関係する用語は、図中のシステムおよび装置の向きに関係して理解されるべきであり、その向きは使用時の実際の向きに一致するまたは一致しない場合がある。さらに、当業者には明らかであるように、本明細書では、「遠位の」または「遠位に」という用語は、霧化された液体を噴射または放出するベンチュリ管から離れた方向を意味する。一方、「近位の」または「近位に」という用語は、ベンチュリ管により近い方向を意味する。
【0026】
図1は、本発明の例示的な実施形態である、霧化された液体の浅い経皮送達のための装置を概略的に示す。全体的に参照番号1で示されるこの装置は、主として、全体的に参照番号10で示される、(以下で詳細に説明する)経皮送達のために液体を霧化し、噴射するためのシステムと、システム10をその中に収納するケーシング20とを備える。ケーシング20は、単にシステム10の少なくとも一部を収納する場合があるが、図示の実施形態では、ケーシング20は、(霧化した液体を放出するためのベンチュリ管の出口を除いて)システム10全体をほぼ囲んでいる。装置1が霧化および噴射の標的とする液体は、詳細には、経皮的に送達されるヒアルロン酸を含む液体ローションなどの化粧液である。しかしながら、装置1およびシステム10は、水、油、様々なローションなどの霧化および噴射のために使用され得る。
【0027】
図1に加えて、
図2からより良くわかるように、システム10は、一定量の液体L、たとえば数ミリリットルから数百ミリリットルの液体Lを保持するためのタンク100を備える。タンク100は、内容物および/または内容物の量が外側から見えるように、好ましくはたとえば透明プラスチックまたはガラスで作られる。タンク100を作るために、半透明または不透明材料を使用することができる。システム10はまた、ベンチュリ管200と、ベンチュリ管200に隣接して配列されたシリンダー300と、シリンダー300内にスライド可能に配置されたピストン400とを備える。ベンチュリ管200は、十分な剛性を有するプラスチック材料、たとえばアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)などから形成することができる。シリンダー300およびピストン400もまた、同じ材料から形成することができる。代わりに、シリンダー300およびピストン400の両方は、好適な金属(または金属合金)材料から作られてもよい。
【0028】
図1および
図2をさらに参照すると、システム10は加えて、ピストン400と動作可能に(すなわち機械的に)関連付けられた駆動ユニット500と、同じくピストン400と機械的に関連付けられた弾性部材600(この実施形態ではコイルばね)と、コイルばね600で囲まれるように配置された細長いガイドロッド700とを備える。
【0029】
詳細には、
図1に示すように、駆動ユニット500は、主として歯車群500aと、以下で詳細に説明する動力源アセンブリ500bとを含む。この実施形態では、動力源アセンブリ500bは、バッテリー(電力供給部)520と、電気モーター530と、それらの間に置かれたスイッチ580とを含む。バッテリー520およびスイッチ580は、便宜上、
図1以外の図には示していないことに留意されたい。
【0030】
上述のように、またタンク100およびベンチュリ管200の断面図を示す
図3により詳細に示すように、システム10は、液体Lを保持するためのタンク100を備える。この実施形態では、タンク100は、ねじで留めることによってベンチュリ管200に液密にして、着脱可能に接続される。タンク100は、それの開口側にフランジ110を有する。ベンチュリ管200もまた、タンク100のフランジ110に対応するフランジ260を有する。タンク100は、それのフランジ110がベンチュリ管200のフランジ260と接触した状態でベンチュリ管200の上に置かれる。重力の作用が、システム10が動作する間のベンチュリ管200への液体Lの供給を容易にするので、この配置は特に好ましい。しかしながら、ベンチュリ管200に対するタンク100の向きは、この例示的な実施形態に限定されず、必要に応じて適切に変えることができる。
【0031】
図3をさらに参照すると、ベンチュリ管200は、長手方向中心軸X
1と、長手方向中心軸X
1に沿って連続的に伸びる内部通路210とを備える。内部通路210は、ベンチュリ管200に画定されたオリフィス220を介してタンク100に流体的に接続される。
図3に示すように、内部通路210は、先細部分230と、末広部分240と、スロート部分250とを備え、これらは長手方向中心軸X
1に沿って連続的に接続される。スロート部分250は、先細部分230と末広部分240との間に位置している。タンク100は詳細には、上記で説明したように、オリフィス220を介してベンチュリ管200のスロート部分250に流体的に接続される。オリフィス220の内径は、ベンチュリ管200内の圧力が大気圧に等しいとき、液体Lが、液体Lの粘度のためにベンチュリ管200に自然に落ちないようなものである。
【0032】
先細部分230は、それの2つの端部の各々に置かれた入口232と、出口234とを有する。スロート部分250もまた、それの2つの端部の各々に置かれた入口252と、出口254とを有する。さらに、末広部分240は、それの2つの端部の各々に置かれた入口242と、出口244とを有する。先細部分230の出口234およびスロート部分250の入口252は、滑らかにかつ連続的に互いと接続する。同様に、スロート部分250の出口254および末広部分240の入口242は、滑らかにかつ連続的に互いと接続する。
【0033】
この実施形態では、スロート部分250の内径D3は一定である。先細部分230の出口234の内径(最小内径)D4は、スロート部分250の内径D3と同じであり、末広部分240の入口242の内径(最小内径)D5もまた、スロート部分250の内径D3と同じである。先細部分230の内径は、スロート部分250に向かって単調に(線形的に)減少し、末広部分240の内径は、スロート部分250から離れて単調に(線形的に)増加する。しかしながら、先細部分230および末広部分240の内径は、それぞれ曲線的に減少および増加してもよい。
【0034】
また、この実施形態では、先細部分230の最大内径D1(すなわち入口232の内径)と、スロート部分250の内径D3と、末広部分240の最大内径D2(すなわち出口244の内径)の比、すなわちD1:D3:D2は、1:0.1~0.7:1~1.5である。これは、先細部分230の最大内径D1に基づいている。しかしながら、この比は、一例にすぎず、必要に応じて様々な他の比を採用することができる。
【0035】
ここで
図2を参照すると、システム1の1つの構成要素であるシリンダー300は、長手方向中心軸X
2と、ベンチュリ管200に面し、長手方向中心軸X
2に直交する端(近位端)壁310と、長手方向中心軸X
2に沿って端壁310から伸びる円周壁320とを備える。すなわち、シリンダー300は、一方の端部が開いている中空本体である。図示されていないが、これに限定されず、シリンダー300は、システム10のフレーム(たとえば、装置1のサブケース(図示せず))によって固定して支持される。シリンダー300は、それの端壁310に形成された出口穴330をさらに備える。出口穴330は、ベンチュリ管200の先細部分230の入口232に流体的に接続される。この実施形態では、ベンチュリ管200の先細部分230の入口232およびシリンダー300の出口穴330が、互いに位置合わせされるように、ベンチュリ管200は、シリンダー300に直接接続される。しかしながら、必要な場合、先細部分230の入口232およびシリンダー300の出口穴330が、パイプラインまたは導管路を介して接続される構成を採用することも可能である。
【0036】
シリンダー300内では、システム1の1つの構成要素であるピストン400は、シリンダー300の長手方向中心軸X
2に沿って滑らかに変位可能であるように配置される。ピストン400は、長手方向中心軸X
3と、シリンダー300の端壁310に面する端(近位端)壁410と、長手方向中心軸X
3に沿って端壁410から伸びる円周壁420とを備える。さらに、ピストン400は、長手方向中心軸X
3に沿って伸びるラック430を備える。ラック430は、ピストン400の円周壁420の外表面に、詳細には円周壁420の遠位端側のほぼ半分の領域に、一体的に形成される。
図2には示していないが、ピストン400は、シリンダー300内にシリンダー300と協働して空気取り入れ空間Vを画定する(
図5、
図6、および
図7参照)。空気取り入れ空間Vは、シリンダー300の出口穴330を介してベンチュリ管200の先細部分230の入口232と流体的に連通する。
【0037】
ピストン400は、たとえば、エラストマー材料で作られたOリング(パッキング)440をさらに備える。Oリング440は、ピストン400の端壁410に形成された円形の溝450にはめ込まれる。Oリング440は、ピストン400とシリンダー300の内表面との間の気密性を維持する働きをする。この実施形態では、ピストン400の断面は、Oリング440が位置しているピストン400の端壁部分では完全な円である。しかしながら、円周壁部分では、ピストン400の断面は、円の一部がそれの直径に平行な直線に沿って切り取られた部分的な円である。これは、上記で説明したようにラック430を配置するために、ピストンの外周面に平坦な面を確保するためである。当然、別の実施形態では、ピストン400の円周壁部分の断面として他の形状が採用されてもよい。図示していないが、この実施形態では、システム10は、ピストン400がシリンダー300に対して回転するのを防ぐための機構または機能をさらに含む。
【0038】
図2に示す状態、すなわち、シリンダー300の端壁310およびピストン400の端壁410が互いに接触している状態では、ピストン400の遠位端は、シリンダー300の遠位端からやや突出する。言い換えれば、長手方向中心軸X
3に沿ったピストン400の長さは、長手方向中心軸X
2に沿ったシリンダー300の円周壁320の長さよりもやや大きい。したがって、
図2に示す状態では、ピストン400の外周面に一体的に形成されたラック430の一部が、シリンダー400の遠位端から突出する。この実施形態では、シリンダー300の円周壁320は、ピストン400のラック430の少なくとも一部を露出するための線形切欠き340を有して形成される。以下で詳細に説明するように、駆動ユニット500の扇形歯車510が、シリンダー300の円周壁320のこの切欠き340によってラック430とかみ合う。
【0039】
上述のように、システム10は、互いに機械的に関連付けられた駆動ユニット500および弾性部材600を備える。駆動ユニット500は、ピストン400を遠位に、すなわちシリンダー300内の空気取り入れ空間Vの体積が増加する方向に変位させることができる。一方、ピストン400が遠位に、すなわち空気取り入れ空間Vの体積が増加する方向に変位している間、弾性部材600は、ピストン400の変位に従って変形するように配置され、そこに弾性エネルギー(機械的ポテンシャルエネルギー)を蓄える。したがって、この実施形態のシステム10は、「ばね荷重システム」と呼ぶことができる。この実施形態では、上述のように、弾性部材600はコイルばねであり、コイルばねは、少なくとも一部、たとえば約半分は中空ピストン400の内部に収納される。
【0040】
駆動ユニット500は、弾性エネルギー解放機構Mをさらに備える。この実施形態では、弾性エネルギー解放機構Mは、弾性部材600に蓄えられた弾性エネルギーを、規則的な間隔で解放し、それによってピストン400を近位に、すなわち空気取り入れ空間Vの体積が減少する方向に、突進(ダッシュ)させるように構成される。より詳細には、駆動ユニット500は、たとえば90°~300°などの一定の角度範囲にのみ歯を有する扇形歯車510を備える。扇形歯車510は、ピストン400のラック430とかみ合うように構成され、ピストン400を一方向に(すなわち図では左側に)直線的に動かす。この実施形態では、扇形歯車510とラック430の組合せは、蓄えられた弾性エネルギーを規則的な間隔で解放するための弾性エネルギー解放機構Mを形成する。すなわち、扇形歯車510の最後の歯がラック430の最後の歯から外れる瞬間に、ピストン400の拘束が解放され、したがって弾性部材600に蓄えられた弾性エネルギーもまた瞬時に解放される。しかしながら、別の実施形態では、別のタイプの弾性エネルギー解放機構が採用されてもよく、望まれるときのみに、弾性部材600に蓄えられた弾性エネルギーを解放するように構成されてもよい。
【0041】
すでに説明したように、駆動ユニット500は、電力供給部520、たとえばリチウムイオンバッテリーなどの充電式バッテリーを備える。また、上記で説明したように、駆動ユニット500は、電力供給部520に電気的に接続された電気モーター530を備え、間接的に(すなわち、動力伝達のための歯車列を介して)、扇形歯車510を回転させるように動かす。電力供給部520、電気モーター530、およびそれらの間に置かれたスイッチ580は、上記で説明したように駆動ユニット500の動力源アセンブリ500bを構成する。この実施形態では、扇形歯車510は、一方向、すなわち
図2では反時計回りのみに、歯車群500aを介して電気モーター530によって回転する。別の実施形態では、扇形歯車510は、電気モーター530によって直接動かされてもよい。しかしながら、この場合、大きいトルク、したがって大きいサイズを有するモーターが必要とされるので、本明細書で説明するように、歯車列からなる好適な減速機構を介して扇形歯車510を動かすことが望ましい。
【0042】
ここで
図4を参照して、駆動ユニット500の減速機構を構成する歯車列、すなわち上述のような駆動ユニット500の歯車群500aについて説明する。駆動ユニット500の歯車群500aは、電気モーター530の出力軸532に固定して結合された(かさ歯車タイプの)ピニオン540を含む。さらに、駆動ユニット500の歯車群500aは、扇形歯車510を回転させるように動かすために、ピニオン540の回転運動を扇形歯車510に伝える2種類の歯車550、560を含む。この実施形態では、これらの歯車550、560ならびに扇形歯車510は、システム10(すなわち装置1のサブケース)のフレーム(図示せず)によって回転可能に支持される。電気モーター530はシステム10のフレーム(図示せず)によって固定して支持されるので、ピニオン540もまた、システム10のフレーム(図示せず)によって回転可能に支持される。別の実施形態では、歯車510、550、および560は、装置1のケーシング20自体によって回転可能に支持されてもよい。
【0043】
図4をさらに参照すると、ピニオン540とかみ合う歯車550は、かさ歯車である。一方、かさ歯車550と扇形歯車510の両方とかみ合う歯車560は、平歯車である。ここで、平歯車560は、中間歯車として機能する。この実施形態では、扇形歯車510とかさ歯車550の両方が、2つのタイプの歯車装置部分(gearing portion)が回転軸の方向に沿って積み重ねられた構造を有する。扇形歯車510は、それの歯底円に沿った一定の角度範囲にのみ歯を有する第1の部分512を備える。さらに、扇形歯車510は、この第1の部分512に一体的に結合された第2の部分514を備える。扇形歯車510の第2の部分514、すなわち平歯車部分は、それの歯底円の円周全体に沿って歯を備える。第2の部分514の歯先円の直径は、第1の部分512の歯先円の直径よりも小さい。
【0044】
かさ歯車550もまた、円錐面に円周方向に配置された歯の列を含む第1の部分552と、この第1の部分552に一体的に結合され、第1の部分552の最小直径よりも小さい直径の平歯車からなる第2の部分554とを備える。電気モーター530の出力軸532に固定して取り付けられたピニオン540は、かさ歯車550の第1の部分552とかみ合い、かさ歯車550と一体的に回転するかさ歯車550の第2の部分554は、平歯車560とかみ合う。さらに、平歯車560は、扇形歯車510の第2の部分514とかみ合う。結果として、ピニオン540の高速回転が、扇形歯車510を所定の低速度で、たとえば毎秒数回転で回転させる。ピストン400は、扇形歯車510の回転がこのように生じることによって、規則的な間隔で遠位方向に変位される。この実施形態では、ピストン400のラック430の歯の数は、扇形歯車510の第1の部分512の歯の数にほぼ等しいが、本発明はそれに限定されない。
【0045】
ここで、再び
図2を参照すると、駆動ユニット500は、平歯車560とかみ合うラッチ570をさらに備える。ラッチ570は、平歯車560が一方向(すなわち
図2では時計回り)のみに回転するように、平歯車560の回転の方向を調整するように配置される。別の実施形態では、ラッチ570を平歯車560以外のいずれか他の歯車とかみ合わせることも考えられる。ラッチ570は、このシステム10では必須の構成要素ではない。
【0046】
図2をさらに参照すると、システム10は、コイルばね600によって囲まれるように配置される、細長いばねガイドロッド700をさらに備える。この実施形態では、ガイドロッド700のベース端部710は、システム10(すなわち装置1のサブケース)のフレーム(図示せず)によって支持される。別の実施形態では、ばねガイドロッド700は、装置1のケーシング20自体によって支持されてもよい。ばねガイドロッド700は、ピストン400が遠位に、すなわち空気取り入れ空間Vの体積が増加する方向に変位されているとき、少なくとも部分的にピストン400に入るように配置される。
【0047】
以下では、上記で説明したように構成された、液体を霧化し、噴射するためのシステム10の動作、したがって経皮送達のために液体を霧化し、噴射するための方法について、
図2、
図5~
図8を参照して説明する(最初にタンク100は空であると仮定する)。
【0048】
液体の霧化および噴射の前に、タンク100は液体Lを満たされる。このプロセスは、タンク100をベンチュリ管200から取り外して行うことができる。次に、システム10、したがって装置1をひっくり返して、タンク100はベンチュリ管200にねじ込まれ、それらを互いに接続する。システム10、したがって装置1は、次いで、タンク100がベンチュリ管200の上に位置する通常の使用位置に戻される。このプロセスの結果として、タンク100は、ベンチュリ管200に画定されたオリフィス220を介してベンチュリ管200の内部通路210に流体的に接続される。これにより、液体を霧化し、放出するための準備が完了する(
図2参照)。開閉式の蓋が付いたタンク(この場合、蓋はタンク100のフランジ110の向かい側に設けられる)が使用される場合、タンク100は、ベンチュリ管200から取り外すことなく液体で満たすことができる。
【0049】
次に、ピストン400は、シリンダー300内で遠位に、すなわちシリンダー300内に画定された空気取り入れ空間Vの体積が増加する方向に変位される。このプロセスは、スイッチ580をオンにすることによって自動的に行われる。すなわち、上記で説明したように、スイッチ580がオンにされるとき、電気モーター530は回転し、それの回転力が、歯車550、560からなる歯車列を介して扇形歯車510に伝えられる。扇形歯車510はピストン400のラック430とかみ合うので、扇形歯車510の回転は、上記で説明したように、ピストン400を遠位に変位させる。
図5は、ピストン400が駆動ユニット500によって遠位方向に短い距離だけ変位されている状態を示す。
【0050】
ピストン400が、空気取り入れ空間Vの体積が増加する方向に変位されている間、弾性部材600、すなわちコイルばねは、同時に、徐々に変形する。上述のように、弾性部材600は、ピストン400の変位に従って直線的に変形するように配置される。したがって、このプロセス中、弾性部材600は、その中に弾性エネルギーを蓄える。
図6は、ピストン400がそれの最終位置まで、駆動ユニット500によって遠位方向に変位された状態を示す。この状態は、扇形歯車510の歯列中の(回転の方向から見た)最後の歯とラック430の(変位の方向から見た)最後の歯が外れる直前であり、コイルばね600に蓄えられた弾性エネルギーは最大化される。
【0051】
扇形歯車510が
図6に示す状態からわずかな角度だけさらに回転するとき、扇形歯車510およびラック430、より詳細には扇形歯車510の最後の歯およびラック430の最後の歯は外れる。結果として、ピストン400は、今では自由に動くことができる。したがって、弾性部材600に蓄えられた弾性エネルギーは、瞬時に解放され、それによってピストン400を近位に、すなわち空気取り入れ空間Vの体積が減少する方向に突進させる。
図7は、ピストン400がシリンダー300内で短い距離だけ近位に押し出されている状態を示す。
【0052】
図7に示す状況では、シリンダー300内の空気取り入れ空間Vに存在している空気は、ピストン400によって圧縮され、シリンダー300の出口穴330からベンチュリ管200に高速で移動する。空気がベンチュリ管200を通って進むとき、空気の流速は、特にそれのスロート部分250において増加する。結果として、スロート部分250の圧力は下がって、タンク100内の少量の液体Lが、ベンチュリ管200のオリフィス220を通して通路210に引き込まれる。この少量の液体Lは、ピストン400によってシリンダー300から押し出され、高速で移動する空気によってベンチュリ管200の内部で霧化され、ベンチュリ管200の出口244を通って外に放出される。
図8は、ピストン400がシリンダー300の端壁310と衝突し、シリンダー300から押し出された高速の空気が、ベンチュリ管200の出口からの液体Lのミストの放出を引き起こす状態を示す。
【0053】
この実施形態では、スイッチ580がオフにされない限り、電気モーター530は回転し続け、したがって扇形歯車510もまた回転し続ける。したがって、
図8に示す状態に達した直後に、扇形歯車510はピストン400のラック430と再びかみ合う。結果として、システム10は、
図2に示す最初の状態に戻る。したがって、スイッチ580がオンである間、システム10はタンク100内の液体Lを(扇形歯車510の回転速度に対応する間隔で)間欠的に霧化し、それを霧化された液体粒子としてベンチュリ管200を通して外に放出する。
【0054】
上述のように、システム10、したがって装置1は、主としてシリンダー300と、ピストン400と、弾性部材600と、駆動ユニット500とからなる圧縮空気源、ならびに流体タンク100と流体連通しているベンチュリ管200を含む。駆動ユニット500は、弾性部材600の変形でシリンダー300内のピストン400を変位させ、それによって所定量の空気がシリンダー300に取り込まれる。その後、弾性部材600に蓄えられた弾性エネルギーを解放することによって、ピストン400はシリンダー300内のそれの元の位置に押し戻され、シリンダー300内の空気を圧縮する。結果として、高圧空気がシリンダー300の出口穴330から高速で吐き出され、ベンチュリ管200の内部通路210に供給される。高速の空気がベンチュリ管200、詳細にはスロート部分250(すなわち狭窄部)を通過するとき、それの内部の圧力が下がり、したがってタンク100内の少量の液体Lが、ベンチュリ管200の内部通路210に取り込まれる。このように取り込まれた少量の液体Lは、高速の空気の作用によってベンチュリ管200の内部で霧化され、空気と一緒にベンチュリ管200から噴射される。このようにして、皮膚の上面表皮層までの浅い経皮送達に適した、微細に霧化された液体、すなわち高速度霧化液体粒子(極めて微細サイズの液滴)のジェットを提供することが可能である。
【0055】
さらに、システム10、したがって装置1は、経皮送達のために液体を霧化し、噴射するために高圧ガスカートリッジなどの、交換可能な、すなわちシングルユース/使い捨ての原動力源を必要としない。それゆえ、システム10、したがって装置1は、何度も繰り返して液体Lを霧化し、噴射することができる。これに加えて、システム10、したがって装置1は、空気圧縮機またはエアポンプなどの外部ソースを必要としない。すなわち、液体を霧化し、放出するための高速の空気ジェットが、内部で作り出される。それゆえ、システム10、したがって装置1は、全体としてコンパクトであり、移動、運搬、および携行が容易であり得る。
【0056】
上記で説明した実施形態によるシステムの一例の特定のデータを以下に記載する。しかしながら、本発明はこの値に限定されない。
- シリンダーの内径: 10~30mm、
- 弾性部材のばね定数: 20~70N/m、
- 弾性部材の自然長: 10~30cm、
- 弾性部材の外径: 5~15mm、
- シリンダーの出口穴の直径: 1~10mm、詳細には5mm、
- ベンチュリ管の先細部分の最大内径: 1~10mm、詳細には5mm、
- ベンチュリ管の末広部分の最大内径: ベンチュリ管の先細部分の最大内径が5mmであるとき7mm、
- ベンチュリ管のスロート部分の内径: ベンチュリ管の先細部分の最大内径が5mmであるとき3.4mm、
- ベンチュリ管のオリフィスの内径: ベンチュリ管の先細部分の最大内径が5mmであるとき0.6~1.2mm、詳細には0.6mm、
- シリンダー内で圧縮される空気の最大圧力: 0.55MPa、
- 霧化液体液滴のサイズ:10μm未満、
- ベンチュリ管の出口における霧化液体液滴の速度:液体の分子量にかかわらず少なくとも150m/s、
- 送達することができる液体の量: 20ml/送達(ショット)、
- 液体送達(ショット)の最大頻度:毎秒2回。
【0057】
本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して詳細に上記で説明した。しかしながら、本発明は、これらの実施形態に限定されず、本発明の範囲から逸脱することなく、上記で説明した実施形態に、様々な改変および変更が行われる場合があり、そのような改変および変更もまた、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
10 システム
100 タンク
110 フランジ
200 ベンチュリ管
210 内部通路
220 オリフィス
230 先細部分
232 入口
234 出口
240 末広部分
242 入口
244 出口
250 スロート部分
252 入口
254 出口
260 フランジ
300 シリンダー
310 端壁
320 円周壁
330 出口穴
340 切欠き
400 ピストン
410 端壁
420 円周壁
430 ラック
440 Oリング
450 円形の溝
500 駆動ユニット
510 扇形歯車
512 第1の部分
514 第2の部分
520 電力供給部
530 電気モーター
532 出力軸
540 ピニオン
550 かさ歯車
552 第1の部分
554 第2の部分
560 平歯車
570 ラッチ
580 スイッチ
600 弾性部材、コイルばね
700 ガイドロッド
710 ベース端部
【外国語明細書】