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特開2022-99678熱交換器、熱交換器用チューブ材及び熱交換器用フィン材
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  • 特開-熱交換器、熱交換器用チューブ材及び熱交換器用フィン材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099678
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】熱交換器、熱交換器用チューブ材及び熱交換器用フィン材
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/32 20060101AFI20220628BHJP
   F28F 1/12 20060101ALI20220628BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20220628BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20220628BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20220628BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
F28F1/32 B
F28F1/12 G
F28F21/08 B
F28F19/06 Z
B23K1/00 330H
B23K1/19 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213617
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(72)【発明者】
【氏名】東森 稜
(57)【要約】
【解決課題】単層ブレージングシートフィン材を用いて得られる熱交換器であって、フィレットへの過度なZn濃縮を抑制し、且つ、フィレット電位が過剰に卑になることを防止することで、長期間に亘ってフィンがチューブ上に残存し、優れた熱交性能及び防食性能を有する熱交換器を提供すること。
【解決手段】作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、該チューブは、アルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有する熱交換器用チューブ材を用いて形成され、該フィンは、アルミニウム合金からなり、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材を用いて形成されたこと、を特徴する熱交換器。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
該チューブは、アルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有する熱交換器用チューブ材を用いて形成され、
該フィンは、アルミニウム合金からなり、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材を用いて形成されたこと、
を特徴する熱交換器。
【請求項2】
前記チューブ材本体を形成するアルミニウム合金が、0.10~1.20質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
前記チューブ材本体を形成するアルミニウム合金が、更に、0.60質量%以下のCu、0.70質量%以下のSi及び0.50質量%以下のFeから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項2記載の熱交換器。
【請求項4】
前記Zn含有膜が、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末を含有することを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の熱交換器。
【請求項5】
前記フラックス粉末が、K-Zn-F系化合物からなることを特徴とする請求項4記載の熱交換器。
【請求項6】
前記Zn含有膜が、純Zn粉末を含有することを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の熱交換器。
【請求項7】
前記Zn含有膜が、亜鉛溶射により形成された亜鉛溶射膜であることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の熱交換器。
【請求項8】
前記熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金が、1.00~5.00質量%のSiと、0.05~2.00質量%のMnと、を含有し、Feの含有量が2.00質量%以下であり、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1~7いずれか1項記載の熱交換器。
【請求項9】
前記熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金が、更に、2.00質量%以下のMg、1.50質量%以下のCu、6.00質量%以下のZn、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のV、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr及び2.00質量%以下のNiから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項8記載の熱交換器。
【請求項10】
前記熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金が、更に、0.30質量%以下のSn、0.30質量%以下のIn、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.10質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.50質量%以下のCaから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項8又は9記載の熱交換器。
【請求項11】
請求項1記載の熱交換器用のチューブ材であり、
0.10~1.20質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有することを特徴とする熱交換器用チューブ材。
【請求項12】
更に、0.60質量%以下のCu、0.70質量%以下のSi及び0.50質量%以下のFeから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項11記載の熱交換器用チューブ材。
【請求項13】
前記Zn含有膜が、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末を含有することを特徴とする請求項11又は12記載の熱交換器用チューブ材。
【請求項14】
前記フラックス粉末が、K-Zn-F系化合物からなることを特徴とする請求項13記載の熱交換器用チューブ材。
【請求項15】
前記Zn含有膜が、Zn粉末を含有することを特徴とする請求項11又は12記載の熱交換器用チューブ材。
【請求項16】
前記Zn含有膜が、亜鉛溶射層により形成された亜鉛溶射膜であることを特徴とする請求項11又は12記載の熱交換器用チューブ材。
【請求項17】
請求項1記載の熱交換器用のフィン材であり、
1.00~5.00質量%のSiと、0.05~2.00質量%のMnと、を含有し、Fe含有量が2.00質量%以下であり、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有すること、
を特徴とする熱交換器用フィン材。
【請求項18】
前記アルミニウム合金が、更に、2.00質量%以下のMg、1.50質量%以下のCu、6.00質量%以下のZn、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のV、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr及び2.00質量%以下のNiから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項17記載の熱交換器用フィン材。
【請求項19】
前記アルミニウム合金が、更に、0.30質量%以下のSn、0.30質量%以下のIn、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.10質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.50質量%以下のCaから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項17又は18記載の熱交換器用フィン材。
【請求項20】
作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
少なくとも、アルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有する熱交換器用チューブ材と、アルミニウム合金からなり、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を、該熱交換器用フィン材の液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱し、該熱交換器用チューブ材と該熱交換器用フィン材を接合して得られたものであること、
を特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器及びこれに用いられる熱交換器用チューブ材及び熱交換器用フィン材に関し、ルームエアコン用熱交換器、カーエアコン用熱交換器、及びこれらに用いられる熱交換器用チューブ材及び熱交換器用フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
エバポレータ、コンデンサなどの自動車用アルミニウム合金製熱交換器には、軽量であり、高い熱伝導性を有するアルミニウム合金が多用されている。熱交換器は、冷媒が流通するチューブと、冷媒とチューブ外側の空気との間で熱交換するためのフィンとを有しており、チューブとフィンとがろう付により接合されている。そして、チューブとフィンとのろう付には、フッ化物系のフラックスが用いられることが多い。
【0003】
自動車用熱交換器に用いられるチューブは、前述の通り熱交換を行うため、ろう付によりフィンと接合され、そのためには、フィン側またはチューブ側にろう材を設ける必要がある。
【0004】
フィン側にろう材を設ける場合は、ろう材がクラッドされたクラッド材を用いてフィンが作製されるが、製造コストや材料コストの低減が困難である。
【0005】
それに対して、チューブ側にろう材を設ける場合としては、例えばチューブの外表面に、Si(シリコン)粉末とZn含有フラックスとバインダとが含まれてなるフラックス層を形成させる技術が提案されている(特許文献1)。上記の組成を有するフラックス層は、ろう材成分、Zn及びフラックス成分の全てを一度の付着工程で同時に付着させることができる。また、フィン側にろう材を設ける必要がないため、ベアフィン材を用いてフィンを作製することができる。これらの結果、コスト低減を図ることができる。
【0006】
しかしながら、引用文献1の方法では、チューブ材の表面にSi粉末を付着させ、ろう付け加熱による昇温過程においてSi粉末とチューブ材の表層部とで共晶溶解によって生成されたろうによってろう付け接合することから、チューブ材の薄肉化が困難であるとともに、粗大なSi粉末が混入した場合にチューブの凹みや溶融による貫通が発生するという問題が生じる。
【0007】
そこで、特許文献2には、ブレージングシートの製造や粉末ろう材を製造及び塗布する工程を省略するために、上述したクラッド材のブレージングシートに替えて、単層ブレージングシートを用いる方法が記載されている。
【0008】
特許文献2の手法を用いれば、単層のフィン材用ブレージングシートでろう付が可能となるため、フィン材及びチューブ材のいずれにもろう材を配する必要がなくなり、大きなコストダウンが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2011/090059
【特許文献2】国際公開WO2014/196183
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2の手法では、特許文献1の手法やろう材がクラッドされたクラッドフィン材を用いるろう付のような従来手法に比べ、生成する液相量が相対的に少なく、フィンとチューブの間に形成されるフィレットの断面積が小さくなる。
【0011】
そのため、単層ブレージングシートフィンに対して、従来用いられていた熱交換器用のZn溶射チューブ材を組み合わせて用いた場合、従来手法よりもろう付後のフィレット中における単位断面積当たりのZn濃度が高くなり、フィレットの電位が最も卑になってしまうことでフィレットの優先腐食が生じる懸念があった。
【0012】
そして、フィレットの優先腐食が生じると、フィレット、すなわち、フィンとチューブの接合部が早期に消失するため、チューブ表面からフィンが脱落し、熱交換性能が低下するとともにフィンによるチューブ防食が作用しなくなる。
【0013】
従って、本発明の目的は、単層ブレージングシートフィン材を用いて得られる熱交換器であって、フィレットへの過度なZn濃縮を抑制し、且つ、フィレット電位が過剰に卑になることを防止することで、長期間に亘ってフィンがチューブ上に残存し、優れた熱交性能及び防食性能を有する熱交換器を提供すること、また、これに用いられる熱交換器用のチューブ材及びフィン材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下に示す本発明によって、解決される。
すなわち、本発明(1)は、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
該チューブは、アルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有する熱交換器用チューブ材を用いて形成され、
該フィンは、アルミニウム合金からなり、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材を用いて形成されたこと、
を特徴とする熱交換器を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、前記チューブ材本体を形成するアルミニウム合金が、0.10~1.20質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であることを特徴とする(1)の熱交換器を提供するものである。
【0016】
また、本発明(3)は、前記チューブ材本体を形成するアルミニウム合金が、更に、0.60質量%以下のCu、0.70質量%以下のSi及び0.50質量%以下のFeから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする(2)の熱交換器を提供するものである。
【0017】
また、本発明(4)は、前記Zn含有膜が、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末を含有することを特徴とする(1)~(3)いずれかの熱交換器を提供するものである。
【0018】
また、本発明(5)は、前記フラックス粉末が、K-Zn-F系化合物からなることを特徴とする(4)の熱交換器を提供するものである。
【0019】
また、本発明(6)は、前記Zn含有膜が、純Zn粉末を含有することを特徴とする(1)~(3)いずれかの熱交換器を提供するものである。
【0020】
また、本発明(7)は、前記Zn含有膜が、亜鉛溶射により形成された亜鉛溶射膜であることを特徴とする(1)~(3)いずれかの熱交換器を提供するものである。
【0021】
また、本発明(8)は、前記熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金が、1.00~5.00質量%のSiと、0.05~2.00質量%のMnと、を含有し、Feの含有量が2.00質量%以下であり、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であることを特徴とする(1)~(7)いずれかの熱交換器を提供するものである。
【0022】
また、本発明(9)は、前記熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金が、更に、2.00質量%以下のMg、1.50質量%以下のCu、6.00質量%以下のZn、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のV、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr及び2.00質量%以下のNiから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする(8)の熱交換器を提供するものである。
【0023】
また、本発明(10)は、前記熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金が、更に、0.30質量%以下のSn、0.30質量%以下のIn、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.10質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.50質量%以下のCaから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする(8)又は(9)の熱交換器を提供するものである。
【0024】
また、本発明(11)は、請求項1記載の熱交換器用のチューブ材であり、
0.10~1.20質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有することを特徴とする熱交換器用チューブ材を提供するものである。
【0025】
また、本発明(12)は、更に、0.60質量%以下のCu、0.70質量%以下のSi及び0.50質量%以下のFeから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする(11)の熱交換器用チューブ材を提供するものである。
【0026】
また、本発明(13)は、前記Zn含有膜が、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末を含有することを特徴とする(11)又は(12)の熱交換器用チューブ材を提供するものである。
【0027】
また、本発明(14)は、前記フラックス粉末が、K-Zn-F系化合物からなることを特徴とする(13)の熱交換器用チューブ材を提供するものである。
【0028】
また、本発明(15)は、前記Zn含有膜が、Zn粉末を含有することを特徴とする(11)又は(12)の熱交換器用チューブ材を提供するものである。
【0029】
また、本発明(16)は、前記Zn含有膜が、亜鉛溶射層により形成された亜鉛溶射膜であることを特徴とする(11)又は(12)の熱交換器用チューブ材を提供するものである。
【0030】
また、本発明(17)は、請求項1記載の熱交換器用のフィン材であり、
1.00~5.00質量%のSiと、0.05~2.00質量%のMnと、を含有し、Fe含有量が2.00質量%以下であり、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有すること、
を特徴とする熱交換器用フィン材を提供するものである。
【0031】
また、本発明(18)は、前記アルミニウム合金が、更に、2.00質量%以下のMg、1.50質量%以下のCu、6.00質量%以下のZn、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のV、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr及び2.00質量%以下のNiから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする(17)の熱交換器用フィン材を提供するものである。
【0032】
また、本発明(19)は、前記アルミニウム合金が、更に、0.30質量%以下のSn、0.30質量%以下のIn、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.10質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.50質量%以下のCaから選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする(17)又は(18)の熱交換器用フィン材を提供するものである。
【0033】
また、本発明(20)は、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
少なくとも、アルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有する熱交換器用チューブ材と、アルミニウム合金からなり、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を、該熱交換器用フィン材の液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱し、該熱交換器用チューブ材と該熱交換器用フィン材を接合して得られたものであること、
を特徴とする熱交換器を提供するものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、単層ブレージングシートフィン材を用いて得られる熱交換器であって、フィレットへの過度なZn濃縮を抑制し、且つ、フィレット電位が過剰に卑になることを防止することで、長期間に亘ってフィンがチューブ上に残存し、優れた熱交性能及び防食性能を有する熱交換器を提供すること、及びこれに用いられる熱交換器用のチューブ材及びフィン材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】代表的な2元系共晶合金であるAl-Si合金の模式的な状態図である。
図2】本発明に係る熱交換器用フィン材を用いた接合において、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金での液相の生成メカニズムを示す説明図である。
図3】本発明に係る熱交換器用フィン材を用いた接合において、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金での液相の生成メカニズムを示す説明図である。
図4】代表的な2元系共晶合金であるAl-Si合金の模式的な状態図である。
図5】実施例で作製するミニコアの組み付け状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の熱交換器は、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
該チューブは、アルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有する熱交換器用チューブ材を用いて形成され、
該フィンは、アルミニウム合金からなり、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材を用いて形成されたこと、
を特徴する熱交換器である。
【0037】
本発明の熱交換器は、少なくとも、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する。そして、本発明の熱交換器において、チューブは、本発明に係る熱交換器用チューブ材を用いて形成されたものであり、且つ、フィンは、本発明に係る熱交換器用フィン材を用いて形成されたものである。つまり、本発明の熱交換器のチューブは、本発明に係る熱交換器用チューブ材が所定の温度で加熱されて、本発明に係る熱交換器用フィン材と接合されたものであり、且つ、本発明の熱交換器のフィンは、本発明に係る熱交換器用フィン材が所定の温度で加熱されて、本発明に係る熱交換器用チューブ材と接合されたものである。
【0038】
つまり、本発明の熱交換器は、少なくとも、本発明に係る熱交換器用チューブ材及び本発明に係る熱交換器用フィン材を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を、フィン材の液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱することにより、好ましくは400℃以上の領域を平均10℃/分の昇温速度で加熱し、好ましくは600℃±10℃で3~5分間保持し、100℃以下まで冷却することにより、本発明に係る熱交換器用チューブ材と本発明に係る熱交換器用フィン材を接合して得られるものである。
【0039】
本発明に係る熱交換器用チューブ材は、アルミニウム合金からなるチューブ本体と、チューブ本体の外表面に形成されているZn含有膜と、を有する。本発明に係る熱交換器用チューブ材は、フィン材と接合される前、すなわち、加熱接合前のチューブ材を指す。
【0040】
チューブ本体の形態は、特に制限されず、用途や要求される特性に応じて適宜選択される。チューブ本体は、押出加工により形成され、内部に複数の冷媒流路を有する押出多穴管であってもよい。また、チューブ本体は、筒状等の形状であってもよい。また、チューブ本体は、圧延加工により形成された板材を所定の幅に切断し、ロールフォーミングにより円筒状に成形加工し、高周波溶接またはレーザ溶接でパイプ状とし、さらにロールフォーミングにより偏平状のチューブ形状とされたものであってもよい。圧延加工により成形された板材を加工してチューブ本体とする場合には、チューブ本体用の板材として、アルミニウム合金のチューブ本体用心材と、心材の外面側にクラッドされた犠牲陽極材と、からなる積層材を用いることもできる。また、圧延加工により成形された板材を加工してチューブ本体とする場合には、チューブ本体用の板材として、アルミニウム合金のチューブ本体用心材と、心材の内面側にクラッドされたろう材と、からなる積層材を用いることもでき、この場合、アルミニウム合金からなるフィン材をコルゲート加工してチューブ内に装入して、インナーフィン型チューブとすることもできる。
【0041】
チューブ本体を形成するアルミニウム合金の化学組成は、特に制限されないが、0.10~1.20質量%のMnを含有し、Ti含有量が0.10質量%以下であり、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が好ましい。
【0042】
チューブ本体を形成するアルミニウム合金は、Mnを含有することができる。チューブ本体を形成するアルミニウム合金がMnを含有する場合、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のMn含有量は、0.10~1.20質量%である。Mnは、Al(アルミニウム)母相中に固溶することにより、強度を向上させる作用を有する。また、同時に電位を貴にする効果も有する。チューブ本体を形成するアルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲にあることにより、十分な強度向上効果及びチューブ深部における電位貴化効果を得ることができる。一方、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲未満だと、所望の強度を満足できなくなる懸念がある。また、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲を超えると、後述する熱間加工以前の工程で母相中にAl-Mn析出物を生じ、これが粒界の移動を抑制することでろう付後の結晶組織が微細となり、ろう付中にエロージョンのようなろう付不具合を生じ得、更に、押出加工または圧延加工における加工性が低下し、上記チューブ本体の生産性が低下するおそれがある。そして、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のMn含有量は、強度及びろう付の品質、生産性を全て成立させる観点から、好ましくは0.10~1.20質量%である。
【0043】
チューブ本体を形成するアルミニウム合金は、Tiを含有することができる。チューブ本体を形成するアルミニウム合金がTiを含有する場合、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のTi含有量は、0.10質量%以下である。Tiは鋳造時の組織を微細にする目的でアルミニウム合金中に添加される。チューブ本体を形成するアルミニウム合金のTi含有量が、上記範囲にあることにより、押出または圧延加工後に均一な金属組織を得ることができる。一方、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のTi含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に巨大晶出物が生成し、健全なチューブ本体の製造が困難となるおそれがあり、また、押出多穴管の場合には晶出したTiがダイスとの間に摩擦を生じ、生産性や工具寿命を低下させる懸念があり、また、圧延加工材の場合には晶出したTiにより、ロールフォーミング加工時に割れが発生する懸念がある。そして、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のTi含有量は、好ましくは0.001~0.05質量%である。
【0044】
チューブ本体を形成するアルミニウム合金は、Cuを含有することができる。チューブ本体を形成するアルミニウム合金がCuを含有する場合、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のCu含有量は、0.60質量%以下、好ましくは0.20~0.60質量%である。CuはAl(アルミニウム)母相中に固溶することにより、強度を向上させる作用を有する。また、同時に電位を貴にする効果も有する。チューブ本体を形成するアルミニウム合金のCu含有量が、上記範囲にあることにより、十分な強度向上効果及びチューブ深部における電位貴化効果を得ることができる。一方、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のCu含有量が、上記範囲を超えると、Al-Cu析出物を生じ、これがチューブの耐食性を損なうおそれがある。そして、Cuを添加する場合のチューブ本体を形成するアルミニウム合金のCu含有量は、強度及びろう付の品質、生産性を全て成立させる観点から、より好ましくは0.20~0.50質量%である。また、Cuの含有量が少ない方がよい場合には、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のCu含有量は、0.20質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
チューブ本体を形成するアルミニウム合金は、Siを含有することができる。チューブ本体を形成するアルミニウム合金がSiを含有する場合、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のSi含有量は、0.70質量%以下、好ましくは0.20~0.70質量%以下である。SiはAl(アルミニウム)母相中に固溶、またはMnとAlMnSi析出物を形成することにより、強度を向上させる作用を有する。チューブ本体を形成するアルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲にあることにより、十分な強度向上効果を得ることができる。一方、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲を超えると、熱間加工中の変形抵抗を過度に上昇させ、押出加工または圧延加工における加工性が低下し、上記チューブ本体の生産性が低下するおそれがある。そして、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のSi含有量は、強度及びろう付の品質、生産性を全て成立させる観点から、好ましくは0.30~0.70質量%である。また、Siの含有量が少ない方がよい場合には、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のSi含有量は、0.30質量%以下であることが好ましく、0.20質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
チューブ本体を形成するアルミニウム合金において、本発明の効果に影響がない程度であれば、Feの含有は許容される。チューブ本体を形成するアルミニウム合金がFeを含有する場合、チューブ本体を形成するアルミニウム合金のFe含有量は、0.50質量%以下であることが好ましく、0.40質量%以下であることが特に好ましい。
【0047】
Zn含有膜は、チューブ本体の外表面に形成されている。Zn含有膜としては、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末を含有するZn含有膜、純Znを含有するZn含有膜、亜鉛溶射により形成された亜鉛溶射膜等が挙げられる。なお、Zn含有膜とは、亜鉛元素を含有している膜を指し、Zn含有膜中で、亜鉛元素は、金属亜鉛又は亜鉛イオンの状態で存在している。
【0048】
Znを含有する化合物からなるフラックス粉末を含有するZn含有膜は、少なくとも、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末及びバインダーを含有する。Znを含有する化合物からなるフラックス粉末を含有するZn含有膜は、例えば、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末と、バインダーと、必要に応じて、Znを含有しない化合物からなるフラックス粉末等を、溶剤に混合及び撹拌し、ペースト状の塗料を作製し、次いで、ロールコート法等により、チューブ本体の表面に塗料を塗布し、次いで、乾燥させることにより、形成される。バインダとしては、例えばアクリル系樹脂やウレタン系樹脂などを使用することができる。溶媒としては、水、または水及びエタノール、イソプロピルアルコールなどアルコール類、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどのアルキルエーテルアルコール類、メチルエチルケトンなどのケトン類などが用いられる。
【0049】
フラックス粉末を構成するZnを含有する化合物としては、K-Zn-F系化合物が好ましい。K-Zn-F系化合物としては、例えば、KZnF等が挙げられる。
【0050】
バインダーとしては、特に制限されず、アルミニウム合金製の熱交換器の製造において、フラックス粉末を含有する膜を、アルミニウム合金材の表面に形成させるために用いることができるバインダーが適宜選択される。
【0051】
純Zn粉末を含有するZn含有膜は、少なくとも、純Zn粉末及びバインダーを含有する。なお、純Znとは、純度が99質量%以上のZn金属を指す。純Zn粉末を含有するZn含有膜は、例えば、純Zn粉末と、バインダーと、必要に応じて、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末又はZnを含有しない化合物からなるフラックス粉末等を、溶剤に混合及び撹拌し、ペースト状の塗料を作製し、次いで、ロールコート法等により、チューブ本体の表面に塗料を塗布し、次いで、乾燥させることにより、形成される。
【0052】
バインダーとしては、特に制限されず、アルミニウム合金製の熱交換器の製造において、純Zn粉末を含有する膜を、アルミニウム合金材の表面に形成させるために用いることができるバインダーが適宜選択される。
【0053】
亜鉛溶射により形成された亜鉛溶射膜は、チューブ本体の外表面にZn溶射を実施することにより形成される。Zn溶射方法は、特に制限されず、従来行われている溶射方法が適宜用いられる。例えば、2本のZn線を接近させて高圧電流を印加し、Zn線間でアーク放電させて、Zn線の先端を溶融させ、高圧の不活性ガスを吹き付けることでZnを吹き飛ばし、その先にチューブ本体を通過させることで、チューブ本体の外表面に溶融Znを付着させる方法が挙げられる。溶射に用いる素線としては、製造が容易であることから、純Zn線が好ましく用いられる。なお、Zn線は溶融に伴い、順次送ることで、アーク放電を継続させることができるので、長手方向に連続して均一な亜鉛溶射膜を形成させることができる。
【0054】
Zn含有膜は、原子換算で、1.0~4.5g/m、好ましくは1.0~3.5g/mのZnを含有する。Zn含有膜のZn含有量が、上記範囲にあることにより、フィレットへのZn濃縮を抑制することができるので、フィレットの優先腐食及びフィンの早期脱落を防止することができる。一方、Zn含有膜中のZn含有量が、上記範囲未満だと、チューブ表面のZnによる防食が不十分となり、フィンとフィンとの間等の部位で早期にチューブの貫通を生じ得、また、上記範囲を超えると、単層ブレージングシートフィンと組み合わせて加熱接合した場合に、フィレットへのZn濃縮を生じるため、フィレットの優先腐食及びフィンの早期脱落を生じ得る。なお、本発明では、Zn含有膜のZn含有量が、フィレットへのZn濃縮を抑制する効果に対する影響が大きい。そして、本発明では、Zn元素の由来によるフィレットへのZn濃縮を抑制する効果への影響、すなわち、チューブ本体の外表面に、Zn元素が、Zn原子の状態で付着しているか、亜鉛イオンの状態で付着しているかによるフィレットへのZn濃縮を抑制する効果への影響、あるいは、Zn源が、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末であるか、純Zn粉末であるか、亜鉛溶射膜であるかによるフィレットへのZn濃縮を抑制する効果への影響は、小さい。本発明では、チューブ本体表面の原子換算のZn量のみを限定し、Zn含有膜の総質量は限定しない。
【0055】
本発明に係る熱交換器用チューブ材は、如何なる方法で製造されたものであってもよく、例えば、以下に示す方法によって製造される。
【0056】
本発明に係る熱交換器用チューブ材の製造方法では、先ず、チューブ本体を押出加工又は圧延加工により作製する。
チューブ本体を押出加工又は圧延加工により作製するには、以下の条件により均質化処理を施したアルミニウム合金を用いることが好ましい。
均質化処理の第1の態様においては、所定の化学成分を有するアルミニウム合金の鋳塊を400~650℃の温度に2時間以上保持して均質化処理を行う。この場合には、鋳造時に形成される粗大な晶出物を分解あるいは粒状化させ、鋳造時に生じた偏析層などの不均一な組織を均質化させることができる。その結果、押出加工時の抵抗を低減して押出性を向上させることができる。また、押出後の製品の表面粗度を小さくすることができる。均質化処理における保持温度が400℃未満の場合には、粗大な晶出物や上記の不均一な組織が残存するおそれがあり、押出性の低下や表面粗度の増大を招くおそれがある。均質化処理における保持温度は高温であるほど保持時間を短くして生産性を向上させることができる。しかし、保持温度が650℃を超える場合には、鋳塊の溶融を招くおそれがある。従って、均質化処理における保持温度は、400~650℃であることが好ましく、430~620℃であることがより好ましい。また、均質化処理における保持時間は、均質化を十分に行う観点から、5時間以上とすることが好ましい。一方、保持時間が24時間を超える場合には、均質化の効果が飽和するため、保持時間に見合った効果を得ることが難しい。従って、均質化処理における保持時間は5~24時間処理であることが好ましい。
そして、上記の均質化処理を施したビレット又はスラブを用いて、通常行われる工程に従い、熱間押出、又は圧延加工及びロールフォーミング加工を実施してチューブ本体を得る。圧延加工により圧延加工材を製造する場合には、熱間圧延と冷間圧延を行い、必要に応じて途中に中間焼鈍を加えても良い。
【0057】
本発明に係る熱交換器用チューブ材の製造方法では、次いで、上記により得たチューブ本体の外表面に、以下に示す方法でZnを付与し、Zn含有膜を形成させて、本発明に係る熱交換器用チューブ材を得る。
【0058】
チューブ本体にZn含有膜を形成させる方法としては、上述した、(1)Znを含有する化合物からなるフラックス粉末と、バインダーと、必要に応じて、Znを含有しない化合物からなるフラックス粉末等を含有するペースト状の塗料を、チューブ本体の外表面に塗布し、乾燥する方法、(2)純Zn粉末と、バインダーと、必要に応じて、Znを含有する化合物からなるフラックス粉末又はZnを含有しない化合物からなるフラックス粉末等を含有するペースト状の塗料を、チューブ本体の外表面に塗布し、乾燥する方法、(3)チューブ本体の外表面に亜鉛溶射を実施し、亜鉛溶射膜を形成させる方法等が挙げられる。
【0059】
本発明に係る熱交換器用フィン材は、アルミニウム合金からなる。本発明に係る熱交換器用フィン材は、チューブ材と接合される前、すなわち、接合加熱前のフィン材を指す。
【0060】
本発明に係る熱交換器用フィン材は、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有する。つまり、本発明に係る熱交換器用フィン材は、単層ブレージングシートからなるフィン材である。
【0061】
以下に、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有するブレージングシート(以下、単層ブレージングシートとも記載する。)について説明する。
単層ブレージングシートは、アルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比(以下、「液相率」と記す。)が、5%以上35%以下となる温度で接合させる必要がある。液相率が35%を超えると、生成する液相の量が多過ぎてアルミニウム合金材が形状を維持できなくなり大きな変形をしてしまう。一方、液相率が5%未満では接合が困難となる。好ましい液相率は5~30%であり、より好ましい液相率は10~20%である。
【0062】
液相の生成メカニズムについて説明する。図1に代表的な2元系共晶合金であるAl-Si合金の状態図を模式的に示す。Si濃度がc1であるアルミニウム合金材を加熱すると、共晶温度(固相線温度)Teを超えた付近の温度T1で液相の生成が始まる。共晶温度Te以下では、図2(a)に示すように、結晶粒界で区分されるマトリクス中に晶析出物が分布している。ここで液相の生成が始まると、図2(b)に示すように、晶析出物分布の偏析の多い結晶粒界が溶融して液相となる。次いで、図2(c)に示すように、アルミニウム合金のマトリクス中に分散する主添加元素成分であるSiの晶析出物粒子や金属間化合物の周辺が球状に溶融して液相となる。更に図2(d)に示すように、マトリクス中に生成したこの球状の液相は、界面エネルギーにより時間の経過や温度上昇と共にマトリクスに再固溶し、固相内拡散によって結晶粒界や表面に移動する。次いで、図1に示すように温度がT2に上昇すると、状態図より液相量は増加する。図1に示すように、一方のアルミニウム合金材のSi濃度が最大固溶限濃度より小さいc2の場合には、固相線温度Ts2を超えた付近で液相の生成が始まる。但し、c1の場合と異なり、溶融直前の組織は図3(a)に示すように、マトリクス中に晶析出物が存在しない場合がある。この場合、図3(b)に示すように粒界でまず溶融して液相となった後、図3(c)に示すようにマトリクス中において局所的に溶質元素濃度が高い場所から液相が発生する。図3(d)に示すように、マトリクス中に生成したこの球状の液相は、c1の場合と同様に、界面エネルギーにより時間の経過や温度上昇と共にマトリクスに再固溶し、固相内拡散によって結晶粒界や表面に移動する。温度がT3に上昇すると、状態図より液相量は増加する。このように、本発明における接合は、単層ブレージングシート(本発明に係る熱交換器用フィン材)内部の部分的な溶融により生成される液相を利用するものであり、接合と形状維持の両立を実現できるものである。
【0063】
液相が生じた後から接合に至るまでの金属組織の挙動を説明する。液相を生成する単層ブレージングシートと、これと接合するアルミニウム合金相手材とを組み合わせ、これらを、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱する。そして、接合部を顕微鏡で観察すると、前述のように、接合において単層ブレージングシートの表面に生成するごく僅かな液相は、フラックス等の作用により酸化皮膜が破壊されたアルミニウム合金相手材との隙間を埋める。次に、両合金材の接合界面付近にある液相がアルミニウム合金相手材内へと移動していき、それに伴い接合界面に接している単層ブレージングシートの固相α相の結晶粒がアルミニウム合金相手材内に向かって成長していく。一方、アルミニウム合金相手材の結晶粒も単層ブレージングシート側へと成長していく。そして、接合界面付近のアルミニウム合金相手材中に単層ブレージングシートの組織が入り込んだような組織となって接合される。従って、接合界面には単層ブレージングシートとアルミニウム合金相手材以外の金属組織が生じない。
【0064】
一方、ろう材をクラッドしたブレージングシートを用い、アルミニウム合金相手材とろう付け加熱により接合した場合には、接合部にフィレットが形成され、共晶組織が見られ、単層ブレージングシートを用いてアルミニウム合金相手材とろう付け加熱により接合した場合とは、異なる接合組織が形成される。つまり、ろう材をクラッドしたブレージングシートを用い、アルミニウム合金相手材とろう付け加熱により接合した場合には、接合部を液相ろうが埋めてフィレットを形成するため、接合部は周囲と異なる共晶組織が形成されるのである。また、溶接法においても接合部が局部的に溶融するため、他の部位とは異なる金属組織となる。
【0065】
このようなことから、単層ブレージングシートを用いて、アルミニウム合金相手材と加熱接合した場合には、接合部の金属組織が両被接合部材のものだけで構成され、或いは、両被接合部材が一体化したもので構成される点で、ろう材がクラッドされたブレージングシートを用いる場合や溶接による場合とは、接合組織が相違する。
【0066】
そして、このような接合挙動のため、単層ブレージングシートを用いて、アルミニウム合金相手材と加熱接合した場合には、接合工程後において接合部位近傍の形状変化がほとんど発生しない。すなわち、溶接法のビードや、ろう付法でのフィレットのような接合後の形状変化が、単層ブレージングシートを用いて、アルミニウム合金相手材と加熱接合した場合には、殆ど発生しない。それにも拘わらず、溶接法やろう付法と同じく金属結合による接合を可能とする。例えば、ろう材がクラッドされたブレージングシート(ろう材クラッド率が片面5%)を用いてドロンカップタイプの積層型熱交換器を組み立てた場合、ろう付け加熱後には溶融したろう材が接合部に集中するため、積層した熱交換器の高さが5~10%減少する。従って、製品設計においてはその減少分を考慮する必要がある。それに対して、単層ブレージングシートを用いて、アルミニウム合金相手材と加熱接合した場合には、接合後における寸法変化が極めて小さいため、高精度の製品設計が可能となる。
【0067】
本発明では、単層ブレージングシートの加熱中における実際の液相率を測定することは、極めて困難である。そこで、本発明で規定する液相率は平衡計算によって求めるものとする。具体的には、Thermo-Calc Software AB社製Thermo-Calc(登録商標)等の熱力学平衡計算ソフトによって合金組成と加熱時の最高到達温度から計算される。
【0068】
図4に示す状態図に基づいて、液相率と温度との関係を説明する。図4は、図1を変形したものである。図4において、温度Teを通って横軸に平行に延びる線(以下、「固相線1」と記載する。)、及びα相との境界を画成しつつ固相線1の左端部から縦軸の660℃まで左上方に延びる線(以下、「固相線2」と記する。)は共に固相線を表わす。また、縦軸の660℃から右下方に延びて前記固相線1と接する線(以下、「液相線1」と記する。)、及び(Si+液相)との境界を画成しつつ前記接する位置から右上方に延びる線は共に液相線を表わす。
ここで、温度T2の点をP0とし、P0を通って図の横軸と平行な線を引き、液相線1との交点をP1とし、固相線2との交点をP2とする。Si濃度がC1のAl-Si合金は温度T2のもとでは液相と固相が共存している状態にあり、その液相におけるSi濃度は点P1における濃度CP1であり、その固相におけるSi濃度は点P2における濃度CP2となる。そして、温度T2における全質量に対する液相の質量の割合、すなわち、液相率は、線分P1からP2の長さに対する線分P0からP2の長さの比となる。
【0069】
以上のように、図1及び図4に示されるような2元系合金の状態図に基づいて、合金成分と温度から作図によって液相率が求められる。また、3元系以上の多成分系においても、同様に、状態図に基づいて合金成分と温度から作図することによって、3元系以上の多成分系でも液相率が求められる。なお、3元系以上の多成分系の状態図は、図4のような単純なX-Y平面図として表わすことは困難であるが、Thermo-Calcの熱力学平衡計算ソフトを用いることにより、コンピューター計算によって液相率を得ることができる。
【0070】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金の化学組成は、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有するのであれば、特に制限されないが、1.00~5.00質量%のSiと、0.05~2.00質量%のMnと、を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が好ましい。
【0071】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Siを含有する。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のSi含有量は、1.00~5.00質量%である。SiはAl-Si系の液相を生成し、接合に寄与する元素である。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のSi含有量が上記範囲にあることにより、SiがAl-Si系の液相を生成し、接合が可能となる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲未満だと、十分な量の液相を生成することができず、液相の染み出しが少なくなり、接合が不完全となり、また、上記範囲を超えると、アルミニウム合金材中の液相の生成量が多くなるため、加熱中の材料強度が極端に低下し、熱交換器の形状維持が困難となる。そして、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のSi含有量は、好ましくは1.50~3.50質量%であり、より好ましくは2.00~3.00質量%である。なお、染み出す液相の量は板厚が厚く、加熱温度が高いほど多くなるので、加熱時に必要とする液相の量は、製造する熱交換器の構造に応じて、必要となるSi含有量や接合加熱温度を調整することが好ましい。
【0072】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Mnを含有する。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のMn含有量は、0.05~2.00質量%、好ましくは0.10~2.00質量%、より好ましくは0.30~1.50質量%である。Mnは、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成し、分散強化として作用し、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる重要な添加元素である。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のMn含有量が上記範囲にあることにより、フィン材の強度が高くなる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲未満だと、上記効果が不十分となり、また、上記範囲を超えると、粗大金属間化合物が形成され易くなり耐食性が低くなる。
【0073】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Feを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のFe含有量は、2.00質量%以下、好ましくは0.10~2.00質量%、より好ましくは0.20~1.00質量%である。Feはマトリクスに若干固溶して強度を向上させる効果を有するのに加えて、晶出物として分散して特に高温での強度低下を防ぐ効果を有する。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のFe含有量が上記範囲を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成し、製造性に問題が生じ、また、熱交換器が腐食環境(特に液体が流動するような腐食環境)に曝された場合には耐食性が低くなり、更に、接合時の加熱によって再結晶した結晶粒が微細化して粒界密度が増加するため、接合前後で寸法変化が大きくなる。また、Feの含有量が少ない方がよい場合には、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のFe含有量は、0.50質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましい。
【0074】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Mgを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のMg含有量は、2.00質量%以下、好ましくは0.05~2.00質量%、より好ましくは0.10~1.50質量%である。Mgは、接合加熱後においてMgSiによる時効硬化を生じさせ、この時効硬化によって強度向上の効果を発揮する添加元素である。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のMg含有量が上記範囲にあることにより、フィン材の強度が高くなる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のMg含有量が上記範囲を超えると、Mgがフラックスと反応して、高融点の化合物を形成し、結果としてフラックスが酸化皮膜に作用できなくなるため、接合が著しく困難となる。
【0075】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Cuを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のCu含有量は、1.50質量%以下、好ましくは0.05~1.50質量%である。Cuは、マトリクス中に固溶して強度向上させる添加元素である。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のCu含有量が上記範囲にあることにより、フィン材の強度が高くなる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のCu含有量が上記範囲を超えると、耐食性が低くなる。
【0076】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Znを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のZn含有量は、6.00質量%以下、好ましくは0.05~6.00質量%である。Znの添加は、犠牲防食作用による耐食性向上に有効である。Znはマトリクス中にほぼ均一に固溶しているが、液相が生じるとその中に溶け出して液相のZnが濃化する。液相が表面に染み出すと、その部分はZn濃度が上昇するため、犠牲陽極作用によって耐食性が向上する。また、熱交換器に用いるフィン材として、本発明に係る熱交換器用フィン材をフィンに使うことで、チューブ等を防食する犠牲防食作用を働かせることもできる。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のZn含有量が上記範囲にあることにより、フィン材が適切な犠牲防食作用を有することとなる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のZn含有量が上記範囲を超えると、腐食速度が速くなり自己耐食性が低くなる。
【0077】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Ti及び/又はVを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のTi含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。また、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のV含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。Ti及びVは、マトリクス中に固溶して強度向上させる他に、層状に分布して板厚方向の腐食の進展を防ぐ効果がある。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のTi又はV含有量が上記範囲にあることにより、強度が高くなり、また、板厚方向の腐食の進展を遅延させることができる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のTi又はV含有量が上記範囲を超えると、粗大晶出物が発生し、成形性、耐食性を阻害する。
【0078】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Zrを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のZr含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。ZrはAl-Zr系の金属間化合物として析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮し、また、Al-Zr系の金属間化合物は加熱中の結晶粒粗大化に作用する。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のZr含有量が上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のZr含有量が上記範囲を超えると、粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0079】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Crを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のCr含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl-Cr系の金属間化合物の析出により、加熱後の結晶粒粗大化に作用する。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のCr含有量が上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のCr含有量が上記範囲を超えると、粗大な金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0080】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Niを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のNi含有量は、2.00質量%以下、好ましくは0.05~2.00質量%である。Niは、金属間化合物として晶出又は析出し、分散強化によって接合後の強度を向上させる効果を発揮する。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のNi含有量が上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のNi含有量が上記範囲を超えると、粗大な金属間化合物を形成し易くなり、加工性が低くなり自己耐食性が低くなる。
【0081】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Sn及び/又はInを含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のSn含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。また、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のIn含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。Sn及びIn、犠牲陽極作用を発揮する効果がある。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のSn又In含有量が上記範囲にあることにより、熱交換器の耐食性が向上する。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のSn又はIn含有量が上記範囲を超えると、腐食速度が速くなり自己耐食性が低くなる。
【0082】
本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金は、Be、Sr、Bi、Na及びCaから選択される1種又は2種以上を含有することができる。本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のBe含有量は、0.10質量%以下、好ましくは0.001~0.10質量%である。また、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のSr含有量は、0.10質量%以下、好ましくは0.001~0.10質量%である。また、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のNa含有量は、0.10質量%以下、好ましくは0.001~0.10質量%である。また、本発明に係る熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のCa含有量は、0.05質量%以下、好ましくは0.001~0.05質量%である。これらの微量元素はSi粒子の微細分散、液相の流動性向上等によって接合性を向上させることができる。熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のBe、Sr、Bi、Na又はCa含有量が上記範囲にあることにより、接合性が高くなる。一方、熱交換器用フィン材を形成するアルミニウム合金のBe、Sr、Bi、Na又はCa含有量が上記範囲を超えると、耐食性が低くなる等の弊害を生じる場合がある。なお、Be、Sr、Bi、Na及びCaから選択される1種が添加される場合においても、2種以上が添加される場合においても、いずれの元素も上記成分範囲内で添加される。
【0083】
本発明に係る熱交換器用フィン材は、如何なる方法で製造されたものであってもよく、例えば、以下に示す方法によって製造される。
【0084】
アルミニウム合金鋳塊を、DC(Direct Chill)鋳造法を用いて鋳造する場合は、鋳造時のスラブの鋳造速度を下記のように制御する。鋳造速度は、冷却速度に影響を及ぼすので、20~100mm/分とする。鋳造速度が20mm/分未満の場合は、十分な冷却速度が得られず、Si系金属間化合物やAl-Fe-Mn-Si系金属間化合物といった晶出する金属間化合物が粗大化する。一方、100mm/分を超える場合は、鋳造時にアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な鋳塊が得られない。好ましくは、30~80mm/分である。
DC連続鋳造時の鋳塊(スラブ)厚さは、600mm以下が好ましい。スラブ厚さが600mmを超える場合は、十分な冷却速度を得られず金属間化合物が粗大になる。より好ましいスラブ厚さは、500mm以下である。
DC鋳造法でスラブを製造した後は、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を必要に応じて、通常行われる工程を行い、本発明に係る熱交換器用フィン材を得る。また、用途に応じて調質が行われる。この調質は、通常はエロージョン防止のためにH1n又はH2nとするが、形状や使用方法によっては軟質材(O材)を使用しても良い。
【0085】
本発明に係る熱交換器用フィン材を、連続鋳造法を用いて製造することもできる。その場合の製造方法としては、双ロール式連続鋳造圧延法や双ベルト式連続鋳造法等の連続的に板材を鋳造する方法であれば特に限定されるものではない。双ロール式連続鋳造圧延法とは、耐火物製の給湯ノズルから一対の水冷ロール間にアルミニウム溶湯を供給し、薄板を連続的に鋳造圧延する方法であり、ハンター法や3C法等が知られている。また、双ベルト式連続鋳造法は、上下に対峙し水冷されている回転ベルト間に溶湯を注湯してベルト面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ベルトの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る連続鋳造方法である。双ロール式連続鋳造圧延法では、鋳造時の冷却速度がDC鋳造法に比べて数倍~数百倍速い。例えば、DC鋳造法の場合の冷却速度が0.5~20℃/秒であるのに対し、双ロール式連続鋳造圧延法の場合の冷却速度は100~1000℃/秒である。そのため、鋳造時に生成する分散粒子が、DC鋳造法に比べて微細かつ高密度に分布する特徴を有する。この高密度に分布した分散粒子は、接合時においてこれら分散粒子の周囲のマトリクスと反応し、多量の液相を生成し易くすることができ、それによって良好な接合性が得られる。
双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の圧延板の速度は0.5m/分以上、3m/分以下が好ましい。鋳造速度は、冷却速度に影響を及ぼす。鋳造速度が0.5m/分未満の場合は、十分な冷却速度が得られず化合物が粗大になる。また、鋳造速度が3m/分を超える場合は、鋳造時にロール間でアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な板状鋳塊が得られない。
双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の溶湯温度は、650~800℃の範囲が好ましい。溶湯温度は、給湯ノズル直前にあるヘッドボックスの温度である。溶湯温度が650℃未満の温度では、給湯ノズル内に巨大な金属間化合物の分散粒子が生成し、それらが鋳塊に混入することで冷間圧延時の板切れの原因となる。溶湯温度が800℃を超えると、鋳造時にロール間でアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な板状鋳塊が得られない。より好ましい溶湯温度は680~750℃である。
また、鋳造する板厚は2mm~10mmが好ましい。この厚さ範囲においては、板厚中央部の凝固速度も速く、均一な組織が得られ易い。鋳造板厚が2mm未満であると、単位時間当たりに鋳造機を通過するアルミニウム量が少なく、安定して溶湯を板幅方向に供給することが困難になる。一方、鋳造板厚が10mmを超えると、ロールによる巻取りが困難になる。より好ましい鋳造板厚は、4mm~8mmである。
得られた鋳造板材を最終板厚に圧延加工し、本発明に係る熱交換器用フィン材を得る。最終板厚に圧延加工する工程中では、焼鈍を1回以上行っても良い。調質は用途に応じて適切な調質を選定する。通常はエロージョン防止のためにH1n又はH2n調質とするが、形状や使用方法によっては焼鈍材(O材)を使用しても良い。
【0086】
本発明の熱交換器は、本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を、フィン材の液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱することにより、本発明に係る熱交換器用チューブ材と本発明に係る熱交換器用フィン材を接合して得られるものである。本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材からなる組み合わせ体を加熱するときの加熱接合条件としては、400℃以上の領域を平均10℃/分の昇温速度で加熱し、590~610℃、好ましくは600℃で3分間保持し、100℃以下まで冷却する条件が、好ましい。加熱接合時の加熱雰囲は、特に制限されない。Siは、固相線温度に影響を与えるため、本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材と、を組み合わせた組み合わせ体を加熱接合するときの加熱温度は、Siの含有量により、適宜選択される。また、Si以外に、Zn及びCuも、固相線温度に影響を与えるため、本発明に係る熱交換器用フィン材が、Siに加え、Zn及び/又はCuを含有する場合は、本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材と、を組み合わせた組み合わせ体を加熱接合するときの加熱温度は、Siと、Zn及び/又はCuの含有量により、適宜選択される。
【0087】
本発明の熱交換器は、単層で加熱接合機能を有するフィン材を用いて加熱接合されるので、フィンとチューブの間に形成されるフィレット断面積は、ろう材がクラッドされたブレージングシートを用いるものよりも小さい。そして、本発明の熱交換器では、チューブ材の表面に形成されているZn含有膜のZn含有量が1.0~4.5g/mと適切な範囲内に定められているため、フィレットへのZn濃縮が抑制され、フィレット電位が最も卑にはならないか、あるいは、最も卑になったとしても他部位との電位差が40mV以内になるため、フィレットの優先腐食が防止され、長期間に亘りコアとしての耐食性及び熱交換性能が担保される。
【0088】
また、本発明の熱交換器は、本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を、フィン材の液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱することにより、本発明に係る熱交換器用チューブ材と本発明に係る熱交換器用フィン材を接合して得られたものである。本発明に係る熱交換器用チューブ材及び本発明に係る熱交換器用フィン材は、前記したものと同様である。
【0089】
つまり、本発明の熱交換器は、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
少なくとも、アルミニウム合金からなるチューブ材本体と、該チューブ材本体の外表面に形成されており、原子換算で1.0~4.5g/mのZnを含有するZn含有膜と、を有する熱交換器用チューブ材と、アルミニウム合金からなり、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合機能を有する熱交換器用フィン材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を、該熱交換器用フィン材の液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱して、該熱交換器用チューブ材と該熱交換器用フィン材を接合して得られたものであること、
を特徴とする熱交換器である。
【0090】
本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材と、からなる組み合わせ体を、加熱接合するときの加熱温度は、フィン材の液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度であり、加熱接合条件は、好ましくは400℃以上の領域を平均10℃/分の昇温速度で加熱し、590~610℃、好ましくは600℃で3分間保持し、100℃以下まで冷却するとの条件が好ましい。Siは、固相線温度に影響を与えるため、本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材と、を組み合わせた組み合わせ体を加熱接合するときの加熱温度は、Siの含有量により、適宜選択される。また、Si以外に、Zn及びCuも、固相線温度に影響を与えるため、本発明に係る熱交換器用フィン材が、Siに加え、Zn及び/又はCuを含有する場合は、本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材と、を組み合わせた組み合わせ体を加熱接合するときの加熱温度は、Siと、Zn及び/又はCuの含有量により、適宜選択される。
【0091】
また、本発明の熱交換器の製造方法は、本発明に係る熱交換器用チューブ材と、本発明に係る熱交換器用フィン材と、ヘッダー等の必要に応じて組み合わされる部材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を、フィン材の液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱することにより、本発明に係る熱交換器用チューブ材と本発明に係る熱交換器用フィン材を接合し、熱交換機を得ることを特徴とする熱交換器の製造方法である。なお、本発明に係る熱交換器用チューブ材及び本発明に係る熱交換器用フィン材は、前記したものと同様である。
【0092】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例0093】
(参考例及び比較例)
表1に示す化学成分を有する合金を用いて押出チューブ材を作製した。また、表2に示す化学成分を有する合金を用いてフィン材を作製した。その後、得られたチューブ材及びフィン材を用いて、図5に示すような熱交換器を模擬したミニコアを組み立てて加熱接合し、得られたミニコアの耐食性について評価を行った。
【0094】
(実施例1~3、比較例1~2)
<チューブ材の作製>
表1に示す化学成分を有するビレットを600℃で10時間加熱して均質化処理を行った。均質化処理が完了したビレットを室温まで冷却した後、500℃まで再加熱し、熱間押出加工を行った。以上により、押出方向に垂直な断面が扁平な形状を呈し、複数の冷媒流路を備えたチューブ本体を作製した。
次いで、Zn含有膜のZn含有量が表3に示す量となるように、チューブ本体の表面にZnを付与した。実施例1~3のチューブ材においては、チューブ本体の平坦面にロールコーターを用いて、K-Zn-F系化合物よりなるフラックス粉末を含有する塗料を塗布し、乾燥した。また、比較例1~2のチューブ材においては、押出直後にZn溶射を施し、チューブ本体の表面にZnを溶射した。なお、表3中、Zn含有膜のZn含有量は、加熱接合前の含有量である。
【0095】
<フィンの作製>
表2に示す合金成分を連続鋳造にて厚さ6mmの板厚に鋳造した後、材料軟化のために中間焼鈍を実施し、冷間圧延にて0.20mmまで板厚を減少させ、最終焼鈍を実施し、供試材とした。得られた板材にコルゲート加工を施し、コルゲート形状を有するフィン材を作製した。なお、フィンピッチは3mm、フィン高さは10mmとした。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
(実施例4~6、比較例3~4)
<ミニコアの組み立て>
フィン材の上下をチューブ材で挟む形で積層し、図5に示す所定の形状に組み付けた。この状態で加熱して接合を行うことにより、チューブ材及びフィン材を接合し、熱交換器を模擬したミニコアを得た。なお、加熱は窒素ガス雰囲気下にて行い、チューブ材及びフィン材を400℃以上の領域を平均10℃毎分の昇温速度で600℃まで昇温させ、600±3℃の温度を3分間保持した後室温まで降温させることにより行った。
以上により得られた5種のミニコア(試験体1~5)を用いて、耐食性評価を行った。その結果を表4に示す。
なお、フィン材Bの組成に基づいて、フィン材Bの600℃における液相率を、本明細書に記載の方法で求めたところ、16.6%と算出された。
【0100】
<耐食性評価>
各試験体にASTM-G85-AnnexA3に規定されたSWAAT試験を960時間実施した。試験完了後の試験材を目視で観察することにより、フィンの剥離の有無を判定した。また、リークチェックを行い、チューブの貫通有無を確認した。
【0101】
【表4】
【0102】
実施例4~6および比較例3~4ともにチューブの腐食貫通は生じていなかった。
これに加え、実施例4~6はフィレットの優先腐食およびフィンの早期脱落を生じておらず、過酷な腐食環境下でも優れた耐食性を示した。
一方、比較例3~4は、フィレットの優先腐食を生じ、フィンが早期に脱落したため、耐食性が劣る結果となった。
図1
図2
図3
図4
図5