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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099742
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】バイオプローブのリンカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20220628BHJP
   C12N 15/40 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
G01N33/543 525E
G01N33/543 525U
G01N33/543 525W
C12N15/40
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213714
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】509334000
【氏名又は名称】昇陽國際半導體股▲ふん▼有限公司
【住所又は居所原語表記】NO. 6, Li Hsin Road, Science Park, Hsinchu 300 Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 隆志
(72)【発明者】
【氏名】李▲静▼ウェン
(72)【発明者】
【氏名】陳育哲
(57)【要約】      (修正有)
【課題】異なる粗度の基板に対し最良の炭素鎖長のリンカー及び被覆率を有し、検知目標物に対する電気化学センサーチップの捕捉能力を大幅に向上するバイオプローブのリンカーを提供する。
【解決手段】バイオプローブをセンサーのチップ基板に固定するために適用し、炭素数6または炭素数6以上のSH-(CH)n-NH2、SH-(CH)n-COOH、SH-(CH)n-SH、(OH)m-(CH)n-COOH、或いは(OH)m-(CH)n-NH2を有し、m及びnは1より大きい整数である。前記チップ基板の平均表面粗さ(Ra)が250nm超である場合、前記リンカーによる前記チップ基板の被覆率が40%~80%となる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオプローブをセンサーのチップ基板に固定するために適用するバイオプローブのリンカー(Linker)であって、
炭素数6または炭素数6以上のSH-(CH)n-NH2、SH-(CH)n-COOH、SH-(CH)n-SH、(OH)m-(CH)n-COOH、或いは(OH)m-(CH)n-NH2を有し、m及びnは1より大きい整数であり、
前記チップ基板の平均表面粗さ(Ra)が250nm超である場合、前記リンカーによる前記チップ基板の被覆率が40%~80%となることを特徴とするバイオプローブのリンカー。
【請求項2】
バイオプローブをセンサーのチップ基板に固定するために適用するバイオプローブのリンカー(Linker)であって、
炭素数6以下のSH-(CH)n-NH2、SH-(CH)n-COOH、SH-(CH)n-SH、(OH)m-(CH)n-COOH、または(OH)m-(CH)n-NH2を有し、m及びnは1より大きい整数であり、
前記チップ基板の平均表面粗さ(Ra)が250nm未満である場合、前記リンカーによる前記チップ基板の被覆率が65%~100%となることを特徴とするバイオプローブのリンカー。
【請求項3】
前記センサーのチップ基板の材料は、ケイ素、ガラス、グラフェン、金、プラチナ、或いは高分子から構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオプローブのリンカー。
【請求項4】
前記チップ基板は、98wt%の硫酸の分量1に対し33wt%の過酸化水素の分量3の比率で表面処理を行い、前記処理の時間の違いにより特定の粗度を獲得していることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオプローブのリンカー。
【請求項5】
前記チップ基板は99.8wt%の無水アルコールに溶かしたリンカー溶液内に浸漬し、室温で放置して前記チップ基板表面を修飾した後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)により修飾後の前記チップ基板の表面に対して官能基活性化反応を実行することをさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオプローブのリンカー。
【請求項6】
前記バイオプローブは、酵素、タンパク質、デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid、DNA)、リボ核酸(Ribonucleic acid、RNA)、またはオドントグロッサム・リングスポット・ウィルス抗体(ORSV antibody)のバイオプローブであることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオプローブのリンカー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンカー化合物に関し、更に詳しくはバイオプローブのリンカー(linker of bioprobes)に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫型電気化学バイオセンサーの製造において、バイオプローブはチップ表面での固定数量とチップの感度に関係があり、バイオプローブをチップ表面に固定するためにチップとバイオプローブとの間を結合するリンカー(linker)をグラフトとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リンカーの一端には異なる化学試薬または小分子と結合する特定の官能基を有し、よってリンカーをチップ表面にどのように有機的に結合して被覆させるかがバイオセンサーを製造するための重要な条件となっている。過去にはリンカーを結合して被覆する際に、最大量のリンカーを基板表面に結合し被覆することに注力していた。しかしながら、実際の状況では、リンカーが最大結合被覆量に達しても、検知目標物に対するチップの捕捉量には何ら相関性はなかった。
【0004】
そこで、上述のような従来の問題を解決するために、特定の炭素鎖長を有するリンカーを研究開発し、バイオセンサーチップ表面の粗度及びチップでのリンカーの被覆率に適合させることで、最大の検知目標物捕捉量を獲得する。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、特定の炭素鎖長を有し、最大の検知目標物捕捉量を獲得するバイオプローブのリンカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のバイオプローブのリンカーは、バイオプローブをセンサーのチップ基板に固定するために適用し、炭素数6または炭素数6以上のSH-(CH)n-NH2、SH-(CH)n-COOH、SH-(CH)n-SH、(OH)m-(CH)n-COOH、或いは(OH)m-(CH)n-NH2を有し、m及びnは1より大きい整数である。前記チップ基板の平均表面粗さ(Ra)が250nm超である場合、前記リンカーによる前記チップ基板の被覆率が40%~80%となる。
【0007】
また、目的を達成するために、本発明の別の態様は、バイオプローブのリンカーである。このバイオプローブのリンカーは、バイオプローブをセンサーのチップ基板に固定するために適用し、炭素数6以下のSH-(CH)n-NH2、SH-(CH)n-COOH、SH-(CH)n-SH、(OH)m-(CH)n-COOH、または(OH)m-(CH)n-NH2を有し、m及びnが1より大きい整数である。前記チップ基板の平均表面粗さ(Ra)が250nm未満である場合、前記リンカーによる前記チップ基板の被覆率が65%~100%となる。
【発明の効果】
【0008】
従来のバイオプローブのリンカーと比較すると、本発明は以下の利点を有している。本発明は異なる粗度の基板に対し最良の炭素鎖長を有するリンカー及び被覆率を有し、検知目標物に対する電気化学センサーチップの捕捉能力を大幅に向上している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【0010】
図1】原子間力顕微鏡法(AFM)によって金(Au)基板の表面粗さを分析した結果を示す図である。
図2】原子間力顕微鏡法(AFM)によって金(Au)基板の表面粗さを分析した結果を示す図である。
図3】修飾されたウェーハ基板の表面で官能基活性化反応を実行する概略図である。
図4】修飾後に、原子間力顕微鏡法(AFM)によって金(Au)基板の表面粗さを分析した結果を示す図である。
図5】修飾後に、原子間力顕微鏡法(AFM)によって金(Au)基板の表面粗さを分析した結果を示す図である。
図6】本発明のリンカーの被覆率の時間変化を示すグラフである。
図7】バイオプローブとリンカーの末端との間にペプチド結合(-CO-NH-)を形成し、Au基板(Au Substrate)の表面への固定化を示す概略図である。
図8】ORSVウイルスに対する3-MPAリンカーの捕捉量の走査型電子顕微鏡分析写真である。
図9】ORSVウイルスに対する3-MPAリンカーの捕捉量の走査型電子顕微鏡分析写真である。
図10】ORSVウイルスに対する11-MUAリンカーの捕捉量の走査型電子顕微鏡分析写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施例は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【0012】
本発明に係るバイオプローブのリンカーは、検知目標物に対する電気化学センサーチップの捕捉能力を大幅に向上している。
【実施例0013】
本発明の実施例1に係るバイオプローブのリンカー(Linker)は、バイオプローブをセンサーのチップ基板に固定するために適用し、炭素数6または炭素数6以上のSH-(CH)n-NH2、SH-(CH)n-COOH、SH-(CH)n-SH、(OH)m-(CH)n-COOH、或いは(OH)m-(CH)n-NH2を有し、m及びnは1より大きい整数である。前記チップ基板の平均表面粗さ(Ra)が250nm超である場合、前記リンカーによる前記チップ基板の被覆率が40%~80%となる。最も好ましい被覆率は50%-70%である。
【0014】
本発明のセンサーのチップ基板の材料はケイ素、ガラス、グラフェン、金、プラチナ、または高分子から構成されている。金またはプラチナ材質のチップ基板を選択する場合、酸洗いプロセスを適用して粗面化処理を行い、酸洗い溶液は98wt%の硫酸の分量1に対し33wt%の過酸化水素の分量3の比率で表面処理を実行し、処理時間の違いにより特定の粗度を獲得する。他のガラス、セラミック、或いは高分子材質のチップ基板を選択する場合、機械による研磨、化学薬剤によるエッチング、または化学機械による研磨によって粗面化処理を行う。
【0015】
粗面化後のチップ基板を99.8wt%の無水アルコールに溶かしたリンカー溶液内に浸漬し、且つ室温で放置して前記チップ基板表面に対する修飾を行った後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)により修飾後の前記チップ基板表面に対し官能基活性化反応を実行する。その後、電気化学法によりチップ基板表面の酸化還元特性の変化を計測し、さらに電流密度の変化により修飾分子の被覆率を計算する。
【0016】
本発明のバイオプローブは酵素、タンパク質、デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid、DNA)、リボ核酸(Ribonucleic acid、RNA)、またはオドントグロッサム・リングスポット・ウィルス抗体(ORSV antibody)のバイオプローブである。
【実施例0017】
本発明の実施例2に係るバイオプローブのリンカー(Linker)は、バイオプローブをセンサーのチップ基板に固定するために適用し、炭素数6以下のSH-(CH)n-NH2、SH-(CH)n-COOH、SH-(CH)n-SH、(OH)m-(CH)n-COOH、または(OH)m-(CH)n-NH2を有し、m及びnが1より大きい整数である。前記チップ基板の平均表面粗さ(Ra)が250nm未満である場合、前記リンカーによる前記チップ基板の被覆率が65%~100%となる。最も好ましい被覆率は80%-100%である。
【0018】
本発明の実施例2の他の技術内容は実施例1と同じであり、チップ基板の材料と、チップ基板の表面の粗面化処理と、リンカー溶液の修飾と、チップ基板表面の官能基活性化反応の実行と、を備えている。また、適用するバイオプローブの種類も同じである。
【0019】
<本発明のバイオプローブのリンカーの実測データ>
本発明は実際には純金の基板を用い、酸洗いにより基板表面の粗度を変化させる。次いで、表面を、一端をチオール基(-SH)とし、一端をカルボキシル基(-COOH)とする異なる炭素鎖長のC3H6O2, 3-メルカプトプロピオン酸3-MPA(3-Mercaptopropionic acid, MPA)及びC11H22O2S, 11-メルカプトウンデカン酸11-MUA(11-Mercaptoundecanoic acid)で修飾し、リンカーとしてバイオプローブのオドントグロッサム・リングスポット・ウィルス抗体(Odontoglossum ringspot virus antibody, ORSV antibody)を表面に固定し、後続の目標物であるオドントグロッサム・リングスポット・ウィルス(ORSVウィルス)を捕捉することを実際の例とし、データを計測する。
【0020】
98wt%の硫酸及び33wt%の過酸化水素を1:3の比率で金基板(Au Substrate)表面に対して処理を行い、処理時間の違いにより粗度の変化を発生させ、原子間力顕微鏡AFM(atomic force microscopy)を使用して金基板表面の粗度を分析した。図1に示されるように、未処理(処理前)の平均表面粗さ(Ra)は1.6nmであり、相対高度(Z range)は11.7nmである。図2に示されるように、20分間酸洗い処理を行った後の平均表面粗さ(Ra)は3.56nmであり、相対高度(Z range)は57.7nmである。
【0021】
粗面化後の金基板を99.8wt%の無水アルコールに溶かした3-メルカプトプロピオン酸(3-MPA)及び11-メルカプトウンデカン酸(11-MUA)溶液内に浸漬し、室温で放置して金基板表面の修飾を行った後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)またはN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)により修飾後の前記チップ基板表面に対し官能基活性化反応を実行する(図3参照)。
【0022】
続いて、20分間酸洗い処理を行い、MPAにより修飾した後に原子間力顕微鏡を使用して金基板表面の粗度を分析した。図4に示されるように、平均表面粗さ(Ra)は1.78nmであり、相対高度(Z range)は26.1nmである。20分間酸洗い処理を行い、MUAで修飾した後に原子間力顕微鏡を使用して金基板表面の粗度を分析した。平均表面粗さ(Ra)は1.43nmであり、相対高度(Z range)は18.7nmである(図5参照)。
【0023】
続いて、電気化学法によりチップ基板表面の酸化還元特性の変化を計測し、さらに電流密度の変化からリンカー(修飾分子)の被覆率を計算した。図6に示されるように、3-MPA及び11-MUAは共に金基板表面の粗度を補填し、活性面積反応から11-MUAの被覆率が約94.7%であり、3-MPAの被覆率が約20%であることが分かった。
【0024】
バイオプローブのオドントグロッサム・リングスポット・ウィルス抗体(Odontoglossum ringspot virus antibody, ORSV antibody)を緩衝液に溶解し、表面を修飾活性化した後のMPA及びMUAに滴下し、バイオプローブのORSV抗体及びリンカーの末端にペプチド結合(-CO-NH-)を形成して金基板(Au Substrate)表面に固定し、次いで同じ濃度のORSVウィルス溶液及び抗体を結合して被覆する(図7参照)。
【0025】
最後に、走査電子顕微鏡分析SEMにより金基板表面のORSVウィルス捕捉量を分析した。結果は図8乃至図9に示されるように、被覆率が80%未満の炭素数6以下の短炭素鎖3-MPAのリンカーによるORSVウィルスに対する捕捉量(図8参照)は、被覆率が80%超のリンカーによるORSVウィルスに対する捕捉量(図9参照)より少ない。すなわち、炭素数6以下のリンカーによる被覆率が高くなるほどORSVウィルスに対する捕捉量が多くなる。長炭素鎖11-MUAのリンカーの被覆率が80%超である場合のORSVウィルスに対する捕捉量が80%超となる結果は図10に示されるように、長炭素鎖の被覆率が高くなってもORSVウィルスの捕捉量は増加しない。
【0026】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10