(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099744
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/727 20060101AFI20220628BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220628BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220628BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20220628BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20220628BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
A61K31/727
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P19/10
A61P19/00
A61P35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213717
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】牧田 和也
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA27
4C086GA13
4C086NA14
4C086ZA96
4C086ZA97
4C086ZB15
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤の提供。
【解決手段】高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンを有効成分とする、破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンを有効成分とする、破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤。
【請求項2】
高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンがヘパリンのアルカリ土類金属塩である、請求項1に記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンがヘパリンカルシウムである、請求項2に記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
前記破骨細胞増殖性疾患が、骨巨細胞腫を含む良悪性骨軟部原発性腫瘍、がんの骨転移、骨粗鬆症、関節リウマチに伴う骨びらん、骨Paget病、SAPHO症候群、及び慢性再発性多発性骨髄炎からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれかに記載の予防又は治療剤。
【請求項5】
高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンを含む、破骨細胞分化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、破骨細胞と骨芽細胞がバランスを保つことで正常なリモデリングが行われる。破骨細胞は、骨を破壊(吸収)する役割を担う細胞であり、一方の骨芽細胞は、骨形成担う細胞である。両者のバランスが崩れ、破骨細胞による骨吸収が、骨芽細胞による骨形成を上回ると、骨量が減少したり、骨がもろくなり骨折しやすくなったりする。
【0003】
このような破骨細胞の働きが優位な状態の疾患に対しては、一般的に、デノスマブ等の抗RANKL抗体やビスホスホネート製剤等による投薬治療が行われる。しかし、抗RANKL抗体やビスホスホネート製剤は、破骨細胞の活動を抑制することで骨量を増加させるものの、長期投与すると適切な骨吸収が行われなくなること等により、顎骨壊死、大腿骨骨折等の副作用が生じることが問題となっている。このような問題を解決するために、新たな治療薬の開発が行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねていたところ、ヘパリンが破骨細胞への分化を抑制する作用を有することを見出した。本発明者はこれらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンを有効成分とする、破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤。
項2.
高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンがヘパリンのアルカリ土類金属塩である、項1に記載の予防又は治療剤。
項3.
高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンがヘパリンカルシウムである、項2に記載の予防又は治療剤。
項4.
前記破骨細胞増殖性疾患が、骨巨細胞腫を含む良悪性骨軟部原発性腫瘍、がんの骨転移、骨粗鬆症、関節リウマチに伴う骨びらん、骨Paget病、SAPHO症候群、及び慢性再発性多発性骨髄炎からなる群より選択される少なくとも1種である、項1から3のいずれかに記載の予防又は治療剤。
項5.
高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンを含む、破骨細胞分化抑制剤。
【発明の効果】
【0008】
破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】各濃度のヘパリンカルシウムを添加した際の、TRAP染色写真を示す。
【
図1B】各濃度のヘパリンカルシウムを添加した際の、TRAP染色写真を示す。
【
図2】各濃度のヘパリンカルシウムを添加した際の、破骨細胞数を示す。
【
図3A】ヘパリンカルシウム0 IU/kgを投与したマウスのTRAP染色写真を示す。
【
図3B】ヘパリンカルシウム100 IU/kgを投与したマウスのTRAP染色写真を示す。
【
図3C】ヘパリンカルシウム500 IU/kgを投与したマウスのTRAP染色写真を示す。
【
図4】骨巨細胞腫局所再発+肺転移患者のヘパリンカルシウム投与前(左上)、ヘパリンカルシウム投与後(右上)、ワーファリン変更後(左下)、及び再度ヘパリンカルシウム投与後(右下)の腫瘍写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0011】
本発明は、高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンを有効成分とする、破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤を包含する。本明細書において、当該破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療剤を、「本発明の予防又は治療剤」と表記することがある。
【0012】
ヘパリンとは、ウロン酸とグルコサミンの繰り返し構造を有する酸性ムコ多糖類である。
ヘパリンとしては、特に限定されないが、天然物から精製したものや商業的に入手可能なものなどが例示される。ヘパリンとしては、例えば、健康な豚、牛等の肝、肺、腸粘膜等から分離したもの等が挙げられる。
【0013】
本明細書において、「未分画ヘパリン」とは、分子量が、例えば、6000~20000程度の広い分子量分布を有するヘパリンを意味する。分子量の上限又は下限は、例えば、7000、8000、9000、10000、12000、14000、16000、又は18000程度であってもよい。より具体的には、7000~18000程度であってもよい。未分画ヘパリンとしては、酵素処理や化学的処理により低分子化されていないヘパリン等が例示される。
【0014】
本発明に用いられる未分画ヘパリンは、数平均分子量が、例えば、6000~20000程度のヘパリンが挙げられる。数平均分子量の上限又は下限は、例えば、7000、8000、9000、10000、12000、14000、16000、又は18000程度であってもよい。より具体的には、7000~18000程度であってもよい。
【0015】
本明細書において、「高分子ヘパリン」とは、分子量が、例えば、6000以上程度のヘパリンを意味する。分子量の上限又は下限は、例えば、7000、8000、9000、10000、12000、14000、16000、18000、又は20000程度であってもよい。
【0016】
本発明に用いられる高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンとしては、例えば、分子量が、6000以上程度の高分子ヘパリンを含み、分子量が、例えば、6000~20000程度の未分画ヘパリン等が挙げられる。
【0017】
本明細書において、「ヘパリン」は、ヘパリンの塩をも包含する。
本発明に用いられる高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンは、例えば、塩の形態であってもよい。具体的には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが例示される。アルカリ金属塩としては、例えば、ヘパリンナトリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としては、例えば、ヘパリンカルシウム等が挙げられる。中でも、ヘパリンのアルカリ土類金属塩が好ましく、とりわけヘパリンカルシウムが特に好ましい。
なお、ヘパリンは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明の予防又は治療剤中、高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンの含有量は、特に限定されず、100質量%を限度として適宜設定することができる。
【0019】
本発明の予防又は治療剤は、上述した有効成分を含み、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、保存剤、コーティング剤、着色料、胃粘膜保護剤などのその他の薬剤等)等が例示される。
【0020】
本発明の予防又は治療剤の形態は、特に限定されず、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤、注射剤、硬膏剤、エキス剤、坐剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、点鼻剤、吸入剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤等が例示される。中でも注射剤が好ましい。
【0021】
本発明の予防又は治療剤は、上述した有効成分と、必要に応じて他の成分とを組み合わせて常法により調製することができる。
【0022】
破骨細胞増殖性疾患としては、骨巨細胞腫を含む良悪性骨軟部原発性腫瘍、がんの骨転移、骨粗鬆症、関節リウマチに伴う骨びらん、骨Paget病、SAPHO症候群、慢性再発性多発性骨髄炎等が例示される。
【0023】
本発明の予防又は治療剤は、破骨細胞への分化を抑制することができるため、骨巨細胞腫を含む良悪性骨軟部原発性腫瘍、がんの骨転移、骨粗鬆症、関節リウマチに伴う骨びらん、骨Paget病、SAPHO症候群、慢性再発性多発性骨髄炎等の破骨細胞増殖性疾患の予防又は治療のために用いることができる。破骨細胞増殖性疾患は、1種単独であってもよく又は2種以上の組み合わせてであってもよい。
【0024】
本発明の予防又は治療剤を投与される対象としては、哺乳動物が好ましい。ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物であってもよい。対象となるヒトとしては、例えば、骨巨細胞腫を含む良悪性骨軟部原発性腫瘍患者、骨巨細胞腫を含む良悪性骨軟部原発性腫瘍が疑われるヒト;がんの骨転移が認められるヒト、がんの骨転移が疑われるヒト;癌患者;原発性骨粗鬆症患者、薬剤、生活習慣病、リウマチ、腎症等に由来する続発性骨粗鬆症患者、骨粗鬆症が疑われるヒト;関節リウマチ患者、関節リウマチに伴う骨びらんが認められるヒト、関節リウマチが疑われるヒト;骨Paget病患者、骨Paget病が疑われるヒト;SAPHO症候群患者、SAPHO症候群が疑われるヒト;慢性再発性多発性骨髄炎患者、慢性再発性多発性骨髄炎患者が疑われるヒト等が挙げられる。
また、非ヒト哺乳動物としては、例えばペット、家畜、実験動物等として飼育される哺乳動物などが例示される。このような非ヒト哺乳動物としては、例えば、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が挙げられる。
【0025】
投与方法としては、例えば、経口投与、非経口(例えば静脈、動脈、筋肉、皮下、腹腔、直腸、経皮、局所など)投与等が挙げられる。中でも、非経口投与が好ましく、皮下投与、静脈内注射がより好ましい。
【0026】
本発明の予防又は治療剤の投与(摂取)量は、特に限定されず、投与する対象の年齢、性別、症状の程度、投与方法等により決定される。例えば、有効成分の投与量として、1日あたり50~1000IU/kg体重程度とすることができる。
【0027】
本発明の予防又は治療剤は、1日1回投与するものであってもよく、1日2~3回に分けて投与するものであってもよい。
【0028】
また、本発明は、高分子ヘパリンを含む未分画ヘパリンを含む、破骨細胞分化抑制剤をも包含する。なお、破骨細胞分化抑制作用とは、前駆細胞の破骨細胞への分化を抑制する作用を意味する。前駆細胞の破骨細胞への分化は、後述する実施例に示すように、破骨細胞をTRAP染色することにより確認することができる。
【0029】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本発明は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0030】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0031】
本発明の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「体積%」を意味する。
【0032】
(1)in vitroにおける破骨細胞分化抑制実験
マウスの破骨細胞前駆細胞様細胞株RAW264.7を96穴プレートに5x10
3 cells/wellの濃度で播種し、α-Minimum Essential Medium (a-MEM)、10%ウシ胎仔血清(FBS)を使用して、破骨細胞への分化因子としてマウス可溶性RANKL(100ng/ml)を添加し、37℃、5%CO
2気相下で培養した。同時にヘパリンカルシウム分子量6000~20000を各濃度(0, 0.1, 0.5, 1, 10 IU/ml)にて加えた。培養3日目に同じ条件のヘパリンカルシウムを含む溶液に交換し、培養7日目にTRAP染色を実施した。TRAP染色陽性細胞を分化した破骨細胞と評価して、染色性を写真で評価した。また1wellあたりの破骨細胞数を計測した。ヘパリン各濃度における4wellの平均破骨細胞数を計測した。結果を
図1及び2に示す。
【0033】
ヘパリン濃度に比例して、TRAP染色陽性細胞(破骨細胞)が減少したことが確認された。よって、ヘパリンを添加することによって、破骨細胞への分化が抑制されることが分かった。
【0034】
(2) in vivoにおけるマウスにおける破骨細胞の発現抑制実験
12週齢のC57BL/6マウスにビタミンD欠乏食を20週齢時まで8週間投与し、20週齢時から3群に分け、分子量6000~20000のヘパリンカルシウム0(5匹), 100(4匹), 500(4匹)IU/kgを皮下注で1日1回の頻度で32週齢時まで毎日投与し、その時点で大腿骨を摘出した。ビタミンD欠乏食は32週齢時まで継続して与えた。ホルマリン固定後、TRAP染色を実施して、大腿骨遠位骨幹端から骨端までに発現する破骨細胞を評価した。結果を
図3に示す。
【0035】
ヘパリン濃度に比例して、TRAP染色陽性細胞(破骨細胞)が減少したことが確認された。よって、ヘパリンを添加することによって、破骨細胞への分化が抑制されることが分かった。
【0036】
(3) 骨巨細胞腫局所再発+肺転移患者に対する、ヘパリンカルシウム投与の治療効果
骨巨細胞腫局所再発+肺転移患者に対して、分子量6000~20000のヘパリンカルシウム1日40000IUを皮下注射で投与したところ病変は著明に縮小した。しかしヘパリンカルシウムを経口ワーファリンに変更したところ病変は増大し、その後、分子量6000~20000のヘパリンカルシウム1日40000IU皮下注射に戻したところ再度腫瘍は縮小した。ヘパリンカルシウムを1週に2回、1回20000IU皮下注射投与まで減量したが、腫瘍は縮小したままで維持されている。ヘパリンカルシウム投与前(左上)、ヘパリンカルシウム投与後(右上)、ワーファリン変更後(左下)、及び再度ヘパリンカルシウム投与後(右下)の腫瘍写真を
図4に示す。