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特開2022-99758耐食性・溶接性・耐酸化性に優れるFe-Ni-Cr合金とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099758
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】耐食性・溶接性・耐酸化性に優れるFe-Ni-Cr合金とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220628BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20220628BHJP
   C21C 7/10 20060101ALN20220628BHJP
   C21C 7/072 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C21C7/10 J
C21C7/072 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213742
(22)【出願日】2020-12-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 和人
(72)【発明者】
【氏名】福山 智史
(72)【発明者】
【氏名】矢部 室恒
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013CA02
4K013CA04
4K013CA09
4K013CE04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐酸化、耐食、溶接性に優れたシーズヒーター被覆管用Fe-Ni-Cr合金を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.18~1.00%、Mn:0.20~0.80%、P:0.030%以下、S:0.0001~0.0020%、Ni:12~21%、Cr:18~24%、Mo:0.20~1.50%、Cu:0.30%以下、Al:0.10~0.70%、Ti:0.10~0.70%、N:0.002~0.015%、B:0.0001~0.0010%、O:0.0002~0.0030%、Ca:0.002%以下、LaまたはCeまたはYのいずれか一種または二種以上の総重量REM:0.0010~0.0150%、残部Fe並びに不可避的不純物からなり、Ni、Cr、Mo、P、Al、REM、Oの各含有量が特定の式の関係を満たすことを特徴とするFe-Ni-Cr合金。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.18~1.00%、Mn:0.20~0.80%、P:0.030%以下、S:0.0001~0.0020%、Ni:12~21%、Cr:18~24%、Mo:0.20~1.50%、Cu:0.30%以下、Al:0.10~0.70%、Ti:0.10~0.70%、N:0.002~0.015%、B:0.0001~0.0010%、O:0.0002~0.0030%、Ca:0.002%以下、LaまたはCeまたはYのいずれか一種または二種以上の総重量(REM):0.0010~0.0150%、残部Fe並びに不可避的不純物からなり、下記式1、2(式中、各元素の表記は、Fe基合金中における該元素の含有量(質量%)を意味する。)の関係を満たすことを特徴とするFe-Ni-Cr合金。
0.575×Ni+1.25×Cr+3.43×Mo-39×P-5.3×Al-641×REM-1018×O ≧ 20.0 …(式1)
1.5×Mn+41.3×Si+1469×S-1.67×Al-1.34×Ti-150×O-620×REM ≧ 5.0 …(式2)
【請求項2】
内在する化合物は、REM酸化物、Ti窒化物、Ti炭窒化物、Ca-Al酸化物、Mg酸化物からなり、合金の任意の断面における面積率が0.50%以下であることを特徴とする請求項1に記載のFe-Ni-Cr合金。
【請求項3】
下記式3、4(式中、各元素の表記は、Fe基合金中における該元素の含有量(質量%)を意味する。)の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のFe-Ni-Cr合金。
Al-1.1×Ti ≧ 0 …(式3)
0.4×Si+1.7×Ni+1.1×Cr+5.4×Al+3.2×Ti+4923×REM-2425×B-744×N-1213×S ≧ 49.0 …(式4)
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のFe-Ni-Cr合金の製造方法であって、
合金組成は、合金原料を溶解した後、精錬を行うことによって調整を行い、
精錬では溶解させた合金原料(溶融合金)に酸素およびアルゴンの混合ガスを吹き込み脱炭し、窒素濃度を0.002~0.015%に制御した後、クロム還元し、その後、アルミニウム、石灰石および蛍石を溶融合金に添加して、CaO-SiO-Al-MgO-F系のスラグを形成し、溶融合金中の酸素濃度を0.0002~0.030%とし、その後にLaまたはCeまたはYのいずれかの一種または二種以上の原料を添加することを特徴とするFe-Ni-Cr合金の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のFe-Ni-Cr合金から成る被覆管を有することを特徴とするシーズヒーター。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーズヒーター用に最適な耐食性・溶接性・耐酸化性に優れるFe-Ni-Cr合金とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気調理器や電気温水器などの熱源にはニクロム線を使用したシーズヒーターが多く用いられている。このシーズヒーターは一般的に、金属材料を帯状の板材端部を溶接することで環状の被覆管とし、その中にニクロム線、マグネシア粉末などを充填し、電気を流して発熱させる密封した構造となっている。シーズヒーターは火気を使用せずに通電のみで加熱を行うことができるため、安全性が高く、近年その需要は拡大している。
【0003】
しかしながら、シーズヒーターはその構造や、金属被覆管の耐酸化性、耐食性、溶接部の表面欠陥の有無などにより製品寿命が大きく左右される。金属被覆管に穴が開いた場合や亀裂が生じた場合には、その内部にあるニクロム線の断線を引き起こし、発熱体としての機能を失うこととなる。
【0004】
シーズヒーターの製品寿命を左右する特性の中でも、耐酸化性は重要である。シーズヒーターはニクロム線への通電により被覆管の表面温度が上昇するが、耐酸化性の低い金属を使用した場合は、表面温度の上昇に対し、金属の酸化が著しく早い速度で進行し、また、その酸化皮膜が剥離しやすくなる。酸化の進行と酸化皮膜の剥離の結果、被覆管の金属部が減肉し、穴開きや亀裂の原因となってしまう。
【0005】
また、耐食性もシーズヒーターの製品寿命を左右する重要な特性のひとつである。耐酸化性に優れる金属材料であったとしても、耐食性が低い場合、湿潤環境で使用を開始した早い段階から腐食が進行し、被覆管の穴開きや破断に至る。
【0006】
通常であれば、湿潤環境で使用したヒーターをそのまま耐酸化性が必要な高温用途で使う様な家電装置は無い。しかしながら、市場からのコストダウン要求を満足するために同じデザインとすることで設計、製造のコストを低減する取り組みが実行されつつあり、これに対応する様な材料が求められている。
【0007】
さらに、溶接部の表面状態もシーズヒーターの製品寿命に影響を及ぼす。シーズヒーター製品は帯状の板材を丸めて環状とした後に連続的に溶接することで細径管とする。溶接時に生じる溶接部の凹凸は研磨を施し、除去するのが一般的であるが、完全に除去するには工数を要し、生産性を著しく低下させる。また、これらの欠陥が除去されずに残存した場合には製品加工時の曲げ割れにつながることがあり、加工時に割れなくとも、使用時の耐食性、耐酸化性を低下させ、製品寿命を短くする原因となる。よって、溶接後も表面に欠陥がなく、研磨がほぼ必要ない状態が望ましい。
【0008】
シーズヒーターの被覆管には従来、高耐食性の材料であるAlloy840やAlloy800などが用いられてきた。耐食性を向上させるための金属材料として、特許文献1には、母材や溶接部の耐食性のみならず溶接部の加工性にも優れる被覆管用オーステナイト系Fe-Ni-Cr合金が開示されている。
【0009】
しかしながら、これらの材料は主に湿潤環境下での耐食性の向上を目的としたものであり、溶接部の耐食性、加工性においては考慮しているものの、特に室温と1000℃程度の高温を繰り返すようなサイクル試験で評価される耐酸化性については製品寿命に影響が大きいにもかかわらず、考慮がされていない。湿潤環境下での耐食性や、高温、低温を繰り返すような耐酸化性が必要とされる多様な環境下においての金属被覆管の特性としては不十分であった。
【0010】
また、特許文献2には、黒化性と溶接性に優れ、表面疵が発生しにくい安価なシーズヒーターの被覆管用合金が提案されている。これらの材料は放射率に優れた黒色保護皮膜を形成するためにAl、Ti量を添加しながら製造時の表面疵の影響を考慮し、Al+Ti量を規定している。しかし黒化性、表面疵、放射率といった特性向上は考慮されているが、高温と低温の繰り返し酸化試験に耐えうるような耐酸化性については考慮がなされておらず、本合金の特性ではシーズヒーター用途合金として不十分であった。また、耐食性についても添加元素による析出物等の影響が考慮されておらず、腐食性の高い雰囲気での使用に耐えうるものではなく、金属被覆管の特性としては不十分であった。
【0011】
特許文献3には、Al、Si、Ca、Y、La、Ceを添加し、耐高温腐食特性に優れた複層鋼材が提案されている。これらの材料は耐酸化性に優れており、燃焼環境中の塩化物および塩化水素ガス等に対して優れた耐高温腐食特性を有している。しかし、その他環境、たとえば湿潤環境においてはAl、La、Ce、Y、Caなどの悪影響により耐食性が不十分である。また、溶接性においては検討されておらず、La、Ce、Y、Ca等の悪影響により不十分であることが考えられる。さらに、合金粉末を焼結する製造方法のため、生産性が低く、本発明のようなシーズヒーター用合金への適用は難しいといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2014―84493号公報
【特許文献2】特開2004―197122号公報
【特許文献3】特開平6―330226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、シーズヒーターの被覆管として必要な耐酸化性、耐食性、溶接性に優れるFe-Ni-Cr合金で、近年取り組みが始まっている1つの材料で湿潤環境、高温環境の両方で使用可能な材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた。室温から1000℃を繰り返すようなサイクル試験において評価する耐酸化性はシーズヒーター製品の寿命にとって大きな影響を及ぼす特性である。そのため、耐酸化性を向上させる元素、低下させる元素について調査を行った。その結果、耐酸化性向上のためにはLa、Ce、Yの添加が極めて有効であること、その他の元素としてSi、Ni、Alも有効であることが分かった。一方、B、N、Sを含有した場合においてはその耐酸化性の向上が失われ、シーズヒーターの製品寿命が短くなることが明らかとなった。特にBは添加量が増えると悪影響が顕著となった。La、Ce、Y添加時の耐酸化性を確保するにはSi、Ni、Al、B、N、Sの制御が必要であることを確認した。
【0015】
また、耐酸化性向上のために添加したLa、Ce、YはO、Pと酸化物系の介在物やリン化合物を形成し、塩化物イオンを含む湿潤環境下においてはシーズヒーターの特性に必要な耐食性を低下させることが明らかとなった。耐食性低下の原因を詳細に調査したところ、酸素系化合物やリン化合物が母材よりも優先的に溶解しており、孔食の起点となっているためと考えられた。耐食性を改善するためにはLa、Ce、Yに加え、Ni、Cr、Mo、P、Al、Ca、Oの組成バランスを最適な範囲に制御することで母材の耐食性を確保し、酸化物系の化合物やリン化合物の形成を抑制する必要があることを見出した。つまり、Alを適切に添加することにより、酸素濃度を低く抑えることで、La、Ce、Yを効果的に合金に固溶させて、これらの元素の効力を十分発揮するように制御することが肝要である。また、Alを添加して、脱酸を進行させることで、脱硫して硫黄濃度を訂正な範囲に制御できる。しかしながら、酸素は低すぎると、製錬中に溶融スラグからCaOが還元されて、Ca含有酸化物を合金中に形成してしまう。これはシーズヒーターが使用される湿潤環境において容易に溶解して孔食の起点となり耐食性を低下させることが分った。
【0016】
La、Ce、Yを添加したFe-Ni-Cr合金を溶接した場合、溶接ビード部の形状が悪化し、ビード部に凹凸が発生する。ビード部の凹凸は研磨しない場合、製品化加工時の曲げ割れにつながることがあり、加工時に割れない場合であっても、使用時の耐酸化性を低下させることや孔食の起点となりうる。ビード部の形状と母材成分との関連を詳細に調査したところ、これら形状悪化の程度はLa、Ce、YやSi、Mn、S、Al、Ti、Oの添加量と相関関係があり、これら成分のバランスを調整することで、ビード部の形状を問題ないレベルに制御できることを見出した。また、Al、Ti量のバランスを制御するとREM(Rare Earth Metal)添加材におけるテンパーカラー着色を効果的に抑制できることも判った。
【0017】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
すなわち、本発明のFe-Ni-Cr合金は、質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.18~1.00%、Mn:0.20~0.80%、P:0.030%以下、S:0.0001~0.0020%、Ni:12~21%、Cr:18~24%、Mo:0.20~1.50%、Cu:0.30%以下、Al:0.10~0.70%、Ti:0.10~0.70%、N:0.002~0.015%、B:0.0001~0.0010%、O:0.0002~0.0030%、Ca:0.002%以下、LaまたはCeまたはYのいずれか一種または二種以上の総重量(REM):0.0010~0.0150%、残部Fe並びに不可避的不純物からなり、下記式1、2(式中、各元素の表記は、Fe基合金中における該元素の含有量(質量%)を意味する。)の関係を満たすことを特徴とする。
0.575×Ni+1.25×Cr+3.43×Mo-39×P-5.3×Al-641×REM-1018×O ≧ 20.0 …(式1)
1.5×Mn+41.3×Si+1469×S-1.67×Al-1.34×Ti-150×O-620×REM ≧ 5.0 …(式2)
【0018】
本発明においては、内在する化合物は、REM酸化物、Ti窒化物、Ti炭窒化物、Ca-Al酸化物、Mg酸化物からなり、合金の任意の断面における面積率が0.50%以下であることを好ましい態様としている。
【0019】
本発明においては、下記式3、4(式中、各元素の表記は、Fe基合金中における該元素の含有量(質量%)を意味する。)の関係を満たすことを好ましい態様としている。
Al-1.1×Ti ≧ 0 …(式3)
0.4×Si+1.7×Ni+1.1×Cr+5.4×Al+3.2×Ti+4923×REM-2425×B-744×N-1213×S ≧ 49.0 …(式4)
【0020】
また、本発明は、上記Fe-Ni-Cr合金の製造方法であって、合金組成は、合金原料を溶解した後、精錬を行うことによって調整を行い、精錬では溶解させた合金原料(溶融合金)に酸素およびアルゴンの混合ガスを吹き込み脱炭し、窒素濃度を0.002~0.015%に制御した後、クロム還元し、その後、アルミニウム、石灰石および蛍石を溶融合金に添加して、CaO-SiO-Al-MgO-F系のスラグを形成し、溶融合金中の酸素濃度を0.0002~0.0030%とし、その後にLaまたはCeまたはYのいずれかの一種または二種以上の原料を添加することを特徴とする。
【0021】
本発明のシーズヒーターは、上記のFe-Ni-Cr合金から成る被覆管を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、シーズヒーターの被覆管として必要な耐酸化性、耐食性、溶接性に優れるFe-Ni-Cr合金、およびその製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】耐食性に及ぼす化学組成の影響を示す式1と孔食電位の関係を示すグラフである。
図2】溶接性に及ぼす化学組成の影響を示す式2とリップル個数の関係を示すグラフである。
図3】溶着金属周辺の着色に及ぼすAl、Ti量の関係を示すグラフである。
図4】耐酸化性に及ぼす化学組成の影響を示す式4と重量変化の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の形態について具体的に説明する。なお、以下の説明において、Fe-Ni-Cr合金の組成および溶解した合金原料(溶融合金)の組成における各元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であり、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0025】
C:0.001~0.050%
合金中のCはオーステナイト相を安定化する元素である。また、固溶強化によって合金強度を高める効果を有するので、常温および高温での強度を確保するために0.001%以上の含有が必要である。一方で、Cは耐食性を改善する効果の大きいCrと炭化物を形成し、その近傍にCr欠乏層を生じさせ、耐食性の低下を引き起こすため、含有量の上限は0.050%とする必要がある。好ましいCの含有量は0.002~0.045%であり、より好ましくは0.002~0.040%である。
【0026】
Si:0.18~1.00%
合金中のSiは酸化皮膜と母材の密着性を向上させ、安定した皮膜の形成に有効な元素である。また、溶接時の溶け込みや溶融金属の流動性を向上させ、大きなリップルの形成防止に効果があるため、下限を0.18%とする。一方で過剰な添加は介在物起因の表面疵を発生させる原因ともなるため、上限は1.00%とする。好ましいSiの含有量は0.20~0.95%であり、より好ましくは0.22~0.90%である。
【0027】
Mn:0.20~0.80%
合金中のMnはオーステナイト相を安定化する元素であり、脱酸に必要な元素である。さらに、Mnは溶接時には過剰なSを固着し、溶接割れを防ぐ効果がある。また、溶接ビード表面のリップルを小さくする効果がある。そのため、下限を0.20%とする。一方で過剰な添加は耐酸化性、耐食性の低下につながるため、上限を0.80%とする。好ましいMnの含有量は0.23%~0.75%であり、より好ましくは0.25~0.70%である。
【0028】
P:0.030%以下
合金中のPは本合金においてLa、Ce、Yと化合物を形成し、耐食性を低下させる有害元素であるため上限を0.030%とする。好ましいPの含有量は0.026%以下であり、より好ましくは0.022%以下である。
【0029】
S:0.0001~0.0020%
合金中のSは溶接時において溶融金属の流動性を高める効果があり、融合不良やスラグの巻き込みのリスクを低下させる効果や大きなリップル形成の防止に効果がある。一方で、合金中のSは粒界に偏析して低融点化合物を形成し、製造時に熱間割れ等を引き起こし、生産性を著しく低下させる。また、高温、低温を繰り返すようなサイクル試験においてSは酸化皮膜と母材の密着性を低下させることで酸化皮膜を脱落させ、酸化を促進させてしまう。耐酸化性に対しても有害な元素であるため、範囲を0.0001~0.0020%とする。より好ましい範囲は0.0002~0.0015%であり、特に好ましい範囲は0.0003~0.0010%である。
【0030】
Ni:12~21%
合金中のNiはオーステナイト相安定化元素であり、耐酸化性や高温強度を向上させる。組織の安定性、耐酸化性、高温強度を保つためにも下限を12%以上とする。一方で、過剰な添加は黒化性を低下させ、原料コストの上昇も招く。このため、含有量の上限は21%とする。含有量の好ましい範囲は12.5~20.0%、特に好ましい範囲は13.0~19.5%である。
【0031】
Cr:18~24%
合金中のCrは湿潤環境下における耐食性の向上に有効な元素であり、高温大気環境下における腐食を抑制し、耐酸化性を向上させる効果がある。そのため、耐食性、耐酸化性確保のために下限は18%とする。一方で、含有量が多すぎるとオーステナイト相の安定性を低下させ、耐食性の低下につながるため、上限を24%とする。含有量の好ましい範囲は18.5~23.4%であり、特に好ましい範囲は19.0~22.5%である。
【0032】
Mo:0.20~1.50%
合金中のMoは少量の添加でも湿潤環境の耐食性を著しく向上させる効果がある。そのため、下限を0.20%とする。ただし、多量に添加した場合、シーズヒーターの製造過程における中間熱処理において、合金中のMoが優先酸化を起こし、酸化皮膜の剥離が生じ、悪影響を及ぼす場合がある。そのため上限を1.50%とする。含有量の好ましい範囲は0.25~1.40%、特に好ましい範囲は0.30~1.30%である。
【0033】
Cu:0.30%以下
合金中のCuはオーステナイト相を安定化させ、材料強度を軟化させる効果がある。ただし、過剰の添加は溶接時の割れを生じさせるため、上限を0.30%とする。含有量の好ましい上限は0.25%、特に好ましい上限は0.20%である。
【0034】
Al:0.10~0.70%
合金中のAlは脱酸材として添加される元素であり、(1)式に従い酸素濃度を本願発明の範囲:0.0002~0.0030%に制御するため重要な元素である。
Al + 3 = (Al) …(1)
下線は溶鋼中元素を表し、括弧はスラグ中成分を示す。
本願発明鋼の精錬時にCaO-SiO-Al-MgO-F系のスラグを用いることで、生成したアルミナを効果的に吸収して酸素濃度を制御することが可能である。また、脱酸が進行することで、(2)式に従い溶鋼中のS濃度も低下する。
Al + 3 + 3(CaO) = 3(CaS) + (Al) …(2)
これによって、硫黄濃度を本願発明の範囲:0.0001~0.0020%に制御できる。
このため、Alは0.10%以上が必要である。Alは緻密な皮膜の形成を促し、耐酸化性を向上させ、REM添加材において溶接時の着色を効果的に抑制する元素であるため、0.10%以上必要である。一方で過剰なAlの添加は、Ca濃度を、(3)式にしたがって、0.002%を超えて高くしてしまう。
3(CaO) + 2Al = (Al) + 3Ca …(3)
さらに、過剰なAlの添加は、合金中の窒素と結合し、多量の窒化物を生成し、表面疵の発生原因となり、溶接ビードのリップルを大きくする。また、酸素と結合した場合は大型介在物となり、耐食性低下の原因となるため上限は0.70%とする。含有量の好ましい範囲は0.13~0.68%、特に好ましい範囲は0.15~0.65%である。
【0035】
Ti:0.10~0.70%
合金中のTiは緻密な皮膜の形成を促し、耐酸化性を効果的に向上させる元素であるため、下限を0.10%とする。一方で過剰なTiの添加は合金中の窒素と結合し、多量の窒化物を生成し、表面疵の発生原因となる。また、過剰な添加は溶接ビードのリップルを大きくし、REM添加材における溶接時の着色も促進するため上限は0.70%とする。含有量の好ましい範囲は0.13~0.65%、特に好ましい範囲は0.15~0.60%である。
【0036】
N:0.002~0.015%
合金中のNは、機械的性質を高める元素であり、オーステナイト相を安定させる効果もある。そのため、Nの下限は0.002%とする。一方で、NはAl、Tiと窒化物を形成し、表面疵の原因となるだけでなく、Al、Tiの効果である耐酸化性を低減させてしまう。そのため、上限は0.015%とする。好ましい範囲は0.003~0.013%、特に好ましくは0.004~0.012%である。Nを本願発明の範囲に制御するには、精錬時に本願発明の溶鋼にArと酸素の混合ガスを吹き込み、脱炭する工程でCOガスを発生させる時に、溶鋼中窒素は(4)式に従って、窒素が低下して、本願発明の範囲に制御することが出来る。
= N(g) …(4)
【0037】
B:0.0001~0.0010%
合金中のBは熱間加工性を改善する元素であり、通常は熱間加工時や熱間鍛造時において、熱間圧延割れ、表面疵を低減する効果がある。そのため、下限を0.0001%とする。しかし、Bは合金の酸化スケールをポーラス状とし、耐酸化性を低下させてしまう。そのため、含有量の上限は0.0010%とする。含有量の好ましい範囲は0.0002~0.0009%、特に好ましい範囲は0.0003~0.0008%である。
【0038】
O:0.0002~0.0030%
合金中のOは溶鋼中でAl、Ti、Si、La、Ce、Yと結合し、酸化物を形成して、表面疵、耐食性低下の原因となり、溶接ビードのリップルを大きくする。そのため、酸素濃度は0.0030%以下と低い方が望ましい。また、OがAl、Ti、Si、La、Ce、Yと結合することにより、それら元素の有用な効果、耐酸化性などを損なう原因となるため、上限を0.0030%とする。この範囲を達成するには、Alを上記した通りに本願発明の濃度に制御して、脱酸すれば良い。一方で、合金中のOを低減しすぎると、(3)式に従い、Ca濃度が0.002%を超えて高くなってしまう。したがって、下限は0.0002%とする。含有量の好ましい範囲は0.0003~0.0027%、特に好ましい範囲は0.0005~0.0025%である。
【0039】
Ca:0.002%以下
Caは本発明合金において、上述の通りスラグ中CaOから混入する元素である。CaはCa-Al酸化物系介在物を多く形成し、耐食性を低下させるため低く抑える必要がある。上述の通り、そのためには、Alの濃度は0.10~0.70%に制御して、酸素濃度を0.0002~0.0030%にする必要がある。したがって、Caは0.002%以下にする必要がある。
【0040】
La、Ce、Yのいずれか一種または二種以上の総重量(REM):0.0010%~0.0150%
合金中のLa、Ce、Yは酸化皮膜と母材合金の密着性を高め、耐酸化性を大きく向上させる効果があるため、下限を0.0010%とする。一方でLa、Ce、YはO、Pと結合し、酸化物、リン化合物となり、耐食性を大きく低下させる原因となる。さらに、La、Ce、Yの過剰な添加は溶接時のビード部の形状を悪化させ、ビード部に凹凸を発生させる原因となる。これら耐食性低下、溶接性低下は製品としてのシーズヒーターの寿命を著しく短くするものであり、添加による耐酸化性向上の効果を打ち消す程である。そのため、上限を0.0150%とする。好ましい範囲は0.0015~0.0140%であり、特に好ましい範囲は0.0020~0.0130%である。
【0041】
式1 0.575×Ni+1.25×Cr+3.43×Mo-39×P-5.3×Al-641×REM-1018×O ≧ 20.0
REMを添加した材料で耐食性に影響する元素について、その影響の程度を回帰分析により式として表したものである。前述のとおり、La、Ce、Yは酸素系介在物やリン化合物を形成し、それらが起点となって孔食の起点となることで、耐食性の低下を招く。よって酸素系介在物やリン化合物の形成を抑制し、かつNi、Cr、Moにより母材の耐食性を確保する必要がある。また、La、Ce、Yでなくとも、Alの酸化系介在物によっても耐食性は低下するため、前述の通りAl量においても、できる範囲で低下することが望ましい。よって下限を20.0以上とする。好ましくは23.0以上であり、より好ましくは26.0以上である。
【0042】
式2 1.5×Mn+41.3×Si+1469×S-1.67×Al-1.34×Ti-150×O-620×REM ≧ 5.0
REMを添加した合金の溶接ビードの表面凹凸に影響する元素について、その影響の程度を回帰分析により式として表したものである。Si、Sは溶接時の溶け込みや湯流れを向上させる元素であり、Mnは溶接割れを防止させる効果をもつ。これらの元素を添加することで、溶接後の割れだけでなく、溶接ビード部の表面凹凸が少なくなった。一方でAl、Tiは酸化物や窒化物を形成し、La、Ce、Yは酸素やリンと酸化物、リン化合物を形成することで表面ビード部の凹凸を大きくしてしまう。そのため、これらの元素は下限を5.0以上とする。好ましくは7.0以上であり、より好ましくは10.0以上である。
【0043】
化合物の組成と面積率
当該合金中に内在する化合物はREM酸化物、Ti窒化物、Ti炭窒化物であり、REM酸化物には、Ni、P、Si、Sの元素を1%以下含有する。これ以外には、微量ではあるが、Al-Ca酸化物、Mg 酸化物が含有される。これら化合物は腐食発生の起点となるため、断面の面積率は0.50%以下と極めて少なくする必要がある。より少ない方が好ましく、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下である。これを達成するためには上記のAl濃度の制御に伴う、酸素濃度の適正範囲への制御、ならびにCa濃度の制御が必要である。すなわち、Al濃度を0.10~0.70%に制御して、酸素濃度が0.0002~0.0030%であれば、La、Ce、Yは合金中に効果的に固溶して、その効力を十分に発揮するとともに、Ca濃度も高くならず、耐食性を損なわない。さらに、N濃度を、上記した通り、Arと酸素の混合ガスを吹き込み、脱炭する工程でCOガスを発生させる時に、溶鋼中窒素を本願発明の範囲0.002~0.015%に制御して、かつTi濃度を0.10~0.70%に制御することで、Ti窒化物、Ti炭窒化物を少なく制御できる。つまり、合金中に形成する化合物は、Al、Ti、N、O濃度を本願発明の範囲に制御することで、本願要求の特性を満足することが出来るわけである。
【0044】
式3 Al-1.1×Ti ≧ 0
REM添加合金の溶接ビードの着色、つまりテンパーカラーの色合いを制御ための関係式である。酸化被膜の構成元素を調整することでより淡い色としその後の除去を容易とするものである。そのため、0以上とする必要がある。好ましくは0.02以上、より好ましくは0.05以上である。
【0045】
式4 0.4×Si+1.7×Ni+1.1×Cr+5.4×Al+3.2×Ti+4923×REM-2425×B-744×N-1213×S ≧ 49.0
シーズヒーター合金の耐酸化性に影響する元素について、その影響の程度を回帰分析により式として表したものである。Si、Ni、Cr、Al、La、Ce、Yは室温と1000℃程度の高温を繰り返すようなサイクル試験で評価される耐酸化性を向上させる。一方でBは含有量が多い場合、合金の酸化スケールをポーラス状とするため、高温時における酸化速度が増大し、スケールの増大と剥離を促進させてしまう。Nは耐酸化性向上に寄与するAlとAlNを形成し、Alの効果を減じてしまう。また、Sは酸化皮膜と母材の密着性を低下させることで酸化皮膜を脱落させ、酸化を促進させてしまう。そのため、これらの元素は下限を49.0以上とする。好ましくは50.0以上であり、より好ましくは51.0以上である。
【0046】
本発明の耐酸化性・耐食性・溶接性に優れるFe-Ni-Cr合金では、上記成分以外の残部はFe及び不可避的不純物である。
【0047】
上記式1の限定式の特定方法は、以下の通りである。
Fe-20%Ni-20%Cr-0.5%Moを基本組成とし、これのNi、Cr、P、Mo、Al、REMなどの添加量を種々変化させた各種合金を真空溶解炉で溶製し、熱間鍛造の後、8mmt×80mmwの熱間鍛造板を作製した。得られた熱間鍛造板を1200℃×10分の条件で固溶化熱処理、表面研削後に冷間圧延にて2mmtとした後、1050℃×1分の条件で固溶化熱処理を行った。その後、20mm×30mmに切断し、表面を湿式研磨#600で仕上げて試験片とした。得られた試験片で試験溶液を70℃の3.5%NaCl溶液に酢酸10ml/lを添加した溶液で、その他はJIS G 0577に準じた孔食電位測定を行い、アノード分極曲線において電流密度100 μA・cm-2に対応する電位を孔食電位とした。電気化学測定システムには北斗電工(株)社製HZ-5000を用い、参照電極として飽和カロメル電極(Sat.KCl、以下SCEとし、電位は全てSCE基準であり、単にVで表記する)、対極にはPtを用いた。例えば、0.07Vと書かれているものは0.07V vs. SCEを意味する。
【0048】
孔食試験で得られた孔食電位は、Ni、Cr、Moの添加で向上し、La、Ce、Y添加により大きく低下し、さらにP、Oの含有量も悪影響を及ぼしていることが明らかとなった。試験片の観察の結果、La、Ce、Yとの酸化物系介在物およびリン化合物が多く存在しており、それらが孔食の起点となったと考えられた。また、La、Ce、Yよりも孔食電位の低下に及ぼす影響は小さいものの、多量のAlはOとのスピネル系の介在物を生成し、孔食の起点となり、耐食性の低下を招いた。よって、耐食性の低下を防止するためにはLa、Ce、Y、P、O、Alを制御することが有効であることを見出した。また、母材の耐食性を向上させるためにはNi、Cr、Moの効果が認められたため、これらの元素とのバランスが必要となることを見出した。
【0049】
上記試験結果から、シーズヒーター合金の耐食性への添加元素の影響度合いが明らかとなり、重回帰分析により求めたのが、式1で表される成分組成の関係式である。シーズヒーターとして充分である耐食性を0.07Vとすると、式1の値を20. 0以上とすることで、酸化物、リン化合物を抑制し、La、Ce、Yによる耐食性の低下を防止できることが判明した。
【0050】
上記2式の限定式の特定方法は、以下の通りである。
Fe-20%Ni-20%Cr-0.5%Moを基本組成とし、上記と同じく添加量を変化させた各種合金を真空溶解炉で溶製し、熱間鍛造の後、8mmt×80mmwの熱間鍛造板を作製した。得られた熱間鍛造板を1200℃×10分の条件で固溶化熱処理、表面研削後に冷間圧延にて2mmtとした後、1050℃×1分の条件で固溶化熱処理を行った。試料を2mmt×80mmw×200mmLの寸法に調整し、熱処理によって生じた酸化被膜をショットブラストで除去し、試験片とした。アーク長2mm、Arガス流量10L/min、溶接速度300mm/min、溶接電流100Aの条件で試験片表面のビードオン溶接試験を行った。溶接後の試験片の溶接ビードが充分に安定している溶接終了点付近の箇所を選び、ビードの長さ30mm中にある高さ0.3mm以上のリップル(波目模様の凹凸)の個数をカラー3Dレーザ顕微鏡(キーエンス社製、VK-9710、倍率100倍)で測定し、評価した。ここで高さを0.3mmと区切った理由はこの高さ以上のリップルがある場合、研磨によって除去する時間が多く必要となるためである。
【0051】
上記試験によって、シーズヒーター合金の溶接性への添加元素の影響度合いが明らかとなり、Si、Mn、Sはリップルを小さくし、Al、Ti、O、REMは大きくすることが判った。これら結果より、リップル個数が3個以上となったものについて、組成の影響を重回帰分析により求めたのが式2である。これより、追加の研磨工数を要さず除去できるレベルである10個未満とするには、式2で5.0以上とすること必要であることを見出した。これにより、十分な溶接性を有していると評価できる。
【0052】
上記3式の限定式の特定方法は、以下の通りである。
Fe-20%Ni-20%Cr-0.5%Moを基本組成とし、上記と同じく添加量を変化させた各種合金を真空溶解炉で溶製し、熱間鍛造の後、8mmt×80mmwの熱間鍛造板を作製した。得られた熱間鍛造板を1200℃×10分の条件で固溶化熱処理、表面研削後に冷間圧延にて2mmtとした後、1050℃×1分の条件で固溶化熱処理を行った。試料を2mmt×80mmw×200mmLの寸法に調整し、熱処理によって生じた酸化被膜をショットブラストで除去し、試験片とした。アーク長2mm、Arガス流量10L/min、溶接速度300mm/min、溶接電流100Aの条件で試験片表面のビードオン溶接試験を行った。溶接後の試験片の溶接ビードが充分に安定している溶接終了点付近の箇所を選び、ビードの長さ40mm中におけるビードとビード周辺の着色の有無に注目し評価した。溶接ビードを実体顕微鏡(キーエンス社製、VK-9710、倍率100倍)で観察し、ビード幅とビード周辺の着色領域の比で評価し、1.5以下を良好とした。ビードの周辺が酸化により着色なければ、研磨はビードのみで良いが、着色が周辺まで及ぶとその領域まで研磨する必要がある。このため、研磨量を多く、すなわち研磨によって除去する時間が多く必要となるためである。
【0053】
上記試験によって、溶接ビードの着色への影響が明らかとなり、REM添加材におけるビード近傍の着色を抑制するにはAl、Tiの添加量を制御することが有効であることが判った。すなわち、研磨工数を適正とするには、Ti量よりもAl量をやや多めとすると良く、図3に示すようにAl量をTi量の1.1倍以上添加することで効果的に抑制できることが判った。
【0054】
上記4式の限定式の特定方法は、以下の通りである。
Fe-20%Ni-20%Cr-0.5%Moを基本組成とし、上記と同じく添加量を種々変化させた各種合金を真空溶解炉で溶製し、熱間鍛造の後、8mmt×80mmwの熱間鍛造板を作製した。得られた熱間鍛造板を1200℃×10分の条件で固溶化熱処理、表面研削後に冷間圧延にて2mmtとした後、1050℃×1分の条件で固溶化熱処理を行った。その後、10mm×80mmに切断し、表面を湿式研磨#400で仕上げた後、U曲げを施し、シーズヒーターの曲げ部を模した試験片とした。これについて1100℃×40分、室温×20分を1サイクルとした繰り返し酸化試験を行った。200サイクル後の試験片について、剥離したスケール重量を除いた質量変化を試験前の表面積で除した値で評価した。試験前の表面積とは、曲げを施す前に寸法を測定し求めたものである。
【0055】
上記試験によって、シーズヒーター合金の耐酸化性への添加元素の影響度合いが明らかとなり、Si、Ni、Cr、Al、Ti、REMの添加は有効であるが、B、N、Sの増加は耐酸化性を悪くすることが判った。これらの結果より、重量変化が20mg/cm以上と明らかに変化していると判断できる範囲で添加元素の寄与を重回帰分析により求めたのが式4である。49.0以上とすることで、シーズヒーターとして十分な耐酸化性を有すると判断できる重量変化が100mg/cm未満とすることができる。
【0056】
本発明の耐酸化性・耐食性・溶接性に優れるシーズヒーター用Fe-Ni-Cr合金であれば、高温と低温を繰り返すようなサイクル酸化試験で評価される耐酸化性をもち、湿潤環境における耐食性に優れ、溶接時のビードが平滑であるFe-Ni-Cr合金を得ることができる。
【実施例0057】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1~27、比較例1~16)
Fe-Ni-Cr合金の製造
まず、60t電気炉にてスクラップ、ニッケル、クロム、モリブデン等の原料を溶解した後、AOD(Argon Oxygen Decarburization)またはVOD(Vacuum Oxygen Decarburization)にて酸素とArの混合ガスを吹き込み脱炭し、窒素濃度を0.002~0.015%に制御した。なお、AOD、VODの内張り煉瓦はドロマイト(MgO-CaO耐火物)をライニングした。その後、フェロシリコン合金及びアルミニウムを添加して、Cr還元した後、石灰石、蛍石及びアルミニウムを溶融合金に添加して、CaO-SiO-Al-MgO-F系のスラグを形成し、脱酸、脱硫し、その後にランタン(La)またはセリウム(Ce)またはイットリウム(Y)のいずれかの一種を含んだFe-Ni合金を添加した。そして、組成が調整された溶解原料について、連続鋳造法によって、厚さ200mm、幅1200mmであるFe-Ni-Cr合金のスラブを鋳造した。得られた合金の化学成分を表1に示す。なお、表1、2において請求項1の範囲外の数値には括弧を付してある。
【0059】
【表1】
【0060】
得られたスラブの表面をそれぞれ3~5mm研削し、温度1000~1300℃に加熱した後、熱間圧延して板厚3mmの熱延帯とした後、焼鈍及び酸洗、冷間圧延を施し、板厚1mmの合金帯とした後、さらに焼鈍及び酸洗して得られた冷延焼鈍帯を試験片とした。得られた各サンプルの組成及び上記式(1)~(4)から得られた値を表2に示す。
【0061】
得られた各試料について以下の評価を行い、結果は表に2に示す。
(1)耐食性評価
得られた各試料を20mm×30mmに切断し、表面を湿式研磨#600で仕上げて試験片とした。得られた試験片で試験溶液を70℃の3.5%NaCl溶液に酢酸10ml/lを添加し、JIS G 0577に準じた孔食電位測定を行い、アノード分極曲線において電流密度100 μA・cm-2に対応する電位を孔食電位Vとした。孔食電位Vが0.07V未満のものを不良(×)、0.07V以上、0.10V未満のものを可(△)、0.10V以上、0.15V未満のものを良(〇)、0.15V以上のものを優良(◎)として評価した。
【0062】
(2)溶接性評価
得られた各試料を2mmt×80mmw×200mmLに調整し、熱処理によって生じた酸化被膜をショットブラストで除去し、試験片とした。アーク長2mm、Arガス流量10L/min、溶接速度300mm/min、溶接電流100Aの条件で試験片表面のビードオン溶接試験を2つの試験片について行った。溶接後の試験片の溶接ビードが充分に安定している溶接終了点付近の箇所を選び、30mmのビードの長さ中にある高さ0.3mm以上のリップル(波目模様の凹凸)の個数を測定し、2つの試験片で、計60mm中のリップルの個数で評価した。リップルの個数が10個以上確認されたものを不良(×)、5個以上、10個未満確認されたものを可(△)2個以上、5個未満確認されたものを良(〇)、2個未満確認されたものを優良(◎)として評価した。
【0063】
(3)着色性評価
得られた各試料を2mmt×80mmw×200mmLに調整し、熱処理によって生じた酸化被膜をショットブラストで除去し、試験片とした。アーク長2mm、Arガス流量10L/min、溶接速度300mm/min、溶接電流100Aの条件で試験片表面のビードオン溶接試験を2つの試験片について行った。溶接後の試験片の溶接ビードが充分に安定している溶接終了点付近の箇所を選び、40mmのビードの長さを評価対象とし、2つの試験片で、計80mm中のビード幅とビード周辺の着色領域の比で評価した。求めた比が1.5以上のものを不良(×)、1.3以上、1.5未満のものを可(△)、1.1以上、1.3未満のものを良(〇)、1.1未満のものを優良(◎)として評価した。
【0064】
(4)耐酸化性評価
得られた各試料を20mm×30mmに切断し、表面を湿式研磨#400で仕上げて試験片とした。1100℃×40分、室温×20分を1サイクルとした繰り返し酸化試験を行った。200サイクル後の試験片について、剥離したスケール重量を除いた質量変化を試験前の表面積で除した値(mg/cm)で評価した。試験前の表面積とは、曲げを施す前に寸法を測定し求めたものである。質量減が100mg/cm以上のものを不良(×)、60mg/cm以上、100mg/cm未満のものを可(△)、30mg/cm以上、60mg/cm未満のものを良(〇)30mg/cm未満のものを優良(◎)として評価した。
【0065】
(5)化合物の同定と面積率
得られた1mm厚みの焼鈍材を切断し断面を観察できるよう埋没試料を作製、湿式研磨を行い、最終的にバフ研磨で仕上げ鏡面とし観察に供した。これをFE-SEMで観察、付属のEDSで分析することで化合物の同定を行った。面積率は×8000倍で観察したSEM像から求めた。観察面積は0.05mmとし塊状の化合物は2辺の長さを測定し円近似しその面積を求めた。線状の化合物は長辺、短辺を測定し長方形として面積を求めた。短辺は変化が大きいので、5カ所測定しその平均をその化合物の短辺とした。これにより観察面積0.05mmに対する化合物の面積率として評価した。面積率は0.50%以下であることが好ましい様態としている。
【0066】
【表2】
【0067】
表2より、本発明に適合する実施例1~27においては耐食性、溶接性、耐酸化性のいずれについても良好な結果を示した。いずれもシーズヒーターに好適である。
【0068】
これに対し比較例1~16は本発明の範囲を満たしていないため、それぞれの試験で×評価であった。特にヒーターの腐食は一度発生するとその進行速度は速く、更に湿潤環境では感電の恐れがある。また溶接性が乏しいとヒーター自体の製造が不可能となるため、特に耐食性と溶接性を重要視し、特性が得られない場合は比較例に分類した。同様に耐酸化性についてもヒーターを搭載した製品自体の寿命に関わるため、特性が得られない場合は比較例に分類した。一方で、着色性はヒーター自体の特性を大きく低下させるものではないので、×評価した場合においても耐食性、溶接性、耐酸化性が×評価で無ければ実施例に分類した。
【0069】
比較例1は耐食性に最も有効なCrが本願発明の範囲を満たさず、式1も満足しないため耐食性評価が×であった。また、Alが発明の範囲より高く、脱酸が強く作用しCa酸化物が形成されたため、耐食性低下の一因ともなった。
比較例2は式2を満足せず、溶接時にリップルが多数発生し×評価となった。
比較例3はAlが発明の範囲より高かったためAl窒化物を形成し、また、脱酸が強く作用したためCa酸化物が形成され、耐食性評価が×となった。
比較例4はAlが発明の範囲より低かったため脱酸が弱く、酸化物が多かった。また、Tiも発明の範囲より高かったため、Ti窒化物が多数形成された。さらに式1、式2ともに満たしておらず耐食性および溶接性ともに×評価となった。
比較例5はSiが発明の範囲より低く、式2を満足せず溶接評価が×となった。またNが発明の範囲より高くTi窒化物が形成され耐食性評価、耐酸化性評価ともに×となった。
比較例6はNiおよびCrが発明の範囲より低いため式1を満足せず耐食性評価が×となった。式4は満たしているもののCrが低いため耐酸化性評価も×となった。
比較例7は式1を満足しているもののMoが発明の範囲より低く耐食性評価が×となった。
比較例8はPとSが発明の範囲より高く、Alが低いため脱酸が弱くOが発明の範囲より高くなった。そのため、リン化合物、硫黄化合物および酸化物が増加し耐食性評価が×となった。また、Alが発明の範囲より低いため耐酸化性評価も×となった。
比較例9はCrが発明の範囲より低く式1を満足せず、また、REMの添加量が発明の範囲より高かったためREM酸化物が増加し、耐食性評価が×となった。
比較例10はSiが発明の範囲より低く、式2を満足しなかったため溶接性評価が×となった。
比較例11はMnが発明の範囲より低く溶接割れが発生し、溶接評価が×となった。
比較例12はTi、Nが共に発明の範囲より高くTi窒化物が生成され、耐食性評価が×となった。
比較例13はSiが発明の範囲より低く、Alが高く、更に式2を満足しなかったため溶接性評価が×となった。また、REM添加量が発明の範囲より少なかったため、耐酸化性評価も×となった。
比較例14はSiが発明の範囲より低く、式2を満足しなかったため溶接性評価が×となった。また、Bが発明の範囲を超えて添加されたため耐酸化性評価も×となった。
比較例15はAlが発明の範囲より低かったため脱酸が弱くOが発明の範囲よりが高くなった。そのため酸化物が形成され耐食性評価が×となった。また、Alが発明の範囲より低かったため耐酸化性評価も×となった。
比較例16はTiが発明の範囲より低く、そのため酸化被膜が脆弱であったため耐酸化性評価が×となった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明では耐酸化性・耐食性・溶接性に優れるシーズヒーター用Fe-Ni-Cr合金とその製造方法を提供できる。


図1
図2
図3
図4