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特開2022-99783調光フィルムおよびその分離、分別方法
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  • 特開-調光フィルムおよびその分離、分別方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099783
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】調光フィルムおよびその分離、分別方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1333 20060101AFI20220628BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
G02F1/1333 500
G02F1/13 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213779
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】祝 実穂
(72)【発明者】
【氏名】堀川 喜美雄
【テーマコード(参考)】
2H088
2H190
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088FA29
2H088GA10
2H088HA01
2H088HA02
2H088HA03
2H088MA20
2H190JB03
2H190KA11
2H190LA01
2H190LA21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境適合型の調光フィルムおよびその分離、分別方法を提供する。
【解決手段】調光フィルム10は、プラスチックフィルム2を基材として表面に透明電極層3を設けた2枚の電極フィルム5を、透明電極層同士を対向させ、間に高分子分散型液晶層1を設けてあり、2枚の電極フィルムの、透明電極層と反対側の少なくとも一方の面に、プラスチックフィルムからなる剥離可能なセパレータ4を積層して構成されており、セパレータ4を剥離、分離して調光フィルムとして使用したのち、調光フィルムを構成する、プラスチックフィルム2、透明電極層3、高分子分散型液晶層1をそれぞれに分離、分別することが可能であることを特徴とする、調光フィルムおよびその分離、分別方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に透明電極層を設けた2枚の電極フィルムを、前期透明電極層同士を対向させ、間に液晶層を設けた調光フィルムであって、
少なくとも一方の前記電極フィルムにおける前記期透明電極層とは反対側の面に、剥離可能なセパレータを積層して構成されており、
前記セパレータ、前期液晶層、前記透明電極層、前記基材をそれぞれに分離、分別することが可能であり、
前記セパレータ、および前記基材はバイオマスプラスチック、もしくは生分解性プラスチックを含むことを特徴とする調光フィルム。
【請求項2】
前記透明電極層が、導電性高分子、もしくはインジウム酸化スズ以外の金属化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の調光フィルム。
【請求項3】
前記透明電極層の前記基材とは反対側の面に配向膜が設けてあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の調光フィルム。
【請求項4】
前記調光フィルムの前記セパレータを剥離、分離する工程と、
前記液晶層の層間剥離によってそれぞれ前記基材、前記透明電極層、一部の液晶層を含む2枚の調光フィルム分割体に分離する工程と、
前記一部の液晶層を溶解して分離、回収する工程と、
前記透明電極層を溶解して分離、回収する工程と
を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の調光フィルムの分離、分別方法。
【請求項5】
前記調光フィルムの前記セパレータを剥離、分離する工程と、
前記液晶層の層間剥離によってそれぞれ前記基材、前記透明電極層、前記配向膜、一部の液晶層を含む2枚の調光フィルム分割体に分離する工程と、
前記一部の液晶層および前記配向膜を溶解して分離、回収する工程と、
前記透明電極層を溶解して分離、回収する工程と
を備えることを特徴とする、請求項3に記載の調光フィルムの分離、分別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は調光フィルムに関するものである。特に材料構成面で環境負荷が少なく、また廃棄に関しても分離、分別が可能な、環境適合型の調光フィルム、およびその分離、分別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調光フィルムは、液晶に電場を印加してその配向性を変化させ、光学的な透明状態と不透明状態を切り替えることが可能である。調光フィルムとして、あるいはガラス基板と組み合わせた調光ガラスなどが提案されている。
【0003】
例えば自動車の窓や建物の窓や間仕切りなどに使われて、まぶしさの防止や、プライバシーの保護、入射光量の調節、ディスプレーとしての応用など、機能性液晶フィルムまたはガラスとして商品化され、広く用いられている。
【0004】
一般に液晶調光フィルムは、プラスチックフィルムに、透明電極としてインジウム酸化スズ(ITO)の蒸着層を設け、2枚のフィルムに間に、たとえば高分子分散型液晶を挟み込んだ構造をとる。例えば特許文献1や特許文献2には積層された複合材料の形態である調光フィルム及びその製造方法の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2917478号公報
【特許文献2】特許第6477654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、特許文献1や特許文献2のような構成の調光フィルムを仮に廃棄しようとする際には、個々の材料の分別には困難をきたすため、産業廃棄物としてまとめて廃棄されることが一般的であった。
【0007】
また、このような調光フィルムは、製造から運搬、組み立てに至る過程で、その表面保護のためのセパレータといわれるプラスチックフィルムが両面に貼られている。このようなプラスチックフィルムは組み立てに際して、剥離してそのまま廃棄される。
【0008】
これらのプラスチックフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが一般に行われている。ポリエチレンテレフタレートフィルムは石油由来の材料であり、環境負荷が重い材料である。したがって環境適合という観点からは、改善が求められてきた。
【0009】
これに加えて、透明電極に使われているインジウム酸化スズ(ITO)は、原料が希少であり、高価である。さらに人体への有害性も懸念されており、代替品の開発が期待されている。
【0010】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、環境適合型の調光フィルムおよびその分離、分別方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための手段として、本発明の第一の態様は、
基材の表面に透明電極層を設けた2枚の電極フィルムを、前期透明電極層同士を対向させ、間に液晶層を設けた調光フィルムであって、
少なくとも一方の前記電極フィルムにおける前記期透明電極層とは反対側の面に、剥離可能なセパレータを積層して構成されており、
前記セパレータ、前期液晶層、前記透明電極層、前記基材をそれぞれに分離、分別することが可能であり、
前記セパレータ、および前記基材はバイオマスプラスチック、もしくは生分解性プラスチックを含むことを特徴とする調光フィルムである。
【0012】
上記構成によれば、調光フィルムを、電極フィルムを2枚に剥離して分離し、高分子分散型液晶層を分離し、透明電極層を分離することが容易に可能であることによって、従来は産業廃棄物として、一括して廃棄されていた調光フィルムは、その部材、材料ごとに分離、回収、分別することが可能になり、これまで製造工程で出る端材や使用済みとなった製品をリユース、あるいはリサイクルすることができる可能性が出てくる。あるいは、少なくとも環境負荷の少ない方法での処理が可能になる。
【0013】
また、前記プラスチックフィルムからなる剥離可能なセパレータ、および透明電極層の基材のプラスチックフィルムは、バイオマスプラスチック、もしくは生分解性プラスチックを含む。
【0014】
上記構成によれば、プラスチックフィルムからなるセパレータ、および透明電極の基材のプラスチックフィルムは、バイオマスプラスチック、もしくは生分解性プラスチックからなることによって、調光フィルムを環境適合型の製品とすることができる。
【0015】
また好ましくは、
前記透明電極層が、導電性高分子、もしくはインジウム酸化スズ以外の金属化合物からなる。
【0016】
上記構成によれば、この場合には、インジウム酸化スズを用いる場合に比べて、分別や再利用がより容易であり、また資源枯渇の恐れも回避される。
【0017】
また、好ましくは、
前記調光フィルムの、透明電極層の表面には、液晶分子の配向膜が設けてある。
【0018】
上記構成によれば、調光フィルムの透明電極層の表面には、液晶分子の配向膜が設けてあることによって、液晶の動作においてリバースモードの調光フィルムとすることができ、本発明はこの場合においても環境適合型の調光フィルムとすることが可能である。
【0019】
また本発明において、
前記調光フィルムの前記セパレータを剥離、分離する工程と、
前記液晶層の層間剥離によってそれぞれ前記基材、前記透明電極層、一部の液晶層を含む2枚の調光フィルム分割体に分離する工程と、
前記一部の液晶層を溶解して分離、回収する工程と、
前記透明電極層を溶解して分離、回収する工程と
を備えそれぞれに分離、分別する方法の提供が可能である。
【0020】
上記構成によれば、セパレータを剥離したのちに、調光フィルムが不要になったり廃棄する場合において、まず電極フィルムを高分子分散型液晶層の層間剥離によって2枚に剥離して分離し、次に高分子分散型液晶層を溶解して分離、回収し、透明電極を溶解して分
離、回収し、それぞれに分離、分別することの具体的な方法を提供することが可能である。
【0021】
この分離、分別によって、調光フィルムに用いられた材料のリユース、リサイクルが可能になり、また廃棄する場合においても、分離分別によってより環境負荷の少ない廃棄が可能になる。
【0022】
また前記調光フィルムの、透明電極層の表面に、液晶分子の配向膜が設けてある場合においても、
前記調光フィルムの前記セパレータを剥離、分離する工程と、
前記液晶層の層間剥離によってそれぞれ前記基材、前記透明電極層、前記配向膜、一部の液晶層を含む2枚の調光フィルム分割体に分離する工程と、
前記一部の液晶層および前記配向膜を溶解して分離、回収する工程と、
前記透明電極層を溶解して分離、回収する工程と
を備えそれぞれに分離、分別することの具体的な方法を提供することが可能である。
【0023】
この分離、分別によって、調光フィルムに用いられた材料のリユース、リサイクルが可能になり、また廃棄する場合においても、分離分別によってより環境負荷の少ない廃棄が可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、環境適合型の調光フィルムおよびその分離、分別方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は本発明による、調光フィルムの一実施態様を説明するための、部分断面模式図である。
図2図2は本発明による、調光フィルムの他の実施態様を説明するための、部分断面模式図である。
図3図3は本発明による、調光フィルムの一実施態様を説明するための、部分断面模式図であり、調光フィルムを高分子分散型液晶層の層間剥離によって2枚に剥離して分離する様子を説明するための、部分断面模式図である。
図4図4は本発明による、調光フィルムの一実施態様を説明するための、部分断面模式図であり、調光フィルムを高分子分散型液晶層の層間剥離によって2枚の調光フィルム分割体に剥離して、高分子分散型液晶層を回収する方法を説明するための、部分断面模式図である。
図5図5は本発明による、調光フィルムの一実施態様を説明するための、部分断面模式図であり、調光フィルムを高分子分散型液晶層の層間剥離によって2枚に剥離して、高分子分散型液晶層を回収して後、インジウム酸化スズを回収する方法を説明するための、部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を図1図5を参照しながら、更に詳しい説明を加える。ただし本発明は、ここに示す例にのみ限定されるものではない。本発明は、請求項によって特定されるものである。
【0027】
図1は本発明による、調光フィルムの一実施態様を説明するための、部分断面模式図である。
【0028】
本発明は調光フィルム(10)およびその分離、分別方法に関するものである。調光フ
ィルム(10)は、プラスチックフィルム(2)を基材として表面に透明電極層(3)を設けた2枚の電極フィルム(5)を、透明電極層(3)同士を対向させ、間に高分子分散型液晶層(1)を設けてなる。
【0029】
図1で示す例は、液晶の動作モードがノーマルモードである場合の構成例である。他の実施態様すなわちリバースモードの層構成については、図2についての説明において後述する。
【0030】
また、調光フィルム(10)の2枚の電極フィルム(5)の、透明電極層(3)と反対側の少なくとも一方の面に、プラスチックフィルムからなる剥離可能なセパレータ(4)を積層してある。図1に示す例は、セパレータ(4)を両方の面に設けてある例である。セパレータ(4)は製造時、また運搬時の表面保護のために設けられており、その機能を果たすものである。
【0031】
またセパレータ(4)を剥離した後、電極フィルム(5)のプラスチックフィルム(2)側に粘着層を残すことも可能である。セパレータ(4)を剥離した後、この粘着層によって、調光フィルム(10)を例えばパネルにするためにするために、ガラス基板などへ貼り付けることが可能である。
【0032】
いずれの場合においても、セパレータ(4)は製造時において、また取り付け時までは、調光フィルム(10)の最外層側に保護フィルムとして積層されているが、その後剥離される。
【0033】
本発明による調光フィルム(10)は、セパレータ(4)を剥離して分離したのち、調光フィルム(10)が不要になった際、或いは調光フィルム(10)を廃棄する際には、調光フィルム(10)を構成する、プラスチックフィルム(2)、透明電極層(3)、高分子分散型液晶層(1)を、それぞれに分離、分別することが可能であることを特徴とする。
【0034】
また本発明による、調光フィルム(10)の分離、分別方法は、セパレータ(4)の剥離の後、調光フィルム(10)を、電極フィルム(5)を高分子分散型液晶層(1)の層間剥離によって2枚に剥離して分離し、高分子分散型液晶層(1)を溶解して分離、回収し、さらに透明電極層(3)を溶解して分離、回収し、それぞれに分離、分別することを特徴とする。
【0035】
図2は本発明による、調光フィルムの他の実施態様を説明するための、部分断面模式図である。
【0036】
図2に示す他の実施態様の例は、リバースモードの調光フィルム(11)の例であって、この場合には、透明電極層(3)の上に、配向膜(8)を形成してある点が異なる。
【0037】
この場合の、リバースモードの調光フィルム(11)の分離、分別方法は、セパレータ(4)の剥離の後、調光フィルム(10)を、電極フィルム(5)を高分子分散型液晶層(1)の層間剥離によって2枚に剥離して分離し、高分子分散型液晶層(1)、配向膜(8)をそれぞれに溶解して分離、回収し、さらに透明電極層(3)を溶解して分離、回収し、それぞれに分離、分別することを特徴とする。
【0038】
図3は本発明による、調光フィルムの一実施態様を説明するための、部分断面模式図であり、調光フィルムを高分子分散型液晶層の層間剥離によって2枚に剥離して分離する様子を説明するための、部分断面模式図である。
【0039】
図3上段に示すように、調光フィルム(10)の一実施態様において、調光フィルム(10)は、セパレータ(4)を剥離した状態において、プラスチックフィルム(2)を基材として表面に透明電極層(3)を設けた、2枚の電極フィルム(5)を、透明電極層(3)同士を対向させ、間に高分子分散型液晶層(1)を設けてなる。
【0040】
本発明による調光フィルム(10)においては、セパレータ(4)を剥離、分離して調光フィルム(10)として使用したのち、不要になったり、調光フィルム(10)を廃棄する際には、調光フィルム(10)を構成するプラスチックフィルム(2)、透明電極層(3)、高分子分散型液晶層(1)を、それぞれに分離、分別することが可能であることを特徴とする。
【0041】
分離は、高分子分散型液晶層(1)をその層間で破壊することで、プラスチックフィルム(2)、透明電極層(3)、一部の高分子分散型液晶層(1)をそれぞれ有する2枚の調光フィルム分割体に分解する。このとき高分子分散型液晶層(1)は両方の透明電極層(3)に付着して露出した状態となる。この分解は、図3下段に示すように、例えばカッター刃(6)などを用いて行うことが可能である。
【0042】
図4は本発明による、調光フィルムの一実施態様を説明するための、部分断面模式図であり、調光フィルムを高分子分散型液晶層の層間剥離によって2枚の調光フィルム分割体に剥離して、高分子分散型液晶層を回収する方法を説明するための、部分断面模式図である。
【0043】
本発明による調光フィルム(10)の分離、分別方法によって、調光フィルム(10)が2枚に剥離され、両方の透明電極層(3)に付着して露出した高分子分散型液晶層(1)は、例えばエタノールや、プロパノールなどの有機溶媒で容易に溶解するので、溶液として回収することができる。
【0044】
図4には示していないが、前述のように調光フィルム(10)の、透明電極層(3)の表面には、液晶分子の配向膜(8)を設けることができる。この場合には、図2に示す構成のリバースモードの調光フィルム(11)であって、同様にして配向膜(8)も溶解して、溶液として回収することができる。この場合、調光フィルム分割体には配向膜(8)を含む。
【0045】
図5は本発明による、調光フィルムの一実施態様を説明するための、部分断面模式図であり、調光フィルムを高分子分散型液晶層の層間剥離によって2枚に剥離して、高分子分散型液晶層を回収して後、インジウム酸化スズを回収する方法を説明するための、部分断面模式図である
【0046】
本発明による調光フィルム(10)の分離、分別方法によって、高分子分散型液晶層(1)の回収、すなわち分離、分別ののちには、2枚の電極フィルム(5)が残される。プラスチックフィルム(2)上に残った透明電極層(3)は、例えば塩酸などに溶解させて、溶液として回収することができる。
【0047】
残存したプラスチックフィルム(2)はセパレータ(4)と同様に資源ごみとして回収し、リユース、リサイクルすることも可能である。
【0048】
本発明による調光フィルム(10)において、プラスチックフィルムからなる剥離可能なセパレータ(4)、および透明電極層(3)の基材のプラスチックフィルム(2)は、バイオマスプラスチック、もしくは生分解性プラスチックを含むものとすることができる
。これらは環境適合型の材料であって、本発明の課題である環境適合型の調光フィルム(10)を提供することに有効である。
【0049】
現在一般に使われている調光フィルムは、セパレータの材料に、また透明電極フィルムの基材フィルムの材料に、ポリエチレンテレフタレートフィルムが用いられている。ポリエチレンテレフタレートフィルムは石油を原料として製造されているが、環境負荷に影響を与えるいくつかの問題を有している。
【0050】
一つには石油資源の枯渇の恐れであって、石油由来のプラスチックフィルムは、持続可能な材料であるとは言えない。これに加えて、焼却時に発生する二酸化炭素の問題がある。石油資源は化石燃料として地中に固定されていた炭素を空気中に放出することになるため、大気中の二酸化炭素が増加し、地球温暖化を助長する恐れがある。
【0051】
さらには、不用意に投棄された場合には、地球規模の海洋汚染や、マイクロプラスチックによる生態系への深刻な悪影響を引き起こす可能性があり、世界的な環境問題となっている。
【0052】
この問題に対して、例えば調光フィルムを構成するプラスチックフィルムを、石油由来以外の環境負荷の少ない材料とすることによって、石油資源の保護に貢献することが可能である。また廃棄において、仮に焼却された場合においても、石油由来のプラスチック材料に比較して、二酸化炭素の排出の抑制につながり、温暖化をはじめとする環境破壊の防止にも効果的である。
【0053】
本発明においては、バイオプラスチックとも呼ばれる、バイオマスプラスチック、もしくは生分解性プラスチックを使用することによって、これらの問題を解決し、環境適合型の材料構成とすることができる。
【0054】
特に生分解性プラスチックは、廃棄された場合においても、水と二酸化炭素に分解されるために、環境負荷を大きく削減することに有効である。
【0055】
バイオマスプラスチックの原料は主にトウモロコシやサトウキビなどの植物由来であり、石油のような化石燃料ではなく、資源枯渇の恐れが少ない。また焼却処分を行う際も環境中の炭素循環量に対して中立的であり、石油を原料とする場合に比べ環境負荷を抑えられる。
【0056】
生分解性プラスチックは、自然界に存在する微生物により、たとえば土壌中において水と二酸化炭素に分解される。このためそうでないプラスチックに比べて環境負荷が少ない。また、分子レベルへの分解がなされることによって、例えば海洋生物が誤飲したり、マイクロプラスチックによって土壌・海洋が汚染されたりという被害を減らすことにも効果的である。
【0057】
これらのバイオプラスチックを、調光フィルム(10)に用いれば、石油由来の材料を使用している従来の液晶調光シートに比べて、廃棄時の環境負荷を抑えることが可能である。
【0058】
なお、ポリエチレンやポリプロピレンなどに添加剤を加え、光や熱などによって細分化される「酸化型分解性プラスチック」なるものも存在する。しかしながらこれらは生分解性プラスチックのように水や二酸化炭素の状態には分解されないため、本発明による調光フィルム(10)を構成する材料として用いることに言及した部分においては、生分解性プラスチックには含めることは適当ではない。
【0059】
また、透明電極層(3)に、導電性高分子、もしくはインジウム酸化スズ以外の金属化合物を用いることができる。この場合には、インジウム酸化スズを用いる場合に比べて、分別や再利用がより容易であり、また資源枯渇の恐れも回避される。
【0060】
すなわち、透明電極が導電性高分子を用いている場合には、インジウム参加スズを使用していないことによって、原料のインジウムが希少資源であり資源枯渇の恐れがある問題の解決に効果的であることに加えて、分別や再利用がより容易となる。
【0061】
またインジウム酸化スズ以外の金属酸化物を用いる場合には、前述のように原料のインジウムが希少資源であり資源枯渇の恐れのある問題の解決に効果的である。それに加えて、インジウムは人体への有害性が示唆されており、代替品の開発が差し迫った課題となっているところでありこの問題の解決に対しても効果的である。
【0062】
以下、本発明による調光フィルム(10)の分離、分別方法について説明を加える。本発明による分離、分別方法は、調光フィルム(10)において、セパレータ(4)を剥離、分離して調光フィルム(10)として使用したのち、不要になったり廃棄する際には、まず電極フィルム(5)を高分子分散型液晶層(1)の層間剥離によって2枚に剥離して分離し、次に高分子分散型液晶層(1)を溶解して分離、回収し、さらに透明電極層(3)を溶解して分離、回収し、それぞれに分離、分別する方法である。
【0063】
また、図2に示す例のようにリバースモードの調光フィルム(11)のように液晶配向膜(8)を有する構成の場合においては、本発明による分離、分別の方法は、リバースモードの調光フィルム(11)を、セパレータ(4)を剥離、分離して調光フィルム(11)として使用したのち、不要になったり廃棄する際には、まず電極フィルム(5)を高分子分散型液晶層(1)の層間剥離によって2枚に剥離して分離し、次に高分子分散型液晶層(1)および液晶配向膜(8)を溶解してそれぞれに分離、回収し、さらに透明電極層(3)を溶解して分離、回収し、それぞれに分離、分別する方法である。
【0064】
以下、本発明を実現するための、具体的な材料構成について実例を挙げて更に詳細な説明を加える。
【0065】
セパレータ(4)については、前述のように調光フィルムの製造からセパレータの剥離、処分までのスパンが比較的短いため、処分の行いやすい生分解性プラスチックが適している。具体的には、下記の材料を使用することが可能である。
・BioPBS(三菱ケミカル社製 コハク酸と1,4ブタンジオールから合成)。
・AONILEX(カネカ社製 PHBHが原料 微生物の発酵プロセスを利用して産生)。
・BIOFRONT(帝人社製 ポリ乳酸が原料)。
【0066】
プラスチックフィルム(2)については、調光フィルムの本体の一部として用いられているため、セパレータに比べて、耐候性、耐久性、耐衝撃性が求められる。そのため生分解性プラスチックより、植物由来であって耐久性に優れるバイオマスプラスチックを用いることが推奨される。
具体的には、下記の材料を使用することが可能である。
・DURABIO(三菱ケミカル社製 植物由来のイソソルビドが主原料)。
・PLANEXT(帝人社製 イソソルビドを原料とする。バイオマス含有率は25~80%と可変)。
・バイオポリエチレン(ブラジル・ブラスケム社製 植物由来ポリエチレンが原材料)。
【0067】
透明電極層(3)については、インジウム酸化スズの代替として、下記の材料を使用することが可能である。
導電性高分子として、
・PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))。
を用いることが可能である。
また、金属化合物として、
・酸化亜鉛。
・酸化スズ。
・酸化チタン。
を用いることが可能である。
【0068】
このようにして、本発明によれば環境適合型の調光フィルムおよびその分離、分別方法を提供することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1・・・液晶層
2・・・プラスチックフィルム
3・・・透明電極層
4・・・セパレータ
5・・・電極フィルム
6・・・カッター刃
8・・・配向膜
10・・・調光フィルム
11・・・リバースモードの調光フィルム
図1
図2
図3
図4
図5