(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099857
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】易開封性共押出フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220628BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20220628BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20220628BHJP
B65D 65/40 20060101ALN20220628BHJP
【FI】
B32B27/00 H
B32B27/00 C
B32B37/00
C09K3/10 Z
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213893
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】591143951
【氏名又は名称】ジェイフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 知史
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4H017
【Fターム(参考)】
3E086AA01
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB51
3E086BB90
4F100AK06
4F100AK06A
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CB03
4F100CB03A
4F100EH20
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4F100GB15
4F100GB16
4F100JK06
4F100JL12
4F100JL12A
4F100JL14
4F100YY00A
4H017AA04
4H017AB07
4H017AD06
4H017AE05
(57)【要約】
【課題】2度シール等の熱及び/又は圧力の負荷の大きい条件でヒートシールした場合でも、易開封できるシーラントフィルムを提供する。
【解決手段】少なくともシール層と隣接層とを有する共押出フィルムであって、該共押出フィルムを被着体とヒートシールした後に開封する場合に、ヒートシール部の開封が以下の(1)~(3)の順で進むことを特徴とする易開封性共押出フィルム。
(1)開封開始箇所からヒートシール部までは、シール層の凝集破壊
(2)ヒートシール部では、シール層と隣接層との間の層間剥離
(3)ヒートシール部通過後は、シール層の凝集破壊
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシール層と隣接層とを有する共押出フィルムであって、該共押出フィルムを被着体とヒートシールした後に開封する場合に、ヒートシール部の開封が以下の(1)~(3)の順で進むことを特徴とする易開封性共押出フィルム。
(1)開封開始箇所からヒートシール部までは、シール層の凝集破壊
(2)ヒートシール部では、シール層と隣接層との間の層間剥離
(3)ヒートシール部通過後は、シール層の凝集破壊
【請求項2】
前記シール層がポリプロピレン系樹脂50~95質量%と低密度ポリエチレン樹脂5~50質量を含み、前記隣接層が低密度ポリエチレン樹脂を10~90質量%含む、請求項1に記載の易開封性共押出フィルム。
【請求項3】
前記シール層の厚みが5~15μmである、請求項1または2に記載の易開封性共押出フィルム。
【請求項4】
請求項1~3の何れかの易開封性共押出フィルムを蓋材として用い、該蓋材をポリプロピレン系樹脂からなる底材容器とヒートシールしてなる包装体。
【請求項5】
前記包装体のヒートシール部で前記易開封性共押出フィルムが層間剥離し、ヒートシール部以外で凝集破壊する、請求項4の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易開封性共押出フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック材料からなるフィルムや容器形状の成形体を用い、内容物を収容して開口部を加熱によって密封する包装体が種々開発され提供されてきている。内容物は、食品、医療品、工業部品、日用品等の広範囲にわたり、また包装体の形状は、袋、カップ、深絞り底材、ブリスターパック、スキンパックなど内容物や使用形態に合わせたものが用いられている。近年、それら包装体について、軽い力で開封できる易開封性の性能向上が進められており、更には包装体の形態、用途に応じて各種の易開封性フィルムが開発されている。
【0003】
易開封性フィルムとしては、開封時に、易開封性フィルムのシール層表面と被着体表面とが密着したまま、シール層内部が凝集破壊しそれが層内伝播することにより、軽い力で開封剥離できるという凝集破壊機能を利用したものが広く使用されている。
例えば、特許文献1には、ヒートシール性を有し、密閉性に優れている共に易開封性を有する極めて有用なイージーピールシ-ラントとして、少なくとも基材層とシール層との2層の共押出積層フィルムからなり、更に、上記の基材層を、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンまたはポリプロピレンを主成分とする樹脂組成物による樹脂層で構成し、また、上記のシ-ル層を、メルトフローレート(MFR)が10~40g/10分の範囲内からなるポリプロピレンと低密度ポリエチレンとを、前者50~90重量部に対し後者10~50重量部の配合割合からなる混合物を主成分とする樹脂組成物による樹脂層で構成し、その両樹脂層の共押出積層フィルムからなること特徴とするイージーピールシーラントの開示がある。
【0004】
一方、内容物が発酵食品である場合など、包装体の密封後に次第に内圧が増加するような包装体についても、易開封性フィルムが求められてきている。これらの包装体は、内圧がかかることから、より強い密封性、封緘性が必要であるため、高温及び/又は高圧のヒートシール条件が用いられる。具体的には、一般的なヒートシールで一度に高温及び/又は高圧を負荷しようとすると生産性が悪くなるため、ヒートシール工程を2回行う2度シール(2段シール)が行われ、場合によっては、ベタシールと線シールを組み合わせることにより強固なヒートシールが為される。
【0005】
しかしながら、このような2度シール等の強固なヒートシールを行うと、ヒートシールの熱と圧力を受けるフィルム部分の樹脂が著しく溶融し、溶融した樹脂がシール幅の外側に移動して、シール幅部分のフィルムが薄くなってしまう。そのため、特許文献1のような従来の凝集破壊タイプの易開封性フィルムに2度シールを施すと、フィルムが薄くなると共にシール層が薄くなり過ぎる故に、シール層の凝集破壊が起きず易開封性は発現できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、2度シール等の熱及び/又は圧力の負荷の大きい条件でヒートシールした場合でも、易開封できるシーラントフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の発明を完成させた。
第1の本発明は、少なくともシール層と隣接層とを有する共押出フィルムであって、該共押出フィルムを被着体とヒートシールした後に開封する場合に、ヒートシール部の開封が以下の(1)~(3)の順で進むことを特徴とする易開封性共押出フィルムである。
(1)開封開始箇所からヒートシール部までは、シール層の凝集破壊
(2)ヒートシール部では、シール層と隣接層との間の層間剥離
(3)ヒートシール部通過後は、シール層の凝集破壊
【0009】
第1の本発明において、前記シール層がポリプロピレン系樹脂50~95質量%と低密度ポリエチレン樹脂5~50質量を含み、前記隣接層が低密度ポリエチレン樹脂を10~90質量%含むことが好ましい。
【0010】
第1の本発明において、前記シール層の厚みが5~15μmであることが好ましい。
【0011】
第2の本発明は、第1の本発明の易開封性共押出フィルムを蓋材として用い、該蓋材をポリプロピレン系樹脂からなる底材容器とヒートシールしてなる包装体である。
【0012】
第2の本発明において、前記包装体のヒートシール部で前記易開封性共押出フィルムが層間剥離し、ヒートシール部以外で凝集破壊することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の易開封性共押出フィルム(以下、本発明のフィルムと称することがある)は、例えば、ベタシールと線シールとを組み合わせるといった2度シール等の熱及び/又は圧力の負荷の大きい条件でヒートシールした場合でも、シール層が凝集破壊機能を有し、かつシール層と隣接層との間で層間剥離機能を有することにより、易開封性が発現される。そのため、包装体密封後に内部の圧力が増大する、発酵食品等の包装体においても、本発明のフィルムを用いることにより、十分な密封封緘強度と、易開封性を兼備することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)は本発明のフィルムを蓋材10として、底材20と組み合わせて内容物30を収容した包装体の模式図(ヒートシール前)であり、
図1(b)は、該包装体のフランジ部分の拡大図である。
【
図2】
図2(a)(b)は、2度シールによるヒートシール後の包装体のフランジ部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願において、易開封性はイージーピール性、易剥離性と同義である。また、シーラントフィルムは、ヒートシールフィルム、ヒートシール性フィルムと呼称する場合がある。
易開封性の指標として用いる剥離強度は、シール強度と同義であり、ヒートシールした包材同士の剥離性とヒートシールの密着性を示し、開封強度と呼称する場合もある。
数値範囲を「○~○○」で示した場合は、「〇以上○○以下」を意味すし、好ましくは、「〇より大きく○○より小さい」を意味する。
「主成分」とは、構成原材料の総和を100質量%とした場合に50質量%以上を意味し、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0016】
<易開封性共押出フィルム>
本発明のフィルムは、少なくともシール層と隣接層とを有する共押出フィルムで構成される。
【0017】
(シール層)
本発明のフィルムは、被着体と接する側の表層にシール層を有し、シール層と被着体とを接してヒートシールすることにより、両者が密着する。
本発明のフィルムのシール層は、凝集破壊機能を有する。これは、シール層内の非相溶な複数種の樹脂同士が海/島の分散構造を有し、包装体を開封する際のフィルムを引っ張る力により、層内の海/島の相界面が微視的に剥離し、それが層内に伝播して層が凝集破壊することを意味する。
【0018】
シール層の樹脂組成は、凝集破壊機能を有すればよく、特に制限はないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の組合せ、ポリプロピレン系樹脂とポリブテン系樹脂の組合せ、ポリエチレン系樹脂とポリブテン系樹脂の組合せなどが挙げられる。また、これらのポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂は、それぞれ1種類でもよいし、2種類以上含まれていても良い。
【0019】
本発明のフィルムを内圧が生じる包装体の蓋材に用いる場合には、底材容器にポリプロピレン系樹脂が多用されるため、底材容器と蓋材のヒートシール密着性の点で、本発明のフィルムのシール層の樹脂組成は、ポリプロピレン系樹脂を50~95質量%含むことが好ましく、60~90質量%がより好ましく、70~90質量%が更に好ましい。
また、シール層は共押出時に隣接層と層間密着性が必要であり、後述の通り隣接層にはポリエチレン系樹脂の使用が好適であるため、シール層のポリプロピレン系樹脂と組み合わせる樹脂にはポリエチレン系樹脂が好ましく、中でも押出特性の点から低密度ポリエチレンが好ましい。低密度ポリエチレンのシール層の樹脂組成は、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、10~30質量%が更に好ましい。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂としては、分子量分布や組成分布が狭く、引張強度、衝撃強度が高く、低温シール性に優れる特徴を有するシングルサイト触媒を用いて製造されたポリプロピレン系樹脂を用いる。例えば、分子量分布は、数平均分子量に対する重量平均分子量の比Mw/Mnとして、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下が更に好ましい。組成分布は、例えば、短鎖分岐度(SCB)40以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。シングルサイト触媒の種類は特に限定しないが、代表的な例としてメタロセン触媒が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂の密度は、一般に880kg/m3以上920kg/m3以下が好ましく、890kg/m3以上910kg/m3以下がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂の融点は、ヒートシール性の点から135℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、フィルム製膜性の点から、2.0~15.0g/10分が好ましく、5.0~10.0g/10分がより好ましい。
【0021】
低密度ポリエチレン樹脂としては、密度900~930kg/m3が好ましく、下限は910kg/m3以上がより好ましく、920kg/m3以上が更に好ましい。メルトフローレート(MFR)は、上限は1.0g/10分以下が好ましく、0.8g/10分以下がより好ましく、下限は0.4g/10分以上が好ましく、0.5g/10分以上がより好ましい。このような密度とMFRの範囲であると、シール層に用いるポリプロピレン系樹脂との分散性が良好となり、シール層の凝集破壊による十分なイージーピール性が発現されやすい。
【0022】
シール層の厚みは、5~15μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。5μm以上であれば、2度シール等の熱及び/又は圧力の負荷の大きい条件でシールした場合、シール層が変形しても十分な凝集破壊性能が発揮される。
【0023】
(隣接層)
本発明のフィルムは、共押出によりシール層に接して隣接層を有する。
本発明のフィルムは、シール層と隣接層との間で層間剥離機能を有する。これは、フィルムを被着体から剥がす力がかかった際に、シール層は被着体に密着したまま、シール層と隣接層との間で剥離することを意味する。
【0024】
隣接層の樹脂組成は、共押出時の層間密着性と、包装体開封時のシール層との層間剥離機能を有すればよく、特に制限はないが、共押出フィルムの経済性、生産性の点からポリエチレン系樹脂が好ましい。
ポリエチレン系樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-(メタ)アクリル酸系樹脂、アイオノマーから選ばれる1種類または2種類以上を混合して用いることが出来る。中でも生産安定性やシール層との層間接着性の点から、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンが好ましく、また低密度ポリエチレンは生産安定性を高め、線状低密度ポリエチレンはシール層との接着性を高める効果を有するので、低密度ポリエチレンと線状低密度ポリエチレンを特定比率で混合することにより、シール層との良好な層間剥離を発揮できる。
【0025】
低密度ポリエチレンは、シール層に用いる低密度ポリエチレンと同様のものを用いることができる。
線状低密度ポリエチレンは、分子量分布や組成分布が狭く、引張強度、衝撃強度が高く、低温シール性に優れる特徴を有するシングルサイト触媒を用いて製造された直線状低密度ポリエチレンが好ましい。数平均分子量に対する重量平均分子量の比(Mw/Mn)は、例えば、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。組成分布は、例えば、短鎖分岐度(SCB)40以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。
線状低密度ポリエチレンの密度は、910kg/m3以上940kg/m3以下が好ましい。
線状低密度ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、0.5g/10分以上5.0g/10分以下が好ましく、0.6g/10分以上3.0g/10分以下がより好ましい。
シール層と隣接層との間の層間剥離を発現する観点から、低密度ポリエチレンと線状低密度ポリエチレンとの合計を100質量%とした場合、低密度ポリエチレンの組成は10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、20~70質量%が更に好ましい。
【0026】
隣接層の厚みは、特に制限はないが、生産安定性の観点からシール層の厚みよりも厚いことが好ましい。例えば、10~40μmが好ましく、12~35μmがより好ましい。
【0027】
(他の層)
本発明のフィルムは、シール層/隣接層/他の層の順で、他の層を共押出することができる。他の層は1層でも2層以上でもよい。
他の層の樹脂組成は、特に制限はないが、例えば低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。
他の層の厚みは、5~30μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。
【0028】
(積層フィルム)
本発明のフィルムのシール層とは反対の表面側、すなわち隣接層の表面あるいは他の層の表面に、公知のドライラミネート法、押出ラミネート法、熱ラミネート法などを用いて各種のフィルムや樹脂層を積層することができる。
例えば、他のフィルムとしては、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドなどの無延伸、延伸フィルムや、塩化ビニリデンコート層、エチレンービニルアルコール層、無機酸化物蒸着層等のガスバリア性層を配設したフィルムなどが挙げられる。
【0029】
(フィルムの特性)
本発明のフィルムは、2度シール等の熱及び/又は圧力の負荷の大きい条件でヒートシールした場合においても、ヒートシール密着性と易開封性の兼備が可能ある。
図1(a)に本発明のフィルムを蓋材10として、底材20と組み合わせて、内容物30を収容した包装体の模式図(ヒートシール前)を示す。
図1(b)は、該包装体のフランジ部分の拡大図である。蓋材10を構成するフィルムは、一例として、底材20側から、シール層12、隣接層14、他の層16、および、他のフィルム18を備えている。
図2(a)、(b)には、2度シールによるヒートシール後の包装体のフランジ部分の拡大図を示す。
【0030】
従来の凝集破壊タイプの易開封性フィルムの場合は、例えば、シール層内で凝集破壊が伝播して、巨視的にフィルムが被着体から剥離するが、2度シール等の熱及び/又は圧力の負荷の大きい条件でヒートシールした場合においては、
図2(a)に示すように、ヒートシールの強い熱及び/又は圧力の負荷によりシール幅W1に位置するフィルム樹脂が溶融してシール幅W1の外側に移動し、シール幅W1部分のフィルムやシール層が薄肉化すると、その薄肉化した部分ではシール層12内で海/島の間の剥離は伝播せずに止まってしまう。
【0031】
一方、本発明の易開封性共押出フィルムの場合は、開封の為に包装体の端部のフィルム(つまみ部T1)を引っ張ると、従来技術同様に開封開始箇所S1からシール層12の凝集破壊が起きて伝播する。そして、シール層12の凝集破壊がシール幅のフィルムが薄肉化した箇所(ヒートシール部W1)に至ると、シール層12と隣接層14との間の層間剥離へと移行する。そして、薄肉化したシール幅(ヒートシール部W1)を過ぎると、層間剥離から再度シール層12の凝集破壊へ移行し、フィルムが被着体から剥離し開封できる。
図2(b)では、参考のため、フランジ部分をさらに拡大し、シール層12の凝集破壊を点線L1で示し、ヒートシール部W1の層間剥離を実線L2で示した。
【0032】
このように、本発明のフィルムは、被着体(底材)20とシールした後に開封する場合に、先ず、開封開始箇所S1からヒートシール部W1まではシール層12の凝集破壊が起き、次いで、ヒートシール部W1ではシール層12と隣接層14との間の層間剥離が起き、続いて、ヒートシール部W1通過後は、シール層12の凝集破壊が起きることによって、易開封性が発現される特徴を有するものである。そうした特徴により、本発明のフィルム(蓋材)10は、2度シールなどの強い熱及び/又は圧力を受けて強固に被着体(底材)20と密着し、包装体の内部圧力が生じても密着が保持される特性と、易開封特性という、相反する特性の兼備を可能にしたものである。
【0033】
なお、2度シールすると、シール層12の厚みは半減以下になり、例えば0.5μm~5μm、更には0.5~3μmほどにシール層12が薄肉化した場合に、シール層12の凝集破壊から、シール層12と隣接層14との層間剥離へ移行しやすい。
【0034】
本発明のフィルムは、2度シール等の熱及び/又は圧力の負荷の大きい条件でヒートシールした場合でも易開封しやすいものである。開封時に剥離開始する剥離強度は、特に制限はないが、例えば、2度シール後の剥離強度の上限は18.0N/15mmが好ましく、15.0N/15mm以下がより好ましく、12.0N/15mm以下が更に好ましく、10.0N/15mm以下が特に好ましい。18.0N/15mm以下であれば被着材となるシートから軽い力で綺麗に剥離することができる。下限は、十分なヒートシール密着性が得られれば良く、例えば5.0N/15mm以上である。
また、本発明のフィルムは、1度シール後の剥離強度に比べ、2度シール後の剥離強度の増大が2.0N/15mm以内であることが好ましく、1.5N/15mm以内がより好ましく、1.0N/15mm以内が更に好ましい。2度シール後の剥離強度の増大が小さいと、2度シールによりヒートシール箇所のフィルムが薄肉化しても、上述の凝集破壊、層間剥離、凝集破壊の連鎖によって易開封性が十分発現できていることを意味する。
本発明のフィルムの剥離強度は、後述の実施例の評価方法で測定できる。なお、本発明のフィルムの剥離強度は、実施例に記載されているように剥離試験時の最大応力であるが、本発明のフィルムでは、層間剥離よりも凝集破壊の剥離強度が大きく、最大応力は剥離開始時となる。
【0035】
本発明のフィルムは、包装体の内圧がかかっても密着を保持することができる封緘強度を有する。封緘強度は、特に限定されないが、一般に50~300mmHgが好ましく、100~280mmHgがより好ましく、150mmHg~280mmHgが更に好ましい。
封緘強度は、封緘強度測定機(例えば、サン科学社製304-AW機)を用い、空気を徐々に入れていくことで、包装体が破裂した際の内圧を測定する。
【0036】
<本発明のフィルムの製造方法>
本発明のフィルムは、公知の共押出法で製造することができる。例えば、インフレーション法、Tダイ法などにより製造することができる。共押出フィルムを製造する方法は、特に限定されないが、公知のフィードブロック方式、マルチマニホールド方式、或いはそれらの組み合わせた方法を用いることができる。
本フィルムは、無延伸でもよく、一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸を施してもよい。また、本フィルムは、必要に応じてコロナ処理、印刷、コーティング、蒸着などの表面処理や表面加工を行うこともできる。
【0037】
本発明のフィルムは、目的を損ねない範囲で各層に添加剤を混合することが出来る。添加剤としては例えば、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、耐ブロッキング剤、加水分解防止剤、可塑剤、難燃剤などを挙げることができる。
【0038】
<包装体>
本発明のフィルムを用いた包装体の構成、形状、製法は限定しないが、例えば、本フィルムのシール層同士を対向させた袋体、パウチや、本発明のフィルムを蓋材に用い、他の材で作製されたカップ、トレー、深絞り成形体を底材に用いた包装体などが挙げられ、公知の方法で製造できる。
本発明のフィルムを蓋材に用いる場合、良好なヒートシール密着性と包装体内部の内圧が増大した際の封緘強度を有する点、更には、上述の易開封現象及び機能が十分に発揮されやすい点から、底材を構成する材料にはポリプロピレン系樹脂を使用することが、好適である。
本発明の包装体は、2度シール等の強いヒートシールを行っても、ヒートシール部以外で凝集破壊し、ヒートシール部で層間剥離する包装体となり、易開封され易い。
【実施例0039】
以下に、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
(共押出フィルムの作製)
以下に略号で示した各原材料を用い、表1に示す3層構成の共押出フィルムをインフレーション成形にて作製した。なお、原材料のメルトフローレート(MFR)は、ポリエチレン樹脂はJIS K6922-2:2018に準じ、ポリプロピレン樹脂はJIS K7210-1:2014に準じて測定された値である。原材料の密度の測定は、JIS K7112:1999に準拠して測定された値である。
【0040】
(原材料)
・PP1; メタロセン触媒を用いて製造したプロピレン-エチレンランダム共重合体ポリプロピレン、密度900kg/m3、MFR7.0g/10分、融点125℃
・LD1; 低密度ポリエチレン樹脂、密度924kg/m3、MFR0.7g/10分
・LL1; メタロセン触媒を用いて製造した直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂、密度937kg/m3、MFR1.8g/10分
・LL2; メタロセン触媒を用いて製造した直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂、密度923kg/m3、MFR1.5g/10分
【0041】
(積層フィルムの作製)
得られた共押出フィルムの他の層側に2液硬化型ポリエステル系ポリウレタン接着剤を用いて、15μm厚の二軸延伸ポリアミドフィルムをドライラミネートした。ドライラミネートの際には、共押出フィルムの流れ方向(MD)に対して、二軸延伸ポリアミドフィルムの流れ方向(MD)を合わせてドライラミネートした。その後、45℃48時間エージングを行い、積層フィルムを作製した。
【0042】
(剥離強度測定)
積層フィルムのシール層側と、被着体として用いる300μm厚のホモポリプロピレン樹脂シートとを、シール圧力0.2MPa、シール時間1秒、表1に示す所定のシール温度の条件で、ベタシール1回行い、1度シールの試験片を作製した。また、1度シールの試験片を用い同条件でシールを行い、2度シールの試験片を作製した。
次いで、積層フィルムの流れ方向(MD)に長さ50mm、水平方向(TD)に幅15mmの形状の短冊片を切り出し、JIS Z0238:1998に準拠して、短冊片のヒートシール部を中央にして積層フィルムと被着体のそれぞれの端を引張試験機の掴み具に取り付け、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の条件で、短冊片の長さ方向、即ち積層フィルムおよび共押出フィルムの流れ方向(MD)に、剥離又は破断するまで引張り、測定された最大応力を剥離強度(単位:N/15mm幅)として測定した。
【0043】
【0044】
実施例1~5は、2度シールを行い、ヒートシール箇所のフィルムが薄くなっても、開封において、シール層の凝集破壊、シール層と隣接層との間の層間剥離、シール層の凝集破壊と続くことにより、剥離強度が18N/15mm以下と易開封性を示した。また、2度シール後の剥離強度が、1度シール後と同程度の剥離強度であり、1度シール用途、2度シール用途共に、幅広い包装用途に用いることができるものであった。特に、実施例3は、1度シール後も2度シール後も剥離強度が10N/15mm以下であり、優れた易開封性を示した。
【0045】
比較例1は、ヒートシール温度180℃での2度シール後の剥離強度が、18N/15mmを超え、易開封性が不十分であった。これは、2度シールによる加熱・加圧負荷の影響でフィルムのヒートシール部が潰れ、隣接層が層間接着性の強い直鎖状低密度ポリエチレン100質量%で構成されているため、層間剥離が起きなかったためと考察された。
本発明の易開封性共押出フィルムは、2度シール等の熱及び/又は圧力の負荷の大きい条件でヒートシールした場合でも、シール層が凝集破壊機能を有し、かつシール層と隣接層との間で層間剥離機能を有することにより、易開封性が発現される。そのため、包装体密封後に内部の圧力が増大する、発酵食品等の包装体においても、本発明のフィルムを用いることにより、従来技術では両立できていなかった、十分な密封封緘強度と易開封性とを兼備することができ、食品包装用フィルムとして大変有用である。