(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099890
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】スラストワッシャ
(51)【国際特許分類】
F16C 17/04 20060101AFI20220628BHJP
F16C 33/08 20060101ALI20220628BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
F16C17/04 Z
F16C33/08
F16C33/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213952
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】張 雪雷
【テーマコード(参考)】
3J011
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011BA09
3J011CA01
3J011JA02
3J011KA03
3J011MA06
3J011MA23
3J011PA02
3J011SB03
3J011SC03
3J011SC12
3J011SC14
3J011SC20
3J011SE02
(57)【要約】
【課題】油溝及びポケットが設けられたスラストワッシャにおいて摺動面の摩耗を効果的に抑制可能な技術を提供する。
【解決手段】スラストワッシャは、側面を摺動面とし、複数の油溝と、複数のポケットと、を具備する。上記複数の油溝は、上記摺動面に周方向に間隔をあけて設けられ、径方向に貫通する。上記複数のポケットは、上記摺動面に設けられ、上記複数の油溝からそれぞれ上記周方向に沿って延びる。上記複数のポケットはそれぞれ、上記複数の油溝から離れるにつれて上記摺動面からの深さが小さくなるポケット底面と、上記ポケット底面の上記径方向の両端部と上記摺動面との間にそれぞれ位置する一対のポケット側壁面と、上記摺動面と上記一対のポケット側壁面とを接続する凸状のR面である一対の接続面と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面を摺動面とするスラストワッシャであって、
前記摺動面に周方向に間隔をあけて設けられ、径方向に貫通する複数の油溝と、
前記摺動面に設けられ、前記複数の油溝からそれぞれ前記周方向に沿って延びる複数のポケットと、
を具備し、
前記複数のポケットはそれぞれ、前記複数の油溝から離れるにつれて前記摺動面からの深さが小さくなるポケット底面と、前記ポケット底面の前記径方向の両端部と前記摺動面との間にそれぞれ位置する一対のポケット側壁面と、前記摺動面と前記一対のポケット側壁面とを接続する凸状のR面である一対の接続面と、を有する
スラストワッシャ。
【請求項2】
請求項1に記載のスラストワッシャであって、
前記油溝の前記周方向の間隔が1.5mm以上10.0mm以下である
スラストワッシャ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスラストワッシャであって、
前記摺動面に沿った平面において、前記複数のポケットにおける前記複数の油溝に接続する接続部の前記径方向の寸法が、前記複数の油溝の前記径方向の寸法の20%以上70%以下である
スラストワッシャ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のスラストワッシャであって、
前記複数のポケットの前記周方向の寸法は、前記複数の油溝の前記周方向の間隔の20%以上60%以下である
スラストワッシャ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のスラストワッシャであって、
前記摺動面に沿った平面において、前記摺動面の面積と前記複数のポケットの開口面積との合計に対する前記複数のポケットの開口面積の比率が15%以上50%以下である
スラストワッシャ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のスラストワッシャであって、
前記一対のポケット側壁面の前記摺動面に対する角度が90°以上である
スラストワッシャ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のスラストワッシャであって、
前記複数のポケットではそれぞれ、前記一対のポケット側壁面の前記径方向の間隔が、前記複数の油溝から離れるにつれて小さくなる、又は前記周方向に沿って一定である
スラストワッシャ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のスラストワッシャであって、
前記スラストワッシャが樹脂材料で形成され、
前記複数のポケットではそれぞれ、 前記ポケット底面が、前記周方向に並ぶ複数の傾斜面と、前記複数の傾斜面を接続する凸状の屈曲部と、を有する
スラストワッシャ。
【請求項9】
請求項8に記載のスラストワッシャであって、
前記複数の傾斜面はそれぞれ、前記周方向に沿って凸状に形成されたR面である
スラストワッシャ。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のスラストワッシャであって、
前記屈曲部が、凸状のR面である
スラストワッシャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧機器に利用可能なスラストワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のトランスミッションなどの油圧機器には、回転摺動部に設けられる軸受部材としてスラストワッシャが用いられる。油圧機器用のスラストワッシャの摺動面には、オイルの流路となる複数の油溝が設けられる。この複数の油溝は、回転軸を中心に放射状に延び、周方向に等間隔に設けられる。
【0003】
特許文献1に記載のスラストワッシャには、摺動トルクの低減のために、各油溝から回転方向の下流側に向けて延び、摺動面に対して滑らか接続された油導入溝が設けられている。このスラストワッシャでは、オイルが油導入溝から摺動面に進入しやすいため、オイルによる充分な潤滑作用が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような油導入溝が設けられたスラストワッシャでは、摺動面の摩耗により発生した摩耗粉が油導入溝の中に蓄積されることがある。これにより、このようなスラストワッシャでは、油導入溝による摺動トルクの低減効果が損なわれるとともに、摩耗粉が介在したアブレシブ摩耗が発生しやすくなる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、油溝及びポケットが設けられたスラストワッシャにおいて摺動面の摩耗を効果的に抑制可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るスラストワッシャは、側面を摺動面とし、複数の油溝と、複数のポケットと、を具備する。
上記複数の油溝は、上記摺動面に周方向に間隔をあけて設けられ、径方向に貫通する。
上記複数のポケットは、上記摺動面に設けられ、上記複数の油溝からそれぞれ上記周方向に沿って延びる。
上記複数のポケットはそれぞれ、上記複数の油溝から離れるにつれて上記摺動面からの深さが小さくなるポケット底面と、上記ポケット底面の上記径方向の両端部と上記摺動面との間にそれぞれ位置する一対のポケット側壁面と、上記摺動面と上記一対のポケット側壁面とを接続する凸状のR面である一対の接続面と、を有する。
【0008】
このスラストワッシャでは、ポケット底面が下流側に向けて浅くなるため、ポケットで形成されるオイルの流路が下流側に向けて絞られる。これにより、このスラストワッシャでは、ポケットの下流側に流動するオイルが油圧の上昇に伴って摺動面に進入しやすくなる。また、このスラストワッシャでは、摺動面とポケット側壁面とが凸状のR面である接続面で接続されているため、接続面を介した摺動面へのオイルの進入も促進される。これらにより、このスラストワッシャでは、オイルによる潤滑作用によって摺動面の摩耗を効果的に抑制することができる。
更に、このスラストワッシャでは、ポケット内のオイルが摺動面に進入する際に、ポケット内の摩耗粉がオイルとともにポケット外に排出されやすくなる。このため、このスラストワッシャでは、ポケット内に進入した摩耗粉がポケット内に留まり続けることなく順次スムーズに排出される。これにより、このスラストワッシャでは、摩耗粉が介在したアブレシブ摩耗も効果的に抑制することができる。
【0009】
上記油溝の上記周方向の間隔が1.5mm以上10.0mm以下であってもよい。
上記摺動面に沿った平面において、上記複数のポケットにおける上記複数の油溝に接続する接続部の上記径方向の寸法が、上記複数の油溝の上記径方向の寸法の20%以上70%以下であってもよい。
上記複数のポケットの上記周方向の寸法は、上記複数の油溝の上記周方向の間隔の20%以上60%以下であってもよい。
上記摺動面に沿った平面において、上記摺動面の面積と上記複数のポケットの開口面積との合計に対する上記複数のポケットの開口面積の比率が15%以上50%以下であってもよい。
これらのスラストワッシャでは、更に効果的に摩耗を抑制することができる。
【0010】
上記一対のポケット側壁面の上記摺動面に対する角度が90°以上であってもよい。
このスラストワッシャでは、ポケット内のオイルの流量を増大させることができるため、オイルの動圧作用をより効果的に利用することができる。
【0011】
上記複数のポケットではそれぞれ、上記一対のポケット側壁面の上記径方向の間隔が、上記複数の油溝から離れるにつれて小さくなる、又は上記周方向に沿って一定であることが好ましい。
この構成では、ポケットで形成されるオイルの流路の幅が下流側に向けて広がらないため、ポケットにおける油圧の上昇効果が得られやすくなる。
【0012】
上記スラストワッシャが樹脂材料で形成されてもよい。
この場合、上記複数のポケットではそれぞれ、上記ポケット底面が、上記周方向に並ぶ複数の傾斜面と、上記複数の傾斜面を接続する凸状の屈曲部と、を有することが好ましい。
また、上記ポケット底面は、上記周方向に沿って凸状に形成されたR面であることが好ましい。
更に、上記屈曲部が、凸状のR面であることが更に好ましい。
樹脂で形成されたスラストワッシャでは、摺動面が摩耗しやすくなる。この点、これらの構成では、摺動面が摩耗しても、ポケットによる上記の機能が損なわれにくくなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明では、油溝及びポケットが設けられたスラストワッシャにおいて摺動面の摩耗を効果的に抑制可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスラストワッシャの平面図である。
【
図2】上記スラストワッシャの凹部を拡大して示す部分斜視図である。
【
図3】上記スラストワッシャの油溝を内周面側から示した図である。
【
図4】上記スラストワッシャの
図2のA-A'線に沿った断面図である。
【
図5】上記スラストワッシャの
図2のB-B'線に沿った断面図である。
【
図6】上記スラストワッシャの側面に沿った平面における各構成の寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
[スラストワッシャ1の全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るスラストワッシャ1の平面図である。スラストワッシャ1は、中心軸Eを中心とする環状に形成されている。スラストワッシャ1は、自動車用のトランスミッションなどの回転摺動部を有する油圧機器に、中心軸Eが回転摺動部の回転軸と一致するように設けられる。
【0017】
スラストワッシャ1は、外周面1aと、内周面1bと、外周面1aと内周面1bとを接続する一対の側面1cと、を有する。一対の側面1cは、中心軸Eと直交する平面に沿って延びる。スラストワッシャ1では、一対の側面1cが、油圧機器における回転摺動部を構成する相手材との間の摺動面となる。
【0018】
スラストワッシャ1の各側面1cには、複数の油溝10と、複数の油溝10にそれぞれ接続された複数のポケット20と、が設けられている。複数の油溝10及び複数のポケット20は、それぞれ一対の側面1cから窪む凹状に形成され、一体としてスラストワッシャ1の複数の凹部Pを構成している。
【0019】
各油溝10は、中心軸Eから放射状に延びる直線に沿って形成され、各側面1cを径方向に貫通している。複数の油溝10は、側面1cにおいて周方向に等間隔に位置する。スラストワッシャ1では、油圧機器の駆動時に、複数の油溝10がオイルの通路となることで、外周面1a側の領域と内周面1b側の領域との間でのオイルの移動が可能となる。
【0020】
スラストワッシャ1では、各側面1cにおける相対的なオイルの流動方向が、油圧機器の駆動時における側面1cの回転摺動の方向とは反対になる。このため、スラストワッシャ1の各側面1cでは、回転摺動の正方向側がオイルの上流側となり、回転摺動の負方向側がオイルの下流側となる。
【0021】
各ポケット20は、各油溝10から周方向の下流側に延びる。各ポケット20は、周方向の下流側に隣接する油溝10から間隔をあけて設けられ、つまり周方向の下流側に隣接する油溝10には接続されていない。したがって、油溝10及びポケット20で構成される各凹部Pは、側面1cによって周方向に隔てられている。
【0022】
図2~5は、スラストワッシャ1の凹部Pを拡大して示している。
図2は、スラストワッシャ1の部分斜視図である。
図3は、スラストワッシャ1を内周面1b側から示す図である。
図4は、スラストワッシャ1の
図2のA-A'線に沿った断面図である。
図5は、スラストワッシャ1の
図2のB-B'線に沿った部分断面図である。
【0023】
スラストワッシャ1では、両側面1cにおける油溝10の位置が周方向に一致している。この一方で、スラストワッシャ1では、一対の側面1cにおける回転摺動の方向が相互に反対向きになるため、
図2,5に示すように、一対の側面1cにおけるポケット20が油溝10から延びる周方向の向きが相互に反対となる。
【0024】
各油溝10は、油溝底面11と、油溝底面11の周方向の両端部をそれぞれ側面1cに接続する油溝側壁面12と、を有する。各油溝10では、油溝側壁面12と油溝底面11との接続部が凹状のR面であってもよく、また油溝側壁面12と側面1cとの接続部が凸状のR面であってもよい。
【0025】
各油溝10では、
図3に示す油溝側壁面12の側面1cに対する角度αが30°以上90°以下であることが好ましい。これにより、スラストワッシャ1では、各油溝10の油溝側壁面12においてオイルによる動圧作用を受けやすくなるとともに、各油溝10からポケット20へのオイルの進入がスムーズになる。
【0026】
各ポケット20は、各油溝10の油溝側壁面12に接続する接続部20aと、接続部20aより周方向の下流側に位置する終端部20bと、の間に延在する。各ポケット20は、ポケット底面21と、ポケット底面21の径方向の両端部と側面1cとの間にそれぞれ位置する一対のポケット側壁面22と、各ポケット側壁面22と側面1cとを接続する一対の接続面23と、を有する。
【0027】
ポケット底面21の側面1cからの深さは、接続部20aにおいて油溝底面11よりも小さく、油溝10から離れるにつれて小さくなり、終端部20bにおいて実質的にゼロになる。つまり、ポケット底面21は、接続部20aから周方向の下流側に向けて浅くなり、終端部20bにおいて滑らかに側面1cに接続する。
【0028】
このように、スラストワッシャ1では、ポケット底面21が周方向の下流側に向けて浅くなるため、ポケット20で形成されるオイルの流路が周方向の下流側に向けて絞られる。このため、スラストワッシャ1では、ポケット20内を周方向の下流側に流動するオイルが油圧の上昇に伴って側面1cに進入しやすくなる。
【0029】
また、スラストワッシャ1では、各ポケット20の接続面23が凸状のR面として構成される。つまり、各ポケット側壁面22と側面1cとが接続面23によって滑らかに接続されている。これにより、スラストワッシャ1では、ポケット20内のオイルの接続面23を介した側面1cへの進入も促進される。
【0030】
これらにより、スラストワッシャ1では、ポケット20においてオイルによる動圧作用を有効に受けつつ、ポケット20の周囲から側面1cにオイルが供給されやすくなる。このため、スラストワッシャ1では、オイルによる潤滑作用及び動圧作用の相乗効果によって、側面1cの摩耗を効果的に抑制することができる。
【0031】
また、スラストワッシャ1では、オイルが側面1cに進入する際に、オイルとともにポケット20内の摩耗粉がポケット20外に排出されやすくなる。このため、スラストワッシャ1では、ポケット20内に進入した摩耗粉が順次スムーズに排出されるため、ポケット20内に摩耗粉が蓄積されにくい。これにより、このスラストワッシャ1では、摩耗粉が介在したアブレシブ摩耗も効果的に抑制することができる。
【0032】
また、スラストワッシャ1では、
図4に示すポケット側壁面22の側面1cに対する角度βが90°以上であることが好ましい。これにより、スラストワッシャ1では、摺動面である側面1cの面積を減少させることなく、ポケット底面21の面積を大きく確保しつつ、ポケット20内におけるオイルの流量を増大させることができる。
【0033】
したがって、スラストワッシャ1では、摺動時に側面1cに加わる面圧を増大させることなく、大面積のポケット底面21においてポケット20内の豊富な流量のオイルによる動圧作用を受けることができる。したがって、スラストワッシャ1では、側面1cの摩耗を更に効果的に抑制することが可能となる。
【0034】
図6は、スラストワッシャ1における周方向に隣接する一対の油溝10間の領域を示す部分平面図である。
図6では、側面1cに沿った平面において、側面1cが占める平面領域を低密度のドットパターンで示し、ポケット20が占める開口領域を高密度のドットパターンで示している。
【0035】
また、
図6には、スラストワッシャ1の側面1cにおける径方向の中央において周方向に延びる中央線Cが一点鎖線で示されている。本実施形態では、スラストワッシャ1の各構成の周方向の寸法が、側面1cにおける径方向の中央において計測されるものとし、つまり中央線Cに沿った寸法として規定される。
【0036】
スラストワッシャ1では、油溝10の間隔Lが、10.0mm以下であることが好ましく、6.0mm以下であることが更に好ましい。これにより、スラストワッシャ1では、油溝10によって側面1cが小さく分断されるため、摩耗粉が側面1c上に留まりにくくなる。したがって、スラストワッシャ1では、アブレシブ摩耗の発生をより効果的に抑制することができる。
【0037】
スラストワッシャ1では、油溝10及びポケット20で構成される凹部Pの数を多くすることで、側面1cの面積を減少させることなく、油溝10の間隔Lを小さくすることができる。この観点から、スラストワッシャ1では、各側面1cにおける凹部Pの数が、10個以上であることが好ましく、20個以上であることが更に好ましい。
【0038】
この一方で、スラストワッシャ1では、油溝10の間隔Lが、1.5mm以上であることが好ましく、3.0mm以上であることが更に好ましい。これにより、スラストワッシャ1では、油溝10間にポケット20を配置するための充分な領域を確保することができ、上記のようなポケット20による作用をより確実に得ることができる。
【0039】
また、スラストワッシャ1では、側面1cに沿った平面において、ポケット20の接続部20aの径方向の寸法D1が、油溝10の径方向の寸法Dの70%以下であることが好ましく、60%以下であることが更に好ましい。これにより、スラストワッシャ1では、側面1cの面積を広く確保することができ、摺動時に側面1cに加わる面圧を低く抑えることができる。
【0040】
この一方で、スラストワッシャ1では、側面1cに沿った平面において、ポケット20の接続部20aの径方向の寸法D1が、油溝10の径方向の寸法Dの20%以上であることが好ましく、30%以上であることが更に好ましい。これにより、スラストワッシャ1では、オイルがポケット20内に進入しやすくなるため、上記のようなポケット20による作用を効果的に得ることができる。
【0041】
更に、スラストワッシャ1では、側面1cに沿った平面において、ポケット20の周方向の寸法L1が、油溝10の間隔Lの20%以上であることが好ましく、30%以上であることが更に好ましい。これにより、ポケット20の終端部20bから側面1cに進入した摩耗粉が隣接する油溝10に排出されやすくなる。これにより、スラストワッシャ1では、アブレシブ摩耗の発生をより効果的に抑制することができる。
【0042】
この一方で、スラストワッシャ1では、側面1cに沿った平面において、ポケット20の周方向の寸法L1が、油溝10の間隔Lの60%以下であることが好ましく、50%以下であることが更に好ましい。これにより、ポケット20の終端部20b付近で発生したオイルによる動圧を、隣接する油溝10に逃がすことなく、隣接する油溝10との間の側面1cにおいて充分に作用させることができる。
【0043】
加えて、スラストワッシャ1では、側面1cに沿った平面において、側面1cの面積とポケット20の開口面積との合計に対するポケット20の開口面積の比率が、50%以下であることが好ましく、40%以下であることが更に好ましい。これにより、スラストワッシャ1では、側面1cの面積を広く確保することができ、摺動時に側面1cに加わる面圧を低く抑えることができる。
【0044】
この一方で、スラストワッシャ1では、側面1cに沿った平面において、側面1cの面積とポケット20の開口面積との合計に対するポケット20の開口面積の比率が、15%以上であることが好ましく、20%以上であることが更に好ましい。これにより、スラストワッシャ1では、上記のようなポケット20による作用をより確実に得ることができる。
【0045】
[樹脂材料で形成されたスラストワッシャ1]
スラストワッシャ1は、銅合金などの金属材料で形成することもできるが、樹脂材料で形成することが好ましい。これにより、軽量で、かつ低コストで製造可能なスラストワッシャ1を提供することができる。樹脂材料で形成されたスラストワッシャ1を用いることで、油圧機器の軽量化及び低コスト化が可能となる。
【0046】
スラストワッシャ1の形成に適した樹脂材料としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリフタルアミド(PPA)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、変性ポリテトラフルオロエチレンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0047】
また、スラストワッシャ1を形成する樹脂材料には、側面1cにおける摩擦の低減及び耐摩耗性の向上の観点から、添加剤を充填することが好ましい。スラストワッシャ1を形成する樹脂材料への充填に適した添加剤としては、例えば、カーボン粉末、カーボン繊維、ガラス繊維などが挙げられる。
【0048】
樹脂材料によるスラストワッシャ1の成形には、例えば、射出成形を用いることができる。スラストワッシャ1では、
図4に示す角度βが大きすぎるとスムーズに型抜きできなくなる。この観点から、スラストワッシャ1では、角度βは、120°以下であることが好ましく、100°以下であることが更に好ましい。
【0049】
樹脂材料で形成されたスラストワッシャ1では、銅合金などの金属材料を用いた一般的な構成と比較すると、どうしても摺動面である側面1cが摩耗しやすくなる。これに対し、スラストワッシャ1は、側面1cが摩耗しても、上記のようなポケット20の機能が損なわれにくいように構成されている。
【0050】
具体的に、各ポケット20のポケット底面21には、
図5に示すように、周方向に沿って並ぶ複数の傾斜面211と、複数の傾斜面211を接続する屈曲部212と、が設けられている。各ポケット底面21における複数の傾斜面211の側面1cに対する傾斜は、終端部20bに近い傾斜面211ほど緩やかになる。
【0051】
各ポケット底面21では、複数の傾斜面211間の側面1cに対する傾斜角度が不連続であり、このため複数の傾斜面211間を接続する屈曲部212が凸状に屈曲する。このような構成により、側面1cの摩耗によって下流側の傾斜面211が摩耗しても、上流側の傾斜面211によってポケット底面21の機能が保たれる。
【0052】
また、各ポケット底面21では、複数の傾斜面211がそれぞれ、周方向に沿って凸状に形成されたR面であることが好ましい。更に、各ポケット底面21では、屈曲部212が、2つの傾斜面211を滑らかに接続可能なように、接続する2つの傾斜面211よりも小さい曲率半径を有するR面であることが更に好ましい。
【0053】
[実施例]
スラストワッシャ1において、油溝10の間隔Lによる摩耗量の変化を確認するための実験について説明する。この実験では、各側面1cに占める油溝10が形成される領域の割合を一定とすることを前提として、側面1cにおける凹部Pの数によってスラストワッシャ1の油溝10の間隔Lを変化させた。
【0054】
スラストワッシャ1のサンプルとして、油溝10の間隔Lが、1.0mm、1.5mm、3.0mm、6.0mm、10.0mm、15.0mm、20.0mmの7種類のサンプルを作製した。各サンプルではいずれも、原料として熱可塑性樹脂を用い、側面1cにおける凹部Pの数以外の構成を共通とした。
【0055】
各サンプルの耐摩耗性試験には、
図7に示す耐摩耗性試験機100を用いた。耐摩耗性試験機100では、オイルが充填されたオイル槽101中に、上側ホルダ102と、下側ホルダ103と、スラスト荷重軸104と、上側相手材105と、下側相手材106と、が設けられている。
【0056】
各サンプルは、上側相手材105と下側相手材106との間にセットされる。そして、下側ホルダ103及び下側相手材106を回転させることで、サンプルを上側相手材105或いは下側相手材106に対して摺動させた。
【0057】
図8は、耐摩耗性試験の結果を示すグラフである。
図8では、横軸が油溝10の間隔Lを示し、縦軸が側面1cの摩耗量(相対値)を示している。このグラフに示すように、油溝10の間隔Lを1.5mm以上10.0mm以下とすることで側面1cの摩耗量が抑制され、油溝10の間隔Lを3.0mm以上6.0mm以下とすることで側面1cの摩耗量が更に抑制されることがわかる。
【0058】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0059】
例えば、スラストワッシャ1では、一対の側面1cの一方のみが摺動面として構成されていてもよい。この場合、摺動面となる側面1cに凹部Pが形成されていればよい。つまり、摺動面とならない側面1cには、油溝10のみが形成されていてもよく、又は油溝10及びポケット20のいずれも形成されていなくてもよい。
【0060】
また、スラストワッシャ1では、両側面1cにおける油溝10及びポケット20の構成が相互に異なっていてもよい。例えば、スラストワッシャ1では、両側面1cにおいて、凹部Pの数が相互に異なっていてもよく、油溝10及びポケット20の少なくとも一方の形状が相互に異なっていてもよい。
【0061】
更に、スラストワッシャ1の各ポケット20では、ポケット底面21が、油溝10から離れるにつれて浅くなっていればよく、上記の形状に限定されない。例えば、ポケット底面21は、側面1cに対して一定の角度で傾斜する平面であってもよく、全体として周方向に沿って凸状に形成されたR面であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…スラストワッシャ
1a…外周面
1b…内周面
1c…側面
10…油溝
11…油溝底面
12…油溝側壁面
20…ポケット
20a…接続部
20b…終端部
21…ポケット底面
211…傾斜面
212…屈曲部
22…ポケット側壁面
23…接続面