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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022099920
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】半導体集積回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/22 20060101AFI20220628BHJP
   H03F 3/45 20060101ALI20220628BHJP
   H03H 7/38 20060101ALI20220628BHJP
【FI】
H03F1/22
H03F3/45
H03H7/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213996
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】榊田 勲
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA12
5J500AA13
5J500AA45
5J500AC35
5J500AC58
5J500AF16
5J500AH10
5J500AH16
5J500AH25
5J500AH29
5J500AH30
5J500AH37
5J500AK29
5J500AM04
5J500AM17
5J500AS13
5J500AT01
5J500AT03
5J500AT05
5J500AT06
5J500DN08
5J500DN16
5J500DN22
5J500DP02
(57)【要約】
【課題】MAGまたはMSGの大幅な低下を生じさせずに、耐圧を向上できる半導体集積回路を提供すること。
【解決手段】半導体集積回路は、入力端子110a、110bと、出力端子120a、120bと、入力端子と出力端子との間で複数のMOSトランジスタ131が多段に接続された多段接続部130を備える。多段接続部は、MOSトランジスタとして、入力端子に接続された入力段トランジスタ1311a、1311bと、出力端子に接続された出力段トランジスタ1312a、1312bを有する。出力段トランジスタのゲート絶縁膜の厚みT2が、入力段トランジスタのゲート絶縁膜の厚みT1と等しくされ、出力段トランジスタのゲート長L2が、入力段トランジスタのゲート長L1よりも長くされている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子(110a、110b)と、
出力端子(120、120a、120b)と、
前記入力端子と前記出力端子との間で複数のMOSトランジスタ(131)が多段に接続された多段接続部(130)と、を備え、
前記多段接続部は、前記MOSトランジスタとして、前記入力端子に接続された入力段トランジスタ(1311a、1311b)と、前記出力端子に接続された出力段トランジスタ(1312、1312a、1312b)と、を有し、
前記出力段トランジスタのゲート絶縁膜の厚みが、前記入力段トランジスタのゲート絶縁膜の厚みと等しく、
前記出力段トランジスタのゲート長が、前記入力段トランジスタのゲート長よりも長い、半導体集積回路。
【請求項2】
前記多段接続部は、前記入力段トランジスタとしてのソース接地トランジスタと、前記出力段トランジスタとしてのゲート接地トランジスタと、を有するカスコード接続部である、請求項1に記載の半導体集積回路。
【請求項3】
前記MOSトランジスタとして、前記入力段トランジスタおよび前記出力段トランジスタのみを含む、請求項1または請求項2に記載の半導体集積回路。
【請求項4】
前記入力端子に接続された入力整合回路(140)と、
前記出力端子に接続された出力整合回路(150)と、をさらに備え、
準ミリ波、または、ミリ波帯で動作する、請求項1~3いずれか1項に記載の半導体集積回路。
【請求項5】
各段の前記MOSトランジスタの前記ゲート長が、ソース-ドレイン間の許容電圧との関係に基づいて設定されている、請求項1~4いずれか1項に記載の半導体集積回路。
【請求項6】
前記出力段トランジスタのドレインには、標準電源電圧を超える電圧が印加される、請求項5に記載の半導体集積回路。
【請求項7】
前記多段接続部は、差動増幅回路をなしている、請求項1~6いずれか1項に記載の半導体集積回路。
【請求項8】
前記多段接続部は、一対の前記入力段トランジスタと、一対の前記入力段トランジスタにクロスカップル接続された一対の容量と、を有する、請求項7に記載の半導体集積回路。
【請求項9】
前記多段接続部は、周波数逓倍回路をなしている、請求項1~6いずれか1項に記載の半導体集積回路。
【請求項10】
前記出力段トランジスタの全ゲート幅が、前記入力段トランジスタの全ゲート幅よりも長い、請求項1~9いずれか1項に記載の半導体集積回路。
【請求項11】
前記出力段トランジスタの全ゲート幅が、前記入力段トランジスタの全ゲート幅よりも短い、請求項1~9いずれか1項に記載の半導体集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、半導体集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複数のトランジスタが多段に接続された多段接続部を備える半導体集積回路を開示している。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-135097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、出力段トランジスタとして、入力段トランジスタよりも耐圧が高いトランジスタを用いている。出力段トランジスタのゲート絶縁膜は、入力段トランジスタのゲート絶縁膜よりも厚い。よって、ゲート絶縁膜の膜厚についてスケーリング則の効果を得られなくなり、最大有能電力利得(MAG)、最大安定電力利得(MSG)が大きく低下する虞がある。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、半導体集積回路にはさらなる改良が求められている。MAGは、Maximum Available Gainの略称である。MSGは、Maximum Stable power Gainの略称である。
【0005】
開示されるひとつの目的は、MAGまたはMSGの大幅な低下を生じさせずに、耐圧を向上できる半導体集積回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された半導体集積回路は、
入力端子(110a、110b)と、
出力端子(120、120a、120b)と、
入力端子と出力端子との間で複数のMOSトランジスタ(131)が多段に接続された多段接続部(130)と、を備え、
多段接続部は、MOSトランジスタとして、入力端子に接続された入力段トランジスタ(1311a、1311b)と、出力端子に接続された出力段トランジスタ(1312、1312a、1312b)と、を有し、
出力段トランジスタのゲート絶縁膜の厚みが、入力段トランジスタのゲート絶縁膜の厚みと等しく、
出力段トランジスタのゲート長が、入力段トランジスタのゲート長よりも長い。
【0007】
開示された半導体集積回路によれば、出力段トランジスタにおいて、ゲート絶縁膜の厚みを入力段トランジスタと等しくしつつ、ゲート長を入力段トランジスタよりも長くする。この結果、MAGまたはMSGの大幅な低下を生じさせずに、耐圧を向上することができる。
【0008】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】MAGまたはMSGと、Kファクタの周波数依存性を示す図である。
図2】第1実施形態に係るミリ波レーダシステムを示す回路図である。
図3】半導体集積回路を示す回路図である。
図4】多段接続部を示す回路図である。
図5】複数のノード、ノード間における電圧振幅を示す図である。
図6】ゲート長と許容電圧との関係を示す図である。
図7】MAG/MSGおよびKファクタに対するゲート長の影響を示す図である。
図8】出力段トランジスタの入力インピーダンスのゲート長依存性を示す図である。
図9】第2実施形態に係る半導体集積回路において、複数のノード、ノード間における電圧振幅を示す図である。
図10】第3実施形態に係る半導体集積回路を示す回路図である。
図11】第4実施形態に係る半導体集積回路のうち、多段接続部を示す回路図である。
図12】第5実施形態に係る半導体集積回路のうち、多段接続部を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
近年、ゲート長が100nm以下の先端CMOSプロセスを使用した高周波回路のアプリケーションが提案されている。具体的には、24GHz帯、79GHz帯を使用したミリ波レーダや、28GHz、39GHz帯を使用した第5世代移動通信システムなどが挙げられる。このようなミリ波帯で使用される電力増幅器では、トランジスタの高周波利得の性能を示すMAG(最大有能電力利得)、MSG(最大安定電力利得)が低い。したがって、ミリ波帯の電力増幅器では、特にそのデバイス性能を引き出すことが回路設計に要求される。CMOSは、Complementary Metal Oxide Semiconductorの略称である。
【0011】
電力増幅器の回路設計において、一般に、飽和出力電力の改善と信頼性の両立は重要な課題であると認識されている。出力電力を上げるためには、回路のバイアス電流を増やすか、電圧振幅を上げる必要がある。バイアス電流を増やすと、消費電力が増えるため望ましくない。電圧振幅を増やすと、CMOSデバイスの場合、ソース-ドレイン間に大きな電圧振幅がかかり、規定の耐圧を超えて信頼性に影響を及ぼす。特に微細CMOSプロセスを使用した電力増幅器の場合、ゲート長が短く、これにより電界が高くなりやすいため、ホットキャリア注入(HCI)によるデバイスの劣化が課題となる。HCIは、Hot Carrier Injectionの略称である。
【0012】
このように電力増幅器では、高出力電力化と信頼性とがトレードオフの関係をもつ。この課題を解決するために、電力増幅器では、ソース接地トランジスタとゲート接地トランジスタを縦積みしたカスコード接続を用いることが知られている。上記した特許文献1に代表される技術では、カスコード接続回路において高出力化、高耐圧化を図るために、出力段をなすゲート接地トランジスタとして、入力段のソース接地トランジスタよりもゲート絶縁膜の厚い高耐圧型のトランジスタを用いている。
【0013】
図1は、ファウンダリから提供されるPDKを利用したときの、NMOSトランジスタの高周波利得特性を示すMAGまたはMSGと、回路の安定性を示すKファクタの周波数依存性のシミュレーション結果を示している。ここでは、ゲート長が40nm、ゲート幅が1μm、全ゲート幅が60μmのNMOSトランジスタを用い、電源電圧は1.1V、ゲートバイアス電圧は0.7Vを印加した。PDKは、Process Design Kitの略称である。以下において、MAGまたはMSGを、MAG/MSGと示すことがある。図1において、実線がMAG/MSGを示し、破線がKファクタを示している。実線のうち、K≧1の部分がMAG、K<1の部分がMSGを示している。
【0014】
図1より、MAG/MSGは、周波数が高くなるにつれて低くなることが明らかである。特に60GHz付近を超えると、MAG/MSGは10dBを下回る。このような高い周波数帯域で使用する場合は、トランジスタの性能を引き出すことが、増幅回路の設計において重要になる。
【0015】
実際には、レイアウトに依存した各ノードに付く寄生成分の影響で、MAG/MSGはより低くなる。また、Kファクタが1となる周波数についても、寄生成分の影響が大きくなるほど低周波側にシフトする。これ以外にも、高周波増幅回路では入出力のインピーダンス整合回路を設ける必要があり、整合回路自体で信号の損失が発生するために、さらに数dB程度利得は劣化する。
【0016】
このようにトランジスタは、周波数が高くなるほどMAG/MSGが低くなる性能を示す。したがって、電力増幅器において、カスコード接続の出力段トランジスタに高耐圧版のトランジスタを使用することが常に最適とは限らない。
【0017】
たとえば、カスコード接続において出力段のゲート接地トランジスタを高耐圧版にすると、一般にMAG/MSGが低くなることが挙げられる。特に準ミリ波、ミリ波帯を使用するレーダや5G通信での適用を考えると、この影響は無視できなくなる。これは、同一のゲート長および/または同一の全ゲート幅の場合でも、ゲート絶縁膜が相対的に厚くなることにより、ゲート絶縁膜の膜厚についてスケーリング則の効果を得られなくなり、トランジスタ性能が落ちることに起因する。
【0018】
また、出力段のゲート接地トランジスタに高耐圧版のトランジスタを使用した場合、選択可能な最小ゲート長が限定されてしまう。一般に、CMOSを製造するファウンダリから提供されるトランジスタのオプションとして、複数の膜厚の選択が可能である。たとえば、40nm世代のプロセスだと、薄いゲート絶縁膜を有する通常耐圧版、中間厚のゲート絶縁膜を有する中耐圧版、厚いゲート絶縁膜を有する高耐圧版などの中から、製品として複数の膜厚のトランジスタを選択可能である。なお、通常耐圧版の標準電源電圧は1.1V、中耐圧版の標準電源電圧は1.8V、高耐圧版の標準電源電圧は2.5Vで規定されている。
【0019】
デザインルール上、選択可能なゲート長の最小サイズの具体的な一例としては、通常耐圧版で40nm、中耐圧版で150nm、高耐圧版で270nmとなる。このように、耐圧(ゲート絶縁膜厚)に応じてゲート長の最小サイズが規定される。よって、高耐圧版のトランジスタを用いると、ゲート長の最小サイズの制限により、要求される信頼性に応じたゲート長を選択することができない。つまり、高周波特性と耐圧に対する信頼性の最適化ができない。
【0020】
また、出力段のゲート接地トランジスタとして高耐圧版を使用することは、必ずしも信頼性の問題に対して、最適化されない。信頼性とは、高周波で交流動作したときのトランジスタにおいて、酸化膜経時破壊(TDDB)、HCI、PN接合でのブレークダウンなどを指している。TDDBは、Time Dependent Dielectric Breakdownの略称である。TDDBによるゲート絶縁膜の破壊と、HCIによるトランジスタ特性の変動・劣化は、異なるメカニズムにより発生する。このため、同一の寿命と累積不良率をターゲットにした信頼性基準を設定したときに、TDDBとHCIのどちらが先に問題となるかは状況により異なる場合がある。
【0021】
具体的には、シミュレーションでトランジスタに交流信号を入力し、動作検証させたときに、Vgsの振幅についてはTDDBの信頼性基準に対して余裕があるのに対し、Vdsの振幅についてはHCIの信頼性基準に対して余裕が不足する場合がある。このような場合、TDDBの信頼性課題に対して対応する必要はなく、HCIに対しての信頼性課題に対しての対応のみが必要になる。すなわち、TDDBに対する耐性を高めるためにゲート絶縁膜を厚くする必要はなく、HCIに対する耐性のみを高める必要があることを示している。ゲート絶縁膜が厚い高耐圧版のトランジスタが必要となるのは、Vgsの振幅が信頼性の基準値を超える場合であり、常に必要となるわけではない。Vgsは、ゲート-ソース間の電圧である。Vdsは、ドレイン-ソース間の電圧である
しかしながら、特許文献1に代表される技術では、TDDBとHCIの問題について分離して議論されていない。また、故障メカニズムに基づき計算される信頼性基準から、定量的に増幅器の設計がなされているわけではない。出力段トランジスタに高耐圧版を用いた場合の課題は、電力増幅器に限定されるものではない。複数のMOSトランジスタが多段に接続された多段接続部を備える半導体集積回路の課題である。
【0022】
以下、図面に基づいて複数の実施形態を説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0023】
(第1実施形態)
先ず、図2に基づき、本実施形態の半導体集積回路が適用されるミリ波レーダシステムの回路構成について説明する。
【0024】
<ミリ波レーダシステムの回路構成>
図2に示すミリ波レーダシステム10は、たとえば、車両前方に79GHz帯の変調された電波を放射し、対象物による反射波を測定することで、対象物との距離や相対速度を測ることができる。ミリ波レーダシステム10は、制御器20と、MMIC30を備えている。MMICは、Monolithic Microwave Integrated Circuitの略称である。
【0025】
制御器20は、MMIC30からの信号の入力に基づいて、対象物との距離や相対速度の測定を行う。制御器20は、たとえば、CPU21と、ROM、RAM等によるメモリ22と、A/D変換器23と、I/O24を内蔵したマイクロコンピュータを用いて構成される。制御器20の機能の少なくとも一部は、MMIC30に搭載されてもよい。本実施形態では、制御系の各機能が制御器20に搭載される例を示す。
【0026】
MMIC30は、シリコンなどを材料とする単一の半導体チップに、各部が集積化されて構成されている。MMIC30は、デジタル部31と、インターフェース32と、PLL部33と、高周波スイッチ34と、緩衝増幅部35と、周波数ダブラー36と、送信部37と、受信部38を備えている。PLLは、Phase Locked Loopの略称である。また、MMIC30は、外部に局部発振信号を出力する出力端子39と、外部から局部発振信号を入力する入力端子40を備えている。以下において、局部発振信号をLO信号と示す。LOは、Local oscillationの略称である。
【0027】
デジタル部31は、レジスタ31aと、不揮発性メモリ31bと、制御部31cを有している。デジタル部31は、インターフェース32を介して、MMIC30の外部との通信が可能となっている。外部とは、制御器20や図示しない外部装置である。対象物との距離や相対速度を測定する際には、MMIC30と制御器20とが接続される。
【0028】
レジスタ31aは、高周波スイッチ34の切り替えに関するデータや、緩衝増幅部35が有する各種増幅器の利得に関するデータなどが書き込まれる部分である。レジスタ31aは、インターフェース32を介して、制御器20や外部装置によって書き込み可能とされている。
【0029】
不揮発性メモリ31bは、製造ばらつきの補正値が書き込まれる部分である。不揮発性メモリ31bは、1度だけの書き込みが可能となっている。各チップ固有の補正値は、不揮発性メモリ31bに書き込まれると、消去されることなく保存される。
【0030】
制御部31cは、デジタル回路であり、レジスタ31aに書き込まれたデータに基づいて、チップ内の各アナログ高周波ブロックに制御信号を送信する。具体的には、高周波スイッチ34の切り替えを行ったり、緩衝増幅部35が有する各種増幅器に対して利得の設定を行う制御信号を伝えたりする。また、制御部31cは、不揮発性メモリ31bに書き込まれた補正値を、補正が行われる各部に伝える。上記したように、本実施形態では、制御器20に制御系の各機能を搭載しているが、MMIC30に少なくとも一部の機能を搭載する場合には、デジタル部31に搭載される。
【0031】
PLL部33は、図示しないVCOおよびフィードバックループ回路を有している。フィードバックループ回路は、VCOの出力信号を制御する。PLL部33は、たとえばFMCWなどの方式により変調された40GHz帯のLO信号を生成し、高周波スイッチ34に出力する。VCOは、Voltage Controlled Oscillatorの略称である。FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略称である。
【0032】
高周波スイッチ34は、レジスタ31aに書き込まれたデータに基づいて制御部31cから制御信号が伝えられることにより、経路の切り替えを行う。MMIC30に制御器20が接続されると、制御器20の制御信号がインターフェース32を介して入力され、レジスタ31aへのデータの書き込みが行われる。そして、レジスタ31aに書き込まれたデータに基づく制御信号が、制御部31cから高周波スイッチ34に伝えられる。これにより、高周波スイッチ34は、PLL部33を緩衝増幅部35に接続する。
【0033】
また、MMIC30に図示しない外部装置が接続されると、外部装置の制御信号がインターフェース32を介して入力されることでレジスタ31aのデータの書き込みが行われる。そして、レジスタ31aに書き込まれたデータに基づく制御信号が、制御部31cから高周波スイッチ34に伝えられる。これにより、高周波スイッチ34は、入力端子40を緩衝増幅部35に接続する。
【0034】
緩衝増幅部35は、PLL部33から出力されたLO信号または高周波スイッチ34を介して入力端子40から入力されるLO信号を増幅し、周波数ダブラー36、送信部37、および出力端子39に分配する。緩衝増幅部35は、分配増幅部と称されることがある。
【0035】
緩衝増幅部35は、高周波増幅器により構成された複数の増幅器を有している。各増幅器は、LO信号を増幅する。緩衝増幅部35の内部の分岐箇所の前後に配置される各増幅器は、たとえば同一の回路構成をなしている。各増幅器は、利得を可変させられる可変利得増幅器により構成されている。各増幅器の利得の設定値は、レジスタ31aにデータとして書き込まれており、制御部31cからの制御信号として各増幅器に伝えられる。通常のレーダ動作時は、PLL部33から出力されたLO信号が緩衝増幅部35の各増幅器で増幅されたのち、送信部37や、周波数ダブラー36を介して受信部38に入力される。
【0036】
なお、図2では、簡略化のために、各種制御信号の伝達を行う制御線について図示を省略している。また、緩衝増幅部35が有する複数の増幅器の数についても任意である。たとえば、入力端子40から出力端子39に至る経路に2つの増幅器を有する例を示したが、1つの増幅器を有してもよいし、3つ以上の増幅器を有してもよい。
【0037】
周波数ダブラー36は、緩衝増幅部35から伝えられたLO信号の周波数を2倍に変換し、変換後のLO信号を受信部38に伝える。周波数ダブラー36は、周波数逓倍器と称されることがある。
【0038】
送信部37は、複数の送信器370を有している。送信器370は、送信チャネルごとに設けられている。本実施形態の送信部37は、nチャネル分の送信チャネルTX1ch~TXnchを備えている。送信器370は、移相器371と、周波数ダブラー372と、電力増幅器373をそれぞれ有している。移相器371、周波数ダブラー372、および電力増幅器373は、縦続接続されている。
【0039】
移相器371は、対応する送信チャネルTX1ch~TXnchにおける位相を制御する。移相器371は、周波数ダブラー372の前段に設けてもよいし、周波数ダブラー372の後段に設けてもよい。本実施形態では、移相器371を、周波数ダブラー372の前段に設けている。
【0040】
周波数ダブラー372は、移相器371から入力される信号の周波数を2倍に変換し、電力増幅器373に出力する。周波数ダブラー372に代えて、別の周波数逓倍器、たとえば入力信号周波数の3倍の周波数を出力する周波数トリプラーを用いることもできる。電力増幅器373は、移相器371および周波数ダブラー372を経た高周波信号の電力増幅を行う。
【0041】
各送信チャネルTX1ch~TXnchにおける送信器370の出力は、図示しないプリント基板上に形成された対応するアンテナ素子ATの給電点に接続されている。そして、各送信チャネルTX1ch~TXnchにおける送信器370から伝えられた高周波信号は、最終的に、アンテナ素子ATを通じて変調された電波として対象物へ向けて放射される。
【0042】
受信部38は、複数の受信器380を有している。受信器380は、受信チャネルごとに設けられている。本実施形態の受信部38は、mチャネル分の受信チャネルRX1ch~RXmchを備えている。受信チャネル数mについては、送信チャネル数nと同じでもよいし、異なってもよい。受信器380は、LNA381と、ミキサ382と、IFA383をそれぞれ有している。受信器380は、対応する受信チャネルRX1ch~RXmchのアンテナ素子ARに接続されている。LNAは、Low Noise Amplifierの略称である。IFAは、Intermediate frequencyAmplifierの略称である。
【0043】
対象物から反射された反射波は、複数のアンテナ素子ARを介して各受信器380に入力される。各受信器380のLNA381は、対応するアンテナ素子ARを介して入力された受信信号を増幅し、ミキサ382に出力する。ミキサ382は、周波数ダブラー36で周波数が2倍とされたLO信号により、受信信号をより低周波の中間周波数に変換する。
【0044】
IFA383は、たとえば可変利得増幅器により構成されている。IFA383は、レジスタ31aに設定された設定値により、ミキサ382から伝えられた信号を増幅し、制御器20のA/D変換器23に出力する。制御器20は、A/D変換器23により変換されたデジタルデータに基づいて信号処理を実行することで、対象物との距離や相対速度を算出する。
【0045】
ミリ波レーダシステム10がMMIC30を1つのみ備える構成について説明したが、これに限定されない。ミリ波レーダシステム10は、MMIC30を複数備えてもよい。たとえば、2つのMMIC30を備える構成において、一方のチップをマスター動作させ、他方のチップをスレーブ動作させてもよい。具体的には、一方のチップのPLL部33のみを発振動作させ、生成したLO信号を出力端子39から出力させて、他方のチップの入力端子40より入力するようにしてもよい。これにより、ミリ波レーダシステム10の送信チャネルや受信チャネルを増やし、ひいてはミリ波レーダシステム10の性能を高めることができる。
【0046】
<半導体集積回路の回路構成>
次に、図3に基づき、半導体集積回路の回路構成について説明する。半導体集積回路は、複数のMOSトランジスタ(MOSFET)が多段に接続された多段接続部を有している。本実施形態では、半導体集積回路が緩衝増幅部35に適用される例を示す。MOSFETは、Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略称である。
【0047】
半導体集積回路が構成する緩衝増幅部35は、図2に示したように、79GHz帯で使用されるMMIC30において、40GHz帯のLO信号を送信部37および受信部38へ分配する。PLL部33にて40GHz帯で生成されたLO信号は、緩衝増幅部35を経て、送信部37側の周波数ダブラー372および受信部38側の周波数ダブラー36へ分配される。
【0048】
周波数ダブラー36、372に対し高い電力で入力する必要があるために、緩衝増幅部35(半導体集積回路)には電力増幅器に求められるような高出力電力化が求められる。また、緩衝増幅部35(半導体集積回路)は、送信部37、受信部38が備える複数のチャネルに基準信号を分配する役割があるため、出力電力が飽和した領域で動作することがある。したがって、AEC-Q100などに規定されたHCI、TDDBなどの寿命劣化に対する高い信頼性が求められる。AECとは、Automotive Electronics Councilの略称である。Q100は、集積回路のカテゴリである。
【0049】
図3に示すように、半導体集積回路100は、入力端子110a、110bと、出力端子120a、120bと、多段接続部130と、入力整合回路140と、出力整合回路150を備えている。上記したように、半導体集積回路100は、MMIC30の一部である。つまり、半導体集積回路100は、シリコンなどを材料とする単一の半導体チップに構成されている。
【0050】
多段接続部130は、一対の入力端子110a、110bと一対の出力端子120a、120bとの間に設けられている。本実施形態の多段接続部130は、差動増幅回路をなしている。多段接続部130の詳細については、後述する。
【0051】
入力整合回路140および出力整合回路150は、トランスと容量をそれぞれ有し、40GHz帯の周波数に整合されている。具体的には、入力整合回路140は、第1トランス141と、固定容量142と、可変容量143a、143bを有している。第1トランス141は、1次巻線1411と、2次巻線1412を有している。本実施形態において、1次巻線1411と2次巻線1412の巻き数比は、1:2となっている。固定容量142は、1次巻線1411に接続された信号線144a、144bの間に接続されている。信号線144a、144bは、対をなす差動信号線である。
【0052】
可変容量143a、143bは、2次巻線1412に接続された信号線145a、145bとグランドとの間にそれぞれ接続されている。信号線145a、145bは、対をなす差動信号線である。信号線145aは入力端子110aに接続され、信号線145bは入力端子110bに接続されている。本実施形態の第1トランス141は、センタータップ型のトランスである。1次巻線1411はグランド接地され、2次巻線1412には、電源電圧Vddよりも低い所定のバイアス電圧(たとえば、0.7V程度)が印加される。
【0053】
出力整合回路150は、第2トランス151と、可変容量152a、152bと、固定容量153を有している。第2トランス151は、1次巻線1511と、2次巻線1512を有している。本実施形態において、1次巻線1511と2次巻線1512の巻き数比は、2:1となっている。可変容量152a、152bは、1次巻線1511に接続された信号線154a、154bとグランドとの間にそれぞれ接続されている。信号線154a、154bは、対をなす差動信号線である。信号線154aは出力端子120aに接続され、信号線154bは出力端子120bに接続されている。固定容量153は、2次巻線1512に接続された信号線155a、155bの間に接続されている。信号線155a、155bは、対をなす差動信号線である。
【0054】
第2トランス151も、センタータップ型のトランスである。2次巻線1512はグランド接地され、1次巻線1511には電源電圧Vddが印加される。上記した信号線144a、145a、154a、155aは、たとえば正相信号線と称されることがある。この場合、信号線144b、145b、154b、155bは、逆相信号線と称される。
【0055】
整合回路が有する容量は、上記した例に限定されない。たとえば、固定容量を可変容量に置き換えてもよいし、可変容量を固定容量に置き換えてもよい。容量の一部を排除してもよい。トランスの巻き数比は上記した例に限定されない。トランスと容量を有する整合回路に代えて、その他のインダクタや伝送線路による整合回路を採用してもよい。
【0056】
<多段接続部の回路構成>
次に、図3および図4に基づき、多段接続部の回路構成について説明する。図4では、出力段側のゲート抵抗134を省略して図示している。
【0057】
図3および図4に示すように、多段接続部130は、複数のMOSトランジスタ131を有している。複数のMOSトランジスタ131は、入力端子110a、110bと出力端子120a、120bとの間で多段に接続されている。具体的には、多段接続部130が、2段構造をなしている。複数のMOSトランジスタ131は、入力段トランジスタ1311a、1311bと、出力段トランジスタ1312a、1312bを含んでいる。入力段は下段、出力段は上段と称されることがある。入力段トランジスタ1311a、1311bは、ソースがグランド(GND)に接地されたソース接地トランジスタである。出力段トランジスタ1312a、1312bは、ゲートが電源電圧に接地されたゲート接地トランジスタである。
【0058】
ソース接地された入力段トランジスタ1311aと、ゲート接地された出力段トランジスタ1312aとは、カスコード接続されている。同様に、ソース接地された入力段トランジスタ1311bとゲート接地された出力段トランジスタ1312bとは、カスコード接続されている。このように、多段接続部130は、複数のMOSトランジスタ131によるカスコード接続部である。
【0059】
具体的には、入力段トランジスタ1311aのゲートが入力端子110aに接続され、入力段トランジスタ1311bのゲートが入力端子110bに接続されている。入力段トランジスタ1311a、1311bのソースは、それぞれグランド接地されている。出力段トランジスタ1312aのドレインは出力端子120aに接続され、出力段トランジスタ1312bのドレインは出力端子120bに接続されている。入力段トランジスタ1311aのドレインと出力段トランジスタ1312aのソースが相互に接続されている。入力段トランジスタ1311bのドレインと出力段トランジスタ1312bのソースが相互に接続されている。
【0060】
多段接続部130は、さらに中性化容量132、133を有している。中性化容量132は、入力段トランジスタ1311aのゲートと、入力段トランジスタ1311bのドレインとの間に接続されている。中性化容量133は、入力段トランジスタ1311bのゲートと、入力段トランジスタ1311aのドレインとの間に接続されている。このように、多段接続部130は、クロスカップル接続されている。中性化容量132の値は、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲート-ドレイン間の寄生容量Cgdの値とほぼ等しくなるように設定されている。同様に、中性化容量133の値は、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲート-ドレイン間の寄生容量Cgdの値とほぼ等しくなるように設定されている。なお、ほぼ等しくとは、完全な一致に限らず、製造ばらつき程度のずれを許容するものである。
【0061】
多段接続部130は、40GHz帯の高い周波数帯域での動作のため、中性化容量を有さないカスコード接続の場合、MAG/MSGが低い。本実施形態では、中性化容量132、133により、差動対をなす入力段トランジスタ1311a、1311bの一方のゲートと他方のドレインとをクロスカップル接続しているため、寄生容量Cgdによる高周波特性の劣化を低減することができる。また、多段接続部130の入出力インピーダンスが変化した場合であっても、Kファクタを安定させることができる。
【0062】
<MOSトランジスタの構造>
次に、MOSトランジスタの構造について説明する。本実施形態において、半導体集積回路100を含むMMIC30は、40nm世代のバルクCMOSの半導体プロセスを用いて形成されている。このプロセスでは、ゲート絶縁膜の膜厚が互いに異なる複数のトランジスタが提供される。ゲート絶縁膜は、通常、酸化膜として提供される。
【0063】
具体的には、上記したように、通常耐圧版、中耐圧版、高耐圧版などから、複数の膜厚のトランジスタを選択可能である。通常耐圧版は、薄いゲート絶縁膜を有し、標準電源電圧が1.1Vで規定されたトランジスタである。中耐圧版は、中間のゲート絶縁膜を有し、標準電源電圧が1.8Vのトランジスタである。高耐圧版は、厚いゲート絶縁膜を有し、標準電源電圧が2.5Vのトランジスタである。デザインルールで選択可能な最小のゲート長は、1.1V系トランジスタで40nm、1.8V系トランジスタで150nm、2.5V系トランジスタで270nmとなる。なお、標準電源電圧とは、デザインマニュアルやPDKなどで規定されている通常動作時に印加される電源電圧の値を示す。具体的には、1.1V系トランジスタ、1.5V系トランジスタ、1.8V系トランジスタ、2.5V系トランジスタ、3.3V系トランジスタなどと標記される電源電圧の値を示す。
【0064】
本実施形態では、多段接続部130を構成するすべてのMOSトランジスタ131として、プロセスが提供する最小ゲート長の選択が可能な通常耐圧版(1.1V系トランジスタ)を用いている。また、一例として、すべてのMOSトランジスタ131について、ゲート幅を1μm、フィンガー数を60本、全ゲート幅を60μmに設定している。
【0065】
一方、ゲート長については、ソース接地の入力段トランジスタ1311a、1311bと、ゲート接地の出力段トランジスタ1312a、1312bとで異ならせている。具体的には、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲート長については、通常耐圧版において最小の40nmとした。出力段トランジスタ1312a、1312bのゲート長については、デザインルールにより規定される最小値の40nmよりも長い80nmとした。
【0066】
ここで、図4に示すように、入力段トランジスタ1311a、1311bそれぞれの、ゲート絶縁膜の厚みをT1、全ゲート幅をW1、ゲート長をL1と定義する。また、出力段トランジスタ1312a、1312bそれぞれの、ゲート絶縁膜の厚みをT2、全ゲート幅をW2、ゲート長をL2と定義する。本実施形態では、多段接続部130の入力段トランジスタ1311a、1311bと出力段トランジスタ1312a、1312bとが、T1=T2、W1=W2、L1<L2の関係を満たしている。
【0067】
多段接続部130の入力段、出力段それぞれにおけるMOSトランジスタ131のゲート長については、上記した例に限定されない。後述するように、各段のMOSトランジスタ131のソース-ドレイン間の電圧振幅に応じて、ゲート長が決定されればよい。
【0068】
<ゲート長の設定方法>
次に、図5および図6に基づき、ゲート長のサイズの設定方法について説明する。まず、多段接続部に高周波信号を入力した際の各ノード、ノード間における電圧振幅の過渡応答について説明する。
【0069】
図5は、図3に示した回路構成の半導体集積回路100において、入力整合回路140の入力端子に40GHzで入力電圧を-10dBmから0dBmまで2dBステップで可変し、入力したときの、各ノード、ノード間における電圧振幅を示している。ただし、シミュレーションでの初期条件として、出力段トランジスタ1312a、1312bのゲート長を、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲート長と等しい値、具体的には40nmとした。つまり、図5のシミュレーション結果は、本実施形態と同等の回路構成において、出力段トランジスタのゲート長を本実施形態とは異ならせた参考例の結果である。
【0070】
図3に示したように、ノードN1は、第1トランスの1次側の信号線に設けられている。ノードN2は、入力段トランジスタのゲートと第1トランスの2次巻線との間に設けられている。ノードN3は、入力段トランジスタのドレインと出力段トランジスタのソースとの間に設けられている。ノードN4は、出力段トランジスタのドレインと第2トランスの1次巻線との間に設けられている。ノードN5は、第2トランスの2次側の信号線に設けられている。ノードN6は、正相側の出力段トランジスタのゲートと、逆相側の出力段トランジスタのゲートとの接続点である。図5では、ノードN1、ノードN2、ノードN3、ノードN4-N3間、ノードN4-N6間、およびノードN5の計6つの電圧振幅を示している。差動構成において、実線が正相側の電圧振幅を示し、破線が逆相側の電圧振幅を示している。
【0071】
薄いゲート絶縁膜を使用した通常耐圧版の1.1V系トランジスタについては、通常、標準電源電圧である1.1Vを印加して回路を動作させることが、ファウンダリ等から提供されるデザインルールなどで規定されている。それに対し、許容電圧については、目標となる半導体製品の寿命、製品不良率や動作温度に依存し、標準電源電圧の1.1Vより高い電圧まで許容される。
【0072】
図5の電圧振幅のシミュレーション結果に対して、上記した寿命、製品不良率や動作温度の条件を考慮したときの許容電圧の計算値の一例として、ゲート長が40nmのトランジスタのHCIに対する許容電圧、すなわちソース-ドレイン間の許容電圧Vdsを1.25Vとした。また、TDDBに対する許容電圧、すなわちゲート-ソース間の許容電圧Vgsを1.5Vとした。このように、同一の半導体製品の寿命、製品不良率や動作温度の条件に対して、TDDBのほうがHCIよりも電圧振幅に余裕がある場合がある。TDDBとHCIとで、同じ目標の動作時間不良率に対して許容電圧が異なるのは、互いに異なるメカニズムで劣化が発生するためである。なお、上記したHCIに対する許容電圧、および、TDDBに対する許容電圧は、あくまで一例である。これら許容電圧の値は、目標製品寿命、Siのジャンクション温度、回路構成などに依存する点に注意されたい。
【0073】
ノードN3の電圧振幅は、入力段トランジスタのソース-ドレイン間の電圧Vdsの振幅を示している。図5に示すように、入力段(下段)の電圧Vdsは、0dBmの最大入力時においても0.7V程度であり、HCIに対する許容電圧1.25Vを超えない。よって、入力段トランジスタは、HCIの信頼性基準を満たす。
【0074】
ノードN4-N3間の電圧振幅は、出力段トランジスタのソース-ドレイン間の電圧Vdsの振幅を示している。図5に示すように、出力段(上段)の電圧Vdsは、0dBmの最大入力時において1.4V程度であり、許容電圧1.25Vを超える。よって、出力段トランジスタは、HCIの信頼性基準を満たさない。
【0075】
ノードN2の電圧振幅は、入力段トランジスタのゲート-ソース間の電圧Vgsの振幅を示している。図5に示すように、入力段の電圧Vgsは、0dBmの最大入力時において1.1V程度であり、TDDBに対する許容電圧1.5Vを超えない。よって、入力段トランジスタは、TDDBの信頼性基準を満たす。
【0076】
図示を省略するが、出力段トランジスタのゲートが高周波的に接地されているため、ノードN6の電圧は過渡的に一定であり、出力段の電圧Vgsの変動は小さく、出力段の電圧Vgsも許容電圧1.5Vを超えない。同様に、図5に示すノードN4-N6間の電圧振幅は、出力段トランジスタのゲート-ドレイン間の電圧Vdgの振幅を示している。出力段(上段)の電圧Vdgは、0dBmの最大入力時において1.0V程度であり、許容電圧1.5Vを超えない。よって、出力段トランジスタも、TDDBの信頼性基準を満たす。TDDBの観点で、出力段トランジスタに、ゲート絶縁膜の厚い高耐圧版のトランジスタを使う必要がないことが明らかである。
【0077】
以上より、多段接続部130において、出力段トランジスタのソース-ドレイン間の電圧Vdsの振幅が、信頼性の点で一番問題になりやすいことが明らかとなった。本実施形態のように、多段接続部130がカスコード接続を有する増幅器の場合、入力段トランジスタで増幅された信号が出力段トランジスタに入力されるため、出力段トランジスタの電圧Vdsが、信頼性の点で問題になる。
【0078】
なお、図5に示すように、1次側のノードN1での振幅に対して、2次側のノードN2での振幅が大きくなっているが、巻き数比1:2のトランスを使用しているためであり、電力としては保存されている。振幅比については巻き数の比により可変することが可能である。出力整合回路150についても同様である。
【0079】
図5のシミュレーション結果より、出力段トランジスタのソース-ドレイン間の許容電圧が不足することが示された。次に、ゲート長に対する許容電圧の依存性について説明する。
【0080】
MOSトランジスタのゲート長に対するHCIによる劣化の度合い、すなわち許容電圧については、TEG回路による信頼性試験を実施することにより算出することができる。図6は、通常耐圧版でのゲート長と許容電圧との関係を示している。図6では、ゲート長40nmでの許容電圧を1と正規化して示している。TEGは、Test Element Groupの略称である。
【0081】
上記したように、出力段トランジスタの電圧Vdsは、0dBmの最大入力時において1.4V程度である。図6に示すように、ゲート長を80nmにすると、許容電圧はゲート長が40nmのときの1.25Vに対して1.13倍増え、1.41V程度となる。このように、出力段トランジスタのゲート長を80nmにすると、HCIの信頼性基準を満たすことができる。この関係から、本実施形態の出力段トランジスタ1312a、1312bのゲート長L2が80nmに設定されている。
【0082】
ここで実際の設計では、出力段トランジスタのゲート長を80nmに設定した上で、図5のシミュレーションを行い、各ノード、ノード間における電圧振幅が許容電圧以内であるか確認する。なお、出力段トランジスタのゲート長の設定について説明したが、他のMOSトランジスタのゲート長についても図6に示した許容電圧との関係に基づいて、決定することができる。
【0083】
<MAG/MSGに対するゲート長の影響>
次に、図7および図8に基づき、ゲート長とMAG/MSGとの関係について説明する。つまり、MAG/MSGに対するゲート長の影響について説明する。
【0084】
図7は、多段接続部130について、MAG/MSGおよびKファクタの、中性化容量に対する依存性シミュレーション結果を示す。図7において、横軸のCneuは中性化容量の値を示している。また、鋭いピーク側がKファクタを示している。このシミュレーションでは、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲート長を40nmに固定した状態で、出力段トランジスタ1312a、1321bのゲート長を40nm、80nm、120nm、160nmと変化させた。実線が40nm、破線が80nm、一点鎖線が120nm、二点鎖線が160nmを示している。全ゲート幅は、どちらも60μmとした。バイアス条件は、図4に示す入力端子110a、110bに0.7V、出力端子120a、120bに1.1V、電源電圧Vddを1.1Vとした。つまり、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲートに0.7V、出力段トランジスタ1312a、1321bのゲートとドレインにそれぞれ1,1Vのバイアスを付与した。
【0085】
高周波増幅器は、通常、異常発振に対する安定性を確保するためにKファクタが1以上の範囲で使用する。より好ましくは、Kファクタのピーク値の付近で使用する。図7に示すように、たとえば40GHz帯では、出力段トランジスタのゲート長を40nmから、80nm、120nm、160nmと増加させても、Kファクタが1以上の範囲において、MAG/MSGの劣化はほとんど見られない。80GHz帯では、ゲート長を40nmから120nmまで増加させても、Kファクタが1以上の範囲において、MAG/MSGの劣化はほとんど見られない。
【0086】
なお、MAG/MSGは、出力段トランジスタのゲート長の変動により変化しないわけではない。ゲート長に応じて入力インピーダンスが変化することで、多段接続部130でのMAG/MSGも変化する。たとえば、図7の40GHz帯のグラフにおいて出力段トランジスタのゲート長が40nmから80nmに変化すると、Kファクタが1以上の領域で、MAG/MSGは1dB程度変化しているのがわかる。
【0087】
図8は、出力段トランジスタについてソース端子側から見た入力インピーダンスを示している。ここでは、全ゲート幅60μmで、ゲート長を40nmから160nmまで変化させた。図8のスミスチャートより、ゲート長が長くなるほど、直列抵抗成分が増加し、また、ゲート長が長くなるほど、並列の寄生容量が増加することが読み取れる。
【0088】
本質的に重要なのは、図7に示したゲート長の増加によるMAG/MSGの増減(変動)ではなく、図6に示したゲート長の増加により、同一のゲート長を使用した場合よりも出力段トランジスタのソース-ドレイン間の耐圧が向上することにある。ゲート長の変化により出力段トランジスタの入力インピーダンスが変化し、MAG/MSGが増減するが、仮にMAG/MSGが減少したとしても、耐圧向上の効果がなくなるわけではない。
【0089】
<第1実施形態のまとめ>
本実施形態では、多段接続部130を構成する入力段トランジスタ1311a、1311bと出力段トランジスタ1312a、1312bとで、同じ耐圧版のトランジスタを用いる。つまり、出力段トランジスタ1312a、1312bのゲート絶縁膜の膜厚T2が、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲート絶縁膜の膜厚T1と等しい。これにより、出力段トランジスタ1312a、1312bとして、入力段トランジスタ1311a、1311bよりも高耐圧版を採用し、その結果、スケーリング則の効果を得られなくなってMAG/MSGが低下することを抑制することができる。この効果は、ミリ波レーダや5G通信などの高い動作周波数での適用を考えるとより顕著である。
【0090】
また、ゲート絶縁膜についてT1=T2の関係を満たした上で、入力段トランジスタ1311a、1311bと出力段トランジスタ1312a、1312bとが、ゲート長についてL1<L2の関係を満たしている。上記したように、出力段トランジスタ1312a、1312bのゲート長として、最小サイズの40nmを用いずに、電圧振幅に応じて40nmよりも長いゲート長、たとえば80nmを選択する。以上より、MAG/MSGの大幅な低下を生じさせずに、耐圧を向上することができる。特に、HCIによる耐圧を改善することができる。この結果、多段接続部130を備える増幅器全体として、同一の回路電流のもとでの高出力電力化や高い電力付加効率を達成することが可能になる。
【0091】
耐圧を向上すべく、出力段トランジスタとして通常耐圧版の代わりに中耐圧版や高耐圧版を用いる場合、選択可能な最小のゲート長が中耐圧版で150nm、高耐圧版で270nmとなるため、それより短いゲート長を選択することができない。これに対し、本実施形態では、図6に示したゲート長と許容電圧との関係に基づいて、電圧振幅に応じた任意のゲート長を選択することできる。要求される信頼性基準に応じてゲート長を選択することができるため、MAG/MSGの大幅な低下を生じさせずに、HCIに対する耐性を最適化することができる。
【0092】
本実施形態では、多段接続部130を形成する上で、ゲート絶縁膜の膜厚が異なる複数種類のトランジスタを製造する必要がない。これにより、追加のマスクを不要にでき、製造工程を簡素化し、製造コストを低減することができる。
【0093】
本実施形態では、多段接続部130が、ソース接地の入力段トランジスタ1311a、1311bと、ゲート接地の出力段トランジスタ1312a、1312bを有する2段構造のカスコード接続部である例を示した。しかしながら、多段接続部130は、ゲート接地トランジスタを多段に備えてもよい。つまり、多段接続部130の段数を3段以上にしてもよい。3段以上の場合、ソース接地の入力段トランジスタと、ゲート接地の出力段トランジスタとの間に、ゲート接地の中間段トランジスタを少なくとも1段有することになる。3段以上の多段接続部130においても、少なくとも入力段トランジスタと出力段トランジスタとがT1=T2、且つ、L1<L2の関係を満たすことで、MAG/MSGの大幅な低下を生じさせずに、耐圧を向上することができる。
【0094】
たとえば、3段構造の多段接続部130の場合、ソース接地の入力段トランジスタと、ゲート接地の出力段トランジスタとの間に、ゲート接地の中間段トランジスタを1段有することになる。この場合、中間段トランジスタのゲート絶縁膜の膜厚T3は、入力段トランジスタの膜厚T1、出力段トランジスタの膜厚T2と略等しい。中間段トランジスタのゲート長L3については、たとえば入力段トランジスタのゲート長L1と等しくてもよいし、ゲート長L1より短くてもよい。出力段トランジスタのゲート長L2とゲート長L1の間の長さとしてもよい。好ましくは、上記したゲート長と許容電圧との関係に基づいて決定するとよい。このように、各段での電圧振幅に応じたゲート長を選択することで、すべての段のMOSトランジスタを、同一の耐圧版のトランジスタにより構成することが可能になる。よって、製造工程を簡素化し、製造コストを低減することができる。
【0095】
本実施形態では、多段接続部130が、入力段トランジスタとしてのソース接地トランジスタと、ゲート接地トランジスタを有するカスコード接続部である例を示した。しかしながら、多段接続は、カスコード接続に限定されない。入力段トランジスタはソース接地に限定されない。出力段トランジスタはゲート接地に限定されない。また、複数のMOSトランジスタ131が多段に接続される構成は、縦続接続に限定されない。多段接続部130は、たとえば、入力段トランジスタと出力段トランジスタとの間にインピーダンス整合回路(素子)を有してもよい。多段接続部130の段間のインピーダンス整合回路の有無によらず、本実施形態では入力段トランジスタと出力段トランジスタのゲート絶縁膜の膜厚とゲート長の関係を規定している。
【0096】
半導体集積回路100が緩衝増幅部35に適用される例を示したが、これに限定されない。その他の増幅器にも適用することができる。半導体集積回路100は、上記したミリ波レーダシステム10において、電力増幅器373やLNA381に適用することができる。また、本実施形態では、40nm世代のバルクCMOSを例にして説明したが、これに限定されず、さまざまな世代のゲート長の半導体プロセスにて適用が可能である。デバイス構造としても、バルクCMOSに限らず、SOI MOSFET、FinFETのデバイス構造でも適用が可能である。SOIは、Silicon on Insulator の略称である。
【0097】
(第2実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。先行実施形態では、標準電源電圧を印加して、半導体集積回路100を通常動作させた。これに代えて、半導体集積回路100をオーバードライブ動作させてもよい。
【0098】
半導体集積回路100および多段接続部130の回路構成は、先行実施形態に記載の構成と同様である。本実施形態では、電源電圧Vddとして、標準電源電圧1.1Vを超える電圧を印加する。つまり、出力段トランジスタ1312a、1312bのドレインに、標準電源電圧を超える電圧を印加する。これにより、半導体集積回路100をオーバードライブさせ、さらに電力付加効率を改善させる。
【0099】
図9は、図5同様、入力整合回路140の入力端子に40GHzで入力電圧を-10dBmから0dBmまで2dBステップで可変し、入力したときの、各ノード、ノード間における電圧振幅を示している。ここでは、印加する電源電圧Vddを、標準電源電圧1.1Vよりも高い1.3Vとした。
【0100】
図9に示すように、ノードN4-N3間、すなわち出力段トランジスタのソース-ドレイン間の電圧Vdsの最大振幅は、1.62Vとなる。先行実施形態同様、ゲート長が40nmのときの許容電圧1.25Vをこえるため、HCIの信頼性基準を満たさない。図6に示したゲート長と許容電圧との関係より、1.62Vの電圧振幅に対して信頼性を確保するゲート長は、160nmである。ゲート長を160nmにすると、許容電圧は40nmに対して1.31倍増え、1.63Vとなる。よって、HCIの信頼性の問題を解決することができる。ここで実際の設計では、出力段トランジスタのゲート長を160nmに設定した上で、図9のシミュレーションを行い、各ノード、ノード間における電圧振幅が許容電圧以内であるか確認する。本実施形態では、出力段トランジスタ1312a、1312bのゲート長を、160nmに設定している。それ以外の構成については、先行実施形態と同じである。
【0101】
<第2実施形態のまとめ>
本実施形態では、先行実施形態同様、電圧振幅に応じたゲート長を選択するため、MAG/MSGの大幅な低下を生じさせずに、HCIに対する耐圧を向上することができる。HCIに対する耐圧を向上できるため、電源電圧を通常動作時の電源電圧である標準電源電圧1.1Vよりも増やし、オーバードライブ動作が可能になる。これにより、信頼性を確保したまま、増幅器の電力付加効率および出力電力の改善を達成することができる。
【0102】
オーバードライブ動作する際に、出力段トランジスタのドレインに印加する電源電圧は、上記した例(1.3V)に限定されない。標準電源電圧1.1Vを超える電圧であればよい。たとえば、1.2V、1.5Vとしてもよい。
【0103】
オーバードライブ動作は、常温の電力付加効率の改善以外にも適用される。たとえば、素子の温度特性、閾値電圧Vthなどの製造ばらつきを補正するために用いられる。一例として、MOSトランジスタ131の性能は高温だと常温よりも低下し、低温だと常温よりも上昇する。このため、電源電圧Vddを、常温では標準電源電圧である1.1V、低温では0.9V、高温では1.3Vとする。このように、素子温度が高温の場合に、オーバードライブ動作を行う。
【0104】
(第3実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。先行実施形態では、半導体集積回路を増幅器に適用した。これに代えて、周波数逓倍器に適用してもよい。
【0105】
図10に示すように、本実施形態の半導体集積回路100は、周波数逓倍器、具体的には周波数ダブラーを構成している。この半導体集積回路100は、上記したミリ波レーダシステム10において、周波数ダブラー36、372に適用できる。周波数ダブラーを構成する半導体集積回路100は、一対の入力端子110a、110bと、1つの出力端子120と、多段接続部130と、入力整合回路140と、出力整合回路150を備えている。
【0106】
多段接続部130は、入力端子110a、110bと出力端子120との間で複数のMOSトランジスタ131が多段に接続されてなる。MOSトランジスタ131は、1対の入力段トランジスタ1311a、1311bと、1つの出力段トランジスタ1312を有している。入力段トランジスタ1311a,1311bは、いずれもソース接地されている。出力段トランジスタ1312は、ゲート接地されている。入力段トランジスタ1311a、1311bのゲートは、対応する入力端子110a、110bに接続されている。入力段トランジスタ1311a、1311bのドレインは、出力段トランジスタ1312のソースに接続されている。つまり、入力段トランジスタ1311a、1311bと出力段トランジスタ1312とが多段に接続されている。出力段トランジスタ1312のドレインが出力端子120に接続されている。多段接続部130は、入力信号の周波数を2倍に変換する周波数変換部である。
【0107】
入力整合回路140および出力整合回路150は、先行実施形態同様、トランスと容量をそれぞれ有している。入力整合回路140は、第1トランス141と、固定容量142を有している。出力整合回路150は、第2トランス151と、固定容量153を有している。
【0108】
第2トランス151において、1次巻線1511の一端は、信号線154を介して出力端子120に接続されている。1次巻線1511の他端には、電源電圧Vddが印加される。2次巻線1512側の構成は、先行実施形態と同じである。入力整合回路140および出力整合回路150の構成は、先行実施形態に記載のように、種々の中から選択が可能である。第1トランス141、第2トランス151の巻き数比も、特に限定されない。
【0109】
上記した半導体集積回路100についても、先行実施形態同様の課題が生じる。つまり、出力段トランジスタとして、入力段トランジスタと同じ耐圧版のトランジスタを用い、ゲート長の長さを入力段トランジスタと同じにすると、出力段トランジスタの電圧Vdsの振幅が、HCIに対する許容電圧を超えてしまう。このため、本実施形態でも、図6に示したゲート長と許容電圧との関係に基づき、ゲート長を決定している。
【0110】
具体的には、すべてのMOSトランジスタ131として、通常耐圧版(1.1V系)のトランジスタを用いている。また、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲート長は、通常耐圧版で最小の40nmに設定されている。出力段トランジスタ1312のゲート長は、出力段トランジスタの電圧Vdsの振幅に応じた値であって、入力段トランジスタ1311a、1311bのゲート長よりも長い値が設定されている。
【0111】
<第3実施形態のまとめ>
本実施形態では、周波数逓倍器をなす半導体集積回路100において、入力段トランジスタと出力段トランジスタのゲート絶縁膜の膜厚を等しくし、且つ、出力段トランジスタのゲート長を入力段トランジスタのゲート長よりも長くしている。これにより、先行実施形態に記載の増幅器同様、HCIに対する耐圧を確保しながら、出力電力の改善を行うことができる。図6に示した関係を用いることで、電圧振幅に応じた任意のゲート長を選択できる。
【0112】
周波数ダブラーを構成する半導体集積回路100において、多段接続部130の入力段トランジスタはソース接地に限定されない。また、出力段トランジスタはゲート接地に限定されない。周波数ダブラー以外の周波数逓倍器、たとえば周波数を3倍に変換する周波数トリプラーを構成する半導体集積回路100にも適用することができる。
【0113】
(第4実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。先行実施形態では、入力段トランジスタの全ゲート幅と出力段トランジスタの全ゲート幅を等しくしていた。これに代えて、出力段トランジスタの全ゲート幅を入力段トランジスタの全ゲート幅より長くしてもよい。
【0114】
図11は、本実施形態の半導体集積回路100のうち、多段接続部130を示している。回路構成は、先行実施形態(図4参照)と同じである。本実施形態では、多段接続部130の入力段トランジスタ1311a、1311bと出力段トランジスタ1312a、1312bとが、T1=T2、W1<W2、L1<L2の関係を満たしている。このように、全ゲート幅についても、入力段と出力段とで異ならせている。それ以外の構成については、第1実施形態に記載の構成と同じである。
【0115】
<第4実施形態のまとめ>
先行実施形態に記載(図8参照)したように、出力段トランジスタ1312a、1312bのゲート長L2を長くした分、出力段トランジスタ1312a、1312bのインピーダンスの直列抵抗成分が増加する。本実施形態では、これにあわせて出力段トランジスタ1312a、1312bの全ゲート幅W2を長くすることで、相対的に直列抵抗成分の影響を低減することができる。
【0116】
なお、多段接続部130の段間に、並列容量や直列インダクタンスなどの素子を追加することで、インピーダンス整合を図ることも可能である。しかしながら、一般にミリ波帯の高周波回路では、整合回路自体が損失をもつため、素子の追加が望ましくない場合がある。本実施形態によれば、段間にインピーダンス整合用の素子を追加することなく、ゲート長L2を長くしたことによる影響を調整することが可能になる。
【0117】
(第5実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。先行実施形態では、たとえば、入力段トランジスタの全ゲート幅と出力段トランジスタの全ゲート幅を等しくしていた。別の先行実施形態では、出力段トランジスタの全ゲート幅を入力段トランジスタの全ゲート幅より長くしていた。これに代えて、出力段トランジスタの全ゲート幅を入力段トランジスタの全ゲート幅より短くしてもよい。
【0118】
図12は、本実施形態の半導体集積回路100のうち、多段接続部130を示している。回路構成は、先行実施形態(図4参照)と同じである。本実施形態では、多段接続部130の入力段トランジスタ1311a、1311bと出力段トランジスタ1312a、1312bとが、T1=T2、W1>W2、L1<L2の関係を満たしている。このように、全ゲート幅についても、入力段と出力段とで異ならせている。それ以外の構成については、第1実施形態に記載の構成と同じである。
【0119】
<第5実施形態のまとめ>
先行実施形態に記載(図8参照)したように、出力段トランジスタ1312a、1312bのゲート長L2を長くした分、出力段トランジスタ1312a、1312bのインピーダンスの並列容量成分が増加する。本実施形態では、これにあわせて出力段トランジスタ1312a、1312bの全ゲート幅W2を短くすることで、相対的に並列容量成分の影響を低減することができる。これにより、段間にインピーダンス整合用の素子を追加することなく、ゲート長L2を長くしたことによる影響を調整することが可能になる。
【0120】
(他の実施形態)
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものと解されるべきである。
【0121】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0122】
半導体集積回路100が差動信号の増幅器を構成する例を示したが、これに限定されない。単相信号の増幅器についても、多段接続部130を備える構成であれば、適用が可能である。この場合、差動信号を前提とした先行実施形態と同等の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0123】
10…ミリ波レーダシステム、20…制御器、21…CPU、22…メモリ、23…A/D変換器、24…I/O、30…MMIC、31…デジタル部、31a…レジスタ、31b…不揮発性メモリ、31c…制御部、32…インターフェース、33…PLL部、34…高周波スイッチ、35…緩衝増幅部、36…周波数ダブラー、37…送信部、370…送信器、371…移相器、372…周波数ダブラー、373…電力増幅器、38…受信部、380…受信器、381…LNA、382…ミキサ、383…IFA、39…出力端子、40…入力端子、100…半導体集積回路、110a、100b…入力端子、120、120a、120b…出力端子、130…多段接続部、131…MOSトランジスタ、1311a、1311b…入力段トランジスタ(ソース接地トランジスタ)、1312、1312a、1312b…出力段トランジスタ(ゲート接地トランジスタ)、132、133…中性化容量、134…ゲート抵抗、140…入力整合回路、141…第1トランス、1411…1次巻線、1412…2次巻線、142…固定容量、143a、143b…可変容量、144a、144b、145a、145b…信号線、150…出力整合回路、151…第2トランス、1511…1次巻線、1512…2次巻線、152a、152b…可変容量、153…固定容量、154a、154b、155a、155b…信号線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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