(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009994
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】線維症治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/47 20060101AFI20220106BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220106BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K31/47
A61P17/00
A61P37/06
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180108
(22)【出願日】2021-11-04
(62)【分割の表示】P 2017525457の分割
【原出願日】2016-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2015127788
(32)【優先日】2015-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 秋生
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB08
4C086ZC54
(57)【要約】
【課題】線維症や線維症に伴う症状に対して優れた予防又は治療効果を発揮する治療剤及び医薬組成物の提供。
【解決手段】 4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩を有効成分として含有する線維症治療剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩を有効成分として含有する強皮症治療剤。
【請求項2】
強皮症が、汎発性強皮症または限局性強皮症である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
強皮症治療剤が、経口投与である、請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項4】
有効成分が、4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミドのメシル酸塩である、請求項1から3のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項5】
有効成分を0.005~5000mg含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項6】
4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩及び薬学的に許容される担体を含有する強皮症を治療するための医薬組成物。
【請求項7】
強皮症治療のために使用される、4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維症治療剤、及び線維症治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
線維症は、組織損傷や自己免疫反応等による線維組織の異常な蓄積であり、ヒトにおいては、肺、肝臓、膵臓、腎臓、骨髄、皮膚などの様々な臓器や組織における線維化が知られている。
肺線維症は、肺胞壁におけるびまん性線維増殖を特徴とし、乾性咳嗽や労作時呼吸困難を主症状とする疾患であり、狭義には間質性肺炎の終末病態である特発性肺線維症を指すが、広義には肺の線維化と間質性肺炎との併存状態を意味するとされている。そして、あらゆる間質性肺炎が肺線維症の原因となり得る。
間質性肺炎は、肺の間質を中心に炎症を来す疾患の総称であり、感染、膠原病、放射線、薬剤、粉塵など特定の原因によるものと、原因が不明の特発性間質性肺炎とを含む。特発性間質性肺炎には、特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎、急性間質性肺炎、及びリンパ性間質性肺炎の疾患が知られており、特発性肺線維症が最も発生頻度が高く、単に肺線維症とも呼ばれる。
【0003】
特発性肺線維症では、肺間質にびまん性に線維性結合組織が過剰形成をおこし、肺の機能が障害され、診断確定後の平均生存期間が2.5~5年間と報告されている(非特許文献1)。特に急性増悪を来たした後の平均生存期間は2ヶ月以内と非常に短い。また間質性肺炎及び肺気腫病変を合併した肺線維症では、肺癌が高率に合併することが報告されている(非特許文献2,3)。
【0004】
原因が特定できる間質性肺炎は、その原因の除去や、ステロイド剤などの抗炎症剤の投与などにより治癒する場合が多い。一方、肺線維症や線維化を伴う間質性肺炎の治療には、一般的にステロイド剤や免疫抑制剤が用いられているが、予後を改善するような効果的な治療法は無いのが現状であり、新たな治療薬の開発が望まれている。
【0005】
4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミドは、副作用の軽減された抗腫瘍剤であり(特許文献1)、また他の抗腫瘍剤との併用においては、優れた抗腫瘍効果増強作用を示す(特許文献2)ことが知られている。また最近、当該化合物は骨粗鬆症の治療剤としても有用であることが見出されている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、当該化合物が肺線維症や間質性肺炎に対して有効であることは全く知られていない。また、肺線維症に対してHGFを投与することにより症状が改善され(非特許文献2)、HGF/c-Metの活性化が肺線維症の治療に有効であることが示唆されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/125597号
【特許文献2】国際公開第2013/100014号
【特許文献3】国際公開第2015/046484号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pharmacol Ther. 2015 May 3. pii: S0163-7258(15)00091-1
【非特許文献2】Am J Respir Crit Care Med. 2000 Jan;161(1):5-8
【非特許文献3】Am Rev Tuberc 1957; 76: 559-66
【非特許文献4】British J. Pharmacology 2011;163:141-172
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、線維症に対して優れた予防又は治療効果を発揮する治療剤及び医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩が、組織の線維化抑制効果及びそれに伴う炎症抑制効果を有し、線維症やそれに伴う炎症の予防又は治療に有用であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の1)~5)に係るものである。
1)4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩を有効成分として含有する線維症治療剤。
1)-2
線維症が肺線維症である、1)記載の線維症治療剤。
1)-3
線維症が線維化を伴う間質性肺炎である、1)又は1)-2記載の線維症治療剤。
1)-4
線維症が特発性肺線維症である、1)~1)-3記載の線維症治療剤。
2)4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩、及び薬学的に許容される担体を含有する線維症を治療するための医薬組成物。
2)-2
線維症が肺線維症である、2)記載の医薬組成物。
2)-3
線維症が線維化を伴う間質性肺炎である、2)又は2)-2記載の医薬組成物。
2)-4
線維症が特発性肺線維症である、2)~2)-3記載の医薬組成物。
3)線維症治療のために使用される、4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩。
3)-2
線維症が肺線維症である、3)記載の4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩。
3)-3
線維症が線維化を伴う間質性肺炎である、3)又は3)-2記載の4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩。
3)-4
線維症が特発性肺線維症である、3)~3)-3記載の4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩。
4)線維症治療のために使用される、4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
4)-2
線維症が肺線維症である、4)記載の医薬組成物。
4)-3
線維症が線維化を伴う間質性肺炎である、4)又は4)-2記載の医薬組成物。
4)-4
線維症が特発性肺線維症である、4)~4)-3記載の医薬組成物。
5)4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド又はその塩を患者に投与することを特徴とする線維症の治療方法。
5)-2
線維症が肺線維症である、5)記載の治療方法。
5)-3
線維症が線維化を伴う間質性肺炎である、5)又は5)-2記載の治療方法。
5)-4
線維症が特発性肺線維症である、5)~5)-3記載の治療方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明化合物は、組織の線維化に対して優れた進行抑制効果を発揮する。したがって、本発明によれば、組織の線維化を効果的に治療でき、特に特発性肺線維症や線維化を伴う間質性肺炎を効果的に治療できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】肺組織中のヒドロキシプロリン量を示すグラフ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミド(4-[2-fluoro-4-[[[(2-phenylacetyl)amino]thioxomethyl]amino]-phenoxy]-7-methoxy-N-methyl-6-quinolinecarboxamide)(「本発明化合物」と称する)又はその塩は、下記式(1)で示される。
【0015】
【0016】
本発明化合物は公知化合物であり、例えば国際公開第2009/125597号(特許文献1)の記載の方法に準じて製造することが出来る。
【0017】
本発明化合物の「塩」としては、例えば無機酸、有機酸、又は酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、リン酸等が挙げられ、有機酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が挙げられ、酸性アミノ酸としては、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸等が挙げられる。このうち、有機酸との塩が好ましく、メタンスルホン酸塩がより好ましく、モノメタンスルホン酸塩が特に好ましい。
また本発明化合物には、水和物、各種溶媒和物及び結晶多形も包含される。
【0018】
後記実施例で示すように、本発明化合物は、組織における線維化抑制効果及び炎症抑制効果を示す。
したがって、本発明化合物又はその塩は、組織における線維化及び炎症に関連する疾患に対して優れた予防又は治療効果を発揮する医薬、すなわち線維症や線維症に伴う症状の治療剤として有用であり、特に肺組織における線維化に関連する疾患、すなわち肺線維症や線維化を伴う間質性肺炎の予防又は治療のために使用することができる。
【0019】
本発明において線維症は、肺線維症、肝線維症、膵臓の線維化、腎線維症、線維化による前立腺肥大、骨髄線維症、強皮症などが挙げられる。また、当該線維症は、線維化が進行した臓器や進行の度合いにより、炎症や萎縮などの線維症に伴う症状が見られる。そのため、線維症に伴う症状の治療も本発明に含まれる。
【0020】
本発明において肺線維症は、特発性肺線維症のみならず、間質性肺炎との併存を含む肺の線維化症状を含む。すなわち、本発明の肺線維症には、肺の線維化を併発し得る間質性肺炎が包含される。
【0021】
斯かる間質性肺炎としては、例えば、感染性間質性肺炎;膠原病に伴う間質性肺炎;放射線被曝に伴う間質性肺炎;薬剤性間質性肺炎;特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎、急性間質性肺炎、リンパ性間質性肺炎等の特発性間質性肺炎が挙げられ、好ましくは特発性間質性肺炎である。
【0022】
本発明における肺線維症としては、好適には、これらの間質性肺炎(特に、特発性間質性肺炎)が慢性化したもの、線維化を伴う間質性肺炎(特に、特発性間質性肺炎)が挙げられ、より好ましくは線維化を伴う間質性肺炎(特に、特発性間質性肺炎)であり、特に好ましくは特発性肺線維症である。
【0023】
本発明における肺線維症は、コラーゲン産生、肺重量の減少、肺高血圧、右心不全の症状を伴い、これらの症状の軽減も本発明に含まれる。また、特発性肺線維症及び線維化を伴う間質性肺炎は、血清マーカー(KL-6、SP-A、SP-D等)が上昇することが知られている。そのため、本発明において上記の症状または血清マーカーにより、治療効果を間接的に確認することができる。
【0024】
本発明において肝線維症は、肝細胞損傷や肝炎によって引き起こされる線維症であり、アルコール性肝線維症、先天性肝線維症、ウイルスによる線維症などが挙げられる。また、本発明において肝線維症は、肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝萎縮等を伴いうるため、これらの症状の治療も本発明に含まれる。そのため、本発明において上記の症状等は、血中の血小板数、ヒアルロン酸、コラーゲン等を測定することにより、治療効果を間接的に確認することができる。
【0025】
本発明において膵臓の線維化は、膵臓の間質における結合組織の線維化であり、膵嚢胞性線維症などが挙げられる。また、本発明において膵臓の線維化は、膵炎、膵臓萎縮、糖尿病等を伴いうるため、これらの症状の治療も本発明に含まれる。そのため、血中のトリプシン、血糖値等を測定することにより、治療効果を間接的に確認することができる。
【0026】
本発明において腎線維症は、糸球体硬化症、間質性腎線維症、尿細管間質性線維症等が挙げられる。また、本発明において腎線維症は、腎炎、腎臓萎縮、腎不全等を伴いうるため、これらの症状の治療も本発明に含まれる。そのため、本発明において上記の症状等は、血中のコラーゲン等を測定することにより、治療効果を間接的に確認することができる。
【0027】
本発明において線維化による前立腺肥大は、前立腺肥大のうち間質の線維化によるものである。また、本発明において線維化による前立腺肥大は、前立腺線維腫、前立腺炎、前立腺石灰化等を伴いうるため、これらの症状の治療も本発明に含まれる。
【0028】
本発明において骨髄線維症は、原発性骨髄線維症、特発性骨髄線維症等が挙げられる。また、本発明において骨髄線維症は、脾腫、脾梗塞、白赤芽球症、貧血、門脈圧亢進等を伴いうるため、これらの症状の治療も本発明に含まれる。そのため、本発明において上記の症状等は、血中の赤血球、血小板、血清LDH等を測定することにより、治療効果を間接的に確認することができる。
【0029】
本発明において強皮症は、汎発性強皮症、限局性強皮症等が挙げられる。また、本発明において強皮症は、血管等の炎症、臓器不全、石灰沈着、皮膚の線維化等を伴いうるため、これらの症状の治療も本発明に含まれる。そのため、本発明において上記の症状等は、抗核抗体、抗トポイソメラーゼI抗体、抗セントロメア抗体を測定することにより、治療効果を間接的に確認することができる。
【0030】
本明細書において「治療」には、上記線維症の予防及び治療の他、組織における線維化の進行抑制、炎症の軽減、線維症に伴う症状の軽減及び再発防止のための維持が包含される。
【0031】
本発明化合物又はその塩は、経口又は非経口の何れの投与形態にも調製することができ、薬学的に許容される担体を用いて、公知の方法により各種投与製剤として製造することができる。かかる製剤形態としては特に制限はなく、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、注射剤、坐剤、吸入剤等の非経口剤などが例示できる。
【0032】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、コーンスターチ、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤などを使用できる。更に、錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
【0033】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤などを使用できる。カプセル剤は常法に従い、上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0034】
経口用液体製剤とする場合は、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等を用い、常法により、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合、矯味・矯臭剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が、緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0035】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を使用できる。
【0036】
注射剤とする場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレン化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用できる。
なお、この場合、等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖又はグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
吸引剤とする場合、エアゾール剤、粉末状吸入剤、液状吸入剤などの各種形態が挙げられる。
【0037】
更に上記各製剤には必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や、他の医薬品を配合してもよい。
【0038】
本発明の線維症治療剤、及び線維症を治療するための医薬組成物の投与方法は、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、患者の症状の程度等に応じて適宜決定される。例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤及び乳剤は経口投与される。注射剤は単独で又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて単独で動脈内、筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。
【0039】
上記の各投与単位形態中に配合されるべき本発明化合物又はその塩の量は、これを適用すべき患者の症状により、あるいはその剤形等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり、経口剤では約0.005~1,000mg、注射剤では約0.001~500mg、坐剤では約0.01~1,000mgとするのが望ましい。また、上記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、通常成人1日あたり約0.005~5,000mg、好ましくは0.01~1,000mgとすればよく、これを1日1回又は2~4回程度に分けて投与するのが好ましい。
【0040】
以下、実施例、試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0041】
製造例1 4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミドの合成
特許文献1に記載の製造方法に従い、4-[2-フルオロ-4-[[[(2-フェニルアセチル)アミノ]チオキソメチル]アミノ]-フェノキシ]-7-メトキシ-N-メチル-6-キノリンカルボキサミドを合成した。
【0042】
試験例1 ブレオマイシン誘発性マウス病態(肺線維症)モデルに対する抑制効果
マウス(C57BL、6週齢)にペントバルビタールを腹腔内投与(50mg/kg/day)することにより麻酔を施し、噴霧器を用いてブレオマイシンを、マウス一匹あたり20μg/25μLで気管内に噴霧した。一週間後にイソフルランによる吸入麻酔を施したマウスの眼窩から0.2mLを採血し、血中のサーファクタントプロテイン-D(SP-D)を測定して、各群(9例)におけるマウスの平均SP-D値が均等になるように群分けを行った。
【0043】
本発明化合物を100及び200mg/kg/dayとして、それぞれ35日間の連日経口投与を行った。また病態モデルが成立していることを確認するため、無処置群(Normal)とSham群を設定した。Sham群には、ブレオマイシンの代わりに生理食塩液を気管内に噴霧した。最終投与が終了した翌日に、イソフルランの吸入により麻酔を施して安楽死処置を行った後、肺を摘出して病理組織解析による線維化評価と、組織中のヒドロキシプロリンを定量した。線維化評価にはAshcroft法を用いた(J Clin Pathol 1988; 41: 467-470)。
【0044】
各群の肺組織中のヒドロキシプロリン量を
図1に、肺組織の線維化スコアを
図2に示した。ブレオマイシンを噴霧したマウスでは、sham群に比して肺組織中のヒドロキシプロリンが有意に上昇し、かつ線維化スコアも上昇していた。従って、ブレオマイシン処置によりマウスで肺組織の線維化が誘発され、病態モデルが成立していると判断された。
本発明化合物は100及び200mg/kg/day投与群ともに、ヒドロキシプロリン量が病態コントロール群に比して有意に低く、また線維化スコアも有意に小さかったため、線維化を抑制していると示唆された。
【0045】
以上のことから、本発明化合物は線維症治療剤として有用であることが示され、特に肺線維症治療剤として有用であることが示された。