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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100027
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20230710BHJP
   H01L 33/22 20100101ALI20230710BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L33/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000351
(22)【出願日】2022-01-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年2月25日、The 8▲th▼ Asian Conference on Crystal Growth and Crystal technology(CGCT-8)の予稿集に要約として窒化物半導体発光素子の製造方法に関する研究について公開した。 令和3年3月1日、The 8▲th▼ Asian Conference on Crystal Growth and Crystal technology(CGCT-8)において、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する研究について公開した。 令和3年4月27日、Applied Physics Expressの論文に、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する研究について公開した。 令和3年8月26日、第82回 応用物理学会秋季学術講演会の予稿集に要約として、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する研究について公開した。 令和3年9月12日、第82回 応用物理学会秋季学術講演会において、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する研究について公開した。 令和3年9月6日、Journal of Crystal Growthの論文に、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する研究について公開した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業『紫外レーザの作製および評価』委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願」
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】下川 萌葉
(72)【発明者】
【氏名】大森 智也
(72)【発明者】
【氏名】岩山 章
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】上山 智
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀人
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA21
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA77
5F241CB03
5F241CB36
(57)【要約】
【課題】縦方向に電流を流す構造の品質が良好な窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子の製造方法は、第2AlN層11の表面側に、AlNモル分率が他の領域よりも低い低AlNモル分率領域LC1を有するn-AlGaN層12を成長させる第1工程と、レーザーリフトオフを実行してn-AlGaN層12を第2AlN層11から剥離する第2工程とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地層の表面側に、AlNモル分率が他の領域よりも低い低AlNモル分率領域を有するAlGaN層を成長させる第1工程と、
レーザーリフトオフを実行して前記AlGaN層を前記下地層から剥離する第2工程と、
を備える窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程の実行前に、前記下地層の表面に複数の凸部を形成する凸部形成工程を実行する請求項1に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記下地層は、AlGaN及びAlNのいずれかで形成されている請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記低AlNモル分率領域は、厚み方向に重なり、AlNモル分率が異なる第1領域及び第2領域を有している請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外発光デバイスは、絶縁性を有するサファイア基板、又はAlN基板を下地層として用い、下地層に成長させたAlGaN系窒化物半導体結晶を用いて作製されることが知られている。例えば、特許文献1には、サファイア基板の表面にAlN核形成を行った後、AlN核を埋め込んで貫通転位を低減し、その後、縦方向に高速に結晶成長させることを繰り返すことによって得られた品質の良好なAlN層を下地として、その上にAlNのモル分率が0.7以上の品質の良好なAlGaN層を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-54780号公報
【非特許文献1】Michael K. Kelly Michael K. Kelly et al"Large Free-Standing GaN Substrates by Hydride Vapor Phase Epitaxy and Laser-Induced Liftoff"、Japanese Journal of Applied Physics 1999 Jpn.J.Appl.Phys. 38 L217
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような手法には、以下の2つの問題点がある。1つ目の問題点は、AlN層上にMOCVD法等を用いてAlGaN結晶を成長させると、AlN層とAlGaN層との格子定数の違いによって、AlGaN層に圧縮応力がかかり、これによって、AlGaN層に格子緩和が生じてしまうことである。2つ目の問題点は、絶縁性の基板を用いるために、素子のp側電極、及びn側電極を共にウエハ表面側に形成することになり、これによって、素子の厚み方向に直交する方向(すなわち、素子が拡がる方向(横方向))に電流を流すことになり、発光領域において不均一に電流が流れてしまう。また、素子の電気抵抗が高くなってしまう。
【0005】
1つ目の問題点は、特許文献1に開示された上記手法を用いることによって、AlNモル分率が0.7以上の高AlNモル分率のAlGaN成長においては、克服することができる。但し、AlNモル分率が0.7未満のAlGaN成長においては格子緩和が生じ、結晶欠陥は3~5×109/cm2程度に増大する。2つ目の問題点については、例えば、非特許文献1に開示された手法を用いて克服することができる。具体的には、レーザを用いてサファイア基板から窒化物半導体結晶を剥離(レーザーリフトオフ(LLO)技術)して、剥離した窒化物半導体結晶の表面と裏面とに電極を設け、この結晶に厚み方向(すなわち、縦方向)に電流を流す構成とすることによって2つ目の問題点を克服することができる。
【0006】
LLO技術を用いてサファイア基板やAlN基板からAlGaN結晶を剥離する場合、波長が248nmのエキシマレーザ、又は波長が266nmのYAGレーザのいずれかのレーザを用いることが考えられる。しかし、LLOにこのような波長のレーザを用いる場合には、これらの波長のレーザを吸収して分解され易い低いAlNモル分率のAlGaN層を基板と剥離する結晶との間に設ける必要がある。例えば、特許文献1の手法を用いて、転位の少ない高品質なAlGaN結晶を製造したとしても、LLO技術を採用するために基板と結晶の間に低いAlNモル分率のAlGaN層を設けると、低いAlNモル分率のAlGaN層と転位の少ない高品質な高いAlNモル分率のAlGaN結晶との格子定数の違いによって格子緩和が生じ、結局、AlGaN結晶の結晶性を低下させてしまうことが懸念される。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、縦方向に電流を流す構造の品質が良好な窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、
下地層の表面側に、AlNモル分率が他の領域よりも低い低AlNモル分率領域を有するAlGaN層を成長させる第1工程と、
レーザーリフトオフを実行して前記AlGaN層を前記下地層から剥離する第2工程と、
を備える。
【0009】
この構成によれば、第2工程において、レーザーリフトオフを実行することによって、第1工程において成長した低AlNモル分率領域を分解して、下地層からAlGaN層を良好に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の窒化物半導体発光素子の構造を示す模式図である。
図2】実施例1の窒化物半導体発光素子において、第2AlN層と、n-AlGaN層とを拡大して示す電子顕微鏡画像である。
図3】実施例1の窒化物半導体発光素子を保持基板に貼り付けて、サファイア基板の裏面からレーザ光を照射する状態を示す模式図である。
図4】実施例1の窒化物半導体発光素子にレーザ光を照射した後における第2AlN層と、AlGaN層とを拡大して示す電子顕微鏡画像である。
図5】実施例1の窒化物半導体発光素子において、サファイア基板を低AlNモル分率領域と共に保持基板から剥がした状態を示す模式図である。
図6】実施例1の窒化物半導体発光素子において、(A)は保持基板側の露出したn-AlGaN層の電子顕微鏡画像であり、(B)はサファイア基板側の露出したn-AlGaN層の電子顕微鏡画像である。
図7】実施例2の窒化物半導体発光素子の構造を示す模式図である。
図8】実施例2の窒化物半導体発光素子において、凸部を形成した第2AlN層の表面の電子顕微鏡画像であり、(A)は、平面視の電子顕微鏡画像であり、(B)は側面視の顕微鏡画像である。
図9】実施例2の窒化物半導体発光素子において、第2AlN層と、u-AlGaN層とを拡大して示す電子顕微鏡画像である。
図10】実施例2の窒化物半導体発光素子において、サファイア基板を保持基板から剥がした状態を示す電子顕微鏡画像であって、(A)は保持基板側の側面視の電子顕微鏡画像であり、(B)はサファイア基板側の側面視の電子顕微鏡画像であり、(C)は保持基板側の露出したu-AlGaN層の露出面の電子顕微鏡画像であり、(D)はサファイア基板側の露出した第2AlN層の露出面の電子顕微鏡画像である。
図11】実施例2の窒化物半導体発光素子において、サファイア基板を保持基板から剥がした状態を示す模式図である。
図12】実施例3の窒化物半導体発光素子の構造を示す模式図である。
図13】実施例3の窒化物半導体発光素子において、第2AlN層と、AlGaN層とを拡大して示す電子顕微鏡画像である。
図14】実施例3の窒化物半導体発光素子において、サファイア基板を保持基板から剥がした後におけるAlGaN層の側面視の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、第1工程の実行前に、下地層の表面に複数の凸部を形成する凸部形成工程を実行し得る。この構成によれば、下地層の表面に形成した凸部が、AlGaN層の結晶欠陥を低減させるきっかけになるとともに、下地層からAlGaN層を剥離する際のきっかけになり、下地層からAlGaN層を、より良好に剥離することができる。
【0013】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、下地層は、AlGaN及びAlNのいずれかで形成され得る。この構成によれば、下地層とAlGaN層とを積層して成長させる際に、反応炉へのAlの供給を調整することによって層の種類を作り分けることができる。
【0014】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、低AlNモル分率領域は、厚み方向に重なり、AlNモル分率が異なる第1領域及び第2領域を有し、第1領域は、第2領域と下地層の表面との間に位置し得る。この構成によれば、レーザーリフトオフを実行した際、低AlNモル分率領域内に剥離を止め易い。
【0015】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、第1領域は、第2領域と下地層の表面との間に位置し、AlNモル分率が第2領域よりも高くし得る。この構成によれば、レーザーリフトオフを実行した際、第2領域にレーザ光を吸収させて第2領域を分解させることによって、第1領域と第2領域との間において剥離を生じさせることができる。
【0016】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、第1領域は、第2領域と下地層の表面との間に位置し、AlNモル分率が第2領域よりも低くし得る。この構成によれば、レーザーリフトオフを実行した際、第1領域にレーザ光を吸収させて第1領域を分解させることによって、第1領域と下地層との間において剥離を生じさせることができる。
【0017】
次に、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法を具体化した実施例1から3について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
<実施例1>
実施例1の窒化物半導体発光素子1は、図1に示すように、サファイア基板10A、第1AlN層10B、第2AlN層11、n-AlGaN層12、及び発光層13を備えている。発光層13は、第1ガイド層13A、二重量子井戸活性層13B、及び第2ガイド層13Cを備えている。窒化物半導体発光素子1は結晶欠陥のレベルを確認するためのテスト構造であり、発光層13として機能する二重量子井戸活性層13Bの表面に位置する第2ガイド層13Cまでの結晶成長を行ったものである。実施例1の窒化物半導体発光素子1は、MOCVD法(有機金属気相成長法)を用いて積層して結晶成長する。
【0019】
サファイア基板10AはC面((0001)面)が表面(表は図1における上側である、以下同じ)である。第1AlN層10Bは、サファイア基板10Aの表面に、スパッタ法を用いて積層される。第1AlN層10Bは、下地層である。第1AlN層10Bは少なくともAlNを含む。第1AlN層10BのAlNのモル分率は、1である。第1AlN層10Bの厚みは175nmである。第1AlN層10Bを積層したところで、N2(窒素)雰囲気中で1700℃、3時間アニールを行う。こうして、サファイア基板10A、及び第1AlN層10Bを有するスパッタ法を用いたAlNテンプレート基板10を作製する。その後、MOCVD法を用いて層構造を形成する。
【0020】
MOCVD法を実行することができる反応炉(以下、単に、反応炉ともいう)内にAlNテンプレート基板10を配置し、AlNテンプレート基板10の表面(第1AlN層10Bの表面)にN(窒素)原料であるNH3(アンモニア)を流しながら(以下、供給は停止しない)、H2(水素)雰囲気中で、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃まで昇温した後、10分間保持する。
【0021】
次に、第1AlN層10Bの表面に第2AlN層11を積層して結晶成長する。第2AlN層11の厚みは1μmである。第2AlN層11は、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃にした状態で、Al(アルミニウム)原料のTMAl(トリメチルアルミニウム)を反応炉内に供給して形成する。第2AlN層11のAlNのモル分率は、1である。第2AlN層11は、少なくともAlNを含む。第2AlN層11は、下地層である。
【0022】
次に、第2AlN層11(下地層)の表面に、AlNモル分率が他の領域よりも低い低AlNモル分率領域LC1を有するn-AlGaN層12を成長させる第1工程を実行する。具体的には、第2AlN層11の表面にn-AlGaN層12を積層して結晶成長する。n-AlGaN層12の厚みは5μmである。先ず、AlNテンプレート基板10の温度を1130℃まで降温し、所定の温度に達したら、AlNのモル分率が0.6になるようにN2、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl、及びドナーとなるSi原料であるSiH4(シラン)を反応炉内に供給する。この時、V/III比は800~1200として、成長レートを0.8~1.2μm/hとし、低く抑える。n-AlGaN層12におけるSiの添加濃度は3×1018cm-3になるように原料の供給流量を調整する。n-AlGaN層12のAlNのモル分率は、第1AlN層10B、及び第2AlN層11より小さい。第1工程の開始から終了までにわたって、反応炉内への各原料の供給量、反応炉内の温度や圧力は、一定である。
【0023】
次に、n-AlGaN層12の表面に発光層13を積層して結晶成長する。先ず第1ガイド層13Aを積層して結晶成長する。第1ガイド層13Aの厚みは180nmである。
先ず、TMGa、TMAl、及びSiH4の反応炉内への供給を停止し、AlNテンプレート基板10の温度を1100℃まで降温する。所定の温度に達したら、AlNのモル分率が0.5になるようにTMGa、及びTMAlを反応炉内に供給する。
【0024】
次に、第1ガイド層13Aの表面に二重量子井戸活性層13Bを積層して結晶成長する。二重量子井戸活性層13BはAlNのモル分率が0.3のAlGaN井戸層、及びAlNのモル分率が0.5のAlGaN障壁層を有している(図示せず。)。AlGaN井戸層の厚みは4nmである。AlGaN障壁層の厚みは8nmである。二重量子井戸活性層13Bは、AlNテンプレート基板10の温度を1100℃にした状態でAlGaN井戸層を積層して結晶成長させ、続いて、第1ガイド層13Aと同じ成長条件でAlGaN障壁層を積層して結晶成長させる。これを2回繰り返すことで、AlGaN/AlGaNの二重量子井戸活性層13Bを形成する。
【0025】
次に、AlNのモル分率が0.5になるようにTMGa、及びTMAlを反応炉内に供給して、第2ガイド層13Cを積層して結晶成長する。こうして、発光層13を形成する。第2ガイド層13Cの厚みは180nmである。
【0026】
そして、TMGa、及びTMAlの反応炉内への供給を停止して、結晶成長を終了させ、H2とNH3を反応炉内に流しながら室温までAlNテンプレート基板10の温度を降温する。AlNテンプレート基板10の温度が室温になった後、反応炉のパージを十分行い、AlNテンプレート基板10を反応炉から取り出す。こうして、図1に示す層構造を有する窒化物半導体発光素子1が完成する。
上記により製作されたn-AlGaN層12の欠陥の数は、5.8×108/cm2であった。
【0027】
図2に示すように、反応炉から取り出した窒化物半導体発光素子1は、第2AlN層11の表面に微小な三角形状の領域Trが複数形成されていることがわかった。そして、n-AlGaN層12には、領域Trの頂点付近に連なるように、領域TrのAlNモル分率よりも低いAlNモル分率の低AlNモル分率領域LC1(図2における白色点線部分)が形成されていることがわかった。つまり、n-AlGaN層12は、AlNモル分率が自身の内部に他の領域より低い低AlNモル分率領域LC1を有している。n-AlGaN層12は、第1工程において、反応炉内への各原料の供給量、反応炉内の温度や圧力が一定である中で、第1工程の初期段階に低AlNモル分率領域LC1が形成されている。
【0028】
次に、窒化物半導体発光素子1の裏面(すなわち、サファイア基板10Aの裏面)に鏡面研磨を施した後、エポキシ樹脂を用いて、窒化物半導体発光素子1の表面(すなわち、第2ガイド層13Cの表面)にAlNで形成された保持基板14を貼り付ける(図3参照)。図3は、図1に対して窒化物半導体発光素子1の向きが上下方向に反転している。
【0029】
そして、レーザーリフトオフを実行してn-AlGaN層12を低AlNモル分率領域LC1に沿って第2AlN層11(下地層)から剥離する第2工程を実行する。具体的には、窒化物半導体発光素子1の裏面側(すなわち、サファイア基板10Aの裏面側)から、波長257nm、エネルギー密度0.53J/cm2のレーザ光Lを裏面全体に満遍なく照射する。
【0030】
レーザ光Lを照射した後の窒化物半導体発光素子1を電子顕微鏡を用いて観察すると、図4に示すように、低AlNモル分率領域LC1に沿うように亀裂Cが生じていることがわかった。この状態においてサファイア基板10Aに対し、保持基板14から引き剥がす方向に外力を加える。すると、図5に示すように、サファイア基板10Aは、第1AlN層10B、第2AlN層11、及びn-AlGaN層12の一部と共に保持基板14から剥がれた。こうして、2つに分離した窒化物半導体発光素子1は、保持基板14側においてn-AlGaN層12の裏面側が露出し、サファイア基板10A側においてもn-AlGaN層12が露出した状態になる。
【0031】
図6(A)に示すように、露出したn-AlGaN層12の裏面側には、六角錐状をなした形状Hpが複数観察された。そして、図6(B)に示すように、サファイア基板10A側において露出したn-AlGaN層12には、形状Hpに対応する窪みDが複数観察された。
【0032】
次に、上記実施例における作用効果を説明する。
【0033】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、第2AlN層11(下地層)の表面側に、AlNモル分率が他の領域よりも低い低AlNモル分率領域LC1を有するn-AlGaN層12を成長させる第1工程と、レーザーリフトオフを実行してn-AlGaN層12を第2AlN層11から剥離する第2工程と、を備える。この構成によれば、第2工程において、レーザーリフトオフを実行することによって、第1工程において成長した低AlNモル分率領域LC1を分解して、第2AlN層11からn-AlGaN層12を良好に剥離することができる。
【0034】
窒化物半導体発光素子の製造方法において、第2AlN層11は、AlNで形成されている。この構成によれば、第2AlN層11とn-AlGaN層12とを積層して成長させる際に、反応炉へのAlの供給を調整することによって層の種類を作り分けることができる。
【0035】
<実施例2>
実施例2の窒化物半導体発光素子2は、図7に示すように、第2AlN層11の表面側に複数の凸部11Aが設けられる点、第2AlN層11に積層して成長する層の構成が実施例1の窒化物半導体発光素子1と相違する。実施例1と同一の構成は、符号を付して詳細な説明は省略する。実施例1と同一の手順は、詳細な説明は省略する。実施例2の窒化物半導体発光素子2において、サファイア基板10Aに第1AlN層10B、第2AlN層11を積層して成長させる手順は、実施例1の窒化物半導体発光素子1を作製する手順と同一であり詳細な説明を省略する。
【0036】
[凸部形成工程について]
第1工程の実行前に、第2AlN層11(下地層)の表面に複数の凸部11Aを形成する凸部形成工程を実行する。具体的には、第2AlN層11の表面にスパッタ装置を用いてSiO2層を420nm積層させる。そして、SiO2層の表面にレジストを塗布してレジスト膜を形成した後に、ナノインプリント装置を用いて、ピッチ1000nm、直径300nmの微細なパターンをレジスト膜に形成する。この微細なパターンよりも外側の部分は、SiO2層の表面が露出する。そして、ICP装置を用いて、露出したSiO2層をCF4ガスにてドライエッチングし、続いて、バッファードフッ酸を用いて、SiO2層の残渣を除去する。そして、Cl2ガスを用いて、第2AlN層11の表面側を500nmの深さエッチングし、マスクとして利用したSiO2層及びレジスト膜をバッファードフッ酸を用いて除去する。こうして、図8(A)、(B)に示すように、第2AlN層11の表面側にピッチおよそ1000nm、直径およそ270nm、高さおよそ500nmの凸部11Aを複数形成する。こうして、凸部形成工程を実行する。
【0037】
次に、第1工程を実行する。凸部11Aを形成した第2AlN層11の表面にu-AlGaN層112Aを積層して結晶成長させる。凸部11Aを形成したAlNテンプレート基板10を再び反応炉に配置する。そして、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃まで昇温し、所定の温度に達したら、AlNのモル分率が0.6になるようにH2、TMGa、TMAl、NH3を反応炉内に供給する。反応炉内の圧力は、7kPaである。u-AlGaN層112Aの厚みは、3μmである。u-AlGaN層112Aの厚みを3μmにすることによって、凸部11Aが形成された第2AlN層11の表面を埋め込んで平坦化させることができる。u-AlGaN層112Aには、SiやMg等の不純物を添加していないが、u-AlGaN層112Aに変えて、Siなどをドーピングしたn-AlGaN層としても良い。ここで、u-AlGaN層112Aの厚みは、凸部11Aの基端からu-AlGaN層112Aの表面までの寸法である。
【0038】
次に、u-AlGaN層112Aの表面に、n-AlGaN層112Bを積層して結晶成長させる。具体的には、H2、TMGa、TMAl、NH3の反応炉内への供給を継続しつつ、SiH4を反応炉内に供給する。n-AlGaN層112BにおけるSiの添加濃度は6×1018cm-3になるように原料の供給流量を調整する。n-AlGaN層112Bの厚みは2μmである。n-AlGaN層112BのAlNのモル分率は、0.6である。こうして、第1工程を実行する。第1工程において、u-AlGaN層112Aの成長の開始から終了までにわたって、反応炉内への各原料の供給量、反応炉内の温度や圧力は、一定である。
【0039】
次に、n-AlGaN層112Bの表面に発光層113を積層して結晶成長させる。具体的には、AlNテンプレート基板10の温度を1050℃まで降温し、反応炉内の圧力を30kPaにする。そして、TMGaからTEGa(トリエチルガリウム)に切り替える。そして、AlNテンプレート基板10の温度が所定の温度に達したら、150nmの厚みの第1ガイド層、4nmの厚みの井戸層及び8nmの厚みの障壁層が2組積層された二重量子井戸活性層、及び150nmの厚みの第2ガイド層の順に積層して結晶成長させる。
【0040】
次に、発光層113の表面に電子障壁層15を積層して結晶成長させる。具体的には、TEGaからTMGaに切り替える。電子障壁層15の厚みは20nmである。そして、電子障壁層15の表面に、p-AlGaN層16と、p-GaN層17と、を積層して結晶成長させる。p-AlGaN層16は、層の厚み方向に、AlNモル分率が傾斜して形成されている。こうして、図7に示す層構造を有する窒化物半導体発光素子2が完成する。上記により製作されたu-AlGaN層112A、n-AlGaN層112B等における欠陥の数は、1.0×109/cm2であった。
【0041】
図9に示すように、窒化物半導体発光素子2は、第2AlN層11の隣合う凸部11Aの間に、三角形状の第1領域LC2が形成されていることがわかった。そして、第1領域LC2の上方には、第1領域LC2の上側の二辺に連なり上向きに拡がるように、第2領域LC3が形成されていることがわかった。第2領域LC3は、凸部11Aよりも上方まで延びて形成されている。第2領域LC3は、凸部11Aの先端を覆うように凸部11Aの上方に回り込んでいる。第1領域LC2、第2領域LC3のAlNモル分率は、u-AlGaN層112Aの上部やn-AlGaN層112BのAlNモル分率よりも小さいことがわかった。第2領域LC3におけるAlNモル分率は、第1領域LC2のAlNモル分率よりも小さいことがわかった。つまり、第1領域LC2及び第2領域LC3は、低AlNモル分率領域である。換言すると、低AlNモル分率領域は、厚み方向に重なり、AlNモル分率が異なる第1領域LC2及び第2領域LC3を有している。また、第1領域LC2は、第2領域LC3と第2AlN層11(下地層)の表面との間に位置し、AlNモル分率が第2領域LC3よりも高い。実施例2において、低AlNモル分率領域は、隣合う凸部11Aの間に配置されている。u-AlGaN層112Aは、第1工程において、反応炉内への各原料の供給量、反応炉内の温度や圧力が一定である中で、第1工程の初期段階に低AlNモル分率領域が形成されている。
【0042】
次に、窒化物半導体発光素子2の裏面(すなわち、サファイア基板10Aの裏面)に鏡面研磨を施した後、エポキシ樹脂を用いて、窒化物半導体発光素子2の表面(すなわち、p-GaN層17の表面)にAlNで形成された保持基板14を貼り付ける(図11参照)。そして、窒化物半導体発光素子2の裏面側(すなわち、サファイア基板10Aの裏面側)から、波長257nm、エネルギー密度0.53J/cm2のレーザ光を裏面全体に満遍なく照射する。
【0043】
その後、サファイア基板10Aに対して保持基板14から引き剥がす方向に外力を加えると、サファイア基板10Aは、保持基板14から剥がれた(図11参照)。剥離して露出したサファイア基板10A、及び保持基板14の面を電子顕微鏡を用いて観察すると、図10(A)から(D)に示すように、凸部11Aがu-AlGaN層112Aと共に保持基板14側に付いている(すなわち、凸部11Aが第2AlN層11から剥がれている)ことがわかった(図11参照)。また、隣合う凸部11Aの間においては、第1領域LC2と、第2領域LC3と、の界面において剥離していることが分かった。つまり、第1領域LC2は第2AlN層11に付いて、第2領域LC3は保持基板14側のu-AlGaN層112Aに付いていることがわかった(図10(A)、(B)参照)。
【0044】
波長257nmのレーザ光は、第1領域LC2を透過して、第2領域LC3に吸収され、その結果、外力を付与することなく第1領域LC2と、第2領域LC3と、の界面に剥離が生じると考えられる。そして、第1領域LC2と、第2領域LC3と、の界面において生じた剥離が第2AlN層11から凸部11Aが剥がれるきっかけとなり、これにより、u-AlGaN層112Aは、欠損することなくサファイア基板10Aから剥離することができたと考えられる。
【0045】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、第1工程の実行前に、第2AlN層11(下地層)の表面に複数の凸部11Aを形成する凸部形成工程を実行する。この構成によれば、第2AlN層11の表面に形成した凸部11Aが、第2AlN層11からu-AlGaN層112Aを剥離する際のきっかけになり、第2AlN層11からu-AlGaN層112Aを、より良好に剥離することができる。
【0046】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、低AlNモル分率領域は、厚み方向に重なり、AlNモル分率が異なる第1領域LC2及び第2領域LC3を有している。この構成によれば、レーザーリフトオフを実行した際、第1領域LC2と第2領域LC3との界面で剥離が生じるので、低AlNモル分率領域内に剥離を止め易い。
【0047】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、第1領域LC2は、第2領域LC3と第2AlN層11の表面との間に位置し、AlNモル分率が第2領域LC3よりも高い。この構成によれば、レーザーリフトオフを実行した際、第2領域LC3にレーザ光を吸収させて第2領域LC3を分解させることによって、それがきっかけとなり、第1領域LC2と第2領域LC3との間において剥離を生じさせ、第2AlN層11からu-AlGaN層112Aを良好に剥離することができる。
【0048】
<実施例3>
実施例3の窒化物半導体発光素子3は、図12に示すように、第2AlN層11の表面側に形成された複数の凸部211Aの高さ、及びu-AlGaN層212Aの厚みが実施例2の窒化物半導体発光素子2と相違する。実施例2と同一の構成は、符号を付して詳細な説明は省略する。実施例2と同一の手順は、詳細な説明を省略する。
【0049】
第2AlN層11の表面側には、ピッチ1000nm、直径270nm、高さ1000nmの凸部211Aが複数形成されている。u-AlGaN層212Aの厚みは、4μmである。u-AlGaN層212Aの厚みを4μmにすることによって、凸部211Aが形成された第2AlN層11の表面を埋め込んで平坦化させることができる。u-AlGaN層212Aは、Siなどをドーピングしたn-AlGaN層としても良い。ここで、u-AlGaN層212Aの厚みは、凸部211Aの基端からu-AlGaN層212Aの表面までの寸法である。
上記により製作されたu-AlGaN層212A、n-AlGaN層112B等における欠陥の数は、3.4×108/cm2であった。なお、図12において、サファイア基板10Aの裏面が上端に位置し、p-GaN層17の表面が下端に位置している。
【0050】
図13に示すように、窒化物半導体発光素子3の凸部211Aの基端部の周囲には、空間Vo(ボイド)が形成されている。空間Voに臨む凸部211Aの外周面には、この外周面を覆うように第1領域LC4が形成されていることがわかった。さらに、空間Voの上方であって、隣合う凸部11Aの間には、上下方向に長く第2領域LC5が形成されていることがわかった。つまり、第1領域LC4は、第2領域LC5と第2AlN層11の表面との間に位置している。第2領域LC5は、凸部211Aよりも上方まで延びて形成されている。第2領域LC5は、凸部211Aの先端を覆うように凸部211Aの上方に回り込んでいる。第1領域LC4、第2領域LC5におけるAlNモル分率は、u-AlGaN層212Aの上部のAlNモル分率よりも小さいことがわかった。つまり、第1領域LC4、第2領域LC5は、低AlNモル分率領域である。また、第1領域LC4のAlNモル分率は、第2領域LC5のAlNモル分率よりも低いことがわかった。
【0051】
次に、窒化物半導体発光素子3の裏面(すなわち、サファイア基板10Aの裏面)に鏡面研磨を施した後、エポキシ樹脂を用いて、窒化物半導体発光素子3の表面(すなわち、p-GaN層17の表面)にAlNで形成された保持基板14を貼り付ける。そして、窒化物半導体発光素子3の裏面側から、波長257nm、エネルギー密度0.53J/cm2のレーザ光を裏面全体に満遍なく照射する。その後、サファイア基板10Aに対して保持基板14から引き剥がす方向に外力を加えると、サファイア基板10Aは、第1AlN層10B、第2AlN層11、と共に保持基板14から剥がれた。図14に示すように、凸部211Aは、u-AlGaN層212Aと共に保持基板14側に付いている(すなわち、凸部211Aは第2AlN層11から剥がれている)ことがわかった。また、隣合う凸部211Aの間では、第1領域LC4内において剥離が発生しており、これにより、第1領域LC4の一部もu-AlGaN層212Aと共に保持基板14側に付いている。つまり、レーザーリフトオフによって、第1領域LC4と第2AlN層11との間において剥離が生じている。
【0052】
波長257nmのレーザ光は、第1領域LC4に吸収され、その結果、第1領域LC4内において剥離が生じると考えられる。そして、第1領域LC4内において生じた剥離が第2AlN層11から凸部211Aが剥がれるきっかけとなり、これにより、u-AlGaN層212Aは、欠損することなくサファイア基板10Aから剥離することができたと考えられる。
【0053】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法において、第1領域LC4は、第2領域LC5と第2AlN層11の表面との間に位置し、AlNモル分率が第2領域LC5よりも低い。この構成によれば、レーザーリフトオフを実行した際、第1領域LC4にレーザ光を吸収させて第1領域LC4を分解させることによって、それがきっかけとなり、第1領域LC4と第2AlN層11(下地層)との間において剥離を生じさせ、第2AlN層11から凸部211Aが剥がれ、u-AlGaN層212Aを良好に剥離することができる。
【0054】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1から実施例3に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1では、n型不純物としてSiを添加してn-AlGaN層としているが、これに限らず、n型不純物である、Ge、Te等であっても良い。また、p型不純物としてMg、Zn,Be、Ca、Sr、及びBa等を添加して、p-AlGaN層としてもよい。また、初期にu-AlGaN層を成長し、その後にn-AlGaN層を用いる構造でも良い。
(2)実施例1、2、3ではサファイア基板を使用しているが、レーザーリフトオフ(LLO)で使用するレーザ光が透過するAlN基板等の他の基板にAlN層を積層して結晶成長しても良い。
(3)実施例1、2、3では、下地層として第1AlN層、第2AlN層を用いているが、下地層にAlGaNを用いてもよい。つまり、下地層は、AlGaN及びAlNのいずれかで形成されていればよい。
(4)実施例1、2、3では、下地層にスパッタで作製したAlN層を含めているが、スパッタに変えて、MO―VPE成長のAlN層のみでも良い。
【0055】
1,2,3…窒化物半導体発光素子
10B…第1AlN層(下地層)
11…第2AlN層(下地層)
11A,211A…凸部
12…n-AlGaN層(低AlNモル分率領域を有するAlGaN層)
112A,212A…u-AlGaN層(低AlNモル分率領域を有するAlGaN層)
LC1…低AlNモル分率領域
LC2,LC4…第1領域(低AlNモル分率領域)
LC3,LC5…第2領域(低AlNモル分率領域)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14