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特開2023-100065ハット形鋼矢板の製造設備及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100065
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】ハット形鋼矢板の製造設備及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/082 20060101AFI20230710BHJP
   E02D 5/04 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
B21B1/082
E02D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000436
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】林 慎也
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩
(72)【発明者】
【氏名】関 和典
(72)【発明者】
【氏名】河合 雅典
【テーマコード(参考)】
2D049
4E002
【Fターム(参考)】
2D049FB03
2D049FB09
4E002AC05
4E002AC08
4E002AD01
4E002BA01
4E002BA02
4E002CA18
(57)【要約】
【課題】熱間による仕上圧延の後に被圧延材に対して曲げ成形を行うことでハット形鋼矢板といった大型な製品を高効率で製造するに際し、曲げ成形トルクを軽減させて製造を行う。
【解決手段】粗圧延機、中間圧延機、仕上圧延機、及び曲げ成形機を備えたハット形鋼矢板の製造設備であって、前記曲げ成形機は、上下孔型ロールにより被圧延材のフランジ傾斜角度を変化させることでフランジ対応部とウェブ対応部とがなす角度を変化させ、且つ、フランジ対応部と腕対応部とがなす角度を変化させる成形を行う2スタンド以上の複数スタンドから構成され、前記複数スタンドのうち、隣接してタンデム配置される2スタンドのスタンド間距離L(m)と、被圧延材のフランジ対応部の幅長さB(mm)との関係が以下の式(1)を満たすことを特徴とする、ハット形鋼矢板の製造設備。
4.4≦L/(B/1000) ・・・(1)
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗圧延機、中間圧延機、仕上圧延機、及び曲げ成形機を備えたハット形鋼矢板の製造設備であって、
前記曲げ成形機は、上下孔型ロールにより被圧延材のフランジ傾斜角度を変化させることでフランジ対応部とウェブ対応部とがなす角度を変化させ、且つ、フランジ対応部と腕対応部とがなす角度を変化させる成形を行う2スタンド以上の複数スタンドから構成され、
前記複数スタンドのうち、隣接してタンデム配置される2スタンドのスタンド間距離L(m)と、被圧延材のフランジ対応部の幅長さB(mm)との関係が以下の式(1)を満たすことを特徴とする、ハット形鋼矢板の製造設備。
4.4≦L/(B/1000) ・・・(1)
【請求項2】
前記複数スタンドのうち、隣接する2スタンドのスタンド間距離L(m)と、被圧延材のフランジ対応部の幅長さB(mm)との関係が以下の式(4)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載のハット形鋼矢板の製造設備。
5.5≦L/(B/1000)≦10 ・・・(4)
【請求項3】
少なくともウェブ対応部とフランジ対応部の連結部であるコーナー部の内側と、フランジ対応部と腕対応部の連結部であるコーナー部の内側を、熱間で前記上下孔型ロールに接触させることを特徴とする、請求項1又は2に記載のハット形鋼矢板の製造設備。
【請求項4】
前記曲げ成形機を構成する複数スタンドでは、各スタンドの上下孔型ロールのいずれか一方のみが駆動することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造設備。
【請求項5】
前記曲げ成形機と前記仕上圧延機と、はタンデムに配置されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造設備。
【請求項6】
前記ハット形鋼矢板のフランジ幅は377(mm)以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造設備。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のハット形鋼矢板の製造設備においてハット形鋼矢板を製造する製造方法であって、
複数サイズのハット形鋼矢板を同一の曲げ成形機を用いて製造する場合に、
当該複数サイズのうちフランジ幅Bが最大である場合の値において前記式(1)又は式(4)を満たすように前記スタンド間距離Lを決定することを特徴とする、ハット形鋼矢板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハット形鋼矢板の製造設備及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両端に継手を有するハット形鋼矢板の製造では、一般的な工程として、先ず加熱炉において所定の温度に加熱した矩形材を、孔型を備えた粗圧延機、中間圧延機及び仕上圧延機によって順に圧延することが知られている。例えば特許文献1には、粗圧延、中間圧延及び仕上圧延においてロールに複数の孔型を刻設してハット形鋼矢板を製造する方法が開示されている。しかしながら、ハット形鋼矢板といった大型で非対称な製品を製造する場合に、上記粗圧延機、中間圧延機及び仕上圧延機で製造するためには、多数の孔型が必要となり大規模な設備が必要となる上、造形方法が複雑化し、製品の形状バラツキや形状不良が発生しやすくなる。更に、幅や高さが大型の異なる形状の鋼矢板を製造するためには大型の設備や多数のロールが必要となる。
【0003】
上述のような事情に鑑み、例えば特許文献2には、熱間圧延によって鋼矢板を圧延・製造した後に、多段式の多数の支承ロールを用いてロールフォーミングによる冷間加工で曲げ加工(以下、曲げ成形とも呼称する)を行い、圧延設備を超える広幅の鋼矢板及び断面高の高い鋼矢板を製造する技術が開示されている。
【0004】
また、例えば特許文献3には、熱間圧延によって粗圧延、中間圧延、及び仕上圧延を行った後、熱間で上下孔型ロールを用いて曲げ成形を行い被圧延材のコーナー部を曲げる鋼矢板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-88176号公報
【特許文献2】特開2003-230916号公報
【特許文献3】特開2021-142564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ハット形鋼矢板の製造技術として種々の方法が創案されているが、それら製造技術での圧延機や成形機といった装置のトルクを軽減するといった点は考慮されていないのが実情である。例えば、上記特許文献1の場合、製品の高さが大きくなると圧延機のロール径も大きくする必要があり、高さとロール径の増加に相乗してトルクが大きくなってしまい、既存の圧延設備では製造できなくなる。また、上記特許文献2では、支承ロールを用いた曲げ成形が開示されているが、当該支承ロールはフラットロールであり被圧延材のコーナー部を直接押圧するものでないため、多数のロールが必要な上、各ロールの加工負荷が大きく、成形トルクの軽減が求められる。
【0007】
また、上記特許文献2に例示されるような製造方法では、冷間加工によって曲げ加工を行うこととしており、更にフラットロールである支承ロールを用いて被圧延材のコーナー部を直接押圧しない構成となっているため、当該コーナー部に直接塑性変形が加わりにくく、効果的な曲げ加工が行えないといった問題や、冷間加工であるために成形後のスプリングバックが大きくなりやすいといった問題がある。また、複数の成形ロール(支承ロール)でウェブとフランジを別々のタイミングで成形する場合、支点が被圧延材の長手方向にずれるため曲げ成形の効率が低下するといった問題もある。
【0008】
また、上記特許文献3では、熱間での曲げ成形による鋼矢板の製造技術が開示されており、例えば2スタンドからなる曲げ成形機でもって曲げ成形を行う旨が記載されている。しかしながら、複数スタンドからなる曲げ成形機により曲げ成形を行う場合に、スタンド間距離が各スタンド(特に後段スタンド)の成形トルクに及ぼす影響については何ら言及されておらず、示唆すらされていない。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、熱間による仕上圧延の後に被圧延材に対して曲げ成形を行うことでハット形鋼矢板といった大型な製品を高効率で製造するに際し、曲げ成形トルクを軽減させて製造を行うことが可能なハット形鋼矢板の製造設備及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、粗圧延機、中間圧延機、仕上圧延機、及び曲げ成形機を備えたハット形鋼矢板の製造設備であって、前記曲げ成形機は、上下孔型ロールにより被圧延材のフランジ傾斜角度を変化させることでフランジ対応部とウェブ対応部とがなす角度を変化させ、且つ、フランジ対応部と腕対応部とがなす角度を変化させる成形を行う2スタンド以上の複数スタンドから構成され、前記複数スタンドのうち、隣接してタンデム配置される2スタンドのスタンド間距離L(m)と、被圧延材のフランジ対応部の幅長さB(mm)との関係が以下の式(1)を満たすことを特徴とする、ハット形鋼矢板の製造設備が提供される。
4.4≦L/(B/1000) ・・・(1)
【0011】
前記複数スタンドのうち、隣接する2スタンドのスタンド間距離L(m)と、被圧延材のフランジ対応部の幅長さB(mm)との関係が以下の式(4)を満たしても良い。
5.5≦L/(B/1000)≦10 ・・・(4)
【0012】
少なくともウェブ対応部とフランジ対応部の連結部であるコーナー部の内側と、フランジ対応部と腕対応部の連結部であるコーナー部の内側を、熱間で前記上下孔型ロールに接触させても良い。
【0013】
前記曲げ成形機を構成する複数スタンドでは、各スタンドの上下孔型ロールのいずれか一方のみが駆動しても良い。
【0014】
前記曲げ成形機と前記仕上圧延機と、はタンデムに配置されても良い。
【0015】
前記ハット形鋼矢板のフランジ幅は377(mm)以上であっても良い。
【0016】
別な観点からの本発明によれば、上記記載のハット形鋼矢板の製造設備においてハット形鋼矢板を製造する製造方法であって、複数サイズのハット形鋼矢板を同一の曲げ成形機を用いて製造する場合に、当該複数サイズのうちフランジ幅Bが最大である場合の値において前記式(1)又は式(4)を満たすように前記スタンド間距離Lを決定することを特徴とする、ハット形鋼矢板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱間による仕上圧延の後に被圧延材に対して曲げ成形を行うことでハット形鋼矢板といった大型な製品を高効率で製造するに際し、曲げ成形トルクを軽減させて製造を行うことが可能なハット形鋼矢板の製造設備及び製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態にかかる圧延ラインの概略説明図である。
図2】曲げ成形機の概略側面断面図である。
図3】曲げ成形機の概略正面図である。
図4】第1スタンドの孔型形状を示す概略的な拡大正面図である。
図5】第2スタンドの孔型形状を示す概略的な拡大正面図である。
図6】第1スタンド及び第2スタンドにおいて曲げ成形される被圧延材の形状変化についての説明図であり、(a)は第1スタンドでの加工前、(b)は第1スタンドでの加工時、(c)は第2スタンドでの加工時の概略断面図を示している。
図7】曲げ成形機における仕上材の接触箇所についての説明図である。
図8】フランジ幅の定義に関する説明図である。
図9】2スタンドにおいて、単独で曲げ成形を行った場合と、タンデムで曲げ成形を行った場合と、のスタンド間距離と成形トルクとの関係を示すグラフである。
図10】2スタンドで構成される曲げ成形機で曲げ成形を行った場合の、L/(B/1000)と、第2スタンドでのトルク比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。なお、本実施の形態では鋼矢板製品としてハット形鋼矢板を製造する場合について説明する。
【0020】
<圧延ラインの構成>
図1は、本発明の実施の形態にかかるハット形鋼矢板を製造する圧延ラインT(図中一点鎖線)と、圧延ラインTに備えられる圧延機等についての説明図である。なお、図1において圧延ラインTの圧延進行方向は矢印で示されている方向であり、当該方向へ被圧延材が流れる。そして、圧延ラインT上の各圧延機、曲げ成形機において圧延・曲げ成形が行われ、製品が造形される。また、図1では、同一の圧延機において被圧延材を複数回往復させる圧延方法(所謂、多パス圧延)についても、一点鎖線にて記載している。
【0021】
図1に示すように、圧延ラインTには、上流から順に粗圧延機10、第1中間圧延機13、第2中間圧延機16、仕上圧延機19、曲げ成形機20が順に配置されている。また、第1中間圧延機13の上流側にはエッジャー圧延機14が、第2中間圧延機16の下流側にはエッジャー圧延機17がそれぞれ隣接して配置されている。
【0022】
圧延ラインTにおいては、図示しない加熱炉において加熱された矩形材(被圧延材)が粗圧延機10~仕上圧延機19において順次熱間で圧延され、更に、熱間で曲げ成形機20によって成形され、最終製品となる。なお、以下では説明のため、粗圧延機10で圧延された被圧延材を粗形材、第1中間圧延機13~第2中間圧延機16によって圧延された被圧延材を中間材、仕上圧延機19によって圧延された被圧延材を仕上材19aとも呼称する。即ち、仕上材19aを曲げ成形機20によって成形(断面変更)したものが最終製品(即ち、ハット形鋼矢板製品)となる。
【0023】
ここで、圧延ラインTに配置される粗圧延機10、第1中間圧延機13、第2中間圧延機16、仕上圧延機19や、付随して配置されるエッジャー圧延機14、17は従来から鋼矢板の製造において用いられている一般的な設備であるため、その詳細な装置構成等についての説明は本明細書では省略する。
【0024】
<曲げ成形機の構成>
次に、曲げ成形機20の詳細な構成について図面を参照して説明する。図2は曲げ成形機20の概略側面断面図であり、図3は曲げ成形機20の概略正面図である。図2、3に図示した曲げ成形機20は、仕上圧延機19において仕上圧延された仕上材19aを曲げ成形するものである。なお、図3には以下に説明する曲げ成形機20が備える第1スタンド22の概略正面図を図示している。ここで、本実施の形態では曲げ成形機20は2つの成形スタンド(以下に説明する成形スタンド22、23)から構成される場合を例示して説明しているが、曲げ成形機20は任意の複数のスタンドから構成されていても良い。
【0025】
図2に示すように、本実施の形態にかかる曲げ成形機20は隣接してタンデム配置された2つの成形スタンド22、23(以下、上流側の第1スタンド22、下流側の第2スタンド23とも呼称する)を備えている。この場合、2つの成形スタンド22、23の中心間距離をスタンド間距離Lとする。また、図3に示すように、各スタンド22、23それぞれには、上孔型ロールと下孔型ロールとで構成される成形用孔型(後述する孔型45、55)が刻設されており、その孔型形状は第1スタンド22と第2スタンド23とで異なる形状となっている。
【0026】
ここで、第1スタンド22と第2スタンド23のロール構成ならびに孔型形状について説明する。図4は、第1スタンド22の孔型形状を示す概略的な拡大正面図であり、図5は第2スタンド23の孔型形状を示す概略的な拡大正面図である。なお、図4には曲げ成形機20による成形を行う前の状態である仕上材19aの断面形状を一点鎖線で図示し、図5には第2スタンド23で成形を行う前の状態である仕上材19a’の断面形状を一点鎖線で図示している。また、以下では、略ハット形形状の被圧延材を上開き(後述するウェブ対応部を下方とし、腕対応部を上方に位置させる)姿勢で曲げ成形する場合を例示して説明する。
【0027】
図3及び図4に示すように、第1スタンド22には、上孔型ロール40と下孔型ロール41が筐体44に支持されて設けられ、上孔型ロール40と下孔型ロール41によって孔型45が構成されている。この孔型45はフランジに対応する部分から継手に対応する部分の形状がハット形鋼矢板製品の一歩手前の形状(即ち、略ハット形鋼矢板製品形状)となっている。孔型45は、仕上材19aのフランジに対応する部分(即ち、フランジ対応部)と、仕上材19aのウェブに対応する部分(即ち、ウェブ対応部)とがなす角度、及び仕上材19aの腕に対応する部分(即ち、腕対応部)とがなす角度をそれぞれ変化させ、仕上材19aの高さ及び幅を所定の形状(即ち、製品に近似した断面形状)に曲げ成形するものである。特にハット形鋼矢板を製造する場合には、粗圧延機10~仕上圧延機19において高さを低く抑えた形状でもって被圧延材(粗形材~仕上材19a)の圧延を行い、曲げ成形機20において被圧延材の高さを所望の製品高さまで高めるように曲げ成形を行うといった方法が採られる。これにより、大型サイズのハット形鋼矢板製品を製造することができるようになる。
【0028】
また、図5に示すように、第2スタンド23には、上孔型ロール50と下孔型ロール51が筐体54に支持されて設けられ、上孔型ロール50と下孔型ロール51によって孔型55が構成されている。この孔型55は所望の製品形状に近い形状となっており、曲げ成形機20の第1スタンド22にて成形されたフランジに対応する部分(即ち、フランジ対応部)と、仕上材19aのウェブに対応する部分(即ち、ウェブ対応部)とがなす角度、及び腕に対応する部分(即ち、腕対応部)とがなす角度をそれぞれ変化させ、フランジ形状、腕形状及び継手形状を所定の形状(即ち、製品の形状)に成形するものである。即ち、この第2スタンド23では、第1スタンド22での成形において製品形状に対して不十分であったフランジ対応部の傾斜角度を、製品形状に応じた角度まで変形させる成形が行われる。
【0029】
ここで、曲げ成形時における上記孔型45及び孔型55におけるロール隙(上孔型ロール40と下孔型ロール41のロール隙ならびに上孔型ロール50と下孔型ロール51のロール隙)は、仕上材19aのフランジ対応部及びウェブ対応部の厚みより大きくなるように構成されている。即ち、曲げ成形機20においては、仕上材19aの板厚圧下は行われず、第1スタンド22及び第2スタンド23の各孔型ロールと仕上材19aとは、後述する一部の所定箇所のみにおいて接触して曲げ成形が行われる構成となっている。
【0030】
本明細書における「接触」とは、曲げ成形機20において、仕上材19aの特定箇所の上面あるいは下面の一方のみが孔型ロールの周面に当接した状態をいう。これに対し、「圧下」とは、曲げ成形機20において、仕上材19aの特定箇所の上面と下面の両方が孔型ロールに当接し、且つ、厚みを減ずるように力がかかるような状態をいう。
【0031】
例えば、ウェブ対応部ならびにフランジ対応部に対向する部分の上記ロール隙は仕上材19aのフランジ対応部ならびにウェブ対応部の厚みより0.5mm~3mm程度大きいことが好ましい。加えて、上記孔型45及び孔型55における仕上材19aの腕対応部にかかる箇所においても、そのロール隙は当該腕対応部の厚みよりも断面全域にわたり大きくなるように構成されていても良い。上記ロール隙の猶予範囲が、0.5mmよりも小さい場合には、仕上材19aの板厚の変動の為に厚みを圧下して曲げ成形機20の負荷が増大する可能性があり、3mmよりも大きい場合には、フランジ対応部の傾斜角度を目標の角度に成形できない可能性がある。
【0032】
<曲げ成形>
続いて、上述したスタンド22、23における被圧延材の成形について説明する。図6は、第1スタンド22及び第2スタンド23において曲げ成形される被圧延材(仕上材19a)の形状変化についての説明図であり、(a)は第1スタンド22での加工前、(b)は第1スタンド22での加工時、(c)は第2スタンド23での加工時の概略断面図を示している。図6(a)に示すように、仕上材19aは略ハット形形状であり、略水平であるウェブ対応部60と、ウェブ対応部60の両端に製品形状より大きい所定の角度(図中に角度αとして示している)のコーナー部70(以下、ウェブ-フランジコーナー部70とも呼称)によって連結しているフランジ対応部62、63と、各フランジ対応部62、63においてウェブ対応部との連結側と異なる端部にコーナー部71(以下、フランジ-腕コーナー部71とも呼称)を介して連結している腕対応部65、66と、腕対応部65、66の先端に形成される継手対応部68、69から構成されている。また、仕上材19aは、仕上圧延機19における圧延によって厚みが略製品の厚みとなっており、継手対応部68、69の形状も、略製品継手形状となっている。
【0033】
図6(a)に示す仕上材19aは、第1スタンド22の孔型45においてウェブ対応部60とフランジ対応部62、63とのなす角度αが小さくなる(図6(b)に示す角度αとなる)ように曲げ成形され、図6(b)に示すように所望の高さとなる。即ち、第1スタンド22では、仕上材19aの高さが高くなるような曲げ加工が行われる。
【0034】
次いで、図6(c)に示すように、第2スタンド23の孔型55において、ウェブ対応部60とフランジ対応部62、63とのなす角度αが小さくなる(図6(c)に示す角度αとなる)ように曲げ成形され、仕上材19aが略製品形状に曲げ成形される。
【0035】
また、図7は曲げ成形機20における仕上材19aの接触箇所についての説明図であり、(a)~(d)はそれぞれ接触箇所の一例を示している。なお、図7では接触箇所を太線にて図示している。第1スタンド22の孔型45及び第2スタンド23の孔型55では、各孔型ロールと仕上材19aとは一部の所定箇所のみにおいて接触しており、板厚の圧下は行われない。孔型ロールと仕上材19aとの具体的な接触箇所は、例えば図7(a)に示すように、ウェブ対応部60とフランジ対応部62、63との境界のコーナー部内側70a、70bと、フランジ対応部62、63と腕対応部65、66との境界のコーナー部内側71a、71bである。ここで、「接触」とは、少なくとも材料と孔型ロールが接触していれば良く、更に材料を押圧するような力がかかる状態でも良い。
【0036】
図7(a)に記載されるように、接触箇所である70a、70bはウェブ対応部60とフランジ対応部62、63との境界のコーナー部70の内側である。一方、接触箇所である71a及び71bはフランジ対応部62、63と腕対応部65、66との境界のコーナー部71の内側である。接触箇所である71a及び71bではそれぞれ70a及び70bでの反力に釣り合う方向に反力が生じる。これにより、コーナー部70、71を塑性変形させることができる。
【0037】
ここで、図7(b)に示すウェブ対応部60の下面(外側)中央部60aをこれに対向する下孔型ロール41、51に接触させることにより、フランジ対応部62、63とウェブ対応部60とがなす角の曲げが効率的に行える。曲げ成形時には、ウェブ対応部60が図中の下方向に反ろうとするため、ウェブ対応部60の両側(コーナー部70)から離れた下面中央部60aに下孔型ロールを接触させることにより、ウェブ対応部60の両端に効果的に曲げモーメントを付与できるからである。また、少なくとも最終スタンドである第2スタンド23においては、腕対応部65、66を略水平とするために腕対応部65、66の上面(外面)65a、66aが接触箇所となる。
【0038】
加えて、前述のようにロール隙の猶予値を適正に設定することにより、図7(c)に示すように、第1スタンド22の孔型45及び第2スタンド23の孔型55では、仕上材19aのフランジ対応部62、63の内側上方部分62a、63aを上孔型ロール40、50に接触させると共に、フランジ対応部62、63の外側下方部分62b、63bを下孔型ロール41、51に接触させることが望ましい。この図7(c)に示す箇所を接触させることで、コーナー部70、71に孔型ロール形状による3点曲げを生じさせることによりコーナー部70、71を十分に塑性変形させることができ、精度の高い曲げ成形を行うことが可能となる。
【0039】
また、図7(d)に示すように、上記図7(a)~(c)で説明した箇所に加え、継手対応部68、69の上面(外面)68a、69aを上孔型ロール40、50に接触させても良い。この図7(d)に示す箇所を接触させることで、継手対応部68、69についても略水平となるような成形を行い、更に精度の高い曲げ成形を行うことが可能となる。
【0040】
なお、図7(a)~(d)を参照して曲げ成形における仕上材19aに対する好適な接触箇所について説明したが、図7に示すように、曲げ成形において接触するそれぞれの箇所は、仕上材19aの板厚を圧下するような位置構成とはなっていない。具体的には、仕上材19aの特定の箇所を上下孔型ロール双方によって両側から押圧する(即ち、圧下する)ような構成とはなっておらず、上下孔型ロールのロール隙も仕上材19aの板厚より大きくなるように構成されていることから、板厚の圧下は行われない。ウェブ対応部60やフランジ対応部62、63を圧下しなければ、圧下反力を不必要に上げなくて済む。
【0041】
また、図7では、各コーナー部70、71に対し各孔型ロールの一部箇所を接触させる構成の一例について図示説明したが、本発明における各孔型ロールの接触箇所はこれに限られるものではない。即ち、図7を参照して上述した接触箇所に加え、更なる接触箇所を設けても良い。
【0042】
<曲げ成形トルク>
ここで、本発明者らは、上述したような曲げ成形機20における曲げ成形の成形トルクに着目し、被圧延材(仕上材19a)の断面寸法や(曲げ)成形量が大きくなる程、曲げ成形機20で必要な成形トルク(以下、単に成形トルクとも記載)は増大する傾向にあることについて詳細に検討した。特に、本実施の形態に係る曲げ成形機20のように、複数のスタンド(例えば第1スタンド22と第2スタンド23)をタンデム配置して曲げ成形を行う場合には、それら複数のスタンドのスタンド間距離及び被圧延材のフランジ対応部62、63の幅長さ(以下、単にフランジ幅Bとも記載)と、成形トルクとの間に相関関係があるとの知見を見出した。以下、本知見について(数値解析により得られた)グラフ等を参照して説明する。
【0043】
なお、本明細書における「フランジ幅」とは、被圧延材(仕上材19a)のフランジ対応部62、63の幅長さで当該フランジ対応部62、63に沿った長さを指す。具体的には、図8に示すように、ウェブ対応部60、フランジ対応部62、63及び腕対応部65、66の厚み中心を通る直線(図8中の破線)において、フランジ対応部62、63とウェブ対応部60との交点P1と、フランジ対応部62、63と腕対応部65、66との交点P2と、の間の直線距離をフランジ幅Bとして定義する。この長さは最終製品のフランジ幅長さとほぼ同じ長さであるため、最終製品のフランジ幅長さで定義しても良い。
【0044】
図9は、本実施形態に係る曲げ成形機20の2スタンド(第1スタンド22と第2スタンド23)において、1つの断面寸法のハット形鋼矢板について単独(非タンデム)で曲げ成形を行った場合と、タンデムで曲げ成形を行った場合と、のスタンド間距離Lと成形トルクとの関係を示すグラフである。なお、図9のグラフ縦軸は「タンデム時トルク/単独時トルク」、横軸は「スタンド間距離L(m)」である。
【0045】
図9に示すように、第1スタンド22においては、スタンド間距離Lに関わらず「タンデム時トルク/単独時トルク」の値はほぼ一定である。一方、第2スタンド23においては、スタンド間距離Lが小さいほど増加が顕著になり、スタンド間距離Lが大きい程低下する傾向がある。そして、スタンド間距離Lが大きくなるにつれて単独時トルクにほぼ収れんする。
【0046】
スタンド間距離Lが短いほど、後段スタンドの成形トルクが増加する傾向があるのは、スタンド間で被圧延材が急激な曲げ成形を受けるため、スタンド間で被圧延材の変形が前段スタンドに拘束された状態で曲げ成形が行われるからである。第2スタンド単独で曲げ成形を行った場合に、フランジ角度が増加し始める位置とロール直下との間の距離よりもスタンド間距離Lを大きくすると、タンデムで曲げ成形を行った場合の後段スタンドのトルクは、第2スタンド単独で曲げ成形を行った場合のトルクにほぼ等しくなることが分かった。
【0047】
そこで、断面寸法の異なるハット形鋼矢板について更なる検討を行った。ここでは、例えば、後段スタンド(第2スタンド23)の成形トルクが問題となる場合に、前段スタンド(第1スタンド22)の曲げ成形角度を大きくし、後段スタンドの曲げ成形角度を小さくし、後段スタンドの成形トルクを抑えることも考え得るが、その場合には前段スタンドの成形トルクが過大となってしまう。そこで、本発明者らは、曲げ成形角度の配分とスタンド間距離Lを適正とし、前段スタンドと後段スタンドの成形トルクのバランスが取れるような条件について検討を行った。
【0048】
断面寸法の異なるハット形鋼矢板の場合でも、スタンド間距離Lと後段スタンドの成形トルクについては前述と同様の関係が得られる。即ち、前段スタンドによる拘束がない場合、フランジ角度が増加し始める位置とロール直下との間の距離はフランジ幅Bにほぼ比例することが明らかとなった。よって、後段スタンドの成形トルク増加は、被圧延材のフランジ幅Bとスタンド間距離Lに依存すると考えられる。
【0049】
なお、荷重についても、図9を参照して上述した成形トルクと同様の傾向があり、第1スタンド22においては、スタンド間距離Lに関わらず「タンデム時荷重/単独時荷重」の値はほぼ一定である。一方、第2スタンド23においては、スタンド間距離Lが小さいほど増加が顕著になり、スタンド間距離Lが大きい程低下する傾向がある。
【0050】
<成形トルクとスタンド間距離との関係>
本発明者らは、上述したように、2スタンドからなる曲げ成形機20の後段スタンドにおける成形トルクは、被圧延材のフランジ幅Bと、スタンド間距離Lに依存する傾向があることに鑑み、スタンド間距離Lとフランジ幅Bとの比「L/B」を評価指標として規定し、当該値L/Bの値と成形トルクとの関係に基づき、スタンド間距離Lと被圧延材のフランジ幅Bとの好適な関係性や好適な条件について更なる検討を行った。
【0051】
本発明者らは、後段スタンド(ここでは第2スタンド23)の成形トルクについて最小の値を1とし、その最小トルク値に対するトルク増加比(以下、トルク比とも記載)を無次元の値として規定し、当該トルク比とL/(B/1000)との関係をグラフ化した。図10は、2スタンドで構成される曲げ成形機20で曲げ成形を行った場合の、L/(B/1000)と、後段スタンドである第2スタンド23でのトルク比との関係を示すグラフである。なお、図10のグラフでは、フランジ幅Bの異なる条件や、第1スタンドと第2スタンドの曲げ成形角度配分の異なる条件を含んだ複数の条件を示している。ここで、それぞれのスタンドでの曲げ成形角度は、図6に示すウェブ対応部60とフランジ対応部62、63とのなす角度α、α、αに対応する仕上圧延機19及び曲げ成形機20の孔型ロールの角度の差で定義した。
【0052】
図10に示すように、フランジ幅Bが377mm~657mmのいずれの場合であっても、また、曲げ成形角度配分が異なる条件であっても、いずれの条件においてもL/(B/1000)が小さい値になるほど、急激にトルク比が増大する傾向にある。特に、L/(B/1000)が4.4より小さい値となる条件下では、急激にトルク比が増大している。その為、必要な成形トルクを確保するために設備駆動力としてのモーター容量の大幅な増加が求められ、設備コストや電力消費量の増加が問題となってしまう。L/(B/1000)の減少に伴うトルク比の顕著な増加による設備コストや電力消費量の大幅な増加を抑制するためには、トルク比の値は例えば1.4以下に抑えることが好ましい。最小トルクに対するトルク比の値が1.5よりも小さければ設備コストや電力消費量からも許容できる範囲である。図10から、トルク比を1.4以下に抑える場合、曲げ成形機20におけるL/(B/1000)の値は、以下の式(1)を満たすことになる。
4.4≦L/(B/1000) ・・・(1)
【0053】
また、曲げ成形における設備費や電力消費量を更に抑えるといった観点からは、トルク比の値を例えば1.2以下に抑えることが好ましい。図10から、トルク比を1.2以下に抑える場合、曲げ成形機20におけるL/(B/1000)の値は、以下の式(2)を満たすことになる。
5.5≦L/(B/1000) ・・・(2)
【0054】
一方で、図10に示すように、スタンド間距離Lを広げ、L/(B/1000)の値を大きくしたとしても、後段スタンドのトルクは所定値以下には低下しない(図9参照)ため、トルク比の値は1のままである。スタンド間距離Lを広げると、スタンド間で被圧延材を誘導するためのガイド設備等が大きくなり設備コストの増大が懸念される。また、通材の安定性も損なわれる恐れがある。このような事情から、必要以上にスタンド間距離Lを広げるのは得策ではない。図10に示すように、L/(B/1000)の値が7.0以上であれば、トルク比が1に近い値となり、更には、トルク比が10に近づくと後段スタンドのトルクが最小値となりトルク比が1となっていることから、以下の式(3)が満たされることが望ましい。
L/(B/1000)≦10 ・・・(3)
即ち、上記式(2)及び式(3)に基づき、L/(B/1000)の好適な数値範囲は、以下の式(4)で規定することができる。
5.5≦L/(B/1000)≦10 ・・・(4)
【0055】
なお、図9図10を参照して上述した知見は、フランジ幅Bが377mm、482mm、542mm、657mmの場合についてのものである。フランジ幅が377mm未満のハット形鋼矢板製品を本実施の形態に係る設備・方法で製造する場合、曲げ成形トルク自体が小さいため、成形トルクの増加による設備等への影響が小さい。例えば、後述する実施例ではフランジ幅Bが542mmの条件において、後段スタンドのトルクが12.6tf・m~21.7tf・mであるのに対し、フランジ幅377mm未満の条件においては、後段スタンドのトルクはその半分程度である。即ち、本発明技術を有効に適用できるのは、フランジ幅が377mm以上のハット形鋼矢板を製造する場合である。更には、フランジ幅が500mm以上のハット形鋼矢板を製造する場合、成形トルクが大きく、当該成形トルクの増加が設備等に大きく影響するため、本発明技術を適用した時の効果が大きい。
【0056】
<作用効果>
以上、図9図10を参照して説明した知見に基づき、上記式(1)あるいは式(4)によって規定される条件を満たすような、2スタンドからなる曲げ成形機20でのハット形鋼矢板の製造においては、後段スタンドである第2スタンド23の曲げ成形トルクを最小限にすることができる。また、荷重についてもトルクと同じ傾向が見られることから、後段スタンドである第2スタンド23の荷重も抑えることができる。これにより、設備駆動力としてのモーター容量を最小限とし、モーター及び付帯設備を小さくすることができ、設備コスト減や省スペース化を実現でき、電力消費量を抑えることができる。
【0057】
即ち、熱間による仕上圧延の後に、熱間で被圧延材に対して曲げ成形を行うことでハット形鋼矢板等の大型な製品を製造する際の設備の効率化や生産性の向上を図ることができる。なお、ここで熱間とは、熱間圧延後に被圧延材の変態が完了する前の温度である。
【0058】
また、複数サイズのハット形鋼矢板を同一の曲げ成形機を用いて製造する場合、製造すべき製品のフランジ幅Bの最大値に基づき上記式(1)あるいは式(4)を満たすようにスタンド間距離Lを決定することで、複数サイズのハット形鋼矢板を同一の曲げ成形機の設備仕様内で収まるような成形トルクでもって製造することが可能となる。
【0059】
なお、上述したように曲げ成形は、熱間で実施される。また、仕上圧延機19と曲げ成形機20をタンデムに配置し、仕上圧延と曲げ成形を連続して熱間で行うことが好ましい。ここで、熱間での仕上圧延・曲げ成形とは、被圧延材の変態が完了する前の温度での圧延・成形を言う。曲げ成形機20のスタンド間距離Lを所定の距離とし、後段スタンドの成形トルクを最小限にした場合であっても、被圧延材の先端部のクロップ部(非定常部)では、温度が低下し、ずれ噛みが生じる恐れがある。そのため、定常部に比べて噛み込み時に瞬間的に成形トルクが増加しやすい傾向がある。そこで、仕上圧延機19と曲げ成形機20をタンデムに配置することで、仕上圧延機19によって被圧延材を効果的に曲げ成形機20に押し込み、噛み込み時の成形トルクの低減を図ることができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
上記実施の形態では、曲げ成形機20が第1スタンド22と第2スタンド23から構成される場合について図示し、説明したが、本発明の適用範囲はこれに限られるものではない。例えば曲げ成形機20は3スタンド以上の任意の数の複数スタンドから構成されてもよい。曲げ成形機20が複数スタンドから構成される場合には、各スタンドにおいて曲げ成形を分担して行うことができる。曲げ成形機20が複数スタンドから構成される場合には、隣接する2つのスタンドごとに上記実施の形態で説明した各条件(式(1)あるいは式(4)によって規定される条件)を満たすことで、本発明に係る作用効果が享受される。
【0062】
なお、スタンド数は曲げ成形角度と設備投資のバランスから好適に決定され、例えば曲げ成形角度の総計が20°~40°程度であれば、上記実施の形態で説明した2基スタンドの形態が好適である。圧延機のロール径等の条件で規制される圧延時のフランジ対応部の傾斜角度と製品のフランジ部の傾斜角度の関係で曲げ成形角度の総計が決まるため、フランジ幅が大きくなるほど圧延時のフランジ対応部の傾斜角度は小さくなり、必要な曲げ成形角度の総計が大きくなる傾向がある。モーター容量からは、各スタンドのトルクが等しくなるようにすることが一般的には好ましいが、噛み込みの安定性等の条件から第1スタンド22での曲げ成形角度についても制約を受ける。したがって、これらを考慮して、第1スタンド22と第2スタンド23の曲げ成形角度の配分を定めることが好ましい。上記実施の形態で挙げた曲げ成形角度はこのようにして選択したものであるが、これに限定されるものではない。
【0063】
また、上記実施の形態において、曲げ成形機20の上下孔型ロールは、上下どちらか一方のみを駆動させ、他方を駆動させないような構成とすることもできる。上下孔型ロールのどちらか一方のみを駆動させる構成とすることで、複数のスタンドのタンデム状態で曲げ成形を行う場合に、通板の速度バランスがとり易くなり、複数のスタンド間での速度バランスの不均衡による被圧延材への張力の発生等が抑えられ、通板の安定化や、不要な被圧延材の形状変化の抑制等が図られる。加えて、ロールを駆動させるためのモーター、スピンドル、ギア等の駆動機構が簡略化できるため、設備の小型化や設備コストの低減が実現される。噛み込みの安定性からはフランジ対応部の傾斜角度を増加させる側のロール(図3~5の成形姿勢の場合には下孔型ロール)を駆動される方が好ましい。
【0064】
また、以上の実施の形態ならびにその変形例においては、ハット形鋼矢板製品を上開き(ウェブ対応部に対して腕対応部を上側にした)姿勢で製造する場合を例示して説明したが、逆の下開き(ウェブ対応部に対して腕対応部を下側にした)姿勢で製造する場合にも本発明は適用できる。
【実施例0065】
本発明にかかる鋼矢板の製造設備において、熱間仕上圧延に引き続き、連続した2スタンドで構成される曲げ成形機を用いてフランジの曲げ成形を行い、製品幅1400mm、製品高さ501mmの大型のハット形鋼矢板を製造した。この時の被圧延材のフランジ幅Bは542mmであった。曲げ成形工程の第1スタンドでの第1曲げ成形角度を16°とし、第2スタンドでの第2曲げ成形角度を17°との条件とした。スタンド間距離Lは1.8m~4.8mの範囲で変更した。このような各条件でのトルクやトルク増加比は以下の表1に示す通りである。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、比較例の条件であるスタンド間距離1.8mではL/(B/1000)が3.3であり、上記式(1)あるいは式(4)によって規定される条件を満たしておらず、第2スタンドのトルクが21.7tf・mとなりトルク増加比が約1.7と大きくなっている。即ち、最小値のトルクを基準にした場合、その1.7倍もの容量のモーターが必要となり、消費電力が大きく増加する。
【0068】
一方、実施例1の条件、スタンド間距離2.4mでは、L/(B/1000)が4.4であり、上記式(1)によって規定される条件を満たしている。この条件では、第2スタンドのトルクは17.9tf・mとなりトルク増加比は約1.4と抑えられている。更に、実施例2の条件、スタンド間距離3.0mでは、L/(B/1000)が5.5であり、上記式(1)及び(4)によって規定される条件を満たしている。この条件では、第2スタンドのトルクは15.2tf・mとなりトルク増加比は約1.2と抑えられている。また、実施例3~5の条件では、第2スタンドのトルクはほぼ最小値に抑えられる。即ち、実施例1~5は、上記式(1)あるいは式(4)によって規定される条件を満たしているため、後段スタンドのトルクが抑えられる。これにより、例えば設備上のモーター容量の小型化や消費電力の低下が図られる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、ハット形鋼矢板の製造設備及び製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0070】
10…粗圧延機
13…第1中間圧延機
14…エッジャー圧延機
16…第2中間圧延機
17…エッジャー圧延機
19…仕上圧延機
19a…仕上材
20…曲げ成形機
22…第1スタンド
23…第2スタンド
40…上孔型ロール
41…下孔型ロール
44…筐体
45…孔型
50…上孔型ロール
51…下孔型ロール
54…筐体
55…孔型
60…ウェブ対応部
62、63…フランジ対応部
65、66…腕対応部
68、69…継手対応部
70、71…コーナー部
T…圧延ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10