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特開2023-100067柑橘類の香気を有する水性エタノール液体組成物
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  • 特開-柑橘類の香気を有する水性エタノール液体組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100067
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】柑橘類の香気を有する水性エタノール液体組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/12 20160101AFI20230710BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20230710BHJP
【FI】
A23L27/12
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000439
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】上原 瑠理
(72)【発明者】
【氏名】高木 大介
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝博
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 麻由
【テーマコード(参考)】
4B047
4B115
【Fターム(参考)】
4B047LB03
4B047LB09
4B047LE01
4B047LF07
4B047LG07
4B047LG38
4B047LG63
4B047LP01
4B047LP20
4B115LG02
4B115LH03
4B115LP02
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、柑橘類らしい華やかな香りを有する水性エタノール液体組成物を提供することである。
【解決手段】 柑橘類果皮の特定部分を用いて得た浸漬液を減圧蒸留する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類の香気を有する水性エタノール液体組成物の製造方法であって、
一片又は複数片の柑橘類果皮断片をエタノールと水との混合液に浸漬して浸漬液を得ること、及び当該浸漬液を減圧蒸留することを含み、
原料果皮の厚さ方向に沿って外側から5mm未満の領域にある部分が、当該果皮断片の総量の50%以上を占める、前記方法。
【請求項2】
原料果皮の厚さ方向に沿って外側から3mm以下の領域にある部分が、当該果皮断片の総量の50%以上を占める、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数片の前記果皮断片を用いる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
当該果皮断片の原料となる柑橘類が、オレンジ、うんしゅうみかん、グレープフルーツ、レモン、ライム、柚子、いよかん、なつみかん、はっさく、ポンカン、シイクワシャー、及びかぼすからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
減圧蒸留が5kPa~40kPaの圧力で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
浸漬工程における前記混合液中のエタノール含有量が43~95v/v%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
蒸留温度が30℃~60℃である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記混合液が、ウオツカ、ラム、テキーラ、ジン、アクアビット、コルン、醸造用アルコール、ニュートラルスピリッツ、リキュール類、ウイスキー、ブランデー、及び焼酎からなる群から選択される少なくとも一種の蒸留酒である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法に従って製造された水性エタノール液体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の香気を有する水性エタノール液体組成物の製造方法、及びそれにより得られる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類風味を有する飲料は数多く販売されている。たとえば、缶入りのチューハイ、カクテルなどのようなRTD飲料は、広く受け入れられている。
そのような飲料に関し、果実や果皮等の香気成分を含有する精油やアルコール水溶液を製造する方法が知られている。例えば、特許文献1には、柑橘類又はリンゴの生の果実の皮をアルコールに浸漬し、減圧蒸留することを特徴とする蒸留酒の製造法が記載されている。また、特許文献2には、柑橘類果皮より得たフラベド部を含水アルコール中で破砕した場合に生成する液分を含有するアルコール含有香味液が記載されている。
【0003】
ここで、本明細書において用いられる「アルコール」との用語は、別に定義しない限りエタノールを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4302871号公報
【特許文献2】特開2000-350571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献に記載された蒸留酒やアルコール含有香味液は、芳香や香味の点である程度の効果を達成している。しかしながら、柑橘類風味を有するアルコール飲料については、時代の変化にともない、さらに異なる味を有するものに対するニーズが生じている。
【0006】
本発明の課題は、柑橘類らしい華やかな香りを有する水性エタノール液体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、柑橘類果皮の特定部分を用いて得た浸漬液を減圧蒸留すると、柑橘類らしい華やかな香りを有する水性エタノール液体組成物が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
1.柑橘類の香気を有する水性エタノール液体組成物の製造方法であって、
一片又は複数片の柑橘類果皮断片をエタノールと水との混合液に浸漬して浸漬液を得ること、及び当該浸漬液を減圧蒸留することを含み、
原料果皮の厚さ方向に沿って外側から5mm未満の領域にある部分が、当該果皮断片の総量の50%以上を占める、前記方法。
2.原料果皮の厚さ方向に沿って外側から3mm以下の領域にある部分が、当該果皮断片の総量の50%以上を占める、1に記載の方法。
3.複数片の前記果皮断片を用いる、1または2に記載の方法。
4.当該果皮断片の原料となる柑橘類が、オレンジ、うんしゅうみかん、グレープフルーツ、レモン、ライム、柚子、いよかん、なつみかん、はっさく、ポンカン、シイクワシャー、及びかぼすからなる群から選択される少なくとも一種である、1~3のいずれか一項に記載の方法。
5.減圧蒸留が5kPa~40kPaの圧力で行われる、1~4のいずれか一項に記載の方法。
6.浸漬工程における前記混合液中のエタノール含有量が43~95v/v%である、1~5のいずれか一項に記載の方法。
7.蒸留温度が30℃~60℃である、1~6のいずれか一項に記載の方法。
8.前記混合液が、ウオツカ、ラム、テキーラ、ジン、アクアビット、コルン、醸造用アルコール、ニュートラルスピリッツ、リキュール類、ウイスキー、ブランデー、及び焼酎からなる群から選択される少なくとも一種の蒸留酒である、1~7のいずれか一項に記載の方法。
9.1~8のいずれか一項に記載の方法に従って製造された水性エタノール液体組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、柑橘類らしい華やかな香りを高いレベルで有する水性エタノール液体組成物を製造することができる。
本明細書において、「柑橘類らしい華やかな香り」とは、果汁そのもののみずみずしさとは異なる、果実が本来持つ甘美でふくよかな香りと爽快感を併せ持つ香りを意味し、これは、搾りたての果汁に特有の新鮮な香りとは異なる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明で用いる柑橘類果皮断片に含まれる、原料果皮の厚さ方向に沿って外側から4mm以下の領域にある部分(斜線部)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造方法、及びそれにより得られる水性エタノール液体組成物を、以下に説明する。
(水性エタノール液体組成物)
本発明に関して用いられる「水性エタノール液体組成物」との用語は、水とエタノールをベースとする液体組成物を意味し、これには、例えば、溶液、懸濁液、分散液などが含まれる。
【0012】
本発明により得られる水性エタノール液体組成物は、エタノールと水に加えて、柑橘類の香気成分を含む。
(柑橘類果皮断片)
本発明の製造方法においては、一片又は複数片の柑橘類果皮断片を用いる。
【0013】
当該果皮断片の原料となる柑橘類は、特に限定されない。たとえば、当該柑橘類は、オレンジ、うんしゅうみかん、グレープフルーツ、レモン、ライム、柚子、いよかん、なつみかん、はっさく、ポンカン、シイクワシャー、及びかぼすからなる群から選択される少なくとも一種である。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明では、レモンの果皮断片を用いることが好ましい。
【0014】
当該果皮断片は果皮の一部であり、果皮の他の部分から分離して取り出されたものである。当該果皮断片は、果皮の中でも特定の部分を多く含む。当該特定の部分は、原料果皮の厚さ方向に沿って外側から5mm未満、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下の領域にある部分である。当該特定部分についてのより明確な理解のため、図1に、当該果皮断片の例として、原料果皮の厚さ方向に沿って外側から4mm以下の領域にある部分を示す。本発明においては、当該特定の部分が、当該果皮断片の総量の50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、好ましくは90重量%以上を占める。用いられる果皮断片が一片だけである場合には、例えば、「当該特定の部分が、当該果皮断片の総量の50重量%以上を占める」とは、当該果皮断片自体が、50重量%以上の当該特定の部分を含むことを意味する。また、用いられる果皮断片が複数片である場合には、各断片に含まれる当該部分の割合と、各断片の重量とから、当該断片の総量に対する当該部分の割合を求めることができ、その割合が上記の範囲であることが求められる。より好ましい態様において、当該特定の部分は、当該果皮断片の総量の100重量%を占める、すなわち、当該果皮断片の全てが当該部分である。果皮の他の部分が多く含まれると、柑橘類らしい華やかな香りが害される可能性があるため、好ましくない。
【0015】
果皮断片の形態は特に限定されず、薄片状、粒状、立方体状、千切り状、みじん切り状、ペースト状のようないずれの形態であってもよい。粒状、立方体状、千切り状、みじん切り状、ペースト状のようにサイズを小さくすると、得られる組成物の柑橘類らしい華やかな香りがより強くなる。
【0016】
また、果皮断片の製造方法も限定されない。例えば、果皮を薄切りにして前記部分を切り出す、又は果皮から不要部分を切り取る若しくは削り取ることによって、必要な部分を果皮断片として取り出すことができる。さらに、果皮断片製造前に果皮を冷凍してもよいし、得られた果皮断片を、浸漬工程前に冷凍してもよい。
【0017】
(浸漬工程)
浸漬工程では、複数片の柑橘類果皮断片を、エタノールと水との混合液に浸漬する。最終的にそれらの三つの材料が合わさる限り、それらの材料を加える順番は重要でない。たとえば、エタノールと水を別々に柑橘類果皮断片に加えてもよいし、エタノールと水を混合して混合液を調製してから当該混合液を柑橘類果皮断片に加えてもよいし、エタノール、水、又は当該混合液中に柑橘類果皮断片を加えてもよい。
【0018】
当該混合物は、水とエタノールのみを含有してもよいが、他の成分を含んでいてもよい。そのような混合物は、例えば、スピリッツ(例えば、ウオツカ、ラム、テキーラ、ジン、アクアビット、コルン)、醸造用アルコール、ニュートラルスピリッツ、リキュール類、ウイスキー、ブランデー、及び焼酎からなる群から選択される少なくとも一種の蒸留酒である。好ましい蒸留酒は焼酎である。
【0019】
当該混合物のエタノール含有量、浸漬温度及び浸漬時間等の浸漬条件は、本発明の効果が得られる限り特に限定されない。

当該エタノール含有量は、好ましくは43~95v/v%、より好ましくは46~95%v/v%、更に好ましくは60~95%v/v%、更により好ましくは70~95%v/v%、最も好ましくは80~95v/v%である。浸漬温度は好ましくは10~35℃、より好ましくは18~30℃である。浸漬時間は、8~48時間が好ましく14~24時間がより好ましい。浸漬工程において用いられる前記混合物の容量は、好ましくは柑橘類果皮断片の総重量の2倍~30倍であり、より好ましくは2倍~18倍である。
【0020】
なお、本明細書におけるエタノール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。
浸漬工程において浸漬液を得た後には、蒸留前に浸漬液から柑橘類果皮断片を除去してもよいし、そのまま蒸留してもよい。除去の方法は限定されず、たとえば、濾過、遠心分離等の公知の方法を用いることができる。
【0021】
(減圧蒸留工程)
浸漬工程に続いて、得られた浸漬液を減圧蒸留する。本発明の効果が得られる限り、減圧蒸留の条件は限定されない。
【0022】
蒸留圧力(蒸留器内圧力)は、好ましくは5kPa~40kPaであり、より好ましくは5kPa~15kPaである。蒸留温度は、好ましくは30~60℃であり、より好ましくは30~50℃である。蒸留時間は、蒸留のスケールに応じて適宜調整すればよい。
【0023】
(他の成分及び工程)
本発明における水性エタノール液体組成物には、他にも、本発明の効果を損なわない限り、飲料に通常配合する添加剤、例えば、ビタミン、色素類、酸化防止剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。
【0024】
また、本発明の製造方法は、本発明の効果を損なわない限り、他の工程を含んでもよい。そのような追加的な工程の例は、上記の追加成分を添加する工程である。
(水性エタノール液体組成物の利用)
得られた水性エタノール液体組成物は、そのまま飲料又は食品として用いることもできるし、又は香料などの成分として飲料又は食品に用いることもできる。それらの場合には、必要に応じて液糖、酸味料等の追加成分を添加してもよい。
【0025】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値~上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1~2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例0026】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定される
ものではない。
(試験例1)
レモン果皮(厚さ約6mm)をスライスして、果皮の厚さ方向に沿って外側から4mmまでの部分を切り出したレモン果皮断片Aを1850g調製した。同様のやり方で、レモン果皮の厚さ方向に沿って外側から2mmまでの部分を切り出して、レモン果皮断片Bを1850g調製した。
【0027】
レモン果皮、レモン果皮断片A、レモン果皮断片Bを、別々に、水-エタノール混合液(95v/v%のエタノールを含有するニュートラルスピリッツ:NS)への浸漬工程と蒸留工程(常圧又は減圧)に付して、サンプル飲料(比較例1、比較例3、実施例1~3)を調製した。また、蒸留を行わない点だけ実施例2と異なる条件で比較例2のサンプル飲料を調製した。
【0028】
なお、浸漬は、25℃、16時間で、果皮重量に対して3.4倍容量のエタノール混合液を用いて実施し、蒸留条件は10kPa、32~45℃であった。
訓練されたパネリスト3名により、各サンプル飲料の香気について官能評価を行い、レモンらしい華やかな香りの強さを評価した。評価基準は以下の通りである。この評価基準は、他の試験例でも用いた。
【0029】
5点:レモンらしい華やかな香りを強く感じる
4点:レモンらしい華やかな香りをやや強く感じる
3点:レモンらしい華やかな香りを感じる
2点:レモンらしい華やかな香りをわずかに感じる
1点:レモンらしい華やかな香りを感じない
評価して得られたスコアの平均点を下記の表に示す。なお、評価基準となるサンプルを使用して香りの強さとそれに対応する点数との関係を確認し、全パネラーの点数付けがなるべく共通化するようにしてから評価試験を実施した。
【0030】
【表1】
【0031】
上記の表から明らかな通り、果皮の特定部分を用いて浸漬を行い、続いて減圧蒸留をすると、華やかな香りが強くなった。また、レモン果皮断片の内側部分の量が少ないほどその傾向は強くなった。さらに、蒸留工程の圧力が低いほど高い効果が認められた。
【0032】
(試験例2)
試験例1の実施例2の一部の条件を変更して、その影響を検討した。具体的には、浸漬に用いる水-エタノール混合物を、43v/v%のエタノールを含有する焼酎に変更し、実施例4のサンプル飲料を得た。また、実施例2のレモン果皮断片Bを千切りまたはみじん切りにした後に浸漬工程と蒸留工程を実施して、実施例5と6のサンプル飲料を得た。得られたサンプル飲料について、試験例1と同様の官能評価を実施した。
【0033】
結果を以下に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
千切りやみじん切りにより果皮断片のサイズを低下させても高い効果が認められた。
図1