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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100092
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】滑り支承装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230710BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
F16F15/02 L
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000500
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】林田 佑介
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AC19
2E139AC20
2E139CA01
2E139CA02
2E139CA24
2E139CB00
2E139CC02
3J048AA07
3J048AB08
3J048AC01
3J048BC08
3J048BD01
3J048BE12
3J048BG04
3J048CB21
3J048DA01
3J048EA38
3J048EA39
(57)【要約】
【課題】滑り材の温度変化による摺動性の変化を抑制できる滑り支承装置を提供することを目的とする。
【解決手段】上部構造物100及び下部構造物200におけるそれぞれの対向部分に配設した上沓10及び下沓20で構成され、上沓10及び下沓20との対向部分における摺動面10a,20a同士が摺動する滑り支承装置1において、上沓10に、上沓摺動面10aを構成する合成樹脂製のスライドベアリング34と、スライドベアリング34を保持するベアリングホルダー33とが備えられるとともに、下沓20に、摺動面20aを構成するとともに、スライドベアリング34が摺動するスライドプレート22が備えられ、下沓20に、通電してスライドベアリング34の温度を調整する熱電素子23が備えられた。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造物及び第2構造物におけるそれぞれの対向部分に配設した第1沓及び第2沓で構成され、
前記第1沓及び前記第2沓との対向部分における摺動面同士が摺動する滑り支承装置であって、
前記第1沓に、前記摺動面を構成する合成樹脂製の滑り材と、該滑り材を保持する保持部材とが備えられるとともに、
前記第2沓に、前記摺動面を構成するとともに、前記滑り材が摺動する被摺動材が備えられ、
前記第1沓及び前記第2沓のうち少なくとも一方に、
通電して前記滑り材の温度を調整する温度調整部が備えられた
滑り支承装置。
【請求項2】
前記温度調整部は、前記第2沓に設けられ、
前記被摺動材を介して前記滑り材の温度を調整する
請求項1に記載の滑り支承装置。
【請求項3】
前記第2沓に、
前記被摺動材を支持する支持部材が備えられ、
前記温度調整部は、前記被摺動材と前記支持部材との間に配置された
請求項2に記載の滑り支承装置。
【請求項4】
前記被摺動材を、ステンレス鋼より熱伝導性が高い高熱伝導性鋼材で構成された
請求項2又は請求項3に記載の滑り支承装置。
【請求項5】
前記温度調整部は、複数設けられ、
前記摺動面の中心側より外側の方が、前記温度調整部同士の間隔が広く配置された
請求項2乃至請求項4のうちいずれかに記載の滑り支承装置。
【請求項6】
前記温度調整部に対して、通電する通電回路と、
前記温度調整部に対する通電を制御する制御部が設けられた
請求項1乃至請求項5のうちいずれかに記載の滑り支承装置。
【請求項7】
前記第1沓と前記第2沓との摺動方向の相対移動を検知する移動検知手段が設けられ、
該移動検知手段の検知結果に基づいて、前記制御部が通電する
請求項6に記載の滑り支承装置。
【請求項8】
前記滑り材の温度を検出する温度検出手段が設けられ、
該温度検出手段の検出結果に基づいて、前記制御部が通電する
請求項6又は請求項7に記載の滑り支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、免震機構として構造物の上部構造体と下部構造体の間に配置され、上部構造物を支持する支持構造における滑り支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1に示すように、免震構造物、橋梁、あるいは固定構造物同士を接続する接続部分等の振動や相対変位が生じる構造物において、可動支持する滑り支承装置がある。このような滑り支承装置は、主桁等の被支持構造物と、橋脚等の支持構造物との間に配設され、被支持構造物に固定された上沓と、支持構造物に固定された下沓との境界面、つまり摺動面が摺動することで、境界面における面内方向に変位可能に支持することができる。
【0003】
具体的には、支持構造物の上面に固定された下沓の滑り面と、被支持構造物の底面に固定された滑り面とが摺動する特許文献1に記載された滑り支承装置は、下沓の滑り面がステンレス製の滑り板材で構成され、上沓の滑り面が合成樹脂製の滑り材で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-170829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように構成された滑り支承装置において、ステンレス製の滑り板材上を合成樹脂製の滑り材が摺動するが、滑り板材に対する滑り材の摺動による摩擦熱によって想定範囲を超えて加熱されるおそれがある。また、環境温度によって滑り材が想定範囲を超えて低温化するおそれがある。
【0006】
このように、滑り材と滑り板材とが摩擦熱によって想定範囲を超えて加熱されたり、想定範囲を超えて低温化したりすると、滑り材の摩擦係数が変化し、摺動性が変化することとなる。そのため、滑り支承装置として所望の摺動性が確保できなくなるといった問題があった。
そこで本発明では、滑り材の温度変化による摺動性の変化を抑制できる滑り支承装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、第1構造物及び第2構造物におけるそれぞれの対向部分に配設した第1沓及び第2沓で構成され、前記第1沓及び前記第2沓との対向部分における摺動面同士が摺動する滑り支承装置であって、前記第1沓に、前記摺動面を構成する合成樹脂製の滑り材と、該滑り材を保持する保持部材とが備えられるとともに、前記第2沓に、前記摺動面を構成するとともに、前記滑り材が摺動する被摺動材が備えられ、前記第1沓及び前記第2沓のうち少なくとも一方に、通電して前記滑り材の温度を調整する温度調整部が備えられたことを特徴とする。
【0008】
上記滑り支承装置は、剛滑り支承装置や弾性滑り支承装置等が含まれる。
上記第1構造物及び第2構造物は、例えば、基礎構造を第2構造物とし、柱を第1構造物とする建築物、橋脚を第2構造物とし、主桁を第1構造物とする橋梁、ビルを第2構造物とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を第1構造物とする連絡通路、柱を第2構造物とし、トラス屋根を第1構造物とする屋根構造、あるいは、ビルを第2構造物とし、別のビルを第1構造物とするエキスパンション構造における構造物としてもよい。あるいは、サーバを載置するラックを第2構造物とし、ラックを設置する床板を第1構造物とする構造物であってもよい。
上記第1沓及び第2沓は、第1構造物及び第2構造物を上下方向に配置した場合における下沓と上沓とで構成してもよい。
【0009】
上述の前記滑り材の温度を調整する温度調整部は、滑り材に直接作用して温度調整する構成、滑り材を保持する保持部材を介して滑り材の温度を調整する構成、並びに前記滑り材と摺動する被摺動材を介して滑り材の温度を調整する構成のうち少なくともひとつの構成であってもよい。
【0010】
上述の前記滑り材の温度を調整する温度調整部は、摩擦熱で想定範囲を超えて加熱された滑り材を冷却するペルチェ素子(ベルチェ素子ともいう)などの冷却構造、及び想定範囲を超えて低温化した滑り材を加熱するペルチェ素子や抵抗加熱などの加熱構造の少なくとも一方であってもよい。なお
【0011】
なお、摩擦熱で加熱された滑り材を冷却する構成、及び低温化した滑り材を加熱する構成の両方を備えた前記温度調整部である場合、冷却する前記温度調整部と加熱する前記温度調整部とを別々で設けてもよいし、通電方向によって冷却も加熱もできるペルチェ素子のようにひとつの前記温度調整部で冷却も加熱もできるように構成してもよい。
【0012】
この発明により、温度調整部に通電して前記滑り材の温度を調整し、滑り材の温度変化による摺動性の変化を抑制することができる。
詳しくは、摺動に伴う摩擦熱によって想定範囲を超えて加熱された滑り材を、通電した温度調整部で冷却することで、想定範囲を超えて加熱されたことによる滑り材の摩擦係数の低下を防止することができる。
【0013】
逆に、環境温度等によって想定範囲を超えて低温化した滑り材を、通電した温度調整部で加熱することで、想定範囲を超えて低温化したことによる滑り材の摩擦係数の増大を防止することができる。
なお、滑り材の摩擦係数が増大すると、摺動時において構造物に反作用として作用する負荷が増大するため、構造物の剛性を向上させる必要がある。しかしながら、想定範囲を超えて低温化した滑り材を加熱して滑り材の摩擦係数の増大を防止できるため、構造物の剛性を、摺動時の増加した負荷のために向上させる必要がなくなる。
【0014】
この発明の態様として、前記温度調整部は、前記第2沓に設けられ、前記被摺動材を介して前記滑り材の温度を調整してもよい。
この発明により、他の部材に与える影響を少なく、温度調整部を組み付けることができる。
【0015】
詳述すると、前記滑り材に直接当接するように前記温度調整部を配置すると、前記滑り材に荷重が作用すると、前記滑り材に直接当接するように配置された前記温度調整部の影響が摺動面に及び、摺動面に荷重が均一に作用せず、摩擦係数が変化するおそれがある。これに対し、前記温度調整部を前記第2沓に設けることで、前記温度調整部の影響が前記滑り材の摺動面に及ぶことなく、摺動面の摺動性能を確保することができる。
【0016】
またこの発明の態様として、前記第2沓に、前記被摺動材を支持する支持部材が備えられ、前記温度調整部は、前記被摺動材と前記支持部材との間に配置されてもよい。
この発明により、前記第1沓と前記第2沓との摺動に支障することなく、前記温度調整部を配置し、前記第2沓の前記被摺動材を介して前記滑り材の温度を調整することができる。
【0017】
またこの発明の態様として、前記被摺動材を、ステンレス鋼より熱伝導性が高い高熱伝導性鋼材で構成されてもよい。
上記ステンレス鋼より熱伝導性が高い高熱伝導性鋼材は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅あるいは銅合金などとすることができる。
【0018】
この発明により、前記温度調整部によって、前記滑り材を効率よく温度調整することができる。
詳述すると、前記被摺動材を介して前記滑り材を温度調整するが、高熱伝導性鋼材で構成された前記被摺動材は、従来から用いられているステンレス鋼製の被摺動材より熱伝導性が高いため、温度調整部による温度調整を効率よく行うことができる。
【0019】
またこの発明の態様として、前記温度調整部は、複数設けられ、前記摺動面の中心側より外側の方が、前記温度調整部同士の間隔が広く配置されてもよい。
この発明により、前記第1沓と前記第2沓との摺動に伴う摩擦熱は摺動面の外側より中心側の方が温度上昇しやすいため、前記温度調整部同士の間隔を前記摺動面の中心側より外側の方を広くする、つまり摺動面の中心側に前記温度調整部を密に配置することでより効率よく前記滑り材の温度を調整することができる。
【0020】
またこの発明の態様として、前記温度調整部に対して、通電する通電回路と、前記温度調整部に対して通電制御する制御部が設けられてもよい。
上記通電制御は、通電回路への通電のON/OFF制御、さらには通電方向の制御を指す。
【0021】
この発明により、例えば、前記滑り材の温度調整が必要になると通電して温度調整するなど、常時通電する場合に比べてロスなく前記滑り材の温度調整を行うことができる。また、通電して温度調整する前記温度調整部としてペルチェ素子等の熱電素子を用いる場合、制御部が通電回路への通電方向を制御することで、前記滑り材に対して冷却したり加熱したりを切り替えて温度調整することができる。
【0022】
またこの発明の態様として、前記第1沓と前記第2沓との摺動方向の相対移動を検知する移動検知手段が設けられ、該移動検知手段の検知結果に基づいて、前記制御部が通電してもよい。
この発明により、前記滑り材の温度を効率よく調整することができる。
【0023】
詳述すると、前記第1沓と前記第2沓とが摺動方向に相対移動することで、摺動面が摺動し、摺動に伴う摩擦熱で前記滑り材が想定範囲を超えて加熱されるおそれがある。前記移動検知手段が前記第1沓と前記第2沓との相対移動を検知すると、前記移動検知手段の検知結果に基づいて前記温度調整部で前記滑り材の温度を調整することで、効率のよい温度調整を行うことができる。
【0024】
またこの発明の態様として、前記滑り材の温度を検出する温度検出手段が設けられ、該温度検出手段の検出結果に基づいて、前記制御部が通電してもよい。
上記温度検出手段は、温度計などで温度を検出してもよいし、所定の温度になったことを検出する構成であってもよい。
【0025】
この発明により、前記滑り材の温度を効率よく調整することができる。
詳述すると、所定の温度範囲内の前記滑り材は想定内の摩擦係数を発揮することができるが、所定の温度範囲を越えると、想定範囲を越える摩擦係数となる。そのため、前記滑り材の温度が所定の温度範囲内であれば前記温度調整部で温度調整する必要がない。そこで、前記温度検出手段で、前記滑り材の温度が所定の温度範囲を越えることを検出する、あるいは温度範囲に閾値に近接する温度になったことを検出することで、効率のよい温度調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、滑り材の温度変化による摺動性の変化を抑制できる滑り支承装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】滑り支承装置の説明図。
図2】滑り支承装置の説明図。
図3】滑り支承装置の分解斜視図。
図4】下沓の平面図。
図5】通電回路の説明図。
図6】別の実施形態の下沓の平面図による説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1及び図2は滑り支承装置1の説明図を示し、図3は滑り支承装置1の分解斜視図を示している。
【0029】
詳しくは、図1(a)は滑り支承装置1の正面図を示し、図1(b)は滑り支承装置1の縦断面図を示している。図2(a)は滑り支承装置1の上方からの斜視図を示し、図2(b)は滑り支承装置1の下方からの斜視図を示している。なお、図2(b)において下沓20を透過状態で図示している。また、図1乃至図3における上下方向を上下方向Hとしている。
【0030】
滑り支承装置1は、上部構造物100と下部構造物200との間に配設されて免震構造を構成する免震装置であり、上部構造物100に固定された上沓10と、下部構造物200に固定された下沓20とで構成され、上沓10と下沓20の境界面、つまり摺動面(10a,20a)が摺動することで、境界面(摺動面)における面内方向に変位可能に支持し、例えば、地震や強い風等による振動エネルギを吸収することで免震化することができる。
【0031】
詳しくは、滑り支承装置1は、図1に示すように、上部構造物100の底面101に固定された上沓10と、下部構造物200の上面201に固定された下沓20とで構成している。
詳しくは、下沓20は、下部構造物200の上面201に固定されたソールプレート21と、ソールプレート21に装着されたスライドプレート22と、温度調整部として機能する熱電素子23で構成している。下沓20において、スライドプレート22の上面で、後述する上沓10の上沓摺動面10aと摺動する下沓摺動面20aを構成している。
【0032】
なお、ソールプレート21は、下部構造物200の上面201に固定され、スライドプレート22を支持する平面視正方形状の板材であり、バックプレートやベースプレート等と呼ばれることもある。
スライドプレート22は、ソールプレート21の上面に配置された平面視八角形状の板材であり、ステンレス板より熱伝導性の高いアルミニウム合金製の板材で構成している。
なお、ソールプレート21及びスライドプレート22の形状は、上述の形状に限定されず、例えば長方形や円形など適宜の形状で形成されてもよい。
【0033】
熱電素子23は、図5に示す通電回路300から直流電流が導通することで温度変化するペルチェ素子で構成している。詳しくは、熱電素子23は、板状に形成され、直流電流が導通すること、一方側の面が加熱され、他方側の面が冷却される。
熱電素子23は、図4に示すように、ソールプレート21の上面とスライドプレート22の底面との間で、スライドプレート22が配置される範囲において、相互に所定間隔を隔てて格子状に配置されている。
【0034】
上沓10は、上部構造物100の底面101に固定される鋼製のベースポット11と、ベースポット11の底面側中央の装着凹部113に配置した平面視円形状の摺動部30とで構成している。
ベースポット11は、平面視円形の台座部111と、台座部111の下面側に配置され、台座部111より小径である円形状の小径部112とで構成されている。なお、小径部112の底面側において、下方が開口された円筒状空間である装着凹部113を設けている。
【0035】
ベースポット11の装着凹部113に装着される摺動部30は、図2に示すように、弾性プレート31及び組付ベアリング32とを備えている。
なお、摺動部30において、弾性プレート31と組付ベアリング32との間にシムやシールリングを設けてもよい。また、弾性プレート31を備えなくてもよい。
【0036】
弾性プレート31は、平面視円形のゴム製のプレートである。
弾性プレート31は上述するように、組付ベアリング32におけるベアリングホルダー33の上部とともに、台座部111の装着凹部113に収容され、装着凹部113よりわずかに小径な円盤状に形成されている。
【0037】
組付ベアリング32は、装着凹部113に収容されるとともに上沓摺動面10aを構成するものであり、後述するベアリングホルダー33とスライドベアリング34を組み付けて構成している。
【0038】
ベアリングホルダー33は、ステンレス製の略円柱形状であり、弾性プレート31と同径に形成している。
ベアリングホルダー33は、上述したように、弾性プレート31とともにベースポット11の装着凹部113に装着されるが、装着凹部113の深さより高く形成している。
【0039】
また、ベアリングホルダー33は、スライドベアリング34を装着して保持する装着凹部331を底面側に設けている。
装着凹部331は、スライドベアリング34の厚みより浅く、下方が開口された円筒状空間である。なお、ベアリングホルダー33は装着凹部331を備えず、ベアリングホルダー33の底面にスライドベアリング34を貼付して組付ベアリング32を構成してもよい。
【0040】
スライドベアリング34は、自己潤滑性を有するとともに、表面が低摩擦係数のPTFE製の平面視円形の板状体であり、底面341(図2(b),図3参照)が、下沓20のスライドプレート22の表面である下沓摺動面20aと摺動する上沓摺動面10aを構成している。
【0041】
なお、スライドベアリング34は平面視円形に限定されず、八角形などの適宜の形状で形成されてもよい。また、スライドベアリング34は、PTFE製でなくても、表面が低摩擦係数であれば、例えば、ポリアミド樹脂などの適宜の素材で構成してもよい。
【0042】
なお、スライドベアリング34は、ベアリングホルダー33の装着凹部331に装着された際に装着凹部331より下方に突出する高さで形成された円盤状に形成している。
上述のように構成したベアリングホルダー33とスライドベアリング34とは、装着凹部331に収容したスライドベアリング34の上面と接着して固定し、組付ベアリング32を構成している。
【0043】
各要素が上述のように構成された滑り支承装置1は、ベアリングホルダー33の装着凹部331にスライドベアリング34を配置して接着固定するとともに、ベアリングホルダー33の上面に弾性プレート31を配置し、ベースポット11の装着凹部113に配置して上沓10を組み付ける。
また、ソールプレート21の上面に熱電素子23を適宜配置し,その上からスライドプレート22を装着して下沓20を組み付ける。
【0044】
このように構成された上沓10のベースポット11の台座部111を上部構造物100の底面101に固定して上沓10を上部構造物100に配置し、下沓20のソールプレート21を下部構造物200の上面201に固定して下沓20を下部構造物200に配置する。これにより、上部構造物100に設けた上沓10の上沓摺動面10aと、下部構造物200に設けた下沓20の下沓摺動面20aとが摺動可能に構成された滑り支承装置1を組み付けることができる。
滑り支承装置1は、摩擦係数が例えば0.09程度の高摩擦支承装置となる。
【0045】
このようにして滑り支承装置1に組み付けられた熱電素子23は、図5(a)に示すように、通電回路300が接続されている。
通電回路300は、電源部301と、熱電素子23への通電を制御する制御部302を備えている。
【0046】
電源部301は、熱電素子23に対して直流電流を通電するための電源であり、バッテリーなどで構成することができる。
なお、電源部301が交流電流である場合、AC-DCコンバータ(図示省略)等を設けるとよい。
【0047】
制御部302は、電源部301から供給された電気を熱電素子23に通電するかどうかを、つまりON/OFFを制御するだけでなく、熱電素子23の通電する電流の通電方向も制御するように構成している。
【0048】
通電回路300が接続された熱電素子23は、制御部302の制御によって温度変化する。詳しくは、板状に形成された熱電素子23は、制御部302の制御によって所定の導通方向(以下において加熱方向という)に直流電流が導通すると、スライドプレート22側の面が加熱されることとなる。
逆に、熱電素子23は、制御部302の制御によって所定の導通方向と逆方向の導通方向(以下において冷却方向という)に直流電流が導通すると、スライドプレート22側の面が冷却されることとなる。
【0049】
このように構成された滑り支承装置1は、例えば、地震動等の振動が入力されると、上部構造物100と下部構造物200とが水平方向に相対移動することとなる。
上部構造物100と下部構造物200とが水平方向に相対移動すると、下沓20の下沓摺動面20aと上沓10の上沓摺動面10aが摺動する。下沓20の下沓摺動面20aと上沓10の上沓摺動面10aとが摺動すると、上沓摺動面10aと下沓摺動面20aとの摺動に伴う摩擦熱によって、上沓摺動面10aを構成するスライドベアリング34と下沓摺動面20aを構成するスライドプレート22とが加熱される。スライドベアリング34が想定範囲を超えて加熱されると、スライドベアリング34の摩擦係数として想定された摩擦係数より低下することとなり、想定された滑り支承装置1の摺動性能が変化することとなる。
【0050】
そこで、通電回路300の制御部302で制御して、熱電素子23のスライドプレート22側の面が冷却される冷却方向に、電源部301から直流電流を通電する。このように、制御部302の制御によって、冷却方向の直流電流が熱電素子23に通電されると、熱電素子23のスライドプレート22側の面が冷却され、摺動に伴う摩擦熱によって想定範囲を超えて加熱されたスライドプレート22を冷却することができる。
【0051】
熱電素子23によってスライドプレート22が冷却されると、スライドプレート22と摺動するスライドベアリング34は、スライドプレート22を介して想定範囲内まで冷却され、スライドベアリング34が想定された摩擦係数となり、想定された滑り支承装置1の摺動性能を維持することができる。
【0052】
逆に、環境温度等によってスライドベアリング34の温度が想定範囲を超えて低下すると、スライドベアリング34の摩擦係数として想定された摩擦係数より増大することとなり、想定された滑り支承装置1の摺動性能が変化することとなる。
【0053】
そこで、通電回路300の制御部302で制御して、熱電素子23のスライドプレート22側の面が加熱される加熱方向に、電源部301から直流電流を通電する。このように、制御部302の制御によって、加熱方向の直流電流が熱電素子23に通電されると、熱電素子23のスライドプレート22側の面が加熱され、環境温度によって想定範囲を超えて冷却されたスライドプレート22を加熱することができる。
【0054】
熱電素子23によってスライドプレート22が加熱されると、スライドプレート22と摺動するスライドベアリング34は、スライドプレート22を介して想定範囲内まで加熱され、スライドベアリング34が想定された摩擦係数となり、想定された滑り支承装置1の摺動性能を維持することができる。
【0055】
上述のように、上部構造物100及び下部構造物200におけるそれぞれの対向部分に配設した上沓10及び下沓20で構成され、上沓10及び下沓20との対向部分における摺動面10a,20a同士が摺動する滑り支承装置1は、上沓10に、摺動面10aを構成する合成樹脂製のスライドベアリング34と、スライドベアリング34を保持するベアリングホルダー33とが備えられ、下沓20に、摺動面20aを構成するとともに、スライドベアリング34が摺動するスライドプレート22が備えられている。さらに、滑り支承装置1は、下沓20に、通電してスライドベアリング34の温度を調整する熱電素子23が備えられている。そのため、滑り支承装置1は、熱電素子23に通電してスライドベアリング34の温度を調整し、スライドベアリング34の温度変化による摺動性の変化を抑制することができる。
【0056】
詳しくは、摺動に伴う摩擦熱によって想定範囲を超えて加熱されたスライドベアリング34を、通電した熱電素子23で冷却することで、想定範囲を超えて加熱されたことによるスライドベアリング34の摩擦係数の低下を防止することができる。
【0057】
逆に、環境温度等によって想定範囲を超えて低温化したスライドベアリング34を、通電した熱電素子23で加熱することで、想定範囲を超えて低温化したことによるスライドベアリング34の摩擦係数の増大を防止することができる。
なお、スライドベアリング34の摩擦係数が増大すると、摺動時において構造物に反作用として作用する負荷が増大するため、構造物の剛性を向上させる必要がある。しかしながら、想定範囲を超えて低温化したスライドベアリング34を想定範囲内まで加熱してスライドベアリング34の摩擦係数の増大を防止できるため、構造物の剛性を、摺動時の増加した負荷のために挙げる必要がなくなる。
【0058】
また、熱電素子23は、下沓20に設けられ、スライドプレート22を介してスライドベアリング34の温度を調整しているため、他の部材に与える影響を少なく、熱電素子23を組み付けることができる。
【0059】
詳述すると、スライドベアリング34に直接当接するように熱電素子23を配置すると、スライドベアリング34に荷重が作用すると、スライドベアリング34に直接当接するように配置された熱電素子23の影響が上沓摺動面10aに及び、上沓摺動面10aに荷重が均一に作用せず、摩擦係数が変化するおそれがある。
これに対し、熱電素子23を下沓20に設けることで、熱電素子23の影響がスライドベアリング34の上沓摺動面10aに及ぶことなく、上沓摺動面10aの摺動性能を確保することができる。
【0060】
また、下沓20に、スライドプレート22を支持するソールプレート21が備えられ、熱電素子23は、スライドプレート22とソールプレート21との間に配置されている。そのため、上沓10と下沓20との摺動に支障することなく、熱電素子23を配置し、下沓20のスライドプレート22を介してスライドベアリング34の温度を調整することができる。
【0061】
また、スライドプレート22を、ステンレス鋼より熱伝導性が高い高熱伝導性鋼材で構成されているため、熱電素子23によって、スライドベアリング34を効率よく温度調整することができる。
詳述すると、スライドプレート22を介してスライドベアリング34を温度調整するが、高熱伝導性鋼材で構成されたスライドプレート22は、従来から用いられているステンレス鋼製のスライドプレートより熱伝導性が高いため、熱電素子23による温度調整を効率よく行うことができる。
【0062】
また、熱電素子23に対して、通電する通電回路300と、熱電素子23に対して通電制御する制御部302が設けられているため、例えば、スライドベアリング34の温度調整が必要になると通電して温度調整するなど、常時通電する場合に比べてロスなくスライドベアリング34の温度調整を行うことができる。
【0063】
また、通電して温度調整する熱電素子23としてペルチェ素子を用いる場合、制御部302が通電回路300への通電方向(加熱方向、冷却方向)を制御することで、スライドベアリング34に対して冷却したり加熱したりを切り替えて温度調整することができる。
【0064】
なお、上述の説明では、熱電素子23に接続される通電回路300に電源部301と制御部302を備えていたが、電源部301及び制御部302以外に、図5(b)に示すように、センサー303を備えてもよい。
【0065】
具体的には、センサー303として、下部構造物200或いは下沓20に対する上部構造物100或いは上沓10の相対移動を検知する移動検知センサーを備えてもよい。
移動検知センサーで構成するセンサー303が、下部構造物200或いは下沓20に対する上部構造物100或いは上沓10の相対移動を検知すると、制御部302の制御によって熱電素子23に冷却方向の直流電流を通電し、摺動に伴う摩擦熱によって想定範囲を超えて加熱されるスライドベアリング34を、スライドプレート22を介して冷却し、スライドベアリング34の温度上昇を抑制することができる。
【0066】
上述したように、上沓10と下沓20との摺動方向の相対移動を検知する移動検知センサーで構成するセンサー303が設けられ、センサー303の検知結果に基づいて、制御部302が熱電素子23に通電することで、スライドベアリング34の温度を効率よく調整することができる。
【0067】
詳述すると、上沓10と下沓20とが摺動方向に相対移動し、移動検知センサーで構成するセンサー303が上沓10と下沓20との相対移動を検知すると、摺動面10a,20aが摺動し、摺動に伴う摩擦熱でスライドベアリング34が想定範囲を超えて加熱されるおそれがある。これに対して、センサー303の検知結果に基づいて熱電素子23でスライドベアリング34の温度を調整することで、効率のよい温度調整を行うことができる。
【0068】
また、センサー303として、スライドベアリング34の温度を検出する温度センサーを備えてもよい。
温度センサーで構成するセンサー303が、閾値温度より低下することを検出すると、制御部302の制御によって熱電素子23に加熱方向の直流電流を通電し、環境温度によって想定範囲を超えて冷却されるスライドベアリング34を、スライドプレート22を介して加熱し、スライドベアリング34の温度低下を抑制することができる。
【0069】
また、温度センサーで構成するセンサー303が、上沓10と下沓20との摺動に伴う摩擦によって加熱されたスライドベアリング34の温度を検出し、制御部302の制御によって熱電素子23に冷却方向の直流電流を通電し、摺動に伴う摩擦熱によって想定範囲を超えて加熱されるスライドベアリング34を、スライドプレート22を介して冷却し、スライドベアリング34の温度上昇を抑制してもよい。
【0070】
上述したように、スライドベアリング34の温度を検出する温度センサーで構成するセンサー303が設けられ、センサー303の検出結果に基づいて、制御部302が通電することで、スライドベアリング34の温度を効率よく調整することができる。
【0071】
詳述すると、所定の温度範囲内のスライドベアリング34は想定内の摩擦係数を発揮することができるが、所定の温度範囲を越えると、想定範囲を越える摩擦係数となる。そのため、スライドベアリング34の温度が所定の温度範囲内であれば熱電素子23で温度調整する必要がなく、温度センサーで構成するセンサー303で、スライドベアリング34の温度が所定の温度範囲を越えることを検出する、あるいは温度範囲に閾値に近接する温度になったことを検出することで、効率のよい温度調整を行うことができる。
【0072】
また、上述の説明では、図4に示すように、ソールプレート21とスライドプレート22との間に熱電素子23を格子状に配置したが、図6に示すように、様々な態様で配置してもよい。
例えば、図6(a)に示すように、スライドプレート22の平面視中心を中心とした複数の同心円に沿って熱電素子23を配置してもよい。このとき、平面視中心側の熱電素子23同士の間隔より、径外側の熱電素子23同士の間隔が広くなるように設定して配置している。
【0073】
また、図6(b)に示すように、平面視において径外側から中心に向かう螺旋状に沿って熱電素子23を配置してもよい。このように螺旋状に沿って熱電素子23を等間隔で配置することで、平面視中心側の熱電素子23同士の間隔より、径外側の熱電素子23同士の間隔が広くなるように配置される。
【0074】
上述のように、上沓10と下沓20との摺動に伴う摩擦熱は摺動面10a,20aの外側より中心側の方が温度上昇しやすいが、熱電素子23同士の間隔を摺動面10a,20aの中心側より外側の方を広くする、つまり摺動面10a,20aの中心側に熱電素子23を密に配置することでより効率よくスライドベアリング34の温度を調整することができる。
【0075】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、本発明の第1構造物は上部構造物100に対応し、
以下同様に、
第2構造物は下部構造物200に対応し、
第1沓は上沓10に対応し、
第2沓は下沓20に対応し、
摺動面は摺動面10a,20aに対応し、
滑り支承装置は滑り支承装置1に対応し、
滑り材はスライドベアリング34に対応し、
保持部材はベアリングホルダー33に対応し、
被摺動材はスライドプレート22に対応し、
温度調整部は熱電素子23に対応し、
支持部材はソールプレート21に対応し、
通電回路は通電回路300に対応し、
制御部は制御部302に対応し、
移動検知手段は移動検知センサーで構成するセンサー303に対応し、
温度検出手段は温度センサーで構成するセンサー303に対応するも、上記実施形態に限定するものではない。
【0076】
例えば、上述の説明において、下部構造物200及び上部構造物100の間に滑り支承装置1を配置したが、例えば、基礎構造を下部構造物200とし、柱を上部構造物100とする建築物、橋脚を下部構造物200とし、主桁を上部構造物100とする橋梁、ビルを下部構造物200とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物100とする連絡通路、柱を下部構造物200とし、トラス屋根を上部構造物100とする屋根構造、あるいは、ビルを下部構造物200とし、別のビルを上部構造物100とするエキスパンション構造に滑り支承装置1に配置してもよい。あるいは、サーバを載置するラックを下部構造物200とし、ラックを設置する床板を上部構造物100とする構造物に滑り支承装置1に配置してもよい。
【0077】
上述の説明では、ソールプレート21とスライドプレート22との間に熱電素子23を配置し、スライドプレート22を介してスライドベアリング34の温度を調整したが、上沓10に熱電素子を設けてもよい。具体的には、熱電素子でスライドベアリング34に直接作用して温度調整してもよいし、スライドベアリング34を保持するベアリングホルダー33に熱電素子を設け、ベアリングホルダー33を介してスライドベアリング34の温度を調整してもよい。
【0078】
また、スライドプレート22を介してスライドベアリング34の温度調整する熱電素子23と、上沓10に設けた熱電素子との両方でスライドベアリング34の温度を調整するように構成してもよい。
【0079】
また、熱電素子23として上述の説明ではペルチェ素子を設けたが、通電による抵抗加熱などの加熱要素で熱電素子を構成してもよい。
また、上述の説明では、制御部302で通電回路300による通電方向を、加熱方向と冷却方向とに切り替えて熱電素子23で加熱したり冷却したりしたが、スライドベアリング34を冷却する構成、及び想定範囲を超えて低温化したスライドベアリング34を加熱する構成を別々に備えてもよい。
【0080】
上述のソールプレート21は、従来の被摺動材を構成するステンレス鋼より熱伝導性が高い銅合金製の高熱伝導性鋼材で構成したが、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、或いは銅製の板材で構成してもよい。さらには、上述したような効果は低下するものの、従来から用いられているステンレス鋼製の被摺動材を用いてもよい。
【0081】
なお、上述の滑り支承装置1は、高摩擦支承装置であったが、摩擦係数が高摩擦支承装置より低い低摩擦支承装置であってもよく、摩擦係数が例えば0.01程度である低摩擦支承装置であっても上述の滑り支承装置1と同様の効果を奏することができる。
【0082】
また、上述の滑り支承装置1は、剛滑り支承装置であったが、上沓10に積層ゴム部が設けられた弾性滑り支承装置であってもよく、弾性滑り支承装置であっても上述の滑り支承装置1と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0083】
1…滑り支承装置
10…上沓
10a…上沓摺動面
20…下沓
20a…下沓摺動面
21…ソールプレート
22…スライドプレート
23…熱電素子
33…ベアリングホルダー
34…スライドベアリング
100…上部構造物
200…下部構造物
300…通電回路
302…制御部
303…センサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6