(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100123
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】鉄道車両の監視方法及び監視装置
(51)【国際特許分類】
B61L 23/14 20060101AFI20230710BHJP
B61K 13/00 20060101ALI20230710BHJP
G01M 17/08 20060101ALI20230710BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20230710BHJP
G16Y 40/10 20200101ALI20230710BHJP
G16Y 40/30 20200101ALI20230710BHJP
【FI】
B61L23/14 Z
B61K13/00 Z
G01M17/08
G16Y10/40
G16Y40/10
G16Y40/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000567
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】成田 顕次
(72)【発明者】
【氏名】徳永 宗正
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB02
5H161BB06
5H161BB20
5H161CC02
5H161CC05
5H161DD21
5H161EE04
5H161EE07
5H161FF01
5H161FF07
(57)【要約】
【課題】地震が発生した際に鉄道車両が脱線するのを抑制する。
【解決手段】鉄道車両の監視装置20であって、地震情報と、鉄道車両の現在位置及び現在速度とに基づいて、地震到達時の鉄道車両の予想位置及び予想速度を算出する予想部233と、鉄道車両の走行区間を分割した分割区間について、分割区間毎に記憶された構造物情報及び地震情報に基づいて、当該分割区間に鉄道車両が予想速度で位置したときに脱線が発生するか否か判定する判定部234と、予想位置を含む分割区間で脱線が発生すると判定される場合であって、予想位置を含む分割区間の周囲の分割区間について、当該分割区間で脱線が発生しないと判定される場合、地震到達時に、上記周囲の分割区間に鉄道車両が位置するよう、鉄道車両の走行を制御する走行制御装置10に指示を出力する出力部235と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の監視方法であって
地震情報を受信する受信工程と、
鉄道車両の現在位置及び現在速度を取得する取得工程と、
前記地震情報に含まれる震源の位置及び地震の進行速度と、鉄道車両の前記現在位置及び前記現在速度と、に基づいて、前記地震が到達する時点での鉄道車両の予想位置及び予想速度を算出する予想工程と、
鉄道車両の走行区間を分割した分割区間について、前記分割区間毎に記憶された構造物情報及び前記地震情報に含まれる地震の強度に基づいて、当該分割区間に鉄道車両が前記予想速度で位置するときに前記地震により脱線が発生するか否か判定する判定工程と、
前記予想位置を含む前記分割区間で脱線が発生すると判定される場合であって、前記予想位置を含む前記分割区間の周囲の前記分割区間について、当該分割区間で脱線が発生しないと判定される場合、前記地震が到達する時点で、前記周囲の前記分割区間に鉄道車両が位置するよう、鉄道車両の走行を制御する走行制御装置に指示を出力する出力工程と、を含む、ことを特徴とする鉄道車両の監視方法。
【請求項2】
前記周囲の前記分割区間は、前記予想位置を含む前記分割区間からの距離が、前記現在速度と所定の減速度に基づいて算出される値以下である、請求項1に記載の鉄道車両の監視方法。
【請求項3】
前記判定工程は、前記分割区間に鉄道車両が前記予想速度で位置するときに前記地震により脱線が発生するか否かの判定の際、当該分割区間に対応付けて記憶された構造物情報及び前記地震の強度から算出された脱線にかかる評価値を算出し、当該評価値に基づいて前記判定を行う、請求項1または2に記載の鉄道車両の監視方法。
【請求項4】
前記受信工程で前記地震情報を取得した際、前記判定工程は、前記予想位置を含む前記分割区間とその周囲の分割区間それぞれについて、前記評価値を算出し、
前記出力工程は、前記評価値が最も低い前記分割区間に鉄道車両が位置するよう、鉄道車両の制御部に指示を出力する、請求項3に記載の鉄道車両の監視方法。
【請求項5】
鉄道車両の監視装置であって
地震情報を受信する受信部と、
鉄道車両の現在位置及び現在速度を取得する取得部と、
前記地震情報に含まれる震源の位置及び地震の進行速度と、鉄道車両の前記現在位置及び前記現在速度と、に基づいて、前記地震が到達する時点での鉄道車両の予想位置及び予想速度を算出する予想部と、
鉄道車両の走行区間を分割した分割区間について、前記分割区間毎に記憶された構造物情報及び前記地震情報に含まれる地震の強度に基づいて、当該分割区間に鉄道車両が前記予想速度で位置するときに前記地震により脱線が発生するか否か判定する判定部と、
前記予想位置を含む前記分割区間で脱線が発生すると判定される場合であって、前記予想位置を含む前記分割区間の周囲の前記分割区間について、当該分割区間で脱線が発生しないと判定される場合、前記地震が到達する時点で、前記周囲の前記分割区間に鉄道車両が位置するよう、鉄道車両の走行を制御する走行制御装置に指示を出力する出力部と、を含む、ことを特徴とする鉄道車両の監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震が発生した際の鉄道車両の監視方法及び監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震が発生した際、鉄道車両の脱線が生じる場合がある。従来、脱線を抑制するため、大きな地震が発生したことを示す地震情報を受信した場合は鉄道車両を停止させるシステムが採用されている。
【0003】
特許文献1には、地震時の列車走行性の評価値を算定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、鉄道車両を停止させても、停止した鉄道車両が位置する構造物によっては、脱線することがある。例えば、橋りょうや盛り土ではトンネルに比べて脱線が生じやすいため、地震発生時に鉄道車両を橋りょう上や盛り土上に停止させても脱線することがある。
特許文献1はこの点に関し開示するものではない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、地震が発生した際に鉄道車両が脱線するのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、鉄道車両の監視方法であって、地震情報を受信する受信工程と、鉄道車両の現在位置及び現在速度を取得する取得工程と、
前記地震情報に含まれる震源の位置及び地震の進行速度と、鉄道車両の前記現在位置及び前記現在速度と、に基づいて、前記地震が到達する時点での鉄道車両の予想位置及び予想速度を算出する位置予想工程と、鉄道車両の走行区間を分割した分割区間について、前記分割区間毎に記憶された構造物情報及び前記地震情報に含まれる地震の強度に基づいて、当該分割区間に鉄道車両が前記予想速度で位置するときに前記地震により脱線が発生するか否か判定する判定工程と、前記予想位置を含む前記分割区間で脱線が発生すると判定される場合であって、前記予想位置を含む前記分割区間の周囲の前記分割区間について、当該分割区間で脱線が発生しないと判定される場合、前記地震が到達する時点で、前記周囲の前記分割区間に鉄道車両が位置するよう、鉄道車両の走行を制御する走行制御装置に指示を出力する出力工程と、を含む、ことを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、地震が発生した際に、地震到達時の鉄道車両の位置を、当該地震では脱線しないと推定される分割区間内にすることができる。そのため、地震が発生した際に鉄道車両が脱線するのを抑制することができる。
【0009】
前記周囲の前記分割区間は、前記予想位置を含む前記分割区間からの距離が、前記現在速度と所定の減速度に基づいて算出される値以下であってもよい。
【0010】
前記判定工程は、前記分割区間に鉄道車両が前記予想速度で位置するときに前記地震により脱線が発生するか否かの判定の際、当該分割区間に対応付けて記憶された構造物情報及び前記地震の強度から算出された脱線にかかる評価値を算出し、当該評価値に基づいて前記判定を行うってもよい。
【0011】
前記受信工程で前記地震情報を取得した際、前記判定工程は、前記予想位置を含む前記分割区間とその周囲の分割区間それぞれについて、前記評価値を算出し、
前記出力工程は、前記評価値が最も低い前記分割区間に鉄道車両が位置するよう、鉄道車両の制御部に指示を出力してもよい。
【0012】
別な観点による本発明は、鉄道車両の監視装置であって、地震情報を受信する受信部と、鉄道車両の現在位置及び現在速度を取得する取得部と、前記地震情報に含まれる震源の位置及び地震の進行速度と、鉄道車両の前記現在位置及び前記現在速度と、に基づいて、前記地震が到達する時点での鉄道車両の予想位置及び予想速度を算出する予想部と、鉄道車両の走行区間を分割した分割区間について、前記分割区間毎に記憶された構造物情報及び前記地震情報に含まれる地震の強度に基づいて、当該分割区間に鉄道車両が前記予想速度で位置するときに前記地震により脱線が発生するか否か判定する判定部と、前記予想位置を含む前記分割区間で脱線が発生すると判定される場合であって、前記予想位置を含む前記分割区間の周囲の前記分割区間について、当該分割区間で脱線が発生しないと判定される場合、前記地震が到達する時点で、前記周囲の前記分割区間に鉄道車両が位置するよう、鉄道車両の走行を制御する走行制御装置に指示を出力する出力部と、を含む、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地震が発生した際に鉄道車両が脱線するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態にかかる監視装置を備える監視システムの構成例を示す図である。
【
図2】走行制御装置及び監視装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】構造物天端となる床面の最大加速度αr等の算出方法の一例を説明するための概念図である。
【
図6】監視装置における地震発生時の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
<監視システム>
図1は、本発明の実施形態にかかる監視装置を備える監視システムの構成例を示す図である。
図1の監視システム1は、走行制御装置10と監視装置20とを備える。走行制御装置10と監視装置20とは、ネットワークNを介して通信可能に接続されている。
【0017】
走行制御装置10は、橋りょうC1やトンネルC2、盛り土C3等の構造物に対し設けられたレールR上を走行する鉄道車両としての新幹線車両500に設けられ、当該新幹線車両500の走行を制御する。また、走行制御装置10は、GNSS(Global Navigation Satellites System)衛星600からのGNSS信号(例えばGPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号)を受信して、新幹線車両500の現在位置を測定する。
【0018】
監視装置20は、新幹線車両500を監視する。この監視装置20は、ネットワークNを介して地震情報を受信する。地震情報は、気象庁や地震情報配信事業者から配信される。
【0019】
<走行制御装置10及び監視装置20>
続いて、走行制御装置10及び監視装置20の構成について、
図2~
図4を用いて説明する。
図2は、走行制御装置10及び監視装置20の構成例を示すブロック図である。
図3は、後述の構造物情報テーブルの一例を示す図である。
図4は、後述の評価値の算出方法を示すための図である。
図5は、後述の、構造物天端となる床面Yの最大加速度α
r等の算出方法の一例を説明するための概念図である。
【0020】
走行制御装置10は、
図2に示すように、通信インターフェース(I/F)101と、速度測定部としての速度センサ102と、制御部103と、を有する。
【0021】
通信I/F101は、LAN(Local Area Network)等の通信回線を用い、ネットワークNを介して、監視装置20との間で通信する。
また、通信I/F101は、GNSS衛星600からGNSS信号すなわち測位信号を受信する。
【0022】
速度センサ102は、走行制御装置10が設けられた新幹線車両500の現在速度を測定する。
【0023】
制御部103は、CPU等のプロセッサやメモリを備えたコンピュータを含み、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、新幹線車両500の加減速のための駆動系の動作を制御して、新幹線車両500の走行を実現させるためのプログラムが格納されている。上記プログラムは、コンピュータに読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記録されていたものであって、当該記憶媒体から制御部103のメモリに読み込まれるものであってもよい。また、上記プログラムは、インターネット等の通信回線網を介してダウンロード後、上記記憶媒体等に格納することができる。
【0024】
制御部103は、CPU等のプロセッサがプログラム格納部(図示せず)等に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現される、位置特定部131と、出力部132と、走行制御部133と、を有する。
【0025】
位置特定部131は、新幹線車両500の現在位置を特定する。具体的には、位置特定部131は、通信I/F101を介して、GNSS衛星600から受信したGNSS信号に基づいて、新幹線車両500の現在位置を特定する。
【0026】
出力部132は、速度センサ102で測定された新幹線車両500の現在速度及び位置特定部131で特定された新幹線車両500の現在位置を、通信I/F101を介して、監視装置20に出力する。すなわち、出力部132は、新幹線車両500の位置及び速度をリアルタイムで監視装置20に出力する。
【0027】
走行制御部133は、監視装置20の後述の出力部235から出力された指示に基づいて新幹線車両500の駆動系を制御して、当該新幹線車両500の走行を制御する。
【0028】
監視装置20は、通信I/F201と、記憶部202と、制御部203と、を有する。
【0029】
通信I/F201は、LAN等の通信回線を用い、ネットワークNを介して、監視装置20との間で通信する。
また、通信I/F201は、ネットワークNを介して、地震情報を受信する。
【0030】
記憶部202は、各種情報を記憶するものであり、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはこれらの組み合わせを含む。
記憶部202は、新幹線車両500の走行区間P(
図1参照)を分割した分割区間Pd毎に、当該分割区間Pdの構造物情報を記憶している。走行区間Pは、例えば鉄道路の始点から終点までの区間である。分割区間Pdの構造物情報とは、当該分割区間Pdが位置する構造物の情報であり、特に、地震により作用する加速度により構造物に生じる歪みに関する情報である。
記憶部202は、より具体的には、例えば、分割区間Pd毎に、以下の情報が対応付けて登録された
図3の構造物情報テーブルTを記憶している。
・当該分割区間Pdの位置
・当該分割区間Pdの構造物情報としての降伏震度及び等価固有周期
【0031】
なお、1つの分割区間Pdの長さは、分割区間Pd間で共通であっても共通でなくてもよく、例えば、10m~100mである。
【0032】
さらに、記憶部202には、新幹線車両500の監視処理を実現させるためのプログラムが格納されている。上記プログラムは、コンピュータに読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記録されていたものであって、当該プログラムの実行時に、上記記憶媒体から記憶部202に読み込まれるものであってもよい。また、上記プログラムは、インターネット等の通信回線網を介してダウンロード後、上記記憶媒体等に格納することができる。
【0033】
制御部203は、CPU等のプロセッサやメモリを備えたコンピュータを含む。
また、制御部103は、CPU等のプロセッサが記憶部202等に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現される、受信部231と、取得部232と、予想部233と、判定部234と、出力部235と、を有する。
【0034】
受信部231は、地震情報を受信する。具体的には、受信部231は、気象庁等から配信された地震情報を、ネットワークN及び通信I/F201を介して受信する。
地震情報には、例えば以下の情報が含まれている。
・震源の位置
・地震の進行速度
・地震の強度(具体的には最大加速度)
【0035】
取得部232は、新幹線車両500の現在位置及び現在速度を取得する。具体的には、取得部232は、例えば、新幹線車両500の走行制御装置10の出力部132から出力された新幹線車両500の現在位置及び現在速度を、ネットワークN及び通信I/F201を介して取得する。
【0036】
予想部233は、上記地震情報が示す地震が到達する時点での新幹線車両500の予想位置Q及び予想速度Vpを算出する。具体的には、予想部233は、受信部231が受信した地震情報に含まれる震源の位置及び地震の進行速度と、取得部232が取得した新幹線車両の現在位置及び現在速度と、に基づいて、予想位置Q及び予想速度Vpを算出する。例えば、予想部233は、新幹線車両500が現在速度から、予め定められた減速度で減速していくものとして、予想位置Q及び予想速度Vpを算出する。
【0037】
判定部234は、分割区間Pd毎に、以下の情報に基づいて、当該分割区間Pdに新幹線車両500が位置するときに上記地震情報が示す地震により脱線が発生するか否かを判定することが可能である。
・当該分割区間Pdに対応付けて記憶部202に記憶された構造物情報
・地震情報に含まれる地震の強度
・当該分割区間Pdに位置する場合の新幹線車両500の速度V
【0038】
判定部234は、例えば、分割区間Pdに新幹線車両500が位置するときに地震情報が示す地震により脱線が発生するか否の判定の際、上記の情報に基づいて、脱線にかかる評価値RSIを算出する。そして、判定部234は、上記評価値RSIに基づいて、脱線にかかる上記判定を行う。
【0039】
なお、評価値RSIは例えば以下の式を用いて算出される。
RSI=(αr/αlim)0.7+(θr/θlim)0.7
【0040】
α
rは、
図4に示すように、構造物天端となる床面Yの有効加速度の最大応答値すなわち最大加速度である。
また、α
limは、構造物天端となる床面Yの有効加速度の限界値すなわち限界加速度である。
また、θ
rは、
図4に示すように、構造物境界501の折れ角の最大応答値すなわち最大折れ角である。
θ
limは、構造物境界501の折れ角の限界値すなわち最大折れ角である。
【0041】
αr、αlim、θrは、地震情報に含まれる地震の強度と、記憶部202に記憶された構造物情報(具体的には降伏震度及び等価固有周期)と、から算出することができる。
【0042】
α
r、α
lim、θ
rはより具体的には例えば以下のようにして算出される。
すなわち、まず、
図5に示すように、地震情報(具体的には地震情報に含まれる地震の強度)と、公知の距離減衰式と、から、地表面における最大加速度α
r0が算出される。
次いで、算出された地表面における最大加速度α
r0と、記憶部202に記憶された既往の地震情報(具体的には既往の地震の加速度波形に関する情報)とから、受信部231が受信した地震情報に含まれる地震が到達した場合の、地表面における加速度波形が推定される。
【0043】
また、該当する分割区間Pdに対応する構造物の力学モデルであって、当該分割区間Pdに対応付けて記憶部202に記憶された構造物情報(具体的には降伏震度及び等価固有周期)がパラメータとして設定されたモデルに、地表面における推定加速度波形が入力される。そして、入力されたときの最大加速度と最大相対変位が計算され、それぞれ、構造物天端となる床面Yの最大加速度αrと最大相対変位dmaxとされる。
なお、上記モデルは、例えば、構造物をトリリニア型の骨格曲線及び標準型の履歴特性を持つ1自由度系でモデル化したものである。また、上記骨格曲線では、例えば、最大震度(すなわち地表面における最大加速度αr0)、構造物の等価固有周期及び降伏震度がパラメータとして設定される。
【0044】
さらに、上述の構造物天端となる床面Yの最大加速度αrと最大相対変位dmaxとのうち少なくとも最大相対変位dmaxについては、該当する分割区間Pdに対応する構造物と、それに隣接する分割区間Pdに対応する構造物とのそれぞれについて行われる。そして、互いに隣接する構造物の最大相対変位dmaxから、構造物境界501(すなわち構造物間)の折れ角の最大折れ角θrが算出される。
【0045】
構造物天端となる床面Yの限界加速度αlimは例えば以下のαlimの定義式αlim
proに基づいて算出することができる。
【0046】
【0047】
Teq’は構造物の卓越周期(s)である。PSAは前述の構造物天端となる床面Yの最大加速度αrであり、PSDは前述の構造物天端となる床面Yの最大相対変位dmaxである。
【0048】
一方、θlimは、新幹線車両500の速度Vから以下の式に基づいて算出することができる。
θlim=(1/1.6)×(4700/V)
【0049】
判定部234は、評価値RSIが1を超える分割区間Pdについて、当該分割区間Pdに位置するときに脱線が発生すると判定する。このように評価値RSIは、脱線の判定結果に直結するため、分割区間Pdについて評価値RSIを算出することと、当該分割区間Pdに位置するときに脱線が発生するか否かを判定することとは、同義である。
【0050】
また、判定部234は、受信部231が地震情報を取得した際に、少なくとも、予想部233が算出した予想位置Qを含む分割区間Pdすなわち予想位置Qが位置する分割区間Pdについて、上述のようにして脱線が発生するか否かの判定を行う。また、判定部234は、予想位置Qを含む分割区間Pd(以下、「予想位置区間Pdq」ということがある。)の周囲の分割区間Pdそれぞれについても、上述のようにして脱線が発生するか否かの判定を行うことがある。すなわち、判定部234は、予想位置区間Pdqだけでなくその周囲の分割区間Pdそれぞれについても評価値RSIを算出することがある。一実施形態において、評価値RSIの算出に際し、新幹線車両500の速度Vとしては、予想部233が算出した予想速度Vpが、分割区間Pd間で共通で用いられる。
【0051】
出力部235は、受信部231が地震情報を取得した際に、新幹線車両500の走行制御装置10に走行に関する指示を出力する。出力部235が出力する指示は、判定部234による判定結果に応じたものである。
【0052】
予想位置区間Pdqで脱線が発生しないと判定部234に判定された場合、出力部235は、当該予想位置区間Pdqに新幹線車両500が予想速度Vpで位置するよう、通信I/F201を介して、走行制御装置10に指示を出力する。
【0053】
また、予想位置区間Pdqで脱線が発生しないと判定部234に判定された場合であって、予想位置区間Pdqの周囲の分割区間Pdに新幹線車両500が位置するとき地震情報が示す地震により脱線が発生しないと判定される場合がある。この場合は、地震情報が示す地震が到達する時点で、上記周囲の分割区間Pdに新幹線車両500が予想速度Vpで位置するよう、通信I/F201を介して、走行制御装置10に指示を出力する。
【0054】
<監視装置20における地震発生時の処理>
図6は、監視装置20における地震発生時の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0055】
走行制御装置10の出力部132からは、例えば、所定間隔毎(例えば数秒毎に)、新幹線車両500の現在位置及び現在速度が出力されており、監視装置20の取得部232は、図示するように、その新幹線車両500の現在位置及び現在速度を随時受信し取得している(ステップS1)。
【0056】
そして、監視装置20の受信部が地震情報を受信すると(ステップS2)、予想部233が、例えば、以下の情報に基づき、受信した地震情報が示す地震が到達する時点での新幹線車両500の予想位置Q及び予想速度Vpを算出する(ステップS3)。
・受信した地震情報に含まれる震源の位置及び地震の進行速度
・直近で取得した新幹線車両500の現在位置及び現在速度
・予め定められた減速度
【0057】
予め定められた減速度の情報は例えば記憶部202に予め記憶されている。
また、予想部233は、算出した予想位置を含む予想位置区間Pdqを特定する。この特定は、例えば、構造物情報テーブルTに記録された、分割区間Pdの位置に基づいて行われる。
【0058】
続いて、判定部234が、少なくとも、ステップS3で特定した予想位置区間Pdqについて、予想位置区間Pdqに新幹線車両500が位置する場合(具体的には予想位置区間Pdqに新幹線車両500が予想速度Vpで位置する場合)にステップS2で受信した地震情報が示す地震により脱線が発生するか否かを判定する(ステップS4)。
また、ステップS4では、判定部234が、ステップS2で受信した地震情報が示す地震が到達する時点における、新幹線車両500の実際の位置(以下、到達時実位置という。)を決定する。
【0059】
<到達時実位置の決定方法の例1>
判定部234は、例えば、予想位置区間Pdqと、当該予想位置区間Pdqから新幹線車両500側に所望の距離離れた分割区間Pdとの間の分割区間Pdについて、予想位置Q側から順に、当該分割区間Pdに新幹線車両500が予想速度Vpで位置する場合に脱線が発生するか否かを判定する。上記所望の距離は、危険が生じない範囲の最大の減速度と新幹線車両500の現在速度とに基づいて算出され、また、上記最大の減速度は予め定められ、記憶部202に予め記憶されている。上述の判定は、脱線が発生しないと判定されるまで行われ、判定部234は、初めて脱線が発生しないと判定された分割区間Pdを、到達時実位置に決定する。脱線が発生しないと判定される分割区間Pdがない場合、判定部234は、予想位置区間Pdqを到達時実位置に決定する。
この決定方法によれば、到達時実位置を決定するまでの演算量を抑えることができる。
【0060】
なお、分割区間Pdに新幹線車両500が予想速度Vpで位置する場合に脱線が発生するか否かの判定には、当該分割区間Pdに対応付けて記憶部202に記憶された構造物情報と、ステップS2で受信した地震情報に含まれる地震の強度とが用いられ、また、例えば前述の脱線にかかる評価値RSIが用いられる。
【0061】
また、新幹線車両500が複数の分割区間Pdに跨る場合は、例えば、上記複数の分割区間Pd全てについて脱線が発生しないと判定されるまで、上述の判定は行わってもよい。そして、判定部234は、全てについて脱線が発生しないと初めて判定された複数の分割区間Pdを、到達時実位置に決定してもよい。
【0062】
<到達時実位置の決定方法の例2>
判定部234は、予想位置区間Pdqと、当該予想位置区間Pdqから新幹線車両500側に予め定められた距離離れた分割区間Pdとの間の全ての分割区間Pdについて、当該分割区間Pdに新幹線車両500が予想速度Vpで位置する場合に脱線が発生するか否かを判定する。具体的には、判定部234が、上記全ての分割区間Pdについて、脱線にかかる評価値RSIを算出する。そして、判定部234は、上記評価値RSIが最も低い分割区間Pdを、到達時実位置に決定する。
この決定方法によれば、より安全な位置、すなわち、より脱線しにくい位置に新幹線車両500を停止させることができる。
【0063】
なお、分割区間Pdについての脱線にかかる評価値RSIの算出には、当該分割区間Pdに対応付けて記憶部202に記憶された構造物情報と、ステップS2で受信した地震情報に含まれる地震の強度と、が用いられる。
【0064】
また、新幹線車両500が複数の分割区間Pdに跨る場合、判定部234は、例えば、評価値RSIの平均値が最も低い上記複数の分割区間Pdを、到達時実位置に決定してもよい。
【0065】
到達時実位置の決定後、出力部235が、当該到達時実位置に新幹線車両500が予想速度Vpで位置するよう、走行制御装置10に指示を出力する(ステップS5)。
【0066】
前述のようにして到達時位置を決定しているため、予想位置区間Pdqで脱線が発生すると判定された場合であって当該予想位置区間Pdqの周囲の分割区間Pdで脱線が発生しないと判定された場合、上記指示は、地震が到達する時点で上記周囲の分割区間Pdに新幹線車両500に予想速度Vpで位置させるための指示となる。
【0067】
なお、ステップS3~S5は、ステップS2で受信した地震情報に含まれる地震の強度が所定の閾値を超える場合のみ、行うようにしてもよい。
【0068】
<主な効果>
以上のように、本実施形態によれば、地震情報を受信した際すなわち地震が発生した際に、地震到達時の新幹線車両500の位置を、当該地震では脱線しないと推定される分割区間Pd内にすることができる。言い換えると、例えば、地震到達時の新幹線車両500の位置を、低速または停止した状態でも脱線が発生しやすい橋りょう上や盛り土上ではなく、強耐震構造物上とすることができる。そのため、地震が発生した際に新幹線車両500が脱線するのを抑制することができる。したがって、脱線による構造物への損傷も抑制することができる。また、新幹線車両500の脱線を抑制することができるため、人的被害を抑制することができる他、地震後の復旧作業時間を大幅に低減させることができる。
【0069】
<位置情報等の取得形態の他の例>
以上の例では、監視装置20の取得部232は、走行制御装置10から新幹線車両500の現在位置を取得していた。これに代えて、監視装置20の取得部232による新幹線車両500の現在位置の取得は、レールR等に設けられた車両検知センサの検知結果等から新幹線車両500の現在位置を取得し管理する運行情報管理システムから行ってもよい。
また、取得部232は、新幹線車両500の現在速度についても、現在位置と同様、運行情報管理システムから取得してもよい。
【0070】
<その他の変形例>
新幹線車両500の到達時実位置の決定は、先を走行する新幹線車両500の予想位置を考量して行ってもよい。
【0071】
また、地震情報を受信した電力供給設備から、新幹線車両500に対する電力供給が遮断される場合がある。この場合、新幹線車両500に予備電源を設けておき、電力供給設備からの電力の供給が遮断されたときには、予備電源からの電力により新幹線車両500を走行させるようにしてもよい。
【0072】
以上では、新幹線車両500を監視し新幹線車両500の脱線の発生を抑制していたが、本発明は、新幹線車両500以外の鉄道車両の監視にも適用することができる。
【0073】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、地震が発生した際の鉄道車両の脱線の抑制に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 監視システム
10 走行制御装置
20 監視装置
101 通信インターフェース
102 速度センサ
103 制御部
131 位置特定部
132 出力部
133 走行制御部
202 記憶部
203 制御部
231 受信部
232 取得部
233 予想部
234 判定部
235 出力部
500 新幹線車両
600 GNSS衛星
N ネットワーク
P 走行区間
Pd 分割区間
Pdq 予想位置区間
Q 予想位置
R レール
T 構造物情報テーブル
Y 床面