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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100125
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】沸騰水型原子炉
(51)【国際特許分類】
   G21C 7/16 20060101AFI20230710BHJP
   G21C 7/12 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
G21C7/16 210
G21C7/12 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000570
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】十河 直也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 祥広
(72)【発明者】
【氏名】小出 祐一
(72)【発明者】
【氏名】飯島 唯司
(72)【発明者】
【氏名】原田 清
(57)【要約】
【課題】1台のHCUが2本以上の制御棒を駆動する場合において、スクラムにかかる各制御棒の挿入時間のうち、その最大値を短縮することが可能な沸騰水型原子炉を提供する。
【解決手段】複数の制御棒201a,201c,201dが第1スクラム配管104a,302a,104c,302c,104d,302dを経由して、および1本以上の制御棒201bが第2スクラム配管104b,302bを経由して、同じ水圧制御棒駆動機構に接続されており、第1スクラム配管104a,302a,104c,302c,104d,302dの圧力損失を、第2スクラム配管104b,302bの圧力損失より大きくする。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1制御棒、および前記第1制御棒より質量の大きい第2制御棒を1つ以上備える沸騰水型原子炉において、
複数の前記第1制御棒が第1スクラム配管を経由して、および1本以上の前記第2制御棒が第2スクラム配管を経由して、同じ水圧制御棒駆動機構に接続されており、
前記第1スクラム配管の圧力損失を、前記第2スクラム配管の圧力損失より大きくする
ことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項2】
請求項1に記載の沸騰水型原子炉において、
前記第1スクラム配管の曲がり部の数は、前記第2スクラム配管の曲がり部の数より多い
ことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項3】
請求項1に記載の沸騰水型原子炉において、
前記第1スクラム配管に設けられる曲がり部の角度が、前記第2スクラム配管に設けられる曲がり部の角度より大きい
ことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項4】
請求項1に記載の沸騰水型原子炉において、
前記第1スクラム配管が有する曲がり部の角度の総和は、前記第2スクラム配管が有する曲がり部の角度の総和より大きい
ことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項5】
請求項1に記載の沸騰水型原子炉において、
前記第1スクラム配管の長さが、前記第2スクラム配管より長い
ことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項6】
請求項1に記載の沸騰水型原子炉において、
前記第1スクラム配管を流れるスクラム水の流量が、前記第2スクラム配管を流れるスクラム水の流量より少ない
ことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項7】
請求項6に記載の沸騰水型原子炉において、
前記スクラム水の流量を調節するための流量調整部を前記第1スクラム配管および前記第2スクラム配管のうち少なくともいずれか一方に有する
ことを特徴とする沸騰水型原子炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉圧力に応じて充填水圧力を最適に制御できる制御棒駆動水圧系の一例として、特許文献1には、高圧水を利用して制御棒の緊急挿入を行う制御棒駆動機構と、常時閉で制御棒緊急挿入時に開く緊急挿入用弁と、制御棒駆動機構に供給する高圧水を蓄えておくアキュムレータと、ポンプと、制御棒駆動機構と緊急挿入用弁とを接続する第1の配管と、緊急挿入用弁とアキュムレータとを接続する第2の配管と、ポンプの出口に接続され、第1の配管に合流する第3の配管と、第3の配管の途中から分岐して第2の配管に合流する第4の配管とからなる原子炉の制御棒駆動水圧系において、第3の配管のうち、ポンプの出口と第4の配管の分岐点との間の部分に、原子炉圧力に応じて圧力損失が調整可能な圧力調整弁を設ける、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-136788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
沸騰水型原子炉には原子炉内の制御棒を駆動するための制御棒駆動装置が備わっている。制御棒の駆動には2種類の機能があり、1つは原子炉の出力および反応度の制御のための駆動機能であり、もうひとつは地震時など原子炉の緊急停止が必要な場合に制御棒を炉心に急速に挿入する機能、すなわちスクラム機能(スクラム)である。
【0005】
スクラムを達成するには一般に水圧制御ユニット(HCU)で予め蓄圧された高圧水を利用する。HCU内のアキュムレータに高圧の窒素ガスを蓄圧し、これを一気に解放することによって高圧水は生み出されており、この高圧水はHCUを起点にスクラム配管を通り制御棒駆動機構に到達する。高圧水によって制御棒駆動機構内のピストンが押し上げられ、ピストンに接続された制御棒が炉内に挿入される。
【0006】
スクラムに係るHCUおよびスクラム配管、制御棒駆動機構、制御棒などを制御棒駆動系と呼ぶ。現行型の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)ではHCU1台につき2台の制御棒駆動機構に高圧水を送る制御棒駆動系と、HCU1台につき1台の制御棒駆動機構に高圧水を送る制御棒駆動系とが混合されている。
【0007】
スクラムは原子炉の安全機能の1つであり、地震時における機能評価は耐震評価上重要である。制御棒に関する地震時機能評価法は「原子力発電所耐震設計技術規定(JEAG4601-2015)」に記されている。この評価法の基本的考え方は、「制御棒が地震時に要求される機能は、原子炉を確実に停止するために炉心に挿入されることであるから、地震時における制御棒挿入性について評価する。」ことである。
【0008】
地震時の制御棒挿入性の評価項目は挿入時間であり、挿入時間が目安時間以下となることが求められている。評価には解析や実験が用いられており、現行の原子炉においては十分安全であることが確かめられているが、更なる安全性の向上が求められている。
【0009】
スクラムの安全性向上させる構造としてはいくつかの技術があり、原子炉圧力に応じてスクラムに用いる高圧水の圧力を最適に制御できる制御棒水圧系(例えば特許文献1参照)などがある。
【0010】
1台のHCUに2本以上の制御棒が接続する場合、それらの制御棒のスクラム時の挿入時間には差が生じる可能性がある。この差は制御棒の質量差やスクラム配管の圧力損失差によって生じることが考えられる。
【0011】
制御棒の質量差の要因は例えば一部の制御棒に用いられる中性子吸収材の材質が異なるためである。中性子吸収材はボロンカーバイドもしくはハフニウムが用いられており、これらの密度差やこれらを用いる制御棒の構造の差によって制御棒の質量に差が生じる。
【0012】
また、スクラム配管の圧力損失差の要因はスクラム配管の長さ、曲がり部の個数、曲がり部の角度が異なるためである。長さが長くなるほど、曲がり部の個数が大きくなるほど、そして曲がり部の角度が鋭角になるほど圧力損失は大きくなる。制御棒の質量差やスクラム配管の圧力損失差によっては、制御棒が挿入される際に生じる抵抗力に差が生じ、その結果として1台のHCUが駆動する複数の制御棒ごとの挿入時間に差が生じる可能性がある。
【0013】
これに加えて、地震時には制御棒が挿入される過程で、地震動によって弓なりに変形した燃料集合体と制御棒が接触し、制御棒に作用する抵抗力が大きくなるため、地震が無い条件に比べて挿入時間に遅れが発生する。その結果、1台のHCUが駆動する制御棒が2本以上あると、地震による影響と制御棒の質量差やスクラム配管の圧力損失差の影響で制御棒の挿入時間に差が生じる可能性があり、制御棒挿入時間の差が発生しにくい制御棒水圧系がさらなる安全性向上のために必要である。
【0014】
本発明の目的は、1台のHCUが2本以上の制御棒を駆動する場合において、スクラムにかかる各制御棒の挿入時間の最大値を短縮することが可能な沸騰水型原子炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、複数の第1制御棒、および前記第1制御棒より質量の大きい第2制御棒を1つ以上備える沸騰水型原子炉において、複数の前記第1制御棒が第1スクラム配管を経由して、および1本以上の前記第2制御棒が第2スクラム配管を経由して、同じ水圧制御棒駆動機構に接続されており、前記第1スクラム配管の圧力損失を、前記第2スクラム配管の圧力損失より大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、1台のHCUが2本以上の制御棒を駆動する場合において、スクラムにかかる各制御棒の挿入時間の最大値を短縮することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1に係る沸騰水型原子炉の全体図である。
図2】沸騰水型原子炉におけるHCUと制御棒駆動装置を接続するスクラム配管の模式図である。
図3】実施例1に係る沸騰水型原子炉における制御棒の炉心内の配置位置の模式図である。
図4】地震が発生していない場合の制御棒挿入のシミュレーション結果である。
図5】シミュレーション結果における挿入完了時刻付近の拡大図である。
図6】本発明の実施例2に係る沸騰水型原子炉における制御棒の炉心内の配置位置の模式図である。
図7】本発明の実施例3に係る沸騰水型原子炉におけるHCUと制御棒駆動装置を接続するスクラム配管の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の沸騰水型原子炉の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0019】
<実施例1>
本発明の沸騰水型原子炉の実施例1について図1乃至図5を用いて説明する。
【0020】
最初に、沸騰水型原子炉の全体構成について図1を用いて説明する。図1は本実施例1に係る沸騰水型原子炉の全体図である。
【0021】
図1では、沸騰水型原子炉が1台のHCUが4本の制御棒を駆動する例を示している。
【0022】
図1に示すように、HCU106は沸騰水型原子炉101内のHCU室105に設置されており、HCU106と制御棒駆動装置103とはスクラム配管104で接続されている。
【0023】
HCU室105にはHCU106以外にも多数のHCUが設置されており(図示の都合上省略)、それらのHCUは各々が制御棒駆動装置へ接続されている(図示省略)。なお、HCU室は1室とは限らず複数存在してもよい。また制御棒駆動装置103は原子炉圧力容器102の下部に多数固定されており、図1にはその一部を記載しているに過ぎない。
【0024】
図2は沸騰水型原子炉におけるHCUと制御棒駆動装置を接続するスクラム配管の模式図であり、図1の詳細図である。
【0025】
図2に示すように、HCU106は、アキュムレータ207、加圧用ボンベ206、複数の仕切弁203、スクラム弁204、およびスクラム配管205等で構成されている。
【0026】
加圧用ボンベ206内には高圧の窒素ガスが充填されており、配管209を介してアキュムレータ207に接続されている。
【0027】
アキュムレータ207はスクラム弁204が設けられたスクラム配管205に接続されており、スクラム弁204の下流側で4方向に分岐され、それぞれ仕切弁203を介挿したスクラム配管104が制御棒駆動装置103に接続されている。
【0028】
制御棒駆動装置103は原子炉格納容器202内の原子炉圧力容器102下部に固定されており、制御棒駆動装置103は合計で4本の制御棒201と接続されている。
【0029】
地震などの要因でスクラムが必要になるとスクラム弁204が開き、これと同時に高圧の窒素ガスが配管209を通ってアキュムレータ207内のピストン208を押し上げ、高圧水が生み出される。高圧水はスクラム配管205およびスクラム配管104を通り制御棒駆動装置103内のピストン(図示省略)を押し上げ、制御棒201が炉心内に急速に挿入される。
【0030】
図3図2に示す制御棒の炉心内の配置位置を模式的に示す。原子炉圧力容器102は図1を上部から見ており、スクラム配管104はHCU106に接続されている。原子炉圧力容器102内の上部格子板301内に1台の制御棒駆動装置103および制御棒201a,201b,201c,201dが配置される。
【0031】
ここで制御棒201bは、制御棒201a,201c,201dより質量が大きいものとする。質量の違いの要因は制御棒201に使用されている中性子吸収材が異なるケースや、制御棒201の構造が異なるケースがある。例えば、制御棒201の中性子吸収材が異なるケースでは、中性子吸収材の密度が異なることに起因して質量差が生じる。
【0032】
また、制御棒201aが第1スクラム配管302a,104aを経由して、制御棒201bが第2スクラム配管302b,104bを経由して、制御棒201cが第1スクラム配管302c,104cを経由して、制御棒201dが第1スクラム配管302d,104dを経由して、同じ水圧制御棒駆動機構に接続されている。
【0033】
図1のように1台のHCUが駆動する制御棒の本数が2本以上の場合では、制御棒の質量差やスクラム配管の圧力損失差によって制御棒の挿入時間には差が生じる可能性がある。また、地震が発生すると、弓なりに変形した燃料集合体と制御棒とが接触することで挿入時に生じる抵抗力が大きくなり挿入時間が遅れることがあり得る。
【0034】
1台のHCUが駆動する複数の制御棒のうち、質量が大きい制御棒はスクラム時に制御棒に加わる自重によって質量が小さい制御棒に比べて挿入時に生じる抵抗力が大きくなる。これは質量が大きい制御棒の挿入時間は質量の小さい制御棒に比較して相対的に遅い要因となる。
【0035】
また1台のHCUに接続される複数のスクラム配管のうち、圧力損失が大きなスクラム配管は、圧力損失が小さなスクラム配管に比べて高圧水の流入に対する抵抗力が強く、その結果、圧力損失が小さなスクラム配管への流量が増加する。つまり、圧力損失が大きなスクラム配管への流量が低下するため、それに接続する制御棒駆動装置が生み出す駆動力が小さくなり、挿入時間が遅れる。
【0036】
質量の大きな制御棒の挿入時間の短縮のための対策としては、制御棒の質量減少やアキュムレータの出力増加が考えられるが、これらの設計変更は関連機器への影響が大きいため現実的ではない。
【0037】
そこで、スクラム配管の圧力損失に着目する。具体的には、質量が大きな制御棒に接続するスクラム配管の圧力損失を相対的に小さくし、質量が小さな制御棒に接続するスクラム配管の圧力損失を相対的に大きくする。これにより、質量が大きな制御棒に流れる高圧水の流量が質量の小さな制御棒に流れる高圧水の流量より多くして、質量が大きいことによる抵抗力に対抗する流量の増加よる駆動力の増加によって、質量が大きな制御棒の挿入時間の短縮を図り、原子炉の安全性をより高めることができると考えられる。
【0038】
図4に地震が発生していない場合の制御棒挿入のシミュレーション結果を示す。このシミュレーション結果は1台のHCUが4本の制御棒を駆動させる制御棒駆動系において、スクラム配管の圧力損失の分布が異なる2種のケースを比較した結果である。
【0039】
図4では、制御棒の質量は2種のケースで同じとなっており、1本の制御棒の質量が100kg、他3本の制御棒の質量を80kgとした。ケース1では4本の制御棒に接続する4本のスクラム配管の圧力損失が全てAであり、ケース2では質量が小さな3本の制御棒に接続するスクラム配管の圧力損失がAで、質量が大きな1本の制御棒に接続するスクラム配管の圧力損失がB(Aより小さい値)となっている。
【0040】
図4を見てみると、いずれの制御棒もスクラム信号を受け、時刻t0に挿入が開始されている。時刻t0以降はいずれの制御棒の挿入位置も単調に増加し、時刻t1~t4にて挿入完了位置Dに達しており、挿入完了位置に達した制御棒はその位置を維持している。
【0041】
図5は挿入完了時刻付近の拡大図であり、図4内の破線401に示す範囲にあたる。図5のグラフ線において実線はケース1のシミュレーション結果を示し、破線はケース2のシミュレーション結果を示す。
【0042】
図5中、実線501はケース1の質量が小さな制御棒の挿入履歴を示し、実線504はケース1の質量が大きな制御棒の挿入履歴を示す。また破線502はケース2の質量が小さな制御棒の挿入履歴を示し、破線503はケース2の質量が大きな制御棒の挿入履歴を示す。
【0043】
図5に示すように、ケース1では質量が大きな制御棒が時刻t4にて挿入完了し、質量が小さな制御棒が時刻t1に挿入完了している。これに対し、ケース2では質量が大きな制御棒が時刻t3にて挿入完了し、質量が小さな制御棒が時刻t2に挿入完了している。ケース1とケース2を比較すると1台のHCUが駆動する制御棒の挿入完了時刻は時刻t4から時刻t3になっており、挿入時間が短縮されている。
【0044】
この結果から、スクラム配管の圧力損失を調整し、質量が大きな制御棒に接続するスクラム配管の圧力損失を相対的に小さくし、質量が小さな制御棒に接続するスクラム配管の圧力損失を相対的に大きくすることでトータルの挿入時間が短縮する傾向があることがわかる。
【0045】
ここで、スクラム配管の圧力損失は、管路内の壁面における摩擦損失や曲がり部での流体剥離による損失などによって生じる。管摩擦係数をλ、配管長さをl、配管直径をd、流体密度をρ、平均流速をuとすると、管路内の壁面における摩擦損失ΔPは下記の式(1)のように表せる。
【0046】
【数1】
【0047】
また、損失係数をζとすると、曲がり部での流体剥離による損失ΔPseは下記の式(2)のように表せる。
【0048】
【数2】
【0049】
損失係数ζは多数の実験結果から近似的に求められており、曲がり部の角度が鋭角になるほど増加する。
【0050】
よって、スクラム配管の圧力損失は配管の長さや曲がり部の個数、曲がりの角度などで決まり、長さが長くなるほど、同じ角度の曲がり部の個数が大きくなるほど、あるいは数が同じ場合における曲がり部の角度が鋭角になればなるほど、圧力損失は大きくなる。
【0051】
従って、制御棒の挿入時間の短縮のために、第1スクラム配管302a,302c,302dの圧力損失を第2スクラム配管302bの圧力損失より大きくするために、具体的には配管の長さ、曲がり部の個数や角度を調整すればよい、ことが想定される。
【0052】
例えば、図3に示すように、第1スクラム配管302a,302c,302dの曲がり部の数を第2スクラム配管302bの曲がり部の数より多くする、第1スクラム配管302a,302c,302dに設けられる曲がり部の角度を第2スクラム配管302bに設けられる曲がり部の角度より大きくする、あるいは第1スクラム配管302a,302c,302dが有する曲がり部の角度の総和を第2スクラム配管302bが有する曲がり部の角度の総和より大きくする、のうちいずれか一つ以上の対応をとることが望まれる。
【0053】
なお、上記の選択肢を沸騰水型原子炉へ適用することを考えると、原子炉内の設置スペースの関係上、配管の長さの調節の自由度は小さいため、スクラム配管の長さのみで制御棒の挿入時間の短縮に足る圧力損失の調整は難しい可能性がある。これに対し、曲がり部の増設や意図的な曲げ角の増加は配管の設置スペースが小さくても比較的実施可能な選択肢となりうる。
【0054】
図3が示す実施例1では、スクラム配管の曲がりに注目している。
【0055】
スクラム配管302はHCU106を起点にするスクラム配管104の一部を示している。質量が大きな制御棒201bに接続する第2スクラム配管302bには曲がり部がなく、質量が小さな制御棒201a,201c,201dに接続する第1スクラム配管302a,302c,302dには意図的に複数の曲がり部を作成する。
【0056】
第2スクラム配管302bと第1スクラム配管302a,302c,302dとは長さが同等で、第1スクラム配管302a,302c,302dは曲がり部を有するため圧力損失が第2スクラム配管302bよりも大きくなる。これにより質量の大きな制御棒201bの挿入時間を短縮することができる。
【0057】
制御棒の配置位置や配管の圧力損失の大きさは、例えば以下のように設定することができる。質量の大きな制御棒の中性子吸収材に用いられているハフニウムは高寿命であることから原子炉の出力制御に用いられることが多く、原子炉の出力制御が目的の場合には原子炉の経済性向上の観点からその制御棒の配置位置が決定される。すなわち、質量が大きな制御棒201bの配置位置は制御棒挿入性とは別の観点で決定されている。
【0058】
また、スクラム配管104の原子炉格納容器202内への進入口(図示省略)はHCU室105やHCU106、原子炉圧力容器102の位置などによって決定される。この結果、質量の大きな制御棒201bとそれに接続する第2スクラム配管104b,302bの経路は制御棒挿入性とは別の観点で決定されており、第2スクラム配管104b,302bの圧力損失も制御棒挿入性とは別の観点で決定される。
【0059】
従って、第2スクラム配管104b,302bの圧力損失を基準とし、質量が小さな制御棒201a,201c,201dに接続する第1スクラム配管302a,302c,302dの曲がりの回数や角度は、この基準より大きくなるように設定すればよい。なお、第1スクラム配管302a,302c,302dの間の圧損の関係は特に限定はなく、特に限定されないが、例えばすべて同じような水準とすることが考えられる。
【0060】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0061】
上述した本発明の実施例1の複数の制御棒201a,201c,201d、および制御棒201a,201c,201dより質量の大きい制御棒201bを1つ以上備える沸騰水型原子炉は、複数の制御棒201a,201c,201dが第1スクラム配管104a,302a,104c,302c,104d,302dを経由して、および1本以上の制御棒201bが第2スクラム配管104b,302bを経由して、同じ水圧制御棒駆動機構に接続されており、第1スクラム配管302a,302c,302dの圧力損失を、第2スクラム配管302bの圧力損失より大きくする。
【0062】
これによって、質量の大きな制御棒203bと圧力損失の小さな第2スクラム配管302bとを組み合わせることで挿入時間の差を減少させることができ、1台のHCU106が駆動する複数の制御棒201a,201b,201c,201dの挿入時間の最大値を短縮することができる。
【0063】
また、第1スクラム配管302a,302c,302dの曲がり部の数は、第2スクラム配管302bの曲がり部の数より多いこと、第1スクラム配管302a,302c,302dに設けられる曲がり部の角度が第2スクラム配管302bに設けられる曲がり部の角度より大きいこと、あるいは第1スクラム配管302a,302c,302dが有する曲がり部の角度の総和が第2スクラム配管302bが有する曲がり部の角度の総和より大きいため、質量の大きい制御棒203bに接続される第2スクラム配管302bの圧損を制御棒201a,201c,201dに接続される第1スクラム配管302a,302c,302dにおける圧損に比べて小さくすることを容易に実現できる。
【0064】
<実施例2>
本発明の実施例2の沸騰水型原子炉について図6を用いて説明する。図6は本実施例2に係る沸騰水型原子炉における制御棒の炉心内の配置位置の模式図である。
【0065】
本実施例の沸騰水型原子炉では、図6に示すように、実施例1の沸騰水型原子炉との相違箇所は、スクラム配管の長さと、制御棒の配置位置の2点である。図6でもスクラム配管601はHCU106を起点にするスクラム配管104の一部を示している。
【0066】
図6に示すように、質量が小さな制御棒201a,201c,201dに接続する第1スクラム配管601a,601c,601dの長さを、質量が大きな制御棒201bに接続する第2スクラム配管601bの長さより長くしている。
【0067】
スクラム配管の長さの調節には制御棒の配置変更が付随するが、質量の大きな制御棒203bの位置は制御棒挿入性とは別の観点で決定されているため自由に配置させることは難しい。
【0068】
そこで、同じHCU106に接続される複数の制御棒201のうち、質量が小さな制御棒201a,201c,201dを、スクラム配管104の原子炉格納容器202内への進入口(図示省略)から、質量の大きな制御棒201bまでの距離よりも遠い位置に配置することでスクラム配管の長さを調節することが可能となる。
【0069】
その他の構成・動作は前述した実施例1の沸騰水型原子炉と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0070】
本発明の実施例2の沸騰水型原子炉においても、前述した実施例1の沸騰水型原子炉とほぼ同様な効果が得られる。
【0071】
また、第1スクラム配管601a,601c,601dの長さが、第2スクラム配管601bより長いことによっても、容易に質量の大きい制御棒203bに接続される第2スクラム配管601bの圧損を制御棒201a,201c,201dに接続される第1スクラム配管601a,601c,601dにおける圧損に比べて小さくすることができる。
【0072】
<実施例3>
本発明の実施例3の沸騰水型原子炉について図7を用いて説明する。図7は本実施例3に係る沸騰水型原子炉におけるHCUと制御棒駆動装置を接続するスクラム配管の模式図である。
【0073】
実施例1、あるいは実施例2では、スクラム配管の曲がりや長さを調節しており、これらはスクラム配管の流量を調節しているに他ならない。従って、スクラム配管自体を流れるスクラム水の流量を調節し、制御棒の挿入時間を短縮するにはオリフィス弁などの流量調節弁をスクラム配管内に設置することでも対応可能であるといえる。
【0074】
本実施例の沸騰水型原子炉では、図7に示すように、実施例1の沸騰水型原子炉との相違箇所は、オリフィス弁701の有無である。
【0075】
図7に示すように、第1スクラム配管702a,702c,702dを流れるスクラム水の流量を、第2スクラム配管702bを流れるスクラム水の流量より少なくするために、スクラム水の流量を調節するためのオリフィス弁701a,701b,701c,701dを第1スクラム配管702a,702c,702dおよび第2スクラム配管702bに設けている。図7では、オリフィス弁701bの開口面積をオリフィス弁701a,701c,701dより大きくしている。
【0076】
オリフィス弁701a,701b,701c,701dは、流量を調節できる弁やバルブであってもよい。
【0077】
なお、図7では第1スクラム配管702a,702c,702dおよび第2スクラム配管702bのいずれにも流量調節部としてのオリフィス弁701a,701b,701c,701dを設ける場合について示しているが、第1スクラム配管702a,702c,702dおよび第2スクラム配管702bのうち少なくともいずれか1箇所に設けられていればよい。
【0078】
その他の構成・動作は前述した実施例1の沸騰水型原子炉と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0079】
本発明の実施例3の沸騰水型原子炉においても、前述した実施例1の沸騰水型原子炉とほぼ同様な効果が得られる。
【0080】
また、第1スクラム配管702a,702c,702dを流れるスクラム水の流量が、第2スクラム配管702bを流れるスクラム水の流量より少ないことにより、流量を調節して質量が大きな制御棒に向かう流量を他配管に比べて相対的に大きくすることが可能である。その結果、制御棒の挿入時間を短縮することができる。また、配管内部で対応可能であり、制御棒の配置位置に制限をなくすことができる。
【0081】
更に、スクラム水の流量を調節するためのオリフィス弁701a,701b,701c,701dを第1スクラム配管702a,702c,702dおよび第2スクラム配管702bのうち少なくともいずれか一方に有することで、容易に流量調整が可能となる。
【0082】
なお、本実施例のような流量調整部は、実施例1あるいは実施例2の沸騰水型原子炉にも適用可能である。
【0083】
<その他>
これまで説明してきた実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0084】
例えば、配管径を変えることで圧損を調整することも可能である。
【符号の説明】
【0085】
101…沸騰水型原子炉
102…原子炉圧力容器
103,103a,103b,103c,103d…制御棒駆動装置
104,302,601…スクラム配管
104a,104c,104d,302a,302c,302d,601a,601c,601d,702a,702c,702d…第1スクラム配管
104b,302b,601b,702b…第2スクラム配管
105…HCU室
106…HCU
201…制御棒
201a,201c,201d…制御棒(第1制御棒)
201b…制御棒(第2制御棒)
202…原子炉格納容器
203…仕切弁
204…スクラム弁
205…スクラム配管
206…加圧用ボンベ
207…アキュムレータ
208…ピストン
209…配管
301…上部格子板
401,502,503…破線
501,504…実線
701,701a,701b,701c,701d…オリフィス弁(流量調整部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7