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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100161
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230710BHJP
   H02M 7/493 20070101ALI20230710BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/493
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000646
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 健二
(72)【発明者】
【氏名】平島 正裕
(72)【発明者】
【氏名】上松 武
(72)【発明者】
【氏名】岡田 亘
(72)【発明者】
【氏名】村田 彩
(72)【発明者】
【氏名】伊東 淳一
(72)【発明者】
【氏名】日下 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】近藤 小春
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA11
5H770CA05
5H770CA06
5H770DA01
5H770DA22
5H770DA30
5H770HA02Y
5H770HA02Z
5H770HA03Y
5H770HA15Y
5H770JA10X
5H770JA13Y
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】ゼロクロス付近の無効電流を抑制し、出力波形の安定化する。
【解決手段】並列接続された複数の電力変換装置から負荷に給電可能な電力変換システムにおいて、電力変換装置は、スイッチング素子のオンオフにより直流電力を交流電力に変換するインバータ部と、オンオフを制御する制御部と、インバータ部の出力電力を平滑化するフィルタリアクトルとフィルタコンデンサを含むフィルタ部と、負荷に出力される出力電流を計測する出力電流計測部と、フィルタリアクトルを流れる電流を計測するリアクトル電流計測部と、フィルタコンデンサの出力電圧を計測する出力電圧計測部と、を備え、制御部は、出力電圧指令値に基づいてインバータ部から出力されるインバータ電圧の指令値を生成する電圧制御部と、出力電流及びスイッチング素子を制御する際のデッドタイムに起因するデッドタイム誤差電圧の少なくともいずれかを補償する外乱オブザーバと、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に接続された複数の電力変換装置から負荷に電力を供給可能な電力変換システムにおいて、
前記電力変換装置は、
スイッチング素子のオンオフにより直流電力を交流電力に変換するインバータ部と、
前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御部と、
前記インバータ部から出力される電力を平滑化するフィルタリアクトルとフィルタコンデンサを含むフィルタ部と、
前記フィルタ部を介して負荷に出力される出力電流を計測する出力電流計測部と、
前記フィルタリアクトルを流れるリアクトル電流を計測するリアクトル電流計測部と、
前記フィルタコンデンサの電圧である出力電圧を計測する出力電圧計測部と、
を備え、
前記制御部は、
出力電圧指令値に基づいて前記インバータ部から出力されるインバータ電圧の指令値を生成する電圧制御部と、
前記出力電流及び前記スイッチング素子を制御する際のデッドタイムに起因するデッドタイム誤差電圧の少なくともいずれかを補償する外乱オブザーバと、
を有することを特徴とする電力変換システム。
【請求項2】
前記外乱オブザーバは、
前記出力電流を補償する電流外乱オブザーバと、
前記デッドタイム誤差電圧を補償する電圧外乱オブザーバと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記外乱オブザーバは、
前記出力電流及び前記デッドタイム誤差電圧を補償する統合外乱オブザーバであることを特徴とする請求項1に記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用電力系統に連系するととともに自立運転時に並列運転可能な複数の電力変換装置を含む電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、商用電力系統と連系するとともに,自立運転時には,複数の電力変換装置により,複数の蓄電池や太陽電池等の分散型電源を並列で運転するシステムが提案されている。
このように複数の電力変換装置を並列運転する際の電圧制御において、特にゼロクロス付近で無効電流の発生が見られ、電力効率が低下していた。このような無効電流の発生を抑制するため、出力電流の特定の周波数以外の高調波成分を検出して出力電圧指令値を補正することで、デッドタイムやインダクタンスの誤差による無効電流の発生を抑制する電圧制御が提案されている(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
一方で、電力変換装置の電圧制御系の具体的な構成において、フィードバック制御を適用した場合には、マイコンやDSP等のコントローラや検出回路の遅れ等により、制御応答の増加が制限されることも指摘されていた(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6739649号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】永井悟司、伊東淳一、「小型LCフィルタを有する単相系統連系インバータのセミオープンループ制御に基づく自立運転」PE-18-047、PSE-18-023、SPC-18-068、2018年3月6日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、ゼロクロス付近の無効電流を抑制し、出力波形の安定化が可能な電力変換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明は、
並列に接続された複数の電力変換装置から負荷に電力を供給可能な電力変換システムにおいて、
前記電力変換装置は、
スイッチング素子のオンオフにより直流電力を交流電力に変換するインバータ部と、
前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御部と、
前記インバータ部から出力される電力を平滑化するフィルタリアクトルとフィルタコンデンサを含むフィルタ部と、
前記フィルタ部を介して負荷に出力される出力電流を計測する出力電流計測部と、
前記フィルタリアクトルを流れるリアクトル電流を計測するリアクトル電流計測部と、
前記フィルタコンデンサの電圧である出力電圧を計測する出力電圧計測部と、
を備え、
前記制御部は、
前記出力電圧指令値に基づいて前記インバータ部から出力されるインバータ電圧の指令値を生成する電圧制御部と、
前記出力電流及び前記スイッチング素子を制御する際のデッドタイムに起因するデッドタイム誤差電圧の少なくともいずれかを補償する外乱オブザーバと、
を有することを特徴とする電力変換システム。
【0008】
これによれば、電力変換システムを構成する電力変換装置において、出力電流の出力電圧に対する影響を外乱とみなして、外乱オブザーバにより出力電流を推定して補償することにより、ゼロクロス付近を含め安定した出力電圧波形が得られる。また、同様に、デッドタイムに起因するデッドタイム誤差電圧の出力電圧に対する影響を外乱とみなして、外乱オブザーバによりデッドタイム誤差電圧を推定して補償することにより、安定した出力電圧波形が得られる。このように、出力電流及びデッドタイム誤差電圧の少なくともいずれかを補償する外乱オブザーバを設けることにより、各電力変換装置において、安定した出力電圧波形が得られ、出力電圧歪みが改善される。各電力変換装置の制御部は、出力電流のみを補償する外乱オブザーバを有してもよいし、デッドタイム誤差電圧のみを補償する外乱オブザーバを有してもよいし、出力電流とデッドタイム誤差電圧のそれぞれ又は両者を補償する外乱オブザーバを有してもよい。また、このような電力変換装置によって構成される電力変換システムでは、電力変換装置間のゼロクロス付近の無効電流を抑制することができる。
【0009】
また、本発明において、
前記外乱オブザーバは、
前記出力電流を補償する電流外乱オブザーバと、
前記デッドタイム誤差電圧を補償する電圧外乱オブザーバと、
を含むようにしてもよい。
【0010】
これによれば、外乱オブザーバにより出力電流を推定して補償するとともに、外乱オブザーバによりデッドタイム誤差電圧を推定して補償することにより、各電力変換装置において安定した出力電圧波形が得られる。また、このような電力変換装置によって構成される電力変換システムでは、電力変換装置間の無効電流を抑制・低減することができる。
【0011】
また、本発明において、
前記外乱オブザーバは、
前記出力電流及び前記デッドタイム誤差電圧を補償する統合外乱オブザーバであるようにしてもよい。
【0012】
これによれば、統合外乱オブザーバにより出力電流及びデッドタイム誤差電圧を推定して補償することにより、各電力変換装置において、安定した出力電圧波形が得られる。また、出力電流とデッドタイム誤差電圧に対して個別の外乱オブザーバを設けるのではなく統合外乱オブザーバを設けることにより、制御部の設計の効率化、計算処理の簡略化を図ることもできる。また、このような電力変換装置によって構成される電力変換システムでは、電力変換装置間の無効電流を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゼロクロス付近の無効電流を抑制し、出力波形の安定化が可能な電力変換システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例に係る電力変換システムの概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施例に係るパワーコンディショナの制御系の概略構成を示す図である。
図3】本発明の実施例1に係る制御系を示すブロック線図である。
図4】本発明の実施例1に係る制御系の構成を説明する図である。
図5】本発明の実施例1に係る制御系の構成を説明する図である。
図6】本発明の実施例1に係る制御系における各部の波形を示すグラフである。
図7】本発明の実施例2に係る制御系を示すブロック線図である。
図8】本発明の実施例3に係る制御系を示すブロック線図である。
図9】本発明の実施例3に係る制御系の構成を説明するためのグラフである。
図10】本発明の実施例3に係る制御系における各部の波形を示すグラフである。
図11】本発明の実施例3に係る制御系の効果を説明するグラフである。
図12】本発明の実施例4に係る制御系を示すブロック線図である。
図13】本発明の実施例4に係る制御系の効果を説明するグラフである。
図14】本発明の実施例5に係る電力変換システムの概略構成を示す図である。
図15】本発明の実施例5に係る制御系の効果を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔適用例〕
以下、本発明の適用例について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は、本発明が適用される電力変換システム1の概略構成図である。電力変換システム1は、複数のパワーコンディショナ100等が並列接続され、通常時は商用電力系統300と連系して運転されるが、商用電力系統300からの電力供給が停止されると、負荷400に電力を供給する自立運転が可能である。
【0017】
本発明は、上述のような電力変換システム1を構成する第1パワーコンディショナ100に含まれる第1インバータの制御部102において実現される制御系に好適に適用することができる。
【0018】
図3は、本発明の適用例である制御系の構成を示す。図3の右上に破線で囲まれた領域はインバータを示すモデルである。減算器10において、入力されたインバータ電圧指令値vinv から、デッドタイム誤差電圧vTdが減算され、インバータ電圧vinvが出力される。インバータ電圧vinvから、減算器11において出力電圧vが減算され、リアクトル電圧vが出力される。リアクトル電圧vに対して積分器12において積分ゲイン1/Lによる積分制御を行う。積分器12から出力されるリアクトル電流iは減算器13に入力される。減算器13において、リアクトル電流iから出力電流ioutが減算される。減算器13の出力に対して積分器14において積分ゲイン1/Cによる積分制御が行われ、出力電圧vが出力される。
【0019】
積分器12から出力されたリアクトル電流iに対して、積分器24において積分ゲイン1/Cによる積分制御を行う。減算器25において、積分器24の出力からは出力電圧vが減算される。減算器25から出力される電圧偏差推定値vdif estに対しては、微分器26において微分ゲインLCによる2階の微分制御が行われ、さらに、2次フィルタ27によりフィルタ処理を行い、リアクトル電圧に変換された出力電流推定値sLiout estを出力する。フィルタ27から出力されたリアクトル電圧推定値sLiout estは加算器28に入力され、出力電圧指令値v と加算され、加算器28からはインバータ電圧指令値vinv が出力される。
【0020】
図3に示す制御系において、デッドタイムを設けない場合の出力電圧指令値v 、インバータ電圧指令値vinv 、出力電圧v図6上段に示し、同じくデッドタイムを設けない場合の電圧変換された出力電流推定値sLiout est図6下段に示す。図6上段では、出力電圧指令値v を実線、インバータ電圧指令値vinv を破線、出力電圧vを一点鎖線で示すが、出力電圧vは出力電圧指令値v に追従し、出力電
圧指令値v とインバータ電圧指令値vinv とが一致するため、3つの値を示す曲線が重なっている。また、図6下段に示すように電圧変換された出力電流推定値sLiout estの波形も安定している。このように、図2に示す制御系をインバータに適用したパワーコンディショナにおいては、デッドタイムを設けない場合には、図6に示すように、出力電圧指令値v に、出力電圧vが追従し、安定した電圧波形が出力される。
【0021】
〔実施例1〕
以下では、本発明の実施例1に係るインバータを含む電力変換システム1について、図面を用いて、より詳細に説明する。ただし、この実施例に記載されている装置及びシステムの構成は各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施例に限定する趣旨のものではない。
【0022】
図1は、複数のパワーコンディショナを含む電力変換システム1の概略構成図である。図1には第1パワーコンディショナ100及び第2パワーコンディショナ200を含む電力変換システム1を示しているが、電力変換システム1を構成するパワーコンディショナの台数はこれに限られず、3台以上の適宜の台数のパワーコンディショナを含んで電力変換システム1を構成することができる。図1では、第1パワーコンディショナ100について、第1インバータ101を含む内部構成の概略を示している。第2パワーコンディショナも同様にインバータその他の構成を有するが詳細な説明は省略する。ここでは、第1パワーコンディショナ100及び第2パワーコンディショナ200がそれぞれ本発明の電力変換装置に対応し、電力変換システム1が本発明の電力変換システムに対応する。
【0023】
第1パワーコンディショナ100及び第2パワーコンディショナ200は接続線500a及び500bにより並列に接続され、通常の連系運転時には、商用電力系統300に連系して運転され、商用電力系統300からの電力供給が停止した自立運転時には場合には、負荷400に対して電力を供給する。電力変換システム1から電力の供給を受ける負荷400の構成は特に限定されず、線形負荷及び非線形負荷のいずれか又は両方を含んでもよい。第1インバータ101は、直流電源Sd1から入力された直流電力を交流電力に変換して出力する。第1パワーコンディショナ100及び第2パワーコンディショナ200に直流電力を入力する直流電源Sd1及びSd2は、蓄電池、太陽電池、燃料電池等の直流電力を出力可能な分散型電源であってもよいし、交流電力を直流電力に変換して出力する電力変換装置であってもよい。第1インバータ101は、スイッチング素子のオンオフを制御することにより、直流電源Sd1から入力された直流電力を交流電力に変換して出力する。スイッチング素子を直列に接続したレグを組み合わせて構成されるスイッチング回路の構成は特に限定されない。スイッチング素子の半導体材料としては、ガリウムナイトライド(GaN)、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)等を用いることができるが、これらに限定されない。また、スイッチング素子としては、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いることができる。ここでは、第1インバータ101が本発明のインバータ部に対応する。
【0024】
第1インバータ101の出力は、出力線101a及び101bにより系統300に供給され、また、接続線500a及び500bを介して負荷400に供給される。第1インバータ101の出力線101aにはリアクトルLが直列に接続され、一端が第1インバータ101に接続されたリアクトルLの他端側では、出力線101aと101bとの間にコンデンサCが接続されている。リアクトルL及びコンデンサCの出力端側には、出力線101aに直列に出力リアクトルLが接続されている。出力リアクトルLの負荷側において、出力線101a及び101bには、接続線500a及び500bを介して、第2インバータ201の出力線201a及び201bが並列に接続される。電力変換システム1には、リアクトルLのリアクトル電流iを計測する電流センサ103、コンデンサCの電
圧である出力電圧vを計測する電圧センサ104、出力リアクトルLの出力電流ioutを計測する電流センサ105が設けられている。リアクトルL及びコンデンサCは、第1インバータ101から出力される電力を平滑化するフィルタ部106を構成する。ここでは、リアクトルL及びコンデンサCが、本発明のフィルタリアクトル及びフィルタコンデンサにそれぞれ対応する。また、フィルタ部106が本発明のフィルタ部に対応する。また、電流センサ103、電圧センサ104、電流センサ105は、本発明のリアクトル電流計測部、出力電圧計測部、出力電流計測部にそれぞれ対応する。
【0025】
ここでは、第1インバータ101から出力線101a及び101bを介して出力されるインバータ電圧をvinv、リアクトルLの電圧であるリアクトル電圧をv、リアクトルLの電流であるリアクトル電流をi、コンデンサCの電圧であるコンデンサ電圧をv、出力リアクトルLの電流である出力電流をioutと表記している。並列に接続される第2パワーコンディショナ200等も同様に構成されるため、特に言及する場合を除き、第1パワーコンディショナ100及び第1インバータ101を代表させ、各パワーコンディショナを区別するための添え字を省略して説明する。
【0026】
図2に、第1インバータ101制御系のブロック図を含む電力変換システム1の概略構成を示す。具体的には、第1インバータ101及びこれを制御する制御部102によって構成される。制御部102は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを含む
コンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific
Integrated Circuit)等を含んで構成することができる。各部の機能の一部又は全部は
、ハードウェアにおいてソフトウェアを実行することにより実現されてもよいし、専用のハードウェアによって実現されてもよい。
【0027】
制御部102は、仮想インピーダンス制御部121、電力演算部122、ドループ制御部123、電圧指令値生成部124、電圧制御オープンループ125、PWM信号生成部126を含む。Zline1及びZline2は、それぞれ第1インバータ101及び第2インバータ201それぞれの出力インピーダンスであり、例えば図1に示す出力リアクトルLに対応するが、これに限られない。
【0028】
垂下制御部1021は、電力演算部122、ドループ制御部123及び電圧指令値生成部124を含み、並列接続された各パワーコンディショナの負荷バランスを調整する垂下制御を行う機能ブロックである。電力演算部122が出力電圧v及び出力電流ioutの計測値から有効電力及び無効電力を計算する。ドループ制御部123は、所定のドループ特性に基づき、有効電力の変動分に応じて出力電圧指令値の周波数ω、無効電流の変動分に応じて出力電圧指令値の振幅Eを決定する。電圧指令値生成部124は、このように決定された周波数ω及び振幅Eに基づいて、出力電圧指令値v を生成する。
【0029】
仮想インピーダンス制御部121は、出力電流ioutに基づいて垂下制御の性能を改善する機能ブロックであり、各インバータの出力インピーダンスを誘導性になるように制御する。
【0030】
電圧制御系1022は、電圧制御オープンループ125、PWM信号生成部126、第1インバータ101、リアクトルL、コンデンサCを含む。所望の電圧を出力する制御系である。垂下制御部1021と仮想インピーダンス制御部121により生成された電圧指令値に追従するように、第1インバータ101を構成するスイッチング素子を駆動するPMW波形のデューティを決定する。以下に説明する制御系は、この電圧制御系1022の電圧制御オープンループ125の構成を具体化したものである。
【0031】
図3のブロック線図において、上側の破線で囲まれた領域は、インバータ(例えば、図
1に示す第1インバータ101)の動作を表すモデルである。減算器10において、入力されたインバータ電圧指令値vinv から、デッドタイム誤差電圧vTdが減算され、インバータ電圧vinvが出力される。ここで、デッドタイムは、例えば第1インバータを構成するレグにおいて、上側アームのスイッチング素子と直列に接続された下側アームのスイッチング素子とを交互にオンオフする際に、両スイッチング素子が同時にオンするのを防止するために、一方のスイッチング素子がオフされてから他方のスイッチング素子がオンされるまでに設けられる両スイッチング素子がオフとなる期間である。このようなデッドタイムにより生じるインバータ電圧に生じるデッドタイム誤差電圧vTd図1では、等価抵抗で示している。入力されたインバータ電圧vinvから、減算器11において出力電圧vが減算され、リアクトル電圧vが出力される。このリアクトル電圧vに対して積分器12において積分ゲイン1/Lによる積分制御を行う。積分器12から出力されるリアクトル電流iは減算器13に入力される。減算器13において、リアクトル電流iから出力電流ioutが減算される。減算器13の出力に対して積分器14において積分ゲイン1/Cによる積分制御が行われ、出力電圧vが出力される。
【0032】
このような構成のインバータに対して、本実施例に係る制御系は以下のように構成される。
積分器12から出力されたリアクトル電流iに対して、積分器24において積分ゲイン1/Cによる積分制御を行う。また、減算器25において、積分器24の出力からは出力電圧vが減算される。減算器25から出力される電圧偏差推定値vdif estに対しては、微分器26において微分ゲインLCによる2階の微分制御が行われ、さらに、2次標準形の伝達関数で表される2次フィルタ27によりフィルタ処理を行い、リアクトル電圧に変換された出力電流推定値sLiout estを出力する。フィルタ27から出力されたリアクトル電圧推定値sLiout estは加算器28に入力され、出力電圧指令値v と加算され、加算器28からはインバータ電圧指令値vinv が出力される。ここでは、積分器24、減算器25、微分器26及びフィルタ27により、出力電流ioutを補償する外乱オブザーバ2が構成される。ここでは、加算器28を含め、入力された出力電圧指令値v に対してインバータ電圧指令値vinv を出力するオープンループが、本発明の電圧制御部に相当する。また、外乱オブザーバ2が本発明の外乱オブザーバ及び電流外乱オブザーバに対応する。
【0033】
このような制御系の構成の技術的意義について、以下に説明する。
図4は、図3でも説明したインバータの動作をモデル化した部分のみを示すブロック線図である。ここでは、減算器10において、入力されたインバータ電圧指令値vinv から、デッドタイム誤差電圧vTdが減算され、インバータ電圧vinvが出力される。さらに、減算器11において、入力されたインバータ電圧vinvから出力電圧vが減算されて、リアクトル電圧vが出力される。このリアクトル電圧vに対して積分器12において積分ゲイン1/Lによる積分制御が行われる。すなわち、この積分器12においてリアクトル電圧vを積分することによりリアクトル電流iが得られる。このようにして積分器12から出力されたリアクトル電流iが減算器13に入力される。減算器13において、リアクトル電流iから出力電流ioutが減算されて、コンデンサ電流iが得られる。この減算器13の結果に対して積分器14において積分ゲイン1/Cによる積分制御が行われる。すなわち、この積分器14において、コンデンサ電流iを積分することによりコンデンサ電圧である出力電圧vが出力される。出力電流ioutは、実際には精度よく検出することは難しい。このため、出力電流ioutを外乱電流と考え、出力電流ioutを打ち消す外乱オブザーバを構成する。
【0034】
図5は、出力電流ioutを打ち消す外乱オブザーバを備えた制御系の一例を示すブロック線図である。微分器18において微分ゲインCによる微分制御が行われ、さらに伝達関数ω/(s+ω)で表されるローパスフィルタ19においてフィルタ処理された出
力電圧vが、減算器20において、伝達関数ω/(s+ω)で表されるローパスフィルタ17によりフィルタ処理されたリアクトル電流iから減算される。ここでは、減算器20から出力される出力電流推定値iout estに対し、微分器21において微分ゲインLによる微分制御を行い、電圧に変換している。微分器21の出力に対しては、伝達関数ωss/(s+ωss)で表されるローパスフィルタ22によるフィルタ処理が行われる。そして、ローパスフィルタ22から出力されたリアクトル電圧推定値sLiout estが加算器23に入力され、出力電圧指令値v と加算され、インバータ電圧指令値vinv が出力される。ここでは、ローパスフィルタ17、微分器18、ローパスフィルタ19、減算器20、微分器21、ローパスフィルタ22によって外乱オブザーバ2aが構成される。外乱オブザーバ2aによって、推定された出力電流推定値iout estが電圧に変換されて出力される。
【0035】
図5に示す制御系では、2次フィルタでは、ωとωssは別々の設計が必要となる。このため、簡単化のためにωとωssとして、2次標準形であるω /(s+2ξωs+ω )を2次フィルタ27として適用することにより、図3に示すような制御系を構成している。
【0036】
図3に示す制御系では、出力電流ioutと同様に外乱として扱うことができるデッドタイム誤差電圧vTdについては、これを打ち消すための外乱オブザーバを構成していない。図3に示す制御系において、デッドタイムを設けない、すなわちデッドタイム誤差電圧vTdが発生しない場合の出力電圧指令値v 、インバータ電圧指令値vinv 、出力電圧v図6上段に示し、同じくデッドタイムを設けない場合の電圧変換された出力電流推定値sLiout est図6下段に示す。図6上段では、出力電圧指令値v を実線、インバータ電圧指令値vinv を破線、出力電圧vを一点鎖線で示すが、出力電圧vは出力電圧指令値v に追従し、出力電圧指令値v とインバータ電圧指令値vinv とが一致するため、3つの値を示す曲線が重なっている。また、図6下段に示すように電圧変換された出力電流推定値sLiout estの波形も安定している。このように、図2に示す制御系をインバータに適用したパワーコンディショナにおいては、デッドタイムを設けない場合には、図6に示すように、出力電圧指令値v に、出力電圧vが追従し、ゼロクロス付近を含め安定した電圧波形が出力され、出力電圧の歪みが改善される。このように安定した電圧波形の出力が可能な第1インバータ101を含む第1パワーコンディショナ100と同様の制御系を有するパワーコンディショナを複数台並列接続して構成された電力変換システム1では、各パワーコンディショナから安定した電圧波形が出力されるので、商用電力系統300から解列されて負荷に電力を供給する自立運転時においても、ゼロクロス付近の無効電流(横流)の発生を抑制・低減することができ、直流電源の電力を効率よく利用することができる。
【0037】
〔実施例2〕
図1の第1パワーコンディショナ100の概略回路構成図から、デッドタイム誤差電圧vTd estについては、以下の式が成り立つ。
【数1】
【0038】
従って、実施例2では、外乱であるデッドタイム誤差電圧vTd estを打ち消すよう
な外乱オブザーバ3を備える制御系として、図7のブロック線図に示す制御系を構成する。図7に示すように、減算器35において、伝達関数ω/(s+ω)で表されるローパスフィルタによってフィルタ処理されたインバータ電圧指令値vinv から、伝達関数ω/(s+ω)で表されるローパスフィルタによってフィルタ処理された出力電圧vと、微分ゲインLによる微分処理が行われ、伝達関数ω/(s+ω)で表されるローパスフィルタによってフィルタ処理されたリアクトル電流iが減算される。減算器35からはデッドタイム誤差電圧推定値vTd estが出力され、加算器36において、出力電圧指令値v と加算される。ここでは、ローパスフィルタ31は再帰演算を回避するために設けられ、ローパスフィルタ33は微分器32によるノイズを回避するために設けられ、ローパスフィルタ34は、ローパスフィルタ31及びローパスフィルタ33と演算タイミングを合わせるために設けられている。ここでは、ローパスフィルタ31、微分器32、ローパスフィルタ33、ローパスフィルタ34、減算器35によって、外乱オブザーバ3が構成される。本実施例の外乱オブザーバ3によって、デッドタイム誤差電圧推定値vTd estが推定される。ここでは、外乱オブザーバ3が、本発明の外乱オブザーバ及び電圧外乱オブザーバに対応する。
【0039】
このように、制御系に外乱であるデッドタイム誤差電圧vTd estを打ち消すような外乱オブザーバ3を設けることにより、インバータ電圧vinvに、デッドタイムによって生じる電圧誤差を補償することにより、出力電圧指令値v に出力電圧vが追従し、ゼロクロス付近を含め安定した電圧波形が出力される。このように安定した電圧波形の出力が可能な第1インバータ101を含む第1パワーコンディショナ100と同様の制御系を有するパワーコンディショナを複数台並列接続して構成された電力変換システム1では、各パワーコンディショナから安定した電圧波形が出力されるので、商用電力系統300から解列されて負荷に電力を供給する自立運転時においても、ゼロクロス付近の無効電流(横流)の発生を抑制・低減することができ、直流電源の電力を効率よく利用することができる。
【0040】
〔実施例3〕
図8は、実施例3に係るインバータの制御系を示すブロック線図である。図3及び図7と共通する構成については、同様の符号を用いて説明を省略する。
【0041】
図8に示すように、実施例3に係る制御系は、実施例1に係る外乱オブザーバ2と実施例3に係る外乱オブザーバ3の両者を備える。加算器35から出力されるデッドタイム誤差電圧推定値vTd estと、2次フィルタ40から出力される電圧変換された出力電流推定値sLiout estとが加算器41において加算され、加算器41の出力が加算器42に入力されて出力電圧指令値v と加算される。
【0042】
図3に示した制御系、すなわち出力電流ioutを補償する外乱オブザーバ2のみを備える制御系では、デッドタイム500nsを設定すると、各波形は図9に示すようになる。図9の上段は、デッドタイム誤差電圧vTdが発生する場合の出力電圧指令値v 、インバータ電圧指令値vinv 、出力電圧vを示し、図9の中段は、電圧変換された出力電流推定値sLiout estを示し、図9の下段は、リアクトル電流iを示す。このように、デッドタイムによる電圧誤差が発生すると出力電圧vが出力電圧指令値v に追従しない。このとき、出力電圧指令値v はインバータ電圧指令値vinv と一致する。図9からは、リアクトル電流iリプルのゼロクロス期間Tzc1及びTzc2ではデッドタイムに起因する電圧誤差が認められないことが分かる。従って、従来のようなデッドタイム電圧誤差補償を追加するだけでは過補償となってしまうため、リアクトル電流iリプルを考慮したデッドタイム電圧誤差が必要とされていた。
【0043】
そこで、本実施例(及び実施例2)では、デッドタイム誤差電圧vTdを外乱とみなし
た外乱オブザーバ3によるデッドタイム誤差電圧の補償を行っている。
図10上段に、デッドタイムを設けた場合の本実施例の制御系における出力電圧指令値v 、インバータ電圧指令値vinv 、出力電圧vを示し、図10下段に外乱オブザーバ2による出力電流iout補償と、外乱オブザーバ3によるデッドタイム誤差電圧vTd補償を加算した加えたvTd est+sLiout estを示す。ここでは、デッドタイムTdを500ns、LC共振周波数fLCを12.6kHzとしている。図10に示されるように、出力電圧vは出力電圧指令値v に追従しており、デッドタイムによる電圧誤差が補償されていること分かる。このとき、THD(出力電圧ひずみ率)は3.8%であった。このようにゼロクロス付近を含め安定した電圧波形の出力が可能な第1インバータを含む第1パワーコンディショナと同様の制御系を有するパワーコンディショナを複数台並列接続して構成された電力変換システム1では、各パワーコンディショナから安定した電圧波形が出力されるので、商用電力系統300から解列されて負荷に電力を供給する自立運転時においても、ゼロクロス付近の無効電流(横流)の発生を抑制・低減することができ、直流電源の電力を効率よく利用することができる。
【0044】
実施例1で説明した図3に示す制御系のように、出力電流ioutを補償する外乱オブザーバ2のみを備えた制御系において、2次フィルタ27の伝達関数をGで表したとき、電流外乱抑圧特性は以下の式で表される。
【数2】
【0045】
式(2)のGに具体的な伝達関数を代入して整理すると、
【数3】


となる。ここで、図11(A)は、ζ=0.1、LC共振周波数12.6kHz、カットオフ周波数fを1~10kHzの範囲で可変としたとき、電流外乱抑圧特性(式(4))のゲインを示したボード線図である。図11(A)において一点鎖線は、外乱オブザーバ2を設けない場合の電流外乱抑圧特性のゲインを示す。図11(A)において実線で示したのは、外乱オブザーバ2を設けた場合の電流外乱抑圧特性のゲインを示す。矢印の方向はカットオフ周波数fが大きくなる場合のゲインの変化を示している。図11(A)から分かるように、外乱オブザーバ2を設けることにより、制御系の外乱抑圧ゲインを低減できている。また、カットオフ周波数fが大きいほど、外乱オブザーバ2の性能が高いが、LC共振成分が電圧指令値に重畳するため、両者はトレードオフの関係にあることが分かる。
【0046】
また、実施例2で説明した図7に示す制御系のように、デッドタイム誤差電圧vTdを補償する外乱オブザーバ3のみを備えた制御において、ローパスフィルタ31の伝達関数をGで表したとき、電圧外乱抑圧特性は以下の式で表される。
【数4】
上述の電流外乱抑圧特性(式(2))と電圧外乱抑圧特性(式(3))の2つの外乱抑圧特性は干渉しないので、図8に示す実施例3に係る制御系において外乱オブザーバ2及び外乱オブザーバ3を別々に設計することができる。
【0047】
式(4)のGに具体的な伝達関数を代入して整理すると、
【数5】

となる。ここで、図11(B)は、LC共振周波数12.6kHz、カットオフ周波数fを1~10kHzの範囲で可変としたとき、電圧外乱抑圧特性(式(5))のゲインを示したボード線図である。図11(B)において一点鎖線は、外乱オブザーバ3を設けない場合の電圧外乱抑圧特性のゲインを示す。図11(B)において実線で示したのは、外乱オブザーバ3を設けた場合の電圧外乱抑圧特性のゲインを示す。矢印の方向はカットオフ周波数fが大きくなる場合のゲインの変化を示している。図11(B)から分かるように、外乱オブザーバ3を設けることにより、制御系の外乱抑圧ゲインを低減できている。また、カットオフ周波数fが大きいほど、外乱オブザーバ2の性能が高いが、LC共振成分が電圧指令値に重畳するため、両者はトレードオフの関係にあることが分かる。
【0048】
〔実施例4〕
以下に、実施例4に係るインバータの制御ついて説明する。実施例4に係る制御系は、実施例3において別々に設けられていた外乱オブザーバ2と外乱オブザーバ3を統合したものである。ここでは、外乱オブザーバ2と外乱オブザーバ3を統合するために、ω=ω=ωのようにカットオフ周波数ωに統一している。
また、デッドタイム誤差電圧vTdを補償するローパスフィルタ31、33、34を2次フィルタに変更している。
【0049】
このようにして、出力電流ioutを補償する外乱オブザーバと、デッドタイム誤差電圧vTdを補償する外乱オブザーバと統合した外乱オブザーバ4を備えた制御系を図12に示す。ここでは、インバータ電圧指令値vinv に対して、伝達関数ω /(s+2ξωs+ω )で表される2次ローパスフィルタ43によりフィルタ処理を行う。そして、出力電圧vに対して微分ゲインLCによる2階の微分制御と比例ゲイン1の比例制御を行い、さらに、伝達関数ω /(s+2ξωs+ω )で表される2次フィルタ45によるフィルタ処理が行われる。そして、減算器46において、2次ローパスフィルタ43から出力されるvinv+vTdから、2次フィルタ45から出力されるvinvestを減算し、出力されたvTd-sLiout estが加算器47に入力され、出力電圧指令値v と加算される。このようにして、制御系では、デッドタイム誤差電圧vTdと出力電流に起因する電圧sLioutが外乱として補償される。実施例4に係る制御系では、1次ローパスフィルタと2次ローパスフィルタが必要であった、統合前の実施例3に比して、2次ローパスフィルタ43及び45のみで構成されるので、設計項目及び計算回数を低減することができる。また、実施例3と同様に、ゼロクロス付近を含め安定した電圧波形の出力が可能な第1インバータ101を含む第1パワーコンディショナ100と同様の制御系を有するパワーコンディショナを複数台並列接続して構成された電力変換システム1では、各パワーコンディショナから安定した電圧波形が出力されるので、商用電力系統300から解列されて負荷に電力を供給する自立運転時においても、ゼロクロス付近の無効電流(横流)の発生を抑制・低減することができ、直流電源の電力を効率よく利用することができる。ここでは、外乱オブザーバ4が、本発明の外乱オブザーバ及び統合外乱オブザーバに対応する。
【0050】
ここで、2次ローパスフィルタ43及び45の伝達関数をGで表したとき、電流外圧特性は以下の式で表される。
【数6】

式(6)に具体的な伝達関数Gを代入して整理すると、
【数7】

となる。ここで、図13(A)は、ζ=0.1、LC共振周波数12.6kHz、カットオフ周波数fを1~10kHzの範囲で可変としたとき、電流外乱抑圧特性(式(7))のゲインを示したボード線図である。図13(A)において一点鎖線は、外乱オブザーバ4を設けない場合の電流外乱抑圧特性のゲインを示す。図13(A)において実線で示したのは、外乱オブザーバ2を設けた場合の電流外乱抑圧特性のゲインを示す。矢印の方向はカットオフ周波数fが大きくなる場合のゲインの変化を示している。図13(A)から分かるように、外乱オブザーバ4を設けることにより、制御系の外乱抑圧ゲインを低減できている。
【0051】
また、電圧外乱抑圧特性は以下の式で表される。
【数8】

式(8)に具体的な伝立つ関数Gを代入して整理すると、
【数9】

となる。ここで、図13(B)は、LC共振周波数12.6kHz、カットオフ周波数fを1~10kHzの範囲で可変としたとき、電圧外乱抑圧特性(式(9))のゲインを示したボード線図である。図13(B)において一点鎖線は、外乱オブザーバ4を設けない場合の電圧外乱抑圧特性のゲインを示す。図13(B)において実線で示したのは、外乱オブザーバ3を設けた場合の電圧外乱抑圧特性のゲインを示す。矢印の方向はカットオフ周波数fが大きくなる場合のゲインの変化を示している。図13(B)から分かるように、電圧外乱抑圧特性について、2次ローパスフィルタ43及び45を適用することにより、電圧外乱抑圧ゲインの大幅な低減が可能となった。従って、本実施例では、負荷電流の40次までの高調波を考慮し、カットオフ周波数fを2kHzに設定している。
【0052】
〔実施例5〕
以下に、実施例5に係るインバータの制御について説明する。図14は、実施例5に係る複数のインバータが並列接続された電力変換システム1の概略構成を示す。第1インバ
ータ101及び第2インバータ201は、実施例4に係るインバータの制御系を備える。ここでは、第1インバータ101及び第2インバータ201には、非線形負荷の例であるダイオード整流器401が接続されている。
【0053】
図15(A)の上段は、外乱オブザーバを設けない場合の第1インバータ101の出力電圧vacを示し、図15(A)の下段は、同じく外乱オブザーバを設けない場合の、電力変換システムの出力電流iacを実線、第1インバータ101の出力電流iac1を点線、第2インバータの出力電流iac2を破線、iac1-iac2をグレーの実線でそれぞれ示している。
これに対して、図15(B)の上段は外乱オブザーバを設けた場合の第1インバータ101の出力電圧vacを示し、図15(A)の下段は、同じく外乱オブザーバを設けた場合の、電力変換システムの出力電流iacを実線、第1インバータ101の出力電流iac1を点線、第2インバータの出力電流iac2を破線、iac1-iac2をグレーの実線でそれぞれ示している。
【0054】
図15(B)に示すように外乱オブザーバを設けることにより、出力電圧vacの歪みが改善しており、安定した出力波形が得られている。THDは7.3%から3.7%へと減少している。ここでは、L=0.8mH、C=11mF、R=68Ω、P(電力)=1kWに設定している。
【0055】
このように安定した電圧波形の出力が可能な第1インバータ101を含む第1パワーコンディショナ100と同様の制御系を有するパワーコンディショナを複数台並列接続して構成された電力変換システム1では、各パワーコンディショナからゼロクロス付近を含め安定した電圧波形が出力されるので、商用電力系統300から解列されて非線形負荷に電力を供給する自立運転時においても、ゼロクロス付近の無効電流(横流)の発生を抑制・低減することができ、直流電源の電力を効率よく利用することができる。
【0056】
<付記1>
並列に接続された複数の電力変換装置(100、200)から負荷(400、401)に電力を供給可能な電力変換システム(1)において、
前記電力変換装置(100、200)は、
スイッチング素子のオンオフにより直流電力を交流電力に変換するインバータ部(101)と、
前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御部(102)と、
前記インバータ部(101)から出力される電力を平滑化するフィルタリアクトル(L)とフィルタコンデンサ(C)を含むフィルタ部(106)と、
前記フィルタ部(106)を介して負荷(400、401)に出力される出力電流を計測する出力電流計測部(105)と、
前記フィルタリアクトル(L)を流れるリアクトル電流を計測するリアクトル電流計測部(103)と、
前記フィルタコンデンサ(C)の電圧である出力電圧を計測する出力電圧計測部(104)と、
を備え、
前記制御部(102)は、
出力電圧指令値に基づいて前記インバータ部から出力されるインバータ電圧の指令値を生成する電圧制御部(125)と、
前記出力電流及び前記スイッチング素子を制御する際のデッドタイムに起因するデッドタイム誤差電圧の少なくともいずれかを補償する外乱オブザーバ(2、3、4)と、
を有することを特徴とする電力変換システム(1)。
【符号の説明】
【0057】
1 :電力変換システム
2,2a,3,4 :外乱オブザーバ
100 :第1パワーコンディショナ
101 :第1インバータ
103,105 :電流センサ
104 :電圧センサ
106 :フィルタ部
200 :第2パワーコンディショナ
201 :第2インバータ
L :リアクトル
C :コンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15