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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100168
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】鉄骨柱梁接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20230710BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
E04B1/24 L
E04B1/58 508S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000657
(22)【出願日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 寛二
(72)【発明者】
【氏名】船積 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 重仁
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB01
2E125AB16
2E125AC15
2E125AC16
2E125AG50
2E125BB01
2E125CA05
(57)【要約】
【課題】鉄骨梁に設計通りの塑性化領域が形成されるように、通しダイアフラムの必要幅を規定した鉄骨柱梁接合構造を提供する。
【解決手段】鉄骨柱2に柱幅より幅の狭い鉄骨梁3を接続させる鉄骨柱梁接合構造1である。
そして、鉄骨柱の内部を貫通して外部に張り出されるブラケット部42を有する通しダイアフラム4と、鉄骨柱側が拡幅されて鉄骨梁側が梁幅に形成されるスプライスプレート5と、スプライスプレートの鉄骨柱側の端部をブラケット部に接合させるとともに、スプライスプレートの鉄骨梁側の端部を鉄骨梁に接合させる複数の高力ボルト6と備え、通しダイアフラムの必要幅が数式で規定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱に柱幅より幅の狭い鉄骨梁を接続させる鉄骨柱梁接合構造であって、
前記鉄骨柱の内部を貫通して外部に張り出されるブラケット部を有する通しダイアフラムと、
鉄骨柱側が拡幅されて鉄骨梁側が梁幅に形成されるスプライスプレートと、
前記スプライスプレートの前記鉄骨柱側の端部を前記ブラケット部に接合させるとともに、前記スプライスプレートの前記鉄骨梁側の端部を前記鉄骨梁に接合させる複数の高力ボルトとを備え、
前記通しダイアフラムの必要幅が以下の式で規定されることを特徴とする鉄骨柱梁接合構造。
【請求項2】
前記スプライスプレートの拡幅側の幅は、前記鉄骨柱から最も遠い前記高力ボルトによる高力ボルト接合のボルト孔位置において前記鉄骨梁が降伏する時に降伏せず、かつ前記鉄骨梁が全塑性に至るまで破断しないように設定されることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨柱梁接合構造。
【請求項3】
前記スプライスプレートの梁幅側に配置された前記高力ボルトの接合箇所よりも前記鉄骨梁側に塑性化領域が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄骨柱梁接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨柱に柱幅より幅の狭い鉄骨梁を接続させる鉄骨柱梁接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造建築物では、特許文献1の図7に開示されているように、柱梁接合部に通しダイアフラムを配置する工法が知られている。また、一般的な通しダイアフラム形式の在来工法における柱梁接合部では、通しダイアフラムと梁状の短梁ブラケットのフランジとが完全溶け込み溶接で接合されている。さらに、柱スキンプレートと短梁ブラケットのウェブとが、隅肉溶接で接合されている。そして、スプライスプレートを介して、短梁ブラケットと梁部材とが高力ボルトによって接合されている。
【0003】
こうした在来工法では、鉄骨製作工場において、柱と短梁ブラケットとが溶接された出来姿の状態になるまでの製作が行われる。すなわち、上記した溶接作業は鉄骨製作工場で行われ、高力ボルトによる接合作業は工事現場で行われることになる。完全溶け込み溶接は、フランジが破断に至るまで、フランジに生じる応力を通しダイアフラムに伝達できる点で非常に優れた溶接方法である。一方で、高い性能が要求されることから、溶接部の品質を確保するために、高度な技術を要する溶接工の確保や、溶接部全数の超音波探傷試験(UT試験)による欠陥の有無の確認など、高度な品質管理が求められている。
【0004】
ここで、在来工法における梁の塑性化領域は、柱と接する梁部材の梁端が塑性化領域の起点となり、梁部材の変形の進展に伴って、梁端から梁部材中央側に向かって塑性化領域が形成されることになる。すなわち、一般に地震時に梁に生じる曲げモーメントが最も大きい部位に、高度な品質管理が要求される完全溶け込み溶接を用いていることになる。
【0005】
一方、特許文献1では、柱から最も遠い高力ボルト接合のボルト孔位置(以下、「第1ボルト位置」という。)が塑性化領域の起点となるように、通しダイアフラムの幅を数式によって規定した発明が開示されている。すなわち地震荷重時に、梁側のみを塑性化させて、通しダイアフラムのブラケット側を弾性内に抑える崩壊機構とすることで、地震後において、梁部のみを補修などして大掛かりな復旧工事が不要となるようにしている。ここで、特許文献1の柱梁接合部のスプライスプレートは、継手全長に渡って同一幅の長方形板状となっている。
【0006】
また、特許文献2にも通しダイアフラム形式の柱梁接合部の発明が開示されているが、通しダイアフラムの幅に関する具体的な規定は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4770096号公報
【特許文献2】特開2020-94344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている数式によって通しダイアフラムの幅を規定したことで想定される崩壊機構は、梁の第1ボルト位置の降伏が必ず先行するための条件が課されていない、梁の塑性変形能力を確保するための条件が課されていない、スプライスプレートが継手全長に渡って同一幅となっているなどの理由から、想定した設計通りに進行するかどうかの疑問が残る。また、特許文献2には、通しダイアフラムの幅に関する規定がない。
【0009】
そこで本発明は、鉄骨梁に設計通りの塑性化領域が形成されるように、通しダイアフラムの必要幅を規定した鉄骨柱梁接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の鉄骨柱梁接合構造は、鉄骨柱に柱幅より幅の狭い鉄骨梁を接続させる鉄骨柱梁接合構造であって、前記鉄骨柱の内部を貫通して外部に張り出されるブラケット部を有する通しダイアフラムと、鉄骨柱側が拡幅されて鉄骨梁側が梁幅に形成されるスプライスプレートと、前記スプライスプレートの前記鉄骨柱側の端部を前記ブラケット部に接合させるとともに、前記スプライスプレートの前記鉄骨梁側の端部を前記鉄骨梁に接合させる複数の高力ボルトとを備え、前記通しダイアフラムの必要幅が以下の式で規定されることを特徴とする。
【0011】
【0012】
ここで、前記スプライスプレートの拡幅側の幅は、前記鉄骨柱から最も遠い前記高力ボルトによる高力ボルト接合のボルト孔位置において前記鉄骨梁が降伏する時に降伏せず、かつ前記鉄骨梁が全塑性に至るまで破断しないように設定される構成とすることができる。また、前記スプライスプレートの梁幅側に配置された前記高力ボルトの接合箇所よりも前記鉄骨梁側に塑性化領域が形成されるようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成された本発明の鉄骨柱梁接合構造は、鉄骨梁に設計通りの塑性化領域が形成されるように、通しダイアフラムの必要幅を数式で規定している。さらに、スプライスプレートを拡幅して、継手部に充分な剛性及び耐力を付与することで、確実に第1ボルト位置で鉄骨梁が全塑性に至ることになり、鉄骨梁の所定の塑性変形能力を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造の構成を示した斜視図である。
図2】鉄骨柱と通しダイアフラムの構成を示した斜視図である。
図3】本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造の構築方法を説明するための斜視図である。
図4】本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造で規定する数式を説明するための説明図である。
図5】本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造の効果を確認するために行った数値解析を説明する図であって、(a)は本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造の解析モデルの斜視図、(b)は比較例となる在来工法の柱梁接合部の解析モデルの斜視図である。
図6】解析結果を説明するグラフである。
図7】スプライスプレートの拡幅側の幅の決め方を説明するための説明図である。
図8】実施例1で説明する鉄骨柱梁接合構造の構造例1の平面図である。
図9】実施例1で説明する鉄骨柱梁接合構造の構造例1の側面図である。
図10】実施例1で説明する鉄骨柱梁接合構造の構造例2の平面図である。
図11】実施例1で説明する鉄骨柱梁接合構造の構造例3の平面図である。
図12】実施例1で説明する鉄骨柱梁接合構造の構造例4の平面図である。
図13】実施例2で説明する鉄骨柱梁接合構造の構造例5の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の構成を示した斜視図である。また、図2は、鉄骨柱2と通しダイアフラム4の構成を示した斜視図、図3は、鉄骨柱梁接合構造1の構築方法を説明するための斜視図である。
【0016】
本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1は、鉄骨柱2に柱幅より幅の狭い梁幅の鉄骨梁3を接続させる交差部に設けられる。図1図3では、鉄骨柱2の交差部分のみを抜き出して図示している。
【0017】
鉄骨柱2には、平面視略正方形を含む略長方形の角形鋼管、円形鋼管などの鉄骨を使用することができる。また、鋼管の内部にコンクリートを充填したコンクリート充填鋼管柱(CFT:Concrete Filled Tube)を、鉄骨柱2とすることもできる。
【0018】
梁との交差部においては、鉄骨柱2の内部は、鋼板によって形成される通しダイアフラム4によって塞がれる。通しダイアフラム4は、交差部の上部と下部に間隔を置いて配置される。通しダイアフラム4,4が設けられた鉄骨柱2の交差部は、既製品を用いてもよいし、後述するように溶接によって組み立てることもできる。
【0019】
例えば、交差部における鉄骨柱2は、上部の通しダイアフラム4の上側に配置される部分と、上下の通しダイアフラム4,4の間に配置される部分と、下部の通しダイアフラム4の下側に配置される部分とに分かれている。そして、鉄骨柱2の各部分と通しダイアフラム4とは、ロボット溶接によって接合される。
【0020】
図2を参照しながら、通しダイアフラム4の詳細について説明する。通しダイアフラム4は、鉄骨柱2の内部を貫通する貫通部41と、外部に張り出されるブラケット部42とが、一枚の一体の鋼板によって形成されている。
【0021】
例えば、平面視略八角形の鋼板によって形成された通しダイアフラム4では、内縁が略正方形で外縁が略八角形の鉄骨柱2の側方に張り出された環状部分が、ブラケット部42となる。
【0022】
鉄骨柱2の交差部の上下から張り出された通しダイアフラム4,4のブラケット部42,42間は、側面視略長方形の鋼板によって形成されるブラケットウェブ43によって繋がれる。
【0023】
ブラケットウェブ43は、鉄骨柱2の側面からの張り出し量がブラケット部42と同じで、鉄骨柱2の各側面の幅方向略中央に配置される。そして、ブラケットウェブ43は、鉄骨柱2の側面と上部のブラケット部42の下面と下部のブラケット部42の上面とに、隅肉溶接によって接合される。
【0024】
ブラケット部42及びブラケットウェブ43には、高力ボルトや超高力ボルトを通すためのボルト孔44が、複数、穿孔される。ボルト孔44の数や位置などの詳細については、後述する。
【0025】
図3に示すように、通しダイアフラム4のブラケット部42及びブラケットウェブ43は、接続する鉄骨梁3の各部の位置に合わせて設けられる。鉄骨梁3は、例えばH形鋼によって形成され、上フランジ31と、下フランジ32と、それらを繋ぐウェブ33とを備えている。ここで、通しダイアフラム4のブラケット部42の厚さは、鉄骨梁3のフランジ(31,32)の厚さと同等以上にする。
【0026】
上部の通しダイアフラム4のブラケット部42は、鉄骨梁3の上フランジ31と突き合わせる位置に設けられ、下部の通しダイアフラム4のブラケット部42は、鉄骨梁3の下フランジ32と突き合わせる位置に設けられる。そして、通しダイアフラム4のブラケットウェブ43は、鉄骨梁3のウェブ33と突き合わせる位置に設けられる。
【0027】
すなわち、本実施の形態の通しダイアフラム4は、在来技術における一般的な「通しダイアフラムとしての機能」と、鉄骨梁3を接続するための「梁ブラケットとしての機能」とを備えている。
【0028】
鉄骨梁3の軸方向端部の上フランジ31、下フランジ32及びウェブ33には、高力ボルトや超高力ボルトを通すためのボルト孔34が、複数、穿孔される。ボルト孔34の数や位置などの詳細については、後述する。
【0029】
このようにして突き合せられる通しダイアフラム4と鉄骨梁3とは、スプライスプレート5を介して、超高力ボルトを含む高力ボルト6によって接合される。要するに、スプライスプレート5の鉄骨柱側の端部は、通しダイアフラム4のブラケット部42に接合され、スプライスプレート5の鉄骨梁側の端部は、鉄骨梁3の端部に接合される。
【0030】
また、スプライスプレート5は、鉄骨柱側が拡幅されて鉄骨梁側が梁幅となるように鋼板によって形成される。すなわち、上部の通しダイアフラム4のブラケット部42と鉄骨梁3の上フランジ31との上面間に架け渡されるスプライスプレート5は、鉄骨柱2に隣接する縁部の幅が柱幅程度に拡幅され、鉄骨梁側の縁部が梁幅にされた平面視略台形状に形成される。下部の通しダイアフラム4のブラケット部42と鉄骨梁3の下フランジ32との下面間に架け渡されるスプライスプレート5も、同様の平面視略台形状に形成される。
【0031】
これに対して、スプライスプレート5と上フランジ31又は下フランジ32を挟んで対向させる添プレート51は、鉄骨梁3のウェブ33の両側にそれぞれ配置できるように、スプライスプレート5の幅の半分以下の幅に形成される。
【0032】
また、通しダイアフラム4のブラケットウェブ43と鉄骨梁3のウェブ33との両方の側面間にそれぞれ架け渡されるウェブプレート52は、鉄骨梁3のウェブ33よりも低い高さの側面視略長方形に、鋼板によって形成される。
【0033】
スプライスプレート5、添プレート51及びウェブプレート52には、高力ボルトや超高力ボルトを通すためのボルト孔53が、複数、穿孔される。ボルト孔53の数や位置などの詳細については、後述する。
【0034】
次に、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1で規定する数式について、図4を参照しながら説明する。
図4は、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の模式図と、鉄骨梁3の第1ボルト位置(A断面位置(鉄骨柱2から最も離れた高力ボルト6による高力ボルト接合のボルト孔位置))での降伏時と全塑性時の曲げモーメント分布を図示したものである。
【0035】
本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1では、鉄骨梁3の耐力及び塑性変形能力を確保するために、通しダイアフラム4のE断面位置における幅(必要幅)に対して次のような条件を課すこととしている。
【0036】
<条件1>鉄骨梁3の第1ボルト位置降伏時
第1ボルト位置(A断面位置)での降伏時に、E断面位置の通しダイアフラム4は降伏しない。
<条件2>鉄骨梁3の第1ボルト位置全塑性時
第1ボルト位置(A断面位置)での全塑性時に、E断面位置の通しダイアフラム4が破断しない。
【0037】
上記した2つの条件を具体的な条件式に書き下し、展開して整理すると以下のようになる。
<条件1>鉄骨梁3の第1ボルト位置降伏時
第1ボルト位置(A断面位置)での降伏時に、E断面位置の通しダイアフラム4が降伏しないという条件1を式に書き下すと次のようになる。
【数1】
【0038】
上式の左辺のE断面位置の通しダイアフラム4の降伏曲げ耐力EMyを、E断面位置の有効断面係数EZeと降伏強度Jdσyとで表わすと、次式のようになる。
【数2】
【0039】
そして、有効断面係数EZeは、次式で表すことができる。なお、柱梁接合部せいJDは、鉄骨梁3の梁せいと同じになる。
【数3】
【0040】
さらに、(数3)で示した式を(数2)で示した式に代入して、E断面位置の通しダイアフラム4のボルト孔44の欠損を考慮した有効幅Ebeで整理すると、以下の式のように表すことができる。
【数4】
【0041】
この有効幅Ebeは、実際に必要となる必要幅Ebと、E断面位置の高力ボルト6の本数Enと、ボルト孔44の孔径dとを用いると、以下の式のように表すことができる。
【数5】
【0042】
これを(数4)で示した式に代入して整理すると、第1ボルト位置の降伏時にE断面位置の通しダイアフラム4が降伏しないために必要となる通しダイアフラム4の必要幅Ebの条件として次式が得られる。
【数6】
【0043】
<条件2>鉄骨梁3の第1ボルト位置全塑性時
第1ボルト位置(A断面位置)での全塑性時に、E断面位置の通しダイアフラム4が破断しないという条件2を式に書き下すと次のようになる。
【数7】
【0044】
ここで、EMuはE断面位置の通しダイアフラム4の破断耐力、EMdはA断面位置での全塑性時のE断面位置の曲げモーメント、αは1.0より小さい接合部係数を示す。
【0045】
(数7)で示した上式の左辺を、E断面位置の通しダイアフラム4とブラケットウェブ43のそれぞれの塑性断面係数(EdZpEwZp)と引張強度(JdσuJwσu)で表わすと次式のようになる。
【数8】
【0046】
E断面位置における通しダイアフラム4の塑性断面係数EdZpは、次式で表すことができる。
【数9】
【0047】
さらに、(数9)で示した式を(数8)で示した式に代入して、E断面位置の通しダイアフラム4のボルト孔44の欠損を考慮した有効幅Ebeで整理すると、以下の式のように表すことができる。
【数10】
【0048】
この有効幅Ebeは、実際に必要となる必要幅Ebと、E断面位置の高力ボルト6の本数Enと、ボルト孔44の孔径dとを用いると、(数5)で示した式のように表すことができるので、(数10)で示した式に代入して整理すると、第1ボルト位置の全塑性時にE断面位置の通しダイアフラム4が破断しないために必要となる通しダイアフラム4の必要幅Ebの条件として、次式が得られる。
【数11】
【0049】
すなわち、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1では、図4に示すE断面位置の通しダイアフラム4の必要幅が、上記(数6)及び(数11)で示した式を満たす構成となっている。
【0050】
本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1では、鉄骨柱側が拡幅されて鉄骨梁側が梁幅に形成されるスプライスプレート5を、鉄骨梁3の上フランジ31の上面と下フランジ32の下面とに対向させて配置している。そこで、スプライスプレート5の拡幅によって得られる効果について、解析的に検討した結果を説明する。
【0051】
図5に、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の効果を確認するために行った数値解析の解析モデルを示した。図5(a)は、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の解析モデルの主要部を拡大して示した斜視図であり、図5(b)は、比較のために解析した在来工法の柱梁接合部の解析モデルの斜視図である。
【0052】
ここで、在来工法の解析モデルでは、H-600×300×12×25及びH-600×300×12×22で示される2種類のH形鋼により梁断面をそれぞれモデル化し、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の解析モデルでは、H-600×300×12×22で示されるH形鋼を、鉄骨梁3の梁断面としてモデル化した。すなわち、在来工法の解析モデルについては、フランジの厚さが1サイズ厚い25mmのH形鋼を使用した場合も作成した。
【0053】
解析は、荷重を梁の自由端に強制変位として与える載荷方式で行った。図6に、梁の自由端のせん断力(kN)と部材角(rad)との関係を示す。本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の解析モデルの解析結果は、実線で示したNo.3である。一方、No.2(点線)は、フランジ厚が1サイズ厚い在来工法(H-600×300×12×25)の解析結果を示し、No.1(破線)は、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1とフランジ厚を同じにした在来工法(H-600×300×12×22)の解析結果を示している。
【0054】
図6の解析結果を見ると、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の解析モデル(No.3)では、フランジ厚が在来工法(No.2)のモデルよりも薄いにも関わらず、在来工法(No.2)と同等の剛性及び耐力を発揮していることが分かる。さらに、フランジ厚が同じ在来工法(No.1)と比較すると、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の解析モデル(No.3)の方が、高い剛性及び耐力を発揮していることが分かる。これは、スプライスプレート5の拡幅が、部材剛性及び耐力の向上に寄与した結果と言える。
【0055】
続いて、スプライスプレート5の拡幅側の幅の決め方について、図7を参照しながら説明する。
【0056】
鉄骨梁3の上フランジ31の上面及び下フランジ32の下面に接触させるスプライスプレート5の幅は、以下の2つの条件を満たすように決定する。
<幅決定条件1>
第1ボルト位置(A断面位置)での鉄骨梁3の降伏時に、B断面及びD断面位置のスプライスプレート5が降伏しないような幅に決定する。
<幅決定条件2>
第1ボルト位置(A断面位置)での鉄骨梁3の全塑性時に、B断面及びD断面位置のスプライスプレート5が破断しないように幅を決定する。
【0057】
次に、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1では、鉄骨梁3に設計通りの塑性化領域が形成されるように、通しダイアフラム4の必要幅を数式(数6,数11)で規定している。
【0058】
また、継手部は、梁に入力される曲げモーメントが大きい箇所に設けられるため、スプライスプレート5を拡幅することで、継手部に充分な剛性及び耐力を付与している。さらに、鉄骨造である鉄骨梁3が塑性変形能力を発揮するためには塑性化領域を確保することが重要となるので、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1では、スプライスプレート5を拡幅して継手に充分な耐力を確保することで、柱側面からオフセットした位置で鉄骨梁3が降伏に至るように設計している。
【0059】
詳細には図4に示すように、鉄骨梁3の降伏は、柱側面から最も遠いボルト孔34(第1ボルト位置)が起点となって生じ、鉄骨梁3の変形の進展に伴って、塑性化領域が第1ボルト位置から鉄骨梁3の中央側に向かって形成されるように、数式(数6,数11)によって規定している。
【0060】
要するに、スプライスプレート5を拡幅して、継手部に充分な剛性及び耐力を付与することで、確実に第1ボルト位置で鉄骨梁3が全塑性に至ることになり、鉄骨梁3の所定の塑性変形能力を発揮させることができる。
【0061】
また、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1では、図6の解析結果で説明したように、スプライスプレート5を拡幅したことによって、在来工法と比べて、鉄骨梁3の梁断面を縮減することができるようになる。
【0062】
そして、在来工法のように梁フランジと通しダイアフラムとの完全溶け込み溶接をする必要がないので、溶接部の品質に左右されない梁の力学性能を確保することができる。また、梁の塑性化領域が、柱側面からオフセットされた位置に形成されるため、梁の力学性能は溶接部の品質に左右されることがない。さらに、鉄骨製作工場における溶接工数を削減できるとともに、超音波探傷試験(UT試験)の試験箇所数も削減でき、鉄骨製作の省力化と生産性を向上させることができる。
【0063】
また、鉄骨製作工場で製作されるのは、図2に示したような、交差部の鉄骨柱2の側面から通しダイアフラム4のブラケット部42が、200mm程度と短く張り出したコンパクトな部材となる。例えば、在来工法の柱から張り出すブラケット長さは1,000mm程度となるため、在来工法の工場で製作した部材は、1台のトレーラーに2本しか積載できなかったが、本実施の形態のようにショートブラケットとすることで、積載可能な柱本数を2倍程度に増やすことができ、運搬効率を向上させることができる。
【実施例0064】
以下、前記した実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の具体的な構成(構造例)について、図8図12を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0065】
図8は、実施例1で説明する鉄骨柱梁接合構造の構造例1の平面図、図9は構造例1の側面図である。構造例1では、鉄骨柱2に550×550×19の角形鋼管を使用し、鉄骨梁3にはH-600×300×12×22のH形鋼を使用している。
【0066】
この構造例1では、鉄骨梁3に生じる曲げモーメントに対して、接合部のスプライスプレート5と母材(鉄骨梁3又はブラケット部42)との間に、一次設計時にすべりが生じないように高力ボルト6の本数を決定している。
【0067】
詳細には、ブラケット側と梁側とのそれぞれに、14本の高力ボルト6が必要となる。14本の高力ボルト6を、スプライスプレート5の最大幅が柱幅となるようにブラケット部42に配置する。このときのブラケット部42の張り出し量(柱側面から先端までの距離)は、200mmとなる。
【0068】
例えば、鉄骨柱2の柱側面と鉄骨柱2に最も近い高力ボルト6の間隔を100mmとし、2列の高力ボルト6の間隔を60mmとし、ブラケット部42の梁側先端のボルト孔44からのはしあきを40mmとすると、それらを足して200mmになる。なお、ブラケット部42の斜め方向の張り出しcは、108mmとなる。
【0069】
ここで、実施例1における高力ボルト6の配置方法は、以下のレールを標準とする。
<ルール1>
ブラケット部42に配置する梁軸方向の高力ボルト6の列数は、2列以下を標準とする。
<ルール2>
スプライスプレート5の最大幅の上限値は、鉄骨柱2の柱幅とし、この幅に高力ボルト6が配置できない場合は、梁軸方向の高力ボルト6を2列を超える列数で配置する。このときは、ブラケット部42の張り出し量は、200mmより大きくなる。
【0070】
図10は、構造例1の鉄骨梁3を、H-600×200×12×22とした場合の構造例2の鉄骨柱梁接合構造1である。すなわち構造例2では、鉄骨柱2に550×550×19の角形鋼管を使用し、鉄骨梁3にはH-600×200×12×22のH形鋼を使用している。
【0071】
そして、構造例1と同様の方法で高力ボルト6の本数を決定すると、ブラケット側と梁側のそれぞれに10本の高力ボルト6が必要になり、これを上記したルールでブラケット部42に配置した結果が、図10となる。ここで、ブラケット部42の斜め方向の張り出しcは、66mmとなる。
【0072】
図11は、鉄骨柱2に550×550×36の角形鋼管を使用し、鉄骨梁3にはH-800×300×14×25のH形鋼を使用した構造例3を示している。構造例3でも、上記したルールに則って、スプライスプレート5の最大幅が柱幅以下となるように、ブラケット側に3列で高力ボルト6を配置している。ここで、ブラケット部42の斜め方向の張り出しcは、195mmとなる。
【0073】
ところで、上述した構造例1-3は、高力ボルト6を使用した場合である。締付軸力が高力ボルトの1.5倍程度となる超高力ボルトを使用することで、別の構造とすることもできる。
【0074】
例えば、構造例1では、ブラケット部42の斜め方向の張り出しcが108mmで、スプライスプレート5の最大幅が柱幅と同じ550mmであったが、超高力ボルトを使用することで、図12の構造例4に示すように、ブラケット部42の斜め方向の張り出しcを73mmとし、スプライスプレート5の最大幅を柱幅よりも小さくして、鋼材量を削減することができる。
【0075】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例0076】
以下、前記した実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1の具体的な構成(構造例)について、図13を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0077】
実施例2で説明する鉄骨柱梁接合構造の構造例5は、上記実施例1で説明した構造例1-4とは異なり、スプライスプレート5の最大幅を鉄骨柱2の柱幅より広くしている。この構造例5は、図11を参照しながら説明した構造例3と同じく、鉄骨柱2に550×550×36の角形鋼管を使用し、鉄骨梁3にはH-800×300×14×25のH形鋼を使用している。
【0078】
そして、構造例3と同じく、ブラケット側と梁側に、それぞれ18本の高力ボルト6が必要になるので、構造例5では、上記実施例1で示した「<ルール1> ブラケット部42に配置する梁軸方向の高力ボルト6の列数は、2列以下を標準とする。」に従って、ブラケット側の高力ボルト6を配置した。
【0079】
この結果、図13に示したように、スプライスプレート5の最大幅は、鉄骨柱2の柱幅を超えることになった。また、ブラケット部42の斜め方向の張り出しcは、168mmとなった。
【0080】
すなわち、構造例3では、スプライスプレート5の最大幅を柱幅以下とするために、ブラケット側に3列で高力ボルト6を配置したが、構造例5のように、ブラケット側に2列で高力ボルト6を配置して、スプライスプレート5の最大幅を鉄骨柱2の柱幅より広くすることもできる。
【0081】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0082】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0083】
例えば、前記実施の形態及び実施例では、鉄骨柱2の四方に鉄骨梁3が接続される構成を例にして主に説明したが、これに限定されるものではなく、少なくとも1本の鉄骨梁3が鉄骨柱2に接続される交差部において、本実施の形態の鉄骨柱梁接合構造1を設けることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 :鉄骨柱梁接合構造
2 :鉄骨柱
3 :鉄骨梁
34 :ボルト孔
4 :通しダイアフラム
42 :ブラケット部
5 :スプライスプレート
6 :高力ボルト
図1
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