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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100226
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】分化型平滑筋細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20230710BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
C12N5/077
A61L27/38
A61L27/38 100
A61L27/38 120
A61L27/38 200
A61L27/38 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000769
(22)【出願日】2022-01-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)第20回日本再生医療学会総会のWeb抄録集 https://site2.convention.co.jp/20jsrm/program/index.html 掲載日 令和3年3月5日 (2)第20回日本再生医療学会総会、完全Web開催 https://site2.convention.co.jp/20jsrm/ 掲載日 令和3年3月11日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】原 亮介
(72)【発明者】
【氏名】松本 桂太郎
(72)【発明者】
【氏名】永安 武
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB19
4B065BC11
4B065BC18
4B065BD25
4B065BD39
4B065CA44
4C081AB12
4C081AB13
4C081AB15
4C081AB16
4C081BB07
4C081BB08
4C081CD34
4C081EA01
(57)【要約】
【課題】間葉系幹細胞から収縮能を有する分化型平滑筋細胞を製造する方法を提供すること。
【解決手段】間葉系幹細胞から分化型平滑筋細胞を製造する方法であって、(1)間葉系幹細胞をMEK阻害剤およびトランスフォーミング増殖因子β1を含有する培地で培養する工程、および(2)デスミンおよび/または平滑筋ミオシン重鎖を発現する細胞の割合が20%以上である細胞集団を回収する工程を含む製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞から分化型平滑筋細胞を製造する方法であって、
(1)間葉系幹細胞をMEK阻害剤およびトランスフォーミング増殖因子β1を含有する培地で培養する工程、および
(2)デスミンおよび/または平滑筋ミオシン重鎖を発現する細胞の割合が20%以上である細胞集団を回収する工程
を含む製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、少なくとも4日間MEK阻害剤およびトランスフォーミング増殖因子β1を含有する培地で培養し、その後トランスフォーミング増殖因子β1を含有するがMEK阻害剤を含有しない培地で培養する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)の培養期間が3週間以上5週間以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞が、骨髄もしくは脂肪組織から採取した間葉系幹細胞または多能性幹細胞から分化誘導して得られた間葉系幹細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞が、平滑筋細胞の移植が必要な対象から得られた間葉系幹細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記MEK阻害剤がPD98059である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法により分化型平滑筋細胞を製造する工程、得られた分化型平滑筋細胞を三次元培養してスフェロイドを形成させる工程を含む、平滑筋細胞スフェロイドの製造方法。
【請求項8】
前記三次元培養において、前記分化型平滑筋細胞に、神経細胞、血管細胞および線維芽細胞から選択される1種以上の細胞を混合してスフェロイドを形成させる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法により得られた分化型平滑筋細胞、または、請求項7または8に記載の製造方法により得られた平滑筋細胞スフェロイドを含有する、平滑筋損傷治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分化型平滑筋細胞の製造方法、および製造された分化型平滑筋細胞の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
平滑筋細胞は、消化管、尿管、気管、血管といった様々な管腔臓器で認められ、収縮・拡張や蠕動運動に関与するなど、様々な臓器において非常に重要な役割を果たしている。そのため、特に再生医療において、主要な臓器である気道、消化管、膀胱、血管、子宮といった様々な人工臓器作成のために必要とされる細胞である。
【0003】
臓器再生を行うためには多量の細胞を必要とするが、平滑筋細胞は生体からの単離手順が煩雑であり、採取量も限定的である。そのため、幹細胞からの分化誘導が不可欠である。また、成熟した平滑筋細胞のほとんどは強い収縮能を有する分化型(収縮型)平滑筋細胞であるが、通常の培養環境では、収縮能の弱い脱分化型(合成型)平滑筋細胞に形質変換してしまう。現在までに、間葉系幹細胞から平滑筋細胞への分化誘導法については複数の報告があるものの、確実な方法は示されておらず、分化型平滑筋細胞の分化誘導法については不明である。
【0004】
本願発明者らは、食道平滑筋細胞と骨髄間葉系幹細胞から作製した三次元培養物を用いて、バイオ3Dプリンターによる人工食道作製に成功し、ラットへの移植手術および術後生存率においても有効性を確認した(非特許文献1)。しかしながら、作製した人工食道の品質には不安定性があり、特に強度の不安定さおよび収縮機能の欠損という課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takeoka Y, Matsumoto K, Taniguchi D, Tsuchiya T, Machino R, Moriyama M, Oyama S, Tetsuo T, Taura Y, Takagi K, Yoshida T, Elgalad A, Matsuo N, Kunizaki M, Tobinaga S, Nonaka T, Hidaka S, Yamasaki N, Nakayama K, Nagayasu T. PLoS ONE (2019) 14(3), e0211339.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、間葉系幹細胞から収縮能を有する分化型平滑筋細胞を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]間葉系幹細胞から分化型平滑筋細胞を製造する方法であって、(1)間葉系幹細胞をMEK阻害剤およびトランスフォーミング増殖因子β1を含有する培地で培養する工程、および(2)デスミンおよび/または平滑筋ミオシン重鎖を発現する細胞の割合が20%以上である細胞集団を回収する工程を含む製造方法。
[2]前記工程(1)において、少なくとも4日間MEK阻害剤およびトランスフォーミング増殖因子β1を含有する培地で培養し、その後トランスフォーミング増殖因子β1を含有するがMEK阻害剤を含有しない培地で培養する、前記[1]に記載の製造方法。
[3]前記工程(1)の培養期間が3週間以上5週間以下である、前記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記間葉系幹細胞が、骨髄もしくは脂肪組織から採取した間葉系幹細胞または多能性幹細胞から分化誘導して得られた間葉系幹細胞である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記間葉系幹細胞が、平滑筋細胞の移植が必要な対象から得られた間葉系幹細胞である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記MEK阻害剤がPD98059である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により分化型平滑筋細胞を製造する工程、得られた分化型平滑筋細胞を三次元培養してスフェロイドを形成させる工程を含む、平滑筋細胞スフェロイドの製造方法。
[8]前記三次元培養において、前記分化型平滑筋細胞に、神経細胞、血管細胞および線維芽細胞から選択される1種以上の細胞を混合してスフェロイドを形成させる、前記[7]に記載の製造方法。
[9]前記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られた分化型平滑筋細胞、または、前記[7]または[8]に記載の製造方法により得られた平滑筋細胞スフェロイドを含有する、平滑筋損傷治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、間葉系幹細胞から収縮能を有する分化型平滑筋細胞を製造する方法を提供することができる。本発明の製造方法により製造された分化型平滑筋細胞および該分化型平滑筋細胞により形成されたスフェロイドは、生体移植用平滑筋細胞として平滑筋損傷治療に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1において、ラット骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)を6通り(群1~6)の培養条件で培養し、分化型平滑筋細胞マーカー(α-平滑筋アクチン、デスミン、カルポニン、平滑筋ミオシン重鎖)の発現を免疫染色で観察した結果である。スケールバーは100μmを示す。
図2図2は、実施例2において、ラットBM-MSCをPD98059およびTGF-β1を含む培地で1週間培養後、分化型平滑筋細胞マーカー(α-平滑筋アクチン、デスミン、カルポニン、平滑筋ミオシン重鎖)の発現を免疫染色で観察した結果である。スケールバーは200μmを示す。
図3図3は、実施例2において、ラットBM-MSCをPD98059およびTGF-β1を含む培地で2週間培養後、分化型平滑筋細胞マーカー(α-平滑筋アクチン、デスミン、カルポニン、平滑筋ミオシン重鎖)の発現を免疫染色で観察した結果である。スケールバーは200μmを示す。
図4図4は、実施例2において、ラットBM-MSCをPD98059およびTGF-β1を含む培地で3週間培養後、分化型平滑筋細胞マーカー(α-平滑筋アクチン、デスミン、カルポニン、平滑筋ミオシン重鎖)の発現を免疫染色で観察した結果である。スケールバーは200μmを示す。
図5図5は、実施例2において、ラットBM-MSCをPD98059およびTGF-β1を含む培地で4週間培養後、分化型平滑筋細胞マーカー(α-平滑筋アクチン、デスミン、カルポニン、平滑筋ミオシン重鎖)の発現を免疫染色で観察した結果である。スケールバーは200μmを示す。
図6図6は、ラットBM-MSCをPD98059およびTGF-β1を含む培地で1週間、2週間、3週間、4週間培養した細胞、またはPD98059およびTGF-β1を含む培地で1週間培養後TGF-β1を含む培地でさらに3週間培養した細胞について分化型平滑筋細胞マーカー(α-平滑筋アクチン、デスミン、カルポニン、平滑筋ミオシン重鎖)の発現を免疫染色で観察し、各陽性細胞率を比較した結果である。スケールバーは200μmを示す。
図7図7は、実施例3におけるコラーゲンベース細胞収縮アッセイの概要を示す図である。
図8図8は、実施例3において、無細胞(群1)、基礎培地で培養したラット皮膚線維芽細胞(DF、群2)、基礎培地で培養したラット平滑筋細胞(SMC、群3)、基礎培地で培養したラット間葉系幹細胞(MSC、群4)、PD98059およびトランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)を含む培地で1週間培養後TGF-β1含有培地でさらに3週間培養したラットBM-MSC(群5)について、細胞収縮アッセイを行った結果である。ET-1(+)およびET-1(-)はエンドセリン-1添加の有無を示す。
図9図9は、実施例3の細胞収縮アッセイにおいて、無細胞あるいは各細胞を含有するコラーゲンゲルの収縮面積を比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔分化型平滑筋細胞の製造方法〕
本発明は、間葉系幹細胞から分化型平滑筋細胞を製造する方法(以下、「本発明の製造方法」と記す)を提供する。本発明の製造方法は、以下の工程(1)および(2)を含むものであればよい。
(1)間葉系幹細胞をMEK阻害剤およびトランスフォーミング増殖因子β1(以下、「TGF-β1」と記す)を含有する培地で培養する工程、および
(2)デスミン(Desmin)および/または平滑筋ミオシン重鎖(smooth muscle myosin heavy chain、以下「SMMHC」と記す)を発現する細胞の割合が20%以上である細胞集団を回収する工程。
【0011】
分化型平滑筋細胞は収縮型平滑筋細胞とも称され、強い収縮能を有する成熟した平滑筋細胞を意味し、動脈硬化の血管内で認められる収縮能の弱い脱分化型平滑筋細胞(合成型平滑筋細胞とも称する)と区別される。分化型平滑筋細胞を通常の培養環境で培養すると容易に脱分化を起こし、収縮能の弱い脱分化型平滑筋細胞に変化することが知られている。分化型平滑筋マーカーとしては、α-平滑筋アクチン(α-smooth muscle actin、以下「α-SMA」と記す)、デスミン、カルポニン(Calponin)、SMMHCなどが挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法で使用する間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)は、骨髄や脂肪などの中胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞の一種であり、骨、軟骨、脂肪などの中胚葉性組織に分化する能力を有する細胞である。間葉系幹細胞は、特定の遺伝子の発現または非発現を指標に特定することができる。間葉系幹細胞で発現する遺伝子(間葉系幹細胞マーカー)としては、例えば、CD106、CD166、CD29、CD105、CD73、CD44、CD90、CD71、Stro-1などが挙げられる。また、間葉系幹細胞で発現しない遺伝子(ネガティブマーカー)としては、例えば、CD31、CD18、CD56、CD45、CD34、CD14、CD11、CD80,CD86、CD40などが挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法で使用する間葉系幹細胞は、生体から採取した間葉系幹細胞であってもよく、多能性幹細胞から分化誘導して取得した間葉系幹細胞であってもよい。生体から採取した間葉系幹細胞としては、骨髄または脂肪組織から採取した間葉系幹細胞を好適に用いることができる。本発明の製造方法で使用する間葉系幹細胞は、ヒトの間葉系幹細胞でもよく、ヒト以外の生物の間葉系幹細胞でもよい。ヒト以外の生物は特に限定されず、例えば、哺乳動物であってもよい。哺乳動物としては、例えば、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット等が挙げられる。骨髄または脂肪組織から間葉系幹細胞を採取する方法は、公知の方法から適宜選択することができる。例えば、Ishiiら(Pharmaceutics (2021) 13:1264)に記載の方法などが挙げられる。多能性幹細胞を分化誘導して間葉系幹細胞を取得する方法は、公知の方法から適宜選択することができる。例えば、Dupuis V.ら(World Stem Cells(2021)13:1094-1111)に記載の方法などが挙げられる。間葉系幹細胞を取得するために使用可能な多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(ntES細胞)、精子幹細胞(GS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが挙げられる。生体から採取した間葉系幹細胞は、生体から単離した間葉系幹細胞を凍結保存した間葉系幹細胞であってもよく、細胞バンク等の寄託機関に寄託された間葉系幹細胞であってもよい。
【0014】
本発明の製造方法で製造される分化型平滑筋細胞は、平滑筋損傷部位への移植用平滑筋細胞として好適に用いることができるので、本発明の製造方法で使用する間葉系幹細胞は、平滑筋細胞の移植が必要な対象から得られた間葉系幹細胞であることが好ましい。本平滑筋細胞の移植が必要な対象は、例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒト等の哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。自分自身の間葉系幹細胞分化誘導して得られた平滑筋細胞を移植に用いるので、拒絶反応が生じることなく移植が可能となる。
【0015】
工程(1)では、間葉系幹細胞をMEK阻害剤およびTGF-β1を含有する培地で培養する。工程(1)で使用する培地は、間葉系幹細胞から平滑筋細胞への分化過程の細胞の培養に適した培地であれば特に限定されず、動物細胞の培地として一般に用いられる培地を用いることができる。例えば、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最小必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、ハムF-12培地、ウイリアムE培地、これらの混合培地などが挙げられる。血清を含まない培地を用いてもよく、無血清培地は無血清サプリメントを含有する培地であってもよい。無血清サプリメントとしては、市販の無血清サプリメントや公知の無血清サプリメントを好適に用いることができる。具体的には、例えば、N-2サプリメント、B27サプリメント、KSR(KnockOut Serum Replacement)などが挙げられる。必要に応じて、その他の血清代替物、各種アミノ酸、各種無機塩、各種ビタミン、抗生物質、抗真菌剤等を添加してもよい。本発明製造方法により製造された分化型平滑筋細胞をヒト生体移植に用いる場合は、異種動物の成分を含有しないゼノフリー(Xeno-free)培地を用いることが好ましい。
【0016】
工程(1)で用いるMEK阻害剤は、MEK(MAPK/ERK kinase)を抑制する物質であれば特に限定されず、MEK1阻害剤および/またはMEK2阻害剤であってもよい。例えば、トラメチニブ(Trametinib)、コビメチニブ(Cobimetinib)、ビニメチニブ(Binimetinib)、セルメチニブ(Selumetinib)、レファメティニブ(Refametinib)、ピマセルチブ(Pimasertib)、U0126、MEK162/ARRY-162、AZD8330/ARRY-424704、GDC-0973/RG7420、GDC-0623/RG7421/XL518、CIF/RG7167/RO4987655、CK127/RG7304/RO5126766、E6201、TAK-733、PD-0325901、AS703988/MSC2015103B、WX-554、CI-1040/PD184352、AS703026、PD318088、PD98059、SL327、並びにこれらの薬学的に許容される塩及び溶媒和物が挙げられる。また、MEK阻害剤はMEKの発現を阻害する核酸(例えば、siRNA、shRNA、microRNA、アンチセンス核酸等)であってもよい。好ましくはPD98059である。
【0017】
MEK阻害剤の培地への添加量は、間葉系幹細胞から分化型平滑筋細胞への分化誘導に適した量であれば特に限定されない。用いるMEK阻害剤に応じて目的を達成可能な添加量を、予備試験等により決定することが好ましい。例えば、MEK阻害剤としてPD98059を用いる場合、0.1μg/mL以上、0.5μg/mL以上、1.0μg/mL以上、1.5μg/mL以上、2.0μg/mL以上であってもよく、10.0μg/mL以下、9.0μg/mL以下、8.0μg/mL以下、7.0μg/mL以下、6.0μg/mL以下、5.0μg/mL以下、4.5μg/mL以下、4.0μg/mL以下、3.5μg/mL以下、3.0μg/mL以下であってもよい。PD98059の培地への添加量は1.0μg/mL以上5.0μg/mL以下であってもよく、1.5μg/mL以上4.0μg/mL以下であってもよく、2.0μg/mL以上3.0μg/mL以下であってもよく、2.5μg/mLであってもよい。
【0018】
工程(1)で用いるTGF-β1には、ヒトおよび他の動物由来のTGF-β1、ならびにこれらの機能的改変体が含まれる。例えば、市販の組換えヒトTGF-β1を使用することができる。TGF-β1の培地への添加量は、間葉系幹細胞から分化型平滑筋細胞への分化誘導に適した量であれば特に限定されない。0.1ng/mL以上、0.5ng/mL以上、1.0ng/mL以上、1.5ng/mL以上、2.0ng/mL以上であってもよく、10.0ng/mL以下、9.0ng/mL以下、8.0ng/mL以下、7.0ng/mL以下、6.0ng/mL以下、5.0ng/mL以下、4.5ng/mL以下、4.0ng/mL以下、3.5ng/mL以下、3.0ng/mL以下であってもよい。TGF-β1の培地への添加量は1.0ng/mL以上5.0ng/mL以下であってもよく、1.5ng/mL以上4.0ng/mL以下であってもよく、2.0ng/mL以上3.0ng/mL以下であってもよく、2.5ng/mLであってもよい。
【0019】
工程(1)で使用する細胞培養容器は、培養細胞の接着培養が可能な培養容器であれば特に限定されない。例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、カルチャースライド、シャーレなどが挙げられる。細胞接着に適した表面加工を施した培養容器を用いてもよい。
【0020】
播種細胞数は特に限定されず、用いる培養容器の培養面積に応じて適宜設定すればよい。培地交換は2~3日毎に行い、継代時に80~90%コンフルエントになるように播種細胞数を設定することが好ましい。培養条件は特に限定されず、一般的な動物培養細胞の培養条件で培養することができる。具体的には、例えば、培養温度37℃、5%CO雰囲気下で培養することができる。
【0021】
培養期間は特に限定されないが、例えば、成熟した分化型平滑筋細胞のマーカーを発現する細胞の割合(陽性細胞率)を指標に培養終了時を決定してもよい。成熟した分化型平滑筋細胞マーカーとしては、たとえばデスミン、SMMHCなどが挙げられる。成熟した分化型平滑筋細胞マーカーを発現する細胞は、公知の免疫染色技術により検出することができる。培養期間は、少なくともデスミンおよびSMMHCのいずれか一方の陽性細胞率が20%以上になるまで続けることが好ましい。より好ましくは、デスミンおよびSMMHCのいずれか一方の陽性細胞率が25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上になるまで培養を続ける。
【0022】
培養期間は3週間以上であってもよい。3週間以上培養することにより、デスミンおよびSMMHCのいずれか一方の陽性細胞率が20%以上になり、得られる平滑筋細胞は、高い収縮能を有する分化型平滑筋細胞であることが確認されている。培養期間は6週間以下であってもよい。好ましくは3週間以上5週間以下であり、3週間以上4週間以下であってもよく、4週間以上5週間以下であってもよく、4週間であってもよい。
【0023】
MEK阻害剤とTGF-β1の両方を含有する培地で培養する期間は、全培養期間であってもよく、培養開始から全培養期間の90%以上であってもよく、培養開始から全培養期間の80%以上であってもよい。また、培養開始から一定期間をMEK阻害剤とTGF-β1の両方を含有する培地で培養し、その後TGF-β1を含有しMEK阻害剤を含有しない培地で培養を続けてもよい。MEK阻害剤とTGF-β1の両方を含有する培地で培養する期間は、培養開始から4日間以上であることが好ましく、5日間以上、6日間以上、7日間(1週間)以上であってもよい。その後TGF-β1を含有しMEK阻害剤を含有しない培地で培養する期間は、培養終了時まで続けてもよく、培養終了前1週間~培養終了時の任意の時期まで続けてもよい。
【0024】
工程(2)では、デスミンおよび/またはSMMHCを発現する細胞の割合が20%以上である細胞集団を回収する。デスミン発現細胞およびSMMHC発現細胞は、公知の免疫染色技術により検出することができる。発現する細胞の割合(陽性細胞率)は、顕微鏡による観察または顕微鏡画像の画像解析等により算出することができる。細胞集団の回収方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、接着細胞を公知の方法で剥がし、遠心分離により回収する方法等を用いてもよい。
【0025】
工程(2)において回収する細胞集団は、デスミンおよびSMMHCのいずれか一方の陽性細胞率が20%以上であればよく、デスミンおよびSMMHCの一方または両方の陽性細胞率が25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、50%以上であってもよい。
【0026】
本発明の製造方法により、従来確立されていなかった強い収縮能を有する分化型平滑筋細胞の製造方法を提供できる。本発明の製造方法を用いれば、大型動物の管腔臓器再生に必要とされる多量の平滑筋細胞を容易に入手することが可能となり、また再生した臓器に収縮や蠕動運動といった機能を持たせることができる。
【0027】
工程(2)で回収した細胞が収縮能を有することは、例えば、コラーゲンベース細胞収縮アッセイ(実施例3参照)等の公知の方法により確認することができる。
【0028】
〔平滑筋細胞スフェロイドの製造方法〕
本発明は、平滑筋細胞スフェロイドの製造方法(以下、「本発明のスフェロイド製造方法」と記す)を提供する。本発明のスフェロイド製造方法は、上記本発明の製造方法の工程(1)および(2)に加えて、得られた分化型平滑筋細胞を三次元培養してスフェロイドを形成させる工程を含むものであればよい。分化型平滑筋細胞の三次元培養方法は特に
限定されず、公知の三次元培養方法を用いることができる。例えば、Taniguchiら(Intractive Cardiovascular and Thoracic Surgery, 26(2018) 745-752)に記載の方法などが挙げられる。
【0029】
本発明のスフェロイド製造方法により製造される平滑筋細胞スフェロイドは、上記本発明の製造方法により、間葉系幹細胞から製造された分化型平滑筋細胞以外の細胞を含むスフェロイドであってもよい。分化型平滑筋細胞以外の細胞は、特に限定されないが、例えば、神経細胞であってもよく、血管細胞であってもよく、線維芽細胞であってもよく、これらの細胞の2種以上を混合した細胞であってもよい。神経細胞をスフェロイドに混入することにより、神経を保持した平滑筋組織の再生が可能となり、より生体へ近い機能の獲得が期待できる。
【0030】
〔平滑筋損傷治療用医薬組成物〕
本発明は、上記本発明の製造方法で得られた分化型平滑筋細胞、または、上記本発明のスフェロイド製造方法により得られた平滑筋細胞スフェロイドを含有する平滑筋損傷治療用医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」と記す)を提供する。医薬組成物には、医薬品、医療機器、および再生医療製品が含まれ得る。本発明の医薬組成物の投与方法としては、平滑筋損傷部位に分化型平滑筋細胞または平滑筋細胞スフェロイドを投与(移植)する方法が挙げられる。投与(移植)した分化型平滑筋細胞または平滑筋細胞スフェロイドを損傷部位に接着させるために、損傷部位にフィブリン糊、ゼラチンゲル、コラーゲンゲル、ヒアルロン酸ゲル等を塗布してもよい。本発明の医薬組成物の投与対象は特に限定されないが、例えば哺乳動物であってもよい。哺乳動物としては、例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなどが挙げられる。好ましくはヒトである。
【0031】
本発明の医薬組成物の治療対象疾患は、例えば、肺癌、気管癌、外傷性消化管損傷、胃癌、大腸癌、食道癌、消化管穿孔、消化性潰瘍(潰瘍性大腸炎、クローン病)、尿管損傷、動脈硬化症、子宮筋腫などが挙げられる。
【0032】
本発明には、さらに以下の発明が含まれる。
(i)上記本発明の製造方法で得られた分化型平滑筋細胞、または、上記本発明のスフェロイド製造方法により得られた平滑筋細胞スフェロイドを、平滑筋損傷部位に移植する工程を含む、平滑筋損傷治療方法。
(ii)平滑筋損傷治療に使用するための、上記本発明の製造方法で得られた分化型平滑筋細胞、または、上記本発明のスフェロイド製造方法により得られた平滑筋細胞スフェロイド。
(iii)平滑筋損傷治療用医薬組成物を製造するための、上記本発明の製造方法で得られた分化型平滑筋細胞、または、上記本発明のスフェロイド製造方法により得られた平滑筋細胞スフェロイドの使用。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
〔実施例1:骨髄由来間葉系幹細胞から平滑筋細胞への分化誘導〕
<ラット骨髄由来間葉系幹細胞の調製>
ラット骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)は、既報(Ishii M et al., Pharmaceutics (2021) 13:1264)に従って調製した。すなわち、3週齢のFischer344ラット(オス)の後肢から大腿骨を取り出し、筋肉を除去した後、関節腔からリン酸緩衝液(PBS)を勢いよく注入することにより押し出して採取した。採取した細胞は、以下の組成の基礎培地で培養した。基礎培地:10%FBS(Hyclone社製)、1%ペニシリン(100IU/mL)/ストレプトマイシン(100μg/mL)混合溶液(富士フィルム和光社製)およびアムホテリシンB(0.25μg/mL、富士フィルム和光社製)を含むDMEM/F-12培地(富士フィルム和光社製)。培地は3日毎に交換した。継代は80~90%コンフルエントに達した時点で実施した。1~2回継代後、以下の実験に用いた。
【0035】
上記のように調製した細胞を、以下の6群に分けて培養した。培養は、37℃、5%CO雰囲気下で行い、培地は48時間ごとに交換した。
(1)[群1]基礎培地で1週間培養。
(2)[群2]2.5μg/mL PD98059(富士フィルム和光社製)を含む基礎培地で1週間培養。
(3)[群3]2.5ng/mL TGF-β1(Pepro Tech社製)を含む基礎培地で1週間培養。
(4)[群4]基礎培地で4週間培養。
(5)[群5]2.5ng/mL TGF-β1を含む基礎培地で4週間培養。
(6)[群6]2.5μg/mL PD98059および2.5ng/mL TGF-β1を含む基礎培地で1週間培養後、2.5ng/mL TGF-β1を含む基礎培地でさらに3週間培養。
【0036】
<細胞分化の免疫組織学的評価>
分化型平滑筋細胞マーカーの免疫蛍光標識により細胞分化の評価を行った。免疫蛍光標識は既報(Ghionzoli M et al., FASEB Journal (2013)27:4853-4865)に従って行った。すなわち、上記のように培養した培養1週間後または4週間後の細胞をPBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド(ナカライテスク社製)で15~20分間固定した。固定した細胞は、0.5%Tritonで透過処理を行い、3%BSAを含むPBS中で30分間インキュベートして非特異的抗体結合部位のブロッキングを行った。ブロッキング後、一次抗体を添加して室温で1時間反応させた。一次抗体には、分化型平滑筋細胞マーカーに対する抗体として、モノクローナル抗α平滑筋アクチン抗体(α-SMA、ヒツジポリクローナルIgG抗体、250倍希釈、Abcam社製)、抗デスミン抗体(ウサギポリクローナルIgG抗体、200倍希釈、Abcam社製)、抗カルポニン抗体(ウサギモノクローナルIgG抗体、250倍希釈、Abcam社製)、抗平滑筋ミオシン重鎖抗体(SMMHC、マウスモノクローナルIgG抗体、300倍希釈、Abcam社製)を使用した。一次抗体反応後の細胞は3%BSAを含むPBSで洗浄後、各一次抗体に対応する蛍光標識二次抗体と室温で1時間反応させた。二次抗体反応後の細胞はDAPI含有封入剤(Vector Laboratories社製)で封入して核染色し、染色した細胞を蛍光顕微鏡下で観察して各抗体に対する陽性率を比較した。
【0037】
<結果>
図1に各一次抗体に対する染色像を示す。PD98059(群2)またはTGF-β1(群3)を含む培地で1週間培養した細胞は、基礎培地で培養した細胞(群1)と比べてわずかにカルポニン陽性細胞の出現が確認されたものの、デスミンおよびSMMHC陽性細胞は確認されなかった。TGF-β1のみを含む培地で4週間培養した細胞(群5)は、基礎培地で培養した細胞(群4)と比べてカルポニン陽性およびSMMHC陽性細胞のわずかな出現が確認された。一方、PD98059およびTGF-β1を含む培地で1週間培養後、TGF-β1を含む培地に交換して3週間培養した細胞(群6)では、その過半数が、デスミン陽性、カルポニン陽性およびSMMHC陽性細胞であった。すなわち、「PD98059およびTGF-β1を含む培地で1週間培養後、TGF-β1を含む培地に交換して3週間培養する」という分化誘導方法が、平滑筋細胞を効率よく誘導する非常に優れた方法であることが確認された。
【0038】
〔実施例2:培養時間の評価〕
培養時間と細胞分化について評価した。ラット骨髄由来間葉系幹細胞を2.5μg/mL PD98059および2.5ng/mL TGF-β1を含む基礎培地で培養し、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後に回収して、実施例1と同様に免疫組織学的に細胞分化の評価を行った。培地は48時間ごとに交換した。
【0039】
<結果>
図2~6に各分化型平滑筋細胞マーカーの免疫染色像を示す。培養1週間後の細胞では、分化型平滑筋細胞マーカー陽性細胞はほとんど認められなかった(図2)。培養2週間後の細胞では、デスミン陽性率の増加が認められたものの、全体として分化型平滑筋細胞マーカー陽性細胞は少なかった(図3)。培養3週間後の細胞では各分化型平滑筋細胞マーカーについて陽性細胞数の増加が認められ(図4)、培養4週間後の細胞では各分化型平滑筋細胞マーカーの陽性率のさらなる上昇が確認された(図5)。
【0040】
上記培養4週間後の細胞について、実施例1における群6(PD98059およびTGF-β1を含む培地で1週間培養後、TGF-β1を含む培地でさらに3週間培養)の結果と比較すると、各分化型平滑筋細胞マーカーについて同程度の陽性率が認められた(図6)。すなわち、MEK阻害剤を最初の1週間だけでなく、全培養期間(4週間)添加しても平滑筋細胞を効率的に分化誘導できることが示された。
【0041】
〔実施例3:コラーゲンベース細胞収縮アッセイ〕
誘導された細胞の収縮性について試験を行った(図7)。収縮アッセイは、以下の5群について実施および比較を行った。
(1)[群1]培地のみ
(2)[群2]基礎培地で培養したラット皮膚線維芽細胞(DF)
(3)[群3]基礎培地で培養したラット平滑筋細胞(SMC)
(4)[群4]基礎培地で培養したラット間葉系幹細胞(MSC)
(5)[群5]2.5μg/mL PD98059および2.5ng/mL TGF-β1を含む基礎培地で1週間培養後、2.5ng/mL TGF-β1を含む基礎培地でさらに3週間培養したラット骨髄由来間葉系幹細胞
【0042】
上記各群について、1mLあたり5.0×10細胞となるよう調整し、タイプIコラーゲンを含むMEM培地に加えて37℃、5%CO雰囲気下で2時間インキュベートした。培養ディッシュ壁からコラーゲンゲルを剥離し、ゲルの直径(Da)を計測した。エンドセリン-1を添加して、または添加せずにさらに24時間インキュベートし、ゲルの直径(Db)を計測した。細胞の収縮性は、次の計算式により算出し、比較した。
収縮率={1-(Db/Da)}×100(%)
【0043】
<結果>
図8に上記収縮アッセイの各段階におけるゲル像を示す。通常培地で培養した各細胞の収縮能は、エンドセリン-1無添加の条件では非常に弱い、または無であった(群2:10%、群3:3%、群4:9%)。エンドセリン-1添加の条件ではいずれの細胞も弱い収縮能を示した(群2:13%、群3:28%、群4:18%)。一方、PD98059およびTGF-β1を含む培地で培養したラット骨髄由来間葉系幹細胞(群5)は、エンドセリン-1無添加の状態で中程度の収縮能(50%)を示し、エンドセリン-1添加の条件では非常に強い収縮能(69%)を示した。収縮した面積を比較すると、ラットMSC(群4)と本願発明の誘導方法により分化誘導した細胞(群5)間で統計学的に有意な差が認められた(図9、p=0.0006、t検定)。すなわち、本願発明の平滑筋細胞分化誘導方法および製造方法により得られた細胞は、高い収縮能を持つ分化型平滑筋細胞であることが明らかとなった。これに対し、成熟平滑筋細胞であるラットSMC(群3)は、収縮能をほとんど有さない脱分化型平滑筋細胞に脱分化したものと考えられた。
【0044】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9