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特開2023-100257アクチン線維束の形成異常抑制用組成物、及び、皮膚外用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100257
(43)【公開日】2023-07-18
(54)【発明の名称】アクチン線維束の形成異常抑制用組成物、及び、皮膚外用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9794 20170101AFI20230710BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230710BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 8/42 20060101ALI20230710BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K8/9794
A61K8/9789
A61K8/67
A61K8/65
A61K8/42
A61K8/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206999
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2022000598
(32)【優先日】2022-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000112266
【氏名又は名称】ピアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】和木田 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】今村 翼
(72)【発明者】
【氏名】仲尾次 浩一
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和彦
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA162
4C083AB032
4C083AC072
4C083AC122
4C083AC422
4C083AC442
4C083AC482
4C083AC641
4C083AD092
4C083AD331
4C083AD431
4C083AD492
4C083AD621
4C083AD622
4C083AD631
4C083AD641
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】アクチン線維束の形成異常を抑制できるアクチン線維束の形成異常抑制用組成物、及び、皮膚外用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物、及び、皮膚外用組成物は、アサイー抽出物及びクプアス抽出物を含むことを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アサイー抽出物及びクプアス抽出物を含む、アクチン線維束の形成異常抑制用組成物。
【請求項2】
レチノール、ナイアシンアミド、アスコルビン酸構造含有化合物、セラミド、コラーゲン、及び、ヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物を含む、皮膚外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば皮膚に塗布されて使用される、アクチン線維束の形成異常抑制用組成物、及び、皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人体を構成する細胞は、細胞を支持して安定化させるための細胞骨格を有する。例えば、表皮細胞などの皮膚細胞も細胞骨格を有する。細胞骨格は、細胞の形状又は力学的特性などに関連しており、細胞運動、細胞分裂、細胞内輸送、細胞シグナル伝達といった細胞の様々な動的プロセスと関わり合うため、重要な役割を有する。
【0003】
細胞骨格は、例えばアクチン線維束(アクチンフィラメント)等のタンパク質構造で構成されている。アクチン線維束は、球状のアクチン分子がつながることによって形成されている。アクチン分子は、ATPを介した反応によってアクチン線維束から解離したりアクチン線維束に会合したりできる。このようなアクチン分子の解離及び会合が細胞表層におけるアクチン線維束で起こるため、細胞は、葉状仮足及び糸状仮足といった小突起を細胞の先端部で突出させたり、内部へ引き入れたりすることができる。このような細胞の動きが活発になると、例えば皮膚の表皮細胞では、細胞骨格が増強して、皮膚のバリア機能が向上したり、皮膚のハリ又は弾力が向上したりすると考えられる。
【0004】
上記のように、皮膚の表皮細胞などの細胞骨格は、細胞形態を保つ役割などを有し、例えばアクチン線維束で形成されることが知られている。また、アクチン分子とミオシン分子との複合体であるアクチンストレスファイバーが皮膚の老化度にも関連していることが知られている。例えば、皮膚老化度の評価方法において、アクチンストレスファイバーを有する角化細胞の割合を指標として採用し、この割合が低いほど皮膚老化度が高いと評価する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
特許文献1に記載された評価方法によれば、角化細胞においてアクチンストレスファイバーを有する細胞数の割合が高ければ、皮膚老化度が低いと判断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-177007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、アクチン線維束又はアクチンストレスファイバーなどが健全な皮膚状態の指標となり得ることが知られている。特に、アクチン線維束が皮膚細胞において上記の葉状仮足を盛んに形成することによって、皮膚の良好なハリ及び弾力といった健康的な機能をより発揮できると考えられる。反対に、例えば、紫外線又は酸化ストレス等によって葉状仮足などの形成が阻害され、アクチン線維束の形成異常が起こると、皮膚のハリ又は弾力が低下したり、皮膚老化度が高まったりすると考えられる。
【0008】
そこで、紫外線又は酸化ストレス等によって葉状仮足などの形成が阻害されることなどを抑えるべく、アクチン線維束の形成異常を抑制できるアクチン線維束の形成異常抑制用組成物、及び、皮膚外用組成物が要望されている。
【0009】
本発明は、上記要望点等に鑑み、アクチン線維束の形成異常を抑制できるアクチン線維束の形成異常抑制用組成物、及び、皮膚外用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るアクチン線維束の形成異常抑制用組成物は、アサイー抽出物及びクプアス抽出物を含むことを特徴とする。
上記のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物によれば、アクチン線維束の形成異常を抑制できる。
【0011】
本発明に係るアクチン線維束の形成異常抑制用組成物は、レチノール、ナイアシンアミド、アスコルビン酸構造含有化合物、セラミド、コラーゲン、及び、ヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
これにより、アクチン線維束の形成異常をより抑制できる。
【0012】
本発明に係る皮膚外用組成物は、上記のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物を含むことを特徴とする。
上記の皮膚外用組成物によれば、アクチン線維束の形成異常を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物及び皮膚外用組成物によれば、アクチン線維束の形成異常を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】正常なヒト表皮ケラチノサイト(NHEK)の一例(拡大写真では葉状仮足)を表す光学顕微鏡写真。
図2】過酸化水素又は紫外線によって誘発されたNHEKのアクチン線維束の形成異常を表す光学顕微鏡写真。
図3】過酸化水素又は紫外線によって誘発されたNHEKのアクチン線維束の凝集体を表す光学顕微鏡写真。
図4】NHEKのアクチン線維束の凝集体、NHEKの葉状仮足の形成異常などを表す光学顕微鏡写真。
図5】過酸化水素又は紫外線によって誘発されたアクチン線維束の局在化が認められる細胞の割合を表すグラフ。
図6】過酸化水素によって酸化ストレスを受ける前後のNHEKの細胞面積、及び、細胞あたりのARPC2粒子数の変化を表すグラフ。
図7】紫外線を受ける前後のNHEKの細胞面積、及び、細胞あたりのARPC2粒子数の変化を表すグラフ。
図8】過酸化水素及びアサイー/クプアス抽出物による処理を受けたNHEKの光学顕微鏡写真、及び、その処理によるアクチン局在化スコアの評価結果を表すグラフ。
図9】過酸化水素及びアサイー/クプアス抽出物による処理を受ける前後のNHEKの細胞面積、及び、細胞あたりのARPC2粒子数の変化を表すグラフ。
図10】過酸化水素、アサイー抽出物、クプアス抽出物、又は、アサイー/クプアス抽出物による処理を受けたNHEKのアクチン局在化スコアの評価結果を表すグラフ。
図11】アクチン線維束の形成阻害剤又は形成促進剤による処理を受けた3D表皮モデルの切断断面の光学顕微鏡写真、及び、表皮の厚さを表すグラフ。
図12】皮膚外用組成物をヒトの顔の肌に塗布することによって実施した肌の弾力性の試験結果を表すグラフ。
図13】皮膚外用組成物をヒトの顔の肌に塗布することによって実施した実使用評価試験結果を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るアクチン線維束の形成異常抑制用組成物及び皮膚外用組成物(以下、いずれも単に組成物ともいう)の一実施形態について以下に説明する。
【0016】
本実施形態の組成物は、アサイー抽出物及びクプアス抽出物を含む。
【0017】
アサイー抽出物は、ヤシ科のアサイー(学名:Euterpe oleracea Mart. 又はEuterpe precatoria)の果実に対して抽出溶媒による抽出処理を施したものである。
抽出処理方法の詳細(抽出溶媒など)については、後述する。
【0018】
クプアス抽出物は、カカオ属のクプアス(学名:Theobroma grandiflorum )の果実に対して抽出溶媒による抽出処理を施したものである。
抽出処理方法の詳細(抽出溶媒など)については、後述する。
【0019】
上記のアサイー抽出物及びクプアス抽出物を含む原料としては、市販製品(例えば、製品名「エムエスエキストラクト AF<アサイー/クプアス>」 丸善製薬社製 固形分を0.50質量%含有)を用いることができる。
【0020】
上記の組成物に含まれる上記のアサイー抽出物及びクプアス抽出物の合計濃度は、特に限定されず、例えば、乾燥物換算で0.0001質量%以上1.0000質量%以下である。
なお、乾燥物換算とは、抽出物から溶媒を除いた残渣(乾燥物)の質量に換算することである。
【0021】
上記の各抽出物は、溶媒によって希釈された希釈液、濃縮された濃縮液、又は溶媒を除去した乾燥物の態様になり得る。具体的には、各抽出物は、例えば、液体状、ペースト状、ゲル状、粉末状などの態様になり得る。
【0022】
上述した各抽出物の抽出溶媒としては、水、又は、メタノール、エタノール、プロパノールなどの脂肪族1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールなどの脂肪族多価アルコール;アセトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;アセトニトリル;酢酸エチルなどのエステル類;キシレン、ベンゼン、トルエンなどの芳香族類;クロロホルムなどハロゲン化アルキル類などの有機溶媒が挙げられる。
これらの抽出溶媒は、1種が単独で、又は2種以上が混合されて用いられ得る。混合されてなる抽出溶媒の混合比は、特に限定されるものではなく、適宜調整される。
【0023】
抽出溶媒としては、脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールなどの脂肪族アルコールと水とを含む抽出溶媒が好ましく、脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールの少なくとも一方と水とを含む抽出溶媒がより好ましく、エタノール又は1,3-ブチレングリコールの一方と水とを含む抽出溶媒がさらに好ましい。
【0024】
抽出の方法としては、特に制限されず、従来公知の一般的な抽出方法を採用することができる。
また、例えば、抽出溶媒量が抽出原料の5倍量以上15倍量以下(質量比)であり、抽出温度が20℃以上80℃以下であり、抽出時間が2時間以上3日間以下である。抽出した後においては、必要に応じて、適宜、ろ過、脱臭、脱色などの精製処理を行うことができる。抽出処理の後、1,3-ブチレングリコールなどによって希釈されたものを採用してもよい。
【0025】
本実施形態の組成物は、アサイー抽出物及びクプアス抽出物の両方を含むため、いずれか一方の抽出物を含む組成物よりも、アクチン線維束の形成異常をより抑制できる。しかも、2種の抽出物を組み合わせることによって、この抑制効果が相乗的に発揮される。従って、本実施形態の組成物は、例えば皮膚等に塗布された後に、例えば表皮細胞においてアクチン線維束が凝集体を形成したり、アクチン線維束が葉状仮足を形成できなかったりするといったアクチン線維束の形成異常を抑制することができる。
このようなアクチン線維束の形成異常は、紫外線を受けたり、酸化ストレスを受けたりしたときに発生しやすい。また、アクチン線維束の形成異常によって、表皮細胞自体の厚みが減少したり、表皮の厚みが減少したりする現象が誘導され得る。
これに対して、本実施形態の組成物は、皮膚が紫外線を受けたり、酸化ストレスを受けたりしても、アクチン線維束の形成異常を抑制することによって、表皮細胞を含む皮膚の状態を健やかに保てると期待できる。具体的には、肌のハリの向上、弾力の向上などにつながることを期待できる。
【0026】
本実施形態の組成物は、レチノール、ナイアシンアミド、アスコルビン酸構造含有化合物、セラミド、コラーゲン、及び、ヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含むことが好ましく、レチノールをさらに含むことがより好ましい。これにより、アクチン線維束の形成異常をより抑制できる。
【0027】
上記のアスコルビン酸構造含有化合物としては、アスコルビン酸、又は、アスコルビン酸誘導体などが挙げられる。
アスコルビン酸は、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸マグネシウム、又は、アスコルビン酸カルシウムなどの塩の状態であってもよい。
アスコルビン酸誘導体としては、例えば、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸脂肪酸エステルなどが挙げられる。アスコルビン酸誘導体は、塩の状態であってもよい。
上記のコラーゲンは、加水分解処理された加水分解コラーゲンであってもよい。
上記のヒアルロン酸は、加水分解処理された加水分解ヒアルロン酸であってもよい。
【0028】
特に、本実施形態の組成物が、アサイー抽出物とクプアス抽出物とレチノールとを含むことにより、アクチン線維束の形成異常をより十分に抑制でき、肌のハリ及び弾力を顕著に向上できる。
【0029】
本実施形態の組成物は、通常、水を含む。本実施形態の組成物は、上述した成分以外にも、一般的な化粧料や皮膚外用剤等に配合される成分を含んでもよい。本実施形態の組成物が含み得る成分としては、例えば、ジプロピレングリコール、グリセリン、ペンチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール類が挙げられる。また、例えば、防腐剤、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン類、酵素等の成分が挙げられる。本実施形態の組成物は、例えば、医薬部外品原料規格、化粧品種別配合成分規格、化粧品原料基準、日本薬局方、食品添加物公定書規格等に記載の成分で構成される。
【0030】
本実施形態の組成物の性状は、特に限定されないが、室温において例えば、液状、半固形状(ジェル状若しくはクリーム状)、又は、固形状である。
【0031】
本実施形態の組成物は、上記の抽出物と、その他の成分とを一般的な方法によって混合撹拌することによって製造できる。
【0032】
本実施形態の上記組成物は、例えば、皮膚などに塗布されて使用される。上記の組成物は、例えば、顔の皮膚、首の皮膚、四肢の皮膚、頭皮、鼻孔・唇・耳・生殖器・肛門などにおける粘膜に塗布されることが可能な人体への外用剤である。また、上記の皮膚外用組成物は、入浴剤の用途で使用されてもよく、皮膚貼付剤の用途で使用されてもよい。上記の組成物は、薬機法上の化粧料、医薬部外品、医薬品等の分類には特に拘束されず、いくつかの分野に適用される。
【0033】
本発明のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物、及び、皮膚外用組成物は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の実施形態に限定されるものではない。また、本発明では、一般の皮膚外用組成物等において採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例0034】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
まず、後に説明する各種実験で使用した各種薬剤などについて以下に列記する。
<使用試薬等>
[使用細胞]
・ヒト表皮ケラチノサイト(NHEK)(クラボウ社製)
製品名「KK-4009」新生児表皮角化細胞(凍結NHEK(NB))
[使用試薬]
・アクチン染色処理液:製品名「Alexa Fluor Phalloidin488」(200倍希釈)
・ARPC2染色処理液:
ARPC2は、アクチン線維の分枝及び架橋に関わるタンパク質であるArp2/3複合体ユニットの1つである。
製品名「Anti-ARPC2」(1次抗体)(100倍希釈)
製品名「Alexa Fluor 568」(2次抗体)(200倍希釈)
・核染色処理液:製品名「Hoechst 33342」(1000~2000倍希釈)
[紫外線処理]
・紫外線を照射(12.5mJ/cm 、25mJ/cm
波長域:約280~380nm ピーク波長:311~313nm
使用機器:東芝医療用品社製「デルマレイ-200 タイプA・B」
[酸化ストレス処理]
・過酸化水素水(終濃度200μM)
[アクチン線維束の形成阻害剤]
・Cytochalasin D(終濃度1μM)
[アクチン線維束の形成促進剤]
・Rac/Cdc42 Activator II(終濃度1unit/mL)
[抽出物]
・アサイー抽出物+クプアス抽出物の混合物(乾燥物換算濃度0.42質量%)
製品名「エムエスエキストラクト AF<アサイー/クプアス>」(丸善製薬社製)
アサイー果実8質量部+クプアス果実1質量部を混合して抽出処理
抽出溶媒:エタノール25質量%含有の水溶液
・アサイー抽出物(抽出溶媒:エタノール25質量%含有の水溶液)
・クプアス抽出物(抽出溶媒:エタノール25質量%含有の水溶液)
[固定液]
・4質量%パラホルムアルデヒド(PFA)液
[細胞透過処理液]
・0.25質量%TritonX-200/PBS(リン酸緩衝生理食塩水)液
[ブロッキング液]
・1.5質量% BSA(ウシ血清アルブミン)/PBS(リン酸緩衝生理食塩水)
【0036】
以下に説明する実験例は、NHEKに対して過酸化水素水による酸化ストレス処理を施し、さらに上記の抽出物に暴露した実験例であるが、別途、酸化ストレス処理などを実施しない実験、上記の抽出物に暴露しない実験なども行った。
<光学顕微鏡観察(過酸化水素水による酸化ストレス処理あり)>
1.ウェル上にカバーガラスを静置した6ウェルプレートを用意し、各ウェルにヒト表皮ケラチノサイト(NHEK)を播種した。NHEKがカバーガラスと接着してから1日後に、上記抽出物含有培地に置換した。さらに1日経過した後、過酸化水素水と上記抽出物とを含有した培地に置換した。その後、2日間培養した。
2.固定液によってNHEKを固定する処理を15分間行った。
3.PBSによってNHEKの洗浄を3回実施した。
4.カバーガラスに沿うように細胞透過処理液を添加して、透過処理を10分間実施した。
5.PBSによって洗浄を3回実施した。
6.カバーガラスをピンセットでつかみ、NHEKの接着面が上になるようにカバーガラスをパラフィルム上に静置した。
7.ブロッキング液をカバーガラス上に供給し、30分間のブロッキング処理を実施した。
8.1次抗体をブロッキング液にて希釈した液をカバーガラス上に供給し、室温で1時間の1次抗体反応を実施した。
9.PBSにて洗浄を5回実施した。
10.2次抗体、及び、アクチン染色処理液をブロッキング液にて希釈した後、カバーガラス上に供給して、室温で1時間の2次抗体反応を行った。
11.PBSにて洗浄を2回行い、核染色処理液をPBSで希釈した後、カバーガラス上に供給して、室温で10分間の核染色処理を実施した。
12.PBSにて洗浄を3回行った。
13.封入剤を垂らしたスライドガラスを用意し、ピンセットを用いて、カバーガラスの細胞接着面をスライドガラス側に配置して、細胞を封入した。
14.封入剤が乾いた後、光学顕微鏡を用いて細胞を観察した。
以上の操作のタイムスケジュールは、以下の通りである。
(0日目)NHEK播種
(1日目)培地交換及び抽出物の添加
(2日目)過酸化水素水による処理
(4日目)固定処理 その後、染色処理
【0037】
図1には、アクチン染色処理した通常のNHEKの光学顕微鏡写真の一例が示されている。NHEKのアクチン線維束は、細胞辺縁部に存在し、アクチン線維束に富んだ葉状仮足を形成していた。図1の右側に示す拡大図から把握されるように、放射状又は同心円状に伸長するアクチン線維束が形成されており、典型的な葉状仮足の形態が観察された。一方、細胞の核の周辺では、アクチン線維束があまり形成されていなかった。
【0038】
図2は、紫外線処理、又は、酸化ストレス処理を施した後のNHEKの光学顕微鏡写真(アクチン染色処理)である。図2から把握されるように、紫外線処理、及び、酸化ストレス処理のいずれによっても、アクチン線維束が凝集体となる傾向が認められ、また、葉状仮足の形成異常が誘発される傾向が認められた。
【0039】
図3は、酸化ストレス処理を施した後のNHEKの光学顕微鏡写真であって、上記のアクチン染色処理、上記のARPC2染色処理、及び、上記の核染色処理でそれぞれ染色処理されたNHEKの光学顕微鏡写真である。なお、ARPC2は、ARP2/3複合体ユニットの1つであり、アクチン線維の分岐架橋タンパク質である。ARPC2は、葉状仮足の形成に重要な役割を有することが知られている。図3から把握されるように、アクチン線維束の凝集体が認められる部分では、ARPC2染色処理による染色も確認されるため、NHEKにおいてArp2/3複合体がアクチン線維束と共に局在して、葉状仮足形成に関与している可能性がある。また、酸化ストレス処理を受けたNHEKにおいてArp2/3複合体がアクチン線維束の局在変化に関与している可能性がある。
【0040】
続いて、アクチン線維束の局在化をスコア化するための定量解析方法について説明する。
【0041】
<アクチン線維束の各状態の解析(アクチン局在スコア評価)>
1.画像処理ソフトウェア「ImageJ」によってコンピュータ上において解析用画像ファイルを開いた。
2.1つの細胞体が途切れることなく、1枚の画像内に収まっている細胞を画像解析の対象とした。
3.アクチン染色処理液によって染色された画像を解析対象とした。
4.「アクチン線維束の凝集体が見える細胞」「葉状仮足の形成異常が見られる細胞」「その両方が見られる細胞」「いずれも見られない細胞」という4つのカテゴリに仕分けした。
5.アクチン線維束が線維状になっておらず、凝集しているものを凝集体とした。
6.比較的多くのアクチン線維束が同心円状且つ放射状に伸長している構造を葉状仮足と定義した。この構造がない細胞を葉状仮足の形成異常としてカウントした。
7.上記4つのカテゴリに該当する細胞数をカウントした。
8.3回の異なる実験系での結果を解析した。
各カテゴリに仕分けされた細胞の代表例を図4にそれぞれ示す。
【0042】
<細胞あたりのArp2/3複合体(ARPC2)の粒子数/細胞面積 解析方法>
1.画像処理ソフトウェア「ImageJ」によってコンピュータ上においてARPC2染色された画像のファイルを開いた。
2.細胞膜が認識できるように画像のコントラストを調整した。
3.画像を8bitモノクロに変換した。
4.細胞体1つが途切れることなく、1枚の画像内に収まっている細胞を対象とした。
5.細胞の膜部分を選択ツールでトラッキングし、計測範囲を選んだ。
6.粒子が識別できる染色濃さとなるように閾値を設定した。
7.「analyze particle」ツールで粒子解析を行った。
(ある程度の大きさの粒子を解析するため、粒子解析を0.1-infinityに設定した)
8.1枚の画像における1~2個の細胞を解析対象とした。
9.細胞面積の測定では、上記5.の操作後に、Analyze→Measure ツールによって選択範囲のAreaを細胞面積として算出した。
【0043】
図5は、アクチン線維束の凝集体が認められるNHEKの割合、及び、葉状仮足の形成異常が認められるNHEKの割合が、紫外線処理、又は、酸化ストレス処理によって高くなることを示すグラフである。
【0044】
図6は、酸化ストレス処理がNHEKの細胞面積に与える影響、及び、酸化ストレス処理が細胞あたりのARPC2粒子数に与える影響を示す各グラフである。NHEKに酸化ストレス処理を施すことによって、NHEKの細胞面積が有意に増加し、また、ARPC2の粒子数が有意に増加することがわかる。
【0045】
図7は、紫外線処理がNHEKの細胞面積に与える影響、及び、酸化ストレス処理が細胞あたりのARPC2粒子数に与える影響を示す各グラフである。酸化ストレス処理と同様に、紫外線処理によって、NHEKの細胞面積が有意に増加し、また、ARPC2の粒子数が有意に増加することがわかる。
【0046】
図8は、酸化ストレス処理を施したNHEKに対して、さらに「アサイー抽出物及びクプアス抽出物」を添加(乾燥物換算で合計濃度が0.0021質量%)したことによる影響(アクチン局在化)を表す写真及びグラフである。図8から把握されるように、NHEKに対して「アサイー抽出物及びクプアス抽出物」を添加することによって、酸化ストレス処理を受けても、アクチン線維束の局在変化を抑制できることがわかった。
【0047】
図9は、酸化ストレス処理を施したNHEKに対して、さらに「アサイー抽出物及びクプアス抽出物」を添加(乾燥物換算で合計濃度が0.0021質量%)したことによる影響(NHEKの細胞面積、細胞あたりのARPC2の粒子数)を表す写真及びグラフである。図9から把握されるように、NHEKに対して「アサイー抽出物及びクプアス抽出物」を添加することによって、NHEKの細胞面積の増大を抑えることができ、また、ARPC2の粒子数の増加を抑えることができた。
【0048】
図10は、酸化ストレス処理を施したNHEKに対して、アサイー抽出物又はクプアス抽出物の少なくともいずれかが与える影響(アクチン局在化)を表すグラフである。なお、各抽出物の濃度は、乾燥物換算の質量%で示されている。図10から把握されるように、アサイー抽出物及びクプアス抽出物の両方が相乗的にはたらいて、アクチン凝集体の増加を抑える作用、及び、葉状仮足の形成異常を抑える作用が発揮されていると考えられる。
【0049】
<3D表皮モデルを用いた実験方法>
さらに、3D表皮モデルを用いて、上記のアクチン線維束の形成阻害剤、又は、上記のアクチン線維束の形成促進剤といった薬剤処理による表皮構造への影響を調べた。
3次元表皮モデル(製品名「EPI-200kit」MatTek社製)を用いて実験を行った。キット付属のEPI-100アッセイ培地を37℃で30分間インキュベートした。あらかじめ調製しておいたコントロール用培地を24ウェルプレートに0.9mLずつ供給した。その培地の上に表皮モデルのインサートを乗せ、37℃で1時間馴化した。
馴化してから、予め37℃でインキュベートしておいた薬剤入りアッセイ培地の入った24ウェルプレートにインサートを移し、薬剤処理を開始した(37℃、CO:5%)。薬剤の処理時間が限定される場合、各処理時間後インサートをPBSにて洗浄し、再びコントロール用培地に移した。
薬剤処理開始から24時間経過した後、3次元表皮モデルを回収し、PBSにて洗浄した。その後、10質量%中性緩衝ホルマリン溶液で固定処理を実施した。協同病理社において、標本作製、切片作成、及び、ヘマトキシリン・エオシン染色を行い、光学顕微鏡観察にて組織切片像を得た。
【0050】
図11は、上記のアクチン線維束の形成阻害剤、又は、上記のアクチン線維束の形成促進剤による、表皮厚さ(角質層を除く)への影響を表す写真及びグラフである。図11から把握されるように、アクチン線維束の形成阻害剤によって表皮が薄くなることがわかった。一方、アクチン線維束の形成促進剤によって表皮が厚くなることがわかった。
この結果から、正常なアクチン線維束の形成が促進されることにより、表皮の厚さ(角質層を除く)が厚くなるといえる。これにより、皮膚のバリア機能が向上したり、皮膚のハリ又は弾力が向上したりすることが期待できる。
【0051】
<ハリ弾力モニター試験1>
上記のアサイー抽出物+クプアス抽出物の混合物を含む皮膚外用組成物と、レチノールを含む皮膚外用組成物をそれぞれ用いて、肌のハリ(弾力)に対する効果について評価を実施した。詳しくは、各皮膚外用組成物を毎日2回、顔の左右いずれか半分に塗布してもらい、2,4,6,8週間後の肌のハリ(弾力)をそれぞれの皮膚外用組成物について測定した。試験方法の詳細は、以下の通りである。
(ハリ弾力モニター試験1プロトコール)
・塗布した組成物
A.アサイー抽出物+クプアス抽出物を乾燥物換算で合計0.0042質量%含む乳液
B.レチノールを0.0495質量%含む乳液
・測定機器(皮膚粘弾性)
皮膚粘弾性測定装置
装置名「Cutometer DUAL MPA580」(Courage+Khazaka electronic社製)
・使用プローブ
「Cutometer CT580」2mm径(Courage+Khazaka electronic社製)
・解析方法
R2(総弾力)、R5(正味の弾性)、R7(回復弾性)の各指標にてそれぞれ解析した。これらの各指標は国際的に広く認められた弾力パラメーターであり、加齢に伴って減少する値であるため、肌のハリ弾力と相関する指標として広く用いられている。詳しくは、以下の通りである。
R2:粘性変形を含む皮膚の総弾性の指標(粘弾性とも称される)
R5:粘性変形を含まない皮膚の弾性の指標
R7:吸引時の変形に対する皮膚の即時的な回復力を表す弾力の指標
・各組成物の塗布方法
朝晩各1回ずつ顔の半分に約0.15gの各組成物を塗布した。試験期間は8週間、2週間ごとに上記装置によって肌の弾力を測定した。
・被試験者
40代以上の男性12名
・測定条件
室温24度、湿度50RH%に設定した検査室にて、洗顔後に15分間馴化を行った。馴化後、各組成物を塗布した頬にプローブを押し当て、R2,R5,R7の各指標の測定値を得た。
0週目(試験開始直前)の測定値を1とし、2週間ごとに測定した測定値を相対値で表したグラフを図12に示す。
【0052】
図12から把握できるように、上記A.の組成物は、上記B.の組成物よりも、4週目における測定指標が高く、即効的に肌のハリ(弾力)を高める作用を有することが確認された。
上記A.の組成物は、上記B.の組成物よりも、アクチン線維束の形成異常をより抑制できたことにより、肌のハリ弾力をより高めることができたと考えられる。
【0053】
<ハリ弾力モニター試験2>
上記のアサイー抽出物+クプアス抽出物の混合物を含む皮膚外用組成物と、レチノールを含む皮膚外用組成物と、上記のアサイー抽出物+クプアス抽出物+レチノールを含む皮膚外用組成物とをそれぞれ用いて、実使用評価試験を実施した。詳しくは、各皮膚外用組成物を毎日2回、顔の全体に塗布してもらい、2,4,8週間後の肌のハリ(弾力)を各モニターに評価してもらった。試験方法の詳細は、以下の通りである。
(ハリ弾力モニター試験2プロトコール)
・塗布した組成物(配合組成の詳細について表1を参照)
a.アサイー抽出物+クプアス抽出物を乾燥物換算で合計0.0042質量%含む乳液
b.レチノールを0.0495質量%含む乳液
c.アサイー抽出物+クプアス抽出物を乾燥物換算で合計0.0042質量%、および、レチノールを0.0495質量%含む乳液
・各組成物の塗布方法
朝晩各1回ずつ顔の全体にパール粒1粒分(約0.3g)の各組成物を塗布した。
・被試験者
肌のハリ、肌の弾力について悩みを有し、肌のハリ、弾力を改善するために市販の化粧品クリームを毎日使用している女性
(組成物a:21名、 組成物b:18名、 組成物c:17名)
・評価方法
2週間後、4週間後、および8週間後に各モニターで評価を実施した。試験期間は8週間であった。
評価項目は、「肌にハリが出る」、「肌に弾力が出る」の2項目とした。評価は、以下の5段階で行った。
「非常に満足」/「やや満足」/「どちらともいえない」/「やや不満」/「非常に不満」
・結果集計
各組成物を使用した試験群のモニターの回答を集計した。「非常に満足」及び「やや満足」と回答したモニターの割合を算出した。結果を図13に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
図13から把握できるように、上記a.の組成物は、上記b.の組成物よりも、4週目および8週目において「肌にハリが出る」及び「肌に弾力が出る」の満足度が高かった。上記a.の組成物は、上記b.の組成物よりも、アクチン線維束の形成異常をより抑制できたことにより、肌のハリ弾力をより高めることができたと考えられる。
また、上記c.の組成物は、上記a.の組成物および上記b.の組成物よりも、4週目および8週目において「肌にハリが出る」及び「肌に弾力が出る」の満足度が高かった。上記c.の組成物は、上記a.の組成物および上記b.の組成物よりも、アクチン線維束の形成異常をより抑制できたことにより、肌のハリ弾力をより高めることができたと考えられる。
【0056】
上記c.の組成物によって、即ち、アサイー抽出物とクプアス抽出物とレチノールとを組み合わせることによって、アクチン線維束の形成異常を相乗的に抑制でき、これにより、肌のハリ及び弾力を顕著に向上できるといえる。詳しくは、アサイー抽出物及びクプアス抽出エキスが表皮のアクチン線維束の形成異常を抑制し、さらに、レチノールが真皮のコラーゲン及びエラスチンに作用することによって、良好な作用が表皮及び真皮の両方で発揮される。そのため、肌のハリ及び弾力を相乗的に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物及び皮膚外用組成物は、例えば、健常な皮膚等の状態を維持させるために、皮膚などに塗布されて使用される。また、本発明のアクチン線維束の形成異常抑制用組成物及び皮膚外用組成物は、例えば、皮膚のハリ・弾力を向上させるため、若しくは、皮膚のハリ・弾力の低下を抑制するために、また、表皮由来のシワの形成を抑制するため、若しくは、皮膚をシワのない状態へ改善するために、皮膚などに塗布されて使用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13