(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100283
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】油井管継手部の切削用工具および切削方法並びに油井管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23B 27/00 20060101AFI20230711BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230711BHJP
F16L 15/04 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
B23B27/00 A
B23B27/14 C
F16L15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000803
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲次
【テーマコード(参考)】
3C046
3H013
【Fターム(参考)】
3C046CC01
3H013JA02
(57)【要約】
【課題】油井管継手部のピンの切削において、シール部やショルダー部などを平滑に切削し、所定の表面粗さに仕上げることができ、また、ビビリ振動の発生を抑えて高速で切削することができ、さらに工具寿命にも優れる切削用工具を提供する。
【解決手段】切削刃が、工具先端を構成する第1の円弧部C1を有するとともに、この円弧部C1の一端側において、円弧部C1に連なる直線部Sと、この直線部Sに連なる第2の円弧部C2を有し、さらに好ましくは、切削刃が、円弧部C1の他端側において、円弧部C1に連なる直線部Sを有する。切削刃が円弧部C1,C2と直線部Sが組み合わされた構成を有するので、切削面の凹凸の高さが非常に小さくなり、平滑に切削することが可能であり、さらにビビリ振動の発生を抑えて高速で切削することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削刃が、工具先端を構成する第1の円弧部(C1)を有するとともに、該円弧部(C1)の一端側において、円弧部(C1)に連なる直線部(S)と、該直線部(S)に連なる第2の円弧部(C2)を有することを特徴とする油井管継手部の切削用工具。
【請求項2】
さらに、切削刃が、円弧部(C1)の他端側において、円弧部(C1)に連なる直線部(S)を有することを特徴とする請求項1に記載の油井管継手部の切削用工具。
【請求項3】
さらに、切削刃が、円弧部(C1)の他端側において、円弧部(C1)に連なる直線部(S)と、該直線部(S)に連なる第2の円弧部(C2)を有し、
円弧部(C1)の一端側の直線部(S)および円弧部(C2)と他端側の直線部(S)および円弧部(C2)は、円弧部(C1)を中心として対称形状に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の油井管継手部の切削用工具。
【請求項4】
直線部(S)の長さLが0.8mm以上1.2mm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の油井管継手部の切削用工具。
【請求項5】
円弧部(C1)の曲率半径R1が0.4mm以上1.5mm以下、円弧部(C2)の曲率半径R2が0.4mm以上1.2mm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の油井管継手部の切削用工具。
【請求項6】
被削管の管軸に対して平行な直線と被削管ノーズ部外周面の切削時における直線部(S)とのなす角度θ1が1.0°以上2.0°以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の油井管継手部の切削用工具。
【請求項7】
円弧部(C1)の円弧の中心角αが111°±1.25°であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の油井管継手部の切削用工具。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の切削用工具を用い、油井管継手部を構成するピンのうちの少なくともノーズ部外周面の切削加工を行うことを特徴とする油井管継手部の切削方法。
【請求項9】
請求項2または3に記載の切削用工具を用い、ノーズ部外周面からショルダー部までを連続して切削加工することを特徴とする請求項8に記載の油井管継手部の切削方法。
【請求項10】
請求項6に記載の切削用工具を用い、ノーズ部外周面を切削加工するに際し、被削管1回転当たりの切削用工具の管軸方向での送り量を、直線部(S)の長さLとcosθ1の積[L×cosθ1]以下とすることを特徴とする請求項8に記載の油井管継手部の切削方法。
【請求項11】
切削用工具を、その工具中心線が被削管の管軸を通る垂線に対してなす角度θ2が7°以上11°以下となるように取付具に保持させることを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載の油井管継手部の切削方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載の切削用工具を用い、油井管継手部を構成するピンのうちの少なくともノーズ部外周面の切削加工を行うことを特徴とする油井管の製造方法。
【請求項13】
請求項2または3に記載の切削用工具を用い、ノーズ部外周面からショルダー部までを連続して切削加工することを特徴とする請求項12に記載の油井管の製造方法。
【請求項14】
請求項6に記載の切削用工具を用い、ノーズ部外周面を切削加工するに際し、被削管1回転当たりの切削用工具の管軸方向での送り量を、直線部(S)の長さLとcosθ1の積[L×cosθ1]以下とすることを特徴とする請求項12に記載の油井管の製造方法。
【請求項15】
切削用工具を、その工具中心線が被削管の管軸を通る垂線に対してなす角度θ2が7°以上11°以下となるように取付具に保持させることを特徴とする請求項12~14のいずれかに記載の油井管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井管継手部のピンを切削加工するための切削用工具、並びにこの切削用工具を用いた油井管継手部の切削方法および油井管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油井管継手部のピンは、通常、雄ねじ部の先端部分にシール部とショルダー部を構成するためのノーズ部を有している。雄ねじ部を切削加工する場合、ねじ山部分については、複数のねじ山と同等の形状をした工具により切削がなされる。一方、シール部やショルダー部を構成するためのノーズ部の切削は、数ミクロンレベルの厳しい加工精度が要求される。また、その切削においては、高い加工能率が得られること、切削面の平滑性(表面粗さが小さい)が確保されることが必要であり、さらに、切り屑の排出性や工具寿命を高めることも必要となる。
【0003】
油井管継手部の切削技術に関して、特許文献1には、先端に曲率半径が異なる3つ以上の切削刃面を隣接して設けた切削工具が開示されており、この切削工具によれば、一定の速い送り速度で切削しても、表面粗さの細かい切削が可能であるとしている。
また、特許文献2には、曲率半径が異なる2つの切削刃面(切刃)を連続して設けるとともに、両切削刃面の連結部を特定の位置に形成した切削工具が開示されており、この形状の切削工具で仕上げ切削を行うことにより、表面粗さを向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-6108号公報
【特許文献2】実開平5-85505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1、2によれば、それぞれで規定される切削刃面を有する切削工具を用いることで、旧来の切削工具よりも速く、かつ平滑な表面粗さに切削することができるとしている。
しかし、本発明者が検討したところによれば、特許文献1、2に示されるような切削刃面を有する切削工具では、油井管継手部のピンのシール部やショルダー部を所定の表面粗さを確保しつつ、高速で仕上げ切削することは難しい。このため生産性が低く(切削時間が長くなる)、所望の表面粗さも得られない問題がある。
また、これら技術では、必然的に切削抵抗(背分力)が大きくなることから、チッピングが発生しやすく、ビビリ振動などの問題もあって、十分な工具寿命が得られない問題もある。
【0006】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、油井管継手部のピンの切削において、シール部やショルダー部などを平滑に切削し、所定の表面粗さに仕上げることができ、また、ビビリ振動の発生を抑えて高速で切削することができ、さらに工具寿命にも優れる切削用工具を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような切削用工具を用いて油井管継手部のピンを適切に切削加工することができる切削方法および油井管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、切削刃(切刃)が円弧のみで構成された従来の切削用工具(例えば、特許文献1)の問題点とその解決手段について検討を行った。
図4(ア),(イ)は、切削用工具による加工後の切削面の管軸方向断面プロフィールを示すものであり、このうち
図4(ア)が、
図13に示すように切削刃10が円弧部Cのみで構成され、その円弧部Cの曲率半径Rが1.2mmの切削用工具(従来の切削用工具)で加工された切削面の管軸方向断面プロフィールである。この切削用工具の場合、1回転当りの工具送り量を0.9mmとすると、切削面の凹凸の高さはh1となる。このように切削刃が円弧部のみで構成されていると、円弧部の曲率半径を大きくしても結局はh1の高さの凹凸が残存することになるので、1回転当たりの工具送り量を大きくすると原理的に表面粗さの増大は避けられない。
【0008】
このような問題を解決するため、本発明者は、円弧部と直線部を組み合わせた切削刃とすることにより、切削面の凹凸の高さを小さくするという着想をもとに検討を重ねた結果、切削刃を、工具先端を構成する第1の円弧部C1と、この円弧部C1に連なる直線部Sと、この直線部Sに連なる第2の円弧部C2を有する構成(形状)とすること、さらに好ましくは、円弧部C1,C2の曲率半径や直線部Sの構成を最適化することにより、切削面の凹凸の高さを非常に小さくすることができ、しかも、ビビリ振動の発生を抑えつつ高速(高い送り速度)での切削が可能となることを見出した。
図4(イ)が、そのような切削用工具(円弧部C1の曲率半径:1.2mm、円弧部C2の曲率半径:0.4mm)による切削面の管軸方向断面プロフィールの一例であり、
図4(ア)と同じ工具送り量(1回転当り0.9mm)であっても切削面の凹凸の高さはh2と非常に小さくなり、平滑に切削することが可能となる。
【0009】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]切削刃が、工具先端を構成する第1の円弧部(C1)を有するとともに、該円弧部(C1)の一端側において、円弧部(C1)に連なる直線部(S)と、該直線部(S)に連なる第2の円弧部(C2)を有することを特徴とする油井管継手部の切削用工具。
[2]上記[1]の切削用工具において、さらに、切削刃が、円弧部(C1)の他端側において、円弧部(C1)に連なる直線部(S)を有することを特徴とする油井管継手部の切削用工具。
[3]上記[1]の切削用工具において、さらに、切削刃が、円弧部(C1)の他端側において、円弧部(C1)に連なる直線部(S)と、該直線部(S)に連なる第2の円弧部(C2)を有し、
円弧部(C1)の一端側の直線部(S)および円弧部(C2)と他端側の直線部(S)および円弧部(C2)は、円弧部(C1)を中心として対称形状に構成されたことを特徴とする油井管継手部の切削用工具。
【0010】
[4]上記[1]~[3]のいずれかの切削用工具において、直線部(S)の長さLが0.8mm以上1.2mm以下であることを特徴とする油井管継手部の切削用工具。
[5]上記[1]~[4]のいずれかの切削用工具において、円弧部(C1)の曲率半径R1が0.4mm以上1.5mm以下、円弧部(C2)の曲率半径R2が0.4mm以上1.2mm以下であることを特徴とする油井管継手部の切削用工具。
[6]上記[1]~[5]のいずれかの切削用工具において、被削管の管軸に対して平行な直線と被削管ノーズ部外周面の切削時における直線部(S)とのなす角度θ1が1.0°以上2.0°以下であることを特徴とする油井管継手部の切削用工具。
[7]上記[1]~[6]のいずれかの切削用工具において、円弧部(C1)の円弧の中心角αが111°±1.25°であることを特徴とする油井管継手部の切削用工具。
【0011】
[8]上記[1]~[7]のいずれかの切削用工具を用い、油井管継手部を構成するピンのうちの少なくともノーズ部外周面の切削加工を行うことを特徴とする油井管継手部の切削方法。
[9]上記[8]の切削方法において、上記[2]または[3]の切削用工具を用い、ノーズ部外周面からショルダー部までを連続して切削加工することを特徴とする油井管継手部の切削方法。
[10]上記[8]の切削方法において、上記[6]の切削用工具を用い、ノーズ部外周面を切削加工するに際し、被削管1回転当たりの切削用工具の管軸方向での送り量を、直線部(S)の長さLとcosθ1の積[L×cosθ1]以下とすることを特徴とする油井管継手部の切削方法。
[11]上記[8]~[10]のいずれかの切削方法において、切削用工具を、その工具中心線が被削管の管軸を通る垂線に対してなす角度θ2が7°以上11°以下となるように取付具に保持させることを特徴とする油井管継手部の切削方法。
【0012】
[12]上記[1]~[7]のいずれかの切削用工具を用い、油井管継手部を構成するピンのうちの少なくともノーズ部外周面の切削加工を行うことを特徴とする油井管の製造方法。
[13]上記[12]の製造方法において、上記[2]または[3]の切削用工具を用い、ノーズ部外周面からショルダー部までを連続して切削加工することを特徴とする油井管の製造方法。
[14]上記[12]の製造方法において、上記[6]の切削用工具を用い、ノーズ部外周面を切削加工するに際し、被削管1回転当たりの切削用工具の管軸方向での送り量を、直線部(S)の長さLとcosθ1の積[L×cosθ1]以下とすることを特徴とする油井管の製造方法。
[15]上記[12]~[14]のいずれかの製造方法において、切削用工具を、その工具中心線が被削管の管軸を通る垂線に対してなす角度θ2が7°以上11°以下となるように取付具に保持させることを特徴とする油井管の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る油井管継手部の切削用工具は、油井管継手部のピンの切削において、ノーズ部に構成されるシール部やショルダー部などを平滑に切削し、所定の表面粗さに仕上げることができ、しかも、ビビリ振動の発生を抑えつつ高速で切削することができる。また、工具寿命に優れるため、製造コストも低減できる。
また、本発明に係る油井管継手部の切削方法および油井管の製造方法によれば、上記のような切削用工具を用いて、シール部やショルダー部などを適切かつ効率的に切削することができ、高品質の継手を有する油井管を高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の切削用工具の一実施形態における切削刃を拡大して示す正面図
【
図2-1】
図1の実施形態の切削用工具により被削管のノーズ部外周面を切削している時の切削刃を示す正面図
【
図2-2】
図1の実施形態の切削用工具により被削管のノーズ部外周面とショルダー部との境界である管端円弧部を切削している時の切削刃を示す正面図
【
図2-3】
図1の実施形態の切削用工具によりショルダー部を切削している時の切削刃を示す正面図
【
図3】
図1の実施形態の切削用工具(チップ)全体を示す正面図
【
図4】本発明の切削用工具と従来の切削用工具による切削面の管軸方向断面のプロフィールを示す説明図
【
図5】
図3に示す実施形態の切削用工具を取付具に取り付けた状態を示す側面図
【
図6】
図3に示す実施形態の切削用工具を取付具に取り付けた状態を示す斜視図
【
図7】取付具に取り付けられた
図5および
図6に示す切削用工具の切削時における送り方向を示す説明図
【
図8】本発明の切削用工具の取付具に対する取付角度θ
2を模式的に示す説明図
【
図9】本発明の切削用工具の角度θ
1と切削面の表面粗さRaとの関係を示すグラフ
【
図10】本発明の切削用工具の取付角度θ
2と切削面の表面粗さRaとの関係を示すグラフ
【
図11】本発明の切削用工具と従来の切削用工具による切削面の表面粗さRaを工具送り速度別に示すグラフ
【
図13】
図4(ア)に切削面の管軸方向断面のプロフィールを示した従来の切削用工具による切削状況を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図12は、油井管継手部の縦断面図であり、1はピン、2はボックスである。ピン1において、3は雄ねじ部、4はこの雄ねじ部3の先端部分に設けられ、外周面8の一部にシール部が形成されるノーズ部(平坦な先端管部)、5はこのノーズ部4の先端面に形成されるショルダー部、6はノーズ部4の外周部先端(ノーズ部4の外周面8とショルダー部5の境界部)に形成される管端円弧部、7は雄ねじ部3の始端部となるチャンファー面(ネジ切始めチャンファー面)である。
本発明の切削用工具は、少なくともノーズ部4の外周面8の切削に適用されるものであり、好ましくは、ノーズ部4の外周面8からショルダー部5までの連続した切削(ノーズ部4の外周面8→管端円弧部6→ショルダー部5の連続切削)に適用されるものである。
【0016】
図1は、本発明の切削用工具の一実施形態における切削刃を拡大して示す正面図である。また、
図2(
図2-1~
図2-3)は、
図1の切削用工具により被削管のノーズ部4の外周面8→管端円弧部6→ショルダー部5を順次連続して切削する際の状況を示しており、
図2-1はノーズ部4の外周面8を切削している時の切削刃を示す正面図、
図2-2は管端円弧部6を切削している時の切削刃を示す正面図、
図2-3はショルダー部5を切削している時の切削刃を示す正面図である。
【0017】
図1および
図2に示すように、本発明の切削用工具は、切削刃(切刃)が、先端が円弧である尖頭状の平面形状を有しており、このような平面形状の切削刃は、工具先端を構成する第1の円弧部C1を有するとともに、この円弧部C1の一端側において、円弧部C1に連なる直線部S(図中ではSa)と、この直線部Sに連なる第2の円弧部C2(図中ではC2a)を有している。
また、この実施形態では、さらに、切削刃が、円弧部C1の他端側において、円弧部C1に連なる直線部S(図中ではSb)と、この直線部Sに連なる第2の円弧部C2(図中ではC2b)を有し、円弧部C1の一端側の直線部Sa・円弧部C2aと他端側の直線部Sb・円弧部C2bは、円弧部C1を中心として対称形(対称形状)に構成されている。
【0018】
本発明の切削用工具により、
図2-1に示すように被削管のノーズ部4の外周面8を切削する場合、円弧部C2aを主体(すなわち円弧部C2aが切削作用の主体となる)とする「円弧部C2a+直線部Sa+円弧部C1の一端側部分」による切削がなされる。したがって、被削管のノーズ部4の外周面8を切削する限りにおいては、切削用工具は、円弧部C1と、その一端側の直線部Sa・円弧部C2aを有していればよい。
一方、本発明の切削用工具により被削管のノーズ部4の外周面8→管端円弧部6→ショルダー部5を順次連続して切削する場合、まず、被削管のノーズ部4の外周面8については、上述のように切削がなされ(
図2-1)、次いで、管端円弧部6については、
図2-2に示すように円弧部C1による切削がなされる。さらに、ショルダー部5については、
図2-3に示すように円弧部C1の他端側部分を主体(すなわち円弧部C1の他端側部分が切削作用の主体となる)とする「円弧部C1の他端側部分+直線部Sb」による切削がなされる。したがって、被削管のノーズ部4の外周面8→管端円弧部6→ショルダー部5を順次連続して切削するには、切削用工具は、円弧部C1と、その一端側の直線部Sa・円弧部C2aと、他端側の直線部Sbを有していればよい。すなわち、他端側の円弧部C2bは有していなくてもよい。
【0019】
ここで、本実施形態の切削用工具が、円弧部C1の一端側の直線部Sa・円弧部C2aと他端側の直線部Sb・円弧部C2bを有し、それらが円弧部C1を中心として対称形(対称形状)に構成されているのは、円弧部C1の一端側の直線部Sa・円弧部C2aの切刃寿命が尽きた場合に、工具を反転させて他端側の直線部Sb・円弧部C2bを使用できるようにするためである。
また、
図3は、本実施形態の切削用工具(チップ)全体を示す正面図であり、菱形チップの両端に円弧部C1を設けるとともに、各円弧部C1の両側に直線部Sa・円弧部C2aと直線部Sb・円弧部C2bを対称形(対称形状)に設けている。これにより計4箇所の切刃で切削を行うことができ、高い工具寿命を確保することができる。
【0020】
さきに
図4(ア),(イ)に基づいて説明した通り、1回転当りの工具送り量が同じである場合、切削刃(切刃)が円弧部Cのみで構成された従来の切削用工具による切削面は、
図4(ア)に示すように凹凸の高さがh1となるのに対して、本発明の切削用工具による切削面は、
図4(イ)に示すように凹凸の高さがh2と非常に小さくなり、平滑に切削することを可能となる。
本発明の切削用工具において、円弧部C1,C2や直線部Sの構成に特別な制限はないが、工具寿命の確保、切削面の平滑性や高速切削性・生産性の確保、ビビリ振動の抑制などの観点から、以下のような構成とすることが好ましい。
【0021】
まず、直線部Sの長さL(円弧部C1,C2間での直線部Sの長さ)は0.8mm以上1.2mm以下とすることが好ましい。
直線部Sの長さLが0.8mm未満では、本発明の特徴である円弧部C1,C2と直線部Sを組み合わせることによる効果が得られにくくなる。また、直線部Sの長さLが小さすぎると切削熱が分散せず、蓄積し続けるため、その熱の影響で工具母材が軟化し、工具寿命が低下しやすいが、直線部Sの長さLを0.8mm以上とすることにより、切削熱を分散させることができるので、工具寿命を向上させることができる。一般に仕上げ切削における工具送り速度は0.1mm/回転程度であるが、本発明の切削用工具の場合、ビビリ振動の発生が抑えられるため高速切削が可能であり、工具送り速度を0.3mm/回転以上とすることを目標としており、これにより切削時間の短縮化が可能となる。ここで、例えば、本発明の切削用工具を用いて工具送り速度0.35mm/回転で切削を行う場合を考えると、その切削の際には、ノーズ部4の外周面8については円弧部C2主体の切削(補助的に直線部Sと円弧部C1の端部も切削に関与する)がなされ、ショルダー部5については円弧部C1主体の切削(補助的に直線部Sも切削に関与する)がなされることになるが、仮に円弧部C1,C2の切刃の寿命が尽きたとしても、それらの奥に存在する直線部Sの切刃が健在であるため、工具自体の寿命を向上させることができる。本発明の切削用工具において直線部Sの長さL=0.9mmとした場合、理論上の工具寿命を従来の切削用工具(汎用チップ)の2.57倍(=0.9mm÷0.35mm/回転)に高めることができる。また、外径139.7mmのL80油井管を工具送り速度0.35mm/回転で切削し、寿命調査を実施したところ、従来の切削用工具(汎用チップ):45端、本発明の切削用工具:142端となり、工具寿命が3.16倍となる結果が得られた。このため直線部Sの長さLは0.8mm以上が好ましい。
【0022】
一方、直線部Sの長さLが大きすぎると、被削管との接触面積が大きくなるため切削抵抗が大きくなり、その影響でビビリ振動が発生しやすくなる。ビビリ振動が発生すると工具寿命が著しく低下する。このため工具送り速度を大きくすることができず、生産性が低下する。なお、切込量を少なくすることで切削抵抗を軽減することができるが、複数回の切削が必要となり、切削時間が長くなることにより生産性が低下することになる。このため直線部Sの長さLは1.2mm以下が好ましい。
【0023】
円弧部C1は、その円弧の曲率半径R1を0.4mm以上1.5mm以下とすることが好ましい。
円弧部C1の曲率半径R1が小さすぎると、チッピングが発生しやすくなる。また、曲率半径R1がある程度大きい方が切削熱が分散されやすく、工具母材が軟化しにくいため、工具寿命の向上には有利である。一方、曲率半径R1が大きすぎると、ノーズ部4の外周面8とチャンファー面7間に存在するR部寸法が大きくなりすぎ、油井管継手を締め込んだ時に干渉する可能性がある。このため円弧部C1の曲率半径R1は0.4mm以上1.5mm以下が好ましい。
【0024】
円弧部C2は、その円弧の曲率半径R2を0.4mm以上1.2mm以下とすることが好ましい。
円弧部C1の曲率半径R1と同様、円弧部C2の曲率半径R2が小さすぎるとチッピングが発生しやすくなる。また、曲率半径R2がある程度大きい方が切削熱が分散されやすく、工具母材が軟化しにくいため、工具寿命の向上には有利である。一方、曲率半径R2が大きすぎると切削抵抗が大きくなり、切削を行っている刃先の反対側では切削用工具を押し上げる力が作用し、切削用工具周辺の部品への影響が懸念される。例えば、切削用工具をクランプする部品に大きい力がかかる影響で部品が摩耗し、クランプ力が弱くなる、若しくはその部品自体を破損させてしまう可能性がある。また、切削抵抗が大きくなると、(i)ビビリ振動が発生しやすくなるため、切削面の表面粗さが悪化しやすい、(ii)切削熱が異常発生し、円弧部C2が昇温により軟化して工具寿命が低下しやすい、という問題もある。このため円弧部C2の曲率半径R2は0.4mm以上1.2mm以下が好ましい。
【0025】
被削管の管軸に対して平行な直線(
図1中の直線x)と被削管ノーズ部外周面(外周面8)の切削時における直線部Sとのなす角度θ
1は1.0°以上2.0°以下が好ましい。
角度θ
1が小さすぎると、取付具に切削用工具を取り付けた時のガタの影響で、直線部Sや円弧部C2が切削面に食い込んでしまう恐れがあり、そのような食い込みが生じると切粉の排出性が悪化し、切削抵抗(背分力)が増加する。その影響で、ビビリ振動が発生して表面粗さが大きくなる。本来、角度θ
1が小さいほど表面粗さの平滑化効果は大きくなるが、上記のようなビビリ振動が発生すると、表面粗さの平滑化効果が打ち消されてしまう。一方、角度θ
1が大きすぎると、切削面の凹凸部の高さが高くなるため表面粗さが大きくなり、特に、高い工具送り速度で切削を行った時に、良好な表面粗さが得られにくくなる。
図9は、角度θ
1を0°~3.0°の範囲で変えた本発明の切削用工具(直線部Sの長さL:1.0mm、円弧部C1の曲率半径R1:1.2mm、円弧部C2の曲率半径R2:0.4mm、取付角度θ
2:9°)を用い、工具送り速度0.1mm/回転で切削試験を行い、切削面の表面粗さRaを調べた結果を示している。本発明では切削面の表面粗さRaの一応の目標を1.6μm以下とするが、
図9によれば、角度θ
1が1.0~2.0°の範囲において切削面の表面粗さは最も小さく、高い平滑性が得られている。また、そのなかでも、1.5°前後(1.5°±0.25°程度)が最も平滑になるので好ましい。
【0026】
また、円弧部C1の円弧の中心角α(刃先角度)は、ノーズ部4の外周面8→管端円弧部6→ショルダー部5を順次連続して切削する際に、各部位の形状を正確に切削する上で重要であり、その中心角α(刃先角度)は111°±1.25°とすることが好ましい。
本発明の切削用工具の材質については、従来の汎用チップと同様に硬度が必要となり、超硬合金やダイヤモンドなどが適用できる。
【0027】
次に、本発明の切削用工具を用いた被削管の切削方法および油井管の製造方法について、
図2-1~
図2-3に基づいて説明する。
図2-1~
図2-3は、
図1の実施形態の切削用工具を用いて、一般的な特殊ねじにおけるノーズ部4の外周面8→管端円弧部6→ショルダー部5を順次連続して切削する場合の被削管と切削用工具の位置関係を示している。
まず、チャンファー面7について、円弧部C1を主体(すなわち円弧部C1が切削作用の主体となる)とする「円弧部C1+直線部Sa」による切削がなされ、引き続き、その先のノーズ部4の外周面8について、
図2-1に示すように円弧部C2aを主体(すなわち円弧部C2aが切削作用の主体となる)とする「円弧部C2a+直線部Sa+円弧部C1の一端側部分」による切削がなされる。引き続き、管端円弧部6について、
図2-2に示すように円弧部C1による切削がなされ、さらに、ショルダー部5について、
図2-3に示すように円弧部C1の他端側部分を主体(すなわち円弧部C1の他端側部分が切削作用の主体となる)とする「円弧部C1の他端側部分+直線部Sb」による切削がなされる。この際、直線部Sbの角度θ
1が1.0°以上であることにより、直線部Sbがショルダー部5の切削面に食い込むことなく切削がなされる。
【0028】
このように本発明の切削用工具を用いて、ノーズ部4の外周面8→管端円弧部6→ショルダー部5を順次連続して切削することにより、シール部が形成されるノーズ部4の外周面8だけでなく、ショルダー部5についても表面粗さを向上させることができる。このため、1つの切削用工具を用いた連続切削により、ピン先端全体を表面粗さを確保しながら高速、高能率で切削することが可能となる。また、さきに述べたように、本発明の切削用工具は高い工具寿命を有する。このため高品質の油井管継手部(油井管)を高い生産性で低コストで製造することが可能となる。
【0029】
次に、本発明の切削用工具を使用するに当たり、好ましい使用条件について説明する。
図5および
図6は、
図3に示す実施形態の本発明の切削用工具を切削装置(旋盤)の取付具に保持させた状態を示すものであり、
図5は側面図、
図6は斜視図である。また、
図7は、取付具に取り付けられた切削用工具の切削時における送り方向を示す説明図である。図において、Aが切削用工具、Bが取付具、Pが被削管である。
【0030】
ここで、本発明の切削用工具Aの切削装置(旋盤)に対する取付形態としては、その工具中心線fまたはこれに平行な直線f’が被削管Pの管軸を通る垂線gに対してなす角度θ
2(取付角度)が7°以上11°以下となるように取付具Bに保持させることが好ましい。
図8は、この切削用工具Aの取付具Bに対する取付角度θ
2を模式的に示す説明図である。この取付角度θ
2が小さすぎると、チップ逃げ面と被削管間の隙間が小さくなり、チップ自体に異常な温度上昇・摩耗が発生しやすくなるため、切削面の平滑性(表面粗さ)が悪化しやすくなり、極端な場合には工具本体が被削管と接触してしまうような恐れもある。一方、取付角度θ
2が大きすぎると切削刃の切れ味が低下するようになる。
図10は、本発明の切削用工具(直線部Sの長さL:1.0mm、円弧部C1の曲率半径R1:1.2mm、円弧部C2の曲率半径R2:0.4mm、角度θ
1:1.5°)の取付角度θ
2を0°~12°の範囲で変えて送り速度0.1mm/回転で切削試験を行い、切削面の表面粗さを調べた結果を示している。これによれば、取付角度θ
2を7~11°とすることにより最も良好な表面粗さが得られることが分かる。また、そのなかでも9°前後(9°±1°程度)が最適な角度であるといえる。
【0031】
本発明の切削用工具を用いた切削では、ビビリ振動の発生を抑えつつ所定の表面粗さに高速で切削することができ、従来の切削用工具を用いた場合に較べて3.5倍程度の工具送り速度で切削を行うことができる。
図11は、本発明の切削用工具(直線部Sの長さL:1.0mm、円弧部C1の曲率半径R1:1.2mm、円弧部C2の曲率半径R2:0.4mm、角度θ
1:1.5°、取付角度θ
2:9°)と従来の切削用工具(
図13)を用いて切削する場合の工具送り速度と切削面の表面粗さRaとの関係を調べた結果を示している。これによれば、従来の切削用工具を用いた切削では、送り速度0.10mm/回転で切削面の表面粗さRaが約1.3μmであり、送り速度0.15mm/回転では切削面の表面粗さRaが約1.8μmであり、目標である表面粗さRa1.6μm以下を満足しなくなる。これに対して、本発明の切削用工具を用いた切削では、送り速度0.35mm/回転でも切削面の表面粗さRaは0.8~0.9μm程度であり、高速切削であっても格段に平滑な切削が可能であることが分る。
外径244.5mmのL80油井管継手部のピンの切削時間を従来の切削用工具(汎用チップ)と比較した場合、以下のような結果となり、本発明の切削用工具を用いることにより切削時間を約1/2に短縮することができた。
・従来の切削用工具 送り速度0.10mm/回転、切削時間185秒
・本発明の切削用工具 送り速度0.35mm/回転、切削時間92秒
本発明による切削時間の短縮効果 93秒(50.3%生産性向上)
【0032】
なお、本発明の切削用工具でノーズ部4の外周面8の切削を行う場合、被削管1回転当たりの工具送り量(管軸方向での送り量)を、直線部Sの長さLとcosθ1の積[L×cosθ1]以下とすることが好ましい。被削管1回転当たりの工具送り量を積[L×cosθ1]以下にしないと、直線部Sから切削代がはみ出し、正常な切削ができなくなる。例えば、直線部の長さLが1.0mm、角度θ1が1.5°の場合には、送り速度は1.0mm/回転以下とすることが好ましい。
また、本発明の切削用工具を用いた切削では、ショルダー部5側から切削を開始し、ショルダー部5→管端円弧部6→ノーズ部4の外周面8を順次連続して切削するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 ピン
2 ボックス
3 雄ねじ部
4 ノーズ部
5 ショルダー部
6 管端円弧部
7 チャンファー面
8 ノーズ部外周面
A 切削用工具
B 取付具
P 被削管
C1 円弧部
C2,C2a,C2b 円弧部
S,Sa,Sb 直線部