(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100295
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂用マスターバッチ及びそれを用いた熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20230711BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230711BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20230711BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230711BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C08J3/22
C08L101/00
C08K5/098
C08L23/26
C08L29/04 S
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000829
(22)【出願日】2022-01-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】522008388
【氏名又は名称】株式会社ポリコール
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】細谷 明弘
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA26
4F070AC40
4F070FB03
4J002BB03W
4J002BB03X
4J002BB06W
4J002BB06X
4J002BB12W
4J002BB12X
4J002BB22W
4J002BB22X
4J002BC03W
4J002BC03X
4J002BD04W
4J002BD04X
4J002BD15W
4J002BD15X
4J002BE02W
4J002BE02X
4J002BE03W
4J002BF02W
4J002BF02X
4J002BF03W
4J002BF03X
4J002BG06W
4J002BG06X
4J002BG10W
4J002BG10X
4J002CB00W
4J002CB00X
4J002CF06W
4J002CF06X
4J002CF07W
4J002CF07X
4J002CF08W
4J002CF08X
4J002CG01W
4J002CG01X
4J002CL01W
4J002CL01X
4J002CL03W
4J002CL03X
4J002CL06W
4J002CL06X
4J002EG026
4J002EG027
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂が成形機のシリンダーやスクリューに付着することを防止するための熱可塑性樹脂用マスターバッチ及びそれを用いた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱可塑性樹脂用マスターバッチは、成分(a):熱可塑性樹脂をa重量部と、成分(b):炭素数10~24の脂肪酸ナトリウムをb重量部と、成分(c):炭素数10~24の脂肪酸カリウムをc重量部とを含み、式(1):0.10≦b/(b+c)≦0.65を満足する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a):熱可塑性樹脂をa重量部と、
成分(b):炭素数10~24の脂肪酸ナトリウムをb重量部と、
成分(c):炭素数10~24の脂肪酸カリウムをc重量部と
を含み、
下記式(1):
0.10≦b/(b+c)≦0.65 (1)
を満足する
熱可塑性樹脂用マスターバッチ。
【請求項2】
さらに、下記式(2):
0.01≦(b+c)/(a+b+c)≦0.20 (2)
を満足する
請求項1に記載の熱可塑性樹脂用マスターバッチ。
【請求項3】
前記成分(b)が、ステアリン酸ナトリウムである
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂用マスターバッチ。
【請求項4】
前記成分(c)が、炭素数12~18の脂肪酸カリウムの混合物である
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂用マスターバッチ。
【請求項5】
前記成分(a)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体である
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂用マスターバッチ。
【請求項6】
成分(A):熱可塑性樹脂と、
成分(B):請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂用マスターバッチと
を含む
熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(B)の含有率が、1~20重量%である
請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂が成形機のシリンダーやスクリューに付着することを防止するための熱可塑性樹脂用マスターバッチ及びそれを用いた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、一般に、押出成形機、射出成形機などの成形機を用いて成形される。より具体的には、熱可塑性樹脂の原料ペレットが成形機の投入口から投入されると、シリンダーから加えられる熱やスクリュー回転で発生する摩擦熱で溶融した熱可塑性樹脂が所定の金型内に充填・固化されて、熱可塑性樹脂の成形品が得られる。
【0003】
特許文献1には、エチレン含有量が10モル%以上50モル%以下のエチレン-ビニルアルコール共重合体(I)及びエチレン含有量が30モル%以上60モル%以下のエチレン-ビニルアルコール共重合体(II)を含有し、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体(II)のエチレン含有量からエチレン-ビニルアルコール共重合体(I)のエチレン含有量を減じた値が8モル%以上であり、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体(I)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(II)との質量比(I/II)が60/40以上95/5以下であり、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体(I)が、示差屈折率検出器及び紫外可視吸光度検出器を備えるゲルパーミエーションクロマトグラフを用い、窒素雰囲気下、220℃、50時間熱処理後に測定した分子量が、(Ma-Mb)/Ma<0.45及びMb≧50,000(Ma:示差屈折率検出器で測定されるピークの最大値におけるポリメタクリル酸メチル換算の分子量、Mb:紫外可視吸光度検出器で測定される波長220nmでの吸収ピークの最大値におけるポリメタクリル酸メチル換算の分子量)の条件を満たす樹脂組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、ビニル重合体を含むビニル重合体粉体であって、前記ビニル重合体のガラス転移温度が0℃以上(ただし、ガラス転移点を複数持つ場合はすべてのガラス転移温度が0℃以上)であり、前記ビニル重合体を構成する単量体単位の総質量中、芳香族ビニル単量体単位0.5~99.5質量%を含み、前記芳香族ビニル単量体単位となる単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、 p-t- ブチルスチレンの群から選択され、ビニル重合体粉体の総質量に対するマグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、バリウムイオン、及び亜鉛イオンの含有量の合計が350ppm以下、ビニル重合体粉体の総質量に対するナトリウムイオン及びカリウムイオンの含有量の合計が50ppm以下であり、ビニル重合体粉体の総質量に対するアンモニウムイオンの含有量が100ppm以下であり、酸価が2.5mgKOH/g以下であり、嵩密度が0.10~0.60g/cm3であるビニル重合体粉体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-196889号公報
【特許文献2】特開2020-153050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に記載されているような熱可塑性樹脂を成形機で成形していると、熱可塑性樹脂の残渣が成形機のシリンダーやスクリューに付着してしまう場合がある。そうなると、焼け異物が発生してしまうことから、成形機のシリンダーやスクリューを洗浄剤で洗浄したり、熱可塑性樹脂の残渣をグラインダーで除去したりする必要が生じ、その作業負担が大きい。
【0007】
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂が成形機のシリンダーやスクリューに付着することを防止するための熱可塑性樹脂用マスターバッチ及びそれを用いた熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱可塑性樹脂用マスターバッチは、
成分(a):熱可塑性樹脂をa重量部と、
成分(b):炭素数10~24の脂肪酸ナトリウムをb重量部と、
成分(c):炭素数10~24の脂肪酸カリウムをc重量部と
を含み、
下記式(1):
0.10≦b/(b+c)≦0.65 (1)
を満足する。
【0009】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、
成分(A):熱可塑性樹脂と、
成分(B):前記の熱可塑性樹脂用マスターバッチと
を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱可塑性樹脂が成形機のシリンダーやスクリューに付着することを防止するための熱可塑性樹脂用マスターバッチ及びそれを用いた熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例で行った評価の試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る熱可塑性樹脂用マスターバッチは、成分(a)としての熱可塑性樹脂と、成分(b)としての炭素数10~24の脂肪酸ナトリウムと、成分(c)としての炭素数10~24の脂肪酸カリウムとを、所定の配合比で含むものである。このような熱可塑性樹脂用マスターバッチの付着防止性能は高く、熱可塑性樹脂用マスターバッチを配合した熱可塑性樹脂は、成形機のシリンダーやスクリューに付着しにくくなる。
【0013】
成分(a)としての熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂用マスターバッチを配合する熱可塑性樹脂と同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。成分(a)としての熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル樹脂;ナイロン6(Ny6)、ナイロン66(Ny66)等のポリアミド樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)等のアクリル樹脂;アラミド樹脂(AR)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアセタール樹脂(POM)などが挙げられる。なかでも、ポリオレフィン樹脂が好ましく、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)がより好ましい。成分(a)としての熱可塑性樹脂は、1種でもよく、2種以上の混合物でもよい。
【0014】
成分(b)としての炭素数10~24の脂肪酸ナトリウムとしては、カプリン酸ナトリウム(C10)、ラウリン酸ナトリウム(C12)、ミリスチン酸ナトリウム(C14)、パルミチン酸ナトリウム(C16)、ステアリン酸ナトリウム(C18)、アラキジン酸ナトリウム(C20)、ベヘン酸ナトリウム(C22)、リグノセリン酸ナトリウム(C24)等の飽和脂肪酸ナトリウム;ミリストレイン酸ナトリウム(C14)、パルミトレイン酸ナトリウム(C16)、オレイン酸ナトリウム(C18)、エライジン酸ナトリウム(C18)、バクセン酸ナトリウム(C18)、ガドレイン酸ナトリウム(C20)、エイコセン酸ナトリウム(C20)、エルカ酸ナトリウム(C22)、ネルボン酸ナトリウム(C24)等のモノ不飽和脂肪酸ナトリウム;リノール酸ナトリウム(C18)、エイコサジエン酸ナトリウム(C20)、ドコサジエン酸ナトリウム(C22)等のジ不飽和脂肪酸ナトリウム;リノレン酸ナトリウム(C18)、ピノレン酸ナトリウム(C18)、エレオステアリン酸ナトリウム(C18)、ミード酸ナトリウム(C20)、エイコサトリエン酸ナトリウム(C20)等のトリ不飽和脂肪酸ナトリウム;ステアリドン酸ナトリウム(C18)、アラキドン酸ナトリウム(C20)、エイコサテトラエン酸ナトリウム(C20)、アドレン酸ナトリウム(C22)等のテトラ不飽和脂肪酸ナトリウム;エイコサアペンタエン酸ナトリウム(C20)、イワシ酸ナトリウム(C22)等のペンタ不飽和脂肪酸ナトリウム;ドコサヘキサエン酸ナトリウム(C22)、ニシン酸ナトリウム(C24)等のヘキサ不飽和脂肪酸ナトリウムなどが挙げられる。なかでも、炭素数10~24の飽和脂肪酸ナトリウムが好ましく、炭素数12~18の飽和脂肪酸ナトリウムがより好ましく、ステアリン酸ナトリウム(C18)がさらに好ましい。成分(b)としての炭素数10~24の脂肪酸ナトリウムは、1種でもよく、2種以上の混合物でもよい。
【0015】
成分(c)としての炭素数10~24の脂肪酸カリウムとしては、カプリン酸カリウム(C10)、ラウリン酸カリウム(C12)、ミリスチン酸カリウム(C14)、パルミチン酸カリウム(C16)、ステアリン酸カリウム(C18)、アラキジン酸カリウム(C20)、ベヘン酸カリウム(C22)、リグノセリン酸カリウム(C24)等の飽和脂肪酸カリウム;ミリストレイン酸カリウム(C14)、パルミトレイン酸カリウム(C16)、オレイン酸カリウム(C18)、エライジン酸カリウム(C18)、バクセン酸カリウム(C18)、ガドレイン酸カリウム(C20)、エイコセン酸カリウム(C20)、エルカ酸カリウム(C22)、ネルボン酸カリウム(C24)等のモノ不飽和脂肪酸カリウム;リノール酸カリウム(C18)、エイコサジエン酸カリウム(C20)、ドコサジエン酸カリウム(C22)等のジ不飽和脂肪酸カリウム;リノレン酸カリウム(C18)、ピノレン酸カリウム(C18)、エレオステアリン酸カリウム(C18)、ミード酸カリウム(C20)、エイコサトリエン酸カリウム(C20)等のトリ不飽和脂肪酸カリウム;ステアリドン酸カリウム(C18)、アラキドン酸カリウム(C20)、エイコサテトラエン酸カリウム(C20)、アドレン酸カリウム(C22)等のテトラ不飽和脂肪酸カリウム;エイコサアペンタエン酸カリウム(C20)、イワシ酸カリウム(C22)等のペンタ不飽和脂肪酸カリウム;ドコサヘキサエン酸カリウム(C22)、ニシン酸カリウム(C24)等のヘキサ不飽和脂肪酸カリウムなどが挙げられる。なかでも、炭素数10~24の飽和脂肪酸カリウムが好ましく、炭素数12~18の飽和脂肪酸カリウムがより好ましい。成分(c)としての炭素数10~24の脂肪酸カリウムは、1種でもよく、2種以上の混合物でもよい。2種以上の混合物としては、炭素数12~18の混合飽和脂肪酸カリウムの混合物が好ましい。
【0016】
本発明では、成分(b)の配合量をb重量部、成分(b)の配合量をc重量部としたとき、下記式(1)を満たすことが重要である。
0.10≦b/(b+c)≦0.65 (1)
成分(b)及び成分(c)の配合割合が上記式(1)を満たすことで、熱可塑性樹脂用マスターバッチは成形機のシリンダーやスクリューから剥離しやすくなり、熱可塑性樹脂は成形機のシリンダーやスクリューに付着しにくくなる。すなわち、熱可塑性樹脂用マスターバッチの付着防止性能が高い。式(1)の最左辺は、0.20が好ましく、0.30がより好ましく、0.33がさらに好ましい。式(1)の最右辺は、0.60が好ましく、0.55がより好ましく、0.50がさらに好ましい。
【0017】
さらに、本発明では、成分(a)の配合量をa重量部としたとき、下記式(2)を満たすことが好ましい。
0.01≦(b+c)/(a+b+c)≦0.20 (2)
成分(a)、成分(b)及び成分(c)の配合割合が上記式(2)を満たすことで、熱可塑性樹脂用マスターバッチとして利用しやすくなる。式(2)の最左辺は、0.03が好ましく、0.04がより好ましく、0.05がさらに好ましい。式(2)の最右辺は、0.15が好ましく、0.10がより好ましく、0.08がさらに好ましい。
【0018】
本発明に係る熱可塑性樹脂用マスターバッチは、目的及び用途に応じて、成分(a)~(c)以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、加工助剤、老化防止剤、熱安定剤等が挙げられる。他の成分の配合量は、成分(a)~(c)の合計を100重量部としたとき、通常は5重量部以下である。
【0019】
上記熱可塑性樹脂用マスターバッチは、熱可塑性樹脂に配合して熱可塑性樹脂組成物とすることができる。すなわち、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)としての熱可塑性樹脂と、成分(B)としての上記の熱可塑性樹脂用マスターバッチとを含むものである。このような熱可塑性樹脂組成物であれば、熱可塑性樹脂が成形機のシリンダーやスクリューに付着しにくくなる。
【0020】
成分(A)としての熱可塑性樹脂は、前述のように、熱可塑性樹脂用マスターバッチの成分(a)と同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。成分(A)としての熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル樹脂;ナイロン6(Ny6)、ナイロン66(Ny66)等のポリアミド樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)等のアクリル樹脂;アラミド樹脂(AR)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアセタール樹脂(POM)などが挙げられる。なかでも、ポリオレフィン樹脂が好ましく、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)がより好ましい。成分(A)としての熱可塑性樹脂は、1種でもよく、2種以上の混合物でもよい。
【0021】
本発明では、成分(B)の含有率を1~20重量%とすることが好ましい。このような範囲であれば、熱可塑性樹脂用マスターバッチによる付着防止効果を発揮させる量を配合することができる。成分(B)の含有率を3~15重量%とすることがより好ましく、5~10重量%とすることがさらに好ましい。
【0022】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、目的及び用途に応じて、成分(A)及び(B)以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、加工助剤、老化防止剤、熱安定剤等が挙げられる。他の成分の配合量は、成分(A)及び(B)の合計を100重量部としたとき、通常は5重量部以下である。
【0023】
以上のような熱可塑性樹脂用マスターバッチ及びそれを用いた熱可塑性樹脂組成物であれば、熱可塑性樹脂が成形機のシリンダーやスクリューに付着しにくくなる。熱可塑性樹脂が成形機のシリンダーやスクリューに付着すると、その残渣をグラインダーで除去する必要があるが、その手間を削減することができる。
【実施例0024】
<実施例1>
エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH、クラレ製、商品名:E105B)を93.7重量部と、ステアリン酸ナトリウム(C18、大日精化工業製)を3.15重量部と、混合脂肪酸カリウム(C12-18、日油製、商品名:ノンサールLK-5)を3.15重量部とを混合して、EVOH用マスターバッチを製造した。
【0025】
<実施例2>
ステアリン酸ナトリウム(C18、大日精化工業製)の配合量を2.10重量部とし、混合脂肪酸カリウム(C12-18、日油製、商品名:ノンサールLK-5)の配合量を4.20重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH用マスターバッチを製造した。
【0026】
<実施例3>
ステアリン酸ナトリウム(C18、大日精化工業製)の配合量を1.26重量部とし、混合脂肪酸カリウム(C12-18、日油製、商品名:ノンサールLK-5)の配合量を5.04重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH用マスターバッチを製造した。
【0027】
<実施例4>
ステアリン酸ナトリウム(C18、大日精化工業製)の配合量を0.63重量部とし、混合脂肪酸カリウム(C12-18、日油製、商品名:ノンサールLK-5)の配合量を5.67重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH用マスターバッチを製造した。
【0028】
<実施例5>
ステアリン酸ナトリウム(C18、大日精化工業製)の配合量を3.78重量部とし、混合脂肪酸カリウム(C12-18、日油製、商品名:ノンサールLK-5)の配合量を2.52重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH用マスターバッチを製造した。
【0029】
<比較例1>
ステアリン酸ナトリウム(C18、大日精化工業製)の配合量を6.30重量部とし、混合脂肪酸カリウム(C12-18、日油製、商品名:ノンサールLK-5)を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH用マスターバッチを製造した。
【0030】
<比較例2>
ステアリン酸ナトリウム(C18、大日精化工業製)を配合せず、混合脂肪酸カリウム(C12-18、日油製、商品名:ノンサールLK-5)の配合量を6.30重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH用マスターバッチを製造した。
【0031】
<比較例3>
ステアリン酸ナトリウム(C18、大日精化工業製)の配合量を4.20重量部とし、混合脂肪酸カリウム(C12-18、日油製、商品名:ノンサールLK-5)の配合量を2.10重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、EVOH用マスターバッチを製造した。
【0032】
<評価>
得られたEVOH用マスターバッチの付着防止性能を評価するモデル試験を行った。
図1に示すように、2枚のステンレス板(被着体1a及び1b、幅20mm×長さ50mm×厚み2mm)の端部を重ねて、その間を実施例1~5及び比較例1~3で製造したEVOH用マスターバッチ2で接着させた試験片を作製し、被着体1a及び1bの両端を掴んで引張試験を行った。なお、引張強度が弱いほど被着体(ステンレス)との親和性が低いことから、EVOH用マスターバッチは成形機のシリンダーやスクリューから剥離しやすく、EVOHは成形機のシリンダーやスクリューに付着しにくいことを意味する。すなわち、引張強度が弱いほどEVOH用マスターバッチの付着防止性能が高いことになる。
【0033】
【0034】
表1に示すように、ステアリン酸ナトリウム[成分(b)]と混合脂肪酸カリウム[成分(c)]の配合比[b/(b+c)]を所定範囲とした実施例1~5のEVOH用マスターバッチを用いた場合、引張強度が十分に低かった。それに対し、一方しか用いなかった比較例1~2のEVOH用マスターバッチや、配合比が所定範囲外の比較例3のEVOH用マスターバッチを用いた場合は、引張強度が高かった。このことから、実施例1~5のEVOH用マスターバッチは、比較例1~3のEVOH用マスターバッチに比べて、付着防止性能が高いことが分かった。