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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100307
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20230711BHJP
   C04B 35/043 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C04B35/66
C04B35/043
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000858
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 善幸
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳
(72)【発明者】
【氏名】細原 聖司
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克則
(57)【要約】
【課題】耐熱衝撃性を改善した耐火物を提供する。
【解決手段】原料の一部が置換された耐火物であって、所定温度における置換前の耐火物の固有の熱間圧縮強度以下の応力、または引張強度以下の応力で塑性変形する超塑性体で耐火物原料が置換されたものである。前記耐火物の粒度3mm以下の原料の一部または全部が前記超塑性体であること、超塑性体は、酸化物系、窒化物系および炭化物系のうちから選ばれるいずれか1種、または2種以上を組み合わせたものであること、酸化物系の超塑性体である、ジルコニアまたはアルミナであることなどが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の一部が置換された耐火物であって、
所定温度における置換前の耐火物の固有の熱間圧縮強度以下の応力、または引張強度以下の応力で塑性変形する超塑性体で耐火物原料が置換された、耐火物。
【請求項2】
前記耐火物の粒度3mm以下の原料の一部または全部が前記超塑性体である、請求項1に記載の耐火物。
【請求項3】
前記超塑性体は、酸化物系、窒化物系および炭化物系のうちから選ばれるいずれか1種の、または2種以上を組み合わせた超塑性体である、請求項1または2に記載の耐火物。
【請求項4】
前記超塑性体は、酸化物系の超塑性体である、請求項3に記載の耐火物。
【請求項5】
前記超塑性体の主成分が、ジルコニアまたはアルミナである、請求項4に記載の耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超塑性体を耐火物原料として用いた耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火物は高温下で使用され、温度に応じて膨張する。その際、耐火物の内部に温度勾配が生じ、特に表層付近は高温となり、膨張も大きくなる。この時、周囲の耐火物も同様に膨張するため、大きな圧縮応力が発生し、耐火物の熱間圧縮強度を超えた場合、ピンチングと呼ばれる目地部の圧壊や、さらに急激な加熱時には表層の剥離亀裂といった損傷を受ける。これらの損傷は、溶損などの他の損傷に比べて急激な厚み減少を伴うため、設備の突発停止や漏鋼などの大きなトラブルの要因となる。一方、使用後は、冷却によって耐火物が収縮する。そのとき、耐火物表面には引張応力が発生し、割れの原因となることがある。
【0003】
温度および温度変化に対する損傷への強さは、耐熱衝撃性と呼ばれ、耐火物の耐熱衝撃性を高める種々の試みがなされている。例えば特許文献1では、耐火物の開気孔の径と存在比率を制御することが有効とされている。また、特許文献2および3では、原料として鉄粉や珪藻土など耐火物以外の物質を使うことで耐熱衝撃性の改善を試みている。さらに特許文献4および5では、棒状や板状の骨材を使用し、アンカー効果により亀裂の進展抑制を図っている。
【0004】
一方、セラミックスの分野では、高温で応力が働いた際に塑性変形を示す超塑性材料が開発されており、例えば特許文献6ではアルミナが主体の超塑性材料、特許文献7ではジルコニアが主体の超塑性材料、特許文献8ではマグネシアが主体の超塑性材料がそれぞれ示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-169214号公報
【特許文献2】特開2010-59037号公報
【特許文献3】特開2007-269606号公報
【特許文献4】特開2003-171171号公報
【特許文献5】特開2001-114572号公報
【特許文献6】特開2001-146465号公報
【特許文献7】特開平09-194257号公報
【特許文献8】特表平04-501550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、以下のような課題があった。
特許文献1~5に記載の技術では、種々の方法で耐火物の耐熱衝撃性の改善が図られているが、気孔率の上昇による耐食性の低下や、耐火物製造の難しさおよび特殊原料の入手困難さなどから、さらなる改善が求められている。また、特許文献6~8に記載の技術では、超塑性材料を耐火物に適用した開発事例がなく、検討の余地があった。
【0007】
このように製鉄用や製鋼用耐火物の熱による損傷に対し、高強度化や、発生応力の軽減のため、炭素等の低熱膨張性原料の添加や気孔の導入による弾性率抑制などの改善が行われてきたが、抜本的な改善には至っていない。
【0008】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、耐熱衝撃性を改善した耐火物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる耐火物は、原料の一部が置換された耐火物であって、所定温度における置換前の耐火物の固有の熱間圧縮強度以下の応力、または引張強度以下の応力で塑性変形する超塑性体で耐火物原料が置換されたものであることを特徴とする。
【0010】
なお、本発明にかかる耐火物は、
(a)前記耐火物の粒度3mm以下の原料の一部または全部が前記超塑性体であること、
(b)前記超塑性体は、酸化物系、窒化物系および炭化物系のうちから選ばれるいずれか1種の、または2種以上を組み合わせた超塑性体であること、
(c)前記超塑性体は、酸化物系の超塑性体であること、
(d)前記超塑性体の主成分が、ジルコニアまたはアルミナであること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温下での耐火物使用時に発生する圧縮応力や冷却時の引張応力を超塑性体の超塑性変形により緩和することで、耐火物の亀裂発生を防止できるため、急激な損傷を避けることができ、耐火物の安定利用を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構造や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
本実施形態の耐火物は、超塑性体を耐火物原料の少なくとも一部に使用したことを特徴とする。本実施形態の耐火物は、一例として、主成分がマグネシア、アルミナ、炭化ケイ素、及び黒鉛のいずれかである。
【0014】
「超塑性体」とは、高温かつ高応力下において超塑性を発現する固体物質であり、「超塑性」とは、固体物質を高温かつ高応力下で一定のひずみ速度で変形させた時に、数百%以上に塑性変形する現象を指す。本発明では、超塑性体は、特に耐火物に生じる圧縮応力や引張応力に対応し、圧縮応力や引張応力を塑性変形によって緩和する。
【0015】
本実施形態の超塑性体は、たとえば、使用温度におけるベース耐火物(原料を超塑性体で置換する前の耐火物)の固有の熱間圧縮強度以下の応力で、所定のひずみ速度で、一定の塑性変形を示す。一方で、温度が低い場合(例えば使用温度より100℃以下の場合)には、ベース耐火物の固有の熱間圧縮強度より高い超塑性発現応力を持つ。これにより、超塑性体を耐火物原料として用いた場合に、所定温度未満(下記実施例では1300℃以下)では耐火物の構造体としての強度を保ちつつ、所定温度以上(下記実施例では1400℃以上)になった場合に超塑性を発現して耐火物に可塑性を付与することが可能となる。
【0016】
本実施形態では、耐火物原料において、細かい粒度、特に3mm以下の粒度の原料に超塑性体を使用することが好ましい。これにより、耐火物に生じる圧縮応力や引張応力を超塑性体によって適切に緩和することが可能となる。ここで、粒度3mm以下とは、目開き3mmの篩網の篩下をいう。
【0017】
また、本実施形態において、超塑性体は、酸化物系、窒化物系、及び炭化物系のいずれか1種の、もしくは2種以上を組み合わせた超塑性体であることが好ましく、酸化物系の超塑性体であることがより好ましい。酸化物系超塑性体を使用することで、耐火物原料として用いる超塑性体にも耐火性を付与することが可能となる。
【0018】
酸化物系超塑性体としては、例えばジルコニア(二酸化ジルコニウム)やアルミナ(酸化アルミニウム)などを主体とするものが挙げられる。ジルコニア単体の融点は、2715℃であり、アルミナ単体の融点は、2072℃であり、耐火物の通常の使用温度で固体として安定している。
【0019】
本実施形態の耐火物は、高い耐熱衝撃性を必要とする設備や装置、たとえば、溶銑鍋や装入鍋、溶鋼用の取鍋、転炉、真空脱ガス装置の浸漬管、連続鋳造機のタンディッシュ、ロングノズル、浸漬ノズルなどに適用できる。
【0020】
また、上記実施形態では、ベース耐火物の熱間圧縮強度以下の応力で塑性変形する超塑性体を用いることで、高温下での耐火物使用時に発生する圧縮応力を緩和していたが、ベース耐火物の引張強度以下の応力で塑性変形する超塑性体を用いることで、冷却時の引張応力を緩和する構成としてもよい。
【実施例0021】
酸化物系超塑性体を耐火物原料の一部に使用した試作品を作製し、熱間での変形挙動を調査した。酸化物系超塑性体として、3mol%Y部分安定化ジルコニア(一次粒子径平均40nm)を主成分として、シリカゾル(粒子径10-15nm)を10mol%配合したものを使用した。
【0022】
安定化ジルコニアとシリカゾルとを混合し、乾燥させた後、圧力をかけてタブレットに成形した。その後、必要粒度に粉砕し、それぞれ1600℃で8時間焼成して超塑性体となし、耐火物原料とした。また、予備試験用にタブレットのまま1600℃で8時間焼成したものも準備した。
【0023】
試験対象耐火物には、転炉や取鍋で一般的に使用されているマグネシアカーボンれんがを選定した。ベース材れんが(ベース耐火物)の原料として黒鉛を11質量%、耐火物原料として電融マグネシアを、1-0mm粒度に24質量%、3-1mm粒度に30質量%、5-3mm粒度に10質量%、および、50-200meshの微粉として25質量%配合した後、レジンをバインダーとして混練後、プレス成形と乾燥、キュアリングを経て試料とした。ここで、N-Mmm粒度とは、Nmm目開きの篩網の篩下であって、Mmm目開きの篩網の篩上であることを表す。
【0024】
まず、予備試験として、超塑性体の超塑性発現能力とベース材れんがの熱間圧縮強度を確認するため、1200℃、1300℃、1400℃の各温度においてひずみ速度9×10-5の条件で熱間圧縮試験を行った。超塑性体(タブレット)とベース材れんがのそれぞれの予備試験の結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
上記で作製した超塑性体は、温度が高いほど超塑性発現応力が下がり、1400℃ではベース材の熱間圧縮強度を下回ることが分かった。また、1300℃以下ではベース材の圧縮強度より高い応力で超塑性が発現することが分かった。この結果により、この超塑性体を耐火物原料として使用した場合、1300℃以下では耐火物の構造体としての強度は保たれることが確認できた。
【0027】
次に、ベース材の耐火物原料のうち、電融マグネシアの一部を超塑性体原料に置換した結果を表2に示す。試験No.1はベース材のみとして置換なしのものとした。また、電融マグネシア原料の微粉以外の各粒度に対し、試験No.2は5-0mm粒度の範囲を超塑性体原料に置換し、試験No.3は1-0mm粒度の範囲を超塑性体原料に置換し、試験No.4は3-1mm粒度の範囲を超塑性体原料に置換し、試験No.5は5-3mm粒度の範囲を超塑性体原料に置換する形で配合し、ベース材と同様にれんが(耐火物)を製造した。
【0028】
【表2】
【0029】
試作した各れんがから試験片を切り出し、アルゴン雰囲気下で1400℃、ひずみ速度9×10-5の条件での熱間圧縮試験に供した。一連の実験の結果を表2に併せて示す。
【0030】
超塑性体を使用しない試験No.1のれんが(耐火物)に対し、超塑性体を配合した試験No.2~5のれんが(耐火物)は熱間強度の低下が見られ、超塑性体を配合したものはすべて熱間圧縮強度が11MPaであった。この数値は超塑性体の単体での超塑性発現応力より高く、また、一般的に使用される耐火物としては十分な強度を示しており、強度低下は耐火物としての使用に問題がない。
【0031】
対して、圧縮試験での変形能に大きな違いが見られた。変形能は超塑性体を使用していない試験No.1が圧縮により破壊された時の変形率を100とした場合の指数で表している。試験No.1に対し、全ての発明例において変形能の向上が確認された。
【0032】
特に、試験No.2~4では圧縮試験で設備制約変形量内では破壊に至らず、変形指数で196以上と、大きな変形が得られ、変形による応力緩和が可能であることが分かった。試験No.5と試験No.3および4とを比較して、超塑性体原料の配合粒度が3mm以下の場合に、変形能の向上が大きくなることが分かる。試験No.2と試験No.5とを比較すると、超塑性体の配合粒度が3mm以下の部分を含む場合、変形能の向上が大きくなることが分かる。
【0033】
上記試験では、使用温度1400℃を想定した場合の例を示したが、超塑性体の超塑性の発現温度および応力は、超塑性体の一次粒子径が小さいほどそれぞれ低くなることが知られており、使用温度が低い場合は、超塑性体の一次粒子径を小さくすることで対応が可能である。耐火物の使用温度は、たとえば、耐火物が高温の溶融金属を保持する場合には、溶融金属の温度を選ぶことができ、溶融金属の装入と排出とを繰り返す場合には、耐火物の温度履歴の極小値を選ぶことができる。
【0034】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述により本発明は限定されることはない。また、上記では、配合粒度を5-3mm、3-1mm、1-0mmの3つの粒度に分けて説明したが、これより粒度の区分数を増やしても、また、減らしても同様の効果が得られるため、上記実施例に挙げたもの以外の全てのものが本発明の範疇に含まれる。加えて、上記実施例では、酸化物超塑性体として3%Y部分安定化ジルコニアとシリカゾル10%の混合物を例示したが、この超塑性体に限定せずとも、これ以外の酸化物超塑性体の使用でも同様の効果が期待でき、他の成分系の超塑性体、例えば窒化物系や炭化物系などで、耐火物の使用温度域での耐熱性を有する超塑性体の使用も全て、本発明の範疇に含まれる。さらに、本実施形態に基づいて特許請求の範囲に記載の技術的範囲で当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の耐火物によれば、高温での使用温度で耐熱衝撃性を必要とする場合に使用して耐火物の寿命を向上させることができるので産業上有用である。