IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

特開2023-100340レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100340
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
G01S7/292 202
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000915
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD02
5J070AD09
5J070AG01
5J070AG04
5J070AH02
5J070AH12
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK22
5J070AK28
(57)【要約】
【課題】 長時間積分時にも、少ない処理規模で実現する。
【解決手段】 実施形態によれば、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダシステムであって、slow-time軸にNs(Ns≧2)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、前記受信信号の前記slow-time軸をLs(Ls≧1)セル毎にMs(Ms≧2)分割して、各々の分割単位でslow-time軸でMs回第1FFT処理を行ってドップラセル(ls=1~Ls)を取得し、前記分割単位でドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行い、その処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を長時間積分して目標を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダシステムであって、
slow-time軸にNs(Ns≧2)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、前記受信信号の前記slow-time軸をLs(Ls≧1)セル毎にMs(Ms≧2)分割して、各々の分割単位でslow-time軸でMs回第1FFT処理を行ってドップラセル(ls=1~Ls)を得る第1FFT処理手段と、
前記分割単位でドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行う第2FFT処理手段と、
前記第2FFT処理手段の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を長時間積分して目標を検出する検出手段と
を具備するレーダシステム。
【請求項2】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダシステムであって、
slow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、分割単位として順次入力して、各々の単位でslow-time軸で第1FFT処理を行ってドップラセル(ls=1~Ls)を得る第1FFT処理手段と、
既に処理したMs(Ms≧2)個の分割単位を用いて、前記ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行う第2FFT処理手段と、
前記第2FFT処理手段の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を長時間積分して目標を検出する検出手段と
を具備するレーダシステム。
【請求項3】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダシステムであって、
slow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、fast-time軸でFFTしてレンジ周波数軸にした後、レンジ周波数をMf(Mf≧1)分割し、slow-time軸をMs(Ms≧1)分割し、Mf×Ms分割した信号をそれ以外のNf×Ns領域のうち、fast-time軸は0埋めし、slow-timeは0埋めしない信号を用いて、fast-time軸はレンジ圧縮し、slow-time軸はFFT処理したMf×Msの信号を振幅積分して、仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出する手段と、
レンジ周波数の全帯域の信号を用いてレンジ圧縮し、slow-time軸は、Ms分割した後、各々の分割単位でMs回第2FFTし、各分割単位のドップラセル(ls=1~Ls)毎に、Msポイントのslow-time軸のデータに対して、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(sv通り)及び加速度(sa通り)とレンジセルのバイアス分(sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(sv×sa×sb)を設定し、各積分系列をレンジ軸でRtセルになるように、レンジシフト量を、レンジ周波数軸の位相勾配で設定するにより、レンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸で第2FFT(Msポイント)したsv×sa×sb通りの結果の最大値が最大となるMsポイントの積分系列(slow-time軸FFT前)を選定し、Msポイントのslow-time軸で第2FFTした結果を、ドップラセル(ls=1~Ls)に置き換える手段と、
前記ドップラセル(ls=1~Ls)を仮検出Pt毎に繰り返したレンジ-ドップラデータを用いて検出する手段と
を具備するレーダシステム。
【請求項4】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダ信号処理方法であって、
slow-time軸にNs(Ns≧2)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、前記受信信号の前記slow-time軸をLs(Ls≧1)セル毎にMs(Ms≧2)分割して、各々の分割単位でslow-time軸でMs回第1FFT処理を行ってドップラセル(ls=1~Ls)を取得し、
前記分割単位でドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行い、
前記第2FFT処理の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を長時間積分して目標を検出する
レーダ信号処理方法。
【請求項5】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダ信号処理方法であって、
slow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、分割単位として順次入力して、各々の単位でslow-time軸で第1FFT処理を行ってドップラセル(ls=1~Ls)を取得し、
既に処理したMs(Ms≧2)個の分割単位を用いて、前記ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行い、
前記第2FFT処理の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を長時間積分して目標を検出する
レーダ信号処理方法。
【請求項6】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するレーダ信号処理方法であって、
slow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、fast-time軸でFFTしてレンジ周波数軸にした後、レンジ周波数をMf(Mf≧1)分割し、slow-time軸をMs(Ms≧1)分割し、Mf×Ms分割した信号をそれ以外のNf×Ns領域のうち、fast-time軸は0埋めし、slow-timeは0埋めしない信号を用いて、fast-time軸はレンジ圧縮し、slow-time軸はFFT処理したMf×Msの信号を振幅積分して、仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出し、
レンジ周波数の全帯域の信号を用いてレンジ圧縮し、slow-time軸は、Ms分割した後、各々の分割単位でMs回第2FFTし、各分割単位のドップラセル(ls=1~Ls)毎に、Msポイントのslow-time軸のデータに対して、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(sv通り)及び加速度(sa通り)とレンジセルのバイアス分(sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(sv×sa×sb)を設定し、各積分系列をレンジ軸でRtセルになるように、レンジシフト量を、レンジ周波数軸の位相勾配で設定するにより、レンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸で第2FFT(Msポイント)したsv×sa×sb通りの結果の最大値が最大となるMsポイントの積分系列(slow-time軸FFT前)を選定し、Msポイントのslow-time軸で第2FFTした結果を、ドップラセル(ls=1~Ls)に置き換え、
前記ドップラセル(ls=1~Ls)を仮検出Pt毎に繰り返したレンジ-ドップラデータを用いて検出する
レーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダシステムでは、積分ヒット数が多い場合や、PRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)が長く、CPI(Coherent Pulse Interval:コヒーレントパルス周期)が長い長時間積分を行う場合に、1回のFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)のポイント数が増えすぎてしまい、FFTを実装できないことがあった。また、長時間観測の場合は、レンジウォークやドップラウォークにより、積分ロスが生じる課題があった。
【0003】
一方、長時間積分処理として、積分系列最大化(速度・加速度補正)の手法がある(特許文献1参照)。この手法は、速度及び加速度の探索法により、積分系列を最大化する手法であるが、長時間積分の場合は、長時間のFFTを探索範囲にわたって処理する必要があり、全体の処理規模が増えることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5025403号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】レンジ圧縮、大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献2】CFAR(Constant False Alarm Rate)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献3】FFT、日野、‘スペクトル解析’、朝倉書店、pp.193-198(1977)
【非特許文献4】DBF(Digital Beam Forming)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.289-291(1996)
【非特許文献5】MIMO(Multi-Input Multi-Output),JIAN LI, PETER STOICA, ‘MIMO RADAR SIGNAL PROCESSING’, WILEY, pp.1-5(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように、従来のレーダシステムには、速度及び加速度の探索法により、積分系列を最大化する手法があるが、長時間積分の場合は、長時間のFFTを探索範囲にわたって処理する必要があり、全体の処理規模が増大してしまう課題がある。
【0007】
本実施形態の課題は、長時間積分時にも、少ない処理規模で実現でき、またレンジウォーク及びドップラウォークによる積分ロスを低減することのできるレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、実施形態に係るレーダシステムは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するもので、第1FFT処理手段と、第2FFT処理手段と、検出手段とを備える。第1FFT処理手段は、slow-time軸にNs(Ns≧2)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、前記受信信号の前記slow-time軸をLs(Ls≧1)セル毎にMs(Ms≧2)分割して、各々の分割単位でslow-time軸でMs回第1FFT処理を行ってドップラセル(ls=1~Ls)を取得する。第2FFT処理手段は、前記分割単位でドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行う。検出手段は、前記第2FFT処理手段の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を長時間積分して目標を検出する。
【0009】
すなわち、2段FFTによる少ないポイント数(データ長)のFFT処理により、長時間FFTを実現することができる。
【0010】
また、実施形態に係るレーダシステムは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するもので、第1FFT処理手段と、第2FFT処理手段と、検出手段とを備える。第1FFT処理手段は、slow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、分割単位として順次入力して、各々の単位でslow-time軸で第1FFT処理を行ってドップラセル(ls=1~Ls)を得る。第2FFT処理手段は、既に処理したMs(Ms≧2)個の分割単位を用いて、前記ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行う。検出手段は、前記第2FFT処理手段の処理結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を長時間積分して目標を検出する。
【0011】
すなわち、順次入力する分割単位の第1FFT処理と既に処理済みの複数の分割単位を用いて第2FFT処理を行うことにより、処理規模を低減して、長時間のFFT処理を実現できる。
【0012】
また、実施形態に係るレーダシステムは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)ヒットのパルス信号の反射波を受信し、その受信信号から目標信号を抽出するもので、まず、slow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、fast-time軸でFFTしてレンジ周波数軸にした後、レンジ周波数をMf(Mf≧1)分割し、slow-time軸をMs(Ms≧1)分割し、Mf×Ms分割した信号をそれ以外のNf×Ns領域のうち、fast-time軸は0埋めし、slow-timeは0埋めしない信号を用いて、fast-time軸はレンジ圧縮し、slow-time軸はFFT処理したMf×Msの信号を振幅積分して、仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出する。次に、レンジ周波数の全帯域の信号を用いてレンジ圧縮し、slow-time軸は、Ms分割した後、各々の分割単位でMs回第2FFTし、各分割単位のドップラセル(ls=1~Ls)毎に、Msポイントのslow-time軸のデータに対して、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(sv通り)及び加速度(sa通り)とレンジセルのバイアス分(sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(sv×sa×sb)を設定し、各積分系列をレンジ軸でRtセルになるように、レンジシフト量を、レンジ周波数軸の位相勾配で設定するにより、レンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸で第2FFT(Msポイント)したsv×sa×sb通りの結果の最大値が最大となるMsポイントの積分系列(slow-time軸FFT前)を選定し、Msポイントのslow-time軸で第2FFTした結果を、ドップラセル(ls=1~Ls)に置き換える。続いて、前記ドップラセル(ls=1~Ls)を仮検出Pt毎に繰り返したレンジ-ドップラデータを用いて検出する。
【0013】
すなわち、レンジ周波数軸狭帯域及びslow-time軸制限により、レンジ分解能及びドップラ分解能を制限し、レンジウォーク及びドップラウォークの影響を軽減した上で、CFARにより仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データと、2段FFTによる高分解能ドップラデータを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正して、レンジ高分解能及びドップラ高分解能に目標を検出できる。
【0014】
上記方式を用いると、長時間積分時にも、少ない処理規模で実現でき、またレンジウォーク及びドップラウォークによるロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、第1の実施形態のslow-time軸における分割単位2段FFT処理について説明するための図である。
図4図4は、第1の実施形態の2段FFT処理結果を第1FFTのバンク毎に配列する様子を示す図である。
図5図5は、第1の実施形態において、slow-time軸全体の第1FFT処理結果と第2FFT処理結果を比較して示す図である。
図6図6は、第2の実施形態の受信系統受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、第2の実施形態において、送信ファンビーム、受信DBFによるマルチビームの場合の様子を示す図である。
図8図8は、第2の実施形態において、FFT範囲を観測フレーム単位でスライディングさせて長時間積分する様子を示す図である。
図9図9は、第3の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
図10A図10Aは、第3の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
図10B図10Bは、第3の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
図11図11は、第3の実施形態の受信系統の処理の様子を示す図である。
図12図12は、第3の実施形態で用いられる狭帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図である。
図13図13は、第3の実施形態で用いられる時分割FFT処理の様子を示す図である。
図14図14は、第3の実施形態で用いられる広帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図である。
図15A図15Aは、第3の実施形態で用いられるレンジウォーク及びドップラウォーク補正処理の様子を示す図である。
図15B図15Bは、第3の実施形態で用いられるレンジウォーク及びドップラウォーク補正処理の様子を示す図である。
図16図16は、第3の実施形態において、誤検出発生対策処理の流れを示すフローチャートである。
図17図17は、図16に示す誤検出発生対策処理の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1乃至図5を参照して、第1の実施形態について説明する。
【0018】
図1は第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。
【0019】
図1(a)に示す送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号に伝送情報を変調多重し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換し、パルス変調器14で高周波信号をパルス変調して送信パルス列を生成し、送信アンテナ15でN(N≧2)ヒットのパルスを送信する。
【0020】
図1(b)に示す受信系統では、送信アンテナ15から送信されたパルス信号の反射波を受信アンテナ21で受信し、その受信信号を周波数変換器22でベースバンドに周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換して受信信号を得る。次に、受信信号に対して、レンジ圧縮器24によるレンジ圧縮、slow-time軸分割器25によるslow-time軸のCPI分割、slow-time軸第1FFT処理器26によるslow-time軸の第1FFT処理、slow-time軸第2FFT処理器27によるslow-time軸の第2FFT処理を行い、CFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率、非特許文献2参照)検出器28により観測値を検出して目標を判定し、測距、測速、測角を行って目標情報として出力する。
【0021】
なお、上記レーダシステムにおいて、送信系統と受信系統は、一体であってもよいし、互いに離れた場所に設置されていてもよい。
【0022】
上記構成によるレーダシステムにおいて、図2乃至図5を参照して受信系統の受信データ取得後の処理動作を説明する。ここで、図2は第1の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャート、図3は第1の実施形態のslow-time軸における分割単位2段FFT処理について説明するための図、図4は第1の実施形態の2段FFT処理結果を第1FFTのバンク毎に配列する様子を示す図、図5は第1の実施形態においてslow-time軸全体の第1FFT処理結果と第2FFT処理結果を比較して示す図である。
【0023】
まず、図1(a)に示した送信系統から送信されるN(N≧2)ヒットの送信パルスが目標等で反射した信号は、受信アンテナ21で受信され、周波数変換器2でベースバンドに周波数変換されて、AD変換器23によりディジタル信号に変換され、これによって受信データが取得される。このように、N(N≧2)ヒットの送信パルスを受信して得られた受信データをPRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)データによるCPI(Coherent Pulse Interval:コヒーレントパルス周期)データと呼ぶ。このCPIデータは、レンジセル毎のfast-time軸とPRI間のslow-time軸の2次元データである。
【0024】
図2において、まず、受信データを入力して、slow-time軸の分割を行って分割CPIを形成し、分割単位でCPIを順次パルス圧縮した後、slow-time軸のFFT処理(第1FFT)を実行して、分割CPIのFFT処理結果を保存する(24~26、ステップS11~S16)。ステップS15で全分割CPIの第1FFT処理が完了した場合には、ドップラセルについて順次slow-time軸FFT処理(第2FFT)を実行し(27、ステップS17~S20)、さらにレンジセルについても同様に、順次slow-time軸FFT処理(第2FFT)を実行し(27、ステップS21~S22)、CFAR検出により観測値を検出して目標を判定し、測距、測速、測角を行って目標情報として出力する(28、ステップS23)。
【0025】
上記構成において、本実施形態のレーダシステムに採用される2段FFT(第1FFTと第2FFT)について説明する。
【0026】
まず、slow-time軸FFT処理する場合、長時間FFTを行うと、FFTポイント数(データ長)が増えるため、処理規模が増え(非特許文献3参照)、実装できなくなる場合がある。この対策として、図2のフローチャートに示すように、slow-time軸を分割することを考える。
【0027】
図3を参照して、2段FFT処理について説明する。図3において、(a)はCPI分割の様子を示し、(b)は第1FFTによる1段ドップラ軸の様子を示し、(c)は1段ドップラ軸におけるCPI分割単位での並べ替えの様子を示し、(d)は第2FFTによる2段ドップラ軸の様子を示している。
【0028】
上記2段FFTについて定式化すると、以下のように表される。
【0029】
【数1】
【0030】
【数2】
【0031】
次に、図3(d)に示すように、slow-time軸で分割単位の第2FFTを実施する。
【0032】
【数3】
【0033】
このFFT処理結果を図4(a)に示す第1FFTのバンク毎に配列すると、第2FFTでは、図4(b)に示すように、slow-time軸全体のFFTと同一の結果が得られる。この様子を図5に示す。図5において、(a)は、Ms個の分割CPIから得られるドップラ(Lsバンク)軸-レンジNfセル軸の第1FFT#1~#Ms(データ長Ls)の処理結果でそれぞれ仮検出セル1が得られる様子を示し、(b)は、ドップラ(Ns=1Ls×Msバンク)軸-レンジNfセル軸でMsポイントの第2FFTの処理結果で仮検出セル1が得られる様子を示している。
【0034】
以上のように、本実施形態に係るレーダシステムでは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧2)パルス信号の反射波を受信し、その受信信号について、slow-time軸にNs(Ns≧2)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、slow-time軸をLs(Ls≧1)セル毎にMs(Ms≧2)分割して、各々の分割単位でslow-time軸でMs回第1FFT処理を行い、次に、分割単位でドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理を行い、その結果を元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した信号を用いて目標を検出する。このように、2段FFTによる少ないポイント数(データ長)のFFT処理により、長時間FFTを実現することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
続いて、図6乃至図8を参照して、第2の実施形態について説明する。図6は、第2の実施形態の受信系統受信系統の処理の流れを示すフローチャート、図7は、第2の実施形態において、送信ファンビーム、受信DBFによるマルチビームの場合の様子を示す図、図8は、第2の実施形態において、FFT範囲を観測フレーム単位でスライディングさせて長時間積分する様子を示す図である。第1の実施形態では、2段FFT処理について述べた。本実施形態では、この2段FFT処理を用いて運用した具体的な処理について提案する。なお、送信系統、受信系統のシステム構成については、図1と同様であるので、その説明を割愛する。
【0036】
図6において、図2に示すフローチャートと異なる点は、ステップS15、S16のCPI分割変更ループを外し、代わって、ステップS23のCFARによる検出処理後、観測終了か判断し(ステップS24)、観測終了までCPI分割入力を継続する(ステップS25)ようにしたことにある。
【0037】
以上のように、本実施形態に係るレーダシステムでは、分割CPI信号を順次入力する毎に、分割CPIの信号をパルス圧縮し、slow-time軸で第1FFT処理し、その結果を分割CPI毎に保存しておく(ステップS11~S14)。次に、保存していたCPI結果を用いて、slow-time軸で第2FFT処理を実行する(ステップS17)。第1FFTドップラセルを第2FFT処理のドップラセルに置き換える(ステップS18)。第1FFT処理の結果は、レンジセル数×ドップラセル数分あるので、各々のセル毎に処理する(ステップS19~S22)。これにより、高分解能のドップラセルによる信号が得られるので、CFAR等により目標を検出する(ステップS23)。この処理を、順次入力する分割CPI毎に行えば(ステップS24,S25)、分割CPI単位の高データレートで観測値を出力することができる。
【0038】
上記処理系統において、本実施形態に係るレーダシステムでは、観測空間に送信ファンビームを形成して、受信はDBF(Digital Beam Forming:デジタルビーム形成)(非特許文献4参照)によるマルチビームを形成するか、MIMO(Multiple Input Multiple Output:マルチ入力マルチ出力)(非特許文献5参照)による送受信マルチビームを形成する場合は、観測空間に常時送受信ビームを形成できるため、長時間積分が可能である。図7(a)の上面図、(b)の側面図に、送信ファンビーム形成と受信DBFによるマルチビーム形成の様子を示す。
【0039】
ところで、観測空間を時分割ではなく、常時観測すると、受信ビーム幅が広くて測角精度が低い場合でも、観測回数を増やすことによる平均化効果により、測角精度を向上することができる。このためには、捜索フレームタイムを短縮化する(捜索レートを向上する)ことが有効である。
【0040】
常時観測で、高いSN(信号対雑音電力)を確保しつつ、観測空間全体の捜索フレ-ムタイムを短くするためには、図8に示すように、FFT処理範囲を観測フレーム単位でスライディングさせて長時間積分する必要がある。これを実施する際には、同じ時間のデータを重複して何度も積分することになるため、処理規模が増大してしまう。
【0041】
そこで、処理規模の増大対策として、前述の2段FFT、すなわち、全フレームタイムを分割し、各々の分割単位で第1FFT処理した結果をスライディングさせて第2FFT処理を実施する。具体的には、図8に示すように、ds(ds=1~Ds)番目の観測フレームにおいては、分割単位ds番目のLsポイントの第1FFT処理と、分割数Ms(Ms≧1)ポイントの第2FFT処理を行えばよい。
【0042】
この2段FFT方式と通常の全ポイントのFFT方式について、1観測フレーム当たりの演算量の比較をしてみると次の通りである。ここでは、NポイントのデータのFFTの演算量は、Nlog2Nに比例することを用いている(非特許文献3参照)。
【0043】
【数4】
【0044】
【数5】
【0045】
わかりやすいように、md=16、mdiv=1024、rngcell=1000の場合で定量化すると、全ポイントのFFT処理の場合は、
16・1024・log2(16・1024)・1000=229376000
となるのに対して、2段FFT処理方式の場合は、
1024・log2(1024)+16・log2(16)・1024・1000=65546240
と算出することができる。このときの比率は65546240/229376000=0.29となるので、2段FFT方式により、演算量を大幅に削減可能となる。この結果、2段FFTを用いて、長時間積分でSN(信号対雑音比)を向上させ、かつ高データレート(フレ-ムタイムが短い)の処理を実現することができる。
【0046】
以上のように、本実施形態に係るレーダシステムでは、受信信号の信号処理として、slow-time軸にLs(Ls≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を、分割単位として順次入力して、各々の単位でslow-time軸で第1FFT処理を行い、次に、既に処理したMs(Ms≧2)個の分割単位を用いて、ドップラセル毎にMsポイントの第2FFT処理した結果を、元のドップラセル(ls=1~Ls)毎に配列した結果を用いて目標を検出する。すなわち、順次入力する分割単位の第1FFT処理と、既に処理済みの複数の分割単位を用いて第2FFT処理を行うことにより、処理規模を低減して、長時間のFFT処理を実現することができる。
【0047】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。ここで、第1の実施形態及び第2の実施形態では、2段FFTによる長時間積分処理について述べた。本実施形態では、2段FFTを用いて、レンジウォーク及びドップラウォークを補正して、高効率に積分処理する手法について、図9図17を参照して説明する。
【0048】
図9は、第3の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。図9(a)に示す送信系統については、図1(a)に示した第1の実施形態、第2の実施形態の送信系統と同じである。図9(b)に示す受信系統について、図1(b)に示す第1の実施形態、第2の実施形態の受信系統の構成と異なる点は、AD変換器23より後段の長時間積分方式を用いた信号処理構成にある。すなわち、第3の実施形態では、AD変換器23で得られた受信データを狭帯域レンジ圧縮器29、slow-time軸分割器30、slow-time軸FFT処理器31、仮検出器32による目標仮検出処理系統と、広帯域レンジ圧縮器33、レンジウォーク・ドップラウォーク補正器34、slow-time2段FFT処理器35、CFAR検出器36の目標決定系統とを備えることにある。
【0049】
本実施形態で用いる長時間積分方式について述べる。PRI(Pulse Repetition Interval)間隔で送信したパルス毎に、PRI内のレンジセル単位でデータを取得する。この取得データを用いて長時間積分処理を実施する。長時間積分の場合には、目標の速度及び加速度により、slow-time軸に対して、レンジセル及びドップラセルが動くため、高分解能なレンジ圧縮及びslow-time軸FFTすると、目標SN(信号対雑音比)が低下する。この対策として、レンジ分解能とドップラ分解能を低下させて、仮検出することを考える。
【0050】
本実施形態に係るレーダシステムでは、送信系統において、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で変調信号を生成し、周波数変換器13で高周波信号に変換して、パルス変調器14でパルス変調し、送信アンテナ15から、N(N≧2)ヒットのパルスを送信する。
【0051】
また、受信系統において、受信アンテナ21で受信した信号は、周波数変換器22で周波数変換され、AD変換器23でディジタル信号に変換され、受信信号として出力される。次に、受信信号がレンジ圧縮(非特許文献1参照)信号の場合は、帯域制限した狭帯域でレンジ圧縮し(29)、slow-time軸(NヒットのPRI軸)を分割し(30)、分割したslow-time軸でFFT処理して(31)、CFAR等により反射点を仮検出する(32)。狭帯域信号にするのは、レンジ分解能を低下してレンジウォークの影響を抑圧するためであり、slow-time軸を分割するのは、ドップラ分解能を低下して、ドップラウォークの影響を抑圧するためである。なお、レンジ周波数帯域の分割や、slow-time軸の分割により、SNが低下するため、分割単位毎の処理結果を振幅積分することにより、SN低下を防いで、仮検出する。
【0052】
一方、AD変換器23からのディジタル信号は、送信したチャープ帯域で広帯域レンジ圧縮し(33)、仮検出した反射点を元に、レンジウォーク・ドップラウォーク補正して仮検出点を通るslow-time軸信号を置き換えた後(34)、slow-time軸2段FFT処理を行い(35)、CFAR等により目標を検出して目標情報を得る(36)。
【0053】
上記構成において、図10A及び図10B図11を参照して、本実施形態の受信系統の処理について説明する。図10A及び図10Bは、第3の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。また、図11は、第3の実施形態の受信系統の処理の様子を示す図である。
【0054】
本実施形態のレーダシステムでは、図10Aに示すように、広帯域のパルス信号を送受信して(ステップS31)、AD変換器23からのCPI(Coherent Pulse Interval)信号(fast-time及びslow-time信号、図11(a))を用いて、fast-time軸でFFTして、レンジ周波数軸に変換する(ステップS32、図11(b))。この信号を用いて、レンジ周波数軸及びslow-time軸の信号をそれぞれ、Mf及びMs分割し、Mf×Ms通りの信号を得る(ステップS33,S34、図11(c))。レンジ周波数軸では分割信号以外は、0埋めとする。一方、slow-time軸では、FFTポイント数を減らすために、0埋めしない。このMf×Ms通りの信号の各々で、fast-time軸でパルス圧縮(ステップS35)、slow-time軸でFFTして(ステップS36)、レンジ軸及びドップラ軸で低分解能の信号を得て、更にMf×Ms通りの信号を振幅積分し(ステップS37~S41)、CFAR等により仮検出点を求める(ステップS42、図11(d))。
【0055】
この部分を定式化する。わかりやすくするために、レンジ圧縮とslow-time軸FFTについて、各々説明する。実際には、レンジ圧縮後、slow-time軸FFTまたは、その逆の順で処理を行う。
【0056】
まず、図12を参照して、狭帯域レンジ圧縮について述べる(非特許文献1参照)。図12は、第3の実施形態で用いられる狭帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図である。レンジ圧縮は、入力信号とレンジ圧縮用信号の相関処理であり、これを周波数領域で行う場合について定式化すると次の通りである。
【0057】
まず、入力信号(図12(a1))と参照信号(図12(a2))をfast-time軸でFFTすると次式(図12(b1)、(図12(b2))となる。
【0058】
【数6】
【0059】
【数7】

これを帯域制限すると次式(図12(c1)、(図12(c2))となる。
【0060】
【数8】
【0061】
【数9】

帯域制限した信号と参照信号を共役乗算すると、次式(図12(d1)、(図12(d2))となる。
【0062】
【数10】

時間軸上にするには、このsを次式のように逆フーリエ変換(図12(e1)、(図12(e2))すればよい。
【0063】
【数11】

上記の結果を振幅積分することで、仮検出セルが抽出される(図12(f))。
【0064】
以上により、狭帯域レンジ圧縮と広帯域レンジ圧縮のレンジセルの分解能を同じにでき、狭帯域レンジ圧縮で仮検出したセルをそのまま広帯域レンジ圧縮に対応させることができる。
【0065】
次に、図13を参照して、時分割FFT処理について定式化する。図13は、第3の実施形態で用いられる時分割FFT処理の様子を示す図である。
【0066】
まず、入力信号(図13(a))は次式となる。
【0067】
【数12】

ここで、帯域制限を行ってslow-time軸を分割し(図13(b))、slow-time軸でFFT処理すると次式となる(図13(c))。
【0068】
【数13】
【0069】
(13)式のfastd×slowdのレンジ-ドップラ信号を用いて、振幅積分してSNを向上した後(図13(d))、CFAR等により仮検出し、レンジセルを抽出して、レンジセルRt(t=1~Pt:Ptは仮検出数)を得る。
【0070】
仮検出後の処理について、図10B及び図14を参照して説明する。
図10Bにおいて、仮検出後は、fast-time軸の広帯域でのレンジ圧縮を行い(ステップS43)、slow-time軸を分割して第1FFT処理を行い(ステップS44)、積分系列探索法によりレンジ及びドップラの積分系列を補正し(ステップS45)、slow-time軸第2FFT処理を行って(ステップS46)、その結果を保存する(ステップS47)。この時点で速度数を判断し(ステップS48)、所定の速度数に達していない場合には、速度を変更して(ステップS49)ステップS45~S48の処理を繰り返す。所定の速度数を超えた場合には、所定の加速度に達したか判断し(ステップS50)、達していなければ加速度を変更して(ステップS51)、ステップS45~S50の処理を繰り返す。所定の加速度に達した場合には、レンジバイアスの調整が終了したか判断し(ステップS52)、調整が終了していなければ、レンジバイアスを変更して(ステップS53)、ステップS45~S52の処理を繰り返す。レンジバイアスの調整が終了している場合には、第2FFT処理結果から最大系列を抽出し(ステップS54)、最大系列の置き換えを行って(ステップS55)、仮検出数が最大値に到達したか判断し(ステップS56)、達していなければ、仮検出数を変更してステップS45~S56の処理を繰り返し実行する。仮検出数が最大値に達した場合には、slow-time軸のFFT処理を行い(ステップS458)、CFAR等により目標となるセルを検出する(ステップS59)。
【0071】
図14は、第3の実施形態で用いられる広帯域レンジ圧縮処理の様子を示す図である。すなわち、仮検出後は、元の入力信号(図14(a1))と参照信号(図14(a2))を用いて、fast-time軸の広帯域レンジ圧縮を行って、fast-time軸でFFTを行い(図14(b1)、(図14(b2)))、両者の複素共役乗算を行う(図14(c))。この時の処理は次式となる。
【0072】
【数14】
【0073】
【数15】
【0074】
【数16】

時間軸上にするには、このsを次式のように逆フーリエ変換すればよい(図14(d))。
【0075】
【数17】
【0076】
次に、図15A及び図15Bを用いて、レンジウォーク及びドップラウォーク補正について説明する。図15A及び図15Bは、第3の実施形態で用いられるレンジウォーク及びドップラウォーク補正処理の様子を示す図である。
【0077】
まず、補正する単位として、slow-time軸で分割した信号を生成し、分割した信号毎にslow-time軸で第1FFT処理を行う(図15A(a))。
【0078】
【数18】

次に、仮検出したRtセルを中心に、所定のサーチ(探索)範囲の速度(sv通り)及び加速度(sa通り)とレンジセルのバイアス分(sb通り)を用いて、分割したslow-time軸のslowdに沿った積分系列(sv×sa×sb)を設定する(図15A(b))。
【0079】
【数19】
【0080】
各積分系列を、レンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸slowdで並べ替える。このレンジウォーク補正では、レンジ周波数軸でシフトする手法(図15A(c))があり、後述する。この系列を全slow-time軸でFFTしたsv×sa×sb通りの結果の最大値が最大となるMsポイントの積分系列(slow-time軸第2FFT処理前)を選定し(図15B(d))、Msポイントのslow-time軸FFT処理をした結果を、ドップラセル(ls=1~Ls)に置き換える(図15B(e))。これを仮検出Pt毎に繰り返したレンジ-ドップラデータを用いて、CFAR等により検出する(図15B(f))。
【0081】
【数20】
【0082】
以上の処理により、仮検出によりサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク補正及びドップラウォーク補正をして、高いSNで処理できるため、誤検出は抑圧しつつ、目標を検出できる。
【0083】
以上、レンジウォーク及びドップラウォーク補正の手法について述べた。ここで、レンジウォーク補正をレンジ周波数軸で実施する手法について述べる。各目標Ptの積分系列の候補(sv×sa×sb通り)の各々について、レンジウォーク及びドップラウォーク補正するには、図15A(c)に示すように、slow-time軸のセル毎に、レンジ軸のシフトを補正する必要がある。この際、レンジセル単位でシフト量を決めると、シフト量に量子化誤差が発生し、slow-time軸でFFT処理する際のドップラ軸サイドローブが劣化し、SN(信号対雑音比)も低下し、誤検出が発生する。本実施形態では、この対策について述べる。
【0084】
図16は、第3の実施形態において、誤検出発生対策処理の流れを示す波形図、図17は、図16に示す誤検出発生対策処理の様子を示す図である。
【0085】
図16において、レンジ圧縮後のslow-time軸データを入力して(ステップS61)、fast-time軸でFFT処理して、レンジ周波数-slow-time軸に変換する(ステップS62)。次に、積分系列(sv×sa×sb通り)毎に、slow-time軸のセル毎にレンジシフト量を算出する(ステップS63、図17(a))。さらに、slow-time軸のセル毎に、レンジシフト量に応じた位相勾配を次式により算出する(ステップS64、図17(b))。
【0086】
【数21】

繰り返したレンジ-ドップラデータを用いて、CFAR等によりセルを検出する。
【0087】
【数22】
【0088】
slow-time軸のセル毎に位相勾配によりレンジ周波数軸を補正し(ステップS65)、そのレンジ周波数軸を逆FFTして、レンジ圧縮-slow-time軸の信号を得る(ステップS66)。
【0089】
【数23】

この結果を積分系列毎(sv×sa×sb通り)に繰り返して、slow-time軸第2FFT処理の結果が最大となる積分系列を抽出すれば、レンジウォーク及びドップラウォーク補正結果(図17(c))を得ることができる。
【0090】
なお、実施形態では、レーダ波を送受信するシステムについて述べたが、他のシステム(通信等を含む)の送信源を利用するパッシブレーダの場合にも適用できる。
【0091】
以上のように、本実施形態では、受信信号の信号処理として、slow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号を用いて、まず、fast-time軸でFFTを行ってレンジ周波数軸に変換した後、レンジ周波数をMf(Mf≧1)分割し、またslow-time軸をMs(Ms≧1)分割し、Mf×Ms分割した信号をそれ以外のNf×Ns領域のうち、fast-time軸は0埋めし、slow-timeは0埋めしない信号を用いて、fast-time軸はレンジ圧縮し、slow-time軸はFFT処理したMf×Msの信号を振幅積分して、CFARにより仮検出してPt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出する。次に、レンジ周波数の全帯域の信号を用いてレンジ圧縮し、slow-time軸は、Ms分割した後、各々の分割単位でMs回第2FFT処理を行い、各分割単位のドップラセル(ls=1~Ls)毎に、Msポイントのslow-time軸のデータに対して、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(sv通り)及び加速度(sa通り)とレンジセルのバイアス分(sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(sv×sa×sb)を設定し、各積分系列をレンジ軸でRtセルになるように、レンジシフト量を、レンジ周波数軸の位相勾配で設定する等により、レンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替えた後にslow-time軸で第2FFT処理(Msポイント)したsv×sa×sb通りの結果の最大値が最大となるMsポイントの積分系列(slow-time軸FFT処理前)を選定し、Msポイントのslow-time軸で第2FFT処理を行った結果を、ドップラセル(ls=1~Ls)に置き換える。これを仮検出されたPt毎に繰り返したレンジ-ドップラデータを用いて、CFAR等により目標を検出する。
【0092】
すなわち、レンジ周波数軸狭帯域及びslow-time軸制限により、レンジ分解能及びドップラ分解能を制限し、レンジウォーク及びドップラウォークの影響を軽減した上で、CFARにより仮検出し、広帯域のレンジ高分解能データと、2段FFTによる高分解能ドップラデータを用いて、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正する。これにより、レンジ高分解能及びドップラ高分解能に目標を検出できる。
【0093】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0094】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、
21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…レンジ圧縮器、25…slow-time軸分割器、26…slow-time軸第1FFT処理器、27…slow-time軸第2FFT処理器、28…CFAR検出器、
29…狭帯域レンジ圧縮器、30…slow-time軸分割器、31…slow-time軸FFT処理器、32…仮検出器、33…広帯域レンジ圧縮器、34…レンジウォーク・ドップラウォーク補正器、35…slow-time2段FFT処理器、36…CFAR検出器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17