(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100363
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】硬化性組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20230711BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230711BHJP
C08L 101/10 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
C08L33/04
C08L67/00
C08L101/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000975
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮藤 聖
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BG021
4J002BG031
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG071
4J002CF032
4J002CF112
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD150
4J002GJ00
4J002GJ01
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】反応性ケイ素基を有する有機重合体を含有し、かつ、強度の高い硬化物を形成し得る硬化性組成物の提供。
【解決手段】反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)、及び、反応性ケイ素基を有するポリエステル(B)を含有する硬化性組成物。前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分が、(メタ)アクリル酸エステル(a1)、(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有する重合体(a2)、及び、メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)、を含有する。前記単量体成分が、反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)をさらに含有し、及び/又は、前記メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)が、反応性ケイ素基をさらに有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)、及び、
下記一般式(1)で表される反応性ケイ素基を有するポリエステル(B)を含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分が、
(メタ)アクリル酸エステル(a1)、
(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有する重合体(a2)、及び、
メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)、を含有し、
前記単量体成分が、反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)をさらに含有し、及び/又は、前記メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)が、反応性ケイ素基をさらに有する、硬化性組成物。
-SiR1
3-aXa (1)
(式中、R1は、置換又は非置換の炭素数1~20の炭化水素基を表す。Xは水酸基または加水分解性基を表す。aは2または3である。)
【請求項2】
重合体(a2)が、(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有するポリオキシアルキレン系重合体(a2″)である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
重合体(a2)が、(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体(a2′)である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
重合体(a2)/メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)のモル比が0.05以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
ポリエステル(B)が結晶性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
ホットメルト型硬化性組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性ケイ素基を有する重合体を含む硬化性組成物、及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素原子上に水酸基または加水分解性基を有し、加水分解・縮合反応によってシロキサン結合を形成し得るケイ素基(以下、「反応性ケイ素基」ともいう。)を有する有機重合体は、室温でも湿分などにより反応する。かかる有機重合体が反応性ケイ素基のシロキサン縮合反応によって架橋されることで、ゴム状硬化物が得られることが知られている。
【0003】
これら有機重合体の中でも、反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン重合体は、比較的低粘度であることから、配合組成物を作製したり、使用する際の作業性に優れる。また、得られる硬化物の機械物性、耐候性、動的耐久性などの性能バランスがよいことから、シーリング材、接着剤、塗料などの用途に広く使用されている(特許文献1を参照)。
【0004】
反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン重合体の耐候性や接着性を改善するため、反応性ケイ素基含有ポリオキシアルキレン重合体と反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル系重合体を併用した硬化性組成物が知られている(特許文献2を参照)。該硬化性組成物は高耐候性シーラントや工業用接着剤として利用されている。
【0005】
一方、特許文献3では、変成シリコーンやアクリル変性シリコーンを用いた一液湿気硬化型接着剤の硬化速度が遅いという欠点を解消することを目的に、硬化速度が速く、接着性にも優れた硬化性樹脂として、ポリエーテル骨格を有し両末端に二重結合を持つオリゴマーと、(メタ)アクリル酸エステル等のビニル単量体と、連鎖移動剤とをラジカル重合させて合成される反応性ケイ素基含有グラフト共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52-73998号公報
【特許文献2】特開昭59-122541号公報
【特許文献3】特許第5082851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反応性ケイ素基を有する有機重合体を含む硬化性組成物は、硬化することにより、強度の高い硬化物を形成することが望ましい。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、反応性ケイ素基を有する有機重合体を含有し、かつ、強度の高い硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル系重合体を特定の単量体及び連鎖移動剤から構成し、かつ、反応性ケイ素基含有ポリエステルを併用することで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)、及び、
下記一般式(1)で表される反応性ケイ素基を有するポリエステル(B)を含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分が、
(メタ)アクリル酸エステル(a1)、
(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有する重合体(a2)、及び、
メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)、を含有し、
前記単量体成分が、反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)をさらに含有し、及び/又は、前記メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)が、反応性ケイ素基をさらに有する、硬化性組成物に関する。
-SiR1
3-aXa (1)
(式中、R1は、置換又は非置換の炭素数1~20の炭化水素基を表す。Xは水酸基または加水分解性基を表す。aは2または3である。)
好ましくは、重合体(a2)が、(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有するポリオキシアルキレン系重合体(a2″)である。
好ましくは、重合体(a2)が、(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体(a2′)である。
好ましくは、重合体(a2)/メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)のモル比が0.05以上である。
好ましくは、ポリエステル(B)が結晶性を有する。
前記硬化性組成物は、好ましくは、ホットメルト型硬化性組成物である。
また本発明は、前記硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物にも関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応性ケイ素基を有する有機重合体を含有し、かつ、強度の高い硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供することができる。
本発明に係る硬化性組成物は、ホットメルト型硬化性組成物として好適に使用することかできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態に係る硬化性組成物は、反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)、及び、反応性ケイ素基を有するポリエステル(B)を含有する。
【0014】
<<反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)>>
<反応性ケイ素基>
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、下記一般式(1)で表される反応性ケイ素基を分子鎖末端及び/又は側鎖(非末端部位)に有する。
-SiR1
3-aXa (1)
(式中、R1は、置換又は非置換の炭素数1~20の炭化水素基を表す。Xは水酸基または加水分解性基を表す。aは2または3を示す。)
【0015】
R1の炭化水素基の炭素数は1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~3がさらに好ましい。R1の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、クロロメチル基、メトキシメチル基、N,N-ジエチルアミノメチル基が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、クロロメチル基、メトキシメチル基であり、より好ましくは、メチル基、メトキシメチル基である。
【0016】
Xとしては、例えば、ハロゲン、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。これらの中では、加水分解性が穏やかで取扱いやすいことから、アルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)が有する反応性ケイ素基としては、具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリス(2-プロペニルオキシ)シリル基、トリアセトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジメトキシエチルシリル基、(クロロメチル)ジメトキシシリル基、(クロロメチル)ジエトキシシリル基、(メトキシメチル)ジメトキシシリル基、(メトキシメチル)ジエトキシシリル基、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジメトキシシリル基、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジエトキシシリル基などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中では、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、(クロロメチル)ジメトキシシリル基、(メトキシメチル)ジメトキシシリル基、(メトキシメチル)ジエトキシシリル基、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジメトキシシリル基が高い活性を示し、良好な機械物性を有する硬化物が得られるため好ましく、ヤング率の高い硬化物が得られることから、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基がより好ましく、トリメトキシシリル基がさらに好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の反応性ケイ素基当量は特に限定はないが、0.2mmol/g以上が好ましく、0.5mmol/g以上がより好ましく、0.6mmol/g以上がさらに好ましい。また、前記反応性ケイ素基当量は2.0mmol/g以下が好ましく、硬化物の伸びの低下を抑える点から、1.0mmol/g以下がより好ましい。また、高剛性でかつ柔軟性の高い硬化物を得るためには、前記反応性ケイ素基当量は0.5mmol/g以上、1.0mmol/g以下が特に好ましい。
【0019】
<単量体成分>
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、少なくとも、(メタ)アクリル酸エステル(a1)、(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有する重合体(a2)、及び、メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)、を含有する単量体成分を共重合して形成される重合体である。なお、本願において「(メタ)アクリル」とは「アクリルおよび/またはメタクリル」を表す。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、次の2つの条件のうちいずれか一方又は双方を満足することによって、反応性ケイ素基を有することになる。
条件1:前記単量体成分は、さらに、反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)を含有する。
条件2:前記メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)が、反応性ケイ素基をさらに有する。
以上のような要件を満足する反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を含む硬化性組成物は、硬化することによって、強度が高い硬化物を形成することができる。
【0021】
高伸びの硬化物を得るためには、条件2で導入する反応性ケイ素基が条件1で導入する反応性ケイ素基よりも多いことが好ましい。具体的には、条件1で導入する反応性ケイ素基当量は、0.01mmol/g以上が好ましく、0.03mmol/g以上がより好ましく、0.05mmol/g以上がさらに好ましい。また、条件1で導入する反応性ケイ素基当量は1.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以下がより好ましい。一方、条件2で導入する反応性ケイ素基当量は、0.2mmol/g以上が好ましく、0.3mmol/g以上がより好ましく、0.5mmol/g以上がさらに好ましい。また、条件2で導入する反応性ケイ素基当量は1.5mmol/g以下が好ましく、1.0mmol/g以下がより好ましい。
【0022】
高い強度を有する硬化物を得るためには、条件1及び条件2の双方により反応性ケイ素基を導入することが好ましい。具体的には、条件1で導入する反応性ケイ素基当量は、0.1mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましく、0.3mmol/g以上がさらに好ましい。また、条件1で導入する反応性ケイ素基当量は1.8mmol/g以下が好ましく、1.0mmol/g以下がより好ましい。一方、条件2で導入する反応性ケイ素基当量は、0.1mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましく、0.3mmol/g以上がさらに好ましい。また、条件2で導入する反応性ケイ素基当量は1.5mmol/g以下が好ましく、1.0mmol/g以下がより好ましい。
【0023】
<(メタ)アクリル酸エステル(a1)>
(メタ)アクリル酸エステル(a1)としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキシド付加物、(メタ)アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸3,3,3-トリフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ビス(トリフルオロメチル)メチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチル-2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸クロロエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル等が挙げられる。1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリル酸エステル(a1)としては(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル酸エステル(a1)の含有量は、柔軟性と高剛性を両立できる観点から、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分の総量に対し30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上がより好ましく、45重量%以上が更に好ましい。上限は、80重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましく、65重量%以下が更に好ましい。
【0025】
強度の高い硬化物が得られることから、(メタ)アクリル酸エステル(a1)としては、アルキルの炭素数が1~4である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。当該アルキルの炭素数が1~4である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分の総量に対し30重量%以上含有することが好ましく、35重量%以上がより好ましく、40重量%以上が更に好ましい。上限は、70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、55重量%以下が更に好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル(a1)は、硬質の重合体鎖を形成して強度の高い硬化物を得ることができるため、メタクリル酸エステル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、及び、アクリル酸ジシクロペンタニルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体を含有することが好ましい。特に、重合体(a2)を除く前記単量体成分の総量のうち、メタクリル酸エステル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、及び、アクリル酸ジシクロペンタニルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体が占める割合が60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましい。
【0027】
<(メタ)アクリロイル基を分子内に1つより多く有する重合体(a2)>
重合体(a2)はこれ自体が重合体であるが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体の1つである。重合体(a2)は(メタ)アクリロイル基を有することによって、(メタ)アクリル酸エステル(a1)など他の単量体と共重合することができる。しかも、重合体(a2)は(メタ)アクリロイル基を1分子内に1つより多く有するため、いわゆる多官能性マクロモノマーとして機能することができる。重合体(a2)の主鎖骨格(後述する第二分子鎖)は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)において、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される2本の分子鎖(後述する第一分子鎖)を架橋する構造を形成し得る。以下、重合体(a2)を多官能性マクロモノマー(a2)ともいう。
【0028】
多官能性マクロモノマー(a2)が有する(メタ)アクリロイル基は、下記式(4)で表されることが好ましい。
CH2=C(R7)-COO-Z (4)
(式中、R7は、水素またはメチル基を表す。Zは、多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格を表す。)
【0029】
多官能性マクロモノマー(a2)は、(メタ)アクリロイル基を1分子内に平均して1つより多く有する。多官能性マクロモノマー(a2)1分子当たりの(メタ)アクリロイル基の平均個数は、1.1~5個であることが好ましく、1.3~4個がより好ましく、1.6~2.5個がさらに好ましく、1.8~2.0個が特に好ましい。尚、多官能性マクロモノマー(a2)は、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを有してもよいし、メタクリロイル基のみを有してもよいし、アクリロイル基とメタクリロイル基の双方を有してもよい。
【0030】
多官能性マクロモノマー(a2)は、(メタ)アクリロイル基を、重合体の分子鎖末端および側鎖のいずれか又は双方に有することができる。機械物性に優れる観点から、分子鎖末端に有することが好ましい。特に、多官能性マクロモノマー(a2)は、直鎖状の主鎖骨格を有し、その分子鎖の両末端それぞれに(メタ)アクリロイル基を有することが特に好ましい。
【0031】
多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体であるか、又は、ポリオキシアルキレン系重合体であることが好ましい。以下では、主鎖骨格が(メタ)アクリル酸エステル系重合体である多官能性マクロモノマー(a2)を(a2′)と表記し、主鎖骨格がポリオキシアルキレン系重合体である多官能性マクロモノマー(a2)を(a2″)と表記する。
【0032】
まず、多官能性マクロモノマー(a2′)について説明する。
多官能性マクロモノマー(a2′)の主鎖骨格を構成する単量体としては、特に限定されず、各種(メタ)アクリル系単量体を用いることができる。(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキシド付加物、(メタ)アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸3,3,3-トリフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ビス(トリフルオロメチル)メチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチル-2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸クロロエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル等が挙げられる。
【0033】
更に、上記(メタ)アクリル系単量体と共重合性を示す他の単量体を併用してもよい。他の単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸等のスチレン系単量体;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル単量体;マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル等のマレイン酸およびその誘導体;フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル等のフマル酸およびその誘導体;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリロニトリル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニル系単量体が挙げられる。他の単量体は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
多官能性マクロモノマー(a2′)の主鎖骨格は、軟質の重合体から構成されることが好ましい。具体的には、多官能性マクロモノマー(a2′)の主鎖骨格を形成する単量体成分は、アクリル酸エステル(但し、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、及び、アクリル酸ジシクロペンタニルを除く)を60重量%以上含有することが好ましく、70重量%以上がより好ましい。上限は、100重量%であってもよい。
【0035】
多官能性マクロモノマー(a2′)を合成する方法は特に限定されないが、例えば、以下に示す方法を用いることができる。以下の方法は組み合わせて用いてもよい。
(i)反応性官能基(V基)を有する単量体(例えば、アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル)を(メタ)アクリル系単量体と共重合した後、得られた共重合体に、V基に反応する官能基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物(例えば、(メタ)アクリル酸2-イソシアネートエチル)を反応させる方法。
(ii)リビングラジカル重合法によって(メタ)アクリル系単量体を重合した後、分子鎖末端(好ましくは分子鎖の両末端それぞれ)に(メタ)アクリロイル基を導入する方法。
これらの方法のうち、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を導入することができるので、(ii)の方法を用いることが好ましい。「リビングラジカル重合法」は、例えば、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)、1994年、116巻、7943頁に示されているようなコバルトポルフィリン錯体を用いるもの、特表2003-500378号公報に示されているようなニトロオキサイドラジカルを用いるもの、特開平11-130931号公報に示されているような有機ハロゲン化物やハロゲン化スルホニル化合物などを開始剤とし、遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP法)などが挙げられる。分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を導入しやすいことから原子移動ラジカル重合法が最も好ましい。
【0036】
また、特開2001-040037号公報に示されているようなメタロセン触媒と分子中に反応性ケイ素基を少なくとも1つ以上有するチオール化合物とを用いて(メタ)アクリル系重合体を得る方法を用いることも可能である。
【0037】
次に、多官能性マクロモノマー(a2″)について説明する。
多官能性マクロモノマー(a2″)の主鎖骨格であるポリオキシアルキレン系重合体としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレン共重合体などが挙げられる。その中でも、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0038】
当該ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格は直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0039】
多官能性マクロモノマー(a2″)を合成する方法としては特に限定されないが、例えば、水酸基を分子内に1つより多く有するポリオキシアルキレン系重合体(好ましくは、両末端に水酸基を有する直鎖状のポリオキシアルキレン系重合体)を準備し、当該水酸基を利用して(メタ)アクリロイル基を導入する方法が挙げられる。
【0040】
多官能性マクロモノマー(a2″)の合成法の一例として、水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体に対して、イソシアネート基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させて、ウレタン結合を形成して、(メタ)アクリロイル基を導入することができる。
前記イソシアネート基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物の具体例としては、例えば、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、イソシアネートプロピル(メタ)アクリレート、イソシアネートブチル(メタ)アクリレート、イソシアネートヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
多官能性マクロモノマー(a2″)の合成法の別の例として、水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体に対してジイソシアネート化合物を反応させて、重合体にイソシアネート基を導入した後、水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させることで、(メタ)アクリロイル基を導入することもできる。
前記ジイソシアネート化合物の具体例としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
前記水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0042】
多官能性マクロモノマー(a2″)の合成法の更に別の例として、水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体に対して酸無水物を反応させて、重合体にカルボキシル基を導入した後、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させることで、(メタ)アクリロイル基を導入することもできる。
前記酸無水物の具体例としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルハイミック酸、無水トリメリット酸、無水メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸等が挙げられる。
前記エポキシ基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0043】
多官能性マクロモノマー(a2″)の合成法の更に別の例として、水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体に対して、メタクリル酸、アクリル酸を脱水縮合させる方法がある。また、反応をより温和な条件で実施するためには、水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体に対して、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸ブロミド、メタクリル酸ヨージド、アクリル酸クロリド、アクリル酸ブロミド、アクリル酸ヨージドなどを反応させる方法がある。
【0044】
多官能性マクロモノマー(a2)の数平均分子量は特に限定されないが、硬化物が発揮する機械物性及び接着性と、(a2)の取り扱いの容易さを両立する観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上がさらに好ましい。また、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、40,000以下がさらに好ましく、30,000以下が特に好ましい。
【0045】
多官能性マクロモノマー(a2)の重量平均分子量は特に限定されないが、硬化物が発揮する機械物性及び接着性と、(a2)の取り扱いの容易さを両立する観点から、500以上が好ましく、1,000以上が好ましく、2,500以上がさらに好ましい。また、130,000以下が好ましく、65,000以下がより好ましく、60,000以下がさらに好ましく、30,000以下がより更に好ましい。
【0046】
多官能性マクロモノマー(a2)の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に限定されないが、狭いことが好ましく、具体的には2.0未満が好ましく、1.6以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、1.4以下がより更に好ましく、1.3以下が特に好ましく、1.2以下が最も好ましい。
【0047】
多官能性マクロモノマー(a2)の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、GPC(ポリスチレン換算)により測定される値であり、その詳しい測定法は実施例で記載する。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖と、多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格に由来する分子鎖を有する。多官能性マクロモノマー(a2)は重合性基である(メタ)アクリロイル基を1分子内に1つより多く有するため、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格に由来する分子鎖1本に対して、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖が1本より多く結合した構造を有し得る。多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格に由来する分子鎖は、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖の末端又は側鎖(非末端部位)のいずれに導入されていてもよいが、接着性の観点から、側鎖に導入されていることが好ましい。
【0049】
特に、多官能性マクロモノマー(a2)が主鎖骨格の両末端それぞれに(メタ)アクリロイル基を有する場合、多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格に由来する分子鎖の両末端それぞれに、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖が結合したH型構造が形成され得る。ここで、多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格に由来する分子鎖がHの横棒に相当し、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖が、Hに含まれる2本の縦棒に相当する。H型構造については後述する。
【0050】
多官能性マクロモノマー(a2)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分の総量に対し1重量%以上70重量%以下であることが好ましく、5重量%以上60重量%以下がより好ましく、10重量%以上50重量%以下がさらにより好ましく、15重量%以上45重量%以下が特に好ましい。なかでも、ヤング率の高い硬化物を得る場合には、多官能性マクロモノマー(a2)の含有量は、35重量%未満が好ましい。一方、ヤング率の低い硬化物を得る場合には、多官能性マクロモノマー(a2)の含有量は、35重量%以上が好ましい。
【0051】
また、多官能性マクロモノマー(a2)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分中、0.05モル%以上6.0モル%以下を占めることが好ましく、0.1モル%以上2.3モル%以下を占めることがより好ましく、0.2モル%以上1.5モル%以下を占めることがさらに好ましい。以上の範囲では、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を合成する時のゲル化を抑制しつつ、多官能性マクロモノマー(a2)の使用による効果を達成することができる。
【0052】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)1分子当たりの多官能性マクロモノマー(a2)の平均個数は、得られる硬化物の強度の観点から、0.05以上2.0以下であることが好ましい。下限は、0.07以上がより好ましく、0.08以上がさらに好ましい。上限は、1.5以下がより好ましく、1.0以下がさらに好ましい。前記平均個数は、次の式で算出することができる。
式:(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の数平均分子量(g/mol)/((メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の重量(g)/(多官能性マクロモノマー(a2)のモル数))
【0053】
<メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)>
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分に、メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)を含めることによって、多官能性マクロモノマー(a2)を使用しているにも関わらず、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の分子量分布を比較的狭くし、かつ(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を合成する時のゲル化を抑制することができる。また、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の1分子に多官能性マクロモノマー(a2)が1分子導入された重合体分子を優先的に合成することが可能となる。
【0054】
メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)は、反応性ケイ素基を有しないものであってもよいが、反応性ケイ素基をさらに有することが好ましい。当該反応性ケイ素基は、前述した式(1)で表される反応性ケイ素基である。メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)が反応性ケイ素基を有することによって、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖の末端に反応性ケイ素基を導入することができる。
【0055】
メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)としては特に限定されないが、例えば、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、(メルカプトメチル)ジメトキシメチルシラン、(メルカプトメチル)トリメトキシシラン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン等が挙げられる。
【0056】
メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分の総量に対し1重量%以上15重量%以下であることが好ましく、2重量%以上10重量%以下がより好ましく、3重量%以上8重量%以下がより好ましい。
【0057】
また、メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分中0.1モル%以上20モル%以下を占めることが好ましく、0.4モル%以上15モル%以下を占めることがより好ましく、0.5モル%以上10モル%以下を占めることがさらに好ましく、0.6モル%以上8モル%以下を占めることが特に好ましい。以上の範囲では、メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)を使用することによる効果を達成できる。
【0058】
多官能性マクロモノマー(a2)の含有量とメルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)の含有量は、得られる硬化物の強度が向上するため、多官能性マクロモノマー(a2)/メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)のモル比は、0.03以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.09以上がさらに好ましく、0.1以上が特に好ましい。前記モル比の上限は特に限定されないが、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0059】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)に由来する置換基(後述する-S-R8で表される構造)を有し得るものであるため、硫黄原子を含み得る。(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の硫黄原子濃度は700ppm以上20,000ppm以下であることが好ましく、1,000ppm以上15,000ppm以下がより好ましい。
【0060】
硫黄原子濃度の測定方法は特に限定されない。有機元素分析、蛍光X線分析など、既知の元素分析方法により測定することができる。また、硫黄原子濃度は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の製造に使用した単量体成分の合計量と、メルカプト基を有する連鎖移動剤の量(a3)から算出される理論値であってもよい。
【0061】
<反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)>
反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)は、任意の単量体であり、使用しなくともよいが、使用することが好ましい。単量体(a4)が有する反応性ケイ素基は、前述した式(1)で表される反応性ケイ素基である。単量体(a4)を使用することによって、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖の側鎖(非末端部位)に反応性ケイ素基を導入することができる。
【0062】
反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)としては、例えば、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルジメトキシメチルシランなどの(メタ)アクリロキシ基と反応性ケイ素基を有する化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基と反応性ケイ素基を有する化合物等が挙げられる。これら化合物は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
単量体(a4)を使用する場合、単量体(a4)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分の総量に対し0.1重量%以上50重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上30重量%以下がより好ましく、1重量%以上20重量%以下がさらに好ましく、2重量%以上15重量%以下が特に好ましい。また、硬化性組成物のチキソ性向上、及び、高伸びの硬化物が得られる観点から、単量体(a4)の含有量は、10重量%以下であることが好ましい。
【0064】
<他の単量体(b5)>
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する単量体成分は、以上で詳述した(a1)~(a4)のいずれにも該当しない他の単量体(b5)を含有するものであってもよいし、含有しないものであってもよい。
他の単量体(b5)としては、(メタ)アクリル酸エステル(a1)や反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)に該当しない(メタ)アクリル系単量体や、該(メタ)アクリル系単量体以外の単量体が挙げられる。具体的には、多官能性マクロモノマー(a2′)について上述した他の単量体を使用することができる。
【0065】
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の分子量>
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の数平均分子量は特に限定されないが、GPC測定によるポリスチレン換算分子量で、500以上50,000以下であることが好ましく、500以上30,000以下がより好ましく、1,000以上10,000以下が特に好ましい。なかでも、低粘度の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)が得られることから、数平均分子量は7,000以下が好ましい。また、低粘度で良好な接着性が発揮され得ることから、数平均分子量は3,500以下であることが好ましい。
【0066】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の重量平均分子量は特に限定されないが、GPC測定によるポリスチレン換算分子量で、500以上80,000以下であることが好ましく、3,000以上70,000以下がより好ましく、5,000以上65,000以下が特に好ましい。なかでも、低粘度で強度の高い硬化物が得られることから、重量平均分子量は20,000以下であることが好ましい。
【0067】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の重量平均分子量と、多官能性マクロモノマー(a2)の重量平均分子量に関しては、次の式で算出される値が1.1以上であることが好ましい。
式:(共重合体(A)の重量平均分子量)/(多官能性マクロモノマー(a2)の重量平均分子量)
前記式で算出される値が1.1以上であるということは、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)1分子中の多官能性マクロモノマー(a2)の平均導入個数が多いことを意味しており、得られる硬化物の強度がより向上し得る。
硬化物の強度の観点から、前記式で算出される値は、1.1以上であることが好ましく、1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、10以下が好ましく、5以下がより好ましい。
【0068】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の分子量分布は特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を低粘度とする観点から、3.0以上11.0以下が好ましく、3.2以上10.0以下がより好ましく、3.4以上8.0以下がさらに好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の分子量分布は、GPC測定により得られる数平均分子量と重量平均分子量から求めることが出来る。
【0069】
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の構造>
好適な態様によると、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、トリブロック共重合体を含み得る。該トリブロック共重合体は、2つの第一分子鎖が、1つの第二分子鎖を介して結合している構造を含む。第一分子鎖は、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)が重合してなる分子鎖から構成され、第二分子鎖は、多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格から構成される。
【0070】
第一分子鎖は、(a1)、(a2)中の(メタ)アクリロイル基、(a3)、任意の(a4)、及び任意の他の単量体の共重合によって形成される分子鎖である。この第一分子鎖に反応性ケイ素基が結合している。メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)が反応性ケイ素基を有する場合、第一分子鎖の末端に反応性ケイ素基が結合し、反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)を使用する場合、第一分子鎖の非末端部位に反応性ケイ素基が結合している。
一方、第二分子鎖は、多官能性マクロモノマー(a2)中の(メタ)アクリル酸エステル系重合体またはポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格にあたる。
【0071】
2つの第一分子鎖と1つの第二分子鎖の結合方式は、通常のABA型のトリブロック共重合体とは異なり、第二分子鎖の両末端がそれぞれ、第一分子鎖の非末端部位に結合している形式である。即ち、該トリブロック共重合体は、H型の構造を含み、この時、H中の2本の縦棒が2つの第一分子鎖にあたり、H中の1本の横棒が1つの第二分子鎖にあたる。
【0072】
但し、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、H型構造のトリブロック共重合体に限定されるものではなく、H型構造のトリブロック共重合体に加えて、他の構造を有するブロック共重合体を含有していてもよい。そのような他の構造を有するブロック共重合体としては、例えば、3つの第一分子鎖が、2つの第二分子鎖を介して結合している構造を有するブロック共重合体などが挙げられる。
【0073】
第一分子鎖と第二分子鎖は、多官能性マクロモノマー(a2)中の(メタ)アクリロイル基に由来するエステル結合(即ち、前記式(4)中のエステル結合に対応するエステル結合)を介して結合している。
【0074】
前記第一分子鎖が硬質の重合体から構成され、前記第二分子鎖が軟質の重合体から構成される場合、高強度で高伸びの硬化物が得られることから好ましい。ここで、硬質の重合体とは、ガラス転移温度が高い重合体を指す。軟質の重合体とは、ガラス転移温度が低い重合体を指す。
【0075】
第一分子鎖が硬質の重合体から構成される場合、第一分子鎖を構成する単量体成分(即ち、多官能性マクロモノマー(a2)を除く単量体成分)は、メタクリル酸エステル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、及び、アクリル酸ジシクロペンタニルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体を含有することが好ましい。第一分子鎖を構成する単量体成分の総量のうち前記単量体が占める割合は60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましい。上限は100重量%であってもよい。
【0076】
また、第二分子鎖が軟質の重合体から構成される場合、第二分子鎖は、ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格であってもよいし、(メタ)アクリル酸エステル系重合体であってもよい。但し、後者の場合、第二分子鎖を構成する単量体成分((a2′)の主鎖骨格を形成する単量体成分)は、アクリル酸エステル(但し、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、及び、アクリル酸ジシクロペンタニルを除く)を含有することが好ましい。第二分子鎖を構成する単量体成分のうち前記アクリル酸エステルが占める割合は60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましい。上限は100重量%であってもよい。
【0077】
前記第一分子鎖はメルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)を反応させて形成される分子鎖であるため、前記第一分子鎖のいずれかの末端に、(a3)に由来する置換基として、-S-R8で表される構造を有し得る。前記式中、Sは硫黄原子を表し、R8は、反応性ケイ素基を有していてもよい炭化水素基を表す。前記炭化水素基とは、炭素数1~20のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基等が挙げられる。前記反応性ケイ素基は、前述した式(1)で表される反応性ケイ素基である。R8の具体例としては、例えば、反応性ケイ素基含有メチル基、反応性ケイ素基含有プロピル基、n-ドデシル基、tert-ドデシル基、ラウリル基等が挙げられる。
【0078】
上述した多官能性マクロモノマー(a2)/メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)のモル比に対応して、得られる硬化物の強度向上の観点から、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)において、前記-S-R8に対する、多官能性マクロモノマー(a2)の主鎖骨格のモル比は、0.03以上であることが好ましく、0.05以上がより好ましく、0.09以上がさらに好ましく、0.1以上が特に好ましい。前記モル比の上限は特に限定されないが、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0079】
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の製造方法>
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、前記単量体成分を重合することによって製造できる。その重合方法は特に限定されないが、一般的なフリーラジカル重合であってよい。本実施形態によると、フリーラジカル重合であるにも関わらず、重合の制御が可能で、ブロック共重合体である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を製造することができ、しかも、その分子量分布を比較的狭くすることができる。
【0080】
前記フリーラジカル重合で使用可能な重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)などのアゾ系化合物;ベンゾイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、イソノナノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシドなどのジアシルパーオキサイド;ジイソプロピルパージカーボネート、ジ-sec-ブチルパージカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパージカーボネート、ジ-1-メチルヘプチルパージカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパージカーボネート、ジシクロヘキシルパージカーボネートなどのパーオキシジカーボネート;tert-ブチルパーベンゾエート、tert-ブチルパーアセテート、tert-ブチルパー-2-エチルへキサノエート、tert-ブチルパーイソブチレート、tert-ブチルパーピバレート、tert-ブチルジパーアジペート、キュミルパーネオデカノエートなどのパーオキシエステル;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド;ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジキュミルパーオキサイド、tert-ブチルキュミルパーオキサイド、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどのジアルキルパーオキサイド;キュメンヒドロキシパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンなどの過酸化物などが挙げられる。これら重合開始剤は1種のみで使用してもよく、2種以上を併用しても良い。
【0081】
前記フリーラジカル重合で使用可能な溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、パラジクロルベンゼン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチルなどの芳香族系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸ブチル、酢酸n-プロプル、酢酸イソプロピルなどのカルボン酸エステル化合物;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート化合物;n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、アミルアルコールなどのアルコール化合物などが挙げられる。なかでも、分子量分布が狭くなることからアルコール化合物が好ましい。溶解力が高いことから芳香族系溶剤が好ましい。臭気が低いことから脂肪族炭化水素系溶剤が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の分子量分布は連鎖移動剤(a3)の添加量と溶媒に影響を受ける。連鎖移動剤(a3)の添加量が3重量%以下である場合には溶媒の種類に大きく影響を受ける。分子量分布の狭い(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を得たい場合には、溶媒としてイソブタノールを用いることが好ましい。
【0082】
上述の通り、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)を使用するか、又は、メルカプト基に加えて反応性ケイ素基を有する連鎖移動剤(a3)を使用することによって、反応性ケイ素基を有することになる。両方法は併用してもよい。反応性ケイ素基と重合性不飽和基を有する単量体(a4)を使用することによって、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖の側鎖にランダムに反応性ケイ素基を導入することができる。また、メルカプト基に加えて反応性ケイ素基を有する連鎖移動剤(a3)を使用することによって、主に(メタ)アクリル酸エステル(a1)から構成される分子鎖の末端に反応性ケイ素基を導入することができる。
【0083】
しかし、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)に反応性ケイ素基をさらに導入するため、以下の方法を併用することもできる。
(iii)反応性官能基(V基)を有する単量体を(メタ)アクリル酸エステル(a1)などと共重合した後、得られた共重合体に、V基に反応する官能基と反応性ケイ素基を有する化合物を反応させる方法。具体的には、アクリル酸2-ヒドロキシエチルを共重合した後、反応性ケイ素基を有するイソシアネートシラン化合物を反応させる方法や、アクリル酸グリシジルを共重合した後、反応性ケイ素基を有するアミノシラン化合物を反応させる方法などが例示できる。
(iv)リビングラジカル重合法によって合成した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の末端官能基を変性して、反応性ケイ素基を導入する方法。リビングラジカル重合法によって得られる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は重合体末端に官能基を導入しやすく、これを変性することで重合体末端に反応性ケイ素基を導入することができる。
【0084】
方法(iii)で使用するV基に反応する官能基と反応性ケイ素基を有する化合物としては、例えば、3-イソシアネートプロピルジメトキシメチルシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートメチルジメトキシメチルシラン、イソシアネートメチルトリメトキシシラン、イソシアネートメチルトリエトキシシランなどのイソシアネートシラン化合物;3-グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルジメトキシメチルシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシランなどのエポキシシラン化合物;3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノメチルジメトキシメチルシラン、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、N-シクロヘキシルアミノメチルジメトキシメチルシラン、N-シクロヘキシルアミノメチルトリメトキシシラン、N-シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシランなどのアミノシラン化合物などが挙げられる。
【0085】
方法(iv)では、任意の変性反応を利用できるが、例えば、リビングラジカル重合によって得られた末端官能基に反応し得る反応性基と反応性ケイ素基を有する化合物を用いる方法や、末端官能基に反応し得る反応性基と二重結合を有する化合物を用いて重合体末端に二重結合を導入した後、ヒドロシリル化反応等を利用して反応性ケイ素基を導入する方法などが挙げられる。
【0086】
<<反応性ケイ素基を有するポリエステル(B)>>
本実施形態に係る硬化性組成物は、反応性ケイ素基を有するポリエステル(B)を含有することにより、強度が比較的高い硬化物を形成することができる。また、本実施形態に係る硬化性組成物は、室温では固形でありながら、加熱溶融することで流動化して基材への塗布が可能となる、ホットメルト型の硬化性組成物として使用することができる。以下、反応性ケイ素基を有するポリエステル(B)を略して「ポリエステル(B)」ともいう。
ポリエステル(B)は前述した式(1)で表される反応性ケイ素基を有する。ポリエステル(B)が有する反応性ケイ素基は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(A)が有する反応性ケイ素基と同一であってよいし、異なっていてもよい。
【0087】
ポリエステル(B)が有する反応性ケイ素基としては、具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリス(2-プロペニルオキシ)シリル基、トリアセトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジメトキシエチルシリル基、(クロロメチル)ジメトキシシリル基、(クロロメチル)ジエトキシシリル基、(メトキシメチル)ジメトキシシリル基、(メトキシメチル)ジエトキシシリル基、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジメトキシシリル基、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジエトキシシリル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
ポリエステル(B)は、反応性ケイ素基を1分子あたり平均して1個以上有することが好ましく、ポリエステルの主鎖骨格の両末端それぞれに、反応性ケイ素基を有することが特に好ましい。
【0089】
ポリエステル(B)は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)との相溶性が良好となるため、室温で結晶性を有することが好ましい。該結晶性は、溶融状態から、10℃/分の冷却速度で冷却、固化させた重合体のX線回折法(ルーランド法)による結晶化度において評価することができる(例えば、「高分子のX線回折」、L.E.Alexander著、桜田一郎監訳、化学同人、1972年、p125参照)。ポリエステル(B)の結晶化度は、30%以上であることが好ましく、40%以上が好ましく、50%以上がさらに好ましい。
【0090】
ポリエステル(B)の主鎖骨格は、例えば、アジピン酸などの2塩基酸とジオールとの縮合、又は、ラクトン類の開環重合など、公知の方法で形成することができる。
前記2塩基酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,20-エイコサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、2-ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸等の不飽和ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’-オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;等が挙げられる。これらの2塩基酸は、単独で用いても良いし、2種類以上を併用してもよい。
なかでも、飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましく、コハク酸、スベリン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸がより好ましい。また、ポリエステル(B)が結晶性を有する場合、1,12-ドデカンジカルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、コハク酸が、ポリエステルの結晶化度を上げるため好ましい。
さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を併用しても良い。
【0091】
前記ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、3,4-ヘプタンジオール、3,5-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、1,2-シクロペンタンジオール、1,3-シクロペンタンジオール、1,2-シクロドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカプロラクトンジオール等が挙げられる。これらのジオールは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
また、炭素原子を一部酸素原子や芳香環で置換したジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングルコール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニルプロパン等も使用可能である。
入手性や作業性の点から、炭素数が2~20のジオールが好ましく、炭素数が2~10のジオールがより好ましい。特に、エチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ブタンジオールが、入手性や、ポリエステルの結晶性向上の観点から好適である。
【0092】
前記2塩基酸と前記ジオールを用いて、通常の縮重合反応を行うことにより、主鎖骨格の両末端に水酸基を有するポリエステル樹脂を得ることができる。通常、前記ジオールのヒドロキシル基と前記2塩基酸のカルボキシル基の当量比(ヒドロキシル基/カルボキシル基)は、1.02~1.5が好ましく、1.05~1.3がより好ましい。具体的には、前記2塩基酸又はそのエステルと前記ジオールを、触媒の存在下または不存在下に、150~250℃程度の温度範囲で、1~50時間程度、重縮合することによりエステル化またはエステル交換を行えばよい。
【0093】
前記重縮合においては、前記2塩基酸の仕込みモル数nに対し、前記ジオールの仕込みモル数をn+1とすることにより、分子両末端に水酸基を有するポリエステル樹脂を得ることができる。また、nやn+1の数を調節することにより、ポリエステル樹脂の数平均分子量を調節することができる。
【0094】
前記重縮合によって得られる、水酸基を有するポリエステル樹脂に対し、反応性ケイ素基を導入することによって、反応性ケイ素基を有するポリエステル(B)を得ることができる。
ポリエステル樹脂に反応性ケイ素基を導入する方法としては特に限定されず、公知の方法を適宜使用すればよいが、例えば、水酸基を有するポリエステル樹脂に対して、ヒドロシリル基、イソシアネート基、又はチオール基を有する反応性ケイ素基含有化合物を反応させる方法が好ましい。特に、イソシアネート基を有する反応性ケイ素基含有化合物を反応させる方法が好ましい。
当該イソシアネート基を有する反応性ケイ素基含有化合物としては、例えば、3-イソシアネートプロピルジメトキシメチルシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートメチルジメトキシメチルシラン、イソシアネートメチルトリメトキシシラン、イソシアネートメチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
当該化合物を、水酸基を有するポリエステル樹脂に反応させる場合には、メルカプト錫などの触媒を使用することが好ましい。
【0095】
ポリエステル(B)の数平均分子量は特に限定されないが、硬化物の強度やホットメルト型硬化性組成物としての使用性の観点から、GPC測定によるポリスチレン換算分子量で、500~30,000が好ましく、1,000~20,000がより好ましく、2,000~10,000がさらに好ましく、2,000~4,500が特に好ましい。
【0096】
ポリエステル(B)の配合量は、硬化物の強度やホットメルト型硬化性組成物としての使用性の観点から、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、1~80重量部が好ましく、3~60重量部がより好ましく、5~50重量部がさらに好ましく、10~45重量部が特に好ましい。
【0097】
<<反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体(C)>>
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、前述した反応性ケイ素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)に加えて、反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体(C)(以下、単に「ポリオキシアルキレン系重合体(C)」ともいう)を含有してもよい。
【0098】
<反応性ケイ素基>
ポリオキシアルキレン系重合体(C)は、前述した式(1)で表される反応性ケイ素基を有する。ポリオキシアルキレン系重合体(C)が有する反応性ケイ素基は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)が有する反応性ケイ素基と同一であってよいし、異なっていてもよい。
【0099】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)が有する反応性ケイ素基としては、具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリス(2-プロペニルオキシ)シリル基、トリアセトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジメトキシエチルシリル基、(クロロメチル)ジメトキシシリル基、(クロロメチル)ジエトキシシリル基、(メトキシメチル)ジメトキシシリル基、(メトキシメチル)ジエトキシシリル基、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジメトキシシリル基、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジエトキシシリル基などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中では、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、(クロロメチル)ジメトキシシリル基、(メトキシメチル)ジメトキシシリル基、(メトキシメチル)ジエトキシシリル基、(N,N-ジエチルアミノメチル)ジメトキシシリル基が高い活性を示し、良好な機械物性を有する硬化物が得られるため好ましく、高強度の硬化物が得られることから、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基がより好ましく、トリメトキシシリル基がさらに好ましい。
【0100】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)は、1つの末端部位に平均して1個以下の反応性ケイ素基を有するものであってもよいし、1つの末端部位に平均して1個より多い反応性ケイ素基を有するものであってもよい。ここで、1つの末端部位に平均して1個より多い反応性ケイ素基を有するとは、ポリオキシアルキレン系重合体(C)に、1つの末端部位に2個以上の反応性ケイ素基を有するポリオキシアルキレンが含まれていることを示している。
【0101】
2個以上の反応性ケイ素基を有する末端部位は、例えば、下記一般式(2)で表すことができる。
【0102】
【0103】
(式中、R2,R4はそれぞれ独立に2価の炭素数1~6の結合基を表し、R2,R4に隣接するそれぞれの炭素原子と結合する原子は、炭素、酸素、窒素のいずれかである。R3,R5はそれぞれ独立に、水素、または炭素数1~10の炭化水素基を表す。nは1~10の整数である。R1、X、aは前記式(1)について上述のとおりである。)
【0104】
R2、R4としては、2価の炭素数1~6の有機基であってよく、酸素原子を含んでもよい炭化水素基であってもよい。該炭化水素基の炭素数は1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。R2の具体例としては、例えば、-CH2OCH2-、-CH2O-、-CH2-が挙げられるが、好ましくは、-CH2OCH2-である。R4の具体例としては、例えば、-CH2-、-CH2CH2-が挙げられるが、好ましくは、-CH2-である。
【0105】
R3、R5の炭化水素基の炭素数としては1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。R3、R5の具体例としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基が挙げられるが、好ましくは、水素原子、メチル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0106】
一般式(2)で表される末端部位は、特に好ましい態様によると、R2が-CH2OCH2-であり、R4が-CH2-であり、R3及びR5がそれぞれ水素原子である。nは1~5の整数が好ましく、1~3の整数がより好ましく、1又は2がさらに好ましい。ただし、nは、1つの値に限定されるものではなく、複数の値が混在していてもよい。
【0107】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)は、反応性ケイ素基を、1つの末端部位に平均して1.0個以下有するものであってもよい。この場合、前記平均数は、0.4個以上であることが好ましく、0.5個以上がより好ましく、0.6個以上がさらに好ましい。
【0108】
また、ポリオキシアルキレン系重合体(C)は、反応性ケイ素基を、1つの末端部位に平均して1.0個より多く有するものであってもよい。この場合、前記平均数は、1.1個以上であることがより好ましく、1.5個以上が更に好ましく、2.0個以上がより更に好ましい。また、前記平均数は、5個以下であることが好ましく、3個以下がより好ましい。
【0109】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)は、末端部位以外に反応性ケイ素基を有しても良いが、末端部位にのみ有することが、高伸びで、低弾性率を示すゴム状硬化物が得られやすくなるため好ましい。
【0110】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)が有する反応性ケイ素基の1分子当たりの平均個数は、硬化物の強度の観点から、1.0個より多いことが好ましく、1.2個以上がより好ましく、1.3個以上がさらに好ましく、1.5個以上がより更に好ましく、1.7個以上が特に好ましい。前記平均個数は、2.0個以下であってもよいし、2.0個より多くてもよい。硬化物の伸びの観点から、6.0個以下が好ましく、5.5個以下がより好ましく、5.0個以下が最も好ましい。
【0111】
<主鎖構造>
ポリオキシアルキレン系重合体(C)の主鎖骨格には特に制限はなく、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレン共重合体などが挙げられる。その中でも、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0112】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)の主鎖構造は直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
【0113】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)の数平均分子量は、GPCにおけるポリスチレン換算分子量において、好ましくは3,000以上100,000以下、より好ましくは3,000以上50,000以下であり、特に好ましくは3,000以上30,000以下である。
【0114】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、狭いことが好ましく、具体的には、2.0未満が好ましく、1.6以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、1.4以下が特に好ましい。また、硬化物の耐久性や伸びを向上させる等、各種機械的物性を向上させる観点からは、1.2以下が好ましい。ポリオキシアルキレン系重合体(C)の分子量分布は、GPC測定により得られる数平均分子量と重量平均分子量から求めることができる。
【0115】
<ポリオキシアルキレン系重合体(C)の合成方法>
ポリオキシアルキレン系重合体(C)の合成方法は特に限定されない。一例を説明すると、まず、水酸基を有する開始剤にエポキシ化合物を重合させて水酸基末端重合体を得る。該重合体の水酸基にアルカリ金属塩(例えばナトリウムメトキシド)を作用させた後、炭素-炭素不飽和結合を有するハロゲン化炭化水素化合物(例えば塩化アリル)を反応させて、重合体末端に炭素-炭素不飽和結合を導入する。次いで、反応性ケイ素基含有ヒドロシラン化合物(例えば、ジメトキメチルシラン、トリメトキシシラン)を反応させることで、反応性ケイ素基含有ポリオキシアルキレン系重合体(C)を得ることができる。
【0116】
好適な一実施形態である1つの末端部位に平均して1.0個より多い反応性ケイ素基を有しているポリオキシアルキレン系重合体(C)は次のようにして得ることができる。上記と同様に前記水酸基末端重合体の水酸基に前記アルカリ金属塩を作用させた後、まず炭素-炭素不飽和結合を有するエポキシ化合物(例えば、アリルグリシジルエーテル)を反応させ、次いで前記炭素-炭素不飽和結合を有するハロゲン化炭化水素化合物(例えば塩化アリル)を反応させることで、1つの末端に2個以上の炭素-炭素不飽和結合を導入する。その後、反応性ケイ素基含有ヒドロシラン化合物を反応させればよい。
【0117】
また、前記反応性ケイ素基含有ヒドロシラン化合物の代わりに、反応性ケイ素基含有メルカプトシラン類を用いることで、重合体に反応性ケイ素基を導入することも可能である。
【0118】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)の主鎖は、エステル結合、または、一般式(3):
-NR6-C(=O)- (3)
(式中、R6は炭素数1~10の有機基または水素原子を表す)で表されるアミドセグメントを含んでいてもよい。
【0119】
エステル結合またはアミドセグメントを含有するポリオキシアルキレン系重合体(C)を含む硬化性組成物から得られる硬化物は、水素結合の作用等により、高い硬度および強度を有する場合がある。しかし、アミドセグメント等を含有するポリオキシアルキレン系重合体(C)は、熱等により開裂する可能性がある。また、アミドセグメント等を含有するポリオキシアルキレン系重合体(C)を含む硬化性組成物は、粘度が高くなる傾向がある。以上のようなメリットおよびデメリットを考慮して、ポリオキシアルキレン系重合体(C)として、アミドセグメント等を含有するポリオキシアルキレンを使用してもよく、アミドセグメント等を含有しないポリオキシアルキレンを使用してもよい。
【0120】
前記一般式(3)で表されるアミドセグメントとしては、例えば、イソシアネート基と水酸基との反応、アミノ基とカーボネートとの反応、イソシアネート基とアミノ基との反応、イソシアネート基とメルカプト基との反応等により形成されるものが挙げられる。また、活性水素原子を含む前記アミドセグメントとイソシアネート基との反応により形成されるものも、一般式(3)で表されるアミドセグメントに含まれる。
【0121】
アミドセグメントを含有するポリオキシアルキレン系重合体(C)の製造方法の一例としては、末端に活性水素含有基を有するポリオキシアルキレンに、ポリイソシアネート化合物を反応させて、末端にイソシアネート基を有する重合体を合成した後、またはその合成と同時に、該イソシアネート基と反応し得る官能基(例えば、水酸基、カルボキシ基、メルカプト基、1級アミノ基または2級アミノ基)と反応性ケイ素基を併せ持つ化合物を反応させる方法が挙げられる。また、別の例として、末端に活性水素含有基を有するポリオキシアルキレンに、反応性ケイ素基含有イソシアネート化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0122】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)がアミドセグメントを含む場合、ポリオキシアルキレン系重合体(C)1分子あたりのアミドセグメントの数(平均値)は、1~10が好ましく、1.5~5がより好ましく、2~3が特に好ましい。この数が1よりも少ない場合には、硬化性が十分ではない場合があり、逆に10よりも大きい場合には、ポリオキシアルキレン系重合体(C)が高粘度となり、取り扱い難くなる可能性がある。硬化性組成物の粘度を低くし、作業性を改善するためには、ポリオキシアルキレン系重合体(C)は、アミドセグメントを含まないことが好ましい。
【0123】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)とポリオキシアルキレン系重合体(C)をブレンドする方法は、特開昭59-122541号公報、特開昭63-112642号公報、特開平6-172631号公報、特開平11-116763号公報等に提案されている。他にも、反応性ケイ素基を有するポリオキシプロピレン系重合体の存在下で(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合を行う方法が利用できる。
【0124】
ポリオキシアルキレン系重合体(C)と(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を併用する場合、重量比(C):(A)は95:5~50:50であること、即ち(C)の割合が50重量%以上95重量%以下であることが好ましい。この範囲内であると、柔軟性と高いせん断接着強度を示す硬化物を得ることができる。さらに、高強度と柔軟性を両立する点で、(C):(A)は80:20~50:50であることが好ましく、70:30~50:50であることがより好ましい。
【0125】
<<シラノール縮合触媒>>
シラノール縮合触媒は、任意の成分であるが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)、ポリエステル(B)、およびポリオキシアルキレン系重合体(C)の反応性ケイ素基の縮合反応を促進することができるため、配合されることが好ましい。
【0126】
シラノール縮合触媒としては、例えば、有機錫化合物、カルボン酸金属塩、アミン化合物、カルボン酸、アルコキシ金属などが挙げられる。
【0127】
有機錫化合物の具体例としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクタノエート、ジブチル錫ビス(ブチルマレエート)、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジオクチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジステアレート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイドとシリケート化合物との反応物、ジオクチル錫オキサイドとシリケート化合物との反応物、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物などが挙げられる。
【0128】
カルボン酸金属塩の具体例としては、カルボン酸錫、カルボン酸ビスマス、カルボン酸チタン、カルボン酸ジルコニウム、カルボン酸鉄などが挙げられる。カルボン酸金属塩としては下記のカルボン酸と各種金属を組み合わせることができる。
【0129】
アミン化合物の具体例としては、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミンなどのアミン類;ピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5(DBN)などの含窒素複素環式化合物;グアニジン、フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジンなどのグアニジン類;ブチルビグアニド、1-o-トリルビグアニドや1-フェニルビグアニドなどのビグアニド類;アミノ基含有シランカップリング剤;ケチミン化合物などが挙げられる。
【0130】
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ネオデカン酸、バーサチック酸などが挙げられる。
【0131】
アルコキシ金属の具体例としては、テトラブチルチタネートチタンテトラキス(アセチルアセトナート)、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトセテート)などのチタン化合物や、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテートなどのアルミニウム化合物、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)などのジルコニウム化合物が挙げられる。
【0132】
シラノール縮合触媒を使用する場合、その使用量としては、反応性ケイ素基の縮合反応促進の観点から、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部[但し、ポリオキシアルキレン系重合体(C)を含有する場合、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)とポリオキシアルキレン系重合体(C)の合計100重量部。以下同様]に対して、0.001~20重量部であることが好ましく、0.01~15重量部がより好ましく、0.01~10重量部がさらに好ましい。
【0133】
<<その他の添加剤>>
本実施形態に係る硬化性組成物には、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)、ポリエステル(B)、ポリオキシアルキレン系重合体(C)、及びシラノール縮合触媒の他に、添加剤として、可塑剤、充填剤、接着性付与剤、脱水剤、レオロジーコントロール剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、その他の樹脂を添加しても良い。
【0134】
また、本実施形態に係る硬化性組成物には、硬化性組成物又は硬化物の諸物性の調整を目的として、必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。このような添加物の例としては、たとえば、溶剤、希釈剤、光硬化性物質、酸素硬化性物質、表面性改良剤、シリケート、硬化性調整剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、防かび剤、難燃剤、発泡剤などが挙げられる。
【0135】
<可塑剤>
硬化性組成物には、可塑剤を配合することができる。可塑剤の配合によって、硬化性組成物を低粘度化することができ、取り扱いが容易になる。
【0136】
可塑剤としては特に限定されないが、例えば、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジヘプチルフタレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ジイソデシルフタレート(DIDP)、およびブチルベンジルフタレートなどのフタル酸エステル化合物;ビス(2-エチルヘキシル)-1,4-ベンゼンジカルボキシレートなどのテレフタル酸エステル化合物;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルなどの非フタル酸エステル化合物;アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、コハク酸ジイソデシル、およびアセチルクエン酸トリブチルなどの脂肪族多価カルボン酸エステル化合物;オレイン酸ブチル、およびアセチルリシノール酸メチルなどの不飽和脂肪酸エステル化合物;リン酸エステル化合物;トリメリット酸エステル化合物;塩素化パラフィン;アルキルジフェニル、および部分水添ターフェニルなどの炭化水素系油;プロセスオイル;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ビス(2-エチルヘキシル)-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカーボキシレート(E-PS)、エポキシオクチルステアレート、エポキシブチルステアレートおよびエポキシステアリン酸ベンジルなどのエポキシ可塑剤;アルキルスルホン酸エステルなどが挙げられる。
【0137】
可塑剤として、高分子可塑剤を使用することもできる。高分子可塑剤の具体例としては、ビニル系重合体;ポリエステル系可塑剤;数平均分子量500以上のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール、これらポリエーテルポリオールのヒドロキシ基をエステル基、エーテル基などに変換した誘導体などのポリエーテル系可塑剤;ポリスチレン類;ポリブタジエン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ブタジエン-アクリロニトリル、ポリクロロプレン等が挙げられる。
中でも、高分子可塑剤が好ましく、ポリエーテル系可塑剤がより好ましく、ポリプロピレングリコールが特に好ましい。
可塑剤としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0138】
可塑剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、5~150重量部であることが好ましく、10~120重量部がより好ましく、20~100重量部が特に好ましい。
【0139】
<充填剤>
硬化性組成物には、充填剤を配合することができる。充填剤の配合によって硬化物の強度を向上させることができる。
【0140】
充填剤としては、重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、クレー、タルク、酸化チタン、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、アルミナ、カーボンブラック、酸化第二鉄、アルミニウム微粉末、酸化亜鉛、活性亜鉛華、PVC粉末、PMMA粉末、ガラス繊維およびフィラメント等が挙げられる。組成物の軽量化(低比重化)の目的で、有機バルーン、無機バルーンを添加してもよい。充填剤としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0141】
充填剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、1~300重量部が好ましく、10~250重量部がより好ましい。
【0142】
<接着性付与剤>
硬化性組成物には、接着性付与剤を配合することができる。
接着性付与剤としては、シランカップリング剤、又は、シランカップリング剤の反応物を添加することができる。
【0143】
シランカップリング剤の具体例としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、(2-アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシランなどのアミノ基含有シラン類;γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、α-イソシアネートメチルトリメトキシシラン、α-イソシアネートメチルジメトキシメチルシラン等のイソシアネート基含有シラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類、が挙げられる。また、各種シランカップリング剤の反応物も使用できる。接着性付与剤は1種類のみで使用しても良いし、2種類以上混合使用しても良い。
【0144】
接着性付与剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、0.1~20重量部が好ましく、0.5~10重量部がより好ましい。
【0145】
<脱水剤>
硬化性組成物には、脱水剤を添加することができる。ここで、脱水剤とは、水と反応し得る化合物であることが好ましく、水と反応し得るケイ素化合物(但し接着性付与剤に該当する化合物は除く)がより好ましく、トリアルコキシシラン化合物が特に好ましい。
【0146】
前記脱水剤の具体例としては特に限定されないが、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のビニル基含有シラン類等が挙げられる。脱水剤は1種類のみで使用してもよいし、2種類以上使用してもよい。
【0147】
脱水剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、0.1~20重量部が好ましく、0.5~10重量部がより好ましく、1~5重量部がさらに好ましい。
【0148】
<レオロジーコントロール剤>
硬化性組成物には、必要に応じてタレを防止し、作業性を良くするためにレオロジーコントロール剤を添加しても良い。
【0149】
レオロジーコントロール剤としては特に限定されないが、例えば、脂肪酸アミドワックス類、水添ヒマシ油誘導体類;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム等の金属石鹸類;乾式シリカ、湿式シリカ等が挙げられる。これらレオロジーコントロール剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0150】
レオロジーコントロール剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、0.1~20重量部が好ましい。
【0151】
<酸化防止剤>
硬化性組成物には、酸化防止剤(老化防止剤)を使用することができる。酸化防止剤を使用すると硬化物の耐候性を高めることができる。
酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系、モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノール系が例示できる。酸化防止剤の具体例は特開平4-283259号公報や特開平9-194731号公報にも記載されている。
酸化防止剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.2~5重量部がより好ましい。
【0152】
<光安定剤>
硬化性組成物には、光安定剤を使用することができる。光安定剤を使用すると硬化物の光酸化劣化を防止できる。
光安定剤としてベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系化合物等が例示できるが、特にヒンダードアミン系が好ましい。
光安定剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.2~5重量部がより好ましい。
【0153】
<紫外線吸収剤>
硬化性組成物には、紫外線吸収剤を使用することができる。紫外線吸収剤を使用すると硬化物の表面耐候性を高めることができる。
紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチレート系、置換トリル系及び金属キレート系化合物等が例示できるが、特にベンゾトリアゾール系が好ましく、市販名チヌビンP、チヌビン213、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン329、チヌビン571(以上、BASF製)が挙げられる。
紫外線吸収剤の配合量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.2~5重量部がより好ましい。
【0154】
<<硬化性組成物>>
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、すべての配合成分を予め配合して密封保存し、施工後空気中の湿気により硬化する1成分型として調製することができる。この場合、水分を含有する配合成分は予め脱水乾燥してから使用するか、又は、配合混練中に減圧などにより脱水することが好ましい。
【0155】
また、本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)とポリエステル(B)を含む主剤と、シラノール縮合触媒、充填剤、可塑剤、水等の成分を含む硬化剤から構成され、該主剤と硬化剤を使用前に混合する2成分型として調製することもできる。
【0156】
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物の調製法には特に限定はない。例えば、上記各成分を配合し、ミキサー、ロール、ニーダーなどを用いて常温または加熱下で混練したり、適切な溶剤を少量使用して上記各成分を溶解させ、混合したりするなどの通常の方法が採用され得る。
【0157】
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、プラスチック、金属、複合材などの様々な被着体に対して良好な接着性を示すことができる。また、ポリプロピレンなどの非極性材料やポリフェニレンサルファイドなどの剛直な分子鎖を有するエンジニアリングプラスチックに対する接着剤として使用する場合には、これら被着体に対する接着性を高め、安定した接着強度を得るために、被着体を公知の方法で事前に表面処理することができる。例えば、サンディング処理、フレーム処理、コロナ放電、アーク放電、プラズマ処理などの表面処理技術を使うことができる。被着体へのダメージが少なく、安定した接着性が得られることから、プラズマ処理が好ましい。これらの表面処理は、成形時に使用され被着体表面に残存している離型剤を除去するためにも有効である。
【0158】
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物を硬化して得られる硬化物は、種々の被着体に対して良好な接着性を有することから、該硬化性組成物は、接着剤、シーリング材、又は、粘着剤として用いることができる。特に、本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、室温では固形でありながら、加熱溶融することで流動化して基材への塗布が可能になるので、ホットメルト型硬化性組成物として好適に使用することかできる。
【0159】
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、被着体に塗布する際には作業性を確保するため、高温に加熱して粘度を低下させることが好ましく、その際の温度としては、70~180℃程度が好ましく、90~160℃がより好ましく、100~150℃がさらに好ましい。加熱する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0160】
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、被着体を接合した後、長時間の硬化(養生)工程を行うことで、目的の物性を発現することができる。当該硬化(養生)工程の条件としては特に限定されないが、例えば、温度として5~90℃、時間として24時間~1週間などが挙げられる。
【0161】
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物をホットメルト型硬化性組成物として使用する場合には、反応性ホットメルト接着剤として使用することができる。本硬化性組成物は、バス、トレーラー、電車などのパネルを接合するための接着剤として、スマートフォンやタブレット端末、ノートパソコンなどにおけるディスプレイと筐体との接着剤として、また、アルミニウム-スチール、スチール-複合材、アルミニウム-複合材などの異種材料を接合する用途にも適している。異種材料の接合では腐食を防止するために接合部をシーラーで覆うことが好ましい。シーラーとしては、本願で示したような反応性ケイ素基を有する重合体を使用することが可能である。
【0162】
本発明の一実施形態に係る硬化性組成物は、より具体的には、車両パネルなどの自動車部品、トラック、バスなど大型車両部品、列車車両用部品、航空機部品、船舶用部品、電機部品、各種機械部品などにおいて使用される接着剤として使用されることが好ましい。
【実施例0163】
以下に、実施例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本実施例は本発明を限定するものではない。
【0164】
実施例中の数平均分子量及び重量平均分子量は、以下の条件で測定したGPC分子量である。
送液システム:東ソー製HLC-8120GPC
カラム:東ソー製TSK-GEL Hタイプ
溶媒:THF
分子量:ポリスチレン換算
測定温度:40℃
【0165】
実施例中の末端基換算分子量は、水酸基価をJIS K 1557の測定方法により、ヨウ素価をJIS K 0070の測定方法により求め、有機重合体の構造(使用した重合開始剤によって定まる分岐度)を考慮して求めた分子量である。
【0166】
実施例に示す重合体の末端1個あたりへの炭素-炭素不飽和結合の平均導入数は、以下の計算式により算出した。
(平均導入数)=[ヨウ素価から求めた重合体の不飽和基濃度(mol/g)-ヨウ素価から求めた前駆重合体の不飽和基濃度(mol/g)]/[水酸基価から求めた前駆重合体の水酸基濃度(mol/g)]
【0167】
(硫黄原子濃度)
硫黄原子濃度は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の製造に使用した単量体成分の合計量と、メルカプト基を有する連鎖移動剤(a3)の量から算出した理論値である。
【0168】
(合成例1)
数平均分子量が約4,020(末端基換算分子量2,980)のポリオキシプロピレングリコールを開始剤とし、亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体触媒にてプロピレンオキサイドの重合を行い、両末端に水酸基を有し、数平均分子量21,100(末端基換算分子量13,600)、分子量分布Mw/Mn=1.21のポリオキシプロピレンを得た。得られたポリオキシプロピレンにU-360(ジブチル錫ビス(イソオクチルメルカプトプロピオネート、日東化成(株))を60ppm添加し、ポリオキシプロピレンの水酸基に対してカレンズAOI(2-イソシアナートエチルアクリレート、昭和電工(株))を0.93当量滴下し、5.5%の酸素を含んだ窒素雰囲気中で、80℃で1時間反応を行い、両末端にアクリロイル基を有し(即ち、重合体1分子中に約2個のアクリロイル基を有し)、数平均分子量が21,100、重量平均分子量が24,930であるポリオキシアルキレン系重合体である多官能性マクロモノマー(a2-1)を得た。
【0169】
(合成例2)
攪拌機を備えた四口フラスコにイソブタノール44.8重量部を入れ、窒素雰囲気下、105℃まで昇温した。そこに、メチルメタクリレート41.2重量部、ブチルアクリレート4.0重量部、ステアリルメタクリレート4.0重量部、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン4.1重量部、合成例1で作製した多官能性マクロモノマー(a2-1)44.1重量部、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン2.6重量部、及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.9重量部をイソブタノール28.5重量部に溶解した混合溶液を5時間かけて滴下した。さらに2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.3重量部をイソブタノール9.5重量部に溶解した混合溶液を加え105℃で2時間重合を行い、数平均分子量が5,490(GPC分子量)である反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A-1)のイソブタノール溶液(固形分55%)を得た。当該溶液の固形分の多官能性マクロモノマー当量は0.021mmol/g、反応性ケイ素基当量は0.30mmol/gであり、硫黄原子濃度は4,238ppmである。
【0170】
(合成例3)
攪拌機を備えた四口フラスコに、HS 2H-500S(ポリエステルポリオール、豊国製油(株)製)100重量部、及び、ネオスタンU-360(ジブチル錫ビス(イソオクチルチオグリコラート)、日東化成(株)製)30ppmを入れ、窒素雰囲気下で90℃まで昇温した。そこに、3-イソシアナートプロピルトリメトキシシラン7.5重量部を滴下し、1時間反応させることにより、両末端にトリメトキシシリル基を有するポリエステル(B-1)を得た。
【0171】
(実施例1)
合成例2で得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A-1)のイソブタノール溶液に、固形分100重量部に対して、合成例3で得られたポリエステル(B-1)30重量となるように混合した後、イソブタノールを加熱脱揮し、室温で固形状の硬化性組成物を得た。
【0172】
(引張り物性)
得られた硬化性組成物130重量部を130℃に加熱溶融し、KBM-603(N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)2重量部、及び、U-810(ジオクチル錫ジラウレート、日東化成(株)製)0.2重量部を添加、混合し、厚さ約2mmのシートを作製し、23℃50%RH条件下で7日間養生を行った。得られたシートを1号ダンベル型(JIS K 6251)に打ち抜き、23℃50%RHで引っ張り強度試験を行い、30%伸長時応力(M30)、及び、破断時の強度(TB)を測定した。引張り物性は(株)島津製オートグラフ(AGS-X)を用い50mm/minの引張り速度で測定を行った。結果を表1に示す。
【0173】
(比較例1)
ポリエステル(B-1)を使用せず、合成例2で得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A-1)のイソブタノール溶液からイソブタノールを加熱脱揮し、得られた共重合体(A-1)100重量部を用いて、上記と同様に引っ張り強度試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0174】
【0175】
表1から、反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)と反応性ケイ素基含有ポリエステル(B)を含有する実施例1の硬化性組成物は、比較例1の反応性ケイ素基含有(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)と比べて引張り強度が高い硬化物を形成することが分かる。