(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100380
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】クリーニング手段を有する自動弁
(51)【国際特許分類】
F16K 51/00 20060101AFI20230711BHJP
F16K 31/70 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F16K51/00 A
F16K31/70 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001005
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】神丸 直毅
【テーマコード(参考)】
3H057
3H066
【Fターム(参考)】
3H057AA02
3H057BB32
3H057BB44
3H057CC05
3H057DD12
3H057EE02
3H057FA02
3H057FA24
3H057FC02
3H057FC08
3H057FD03
3H057HH08
3H057HH15
3H066AA01
3H066BA17
3H066BA38
(57)【要約】
【課題】排出穴の内周に付着した異物を確実に除去することができ、しかも異物除去のメンテナンス作業に手間のかからないクリーニング手段を有する自動弁の提供。
【解決手段】
弁口62の内周面に付着した異物を除去するクリーニングを行う場合、弁軸10に対して弁体バー12を独立して回転操作する。すなわち、より細いドライバー等の工具を弁軸バー操作溝12cに嵌め入れて締め込み、弁体バー12のみを回転させる。これによって弁体バー12は、ネジ結合部19の螺合に従って弁軸10から独立して矢印106方向に進出し、平刃10bの先端面から突出して弁口62を貫通する。弁体バー12の先端部が弁口62を貫通する際、弁体バー12の先端部に形成されたネジ山(ネジ結合部19)は弁口62の内周を摺動しながら進入方向に移動する。これによって、弁口62の内周面に付着した異物は削ぎ落される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する弁室空間、及び当該弁室空間に連通する排出穴であって、流体を当該弁室空間の外部に排出する排出穴を有する本体、
弁体部を有しており、基準線に沿って前記弁室空間に配置され、当該基準線方向に向けて往復移動が可能な弁軸手段であって、当該弁体部を前記排出穴に対して進入方向に移動させて前記排出穴を閉塞状態とし、又は当該弁体部を前記排出穴に対して退避方向に移動させて前記排出穴を開放状態とする弁軸手段、
前記弁軸手段を往復移動させる開閉動作手段、
を備えたクリーニング手段を有する自動弁であって、
前記弁軸手段は、前記弁体部を有するクリーニング部、及び当該クリーニング部を保持する保持部を備えて構成されており、
前記クリーニング部は、前記保持部に対し、独立して前記基準線方向に向けて往復移動が可能であり、
前記クリーニング部が、前記閉塞状態から前記排出穴に対してさらに進入方向に移動し、前記排出穴の内周を摺動してクリーニング状態となる、
ことを特徴とするクリーニング機構を有する自動弁。
【請求項2】
請求項1に係るクリーニング機構を有する自動弁において、
前記開閉動作手段は、前記流体の温度に応動して動作し、前記弁軸手段を往復移動させる、
ことを特徴とするクリーニング手段を有する自動弁。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に係るクリーニング機構を有する自動弁において、
前記クリーニング部と前記保持部とは、ネジ機構によって連結されており、前記クリーニング部は、当該ネジ機構に従って前記保持部に対して往復移動し、
前記クリーニング部の前記ネジ機構は、前記排出穴と略同径であり、前記クリーニング部の前記ネジ機構が、前記閉塞状態から前記排出穴に対してさらに進入方向に移動し、前記排出穴の内周を摺動してクリーニング状態となる、
ことを特徴とするクリーニング機構を有する自動弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係るクリーニング手段を有する自動弁は、温調トラップ等の温度応動弁の弁口に付着した異物を除去するクリーニング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラントには、ボイラーで生成された高温の蒸気を供給先に向けて移送する配管系統が設置されており、この配管内には蒸気からドレン(凝縮水)が発生する。蒸気を移送する主管にはドレン回収用の支管が接続されており、この支管の末端に設置されたスチームトラップによって、ドレンは不要物として排出されることが多い。
【0003】
しかし、支管内でこのドレンをあえて滞留させ、支管の温度を所定の設定温度に調整して利用するために、スチームトラップに代えて、温度応動弁としての温調トラップが用いられることがある。たとえば、輸送管を通じ、重油等の高粘性流体を輸送する際、温度が低下すれば重油等が凝固してしまう不都合が生じる。このため、高温の蒸気やドレンが流れる支管を輸送管に沿わせ、蒸気やドレンを熱源とするトレース伝熱管として機能させ、重油等の輸送管と熱交換させることで重油等の温度を高め凝固を防止する。
【0004】
ここで、たとえば重油の場合、輸送のためには40度程度の温度で十分であるが、蒸気の温度は100度以上であるため、蒸気やドレンをそのままトレース伝熱管の熱源として用いると重油の温度が上がりすぎる危険がある。このため、トレース伝熱管の末端に温調トラップを設け、トレース伝熱管の温度を適正な設定温度に調整する技術が知られている。
【0005】
トレース伝熱管の末端に設けられた温調トラップには、その内部にトレース伝熱管から蒸気やドレンが流入する弁室が形成されており、弁室の下方にはさらに排出室が形成されている。そして、弁室と排出室とは小径の弁口によって接続されており、弁室側を上流、排出室側を下流として、弁口を通じて蒸気やドレンが流れる。
【0006】
弁室内には、先端に弁体が設けられている弁軸が配置されている。そして、この先端の弁体は弁口に向けて位置しており、弁軸には感温部材であるバイメタル積層体が取り付けられている。
【0007】
弁室内に高温のドレンが流入した場合、この高温に反応してバイメタル積層体が膨張して弁軸を軸方向に移動させ、先端の弁体が弁口を閉じる。この後、加熱対象との熱交換によってドレンの温度が低下すると、この温度低下に反応してバイメタル積層体が収縮し、復帰用バネの伸張に従って弁軸が移動し弁体が弁口を開き、低温のドレンを排出室側に排出する。こうして、弁軸の変位に基づいて弁口の開閉が繰り返され、トレース伝熱管の温度が一定の基準温度に保たれる。
【0008】
なお、弁軸の後端は、温調トラップの上方から外側に突出しており、外部から操作者が操作することによって弁軸自体の配置が軸方向に移動し、弁室内における弁軸の位置が調整される。これによって、トレース伝熱管内の基準温度を自在に設定することができる。
【0009】
ところで、温調トラップの弁室内には、蒸気やドレンとともに錆やスケール(水垢)等の異物が流入することがある。そして、このような異物が弁口部分に付着して堆積した場合、この異物によってドレンの流れが阻害され、トレース伝熱管の温度を適正に調整することができなくなる。特に温調トラップの弁口は、ドレンの流量を微調整するために、口径を小さく絞った形に形成されていることから、異物の付着による影響は大きい。
【0010】
このような、弁口部分に付着した異物を除去するためのクリーニング技術として、後記特許文献1に開示されている温度応動弁がある。この温度応動弁においては、先端に弁体13が設けられた弁軸12の上部に、弁軸12から横方向に突出する連結棒23が設けられている。そして、弁ケーシングに4にねじ結合している調整棒17の先端に、上下方向に切割22を形成し、この切割22に弁軸12の連結棒23が嵌合する形で、調整棒17と弁軸12とが連結されている。弁軸12には、弁体13の上方に、弁体嵌合孔7に嵌合する二面幅から構成される刃物15が一体的に設けられている。
【0011】
弁体嵌合孔7の奥壁14に付着した異物を除去する場合、調整棒17をねじ込んで弁軸12を回転させる。これによって、弁軸12に設けた刃物15の下端で、弁体嵌合孔7の奥壁14に付着した異物を削除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の特許文献1に開示された技術においては、弁軸12に設けた刃物15の下端で、弁体嵌合孔7の奥壁14に付着した異物を削除することができるが、弁口8の内周面に付着した異物を除去することは困難である。特に、弁口8は小径に形成されているため、弁口8の内周面に付着した異物は容易に除去することは困難である。
【0014】
このため、温度応動弁を分解して清掃作業を行えば、弁口8の内周面に付着した異物を除去することができるが、この場合メンテナンス作業が煩雑となり得る。
【0015】
そこで、本願に係るクリーニング手段を有する自動弁は、弁口(排出穴)の内周面に付着した異物を確実に除去することができ、しかも異物除去のメンテナンス作業に手間のかからないクリーニング手段を有する自動弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願に係るクリーニング手段を有する自動弁は、
流体が流入する弁室空間、及び当該弁室空間に連通する排出穴であって、流体を当該弁室空間の外部に排出する排出穴を有する本体、
弁体部を有しており、基準線に沿って前記弁室空間に配置され、当該基準線方向に向けて往復移動が可能な弁軸手段であって、当該弁体部を前記排出穴に対して進入方向に移動させて前記排出穴を閉塞状態とし、又は当該弁体部を前記排出穴に対して退避方向に移動させて前記排出穴を開放状態とする弁軸手段、
前記弁軸手段を往復移動させる開閉動作手段、
を備えたクリーニング手段を有する自動弁であって、
前記弁軸手段は、前記弁体部を有するクリーニング部、及び当該クリーニング部を保持する保持部を備えて構成されており、
前記クリーニング部は、前記保持部に対し、独立して前記基準線方向に向けて往復移動が可能であり、
前記クリーニング部が、前記閉塞状態から前記排出穴に対してさらに進入方向に移動し、前記排出穴の内周を摺動してクリーニング状態となる、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本願に係るクリーニング手段を有する自動弁においては、弁軸手段は、弁体部を有するクリーニング部、及び当該クリーニング部を保持する保持部を備えて構成されている。そして、クリーニング部は、保持部に対し、独立して基準線方向に向けて往復移動が可能であり、クリーニング部が、閉塞状態から排出穴に対してさらに進入方向に移動し、排出穴の内周を摺動してクリーニング状態となる。
【0018】
したがって、クリーニング部の進入方向への移動によって、排出穴の内周に付着した異物を確実に除去することができる。また、排出穴の内周に付着した異物を除去するために自動弁を分解する必要等がなく、異物除去のメンテナンス作業に手間がかからない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本願に係るクリーニング手段を有する自動弁の第1の実施形態である温調トラップ1の断面図であって、閉弁時の温調トラップ1を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す温調トラップ1の弁口62近傍の拡大断面図である。
【
図3】
図1に示す調整筒35及び弁体バー12の後端面を表す平面図である。
【
図4】
図1に示す弁軸10及び弁体バー12の斜視図であって、弁体2側から見た斜視図である。
【
図5】
図1に示す弁口62内周面のクリーニング時の温調トラップ1を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の下記の要素に対応している。
【0021】
温調トラップ1・・・クリーニング手段を有する自動弁
弁体2・・・弁体部
弁軸10・・・弁軸手段
弁軸10の貫通穴10d・・・保持部
弁体バー12・・・クリーニング部
ネジ結合部19・・・ネジ機構
弁ケーシング21及びケーシング蓋22・・・弁本体
バイメタル50及び復帰バネ71・・・開閉動作手段
弁室53及び弁座上流室61・・・弁室空間
弁口62・・・排出穴
矢印105・・・退避方向
矢印106・・・進入方向
軸線L1・・・基準線
蒸気又はドレン・・・流体
【0022】
[第1の実施形態]
本願に係るクリーニング機構を有する自動弁の第1の実施形態を、温調トラップを例に説明する。温調トラップはトレース伝熱管の末端に設けられ、トレース伝熱管を設定温度に保つ機能を備えている。一定の設定温度に保たれたトレース伝熱管は、重油など高粘性流体の凝固防止用トレースや、計装機器の凍結防止用トレースとして用いられる。
【0023】
(温調トラップ1の構成の説明)
図1は本実施形態における温調トラップ1の断面図である。弁ケーシング21には流入口26及び流出口29が同軸上に設けられており、上部にはガスケット39を挟んでケーシング蓋22がネジ結合によって取り付けられている。流入口26はトレース伝熱管(図示せず)の末端に接続され、流出口29は排出管(図示せず)に接続される。弁ケーシング21内には弁室53が形成され、この弁室53は流入路27を介して流入口26と連通している。また、流出口29は流出路28と連通している。
【0024】
弁ケーシング21内の下方に形成された底室54には、円柱状の弁座60がネジ結合によって取り付けられ固定されている。弁座60には、軸線L1に沿って貫通する弁口62が形成されており、この弁口62を境に、上流側に弁座上流室61が形成され、下流側に弁座下流室63が形成されている。弁座上流室61及び弁座下流室63は、いずれも円筒形状を有している。
【0025】
弁口62の口径は、弁座上流室61及び弁座下流室63の径よりも十分に小さくなるように構成されている。そして、弁室53は、弁室上流室61、弁口62、弁座下流室63、底室54及び流出路28を介して流出口29と連通し、上流の流入口26及び流入路27に連続して流路を形成する。
【0026】
弁室53内には、筒状のスクリーン70が設けられている。流入口26から流入した蒸気やドレンは流入路27を通じ、このスクリーン70を透過して矢印101方向に向けて弁室53内に流入する。スクリーン70を透過する際、蒸気やドレンに混入している異物がスクリーン70によって捕捉される。
【0027】
弁室53内には円柱状の弁軸10が配置されている。弁軸10の中心線は軸線L1に一致しており、弁軸10はこの軸線L1に沿って矢印105、106方向に往復移動が可能に配置されている。この弁軸10の後端には、弁軸バー操作溝12cが形成されており(
図3)、先端には直方体形状を有し、角部が刃物として構成されている平刃10bが一体的に形成されている。
【0028】
弁軸10及び平刃10bには、軸線L1に沿って中心に貫通穴10dが形成されている。そして、この貫通穴10dを円柱状の弁体バー12が貫通して保持されている。弁体バー12の軸線L1に直行する断面の直径は、弁軸10及び平刃10bの貫通穴10dの内径とほぼ同じであり、弁体バー12は弁軸10及び平刃10bに対し、軸線L1に沿って独立して往復移動が可能である。
【0029】
弁体バー12の先端部にはネジ山が形成されており、弁軸10に設けられている平刃10bの貫通穴10dの先端部にはこのネジ山に螺合するネジ溝が形成されている。そして、この螺合によって、ネジ結合部19が形成される(
図2参照)。すなわち、弁体バー12を独自に回転操作することによって、弁体バー12はネジ結合部19の螺合に従って、軸線L1に沿って弁軸10に対し矢印105、106方向に往復移動する。弁体バー12の先端には、頂点を最先端とした円錐状の弁体2が一体的に形成されており、弁体2は平刃10bの先端面から突出して位置している(
図4参照)。
【0030】
弁軸10の後端には、調整筒35が取り付けられている。この調整筒35は、Oリング36を介しケーシング蓋22に対して調整ネジ部15でネジ結合されており、上部に形成された調整筒操作溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて回転操作が可能になっている。調整筒35を回転操作した場合、調整筒35は調整ネジ部15の螺合に従って矢印105、106方向に進退する。ケーシング蓋22に対する調整筒35の調整位置は、ロックナット89によって固定される。
【0031】
そして、調整筒35内には軸線L1に沿って調整空間35bが形成されており、この調整空間35b内に弁軸10の後端が挿入されて配置されている。なお、ケーシング蓋22から突出した調整筒35の上部は、保護キャップ37によって覆われている。
【0032】
弁軸10の後端近傍には、軸線L1に直交する両方向に突出した連結棒10aが固定されている。他方、調整筒35の下部にはスライド溝35aが設けられており、このスライド溝35aに弁軸10の連結棒10aが挿入されている。すなわち弁軸10は、調整筒35の螺入操作に従って調整筒35と一体的に回転するが、弁軸10は調整筒35から独立して、スライド溝35aに沿って矢印105及び矢印106方向に進退することも可能である。
【0033】
図1に示す調整筒35及び弁座60の軸線も弁軸10と同様、軸線L1に一致するよう同軸上に配置されており、弁軸10の弁体2は弁口62に向けて位置する。弁軸10にはバネ受け10cが固定されている。そして、弁軸10は容器形状の中間部材75の中心穴を貫通しており、この中間部材75はバネ受け10cの下側に当接している。中間部材75は外側が湾曲しており、この湾曲の内側には、弁室53底部との間に復帰用バネ71が取り付けられている。すなわち、弁軸10は、中間部材75及びバネ受け10cを介して常時、復帰用バネ71によって上方向(矢印105方向)に付勢されている。
【0034】
そして、弁軸10には、弁軸10を下方向(矢印106方向)に移動させるためのバイメタル50が取り付けられている。本実施形態では、5枚のバイメタル50が積層されて積層体を構成している。最上部に位置するバイメタル50の上面は調整筒35の下端面35dに当接し、最下部のバイメタル50の下面は平座金73を挟んで中間部材75に当接している。
【0035】
各バイメタル50は、周辺温度に反応して変形する感温部材であり、周辺温度が所定の基準温度より高くなった場合に、軸線L1方向に沿って膨張し、周辺温度が基準温度以下になった場合に軸線L1方向に沿って収縮する。
図1は、各バイメタル50が膨張し、弁軸10が矢印106方向の限界位置まで移動した状態を示している。
【0036】
中間部材75の内側には、弁軸10に取り付けられた過膨張吸収バネ72が配置されている。この過膨張吸収バネ72の上部は平座金73に当接し、下部はワッシャー85を介してバネ受け10cの上側に当接している。
【0037】
(温調トラップ1の基本動作の説明)
次に、温調トラップ1の基本動作を説明する。初期段階においては、弁室53にはエアーが充満しており、各バイメタル50は周辺のエアーの低温の影響を受けて収縮している。そして、弁軸10は、バネ受け10cが復帰バネ71の付勢を受けることによって、矢印105方向に移動した状態にある(図示せず)。このとき、弁体2も弁口62から矢印105方向に退避して、弁口62は開弁されている(開放状態)。
【0038】
配管系統が蒸気移送を開始すると、トレース伝熱管を通して流入口26からドレンが矢印101方向に流入する。初期段階のドレンは低温であり、このドレンがエアーを弁口62から押し出し、矢印102方向に向けて流出口29に排気する。続いて、低温のドレンも同様の経路をたどって流出口29から排水される。
【0039】
この後、弁室53には、蒸気から発生した高温のドレンが矢印101方向に流入する。弁室53内のドレンの温度が上昇したことによって、各バイメタル50は徐々に膨張する。膨張するバイメタル50の積層体は、平座金73、過膨張吸収バネ72及びワッシャー85を介して弁棒10のバネ受け10cを矢印106方向に押圧する。
【0040】
このとき、比較的、強力な過膨張吸収バネ72は収縮しないため、バイメタル50の積層体の膨張はそのまま弁軸10に伝わり、弁体2は弁口62に進入する。このとき復帰バネ71は、バイメタル積層体50の膨張に押圧されて圧縮する。そして、弁体2の進入の程度に対応して、弁口62の開口領域は、円錐状の弁体2の斜面(側面)に従って徐々に縮小され、やがて弁口62を完全に閉弁する(閉塞状態)。
【0041】
弁口62の開口の縮小又は閉弁によって、ドレンの排水量は減少又は停止し、弁室53及びトレース伝熱管には設定された基準温度のドレンが滞留することになる。これによって、トレース伝熱管は、重油の輸送管等の加熱対象を適切な温度をもって加熱することができる。その後、加熱対象との熱交換によって、トレース伝熱管内のドレンの温度は徐々に低下し、弁室53内のドレンの温度も基準温度を下回ることになる。
【0042】
各バイメタル50は、このドレンの温度低下に反応し収縮を開始する。各バイメタル50の収縮によって、復帰バネ71は伸張して復帰し、中間部材75を介して弁軸10のバネ受け10cを押し上げ、弁軸10は矢印105方向に移動して、弁体2は弁口62の開口領域を拡張して開弁する。これによって、基準温度を下回ったドレンは弁口62を通じて流出口29に排水される。この後、高温のドレンが弁室53に流入し、各バイメタル50の膨張によって再び弁口62の開口領域は縮小又は閉弁され、基準温度のドレンが滞留する。
【0043】
以上のように、各バイメタル50が弁室53内のドレンの温度に反応して、膨張又は収縮することによって、弁軸10に設けられている弁体2が昇降し、弁口62は開弁と閉弁を繰り返して、弁室53及びトレース伝熱管内のドレンは設定された基準温度に保たれる。
【0044】
なお、各バイメタル50が膨張し、弁体2が弁口62を完全に閉弁した後もドレンの温度が引き続き上昇し、これに反応して各バイメタル50がさらに膨張することがある。この場合、各バイメタル50への過度の負担を避けるために、過膨張吸収バネ72が収縮して各バイメタル50の膨張を吸収する。過膨張吸収バネ72が収縮する際、復帰バネ71も同時に圧縮され、中間部材75は弁棒10側のバネ受け10cから離れて矢印106方向に下降する。
【0045】
弁室53及びトレース伝熱管内のドレンの基準温度は、自在に調整して設定することができる。基準温度を調整する場合は、温調トラップの上部の保護キャップ37を取り外し、ロックナット89を緩めた上で調整筒操作溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて螺入操作し、調整筒35を軸線L1に沿って移動させる。なお、この際、調整筒操作溝35cと弁軸バー操作溝12cとは直線状に配置されており(
図3参照)、調整筒操作溝35cと弁軸バー操作溝12cには、同時にドライバー等の工具が嵌め入れられる。このため、調整筒35及び弁体バー12は一体となって回転し、調整筒35に対する弁体バー12の位置関係は変化しない。
【0046】
調整筒35を弁室53内に向けて締め込めば、調整筒35の下端面35dがバイメタル50の積層体を押圧して、弁軸10自体の位置が矢印106方向に下降移動し、開弁状態における弁体2と弁口62との距離が短くなるため、基準温度を低く設定することができる。逆に、調整筒35を緩めれば、復帰バネ71の付勢によって、弁軸10自体の位置が矢印105方向に上昇移動し、開弁状態における弁体2と弁口62との距離が長くなるため、基準温度を高く設定することができる。
【0047】
(クリーニング動作の説明)
弁室53には、前述のように蒸気やドレンに混入している異物を捕捉するためのスクリーン70が設けられているが、細かい錆やスケール等の異物はスクリーン70を透過して侵入し、弁座60の弁座上流室61や弁口62の内周面に付着し、塊状になって固着して堆積する。本実施形態では、弁体バー12の先端部を弁口62に進入させて、弁口62の内周面に付着した異物を除去してクリーニングする。
【0048】
弁口62の内周面をクリーニングする際、各バイメタル50は収縮した状態にあり、弁軸10及び弁体バー12は一体となって矢印105方向に移動しており、弁体2は弁口62から退避している(図示せず)。この状態から、保護キャップ37を取り外してロックナット89を緩め、まず直線状に並んだ調整筒操作溝35cと弁軸バー操作溝12cとにドライバー等の工具を嵌め入れ、限界位置まで締め込む(
図3参照)。
【0049】
これによって、弁軸10及び弁体バー12は一体となって回転しながら矢印106方向に進出し、弁軸10の先端に一体的に固定された平刃10bの回転によって、弁座上流室61の側周と底面に付着した異物が削ぎ落される。平刃10bの先端面が弁座上流室61の底面に当接した状態が、弁軸10の矢印106方向への進入の限界位置である。
【0050】
続いて、弁口62の内周面に付着した異物を除去してクリーニングするために、弁軸10に対して弁体バー12を独立して回転操作する。すなわち、より細いドライバー等の工具を弁軸バー操作溝12cに嵌め入れて締め込み(
図3参照)、弁体バー12のみを回転させる。これによって、弁体バー12はネジ結合部19の螺合に従って弁軸10から独立して矢印106方向に進出し、平刃10bの先端面から突出して弁口62を貫通する。
図5は、弁体バー12の先端部近傍が弁口62を貫通した状態を示している。
【0051】
弁体バー12の先端部が弁口62を貫通する際、弁体バー12の先端部は弁口62の内周を摺動して回転しながら進入方向に移動する。これによって、弁口62の内周面に付着した異物は削ぎ落される。なお、弁体バー12の先端部には前述のようにネジ山(ネジ結合部19)が形成されているため、このネジ山によってより確実に異物を削ぎ落すことができる。
【0052】
以上のようにして弁座60の弁座上流室61や弁口62の内周面に付着した異物を除去しクリーニングを行う。クリーニング後は、弁体バー12及び弁軸10をそれぞれ逆方向に回転操作し、クリーニング前の状態に復位させ、保護キャップ37を取り付けて復旧する。なお、平刃10bや弁体バー12の先端部によって削ぎ落された異物は、その後、弁口62が開弁した際、蒸気やドレンと共に矢印102方向に沿って流出口29から排出される。
【0053】
[その他の実施形態]
前記実施形態においては、本願に係るクリーニング手段を有する自動弁を温調トラップ1に適用した例を掲げたが、これに限定されるものではなく、排出穴(弁口62等)に対して弁体部(弁体2等)が進退して当該排出穴を閉塞又は開放するものであれば他の自動弁に適用することができる。
【0054】
また、前記実施形態において示した各構成部分は例示であり、同様の機能を果たすものであれば他の構成に置換することができる。たとえば、弁軸手段として弁軸10を例示したが、基準線(軸線L1等)方向に向けて往復移動可能なものであれば他の形状、構造のものを用いることができる。また、クリーニング部として弁体バー12を例示したが、弁体部(弁体2等)を有しており保持部(弁軸10の貫通穴10d等)に対して独立して基準線(軸線L1等)方向に向けて往復移動可能なものであれば他の形状、構造のものを用いることができる。
【0055】
さらに、前記実施形態においては、弁体バー12の先端部にネジ結合部19(ネジ機構)が形成された例を示したが、弁体バー12(クリーニング部)の後端部又は中間部にネジ山を形成し、これに対応させて弁軸10の貫通穴10d(保持部)の後端又は中間部にネジ溝を形成してネジ結合部19(ネジ機構)を構成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1:温調トラップ 2:弁体 10:弁軸 12:弁体バー 19:ネジ結合部
21:弁ケーシング 22:ケーシング蓋 50:バイメタル 53:弁室
61:弁座上流室 62:弁口 71:復帰バネ L1:軸線