(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100408
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】油入変圧器のコイル及び油入変圧器のコイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/12 20060101AFI20230711BHJP
H01F 27/02 20060101ALI20230711BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20230711BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
H01F27/12 Z
H01F27/02 150
H01F30/10 S
H01F27/28 176
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001067
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 敬晃
(72)【発明者】
【氏名】真屋 岳良
(72)【発明者】
【氏名】薦池 一
(72)【発明者】
【氏名】式井 正俊
(72)【発明者】
【氏名】武井 雅斗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泰弘
【テーマコード(参考)】
5E043
5E050
5E059
【Fターム(参考)】
5E043DB03
5E050CA06
5E059BB03
5E059JK04
(57)【要約】
【課題】冷却能力を向上した自冷式の油入変圧器を提供する。
【解決手段】油入変圧器は、中心軸周りに筒状に形成され、中心軸に平行な軸方向に沿って複数配置された巻線と、巻線間に複数配置され、絶縁油の油道となるダクトを形成するダクトピースと、を備える。ダクトは、中心軸を中心として鉛直上向きに螺旋を描く方向に延びている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸周りに筒状に形成され、前記中心軸に平行な軸方向に沿って複数配置された巻線と、
前記巻線間に複数配置され、絶縁油の油道となるダクトを形成するダクトピースと、を備え、
前記ダクトは、前記中心軸を中心として鉛直上向きに螺旋を描く方向に延びている、
油入変圧器のコイル。
【請求項2】
前記ダクトの延びる方向と前記コイルの径方向との間の内角は、45°以上90°未満の範囲内に設定される、請求項1に記載の油入変圧器のコイル。
【請求項3】
前記ダクトピースは、前記ダクト内部を通過する絶縁油が前記中心軸に対して地球の自転により受けるコリオリ力の方向に移動するように配置される、請求項1又は2に記載の油入変圧器のコイル。
【請求項4】
ダクトピースを予め湾曲させる工程と、
台紙を前記ダクトピースの湾曲に合わせて湾曲させる工程と、
湾曲させた前記ダクトピースを、湾曲した前記台紙に貼り付ける工程と、
前記ダクトピースを貼り付けた前記台紙を巻線に巻き付ける工程と、
を含む、油入変圧器のコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、油入変圧器のコイル及び油入変圧器のコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器において、絶縁や冷却を目的として、内部に絶縁油が満たされている油入変圧器が知られている。油入変圧器の冷却方式としては、自冷式と風冷式とが知られている。自冷式とは絶縁油の対流により放熱する方式であり、構造が簡易で運用の手間もあまりかからない。風冷式とは換気ファンを回して強制的に冷却する方式であり、冷却能力が高くなるが構造が複雑になりメンテナンスの手間が掛かる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自冷式の油入変圧器の場合、コイル内の冷却油道の放熱量が、コイルのサイズひいては変圧器のサイズを左右する支配的要因となっている。したがって、油入変圧器のサイズを小型化する場合、冷却能力を向上することが必要となる。
【0005】
冷却能力を向上した油入変圧器のコイルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の油入変圧器は、中心軸周りに筒状に形成され、前記中心軸に平行な軸方向に沿って複数配置された巻線と、前記巻線間に複数配置され、絶縁油の油道となるダクトを形成するダクトピースと、を備える。前記ダクトは、前記中心軸を中心として鉛直上向きに螺旋を描く方向に延びている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による変圧器の一例の全体の概略構成をコイルの一部を破断して示す正面図
【
図2】第1実施形態による変圧器の一例のコイルの概略平面図
【
図3】第1実施形態による変圧器の一例のコイルの概略斜視図
【
図4】従来例による変圧器の一例のコイルの概略斜視図
【
図5】第1実施形態による変圧器の一例のコイルのダクトを示す概略図
【
図6】従来による変圧器の一例のコイルのダクトを示す概略図
【
図7】第1実施形態による変圧器の一例のコイルの製造工程を示すフローチャート
【
図8】第1実施形態による変圧器の一例のコイルのダクトを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の説明において、コイルの中心軸Aに対して平行な方向を軸方向と称する。また、中心軸A回りを中心軸Aに対して同軸に周回する方向を周方向と称する。また、中心軸Aに対して直交する方向を径方向と称する。
【0009】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について
図1~
図7を参照しながら説明する。
図1に示すように、変圧器10は、巻鉄心11と、一又は複数この場合3個のコイル12と、図示しないタンクと同じく図示しない台座とを備える。変圧器10は、巻鉄心11に3個のコイル12を装着して構成され、タンクの床上に図示しない台座を介して設置される。タンク内には、変圧器10全体が浸されるように絶縁油が充填されている。絶縁油は、例えば鉱物油であり、絶縁及び冷却用の冷却流体として機能する。
【0010】
巻鉄心11は、2個の内側巻鉄心111,111と1個の外側巻鉄心112とを含んで構成される。2個の内側巻鉄心111,111は
図1の向きに見た場合に左右に並べられて配置される。外側巻鉄心112は、内側巻鉄心111,111を囲むように外側に配置される。内側巻鉄心111,111及び外側巻鉄心112とは、それぞれ帯状の鉄部材を巻回してコーナー部が丸みを帯びた矩形環状に構成されている。他の実施形態では、内側巻鉄心111,111及び外側巻鉄心112とは、帯状のアモルファス金属製の部材によって構成されていても良い。巻鉄心11は、3個の脚部11aを有する。
【0011】
コイル12は、全体として円筒状を成している。3個のコイル12は、その中心軸が内側巻鉄心111,111及び外側巻鉄心112の環形状の中心軸の方向と直交する姿勢で、
図1の向きに見た場合に左右に並べられて配置される。すなわち、コイル12は、中心軸Aの方向が鉛直方向となるように配置される。3個のコイル12は、それぞれ巻鉄心11の3個の脚部11aの各々の周囲を周回するように装着されている。
【0012】
コイル12は、コイル12は、
図2に示すように低圧巻線13と、高圧巻線14と、複数のダクトピース15と、台紙16と、を含んで構成される。低圧巻線13は、金属シートであり、コイル12の内周側に巻回されている。高圧巻線14は金属シートであり、コイル12の外周側に巻回されている。複数のダクトピース15は、低圧巻線13と高圧巻線14との間、及び低圧巻線13及び高圧巻線14のそれぞれの各層間に円周方向に並んで配置される。ダクトピース15は、いわゆる角材のように細長い直方体に形成されている。複数のダクトピース15は、絶縁油の通路となるダクト17を形成する。ダクトピース15は、例えばプレスボードや木材などの絶縁物で構成される。
【0013】
詳細は図示しないが、変圧器10は、送油ポンプを備える。送油ポンプは、絶縁油がコイル12の周囲及び又は各層間を下方から上方に向けて移動するように送油する。
【0014】
ダクトピース15の配置について詳しく述べる。複数のダクトピース15は、互いに平行であってかつコイル12の中心軸Aに対して傾斜する方向に延びて、全体として螺旋状に配置される。すなわち、本実施形態の変圧器10において、絶縁油の通路となるダクト17は、コイル12を周回しながら鉛直上方に進む螺旋状に形成されている。ダクト17の延伸方向とコイル12の周方向との間の内角α、すなわち径方向視におけるダクトピース15のコイル12の底面に対する傾きαは鋭角つまり0°以上90°未満の範囲内に設定することができる。好ましくは、径方向視におけるダクトピース15のコイル12の底面に対する傾きαは45°以上90°未満の範囲内に設定することができる。
【0015】
ダクト17の回転の向きつまりダクトピース15の螺旋形状の回転の向きは、鉛直上方から見た場合に時計回り又は反時計回りに設定することができる。この場合、回転の向きは、ダクト17を通過する絶縁油が中心軸Aに対して地球の自転によるコリオリ力の方向に移動するように設定することが好ましい。例えば変圧器10を北半球で使用する場合、ダクトピース15の螺旋形状の回転の向きを反時計回りに設定することが好ましい。また、変圧器10を南半球でしようする場合、ダクトピース15の螺旋形状の回転の向きを時計回りに設定することが望ましい。本実施形態では、ダクトピース15の螺旋形状の回転の向きは鉛直上方から見た場合に反時計回りに設定されている。
【0016】
従来の変圧器のコイル100において、
図4に示すようにダクトピース101はコイル100の中心軸に対して平行な方向に延びて配置されている。この場合、絶縁油はダクト102内をコイル100の中心軸に平行な方向につまり鉛直上方に進む。
【0017】
ここで、本実施形態の変圧器10と従来の変圧器とでコイル周方向のダクトピース15,101の幅、ダクトピース15,101間のピッチ、及びダクト17,102の個数を同一に設定した場合、本実施形態の変圧器10と従来の変圧器とでの熱伝導率つまり冷却性能を比較する。
図5、
図6に示すように、ダクトピース15,101の幅をa、ダクトピース15,101間のピッチをb、コイル12,100の鉛直方向の長さ寸法である高さをc、径方向視におけるダクトピース15,101のコイル12,100の底面に対する傾きをα、本実施形態での油道幅をw、本実施形態での油道長をrと置く。αは鋭角であるため、0<sinα<1である。
【0018】
この場合、従来の変圧器と本実施形態の変圧器10とで、冷却面積つまり1本のダクト17,102当たりの面積はc×bで同一となる。従来の変圧器では油道幅はダクトピース101間のピッチに等しくbである。本実施形態の変圧器10では油道幅wはw=b×sinαと計算されるため、w<bとなり従来の変圧器の油道幅よりも狭くなる。また、従来の変圧器では油道長はコイル100の高さに等しくcである。本実施形態の変圧器10では油道長rはr=c/sinαと計算されるため、r>cとなり従来の変圧器の油道長よりも長くなる。
【0019】
流速は流量を流路断面積で除して求められる。本実施形態の変圧器10は従来の変圧器よりもダクト17の流路断面積が小さくなるため、両者で絶縁油の流量が同じと仮定すると流速が増加する。したがって、流速が増加し更に流路長が長くなるため、熱伝導率の向上つまり冷却能力の向上が期待される。
【0020】
続いて、
図7を参照して本実施形態の変圧器10のコイル12の製造工程を説明する。まず、作業者はダクトピース15を湾曲させるダクトピース湾曲工程を実行する(ステップS11)。これにより、ダクトピース15がコイル12の外周面に沿って巻き付けやすくなる。次に、作業者は台紙16をダクトピース15の湾曲に合わせて湾曲させる台紙湾曲工程を実行する(ステップS12)。詳細は図示しないが、台紙16は、例えば絶縁紙などの薄型シート状の絶縁性の部材である。これにより、引き続く貼付工程において、湾曲したダクトピース15を台紙16に貼り付けやすくなる。
【0021】
次に、作業者は、複数のダクトピース15を湾曲した台紙16上に斜めに並べて配置して貼り付ける貼付工程を実行する(ステップS13)。そして、作業者は、複数のダクトピース15が張り付けられた台紙16を、コイル12を形成する低圧巻線13の各層の上、及び高圧巻線14の各層の上に巻き付ける巻き付け工程を実行する(ステップS14)。巻き付け工程において、作業者は、低圧巻線13又は高圧巻線14と、ダクトピース15が貼り付けられた台紙16とを、適宜交互に巻き付けていく。これにより、コイル12を形成する低圧巻線13の各層間、低圧巻線13と高圧巻線14との間、及び高圧巻線14の各層間にダクトピース15が配置される。
【0022】
なお、ダクトピース湾曲工程において、作業者は、ダクトピース15を、ダクトピース15を貼り付ける対象の低圧巻線13又は高圧巻線14の外周面の曲率と同程度まで湾曲させても良いし、曲率が当該曲率よりも小さくなるように湾曲させても良い。
【0023】
以上説明した本実施形態によれば、油入変圧器10のコイル12は、巻線13,14と、ダクトピース15と、を備える。巻線13,14は、中心軸A周りに筒状に形成され、中心軸Aに平行な軸方向に沿って複数配置されている。ダクトピース15は、巻線13,14間に複数配置され、絶縁油の油道となるダクト17を形成する。ダクト17は、中心軸Aを中心として鉛直上向きに螺旋を描く方向に延びている。
【0024】
これによれば、同じダクトピース15の幅、同じダクトピース15の個数、及び同じ油道幅であっても、ダクト17を螺旋形状とすることで、従来のストレート構造のダクトと比較して、流路断面積を狭くすることで流速が上がり更に油道長を長くすることができるため、コイル12の熱伝導率を向上することができる。したがって、より冷却効率の良い変圧器10のコイル12が提供される。また、コイル12の冷却効率が向上することによって、変圧器10の小型化、軽量化にも寄与することができる。
【0025】
ここで、ダクト17の延びる方向とコイル12の径方向との間の内角が小さすぎるとすなわちダクト17が寝すぎていると、流路断面積が狭くなり過ぎてしまい絶縁油がダクト17内をスムーズに循環しない虞がある。
【0026】
これに対し、ダクト17の延びる方向とコイル12の径方向との間の内角は、45°以上90°未満の範囲内に設定される。
【0027】
これによれば、流路断面積の過度な低下を抑制しつつ、油道長を長く設定することができるため、コイル12の冷却効率を一層確実に向上することができる。
【0028】
ここで、ダクト17の傾きつまり螺旋回転の向きは、時計回り又は反時計回りのいずれにも設定することができる。ダクト17の螺旋回転の向きをコリオリ力の向きと反対方向とした場合、寄与が僅かだとしても絶縁油の循環を抑制してしまう要因となり得る。
【0029】
これに対して、ダクトピース15は、ダクト17内部を通過する絶縁油が中心軸Aに対して地球の自転により受けるコリオリ力の方向に移動するように配置される。
【0030】
これによれば、絶縁油はコリオリ力を受けて流速が一層上がりやすくなる。そのため、更に変圧器10の冷却効率を向上することができる。なお、コリオリ力の寄与は、緯度が大きいほど大きくなる。したがって、とりわけ赤道付近で変圧器10を用いる場合は、ダクト17の螺旋形状がいずれの方向に回転していても良い。
【0031】
従来の変圧器のコイルの製造方法によれば、作業者は真直ぐなダクトピースを台紙に貼り付けてからコイルに巻き付ける。本実施形態ではダクトピース15は螺旋状に配置されるため、コイル12に巻き付けられた状態において、湾曲する必要がある。この場合、ダクトピース15は、例えばプレスボードと呼ばれる機械的強度の高い部材によって形成されている。そのため、比較的剛性があるので、台紙16に複数個のダクトピース15を並べて貼り付けてからコイルの表面に沿うように巻き付けるつまり湾曲させるには大きな力が必要となる。したがって、従来の製法では、本実施形態の変圧器10のコイル12を製造することが困難となる虞がある。
【0032】
これに対して、本実施形態の油入変圧器10のコイル12の製造方法は、ダクトピース15を予め湾曲させるダクトピース湾曲工程と、台紙16をダクトピース15の湾曲に合わせて湾曲させる台紙湾曲工程と、ダクトピース15を貼り付けた台紙16を巻線13,14に巻き付ける工程と、を含む。
【0033】
これにより、ダクトピース15を台紙16に貼り付ける前に湾曲させておくため、巻線13,14に巻き付ける工程が容易となる。したがって、冷却効率の高い油入変圧器10のコイル12を、比較的容易に製造することができる。
【0034】
(第2実施形態)
続いて第2実施形態について
図8を参照して説明する。本実施形態の変圧器10は、コイル12にダクトピース20を備える。本実施形態では、ダクトピース20の幅は上記第1実施形態のダクトピース15の幅aよりも狭く、ダクトピース間ピッチは上記第1実施形態のダクトピース間ピッチbよりも長くなる。
【0035】
ダクトピース20の幅a´は、上記第1実施形態のダクトピース15の幅aと比較してδだけ短く設定されている。本実施形態のダクト21の油道幅をw´と置く。この場合、w´=bとなるまで油道幅を広げると、ダクト21の流路断面積は従来の変圧器と同等となり、流速も同等となる。ダクト21の冷却面積は、c×(b+δ)となり、従来の変圧器及び第1実施形態の変圧器10のダクト17の冷却面積よりもc×δだけ増加することができる。そのため、従来の変圧器と比較して、冷却性能の向上が期待される。なおこの場合、δ=(1/sinα-1)×bとして計算される。
【0036】
この場合、ダクトピース20の幅を狭めることで、ダクトピース20の材料費を低減することができる。したがって、上記の効果に加えて、変圧器10の冷却効率を向上しつつ、変圧器10の製造コストを抑制することができる。
【0037】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
10…変圧器、11…巻鉄心、12…コイル、13…低圧巻線、14…高圧巻線、15…ダクトピース、16…台紙、17…ダクト、20…ダクトピース、21…ダクト