IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械マリンエンジニアリング株式会社の特許一覧

特開2023-100412船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム
<>
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図1
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図2
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図3
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図4
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図5
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図6
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図7
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図8
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図9
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図10
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図11
  • 特開-船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100412
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】船舶システム、表示装置、及び船舶プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/30 20200101AFI20230711BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20230711BHJP
   B63B 79/20 20200101ALI20230711BHJP
   B63B 79/15 20200101ALI20230711BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20230711BHJP
【FI】
B63B79/30
B63B49/00 Z
B63B79/20
B63B79/15
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001074
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 義典
(72)【発明者】
【氏名】高井 通雄
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境保全のための指標の値を予測することができる船舶システム、表示装置、及び船舶プログラムを提供する。
【解決手段】船舶システム100は、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算部13を備えている。従って、演算部13は、過去の航海実績に基づいて、環境保全のための指標の値を演算することができる。ここで、所定期間が、始点から現在までの第1の期間T1、及び現在から終点までの第2の期間T2を有する場合、演算部13は、第2の期間T2の指標の値を予測して演算する。このように、演算部13は、指標の値の演算を行う所定期間のうち、未来の部分である第2の期間T2については、指標の値を予測して演算することで、今回分の所定期間の指標の値を予測することができる。以上より、環境保全のための指標の値を予測することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算部と、
船舶の航海実績に関する実績情報を取得する情報取得部と、を備え、
前記演算部は、所定期間を単位時間として、当該所定期間における前記指標の値を演算し、
前記所定期間が、始点から現在までの第1の期間、及び現在から終点までの第2の期間を有する場合、
前記演算部は、前記第2の期間を含む前記所定期間の前記指標の値を予測して演算する、船舶システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記船舶の航海条件から、前記指標の値、及び前記指標のランク情報の少なくとも一方を演算する、請求項1に記載の船舶システム。
【請求項3】
前記演算部は、前記所定期間における前記指標のランク情報を自動的に設定して、前記指標の値を演算する、請求項1又は2に記載の船舶システム。
【請求項4】
前記演算部は、ユーザーによる目標の前記指標のランク情報を設定して、前記指標の値を演算する、請求項1~3の何れか一項に記載の船舶システム。
【請求項5】
前記演算部は、前記船舶の航海条件として、前記第2の期間における船速を少なくとも含んで演算を行う、請求項1~4の何れか一項に記載の船舶システム。
【請求項6】
前記演算部は、前記船舶の航海条件として、海象を複数のランクに分けた海象ランク情報を少なくとも含んで演算を行う、請求項1~5の何れか一項に記載の船舶システム。
【請求項7】
前記演算部は、前記航海条件として、季節情報を少なくとも含んで演算を行う、請求項1~6の何れか一項に記載の船舶システム。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の船舶システムの演算結果、及び演算に用いる情報の少なくとも一方を表示する、表示装置。
【請求項9】
環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算ステップと、
船舶の航海実績に関する実績情報を取得する情報取得ステップと、を備え、
前記演算ステップでは、所定期間を単位時間として、当該所定期間における前記指標の値を演算し、
前記所定期間が、始点から現在までの第1の期間、及び現在から終点までの第2の期間を有する場合、
前記演算ステップでは、前記第2の期間を含む前記所定期間の前記指標の値を予測して演算する、船舶プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶システム、表示装置、及び船舶プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶システムとして、特許文献1に記載されたものが知られている。この船舶システムは、過去の燃料消費の実績に基づいて、船舶の燃費を予測するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-10984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、環境保全のための数値的実績に基づいてランク付けがなされた指標が適用される場合がある。例えば、温室効果ガス削減のためにCII(Carbon Intensity Indicator)という規則に係る指標が適用される場合がある。このような指標のランク付けは、1年などの所定期間の単位時間でなされる。所望のランクを得るためには、指標の値を予測することが求められる。
【0005】
そこで、本発明は、環境保全のための指標の値を予測することができる船舶システム、表示装置、及び船舶プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る船舶システムは、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算部と、船舶の航海実績に関する実績情報を取得する情報取得部と、を備え、演算部は、所定期間を単位時間として、当該所定期間における指標の値を演算し、所定期間が、始点から現在までの第1の期間、及び現在から終点までの第2の期間を有する場合、演算部は、第2の期間を含む所定期間の指標の値を予測して演算する。
【0007】
船舶システムは、船舶の航海実績に関する実績情報を取得する情報取得部を備えており、且つ、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算部を備えている。従って、演算部は、過去の航海実績に基づいて、環境保全のための指標の値を演算することができる。ここで、所定期間が、始点から現在までの第1の期間、及び現在から終点までの第2の期間を有する場合、演算部は、第2の期間を含む所定期間の指標の値を予測して演算する。このように、演算部は、指標の値の演算を行う所定期間のうち、未来の部分である第2の期間については、指標の値を予測して演算することで、今回分の所定期間の指標の値を予測することができる。以上より、環境保全のための指標の値を予測することができる。
【0008】
演算部は、船舶の航海条件から、指標の値、及び指標のランク情報の少なくとも一方を演算してよい。この場合、演算部は、船舶の航海条件を適宜変更することで、目標の指標のランクを満たすために、どのような船舶の航海条件を設定すればよいかの演算が可能になる。
【0009】
演算部は、所定期間における指標のランク情報を自動的に設定して、指標の値を演算してよい。これにより、演算部は、実現が可能な適切な指標のランク情報にて演算を行うことができる。
【0010】
演算部は、ユーザーによる目標の指標のランク情報を設定して、指標の値を演算してよい。これにより、演算部は、ユーザーの要求に応じた指標が実現可能かの判断を行うことができ、実現可能な場合は、実現するための航海条件を演算することができる。
【0011】
演算部は、船舶の航海条件として、第2の期間における船速を少なくとも含んで演算を行ってよい。この場合、演算部は、所望の指標のランクを実現するために、第2の期間においてどのような船速で航海を行えばよいかを演算することができる。
【0012】
演算部は、船舶の航海条件として、海象を複数のランクに分けた海象ランク情報を少なくとも含んで演算を行ってよい。海象ランクの違いによって船舶が航海を行う際の負荷が異なるため、海象はCO2排出量に影響を及ぼす航海条件である。従って、演算部が海象ランク情報を考慮して演算を行うことで、正確に指標の値を演算することができる。
【0013】
演算部は、航海条件として、季節情報を少なくとも含んで演算を行ってよい。季節の違いによって船舶が航海を行う際の負荷が異なるため、季節はCO2排出量に影響を及ぼす航海条件である。従って、演算部が季節情報を考慮して演算を行うことで、正確に指標の値を演算することができる。
【0014】
本発明に係る表示装置は、上述の船舶システムの演算結果、及び演算に用いる情報の少なくとも一方を表示する。
【0015】
本発明に係る表示装置によれば、ユーザーに対して、指標の値を演算するための情報や、演算結果を可視的に表示することができる。
【0016】
本発明に係る船舶プログラムは、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算ステップと、船舶の航海実績に関する実績情報を取得する情報取得ステップと、を備え、演算ステップでは、所定期間を単位時間として、当該所定期間における指標の値を演算し、所定期間が、始点から現在までの第1の期間、及び現在から終点までの第2の期間を有する場合、演算ステップでは、第2の期間を含む所定期間の指標の値を予測して演算する。
【0017】
本発明に係る船舶プログラムによれば、上述の船舶システムと同様な作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環境保全のための指標の値を予測することができる船舶システム、表示装置、及び船舶プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る船舶システムを示すブロック図である。
図2】船舶が航海している様子を示す概略図である。
図3】CIIのランク付けについて説明するための概念図である。
図4】演算部の演算モードを選択する画面を示す図である。
図5】表示装置が表示する画面の一例を示す図である。
図6】演算部の演算内容を説明するための概略図である。
図7】表示装置が表示する画面の一例を示す図である。
図8】演算部の演算内容を説明するための概略図である。
図9】表示装置が表示する画面の一例を示す図である。
図10】表示装置が表示する画面の一例を示す図である。
図11】表示装置が表示する画面の一例を示す図である。
図12】本発明の実施形態に係る船舶システムの処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る船舶システム100を示すブロック図である。船舶システム100は、船舶150(図2参照)に搭載されるシステムである。ただし、船舶システム100の一部、及び全部は必ずしも船上に設けられていなくともよく、陸上に設けられても良い。例えば、最低限のデータが船上から陸上に送信され、陸上で演算が行われてもよい。ここで、船舶システム100は、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算して、当該指標のランクを演算する。このような指標として、温室効果ガス削減のためにCII(Carbon Intensity Indicator)という規則に係る指標が採用される。
【0022】
CIIの指標及びランク付けについて、図3を参照しながら説明する。まず、各船舶について、CII指標ガイドラインに基づいたCII計算値の算出が行われる。船舶の種類に応じてCII計算値を算出するための計算方法が定められている。例えば、ばら積み貨物船、タンカー、コンテナ船、ガス船、LNG船、一般貨物船、冷凍運搬船、兼用船については、「CO排出量/(DWT×航海距離)」によって求められる。なお、DWTは、夏期最大満載喫水を示し、IEE証明書の「Supplement」の値が用いられる。クルーズ船、自動車運搬船、またはRO-PAXフェリーについては、「CO排出量/(総トン数×航海距離)」によって求められる。次に、CIIリファレンスライン(CII平均値)が求められる。CIIリファレンスラインは、「CIIref=a・Capacity-c」で求められる。なお、係数a及び係数cは、船舶の種類に応じて定められる値である。「Capacity」は、先に挙げたCII算出式中のDWT部分に採用される値である。
【0023】
次に、CII基準値が求められる。CII基準値は、「CII基準値=((100-Z)/100)×CIIref」で求められる。「Z」は、削減率(%)を示しており、船種ごとのCIIリファレンスラインからの削減率を示している。削減率(Z%)は、2023年から適用開始されて、5%だったものが2026年までは毎年2%ずつ加算され、その後も加算されることが、見込まれている。
【0024】
図3に示すように、CIIリファレンスラインからの削減率(Z%)によってCII基準値が定められる。このCII基準値を基準として、A~Eのランク付けがなされる。具体的には、CII基準値に対して各ランクの閾値d~dが設定され、閾値d~dに基づいてA~Eランクに分けられる。このようなCII基準値、及び各ランクの閾値d~dは、船舶の種類に応じて設定される。評価対象に係る船舶150についてのCII計算値を計算し、当該CII計算値と、CII基準値及び閾値d~dとを比較することで、評価対象に係る船舶150のランク情報を把握することができる。
【0025】
船舶システム100の構成について説明する。船舶システム100は、例えば、船舶に設けられる。ただし、船舶システム100の一部、及び全部は必ずしも船上に設けられていなくともよく、陸上に設けられても良い。図1に示すように、船舶システム100は、入力装置2と、表示装置3と、演算装置10と、を備える。
【0026】
入力装置2は、使用者が演算装置10に対して各種情報を入力するためのユーザインターフェースである。入力装置2は、キーボード、タッチパネル、マウス、マイクなどの入力器によって構成される。表示装置3は、演算装置10からの信号に基づいて、使用者に各種情報を表示するためのユーザインターフェースである。表示装置3は、モニタなどの出力器によって構成される。
【0027】
演算装置10は、航路評価を行うための各種演算を行う装置である。演算装置10は、プロセッサ、メモリ、ストレージ、通信インターフェースを備え、一般的なコンピュータとして構成されている。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)などの演算器である。メモリは、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体である。ストレージは、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶媒体である。通信インターフェースは、データ通信を実現する通信機器である。プロセッサは、メモリ、ストレージ、通信インターフェースを統括し、後述する演算装置10の機能を実現する。演算装置10では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。演算装置10は、複数のコンピュータから構成されていてもよい。演算装置10は、情報取得部11と、選択部12と、演算部13と、記憶部16と、を備える。
【0028】
情報取得部11は、環境保全のための数値的実績に基づく指標(上述のCII)に対するランク付けの基準値を取得する。情報取得部11は、船舶150の船種に基づいたCII基準値及び閾値d~dを取得する。また、情報取得部11は、演算部13の後述の演算に必要な各種情報を取得する。情報取得部11は、船舶150の航海実績に関する実績情報を取得する。また、情報取得部11は、船舶150の各種航海条件に関する情報を取得する。情報取得部11は、各種情報を入力装置2の入力情報から取得してもよく、記憶部16から取得してもよく、船舶150に搭載されているセンサから自動で取得してもよい。なお、情報取得部11によって取得される情報の更に詳細な説明については、後述する。
【0029】
選択部12は、演算部13による演算内容を選択する。ここで、表示装置3は、演算部13による演算内容を選択する画面として、図4に示すような画面を表示する。図5に示すように、画面では、少なくとも三つのタブが選択可能に表示されている。「Current CII」は、現在の指標(CII)に関係する値を演算すると共に、過去データと比較し、それらの内容を表示するモードである。「CII estimation from voyage」は、将来の航海の内容を入力して、指標(CII)を予測するモードである。「Voyage estimation from target rating」は、目標のCIIのランクから、あるべき将来の航海の内容を予測するモードである。選択部12は、三つのタブのうち、ユーザーによって指定されたタブに対応するモードを選択する。
【0030】
記憶部16は、船舶システム100における各種処理を行うための情報を記憶する。例えば、記憶部16は、各船種に対応するCII基準値及び閾値を記憶してよい。また、記憶部16は、船舶プログラムPを記憶している。
【0031】
演算部13は、環境保全のための数値的実績に基づく指標(CII)の値を演算する。演算部13は、所定期間を単位時間として、当該所定期間における指標の値を演算する。例えば、所定期間として「1年」という期間が設定される。なお、以降の説明においては、所定期間の始点を「1月1日」とし、所定期間の終点を「12月31日」とし、現在の所定期間のことを「今年」と称する場合がある。演算部13は、所定期間における指標の値を演算して、指標のランクを演算する。ただし、所定期間の長さは特に限定されず、任意に設定してよい。
【0032】
演算部13は、船舶150の航海条件から、指標の値、及び指標のランク情報の少なくとも一方を演算する。演算部13は、所定期間における指標のランクを自動的に設定して、指標の値を演算する。あるいは、演算部13は、ユーザーによる目標の指標のランクを設定して、指標の値を演算する。演算部13は、船舶150の航海条件として、第2の期間T2における船速を少なくとも含んで演算を行ってよい。演算部13は、船舶150の航海条件として、海象を複数のランクに分けた海象ランク情報(ビューフォートスケール)を少なくとも含んで演算を行ってよい。演算部13は、航海条件として、季節情報を少なくとも含んで演算を行ってよい。なお、演算部13は、その他にも多数の航海条件を設定して演算を行うが、他の航海条件については後述する。
【0033】
ここで、図2に示すように、所定期間は、始点から現在までの第1の期間T1、及び現在から終点までの第2の期間T2を有する場合がある。この状態は、今年分の航海が終了していないことにより、今年分の指標のランクが最終的に決定していない状態である。演算部13は、今年の残りの期間である第2の期間T2を含む所定期間の指標の値を予測して演算する。なお、去年以前については、一年分の全期間の航海実績のデータが存在しているため、各年における指標のランクを決定することができる。
【0034】
演算部13が「Current CII」(図4参照)のモードに係る演算を行う場合について説明する。この場合、表示装置3は、図5に示すような画面を表示する。当該モードでは、演算部13は、今年分の第1の期間T1の航海実績に基づいて、指標の値、及び指標のランクの途中経過を演算すると共に、過去データと共に可視化して表示装置3に表示する。画面の最上段の「CII」のグラフでは、2年前(二点鎖線)、1年前(破線)、及び今年(実線)の指標の値、及び指標のランクが時系列で表示されている。また、「Annual CO2 emission」のグラフでは、年間のCO2の排出量が示されている。「Annual Sailed distance」のグラフでは、年間の航海距離が示されている。「Final CII estimate from past year date」の表には、1年前、及び2年前を基準として、現在の指標の予測値、及び指標の予測ランクが記入される。当該表のうち、「Estimated final CII」には、過年度の対応日付と、最終値との比例で算出することによって求められた、期間の最終日の指標の値が記入される。「Estimated final CII rating」には、「Estimated final CII」の算出値から算出した、期間の最終日の時点での指標のランクが記入される。
【0035】
次に、演算部13が「CII estimation from voyage」(図4参照)のモードに係る演算を行う場合について説明する。例えば、演算部13は、将来の航海の内容として「船速を固定して航海する」という内容を設定して、第2の期間T2における指標(CII)を予測する。図6(a)に示すように、現在の船舶150が、現在位置CPにあるものとする。仮に、今年の航海を開始して200日が経過したとすると、「365-200=165日」が今年の残りの航海の日数となる。ここで、船速が早いほど航海距離当たりの燃料の消費量は増加するため、固定する船速が速いほど指標のランクは低下する。従って、演算部13を用いることにより、設定された指標のランクとするには、船速をどの値で固定して航海を行うべきかを演算して予測することができる。
【0036】
演算部13は、本日までの第1の期間T1におけるCOの排出量及び航海距離は把握している。従って、第2の期間T2の残りの日数にて、どの程度の排出量に抑えて、どの程度航海すれば、設定された指標のランクになるかを演算することができる。従って、演算部13は、複数の船速を準備して、各速度で第2の期間T2の日数を航海した場合の排出量を演算して指標の値を演算することで、各船速に対応した指標のランクを演算することができる。
【0037】
ここで、図6(b)に示すように、第2の期間T2の航海ルート(二点鎖線で示す)が分かっている場合、港PT2,PT3での停船時間が生じるため、当該停船時間以外の時間が航海時間となる。従って、演算部13は、停船時間及び航海時間を把握した上で指標の値を演算する。また、演算部13は、船舶150の航海条件として、海象を複数のランクに分けた海象ランク情報を少なくとも含んで演算を行う。海象とは、海で生じる現象のうち、船舶150の運転に影響を及ぼし得る因子である。例えば、海象情報として、風速、波の高さ、海流等が挙げられる。演算部13は、海象情報に基づいて海象を複数の海象ランクに分け、航海条件を海象ランクごとに分別する。海象ランクが高い航路(例えば風速が大きい航路など)を航海するとき、同じ船速でもCO2の排出量が異なる。また、演算部13は、各補機の燃費も考慮して指標の値を演算する。
【0038】
図7は、本モードにて演算部13が演算を行うときにおける表示装置3が表示する入力画面を示す。図7の「Sailing information」は、複数の船速に対応する、各種航海条件の情報を示す表である。なお、船速の列数は更に増加させてもよい。「Sailing time (day)」は航海日数を示し、初期入力は0で、可変な入力ボックスとなっている。「Loaded voyage rate (%)」は、積荷航海率を示し、初期入力は50であり、可変入力ボックスとなっている。「Ballast voyage rate (%)」は、バラスト航海率を示し、積荷航海率に応じて自動入力される。「Estimated BF scale」は、予想ビューフォートスケール(風力階級)を示し、初期入力はBF=0でとなっており、可変セレクトボックスとなっている。「Fuel type (M/E)」は燃料形式(主機)を示し、初期入力がHFOで、可変セレクトボックスとなっている。「Estimated A/E Fuel consumption (ton/day)」は、予想補機燃費を示し、初期入力はNavigation時の補機燃費で、可変入力ボックスとなっている。「Fuel type (A/E)」は、燃料形式(補機)を示し、初期入力はHFOで、可変セレクトボックスとなっている。
【0039】
図7の「Porting information」は、複数のケースに対応する、停泊情報を示す表である。なお、ケースの数は更に増加させてもよい。「Porting time (day)」は、停泊日数を示し、初期入力は0であり、可変入力ボックスである。「Estimated A/E Fuel consumption (ton/day)」は、予想補機燃費を示し、Case1の初期入力は停泊時のA/E燃費、Case2の初期入力はUnloading時のA/E燃費、Case3は0で、可変入力ボックスとなっている。「Fuel type (A/E)」は、燃料形式(補機)を示し、初期入力はHFOで、可変セレクトボックスとなっている。「Estimated Boiler Fuel consumption (ton/day)」は、予想Boiler(汽缶)燃費を示し、Case1の初期入力は停泊時のBoiler燃費、Case2の初期入力はUnloading時のBoiler燃費、Case3は0で、可変入力ボックスとなっている。「Fuel type(Boiler)」は、燃料形式(Boiler)を示し、初期入力はHFOで、可変セレクトボックスとなっている。図7の「FOC margin (%)」の表は、初期入力は5で、可変ボックスとなっている。
【0040】
演算部13は、図7に示す情報を入力情報として取得し、第2の期間T2における指標を演算する。まず、演算部13は、航海情報について、次の式(1)を計算して合算することで予測CO2排出量を演算する。

予測CO2排出量=
(Sailing time) x (Loaded voyage rate) x
(選択したBFでLoadedのPower curveから読み取る主機出力) x (FOC curveから読み取る選択した燃料のFOCR) x 24 x (選択した燃料のCO2換算係数)

(Sailing time) x (Ballast voyage rate) x
(選択したBFでBallastのPower curveから読み取る主機出力) x
(FOC curveから読み取る選択した燃料のFOCR) ) x 24 x (選択した燃料のCO2換算係数) …(1)
【0041】
また、演算部13は、停泊情報について、次の式(2)を計算して合算することで予測CO2排出量を演算する。

予測CO2排出量=
(Porting time) x (Estimated A/E Fuel consumption ) x 24 x 1000000 x(選択したA/E燃料のCO2換算係数)
+
(Porting time) x (Estimated Boiler Fuel consumption ) x 24 x 1000000x (選択したBoiler燃料のCO2換算係数) …(2)
【0042】
演算部13は、航海情報について、「(Sailing time) x (Ship speed) x 24」を計算して合算することで、予想航海距離を求める。これにより、次の式(3)を計算することで、第2の期間T2を含む期間全体の予想の指標の値を算出することができる。

予想CII=
((SailingCO2排出)+(PortingCO2排出)+(途中経過年間CO2排出))x(100%+FOCmargin)/
((途中経過年間航続距離)+(予想航海距離))/DWT …(3)
【0043】
次に、演算部13が「Voyage estimation from target rating」(図4参照)のモードに係る演算を行う場合について説明する。例えば、演算部13は、将来の航海の内容として「航海距離を固定して航海する」という内容を設定して、第2の期間T2における指標(CII)を予測する。図8に示すように、現在の船舶150が、現在位置CPにあるものとする。仮に、今年の航海を開始して300日が経過したとすると、「365-300=65日」が今年の残りの航海の日数となる。航路RTが決まっていた時の指標の値の予測を行う。つまり、演算部13は、第2の期間T2の65日間で航路RTを通って港PT4へ到着するための航海条件を設定して、指標の値及び指標のランクを演算する。このとき、演算部13は、目標の指標のランクがされているときに、当該ランクで航海することが可能かどうかの判断を行うとともに、そのときの船速を演算する。
【0044】
図9図11は、本モードにて演算部13が演算を行うときにおける表示装置3が表示する入力画面を示す。図9の「Target CII rating」は、目標の指標のランクを示し、初期入力はBであり、可変セレクトボックスとなっている。「Estimated future sailing distance in this year (NM)」は、今年の未来の予測航海距離を示し、初期入力は0であり、可変入力ボックスとなっている。「Loaded voyage rate (%)」は、積荷航海率を示し、初期入力は50で、可変入力ボックスとなっている。「Estimated BF scale」は、予測ビューフォートスケール(風力階級)を示し、初期入力はBF0(階級ランク0)であり、可変セレクトボックスとなっている。「Fuel type (M/E)」は、燃料形式(主機)を示し、初期入力はHFOで、可変セレクトボックスとなっている。「Estimated A/E Fuel consumption at sailing (ton/day)」は、予測補機燃費(停泊時)を示し、Case1の初期入力は停泊時の補機燃費で、可変入力ボックスとなっている。「Fuel type (A/E)」は、燃料形式(補機)を示し、初期入力はHFOで、可変セレクトボックスとなっている。「Estimated Boiler Fuel consumption at porting (ton/day)」は、予測Boiler(汽缶)燃費を示し、Case1の初期入力は停泊時のBoiler燃費で、可変入力ボックスとなっている。「Fuel type (Boiler)」は、燃料形式(Boiler)を示し、初期入力はHFOで、可変セレクトボックスとなっている。「FOC margin (%)」は燃費マージンを示し、初期入力は5で、可変入力ボックスとなっている。
【0045】
図9の入力画面で入力を終えて、「Calculation」のボタンを押すと、表示装置3は、図10に示す画面を表示する。上段側の表について、「Calculated date」は、計算実行日時を示す。「Estimated CIIvalue」は、予測最終CII(指標の値)を示す。「Estimated CII rating」は、予測最終CIIランク(指標のランク)を示す。「Current CII value」は、計算実行日時の途中CII(指標の値)を示す。「CurrentCII rating」は、計算実行日時の途中CIIランク(指標のランク)を示す。
【0046】
図10の下段側の表は、CIIのランク(指標のランク)に対応して、「CII boundary」に各ランクの閾値を示している。CIIのランクAの閾値は、計算実行日時におけるランクAとランクBの境のCIIとなる。CIIのランクBの閾値は、計算実行日時におけるランクBとランクCの境のCIIとなる。CIIのランクCの閾値は、計算実行日時におけるランクCとランクDの境のCIIとなる。CIIのランクCの閾値は、計算実行日時におけるランクCとランクDの境のCIIとなる。CIIのランクDの閾値は、計算実行日時におけるランクDとランクEの境のCIIとなる。
【0047】
演算部13は、目標CIIランクから逆算することによって目標CIIの値を演算する。演算部13は、現状の航海距離と想定航海距離から、逆算によって排出可能CO2量を式(4)によって求める。

排出可能CO2量= (目標CII x DWT x((現状年間航回距離)+(これからの航海距離)) - (現状の年間CO2排出量)) / (100%+FOCmargin) …(4)
【0048】
演算部13は、以下の式(5)から逆算することで、予測船速を演算する。演算部13は、厳密階を求めることが難しい場合、近似解を求める。演算部13は、解を求めることができない場合は、不可能であると判定する。

排出可能CO2量 =
(これからの航海距離/Ship speed/24) x (Loaded voyagerate) x
(選択したBFでLoadedのPower curveからShip speedベースで読み取る主機出力) x
(FOC curveから読み取る選択した燃料のFOCR) x 24 x (選択した燃料のCO2換算係数)
+
(これからの航海距離/Ship speed/24) x (Ballast voyagerate) x
(選択したBFでBallastのPower curveからShip speedベースで読み取る主機出力) x
(FOC curveから読み取る選択した燃料のFOCR) ) x 24 x (選択した燃料のCO2換算係数)
+
(残存期間-これからの航海距離/Shipspeed/24) x (Estimated A/E Fuel consumption ) x 24 x 1000000 x (選択したA/E燃料のCO2換算係数)
+
(残存期間-これからの航海距離/Shipspeed/24) x (Estimated Boiler Fuel consumption ) x 24 x 1000000 x (選択したBoiler燃料のCO2換算係数) …(5)
【0049】
図9の入力画面で入力を終えて、「Calculation」のボタンを押すと、表示装置3は、上記式(4)(5)の演算結果として、図11に示す画面を表示する。「Calculated date」は、計算実行日時を示す。「Possibility」は、演算の可能性を示し、演算が可能であったか不可能であったかが示される。「Estimated Ship Speed」は、予測船速を示す。「Sailing time」は、航海日時を示し、残り期間のうち、航海している日数を示す。「Porting time」は、停泊日時を示し、残り期間のうち、停泊している日数を示す。「CurrentCII value」は、計算実行日時の途中CIIを示す。「Current CII rating」は、計算実行日時の途中CIIランクを示す。
【0050】
次に、図12を参照して、本実施形態に係る船舶システム、及び船舶プログラムPの内容について説明する。図12に示す処理内容は、コンピュータに船舶プログラムPを実行させることによって実施される。図12は、本実施形態に係る船舶システム100の処理内容を示すフローチャートである。図12に示すように、表示装置3は、ユーザーが各種情報を入力するための画面を表示する(ステップS10)。情報取得部11は、指標の値、指標のランクを演算するための各種情報を取得する(ステップS20:情報取得ステップ)。情報取得部11は、入力画面で入力された情報を取得してもよく、記憶部16に記憶されている情報を取得してよい。次に、演算部13は、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する(ステップS30:演算ステップ)。演算ステップS30では、第2の期間T2の指標の値を予測して演算する。次に、表示装置3は、演算結果を表示する(ステップS40)。以上により、図12に示す処理が終了する。
【0051】
次に、本実施形態に係る船舶システム100、表示装置3、及び船舶プログラムPの作用・効果について説明する。
【0052】
本実施形態に係る船舶システム100は、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算部13と、船舶150の航海実績に関する実績情報を取得する情報取得部11と、を備え、演算部13は、所定期間を単位時間として、当該所定期間における指標の値を演算し、所定期間が、始点から現在までの第1の期間T1、及び現在から終点までの第2の期間T2を有する場合、演算部13は、第2の期間T2を含む所定期間の指標の値を予測して演算する。
【0053】
船舶システム100は、船舶150の航海実績に関する実績情報を取得する情報取得部11を備えており、且つ、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算部13を備えている。従って、演算部13は、過去の航海実績に基づいて、環境保全のための指標の値を演算することができる。ここで、所定期間が、始点から現在までの第1の期間T1、及び現在から終点までの第2の期間T2を有する場合、演算部13は、第2の期間T2を含む所定期間の指標の値を予測して演算する。このように、演算部13は、指標の値の演算を行う所定期間のうち、未来の部分である第2の期間T2については、指標の値を予測して演算することで、今回分の所定期間の指標の値を予測することができる。以上より、環境保全のための指標の値を予測することができる。
【0054】
演算部13は、船舶150の航海条件から、指標の値、及び指標のランク情報の少なくとも一方を演算してよい。この場合、演算部13は、船舶の航海条件を適宜変更することで、目標の指標のランクを満たすために、どのような船舶の航海条件を設定すればよいかの演算が可能になる。
【0055】
演算部13は、所定期間における指標のランク情報を自動的に設定して、指標の値を演算してよい。これにより、演算部13は、実現が可能な適切な指標のランク情報にて演算を行うことができる。
【0056】
演算部13は、ユーザーによる目標の指標のランク情報を設定して、指標の値を演算してよい。これにより、演算部13は、ユーザーの要求に応じた指標が実現可能かの判断を行うことができ、実現可能な場合は、実現するための航海条件を演算することができる。
【0057】
演算部13は、船舶150の航海条件として、第2の期間T2における船速を少なくとも含んで演算を行ってよい。この場合、演算部13は、所望の指標のランクを実現するために、第2の期間T2においてどのような船速で航海を行えばよいかを演算することができる。
【0058】
演算部13は、船舶150の航海条件として、海象を複数のランクに分けた海象ランク情報を少なくとも含んで演算を行ってよい。海象ランクの違いによって船舶150が航海を行う際の負荷が異なるため、海象はCO2排出量に影響を及ぼす航海条件である。従って、演算部13が海象ランク情報を考慮して演算を行うことで、正確に指標の値を演算することができる。
【0059】
演算部13は、航海条件として、季節情報を少なくとも含んで演算を行ってよい。季節の違いによって船舶150が航海を行う際の負荷が異なるため、季節はCO2排出量に影響を及ぼす航海条件である。従って、演算部13が季節情報を考慮して演算を行うことで、正確に指標の値を演算することができる。
【0060】
本実施形態に係る表示装置3は、上述の船舶システム100の演算結果、及び演算に用いる情報の少なくとも一方を表示する。
【0061】
本実施形態に係る表示装置3によれば、ユーザーに対して、指標の値を演算するための情報や、演算結果を可視的に表示することができる。
【0062】
本実施形態に係る船舶プログラムPは、環境保全のための数値的実績に基づく指標の値を演算する演算ステップS30と、船舶150の航海実績に関する実績情報を取得する情報取得ステップS20と、を備え、演算ステップS30では、所定期間を単位時間として、当該所定期間における指標の値を演算し、所定期間が、始点から現在までの第1の期間、及び現在から終点までの第2の期間を有する場合、演算ステップS30では、第2の期間T2を含む所定期間の指標の値を予測して演算する。
【0063】
本発明に係る船舶プログラムPによれば、上述の船舶システムと同様な作用・効果を得ることができる。
【0064】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。
【0065】
例えば、図5図11において、表示装置3による表示内容や、航路の一例について説明したが、これらは一例に過ぎず、適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0066】
11…情報取得部、13…演算部、100…船舶システム、P…船舶プログラム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12