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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100436
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】タイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20230711BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20230711BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C33/10
B29C35/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001119
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有二
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AB02
4F202AB03
4F202AH20
4F202AM32
4F202AR06
4F202AR20
4F202CA21
4F202CB01
4F202CU07
4F202CY12
4F202CY21
4F203AA45
4F203AB02
4F203AB03
4F203AH20
4F203AR20
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC01
4F203DK02
(57)【要約】
【課題】 スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することを可能にしたタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】 タイヤ外表面を成形する成形面31と、該成形面31に開口するベントホール32とを備えたタイヤ加硫金型10を使用し、該タイヤ加硫金型10の内側に未加硫状態のタイヤTを投入し、該タイヤTを成形面31に向かって加圧しながら加硫することでタイヤTを製造する方法において、タイヤTの外表面のうちベントホール32に接する部位のみを局所的に予加硫し、その後、タイヤTを全体的に本加硫する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ外表面を成形する成形面と、該成形面に開口するベントホールとを備えたタイヤ加硫金型を使用し、該タイヤ加硫金型の内側に未加硫状態のタイヤを投入し、該タイヤを前記成形面に向かって加圧しながら加硫することでタイヤを製造する方法において、
前記タイヤの外表面のうち前記ベントホールに接する部位のみを局所的に予加硫し、その後、前記タイヤを全体的に本加硫することを特徴とするタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記予加硫の加硫度を前記本加硫の加硫度よりも低くすることを特徴とする請求項1に記載のタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記予加硫の加硫度をT30以下にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記タイヤの少なくとも一部を構成するゴム組成物に発泡剤を配合することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記予加硫時の最高加熱温度を前記発泡剤の発泡開始温度以下にすることを特徴とする請求項4に記載のタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベントホールを備えたタイヤ加硫金型を用いたタイヤの製造方法に関し、更に詳しくは、スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することを可能にしたタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの製造工程においては、タイヤ加硫金型の内側に未加硫状態のタイヤを投入し、そのタイヤをブラダーにより内側から加圧しながら加熱することにより、タイヤの加硫を行っている。その際、タイヤ加硫金型の成形面と未加硫タイヤとの間にエアが残っていると、その残留エアに起因してタイヤ表面故障が発生する。このようなタイヤ表面故障を防止するために、タイヤ加硫金型には成形面に開口するエア抜き用の多数のベントホールが設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、加硫時にベントホール内に形成されたスピュー(髭状のゴム片)の少なくとも一部が離型時にベントホール内に残存し、ベントホールに目詰まりを生じると、次の加硫においてベントホールによるエア抜きを行うことができず、その部分にタイヤ表面故障が生じることになる。また、スピューによるベントホールの目詰まりが発生した場合、ベントホールを掃除するためにタイヤの生産を一時的に停止する必要があり、このことはタイヤの生産性を大幅に低下させる要因となる。
【0004】
ところで、空気入りタイヤにおいて、例えばトレッド部を構成するゴム組成物に発泡剤を配合し、この発泡剤により発泡構造を形成することが提案されている(例えば、特許文献2~4参照)。このような発泡剤を含むゴム組成物は発泡剤を含まない場合に比べて破断強度が低下する。そのため、スピューによるベントホールの目詰まりは発泡剤を含むゴム組成物を用いた場合に顕在化する傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-139830号公報
【特許文献2】特許第3542414号公報
【特許文献3】特許第4289508号公報
【特許文献4】特許第6012261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することを可能にしたタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明のタイヤの製造方法は、タイヤ外表面を成形する成形面と、該成形面に開口するベントホールとを備えたタイヤ加硫金型を使用し、該タイヤ加硫金型の内側に未加硫状態のタイヤを投入し、該タイヤを前記成形面に向かって加圧しながら加硫することでタイヤを製造する方法において、
前記タイヤの外表面のうち前記ベントホールに接する部位のみを局所的に予加硫し、その後、前記タイヤを全体的に本加硫することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明者は、ベントホールを備えたタイヤ加硫金型を用いたタイヤの製造方法について鋭意研究した結果、このようなタイヤ加硫金型を用いて加硫を繰り返し行う場合、ベントホール内に形成されるスピューの先端部付近に汚れが徐々に堆積し、その堆積物に起因してスピューの先端部が破断するという現象を認識した。また、スピューの物性について調査したところ、ベントホール内ではスピューの根元側から先端部側に向かって徐々に圧力が低下し、スピューの先端部は大気圧に近い状態で加熱されるため発泡が顕著に生じることを知見した。そして、スピューの先端部では、ゴムの密度が低下し、破断強度も低下し、このことが汚れの堆積やスピューの破断を生じ易くすることを知見した。本発明者は、このような状況に鑑みて、スピューの先端部におけるゴムの発泡を最小限に抑制することでベントホールの目詰まりを効果的に抑制可能であることを知見し、本発明に至ったのである。
【0009】
即ち、本発明では、タイヤ外表面を成形する成形面と、該成形面に開口するベントホールとを備えたタイヤ加硫金型を用いたタイヤの製造方法において、タイヤの外表面のうちベントホールに接する部位のみを局所的に予加硫し、その後、タイヤを全体的に本加硫するので、スピューの先端部におけるゴムの発泡を最小限に抑制することができる。そのため、ベントホール内に形成されるスピューの先端部付近に汚れが堆積することを防止し、そのような堆積物に起因するスピューの先端部の破断を防止することができる。これにより、スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することができる。その結果、残留エアに起因するタイヤ表面故障を防止すると共に、ベントホールの清掃頻度を低減してタイヤの生産性を改善するという優れた効果を得ることができる。
【0010】
本発明において、予加硫の加硫度を本加硫の加硫度よりも低くすることが好ましい。特に、予加硫の加硫度をT30以下にすることが好ましい。これにより、スピューの先端部におけるゴムの発泡を抑制する一方で、ゴムの流動性を確保することができる。
【0011】
また、タイヤの少なくとも一部を構成するゴム組成物に発泡剤を配合する場合においても、スピューの先端部におけるゴムの発泡を抑制することができる。発泡剤を使用する場合、予加硫時の最高加熱温度を発泡剤の発泡開始温度以下にすることが好ましい。これにより、予加硫時における発泡剤の発泡を回避しながら、タイヤ外表面のうちベントホールに接する部位の加硫を進行させ、スピューの先端部におけるゴムの発泡を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明で使用されるタイヤ加硫装置を示す子午線断面図である。
図2】タイヤ加硫金型のベントホール内に形成されるスピューを示す断面図である。
図3】本発明に係るタイヤの製造方法におけるベントホール部分を示し、(a)は予加硫工程を示し、(b)は本加硫工程を示す断面図である。
図4】本発明に係るタイヤの製造方法においてスピュー先端部に存在する発泡剤を示し、(a)は加圧前の状態、(b)は加熱及び加圧開始時の状態、(c)は架橋時の状態、(d)は除圧時の状態を示す説明図である。
図5】従来のベントホール内に形成されるスピューを示す断面図である。
図6】従来のベントホールにおける目詰まりの発生メカニズムを示し、(a)~(c)は各段階でのベントホールの状態を示す断面図である。
図7】従来のタイヤの製造方法においてスピュー先端部以外の部位に存在する発泡剤を示し、(a)は加圧前の状態、(b)は加熱及び加圧の開始時の状態、(c)は架橋時の状態、(d)は除圧時の状態を示す説明図である。
図8】従来のタイヤの製造方法においてスピュー先端部に存在する発泡剤を示し、(a)は加圧前の状態、(b)は加熱及び加圧の開始時の状態、(c)は架橋時の状態、(d)は除圧時の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明で使用されるタイヤ加硫装置を示し、図2はタイヤ加硫金型のベントホール内に形成されるスピューを示し、図3(a)、(b)は本発明に係るタイヤの製造方法におけるベントホール部分を示すものである。
【0014】
図1に示すように、このタイヤ加硫装置は、空気入りタイヤTの外表面を成形するタイヤ加硫金型(以下、「金型」と称す)10と、空気入りタイヤTの内側に挿入される筒状のブラダー20とを備えている。また、このタイヤ加硫装置は、該ブラダー20の内側にスチーム等の加熱加圧媒体を供給するための加熱加圧媒体供給手段(不図示)や、金型10を加熱するための加熱手段(不図示)を備えている。
【0015】
金型10は、空気入りタイヤTのサイドウォール部を成形するための下側サイドプレート11及び上側サイドプレート12と、空気入りタイヤTのビード部を成形するための下側ビードリング13及び上側ビードリング14と、空気入りタイヤTのトレッド部を成形するための複数のセクター15とから構成され、その金型10の内側で空気入りタイヤTを加硫成形するようになっている。なお、金型10の構造は特に限定されるものではなく、図示のようなセクショナルタイプのモールドのほか、二つ割りタイプのモールドを使用することも可能である。
【0016】
ブラダー20は、その下端部が下側ビードリング13と下側クランプリング21との間に把持され、その上端部が上側クランプリング22と補助リング23との間に把持されている。図1に示すような加硫状態において、ブラダー20は空気入りタイヤTの径方向外側に向かって拡張した状態にあるが、加硫後に空気入りタイヤTを金型10内から取り出す際には上側クランプリング22が上方に移動し、それに伴ってブラダー20が空気入りタイヤTの内側から抜き取られるようになっている。
【0017】
上述したタイヤ加硫装置において、図1に示すように、金型10は、タイヤ外表面を成形する成形面31と、該成形面31に開口するベントホール32とを備えている。ベントホール32は、一端が成形面31に開口する一方で、他端が金型10の外部に連通している。図1においては、ベントホール32が金型10を構成するセクター15に形成される構造を描写しているが、ベントホール32は下側サイドプレート11、上側サイドプレート12、下側ビードリング13又は上側ビードリング14に形成することも可能であり、金型10の全体において多数のベントホール32を配設することが可能である。
【0018】
上述したタイヤ加硫装置を用いて空気入りタイヤTを加硫する場合、金型10の内側に未加硫状態の空気入りタイヤTを投入し、その空気入りタイヤTの内側にブラダー20を挿入し、ブラダー20内に加熱加圧媒体を導入する一方で金型10を外側から加熱することにより、空気入りタイヤTを成形面31に向かって加圧しながら該空気入りタイヤTの加硫を行う。
【0019】
このような加硫工程において、金型10の成形面31と未加硫状態の空気入りタイヤTとの間に残留するエアはベントホール32を介して金型10の外部に排出される。そして、空気入りタイヤTを構成する未加硫ゴムがベントホール32内に侵入し、図2に示すように、ベントホール32内にスピューSが形成される。加硫済の空気入りタイヤTが金型10から取り外される際に、スピューSはベントホール32から引き抜かれる。そして、スピューSは必要に応じて切除される。
【0020】
ここで、図5及び図6(a)~(c)を用いて、従来のベントホールにおける目詰まりの発生メカニズムについて詳しく説明する。本発明者の知見によれば、図5に示すように、従来のベントホール32内では、スピューSの根元側から先端部側に向かって徐々に圧力が低下し、スピューSの先端部は大気圧に近い状態で加熱されるため発泡が生じる。このような発泡はゴムに含まれる発泡剤のみならず水分等にも起因する。その結果、スピューSの先端部では、ゴムの密度が低下し、破断強度も低下し、このことが汚れの堆積やスピューSの破断を生じ易くする要因となる。
【0021】
このような状況において加硫工程を繰り返し行うと、図6(a)に示すように、金型10のベントホール32内に形成されるスピューSの先端部付近に汚れが堆積し、堆積物Xが徐々に成長する。次いで、図6(b)に示すように、加硫時にベントホール32内に未加硫ゴムGが進入し、それが堆積物Xを越える位置まで到達する。そして、図6(c)に示すように、加硫後にスピューSが引き抜かれた際に、堆積物Xと一体化したスピューSの先端部が千切れてベントホール32を閉塞する。
【0022】
図7(a)~(d)は従来のタイヤの製造方法においてスピュー先端部以外の部位に存在する発泡剤を示すものである。スピューSの先端部以外の部位では、図7(a)に示すように金型内での加圧前において発泡剤34が未発泡の状態にあり、図7(b)に示すように加熱及び加圧の開始により発泡剤34が高圧下で小さく発泡し、図7(c)に示すように架橋時においては小さく発泡した発泡剤34を取り囲むゴム分子鎖35に多数の架橋点36が形成されて流動性が無くなり、図7(d)に示すように除圧時には発泡剤34が周りの架橋されたゴム分子鎖35の剛性と釣り合うところまで更に膨張し、その外径がD1となる。
【0023】
一方、図8(a)~(d)は従来のタイヤの製造方法においてスピュー先端部に存在する発泡剤を示すものである。スピューSの先端部では、図8(a)に示すように金型内での加圧前において発泡剤34が未発泡の状態にあり、図8(b)に示すように加熱及び加圧の開始により発泡剤34が低圧下で大きく発泡し、図8(c)に示すように架橋時においては大きく膨らんだ発泡剤34を取り囲むゴム分子鎖35に多数の架橋点36が形成されて流動性が無くなり、図8(d)に示すように除圧時には発泡剤34が周りの架橋されたゴム分子鎖35の剛性と釣り合うところまで更に膨張し、その外径がD2となる。スピューSの先端部では大きく膨らんだ発泡剤34の周りでゴム分子鎖35に架橋点36が形成されるため、スピューSの先端部において膨らんだ発泡剤34の外径D2はスピューSの先端部以外の部位で膨らんだ発泡剤34の外径D1よりも大きくなる。その結果、スピューSの先端部では汚れの堆積やスピューSの破断を生じ易くなるのである。
【0024】
そこで、本発明では、タイヤ外表面を成形する成形面31と、該成形面31に開口するベントホール32とを備えたタイヤ加硫金型10を使用し、該タイヤ加硫金型10の内側に未加硫状態の空気入りタイヤTを投入し、該空気入りタイヤTを成形面31に向かって加圧しながら加硫することで空気入りタイヤTを製造する方法において、図3(a)に示すように、空気入りタイヤTの外表面のうちベントホール32に接する部位のみを局所的に予加硫する。図3(a)において、矢印にて示された部位が予加硫された部分である。予加硫の方法は、局所的な加硫を進行させ得るものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ベントホール32からタイヤ外表面の局所に向かって温風を吹き出すこと、加熱された棒状体(ピン)をタイヤ外表面の局所に当接させること、電子線をタイヤ外表面の局所に当てること、或いは、超音波振動子をタイヤ外表面の局所に当接させることなどが挙げられる。
【0025】
上述した予加硫を行った後、空気入りタイヤTに対して本加硫を行う。この場合、図3(b)に示すように、ベントホール32内に形成されるスピューSには、予加硫によって加硫が進行した予加硫層33が形成される。そのため、空気入りタイヤTの少なくとも一部(例えば、トレッド部)を構成するゴム組成物に発泡剤34が配合されている場合、その発泡剤34が発泡しようとしても、予加硫層33の存在により発泡剤34の膨張が抑制されることになる。これにより、スピューSの先端部におけるゴムの発泡を最小限に抑制することができる。そのため、ベントホール32内に形成されるスピューSの先端部付近に汚れが堆積することを防止し、その堆積物Xに起因するスピューSの先端部の破断を防止することができる。これにより、発泡剤34を含まないゴム組成物を用いる場合のみならず、発泡剤34を含むゴム組成物を用いる場合であっても、スピューSによるベントホール32の目詰まりを効果的に抑制することができる。その結果、残留エアに起因するタイヤ表面故障を防止すると共に、ベントホール32の清掃頻度を低減して空気入りタイヤTの生産性を改善することができる。
【0026】
図4(a)~(d)は本発明に係るタイヤの製造方法においてスピュー先端部に存在する発泡剤を示すものである。スピューSの先端部では、図4(a)に示すように本加圧前において発泡剤34は未発泡の状態にあるが、予加硫によって発泡剤34の周りのゴム分子鎖35には多数の架橋点36が形成されて流動性が低下している。次に、図4(b)に示すように本加硫のための加熱及び加圧の開始により発泡剤34は低圧下で発泡することになるが、周りの架橋されたゴム分子鎖35により発泡剤34の発泡が抑制され、図4(c)に示すように架橋時にはゴム分子鎖35の架橋点36が増加して流動性がなくなり、図4(d)に示すように除圧時には発泡剤34が周りの架橋されたゴム分子鎖35の剛性と釣り合うところまで更に膨張し、その外径がDとなる。この外径Dは従来における外径D2よりも小さいものとなる。つまり、発泡剤34の発泡前にその周りのゴム分子鎖35が架橋されているため、発泡剤34がスピューSの先端部に存在する場合であっても、従来のように過度に発泡しないのである。
【0027】
本発明において、予加硫の加硫度を本加硫の加硫度よりも低くすると良い。特に、予加硫の加硫度をT30以下、好ましくは、T10~T30の範囲にすると良い。これにより、スピューSの先端部におけるゴムの発泡を抑制する一方で、ゴムの流動性を確保することができる。ここで言う加硫度とは、JIS-K6300-2に規定される加硫曲線の解析により求められる加硫時間であり、T10~T30とは加硫試験機により測定されるトルクの最大値の10%~30%となる加硫時間を意味するものである。
【0028】
また、空気入りタイヤTの少なくとも一部を構成するゴム組成物に発泡剤34を配合する場合、予加硫時の最高加熱温度は発泡剤34の発泡開始温度以下にすると良い。これにより、予加硫時における発泡剤34の発泡を回避しながら、タイヤ外表面のうちベントホール32に接する部位の加硫を進行させ、スピューSの先端部におけるゴムの発泡を効果的に抑制することができる。予加硫時の最高加熱温度は例えば130℃~150℃に設定し、予加硫時間は例えば60秒~400秒に設定することができる。
【0029】
上述した方法において、予加硫層33の厚さは特に限定されるものではないが、例えば1mm以下とすることが好適である。少なくともスピューSの表層の加硫度を高めることにより、ベントホール32内に形成されるスピューSの先端部付近に汚れが堆積するのを抑制することができる。また、空気入りタイヤTの外表面のうちベントホール32に接する部位(即ち、予加硫の対象となる部位)は、成形面31におけるベントホール32の開口面積の2倍以下とすることが好ましい。このように予加硫の対象となる部位の大きさを規制することにより、ベントホール32から外れた部位におけるゴムの流動性を良好に確保することができる。
【0030】
以下、本発明で使用される発泡剤について説明する。このような発泡剤としては、熱膨張性のマイクロカプセルを用いることができる。熱膨張性のマイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成を有するものである。未加硫タイヤの加硫時にゴム組成物中のマイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、ゴム組成物中に多数の樹脂被覆気泡を形成する。このような発泡剤は、殻材と熱膨張性物質の組合せにより、所望の発泡倍率を発現することができる。発泡剤の配合により、例えば、スタッドレスタイヤにおいては、氷の表面に発生する水膜を効率的に吸収除去すると共に、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上摩擦力を改善することができる。発泡剤の配合量は、ゴム100重量部に対して、例えば1重量部~30重量部の範囲で選択することができる。
【0031】
殻材を形成する熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ニトリル系単量体(I)を主成分とし、分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)及び2以上の重合性二重結合を有する単量体(III)から共重合することができる。また、膨張特性を調整するために、必要に応じて、共重合可能な単量体(IV)を加えてもよい。
【0032】
ニトリル系単量体(I)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル等及びこれらの混合物が例示される。特に、アクリロニトリル及び/ 又はメタクリロニトリルが好ましい。単量体(I)の共重合比は、好ましくは35~95重量%、より好ましくは45~90重量%にすると良い。
【0033】
分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)としては、例えば、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等及びこれらの混合物が例示される。単量体(II)の共重合比は、好ましくは4~60重量%、より好ましくは10~50重量%にすると良い。
【0034】
2以上の重合性二重結合を有するモノマー(III)としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ジビニル化合物、メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が200のポリエチレングリコール(PEG#200)ジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が400のポリエチレングリコール(PEG#400)ジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等及びこれらの混合物が例示される。単量体(III)の共重合比は、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.2~3重量%にすると良い。
【0035】
共重合可能な単量体(IV)は膨張特性を調整するために追加して共重合しても良く、共重合可能な単量体(IV)としては、例えば、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ) アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、スチレンスルホン酸またはそのナトリウム塩、α-メチルスチレン、クロロスチレンなどスチレン系モノマー、アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミドなどを例示することができる。単量体(IV)は任意成分であり、これを添加するときは、共重合比は、好ましくは0.05~20重量%、より好ましくは1~15重量%にすると良い。
【0036】
殻材中に内包する熱膨張性物質は、熱によって気化又は膨張する特性を有するものである。このような熱膨張性物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、イソアルカン、ノルマルアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示される。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2-メチルペンタン、2-メチルヘキサン、2,2,4-トリメチルペンタン等を挙げることができ、ノルマルアルカンとしては、n-ブタン、n-プロパン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等を挙げることができる。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組合わせて使用しても良い。
【実施例0037】
タイヤ外表面を成形する成形面と、該成形面に開口するベントホールとを備えたタイヤ加硫金型を使用し、該タイヤ加硫金型の内側に未加硫状態の空気入りタイヤを投入し、該空気入りタイヤを成形面に向かって加圧しながら加硫することにより、空気入りタイヤを製造するにあたって、予加硫工程の有無だけを異ならせて空気入りタイヤを製造した。なお、空気入りタイヤのトレッド部を構成するゴム組成物には発泡剤を配合した。
【0038】
従来例では、タイヤ加硫金型の内側に未加硫状態の空気入りタイヤを投入し、そのまま本加硫工程を実施した。実施例では、タイヤ加硫金型の内側に未加硫状態の空気入りタイヤを投入し、タイヤ外表面のうちベントホールに接する部位のみを局所的に予加硫した後、本加硫工程を実施した。
【0039】
上述したタイヤ加硫金型を用いて空気入りタイヤの加硫を繰り返し行い、ベントホールの目詰まりが発生するまでの加硫回数を調べ、その結果を表1に示した。加硫回数は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどベントホールの目詰まりが少ないことを意味する。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から判るように、実施例の方法では、従来例との対比において、スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することができた。
【符号の説明】
【0042】
10 タイヤ加硫金型
20 ブラダー
31 成形面
32 ベントホール
33 予加硫層
34 発泡剤
35 ゴム分子鎖
36 架橋点
T 空気入りタイヤ
S スピュー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8