(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100439
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、及び、硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/32 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
C08G59/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001124
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 侑太郎
(72)【発明者】
【氏名】森永 邦裕
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AC02
4J036AC05
4J036DD05
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】本発明は、速硬化性と保存安定性の両立を図ることができ、取り扱い性や
作業性に優れたエポキシ樹脂を提供する。
【解決手段】本発明は、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンとエピハロヒドリンとの反応生成物であるエポキシ樹脂であって、前記エポキシ樹脂が、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン、及び、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンに由来する2つの隣接酸素原子を構成原子として含む環状構造を有する環状化合物を含み、前記環状化合物の含有量が、前記エポキシ樹脂100gに対して、0.040mol未満であるエポキシ樹脂に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2,3-トリヒドロキシベンゼンとエピハロヒドリンとの反応生成物であるエポキシ樹脂であって、
前記エポキシ樹脂が、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン、及び、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンに由来する2つの隣接酸素原子を構成原子として含む環状構造を有する環状化合物を含み、
前記環状化合物の含有量が、前記エポキシ樹脂100gに対して、0.040mol未満であるエポキシ樹脂。
【請求項2】
オリゴマーをさらに含み、
前記オリゴマーの含有量が、GPC測定における面積比率で10%以下である請求項1に記載のエポキシ樹脂。
【請求項3】
前記1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼンの含有量が、GPC測定における面積比率で80%以上である請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂。
【請求項4】
エポキシ当量が、120g/当量以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、およびこれを含むエポキシ樹脂組成物、並びに前記エポキシ樹脂組成物を用いた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、一般の構造用金属材料に比べ、軽量かつ高強度・高剛性であり、電気的特性や耐腐食性にも優れる高性能な材料である。
【0003】
また、近年、二酸化炭素排出量の低減が求められている航空機や自動車等のモビリティー分野を中心に、金属材料の代替としてCFRPの需要が拡大している。
【0004】
CFRPの製造工程においても、環境への負荷低減やコスト低減を目的として、生産効率の向上が検討されているが、中でも、マトリックス樹脂(例えば、エポキシ樹脂)には、硬化時間の短縮と硬化温度の低減として、速硬化性が必要となる。
【0005】
但し、マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂と共に、硬化剤を混合したエポキシ樹脂組成物を使用する場合、その組成物の保存期間中に反応が進行してしまい、ポットライフが短くなり、保存安定性や取り扱い性の問題を含んでいた。これらの問題を改善するため、エポキシ樹脂として、高純度化したビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用することで、保存安定性の改善が試みられていた(特許文献1)。
【0006】
また、液状のエポキシ樹脂を使用することで、取り扱い性に優れたエポキシ樹脂を得るために、前記エポキシ樹脂の合成時に生成する副生成物を一定の割合で含有するエポキシ樹脂や前記エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58-128757号公報
【特許文献2】特許第6590126号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1では、近年、要求される速硬化性と保存安定性までは満足できるものではなく、特に、マトリックス樹脂を用いたプリプレグ用途等では、速硬化性と、保管中などの保存安定性の両立が強く望まれているが、速硬化性と保存安定性は一般に相反関係にあるため、これらの両立を達成できていない状況である。また、特許文献2においては、液状のエポキシ樹脂を使用することで、取り扱い性に優れるエポキシ樹脂組成物を得られたが、液状のエポキシ樹脂中に副生成物である環状化合物の含有割合を高く設定する必要があったため、副生成物に起因する副反応が進行し、保存安定性を十分に満足するエポキシ樹脂組成物まで得られるには至らなかった。
【0009】
そこで、本発明は、速硬化性と保存安定性の両立を図ることができ、取り扱い性や作業性に優れたエポキシ樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンを用いて得られるエポキシ樹脂、及び、前記エポキシ樹脂に含まれる副生成物の含有量に着目し、前記副生成物の含有量を制御することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンとエピハロヒドリンとの反応生成物であるエポキシ樹脂であって、前記エポキシ樹脂が、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン、及び、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンに由来する2つの隣接酸素原子を構成原子として含む環状構造を有する環状化合物を含み、前記環状化合物の含有量が、前記エポキシ樹脂100gに対して、0.040mol未満であるエポキシ樹脂に関する。
【0012】
本発明のエポキシ樹脂は、オリゴマーをさらに含み、前記オリゴマーの含有量が、GPC測定における面積比率で10%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のエポキシ樹脂は、前記1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼンの含有量が、GPC測定における面積比率で80%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂は、エポキシ当量が、120g/当量以下であることが好ましい。
【0015】
本発明は、前記エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物に関する。
【0016】
本発明は、前記エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエポキシ樹脂を用いることで、速硬化性と保存安定性の両立を図ることができ、取り扱い性や作業性にも優れ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】合成例1(未精製品)で製造したエポキシ樹脂のGPCチャートである。
【
図2】合成例2(精製品)で製造したエポキシ樹脂のGPCチャートである。
【
図3】合成例1(未精製品)で製造したエポキシ樹脂の
13C-NMRチャートである。
【
図4】合成例2(精製品)で製造したエポキシ樹脂の
13C-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0020】
<エポキシ樹脂>
本発明は、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンとエピハロヒドリンとの反応生成物であるエポキシ樹脂であって、前記エポキシ樹脂が、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン、及び、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンに由来する2つの隣接酸素原子を構成原子として含む環状構造を有する環状化合物を含み、前記環状化合物の含有量が、前記エポキシ樹脂100gに対して、0.040mol未満であるエポキシ樹脂に関する。前記エポキシ樹脂を用いることで、速硬化性と保存安定性の両立を図ることができ、更に、前記エポキシ樹脂は、低粘度で、前記エポキシ樹脂を用いて得られる硬化物は、機械特性に優れ、有用となる。
【0021】
本発明におけるエポキシ樹脂は、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(以下、「ピロガロール」とも称する。)とエピハロヒドリンとの反応生成物である。
【0022】
ピロガロールとエピハロヒドリンとを反応させると、一般に、ピロガロールの1位、2位、および3位のフェノール性水酸基においてグリシジル化反応が進行し、トリグリシジルエーテル体が得られる。しかしながら、その他にも種々の反応が進行することがあり、結果としてピロガロールとエピハロヒドリンとの反応生成物は、種々のエポキシ化合物(副生成物)を含みうる。
【0023】
[1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール)]
ピロガロールは、下記構造式で示される構造を有する。
【化1】
【0024】
ピロガロールは、植物に含まれる没食子酸(3、4、5-トリヒドロキシ安息香酸)の脱炭酸によって得られる。使用されるピロガロールは、環境への負荷が少ない観点や入手の容易性の観点から、ピロガロールはバイオベース由来のものであることが好ましい。ただし、工業的に合成されたものを使用することもできる。
【0025】
[エピハロヒドリン]
エピハロヒドリンとしては、特に制限されないが、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、β-メチルエピクロロヒドリン、β-メチルエピブロモヒドリン等が挙げられる。これらのエピハロヒドリンは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
エピハロヒドリンの使用量は、特に制限されないが、ピロガロールのフェノール性水酸基1モルに対して、1.2~20モルであることが好ましく、1.5~10モルであることがより好ましい。エピハロヒドリンの使用量が1.2モル以上であると、エポキシ樹脂に含まれうる他の化合物が制御しやすくなることから好ましい。一方、エピハロヒドリンの使用量が20モル以下であると、収率の観点から低コストとなることから好ましい。
【0027】
ピロガロールとエピハロヒドリンとの反応は、特に制限されず、公知の方法で行うことができる。一実施形態において、前記反応は、ピロガロールとエピハロヒドリンとを含む混合物を、第4級オニウム塩及び/又は塩基性化合物の存在下で反応させる工程(1)と、前記工程(1)で得られる反応物を、塩基性化合物の存在下で閉環させる工程(2)とを含む。前記混合物には、必要に応じて、反応溶媒等をさらに含んでいてもよい。
【0028】
[反応溶媒]
前記反応溶媒としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ジオキサン等のエーテル;ジメチルスルホン;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの反応溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
反応溶媒を用いる場合、その添加量は、エピハロヒドリン100質量部に対して、5~150質量部であることが好ましく、7.5~100質量部であることがより好ましく、10~50質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
[第4級オニウム塩]
第4級オニウム塩は、後述する工程(1)の反応を促進させる機能を有する。
【0031】
前記第4級オニウム塩としては、特に制限されないが、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が挙げられる。
【0032】
前記第4級アンモニウム塩としては、特に制限されないが、テトラメチルアンモニウムカチオン、メチルトリエチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、トリブチルメチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、フェニルトリメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリメチルアンモニウムカチオン、フェニルトリエチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリブチルアンモニウムカチオンの塩化物塩、テトラメチルアンモニウムカチオン、トリメチルプロピルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオンの臭化物塩等が挙げられる。
【0033】
前記第4級ホスホニウム塩としては、特に制限されないが、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、メチルトリフェニルホスホニウムカチオン、テトラフェニルホスホニウムカチオン、エチルトリフェニルホスホニウムカチオン、ブチルトリフェニルホスホニウムカチオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムカチオンの臭素化物塩が挙げられる。
【0034】
これらのうち、第4級オニウム塩としてはテトラメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオンの塩化物塩、テトラブチルアンモニウムカチオンの臭化物塩を用いることが好ましい。
【0035】
なお、上述の第4級オニウム塩は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
第4級オニウム塩の添加量は、ピロガロールとエピハロヒドリンの合計質量に対して、0.15~5質量%であることが好ましく、0.18~3質量%であることがより好ましい。第4級オニウム塩の添加量が0.15質量%以上であると、工程(1)の反応が適好に進行できることから好ましい。一方、第4級オニウム塩の添加量が5%以下であると、樹脂への残留を低減できることから好ましい。
【0037】
[塩基性化合物]
塩基性化合物もまた、上記第4級オニウム塩と同様に、後述する工程(1)の反応を促進させる機能を有する。
【0038】
塩基性化合物としては、特に制限されないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。これらのうち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。なお、これらの塩基性化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
塩基性化合物の添加量は、特に制限されないが、ピロガロールのフェノール性水酸基の1モルに対して、0.01~0.3モルであることが好ましく、0.02~0.2モルであることがより好ましい。塩基性化合物の添加量が0.01モル以上であると、後述する工程(2)の反応が好適に進行しうることから好ましい。一方、塩基性化合物の添加量が0.3モル以下であると、副反応を防止又は抑制できることから好ましい。
【0040】
[工程(1)の反応]
工程(1)の反応は、主にピロガロールのフェノール性水酸基がエピハロヒドリンと反応することにより、以下に示すトリス(3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル)中間体を得るものである。
【化2】
【0041】
なお、上記構造式において、「X」は、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表す。また、「R」は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。
【0042】
工程(1)の反応温度は、特に制限されないが、20~80℃であることが好ましく、40~75℃であることがより好ましい。工程(1)の反応温度が20℃以上であると、工程(1)の反応が好適に進行しうることから好ましい。一方、工程(1)の反応温度が80℃以下であると、副反応を防止又は抑制することができることから好ましい。
【0043】
工程(1)の反応時間は、特に制限されないが、0.5時間以上であることが好ましく、1~50時間であることがより好ましい。工程(1)の反応時間が0.5時間以上であると、反応が好適に進行するとともに、副反応を防止又は抑制できることから好ましい。
【0044】
[工程(2)]
工程(2)は、工程(1)で得られる反応物を、塩基性化合物の存在下で閉環させる工程である。
【0045】
[工程(1)で得られる反応物]
工程(1)で得られる反応物は、第1の反応により得られるトリス(3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル)中間体を含む。その他、副生成物、未反応のピロガロール、未反応のエピハロヒドリン、反応溶媒、不純物等を含みうる。
【0046】
[塩基性化合物]
塩基性化合物は、工程(2)の反応条件を塩基性条件とし、閉環反応を促進する機能を有する。
【0047】
塩基性化合物としては、特に制限されないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。これらのうち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。なお、これらの塩基性化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
塩基性化合物の添加量は、特に制限されないが、ピロガロールのフェノール性水酸基の1モルに対して、0.8~1.5モルであることが好ましく、0.9~1.3モルであることがより好ましい。塩基性化合物の添加量が0.8モル以上であると、工程(2)の閉環反応が好適に進行しうることから好ましい。一方、塩基性化合物の添加量が1.5モル以下であると、副反応を防止又は抑制できることから好ましい。なお、工程(1)で塩基性化合物を用いる場合は、工程(1)で用いる量も含めて上述の添加量とすることが好ましい。
【0049】
[工程(2)の反応]
工程(2)の反応は、主にトリス(3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル)中間体の3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル基が、塩基性条件下において、グリシジル化反応をすることにより、以下に示す1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼンを得るものである。
【化3】
【0050】
なお、上記構造式において、「R」は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。
【0051】
工程(2)の反応温度は、特に制限されないが、30~120℃であることが好ましく、25~80℃であることがより好ましい。
【0052】
工程(2)の反応時間としては、特に制限されないが、0.5~4時間であることが好ましく、1~3時間であることがより好ましい。
【0053】
なお、工程(2)における反応を適好に進行させるため、更に精製する工程を用いてもよい。
【0054】
また、工程(2)を行った後、必要に応じて得られる反応生成物の精製等を行うことができる。
【0055】
[反応生成物]
本発明のエポキシ樹脂は、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンとエピハロヒドリンとの反応生成物であるエポキシ樹脂であって、前記エポキシ樹脂が、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン(本明細書において、「ピロガロールのトリグリシジル体」とも称する。)を含むものであり、前記ピロガロールのトリグリシジル体は、結晶性化合物である。前記エポキシ樹脂は、前記ピロガロールのトリグリシジル体と共に、副生成物として環状化合物を含み、更に、その他、オリゴマー、他のグリシジル体、溶媒、その他の化合物等をさらに含んでいてもよい。
【0056】
なお、前記エポキシ樹脂(反応生成物)がピロガロールのトリグリシジル体を含むことにより、エポキシ樹脂(ピロガロール型エポキシ樹脂)は高い物性を有しうる。具体的には、ピロガロールのトリグリシジル体は3つのグリシジル体を有しているため、架橋度が高くなり、耐熱性に優れる硬化物が得られうる。また、ピロガロールのトリグリシジル体は3つのグリシジル体が隣接しているため、架橋反応時に隣接のグリシジル基が密にパッキングされ、弾性率に優れる硬化物が得られる。
また、一般的なビスフェノールA型エポキシ樹脂と比較して、ピロガロール型エポキシ樹脂は、低温硬化性に優れ、取り扱製や作業性に優れ、有用である。
【0057】
また、前記エポキシ樹脂(反応生成物)中に含まれる副生成物である環状化合物や、その他、オリゴマー等は、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンのグリシジル化反応の副反応が生じる結果として得られるものであり、前記環状化合物や、前記オリゴマー等の副生成物は、エポキシ樹脂の物性やその硬化物の物性に影響を与えうる。
なお、前記環状化合物は、分子内反応により生成する1級水酸基を有する分子内化物等であり、前記オリゴマーは、2級水酸基を有する化合物であり、これら副生成物がアルコール性水酸基やフェノール性水酸基を有するため、硬化反応時に助触媒的に作用し、硬化性を促進するが、エポキシ樹脂組成物として含まれる際に、保存安定性を悪化させる恐れがあるため、前記副生成物の含有量を低減することが行われる。一方で、前記副生成物の低減を行うことで、硬化性が悪化することがあり、保存安定性と硬化性(速硬化性)の両立を図ることが重要である。
【0058】
この際、前記副反応は反応条件を調整することにより制御することができ、これによって、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンのトリグリシジル体だけでなく、前記環状化合物、前記オリゴマー等の含有量を制御することができる。
【0059】
例えば、工程(1)は、上述の通り、トリス(3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル)中間体を得るものであるが、反応条件によっては、3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル基が一部閉環する副反応が生じ、グリシジル基および水酸基を有する中間体が生成しうる。この場合、前記副反応により得られた中間体が分子内で反応すると、環状化合物が生成することになり、分子間で反応するとオリゴマーが生成することになる。このため、工程(1)において、グリシジル基および水酸基を有する中間体を生成する副反応を制御すると、環状化合物やオリゴマーの量を制御できる傾向にある。例えば、工程(1)を高温条件下で行うと、グリシジル基を生成する副反応が促進され、得られる反応生成物中の環状化合物やオリゴマーの量は高い値となりうる。一方、工程(1)を低温条件下で行うと、グリシジル基を生成する反応は相対的に抑制され、得られる反応生成物中の環状化合物やオリゴマーの量は低い値となりうる。また、工程(1)を短時間で行うと、未反応の水酸基が多く存在し、工程(2)において生成したグリシジル基と反応することにより反応生成物中の環状化合物やオリゴマーの量は高い値となりうる。
【0060】
なお、反応生成物中の各成分の含有量の制御は、種々の方法により行うことができる。例えば、上述の工程(1)における1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール)の添加量、エピハロヒドリンの種類および添加量、第4級オニウム塩、塩基性化合物の種類および添加量、反応温度、反応時間等の調整により反応を制御することができる。また、工程(1)の原料、生成物等の添加又は除去等により反応を制御することもできる。さらに、上述の工程(2)における塩基性化合物の種類および添加量、反応温度、反応時間、反応速度等の調整により反応を制御することができる。また、工程(2)の生成物等の添加又は除去等により反応を制御することができる。その結果、反応生成物中の各成分の含有量を制御することができる。
【0061】
[1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン(ピロガロールのトリグリシジル体)]
1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼンは、以下の構造を有する。
【化4】
【0062】
なお、上記構造式において、「R」は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。
【0063】
本発明のエポキシ樹脂は、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼンを含み、前記1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼンの含有量が、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)測定における面積比率で80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましく、84%以上であることがさらに好ましく、86%以上であることが特に好ましく、88~98%であることが最も好ましい。1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン(ピロガロールのトリグリシジル体)の含有量がGPC測定における面積比率で80%以上であると、硬化性や耐熱性、機械特性、更には工程時間の短縮などが向上しうることから好ましい。また、副生成物の含有量を制御(低減)することになり、速硬化性と保存安定性の両立も図ることができ、有用である。なお、本明細書において、「GPC測定における面積比率」とは、反応生成物をGPC測定して得られるGPCチャートのうち、対象とする化合物が占める面積の比率を意味する。具体的な測定方法については、実施例に記載の方法を採用するものとする。
【0064】
[環状化合物]
本発明は、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンとエピハロヒドリンとの反応生成物であるエポキシ樹脂であって、前記エポキシ樹脂が、1,2,3-トリヒドロキシベンゼンに由来する2つの隣接酸素原子を構成原子として含む環状構造を有する環状化合物を含む。前記エポキシ樹脂が、副反応により、前記環状化合物を含むことにより、前記エポキシ樹脂は、常温(25℃)で液状となり、低粘度で取り扱い性、作業性に優れたエポキシ樹脂となる。なお、前記環状化合物を含まない場合は、エポキシ樹脂が結晶化しやすくなり、液状のエポキシ樹脂として、保管(保存)安定性に劣り、取り扱い性にも劣るため、好ましくない。
【0065】
具体的な環状化合物としては、特に制限されないが、以下に示す化合物および前記化合物がさらにエピハロヒドリンと反応して得られる化合物等が挙げられる。
【化5】
【0066】
なお、上記構造式において、「R」は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。
【0067】
前記環状化合物は単独で含まれていても、2種以上を組み合わせて含まれていてもよい。
【0068】
前記環状化合物の含有量は、エポキシ樹脂100gに対して、0.040mol未満であり、好ましくは0.004~0.035molであり、より好ましくは0.006~0.030molであり、更に好ましくは0.008~0.025molであり、特に好ましくは0.010~0.020molである。環状化合物の含有量が0.40mol未満であると、前記環状化合物を含む前記エポキシ樹脂を用いた場合、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼンが高純度化されており、副生成物である前記環状化合物の含有量が低くなることで、詳細な理由は明らかではないが、速硬化性と保存安定性の両立を図ることができ、好ましい。なお、本明細書において、「環状化合物の含有量」は、実施例に記載の方法で測定された値を採用するものとする。また、環状化合物を2種以上含む場合には、「環状化合物の含有量」は、これらの総含有量を意味する。
【0069】
なお、前記環状化合物の含有量は、上述のように反応を制御することで調整することができる。このような環状化合物の含有量の調整は、例えば、上述の工程(1)における1,2,3-トリヒドロキシベンゼンの添加量、エピハロヒドリンの種類および添加量、第4級オニウム塩、塩基性化合物の種類および添加量、反応温度、反応時間等を適宜調整することにより行うことができる。また、工程(1)の原料、生成物等の添加又は除去等により行うこともできる。さらに、上述の工程(2)における塩基性化合物の種類および添加量、反応温度、反応時間、反応速度等を適宜調整することにより行うことができる。また、工程(2)の生成物等の添加又は除去等により行うこともできる。
【0070】
[オリゴマー]
本発明のエポキシ樹脂は、オリゴマーをさらに含有する。前記エポキシ樹脂が、副生成物として、前記オリゴマーを含有する場合、オリゴマーの含有量を制御(調整)することで、前記エポキシ樹脂が速硬化性と保存安定性を両立しやすくなり、好ましい。
なお、本明細書において、「オリゴマー」とは、ピロガロール又はその誘導体が互いに反応することにより得られる化合物を意味する。このため、オリゴマーはピロガロール骨格を複数有する構造ともいえ、例えば、下記構造で表されるものが挙げられる。
【化6】
【0071】
なお、上記構造式において、「R」は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、「n」は、0~5の整数を表す。
【0072】
前記オリゴマーとしては、特に制限されないが、上述の工程(1)で得られるトリス(3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル)中間体、ビス(3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル)中間体、モノ(3-ハロゲノ-2-ヒドロキシプロピルエーテル)中間体の1種又は2種以上が反応して得られるオリゴマー;1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン等の2官能以上のエポキシ化合物と、ピロガロール等の2官能以上の多価フェノールとが反応して得られるオリゴマー等が挙げられる。
【0073】
前記オリゴマーは、単独で含まれていても、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0074】
前記オリゴマーの含有量は、GPC測定における面積比率で10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることが更に好ましく、4%以下であることが特に好ましく、0.05~2%であることが最も好ましい。オリゴマーの含有量が10%以下であると、エポキシ樹脂の粘度が低くなり、取り扱い性が向上することから好ましい。なお、オリゴマーを2種以上含む場合、「オリゴマーの含有量」は、これらの総含有量を意味する。
【0075】
前記オリゴマーの含有量の調整についても、環状化合物の場合と同様に、工程(1)、(2)におけるピロガロールの添加量、エピハロヒドリンの種類および添加量、第4級オニウム化合物、塩基性化合物の種類および添加量、反応温度、反応時間等を適宜調整することにより行うことができる。
【0076】
[他のグリシジル体]
反応生成物は、他のグリシジル体が含まれうる。他のグリシジル体としては、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン、環状化合物、およびオリゴマーを除く、グリシジル基を有する化合物を意味する。
【0077】
前記他のグリシジル体としては、例えば、下記構造で表されるピロガロールのジグリシジル体、ピロガロールのモノグリシジル体、およびこれらの誘導体等が挙げられる。この際、前記「誘導体」とは、前記ピロガロールのジグリシジル体、前記ピロガロールのモノグリシジル体のグリシジル基が、開環付加反応によりさらにエピハロヒドリンと反応して得られる化合物を意味する。
【化7】
【0078】
なお、上記構造式において、「X」は、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表す。また、「R」は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。
【0079】
前記他のグリシジル体は、単独で含まれていても、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0080】
[溶媒]
溶媒としては、特に制限されず、上述した反応溶媒の他、精製工程等において意図的に添加されうる水、溶媒等が挙げられる。
【0081】
溶媒の含有量は、エポキシ樹脂の固形分(有効成分)100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、「エポキシ樹脂の固形分」とは、エポキシ樹脂中において、溶媒を除いた成分の総質量を意味する。したがって、エポキシ樹脂が溶媒を含まない場合には、当該エポキシ樹脂の全質量は固形分と一致する。また、エポキシ樹脂やエポキシ樹脂組成物等が液状成分を含む場合には、「固形分」とは、溶媒を含まない「有効成分」を意味する。
【0082】
[その他の化合物]
その他の化合物としては、特に制限されず、ピロガロールとエピハロヒドリンとの反応で生じる生成物以外のものが挙げられる。具体的には、未反応のピロガロール、未反応のエピハロヒドリン、未反応の第4級オニウム塩、未反応の塩基性化合物、およびこれらに由来する化合物が挙げられる。なお、通常、反応の条件の制御や精製を行うため、その他の化合物の含有量は低い傾向がある。
【0083】
前記その他の化合物の含有量は、エポキシ樹脂の固形分(有効成分)に対して、5質量%以下であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましい。
【0084】
本発明のエポキシ樹脂は、エポキシ当量が、120g/当量以下であることが好ましく、80~120g/当量以下であることがより好ましく、90~115g/当量以下であることがさらに好ましく、100~110g/当量であることが特に好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量が120g/当量以下であると、耐熱性が向上しうることから好ましい。なお、本明細書において「エポキシ当量」の値は、実施例に記載される方法で測定された値を採用するものとする。
【0085】
エポキシ樹脂中の成分、物性の調整は、反応の制御により行ってもよいし、精製工程の制御により行ってもよいし、別途成分を添加することにより行ってもよい。この際、エポキシ樹脂を効率的に調製できる観点から、反応を制御してエポキシ樹脂の成分の含有量の調整を行うことや、得られたエポキシ樹脂を精製することにより、未反応性分や副生成物である環状化合物やオリゴマーを調整(低減)する方法を採用することが好ましい。
【0086】
[副生成物の低減方法]
得られたエポキシ樹脂中の副生成物の含有量を調整(低減)する方法としては、上述したように、使用原料の調整や反応条件の調整などにより低減可能であるが、更に、製造したエポキシ樹脂を精製することで、より簡単に副生成物の含有量を調整(低減)することが可能となる。例えば、カラムクロマトグラフィーによる精製や、分子蒸留、再結晶、再沈殿、など一般的な精製方法を採用することができ、中でも、カラムクロマトグラフィーや分子蒸留などが、高純度な目的化合物が得られる観点からも好ましい。前記エポキシ樹脂を精製することで、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼンが高純度に含まれ、副生成物が低減することで、前記エポキシ樹脂の速硬化性と保存安定性の両立を図ることが容易となり、好ましい。
【0087】
前記カラムクロマトグラフィーによる精製の具体的な方法としては、シリカゲルを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。
シリカゲルとしては、酸性シリカゲル、中性シリカゲル、及び、化学修飾されたシリカゲル等を使用することができるが、中性シリカゲルが好ましい。
シリカゲルの使用量は、サンプル量(g)に対して、2~100倍mLであることが好ましい。
展開溶媒としては、ヘキサン、トルエン、クロロホルムなどの低極性溶媒や、酢酸エチル、アセトン、メタノールなどの高極性溶媒を併用することで、極性を調整して使用することもでき、それぞれを単独で使用することもできる。環境負荷、安全、経済的な面から、トルエン、アセトン、メタノールが好ましく、純度向上や使用後の回収の観点から、トルエンとアセトンを併用することが好ましい。
【0088】
前記分子蒸留による精製の具体的な方法としては、薄膜蒸留装置を使用した方法等が挙げられる。
分子蒸留は通常減圧下で行われる。減圧度は0~30Torrが好ましく、温度は、200~250℃が好ましい。
【0089】
<エポキシ樹脂組成物>
本発明は、前記エポキシ樹脂と硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物に関する。前記エポキシ樹脂(ピロガロール型エポキシ樹脂)は、前記ピロガロールのトリグリシジル体を含むため、硬化剤に対して、反応性が高く、速硬化性に優れる。なお、通常、エポキシ樹脂と硬化剤等を含むエポキシ樹脂組成物は、配合後に、反応が進行し、増粘化して、取り扱い性や作業性が問題となることがあるが、本発明のエポキシ樹脂を用いることで、副生成物である環状化合物(など)の含有割合が制御(調整)されているため、増粘化が抑えられ、保存安定性に優れ、有用となる。
【0090】
前記エポキシ樹脂組成物は、その他、必要に応じて、他のエポキシ樹脂、他の樹脂、硬化促進剤、有機溶媒、添加物等をさらに含んでいてもよい。
【0091】
前記エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂組成物の固形分(有効成分)に対して、30~99質量%であることが好ましく、40~97質量%であることがより好ましい。エポキシ樹脂の含有量が30質量%以上であると、エポキシ樹脂の性能を発現しやすいことから好ましい。一方、エポキシ樹脂の含有量が99質量%以下であると、硬化剤の選択肢が広がることから好ましい。なお、本明細書において、「樹脂組成物の固形分」とは、組成物中において、後述する溶媒を除いた成分の総質量を意味する。したがって、樹脂組成物が溶媒を含まない場合には、当該組成物の全質量は固形分と一致する。
【0092】
[他のエポキシ樹脂]
他のエポキシ樹脂としては、特に制限されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等のビフェニル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂;フェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ジグリシジルオキシナフタレン、リン原子含有エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0093】
前記他のエポキシ樹脂は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
[他の樹脂]
他の樹脂は、エポキシ樹脂以外の樹脂を意味する。当該他の樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であってもよい。他の樹脂の具体例としては、特に制限されないが、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フェノール樹脂が挙げられる。これらの他の樹脂は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
[硬化剤]
硬化剤としては、特に制限されないが、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ-ル系化合物等が挙げられる。
【0096】
前記アミン系化合物としては、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、ジシアンジアミド、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0097】
前記アミド系化合物としては、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとから合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0098】
前記酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0099】
前記フェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、α-ナフトールアラルキル樹脂、β-ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、トリフェニロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、およびアミノ基含有トリアジン化合物(メラミン、ベンゾグアナミン等)とフェノール類(フェノール、クレゾール等)と、ホルムアルデヒドと、の共重合体であるアミノトリアジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0100】
これらのうち、アミン系化合物、フェノール系化合物を用いることが好ましく、ジアミノジフェニルスルホン、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、α-ナフトールアラルキル樹脂、β-ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂を用いることがより好ましい。
【0101】
なお、前記硬化物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
前記硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物の固形分(有効成分)に対して、1~70質量%であることが好ましく、3~60質量%であることがより好ましい。硬化剤の含有量が1質量%以上であると、硬化剤の選択肢が広がることから好ましい。一方、硬化剤の含有量が70質量%以下であると、エポキシ樹脂の性能が発現しやすいことから好ましい。
【0103】
[硬化促進剤]
硬化促進剤は、硬化を促進する機能を有する。これにより、反応時間の短縮、未反応のエポキシ化合物の発生の防止又は低減等をすることができる。
【0104】
前記硬化促進剤としては、特に制限されないが、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯体、尿素誘導体等が挙げられる。これらのうち、イミダゾール類を用いることが好ましい。なお、これらの硬化促進剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
前記硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物の固形分(有効成分)に対して、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましい。硬化促進剤の含有量が0.1質量%以上であると、硬化を促進できることから好ましい。一方、硬化促進剤の含有量が10質量%以下であると、ポットライフを長くでき、保存安定性に優れることから好ましい。
【0106】
[有機溶媒]
有機溶媒は、エポキシ樹脂組成物の粘度を調整する機能を有する。これにより、基材への含浸性等が改善されうる。
【0107】
前記有機溶媒としては、特に制限されないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;イソプロピルアルコール、ブタノール、セロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。これらのうち、アルコール、ケトン類を用いることが好ましく、ブタノール、メチルエチルケトンを用いることがより好ましい。なお、これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
前記有機溶媒の含有量は、エポキシ樹脂組成物の固形分(有効成分)100質量部に対して、10~60質量部であることが好ましく、20~50質量部であることがより好ましい。有機溶媒の含有量が10質量部以上であると、粘度を低くできることから好ましい。一方、有機溶媒の含有量が60質量部以下であると、不揮発成分を低減できることから好ましい。
【0109】
[添加物]
エポキシ樹脂組成物に含有されうる添加物としては、特に制限されないが、無機充填剤、強化繊維、難燃剤、離型剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、導電性付与剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
[用途]
一実施形態において、前記エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物は、プリプレグ、繊維強化複合材料、放熱部材、接着剤、塗料、半導体、プリント配線基板、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等の用途に適用されうる。
【0111】
<硬化物>
本発明は、前記エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物に関する。前記硬化物は、上述のエポキシ樹脂組成物を硬化することにより得られる。前記硬化物は、高い耐熱性や機械特性(高弾性率など)を有する。
【0112】
硬化物の形状は、特に制限されず、シート形状であってもよいし、硬化物が他の材料(繊維状補強材料等)に含浸された形状であってもよい。
【0113】
エポキシ樹脂組成物の硬化温度は、50~250℃であることが好ましく、70~200℃であることがより好ましい。硬化温度が50℃以上であると、硬化反応が速やかに行われうることから好ましい。一方、硬化温度が250℃以下であれば、硬化時に必要なエネルギー量を抑制できることから好ましい。
【実施例0114】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は実施例の記載に制限されるものではない。
【0115】
なお、エポキシ樹脂に関して、GPC、13C-NMR、エポキシ当量、及び、環状化合物の含有量は、以下の条件にて測定した。
【0116】
<GPC測定条件>
以下の測定装置、測定条件を用いて、以下に示す合成方法で得られたエポキシ樹脂中に含まれる環状化合物などの分析のため、GPC測定を行った。なお、前記GPCの測定の結果(GPCチャート)については、合成例1(比較例1)、及び、合成例2(実施例1)について図示した(
図1及び
図2参照)。
測定装置:東ソー株式会社製「HLC-8220 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL-L」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G4000HXL」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC-8020モデルIIバージョン4.10」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:1.0ml/分
標準:前記「GPC-8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
試料:樹脂換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
【0117】
<
13C-NMRの測定条件>
装置:日本電子株式会社製、JNM-ECA500
測定モード:逆ゲート付きデカップリング
溶媒:重水素化ジメチルスルホキシド
パルス角度:30°パルス
試料濃度:30質量%
積算回数:4000回
ケミカルシフトの基準:ジメチルスルホキシドのピーク:39.5ppm
13C―NMR測定の結果より、目的生成物(エポキシ樹脂)由来のピークが確認でき、各反応における目的生成物が得られたことを確認した。なお、前記
13C―NMR測定の結果(
13C―NMRチャート)については、合成例1(比較例1)、及び、合成例2(実施例2)について図示した(
図3及び
図4参照)。
【0118】
<エポキシ当量>
以下に示す実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂について、JIS K 7236:2009の方法により、エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/当量)を測定した。
【0119】
<環状化合物の含有量>
以下に示す実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂について、エポキシ樹脂100gあたりの環状化合物の含有量X(mol)を測定した。具体的には下記の計算式を用いて算出した。
X=(100×(A))/((B)×(C))
上記計算式において、Xはエポキシ樹脂100gあたりの環状化合物含有量(mol)であり、(A)は芳香環1molあたりの環状化合物(mol)であり、(B)は芳香環1molあたりのエポキシ基(mol)であり、(C)はエポキシ当量(g/当量)である。
【0120】
[合成例1]
<エポキシ樹脂(E-1)の調製>
(工程(1))
温度計、滴下ロート、冷却管、窒素導入管、撹拌機を取り付けたフラスコに、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール)126g(1.00mol)、エピクロロヒドリン1388g(15mol)を添加し、50℃まで昇温した。次いで、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム11.2g(0.06mol)を添加し、50℃で24時間撹拌した。
【0121】
(工程(2))
前記工程(1)で得られた反応液に蒸留水1000mLを注いで撹拌し、静置後に上層を除去した。48%水酸化ナトリウム水溶液318gを2.5時間かけて滴下し、1時間撹拌を行った。
【0122】
得られた溶液に蒸留水400mLを注いで静置した。下層の食塩水を除去し、120℃でエピクロロヒドリンの蒸留回収を行った。次いで、メチルイソブチルケトン(MIBK)500g、水147gを順次添加し、80℃で水洗を行った。下層の水洗水を除去した後、脱水、ろ過を行い、150℃でMIBKを脱溶媒することで、エポキシ樹脂(E-1)を得た。なお、得られたエポキシ樹脂(E-1)を目視で観察したところ、液状であった。
得られたエポキシ樹脂(E-1)中の環状化合物の含有量は0.086mol/100g、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン(ピロガロールのトリグリシジル体)のGPC測定における面積比率は77%、オリゴマーのGPCにおける面積比率は3.2%、エポキシ当量は128g/当量であった。これらの結果を比較例1の結果とした。
【0123】
[合成例2]
<エポキシ樹脂(E-2)の調製>
直径10cmのクロマトカラムに、シリカゲル60N(球状、中性)(関東化学製)800mLを湿式充填した後、合成例1で得られたエポキシ樹脂(E-1)15g充填しシリカゲルに吸着させた。その後、トルエン/アセトン=30/1~10/1のグラジエント条件で、シリカゲルカラムクロマトフィーにより精製することで、エポキシ樹脂(E-2)を得た。なお、得られたエポキシ樹脂を目視で観察したところ、液状であった。
得られたエポキシ樹脂(E-2)中の環状化合物の含有量は0.012mol/100g、1,2,3-トリグリシジルオキシベンゼン(ピロガロールのトリグリシジル体)のGPC測定における面積比率は95%、オリゴマーのGPCにおける面積比率は0.7%、エポキシ当量は102g/当量であった。これらの結果を実施例1の結果とした。
【0124】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
上述のエポキシ樹脂(E-1)、及び、エポキシ樹脂(E-2)をそれぞれに対して、硬化剤である4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)をエポキシ基/活性水素基=1/1(当量比)となるように配合し、室温で均一分散し、サンプル組成物とした。
【0125】
<エポキシ樹脂組成物の硬化性評価>
上記サンプル組成物に関して、示差走査熱量分析装置(METTOLER TOLEDO株式会社製「DSC1」、サンプル量4.0~8.0mg、アルミ製サンプルパンサイズφ5×2.5mm、昇温速度10℃/min、窒素流量40ml/min、温度範囲20~350℃)により、発熱温度領域を測定した。なお、「オンセット(Onset)温度」は、転移前のベースラインと変曲点を通る接線の交点を、「エンドセット(Endset)温度」は転移後のベースラインと変曲点を通る接線の交点を、ピーク温度は発熱が最大となった温度を、それぞれMETLLOER TOLEDO株式会社製、STARe Softwareにより自動計算した。
前記エンドセット温度(℃)と前記オンセット温度(℃)の差としては、硬化反応の時間をより短縮する観点から、90℃以内が好ましく、88℃以内がより好ましく、86℃以内であることが更に好ましい。
【0126】
<エポキシ樹脂組成物の保存安定性評価>
上記サンプル溶液に関して、上記示差走査熱量分析装置を用いて、保時時間0時間後(初期値)、及び、168時間後のガラス転移温度(Tg)(℃)を、それぞれ測定し、ガラス転移温度の差(ΔTg)(℃)を算出して、前記エポキシ樹脂組成物の保存安定性を評価した。
前記ΔTg(℃)としては、保存後の取り扱い性を維持する観点から、15℃以内が好ましく、10℃以内がより好ましく、5℃以内であることが更に好ましい。
(測定条件)
温度・湿度条件:25℃、50%RH
温度範囲:-30~70℃
昇温速度:10℃/min
【0127】
合成例1(比較例1)及び合成例2(実施例1)により得られたエポキシ樹脂を用いて、エポキシ樹脂組成物を調製し、それらの配合内容と、エポキシ樹脂組成物の評価結果(比較例2及び実施例2)を下記表1に示した。
【0128】
【0129】
上記表1の結果から、実施例1で得られたエポキシ樹脂(精製品)を用いたエポキシ樹脂組成物(実施例2)は、速硬化性、及び、保存安定性を両立できることが確認できた。一方、比較例1で得られたエポキシ樹脂(未精製品)を用いたエポキシ樹脂組成物(比較例2)は、実施例2と比較して、ガラス転移温度差(ΔTg)が大きく、保存安定性に劣ることが確認された。
本発明は、前記エポキシ樹脂が速硬化性及び保存安定性に優れ、また、作業性や取り扱い性にも優れるため、前記エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物は、プリプレグ、繊維強化複合材料、放熱部材、接着剤、塗料、半導体、プリント配線基板、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等に好適に使用可能であり、特に自動車部材、航空宇宙機部材等に好適に使用可能である。