IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-操舵制御装置 図1
  • 特開-操舵制御装置 図2
  • 特開-操舵制御装置 図3
  • 特開-操舵制御装置 図4
  • 特開-操舵制御装置 図5
  • 特開-操舵制御装置 図6
  • 特開-操舵制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100467
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230711BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230711BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230711BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230711BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001174
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
(72)【発明者】
【氏名】飯田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC26
3D232DA03
3D232DA10
3D232DA15
3D232DA24
3D232DA64
3D232DC01
3D232DC02
3D232DC03
3D232DC08
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD10
3D232EB04
3D232EB11
3D232EC23
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC06
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD09
3D333CD14
3D333CE32
3D333CE38
3D333CE39
(57)【要約】
【課題】転舵輪が障害物に接触していることを、より適切に検出することができる操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、車両の転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行することにより、転舵モータが発生するトルクに対する指令値である転舵トルク指令値を演算する。操舵制御装置は、シャフトの目標角度に対する実角度の偏差に対して比例演算を実行することにより偏差に比例した値のトルク指令値を演算する比例制御部と、偏差に対して微分演算を実行することにより偏差の微分値に比例した値のトルク指令値を演算する微分制御部と、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを加算することにより転舵トルク指令値を演算する加算器と、比例制御部により演算されるトルク指令値Tp1に基づき転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する判定部102を有している。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された車両の転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータに対する給電を制御するために、前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度を前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて演算し、前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記転舵モータが発生するトルクに対する指令値である転舵トルク指令値を演算する操舵制御装置であって、
前記シャフトの目標角度に対する実角度の偏差に対して比例演算を実行することにより前記偏差に比例した値の第1のトルク指令値を演算する比例制御部と、
前記偏差に対して微分演算を実行することにより前記偏差の微分値に比例した値の第2のトルク指令値を演算する微分制御部と、
前記第1のトルク指令値と前記第2のトルク指令値とを加算することにより前記転舵トルク指令値を演算する加算器と、
前記第1のトルク指令値に基づき前記転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する判定部と、を有している操舵制御装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記第1のトルク指令値を前記転舵モータの電流値に換算することにより得られる電流指令値に基づき、前記転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記偏差に対して自ら比例演算を実行することにより、前記第1のトルク指令値を取得する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記電流指令値の絶対値と電流しきい値とを比較することにより、前記転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記電流指令値の絶対値が前記電流しきい値以上の値となる状態が時間しきい値以上継続するとき、前記転舵輪が障害物に当たっている旨判定する請求項4に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記電流指令値の絶対値が前記電流しきい値以上の値、かつ前記シャフトの実角度を微分することにより得られる角速度が角速度しきい値以下の値となる状態が時間しきい値以上継続するとき、前記転舵輪が障害物に当たっている旨判定する請求項4に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記偏差に対して積分演算を実行することにより前記偏差の積分値に比例した値の第3のトルク指令値を演算する積分制御部を有し、
前記加算器は、前記第1のトルク指令値と、前記第2のトルク指令値と、前記第3のトルク指令値とを加算することにより、前記転舵トルク指令値を演算する請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項8】
前記ステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータに対する給電を、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて演算される反力トルク指令値に基づき制御する反力制御部を有し、
前記反力制御部は、前記転舵輪を転舵させる転舵シャフトに作用する基本的な軸力である基本軸力を演算する基本軸力演算部と、
前記判定部により前記転舵輪が障害物に当たっている旨判定されるとき、前記ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための制限軸力を演算する制限軸力演算部と、
前記基本軸力および前記制限軸力に基づき前記反力トルク指令値に反映させる最終的な軸力である最終軸力を演算する最終軸力演算部と、を有している請求項1~請求項7のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
操舵装置においては、据え切り時に転舵輪が縁石などの障害物に突き当たる場合など、転舵輪を切り増し側へ向けて転舵することが困難となる状況が想定される。このとき、操舵装置の制御装置は、ステアリングホイールの操舵角に転舵輪の転舵角を追従させようとする。このため、転舵モータに対して過大な電流が供給されることによって、転舵モータあるいはその駆動回路が過熱するおそれがある。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1の制御装置は、定められた判定条件が成立するとき、転舵輪が障害物に接触している旨判定する。判定条件は、たとえば転舵モータへ供給される電流の値が電流しきい値以上である状態が所定の時間だけ継続することを含む。制御装置は、転舵輪が障害物に接触している旨判定されるとき、転舵モータの過熱を抑制すること、および転舵輪が障害物に当たっていることを運転者に知らせることを目的として、定められた制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-138606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
操舵装置の制御装置が、前述の定められた制御を適切に実行するためには、転舵輪が障害物に接触していることを、より適切に検出することが要求される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された車両の転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータに対する給電を制御するために、前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度を前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて演算し、前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記転舵モータが発生するトルクに対する指令値である転舵トルク指令値を演算する。操舵制御装置は、前記シャフトの目標角度に対する実角度の偏差に対して比例演算を実行することにより前記偏差に比例した値の第1のトルク指令値を演算する比例制御部と、前記偏差に対して微分演算を実行することにより前記偏差の微分値に比例した値の第2のトルク指令値を演算する微分制御部と、前記第1のトルク指令値と前記第2のトルク指令値とを加算することにより前記転舵トルク指令値を演算する加算器と、前記第1のトルク指令値に基づき前記転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する判定部と、を有している。
【0008】
転舵モータには、第1のトルク指令値および第2のトルク指令値の双方が反映される転舵トルク指令値に応じた電流が供給される。転舵モータに供給される電流の値に基づき、転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定することが考えられる。これは、転舵輪が障害物に当たっている状況で、さらに転舵輪を転舵しようとするほど、ステアリングホイールの操舵状態に基づくシャフトの目標角度と実角度との偏差が増大するからである。しかし、この場合、転舵輪が障害物に接触していることが適切に検出されないおそれがある。微分制御部は、シャフトの目標角度と実角度との偏差の変化を敏感に捉えるため、目標角度のわずかな変動に対して、第2のトルク指令値、ひいては転舵モータに供給される電流の値が変動するからである。
【0009】
この点、上記の構成によれば、判定部は、比例制御部により演算される第1のトルク指令値に基づき転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する。第1のトルク指令値は、微分制御部の動作の影響を受けないため、転舵モータに供給される電流の値に基づき転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する場合に比べて、より適切に転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定することができる。
【0010】
上記の操舵制御装置において、前記判定部は、前記第1のトルク指令値を前記転舵モータの電流値に換算することにより得られる電流指令値に基づき、前記転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定するようにしてもよい。
【0011】
この構成によるように、第1のトルク指令値を転舵モータの電流値に換算することにより得られる電流指令値も微分制御部の動作の影響を受けない。このため、転舵モータに供給される電流の値に基づき転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する場合に比べて、より適切に転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定することができる。
【0012】
上記の操舵制御装置において、前記判定部は、前記偏差に対して自ら比例演算を実行することにより、前記第1のトルク指令値を取得するようにしてもよい。
この構成によるように、判定部が自ら演算した第1のトルク指令値も微分制御部の動作の影響を受けない。このため、転舵モータに供給される電流の値に基づき転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定する場合に比べて、より適切に転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定することができる。
【0013】
上記の操舵制御装置において、前記判定部は、前記電流指令値の絶対値と電流しきい値とを比較することにより、前記転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定するようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、電流指令値の絶対値と電流しきい値とを比較するだけでよいので、転舵輪が障害物に当たっているかどうかを簡単に判定することができる。
上記の操舵制御装置において、前記判定部は、前記電流指令値の絶対値が前記電流しきい値以上の値となる状態が時間しきい値以上継続するとき、前記転舵輪が障害物に当たっている旨判定するようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、瞬間的に、電流指令値の絶対値が電流しきい値以上の値に達した場合、このことによって転舵輪が障害物に当たっている旨誤って判定することが抑制される。このため、より正確に転舵輪が障害物に当たっているかどうかを判定することができる。
【0016】
上記の操舵制御装置において、前記判定部は、前記電流指令値の絶対値が前記電流しきい値以上の値、かつ前記シャフトの実角度を微分することにより得られる角速度が角速度しきい値以下の値となる状態が時間しきい値以上継続するとき、前記転舵輪が障害物に当たっている旨判定するようにしてもよい。
【0017】
上記の操舵制御装置において、前記偏差に対して積分演算を実行することにより前記偏差の積分値に比例した値の第3のトルク指令値を演算する積分制御部を有していてもよい。この場合、前記加算器は、前記第1のトルク指令値と、前記第2のトルク指令値と、前記第3のトルク指令値とを加算することにより、前記転舵トルク指令値を演算する。
【0018】
この構成によれば、積分制御部は、時間積分により過去の偏差を蓄積し、継続的に偏差を無くすような動作をする。このため、比例制御部の比例演算により生じる、目標角度と実角度との定常偏差を低減することができる。したがって、シャフトの目標角度に対する実角度の追従性能が向上する。
【0019】
上記の操舵制御装置において、前記ステアリングホイールに付与される操舵反力を発生する反力モータに対する給電を、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて演算される反力トルク指令値に基づき制御する反力制御部を有していてもよい。前記反力制御部は、前記転舵輪を転舵させる転舵シャフトに作用する基本的な軸力である基本軸力を演算する基本軸力演算部と、前記判定部により前記転舵輪が障害物に当たっている旨判定されるとき、前記ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための制限軸力を演算する制限軸力演算部と、前記基本軸力および前記制限軸力に基づき前記反力トルク指令値に反映させる最終的な軸力である最終軸力を演算する最終軸力演算部と、を有していてもよい。
【0020】
この構成によれば、判定部によって転舵輪が障害物に当たっている旨判定されるとき、制限軸力演算部は、ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための制限軸力を演算する。この制限軸力が最終軸力、ひいては反力トルク指令値に反映されることによって、ステアリングホイールの操作を仮想的に制限するための操舵反力がステアリングホイールに付与される。このため、運転者は、ステアリングホイールを介した手応えを通じて、転舵輪が障害物に当たっていることを認識することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の操舵制御装置によれば、転舵輪が障害物に接触していることを、より適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】操舵制御装置の一実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図である。
図2】操舵制御装置の一実施の形態のブロック図である。
図3】一実施の形態におけるピニオン角フィードバック制御部のブロック図である。
図4】一実施の形態における反力トルク指令値演算部のブロック図である。
図5】一実施の形態における軸力演算部のブロック図である。
図6】一実施の形態における第2の制限軸力演算部のブロック図である。
図7】一実施の形態における偏差と第2の制限軸力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、操舵制御装置の一実施の形態を説明する。
<全体構成>
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象は、ステアバイワイヤ式の操舵装置2である。操舵装置2は、操舵機構3と、転舵機構4とを有している。操舵機構3は、ステアリングホイール5を介して、運転者により操舵される機構部分である。転舵機構4は、ステアリングホイール5の操舵に応じて、車両の転舵輪6を転舵させる機構部分である。
【0024】
操舵機構3は、ステアリングシャフト11と、反力モータ12と、減速機13と、を有している。ステアリングホイール5は、ステアリングシャフト11に一体回転可能に連結される。反力モータ12は、ステアリングシャフト11に付与する操舵反力の発生源である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向の力である。反力モータ12は、たとえば三相のブラシレスモータである。減速機13は、反力モータ12の回転を減速し、減速された回転をステアリングシャフト11に伝達する。
【0025】
転舵機構4は、ピニオンシャフト21と、転舵シャフト22と、ハウジング23と、を有している。ハウジング23は、ピニオンシャフト21を回転可能に支持する。また、ハウジング23は、転舵シャフト22を往復動可能に収容する。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合う。転舵シャフト22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド24を介して、タイロッド25が連結されている。タイロッド25の先端は、転舵輪6が組み付けられた図示しないナックルに連結される。
【0026】
転舵機構4は、転舵モータ31と、伝動機構32と、変換機構33とを備えている。転舵モータ31は、転舵シャフト22に付与する転舵力の発生源である。転舵力は、転舵輪6を転舵させるための力である。転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。伝動機構32は、たとえばベルト伝動機構である。伝動機構32は、転舵モータ31の回転を変換機構33に伝達する。変換機構33は、たとえばボールねじ機構である。変換機構33は、伝動機構32を介して伝達される回転を、転舵シャフト22の軸方向の運動に変換する。
【0027】
転舵シャフト22が軸方向に移動することによって、転舵輪6の転舵角θが変更される。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合っているため、転舵シャフト22の移動に連動して回転する。ピニオンシャフト21は、転舵輪6の転舵動作に連動して回転するシャフトである。
【0028】
操舵制御装置1は、反力モータ12および転舵モータ31の動作を制御する。操舵制御装置1は、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
【0029】
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(central processing unit)およびメモリを含む。
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0030】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータで読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。本実施の形態では、コンピュータは、CPUである。メモリは、RAM(random access memory)およびROM(read only memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【0031】
操舵制御装置1は、車載のセンサの検出結果を取り込む。センサは、車速センサ41、トルクセンサ42、回転角センサ43、および回転角センサ44を含む。
車速センサ41は、車速Vを検出する。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11における減速機13の連結部分を基準として、ステアリングホイール5側に設けられている。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に付与される操舵トルクThを検出する。操舵トルクThは、ステアリングシャフト11に設けられるトーションバー42aのねじれ量に基づき演算される。回転角センサ43は、反力モータ12に設けられている。回転角センサ43は、反力モータ12の回転角θを検出する。回転角センサ44は、転舵モータ31に設けられている。回転角センサ44は、転舵モータ31の回転角θを検出する。
【0032】
操舵トルクTh、反力モータ12の回転角θ、および転舵モータ31の回転角θは、たとえば、ステアリングホイール5を右に操舵する場合は正の値であり、ステアリングホイール5を左に操舵する場合は負の値である。
【0033】
操舵制御装置1は、各種のセンサの検出結果に基づき、反力モータ12と転舵モータ31とを制御する。操舵制御装置1は、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ12に発生させるように、反力モータ12に対する給電を制御する。操舵制御装置1は、ステアリングホイール5の操舵状態に応じて転舵輪6が転舵されるように、転舵モータ31に対する給電を制御する。
【0034】
<操舵制御装置1の構成>
つぎに、操舵制御装置1の構成について説明する。
図2に示すように、操舵制御装置1は、反力制御を実行する反力制御部50、および転舵制御を実行する転舵制御部60を有している。
【0035】
反力制御部50は、操舵角演算部51、反力トルク指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
操舵角演算部51は、回転角センサ43を通じて検出される反力モータ12の回転角θに基づき、ステアリングホイール5の操舵角θを演算する。
【0036】
反力トルク指令値演算部52は、操舵トルクThおよび車速Vに基づき反力トルク指令値Tを演算する。反力トルク指令値Tは、反力モータ12に発生させるべき、操舵反力の目標値である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向のトルクである。操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、反力トルク指令値Tの絶対値は、より大きくなる。
【0037】
通電制御部53は、反力トルク指令値Tに応じた電力を反力モータ12へ供給する。具体的には、通電制御部53は、反力トルク指令値Tに基づき、反力モータ12に対する電流指令値を演算する。通電制御部53は、反力モータ12に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、給電経路に生じる電流Iの値を検出する。電流Iの値は、反力モータ12に供給される電流の値である。通電制御部53は、電流指令値と電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ12に対する給電を制御する。これにより、反力モータ12は、反力トルク指令値Tに応じたトルクを発生する。
【0038】
転舵制御部60は、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64を有している。
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ31の回転角θに基づき、ピニオン角θを演算する。ピニオン角θは、ピニオンシャフト21の回転角である。転舵モータ31とピニオンシャフト21とは、伝動機構32、変換機構33、および転舵シャフト22を介して連動する。このため、転舵モータ31の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して、転舵モータ31の回転角θからピニオン角θを求めることができる。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト22の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪6の転舵角θを反映する値である。
【0039】
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θに基づき目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、製品仕様などに応じて設定される舵角比が実現されるように、目標ピニオン角θ を演算する。舵角比は、操舵角θに対する転舵角θの比である。
【0040】
目標ピニオン角演算部62は、たとえば、車速Vなどの車両の走行状態に応じて舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるにつれて操舵角θに対する転舵角θが大きくなるように、目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが速くなるにつれて操舵角θに対する転舵角θが小さくなるように、目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θ を演算する。
【0041】
なお、製品仕様などによっては、目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態にかかわらず、舵角比が「1:1」となるように、目標ピニオン角θ を演算するようにしてもよい。
【0042】
ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ 、およびピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θが目標ピニオン角θ に追従するように、ピニオン角θのフィードバック制御を通じて、転舵トルク指令値T を演算する。転舵トルク指令値T は、転舵力の目標値である。
【0043】
通電制御部64は、転舵トルク指令値T に応じた電力を転舵モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部64は、転舵トルク指令値T に基づき、転舵モータ31に対する電流指令値を演算する。通電制御部64は、転舵モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ65を通じて、給電経路に生じる電流Iの値を検出する。電流Iの値は、転舵モータ31に供給される電流の値である。通電制御部64は、電流指令値と電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ31に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ31は転舵トルク指令値T に応じたトルクを発生する。
【0044】
<ピニオン角フィードバック制御部63の構成>
つぎに、ピニオン角フィードバック制御部63の構成について説明する。
図3に示すように、ピニオン角フィードバック制御部63は、減算器71、比例制御部72、積分制御部73、微分制御部74、および加算器75を有している。
【0045】
減算器71は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ と、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θとを取り込む。減算器71は、目標ピニオン角θ とピニオン角θとの差である偏差Δθを演算する。
【0046】
比例制御部72は、減算器71によって演算される偏差Δθに対して比例演算を実行することにより、偏差Δθに比例した値のトルク指令値Tp1を演算する。比例制御部72は、偏差Δθに比例ゲインを乗算することにより、トルク指令値Tp1を演算する。比例ゲインは、要求される制御特性を実現するようにチューニングされる定数である。
【0047】
積分制御部73は、減算器71によって演算される偏差Δθに対して積分演算を実行することにより、偏差Δθの積分値に比例した値のトルク指令値Tp2を演算する。積分制御部73は、偏差Δθを時間で積分し、その積分値に積分ゲインを乗算することにより、トルク指令値Tp2を演算する。積分ゲインは、要求される制御特性を実現するようにチューニングされる定数である。
【0048】
微分制御部74は、減算器71によって演算される偏差Δθに対して微分演算を実行することにより、偏差Δθの微分値に比例した値のトルク指令値Tp3を演算する。微分制御部74は、偏差Δθを時間で微分し、その微分値に微分ゲインを乗算することにより、トルク指令値Tp3を演算する。微分ゲインは、要求される制御特性を実現するようにチューニングされる定数である。
【0049】
加算器75は、3つのトルク指令値Tp1,Tp2,Tp3を加算することにより、転舵トルク指令値T を演算する。
<反力トルク指令値演算部52の構成>
つぎに、反力トルク指令値演算部52の構成について説明する。
【0050】
図4に示すように、反力トルク指令値演算部52は、アシストトルク指令値演算部81、軸力演算部82、および減算器83を有している。
アシストトルク指令値演算部81は、トルクセンサ42を通じて検出される操舵トルクT、および車速センサ41を通じて検出される車速Vを取り込む。アシストトルク指令値演算部81は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき、アシストトルク指令値T1を演算する。アシストトルク指令値T1は、操舵装置2が電動パワーステアリング装置である場合のアシストトルクの目標値に相当する。アシストトルクは、ステアリングホイール5の操舵を補助するための力である。アシストトルク指令値T1は、ステアリングホイール5の操舵方向と同じ方向のトルクである。操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、アシストトルク指令値T1の絶対値は、より大きくなる。
【0051】
軸力演算部82は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θ、電流センサ65を通じて検出される転舵モータ31の電流Iの値、車速センサ41を通じて検出される車速V、および操舵角演算部51により演算される操舵角θを取り込む。軸力演算部82は、ピニオン角θ、転舵モータ31の電流Iの値、車速V、および操舵角θに基づき、転舵シャフト22に作用する軸力を演算する。軸力演算部82は、演算される軸力をステアリングシャフト11に対するトルクに換算することにより、軸力トルクT2を演算する。
【0052】
減算器83は、アシストトルク指令値演算部81により演算されるアシストトルク指令値T1、および軸力演算部82により演算される軸力トルクT2を取り込む。減算器83は、アシストトルク指令値T1から軸力トルクT2を減算することにより、反力トルク指令値Tを演算する。
【0053】
<軸力演算部82の構成>
つぎに、軸力演算部82の構成について説明する。
図5に示すように、軸力演算部82は、基本軸力演算部90、第1の制限軸力演算部91、第2の制限軸力演算部92、選択処理部93、加算器94、および換算器95を有している。
【0054】
基本軸力演算部90は、基本軸力F0を演算する。基本軸力F0は、転舵シャフト22に作用する基本的な軸力である。基本軸力F0は、つぎの3つの軸力(B1,B2,B3)のうちいずれか1つである。
【0055】
B1.角度軸力
角度軸力は、たとえばピニオン角θに応じた軸力である。基本軸力演算部90は、ピニオン角θに基づき、角度軸力を演算する。ピニオン角θの絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、角度軸力の絶対値は、より大きくなる。角度軸力の絶対値は、ピニオン角θの絶対値の増加に対して、線形的に増加する。角度軸力は、ピニオン角θの符号と同符号である。角度軸力は、路面状態あるいは転舵輪6を介して転舵シャフト22に作用する力が反映されない軸力である。
【0056】
B2.電流軸力
電流軸力は、転舵モータ31の電流Iの値に応じた軸力である。基本軸力演算部90は、転舵モータ31の電流Iの値に基づき、電流軸力を演算する。転舵モータ31の電流Iの値は、路面摩擦抵抗などの路面状態に応じた外乱が転舵輪6に作用することに起因して、目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの間に発生する差に応じて変化する。すなわち、転舵モータ31の電流Iの値には、転舵輪6に作用する実際の路面状態が反映される。このため、転舵モータ31の電流Iの値に基づき、路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。基本軸力演算部90は、たとえば車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ31の電流Iの値に乗算することにより、電流軸力を演算する。
【0057】
B3.混合軸力
混合軸力は、角度軸力と電流軸力とが所定の比率で混合された軸力である。基本軸力演算部90は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数に応じて、角度軸力および電流軸力に対する分配比率を個別に設定する。基本軸力演算部90は、角度軸力および電流軸力に対して、個別に設定される分配比率を乗じて得られた値を合算することにより、混合軸力を演算する。
【0058】
第1の制限軸力演算部91は、第1の制限軸力F1を演算する。第1の制限軸力F1は、ステアリングホイール5の操作範囲を仮想的に制限するための、いわゆるエンド軸力である。第1の制限軸力F1は、ステアリングホイール5の操作位置が操作範囲の限界位置に近づいたとき、または転舵シャフト22が物理的な可動範囲の限界位置に近づいたとき、反力モータ12が発生する操舵方向と反対方向のトルクを急激に増大させる観点に基づき演算される。
【0059】
ステアリングホイール5の操作範囲の限界位置は、たとえばステアリングホイール5に設けられるスパイラルケーブルの長さによって決まる。転舵シャフト22の物理的な可動範囲の限界位置は、いわゆるエンド当てが生じることによって、転舵シャフト22の移動範囲が物理的に規制される位置である。エンド当ては、転舵シャフト22の端部であるラックエンド24がハウジング23に突き当たることである。
【0060】
第1の制限軸力演算部91は、操舵角θあるいはピニオン角θに基づき、第1の制限軸力F1を演算する。操舵角θあるいはピニオン角θが仮想エンド角に達した以降、第1の制限軸力F1の絶対値は、直線的に急激に増加する。仮想エンド角は、たとえば、ステアリングホイール5の仮想的な操作範囲の限界位置に対応する操舵角θの近傍値、あるいは転舵シャフト22の仮想的な可動範囲の限界位置に対応するピニオン角θの近傍値に設定される。仮想エンド角は、操舵制御装置1の記憶装置に記憶されている。
【0061】
なお、第1の制限軸力演算部91は、車速Vに応じて仮想エンド角を演算するようにしてもよい。第1の制限軸力演算部91は、たとえば車速Vが速くなるほど、より小さい絶対値の仮想エンド角を演算する。
【0062】
第2の制限軸力演算部92は、第2の制限軸力F2を演算する。第2の制限軸力F2は、たとえば車両が停車状態から発進する場合において、転舵輪6が縁石などの障害物に当たっている状況を運転者に操舵反力を通じて伝えるための、いわゆる縁石軸力である。第2の制限軸力F2は、転舵輪6が障害物に当たっている状況下において、さらなる切り込み操舵あるいは切り返し操舵を制限するために、反力モータ12が発生する操舵方向と反対方向のトルクを急激に増大させる観点に基づき演算される。第2の制限軸力演算部92は、たとえば転舵モータ31の電流Iの値に基づき、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定する。第2の制限軸力演算部92は、転舵輪6が障害物に当たっている旨判定されるとき、操舵角θに基づき、第2の制限軸力F2を演算する。
【0063】
選択処理部93は、第1の制限軸力演算部91により演算される第1の制限軸力F1、および第2の制限軸力演算部92により演算される第2の制限軸力F2を取り込む。選択処理部93は、第1の制限軸力F1および第2の制限軸力F2のうち、絶対値の大きい方の軸力を選択する。選択処理部93は、選択される第1の制限軸力F1または第2の制限軸力F2を、軸力トルクT2の演算に使用される最終制限軸力F3として設定する。
【0064】
加算器94は、基本軸力演算部90により演算される基本軸力F0と、選択処理部93により設定される最終制限軸力F3とを加算することにより最終軸力F4を演算する。最終軸力F4は、軸力トルクT2の演算に使用される最終的な軸力である。加算器94は、最終軸力F4を演算する最終軸力演算部である。
【0065】
換算器95は、加算器94により演算される最終軸力F4をステアリングシャフト11に対するトルクに換算することにより、軸力トルクT2を演算する。
<操舵制御装置1の懸念事項>
操舵制御装置1は、つぎのような懸念事項を有する。すなわち、微分制御部74は、目標ピニオン角θ とピニオン角θとの差である偏差Δθの変化率(傾き)に比例した大きさのトルク指令値Tp3を演算する。すなわち、微分制御部74は、偏差Δθの変化する方向を予測して、転舵モータ31を制御する。微分制御部74の存在は、振動的な応答の抑制、および応答速度の向上などの利点を有する。その一方で、微分制御部74は、偏差Δθの変化を敏感に捉える。このため、目標ピニオン角θ のわずかな変動に対しても、転舵モータ31に供給される電流Iの値が変動する。したがって、前述したように、転舵モータ31の電流Iの値に基づき、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定する場合、微分制御部74の特徴的な動作に起因して、転舵輪6が障害物に接触していることが適切に検出されないおそれがある。そこで、本実施の形態では、第2の制限軸力演算部92として、つぎの構成を採用している。
【0066】
<第2の制限軸力演算部92の構成>
図6に示すように、第2の制限軸力演算部92は、換算器101、判定部102、角度偏差演算部103、および軸力演算部104を有している。
【0067】
換算器101は、比例制御部72により演算されるトルク指令値Tp1を取り込む。トルク指令値Tp1は、転舵モータ31が発生するトルクに対する指令値である。換算器101は、トルク指令値Tp1を転舵モータ31の電流値に換算することにより、電流指令値Ibp を演算する。電流指令値Ibp は、転舵モータ31に対する最終的な電流指令値の一成分である。
【0068】
判定部102は、転舵輪6が縁石などの障害物に当たっているかどうかを判定する。判定部102は、換算器101により演算される電流指令値Ibp を取り込む。判定部102は、たとえば、つぎの2つの判定条件C1,C2の双方が成立するとき、転舵輪6が障害物に当たっている旨判定する。
【0069】
C1.│Ibp │≧Ith
C2.T≧Tth
ただし、判定条件C1において、「Ith」は、電流しきい値である。判定条件C2において、「T」は、判定条件C1が成立した時点からの経過時間である。「Tth」は、時間しきい値である。時間しきい値は、転舵輪6が障害物に当たっている状態であることを判定するために必要とされる時間に設定される。
【0070】
電流しきい値Ithは、つぎの観点に基づき設定される。すなわち、転舵輪6が障害物に当たっている場合、転舵輪6は切り増し側あるいは切り戻し側へ向けて転舵することが困難となる。この状態でステアリングホイール5が切り増し側あるいは切り戻し側へ向けて操舵されるとき、その操舵に応じて目標ピニオン角θ が増大するのに対して、実際のピニオン角θは一定の値に維持される。このため、転舵輪6が障害物に当たっている状況で、さらに転舵輪6を転舵しようとするほど、目標ピニオン角θ とピニオン角θとの差である偏差Δθの値が増大する。したがって、転舵輪6が障害物に当たっている状況で、さらに転舵輪6を転舵しようとするほど、比例制御部72により演算されるトルク指令値Tp1、ひいては電流指令値Ibp の絶対値が増大する。このため、電流指令値Ibp の絶対値が大きいときほど、転舵輪6が障害物に当たっている蓋然性が高いといえる。電流指令値Ibp は、転舵輪6が障害物に当たっている状況の確からしさの度合いを示す値である。この観点に基づき、電流しきい値Ithは、実験あるいはシミュレーションにより設定される。
【0071】
判定部102は、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかの判定結果に応じて、フラグFの値をセットする。判定部102は、転舵輪6が障害物に当たっていない旨判定されるとき、すなわち判定条件C1が成立しないとき、フラグFの値を「0」にセットする。判定部102は、転舵輪6が障害物に当たっている旨判定されるとき、すなわち判定条件C1が成立するとき、フラグFの値を「1」にセットする。
【0072】
角度偏差演算部103は、判定部102によりセットされるフラグFの値、および操舵角演算部51により演算される操舵角θを取り込む。
角度偏差演算部103は、フラグFの値が「1」であるとき、次式(D1)に示されるように、その時点の操舵角θを基準角θs0として保持する。これは、転舵輪6が障害物に当たっている旨判定された時点の操舵角θを第2の制限軸力F2の発生開始位置とし、転舵輪6が障害物に当たっている旨判定された時点の操舵角θを基準とする操舵角θの変化量に応じた第2の制限軸力F2を発生させることを意図している。
【0073】
θs0=θ …(D1)
角度偏差演算部103は、フラグFの値が「0」であるとき、操舵角θを保持しない。すなわち、角度偏差演算部103は、フラグFの値が「0」であるとき、その時々の操舵角θを基準角θs0として設定する。このため、フラグFの値が「0」であるとき、基準角θs0は、その時々の操舵角θと同じ値となる。
【0074】
角度偏差演算部103は、次式(D2)に示されるように、角度偏差Δθを演算する。角度偏差Δθは、現在の操舵角θと基準角θs0との差である。
Δθ=θ-θs0 …(D2)
フラグFの値が「0」であるとき、角度偏差Δθの値は「0」である。これは、フラグFの値が「0」であるとき、理論上、基準角θs0は、その時々の操舵角θと同じ値になるからである。
【0075】
フラグFの値が「1」であるとき、角度偏差Δθは、基準角θs0を基準とする操舵角θの変化量に応じた値となる。
軸力演算部104は、角度偏差演算部103により演算される角度偏差Δθを取り込む。軸力演算部104は、角度偏差Δθに基づき、第2の制限軸力F2を演算する。軸力演算部104は、たとえば制限軸力マップを使用して、第2の制限軸力F2を演算する。制限軸力マップは、操舵制御装置1の記憶装置に格納されている。
【0076】
図7のグラフに示すように、制限軸力マップM1は、横軸を角度偏差Δθの絶対値、縦軸を第2の制限軸力F2の絶対値とする二次元マップである。制限軸力マップM1は、つぎの特性を有する。すなわち、特性線L1に示されるように、角度偏差Δθの絶対値が増加するにつれて、第2の制限軸力F2の絶対値は、より大きくなる。ただし、角度偏差Δθの絶対値が増加するにつれて、特性線L1の傾きは徐々に大きくなる。すなわち、特性線L1は、正の逓増的な傾きを有する曲線である。傾きは、角度偏差Δθの絶対値に対する第2の制限軸力F2の絶対値の変化の割合である。
【0077】
第1の制限軸力F1は、操舵角θあるいはピニオン角θの絶対値の増加に対して、直線的かつ急激に増加する。これに対し、第2の制限軸力F2は、角度偏差Δθの絶対値の増加に対して、緩やかに増加する。これは、転舵輪6が障害物に当たった状態で、さらに転舵輪6が転舵しようとするとき、タイヤの弾性変形に伴い反力が緩やかに増加することを再現することを意図している。
【0078】
<実施の形態の作用>
本実施の形態は、つぎの作用を奏する。
ステアリングホイール5の操作位置が操作範囲の限界位置の近傍位置に達していないとき、あるいは転舵シャフト22が物理的な可動範囲の限界位置の近傍位置に達していないとき、第1の制限軸力演算部91は、第1の制限軸力F1を演算しない。また、第2の制限軸力演算部92は、転舵輪6が障害物に当たっている旨判定されないとき、第2の制限軸力F2を演算しない。すなわち、第1の制限軸力F1の値および第2の制限軸力F2の値は、共に「0」である。このため、基本軸力演算部90により演算される基本軸力F0が最終軸力F4となる。最終軸力F4をトルクに換算した軸力トルクT2が反力トルク指令値Tに反映されることによって、車両挙動あるいは路面状態に応じた操舵反力がステアリングホイール5に付与される。運転者は、ステアリングホイール5を介した操舵反力を手応えとして感じることにより、車両挙動あるいは路面状態を把握することが可能となる。
【0079】
ステアリングホイール5の操作位置が操作範囲の限界位置に近づいたとき、あるいは転舵シャフト22が物理的な可動範囲の限界位置に近づいたとき、第1の制限軸力演算部91は、操舵角θあるいはピニオン角θに応じた第1の制限軸力F1を演算する。このため、基本軸力F0に第1の制限軸力F1が加算された値が最終軸力F4となる。最終軸力F4をトルクに換算した軸力トルクT2が反力トルク指令値Tに反映されることによって、操舵反力が急激に増大する。このため、運転者は操舵角θの絶対値が大きくなる方向へステアリングホイール5を操作することが難しくなる。したがって、運転者は、ステアリングホイール5を介した手応えとして突き当り感を感じることによって、ステアリングホイール5が仮想的な操作範囲の限界位置に至ったこと、あるいは転舵シャフト22が物理的な可動範囲の限界位置に近づいたことを認識可能となる。
【0080】
転舵輪6が障害物に当たっている状況下において、さらなる切り込み操舵あるいは切り返し操舵が行われるとき、第2の制限軸力演算部92は、角度偏差Δθに応じた第2の制限軸力F2を演算する。角度偏差Δθは、転舵輪6が障害物に当たっている旨判定された時点の操舵角θである基準角θs0と、現在の操舵角θとの差である。このため、基本軸力F0に第2の制限軸力F2が加算された値が最終軸力F4となる。最終軸力F4をトルクに換算した軸力トルクT2が反力トルク指令値Tに反映されることによって、操舵反力が急激に増大する。このため、運転者は、さらなる切り込み操舵あるいは切り返し操舵を行うことが難しくなる。したがって、運転者は、ステアリングホイール5を介した手応えとして突き当り感を感じることによって、転舵輪6が障害物に当たっていることを認識可能となる。
【0081】
第2の制限軸力F2は、第1の制限軸力F1に比べて、角度偏差Δθの絶対値の増加に対して緩やかに増加する。このため、運転者は、転舵輪6が障害物に当たった状態で、さらに転舵輪6を転舵させようとする実際の状況により近い手応えを、ステアリングホイール5を介して感じることができる。
【0082】
<実施の形態の効果>
本実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1)微分制御部74は、偏差Δθの変化を敏感に捉える。このため、目標ピニオン角θ のわずかな変動に対して、微分制御部74により演算されるトルク指令値Tp3、ひいては転舵モータ31に供給される電流Iの値が変動する。したがって、転舵モータ31の電流Iの値に基づき、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定する場合、転舵輪6が障害物に接触していることが適切に検出されないおそれがある。
【0083】
この点、本実施の形態において、第2の制限軸力演算部92は、比例制御部72により演算されるトルク指令値Tp1に基づき電流指令値Ibp を演算し、その演算される電流指令値Ibp に基づき転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定する。微分制御部74の特徴的な動作の影響を受けないため、転舵モータ31の電流Iの値に基づき転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定する場合に比べて、より正確に転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定することができる。
【0084】
(2)第2の制限軸力演算部92は、電流指令値Ibp と電流しきい値Ithとを比較することにより、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定する。電流指令値Ibp と電流しきい値Ithとを比較するだけでよいので、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを簡単に判定することができる。
【0085】
(3)第2の制限軸力演算部92は、電流指令値Ibp の絶対値が電流しきい値Ith以上となる状態が、時間しきい値Tth以上、継続するとき、転舵輪6が障害物に当たっている旨判定する。このため、瞬間的に、電流指令値Ibp の絶対値が電流しきい値Ith以上の値に達した場合、このことによって転舵輪6が障害物に当たっている旨誤って判定することが抑制される。したがって、より正確に転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定することができる。
【0086】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第2の制限軸力演算部92は、先の2つの判定条件C1,C2に加え、つぎの判定条件C3が成立するかどうかを判定してもよい。このようにすれば、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを、より正確に判定することができる。
【0087】
C3.│ω│≦ωth
ただし、「ω」は、ピニオン角速度である。「ωth」は、角速度しきい値である。
ピニオン角速度は、つぎのようにして得られる。すなわち、図6に二点鎖線で示すように、第2の制限軸力演算部92は、微分器105を有している。微分器105は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを微分することによりピニオン角速度を演算する。
【0088】
角速度しきい値ωthは、つぎの観点に基づき設定される。すなわち、転舵輪6が障害物に当たっている状況下においては、転舵輪6を転舵させることが困難である。このため、転舵輪6の転舵速度、ひいてはピニオン角速度ωの絶対値が小さいほど、転舵輪6が障害物に当たっている蓋然性が高いといえる。ピニオン角速度ωは、転舵輪6が障害物に当たっている状況の確からしさの度合いを示す値である。この観点に基づき、角速度しきい値ωthは、回転角センサ44のノイズなどによる公差を考慮しつつ、実験あるいはシミュレーションにより設定される。
【0089】
・第2の制限軸力演算部92は、判定条件C1のみに基づき、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定するようにしてもよい。
・第2の制限軸力演算部92は、電流指令値Ibp と電流しきい値Ithとを比較することに代えて、比例制御部72により演算されるトルク指令値Tp1とトルクしきい値とを比較することにより、転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定するようにしてもよい。トルク指令値Tp1は、微分制御部74の動作の影響を受けない。このため、転舵モータ31に供給される電流Iの値に基づき転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定する場合に比べて、より適切に転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定することができる。この場合、第2の制限軸力演算部92として、換算器101を割愛した構成を採用することができる。
【0090】
・第2の制限軸力演算部92は、比例制御部72により演算されるトルク指令値Tp1に代えて、偏差Δθを取り込むようにしてもよい。この場合、第2の制限軸力演算部92は、比例制御部72に相当する演算部を有する。演算部は、偏差Δθに比例ゲインを乗算することにより、トルク指令値Tp1を演算する。判定部102は、演算部により演算されるトルク指令値Tp1に基づき転舵輪6が障害物に当たっているかどうかを判定する。
【0091】
・ピニオン角フィードバック制御部63は、ダンピング用のトルク指令値を演算する演算部を有していてもよい。演算部は、たとえば、ピニオン角速度ωにダンピング用のゲインを乗算することにより、ダンピング用のトルク指令値を演算する。ダンピング用のゲインは、偏差Δθの値が増加するにつれて、徐々に増加する。偏差Δθに対するゲインの変化の割合である傾きは、偏差Δθの値が増加するにつれて、徐々に大きくなる。加算器75は、比例制御部72により演算されるトルク指令値Tp1と、積分制御部73により演算されるトルク指令値Tp2と、微分制御部74により演算されるトルク指令値Tp3と、ダンピング用のトルク指令値とを加算することにより、転舵トルク指令値T を演算する。転舵トルク指令値T にダンピング用のトルク指令値が反映されることにより、偏差Δθに対する転舵トルク指令値T を安定化することができる。
【0092】
・ピニオン角フィードバック制御部63として、積分制御部73を割愛した構成を採用してもよい。ピニオン角フィードバック制御部63は、PD制御(比例微分制御)を実行する。
【0093】
・軸力演算部82として、第1の制限軸力演算部91を割愛した構成を採用してもよい。この場合、たとえば、ステアリングホイール5の操作範囲を機械的に制限するストッパ機構を操舵機構3に設けるようにしてもよい。
【0094】
・操舵装置2は、クラッチを有していてもよい。この場合、ステアリングシャフト11とピニオンシャフト21とは、クラッチを介して連結される。クラッチは、たとえば、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチである。操舵制御装置1は、クラッチの断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチが切断されるとき、ステアリングホイール5と転舵輪6との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチが接続されるとき、ステアリングホイール5と転舵輪6との間の動力伝達が機械的に連結される。
【0095】
・左右の転舵輪6は、互いに独立して転舵可能であってもよい。この場合、操舵装置2は、左右の転舵輪6に対応する2つの転舵モータを有する。操舵制御装置1は、各転舵輪6に対応する転舵モータの制御を通じて、各転舵輪6を独立して転舵させる。
【符号の説明】
【0096】
1…操舵制御装置
5…ステアリングホイール
6…転舵輪
12…反力モータ
21…ピニオンシャフト(シャフト)
31…転舵モータ
50…反力制御部
72…比例制御部
73…積分制御部
74…微分制御部
75…加算器
90…基本軸力演算部
92…第2の制限軸力演算部(制限軸力演算部)
94…加算器(最終軸力演算部)
102…判定部
F0…基本軸力
F2…第2の制限軸力(制限軸力)
F4…最終軸力
…転舵モータの電流値
bp …電流指令値
th…電流しきい値
…転舵トルク指令値
p1…トルク指令値(第1のトルク指令値)
p2…トルク指令値(第3のトルク指令値)
p3…トルク指令値(第2のトルク指令値)
…反力トルク指令値
th…時間しきい値
θ …目標ピニオン角(目標角度)
θ…ピニオン角(実角度)
Δθ…偏差
ω…角速度
ωth…角速度しきい値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7