(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100540
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】車両傾転装置
(51)【国際特許分類】
B60S 5/00 20060101AFI20230711BHJP
B23P 19/00 20060101ALI20230711BHJP
B60L 53/80 20190101ALI20230711BHJP
【FI】
B60S5/00
B23P19/00 304H
B60L53/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001294
(22)【出願日】2022-01-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://www.env.go.jp/recycle/R2kinzokuzissyou_mitsubishi2.pdfのアドレスのウェブサイトで公開された成果報告書 令和3年4月9日公開
(71)【出願人】
【識別番号】000159618
【氏名又は名称】吉川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 恭典
(72)【発明者】
【氏名】村岡 桂次
(72)【発明者】
【氏名】龍 琳太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 博範
(72)【発明者】
【氏名】倉光 紀一郎
(72)【発明者】
【氏名】井形 末多
(72)【発明者】
【氏名】淺野 仁
【テーマコード(参考)】
3D026
5H125
【Fターム(参考)】
3D026BA02
3D026BA27
3D026BA35
3D026BA38
3D026BA44
5H125AA01
5H125AC12
5H125FF06
(57)【要約】
【課題】車両を安定して傾転させることのできる車両傾転装置を提供する。
【解決手段】車両Zを載せる車両受フレーム1と、車両受フレーム1の前部を支持固定して円弧方向に回転可能な円弧状の前部外リング2Aと、前部外リング2Aに沿って進退可能に前部外リング2Aに内蔵され、前進したときに前部外リング2Aと結合して閉じた円形リングを形成する円弧状の前部内リング3Aと、車両受フレーム1の後部を支持固定して円弧方向に回転可能な円弧状の後部外リング2Bと、後部外リング2Bに沿って進退可能に後部外リング2Bに内蔵され、前進したときに後部外リング2Bと結合して閉じた円形リングを形成する円弧状の後部内リング3Bと、車両受フレーム1に載せられた車両Zの前部を車両受フレーム1に対して固定する前部車両固定機構4Aと、車両受フレーム1に載せられた車両Zの後部を車両受フレーム1に対して固定する後部車両固定機構4Bとを備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を載せる車両受フレームと、
前記車両受フレームの前部を支持固定して円弧方向に回転可能な円弧状の前部外リングと、
前記前部外リングに沿って進退可能に当該前部外リングに内蔵され、前進したときに前記前部外リングと結合して閉じた円形リングを形成する円弧状の前部内リングと、
前記車両受フレームの後部を支持固定して円弧方向に回転可能な円弧状の後部外リングと、
前記後部外リングに沿って進退可能に当該後部外リングに内蔵され、前進したときに前記後部外リングと結合して閉じた円形リングを形成する円弧状の後部内リングと、
前記車両受フレームに載せられた車両の前部を当該車両受フレームに対して固定する前部車両固定機構と、
前記車両受フレームに載せられた車両の後部を当該車両受フレームに対して固定する後部車両固定機構と、を備える車両傾転装置。
【請求項2】
前部内リングが前記前部外リングと結合して閉じた円形リングを形成したことを検知する前部リング検知手段と、前記前部リング検知手段からの検知信号を受けて、前記前部内リングが前記前部外リングに対して進退不能となるように機械的にロックする前部リングロック手段と、
後部内リングが前記前部外リングと結合して閉じた円形リングを形成したことを検知する後部リング検知手段と、前記後部リング検知手段からの検知信号を受けて、前記後部内リングが前記後部外リングに対して進退不能となるように機械的にロックする後部リングロック手段とを備える、請求項1に記載の車両傾転装置。
【請求項3】
前記前部外リングは、前記車両受フレームに車両を載せるときに当該車両の前部が通過する位置に開口を有し、
前記後部外リングは、前記車両受フレームに車両を載せるときに当該車両の後部が通過する位置に開口を有する、請求項1又は2に記載の車両傾転装置。
【請求項4】
前記前部車両固定機構は、車両の前部に巻付く前部ベルトスリングと、前記前部ベルトスリングの両端に連結された一対の前部シリンダと、前記前部ベルトスリングの中央部をリフトアップする前部リフトアップ機構とを含み、前記前部ベルトスリングを車両の前部に巻付けて固縛する固縛位置と前記前部ベルトスリングが車両の前部の前方に退避する退避位置とに搖動可能であり、
前記後部車両固定機構は、車両の後部に巻付く後部ベルトスリングと、前記後部ベルトスリングの両端に連結された一対の後部シリンダと、前記後部ベルトスリングの中央部をリフトアップする後部リフトアップ機構とを含み、前記後部ベルトスリングを車両の後部に巻付けて固縛する固縛位置と前記後部ベルトスリングが車両の後部の後方に退避する退避位置とに搖動可能である、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両傾転装置。
【請求項5】
前記車両受フレームは、車両の前輪及び後輪を載せて当該車両の前後方向の位置決めをする輪留めと、車両のサイドシルフランジを左右方向両側から挟むように保持して当該車両の左右方向の位置決めをするガイド部とを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両傾転装置。
【請求項6】
前記車両受フレームには、車両の底部に設置されているバッテリーユニットを押圧支持可能なバッテリー支持部を含むバッテリー支持機構が、当該車両受フレームの前後方向に移動可能に取り付けられており、前記バッテリー支持部は前記バッテリーユニットに対して進退可能である、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両傾転装置。
【請求項7】
前記前部外リング及び前記後部外リングは、前記車両受フレームに載せて固定した車両が180度傾転するまで回転可能であると共に90度傾転した位置で回転停止可能であり、前記90度傾転した位置において前記前部外リング及び前記後部外リングの少なくとも一方が回転不能となるように、前記前部外リング及び前記後部外リングの少なくとも一方を、前記前部外リングを支持する前部支持架台及び前記後部外リングを支持する後部支持架台の少なくとも一方に対して機械的にロックするロック機構を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の車両傾転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池を取り出す際に、その車両を傾転させる車両傾転装置に関する。なお、本発明において「車両を傾転させる」とは、車両の前後方向の軸周りに車両を回転させることをいう。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の普及により、リチウムイオン電池(以下「LIB」という。)の使用量は増加傾向にある。一般にLIBは多数のセル又はモジュールに制御用回路を組み合わせたユニットとして車載される。このようにLIBユニットを構成する素材をリユース又はリサイクルすることによるCO2排出量削減効果は大きく、LIBを循環するシステムの構築が求められている。
【0003】
LIBユニットは車両の底部に設置されていることが多い。そのためLIBユニットを車両から取り出す作業は、従来一般的にリフトで持ち上げられた車両の下部に作業者が入り込んで行われていた。このようにLIBユニットを車両から取り出す作業は、作業者が車体の下部に入り込んで上向き姿勢で数多くの部品を取り外すことになるため、部品やアンダーカバー等に付着した泥等の落下もあり作業環境が悪いと共に、300~400kgの重量物であるLIBユニットの落下の危険性を伴っている。そのため、LIBユニットを車両から取り出す際の作業者の安全性や作業効率の改善が求められている。
【0004】
一方、特許文献1には、車両を昇降及び旋回(傾転)させてこの車両を解体作業がしやすいポジションに位置決めするための自動車解体用装置が開示されている。具体的に特許文献1の装置は、縦長の装置本体に昇降可能に取り付けた昇降体から旋回可能なアームを突設し、アームに自動車受台とクランプを設け、昇降体を昇降させて前記受台とクランプとに挟着された自動車を任意の高さまで昇降させ、アームを旋回させて同自動車を任意の角度に回転させることができるようにしたものである。
【0005】
そこで、車両からLIBユニットを取り出す際に、特許文献1の装置を使用してその車両を傾転させることが考えられる。しかし、特許文献1の装置において自動車を挟着する自動車受台とクランプは、縦長の装置本体に昇降可能に取り付けた昇降体から突設したアームに設けられている。すなわち、特許文献1の装置において自動車は、一端を固定端、他端を自由にした片持ち式のアームに設けた自動車受台とクランプによって挟着されるから、その自動車を傾転させると、自動車の重量によってアームが撓むなどして傾転中の自動車の安定性が損なわれるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、車両を安定して傾転させることのできる車両傾転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、次の車両傾転装置が提供される。
車両を載せる車両受フレームと、
前記車両受フレームの前部を支持固定して円弧方向に回転可能な円弧状の前部外リングと、
前記前部外リングに沿って進退可能に当該前部外リングに内蔵され、前進したときに前記前部外リングと結合して閉じた円形リングを形成する円弧状の前部内リングと、
前記車両受フレームの後部を支持固定して円弧方向に回転可能な円弧状の後部外リングと、
前記後部外リングに沿って進退可能に当該後部外リングに内蔵され、前進したときに前記後部外リングと結合して閉じた円形リングを形成する円弧状の後部内リングと、
前記車両受フレームに載せられた車両の前部を当該車両受フレームに対して固定する前部車両固定機構と、
前記車両受フレームに載せられた車両の後部を当該車両受フレームに対して固定する後部車両固定機構と、を備える車両傾転装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両を載せる車両受フレームの前部及び後部をそれぞれ前部外リング及び後部外リングで支持固定して車両を傾転させるから、車両を安定して傾転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である車両傾転装置の全体構成を示す斜視図。
【
図2】
図1の車両傾転装置の車両受フレームに車両を載せた状態を示す斜視図。
【
図3】
図1の車両傾転装置の下部の要部を示す斜視図。
【
図6】車両傾転装置の前部側の全体構成を示す斜視図。
【
図11】車両を車両受フレーム1に固定すると共に、前部内リング及び後部内リング3Bをそれぞれ前部外リング及び後部外リングと結合するまで前進させてそれぞれ閉じた円形リングを形成した状態を示す斜視図。
【
図12】車両受フレームに載せて固定した車両を90度傾転させた状態を示す斜視図。
【
図14】車両受フレームに載せて固定した車両を180度傾転させた状態を示す斜視図。
【
図15】バッテリー支持機構のバッテリー支持部でLIBユニットを押圧支持した状態を示す斜視図。
【
図16】車両からLIBユニットを取り出した状態を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明の一実施形態である車両傾転装置の全体構成を斜視図で示している。同図に示す車両傾転装置Xは、車両受フレーム1、前部外リング2A、前部内リング3A、後部外リング2B、後部内リング3B、前部車両固定機構4A及び後部車両固定機構4Bを備えている。また、車両傾転装置Xに隣接してロボットYが設置されている。以下、車両傾転装置Xの各部の構成について説明する。
【0012】
まず、車両受フレーム1について説明する。車両受フレーム1には
図2に示すように車両Zが載せられる。なお、本実施形態において車両Zは電気自動車であり、車両Zの底部にはバッテリーユニットとしてLIBユニットが設置されている。
図3に、車両受フレーム1を含む車両傾転装置Xの下部の要部を斜視図で示している。同図に明確に表れているように、車両受フレーム1は、車両Zの前輪及び後輪を載せて車両Zの前後方向の位置決めをする輪留め11を4箇所に有すると共に、車両Zのサイドシルフランジを左右方向両側から挟むように保持して車両Zの左右方向の位置決めをするガイド部12を4箇所に有する。また、本実施形態において車両Zは、後述するようにフォークリフトを使用して車両受フレーム1に載せられる。その際、車両Zの左右方向の位置決めをするために、車両受フレーム1には前後左右の4箇所に位置決めガイド13が設けられている。
【0013】
更に、本実施形態において車両受フレーム1には、車両Zの左右方向の位置を確認するために、車両受フレーム1の左右方向一側の前後方向2箇所に車両位置センサ14が設けられている。車両位置センサ14は、
図4及び
図5に示すように車両Zの側部に接触するセンサロッド141を有し、このセンサロッド141が車両受フレーム1の側面に設けたセンサ取付部15に取り付けられている。具体的にはセンサロッド141の下部がセンサ取付部15内のセンサ取付軸151に装着され、センサロッド141はセンサ取付軸151周りに回転可能となっている。また、センサロッド141には、車両受フレーム1の側面においてセンサ取付部15の上方に設けた引張ばね16の一端が連結されている。これにより、車両受フレーム1に車両Zが載せられていない状態では、
図5に示すように、センサロッド141の下端部は車両受フレーム1の外側に位置することになる。また、センサ取付部15の下方には、第1センサ部142と第2センサ部143が設けられている。第1センサ部142は第2センサ部143より車両受フレーム1の外側に位置する。第1センサ部142と第2センサ部143はいずれも光センサであり、センサロッド141の下端部が来たときに遮光されることにより、センサロッド141の下端部の位置を検出できる。
本実施形態では、車両受フレーム1に車両Zが載せられていない状態では、
図5に示すようにセンサロッド141の下端部は第1センサ部142の外側に位置する。そして車両受フレーム1に車両Zが載せられて、その車両Zの左右方向の位置が適正であるときにセンサロッド141の下端部は第1センサ部142に位置する。一方、センサロッド141の下端部が第2センサ部143に位置するときは、車両Zの左右方向の位置は適正ではない。このように本実施形態では、第1センサ部142がセンサロッド141の下端部を検知したときに、車両Zの左右方向の位置が適正であると判断する。
【0014】
次に、前部外リング2A、前部内リング3A、後部外リング2B及び後部内リング3Bについて説明する。
図1に表れているように、前部外リング2Aは前部支持架台5Aに支持され、後部外リング2Bは前部支持架台5Bに支持されている。ここで、本実施形態において、前部側の前部外リング2A、前部内リング3A及び前部支持架台5Aの構成は、それぞれ後部側の後部外リング2B、後部内リング3B及び後部支持架台5Aの構成と実質的に同一であるから、以下の説明では前部側の構成を説明し、後部側の構成については説明を省略する。
【0015】
図6に前部側の全体構成を斜視図で示し、
図7に前部側の要部を斜視図で示している。また、
図8には前部側の要部を正面図で示している。上述の
図1及び
図2と共に
図6から
図8を参照すると、前部外リング2Aは円弧状であり、車両受フレーム1の前部を支持固定して円弧方向に回転可能となるように前部支持架台5Aに支持されている。前部支持架台5Aには、前部外リング2Aを円弧方向に回転させるための前部外リング駆動モータ6Aが設けられている。
図8に明確に表れているように、前部外リング駆動モータ6Aの回転軸61Aには一対のピニオンギヤ62Aが固定されており、この一対のピニオンギヤ62Aが、前部外リング2Aに形成されている一対のラックギヤ21Aに噛み合いながら回転することで、前部外リング2Aが円弧方向に回転する。なお、前部支持架台5Aには
図3に表れているように、前部外リング2Aの円弧方向の回転をガイドするためにガイドローラ51Aが複数箇所に設けられている。
【0016】
前部内リング3Aは前部外リング2Aと同様に円弧状であり、前部外リング2Aに沿って進退可能となるように前部外リング2Aに内蔵されている。そして、前部内リング3Aは
図6に示すように前進したときに、前部外リング2Aと結合して閉じた円形リングを形成する。前部外リング2Aには、前部内リング3Aを前部外リング2Aに沿って進退させるための前部内リング駆動モータ7Aが設けられている。
図8に明確に表れているように、前部内リング駆動モータ7Aの回転軸71Aにはピニオンギヤ72Aが固定されており、このピニオンギヤ72Aが、前部内リング3Aに形成されているラックギヤ31Aに噛み合いながら回転することで、前部内リング3Aが前部外リング2Aに沿って進退する。なお、前部外リング2Aには、前部内リング3Aの前部外リング2Aに沿った進退をガイドするためにガイドローラ22Aが複数箇所に設けられている。
【0017】
本実施形態では、
図6に示すように前部内リング3Aが前部外リング2Aと結合して閉じた円形リングを形成したことを検知する前部リング検知手段として、
図7及び
図8に表れているように近接センサ81Aを備えている。この近接センサ81Aは前部内リング3Aを跨ぐように前部外リング2Aに取り付けられており、
図8に表れているように前部内リング3Aの後端部に設けたドグ83Aが近接したことを検知する。すなわち本実施形態では、
図6に示すように前部内リング3Aが前記前部外リングと結合して閉じた円形リングを形成したときに、
図8に示すようにドグ83Aが近接センサ81Aに近接するようになっている。言い換えれば本実施形態では、近接センサ81Aがドグ83Aの近接を検知することにより、前部内リング3Aが前部外リング2Aと結合して閉じた円形リングを形成したことを検知する。また本実施形態では、近接センサ81Aの後方に別の近接センサ82Aを備えている。そして、本実施形態では前部内リング3Aを前進させる際、近接センサ82Aがドグ83Aの近接を検知したときに前部内リング3Aの前進速度を減速し、その後、近接センサ81Aがドグ83Aの近接を検知したときに前部内リング3Aの前進を停止するように、前部内リング駆動モータ7Aを制御するようにしている。また、図面には表れていないが、本実施形態では前部内リング3Aの前端部にもドグを設けており、前部内リング3Aを後退させる際、近接センサ81Aがドグの近接を検知したときに前部内リング3Aの後退速度を減速し、その後、近接センサ82Aがドグの近接を検知したときに前部内リング3Aの後退を停止するように、前部内リング駆動モータ7Aを制御するようにしている。
【0018】
上述の通り本実施形態では前部内リング3Aを前進させる際に、近接センサ81Aがドグ83Aの近接を検知することにより、前部内リング3Aが前部外リング2Aと結合して閉じた円形リングを形成したことを検知する。そして本実施形態では、近接センサ81Aからの検知信号を受けて、前部内リング3Aが前部外リング2Aに対して進退不能となるように機械的にロックする前部リングロック手段9Aを備えている。本実施形態において前部リングロック手段9Aは、
図7に表れているように、シリンダ91A、ロックピン92A及びシリンダ91Aとロックピン92Aを連結するリンクアーム93Aを有する。ロックピン92Aは、前部外リング2Aに設けられている貫通孔23Aに挿入されており、シリンダ91Aのロッド911Aの進退動作に伴い貫通孔23Aの中心軸に沿って進退する。すなわち、シリンダ91Aのロッド911Aを前進させると、リンクアーム93Aのアーム本体931Aが回転軸932Aを回転中心として反時計回り方向に回転し、その結果、ロックピン92Aが後退する。一方、シリンダ91Aのロッド911Aを後退させると、リンクアーム93Aのアーム本体931Aが回転軸932Aを回転中心として時計回り方向に回転し、その結果、ロックピン92Aが前進する。ここで、前部内リング3Aが前部外リング2Aと結合して閉じた円形リングを形成した状態では、図面には表れていないが前部内リング3Aに設けられている凹部が、前部外リング2Aの貫通孔23Aと整合する位置に来るようになっている。したがって、上述の近接センサ81Aからの検知信号を受けて、シリンダ91Aのロッド911Aを後退させることによりロックピン92Aが前進し、その先端部が前部内リング3Aに設けられている凹部に嵌まり込む。これにより、前部内リング3Aが前部外リング2Aに対して進退不能となるように機械的にロックされる。このように機械的にロックすることで、前部内リング3Aが前部外リング2Aと結合して閉じた円形リングを形成した状態を確実に維持でき安全性が向上する。
【0019】
次に、前部車両固定機構4A及び後部車両固定機構4Bについて説明する。なお、本実施形態において前部車両固定機構4A及び後部車両固定機構4Bの構成は実質的に同一であるから、以下の説明では後部車両固定機構4Bの構成を説明し、前部車両固定機構4Aの構成については説明を省略する。
【0020】
図9に、後部車両固定機構4Bの全体構成を背面図で示している。また
図10には、後部車両固定機構4Bの要部を拡大して側面図で示している。本実施形態において後部車両固定機構4Bは、車両Zの後部に巻付く後部ベルトスリング41Bと、後部ベルトスリングの両端に連結された一対の後部シリンダ42Bと、後部ベルトスリング41Bの中央部をリフトアップする後部リフトアップ機構43Bとを含む。
【0021】
後部ベルトスリング41Bの中央部は、車両受フレーム1の後部両側部に揺動可能に設けられた一対の支柱431Bの上端間に架け渡されたゴムバンド432Bに縫い付けられている。これにより、後部ベルトスリング41Bの中央部がリフトアップされる。また、後部ベルトスリング41Bの中央部の両端にはワイヤ433Bの一端が接続されており、ワイヤ433Bの他端にはバランスウエイト434Bが接続されている。そしてワイヤ433Bは支柱431Bの上端を乗り越えるように取り付けられている。このような構成により、ベルトスリング41Bの中央部の両端が、バランスウエイト434Bに作用する重力によってリフトアップされる。このように本実施形態では、一対の支柱431B、ゴムバンド432B、ワイヤ433B及びバランスウエイト434Bが後部リフトアップ機構43Bを構成する。
【0022】
図10に表れているように支柱431Bの下端部は、車両受フレーム1の後部側部に固定されたピン44B周りに回転可能であり、これにより支柱431Bは車両受フレーム1の前後方向に搖動可能となっている。また、後部シリンダ42Bは支柱431Bに固定されており、支柱431Bと共に揺動する。本実施形態では支柱431Bを揺動させるために、シリンダ45Bを車両受フレーム1に設けている。シリンダ45Bのロッド451Bの先端は支柱431Bの下端に接続されている。ここで
図10に示す状態では、支柱431Bが鉛直方向に起立しており、
図9に示すように後部車両固定機構4Bは、後部ベルトスリング41Bを車両Zの後部に巻付けて固縛する固縛位置にある。この
図10に示す状態から、シリンダ45Bのロッド451Bを前進させると支柱431Bは後方に搖動する。これにより後部車両固定機構4Bは、
図2に示すように後部ベルトスリング41Bが車両Zの後部の後方に退避する退避位置になる。また、退避位置の状態からシリンダ45Bのロッド451Bを後退させると、後部車両固定機構4Bは固縛位置まで揺動する。このように本実施形態では、シリンダ45Bのロッド451Bを進退させることにより、後部車両固定機構4Bは固縛位置と退避位置とに搖動する。
【0023】
なお、後部車両固定機構4Bは上述の構成に限定されるものではない。要するに、車両Zの後部を車両受フレーム1に対して固定するものであればよい。前部車両固定機構4Aについても同様に、車両Zの前部を車両受フレーム1に対して固定するものであればよい。
【0024】
本実施形態の車両傾転装置Xは、電気自動車である車両Zの底部に設置されているLIBユニットを取り出すときに使用される。そこで本実施形態では、
図1及び
図3に表れているように、LIBユニットを取り出す際にそのLIBユニットを支持するバッテリー支持機構10が車両受フレーム1に設けられている。具体的にはバッテリー支持機構10は、駆動モータ110で駆動ベルト111を駆動させることにより車両受フレーム1の前後方向に移動可能に取り付けられている。また、バッテリー支持機構10は、LIBユニットを押圧支持可能なバッテリー支持部101を有する。このバッテリー支持部101はLIBユニットに対して進退可能である。
【0025】
以下、車両ZからLIBユニットを取り出す手順について説明する。
まず、
図1に示すように、前部内リング3A及び後部内リング3Bをそれぞれ後退限まで後退させると共に、前部車両固定機構4A及び後部車両固定機構4Bをそれぞれ退避位置まで揺動させておく。これにより、前部外リング2A及び後部外リング2Bにそれぞれ車両の前部及び後部が通過する開口が確保される。
【0026】
次に、図示しないフォークリフトを使用して
図2に示すように車両Zを車両受フレーム1に車両を載せる。このとき、車両Zの前部は上述の前部外リング2Aの開口を通過し、車両Zの後部は上述の後部外リング2Bの開口を通過する。その後、車両Zの前輪及び後輪を輪留め11に載せると共に、車両Zのサイドシルフランジをガイド部12に差し込むことにより、車両Zの前後及び左右方向の位置決めをする。併せて、上述の車両位置センサ14により車両Zの左右方向の位置が適正な位置にあることを確認する。
【0027】
続いて
図11に示すように、前部車両固定機構4A及び後部車両固定機構4Bをそれぞれ固縛位置まで揺動させた後、それぞれ一対の前部シリンダ及び後部シリンダを駆動させることにより、前部ベルトスリングを車両Zの前部に巻付けて固縛すると共に後部ベルトスリングを車両Zの後部に巻付けて固縛する。これにより、車両Zの前部及び後部がそれぞれ車両受フレーム1に固定される。
【0028】
更に
図11に示すように、前部内リング3A及び後部内リング3Bをそれぞれ前部外リング2A及び後部外リング2Bと結合するまで前進させて、それぞれ閉じた円形リングを形成する。このとき先に説明した通り、前部リング検知手段及び後部リング検知手段がそれぞれ閉じた円形リングを形成したことを検知し、その検知信号を受けて、前部リングロック手段及び後部リングロック手段が、前部内リング3A及び後部内リング3Bがそれぞれ前部外リング2A及び後部外リング2Bに対して進退不能となるように機械的にロックする。
【0029】
次に、前部外リング2A及び後部外リング2Bを円弧方向の一方向(以下「順方向」という。)に回転させることにより、車両受フレーム1に載せて固定した車両Zを傾転させる。本実施形態において前部外リング2A及び後部外リング2Bは、車両受フレーム1に載せて固定した車両Zが180度傾転するまで回転可能であると共に、
図12に示すように90度傾転した位置で回転停止可能である。また本実施形態では、車両Zが90度傾転した位置において前部外リング2A及び後部外リング2Bの少なくとも一方が回転不能となるように、前部外リング2A及び後部外リング2Bの少なくとも一方を、前部支持架台5A及び後部支持架台5Bの少なくとも一方に対して機械的にロックするロック機構を含む。
【0030】
図13に、前部側のロック機構120Aを示している。同図に表れているように車両Zが90度傾転した位置において、前部外リング2Aに設けているロックピン挿入穴121Aが、前部支持架台5Aに固定されたロックピン保持部122Aに設けているロックピン挿入穴123Aと整合する位置に来るようになっている。そして、ロックピン挿入穴123Aとロックピン挿入穴121Aにロックピン124Aを挿入することにより、前部外リング2Aが前部支持架台5Aに対して機械的にロックされる。なお、本実施形態では後部側にも前部側と同じ構成のロック機構を設けているが、ロック機構は前部側と後部側の少なくとも一方に設けておけばよい。
【0031】
本実施形態では
図12に示すように車両Zを90度傾転させた状態において、図示していない作業者が、車両Zの底部に設置されているLIBユニットの下面を覆うアンダーカバーZ1を取り外すと共に、LIBユニットに接続されている電気系コネクタを取り外す。このよう本実施形態では、車両Zを90度傾転させた状態において作業者がアンダーカバーZ1等の取り外し作業を実施するところ、
図13に示したようなロック機構120Aがあることにより車両Zが90度傾転した状態から傾転することがないので、作業者の安全性が向上する。
【0032】
アンダーカバーZ1等の取り外し作業が完了したら、ロックピン124Aをロックピン挿入穴123A及びロックピン挿入穴121Aから抜き取ることによりロック機構120Aを解除する。その後、前部外リング2A及び後部外リング2Bを順方向に更に回転させて、
図14に示すように車両Zを180度傾転させる。なお、このように車両Zを180度傾転させた位置にも
図13に示したようなロック機構を設けることができる。車両Zを180度傾転させた後、
図14に示しているようにロボットYのロボットアームY1によって、LIBユニットZ2を車両Zに固定しているネジ(図示省略)を取り外す。全てのネジの取り外しが完了したら、
図15に示すように、バッテリー支持機構10をLIBユニットZ2の上方位置まで移動させたうえで、バッテリー支持部101をLIBユニットZ2に向けて前進させてLIBユニットZ2を押圧支持する。
【0033】
この
図15の状態から前部外リング2A及び後部外リング2Bを、上述の順方向とは反対の逆方向へ回転させて、車両Zを傾転前の元の姿勢に戻す。続いて、バッテリー支持機構10のバッテリー支持部101を後退させる。そして、必要に応じてバッテリー支持機構10を車両受フレーム1の前部側又は後部側に移動させることにより、LIBユニットZ2の前後方向の位置がフォークリフトを使用してLIBユニットZ2を取り出しやすい位置となるように調整する。このようにして、
図16に示しているようにLIBユニットZ2がバッテリー支持部101に載せられた状態で取り出される。
【0034】
その後、前部内リング3A及び後部内リング3Bをそれぞれ後退限まで後退させると共に、前部車両固定機構4A及び後部車両固定機構4Bによる固定を解除してそれぞれ退避位置まで揺動させる。そして図示しないフォークリフトを使用して、車両受フレーム1に載っている車両Zを運び出し、更にバッテリー支持部101に載っているLIBユニットZ2を運び出す。以上によりLIBユニットZ2の取り出し作業が完了する。
【0035】
なお、本実施形態では車両傾転装置Xを、車両ZからLIBユニットZ2を取り出すために使用したが、本実施形態の車両傾転装置Xは、他の目的で車両Zを傾転させるために使用することもできる。
【符号の説明】
【0036】
X 車両傾転装置
Y ロボット
Y1 ロボットアーム
Z 車両
Z1 アンダーカバー
Z2 LIBユニット
1 車両受フレーム
11 輪留め
12 ガイド部
13 位置決めガイド
14 車両位置センサ
141 センサロッド
142 第1センサ部
143 第2センサ部
15 センサ取付部
151 センサ取付軸
16 引張ばね
2A 前部外リング
21A ラックギヤ
22A ガイドローラ
23A 貫通孔
2B 後部外リング
3A 前部内リング
31A ラックギヤ
3B 後部内リング
4A 前部車両固定機構
4B 後部車両固定機構
41B 後部ベルトスリング
42B 後部シリンダ
43B 後部リフトアップ機構
431B 支柱
432B ゴムバンド
433B ワイヤ
434B バランスウエイト
44B ピン
45B シリンダ
451B ロッド
5A 前部支持架台
51A ガイドローラ
5B 前部支持架台
6A 前部外リング駆動モータ
61A 回転軸
62A ピニオンギヤ
7A 前部内リング駆動モータ
71A 回転軸
72A ピニオンギヤ
81A,82A 近接センサ
83A ドグ
9A 前部リングロック手段
91A シリンダ
911A ロッド
92A ロックピン
93A リンクアーム
931A アーム本体
932A 回転軸
10 バッテリー支持機構
101 バッテリー支持部
110 駆動モータ
111 駆動ベルト
120A ロック機構
121A ロックピン挿入穴
122A ロックピン保持部
123A ロックピン挿入穴