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2023-100574排水の濾過方法、濾過機、フェロニッケルの製造方法、及び、フェロニッケルの製造設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100574
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】排水の濾過方法、濾過機、フェロニッケルの製造方法、及び、フェロニッケルの製造設備
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20230711BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20230711BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20230711BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20230711BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B23/00 101
C22B1/02
F27D17/00 104G
C22C33/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131482
(22)【出願日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2022001062
(32)【優先日】2022-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亨紀
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修司
【テーマコード(参考)】
4K001
4K056
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA09
4K001CA16
4K001DA05
4K001GA02
4K001GA07
4K001GA16
4K001HA01
4K056AA01
4K056CA04
4K056DB14
4K056DB27
(57)【要約】
【課題】フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度を低減すると共に、懸濁物質に含まれるニッケルの損失を防いで、ニッケルの回収率の低下を防ぐこと。
【解決手段】乾燥工程S1と焼成工程S2と熔融還元工程S3とを順次行うことによってフェロニッケルを製造する乾式製錬法において、乾燥工程S1及び/又は焼成工程S2で発生し、原料鉱石11由来のダストを含有する排ガスから、湿式処理によって分離回収される懸濁物質を含有する排水の濾過方法を、濾過材44として、熔融還元工程S3において、フェロニッケルメタルから分離除去されたフェロニッケルスラグを用いる、排水の濾過方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥工程と焼成工程と熔融還元工程とを順次行うことによってフェロニッケルを製造する乾式製錬法において、前記乾燥工程及び/又は焼成工程で発生し、原料鉱石由来のダストを含有する排ガスから、湿式処理によって分離回収される懸濁物質を含有する排水の濾過方法であって、
前記排水の濾過を行う濾過材として、前記熔融還元工程において、フェロニッケルメタルから分離除去されたフェロニッケルスラグを用いる、
排水の濾過方法。
【請求項2】
前記排ガスが、前記乾燥工程を経て乾燥された乾燥鉱石を排出するときに発生する原料鉱石由来のダストを含有する排ガスである、
請求項1に記載の排水の濾過方法。
【請求項3】
前記フェロニッケルスラグの粗粒率が、2.6以上3.2以下である、
請求項1又は2に記載の排水の濾過方法。
【請求項4】
前記濾過を行う前に、前記排水に沈降処理を施す、
請求項1又は2に記載の排水の濾過方法。
【請求項5】
前記濾過を行う前に、前記排水に沈降処理を施す、
請求項3に記載の排水の濾過方法。
【請求項6】
前記乾燥工程と前記焼成工程と前記熔融還元工程とを順次行うことによってフェロニッケルを製造する乾式製錬法であって、
請求項1又は2に記載の排水の濾過方法によって、前記排水の濾過処理を行った後の前記濾過材を、前記乾燥工程に再投入する、
フェロニッケルの製造方法。
【請求項7】
乾燥工程と焼成工程と熔融還元工程とを順次行うことによってフェロニッケルを製造する乾式製錬法において、前記乾燥工程及び/又は焼成工程で発生し、原料鉱石由来のダストを含有する排ガスから、湿式処理によって分離回収される懸濁物質を含有する排水を濾過する、濾過機であって、
内部に濾過材が充填された筐体からなり、前記濾過材として、前記熔融還元工程において、フェロニッケルメタルから分離除去されたフェロニッケルスラグが用いられている、
濾過機。
【請求項8】
前記乾燥工程を行うロータリードライヤーと前記焼成工程を行うロータリーキルンと前記熔融還元工程を行う還元炉と、前記乾燥工程から排出される排ガスから原料鉱石由来のダストを湿式処理によって回収する排ガス処理工程を行う湿式集塵機と、請求項7に記載の濾過機と、を備える、フェロニッケルの製造設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の濾過方法、及び、当該濾過方法を用いて行うフェロニッケルの製造方法、並びに、上記濾過方法に好適に用いることができる濾過機、及び、当該濾過機を備えるフェロニッケルの製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルの製造プロセスにおいては、ニッケルを含有するサポロライト鉱石等のニッケル酸化鉱石(以下、単に「鉱石」とも称する)を原料として使用し、この鉱石に対して乾燥工程、焼成工程、熔融還元工程等からなる一連の処理を施してフェロニッケルを製造する乾式製錬法が一般的に採用されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記の乾燥工程はロータリードライヤーを用いて行われるが、この工程においては乾燥処理に際して、鉱石等に由来するダストが発生する。このダストは、ロータリードライヤーからの排ガスと共に排出され、ロータリードライヤーに付帯して設置されている排ガス処理設備で回収される。そして、上記の排ガス処理設備で回収されたダストは発塵防止のために水の添加等により水分率を25質量%以上35質量%以下程度に調整した後に、原料鉱石と共に、乾燥工程を行うロータリードライヤーに再投入される。湿潤状態のダストは原料鉱石と共に乾燥処理が施され、付着水分を15質量%~25質量%程度にまで減らして乾燥させた鉱石(以下、「乾燥鉱石」と言う)と共に、焼成工程を行うロータリーキルンに装入される(図1、4参照)。
【0004】
ところで、ロータリードライヤー出口から排出される、乾燥鉱石とダストとの混合物の水分率は、15質量%以上25質量%以下程度であり、原料鉱石と比較して発塵しやすい。そのためロータリードライヤー出口においてはダストを回収するための集塵設備として、湿式集塵機(図2参照)が用いられている。この湿式集塵機では、機内に導入された気流は、機内に供給される洗浄水に接触し、これにより、気流中の固形分(ダスト)が液中に補足されるため、上記気流は、ダストが除去された状態となって機外へと排出される。一方、液中に補足されたダストは、沈降する大きさのものは底部に設けられた底抜きバルブを介して機外へと排出される。そして、それ以外の沈降しない大きさのものはオーバーフローを介して機外へと排出されるが、その際、懸濁物質として洗浄水(排水)中に分散して排水を懸濁させるため、排水を系外に排出する前に、凝集剤を添加して懸濁物質を沈降分離させる、沈降分離処理が行われている。
【0005】
さて、上記の湿式集塵機を用いる操業においては、操業の変動や、原料の変動によって、気流中に含まれるダストが突発的に増加することがあった。この場合、湿式集塵機から排出される排水中の懸濁物質の濃度も突発的に増加して沈降分離処理が不十分となり、懸濁物質が系外に排出されてしまう場合があった。排出される懸濁物質にはニッケルも含有されているため、ニッケル回収率が低下してしまうことも問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-206344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度を低減すると共に、懸濁物質に含まれるニッケルの損失を防いで、ニッケルの回収率の低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、湿式処理の過程で排出される懸濁物質を含む排水の濾過を、ニッケル酸化鉱石を製錬して得られるフェロニッケルスラグを濾過材として用いて行うことにより、上記課題を解決し得ることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1) 乾燥工程と焼成工程と熔融還元工程とを順次行うことによってフェロニッケルを製造する乾式製錬法において、前記乾燥工程及び/又は焼成工程で発生し、原料鉱石由来のダストを含有する排ガスから、湿式処理によって分離回収される懸濁物質を含有する排水の濾過方法であって、前記排水の濾過を行う濾過材として、前記熔融還元工程において、フェロニッケルメタルから分離除去されたフェロニッケルスラグを用いる、
排水の濾過方法。
【0010】
(1)の排水の濾過方法によれば、フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度を低減すると共に、懸濁物質に含まれるニッケルの損失を防いで、ニッケルの回収率の低下を防ぐことができる。
【0011】
(2) 前記排ガスが、前記乾燥工程を経て乾燥された乾燥鉱石を排出するときに発生する原料鉱石由来のダストを含有する排ガスである、(1)に記載の排水の濾過方法。
【0012】
(2)の排水の濾過方法によっても、(1)に記載の排水の濾過方法と同様に上記の湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度を低減すると共に、懸濁物質に含まれるニッケルの損失を防いで、フェロニッケルを製造する乾式製錬法におけるニッケルの回収率の低下を防ぐことができる。ここで、フェロニッケルを製造する乾式製錬法において上記の乾燥工程を行うロータリードライヤー等の出口から排出されるダストを含む排ガスは、その排出温度が比較的低いうえ、水蒸気を含むものである。このため、集塵設備として乾式集塵機を用いて集塵を行った場合には、例えば、濾布が濡れてしまうことによる目詰まり等に起因して、除塵能力が低下してしまうといった不都合が生じてしまう懸念がある。従って、このようなロータリードライヤー等の出口から排出されるダストを回収するためには、湿式集塵機を用いることが好ましく、これにより、上記の不都合を確実に回避することができる。又、更には、(2)に記載の排水の濾過方法を、このように湿式処理による集塵が必要となる製造プロセスに適用することによって、当該プロセスにおけるニッケルの回収率を従来よりも高い水準に維持することができる。
【0013】
(3) 前記フェロニッケルスラグの粗粒率が、2.6以上3.2以下である、(1)又は(2)に記載の排水の濾過方法。
【0014】
(3)の排水の濾過方法によれば、(1)の排水の濾過方法において、湿式処理の過程で排出される排水からの懸濁物質及びニッケルの回収率を更に向上させることができる。
【0015】
(4) 前記濾過を行う前に、前記排水に沈降処理を施す、(1)又は(2)に記載の排水の濾過方法。
【0016】
(4)の排水の濾過方法によれば、(1)又は(2)の排水の濾過方法の実施において、濾過材の寿命を延ばすことができ、更に、湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度を低下させることができる。
【0017】
(5) 前記濾過を行う前に、前記排水に沈降処理を施す、(3)に記載の排水の濾過方法。
【0018】
(5)の排水の濾過方法によれば、(3)の排水の濾過方法の実施において、濾過材の寿命を延ばすことができ、更に、湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度をより顕著に低下させることができる。
【0019】
(6) 前記乾燥工程と前記焼成工程と前記熔融還元工程とを順次行うことによってフェロニッケルを製造する乾式製錬法であって、(1)又は(2)に記載の排水の濾過方法によって、前記排水の濾過処理を行った後の前記濾過材を、前記乾燥工程に再投入する、フェロニッケルの製造方法。
【0020】
(6)のフェロニッケルの製造方法によれば、フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、(1)又は(2)に記載の排水の濾過方法によって回収した、ニッケルを含有する懸濁物質を、フェロニッケルスラグからなる濾過材と共に、容易に系内に回収することができる。これにより、排水中の懸濁物質に含まれるニッケルの損失を防ぎ、実施容易な回収作業のみによって、ニッケルの回収率の低下を防ぐことができる。
【0021】
(7) 乾燥工程と焼成工程と熔融還元工程とを順次行うことによってフェロニッケルを製造する乾式製錬法において、前記乾燥工程及び/又は焼成工程で発生し、原料鉱石由来のダストを含有する排ガスから、湿式処理によって分離回収される懸濁物質を含有する排水を濾過する、濾過機であって、内部に濾過材が充填された筐体からなり、前記濾過材として、前記熔融還元工程において、フェロニッケルメタルから分離除去されたフェロニッケルスラグが用いられている、濾過機。
【0022】
(7)の濾過機によれば、フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、これを用いることにより、湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度を低減すると共に、懸濁物質に含まれるニッケルの損失を防いで、ニッケルの回収率の低下を防ぐことができる。
【0023】
(8) 前記乾燥工程を行うロータリードライヤーと前記焼成工程を行うロータリーキルンと前記熔融還元工程を行う還元炉と、前記乾燥工程から排出される排ガスから原料鉱石由来のダストを湿式処理によって回収する排ガス処理工程を行う湿式集塵機と、(7)に記載の濾過機と、を備える、フェロニッケルの製造設備。
【0024】
(8)のフェロニッケルの製造設備によれば、乾式製錬法によるフェロニッケルの製造において、湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度を低減すると共に、懸濁物質に含まれるニッケルの損失を防いで、ニッケルの回収率の低下を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、湿式処理の過程で排出される排水中の懸濁物質の濃度を低減すると共に、懸濁物質に含まれるニッケルの損失を防いで、ニッケルの回収率の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、乾燥工程、焼成工程を行うロータリードライヤー及びロータリーキルンの構成と配置の一例模式的に示す図である。
図2】フェロニッケルを製造する乾式製錬法において、排ガス処理工程を行う湿式集塵機の内部構造の一例を示す図である。
図3】本発明の排水の濾過方法に用いることができる濾過機の構成の一例を模式的に示す図である。
図4】本発明のフェロニッケルの製造方法のフローの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0028】
<フェロニッケルの製造方法>
フェロニッケルは、鉄とニッケルの合金であり、ステンレス鋼及び特殊鋼の原料として使用されている。フェロニッケルの一般的な製造方法としては、ニッケル酸化鉱石を原料とした乾式製錬法が挙げられる。本発明の「フェロニッケルの製造方法」は、この乾式製錬法によるフェロニッケルの製造を行う方法として好適な製造方法である。
【0029】
乾式製錬法によるフェロニッケルの製造方法は、図4に示す通り、ニッケル酸化鉱石等を原料鉱石11として投入し、乾燥工程S1、焼成工程S2、及び、熔融還元工程S3を順次行うことによって、フェロニッケルを得る製造方法である。又、乾式製錬法によるフェロニッケルの製造方法においては、熔融還元工程S3において得られる粗フェロニッケル(以下、単に「メタル」とも言う)は、精製工程において硫黄等の不純物が除去されフェロニッケル製品となる。一方で、この工程で分離除去されるフェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」とも言う)は、高圧水による水砕処理が行われた後、鉄鋼の造滓材、コンクリート用細骨材、土木工事用資材等として利用されている(図4参照)。
【0030】
本発明の「フェロニッケルの製造方法」は、広義においては、上記の乾式製錬法において、乾燥工程S1及び/又は焼成工程S2で発生する排ガスから、原料鉱石11由来のダストを回収する排ガス処理工程S5において、当該ダストを懸濁物質として含有する排水の濾過処理を、本発明による独自の「排水の濾過方法」を用いて行うようにしたことを主たる特徴とする製造方法である。
【0031】
又、本発明の「フェロニッケルの製造方法」は、より好ましい実施態様として、上記の乾式製錬法において、乾燥工程S1を経て乾燥された乾燥鉱石を排出するときに発生する排ガスから、原料鉱石11由来のダストを回収する排ガス処理工程S5において、当該ダストを懸濁物質として含有する排水の濾過処理を、本発明による独自の「排水の濾過方法」を用いて行うようにしたことを主たる特徴とする製造方法として実施することができる。
【0032】
本発明の「フェロニッケルの製造方法」における特徴的な部分プロセスである上記の「排水の濾過方法」は、上記何れの実施態様においても、湿式処理の過程で排出され、原料鉱石11由来のダストを懸濁物質として含有する排水を濾過する処理である。そして、この「排水の濾過方法」は、熔融還元工程S3において分離除去されたフェロニッケルスラグを、上記の排水の濾過処理を行うための「濾過材」として用いることを特徴とする濾過方法である。以下においては、先ず、本発明の「フェロニッケルの製造方法」の各工程の詳細について説明し、本発明独自の「排水の濾過方法」の詳細については別途後述する。
【0033】
[乾燥工程]
乾燥工程S1は、原料鉱石(ニッケル酸化鉱石)11に乾燥処理を施し、鉱石中に含まれる付着水分が15質量%以上25質量%以下程度にまで減少するように乾燥させた乾燥鉱石12を得る工程である。乾燥工程S1は、図1に示すように、原料鉱石11を予備乾燥させる予備乾燥用のロータリーキルンであるロータリードライヤー1を用いて行われる。本明細書においては、乾燥工程S1に用いる乾燥用のロータリーキルンを「ロータリードライヤー」と称し、引き続き行われる焼成工程S2を行う焼成還元用のロータリーキルンのことを単に「ロータリーキルン」と称して、本発明に係る各方法及び各設備の説明を行う。
【0034】
尚、乾燥工程S1では、原料鉱石として用いる複数種のニッケル酸化鉱石の調合比率を、熔融還元工程S3で得られるスラグの組成が、CaO:1.0%以下、MgO:40.0%以下、SiO:55.0%以下、S:0.5%以下、Fe:10.0%以下となるように調整して、配合することが好ましい。このような組成を有するスラグは、原料鉱石中の酸化鉄の大部分と、二酸化ケイ素、及び酸化マグネシウムを含み、化学的に安定したガラス質のスラグであって、含有元素の溶出がないこと等、環境面で優れた特性を有する。又、上記スラグは、酸化マグネシウムを多く含むことから、比重が大きく、しかも硬い。このため、鉄鋼の焼結工程における成分調整用マグネシア熔剤や、コンクリート用細骨材、土木工事用資材、ボイラーの流動床資材等として利用し易い点においても好ましい。
【0035】
本発明の乾燥工程S1を行うロータリードライヤー1には、上記の原料鉱石11と共に、乾燥工程S1において発生する排ガスから分離回収した原料鉱石11由来のダストを再投入する。これにより、懸濁物質と共に系外に排出されることによるニッケルの損失を抑えて、ニッケルの回収率の低下を防ぐことができる。
【0036】
[焼成工程]
焼成工程S2は、乾燥工程S1で得た乾燥鉱石12を、炭素質還元剤(石炭)、及び、必要に応じて添加される熔剤と共に、800℃以上1000℃以下程度の温度にまで加熱する処理により、乾燥鉱石12に残留している付着水及び結晶水を完全に除去(乾燥)すると共に、乾燥鉱石12の一部を還元し、乾燥及び部分還元された焼鉱13を得る工程である。焼成工程S2は、図1に示すように、乾燥鉱石12の焼成及び部分還元を行う焼成還元用のロータリーキルン2を用いて行われる。
【0037】
又、上述した通り、焼成工程S2においてロータリーキルン2から発生する排ガスについても、これに含まれる原料鉱石11由来のダストを分離回収して、乾燥工程S1に再投入することにより、ニッケルの損失を抑えて、ニッケルの回収率の低下を防ぐことができる。この工程で回収したダストも上記同様に、水分を添加して湿潤状態とした後に、ロータリードライヤー1に装入することが好ましい。
【0038】
[熔融還元工程]
熔融還元工程S3は、焼成工程S2で結晶水分の分解(焼成)と部分的な還元処理が行われた鉱石である焼鉱13を、還元熔解手段として機能する電気炉や熔鉱炉等の還元炉(図示せず)に投入して還元熔解することにより、粗フェロニッケル(メタル)とフェロニッケルスラグ(スラグ)とを形成する工程である。還元炉にて産出される粗フェロニッケルは、鉄を主成分とし、炭素質還元剤の設定量に応じて16重量%以上25重量%以下の品位のニッケルを含むと共に、原料、還元剤、燃料に由来する硫黄等の多くの不純物を含んでいる。この粗フェロニッケルは、製品スペックにより脱硫処理を必要とする場合には脱硫工程に移され、取鍋(レードル)等を用いた機械式撹拌装置又は電気誘導式撹拌装置による脱硫処理が行われて硫黄等の不純物が除去されフェロニッケル製品となる。
【0039】
又、熔融還元工程S3においては、スラグの温度が1500℃以上1650℃以下となるように還元炉の加熱温度を調整することが好ましい。これにより、熔融還元工程S3において、粘性の低い、即ち、粘性率が50ポアズ以下となるスラグを得ることができる。
【0040】
[水砕処理工程]
水砕処理工程S4は、熔融還元工程S3を行う還元炉から排出される約1500℃の熔融スラグを、水砕機構の水砕樋に投入して水砕樋内を流れる大量の水と接触させることにより100℃以下まで急冷して、細かい粒子に砕かれた水砕スラグを得る工程である。このようにして得られる水砕スラグは、従来、鉄鋼の造滓材、コンクリート用細骨材、土木工事用資材等として再利用されている。本発明の「フェロニッケルの製造方法」においては、この水砕スラグの一部を、原料鉱石11由来のダストを懸濁物質として含有する排水を濾過するための濾過材として利用することによってニッケルの損失を防ぎ、回収されたニッケルを含む懸濁物質を濾過材ごと系内に再投入することによって、従来回収が困難であった懸濁物質中のニッケルを系内に回収する。
【0041】
[排ガス処理工程]
排ガス処理工程S5は、乾燥工程S1を行うロータリードライヤー1、及び/又は、焼成工程S2を行うロータリーキルン2から発生する排ガスから、当該排ガス中に含有されている原料鉱石11由来のダストを回収する工程である。
【0042】
又、排ガス処理工程S5は、より好ましい実施態様として、乾燥工程S1を行うロータリードライヤー1から乾燥鉱石を排出するときに発生する原料鉱石由来のダストを含有する排ガスから、当該排ガス中に含有されている原料鉱石11由来のダストを回収する工程として実施することができる。
【0043】
(排水の濾過方法)
ここで、ロータリードライヤー1の出口から排出される、乾燥鉱石12とダストとの混合物の水分率は、15質量%以上25質量%以下程度であり、原料鉱石11と比較して発塵しやすい。そのため原料鉱石11由来のダストを含有する排ガスを処理する排ガス処理工程S5は、湿式集塵機3(図2参照)を用いた湿式処理によって行われる。そして、この湿式処理によって排ガスから分離されたダストを含む洗浄後液である排水は、本発明の「排水の濾過方法」によって濾過処理が施される。又、この「排水の濾過方法」は、本発明の「濾過機」を用いて行われる。
【0044】
(湿式集塵機)
排ガス処理工程S5において用いられる湿式集塵機3は、図2に示すように、給水口34から供給される洗浄水を下部に貯留してガス入口32から導入される排ガスをダストの分離後に上部から排出する胴体部31、排ガスを洗浄水と共に内部に導入する気液導入部33、導入された排ガスの気流の流速を加速するためのスロート部35、加速された気流によって下方から洗浄水を巻き上げ、混合物と洗浄水との気液混合によって混合物を洗浄水中に分離するスクラビング部36、ダストが分離除去された排ガスを排出するガス出口37、胴体部31の底部に設けられており、比重分離によって沈降した洗浄水中のダスト等の混合物を底抜きするアンダーフロー排出口38、及び、胴体部31の側面に設けられており、ダスト等を含む洗浄水のオーバーフロー液を排出するオーバーフロー排出口39を備える。
【0045】
この湿式集塵機3においては、洗浄水中に分散する粒子の大きさが概ね粒度2mm以上であるダストは、アンダーフロー排出口38から排出される。一方、洗浄水中に分散する粒子の粒度が概ね1μm以上2mm以下であるダストは、懸濁物質として洗浄水(排水)中に分散した状態で、オーバーフロー排出口39から排出される。湿式集塵機3の後段には、本発明独自の構成からなる濾過機4が配設されており、懸濁物質として洗浄水中に分散したニッケルを含有する原料鉱石11由来のダストは、この濾過機4によって回収される。
【0046】
(濾過機)
本発明の「フェロニッケルの製造方法」の排ガス処理工程S5において、原料鉱石11由来のダストを懸濁物質として含有する排水の濾過は、濾過材として、熔融還元工程S3においてフェロニッケルメタルから分離除去されたフェロニッケルスラグを用いることを特徴とする本発明の濾過機4を用いて行うことができる。濾過機4は、湿式集塵機3の後段に設けられて、上記排水のろ過処理を行い、懸濁物質の含有量が低減された状態の排水を排出する。
【0047】
この濾過機4は、濾過材44が充填されている筐体41からなり、懸濁物質としてダストを含む排水を、筐体41の一方の端部である導入口42から導入し、他方の端部である排出口43へと筐体41内を流通させる過程で、懸濁物質を、濾過材44によって捕捉する装置である。この濾過機4は、濾過材44として、熔融還元工程S3においてフェロニッケルメタルから分離除去されたフェロニッケルスラグ用いたものであることを主たる特徴とする濾過機である。尚、濾過材44の材料以外の構成については、従来公知の各種の濾過機と同様の構成の濾過機を適宜用いることができる。そのような濾過機の一例として、筒状の筐体を、例えば、炭素鋼で形成した濾過機を挙げることができる。
【0048】
濾過機4を構成する濾過材44として、熔融還元工程S3で得られるスラグ(例えば、水砕スラグ)を用いることにより、懸濁物質を補足した後の濾過材44(即ち、使用済みスラグ)を、ニッケル分を含有する懸濁物質を含んだ状態のままで繰り返すことができ、これにより、懸濁物質中のニッケルを容易な作業によって系内に回収することができるようになる。
【0049】
尚、上述した水砕スラグの粗粒率は、通常3.6以上4.5以下の範囲にあるが、後述の実施例に示すように、本発明においては、粗粒率を3.2以下となるようにすることが好ましく、通常サイズの上記水砕スラグに更なる粉砕処理を施して用いることにより、懸濁物質とニッケルの回収率を更に向上させることができる。尚、この場合においても、水砕スラグの粗粒率の下限については、2.6以上とすることが好ましく、これにより、濾過速度をほとんど低下させることなく、懸濁物質とニッケルの高い回収率を維持することができる。ここで、粗粒率とは、JIS A1102(骨材のふるい分け試験方法)に規定される連続する各ふるい(80mm,40mm,20mm,10mm,5mm,2.5mm,1.2mm,0.6mm,0.3mm,0.15mm)の間にとどまる質量分率のことであり、骨材の粗さを表す指標である。その数値が大きいほど、粗粒であることを示す。
【0050】
尚、濾過機4を構成する筐体41の大きさや、濾過材44の充填量の最適値は、湿式集塵機3から排出される排水の排出量や性状と、濾過材44を流通させた後の排水の性状との関係を調査することによって具体的に特定することができる。
【0051】
又、濾過機4から排出された排水は、十分に懸濁物質が低減された排水になっているため、この排水に対して凝集剤を添加し、残留した懸濁物質を沈降させる処理を更に行った場合でも、その処理を問題なく実施することができる。
【0052】
(排水の濾過方法の他の実施態様)
尚、上記においては、湿式集塵機3から排出される排水を濾過機4に直接導入する実施態様について説明したが、本発明の「排水の濾過方法」は、上記のように、濾過機4に湿式集塵機3から排出される排水を直接導入するのではなく、例えば、濾過機4による濾過を行う前に、上記排水に沈降処理を施す実施態様とすることもできる。
【0053】
排水の濾過方法を上記実施態様で行うには、湿式集塵機3からの排水を受け入れて排水中の懸濁物質を沈降させることで固液分離する沈降装置を濾過機4の前段に設けるようにし、この沈降装置によって分離される液相(上澄み液)のみを濾過機4に導入するような手順とすればよい。これにより、濾過機4の濾過材44の負荷を軽減できるので、例えば、濾過材44の寿命短縮に伴う通液不良の発生といった不都合を効果的に回避することができる。又、濾過機4から排出される懸濁物質の含有量が低減された状態の排水中の懸濁物質を更に低減させることもできる。
【0054】
又、上記実施態様による場合、ダストを含む排水の沈降装置内における滞留時間は、3h以上に設定することが好ましい。滞留時間を3h以上に設定することにより、全体が懸濁状態にある排水を確実に固相と液相に分離しやすくして、濾過機4の濾過材44の負荷を更に軽減することが可能である。
【0055】
例えば、表1は、懸濁物質の回収設備として、上記排水を受け入れる沈降装置と、その沈降装置の後段に設けられ、該沈降装置によって分離された液相(上澄み液)を導入する濾過機4を構成し、2段階で懸濁物物質を回収したときの、各段階における液中の懸濁物質の総量(1日量)の変化を示している。即ち、表1は、湿式集塵機3から排出される排水中に含まれる懸濁物質の総量(1日量)に対比して、沈降装置によって分離された液相(上澄み液)中に含まれる懸濁物質の総量(1日量)、及び濾過機4から排出される懸濁物質の含有量が低減された状態の排水中の懸濁物質の総量(1日量)がどの様な態様で減少するかを示している。
【0056】
【表1】
【0057】
表1からは、上記のように懸濁物質の回収設備を構成することによって、先ず、沈降装置によって、湿式集塵機3から排出される排水中に含まれる懸濁物質を265.7[kg/日](=437.1[kg/日]-166.0[kg/日])回収することができ、更に濾過機4によって、懸濁物質を68.4[kg/日](=166.0[kg/日]-97.6[kg/日])回収できることが窺える。即ち、濾過機4の前段に沈降設備を組み入れる態様で懸濁物質の回収設備を構成することによって、334.1[kg/日](=265.7[kg/日]+68.4[kg/日])の懸濁物質を、湿式集塵機3から排出される排水中から回収可能であることが分かる。この回収量は、湿式集塵機3から排出される排水中に含まれる懸濁物質の総量(1日量)の77%量に匹敵する。
【0058】
又、表1からは、濾過機4における懸濁物質の回収可能量に対して、3~4倍量の懸濁物質を沈降装置において回収可能であることが窺える。従って、沈降装置における懸濁物質の回収量に応じて、濾過機4の濾過材44の負荷を軽減できることが分かる。或いは、沈降装置を使用せずに濾過機4のみで懸濁物質を回収する場合と比較して、濾過機4における濾過材44の使用量を削減することができることが分かる。
【0059】
<フェロニッケルの製造設備(乾式製錬設備)>
本発明のフェロニッケルの製造方法は、乾燥工程S1を行うロータリードライヤー1、焼成工程S2を行うロータリーキルン2、熔融還元工程S3を行う還元炉、ロータリードライヤー1及び/又はロータリーキルン2から排出される排ガスから湿式処理によってダストを回収する排ガス処理工程S5を行う湿式集塵機3、及び、回収された上記のダストを含む排水を濾過する濾過機4を備える、本発明の「フェロニッケルの製造設備」において好適に実施することができる。この設備は、既存の製造設備に対して、本発明独自の構成からなる濾過機、即ち、濾過材44としてフェロニッケルスラグを用いてなる濾過機4を設置することによって構成することができる。これにより、極めて低廉な導入コストによって、当該設備におけるニッケル回収率を有意に向上させることができる。
【実施例0060】
図2に示す濾過機4と、サイズ及び材質は異なるが、略同一の形状及び構造からなる「試験用濾過機」(図3参照。)を用いて、本発明の濾過機に用いる濾過材の濾過能力を調査するための試験を行った。上記の「試験用濾過機」は、上端が開放されていて、下端へ向かう途中で中心軸に向けて収束する形状を有し、収束している箇所以外の水平方向の断面積Sが、9.5×10-3であり、高さが200mmである、透明なPET容器で筐体を形成し、このPET容器の下方にビーカーを配置して各試験を行った。
【0061】
PET容器からなる筐体の内部に濾過材を厚さDが0.15mとなるように充填し、この筐体の上端の開口から既知の性状を有する懸濁物質を含む水(原液)を流し入れることによって、懸濁物質を濾過材に補足させ、更に筐体の下端から排出される懸濁物質が低減された水(ろ液)は、ビーカー内に受けて回収した。
【0062】
表2には「試験用濾過機」の筐体の上端の開口に流し入れる原液の性状が示されている。本実施例では、「実施例1」「実施例2」の何れにおいても、稼働中のフェロニッケルの製造設備内の湿式集塵機からオーバーフローとして排出される懸濁物質を含む排水を、原液として用いた。
【0063】
【表2】
【0064】
[実施例1]
濾過材として、表3に示す組成の粗粒率が3.5以上4.7以下の範囲にある水砕スラグ(以下、有姿品とも言う)を用い、「試験用濾過機」の筐体を構成するPET容器の全高に対して下端から3/4の高さ(下端から150mmの高さ)までスラグを充填した。次に、表2に示す性状の原液500mLをPET容器の上端の開口から流し入れ、該PET容器の下端から排出される、ろ液を、ビーカー内に回収し、その性状を調査した。
【0065】
【表3】
【0066】
[実施例2]
実施例1で用いた水砕スラグ(有姿品)を別に準備し、これを粉砕処理して粗粒率が3.2(+0.2、-0.2)の範囲にある水砕スラグを用いたこと以外は、実施例1と同一の条件で試験を行った。
【0067】
実施例1、実施例2で得られた、ろ液の性状を調査した結果を表4に示した。又、表4中のニッケル回収率を以下の様に定義する。
ニッケル回収率[%]
=(原液中ニッケル濃度[mg/L]―ろ液中ニッケル濃度[mg/L])
÷原液中ニッケル濃度[mg/L]×100
【0068】
【表4】
【0069】
表4に示される結果から、本発明の「排水の濾過方法」によれば、排水中の懸濁物質を効果的に低減することができ、尚且つ、排水中のニッケルを効果的に除去することができることが分かる。従って、本発明の「フェロニッケルの製造方法」は、使用済みのスラグを再び還元炉内に供することにより、ニッケルをより効率的に回収することができる製造方法であり、その工業的価値は極めて大きい。
【符号の説明】
【0070】
1 ロータリードライヤー
2 ロータリーキルン
11 原料鉱石(ニッケル酸化鉱石)
12 乾燥鉱石
13 焼鉱
3 湿式集塵機
31 胴体部
32 ガス入口
33 気液導入部
34 給水口
35 スロート部
36 スクラビング部
37 ガス出口
38 アンダーフロー排出口
39 オーバーフロー排出口
4 濾過機
41 筐体
42 導入口
43 排出口
44 濾過材
S1 乾燥工程
S2 焼成工程
S3 熔融還元工程
S4 水砕処理工程
S5 排ガス処理工程
図1
図2
図3
図4