(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100581
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】筆記具リフィル及び筆記具リフィルの刻印方法
(51)【国際特許分類】
B43K 7/02 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
B43K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182286
(22)【出願日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2022000986
(32)【優先日】2022-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022047019
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 裕
(72)【発明者】
【氏名】中島 淳
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350KC05
2C350NA22
(57)【要約】
【課題】インク収容管にインクが入った状態でも入っていない状態でも視認性が良好な刻印を筆記具リフィルに施す。
【解決手段】内部が視認可能な合成樹脂製のインク収容管と、前記インク収容管の表面において、前記合成樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印と、を有する、筆記具リフィル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が視認可能な合成樹脂製のインク収容管と、
前記インク収容管の表面において、前記合成樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印と、
を有する、筆記具リフィル。
【請求項2】
前記合成樹脂に反応性添加剤が配合されている、請求項1に記載の筆記具リフィル。
【請求項3】
前記刻印が、前記インク収容管の表面から隆起している、請求項1に記載の筆記具リフィル。
【請求項4】
前記インク収容管は、内蔵するインクの色彩が外部から視認可能であるとともに、
前記刻印の他に、前記インクの色彩と同系統の色彩の情報識別子が前記インク収容管の表面に形成されている、請求項1に記載の筆記具リフィル。
【請求項5】
前記インク収容管は、最外層と、前記最外層より内側に位置する少なくとも一つの内層とで構成される、二以上の多層構造を有し、
前記内層にのみ、前記反応性添加剤が配合されている、請求項2に記載の筆記具リフィル。
【請求項6】
前記インク収容管の表面に、レーザーマーキングを施すことで前記刻印を形成する、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の筆記具リフィルの刻印方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク収容管に刻印が施された筆記具リフィル及びその筆記具リフィルの刻印方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、筆記具のリフィル用の金属製又は樹脂製の管状体の表面に、レーザーマーキング装置を用いてレーザー刻印を行う技術が開示されている。また、特許文献2には、ボールペンチップの表面にレーザー加工により識別情報を刻印する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-273096号公報
【特許文献2】特開2010-155426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成樹脂製のインク収容管の表面に物理的な刻印を行う場合、インクが入った状態では刻印が見えにくい場合があった。本願の実施態様は、インク収容管にインクが入った状態でも入っていない状態でも視認性が良好な刻印を筆記具リフィルに施すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本願の第1実施態様の筆記具リフィルは、内部が視認可能な合成樹脂製のインク収容管と、前記インク収容管の表面において、樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印と、を有する。
【0006】
本願の第2実施態様においては、第1実施態様の構成に加え、前記合成樹脂には反応性添加剤が配合されていることが望ましい。この反応性添加剤がレーザー光を吸収して発熱することで、合成樹脂が発泡若しくは炭化、又はその両方を被ることで、視認性の良好な刻印が筆記具リフィルに施される。
【0007】
また、本願の第3実施態様においては、第1実施態様又は第2実施態様の構成に加え、前記刻印が、前記インク収容管の表面から隆起していることが、視認性の観点及び刻印の耐久性の観点からも望ましい。
【0008】
さらに、本願の第4実施態様においては、第1実施態様から第3実施態様までのいずれかの構成に加え、前記インク収容管は、内蔵するインクの色彩が外部から視認可能であるとともに、前記刻印の他に、前記インクの色彩と同系統の色彩の情報識別子が前記インク収容管の表面に形成されている。ここで、「同系統の色彩」とは、刻印の箇所にインクが満たされている状態で、刻印がインクに紛れて視認困難となるような色彩をいう。また、「情報識別子」とは、たとえばバーコードや、QRコード(登録商標)のような二次元コードをいう。
【0009】
さらに、前記インク収容管は、最外層と、前記最外層より内側に位置する少なくとも一つの内層とで構成される、二以上の多層構造とし、前記内層にのみ、前記反応性添加剤が配合されていることが望ましい。換言すると、前記最外層には、前記反応性添加剤が配合されていないことが望ましい。
【0010】
前記刻印は、上記のインク収容管の表面に、レーザーマーキングを施すことで形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本願の実施態様は上記のように構成されているので、インク収容管にインクが入った状態でも入っていない状態でも視認性が良好な刻印を筆記具リフィルに施すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の第1実施形態の筆記具リフィルの外観を模式的に示す。
【
図2】比較形態の筆記具リフィルの外観を模式的に示す。
【
図3】本開示の第2実施形態の筆記具リフィルの外観を模式的に示す。
【
図4】本開示の第3実施形態の筆記具リフィルを、
図3(A)のA-Aに相当する断面(A)及び
図4(A)のB-B断面で模式的に示すとともに、第1実施形態及び第2実施形態の筆記具リフィルの断面を、
図3(A)のA-A断面(C)及び
図4(C)のC-C断面(D)で模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、「先端」とは筆記具リフィルにおいて筆記先端(たとえば、筆記ボール)が設けられている側を指し、「後端」はその反対側を指す。また、各図面において共通している符号は、以下の図面についての説明において特に言及がなくても同一の部材又は部位を示す。また、各図面においては、図面の左側が先端側で、右側が後端側である。
【0014】
図1は、本開示の第1実施形態の筆記具リフィル10の外観を模式的に示すものである。本実施形態の筆記具リフィル10は、内部にインク20を収容する円筒形状のインク収容管11と、インク収容管11の先端に装着される継手12と、継手12の先端に装着されるとともに先端に筆記ボール14を抱持するボールペンチップ13とを有する。
【0015】
インク収容管11は、内部が視認可能な合成樹脂製である。この合成樹脂としては、たとえば、ポリプロピレン樹脂が挙げられる。また、インク収容管11の表面において、合成樹脂が発泡及び炭化の両方を被って形成された刻印30と、を有する。合成樹脂には反応性添加剤が配合されている。刻印30は、インク収容管11の表面にレーザーマーキングを施すことで形成され、インク収容管11の表面から隆起している。
【0016】
ここで、光線透過性のある合成樹脂材料で形成されたインク収容管にレーザーマーキングを行う場合、波長が10,600nmのCO2レーザーマーカーでは刻印を形成することができるが、その刻印は炭化も発泡も生じず凹凸が形成されるのみとなり、十分な視認性は得られない。他方、波長が1,000nm前後の波長のファイバーレーザーマーカーでは、その波長が合成樹脂材料のエネルギー吸収帯ではないので、光透過性のある合成樹脂材料に対しては、レーザー光線が透過するため、刻印を形成することができない。そのため、合成樹脂材料に反応性添加剤を配合することで、合成樹脂材料のエネルギー吸収帯ではない波長域のレーザー光でも文字情報等の刻印の形成が可能となる。すなわち、通常、合成樹脂材料は800~1,500nmの波長のレーザー光に対してはそれ自体では反応しないが、この反応性添加剤がレーザー光のエネルギーを吸収して励起され、合成樹脂を変色させることができる。文字情報等の刻印30は発泡若しくは炭化又はその両方により凸状に隆起する。そのため、文字情報等が表面に対して陥凹する機械的な刻印に比べて視認性が良好である。たとえば、合成樹脂としてポリプロピレン樹脂を使用し、ファイバーレーザーマーカーでレーザーマーキングを行う場合、レーザー光の波長は1,000~1,100nmが望ましい。
【0017】
反応性添加剤としては、銅酸化物及びモリブデン酸化物の混合物、ビスマス酸化物及びガリウム酸化物の混合物、ビスマス酸化物、ガリウム酸化物及びネオジム酸化物の混合物、アンチモン、砒素、ビスマス、銅、ガリウム若しくはゲルマニウム若しくはこれらのいずれかの酸化物をドープした酸化錫で雲母の薄片状基質を被覆した顔料、並びに水酸化銅一燐酸塩若しくは酸化モリブデンを添加した高分子物質を挙げられる。反応性添加剤は、これらのうちの1種類のみを用いてもよいし、また、2種類以上を混合して併用してもよい。
【0018】
反応性添加剤の含有量は、合成樹脂の量に対して0.01~10質量%の範囲であることが望ましい。反応性添加剤の含有量が0.01質量%以上であることにより、インク収容管における発泡若しくは炭化又はそれらの両方が良好に発生する。一方、反応性添加剤の含有量が10質量%以下であることにより、インク収容管11の透明性が確保され、インク収容管11内におけるインク20の残量や色の視認が可能となる。
【0019】
合成樹脂は、反応性添加剤がレーザー光のエネルギーを吸収して発熱することで周囲を発泡させることで、その部位が白色を帯びた刻印30となる。また、合成樹脂は、反応性添加剤がレーザー光のエネルギーを吸収して発熱することで周囲を炭化させることで、その部位が黒色を帯びた刻印30となる。さらに、発泡と炭化とが同時に生ずることで、刻印30は、背景色によって白色に見えたり黒色に見えたりすることになる。なお、インク収容管11の表面部分が主に発泡することで刻印30は白色を帯び、合成樹脂の内部に炭化物が存在していることで刻印30は黒色を帯びる。
【0020】
ここで、
図2に示す比較形態の筆記具リフィル10’は、
図1と同様に、インク20’を収容するインク収容管11’と、継手12’と、筆記ボール14’を抱持するボールペンチップ13’とを有することで共通するが、刻印30’が熱刻印にて機械的になされている点で相違する。すなわち、刻印30’は微視的にはインク収容管11’の表面に形成された溝に過ぎない。このため、文字とその周囲とのコントラストが付き難く、視認されにくくなっている。
【0021】
一方、本第1実施形態を示す
図1の筆記具リフィルでは、反応性添加剤がレーザー光のエネルギーを吸収し、周囲の合成樹脂が発泡及び炭化を被ることで、刻印30が白色及び黒色の両方を帯びている。これにより、インク収容管11内にインク20がある状態でもない状態でも視認性がよい。すなわち、先端側のインク20がある部分では白色が優ることで、刻印30の文字である「REFILL」の視認性が確保される。一方、後端側のインク20がない部分では黒色が優ることで、刻印30の文字である「2021」の視認性が確保される。
【0022】
本第1実施形態では、インク収容管11を形成する合成樹脂自体が発泡及び炭化して印字されるため、インク収容管11の表面へのインクジェット印刷やホットスタンプ等に比べて、擦過等による印字の消失が起こりにくい。
【0023】
なお、刻印30は、合成樹脂の発泡のみによって形成されてもよく、また、合成樹脂の炭化のみによって形成されてもよい。
【0024】
図3は、本開示の第2実施形態の筆記具リフィル10の外観を、インク20が充填されていない状態(A)及びインク20が充填されている状態(B)で、それぞれ模式的に示している。筆記具リフィル10、継手12及び筆記ボール14を含むボールペンチップ13の材質及び形状については、それぞれ第1実施形態に示すとおりである。本実施形態でも、刻印30としての「REFILL」及び「2021」の文字は第1実施形態と同様にインク収容管11の表面に形成されている。
【0025】
そして、本第2実施形態の筆記具リフィル10では、インク収容管11の表面の先端近傍に、刻印30の他に、情報識別子31として二次元コードが形成されている。この情報識別子31は、インク収容管11に収容されるインク20と同系統の色彩で印字(たとえば、印刷)されている。よって、
図3(B)に示すように、インク収容管11にインク20が満たされている状態では、インク収容管11は内蔵するインク20の色彩が外部から視認可能であるため、刻印がインク20に紛れて視認困難となっている。ここで同系色である範囲内としては、たとえば、インク収容管11を通じたインク20と情報識別子31との2色間の色差(ΔE*ab)が1.6未満であることとしてもよい。
【0026】
なお、インク20がたとえば黒色である場合、情報識別子31は、レーザーマーキングによってインク収容管11の表面を炭化させる刻印30として形成してもよい。レーザーマーキングは微細な印字が可能であるため、筆記具リフィル10のような細い物にも二次元コードのような細かい模様を鮮明に印字することが可能である。また、筆記具リフィル10の各々で情報識別子31としての二次元コードを変更することも容易で、これにより筆記具リフィル10の個体を識別させることも可能である。
【0027】
このように筆記具リフィル10に情報識別子31を印字することにより、筆記具リフィル10に様々な情報を付与することが可能となる。たとえば、二次元コードにその筆記具リフィル10の製品情報が開示されたウェブページをリンクさせたり、いわゆるe-コマースサイトをリンクさせたりすることができ、商品の販売促進につなげることも可能となる。
【0028】
また、
図3(B)に示すように、筆記具リフィル10の使用開始時には情報識別子31の色彩と内蔵するインク20の色彩とが同系色であるために二次元コードとしての読み取りは不可能である。しかし、インク20が消費されると、
図3(A)に示すように情報識別子31の背景が非同系色になり二次元コードとしての読み取りが可能となる。これを利用して、たとえば筆記具リフィル10のインク20を使い切った消費者に対し、何らかの特典情報(たとえば、購入割引券や、各種ポイント)を提供するサービスも可能となる。
【0029】
図4(A)及び
図4(B)は、本開示の第3実施形態の筆記具リフィル10のインク収容管11の断面図である。本実施形態の筆記具リフィル10の外観は、
図3(A)に示す第2実施形態と同様である。
図4(A)は、
図3(A)のA-A断面に相当する断面を模式的に示し、
図4(B)は
図4(A)のB-B断面を模式的に示す。インク収容管11は、二以上の多層構造であり、最外層11aと、前記最外層11aより内側に位置する少なくとも一つの内層11b(本実施形態では一つ)とで構成される。内層11bには反応性添加剤が配合されており、レーザーマーキングにより発色可能であるが、最外層11aには反応性添加剤が配合されていない。インク収容管11がこのような多層構造を有することで、
図4(A)及び
図4(B)に示すように、レーザーマーキングによる発色で生じた刻印30は、最外層11aと内層11bとの間に形成されることとなる。このような多層構造を有するインク収容管11は、押出成形又は射出成形により形成することができる。
【0030】
ここで、第1実施形態及び第2実施形態の筆記具リフィル10のインク収容管11の断面図を、
図4(C)及び
図4(D)に示す。
図4(C)は、
図3(A)のA-A断面を模式的に示し、
図4(D)は
図4(C)のC-C断面を模式的に示す。第1実施形態及び第2実施形態の筆記具リフィル10では、インク収容管11の表面に刻印30が形成されるため、摩耗等で消えたり、加工条件の印字により表面が荒れるため平滑な状態を保てないことがある。
【0031】
一方、第3実施形態に筆記具リフィル10では、上述のとおり刻印30は最外層11aと内層11bとの間に形成されるため、インク収容管11の表面の摩耗等で消えることはない。また、インク収容管11の表面には刻印30は形成されずに平滑であるため、ボールペンの軸筒の内部に収容される際に軸筒の内周面と干渉することがなく、ボールペンを組み上げる工程、及び、ノック動作等による軸筒内部での前後移動に支障を来すことはない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、たとえばボールペンリフィル、マーカーリフィル又はサインペンリフィル等の筆記具リフィルに利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 筆記具リフィル
11 インク収容管 11a 最外層 11b 内層
12 継手 13 ボールペンチップ 14 筆記ボール
20 インク
30 刻印 31 情報識別子