(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100586
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物シートならびに樹脂組成物シートを用いた積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/30 20180101AFI20230711BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20230711BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20230711BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20230711BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20230711BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230711BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230711BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230711BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J133/00
C09J183/04
C09J11/04
C09J163/00
C09J11/06
C08L101/00
B32B27/00 C
H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204053
(22)【出願日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2022000934
(32)【優先日】2022-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 剛司
(72)【発明者】
【氏名】木口 一也
(72)【発明者】
【氏名】河津 成昭
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聖大
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J004
4J040
5F131
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
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(57)【要約】
【課題】 厚みの公差を低減した樹脂組成物シートを提供すること。
【解決手段】 フィルム層及び樹脂組成物層を有する樹脂組成物シートであって、
前記樹脂組成物層の幅方向の厚み公差及び長手方向の厚み公差は、いずれも0.1%以上3.0%以下であり、
前記樹脂組成物層は、幅が1000mm以下であることを特徴とする、樹脂組成物シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム層及び樹脂組成物層を有する樹脂組成物シートであって、
前記樹脂組成物層の幅方向の厚み公差及び長手方向の厚み公差は、いずれも0.1%以上3.0%以下であり、
前記樹脂組成物層は、幅が1000mm以下であることを特徴とする、樹脂組成物シート。
【請求項2】
前記樹脂組成物層は、a)アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、及びニトリルブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂、b)エポキシ樹脂、並びに、c)硬化剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物シート。
【請求項3】
前記a)熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂を含み、
前記アクリル樹脂は、示差熱量分析法で測定したTgが-30℃以下であり、
前記アクリル樹脂は、エポキシ基、水酸基、アミノ基、ヒドロキシアルキル基、ビニル基、シラノール基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有し、かつ、
前記アクリル樹脂は、炭素数1~8の飽和炭化水素の側鎖を有するアクリル酸エステルおよび/または炭素数1~8の飽和炭化水素の側鎖を有するメタクリル酸エステルを構成モノマーとして含む重合体であることを特徴とする、請求項2に記載の樹脂組成物シート。
【請求項4】
前記a)熱可塑性樹脂は、ポリイミド樹脂を含み、
前記ポリイミド樹脂は、シロキサン骨格を有するポリイミド樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載の樹脂組成物シート。
【請求項5】
前記a)熱可塑性樹脂は、ポリイミド樹脂を含み、
前記ポリイミド樹脂は、シロキサン骨格を有する酸無水物残基とシロキサン骨格を有するジアミン残基を構成単位として含む重合体であることを特徴とする、請求項2に記載の樹脂組成物シート。
【請求項6】
前記樹脂組成物層は、無機粒子を含むことを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物シート。
【請求項7】
前記樹脂組成物層の両面側に、前記フィルム層を有することを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物シート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂組成物シート中の樹脂組成物層を硬化したシート硬化物を有するウェハ保持体。
【請求項9】
請求項8に記載のウェハ保持体を有する、半導体製造装置。
【請求項10】
金属板及び/又はセラミックス板を含む積層体の製造方法であって、
以下の工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
工程1:請求項7に記載の樹脂組成物シートの一方のフィルム層を剥がして、前記樹脂組成物層に前記金属板又は前記セラミックス板を貼り合わせる工程。
工程2:前記樹脂組成物シートの他方のフィルム層を剥がして、前記樹脂組成物層に前記金属板又は前記セラミックス板を貼り合わせる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品に用いられる樹脂組成物シートならびに前記樹脂組成物シートの樹脂組成物と金属および/またはセラミックスを貼り合わせた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は高密度化が急速に進んでいる。電子機器や電子機器を製造する装置(以下、電子機器製造装置)に用いられる樹脂組成物は、最終的に機器内に残留することが多いため、接着性、耐熱性、絶縁性などの諸特性を満たすことが要求される。特に半導体製造装置では繰り返しの温度サイクルの中で金属、セラミックスなどの異種材料を貼り合わせるため、応力緩和性、長期耐熱性などが求められる。
【0003】
最近では、半導体素子として従来用いられていたシリコン(Si)ウェハに代わり、より電気特性の優れたGaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)が注目されており、パワーデバイスなどの分野で使用が進んでいる。
【0004】
特にSiCは電気特性に優れているので、単位面積にかけられる電圧はSiよりも高くなり、それに伴い、単位面積にかかる温度が高くなる。したがって、接着剤にも150℃、場合によっては200℃を超える高い耐熱性が求められ、さらにその温度で長期間接着性を維持することのできる長期高温耐性が要求されている。
【0005】
これまでに、アクリル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含有する半導体装置用樹脂シートやダイシングダイボンディングシートが高い温度サイクル性を示すことが開示されている(例えば特許文献1~2参照)。
【0006】
この中で例えば、半導体製造装置では150℃等の一定温度に保持しつつ、300mm以上の大型形状で、かつガラス板、金属板、セラミックス板などの異なる材質を貼り合わせる要求がある。また電子機器においては中空構造を形成しつつ、ICチップや電極(以下、電極等)を封止する要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-26960号公報
【特許文献2】特開2004-217793号公報
【特許文献3】特開2014―208782号公報
【特許文献4】特開2018-016802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、金属板、セラミックス板を貼り合わせる樹脂層の厚みには公差がある。ここで公差とは、厚みの最大値と最小値の差を示す。この公差が大きいと、例えば半導体装置内でCVDエッチングによってウェハに穴あけ加工をするときに、目的とする深さまで加工できない、目的とする穴のサイズよりも大きく加工されてしまうなどの問題が生じ、最終的に製品の歩留まり低下を招いてしまう。
【0009】
また電子機器で電極等を封止する要求においては、電極等の周辺を壁状に樹脂で覆った後に、屋根状に樹脂シートを覆い、不要な部分をエッチング等で除去することで中空構造を形成するが、前記屋根状に樹脂シートを覆う際に公差が大きいと、封止ができなくなり、同様に製品の歩留まり低下を招く。
【0010】
これらの樹脂層の公差は、実質的に4.0~7.0%程度であるが、高密度化・高性能化する電子機器においては1.0~2.0%以下が求められ、今後、さらに低減していくことが望まれる。しかしながら、樹脂層を形成する装置、環境の制約がある中で、要求を満たす樹脂層を得ることは極めて困難である。
【0011】
特許文献1~3の樹脂組成物は、小型形状ならびに300mm角の大型形状の材料を貼り合わせる上で繰り返しの温度サイクル試験で剥離しない材料が提案されている。しかしながら、これらの樹脂組成物を塗工で製造する際には厚み公差が実質的に3.0~7.0%程度であり、高密度化・高性能化する電子機器においては3.0%以下が求められ、今後、さらに低減していくことが望まれる。しかしながら、樹脂層を形成する装置、環境の制約がある中で、要求を満たす樹脂層を得ることは極めて困難である。
【0012】
特許文献4では、プラスチックフィルム基材/粘着剤層/プラスチックフィルム基材の構成で100~500μmの粘着剤層を備えた粘着シートが提案されている。粘着剤層を塗工する際に、凹凸のスジの発生を抑制することで、3.0~5.0%の厚み公差を得られている。しかしながら、上記、特許文献1~3と同様に、樹脂層を形成する装置、環境の制約がある中で、3.0%以下の厚み公差要求を満たす樹脂層を得ることは極めて困難である。
【0013】
そこで本発明では、厚み公差が0.1~3.0%の樹脂組成物シートを作製することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意検討した結果、コーティングにおいて樹脂組成物層の厚みを厚み計で計測しつつ、計測結果をもとに厚み公差を調整することで、厚み公差が小さい樹脂組成物シートを作製するに至った。すなわち、本発明は以下である。
(1)
フィルム層及び樹脂組成物層を有する樹脂組成物シートであって、
前記樹脂組成物層の幅方向の厚み公差及び長手方向の厚み公差は、いずれも0.1%以上3.0%以下であり、
前記樹脂組成物層は、幅が1000mm以下であることを特徴とする、樹脂組成物シート。
(2)
前記樹脂組成物層は、a)アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、及びニトリルブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂、b)エポキシ樹脂、並びに、c)硬化剤を含むことを特徴とする、前記(1)に記載の樹脂組成物シート。
(3)
前記a)熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂を含み、
前記アクリル樹脂は、示差熱量分析法で測定したTgが-30℃以下であり、
前記アクリル樹脂は、エポキシ基、水酸基、アミノ基、ヒドロキシアルキル基、ビニル基、シラノール基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有し、かつ、
前記アクリル樹脂は、炭素数1~8の飽和炭化水素の側鎖を有するアクリル酸エステルおよび/または炭素数1~8の飽和炭化水素の側鎖を有するメタクリル酸エステルを構成モノマーとして含む重合体であることを特徴とする、前記(2)に記載の樹脂組成物シート。
(4)
前記a)熱可塑性樹脂は、ポリイミド樹脂を含み、
前記ポリイミド樹脂は、シロキサン骨格を有するポリイミド樹脂であることを特徴とする、前記(2)又は(3)に記載の樹脂組成物シート。
(5)
前記a)熱可塑性樹脂は、ポリイミド樹脂を含み、
前記ポリイミド樹脂は、シロキサン骨格を有する酸無水物残基とシロキサン骨格を有するジアミン残基を構成単位として含む重合体であることを特徴とする、前記(2)~(4)のいずれかに記載の樹脂組成物シート。
(6)
前記樹脂組成物層は、無機粒子を含むことを特徴とする、前記(1)~(5)のいずれかに記載の樹脂組成物シート。
(7)
前記樹脂組成物層の両面側に、前記フィルム層を有することを特徴とする、前記(1)~(6)のいずれかに記載の樹脂組成物シート。
(8)
前記(1)~(7)のいずれかに記載の樹脂組成物シート中の樹脂組成物層を硬化したシート硬化物を有するウェハ保持体。
(9)
前記(8)に記載のウェハ保持体を有する、半導体製造装置。
(10)
金属板及び/又はセラミックス板を含む積層体の製造方法であって、
以下の工程を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【0015】
工程1:前記(7)に記載の樹脂組成物シートの一方のフィルム層を剥がして、前記樹脂組成物層に前記金属板又は前記セラミックス板を貼り合わせる工程。
【0016】
工程2:前記樹脂組成物シートの他方のフィルム層を剥がして、前記樹脂組成物層に前記金属板又は前記セラミックス板を貼り合わせる工程。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、金属板、セラミックス板を貼り合わせた後の樹脂組成物層の公差が小さくなり、例えば半導体装置内でCVDエッチングによってウェハに穴あけ加工をするときにウェハ面内の温度を均一にすることで精度よく加工することができる。また、電子機器で電極等を封止する用途においても歩留まりを向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、フィルム層及び樹脂組成物層を有する樹脂組成物シートであって、前記樹脂組成物層の幅方向の厚み公差及び長手方向の厚み公差は、いずれも0.1%以上3.0%以下であり、前記樹脂組成物層は、幅が1000mm以下であることを特徴とする。以下、このような本発明について説明する。
【0019】
本発明の樹脂組成物シートは、少なくともフィルム層及び樹脂組成物層を有する。最初に樹脂組成物層について説明する。
【0020】
樹脂組成物層は、本発明のシートに対して可撓性、熱応力の緩和、低吸水性による絶縁性の向上等の機能を付与する層である。このような樹脂組成物層は、樹脂を含みさえすればその樹脂の種類は特に限定されないが熱可塑性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂としては、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(NBR)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、炭素数1~8の側鎖を有するアクリル酸および/またはメタクリル酸エステル樹脂(アクリルゴム)、ポリイミド等が例示される。そのなかでも本発明の樹脂組成物層は、a)アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、およびニトリルブタジエンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。また、ウエハ保持体の温度を高温に保つ点から、樹脂組成物層の熱伝導率は0.5W/mK以下であることが好ましく、接着性の観点から、0.1W/mK~0.3W/mKであることが更に好ましい。
【0021】
なお、本発明においてa)熱可塑性樹脂とは、一般的な定義のとおり、ガラス転移温度または融点まで加熱することによって軟らかくなる樹脂であり、エポキシ基、エチレン性二重結合等の反応性官能基や、イソシアネート基と水酸基、イソシアネート基とアミノ基といった反応性のある官能基の組み合わせを有さないか、前述の官能基を有している場合であっても官能基含有量が2.0当量/kg以下のものを指す。
【0022】
本発明で用いられるアクリル樹脂としては、示差走査熱量分析法にて測定したTgが-30℃以下、好ましくは、-70℃以上-40℃以下のアクリル樹脂がよい。Tgが-30℃以下であることによって、温度サイクル特性の下限値である-20℃以上の使用環境下においてでさえ、応力緩和性の高い状態を保つことができる。本発明者らは応力緩和に着目したことから、温度サイクル特性全域において応力緩和性の高い状態を保つことができるため、アクリル樹脂のTgを-30℃以下とすることが好ましいことを見出したものである。一方で、炭素数1~8の側鎖を有するアクリル酸および/またはメタクリル酸エステル樹脂(アクリルゴム)のTgを-70℃未満で設計することは困難である。
【0023】
またa)熱可塑性樹脂としては、重量平均分子量が80万~150万の熱可塑性樹脂がよい。加熱硬化後の層間絶縁性や膜強度の観点、特に例えば150℃のような高温領域での膜強度の維持の観点から、熱可塑性樹脂の重量平均分子量が80万以上、好ましくは、100万以上、より好ましくは120万以上である。また、塗料粘度の取り扱い性の観点から、150万以下、好ましくは、140万以下である。重量平均分子量については、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により測定し、ポリスチレン換算で算出する。
【0024】
a)熱可塑性樹脂として好適なアクリル樹脂は、示差熱量分析法で測定したTgが-30℃以下であり、エポキシ基、水酸基、アミノ基、ヒドロキシアルキル基、ビニル基、シラノール基およびイソシアネート基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有し、かつ、炭素数1~8の飽和炭化水素の側鎖を有するアクリル酸エステルおよび/または炭素数1~8の飽和炭化水素の側鎖を有するメタクリル酸エステルを構成モノマーとして含む重合体であることが好ましい。このようなアクリル樹脂中に後述のb)エポキシ樹脂およびc)硬化剤との反応が可能な官能基を有することにより、a)熱硬化性樹脂との結合が強固になり、層間絶縁性が向上するので好ましい。特にアクリル樹脂中のエポキシ基は、エポキシ樹脂との相溶性の観点からより好ましい。
【0025】
炭素数1~8の飽和炭化水素を側鎖として有するアクリル酸エステル、炭素数1~8の飽和炭化水素を側鎖として有するメタクリル酸エステルの例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチルのようなアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、また、アクリル酸シクロヘキシルのようなアクリル酸の脂環属アルコールとのエステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、メチルスチレン、クロルスチレン、ビニリデンクロライド、エチルα-アセトキシアクリレート等が挙げられる。また、このようなアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルは、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0026】
エポキシ基、水酸基、アミノ基、ヒドロキシアルキル基、ビニル基、シラノール基およびイソシアネート基から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するモノマーとしては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミドが挙げられる。
【0027】
a)熱可塑性樹脂として好適なアクリル樹脂は、炭素数1~8の飽和炭化水素を側鎖として有するアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを90モル%以上、エポキシ基、水酸基、アミノ基、ヒドロキシアルキル基、ビニル基、シラノール基およびイソシアネート基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有するモノマーを10モル%以下で共重合させて得られる共重合体であることが好ましい。前述の官能基を有するモノマーが10モル%以上共重合されると、エポキシ樹脂との相溶が向上し、硬化後の応力緩和性が不十分となる場合がある。
【0028】
またa)熱可塑性樹脂として好適なアクリル樹脂で用いられるこれらの共重合体が有する官能基は、b)エポキシ樹脂、およびc)硬化剤と反応することにより、架橋密度が上がり層間絶縁性に有利であるとともに、被着材料の線膨張差によって発生するせん断応力に対し、形状を保持し続けることが可能であるため、b)エポキシ樹脂及びc)硬化剤との反応が可能であることが好ましい。これらの官能基の官能基含有量は、a)熱可塑性樹脂中0.07当量/kg以上、0.7当量/kg以下が好ましく、より好ましくは0.45当量/kg以下、さらに好ましくは0.14当量/kg以下である。
【0029】
本発明の樹脂組成物シート中の樹脂組成物層において、a)熱可塑性樹脂の含有量は、b)エポキシ樹脂とc)硬化剤の合計100重量部に対し、400重量部以上1000重量部以下含有する。この範囲であれば、温度サイクル試験において、b)エポキシ樹脂とc)硬化剤の添加によって樹脂組成物層自体の膜強度を確保しつつ、a)熱可塑性樹脂によって、十分な応力緩和性が得られるため、被着体の線膨張差によって発生するせん断応力による剥がれが発生しない。
【0030】
なお、本発明の樹脂組成物シートにおいて、樹脂組成物層中のa)熱可塑性樹脂、b)エポキシ樹脂、c)硬化剤の含有量は、製造する際の配合比だけでなく、組成物をクロロホルム等有機溶媒に溶解し、GPC分取し、各分取物を熱分解GC/MS分析することで、それぞれ測定することができる。
【0031】
本発明の樹脂組成物シート中の樹脂組成物層は、b)エポキシ樹脂を含有することが好ましい。エポキシ樹脂を含むことにより、耐熱性、高温での絶縁性、耐薬品性、樹脂組成物層にしたときの強度等の物性バランスを実現することができる。エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限されず、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型骨格を含有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、およびハロゲン化エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0032】
本発明の樹脂組成物シート中の樹脂組成物層は、エポキシ基と架橋反応するc)硬化剤を含有することが好ましい。エポキシ基と架橋反応する硬化剤を含有することで硬化後の接着力が向上する。
【0033】
硬化剤の例としては、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2’,3,3’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4,4’-トリアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯体等の三フッ化ホウ素のアミン錯体、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどのノボラックフェノール樹脂、ビスフェノールAなどのビスフェノール化合物、1,2,3-ベンゾトリアゾール、4-メチル-ベンゾトリアゾール、5-メチル-ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、ニトロ-1H-ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール誘導体、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の有機酸、ジシアンジアミド等公知のものが挙げられる。これらは単独または2種以上用いてもよい。
【0034】
また、トリフェニルホスフィン(TPP)、2-アルキル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-アルキルイミダゾール等のイミダゾール誘導体等公知の硬化促進剤(硬化触媒)も、本発明においてc)硬化剤に含まれるものとする。これらの中でも耐熱性に優れることから、c)硬化剤としてはノボラックフェノール樹脂やビスフェノール化合物などのフェノール系硬化剤が好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物シート中の樹脂組成物層は、無機粒子を含有することにより、耐リフロー性、打ち抜き性等の加工性、熱伝導性を向上させることができる。無機粒子は、樹脂組成物の特性を損なうものでなければ特に限定されないが、その具体例としては、シリカ、酸化アルミニウム、窒化珪素、水酸化アルミニウム、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化チタン、水酸化マグネシウム、カルシウム・アルミネート水和物等の金属水酸化物、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化クロム、タルク等の金属酸化物、炭酸カルシウム等の無機塩、あるいはカーボンブラック、ガラス等が挙げられる。
【0036】
無機粒子としては、これらの中でも、シリカ、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、水酸化アルミニウムが好ましく用いられる。これらを単独または2種以上用いてもよい。中でも熱分解温度が300℃を大きく超えるため樹脂組成物の耐リフロー性に有利である点、樹脂組成物シートの流動性を調整しやすい点、粒径の安定性からシリカが特に好ましい。ここで、シリカは非晶、結晶のいずれであってもよく、それぞれのもつ特性に応じて適宜使いわけることを限定するものではない。これらの無機粒子に耐熱性、接着性等の向上を目的としてシランカップリング剤等を用いて表面処理を施してもよい。シランカップリング剤は後述のものを用いることができる。
【0037】
また、無機粒子の形状は特に限定されず、破砕系、球状、鱗片状などが用いられるが、塗料への分散性の点から球状が好ましく用いられる。無機粒子の粒径は特に限定されないが、分散性および塗工性、耐リフロー、サーマルサイクル性および本発明の樹脂組成物シートを基材へラミネートした際の接続不良等の信頼性の点で、平均粒径3μm以下、最大粒径10μm以下が好ましく用いられる。また、流動性、分散性の点から、平均粒径の異なる無機粒子を併用すると一層効果的である。
【0038】
なお、無機粒子の粒径の測定は、堀場製LA500レーザー回折式粒度分布計で測定することができる。ここでいう平均粒径とは、球相当体積を基準とした粒度分布を測定し、累積分布をパーセント(%)で表した時の50%に相当する粒子径(メジアン径)で定義される。ここで言う粒度分布は、体積基準で粒子径表示が56分割片対数表示(0.1~200μm)するものとする。また、最大粒径は先に定義した粒度分布において、累積分布をパーセント(%)で表した時の100%に相当する粒子径で定義される。また、測定試料は、イオン交換水中に、白濁する程度に粒子を入れ、10分間超音波分散を行ったものとする。また、屈折率1.1、光透過度を基準値(約70%程度、装置内で既に設定されている)に合わせて測定を行う。
【0039】
樹脂組成物層中の無機粒子の含有量は、b)エポキシ樹脂とc)硬化剤の合計100重量部に対して5重量部以上が好ましく、より好ましくは10重量部以上であり、200重量部以下が好ましく、より好ましくは150重量部以下、さらに好ましくは100重量部以下である。無機粒子の含有量を5重量部以上とすることで、耐リフロー性の向上効果が得られ、200重量部以下とすることで、接着力を向上させることができる。なお、本発明の樹脂組成物シートにおいて、無機粒子の含有量は、製造する際の配合比だけでなく、熱重量測定することで、それぞれ測定することができる。
【0040】
本発明の樹脂組成物シートの樹脂組成物層にシランカップリング剤を含有することにより、銅をはじめとした種々の金属やガラスエポキシ基板等のリジッド基板などとの接着力の向上をはかることができる。
【0041】
樹脂組成物層には、以上の成分以外に、特性を損なわない範囲で、回路腐食やマイグレーション現象を抑制する腐食抑制剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤などを含有することは何ら制限されるものではない。
【0042】
酸化防止剤としては、酸化防止の機能を付与するものであれば特に限定されず、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等の公知の酸化防止剤が挙げられる。例えばNBRゴムなど二重結合を含む樹脂の場合、高温で長時間放置すると二重結合部分の架橋が徐々に進行し、接着剤膜が脆くなる傾向があるが、酸化防止剤を使用することにより、これらの反応を抑えることができる点で有効である。
【0043】
イオン捕捉剤としては無機イオン交換体が多く使われる。無機イオン交換体は、(i)イオン選択性が大きく、2種以上のイオンが共存する系より特定のイオンを分離することができる、(ii)耐熱性に優れる、(iii)有機溶剤、樹脂に対して安定である、(iv)耐酸化性に優れることから、イオン性不純物の捕捉に有効であり、絶縁抵抗の低下抑制、アルミ配線の腐食防止、イオンマイグレーションの発生防止などが期待できる。種類は非常に多く、1)アルミノケイ酸塩(天然ゼオライト、合成ゼオライト等)、2)水酸化物または含水酸化物(含水酸化チタン、含水酸化ビスマス等)、3)酸性塩(リン酸ジルコニウム、リン酸チタン等)、4)塩基性塩、複合含水酸化物(ハイドロタルサイト類等)、5)ヘテロポリ酸類(モリブドリン酸アンモニウム等)、6)ヘキサシアノ鉄(III)塩等(ヘキサシアノ亜鉛等)、7)その他、等に分類できる。商品名としては、東亜合成(株)のIXE-100、IXE-300、IXE-500、IXE-530、IXE-550、IXE-600、IXE-633、IXE-700、IXE-700F、IXE-800が挙げられる。陽イオン交換体、陰イオン交換体、両イオン交換体があるが、樹脂組成物中には陽、陰両方のイオン性不純物が存在することから、両イオン交換体が好ましい。これらを使用することにより、絶縁層用途で使用した場合、配線のイオンマイグレーションを防ぐと共に、絶縁抵抗低下を抑制することができる。これらの成分は単独または2種以上用いてもよい。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、硬化触媒としてホスフィン系の硬化触媒を含有することが好ましい。ホスフィン系の硬化触媒を含有することで硬化性、常温での保存安定性が向上する。
【0045】
本発明で用いるa)熱可塑性樹脂のうち、ポリイミド樹脂は特に制限されないが、高耐熱性の観点から芳香族ポリイミド、シロキサンポリイミドが好ましい。更に、低弾性化の観点から、シロキサンポリイミドを含むことが好ましい。なお、シロキサンポリイミドとは、シロキサン骨格を有するポリイミド樹脂を意味し、つまり本発明のa)熱可塑性樹脂としてポリイミド樹脂を用いる場合には、シロキサン骨格を有するポリイミド樹脂であることが好ましい。さらにa)熱可塑性樹脂として好適なポリイミド樹脂は、シロキサン骨格を有する酸無水物残基とシロキサン骨格を有するジアミン残基を構成単位として含む重合体であることが好ましい。以下、このようなポリイミド樹脂について説明する。
【0046】
ポリイミド樹脂は、ポリイミド樹脂中の全てのジアミン残基を100モル%とした際に、一般式(1)のジアミン残基(1)を60モル%以上100モル%以下含有することが好ましい。柔軟性の高いシロキサン骨格を有するポリイミド樹脂を含有することにより、本発明の樹脂組成物を硬化したシート硬化物の耐熱性を向上させるとともに、弾性率を低減して基材の形状に追従する密着性に優れたシート硬化物を得ることができる。ジアミン残基(1)の含有量が60モル%未満であると、シート硬化物の弾性率が高くなり、基材との密着性、追従性が低下することがある。弾性率をより低減し、基材との密着性、追従性をより向上させる観点から、(A)ポリマー中の全てのジアミン残基を100モル%とした際に、ジアミン残基(1)を70モル%以上100モル%以下含有することが好ましく、85モル%以上100モル%以下含有することがより好ましい。
【0047】
【0048】
一般式(1)中、R1~R4はそれぞれ同じでも異なってもよく、炭素数1~30のアルキル基、フェニル基またはフェノキシ基を示す。ただし、フェニル基およびフェノキシ基は炭素数1~30のアルキル基で置換されていてもよい。ここでアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。また炭素数1~30のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。アルキル基の炭素数は、耐熱性をより向上させる観点から12以下が好ましい。m個のR1およびR3はそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0049】
一般式(1)中、R5およびR6はそれぞれ同じでも異なってもよく、炭素数1~30のアルキレン基またはアリーレン基を示す。ただし、アリーレン基は炭素数1~30のアルキル基で置換されていてもよい。またアルキレン基およびアルキル基は、いずれも直鎖状でも分岐状でもよい。炭素数1~30のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。アリーレン基の炭素数は、耐熱性をより向上させる観点から12以下が好ましい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基などが挙げられる。これらのアルキレン基とアリーレン基が結合した基でも良い。
【0050】
一般式(1)中、mは1以上100以下の範囲を示す。mは各ポリマー鎖においては整数であるが、ポリマー全体の測定により求められる平均値は整数でない場合がある。なお、シート硬化物の弾性率をより低下する観点から、mは3以上が好ましく、5以上がより好ましい。mを5以上にすることにより、長く柔軟なシロキサン鎖により、シート硬化物の弾性率を低減して、基材との密着性、追従性を向上させることができる。一方、熱硬化樹脂(B)との相溶性を向上させる観点から、mは40以下が好ましい。つまり、一般式(1)においてmは、3以上40以下であることが好ましい。
【0051】
本発明のポリイミド樹脂は、更にポリイミド樹脂中の全ての酸無水物残基を100モル%とした際に、一般式(2)の酸無水物残基(2)を50%以上100モル%以下含有することが好ましい。柔軟性の高いシロキサン骨格を有するポリイミド樹脂を含有することにより、本発明の樹脂組成物を硬化したシート硬化物の耐熱性を向上させるとともに、弾性率を低減して基材の形状に追従する密着性に優れたシート硬化物を得ることができる。酸無水物残基(2)の含有量が50モル%未満であると、シート硬化物の弾性率が高くなり、基材との密着性、追従性が低下することがある。弾性率をより低減し、熱応答性をより向上させる観点から、ポリイミド樹脂の全ての酸無水物残基を100モル%とした際に、酸無水物残基(2)を70モル%以上100モル%以下含有することが好ましく、85モル%以上100モル%以下含有することがより好ましい。
【0052】
【0053】
一般式(2)中、R7~R10はそれぞれ同じでも異なってもよく、炭素数1~30のアルキル基、フェニル基またはフェノキシ基を示す。ただし、フェニル基およびフェノキシ基は炭素数1~30のアルキル基で置換されていてもよい。またアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。炭素数1~30のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。アルキル基の炭素数は、耐熱性をより向上させる観点から12以下が好ましい。n個のR7およびR9は、それぞれ同じでも異なってもよい。
【0054】
一般式(2)中、R11およびR12はそれぞれ同じでも異なってもよく、炭素数1~30のアルキレン基またはアリーレン基を示す。ただし、アリーレン基は炭素数1~30のアルキル基で置換されていてもよい。またアルキレン基およびアルキル基は、いずれも直鎖状でも分岐状でもよい。炭素数1~30のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。アリーレン基の炭素数は、耐熱性をより向上させる観点から12以下が好ましい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基などが挙げられる。これらのアルキレン基とアリーレン基が結合した基でも良い。
【0055】
一般式(2)中、nは1以上100以下の範囲を示す。nは各ポリマー鎖においては整数であるが、ポリマー全体の測定により求められる平均値は整数でない場合がある。なお、シート硬化物の弾性率をより低下する観点から、nは3以上が好ましく、5以上がより好ましい。nを5以上にすることにより、長く柔軟なシロキサン鎖により、シート硬化物の弾性率を低減して、基材との密着性、追従性を向上させることができる。一方、熱硬化樹脂(B)との相溶性を向上させる観点から、nは40以下が好ましい。つまり、一般式(2)においてnは、3以上40以下であることが好ましい。
【0056】
本発明の樹脂組成物は、上記記載の原料を混合して得られる。混合の手法としては、各原料を溶剤に溶解し、それらを撹拌混合し、溶剤を乾燥し除去する手法が挙げられる。
【0057】
本発明の樹脂組成物シートは、上述した樹脂組成物層と、該樹脂組成物層の少なくとも一方の面にフィルム層を有する構成である。本発明の樹脂組成物シートにおいて、フィルム層や樹脂組成物層の数は特に限定されず、フィルム層と樹脂組成物層をそれぞれ1層ずつ有する態様や、一方のみを複数層有する態様、両方ともに複数層有する態様などがあげられるが、樹脂組成物層の両面に剥離可能な保護フィルム層とを有する構成、つまり樹脂組成物層の両面側にフィルム層を有する態様が好ましい。
【0058】
本発明の樹脂組成物シートを得る方法としては、例えばコーターでフィルムを搬送させ、フィルム上に溶剤を含む樹脂組成物を塗布し、乾燥オーブンで溶剤を乾燥させて樹脂組成物層を形成した後、もう1つのフィルムをラミネート等で圧着させ、巻き取ることで得ることが出来る。
【0059】
樹脂組成物層の厚みは、弾性率および線膨張係数との関係で適宜選択できるが、50~400μmが好ましく、より好ましくは70~300μmである。樹脂組成物層は接着部材の表面に凹凸に追従できるのであれば、なるべく薄い方が熱伝導の点で好ましい。
【0060】
50~400μmの厚みの樹脂組成物層を得るためには、単独で塗工してもよいし、複数回塗工してもよい。複数回塗工する場合は、巻き取った樹脂組成物シートの1つのフィルムを剥がし、ラミネート等で圧着させ、巻き取ることで得ることが出来る。
【0061】
樹脂組成物層の幅は1000mm以下である。例えば半導体製造装置において12インチのウェハを加工するときにそれ以上の幅の樹脂組成物シートで金属やセラミックスを貼り合わせる必要があり、樹脂組成物層の幅は300mm以上が好ましい。一方で樹脂組成物層の幅が1000mmを超えると樹脂組成物層の厚み公差を制御することが難しくなる。樹脂組成物層の幅について、さらに望ましくは320mm以上900mm以下である。
【0062】
本発明において、樹脂組成物層の厚み公差は、平均厚みに対し、厚みの最大値と厚みの最小値の差を、平均厚みで割った値とする。この樹脂組成物層の幅方向の厚み公差及び長手方向の厚み公差は0.1%以上3.0%以下であり、好ましくは0.1%以上1.4%以下であり、さらに好ましくは0.1%以上1.0%である。コーターの種類は上記公差を満たす方式であれば特に限定されないが、リップコーターやダイコーターが例示される。厚みを調整する機能として、クリアランス調整機能やベンド調整機能、液圧調整機能を有していることが望ましい。
【0063】
樹脂組成物層の幅方向の厚み公差及び長手方向の厚み公差をいずれも0.1%以上3.0%以下とするための方法として、例えばコーターに走行中にインラインで厚みを計測できる厚み計を有しており、厚み計で樹脂組成物の厚みを計測しつつ、適宜調整機能で厚みを制御して塗工する方法が挙げられる。
【0064】
膜厚計は樹脂組成物層の厚みを精度よく測定出来ればよく、赤外線吸収方式、X線吸収方式、光学干渉方式が挙げられる。中でも光学干渉方式は厚み計センサーの光源からの光をフィルムならびに樹脂組成物層の界面で反射して受光し、CCD等で波形分離することで得られる波長の光強度が極大となる波長をフーリエ変換することで樹脂組成物層の厚みを得ることが出来る。
【0065】
樹脂組成物層の厚みを精度よく得る方法としては、上記のフィルム層ならびに樹脂組成物層の各界面(大気-フィルム層の界面、フィルム層-樹脂組成物層の界面、樹脂組成物層-大気の界面)で受講した光を十分に受光出来ればよく、光源に使用する波長帯域の選定、光源の種類の選定などが挙げられる。
【0066】
光源に使用する波長帯域は波長が低いとフィルム層ならびに樹脂組成物層内での減衰が大きくなり、十分な光量を受講出来なくなる。一方で波長が大きいと光強度が極大となる波長の数が少なくなる。このため、好ましくは600nm以上1500nm以下であり、さらに好ましくは900nm以上1300nm以下である。
光源の種類はフィルムならびに樹脂組成物層を通過するのに十分な光量を確保できればよく、LEDやSLD(Super luminescent diode)光源が好ましく用いられる。
【0067】
また光源は樹脂組成物層側、フィルム層側のどちらに照射しても用いることが出来るが、樹脂組成物層側に照射すると、フィルム層-大気の界面の光は、樹脂組成物層、フィルム層を通過し、フィルム層-大気間で反射した光を受光するため減衰・透過量が大きく十分な光量を得られない。このためフィルム層側から照射する方が好ましい。また樹脂組成物層-フィルム層間の界面で反射した光を受講する際に光量が十分にある必要があることから、樹脂組成物とフィルムの屈折率は0.05以上違いがある方が望ましい。
【0068】
また樹脂組成物層の長手方向の厚みを測定するためには、厚み計を多点で測定するかあるいはトラバース方式を用いる方法が挙げられるが、トラバース方式であれば全幅において測定できるためより好ましい。
【0069】
上記の方法を用いて厚みを計測し適宜、調整すれば、樹脂組成物層の幅方向及び長手方向の厚み公差が0.1%位以上3.0%以下の樹脂組成物シートを得ることが出来る。なお、厚み公差はコーティングロールの偏芯などの影響を受けるため0.1%未満にすることは実質的に困難である。
【0070】
例えば、リップコーターで熱可塑性樹脂にアクリル樹脂を用いた場合であれば、各原料を溶剤に溶解した塗料の固形分濃度を低く調整し、塗工時の液圧をスジ等の欠点が発生しない限りに高くする方が好ましい。固形分濃度が低い方がロールの偏芯やフィルム層のバラつきの影響をミニマイズ化することができる。塗料の固形分濃度は、好ましくは14.0質量%以上18.0質量%以下であり、より好ましくは14.5質量%以上15.5質量%以下である。塗工時の液圧は高い方が塗料の流動性が増すことで基材幅方向に均一に塗布することができるため、塗料の液圧は好ましくは50Pa・s以上150Pa・s以下、より好ましくは100Pa・s以上150Pa・s以下である。また塗料の送液は、モーノポンプ等を用いることで、長手方向のバラつきを少なくすることができる。
【0071】
本発明の樹脂組成物シートは、フィルム層を有する。樹脂組成物シート中のフィルム層は、樹脂組成物層の形態および機能を損なうことなく剥離できれば特に限定されない。例えばポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート等のプラスチックフィルム、これらにシリコーン、フッ素化合物、メラミン樹脂等の離型剤のコーティング処理を施したフィルムおよびこれらのフィルムをラミネートした紙、離型性のある樹脂を含浸あるいはコーティングした紙等が挙げられる。保護フィルム層は、加工時に視認性が良いように顔料による着色が施されていても良い。これにより、先に剥離する側の保護フィルムが簡便に認識できるため、誤使用を避けることができる。
【0072】
樹脂組成物層の両面の保護フィルム層の樹脂組成物層に対する剥離力をF1、F2(F1>F2)としたとき、F1-F2は好ましくは5Nm-1以上、さらに好ましくは15Nm-1以上である。F1-F2を5Nm-1以上とすることで、目的の保護フィルム層を安定して剥離することができるため作業性が良い。また、剥離力F1、F2はいずれも好ましくは1~200Nm-1、さらに好ましくは3~100Nm-1である。この範囲であれば、保護フィルム層の脱落や、樹脂組成物層の損傷等のトラブルを防ぐことができる。
【0073】
本発明の樹脂組成物シート、特に樹脂組成物層の両面にフィルム層を有する樹脂組成物シートは、積層体の製造方法に好適に用いる事ができる。より具体的には、金属板及び/又はセラミックス板を含む積層体の製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法である。
【0074】
工程1:本発明の樹脂組成物シートの一方のフィルム層を剥がして、前記樹脂組成物層に前記金属板又は前記セラミックス板を貼り合わせる工程。
【0075】
工程2:前記樹脂組成物シートの他方のフィルム層を剥がして、前記樹脂組成物層に前記金属板又は前記セラミックス板を貼り合わせる工程。
【0076】
前記工程1、2においては、前記樹脂接着剤物層と前記金属板又は前記セラミックス板の間に空隙等を巻き込まずに貼り合わせることが出来れば方法は特に言及されず、ラミネート法やプレス法などの加圧加熱法が好適に用いられる。また工程1,2は同時に貼り合わせても、逐次的に貼り合わせても構わない。
【0077】
本発明の樹脂組成物シートは、ウェハ保持体ならびにウェハ保持体を有する半導体製造装置に好適に用いられる
本発明のウェハ保持体は、本発明の樹脂組成物シート中の樹脂組成物層を硬化したシート硬化物を有するウェハ保持体である。これについてより具体的には、吸着対象物を吸着保持する機能を有するセラミック製の静電チャックと、金属製の冷却板との間に、本発明のシート硬化物を備えた積層体を含むものであることが好ましい。本発明のウェハ保持体は温調機能を有し、吸着対象物の温度を均一かつ一定に調節する機能を有することが好ましい。ウェハ保持体は冷熱サイクルを繰り返しても静電チャックと冷却板の剥がれなきことが求められる。本発明の積層体を間に設けることにより、冷熱サイクルにおける熱応力を緩和し、広い温度範囲、長期間にわたって接着状態を良好に維持することができる。
【0078】
本発明の半導体製造装置は、本発明のウェハ保持体を有する半導体製造装置である。そのため本発明の半導体製造装置は、プラズマ源、温調機構を有するウェハ保持体を有することが好ましい。半導体製造装置においては、処理チャンバー内に設けられたウェハ保持体上に、半導体ウェハ等の被処理基板を載置し、真空環境下で処理チャンバーに高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させて、被処理基板に対するドライエッチング工程を行う。ドライエッチング工程に求められる加工精度が高くなっていることから、被処理基板の面内におけるプラズマ処理の均一性を高めるため、被処理基板の温度が一定になるように調整することが行われている。前期の通り、本発明のシート硬化物を設けることにより、広い温度範囲、長期間にわたって接着状態を良好に維持することができ、ひいては、被処理基板の面内におけるプラズマ処理の均一性を良好に維持することができる。
【実施例0079】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
まず各実施例で行った評価方法について述べる。
【0081】
(1)積層体の作製:樹脂組成物層の表面の一方の側の保護フィルム(フィルム層)を剥がし、300mm×300mm×厚さ8mmのアルミ板上に、樹脂組成物層を60℃、1MPaの条件でラミネートして貼り付けた。次いで、樹脂組成物シートの反対面の保護フィルム(フィルム層)を剥がし、300mm×300mm×厚さ5mmのアルミナ板を25℃、1MPaの条件でラミネートし、アルミ板/樹脂組成物層/アルミナ板の積層体を作製した。この全厚みをデジマイクロ(ニコン製MF-1001)で50点測定し、アルミナ板とアルミ板の厚みを除いた値を、樹脂組成物層の厚みとした。平均厚みに対し、最大値と最小値の差を平均厚みで割った値を厚み公差とした。
【0082】
(2)温度サイクル試験:
(1)と同様のサンプルを各水準5個用意し、170℃2時間加熱し積層体の硬化物を作製した。積層体の硬化物を各水準5個用意し、温度サイクル試験器(タバイエスペック(株)製、PL-3型)中で、-20℃~150℃、最低および最高温度で各2時間保持の条件で処理し、100サイクル周期でサンプルを取り出し、剥がれの発生有無を評価した。各水準5個中、1つでも剥がれを確認したらNGとした。最長1500サイクルまで評価を行った。
【0083】
(3)150℃耐熱試験後の温度サイクル試験:
(1)と同様のサンプルを各水準5個用意し、熱風オーブン内にて150℃環境下2000時間保持した。その後、(1)と同様の温度サイクル試験を実施、100サイクル周期でサンプルを取り出し、剥がれの発生有無を評価した。各水準5個中、1つでも剥がれを確認したらNGとした。最長1500サイクルまで評価を行った。
【0084】
(4)樹脂組成物シートの厚み測定:
コーターで樹脂組成物シートの作製中に光学干渉式の厚み計(Keyence製SI-T80)を用いて、厚み計センサー部をフィルム及び樹脂組成物シートの幅方向にトラバースさせつつ、シート中の樹脂組成物層の厚みを測定した。トラバース速度はコーターのフィルム及び樹脂組成物シートの搬送速度と同じとした。このようにトラバースによって樹脂組成物層の幅方向の厚みを測定しつつ、搬送しながら長手方向の厚みを測定した。樹脂組成物層の厚みは、幅方向10往復以上したときの平均厚みに対し、最大値と最小値の差を平均厚みで割った値を厚み公差とした。また作製した樹脂組成物シート中の樹脂組成層の厚みをデジマイクロ(ニコン製MF-1001)で50点測定し、前記光学干渉式の厚み計(Keyence製SI-T80)の値との誤差が0.05%以下であることを確認した。
【0085】
(実施例)
下記熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化触媒、無機粒子を、それぞれ表1に示した接着剤組成となるように配合し、固形分濃度15重量%となるようにDMF/モノクロルベンゼン/MIBK混合溶媒に40℃で攪拌、溶解して樹脂組成物溶液を作製した。この溶液をリップコーターおよびコンマコーターで離型剤付きの厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(藤森工業(株)製“フィルムバイナ”GT)に約150μmの乾燥厚さとなるように塗布し、140℃で3分間乾燥し、保護フィルムを貼り合わせて、本発明の樹脂組成物シートを作製した。実施例1~5はリップコーター、比較例はコンマコーターを用い、それぞれ厚み計で確認しつつコーターヘッド部のクリアランス調整機構、速度、張力を調整しつつ樹脂組成物層を作製した。電子部品用の樹脂組成物シートの評価結果を、表1に示す。実施例に使用した各原材料は、次の通りである。
【0086】
<a)熱可塑性樹脂>
ポリマー1:混合機及び冷却器を備えた反応器に窒素雰囲気下(又は、窒素気流下)にて、下記に示す割合のモノマーと溶媒を入れ、大気圧(1013hPa)下、85℃に加熱し、さらに連鎖移動剤、重合開始剤等を滴下し、下記に示す重量平均分子量になるまで重合した。
【0087】
得られたポリマーの重量平均分子量を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法(装置:東ソー社製 GELPERMEATION CHROMATOGRAPH,カラム:東ソー社製TSK-GEL GMHXL 7.8*300mm)により測定し、ポリスチレン換算で算出した。
【0088】
また得られたポリマーのTgを、示差走査熱量分析法にて測定した。SII社製EXTER DSC6100を用いて、温度-70℃~200℃、昇温速度10℃/分、試料量約10mg、Al製オープンパン使用、窒素ガスフロー40mL/分にて測定した。)により測定した。
【0089】
ポリマー1:重量平均分子量85万エポキシ基含有アクリルゴム、Tg-32℃、モノマー共重合比アクリル酸エチル:アクリル酸ブチル:アクリル酸グリシジル=65:35:1(重量基準)、官能基(エポキシ基)含有量0.09当量/kg
ポリマー2:重量平均分子量50万エポキシ基含有アクリルゴム、Tg-32℃、モノマー共重合比アクリル酸エチル:アクリル酸ブチル:アクリル酸グリシジル=65:35:1、官能基(エポキシ基)含有量0.09当量/kg
ポリマー3:重量平均分子量85万エポキシ基含有ポリイミド、モノマー共重合比シロキサン骨格を有する酸無水物:シロキサン骨格を有するジアミン=50:50(重量基準)
<b)エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート(登録商標)1001、
ジャパンエポキシレジン(株)製、常温で固形)
<c)硬化剤>
硬化剤1:ノボラックフェノール樹脂(HF-4、明和化成(株)製)
硬化触媒1:トリフェニルホスフィン(TPP、東京化成工業製)
<d)無機粒子>
無機質充填剤1:シリカ(SO-C1、アドマテックス製)
【0090】
【0091】
表1の結果より、実施例と比較例を比較すると、実施例1~5では、樹脂組成物シートでの樹脂組成物の厚み公差が1.1%以内であり、300mm×300mmの構成体でも厚み公差が1.5%以内であったのに対し、比較例1では樹脂組成物の厚み公差が3.1%であり、300mm×300mmの構成体での厚み公差が3.8%と悪化していた。