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特開2023-100662細胞質DNAセンサー経路の下方制御
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  • 特開-細胞質DNAセンサー経路の下方制御 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100662
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】細胞質DNAセンサー経路の下方制御
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230711BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230711BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/113 Z ZNA
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023065647
(22)【出願日】2023-04-13
(62)【分割の表示】P 2021509840の分割
【原出願日】2019-08-20
(31)【優先権主張番号】62/720,726
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】311016949
【氏名又は名称】シグマ-アルドリッチ・カンパニー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Sigma-Aldrich Co. LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ネイサン・ゼンサー
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー・マルコフ
(72)【発明者】
【氏名】マーク・エイ・ガーバー
(72)【発明者】
【氏名】ジル・ウォード
(57)【要約】      (修正有)
【課題】標的ゲノム編集を増加させるための方法を提供する。
【解決手段】標的ゲノム編集を増加させるための方法であって、一態様として、標的化エンドヌクレアーゼもしくは標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸および任意にドナーDNA分子を細胞質DNAセンシングを欠く細胞に導入する工程を含み、ここで、細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも標的ゲノム編集の割合が高い、方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ゲノム編集を増加させるための方法であって、標的化エンドヌクレアーゼもしくは標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸および任意にドナーDNA分子を細胞質DNAセンシングを欠く細胞に導入する工程を含み、ここで、細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも標的ゲノム編集の割合が高い、方法。
【請求項2】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質を欠くか、または減少したレベルを有するよう遺伝子工学操作されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質が、サイクリックGMP-AMPシンターゼ(cGAS)、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)、インターフェロンガンマ誘導性タンパク質16(IFI16)、DEAD-ボックスヘリカーゼ41(DDX41)、ロイシンリッチリピート(フライトレスI中)相互作用タンパク質(LRRFIP1)、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質をコードする少なくとも1つの不活性化染色体配列を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
不活性化染色体配列が標的化エンドヌクレアーゼ媒介ゲノム編集技術で不活性化された、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、RNA干渉(RNAi)またはCRISPR干渉(CRISPRi)剤を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項7】
標的化エンドヌクレアーゼが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、クラスター化され、規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(clustered regularly interspersed short palindromic repeats)(CRISPR)/CRISPR-関連(Cas)(CRISPR/Cas)ヌクレアーゼシステム、CRISPR/Casデュアルニッカーゼシステム、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、またはプログラム制御可能なDNA結合ドメインおよびヌクレアーゼドメインを含む融合タンパク質から選択される、請求項1-6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸がmRNAまたはDNAである、請求項1-7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ドナーDNA分子が、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化されているゲノム部位または標的化エンドヌクレアーゼにより標的化されているゲノム部位の近くの配列と実質的な配列同一性を有する少なくとも1つの配列に隣接するドナー配列を含む、請求項1-8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が哺乳動物細胞である、請求項1-9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物細胞が造血細胞系統である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
造血細胞系統がTHP-1、HL-60、U-937、Ramos、またはJurkatから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞が標的化エンドヌクレアーゼをコードするDNAと接触され、細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも高い生存率および高い割合の標的ゲノム編集を有する、請求項1-12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
細胞が標的化エンドヌクレアーゼもしくは標的化エンドヌクレアーゼをコードするmRNAおよびドナーDNA分子と接触され、細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも高い生存率および高い割合の標的ゲノム編集を有する、請求項1-12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
細胞が標的化エンドヌクレアーゼをコードするDNAおよびドナーDNA分子と接触され、細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも高い生存率および高い割合の標的ゲノム編集を有する、請求項14-17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
標的化エンドヌクレアーゼをコードするDNAが二本鎖であり、かつドナーDNA分子が二本鎖である、請求項13-15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞において標的導入遺伝子インテグレーションを行うことを含む標的導入遺伝子インテグレーションを増加させるための方法であって、ここで、細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも高い割合の標的導入遺伝子インテグレーションを有する、方法。
【請求項18】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質を欠くか、または減少したレベルを有するよう遺伝子工学操作されている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質が、サイクリックGMP-AMPシンターゼ(cGAS)、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)、インターフェロンガンマ誘導性タンパク質16(IFI16)、DEAD-ボックスヘリカーゼ41(DDX41)、ロイシンリッチリピート(フライトレスI中)相互作用タンパク質(LRRFIP1)、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質をコードする少なくとも1つの不活性化染色体配列を含む、請求項18または19に記載の方法
【請求項21】
不活性化染色体配列が標的化エンドヌクレアーゼで不活性化された、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、RNA干渉(RNAi)またはCRISPR干渉(CRISPRi)剤を含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項23】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が哺乳動物細胞である、請求項17-22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
哺乳動物細胞が造血細胞系統である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
造血細胞系統がTHP-1、HL-60、U-937、Ramos、またはJurkatから選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞および少なくとも1つの二本鎖外来DNA分子を含む組成物であって、ここで、細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも少なくとも1つの二本鎖外来DNA分子でのトランスフェクション後に高い生存率を有する、組成物。
【請求項27】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質を欠くか、または減少したレベルを有するよう遺伝子工学操作されている、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質が、サイクリックGMP-AMPシンターゼ(cGAS)、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)、インターフェロンガンマ誘導性タンパク質16(IFI16)、DEAD-ボックスヘリカーゼ41(DDX41)、ロイシンリッチリピート(フライトレスI中)相互作用タンパク質(LRRFIP1)、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質をコードする少なくとも1つの不活性化染色体配列を含む、請求項27または28に記載の組成物。
【請求項30】
不活性化染色体配列が標的化エンドヌクレアーゼで不活性化された、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、RNA干渉(RNAi)またはCRISPR干渉(CRISPRi)剤を含む、請求項27または28に記載の組成物。
【請求項32】
少なくとも1つの二本鎖外来DNA分子が標的化エンドヌクレアーゼをコードする、および/または標的化インテグレーションについてのドナー配列を含む、請求項26-31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞が哺乳動物細胞である、請求項26-32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
哺乳動物細胞が造血細胞系統である、請求項33に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質を下方制御することにより標的遺伝子編集を増加させるための方法および組成物に関する。
[0001.1]
[配列表]
本願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含有し、その全体が参照により組み込まれる。2019年8月15日に作成された当該ASCIIコピーは、P18-165PCT_SL.txtという名称で、サイズは3,665バイトである。
【背景技術】
【0002】
特定のヌクレアーゼ(ZFN、TALEN、CRISPRs/Cas9)は、DNAの任意の位置に二本鎖切断(DSB)を形成することにより、効率的な標的ゲノム編集を促進するために使用される。DSBは、細胞の自然のDNA修復プロセスを刺激する。そのうちの一つである相同組換え(HR)修復経路は、標的領域への導入遺伝子の挿入を可能にする。HRを利用するには、切断部位の両側の領域と相同な配列に隣接する導入遺伝子を含有するドナーテンプレートを使用する。このドナーは、ヌクレアーゼとともに細胞内に共に送達され(codeliver)され、切断部を修復するために姉妹染色体の代わりにドナー配列を提示して細胞を欺く。
【0003】
ドナーDNA(またはその他のプラスミドDNA)の送達は、トランスフェクションやヌクレオフェクションが困難なため、多くの細胞株で問題となっている。ドナーDNAの効率的な送達を必要とする場合、この「外来DNAに対する感受性」は、標的とする導入遺伝子の挿入(または標的インテグレーション)をほとんど不可能にする。部位特異的ヌクレアーゼは、mRNAまたはタンパク質の形で細胞に添加されてもよいため、DNA感受性の問題を回避することができる。しかし、ドナー配列はDNA、伝統的には二本鎖DNAとして添加する必要がある。したがって、これらのトランスフェクションが困難な細胞系統において、標的ゲノム編集および標的インテグレーションを改善または可能にする方法が必要とされている。
【0004】
また、標的遺伝子インテグレーションに抵抗性を示す細胞は、外来DNAに対する感受性や毒性(例えば、プラスミドDNAのトランスフェクションまたはヌクレオフェクション後の細胞死)を示す細胞である傾向がある。細胞は、ウイルスや細菌に由来するDNAを検出する細胞質DNAセンサーを有しており、その結果、炎症反応経路が活性化される。DNAセンシングシステムに関連するタンパク質を下方制御することで、ドナーDNAの導入が可能になり、これらの細胞に標的化インテグレーションできるようになると考えられる。
【発明の概要】
【0005】
標的ゲノム編集を増加させるための提供または方法は、本開示の様々な態様の中のものである。この方法は、標的化エンドヌクレアーゼもしくは標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸、および任意にドナーDNA分子を細胞質DNAセンシングを欠いている細胞に導入することを含み、細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞と比較して、標的ゲノム編集の割合が高い。
【0006】
本開示の別の態様は、標的導入遺伝子のインテグレーションを増加させるための方法を包含する。当該方法は、細胞質DNAセンシングを欠く細胞で標的導入遺伝子インテグレーションを行うことを含み、細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも標的導入遺伝子のインテグレーションの割合が高い。
【0007】
本開示のさらなる態様は、細胞質DNAセンシングを欠く細胞と、少なくとも1つの二本鎖外来DNA分子とを含む組成物であって、ここで、
前記細胞質DNAセンシングを欠く細胞が、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞と比較して、少なくとも1つの二本鎖外来DNA分子によるトランスフェクション後に高い生存率を有する組成物を提供することである。
【0008】
本開示の他の態様および反復は、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aおよび1Bは、アクチン遺伝子座を標的としたZFNとBFPドナープラスミドを用いてヌクレオフェクションしたTHP-1野生型およびTHP-1 KO(MD21D1)細胞のセルソーター分析を示す。
【0010】
図2図2A-2Dは、チューブリン遺伝子座を標的としたZFNとGFPドナープラスミドを用いてヌクレオフェクションしたTHP-1 KO(MD21D1)細胞のセルソーター分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、標的ゲノム編集または標的導入遺伝子のインテグレーションを増加するための方法および組成物を提供する。当該方法は、細胞が外来DNA分子に対する感受性が低くなるように細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質を下方制御することを含む。結果として、標的ゲノム編集/インテグレーションを前記細胞で行ってもよい。
【0012】
(I)細胞質DNAセンシングを欠く細胞
本明細書で開示されている方法は、外来DNA(例えば、ドナーDNAまたはプラスミドDNA)に対する細胞の感受性が低くなるように、細胞質DNAセンシング経路が下方制御された細胞を利用する。その結果、細胞質DNAセンシングを欠く細胞において、標的ゲノム編集の効率を向上し得る。
【0013】
一般的に、細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシング経路に関連する1以上のタンパク質を欠くように遺伝子工学操作されている。したがって、遺伝子工学操作された細胞は、非遺伝子工学操作親細胞と比較して、1以上の細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質を欠くか、または減少したレベルを有する。1以上の細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質の発現は、RNA干渉(RNAi)またはCRISPR干渉(CRISPRi)によって一過性にノックダウンされ得る。あるいは、標的化エンドヌクレアーゼを用いた標的遺伝子の不活性化により、1以上の細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質の発現を永続的にノックアウトすることができる。細胞質DNAセンシング経路の欠損の結果、遺伝子工学操作細胞系統は、非遺伝子工学操作親細胞系統に比べて、外来DNAに対する感受性が低く、標的ゲノム編集の割合が高い。
【0014】
(a)細胞質DNAセンシング経路に関連するタンパク質
自然免疫系は、細胞の損傷および/または細菌もしくはウイルスの感染を示す細胞質二本鎖DNA(dsDNA)を検出する細胞質DNAセンシング経路を含む。細胞質dsDNAは、DNAセンサーによって認識され、炎症遺伝子の活性化を引き起こすシグナル伝達経路を活性化し、それにより抗ウイルス保護、抗細菌保護、ナチュラルキラー細胞の活性化、または細胞死をもたらす。
【0015】
細胞質dsDNAのセンサーは、サイクリックGMP-AMPシンターゼ(cGAS;遺伝子シンボルはMB21D1である)、インターフェロンガンマ誘導性タンパク質16(IFI16;同遺伝子シンボル)、DEAD-ボックスヘリカーゼ41(DDX41;同遺伝子シンボル)、ロイシンリッチリピート(フライトレスI中)相互作用タンパク質(LRRFIP1;同遺伝子シンボル)、DNA依存性インターフェロン(IFN)調節因子活性化分子(DAI;遺伝子シンボルはZBP1である)、DEAH-ボックスヘリカーゼ8(DHX9、同遺伝子シンボル)、DEAH-ボックスヘリカーゼ(DHX36;同遺伝子シンボル)、absent in melanoma2(AIM2;同遺伝子シンボル)、X線修復交差補完タンパク質6(Ku70;遺伝子シンボルはXRCC6である)およびRNAポリメラーゼIII(Pol III;遺伝子シンボルはPOLR3Aである)を含む。いくつかの細胞質DNAセンサー(例えば、cGAS)により活性化される下流タンパク質は、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING;遺伝子シンボルはTMEM173である)である。いくつかの実施形態では、当該細胞はcGASを欠く。他の実施形態では、当該細胞はSTINGを欠く。さらに他の実施形態では、当該細胞はcGASおよびSTINGの両方を欠く。
【0016】
(b)細胞質DNAセンシングにおける永続的な欠損
いくつかの実施形態では、当該細胞質DNAセンシングを欠く細胞は永続的な欠損を有し得る。例えば、当該細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質をコードする少なくとも1つの不活性化染色体配列を含む。細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質をコードする前記染色体配列は、標的化エンドヌクレアーゼ媒介ゲノム編集技術で不活性化され得、以下セクション(II)で記載される。
【0017】
標的化エンドヌクレアーゼは、DNA結合ドメインおよびヌクレアーゼドメインを含む。標的化エンドヌクレアーゼのDNA結合ドメインはプログラム制御可能であり、異なるDNA配列を認識し結合するよう設計または遺伝子工学操作され得ることを意味する。いくつかの実施形態では、DNA結合は標的化エンドヌクレアーゼのDNA結合ドメインおよび標的DNA間の相互作用により媒介される。したがって、DNA結合ドメインは、タンパク質遺伝子工学操作により目的のDNA配列に結合するようプログラムされ得る。他の実施形態では、DNA結合は標的化エンドヌクレアーゼのDNA結合ドメインおよび標的DNAと相互作用するガイドRNAにより媒介される。かかる場合、DNA結合ドメインは、適したガイドRNAを設計することにより目的のDNA配列に標的化され得る。
【0018】
適切な標的化エンドヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、クラスター化され、規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し(clustered regularly interspersed short palindromic repeats)(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)(CRISPR/Cas)ヌクレアーゼシステム、CRISPR/Casデュアルニッカーゼシステム、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、またはプログラム制御可能なDNA結合ドメインおよびヌクレアーゼドメインを含む融合タンパク質を含む。標的化エンドヌクレアーゼは野生型または天然のDNA結合および/またはヌクレアーゼドメイン、天然のDNA結合および/またはヌクレアーゼドメインの改変型、合成もしくは人工DNA結合および/またはヌクレアーゼドメイン、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0019】
(i)ジンクフィンガーヌクレアーゼ
いくつかの実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)であり得る。ZFNは、DNA結合ジンクフィンガー領域およびヌクレアーゼドメインを含む。ジンクフィンガー領域は約2-7ジンクフィンガー、例えば、約4-6ジンクフィンガーを含むことができ、ここで、各ジンクフィンガーは3ヌクレオチドに結合し、ジンクフィンガーは、適切なリンカー配列を使用して共に結合し得る。ジンクフィンガー領域が、任意のDNA配列を認識し結合するよう遺伝子工学操作され得る。例えば、Beerliら.(2002) Nat. Biotechnol. 20:135-141; Paboら.(2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313-340; Isalanら.(2001) Nat. Biotechnol. 19:656-660; Segalら.(2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12:632-637; Chooら.(2000) Curr. Opin. Struct. Biol. 10:411-416; Zhangら.(2000) J. Biol. Chem. 275(43):33850-33860; Doyonら.(2008) Nat. Biotechnol. 26:702-708;およびSantiagoら.(2008) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105:5809-5814を参照されたい。DNA配列における可能性のある標的部位を識別するための、並びにジンクフィンガー結合ドメインを設計するための、公的に入手可能なウェブ系ツールは、当該技術分野で公知である。
【0020】
ZFNはまた、ヌクレアーゼドメインを含み、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得られ得る。ヌクレアーゼドメインが由来し得るエンドヌクレアーゼの非限定例は、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼを含むがこれらに限られない。切断ドメインは、切断活性に二量体化を必要とする酵素またはその部分に由来してもよい。各ヌクレアーゼは、活性酵素二量体のモノマーを含むため、2つのジンクフィンガーヌクレアーゼが切断に必要とされてもよい。2つの切断モノマーが使用され活性酵素二量体を形成する場合、2つのジンクフィンガーヌクレアーゼの認識部位は一般的に、2つのZnフィンガーヌクレアーゼの個々の認識部位への当該2つのZnフィンガーヌクレアーゼの結合により、当該切断モノマーが活性酵素二量体を例えば二量体化によって当該切断モノマーに形成させるできるような空間的な向きとなるよう配置される。結果として、認識部位の近縁部は、約5-約18ヌクレオチド離れていてもよい。例えば、近縁部は約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18ヌクレオチド離れていてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼドメインは、II-S型制限エンドヌクレアーゼに由来し得る。II-S型エンドヌクレアーゼは、認識/結合部位から典型的には数塩基対離れた部位のDNAを切断し、そのため、分離可能な結合および切断ドメインを有する。これらの酵素は概して一時的に会合して二量体を形成し、ねじれた位置でDNAの各鎖を切断するモノマーである。適切なII-S型エンドヌクレアーゼの非限定例はBfiI、BpmI、BsaI、BsgI、BsmBI、BsmI、BspMI、FokI、MboII、およびSapIを含む。いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼドメインは、FokIヌクレアーゼドメインまたはその誘導体であり得る。II-S型ヌクレアーゼドメインは、2つの異なるヌクレアーゼドメインの二量体化を促進するよう改変され得る。例えば、FokIの切断ドメインは、特定のアミノ酸残基を変異させることにより改変され得る。非限定例として、FokIヌクレアーゼドメインの446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537、および538位のアミン酸残基が改変についての標的である。例えば、1の改変FokIドメインはQ486E、I499L、および/またはN496D変異を含み得、その他の改変FokIドメインはE490K、I538K、および/またはH537R変異を含み得る。
【0022】
ZFNは、少なくとも1つの核移行シグナル、細胞透過ドメイン、および/またはマーカードメインをさらに含むことができる。核移行シグナルの非限定例はPKKKRKV(配列番号1)、PKKKRRV(配列番号2)、またはKRPAATKKAGQAKKKK(配列番号3)を含む。適切な細胞透過ドメインの例は、GRKKRRQRRRPPQPKKKRKV(配列番号4)、PLSSIFSRIGDPPKKKRKV(配列番号5)、GALFLGWLGAAGSTMGAPKKKRKV(配列番号6)、GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKKKRKV(配列番号7)、またはKETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号8)を含むがこれらに限定されない。マーカードメインの非限定例は、蛍光タンパク質(例えば、GFP、eGFP、RFP、BFP等)、および精製またはエピトープタグ(例えば、6xHis、FLAG、HA、GSTなど)を含む。核移行シグナル、細胞透過ドメイン、および/またはマーカードメインは、N末端、C末端、またはタンパク質の内部位置に位置し得る。
【0023】
(ii)CRISPR/Casヌクレアーゼシステム
他の実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼは、RNA-ガイドCRISPR/Casヌクレアーゼシステムであり得、DNAに二本鎖切断を導入する。当該CRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、CRISPR/CasヌクレアーゼおよびガイドRNAを含む。
【0024】
CRISPR/Casヌクレアーゼは、I型(すなわち、IA、IB、IC、ID、IE、またはIF)、II型(すなわち、IIA、IIB、またはIIC)、III型(すなわち、IIIAまたはIIIB)、またはV型CRISPRシステムに由来し得、種々の細菌およびアーキアに存在する。CRISPR/Casシステムは、Streptococcus sp.(例えば、Streptococcus pyogenes)、Campylobacter sp.(例えば、Campylobacter jejuni)、Francisella sp.(例えば、Francisella novicida)、Acaryochloris sp.、Acetohalobium sp.、Acidaminococcus sp.、Acidithiobacillus sp.、Alicyclobacillus sp.、Allochromatium sp.、Ammonifex sp.、Anabaena sp.、Arthrospira sp.、Bacillus sp.、Burkholderiales sp.、Caldicelulosiruptor sp.、Candidatus sp.、Clostridium sp.、Crocosphaera sp.、Cyanothece sp.、Exiguobacterium sp.、Finegoldia sp.、Ktedonobacter sp.、Lactobacillus sp.、Lyngbya sp.、Marinobacter sp.、Methanohalobium sp.、Microscilla sp.、Microcoleus sp.、Microcystis sp.、Natranaerobius sp.、Neisseria sp.、Nitrosococcus sp.、Nocardiopsis sp.、Nodularia sp.、Nostoc sp.、Oscillatoria sp.、Polaromonas sp.、Pelotomaculum sp.、Pseudoalteromonas sp.、Petrotoga sp.、Prevotella sp.、Staphylococcus sp.、Streptomyces sp.、Streptosporangium sp.、Synechococcus sp.、またはThermosipho sp由来であり得る。
【0025】
適切なCRISPRヌクレアーゼの非限定例は、Casタンパク質、Cpfタンパク質、Cmrタンパク質、Csaタンパク質、Csbタンパク質、Cscタンパク質、Cseタンパク質、Csfタンパク質、Csmタンパク質、Csnタンパク質、Csxタンパク質、Csyタンパク質、Cszタンパク質、およびそれらの誘導体もしくはバリアントを含む。具体的な実施形態では、CRISPR/Casヌクレアーゼは、II型Cas9タンパク質、V型Cpf1タンパク質、またはその誘導体であり得る。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casヌクレアーゼは、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)またはStreptococcus thermophilus Cas9(StCas9)であり得る。他の実施形態では、CRISPR/Casヌクレアーゼは、Campylobacter jejuni Cas9(CjCas9)であり得る。代替的な実施形態では、CRISPR/Casヌクレアーゼは、Francisella novicida Cas9(FnCas9)であり得る。さらに他の実施形態では、CRISPR/Casヌクレアーゼは、Francisella novicida Cpf1(FnCpf1)であり得る。
【0026】
概して、CRISPR/Casヌクレアーゼは、RNA認識および/またはRNA結合ドメインを含み、ガイドRNAと相互作用する。CRISPR/Casヌクレアーゼはまた、エンドヌクレアーゼ活性を有する少なくとも1つのヌクレアーゼドメインを含む。例えば、Cas9タンパク質はRuvC様ヌクレアーゼドメインおよびHNH様ヌクレアーゼドメインを含み得、かつCpf1タンパク質はRuvC様ドメインを含み得る。CRISPR/Casヌクレアーゼまた、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNaseドメイン、タンパク質-タンパク質相互作用ドメイン、二量体化ドメイン、並びに他のドメインを含むことができる。
【0027】
CRISPR/Casヌクレアーゼは、少なくとも1つの核移行シグナル、細胞透過ドメイン、マーカードメイン、および/または検出可能なラベルをさらに含むことができ、セクション(I)(b)(i)で上述される。
【0028】
CRISPR/Casヌクレアーゼシステムはまた、ガイドRNA(gRNA)を含む。ガイドRNAは、CRISPR/Casヌクレアーゼと相互作用してDNAの標的部位に誘導する。当該標的部位は、プロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer adjacent motif)(PAM)に隣接することを除いて制限はない配列を有する。例えば、Cas9のPAM配列は、3’-NGG、3’-NGGNG、3’-NNAGAAW、および3’-ACAYを含み、かつCpf1のPAM配列は、5’-TTNを含む(ここで、Nは任意のヌクレオチドとして定義され、WはAまたはTのいずれかとして定義され、YはCまたはTのいずれかとして定義される)。各gRNAは、標的配列に相補的な配列を含む(例えば、Cas9 gRNAはGN17-20GGを含み得る)。gRNAはまた、ステムループ構造および一本鎖領域を形成するスキャフォールド配列を含むことができる。スキャフォールド領域は、全gRNAにおいて同じであり得る。いくつかの実施形態では、gRNAは、単一分子(すなわち、sgRNA)であり得る。他の実施形態では、gRNAは2つの別個の分子であり得る。
【0029】
(iii)CRISPR/Casニッカーゼシステム
他の実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼは、CRISPR/Casニッカーゼシステムであり得る。CRISPR/CasニッカーゼシステムはCRISPR/CasヌクレアーゼがDNAの一本鎖だけを切断するよう改変されていることを除いて上記で記載されるCRISPR/Casヌクレアーゼシステムと同様である。したがって、単一CRISPR/CasニッカーゼシステムはDNAに一本鎖切断またはニックを作成する。あるいは、一対のオフセットgRNAを含む対のCRISPR/Casニッカーゼシステム(またはデュアルニッカーゼシステム)はDNAの反対側の鎖に密接に間隔をあけた鎖の一本鎖切断を生成することによりDNAに二本鎖切断を作成できる。
【0030】
CRISPR/Casヌクレアーゼは、1以上の変異および/または欠失によりニッカーゼに変換され得る。例えば、Cas9ニッカーゼはヌクレアーゼドメインの1つにおいて1以上の変異を含み得る、ここで、1以上の変異は、RuvC様ドメインのD10A、E762A、および/またはD986Aであり得、または1以上の変異は、HNH様ドメインのH840A、N854Aおよび/またはN863Aであり得る。
【0031】
(iv)転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ
代替的な実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)であり得る。TALENは、ヌクレアーゼドメインに結合している転写活性化因子様エフェクター(TALEs)に由来する高度に保存された繰り返しから構成されるDNA結合ドメインを含む。TALEsは植物病原体であるキサントモナス(Xanthomonas)により分泌されるタンパク質で、宿主植物細胞内の遺伝子の転写を変化させる。TALEのリピート配列は、目的の任意のDNA配列を標的化するようモジュール化タンパク質設計を介して遺伝子工学操作され得る。TALENsのヌクレアーゼドメインは、セクション(I)(b)(i)で上述されるように任意のヌクレアーゼドメインであり得る。具体的な実施形態では、ヌクレアーゼドメインは、FokIに由来する(Sanjanaら., 2012, Nat Protoc, 7(1):171-192)。
【0032】
TALENはまた、少なくとも1つの核移行シグナル、細胞透過ドメイン、マーカードメイン、および/または検出可能なラベルを含むことができ、セクション(I)(b)(i)で上述される。
【0033】
(v)メガヌクレアーゼまたはレアカッティングエンドヌクレアーゼ
さらに他の実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼまたはその誘導体であり得る。メガヌクレアーゼは、長い認識配列、すなわち概して約12塩基対から約45塩基対に及ぶ認識配列、を特徴とするエンドデオキシリボヌクレアーゼである。この要件の結果として、認識配列は概して、任意の所与のゲノム中にたった1回生じる。メガヌクレアーゼのうち、LAGLIDADGという名のホーミングエンドヌクレアーゼのファミリーは、ゲノムおよびゲノム操作の研究のための価値のあるツールとなってきた。いくつかの実施形態では、メガヌクレアーゼは、I-SceI、I-TevI、またはそのバリアントであり得る。メガヌクレアーゼは、当業者に周知の技術を用いてその認識配列を改変することによって具体的な染色体配列を標的とすることができる。
【0034】
代替的な実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼは、レアカッティングエンドヌクレアーゼまたはその誘導体であり得る。レアカッティングエンドヌクレアーゼは部位特異的エンドヌクレアーゼであり、その認識配列はゲノムにおいてめったに生じず、好ましくはゲノムに一度だけ生じる。レアカッティングエンドヌクレアーゼは、7-ヌクレオチド配列、8-ヌクレオチド配列、またはそれより長い認識配列を認識してもよい。レアカッティングエンドヌクレアーゼの非限定例は、NotI、AscI、PacI、AsiSI、SbfI、およびFseIを含む。
【0035】
メガヌクレアーゼまたはレアカッティングエンドヌクレアーゼはまた、少なくとも1つの核移行シグナル、細胞透過ドメイン、マーカードメイン、および/または検出可能なラベルを含むことができ、セクション(I)(b)(i)で上述される。
【0036】
(vi)ヌクレアーゼドメインを含む融合タンパク質
さらに追加的な実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼは、ヌクレアーゼドメインおよびプログラム制御可能なDNA結合ドメインを含む融合タンパク質であり得る。ヌクレアーゼドメインは、セクション(I)(b)(i)で上述される任意のもの、CRISPR/Casヌクレアーゼに由来するヌクレアーゼドメイン(例えば、Cas9のRuvC様もしくはHNH様ヌクレアーゼドメインまたはCpf1のヌクレアーゼドメイン)、またはメガヌクレアーゼまたはレアカッティングエンドヌクレアーゼに由来するヌクレアーゼドメインであり得る。
【0037】
融合タンパク質のプログラム制御可能なDNA結合ドメインは、全ヌクレアーゼ活性を欠くよう改変されている(すなわち、触媒作用的に不活性である)標的化エンドヌクレアーゼ(すなわち、CRISPR/CASヌクレアーゼまたはメガヌクレアーゼ)に由来し得る。あるいは、融合タンパク質のプログラム制御可能なDNA結合ドメインは、例えば、ジンクフィンガータンパク質またはTALEなどのプログラム制御可能なDNA結合タンパク質であり得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、プログラム制御可能なDNA結合ドメインは、ヌクレアーゼ活性が変異および/または欠失により除去された触媒作用的に不活性なCRISPR/Casヌクレアーゼであり得る。例えば、触媒作用的に不活性なCRISPR/Casタンパク質は、RuvC様ドメインがD10A、E762A、および/またはD986A変異を含み、かつHNH様ドメインがH840A、N854Aおよび/またはN863A変異を含む触媒作用的に不活性な(死)Cas9(dCas9)であり得る。あるいは、触媒作用的に不活性なCRISPR/Casタンパク質は、当該ヌクレアーゼドメインにおいて同等な変異を含む触媒作用的に不活性な(死)Cpf1タンパク質であり得る。他の実施形態では、プログラム制御可能なDNA結合ドメインは、ヌクレアーゼ活性が変異および/または欠失により除去された触媒作用的に不活性なメガヌクレアーゼであり得、例えば、当該触媒作用的に不活性なメガヌクレアーゼがC末端トランケーションを含み得る。
【0039】
ヌクレアーゼドメインを含む融合タンパク質はまた、少なくとも1つの核移行シグナル、細胞透過ドメイン、マーカードメイン、および/または検出可能なラベルを含むことができ、セクション(I)(b)(i)で上述される。
【0040】
(c)細胞質DNAセンシングにおける一時的な欠損
他の実施形態では、細胞質DNAセンシングを欠く細胞は一時的な欠損を有し得る。例えば、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質の発現は、RNA干渉(RNAi)またはCRISPR干渉(CRISPRi)により一時的にノックダウンされ得る。そのため細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質の転写産物(mRNA)に標的化されたRNAi剤または細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質をコードする染色体DNA配列に標的化されたCRISPRi剤を含み得る。
【0041】
(i)RNAi
RNA干渉は、RNAi剤が、転写産物の切断により、または転写産物からタンパク質への翻訳を中断させることにより、標的転写産物の発現を阻害するプロセスを指す。RNAi剤は、短鎖干渉RNA(siRNA)および短鎖ヘアピンRNA(shRNA)を含む。概して、siRNAは、約15-約29ヌクレオチド長に及ぶ二本鎖RNA分子、またはより一般的には約19-約23ヌクレオチド長に及ぶ二本鎖RNA分子を含む。具体的な実施形態において、siRNAは長さ約21ヌクレオチドである。siRNAは任意に、1つまたは2つの一本鎖オーバーハング、例えば3’オーバーハングを片側または両方の末端にさらに含むことができる。siRNAは、互いにハイブリダイズする2つのRNA分子から形成することができ、あるいは、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)から生成することができる(下記参照)。いくつかの実施形態において、siRNAの2つの鎖は完全に相補的であり得、それによりミスマッチもバルジもこの2つの配列間に形成される二重鎖において存在しない。他の実施形態において、siRNAの2つの鎖は実質的に相補的であり得、それにより1つ以上のミスマッチおよび/またはバルジが、この2つの配列間に形成される二重鎖において存在する。ある実施形態において、siRNAの5’末端の片側または両方はリン酸基を有しているのに対し、他の実施形態において、5’末端の片側または両方はリン酸基を欠失している。
【0042】
「アンチセンス鎖」または「ガイド鎖」と呼ばれる当該siRNAの1つの鎖には、標的転写産物とハイブリダイズする部分を含む。いくつかの実施形態において、当該siRNAのアンチセンス鎖は標的転写産物の領域と完全に相補的であることができ、すなわち、当該アンチセンス鎖は、当該siRNAの長さに渡って単一のミスマッチまたはバルジがなく標的転写産物へハイブリダイズする。他の実施形態において、当該アンチセンス鎖は、標的領域と実質的に相補的であることができ、すなわち、1つ以上のミスマッチおよび/またはバルジは、当該アンチセンス鎖および標的転写産物によって形成される二重鎖において存在することができる。典型的には、siRNAは、標的転写産物のエキソン配列を標的としている。当業者は、標的転写産物についてのsiRNAを設計するプログラム、アルゴリズム、および/または市販のサービスに精通している。
【0043】
概して、shRNAは、RNA干渉を媒介するのに十分な長さの二本鎖構造を形成するようハイブリダイズしたまたはハイブリダイズすることのできる少なくとも2つの相補的な部分と、当該二重鎖を形成するshRNAの領域を接続するループを形成する少なくとも1つの一本鎖部分とを含むRNA分子である。当該構造は、ステムループ構造とも呼ぶことができ、当該ステムは二重鎖部分である。いくつかの実施形態において、当該構造の二重鎖部分は完全に相補的であることができ、それにより当該shRNAの二重鎖領域にミスマッチまたはバルジがない。他の実施形態において、当該構造の二重鎖部分は実質的に相補的であることができ、それにより1つ以上のミスマッチおよび/またはバルジは当該shRNAの二重鎖部分において存在することができる。当該構造のループは、長さ約1~約20ヌクレオチド、具体的には長さ約6~約9ヌクレオチドであり得る。当該ループは、当該標的転写産物(すなわち、当該shRNAのアンチセンス部分)に相補的な領域の5’末端または3’末端のいずれかに存在することができる。
【0044】
shRNAは、5’または3’末端にオーバーハングをさらに含むことができる。任意のオーバーハングは、約1-約20ヌクレオチド長、またはより具体的には約2-約15ヌクレオチド長であり得る。いくつかの実施形態では、オーバーハングは1以上のU残基、例えば、約1-約5U残基を含み得る。いくつかの実施形態では、shRNAの5’末端はリン酸基を有することができる。概して、shRNAは、保存された細胞RNAiマシナリーによってsiRNAへとプロセシングされる。したがって、shRNAは、siRNAの前駆体であり、shRNAの部分と相補的な標的転写産物(すなわち、shRNAのアンチセンス部分)の発現を同様に阻害することができる。当業者は、shRNAの設計および合成のための利用可能な資源に精通している。例示的な例は、MISSION(登録商標)shRNA(Sigma-Aldrich)である。
【0045】
siRNAまたはshRNAは、RNAとして細胞に導入され得る。あるいは、siRNAまたはshRNAは、発現コンストラクトからインビボで発現させることができる。適切なコンストラクトは、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体、トランスポゾン、およびウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなど)を含む。一実施形態において、当該RNAi発現コンストラクトは、プラスミドベクター(例えば、pUC、pBR322、pET、pBluescript、およびそれらのバリアント)であることができる。当該RNAi発現コンストラクトは、2つのプロモーター制御配列を含むことができ、ここで、各々は、2つの別個の相補的siRNA鎖が転写可能となるよう作動可能に連結された適切なコード配列である。当該2つのプロモーター制御配列は、同じ向きにまた逆向きであり得る。別の実施形態において、当該RNAi発現ベクターは、転写産物がshRNAを形成するように2つの相補的領域を含む単一RNA分子の転写を駆動するプロモーター制御配列を含有することができる。概して、当該プロモーター制御配列は、U6またはH1プロモーターのようなRNAポリメラーゼIII(PolIII)プロモーターであるだろう。他の実施形態では、RNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーター制御配列が使用され得る。RNAi発現コンストラクトは、転写終結配列、選択可能なマーカー配列などのような、追加的な配列エレメントを含有することができる。当該RNAi発現コンストラクトは、標準的な手順を用いて、目的の細胞系統へと導入することができる。当該RNAi発現コンストラクトは、安定した発現のために当該細胞株において染色体に組み込むことができる。RNAi剤またはRNAi発現ベクターは、当業者に周知の方法を使用して前記細胞に導入され得る(例えば、以下のセクション(II)(b)を参照されたい)。
【0046】
(ii)CRISPRi
CRISPR干渉は、遺伝子発現がゲノムDNAの標的部位への触媒作用的に不活性なCRISPR/Casシステムの結合により阻害されるプロセスを指す(CRISPRi)。CRISPRi剤は、全ヌクレアーゼ活性が変異および/または欠失により除去された触媒作用的に不活性なCRISPR/Casヌクレアーゼを含む。例えば、触媒作用的に不活性なCRISPR/Casタンパク質は、RuvC様ドメインが、D10A、E762A、および/またはD986A変異を含み、かつHNH様ドメインが、H840A、N854Aおよび/またはN863A変異を含む触媒作用的に不活性な(死)Cas9(dCas9)であり得る。いくつかの実施形態では、触媒作用的に不活性な(死)CRISPR/Casタンパク質は、転写リプレッサードメインと融合され得る。適切な転写リプレッサードメインは、Kruppel-関連ボックスA(KRAB-A)リプレッサードメイン、誘導性cAMP初期リプレッサー(ICER)ドメイン、YY1グリシンリッチリプレッサードメイン、Sp1様リプレッサー、E(spl)リプレッサー、IκBリプレッサー、およびMeCP2を含む。
【0047】
CRISPR/CasシステムのガイドRNAは細胞質DNAセンシングに関連するタンパク質をコードする染色体配列における標的化された部位にCRISPR/Casシステムを標的化する。例えば、ガイドRNAは触媒作用的に不活性なCRISPR/Casシステムは転写開始が抑制されるようにプロモーター領域における標的部位に触媒作用的に不活性なCRISPR/Casシステムを標的化できる。あるいは、ガイドRNAは転写伸長が抑制されるように遺伝子の転写領域の標的化部位に触媒作用的に不活性なCRISPR/Casシステムを標的化できる。
【0048】
CRISPRi剤は、タンパク質-RNA複合体として細胞に導入され得る。他の実施形態では、触媒作用的に不活性なCRISPR/Casタンパク質をコードする核酸(すなわち、RNAまたはDNA)は、ガイドRNAと共に細胞に導入され得る。さらに他の実施形態では、触媒作用的に不活性なCRISPR/Casタンパク質およびガイドRNAをコードするDNA発現コンストラクトが、細胞に導入され得る。当業者はCRISPRi剤またはCRISPRi剤をコードする核酸を導入する手段に精通している(例えば、以下のセクション(II)(b)を参照されたい)。
【0049】
(d)細胞タイプ
概して、当該細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、哺乳動物細胞であり、または、より具体的には哺乳動物細胞系統である。いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞系統は、造血細胞系統である。適切な造血細胞系統の非限定例は、THP-1(ヒト単球細胞)、HL-60(ヒト前骨髄球性白血病細胞)、U-937(ヒトマクロファージ細胞)、Ramos(ヒトバーキットリンパ腫細胞)、Jurkat(ヒトTリンパ球細胞)、Daudi(ヒトBリンパ芽球細胞)、IM-9(ヒトBリンパ芽球細胞)、ARH-77(ヒトBリンパ芽球細胞)、RPMI8226(ヒトBリンパ球細胞)、MC/CAR(ヒトBリンパ球細胞)、RPMI 1788(ヒトBリンパ球)、TF-1(ヒト赤芽球細胞)、K562(ヒト骨髄性白血病細胞)、RAW264.7(マウスマクロファージ細胞)、RBL(ラットBリンパ腫細胞)、DH82(ラット単球/マクロファージ細胞)、NS0(マウス骨髄腫細胞)、またはSP2/0(マウス骨髄腫細胞)を含む。追加的な実施形態では、当該細胞系統は、造血幹細胞系統であり得る。
【0050】
他の実施形態では、哺乳動物細胞系統は、HEK293またはHEK293T(ヒト胎児腎細胞)、HELA(ヒト子宮頚部癌細胞)、W138(ヒト肺細胞)、Hep G2(ヒト肝細胞)、U2-OS(ヒト骨肉腫細胞),A549(ヒト肺胞基底上皮細胞)、A-431(ヒト癌腫細胞)、COS7(サル腎臓SV-40トランスフォームド線維芽細胞)、CVI-76(サル腎細胞)、VERO-76(アフリカミドリザル腎細胞)、CMT(イヌ乳腺細胞)、MDCK(イヌ腎細胞)、9L(ラット神経膠芽腫細胞)、B35(ラット神経芽腫細胞)、HTC(ラット肝細胞癌細胞)、BRL 3A(バッファローラット肝細胞)、D17(ラット骨肉腫細胞)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞)、BHK(ベビーハムスター腎細胞)、NIH3T3(マウス胎児線維芽細胞)、A20(マウスBリンパ腫細胞)、B16(マウスメラノーマ細胞)、C2C12(マウス筋芽細胞)、C3H-10T1/2(マウス胚性間葉系細胞)、CT26(マウス癌細胞)、DuCuP(マウス前立腺細胞)、EMT6(マウス胸細胞)、Hepa1c1c7(マウス肝細胞癌細胞)、J5582(マウス骨髄腫細胞)、MTD-1A(マウス上皮細胞)、MyEnd(マウス心筋細胞)、RenCa(マウス腎細胞)、RIN-5F(マウス膵臓細胞)、X64(マウスメラノーマ細胞)、YAC-1(マウスリンパ腫細胞)であり得る。
【0051】
具体的な実施形態では、当該細胞系統は、THP-1、HL-60、U-937、Ramos、またはJurkat細胞系統である。
【0052】
(e)細胞質DNAセンシングを欠く細胞の特性
細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞と比較して外来DNAの毒性効果への感受性が低い。いくつかの実施形態では、細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも少なくとも1つの二本鎖DNA分子でのトランスフェクション後に高い生存率を有する。生存率は、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約400%、または約400%より多く増加し得る。
【0053】
他の実施形態では、細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも標的ゲノム編集または標的導入遺伝子インテグレーションを高い割合で有する。ゲノム編集または標的化インテグレーションの割合は、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約400%、または約400%より多く増加し得る。
【0054】
細胞質DNAセンシングを欠く細胞は細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞と同等の増殖割合を有する。
【0055】
(II)標的ゲノム編集の効率を増加させる方法
本開示のさらなる態様は、細胞質DNAセンシングを欠く細胞で標的ゲノム編集を行うことにより標的ゲノム編集(例えば、導入遺伝子インテグレーション)の効率を増加させる方法を包含する。細胞質DNAセンシングを欠く細胞は外来DNAへの感受性が低いため、当該細胞は細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも標的ゲノム編集の割合が高い。
【0056】
(a)方法のための試薬
当該方法は、細胞質DNAセンシングを欠く細胞に標的化エンドヌクレアーゼもしくは標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸ならびに任意にドナーDNA分子を導入することを含む。細胞質DNAセンシングを欠く細胞は上記でセクション(I)に記載される。標的化エンドヌクレアーゼは、ZFN、CRISPR/Casヌクレアーゼシステム、CRISPR/Casデュアルニッカーゼシステム、TALEN、メガヌクレアーゼ、またはプログラム制御可能なDNA結合ドメインおよびヌクレアーゼドメインを含む融合タンパク質であり得、上記でセクション(I)(b)で詳述される。標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸および任意のドナーDNA分子は以下で詳述される。
【0057】
(i)標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸
標的化エンドヌクレアーゼタンパク質をコードする核酸は、DNAまたはRNA、線状または環状、一本鎖または二本鎖であり得る。RNAまたはDNAは、目的の哺乳動物細胞におけるタンパク質への効率的な翻訳に最適化されたコドンであり得る。コドン最適化プログラムは、フリーウェアとして、または商用ソースから入手可能である。いくつかの実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸は、mRNAであり得る。mRNAは、5’キャップのおよび/または3’ポリアデニル化されたものであり得る。他の実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸は、DNAであり得る。概して、標的エンドヌクレアーゼをコードするDNAは二本鎖DNAである。コーディングDNAは、プロモーター制御配列、ポリアデニレーションシグナル(例えば、SV40 polyAシグナル、ウシ成長ホルモン(BGH)polyAシグナル等)、および/または転写終結配列に作動可能に結合され得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼをコードするDNA配列は、目的の哺乳動物細胞における発現のプロモーター制御配列に作動可能に結合され得る。プロモーター制御配列は、恒常的な、制御された、または細胞-もしくは組織特異的なものであり得る。適切な恒常的プロモーター制御配列には、サイトメガロウイルス最初期プロモーター(CMV)、サルウイルス(SV40)プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、伸長因子(ED1)-アルファプロモーター、ユビキチンプロモーター、アクチンプロモーター、チューブリンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、それらのフラグメント、または上述のいずれかの組み合わせを含むが、それらに限定されない。適切な調節型プロモーター制御配列の例としては、熱ショック、金属、ステロイド、抗生物質、またはアルコールによって調節されるものが含まれるが、これらに限定されない。組織特異的プロモーターの非限定例としては、B29プロモーター、CD14プロモーター、CD43プロモーター、CD45プロモーター、CD68プロモーター、デスミンプロモーター、エラスターゼ1プロモーター、エンドグリンプロモーター、フィブロネクチンプロモーター、Flt-1プロモーター、GFAPプロモーター、GPIIbプロモーター、ICAM-2プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、NphsIプロモーター、OG-2プロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、およびWASPプロモーターが挙げられる。当該プロモーター制御配列は、野生型であることができ、または当該プロモーター配列はより効率的または効果的な発現のために改変することができる。
【0059】
他の実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼをコードするDNA配列は、インビトロmRNA合成のファージRNAポリメラーゼにより認識されるプロモーター配列に作動可能に結合され得る。かかる実施形態では、インビトロ-転写RNAは、精製され、キャップされ、および/またはポリアデニル化され、目的の細胞に導入され得る。例えば、プロモーター配列は、T7、T3、またはSP6プロモーター配列またはT7、T3、またはSP6プロモーター配列の変種であり得る。
【0060】
さらに他の実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼをコードするDNA配列は、細菌または真核細胞におけるインビトロ発現のプロモーター配列に作動可能に結合され得る。適切な細菌プロモーターは、T7プロモーター、lacオペロンプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター(trpおよびlacプロモーターのハイブリッドである)、前述のいずれかの変種、および前述のいずれかの組み合わせを含むがこれらに限定されない。適切な真核生物プロモーターの非限定例は、上記で列挙されている。かかる実施形態では、発現したタンパク質は、目的の細胞への導入のために精製され得る。
【0061】
様々な実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼをコードするDNAは、DNAコンストラクトに存在し得る。適切なコンストラクトは、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ-染色体、トランスポゾン、およびウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等)を含む。一実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼをコードするDNAはプラスミドベクターに存在する。適切なプラスミドベクターの非限定例は、pUC、pBR322、pET、pBluescript、およびそれらのバリアントを含む。当該ベクターは、追加の発現制御配列(例えば、エンハンサー配列、コザック配列、ポリアデニル化配列、転写終結配列など)、選択可能なマーカー配列(例えば、抗生物質耐性遺伝子)、複製起点、およびこれらに類するものを含むことができる。追加の情報は、「Current Protocols in Molecular Biology」Ausubelら、John Wiley & Sons,New York,2003または「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」Sambrook & Russell,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY,第3版、2001において認めることができる。
【0062】
標的化エンドヌクレアーゼがCRISPR/Casタンパク質またはそれらのバリアントを含む実施形態では、CRISPR/Casタンパク質またはそれらのバリアントをコードするDNA配列を含む発現ベクターは、1以上のガイドRNAをコードするDNA配列をさらに含むことができる。ガイドRNAをコードする配列は概して、目的の細胞におけるガイドRNAの発現についての少なくとも1つの転写制御配列に作動可能に結合される。例えば、ガイドRNAをコードするDNAは、RNAポリメラーゼIII(Pol III)により認識されるプロモーター配列に作動可能に結合され得る。適切なPol IIIプロモーターの例は、哺乳動物U6、U3、H1、および7SL RNAプロモーターを含むがこれらに限られない。
【0063】
(ii)任意のドナーDNA分子
いくつかの実施形態では、当該方法は、細胞質DNAセンシングを欠く細胞にドナーDNA分子を導入することをさらに含む。概して、ドナーDNA分子は二本鎖DNAである。ドナーDNA分子は、線状または環状であり得る。いくつかの実施形態では、ドナーDNA分子は、ベクター、例えば、プラスミドベクターであり得る。
【0064】
ドナーDNA分子は、少なくとも1つのドナー配列を含む。いくつかの態様では、ドナーDNA分子のドナー配列は、内因性または天然の染色体配列の改変された型であり得る。例えば、ドナー配列は、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化された配列で、または標的化エンドヌクレアーゼにより標的化された配列の近くで染色体配列の部分に本質的に同一であり得るが、少なくとも1つのヌクレオチド変化を含む。したがって、インテグレーションまたは天然配列との交換の際に、標的化された染色体位置の配列は、少なくとも1つのヌクレオチド変化を含む。例えば、変化は、1以上のヌクレオチドの挿入、1以上のヌクレオチドの欠失、1以上のヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせであり得る。改変配列のインテグレーションの結果として、当該細胞は標的染色体配列から改変遺伝子産物を産生し得る。
【0065】
他の態様では、ドナーDNA分子のドナー配列は、外来配列であり得る。本明細書で使用する場合、「外来」配列は、当該細胞に天然ではない配列、または天然の位置が当該細胞のゲノムの異なる位置の配列を指す。例えば、外来配列はタンパク質コーディング配列を含み得、ゲノムへのインテグレーションの際に、当該細胞がインテグレートされた配列(すなわち、導入遺伝子)によりコードされたタンパク質を発現できるように外来プロモーター制御配列に作動可能に結合され得る。あるいは、外来配列は、その発現が内因性プロモーター制御配列により制御されるように染色体配列にインテグレートされ得る。他の反復では、外来配列は、転写制御配列、別の発現制御配列、RNAコーディング配列等であり得る。染色体配列への外来配列のインテグレーションは、ノックインと呼ばれる。
【0066】
当業者が理解できるように、ドナー配列の長さは変化することができ、また変化するであろう。例えば、ドナー配列は、数個のヌクレオチドから数百個のヌクレオチド、数十万個のヌクレオチドまで、長さが変化し得る。
【0067】
典型的には、ドナーDNA分子ポリヌクレオチド中のドナー配列は、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化されている部位または標的化エンドヌクレアーゼにより標的化されている部位の近くの配列と実質的な配列同一性を有する少なくとも1つの配列に隣接する。例えば、ドナー配列は、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化された配列の上流および下流にそれぞれ位置する配列と実質的な配列同一性を有する上流配列および下流配列に隣接し得る。これらの配列の類似性のために、ドナーDNA分子の上流および下流配列は、ドナー配列が染色体配列にインテグレーション(または染色体配列と交換)され得るように、ドナーDNA分子と標的染色体配列との間の相同組換えを可能にする。
【0068】
本明細書で使用される上流配列とは、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化された配列の上流の染色体配列と実質的な配列同一性を共有する核酸配列を指す。同様に、下流配列とは、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化された配列の下流の染色体配列と実質的な配列同一性を共有する核酸配列を指す。本明細書で使用する場合、「実質的な配列同一性」という表現は、少なくとも約75%配列同一性を有する配列を指す。したがって、ドナーポリヌクレオチドにおける上流および下流配列は標的配列の上流または下流の配列と約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%配列同一性を有し得る。例示的な実施形態では、ドナーDNA分子における上流および下流配列は、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化された配列の上流または下流の染色体配列と約95%または100%配列同一性を有し得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、上流配列は、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化された配列のすぐ上流に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有する。他の実施形態では、上流配列は、標的配列から約百(100)ヌクレオチド上流以内に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有する。したがって、例えば、上流配列は標的配列から約1-約20、約21-約40、約41-約60、約61-約80、または約81-約100ヌクレオチド上流に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有し得る。いくつかの実施形態では、下流配列は、標的化エンドヌクレアーゼにより標的化された配列のすぐ下流に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有する。他の実施形態では、下流配列は、標的配列から約百(100)ヌクレオチド下流以内に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有する。したがって、例えば、下流配列は標的配列から約1-約20、約21-約40、約41-約60、約61-約80、または約81-約100ヌクレオチド下流に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有し得る。
【0070】
各上流または下流配列は約20ヌクレオチド-約5000ヌクレオチド長に及び得る。いくつかの実施形態では、上流および下流配列は約50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、4000、4200、4400、4600、4800、または5000ヌクレオチドを含み得る。具体的な実施形態では、上流および下流配列は約50-約1500ヌクレオチド長に及び得る。
【0071】
(b)細胞への送達
当該方法は、目的の細胞への標的化エンドヌクレアーゼもしくは標的化エンドヌクレアーゼをコードする核酸ならびに任意のドナーDNA分子を導入することを含む。いくつかの実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼはタンパク質として、またはタンパク質-核酸複合体(すなわち、標的化エンドヌクレアーゼがRNA-ガイドCRISPR/Casシステムである実施形態)として、細胞に送達および導入され得る。他の実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼはmRNAとして細胞に送達および導入され得る。さらに他の実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼはDNAとして、例えば、発現コンストラクトの一部として、細胞に送達および導入され得る。上述のように、標的化エンドヌクレアーゼがCRISPR/Casシステムである実施形態では、発現コンストラクトはまた、ガイドRNAをコードする配列を含有し得る。
【0072】
標的化エンドヌクレアーゼ分子および任意のドナーDNA分子は、様々な手段により細胞に導入され得る。適切な送達手段には、微量注入法、電気穿孔法、超音波穿孔法(sonoporation)、微粒子銃、リン酸カルシウム仲介性トランスフェクション、陽イオントランスフェクション、リポソームトランスフェクション、デンドリマートランスフェクション、熱ショックトランスフェクション、ヌクレオフェクショントランスフェクション、マグネトフェクション、リポフェクション、インペールフェクション、光トランスフェクション、独自の薬剤により増強した核酸の取り込み、ならびにリポソーム、免疫リポソーム、ビロソーム、もしくは人工ビリオンを介した送達を含む。具体的な実施形態では、標的化エンドヌクレアーゼ分子および任意のドナーDNA分子は、ヌクレオフェクションにより細胞に導入され得る。
【0073】
2以上の標的化エンドヌクレアーゼ分子および2以上のドナーDNA分子が細胞に導入される実施形態では、当該分子は、同時にまたは連続して導入され得る。例えば、それぞれが標的化された切断部位に特異的な標的化エンドヌクレアーゼ分子(および任意のドナーDNA分子)は、同時に導入され得る。あるいは、各標的化エンドヌクレアーゼ分子、並びに任意のドナーDNA分子は、連続して導入され得る。
【0074】
(c)細胞培養
当該方法は、必要であれば発現する標的化エンドヌクレアーゼが標的染色体配列に結合し、切断するような適した条件下で細胞を維持することをさらに含む。染色体配列における二本鎖切断は、(i)染色体配列が少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、挿入および/または置換により改変されるように非相同的末端結合修復過程により修復され得、または(ii)ドナーDNA分子のドナー配列が、染色体配列が改変されるように標的染色体配列にインテグレートされ得るか、または標的染色体配列と交換され得るように、相同組換修復過程により修復され得る。
【0075】
概して、当該細胞は、細胞増殖および/または維持に適した条件下で維持される。適切な細胞培養条件は、当該技術分野で周知であり、例えば、Santiagoら(2008)PNAS 105:5809~5814、Moehleら(2007)PNAS 104:3055~3060、Urnovら(2005)Nature 435:646~651、およびLombardoら(2007)Nat.Biotechnology 25:1298~1306において説明されている。当業者は、細胞培養方法が当該技術分野で公知でありかつ細胞タイプに応じて種々であろうことを認識している。所定の最適化は、すべての場合において、特定の細胞タイプについての最良の技術を判断するために使用してもよい。
【0076】
上記でセクション(I)(e)で詳述されるように、細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも(i)少なくとも1つの二本鎖DNA分子でのトランスフェクション後に高い生存率、および(ii)標的ゲノム編集または標的導入遺伝子インテグレーションの高い割合を有する。
【0077】
(III)組成物
細胞質DNAセンシングを欠く細胞を含む組成物もまた、本明細書中で提供される。例えば、組成物は細胞質DNAセンシングを欠く細胞および少なくとも1つの二本鎖外来DNA分子を含み得、ここで細胞質DNAセンシングを欠く細胞は、少なくとも1つの二本鎖外来DNA分子でのトランスフェクション後に、細胞質DNAセンシングを欠いていない親細胞よりも高い生存率を有する。細胞質DNAセンシングを欠く細胞は上記でセクション(I)で詳述される。当該組成物は、細胞培養培地または安定化剤をさらに含むことができる。
【0078】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明の属する分野における当業者によって通常理解される意味を有している。以下の参考文献、すなわち、Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版、1994)、The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編、1988)、The Glossary of Genetics,第5版,R.Riegerら(編)、Springer Verlag(1991)、ならびにHaleおよびMarham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)は、本発明において使用する用語の多くの一般的な定義を当業者に提供している。本明細書で使用する場合、以下の用語は、別段の指定がない限り、当該用語に帰する意味を有している。
【0079】
本開示またはその好ましい実施形態の要素を導入する場合、冠詞「a」、「an」、「the」および「said」は、当該要素のうちの1つ以上があることを意味するよう企図している。用語「comrising」、「including」および「having」は、包括的であるよう企図されており、列挙した要素以外の追加の要素があるかもしれないことを意味している。
【0080】
本明細書で使用する場合、「欠く」は、標的となるタンパク質の低下したもしくは検出不可能なレベル、または標的となるタンパク質の低下したもしくは検出不可能な活性を指す。
【0081】
本明細書で使用する場合、「内因性配列」という用語は、その細胞特有の染色体配列を指す。
【0082】
「外来配列」という用語は、その細胞特有ではない染色体配列、または異なる染色体位置へ移動した染色体配列を指す
【0083】
「遺伝子工学操作された」または「遺伝的に改変された」細胞とは、遺伝子発現および/またはゲノム構造が、改変されている細胞を指す。例えば、当該細胞は、ゲノムにおいてコードされたタンパク質の発現を抑制または破壊する干渉剤を含むよう遺伝子工学操作され得る。あるいは、当該細胞は、改変されたゲノムを有するよう遺伝子工学操作され得る。すなわち、当該細胞は、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、および/または少なくとも1つのヌクレオチドの置換を含有するよう遺伝子工学操作された少なくとも1つの染色体配列を含有する。
【0084】
「ゲノム改変」および「ゲノム編集」という用語は、染色体配列が改変されるよう具体的な染色体配列が変化する方法を指す。染色体配列は、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、および/または少なくとも1つのヌクレオチドの置換を含むよう改変されてもよい。改変された染色体配列は、生成物が作られないよう不活性化されている。あるいは、染色体配列は、変化した生成物が生成されるよう改変されてもよい。
【0085】
「遺伝子」は、本明細書で使用する場合、遺伝子産物をコードするDNA領域(エキソンおよびイントロンを含む)、並びに遺伝子産物の生成を、調節配列がコード配列および/または転写された配列に隣接しているかどうかにかかわらず、調節するすべてのDNA領域を指す。したがって、遺伝子には、プロモーター配列、終結因子、リボソーム結合部位および内部リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス結合部位、および遺伝子座制御領域のような翻訳調節配列を含むが、これらに必ずしも限定されない。
【0086】
「異種性の」という用語は、目的の細胞または種に特有ではない実体を指す。
【0087】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、線状または環状の構造のデオキシリボヌクレオチドポリマーまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。本開示の目的のために、これらの用語は、ポリマーの長さに関して制限するものとして解釈されることにはなっていない。当該用語は、天然のヌクレオチドの公知の類似体、並びに塩基部分、糖部分および/またはリン酸部分において改変されたヌクレオチドを包含できる。概して、特定のヌクレオチドの類似体は、同じ塩基対形成特異性を有しており、すなわち、Aの類似体は、Tと塩基対形成するであろう。核酸またはポリヌクレオチドのヌクレオチドは、ホスホジエステル、ホスホチオエート、ホスホラミダイト、ホスホロジアミダート結合、またはこれらの組み合わせによって連結され得る。
【0088】
「ヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを指す。ヌクレオチドは標準的なヌクレオチド(すなわち、アデノシン、グアノシン、シチジン、チミジン、およびウリジン)またはヌクレオチド類似体であってもよい。ヌクレオチド類似体は、改変されたプリン塩基もしくはピリミジン塩基または改変されたリボース部分を有するヌクレオチドを指す。ヌクレオチド類似体は、天然ヌクレオチド(例えば、イノシン)または非天然ヌクレオチドであってもよい。ヌクレオチドの糖部分または塩基部分に関する改変の非限定例としては、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、ヒドロキシル基、メチル基、ホスホリル基、およびチオール基の付加(または除去)、並びに当該塩基の炭素原子および窒素原子と他の原子(例えば、7-デアザプリン)との置換が挙げられる。ヌクレオチド類似体には、ジデオキシヌクレオチド、2’-O-メチルヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、およびモルホリノも含む。
【0089】
「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために相互交換可能に使用する。
【0090】
本明細書で使用する場合、「標的部位」または「標的配列」という用語は、改変または編集されることになっている染色体配列の一部を定義する核酸配列を指し、結合のための十分な条件が存在することを条件として当該配列に対して標的化エンドヌクレアーゼが認識し、結合するよう操作されている。
【0091】
「上流」および「下流」という用語は、固定した位置に対する核酸配列における位置を指す。上流は、当該位置に対して5’(すなわち、鎖の5’末端近く)である領域を指し、下流は、当該位置に対して3’(すなわち、鎖の3’末端近く)である領域を指す。
【0092】
核酸およびアミノ酸配列同一性の判定技術は、当該技術分野で公知である。典型的には、このような技術には、遺伝子についてのmRNAのヌクレオチド配列を判定し、および/またはコードしたアミノ酸配列を判定し、それによりこれらの配列を第二のヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較することを含む。ゲノム配列もこの様式で判定および比較することができる。概して、同一性は、2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列のそれぞれの実際のヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の対応を指す。2つ以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)は、これらの%同一性を判定することによって比較することができる。2つの配列の%同一性は、核酸配列であろうとアミノ酸配列であろうと、短い方の配列の長さによって除して100を乗じた2つの整列した配列間の実際のマッチの数である。核酸配列についての適切な整列は、SmithおよびWaterman,Advances in Applied Mathematics 2:482~489(1981)の局所相同性アルゴリズムによって提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff,Atlas of Protein Sequences and Structure,M.O.Dayhoff編,5 付録3:353~358,National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C.,USAによって開発され、Gribskov,Nucl.Acids Res.14(6):6745~6763(1986)によって標準化されたスコア化マトリックスを用いることによってアミノ酸配列へ適用することができる。配列の%同一性を判定するためのこのアルゴリズムの例示的な実施は、「BestFit」ユーティリティアプリケーションにおける遺伝学コンピュータグループ(ウィスコンシン州マディソン市)によって提供される。配列間の%同一性または類似性を算出するための他の適切なプログラムは概して、当該技術分野で公知であり、例えば、別の整列プログラムはBLASTであり、既定パラメータを用いて使用する。例えば、BLASTNおよびBLASTPは、以下の既定パラメータ、すなわち、遺伝暗号=標準、フィルター=なし、鎖=両方、カットオフ値=60、予測値=10、マトリックス=BLOSUM62、説明=50配列、選択基準=ハイスコア、データベース=非冗長、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+Swissタンパク質+Spupdate+PIRを用いて使用することができる。これらのプログラムの詳細は、GenBankウェブサイトにおいて認めることができる。本明細書に説明する配列に関して、配列同一性の所望の程度の範囲は、およそ80%~100%およびこの間の任意の整数値である。典型的には、配列間の%同一性は少なくとも70~75%、好ましくは80~82%、より好ましくは85~90%、さらにより好ましくは92%、なおもより好ましくは95%、最も好ましくは98%の配列同一性である。
【0093】
種々の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく、上記の細胞および方法においてなされ得るので、先の説明および以下に付与する実施例に含まれる事項はすべて、実例と居て解釈すべきであり、限定的な意味において解釈すべきではないことは企図されている。
【実施例0094】
以下の実施例は、本発明のある特定の態様を説明する。
【0095】
実施例1:THP-1 KO(MB21D1)細胞のヌクレオフェクション
THP-1野生型(wt)またはTHP-1 KO(MB21D1)をAmaxa solution V(GFP発現ベクターを含む)または1-5μgのDNAを含有するsolution SGでヌクレオフェクションした。当該細胞を24時間30℃および24時間37℃でインキュベートした。細胞生存は生/死細胞蛍光色素(すなわち、DRAQ7)を使用して決定し、トランスフェクションはGFP蛍光によりモニターした。結果は以下の表1に示される。
【表1】
【0096】
1μgのDNAでヌクレオフェクションした野生型THP-1細胞は28%の生存を有していたが、MB21D1の機能がないTHP-1細胞は同じヌクレオフェクション条件下で68%の生存を有していた。5μgのDNAのヌクレオフェクションは92%のTHP-1 wt細胞を殺滅したが、KO(MB21D1)THP-1細胞では47%だけであった。
【0097】
実施例2:他の造血細胞系統のヌクレオフェクション
同様のトランスフェクションを3つの他の造血細胞系統(HL-60、U-937、およびRamos)で行った。当該細胞を24時間コールドショックに供し、その後24時間37℃に供した。細胞生存は生/死細胞蛍光色素(すなわち、DRAQ7)を使用して決定し、トランスフェクションはGFP蛍光によりモニターした。結果は以下表2に示される。
【表2】
【0098】
実施例3:THP-1 KO(MB21D1)細胞のアクチン遺伝子座への標的化インテグレーション
アクチン遺伝子座に標的化されたZFNおよび相同配列に隣接する蛍光タンパク質を含むドナープラスミド(2μg)を使用することで、蛍光タンパク質の標的化インテグレーションは野生型THP-1細胞のアクチン遺伝子座内に起こり得る。しかしながら、インテグレーションの割合は極めて低く(約0.012%)、インテグラントを単離するには複数の濃縮が必要であった。THP-1 KO(MB21D1)細胞をアクチンZFNおよび青色蛍光タンパク質(BFP)を含むドナープラスミド(5μg)でヌクレオフェクションした。アクチン遺伝子座への標的化インテグレーションの割合はMB21D1ノックアウト細胞で2.23%に大幅に増加した。図1を参照されたい。
【0099】
実施例4:THP-1 KO(MB21D1)細胞のチューブリン遺伝子座への標的化インテグレーション
何度も試みたが、THP-1細胞のチューブリン遺伝子座への標的化インテグレーションは成功しなかった。しかしながら、THP-1 KO(MB21D1)細胞することで、チューブリン遺伝子座におけるGFPのインテグレーションが1回の試みで高い割合で生じた。図2を参照されたい。
図1
図2
【配列表】
2023100662000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-05-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書または図面に記載された発明。
【外国語明細書】