(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100694
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20230711BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230711BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230711BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 D
H01M4/36 B
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068349
(22)【出願日】2023-04-19
(62)【分割の表示】P 2020181331の分割
【原出願日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】10-2019-0137539
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジュン ハン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,スン ウ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ムン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ジュン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジン キョン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ミ ヘ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,グァン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ジュン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジン オ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】寿命特性及び容量特性が改善されたリチウム複合酸化物、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物は、一次粒子がn1(n1>40)個凝集された第1の粒子と、一次粒子がn2(n2≦20)個凝集された第2の粒子との混合物を含み、下記[化学式1]で示され、R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅FWHM(deg.,2θ)の範囲が、特定の関係式で示される。
[化学式1]
Li
aNi
xCo
yMn
zM
1-x-y-zO
2
(式中、Mは、B、Ba、Ce、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、0.9≦a≦1.3、0.6≦x≦1.0、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、0.0≦1-x-y-z≦0.4である。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大粒子である第1の粒子と、小粒子である第2の粒子との混合物を含むリチウム複合酸化物であって、
前記第1の粒子の平均粒径は、8~20μmであり、
前記第2の粒子の平均粒径は、0.1~7μmであり、
前記リチウム複合酸化物は下記[化学式1]で示され、
R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅FWHM(deg.,2θ)の範囲が、下記[関係式1]で示される、リチウム複合酸化物。
[化学式1]LiaNixCoyMnzM1-x-y-zO2
(式中、Mは、B、Ba、Ce、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、0.9≦a≦1.3、0.6≦x≦1.0、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、0.0≦1-x-y-z≦0.4である。)
[関係式1]-0.025≦FWHM(104)-{0.04+(x第1の粒子-0.6)×0.25}≦0.025
(式中、FWHM(104)は、下記のように[関係式2]で示される。)
[関係式2]FWHM(104)={(FWHM化学式1のpowder(104)-0.1×第2の粒子の質量比)/第1の粒子の質量比}-FWHMSi powder(220)
(式中、FWHM化学式1のpowder(104)は、リチウム複合酸化物のXRD測定値から44.5°(2θ)付近で観測される(104)ピークの半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)を示す。
また、FWHMSi powder(220)は、Si粉末のXRD測定値から47.3°(2θ)付近で観測される(220)ピークの半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)を示す。
また、x第1の粒子=(x-x第2の粒子*第2の粒子の質量比)/第1の粒子の質量比であり、
前記xは、前記化学式1のxを意味し、
前記x第1の粒子は、第1の粒子のNiモル分率(Ni/(Ni+Co+Mn))を意味し、0.80≦x第1の粒子であり、
前記x第2の粒子は、第2の粒子のNiモル分率(Ni/(Ni+Co+Mn))を意味し、0.80≦x第2の粒子である。
また、前記質量比は、第1の粒子及び第2の粒子を合わせた全質量に対する質量の比率を意味する。)
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物の結晶構造は、六方晶系(hexagonal)α-NaFeO2である、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項3】
前記ニッケルの含有量xが0.97~0.99である場合、前記関係式2で示されるFWHM(104)の範囲が0.108°(2θ)~0.162°(2θ)を満たす、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項4】
前記ニッケルの含有量xが0.93~0.95である場合、前記関係式2で示されるFWHM(104)の範囲が0.098°(2θ)~0.152°(2θ)である、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項5】
前記ニッケルの含有量xが0.87~0.89である場合、前記関係式2で示されるFWHM(104)の範囲が0.083°(2θ)~0.137°(2θ)である、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項6】
前記ニッケルの含有量xが0.79~0.81である場合、前記関係式2で示されるFWHM(104)の範囲が0.063°(2θ)~0.117°(2θ)である、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項7】
請求項1に記載のリチウム複合酸化物の製造方法であって、
一次粒子がn1(n1>40)個凝集された第1の粒子を含む第1の正極活物質前駆体を合成し、リチウム化合物を添加した後、焼成して第1の正極活物質を製造する第1のステップ;
一次粒子がn2(n2≦20)個凝集された第2の粒子を含む第2の正極活物質前駆体を合成し、リチウム化合物を添加した後、焼成する第2のステップ;
前記第2のステップで形成された物質を粉砕して第2の正極活物質を製造する第3のステップ;
前記第1の正極活物質と第2の正極活物質とを混合する第4のステップ;及び、
前記混合された物質を、物質Mでコーティング又はドーピングした後、熱処理を行う第5のステップ;
を含む、リチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記第1のステップ又は第2のステップにおいて添加されるリチウム化合物は、LiOHである、請求項7に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記第1のステップにおいて製造された第1の正極活物質の平均粒径は、8~20μmである、請求項7に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記第3のステップにおいて製造された第2の正極活物質の平均粒径は、0.1~7μmである、請求項7に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
前記第1のステップでの焼成後、第2のステップでの焼成後、又は、第3のステップでの粉砕後に、水洗を行うステップをさらに含む、請求項7に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項12】
前記第5のステップでの熱処理後、水洗を行うステップをさらに含む、請求項7に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項13】
前記第5のステップにおいて、物質Mは、B、Ba、Ce、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム複合酸化物の混合物に関し、より詳しくは、一次粒子の凝集個数が互いに異なる、第1の粒子と第2の粒子とが混合される場合、R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDの(104)ピークの半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)値の範囲を、リチウム複合酸化物中のニッケルのモル分率、及び第1の粒子と第2の粒子との質量比と、一定の関係が保たれるようにすることで、結果的に、本発明に係るリチウム複合酸化物を含む電池の寿命特性を改善するという効果を奏するリチウム複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機器の小型化、高性能化に伴い、リチウム電池の小型化、軽量化に加え、高エネルギー密度化が重要視されている。すなわち、高電圧及び高容量のリチウム電池が重要視されつつある。
【0003】
リチウム電池の正極活物質として使用されるリチウム複合酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiMnO2などの複合金属酸化物に関する研究が行われている。前記リチウム複合酸化物のうち、LiCoO2は、優れた寿命特性及び充放電効率を有するため、最も多く使用されているが、構造的安定性に劣り、原料として使用されるコバルト資源の限界によって高価であるため、競争力に限界があるという短所がある。
【0004】
LiMnO2、LiMn2O4などのリチウムマンガン酸化物は、熱的安定性に優れ、かつ低価格であるという長所があるが、容量が少なく、高温特性に劣るという問題点を持っている。
【0005】
また、LiNiO2系正極活物質は、高放電容量の電池特性を示しているが、Liと遷移金属との間のカチオン混合(cation mixing)の問題によって合成が困難となり、これによって、出力(rate)特性に大きな問題がある。
【0006】
このような短所を補完するため、二次電池の正極活物質として、Ni含有量が60%以上であるニッケルリッチなシステム(Ni rich system)の需要が増加し始めた。しかし、上述のニッケルリッチなシステムの活物質は、高容量を示すという優れた長所を持っている反面、Ni含有量の増加に伴い、Li/Niのカチオン混合による構造不安定性の増大、マイクロクラックによる内部粒子間の物理的な断絶、及び電解質枯渇の深化などによって、常温及び高温での寿命特性の急激な劣化が起こるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ニッケルリッチな正極活物質の寿命劣化の原因として知られたマイクロクラックの発生は、正極活物質の一次粒子の大きさと相関関係があるといわれている。具体的に、一次粒子の大きさが小さいほど、粒子の収縮/膨張の繰り返しによるクラックの発生が抑制されることが知られている。しかし、一次粒子の大きさが小さくなると、放電容量が減少するという問題があり、正極活物質中のニッケル含有量が増加する場合、一次粒子の大きさが小さくなると、寿命特性が悪化することもある。それで、ニッケルリッチな正極活物質の寿命特性を向上させるためには、ニッケルの含有量、一次粒子の大きさ、放電容量の相関関係を考慮する必要がある。
【0008】
本発明は、上述のニッケルリッチなリチウム複合酸化物の問題点を解決するため、活物質中のニッケルのモル分率、及び第1の粒子と第2の粒子との質量比と、一定の関係が保たれるように、XRD測定の際に、半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)値を所定の範囲に調節することで、寿命特性及び容量特性が改善されたリチウム複合酸化物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するため、本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物は、 一次粒子がn1(n1>40)個凝集された第1の粒子と、一次粒子がn2(n2≦20)個凝集された第2の粒子との混合物を含み、下記[化学式1]で示され、R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅FWHM(deg.,2θ)の範囲が、下記[関係式1]で示される。
【0010】
[化学式1]LiaNixCoyMnzM1-x-y-zO2
(式中、Mは、B、Ba、Ce、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、0.9≦a≦1.3、0.6≦x≦1.0、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、0.0≦1-x-y-z≦0.4である。)
【0011】
[関係式1]-0.025≦FWHM(104)-{0.04+(x第1の粒子-0.6)×0.25}≦0.025
(式中、FWHM(104)は、下記のように[関係式2]で示される。)
【0012】
[関係式2]FWHM(104)={(FWHM化学式1のpowder(104)-0.1×第2の粒子の質量比)/第1の粒子の質量比}-FWHMSi powder(220)
(式中、FWHM化学式1のpowder(104)は、リチウム複合酸化物のXRD測定値から44.5°(2θ)付近で観測される(104)ピーク(peak)の半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)を示す。また、FWHMSi powder(220) は、Si粉末のXRD測定値から47.3°(2θ)付近で観測される(220)ピーク(peak)の半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)を示す。また、x第1の粒子=(x-x第2の粒子*第2の粒子の質量比)/第1の粒子の質量比であり、前記X第2の粒子は、第2の粒子のNiモル比を意味する。なお、前記質量比は、第1の粒子及び第2の粒子を合わせた全質量に対する質量の比率を意味する。)
【0013】
SEM分析にて、肉眼で分別可能な一次粒子のn1個を超える粒子を「多粒子」、n2個以下である粒子を「単粒子」とすれば、本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物は、多粒子形態の大粒子と単粒子形態の小粒子とが混合された単粒子混合のバイモーダル構造である。
【0014】
単粒子混合のバイモーダル構造を有する正極活物質を二次電池に適用する場合、多粒子形態の大粒子に多粒子形態の小粒子を混合した、多粒子混合のバイモーダルの正極活物質を適用する場合に比べ、BETが減少し、ガスの発生が抑制され、貯蔵特性が改善される。
【0015】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の第2の粒子は、一次粒子が20個以下、又は15個以下、又は10個以下、又は5個以下であることができる。
【0016】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物は、前記[関係式1]に示されるように、XRD分析時に、(104)ピークの半値幅FWHMの範囲が、第1の粒子中のニッケル含有量(x第1の粒子)、及び第1の粒子と第2の粒子との質量比と、一定の関係が維持される。
【0017】
前記[関係式1]によれば、本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物のFWHMの最適な範囲は、-0.25~0.25であり、又は-0.20~0.20であることができる。前記FWHMの最適な範囲内の単粒子混合のバイモーダル構造を有するリチウム複合酸化物を二次電池に適用する場合、優れた電池の貯蔵特性が得られる。
【0018】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物において、XRD分析時に、半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)値は、分析装置の具合、X線源、測定条件などの種々の変化要因によって偏差及び誤差が発生するため、前記[関係式2]のように、標準試料としてSi粉末の半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)で補正を行う。
【0019】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物において、前記第1の粒子の平均粒径は、8~20μm、9~18μm、10~15μm、又は10~13μmであることができる。
【0020】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物において、前記第2の粒子の平均粒径は、0.1~7μm、2~5μm、又は3~4μmであることができる。
【0021】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の結晶構造は、六方晶系(hexagonal)α-NaFeO2(R-3m space group)であることができる。
【0022】
本発明に係るリチウム複合酸化物において、前記[化学式1]におけるニッケルの含有量xが0.97~0.99である場合、前記[関係式2]で示されるFWHM(104)の範囲が0.108°(2θ)~0.162°(2θ)であることができる。
【0023】
本発明に係るリチウム複合酸化物において、前記[化学式1]におけるニッケルの含有量xが0.93~0.95である場合、前記[関係式2]で示されるFWHM(104)の範囲が0.098°(2θ)~0.152°(2θ)であることができる。
【0024】
本発明に係るリチウム複合酸化物において、前記[化学式1]におけるニッケルの含有量xが0.87~0.89である場合、前記[関係式2]で示されるFWHM(104)の範囲が0.083°(2θ)~0.137°(2θ)であることができる。
【0025】
本発明に係るリチウム複合酸化物において、前記[化学式1]におけるニッケルの含有量xが0.79~0.81である場合、前記[関係式2]で示されるFWHM(104)の範囲が0.063°(2θ)~0.117°(2θ)であることができる。
【0026】
本発明では、具体的に記述していないが、本発明によるリチウム複合酸化物のXRD分析時に、(104)ピークの他にも、(003)、(101)など、種々のピークが観測され、それぞれのピークは互いに異なるFWHM値を有する。本発明によるリチウム複合酸化物のXRD分析時に、(104)ピークの他、異なる位置から検出されるピークは、同じく、ニッケルのモル分率、及び第1の粒子と第2の粒子との質量比と、一定の関係が維持される、互いに異なるFWHMの範囲が存在し得る。
【0027】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の製造方法は、一次粒子がn1(n1>40)個凝集された第1の粒子を含む第1の正極活物質前駆体を合成し、リチウム化合物を添加した後、焼成して第1の正極活物質を製造する第1のステップ;一次粒子がn2(n2≦20)個凝集された第2の粒子を含む第2の正極活物質前駆体を合成し、リチウム化合物を添加した後、焼成する第2のステップ;前記第2のステップで形成された物質を粉砕して第2の正極活物質を製造する第3のステップ;前記第1の正極活物質と第2の正極活物質とを混合する第4のステップ;及び、前記混合された物質を、物質Mでコーティング又はドーピングした後、熱処理を行う第5のステップ;を含む。
【0028】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の製造方法において、前記第1のステップ及び第2のステップにおいて添加されるリチウム化合物は、LiOHであることができる。
【0029】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の製造方法において、前記第1のステップにおいて製造された第1の正極活物質の平均粒径は、8~20μm、9~18μm、10~15μm、又は10~13μmであることができる。
【0030】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の製造方法において、前記第3のステップにおいて製造された第2の正極活物質の平均粒径は、0.1~7μm、2~5μm、又は3~4μmであることができる。
【0031】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の製造方法において、前記第1のステップでの焼成後、第2のステップでの焼成後、又は第3のステップでの粉砕後に、水洗を行うステップをさらに含むことができる。
【0032】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の製造方法において、前記第5のステップでの熱処理後、水洗を行うステップをさらに含むことができる。
【0033】
本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の製造方法において、前記第5のステップにおいて、物質Mは、B、Ba、Ce、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるが、これらに制限されない。
【発明の効果】
【0034】
本発明によるリチウム複合酸化物は、R-3m空間群を有する六方格子によって定義される(104)ピークの半値幅(FWHM;Full Width at Half Maximum)値の範囲を、ニッケルのモル分率、及び第1の粒子と第2の粒子との質量比と、一定の関係が保たれるようにすることで、第1の粒子のマイクロクラックを防止し、結果的に、ニッケルリッチの正極活物質を含む電池の寿命特性を改善する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物のSEM像である。
【
図2】本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の大粒子と小粒子との混合質量比を粒度分析した結果を示す。
【
図3】本発明の実施例に係るリチウム複合酸化物の大粒子と小粒子との混合質量比を粒度分析した結果を示す。
【
図4】単粒子混合のバイモーダル及び多粒子混合のバイモーダル構造を有する電池の特性を比較したグラフである。
【
図5】単粒子混合のバイモーダル及び多粒子混合のバイモーダル構造を有する電池の特性を比較したグラフである。
【
図6】本発明の実施例及び比較例に係るリチウム複合酸化物のXRD分析結果を示す。
【
図7】本発明の実施例に係るSi粉末のXRD分析結果を示す。
【
図8】本発明の実施例及び比較例に係るリチウム複合酸化物の電池特性を比較したグラフである。
【
図9】本発明の実施例及び比較例に係るリチウム複合酸化物の電池特性を比較したグラフである。
【
図10】本発明の実施例及び比較例に係るリチウム複合酸化物の電池特性を比較したグラフである。
【
図11】本発明の実施例及び比較例に係るリチウム複合酸化物の電池特性を比較したグラフである。
【
図12】本発明の実施例及び比較例に係るリチウム複合酸化物の電池特性を比較したグラフである。
【
図13】本発明の実施例及び比較例に係るリチウム複合酸化物の電池特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて詳述する。しかし、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0037】
<測定方法及び用語の意味>
XRD測定時に、X線源には、Cu-Kα1線源を使用し、θ-2θscan(Bragg-Brentano parafocusing geometry)方法で、10-70°(2θ)の範囲で0.02°ステップ間隔で測定を行った。
【0038】
FWHM(104)及びSi粉末に対するFWHM(220)の測定は、ガウシアン関数のフィッティングで計算し、FWHM測定のためのガウシアン関数フィッティングは、当業者に周知の種々の学問的/公開/商業的なソフトウェアを用いて行うことができる。
【0039】
Si粉末は、Sigma-Aldrich社製のSi粉末(品番215619)を使用した。
【0040】
大粒子と小粒子との混合質量比を、
図2及び
図3に示すように粒度分析によって確認した。
【0041】
「FWHMの範囲値」とは、FWHM(104)-{0.04+(x-0.6)×0.25}の値を意味し、「FWHMの最適な範囲」とは、前記FWHM値が-0.025~0.025であることを意味する。
【0042】
「FWHM大粒(104)」とは、大粒子のFWHM(104)値を意味し、「FWHM小粒(104)」とは、小粒子のFWHM(104)値を意味し、「FWHM混合(104)」とは、大粒子と小粒子とを混合して製造したリチウム複合酸化物のFWHM(104)値を意味する。
【0043】
<製造例1>
多粒子である大粒Niのモル分率が0.80の正極活物質、及び単粒子である小粒Niのモル分率が0.85の正極活物質を、以下の方法で製造した。
【0044】
大粒の正極活物質の合成
まず、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンを用意し、共沈反応を行って前駆体を合成し、合成された前駆体にLiOHを添加した後、焼成してリチウム複合酸化物を製造した。具体的に、前駆体にLiOHを混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しながら、1℃/分で昇温し、10時間熱処理を行った後、自然冷却して正極活物質を製造した。
【0045】
次に、前記リチウム複合酸化物に蒸留水を投入した後、1時間水洗を行い、水洗されたリチウム複合酸化物をろ過した後、乾燥して、平均直径が11~13μmである大粒の正極活物質を得た。
【0046】
単粒子である小粒の正極活物質の合成方法
まず、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンを用意し、共沈反応を行って前駆体を合成し、合成された前駆体にLiOHを添加した後、焼成してリチウム複合酸化物を製造した。具体的に、前駆体にLiOHを混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しながら、1℃/分で昇温し、900℃で10時間熱処理を行った後、自然冷却して正極活物質を製造した。
【0047】
次に、粉砕機を用いて前記リチウム複合酸化物を3~4μmの大きさに粉砕した後、蒸留水を投入して1時間水洗を行い、水洗されたリチウム複合酸化物をろ過した後、乾燥して、単粒子である小粒の正極活物質を得た。
【0048】
大粒と小粒との混合による最終のバイモーダルの正極活物質の製造
次に、ミキサーを用いて、前記大粒の正極活物質及び単粒子である小粒の正極活物質を、ホウ素(B;ボロン)含有原料物質(H3BO3)と共に混合し、Bのコーティングを施した。B含有原料物質(H3BO3)は、前記リチウム複合酸化物の総重量に対して0.2重量%となるように混合した。同一の焼成炉でO2雰囲気を維持しながら、2℃/分で昇温し、5時間熱処理を行った後、自然冷却してリチウム複合酸化物を得た。
【0049】
前記製造されたリチウム複合酸化物のSEM写真の測定を行い、
図1に示す。
【0050】
<製造例>電池の製造
製造例で製造されたリチウム二次電池用正極活物質と、導電材として人造黒鉛と、結合材としてポリビニリデンフルオライド(PVdF)とを、85:10:5の重量比で混合し、スラリーを製造した。前記スラリーを、15μm厚さのアルミニウム箔に均一に塗布し、135℃で真空乾燥してリチウム二次電池用正極を製造した。
【0051】
前記正極と、リチウム箔を対向電極とし、厚さが20μmの多孔性ポリプロピレン膜をセパレータとし、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートが3:1:6の体積比で混合された溶媒に、LiPF6を1.15M濃度で溶かした電解液とを用いて、通常の方法でコイン電池を製造した。
【0052】
<実験例1>
上述の製造例1の製造方法によって製造された実施例1-1~1-4及び比較例1-1~1-2のXRD分析結果を
図6に示す。サンプルは、いずれも六方晶系(hexagonal)α-NaFeO
2(R-3m space group)構造であることが確認された。
【0053】
また、FWHM補正のため、同一のXRD装置及び条件下で、Si粉末の分析を行った結果を、
図7に示す。
【0054】
次に、それぞれFWHM
(104)値を測定し、表1及び表2に示す。
【表1】
【表2】
【0055】
上述の製造例1の製造方法によって、大粒Niのモル分率が0.80で、単粒子である小粒Niのモル分率が0.85であるリチウム複合酸化物を製造した後、大粒の質量比、小粒の質量比、Niモル分率によるFWHM
混合(104)を測定し、本発明の関係式によるFWHMの範囲値を計算した。次に、上述の製造例による電池を製造し、放電容量及び寿命特性を測定し、以下の表3、
図8及び
図9に示す。
【表3】
【0056】
表3、
図8及び
図9によれば、FWHMの範囲値がFWHMの最適な範囲を満たす実施例1-1~1-4では、電池の放電容量及び寿命に優れているが、FWHMの範囲値がFWHMの最適な範囲を満たしていない比較例1-1~1-2では、電池の放電容量及び寿命が劣ることが確認された。
【0057】
<製造例2>
多粒子である大粒Niのモル分率が0.88の正極活物質、及び単粒子である小粒Niのモル分率が0.88の正極活物質を製造した。
【0058】
多粒子である大粒の正極活物質の合成
まず、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンを用意し、共沈反応を行って前駆体を合成し、合成された前駆体にLiOHを添加した後、焼成してリチウム複合酸化物を製造した。具体的に、前駆体にLiOHを混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しながら、1℃/分で昇温し、10時間熱処理を行った後、自然冷却して正極活物質を製造し、平均直径が11~13μmである大粒の正極活物質を製造した。
【0059】
単粒子である小粒の正極活物質の合成方法
まず、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンを用意し、共沈反応を行って前駆体を合成し、合成された前駆体にLiOHを添加した後、焼成してリチウム複合酸化物を製造した。具体的に、前駆体にLiOHを混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しながら、1℃/分で昇温し、900℃で10時間熱処理を行った後、自然冷却して正極活物質を製造した。
【0060】
次に、粉砕機を用いて前記リチウム複合酸化物を3~4μmの大きさに粉砕し、単粒子である小粒の正極活物質を得た。
【0061】
大粒と小粒との混合による最終のバイモーダルの正極活物質の製造
次に、ミキサーを用いて、前記多粒子である大粒の正極活物質及び単粒子である小粒の正極活物質を、Al2O3及びZrO2と共に混合し、Al及びZrのコーティングを施した。同一の焼成炉でO2雰囲気を維持しながら、2℃/分で昇温し、5時間熱処理を行った後、自然冷却した。
【0062】
次に、前記リチウム複合酸化物に蒸留水を投入した後、1時間水洗を行い、ろ過した後、乾燥してリチウム複合酸化物を得た。
【0063】
<実験例2>
上述の製造例2の製造方法によって製造された実施例2-1~2-4及び比較例2-1~2-2のXRD分析結果、サンプルは、いずれも六方晶系(hexagonal)α-NaFeO2(R-3m space group)構造であることが確認された。
【0064】
次に、ぞれぞれFWHM
(104)値を測定し、表4及び表5に示す。
【表4】
【表5】
【0065】
上述の製造例2の製造方法によって、大粒Niのモル分率が0.88で、単粒子である小粒Niのモル分率が0.88であるリチウム複合酸化物を製造した後、大粒の質量比、小粒の質量比、Niモル分率によるFWHM
混合(104)を測定し、本発明の関係式によるFWHMの範囲値を計算した。次に、上述の製造例による電池を製造し、放電容量及び寿命特性を測定し、以下の表6、
図10及び
図11に示す。
【表6】
【0066】
表6、
図10及び
図11によれば、FWHMの範囲値がFWHMの最適な範囲を満たす実施例2-1~2-4では、電池の放電容量及び寿命に優れているが、FWHMの範囲値がFWHMの最適な範囲を満たしていない比較例2-1~2-2では、電池の放電容量及び寿命が劣ることが確認された。
【0067】
<製造例3>
多粒子である大粒Niのモル分率が0.94、単粒子である小粒Niのモル分率が0.92であり、Ti及びZrのコーティングを行った以外は、上述の製造例2と同様にしてリチウム複合酸化物を製造した。
【0068】
<実験例3>
上述の製造例3の製造方法によって製造された実施例3-1~3-4及び比較例3-1~3-2のXRD分析結果、サンプルは、いずれも六方晶系(hexagonal)α-NaFeO2(R-3m space group)構造であることが確認された。
【0069】
次に、ぞれぞれFWHM
(104)値を測定し、表7及び表8に示す。
【表7】
【表8】
【0070】
上述の製造例3の製造方法によって、大粒Niのモル分率が0.94で、単粒子である小粒Niのモル分率が0.92であるリチウム複合酸化物を製造した後、大粒の質量比、小粒の質量比、Niモル分率によるFWHM
混合(104)を測定し、本発明の関係式によるFWHMの範囲値を計算した。次に、上述の製造例による電池を製造し、放電容量及び寿命特性を測定し、以下の表9、
図12及び
図13に示す。
【表9】
【0071】
表9、
図12及び
図13によれば、FWHMの範囲値がFWHMの最適な範囲を満たす実施例3-1~3-4では、電池の放電容量及び寿命に優れているが、FWHMの範囲値がFWHMの最適な範囲を満たしていない比較例3-1~3-2では、電池の放電容量及び寿命が劣ることが確認された。
【0072】
<実験例4>多粒子混合のバイモーダルと単粒子混合のバイモーダルとの比較
多粒子形態の大粒子と小粒子とを混合し、ハイニッケル系NCMのバイモーダルの正極活物質を製造する場合、多粒子形態の小粒子より、単粒子形態の小粒子を混合して使用した方が、BETが減少し、ガスの発生が抑制され、貯蔵特性が改善される。
【0073】
多粒子混合のバイモーダル、及び単粒子混合のバイモーダルを使用する場合におけるガスの発生率及び寿命特性を比較し、表10、
図4及び
図5に示す。
【0074】
図4から、多粒子混合のバイモーダルである場合、単粒子混合のバイモーダルである場合に比べ、高温での放置時にガスの発生によるパウチセルの体積変化が二倍以上大きくなることが確認される。
【表10】