(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100724
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】化学的に強化された二ケイ酸リチウム-葉長石ガラスセラミック
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20230711BHJP
C03C 10/12 20060101ALI20230711BHJP
C03C 10/04 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C10/12
C03C10/04
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070023
(22)【出願日】2023-04-21
(62)【分割の表示】P 2020547063の分割
【原出願日】2019-11-12
(31)【優先権主張番号】62/760,753
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ライアン クロード アンドリューズ
(72)【発明者】
【氏名】アルバート ジョゼフ ファーヒー
(72)【発明者】
【氏名】リサ マリー ノニ
(72)【発明者】
【氏名】ロスチラフ ヴァチェフ ルセフ
(72)【発明者】
【氏名】シャーリーン マリー スミス
(72)【発明者】
【氏名】リェルカ ウクラインツィク
(72)【発明者】
【氏名】シェルビー ケリン ウィルソン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】化学的耐久性及び耐損傷性が改善されたガラスセラミック物品を提供する。
【解決手段】本明細書に記載されるイオン交換したガラスセラミック物品は、イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.07tの深さから約0.26tの深さまで、ほぼ線形の関数に従って距離が増加するにつれて、圧縮応力から引張応力へと応力が減少する。応力は、イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.18t~約0.25tの深さで圧縮応力から引張応力へと遷移する。イオン交換したガラス物品の外面における最大圧縮応力の絶対値は、イオン交換したガラス物品の最大中央張力(CT)の絶対値の1.8~2.2倍であり、ガラスセラミック物品は、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m以上の破壊靱性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉長石、二ケイ酸リチウム、及びそれらの組合せからなる群より選択された結晶相を有するガラスセラミック物品を強化する方法であって、該方法が、
前記ガラスセラミック物品にイオン交換媒体を適用する工程を含み、前記イオン交換媒体が、0質量%超20質量%以下のNaNO3、80質量%~100質量%未満のKNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含む、
方法。
【請求項2】
前記イオン交換媒体が380℃~550℃の温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン交換媒体が、2時間~16時間の間、前記ガラスセラミック物品に適用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン交換媒体が第2のイオン交換媒体を含み、前記方法が、
第1のイオン交換媒体を前記ガラスセラミック物品に適用する工程をさらに含み、前記第1のイオン交換媒体が、NaNO3、KNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含み、前記第2のイオン交換媒体を適用する工程が、前記第1のイオン交換媒体の適用後に実施される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のイオン交換媒体が20質量%超のNaNO3を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のイオン交換媒体が、95質量%超かつ100質量%未満のKNO3と、0質量%超かつ5質量%未満のNaNO3とを含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
葉長石、二ケイ酸リチウム、及びそれらの組合せからなる群より選択された結晶相を有するガラスセラミック物品を強化する方法であって、該方法が、
前記ガラスセラミック物品にイオン交換媒体を適用する工程を含み、前記イオン交換媒体が、20質量%超かつ50質量%以下のNaNO3、50質量%~80質量%未満のKNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含む、
方法。
【請求項8】
前記イオン交換媒体が380℃~550℃の温度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン交換媒体が、2時間~16時間の間、前記ガラスセラミック物品に適用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記イオン交換媒体が、30質量%~50質量%のNaNO3と、50質量%~70質量%のKNO3とを含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、ここに参照することによってその内容全体が援用される、2018年11月13日出願の「Chemically Strengthened Lithium Disilicate-Petalite Glass-Ceramics(化学的に強化された二ケイ酸リチウム-葉長石ガラスセラミック)」と題された米国仮特許出願第62/760,753号の利益及び優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、概してガラス物品に関し、より詳細には、化学的耐久性及び耐損傷性が改善されたガラスセラミック物品、並びにそれらを形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
二ケイ酸リチウム結晶相を有するガラスセラミックが従来のイオン交換プロセスを受けると、ナトリウムが豊富な低屈折率層がガラスセラミックの表面に形成される。このナトリウムが豊富な表面層の存在は、ガラスセラミックの表面を表面下の水和を受けやすくし、その結果、ガラスセラミックの表面で炭酸ナトリウム結晶が成長し、これが次に表面ヘイズを生じさせる可能性がある。ナトリウムが豊富な表面層はまた、低い化学的耐久性も示し、ガラスセラミックを、優先的エッチング、孔食、及び他の表面損傷を受けやすくさせる。
【0004】
ガラスセラミックの特性を変化させることに加えて、低屈折率層の存在は、FSMイメージング中に生成された画像をぼやけさせる可能性があり、イオン交換プロセスの品質管理のためのこのような画像の使用を信頼できないものにしてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、化学的耐久性が改善され、耐損傷性が改善されたガラスセラミック物品、並びに、イオン交換プロセスの品質管理が改善された方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される第1の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は厚さtを有しており、ここで、ガラスセラミック物品は、イオン交換したガラスセラミック物品の外面から中心線に向かって約0.07tの深さから約0.26tの深さまでほぼ線形の関数に従って距離が増加するにつれて低下する応力を含み;該応力は、イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.18t~約0.25tの深さで圧縮応力から引張応力へと遷移し;かつ、イオン交換したガラスセラミック物品の外面における最大圧縮応力の絶対値は、イオン交換したガラスセラミック物品の最大中央張力(CT)の絶対値の1.8~2.2倍であり;かつ、イオン交換したガラスセラミック物品は、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m以上の破壊靱性を有する。
【0007】
本明細書に開示される第2の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、最大中央張力が70MPa以上である、第1の態様によるイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0008】
本明細書に開示される第3の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、最大中央張力が80MPa~140MPaである、第1又は第2の態様に記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0009】
本明細書に開示される第4の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、最大圧縮応力が180MPa~350MPaである、第1~第3の態様に記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0010】
本明細書に開示される第5の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、破壊靱性が、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m~1.5MPa√mである、第1~第4の態様に記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0011】
本明細書に開示される第6の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、該イオン交換したガラスセラミック物品が外面において10モル%未満のNa2O濃度を有する、第1~第5の態様に記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0012】
本明細書に開示される第7の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は厚さtを有しており、ここで、Liイオンの濃度は、イオン交換したガラスセラミック物品の外面からの距離が増加するにつれて、表面Liイオン濃度から最大Liイオン濃度へと増加し、ここで、表面Liイオン濃度と最大Liイオン濃度との差は5モル%未満であり;イオン交換したガラスセラミック物品の外面からの距離が増加するにつれて、Naイオンの濃度は表面Naイオン濃度から最小Naイオン濃度へと、増加し、次に低下し、ここで、表面Naイオン濃度と最小Naイオン濃度との差は5モル%未満であり、表面Naイオン濃度は10モル%未満であり;かつ、イオン交換したガラスセラミック物品は、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m超の破壊靱性を有する。
【0013】
本明細書に開示される第8の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、Naイオンの濃度が、イオン交換したガラスセラミック物品の厚さt全体にわたって0モル%より大きい、第7の態様に記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0014】
本明細書に開示される第9の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、Naイオンの濃度が0モル%超かつ2.5モル%未満である、第7又は第8の態様に記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0015】
本明細書に開示される第10の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、Liイオンの最大濃度が19モル%~32モル%である、第7~第9の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0016】
本明細書に開示される第11の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、破壊靱性が、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m~1.5MPa√mである、第7~第10の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0017】
本明細書に開示される第12の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、0モル%超~6モル%のAl2O3をさらに含む、第7~第11の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0018】
本明細書に開示される第13の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、0.7モル%~2.2モル%のP2O5をさらに含む、第7~第12の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0019】
本明細書に開示される第14の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、1.7モル%~4.5モル%のZrO2をさらに含む、第7~第13の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0020】
本明細書に開示される第15の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、60モル%~72モル%のSiO2をさらに含む、第7~第14の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0021】
本明細書に開示される第16の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、1%~30%の残留ガラス含有量と、二ケイ酸リチウム、葉長石、β-石英、β-スポジュメン固溶体、及びそれらの組合せからなる群より選択された70%~99%の結晶相とを含み;該イオン交換したガラスセラミック物品は、厚さtを有しており、かつ、イオン交換したガラスセラミック物品の外面から中心線に向かって距離が増加するにつれて低下する応力を含み、ここで、応力は、イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.07tの深さから約0.26tの深さまで、ほぼ線形の関数に従って低下し;該応力は、イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.18t~約0.25tの深さで圧縮応力から引張応力へと遷移し;かつ、イオン交換したガラス物品の外面における最大圧縮応力は、イオン交換したガラス物品の最大中央張力(CT)の値の1.8~2.2倍である。
【0022】
本明細書に開示される第17の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、該イオン交換したガラスセラミック物品が、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m~1.5MPa√mの破壊靱性を有する、第16の態様に記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0023】
本明細書に開示される第18の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、該イオン交換したガラスセラミックが不透明である、第16又は第17の態様に記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0024】
本明細書に開示される第19の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、最大圧縮応力が180MPa~350MPaである、第16~第18の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0025】
本明細書に開示される第20の態様によれば、イオン交換したガラスセラミック物品は、該イオン交換したガラスセラミック物品が外面において10モル%未満のNa2O濃度を有する、第16~第19の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む。
【0026】
本明細書に開示される第21の態様によれば、葉長石、二ケイ酸リチウム、及びそれらの組合せからなる群より選択された結晶相を有するガラスセラミック物品を強化する方法は、ガラスセラミック物品にイオン交換媒体を適用する工程を含み、ここで、イオン交換媒体は、0質量%超かつ20質量%以下のNaNO3、80質量%~100質量%未満のKNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含む。
【0027】
本明細書に開示される第22の態様によれば、方法は、イオン交換媒体が380℃~550℃の温度を有する、第21の態様に記載の方法を含む。
【0028】
本明細書に開示される第23の態様によれば、方法は、イオン交換媒体が2時間~16時間の間、ガラスセラミック物品に適用される、第21又は第22の態様に記載の方法を含む。
【0029】
本明細書に開示される第24の態様によれば、方法は、イオン交換媒体が第2のイオン交換媒体を含み、該方法は、ガラスセラミック物品に第1のイオン交換媒体を適用する工程をさらに含み、ここで、第1のイオン交換媒体が、NaNO3、KNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含み、かつ、第2のイオン交換媒体を適用する工程が第1のイオン交換媒体の適用後に実施される、第21~第23の態様のいずれかに記載の方法を含む。
【0030】
本明細書に開示される第25の態様によれば、方法は、第1のイオン交換媒体が20質量%超のNaNO3を含む、第24の態様に記載の方法を含む。
【0031】
本明細書に開示される第26の態様によれば、方法は、第2のイオン交換媒体が95質量%超かつ100質量%未満のKNO3と0質量%超かつ5質量%未満のNaNO3とを含む、第24又は第25の態様に記載の方法を含む。
【0032】
本明細書に開示される第27の態様によれば、葉長石、二ケイ酸リチウム、及びそれらの組合せからなる群より選択された結晶相を有するガラスセラミック物品を強化する方法は、ガラスセラミック物品にイオン交換媒体を適用する工程を含み、該イオン交換媒体は、20質量%超50質量%以下のNaNO3、50質量%~80質量%未満のKNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含む。
【0033】
本明細書に開示される第28の態様によれば、方法は、イオン交換媒体が380℃~550℃の温度を有する、第27の態様に記載の方法を含む。
【0034】
本明細書に開示される第29の態様によれば、方法は、イオン交換媒体が2時間~16時間の間、ガラスセラミック物品に適用される、第27又は第28の態様に記載の方法を含む。
【0035】
本明細書に開示される第30の態様によれば、方法は、イオン交換媒体が、30質量%~50質量%のNaNO3、及び50質量%~70質量%のKNO3を含む、第27~第29の態様のいずれかに記載の方法を含む。
【0036】
本明細書に開示される第31の態様によれば、消費者向け電子製品は、前面、背面、及び側面を含む筐体;少なくとも部分的に筐体内にある電気部品であって、該電気部品がコントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、該ディスプレイが筐体の前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに、ディスプレイの上に配置されたカバー基板であって、筐体の一部又はカバー基板のうちの少なくとも一方が、第1~第12の態様のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品を含む、カバー基板を備えている。
【0037】
追加の特徴及び利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部には、その説明から当業者に容易に明らかとなり、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付の図面を含めた本明細書に記載される実施形態を実施することによって認識されよう。
【0038】
前述の概要及び以下の詳細な説明はいずれも、さまざまな実施形態を説明しており、特許請求される主題の性質及び特徴を理解するための概観又は枠組みを提供することを意図していることが理解されるべきである。添付の図面は、さまざまな実施形態のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれて、その一部を構成する。図面は、本明細書に記載されるさまざまな実施形態を例証しており、その説明とともに、特許請求の範囲の主題の原理及び動作を説明する役割を担う。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】ガラスセラミック基板が従来のイオン交換処理に供されたときの、組成物Aから形成されたガラスセラミック基板におけるナトリウム、リチウム、及びカリウムの元素分布の、表面から試料の厚さへの深さ(X軸;マイクロメートル、ミクロン、又はμm単位)の関数としての濃度(Y軸、酸化物のモル%単位)のプロット
【
図2A】従来のイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図2B】従来のイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図3】85℃/85%相対湿度に48時間曝露した後の
図1の元素分布を有するガラスセラミック物品の光学顕微鏡写真
【
図4A】実施例Aと一致するガラス試料の表面粗さの原子間力顕微鏡(AFM)画像
【
図4B】組成物Aから形成され、従来のイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の表面粗さのAFM画像
【
図5】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるフリンジなしのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図6】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるフリンジなしのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の表面から試料の厚さへの、厚さの関数としての位相差(左Y軸;度単位)及び応力(右Y軸;メガパスカル(MPa)単位、圧縮応力が正、引張応力が負である)のプロット
【
図7】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるフリンジなしのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の中央張力(X軸;MPa単位)と相関する、イオン交換に由来する寸法成長(Y軸;長さの%単位)のプロット
【
図8A】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図8B】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図8C】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図8D】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図8E】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図9】ガラスセラミック基板が、本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたときの、組成物Aから形成されたガラスセラミック基板におけるナトリウム、リチウム、及びカリウムの元素分布の、表面から試料の厚さへの深さ(X軸;マイクロメートル又はμm単位)の関数としての濃度(Y軸、酸化物のモル%単位)のプロット
【
図10A】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図10B】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図10C】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図10D】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図10E】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図10F】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図10G】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図10H】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の365nmにおけるFSMスペクトル
【
図11】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態による単一フリンジのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品のRNFを使用して測定された、表面から試料の厚さへの深さ(X軸;マイクロメートル又はμm単位)の関数としての応力(Y軸、MPa単位;圧縮応力は正であり、引張応力は負である)のプロット
【
図12】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるフリンジなしのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品のRNFを使用して測定された、表面から試料の厚さへの深さ(X軸;マイクロメートル又はμm単位)の関数としての応力(Y軸、MPa単位;圧縮応力は正であり、引張応力は負である)のプロット
【
図13】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるさまざまなイオン交換処理に供され、80グリットのサンドペーパーによる損傷導入後に4点曲げ試験を使用して試験した試料(X軸)に対する、加えられた破壊応力(Y軸;MPa単位)のプロット
【
図14A】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるさまざまなイオン交換処理に供された試料(X軸)についての破壊高さがY軸(cm単位)に提示された、漸進的な面落下試験の結果のプロット
【
図14B】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるさまざまなイオン交換処理に供された試料(X軸)についての破壊高さがY軸(cm単位)に提示された、漸進的な面落下試験の結果のプロット
【
図14C】本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるさまざまなイオン交換処理に供された試料(X軸)についての破壊高さがY軸(cm単位)に提示された、漸進的な面落下試験の結果のプロット
【
図15A】85℃/85%相対湿度の劣化条件への曝露前の従来のイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の光学顕微鏡写真
【
図15B】85℃/85%相対湿度の劣化条件への144時間の曝露後の
図15Aのガラスセラミック物品の光学顕微鏡写真
【
図15C】85℃/85%相対湿度の劣化条件への48時間の曝露後の本明細書に示され、記載される1つ以上の実施形態によるフリンジなしのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品の光学顕微鏡写真
【
図15D】85℃/85%相対湿度の劣化条件への144時間の曝露後の
図15Cのガラスセラミック物品の光学顕微鏡写真
【
図16A】
図15Bのガラスセラミック基板における炭素、水素、Li
2O、Na
2O、Al
2O
3、及びP
2O
5の元素分布の、表面から試料の厚さへの深さ(X軸;マイクロメートル又はμm単位)の関数としての濃度(Y軸、酸化物のモル%単位)のプロット
【
図16B】
図15Dのガラスセラミック基板における炭素、水素、Li
2O、Na
2O、Al
2O
3、及びP
2O
5の元素分布の、表面から試料の厚さへの深さ(X軸;マイクロメートル又はμm単位)の関数としての濃度(Y軸、酸化物のモル%単位)のプロット
【
図17】破壊靱性を測定するために二重片持梁法で用いられるセットアップの概略図
【
図18A】本明細書に開示される強化した物品のいずれかを組み込む例示的な電子デバイスの平面図
【発明を実施するための形態】
【0040】
これより、添付の図面に例が示されている、さまざまな実施形態を詳細に参照する。可能な場合はいつでも、同一又は類似した部分についての言及には、図面全体を通して同じ参照番号が用いられる。
【0041】
定義及び測定技法
本明細書では、範囲は、「約」1つの特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表現することができる。このような範囲が表現される場合、別の実施形態は、その1つの特定の値から及び/又は他方の特定の値までを含む。同様に、例えば先行詞「約」の使用によって、値が近似値として表される場合、その特定の値は別の実施形態を形成することが理解されよう。さらには、範囲の各々の端点は、他の端点に関連して、及び他の端点とは独立してのいずれにおいても重要であることが理解されよう。このような範囲が表現される場合、実施形態は、その1つの特定の値から及び/又は他方の特定の値までを含む。同様に、例えば先行詞「約」の使用によって、値が近似値として表される場合、その特定の値は別の実施形態を形成することが理解されよう。明細書の範囲の数値又は端点が「約」を記載しているかどうかにかかわらず、範囲の数値又は端点は、「約」によって修飾されたものと、修飾されていないものの2つの実施形態を含むことが意図されている。さらには、範囲の各々の端点は、他の端点に関連して及び他の端点とは独立してのいずれにおいても重要であることが理解されよう。
【0042】
本明細書で使用される用語「実質的な」、「実質的に」、及びそれらの変形は、記載された特徴が値又は説明に等しい又はほぼ等しいことを示すことが意図されている。例えば、「実質的に平坦な」表面は、平坦な表面又はほぼ平坦な表面を示すことが意図されている。さらには、上記に定義されるように、「実質的に同様」は、2つの値が等しいかほぼ等しいことを示すことが意図されている。幾つかの実施形態では、「実質的に同様」とは、互いの約10%以内、例えば、互いの約5%以内、又は互いの約2%以内などの値を意味しうる。
【0043】
本明細書で使用される方向用語(例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部)は、描かれた図を参照してのみ作られており、絶対的な方向を意味することは意図していない。
【0044】
開示されたすべての範囲は、ありとあらゆる部分範囲、又は各範囲に包含されるありとあらゆる個別の値を列挙するクレームを包含し、そのサポートを提供すると理解されるべきである。例えば、記載されている1から10の範囲は、最小値1と最大値10の間及び/又はそれらを含むありとあらゆる部分範囲又は個別の値を列挙するクレームを包含し、そのサポートを提供すると見なされるべきである;すなわち、1以上の最小値で始まり、10以下の最大値で終わる(例えば、5.5~10、2.34~3.56など)すべての部分範囲、又は1から10までの任意の値(例えば、3、5.8、9.9994など)。
【0045】
本明細書で用いられる場合、「圧縮の深さ」又は「DOC」とは、圧縮応力(CS)層の深さを指し、ガラスセラミック物品内の応力が圧縮応力から引張応力へと変化する深さであり、応力値0を有する。圧縮応力は、本明細書では正(>0)の応力として表され、引張応力は負(<0)の応力として表される。しかしながら、本明細書全体を通して、特に明記されない限り、引張応力及び圧縮応力の数値は、正の値又は絶対値として表される。DOCは、イオン交換処理に応じて、FSM又は散乱光偏光器(SCALP)によって測定することができる。カリウムイオンをガラス物品内へと交換することによってガラス物品の応力が生じる場合には、FSMを使用してDOCを測定する。ナトリウムイオンをガラス物品内へと交換することによって応力が生じる場合には、SCALPを使用してDOCを測定する。カリウムとナトリウムの両方のイオンをガラス内へと交換することによってガラス物品の応力が生じる場合には、ナトリウムの交換深さはDOCを示し、カリウムイオンの交換深さは圧縮応力の規模の変化(ただし、圧縮から引張への応力変化ではない)を示すと考えられることから、DOCはSCALPで測定される;このようなガラス物品中のカリウムイオンの交換深さは、FSMによって測定される。
【0046】
本明細書に記載されるさまざまな測定、特に、圧縮応力は、折原製作所(日本所在)製造のFSM-6000などの市販の機器を使用して、表面応力計(FSM)によって測定される。本明細書でより詳細に論じられるように、表面応力測定は、ガラスセラミックの複屈折に関連する応力光学係数(SOC)の正確な測定に依拠している。SOCは、その内容全体がここに参照することによって本明細書に組み込まれる、「ガラス応力-光学係数の測定のための標準試験方法(Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient)」と題されたASTM規格C770-16に記載される手順C(ガラスディスク法)に準拠して測定される。低屈折率層が形成されている場合には、表面圧縮応力(及び低屈折率層の圧縮応力)は、プリズム結合測定における低屈折率層の第1の透過(結合)共鳴の複屈折によって測定され、また、第1の透過共鳴と第2の透過共鳴との間隔、又は第1の透過共鳴の幅によって低屈折率層の層の深さを測定する。
【0047】
約屈曲部(knee)から最大CTまでの応力プロファイルのグラフィック表現は、ここに参照することによってその全体が本明細書に取り込まれる、「Systems and methods for measuring a profile characteristic of a glass sample(ガラス試料のプロファイル特性を測定するためのシステムと方法)」と題された米国特許第8,854,623号明細書に記載される屈折近視野(RNF)法によって導き出すことができる。RNFのグラフィック表現は、力のバランスが取られており、SCALP測定によって提供される最大中央張力(ピーク中央張力とも呼ばれる)値に合わせて較正される。特に、RNF法は、ガラス物品を基準ブロックに隣接して配置し、1Hz~50Hzの速度で直交偏光間で切り替えられる偏波スイッチ光ビームを生成し、偏波スイッチ光ビームのパワー量を測定し、かつ、偏波スイッチ基準信号を生成することを含み、ここで、直交偏光のそれぞれで測定されたパワー量は互いに50%以内である。該方法は、偏波スイッチ光ビームをガラス試料及び基準ブロックを介してガラス試料にさまざまな深さで送信し、次に、リレー光学系を使用して、送信された偏波スイッチ光ビームを信号光検出器に中継することをさらに含み、該信号光検出器は偏波スイッチ検出器信号を生成する。該方法はまた、検出器信号を基準信号で除算して、正規化された検出器信号を形成し、正規化された検出器信号からガラス試料のプロファイル特性を決定することも含む。
【0048】
応力プロファイルのグラフィック表現は、RNF、SCALP、及びFSMの組合せを使用して導き出すことができる。FSMは、表面近くの応力プロファイルの部分のグラフィック表現を導き出すために用いられるのに対し、RNFは、屈曲部の深さを超えて応力プロファイルの引張応力部分を通過する応力プロファイルの部分の形状のグラフィック表現を導き出すために、SCALPと一緒に用いられる。FSM、RNF及びSCALPから導出される部分は、以下のように完全な応力プロファイルの表現を提供するために、まとめられる。RNFは力のバランスが取られており、SCALPの中央張力に一致するように較正される。力のバランス化は、その表現の中立軸の下の引張応力領域を表現の中立軸の上の圧縮応力領域と一致させるように中立軸をシフトすることによって行われる。力のバランス化及びRNFの較正の後、FSMから取得した表面スパイク表現はプロファイルのRNF表現にスプライスされ、RNF表現の対応する部分が置き換えられる。力のバランス化、SCALPの中央張力への較正、及びスプライスのプロセスは、収束に達するまで繰り返される、すなわち、プロファイルの表現は、プロセスをさらに繰り返しても実質的に変化しない。適切な場合、必要に応じて、測定ノイズを除去するために標準的な平滑化手法を使用することができる。
【0049】
例えばアルカリ構成成分など、ガラス中のさまざまな構成成分の濃度プロファイルは、電子プローブマイクロアナリシス(EPMA)によって測定した。EPMAは、例えば、ガラスへのアルカリイオンのイオン交換に起因するガラスの圧縮応力を識別するために利用することができる。平均表面濃度レベル(例えば、ガラスの表面から最初の100nm以内)は、幾つかの実施形態では、グロー放電発光分析装置(GdOES)を使用して測定した。
【0050】
破壊靱性測定は、二重片持梁(DCB)法を使用して実施される。DCB試験片の形状が
図17に示されており、重要なパラメータは、亀裂の長さa、印加された荷重P、断面寸法w及び2h、並びに亀裂誘導溝の厚さbである。試料の全長を5cmから10cmまで変化させて、幅2h=1.25センチメートル(cm)及び厚さw=0.3ミリメートル(mm)~1mmの範囲の長方形に切断することによって、試験されるものと同じ組成から形成されたが、イオン交換を受けていない試料を調製する。試料を試料ホルダ及び荷重に取り付けるための手段を提供するために、各ガラス試料は、ダイヤモンドドリルで両端に開けられた穴を有している。亀裂「誘導溝」bは、ダイヤモンドブレードを備えたウェハダイシングソーを使用して、両方の平らな面の試料の長さが切り落とされて、材料の「ウェブ」が、プレートの全厚の約半分だけ残り(
図17のb)、ブレードの厚さ又は切り口は180μmの高さである。ダイシングソーの高精度の寸法公差により、試料間のばらつきを最小限に抑えることが可能である。ダイシングソーは、a=15mmの初期亀裂の切断にも用いられ、これにより、亀裂の先端の近くに非常に薄い材料のウェッジが生成され(ブレードの曲率に起因する)、試料における亀裂の開始が容易になる。
【0051】
亀裂誘導溝bは、平面内に亀裂を維持し、亀裂平面から成長が逸れるのを防ぐ。試料は、鋼線を使用して試料の下部の穴に引っ掛けることによって、金属製の試料ホルダに取り付けられる。試料はまた、低荷重条件下で試料レベルを維持するために、反対側でも支持される。ロードセル(FUTEK、LSB200)と直列に存在するばねを上部の穴に引っ掛け、これを延長し、ロープと高精度のスライドを使用して荷重を徐々に加える。亀裂は、デジタルカメラ及びコンピュータに接続された顕微鏡(5~10μmの解像度)を使用して監視される。
【0052】
寸法パラメータの厳しい公差を維持することにより、適用される応力強度K
Pは、
図17に示される入力パラメータを用いて次式(1)を使用して計算される:
【0053】
【0054】
各試料について、ウェブの先端で亀裂が発生し、その後、寸法a/hの比率が1.5を超えるまで、スターター亀裂が慎重に亜臨界成長し、これが、応力強度を正確に計算するために式(1)で使用される。この時点で、亀裂の長さaは、5μmの分解能を有する移動顕微鏡を使用して測定及び記録される。次に、トルエンの液滴を亀裂の溝に落下させ、これが毛細管力によって溝の全長に沿って運ばれ、破壊靭性に負荷がかからない限り、亀裂が動かないように固定する。トルエン、重鉱油、シリコーンオイル、及び他の有機物は、大気中の水とガラス表面との間のバリアとして機能し、臨界未満の亀裂の成長を防ぐ。次に、試料の破壊が発生するまで荷重を増加させ、破壊荷重と試料の寸法から臨界応力強度を計算する。光学顕微鏡を使用して試験後にすべての試料を測定し、K計算で正しい試料寸法が用いられたことを確実にする。イオン交換した試料の破壊靭性を試験する場合、上記の測定は、試験する試料と同じ組成を有するが、試験する試料がイオン交換を受ける前の試料に対して行われる。
【0055】
「~から形成」という用語は、~を含む、~から実質的になる、又は~からなるのうちの1つ以上を意味しうる。例えば、特定の材料から形成される成分は、その特定の材料を含んでも、その特定の材料から実質的になっても、又はその特定の材料からなっていてもよい。
【0056】
ガラスセラミック物品の総括
さまざまな実施形態のガラスセラミック物品は、一次結晶相として葉長石及び二ケイ酸リチウムを含み、任意選択的に、アルミノケイ酸リチウム(LAS)結晶相をさらに含むことができる。ガラスセラミック物品は、ナトリウム含有量が10モル%以下の表面層を含む。イオン交換処理後、本明細書に記載されるガラスセラミック物品は、蓄積エネルギー(中央張力)の増加、破壊靭性の増加を示し、壊れにくい。
【0057】
葉長石(LiAlSi4O10)は、LiとAlの四面体によって連結された、折り畳まれたSi2O5層を有する層状構造の3次元フレームワーク構造を持つ単斜晶系結晶である。Liは酸素と四面体配位している。葉長石はリチウム源であり、ガラスセラミック又はセラミック部品の耐熱衝撃疲労性を改善するための低熱膨張相として用いられる。二ケイ酸リチウム(Li2Si2O5)は、{Si2O5}四面体配列の波形シートをべースとした斜方晶である。その結晶は通常、平板状又はラス状の形状であり、顕著な劈開面を有する。二ケイ酸リチウムをベースとしたガラスセラミックは、ランダムに配向したインターロック結晶の微細構造に起因して、高いボディ強度及び破壊靭性を含めた、非常に望ましい機械的特性を有する。この結晶構造により、インターロックされた結晶の周りの曲がりくねった経路を介して亀裂が材料全体に伝播され、それによって強度及び破壊靭性が向上する。
【0058】
二ケイ酸リチウムガラスセラミックには2つの広範なファミリーが存在する。第1の群は、セリアと、貴金属、例えば銀とをドープしたものを含む。これらは、UV光を介して感光的に核形成させることができ、その後、熱処理されて、例えば、Fotoceram(登録商標)などの強力なガラスセラミックを生成することができる。二ケイ酸リチウムガラスセラミックの第2のファミリーは、P2O5の添加によって核形成され、ここで、核形成相はLi3PO4である。P2O5で核形成された二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、高温シーリング材、コンピュータハードドライブ用のディスク、透明装甲、及び歯科用途など、さまざまな用途向けに開発されている。
【0059】
本明細書に記載されるガラス及びガラスセラミックは、概して、リチウム含有アルミノケイ酸塩ガラス又はガラスセラミックとして説明することができ、SiO2、Al2O3、及びLi2Oを含む。SiO2、Al2O3、及びLi2Oに加えて、本明細書で具現化されるガラス及びガラスセラミックは、アルカリ酸化物、例えば、Na2O、K2O、Rb2O、又はCs2O、並びにP2O5及びZrO2、さらには、以下に記載される他の多くの成分をさらに含みうる。1つ以上の実施形態では、結晶子相は、葉長石及び二ケイ酸リチウムを含むが、前駆体ガラスの組成に応じて、β-スポジュメン固溶体、β-石英、メタシリケート、リン酸リチウム、及びジルコニウムもまた存在しうる。幾つかの実施形態では、ガラスセラミック組成物は、XRDスペクトルのリートベルト解析に従って決定して、1~30質量%、1~25質量%、1~20質量%、1~15質量%、1~10質量%、1~5質量%、5~30質量%、5~25質量%、5~20質量%、5~15質量%、5~10質量%、10~30質量%、10~25質量%、10~20質量%、10~15質量%、15~30質量%、15~25質量%、15~20質量%、20~30質量%、20~25質量%、又は25~30質量%の残留ガラス含有量を有する。残留ガラス含有量は、前述のありとあらゆる端点から形成された部分範囲内にありうるものと理解されたい。したがって、幾つかの実施形態では、ガラスセラミック物品は、70~99質量%、70~95質量%、70~90質量%、70~85質量%、70~80質量%、70~75質量%、75~99質量%、75~95質量%、75~90質量%、75~85質量%、75~80質量%、80~99質量%、80~95質量%、80~90質量%、80~85質量%、85~99質量%、85~95質量%、85~90質量%、90~99質量%、90~95質量%、又は95~99質量%の結晶相を含む。
【0060】
SiO2は主要なガラス形成剤であり、ガラス及びガラスセラミックのネットワーク構造を安定させるように機能しうる。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は55~80モル%のSiO2を含む。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は60~72モル%のSiO2を含む。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、SiO2を、55~80モル%、55~77モル%、55~75モル%、55~73モル%、60~80モル%、60~77モル%、60~75モル%、60~73モル%、60~72モル%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0061】
前駆体ガラスを熱処理してガラスセラミックに変換するときに葉長石結晶相を形成するために、SiO2の濃度は十分に高く(55モル%超)なければならない。言い換えれば、SiO2の濃度は、ケイ酸リチウム相と葉長石相の両方を生成するのに十分な高さであるべきである。純粋なSiO2又は高SiO2ガラスの融点は望ましくないほど高いため、SiO2の量は融点を制御するために制限される場合がある(200ポアズ温度)。
【0062】
SiO2と同様に、Al2O3もまたネットワークの安定化を提供することができ、改善された機械的特性及び化学的耐久性ももたらす。しかしながら、Al2O3の量が高すぎると、おそらくはインターロック構造を形成することができないほど、ケイ酸リチウム結晶の割合が減少する可能性がある。Al2O3の量を調整して、粘度を制御することができる。さらには、Al2O3の量が高すぎると、溶融物の粘度もまた、概して増加する。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、0~6モル%のAl2O3を含みうる。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、Al2O3を、0~6モル%、0~5モル%、0~4モル%、0~3モル%、0~2モル%、0~1モル%、0超~6モル%、0超~5モル%、0超~4モル%、0超~3モル%、0超~2モル%、0超~1モル%、0.5~6モル%、0.5~5モル%、0.5~4モル%、0.5~3モル%、0.5~2モル%、0.5~1モル%、1~6モル%、1~5モル%、1~4モル%、1~3モル%、1~2モル%、2~6モル%、2~5モル%、2~4モル%、2~3モル%、3~6モル%、3~5モル%、3~4モル%、4~6モル%、4~5モル%、又は5~6モル%、若しくはこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0063】
本明細書に記載されるガラス及びガラスセラミックでは、Li2Oは、葉長石結晶相とケイ酸リチウム結晶相の両方の形成を助ける。主要な結晶相として葉長石及びケイ酸リチウムを得るためには、組成物中に14モル%以上のLi2Oを有することが望ましい。しかしながら、Li2Oの濃度が高すぎると(36モル%超)、組成物は非常に流動的になり、供給粘度はシートを形成できないほどに十分に低くなる。幾つかの具現化される組成物では、ガラス又はガラスセラミックは、20モル%~32モル%のLi2Oを含みうる。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、Li2Oを、20~32モル%、20~30モル%、20~28モル%、20~26モル%、20~24モル%、22~32モル%、22~30モル%、22~28モル%、22~26モル%、22~24モル%、24~32モル%、24~30モル%、24~28モル%、24~26モル%、26~32モル%、26~30モル%、26~28モル%、28~32モル%、28~30モル%、又は30~32モル%、若しくはこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0064】
上記のように、Li2Oは概して、具体化されるガラスセラミックの形成に有用であるが、他のアルカリ酸化物(例えば、K2O及びNa2O)はガラスセラミックの形成を減少させ、セラミック相ではなく、ガラスセラミック中にアルミノケイ酸塩残留ガラスを形成する傾向がある。10モル%を超えるNa2O又はK2O、若しくはそれらの組合せは、望ましくない量の残留ガラスをもたらし、これは、結晶化中の変形や機械的特性の観点から望ましくない微細構造をもたらす可能性があることが見出された。加えて、10モル%を超えるレベルのNa2Oは、表面を表面下の水和の影響を受けやすくさせる可能性があり、その結果、表面に炭酸ナトリウム結晶が成長する可能性がありうる。このような炭酸ナトリウム結晶は、次に、ガラスセラミック上に表面ヘイズを生成する可能性がある。しかしながら、5モル%未満のレベルはイオン交換に有利でありえ、より高い表面圧縮及び/又は計測が可能になる。概して、本明細書に記載される組成物は、少量の非リチウムアルカリ酸化物を有する。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、0~5モル%のR2Oを含むことができ、ここで、RはアルカリカチオンNa及びKのうちの1つ以上である。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、1~4モル%のR2Oを含むことができ、ここで、Rは、アルカリカチオンNa及びKのうちの1つ以上である。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、Na2O、K2O、又はそれらの組合せを、0~5モル%、0~4モル%、0~3モル%、0~2モル%、0~1モル%、>0~5モル%、>0~4モル%、>0~3モル%、>0~2モル%、>0~1モル%、1~5モル%、1~4モル%、1~3モル%、1~2モル%、2~5モル%、2~4モル%、2~3モル%、3~5モル%、3~4モル%、又は4~5モル%で含みうる。R2O濃度は、前述のありとあらゆる端点から形成された部分範囲内でありうるものと理解されたい。
【0065】
ガラス及びガラスセラミック組成物はP2O5を含みうる。P2O5は、ガラス及びガラスセラミック組成物から(一又は複数の)結晶相のバルク核形成を生じさせる核形成剤として機能しうる。P2O5の濃度が低すぎると、前駆体ガラスは結晶化するが、(より低い粘度に起因して)高温でのみ結晶化する;しかしながら、P2O5の濃度が高すぎると、前駆体ガラス成形中の冷却の際の失透を制御するのが困難になる可能性がある。実施形態は、>0~3モル%のP2O5を含みうる。他の実施形態は、0.7~2.2モル%のP2O5を含みうる。具現化される組成物は、P2O5を、>0~3モル%、>0~2.5モル%、>0~2.2モル%、>0~2モル%、>0~1.5モル%、>0~1.2モル%、>0~1モル%、0.7~3モル%、0.7~2.5モル%、0.7~2.2モル%、0.7~2モル%、0.7~1.5モル%、0.7~1.2モル%、0.7~1モル%、1~3モル%、1~2.5モル%、1~2.2モル%、1~2モル%、1~1.5モル%、1~1.2モル%、1.2~3モル%、1.2~2.5モル%、1.2~2.2モル%、1.2~2モル%、1.5~3モル%、1.5~2.5モル%、1.5~2モル%、2~3モル%、2~2.5モル%、2.2~3モル%、2.5~3モル%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0066】
本明細書に記載されるガラス及びガラスセラミックでは、ZrO2の添加は、成形中のガラスの失透を大幅に低減し、液相線温度を低下させることにより、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5ガラスの安定性を改善することができる。4モル%を超える濃度では、ZrO2は高温で一次液相線相を形成する可能性があり、それにより、液相線粘度が大幅に低下する。ガラスに1モル%を超えるZrO2が含まれている場合、透明なガラスを形成することができる。ZrO2の添加により、葉長石の粒子サイズも縮小させることができ、透明なガラスセラミックの形成に役立つ。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、1.7~4.5モル%のZrO2を含みうる。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、2~4モル%のZrO2を含みうる。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、ZrO2を、1.7~4.5モル%、1.7~4モル%、1.7~3.5モル%、1.7~3モル%、1.7~2.5モル%、1.7~2モル%、2~4.5モル%、2~4モル%、2~3.5モル%、2~3モル%、2~2.5モル%、2.5~4.5モル%、2.5~4モル%、2.5~3.5モル%、2.5~3モル%、3~4.5モル%、3~4モル%、3~3.5モル%、3.5~4.5モル%、3.5~4モル%、4~4.5モル%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0067】
B2O3はガラス前駆体の融点を低下させる。さらには、前駆体ガラス、したがってガラスセラミックにB2O3を添加すると、インターロックする結晶微細構造の達成に役立ち、ガラスセラミックの耐損傷性も向上させることができる。残留ガラス中のホウ素がアルカリ酸化物又は二価カチオン酸化物(例えば、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnO)によって電荷平衡化されていない場合には、ホウ素は、ガラスの構造を開く、三角配位状態(又は3配位ホウ素)になる。これらの3配位ホウ素原子の周りのネットワークは、四面体配位(又は4配位)ホウ素ほど堅固ではない。理論に縛られはしないが、3配位ホウ素を含む前駆体ガラス及びガラスセラミックは、4配位ホウ素と比較して、亀裂形成前にある程度の変形を許容することができると考えられる。ある程度の変形を許容することにより、ビッカース圧痕亀裂開始閾値が増加する。3配位ホウ素を含む前駆体ガラス及びガラスセラミックの破壊靱性もまた増加しうる。理論に縛られはしないが、ガラスセラミックの残留ガラス(及び前駆体ガラス)中にホウ素が存在すると、残留ガラス(又は前駆体ガラス)の粘度が低下し、ケイ酸リチウム結晶、とりわけ高アスペクト比を有する大きい結晶の成長が促進されると考えられる。より多くの3配位ホウ素は(4配位ホウ素と比較して)、より大きいビッカース圧痕亀裂開始荷重を示すガラスセラミックをもたらすと考えられる。幾つかの実施形態では、(総B2O3のパーセントとしての)3配位ホウ素の量は、40%以上、50%以上、75%以上、85%以上、又はさらには95%以上でありうる。ホウ素の量は、概して、セラミック化されたバルクガラスセラミックの化学的耐久性及び機械的強度を維持するように制御されるべきである。言い換えれば、ホウ素の量は、化学的耐久性及び機械的強度を維持するために、5モル%未満に制限されるべきである。
【0068】
1つ以上の実施形態では、本明細書でのガラス及びガラスセラミックは、0~2モル%のB2O3を含みうる。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、B2O3を、0~2モル%、0~1.5モル%、0~1モル%、0~0.5モル%、>0~2モル%、>0~1.5モル%、>0~1モル%、>0~0.5モル%、0.5~2モル%、0.5~1.5モル%、0.5~1モル%、1~2モル%、1~1.5モル%、1.5~2モル%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0069】
MgOは部分固溶体で葉長石結晶内に含まれうる。1つ以上の実施形態では、本明細書に記載されるガラス及びガラスセラミックは、MgOを、0~1モル%、0~0.75モル%、0~0.5モル%、0~0.25モル%、>0~1モル%、>0~0.75モル%、>0~0.5モル%、>0~0.25モル%、0.25~1モル%、0.25~0.75モル%、0.25~0.5モル%、0.5~1モル%、0.5~0.75モル%、0.75~1モル%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0070】
ZnOは部分固溶体で葉長石結晶内に含まれうる。1つ以上の実施形態では、本明細書でのガラス及びガラスセラミックは、0~1モル%のZnOを含みうる。1つ以上の実施形態では、本明細書に記載されるガラス及びガラスセラミックは、ZnOを、0~1モル%、0~0.75モル%、0~0.5モル%、0~0.25モル%、>0~1モル%、>0~0.75モル%、>0~0.5モル%、>0~0.25モル%、0.25~1モル%、0.25~0.75モル%、0.25~0.5モル%、0.5~1モル%、0.5~0.75モル%、0.75~1モル%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0071】
1つ以上の実施形態では、ガラス及びガラスセラミックは、0~0.5モル%のSnO2、又は別の清澄剤を含みうる。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、SnO2を、0~0.5モル%、0~0.4モル%、0~0.3モル%、0~0.2モル%、0~0.1モル%、0.05~0.5モル%、0.05~0.4モル%、0.05~0.3モル%、0.05~0.2モル%、0.05~0.1モル%、0.1~0.5モル%、0.1~0.4モル%、0.1~0.3モル%、0.1~0.2モル%、0.2~0.5モル%、0.2~0.4モル%、0.2~0.3モル%、0.3~0.5モル%、0.3~0.4モル%、又は0.4~0.5モル%、若しくはこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0072】
さまざまな実施形態のガラス又はガラスセラミック組成物を製造するために用いられる原材料及び/又は装置の結果として、意図的に添加されていない、ある特定の不純物又は成分が、最終的なガラス又はガラスセラミック組成物中に存在する可能性がある。このような物質は、ガラス又はガラスセラミック組成物中に少量で存在し、本明細書では「混入物」と呼ばれる。本明細書で用いられる場合、「混入物」は、1000ppm未満の量で存在しうる。幾つかの実施形態では、ガラス又はガラスセラミック組成物は、混入物、例えば、TiO2、MnO、ZnO、Nb2O5、MoO3、Ta2O5、WO3、Y2O3、La2O3、HfO2、CdO、As2O3、Sb2O3、硫黄系化合物(例えば硫酸塩)、ハロゲン、又はそれらの組合せをさらに含みうる。幾つかの実施形態では、抗菌性成分、化学清澄剤、又は他の追加の成分が、ガラス又はガラスセラミック組成物中に含まれていてもよい。
【0073】
幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるガラス及び/又はガラスセラミックは、溶融成形、スロットドロー、フロート、ローリング、及び当技術分野で知られている他のシート成形プロセスを含むがこれらに限定されないプロセスを介してシートへと製造することができる。
【0074】
本明細書に記載されるガラスセラミックから形成される物品は、任意の適切な厚さとすることができ、これは、ガラスセラミックの使用のための特定の用途に応じて変化させることができる。ガラスシート及び/又はガラスセラミックの実施形態は、0.4mm~10mmの厚さを有しうる。幾つかの実施形態は、6mm以下、5mm以下、3mm以下、2mm以下、1.0mm以下、750μm以下、500μm以下、又は250μm以下の厚さを有しうる。幾つかのガラス又はガラスセラミックシートの実施形態は、200μm~5mm、500μm~5mm、200μm~4mm、200μm~2mm、400μm~5mm、又は400μm~2mmの厚さを有しうる。幾つかのガラス又はガラスセラミックシートの実施形態は、250μm~5mm、400μm~4mm、350μm~3mm、450μm~2mm、500μm~1mm、又は550μm~750μmの厚さを有しうる。幾つかの実施形態では、厚さは、3mm~6mm、又は0.8mm~3mmでありうる。物品の厚さは、前述のありとあらゆる端点から形成された部分範囲内でありうるものと理解されたい。
【0075】
本明細書に記載されるさまざまな実施形態では、ガラスセラミックは、例えばイオン交換処理によって、化学的に強化され、ガラスセラミックの化学的耐久性及び耐損傷性を向上させると同時に、計測を可能にし、高湿度条件下でのヘイズ層の形成を防ぐ。
【0076】
本明細書に記載されるガラスセラミックが従来のイオン交換処理(例えば、溶融した硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、又は硝酸ナトリウム/硝酸カリウムの混合塩によるイオン交換処理)に供される場合、結果として得られるガラスセラミックは、約70MPa~約140MPaの最大中央張力を伴って、高い蓄積エネルギーを有しうる。このようなガラス物品はまた、高い破壊靭性(標準的なシェブロンノッチ試験に従って測定して1.1MPa√mのK1C、又は二重片持梁(DCB)法に従って測定して1.32MPa*m1/2)も示し、ガラスが壊れやすいであろう0.8mmの厚さで、壊れにくくなりうる。これらのガラスセラミックはまた、望ましい機械的性能特性も示すことができる。
【0077】
しかしながら、これらのガラスセラミック結晶相は、イオン交換処理中にイオン交換を受ける可能性もあり、例えば、
図1に示されるように、二ケイ酸リチウム結晶相中のリチウムがイオン交換塩のナトリウムと交換されると、ナトリウムが高度に濃縮された低屈折率の表面層(すなわち、ガラスセラミック物品よりも低い屈折率を有する層)が形成されうる。特に、二ケイ酸リチウムとナトリウムイオンとの間のイオン交換は、ガラスセラミックのガラス相への低屈折率ケイ酸塩の添加、並びに表面層内にケイ酸ナトリウム及び二ケイ酸ナトリウムの形成をもたらしうる。
図1は、ガラスセラミック物品を0.04質量%未満のLiNO
3を含むKNO
3/NaNO
3の混合塩中でイオン交換した後の表1の組成Aを有するガラスセラミック物品におけるナトリウム、リチウム、及びカリウムの分布のグラフである。組成物Aのガラスセラミック物品(組成Aを有する下記の試料に用いられる)を製造するために、物品は570℃で4時間、次に740℃で1時間、加熱され、次いでガラスセラミック物品の通常の冷却に供される。前述のセラミック化サイクルの後、物品は、9~15質量%の残留ガラス相、40~48質量%の二ケイ酸リチウム結晶相、39~45質量%の葉長石結晶相、及び約3質量%未満のメタケイ酸リチウム結晶相を有しており、ここで、結晶相はX線回折によって測定し、主相で約1.2質量%の標準偏差を有していた。
【0078】
【0079】
図1に示されるように、表面層はナトリウムが豊富であり、ナトリウムは、ガラス相及び結晶相の両方でリチウムイオンとイオン交換する。
【0080】
図2A及び2Bはいずれも、365nmの波長で撮影したFSM画像である。
図2Aに示されるように、表面層はガラスセラミック物品よりも低い屈折率を有しているため、物品のFSM画像はぼやけており、品質管理手段としてのFSMの使用は、とりわけイオン交換した層の厚さが約3μm未満の場合、イオン交換プロセスの監視の信頼性が低くなってしまう。
【0081】
加えて、二ケイ酸リチウムのリチウムとのナトリウムイオンのイオン交換によって生成される高応力層の形成は、塩浴中の非常に少量のリチウムの毒作用によってブロックされる。言い換えれば、イオン交換浴中の0.04質量%のLiNO
3は、
図2Bに示されるように、フリンジの形成をブロックするのに十分である。リチウムの毒作用を防ぐために、1kgの塩あたり約0.01m
2のガラスセラミックをイオン交換した後、タンク内の塩を交換する必要がある。
【0082】
さらには、ナトリウムが豊富な表面層により、ガラスセラミック表面が表面下の水和を受けやすくなり、その結果、表面に炭酸ナトリウム結晶の成長を生じさせ、これが次に、
図3に示すように、表面ヘイズを生じさせる可能性がある。
図3は、
図1の元素分布を有するガラス物品を85℃で48時間、85%の相対湿度に曝露した結果得られた光学顕微鏡写真である。
図3に示される樹枝状の成長は、炭酸ナトリウムの結晶である。より具体的には、炭酸ナトリウム結晶の成長は、水に由来するヒドロニウムイオンがナトリウムイオンと交換してガラスの表面下層に移動する場所で起こり、ナトリウムイオンがガラス表面から出て、ナトリウムイオンと大気中のCO
2との反応によって経時的にガラス上にNa
2COが形成される。例えば、部品が高湿度環境で包装され、大気中の水分がガラス表面と包装フィルムの間に閉じ込められている場合に、このような炭酸ナトリウムの成長が、ガラス上の大気中の水分の存在下で長期間にわたって発生しうる。
【0083】
ナトリウムが豊富な表面層が生成されると、
図4A及び4Bに示されるように、研磨及び洗浄中に表面が優先的にエッチング及び孔食されやすくなる。特に、
図4A及び4Bは、イオン交換され、研磨され、洗浄された500nm×500nmの試料の原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
図4Aは、モル%で次の公称組成:71 SiO
2;1.9 B
2O
3;12.8 Al
2O
3;2.4 Na
2O;8.2 Li
2O;2.9 MgO;0.8 ZnO;0.02 Fe
2O
3;0.01 ZrO
2;0.06 SnO
2を有するガラス組成物から形成され、かつ、実施例Aのような従来のイオン交換処理に従ってイオン交換された、ガラス物品の表面粗さを示している。
図4Bは、0.04質量%未満のLiNO
3を含むKNO
3/NaNO
3の混合塩中でイオン交換した、組成物Aから形成されたガラスセラミックの表面粗さを示している。ナトリウムが豊富な表面層の低い化学的耐久性の結果として、研磨及び洗浄によって高い表面粗さが生じ、これは、カバーガラス用途で使用することができるコーティングの耐久性を低下させる可能性がある。このようなコーティングは、例として、限定はしないが、カバーガラスに耐引っかき性、反射防止性、疎油性、又は疎水性の特性を提供しうる。
【0084】
本明細書に記載されるさまざまな実施形態では、ガラスセラミックは、イオン交換処理によって化学的に強化され、ガラスセラミックの化学的耐久性及び耐損傷性を改善すると同時に、計測を可能にし、高湿度条件下でのヘイズ層の形成を防止する。次に、イオン交換処理の実施形態をより詳細に説明する。
【0085】
単一フリンジのイオン交換処理
さまざまな実施形態では、ガラスセラミック物品のイオン交換処理は、FSM測定で偏光状態ごとに1つのフリンジを生成する導波層をもたらし、本明細書では「単一フリンジのIOX」と呼ばれる。このような実施形態では、ナトリウムとリチウムとのイオン交換率は、表面層におけるカリウムとナトリウムとのイオン交換に起因する屈折率の増加よりも少ない、表面層の屈折率を低下させる率であり、それによって導波層を形成することができる。
【0086】
さまざまな実施形態では、単一フリンジのIOX処理は、ガラスセラミック物品の1つ以上の表面にイオン交換媒体を適用することを含む。イオン交換媒体は、溶融塩浴、溶液、ペースト、ゲル、又はKNO3、NaNO3、及びLiNO3を含む別の適切な媒体でありうる。
【0087】
さまざまな実施形態では、イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて、0質量%超のNaNO3と約20質量%以下のNaNO3とを含む。例えば、さまざまな実施形態のイオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて、NaNO3を、>0質量%~20質量%、>0質量%~15質量%、>0質量%~12質量%、>0質量%~10質量%、>0質量%~7.5質量%、>0質量%~5質量%、2.5質量%~20質量%、2.5質量%~15質量%、2.5質量%~12質量%、2.5質量%~10質量%、2.5質量%~7.5質量%、2.5質量%~5質量%、5質量%~20質量%、5質量%~15質量%、5質量%~12質量%、5質量%~10質量%、5質量%~7.5質量%、7.5質量%~20質量%、7.5質量%~15質量%、7.5質量%~12質量%、7.5質量%~10質量%、10質量%~20質量%、10質量%~15質量%、10質量%~12質量%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0088】
さまざまな実施形態では、イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて、約80質量%~100質量%未満のKNO3を含む。例えば、さまざまな実施形態のイオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて、KNO3を、80質量%~99.9質量%、80質量%~97.5質量%、80質量%~95質量%、80質量%~92.5質量%、80質量%~90質量%、90質量%~99.9質量%、90質量%~97.5質量%、90質量%~95質量%、90質量%~92.5質量%、92.5質量%~99.9質量%、92.5質量%~97.5質量%、92.5質量%~95質量%、95質量%~99.9質量%、95質量%~97.5質量%、97.5質量%~99.9質量%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。
【0089】
さまざまな実施形態によれば、イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中の塩の総重量に基づいて、0.01質量%~0.5質量%のLiNO3をさらに含む。例えば、さまざまな実施形態のイオン交換媒体は、0.01質量%~0.5質量%、0.01質量%~0.3質量%、0.01質量%~0.1質量%、0.1質量%~0.5質量%、0.1質量%~0.3質量%、0.3~0.5質量%のLiNO3、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲を含みうる。幾つかの特定の実施形態では、イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中の塩の総重量に基づいて、0.1質量%、0.09質量%、0.08質量%、0.07質量%、又は0.06質量%のLiNO3を含む。
【0090】
イオン交換処理は、単一ステップの処理又は複数ステップの処理、例えば、2ステップ又は3ステップの処理でありうる。イオン交換処理が複数ステップを含む実施形態では、各ステップは、ガラスセラミック物品にイオン交換媒体を適用することを含み、各ステップのイオン交換媒体は、1つ以上の他のステップのイオン交換媒体とは異なりうるものと理解されたい。しかしながら、各イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて0質量%超のNaNO3及び約20質量%以下のNaNO3、イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて約80質量%~100質量%未満のKNO3、及び、イオン交換媒体中の塩の総重量に基づいて0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含む。
【0091】
さまざまな実施形態では、溶融塩浴の温度は約380℃~約550℃とすることができ、浸漬時間は約2時間~約16時間である。
【0092】
フリンジなしのイオン交換処理
さまざまな実施形態では、イオン交換処理は、FSM測定用の表面導波路を生成するために有効な濃度よりも低いカリウム濃度を使用し、本明細書では「フリンジなしのIOX」と呼ばれる。このような実施形態では、イオン交換媒体中のカリウム、ナトリウム、及びリチウム濃度は、表面100nmからガラスセラミック物品の深さへの平均酸化ナトリウムの取り込みを、グロー放電発光分光分析(GDOES)を使用して測定して、10モル%未満の酸化ナトリウムに制限するのに適している。表面導波路を欠いているが、さまざまな実施形態では、表面層は、カバーガラス用途に特によく適合した化学的耐久性を有する。
【0093】
さまざまな実施形態では、フリンジなしのIOX処理は、ガラスセラミック物品の1つ以上の表面にイオン交換媒体を適用することを含む。イオン交換媒体は、溶液、ペースト、ゲル、又はKNO3、NaNO3、及びLiNO3を含めた別の適切な媒体でありうる。
【0094】
さまざまな実施形態では、イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて、20質量%超のNaNO3と約50質量%以下のNaNO3とを含む。例えば、さまざまな実施形態のイオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて、NaNO3を、20質量%~50質量%、20質量%~45質量%、20質量%~40質量%、20質量%~35質量%、20質量%~30質量%、30質量%~50質量%、30質量%~45質量%、30質量%~40質量%、30質量%~35質量%、35質量%~50質量%、35質量%~45質量%、35質量%~40質量%、40質量%~50質量%、40質量%~45質量%、45質量%~50質量%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。しかしながら、幾つかの実施形態では、NaNO3は50質量%を超える量で組み込まれうるが、その場合、約0.15質量%を超える量のLiNO3は、特定の量のNaNO3及びイオン交換処理の温度に応じて有益でありうるものと認識されたい。
【0095】
さまざまな実施形態では、イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて、約50質量%~約80質量%のKNO3を含む。例えば、さまざまな実施形態のイオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて、KNO3を、50質量%~80質量%、50質量%~70質量%、50質量%~65質量%、50質量%~60質量%、50質量%~55質量%、55質量%~80質量%、55質量%~70質量%、55質量%~65質量%、55質量%~60質量%、60質量%~80質量%、60質量%~70質量%、60質量%~65質量%、65質量%~80質量%、65質量%~70質量%、70質量%~80質量%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲含みうる。
【0096】
さまざまな実施形態によれば、イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中の塩の総重量に基づいて、0.04質量%~0.5質量%のLiNO3をさらに含む。例えば、さまざまな実施形態のイオン交換媒体は、該イオン交換媒体中の塩の総重量に基づいて、LiNO3を、0.04質量%~0.5質量%、0.04質量%~0.3質量%、0.04質量%~0.1質量%、0.1質量%~0.5質量%、0.1質量%~0.3質量%、0.3~0.5質量%、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲で含みうる。幾つかの特定の実施形態では、イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中の塩の総重量に基づいて、0.1質量%、0.09質量%、0.08質量%、0.07質量%、又は0.06質量%のLiNO3を含む。
【0097】
イオン交換処理は、単一ステップの処理又は複数ステップの処理、例えば、2ステップ又は3ステップの処理でありうる。イオン交換処理が複数ステップを含む実施形態では、各ステップは、ガラスセラミック物品にイオン交換媒体を適用することを含み、各ステップのイオン交換媒体は、1つ以上の他のステップのイオン交換媒体とは異なりうるものと理解されたい。しかしながら、各イオン交換媒体は、該イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて20質量%超のNaNO3及び約50質量%以下のNaNO3、イオン交換媒体中のNaNO3及びKNO3の総量に基づいて約50質量%~約80質量%のKNO3、及び、イオン交換媒体中の塩の総重量に基づいて0.04質量%~0.5質量%のLiNO3を含む。
【0098】
さまざまな実施形態では、溶融塩浴の温度は約380℃~約550℃とすることができ、浸漬時間は約2時間~約16時間である。
【0099】
理論に縛られはしないが、二ケイ酸リチウム及び/又は葉長石ファミリーに由来するガラスセラミックでは、イオン交換処理におけるNaNO
3の濃度が約20質量%を超える場合、カリウムイオン交換に起因する屈折率の増加は、ナトリウムとリチウムイオンとの交換に起因する屈折率の減少によって圧倒されると考えられる。したがって、従来FSM計測に適していたカリウムフリンジは、フリンジなしのイオン交換処理中には生成されない。例えば、
図5に示されるように、60質量%のKNO
3及び40質量%のNaNO
3中で0.1質量%のLiNO
3とイオン交換した組成物Aのガラスの365nmのFSMスペクトルが提供されている。
図5を
図2Aと比較すると、結晶相中のリチウムとのナトリウムのイオン交換を示す
図2Aに見られるぼやけた低屈折率フリンジは、
図5には見られないことがわかる。したがって、FSM計測は、フリンジなしのIOX処理のナトリウムイオン交換を監視するプロセスでの使用には不適切でありうる。
【0100】
しかしながら、FSMスペクトルを使用して、複屈折から表面圧縮応力を取得することができる。例えば、405nmで動作するOrihara SLP 2000散乱光光弾性応力計を使用して、圧縮の深さと中央張力を取得した。結果が
図6に示されている。405nmの波長はスペックルを最小化すると考えられることから、透明なガラスセラミックにとって405nmの波長は特に有利でありうる。しかしながら、スペックルが大幅に増加する可能性があるが、より高い波長(例えば、633nm)を使用することもできる。このような幾つかの実施形態では、測定中に試験片を動かすことによってスペックルを平均化することができる。
【0101】
Orihara SLP 2000には、2倍の倍率のテレセントリックレンズが組み込まれており、深さ方向に最大600μmのカメラ視野を実現する。しかしながら、ガラスセラミックの高屈折率の性質に起因して、深さの知覚を約800μmまで拡張することができ、SLP 2000を使用して、本明細書に記載されるさまざまなガラスセラミック物品の完全な応力プロファイル測定を得ることができる。
【0102】
動作中、405nmのレーザダイオードは、ガラスセラミックに入る前に、液晶可変リターダを介して周期的に位相変調される。ガラスセラミックの応力分布に起因して、散乱光はガラスセラミックの厚さを通過するときに強度と位相の変化を経験する。光は全方向に散乱するが、ガラスセラミックの表面に対して45°に設定されたカメラは、レーザ経路に沿った強度変動の垂直成分をキャプチャする。レーザ経路に沿った各点で経験する位相シフトは、画像分析によってキャプチャされ、内部応力σは次式(2)に従って推定することができる:
【0103】
【0104】
式中、λはレーザの波長であり、βは応力光学係数(SOC)であり、φは位相シフトであり、xは光路長である。
【0105】
SLP 2000ソフトウェアは、試料内のレーザビームのライブ表示を提供する。さまざまな実施形態では、6次多項式フィットを使用して、さまざまなガラスセラミック試料にわたって一貫した結果を提供することができる。しかしながら、処理領域、レーザ波長、及び適切なフィッティング関数は、特定の実施形態に応じて変化しうる。
【0106】
あるいは、品質管理計測は、圧縮応力の積分から導き出すことができる。特に、イオン交換による圧縮応力の積分は、イオン交換されたイオンの数と相関関係がある。より大きいイオンがより小さいイオンに置き換わると、イオン交換プロセスがピーク中央張力より下で行われる限り、ガラス物品は中央張力と相関する寸法成長を経験する。中央張力のピークに達すると、イオン交換の成長はまだ存在するが、寸法成長と中央張力との相関関係はもはや無効である。3つの異なる塩濃度による中央張力と%寸法成長との相関関係の例が
図7に示されている。
【0107】
図7では、MPa単位での中央張力がX軸に沿って示されており、一方、長さの%単位の寸法成長がY軸に沿って示されている。ガラスセラミック試料の各々は組成物Aから製造した。プロット702は、50質量%のKNO
3及び50質量%のNaNO
3の浴中で0.1質量%のLiNO
3と470℃でイオン交換したガラスセラミック試料の相関関係を示している。プロット704は、70質量%のKNO
3及び30質量%のNaNO
3の浴中で0.1質量%のLiNO
3と470℃でイオン交換したガラスセラミック試料の相関関係を示している。プロット706は、60質量%のKNO
3及び40質量%のNaNO
3の浴中で0.1質量%のLiNO
3と500℃でイオン交換したガラスセラミック試料の相関関係を示している。
図7に示されるように、イオン交換による%寸法成長は、ピーク圧縮応力値を下回る圧縮応力を測定する方法として使用することができる。特に、プロット706は、8時間後に中央張力が約95MPaに達することを示しており、イオン交換の増加は、圧縮応力と相関しない寸法成長の増加を示している。特に、透明なガラス及びガラスセラミック材料については、次式(3)に従って、寸法成長を中央張力と相関させることができる:
【0108】
【0109】
式中、CTは、MPa単位の中央張力であり、DGは、中央張力がピーク中央張力を下回る場合の寸法成長の%長さである。
【0110】
不透明な材料では、%寸法成長は、マイクロプローブによって取得された元素プロファイルで較正し、次式(4)に従って格子膨張定数を使用して応力に変換することができる:
【0111】
【0112】
式中、C(z)はzにおける大きいカチオンの濃度であり、hはガラスの厚さであり、Bはネットワーク膨張係数であり、Eはヤング率であり、vはポアソン比であり、zはガラスの厚さを横切るガラス表面からの距離であり、その値は表面において0及びhである。
【0113】
イオン交換したガラスセラミック物品
さまざまな実施形態では、結果的に得られるイオン交換したガラスセラミック物品は、透明であっても不透明であってもよく、イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.18t~約0.25tの圧縮の深さ(DOC)を有し、ここで、tはイオン交換したガラスセラミック物品の厚さである。言い換えれば、イオン交換したガラスセラミック物品の応力は、該イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.18t~約0.25tの深さで圧縮応力から引張応力へと遷移する。さまざまな実施形態では、DOCは80μm超でありうる。例えば、圧縮の深さは、80μm~300μm、100μm~250μm、150μm~200μm、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲でありうる。深いDOCは、耐損傷性を提供することができ、例えば、アスファルトなどの粗い表面にガラスセラミック物品を落下させることによって生じうる鋭い欠陥に対する耐性を提供することができる。
【0114】
本明細書に記載されるさまざまな実施形態では、結果的に得られるイオン交換したガラスセラミック物品は、該イオン交換したガラスセラミック物品の最大中央張力(絶対値)(CT)の1.8~2.2倍の外面における最大圧縮応力(絶対値)を有する。例えば、最大圧縮応力の絶対値は、例えば、2|CT|でありうる。実施形態では、最大中央張力の絶対値は、少なくとも60MPa以上又は70MPa以上である。例えば、最大中央張力の絶対値は、60MPa~160MPa、60MPa~150MPa、60MPa~140MPa、60MPa~130MPa、60MPa~120MPa、60MPa~110MPa、60MPa~100MPa、70MPa~160MPa、70MPa~150MPa、70MPa~140MPa、70MPa~130MPa、70MPa~120MPa、70MPa~110MPa、70MPa~100MPa、80MPa~160MPa、80MPa~150MPa、80MPa~140MPa、80MPa~130MPa、80MPa~120MPa、80MPa~110MPa、80MPa~100MPa、90MPa~160MPa、90MPa~150MPa、90MPa~140MPa、90MPa~130MPa、90MPa~120MPa、90MPa~110MPa、90MPa~100MPa、100MPa~160MPa、100MPa~150MPa、100MPa~140MPa、100MPa~130MPa、100MPa~120MPa、100MPa~110MPa、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲でありうる。
【0115】
イオン交換したガラスセラミック物品はさらに、さまざまな実施形態では、108MPa~350MPaの最大圧縮応力を有する。例えば、最大圧縮応力の絶対値は、108MPa~350MPa、108MPa~325MPa、108MPa~300MPa、108MPa~275MPa、108MPa~250MPa、108MPa~225MPa、108MPa~200MPa、180MPa~350MPa、180MPa~325MPa、180MPa~300MPa、180MPa~275MPa、180MPa~250MPa、180MPa~225MPa、180MPa~200MPa、200MPa~350MPa、200MPa~325MPa、200MPa~300MPa、200MPa~275MPa、200MPa~250MPa、200MPa~225MPa、225MPa~350MPa、225MPa~325MPa、225MPa~300MPa、225MPa~275MPa、225MPa~250MPa、250MPa~350MPa、250MPa~325MPa、250MPa~300MPa、250MPa~275MPa、275MPa~350MPa、275MPa~325MPa、275MPa~300MPa、300MPa~350MPa、300MPa~325MPa、325MPa~350MPa、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲でありうる。
【0116】
破壊靱性を使用して、イオン交換したガラスセラミック物品を特徴付けすることもできる。さまざまな実施形態では、イオン交換したガラスセラミック物品は、同じ組成の試料でイオン交換前に二重片持梁法に従って測定して、1Mpa√m以上の破壊靱性を有する。例えば、さまざまな実施形態では、イオン交換したガラスセラミック物品は、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m~1.5MPa√mの破壊靱性を有する。
【0117】
本明細書に記載されるさまざまな実施形態を使用して、ガラスセラミック物品の脆弱性を低減することもできる。したがって、さまざまな実施形態では、ガラスセラミック物品はイオン交換されると壊れにくい。壊れやすい挙動とは、ガラスセラミック物品が衝撃又は損傷を受けたときの特定の破壊挙動を指す。本明細書で利用されるように、ガラスは、脆弱性試験の結果として、試験領域において次のうちの1つ以上を示す場合、壊れにくいと見なされる:(1)最大寸法が1mm以上の破片が4つ以下である、及び/又は(2)分岐の数が亀裂の分枝の数以下である。破片、分岐、及び亀裂の分枝は、衝撃点を中心とする2インチ×2インチ(約5.08cm×5.08cm)の正方形に基づいてカウントされる。したがって、ガラスは、以下に説明する手順に従って破損が発生する衝撃点を中心とする2インチ×2インチ(約5.08cm×5.08cm)の正方形について、試験(1)及び(2)の一方又は両方を満たしている場合に、壊れにくいと見なされる。脆弱性試験では、衝撃プローブがガラスと接触するように持ち込まれ、衝撃プローブがガラス内に延びる深さは、連続する接触の反復によって増加する。衝撃プローブの深さを段階的に増加させることにより、衝撃プローブによって生成された欠陥を張力領域に到達させることができると同時に、ガラスの壊れやすい挙動の正確な決定を妨げるであろう過度の外力の印加を防ぐ。幾つかの実施形態では、ガラス内の衝撃プローブの深さは、各反復で約5μmだけ増加させてよく、衝撃プローブは、各反復の合間にガラスとの接触から取り除かれる。試験領域は、衝撃点を中心とする2インチ×2インチ(約5.08cm×5.08cm)の正方形である。本明細書で利用されるように、亀裂分枝は衝撃点で発生し、破片のいずれかの部分が試験領域内に延びる場合、破片は試験領域内にあると見なされる。コーティング、接着剤層などは、本明細書に記載される強化ガラス物品と組み合わせて使用することができるが、このような外部拘束は、ガラスセラミック物品の脆弱性又は脆弱な挙動の決定には使用されない。幾つかの実施形態では、ガラスセラミック物品の破壊挙動に影響を及ぼさないフィルムを、脆弱性試験の前にガラスセラミック物品に施して、ガラス物品からの破片の放出を防ぎ、試験を実施する人の安全性を高めることができる。
【0118】
対照的に、脆弱なガラス物品は、4つ以下の破片、又は亀裂の分枝の数以下の分岐の数を示さない。本明細書に記載される脆弱性試験では、衝撃は、強化ガラス物品内に存在する内部に蓄積されたエネルギーを放出するのにちょうど十分な力でガラス物品の表面に伝達される。すなわち、点衝撃力は、強化されたガラスシートの表面に1つ以上の新しい亀裂を生成し、亀裂を、圧縮領域を通って(すなわち、圧縮の深さへ)引張領域(すなわち、中央張力下にある領域)内へと延ばすのに十分である。
【0119】
したがって、本明細書に記載される化学的に強化されたガラスセラミック物品は「壊れにくい」、すなわち、鋭利な物体による衝撃を受けたときに、上記のように壊れやすい挙動を示さない。
【実施例0120】
さまざまな実施形態をより容易に理解するために、さまざまな実施形態を説明することを意図した以下の実施例を参照する。特に断りのない限り、各実施例の各試料の厚さは0.8mmであった。
【0121】
実施例1
組成物Aから形成されたガラスセラミック試料を異なるイオン交換処理に供し、365nmのOrihara FSMを使用して各試料のFSMスペクトルを得た。結果が
図8A~8Eに示されている。
【0122】
図8Aでは、ガラスセラミック試料を100質量%のKNO
3及び0.1質量%のLiNO
3の浴中でのイオン交換処理に500℃で10時間、供した。
図8Bでは、ガラスセラミック試料を95質量%のKNO
3、5質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3の浴中でのイオン交換処理に500℃で12時間、供した。
図8Cでは、ガラスセラミック試料を90質量%のKNO
3、10質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3の浴中でのイオン交換処理に500℃で12時間、供した。
図8A~8Cに示されるように、イオン交換品質管理計測での使用に適したTE及びTMフリンジが製造される。
【0123】
図8Dでは、ガラスセラミック試料を80質量%のKNO
3、20質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3の浴中でのイオン交換処理に500℃で16時間、供した。
図8Eでは、ガラスセラミック試料を80質量%のKNO
3、20質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3の浴中でのイオン交換処理に480℃で16時間、供した。
図8D及び8Eのフリンジは高度な画像処理方法を使用した計測に適しうるが、ナトリウムのイオン交換の増加に起因して、フリンジのコントラスト又は臨界角の遷移が減少し、それによって屈折率が低下する。理論に縛られはしないが、
図8D及び8Eに見られるように、ナトリウムからリチウムへのイオン交換は、速い速度で進行し、カリウムとナトリウムとのイオン交換が屈折率を増加させるよりも速く表面層の屈折率を低下させるため、ナトリウム濃度が約10質量%のNaNO
3を上回ると、カリウムフリンジが白化し始める。
図8Dの試料はまた、12時間の処理時間の
図8Cに示されるものに匹敵するスペクトルを得るために、より長い処理時間(16時間)を受けた。
【0124】
図8A~8Cに用いられた各試料について、圧縮応力及び最大中央張力も測定し、
図8A~8Cの対応するものに最大中央張力値が示されている。
図8Aに示されるように、純粋なKNO
3/LiNO
3塩浴で処理されたガラスセラミック物品の最大中央張力は、KNO
3/NaNO
3/LiNO
3で処理されたガラスセラミック物品(それぞれ、
図8B及び8Cについて71MPa及び84MPa)と比較して低い(27MPa)。しかしながら、20質量%のNaNO
3を含む試料の処理時間が長くなると(
図8D及び8E)、ナトリウムのプロファイルが深くなり、中心張力のピークを超えて広がり、圧縮応力の値が低くなる。
【0125】
実施例2
イオン交換強化の前は、ガラスセラミック物品のガラスネットワークのさまざまな構成成分(例えば、例えば、SiO2及びB2O3などのガラス形成剤、例えば、Al2O3などの中間体、及び例えば、CaO、Na2Oなどの改質剤等)の濃度は、概して、ガラスセラミック物品の外面からガラスセラミック物品の厚さにわたって均一に分布している。例えば、ガラスセラミック物品は、1つ以上のガラス形成剤を含み、ガラス形成剤の濃度は、ガラスセラミック物品の厚さ全体にわたって実質的に一定である。加えて、ガラスセラミック物品は、1つ以上の改質剤、例えば、Na2O及び/又は別のアルカリ酸化物を含み、改質剤の濃度は、ガラスセラミック物品の厚さ全体にわたって実質的に一定である。
【0126】
しかしながら、イオン交換後、例えばK
2Oなどのアルカリ酸化物の濃度は、ガラスセラミック物品の外面からの深さの関数としてガラスセラミック物品内で変化する。ガラスセラミック物品における単一フリンジのイオン交換処理の効果を決定するために、組成物Aから形成された0.8mmの厚さを有するガラスセラミック物品を、80質量%のKNO
3、20質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む浴中での単一フリンジのイオン交換処理で、500℃で16時間、処理した(単一フリンジの実施例)。組成物Aから形成された0.8mmの厚さを有する別のガラスセラミック物品を、30質量%のKNO
3、70質量%のNaNO
3、及び0.05質量%のLiNO
3を含む浴中での従来のイオン交換処理で470℃で12時間、処理し、続いて、30質量%のKNO
3及び70質量%のNaNO
3を含む浴中、470℃で1時間、処理した(従来のIOXの例)。例えばアルカリ構成成分など、ガラス中のさまざまな構成成分の濃度プロファイルを、電子プローブマイクロアナリシス(EPMA)で測定した。該プロファイルが
図9に示されている。
【0127】
具体的には、K2Oの濃度は、ガラスセラミック物品の表面からガラスセラミック物品の中心線CLの方向に低下し、単一フリンジのIOX処理(902)及び従来のIOX処理(904)の両方で、0モル%の濃度まで低下する。
【0128】
Na2Oの濃度(906)は、ガラスセラミック物品の表面から単一フリンジのIOXに供されたガラスセラミック物品の中心線CLの方向に向かって、増加し、次に低下する。すなわち、表面からの距離の関数としてのガラスセラミック物品におけるNa2Oの濃度904は、最初は正の勾配を有するが、その後、負の勾配を有する。さまざまな実施形態では、表面Na2O濃度と最小Na2O濃度との差は5モル%未満であり、表面Na2O濃度は10モル%未満である。さまざまな実施形態では、Na2Oの濃度は、イオン交換したガラスセラミック物品の厚さ全体にわたって0モル%より大きい。例えば、さまざまな実施形態におけるNa2Oの濃度は、0モル%超2.5モル%未満である。
【0129】
対照的に、従来のIOX処理に供されたガラスセラミック物品についてのNa2Oの濃度(908)は、表面スパイクを有し、これは、ガラスセラミック物品の表面からガラスセラミック物品の中心線CLの方向に向かって下降し、低下する。したがって、906と908との比較からわかるように、単一フリンジのIOX処理は、表面近くのナトリウムの量を大幅に減少させるが(約2.5モル%対約20モル%)、一方、深いナトリウムプロファイル(耐損傷性に役立つ)は、約80μmを超える従来のIOX処理のプロファイルに匹敵し、深い圧縮の深さを示す。
【0130】
さらには、
図9では、単一フリンジのIOXに供されたガラスセラミック物品のLi
2O濃度(910)は、ガラスセラミック物品の表面からガラスセラミック物品の中心線CLまでの距離が増加するにつれて、表面Li
2O濃度から中心線CLにおける最大Li
2O濃度へと増加する。さまざまな実施形態では、表面Li
2O濃度と最大Li
2O濃度との差は5モル%未満である。さまざまな実施形態では、Li
2Oの最大濃度は19モル%~32モル%である。対照的に、従来のIOXに供されたガラスセラミック物品のLi
2O濃度(912)は、表面近くで急激に増加し、その後、ガラスセラミック物品の表面からガラスセラミック物品の中心線CLまでの距離が増加するにつれて、表面Li
2O濃度から中心線CLにおける最大Li
2O濃度へと増加し続ける。しかしながら、表面Li
2O濃度と最大Li
2O濃度との差は、10モル%超、15モル%超、又はさらには18モル%超である。
【0131】
ガラスセラミック物品中のアルカリ酸化物の濃度は、イオン交換強化の結果として変化するが、ガラスネットワークの他の構成要素(例えば、ガラス形成剤、中間体、及び非可動改質剤、例えば、アルカリ土類酸化物(CaO、MgOなど))の濃度は実質的に同じままである(例えば、ガラスセラミック物品の厚さを通して実質的に均一である)ものと理解されたい。
【0132】
実施例3
単一フリンジのIOXで処理されたガラスセラミック物品の中央張力をさらに増加させるために、2ステップイオン交換プロセスを研究した。実施例3の物品はすべて組成物Aから形成した。単一フリンジのIOX処理に供されたガラスセラミック物品のFSMスペクトルが、
図10A~10Hに示されている。特に、
図10A~10Hの各々は、組成物Aから形成され、イオン交換処理に供されたガラスセラミック物品についての365nmにおけるFSMスペクトルを示している。
【0133】
図10Aでは、ガラスセラミック物品を、90質量%のKNO
3、10質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む処理に500℃で12時間、供した。結果として得られたガラスセラミック物品は、84MPaの最大中央張力を有していた。次に、ガラスセラミック物品を60質量%のKNO
3、40質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む処理に500℃で4時間、供した。結果として得られたガラスセラミック物品は103MPaの最大中央張力を有していた。
図10Aと
図10Bとの比較によって示されるように、第1のステップは、十分に発達したフリンジを示し(
図10A)、一方、第2のステップではナトリウムイオンのイオン交換が増加し、最大中央張力を含む中央張力が増加した(
図10B)。しかしながら、第2のステップの後、ナトリウムイオン交換の増加に起因してフリンジがコントラストを失い始め(又は「ブリーチアウト」し)、表面層の屈折率が低下した。
【0134】
図10Cでは、ガラスセラミック物品を、95質量%のKNO
3、5質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む処理に500℃で12時間、供した。結果として得られたガラスセラミック物品は71MPaの最大中央張力を有していた。次に、ガラスセラミック物品を60質量%のKNO
3、40質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む処理に500℃で4時間、供した。結果として得られたガラスセラミック物品は98MPaの最大中央張力を有していた。
図10A及び10Bと同様に、第1のステップは、十分に発達したフリンジを示し(
図10C)、一方、第2のステップではナトリウムイオンのイオン交換が増加し、最大中央張力を含む中央張力が増加した(
図10D)。この場合も、第2のステップの後に、ナトリウムイオン交換の増加に起因してフリンジがコントラストを失い始め(又は「ブリーチアウト」し)、表面層の屈折率が低下した。
【0135】
図10Eでは、ガラスセラミック物品を、60質量%のKNO
3、40質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む処理に500℃で7時間、供した。結果として得られたガラスセラミック物品は100MPaの最大中央張力を有していた。次に、ガラスセラミック物品を、93質量%のKNO
3、7質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む処理に500℃で4時間供した(
図10F)。結果として得られたガラスセラミック物品は95MPaの最大中央張力を有していた。第1のステップでの高濃度のナトリウム塩は、深いDOCで圧縮応力を生成したが(
図10E)、一方、カリウムフリンジが、高濃度のカリウム塩を含んでいた第2のステップで発生した(
図10F)。
【0136】
図10Gでは、ガラスセラミック物品を、60質量%のKNO
3、40質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む処理に500℃で6時間、供した。結果として得られたガラスセラミック物品は103MPaの最大中央張力を有していた。次に、ガラスセラミック物品を90質量%のKNO
3、10質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を含む処理に500℃で5時間、供した。結果として得られたガラスセラミック物品は101MPaの最大中央張力を有していた。
図10E及び10Fと同様に、第1のステップでのナトリウム塩の濃度は、深いDOCで圧縮応力を生成したが(
図10G)、一方、カリウムフリンジが、高濃度のカリウム塩を含んでいた第2のステップで発生した(
図10H)。
【0137】
実施例4
ガラス及びガラスセラミック物品をさまざまなイオン交換処理のうちの1つに供し、耐損傷性を測定した。イオン交換条件、応力プロファイル特性、及び強度(破壊)試験値が下記表2に提供されている。試料はすべて0.8mmの厚さを有していた。
【0138】
試料Aは、モル%単位で:71 SiO2;1.9 B2O3;12.8 Al2O3;2.4 Na2O;8.2 Li2O;2.9 MgO;0.8 ZnO;0.02 Fe2O3;0.01 ZrO2;0.06 SnO2の公称組成を有し、かつ、従来のIOX処理に供されたガラス物品であった。試料Aは、二重片持梁法で0.84Mpa√mの破壊靱性を有していた。試料Bは、モル%単位で:58.4 SiO2;6.1 B2O3;17.8 Al2O3;1.7 Na2O;0.2 K2O;10.7 Li2O;4.4 MgO;0.6 CaO;0.02 Fe2O3;0.01 ZrO2;0.08 SnO2の公称組成を有し、かつ、従来のIOX処理に供されたガラス物品であった。試料Bは、二重片持梁法で0.95Mpa√mの破壊靱性を有していた。試料Cは、組成物Aから形成され、従来の2ステップのIOX処理に供されたガラスセラミック物品であった。試料Dは、組成物Aから形成され、さまざまな実施形態による単一フリンジのIOX処理に供されたガラスセラミック物品であった。試料Eは、組成物Aから形成され、さまざまな実施形態による2ステップの単一フリンジIOX処理に供されたガラスセラミック物品であった。試料Fは、組成物Aから形成され、さまざまな実施形態による異なる2ステップの単一フリンジIOX処理に供されたガラスセラミック物品であった。試料Gは、組成物Aから形成され、さまざまな実施形態による異なる2ステップの単一フリンジIOX処理に供されたガラスセラミック物品であった。
【0139】
【0140】
表2に破壊として報告されている強度は、スラッパーを介して80グリットのサンドペーパーで打撃して1.3Jのエネルギーを加えることによってガラスに損傷を導入した後、4点曲げ試験で破壊応力を加えて破壊させることによって測定した。該方法は、米国特許出願公開第2019/0072479A1号に記載されている。試験は、ガラスセラミック物品の試験片が振り子のボブに取り付けられ、次にそれを使用して試験片を粗い衝撃面と接触させる、平らな面から湾曲した面までの範囲の表面を有する単純な振り子を含む装置をベースとした動的衝撃試験を使用して実施した。該装置は、ここに参照することによってその全体が本明細書に取り込まれる、国際公開第2017/100646号に詳細に記載されている。試験を実行するために、試料をホルダに充填し、次に振り子の平衡位置から後方に(1.3Jのエネルギーが試験される試験片に適用される位置まで)引っ張り、解放して、衝撃面に動的な衝撃を与える。衝撃面には、実施例で指定されたグリットを有するサンドペーパーの形態で、衝撃面に取り付けられた研磨シートが含まれていた。サンドペーパーを25mm四方のピースに切断し、切断処理中にピースが曲がった場合にはサンドペーパーを平らにした。
【0141】
ベースの曲面の曲率半径は、基板が曲面の周りで曲げられたときに100MPaの曲げ引張力をもたらすように選択され、引張力は、外部から加えられた引張力であり、基板を曲げる応力から生じる。
【0142】
実施例5
次に、組成物Aから形成されたガラスセラミック物品をイオン交換処理に供し、RNFを使用してそれらの応力プロファイルを測定した。結果が
図11に示されている。組成物Aから形成され、60質量%のKNO
3、40質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を用いた単一フリンジのイオン交換を用いて500℃で10時間処理し、次に、93質量%のKNO
3、7質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を用いて500℃で5時間、処理した(表2の試料Gと同じ)ガラスセラミック物品は、応力プロファイル1102を示した。組成物Aから形成され、60質量%のKNO
3、40質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を用いた単一フリンジのイオン交換を用いて500℃で7時間、処理し、次に、93質量%のKNO
3、7質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3を用いて500℃で5時間、処理した(表2の試料Fと同じ)ガラスセラミック物品は、応力プロファイル1104を示した。組成物Aから形成され、30質量%のKNO
3、70質量%のNaNO
3、及び0.05質量%のLiNO
3を含む浴を用いた従来のイオン交換処理で470℃で12時間、処理し、次に、30質量%のKNO
3、70質量%のNaNO
3を用いて470℃で1.5時間、処理した(表2の試料Cと同じ)ガラスセラミック物品は、応力プロファイル1106を示した。
図11に示されるように、プロファイル1102及び1104の両方の応力は、ガラスセラミック物品の外面からの距離が増加するにつれて、圧縮応力から引張応力へと低下する。
【0143】
低屈折率層を有するガラスセラミック物品の応力プロファイル1106は、表面から0.1t以上の深さまで高い圧縮応力(例えば、80MPaを上回る)を有し、ここでtはガラスセラミックの厚さである。しかしながら、応力プロファイル1102及び1104は、120μm又は0.15tを超える深さでの圧縮応力を増加させた。具体的には、圧縮応力の増加とは、0.15tの深さで40MPa以上、0.19tの深さで30MPa以上、0.19tの深さで20MPa以上の圧縮応力である。加えて、応力プロファイル1102及び1104は、0.20t、0.21t、又は0.22tを超える、実質的により大きい圧縮深さを示す。
【0144】
応力プロファイル1102及び1104はまた、スパイクに続く深さ範囲において生じる明確に定義された屈曲部応力CSkも含む。理論に縛られはしないが、屈曲部応力は、カリウム濃度が試料の内部と同じレベルまで安定化した結果であると考えられている。CSkの値は100~150MPaである。CSkは、100MPa~150MPa、100MPa~140MPa、100MPa~130MPa、100MPa~120MPa、100MPa~110MPa、110MPa~150MPa、110MPa~140MPa、110MPa~130MPa、110MPa~120MPa、120MPa~150MPa、120MPa~140MPa、120MPa~130MPa、130MPa~150MPa、130MPa~140MPa、140MPa~150MPa、又はこれらの端点のいずれかから形成されるありとあらゆる部分範囲でありうるものと理解されたい。例えば、最後のイオン交換ステップでLiNO3含有量がわずかに低い(例えば、0.09質量%、0.08質量%、又は0.07質量%)実施形態では、表面に低屈折率の層を形成することなく、より高いCSk値を得ることができる。
【0145】
さまざまな実施形態では、70MPa超、80MPa超、又はさらには90MPaを超えるCSk値は、適度に粗い表面での落下事象中に強化された破壊抵抗をもたらすことができる。理論に縛られはしないが、例えば70MPa及び80MPaなどの引張応力は、1m以上の高さから粗い表面に落下する際に、表面近く及び30~40μmの深さで発生すると考えられる。したがって、さまざまな実施形態では、イオン交換したガラスセラミック物品は、70MPaを超えるCSk値を有する。さまざまな実施形態では、CSkは、複屈折がCSkと直接相関する、プリズム結合(FSM)スペクトルにおける臨界角遷移の複屈折での測定を介して測定される。
【0146】
図11に示されるように、応力プロファイル1102及び1104はさらに、圧縮応力の表面スパイクを示している。理論に縛られはしないが、表面スパイクはナトリウムイオンではなく、カリウムイオンの濃度の増加によるものと考えられる。特に、これらの試料のカリウム浸透は約5μm~約12μmに低下し、低カリウム濃度及び各偏光についての単一フリンジのFSMスペクトルと相関している。
【0147】
図11に示されているプロットに表示される表面の応力は、該応力が非常に短い距離で大きく変化するスパイクを表す精度を制限する屈折近視野(RNF)法の解像度が制限されているため、正確であるとは見なされない。したがって、さまざまな実施形態では、表面応力は、可能な限りプリズム結合測定を使用して測定又は推定される。低屈折率の表面層を回避しても、表面にカリウムイオンが豊富にある場合、応力プロファイル1102及び1104に対応する試料のスパイク領域の平均圧縮応力は150MPa~約300MPaであり、一方、表面応力は約200MPa~約490MPaである。上限は、2つのフリンジスペクトルを得るために、かなり長い時間をかけて試料をイオン交換し、2つのフリンジスペクトルで表面圧縮応力を測定するための従来の手段を使用して表面圧縮応力を測定し、次に、非常に長いイオン交換時間の結果として生じた圧縮応力の減少を補正することによって、決定した。理論に縛られはしないが、表面圧縮応力と最大中央張力を含む中央張力は、浴中のLiNO
3の量に敏感であり、該圧縮応力は、0.05質量%~0.07質量%の範囲のLiNO
3濃度での400~490MPaの範囲から、0.07質量%~0.12質量%の範囲のLiNO
3濃度での350~450MPaまで、さらに高いLiNO
3濃度では250~400MPaまで、徐々に低下する。特定の圧縮応力値は、浴内のNa/K比に応じて、範囲内で変化することが理解されるべきであり、最高値は、最後のイオン交換ステップで、低濃度のNaNO
3(例えば、<5質量%)及び高濃度のKNO
3(例えば、>95質量%)の浴で得られる。
【0148】
さらには、応力プロファイル1102及び1104は、カリウムが豊富な表面スパイクの底と圧縮の深さを実質的に超える深さとの間の領域において非常に小さい二次導関数を有する。この実質的に線形の領域は、0.25t超~0.4tの深さまで延びる。例えば、
図11に示されるように、プロファイルの実質的に線形の領域は、200μmを超え、さらに240μm、280μmを超え、又はさらには320μmを超える。実質的に線形の領域の開始は50μm未満であり、特定の実施形態に応じて、35μm、20μm、15μm、又はさらには10μmの低さでありうる。対照的に、応力プロファイル1106は、最初の0.1t又は80μmにおいて非常に高い二次導関数を有する。「実質的に線形」という句は、対象領域の応力プロファイルの二次導関数の絶対値が、領域の平均勾配に比例する限界を超えないことを意味し、限界は10インバースmm(inverse mm)である。幾つかの実施形態では、線形プロファイルセグメントのより良好な近似を得るために、限界を9、8、7、6、又は5インバースmmに設定することができる。
【0149】
応力プロファイル1102は約580MPa/mmの平均勾配を有し、一方、二次導関数は20~240μm(0.025~0.3t)の深さ範囲で1平方mmあたり-3000~3000MPaの間に留まる。したがって、一次導関数の絶対値に対する二次導関数の絶対値の比率は、指定された深さ範囲にわたって6未満である。40~200μm(0.05~0.25t)の深さ範囲では、比率は5未満である。
【0150】
さまざまな実施形態では、対象領域の二次導関数は、対象領域のプロファイルに対して近似多項式フィットを取得し、次に多項式フィットの導関数を取得することによって推定される。この方法により、有限差分による実験プロファイルの直接二次導関数を計算するときに通常発生するノイズを低減又はさらには排除することが可能になる。しかしながら、幾つかの実施形態では、近似多項式フィット(例えば、0.999以上のR2を有する多項式フィット)を得ることが困難な場合がある。このような実施形態では、実質的に線形のセグメントの別の態様、例えば、局所的な傾斜がセグメントの範囲にわたって有意に変化しないことなどを考慮することができる。例えば、応力プロファイル1102は、対象領域において470MPa/mmを下回らず、640MPa/mmを超えない勾配を有しており、よって、170MPa/mm未満の勾配の全変動は、この領域の平均勾配の30%を超えない。したがって、幾つかの実施形態では、「実質的に線形」とは、勾配の全変動が平均勾配の30%、25%、20%、又は15%を超えないことを意味する。
【0151】
応力プロファイル1104は、深い対象領域(スパイク領域を除く)において、応力プロファイル1102の平均勾配よりもわずかに高い平均勾配を有する。特に、平均勾配は600~670MPa/mmである。応力プロファイル1102と同様に、応力プロファイル1104の実質的に線形の領域は、観察されている実質的に線形のプロファイルの特定の条件に応じて、30、25、20、又は15μmの下限から320、300、280、240、又は200μmの上限まで延びる。上限は、厚さの大部分(例えば、0.25t、0.3t、0.35t、0.37t、又はさらには0.4t)を表す。したがって、さまざまな実施形態では、イオン交換したガラスセラミック物品の応力プロファイルは、実質的に線形のプロファイルの最も厳しい条件が観察された場合でさえも、0.25t又は0.3tを超える幅で0.02t~0.4tの範囲にわたる実質的に線形の領域を有する。
【0152】
応力プロファイル1102及び1104はまた、ピーク中央張力(示される実施例における最大中央張力)が60MPa~120MPaであることも示している。幾つかの実施形態では、ピーク中央張力は108MPa未満又は102MPa未満である。理論に縛られはしないが、120MPa未満、又はさらには108MPa未満のピーク中央張力値は、低屈折率表面層の形成及び/又は化学的耐久性の課題を軽減又は排除することができると考えられる。さらには、LiNO3含有量を0.1質量%から0.09質量%、0.08質量%、又はさらには0.07質量%に減らすことにより、ピーク中央張力を増加させることができると考えられる。加えて、より高い最大中央張力を含む、より高い中央張力レベルは、イオン交換浴の組成、とりわけLiNO3含有量をより入念に制御することによって達成することができると考えられる。
【0153】
図11に示されるように、応力プロファイル1102及び1004は、9.9~12.5MPa*mmの各圧縮領域の圧縮応力の深さの積分と、52MPa~66MPaの圧縮領域の平均応力とを有している。2つの圧縮領域にわたる合計圧縮応力積分は、0.8mmの厚さで除算すると、応力プロファイル1102及び1004の両方について23.5MPa~31.3MPaになる。しかしながら、イオン交換浴のLiNO
3含有量を0.06~0.09質量%に減らすと、最大で16MPa*mmのわずかに高い応力積分が可能になり、複数の部品をイオン交換した結果、浴のLiNO
3含有量が増加すると、8MPa*mmのわずかに低い応力積分が得られる。したがって、浴のLiNO
3含有量を変えることにより、圧縮領域の平均圧縮応力を、85MPa(0.06~0.08質量%のLiNO
3レベル)から45MPa(0.2~0.3質量%のLiNO
3レベル)に変えることができる。さまざまな実施形態では、ガラスセラミック物品の厚さで除算したときの2つの圧縮領域(例えば、ガラスセラミック物品の各対向する表面の近く)の全圧縮応力積分は、20MPa~40MPaの範囲である。圧縮領域と引張領域との間の力のバランスが取れているため、厚さ正規化応力の同じ値と範囲が、引張領域全体の厚さ正規化応力積分に適用されるものと理解されたい。
【0154】
実施例6
ガラスセラミック物品をさまざまなフリンジなしのイオン交換処理に供し、RNFを使用してそれらの応力プロファイルを測定した。特に、応力プロファイル1202は、組成物Aから形成され、60質量%のKNO3、40質量%のNaNO3、及び0.1質量%のLiNO3を用いて500℃で8時間、処理されたガラスセラミック物品に対応する。応力プロファイル1204は、組成物Aから形成され、70質量%のKNO3、30質量%のNaNO3、及び0.1質量%のLiNO3を用いて470℃で8時間処理されたガラスセラミック物品に対応する(下記試料O)。応力プロファイル1206は、組成物Aから形成され、70質量%のKNO3、30質量%のNaNO3、及び0.1質量%のLiNO3を用いて470℃で13時間処理されたガラスセラミック物品に対応する(下記試料P)。最後に、応力プロファイル1208は、組成物Aから形成され、30質量%のKNO3、70質量%のNaNO3、及び0.05質量%のLiNO3での470℃で12時間の第1のステップ及び30質量%のKNO3及び70質量%のNaNO3での470℃で1.5時間の第2のステップを含む、従来のイオン交換処理を用いて処理されたガラスセラミック物品に対応する(表2の試料Cと同じ)。
【0155】
図12に示されるように、応力プロファイルの各々は、ガラスセラミック物品の厚さ(各試料0.8mm)の約20%の圧縮の深さを含む。応力プロファイル1202は、CS(z)の一般的に正の二次導関数を有するが、これは、50μm~240μm(0.05t~0.3t)の深さ、若しくは、より厳密には56μm~208μm(0.07t~0.26t)の深さまで延びる実質的に線形の領域も含む。実質的に線形の領域の平均応力勾配は約1000MPa/mmであり、圧縮の深さは約0.17mm(0.21t)である。最大中央張力は107MPaである。応力プロファイル1202はまた、210~220MPaの範囲の高いCS
k、及び16MPa*mmに等しい圧縮領域の圧縮応力の深さ積分も有する。引張領域全体の引張応力の積分は32MPa*mmであり、引張領域の両側の圧縮領域の深さ積分の合計のバランスを取る。厚さに対する全圧縮応力積分の比は40MPaである。加えて、圧縮領域の平均圧縮応力は94MPaであり、これは、表面のz=0からDOC(応力プロファイル1202では0.17mm)までの圧縮応力の深さ積分を、0~DOCまでの深さ範囲で除算することによって得られる。この平均圧縮応力は、プロファイルを厚さでスケーリングした場合(例えば、厚さの2乗に比例してイオン交換時間を短縮することにより)、実質的に同じである。
【0156】
図12に示されるように、応力プロファイル1204はまた、圧縮領域全体にわたって、及びガラスセラミック物品の内部の張力領域の大部分を通して、連続的な正の二次導関数によって特徴付けられる。各圧縮ゾーンの圧縮応力積分は15.6MPa*mmである。全応力積分(応力平衡化による圧縮応力又は引張応力のいずれか)を厚さ(0.8mm)で除算した値は、39MPaである。圧縮ゾーンの平均圧縮応力は99.4MPaであり、上記のように、プロファイルを厚さでスケーリングした場合、実質的に同じである。
【0157】
応力プロファイル1204は、一般に高い二次導関数の絶対値を有し、そのごく一部(約80μm~約200μm、又は0.1t~0.25t)は実質的に線形である。応力プロファイル1204はまた、応力プロファイル1202と比較して、60μmを超える深さで幾分低い圧縮応力を有し、50μm未満の深さでより高い圧縮応力を有する。
【0158】
しかしながら、応力プロファイル1202及び1204はどちらも、最初の50μm(又は0.06t)で生じる、最初の200μm(又は0.25t)の関数CS(z)の最も高い2次導関数を有する。より具体的には、最初の10μmのカリウムが豊富な領域領域を除いて、最も高い二次導関数は、12μm~40μmの深さの間で生じる。応力プロファイル1202及び1204の各々の最も高い二次導関数は、応力プロファイル1204の高さの2倍以上の高さを有する、最初の50μmで最も高い二次導関数を有する応力プロファイル1208の高さよりも著しく小さい(応力プロファイル1202で25,000~40,000MPa/mm2、応力プロファイル1204で40,000~70,000MPa/mm2)。より高い二次導関数、例えば、最大で100,000MPa/mm2は、最後のイオン交換ステップでのLiNO3濃度が0.1質量%未満の場合に得ることができ、LiNO3濃度が0.06又は0.07質量%超かつ0.1質量%未満の場合には、低屈折率表面層を形成することなく得ることができることに留意されたい。
【0159】
応力プロファイル1202及び1204は、圧縮ゾーンで観察される勾配の範囲によってさらに特徴付けることができる。さまざまな実施形態では、約10μmの深さを有するカリウムが豊富な領域の表面の勾配は含まれていない。特に、応力プロファイル1202は、210~220MPaのCSk、及び10~20μmの深さ範囲における-2650MPa/mmから50μmの深さにおける約-1430MPa/mmまで単調に変化するCS(z)の負の勾配を有している。その後、CS(z)の負の勾配は、170μmのDOCで-880MPa/mmまで、さらにゆっくりと変化する。応力プロファイル1204は、10~20μmの深さ範囲における約-3830MPa/mmの高い勾配で始まり、50μmの深さで約-1610MPa/mmに急速に変化し、その後ゆっくりと変化して、157μmのDOCで約-950MPa/mmに達する。応力プロファイル1202は107MPaの最大中央張力を有し、一方、応力プロファイル1204は、77MPaのかなり低い最大中央張力を有する。
【0160】
応力プロファイル1202及び1204の各々は、約40μm(0.05t)の第1の深さ及び120μm(0.15t)の第2の深さの両方において同時に高い圧縮応力を示しており、圧縮応力は、第1の深さで100MPa超であり、第2の深さでは30MPa超である。理論に縛られはしないが、これにより、浅い深さから中程度の深さの欠陥に作用する高応力事象と、深い欠陥に作用する低応力から中程度の応力事象の両方に対して、実質的な保護を提供することができると考えられる。
【0161】
応力プロファイル1206は0.17mmのDOCを有し、各縮領域にわたる圧縮応力の深さの積分は14.4MPa*mmに等しい。圧縮領域の平均圧縮応力は84.7MPaであり、総応力積分を厚さ(0.8mm)で除算すると36MPaになる。カリウムが豊富な表面層を超えて、応力プロファイル1206は、わずかに小さいDOCを除き、
図11の応力プロファイル1102及び1104と同様の特性を有する。特に、応力プロファイル1102及び1104のように、応力プロファイル1206は、拡張された実質的に線形の領域を有しており、本明細書に記載されるフリンジなしのイオン交換処理が同様の応力プロファイルを提供することができ、したがって、品質管理で使用するために1フリンジスパイクを生成する必要なしに、同様の破壊耐性がもたらされることが示唆される。加えて、応力プロファイル1102及び1104と比較して、応力プロファイル1206は、約170MPaで実質的により高いCS
kを有する。結果として、応力プロファイル1206の圧縮領域における平均圧縮応力は、より高いDOCを有する応力プロファイル1102及び1104におけるよりも幾分高くなる。
【0162】
実施例7
ガラス及びガラスセラミック物品をさまざまなイオン交換処理のうちの1つに供し、耐損傷性を測定した。イオン交換条件、応力プロファイル特性、及び強度(破壊)試験値が下記表3に提供されている。
【0163】
試料Hは、上記試料Aと同じ特性を有し、試料Aと同じイオン交換条件に供されたガラス物品であった。試料Iは、上記試料Bと同じ特性を有し、試料Bと同じイオン交換条件に供されたガラス物品であった。試料Jは、組成物Aから形成され、従来の2-ステップIOX処理(上記試料Cと同じ)に供されたガラスセラミック物品であった。試料K、L、及びMは、組成物Aから形成され、さまざまな実施形態によるフリンジなしのIOX処理にそれぞれ、4、8、又は12時間供されたガラスセラミック物品であった。試料N、O、P、及びQは、組成物Aから形成され、さまざまな実施形態による異なるフリンジなしのIOX処理に、それぞれ4、8、13、又は16時間供されたガラスセラミック物品であった。試料R、S、及びTは、組成物Aから形成され、さまざまな実施形態による異なるフリンジなしのIOX処理に、それぞれ4、8、又は16時間供されたガラスセラミック物品であった。
【0164】
【0165】
表3に破壊として報告されている強度は、スラッパーを介して80グリットのサンドペーパーでの1.3Jの衝撃によってガラスに損傷を導入した後、4点曲げ試験で破壊応力を加えて破壊させることによって測定した。該方法は、米国特許出願公開第2019/0072479A1号に記載されている。試料J、K、L、及びMの破壊強度が
図13にプロットされている。劣化しやすい低屈折率層を形成しない試料J~T(組成物Aから作られた)はすべて、低屈折率層を形成しなかったにもかかわらず、依然として、比較例H及びIよりも著しく優れている。表面劣化に対する耐性を有するこれらの試料(J~T)は、試料H及びIのガラスの実施例よりも概してガラスセラミック二重イオン交換試料(試料J)の強度に近い機械的性能を示す。
【0166】
実施例8
ガラス及びガラスセラミック物品をさまざまなイオン交換処理のうちの1つに供し、落下試験を使用して耐損傷性を測定した。結果が
図14A~14Cに提示されている。実施例U-BBによるガラス系物品を、同一のパックデバイスに取り付け、携帯電話デバイスをシミュレートするために、該パックをサイズ設定し、成形し、重み付けした。本明細書で用いられる「ガラス系」という用語は、ガラス及びガラスセラミックを含む、少なくとも部分的にガラスから作られた任意の材料を含むことを意味する。ガラス系材料が下向きで、平面落下で、20センチメートルから始まる増分の高さから180グリットのサンドペーパーへと、パックを水平の向きで落下させた。ガラス系物品がある高さ(例えば20cm)からの落下に耐えた場合には、最高で225cmの高さまで高さを10cmずつ徐々に(例えば、30cm、40cm、50cmなど)高くしてパックを落下させた。次に、耐えたガラス系物品を、80グリットのサンドペーパーに落下させた(同じ電話デバイス)。180グリットのサンドペーパー及び80グリットのサンドペーパーの両方でのガラス系物品の破損した高さが
図14A~Cにプロットされている。
【0167】
図14Aは、試料U、V、W、及びXについての80グリットサンドペーパーへの増分での平面落下の結果を示している。試料Uは、モル%単位で:63.6 SiO
2;2.3 B
2O
3;15 Al
2O
3;9.3 Na
2O;5.9 Li
2O;1.2 ZnO;.05 SnO
2、2.53 P
2O
5の公称組成で形成されたガラス物品であった。試料Uは、二重片持梁法で0.76MPa√mの破壊靱性を有していた。試料Vは、モル%単位で:71 SiO
2;1.9 B
2O
3;12.8 Al
2O
3;2.4 Na
2O;8.2 Li
2O;2.9 MgO;0.8 ZnO;0.02 Fe
2O
3;0.01 ZrO
2;0.06 SnO
2の公称組成で形成されたガラス物品であった。試料Vは、二重片持梁法で0.84Mpa√mの破壊靱性を有していた。試料Wは、モル%単位で:58.4 SiO
2;6.1 B
2O
3;17.8 Al
2O
3;1.7 Na
2O;0.2 K
2O;10.7 Li
2O;4.4 MgO;0.6 CaO;0.02 Fe
2O
3;0.01 ZrO
2;0.08 SnO
2の公称組成で形成されたガラス物品であった。試料Wは、二重片持梁法で0.95Mpa√mの破壊靱性を有していた。試料Xは、組成物Aで形成されたガラス物品であった。試料U、V、W、及びXの各々を、70質量%のNaNO
3及び30質量%のKNO
3を含む浴を用いて380℃で4時間処理する第1のステップ、並びに7質量%のNaNO
3及び93質量%のKNO
3を含む浴を用いて380℃で40分間処理する第2のステップを含む、従来のイオン交換処理に供した。
【0168】
図14B及び14Cは、試料Y、Z、AA、及びBBについての、それぞれ180グリットのサンドペーパー及び80グリットのサンドペーパーでの増分による平面落下の結果を示している。試料Y、Z、AA、及びBBの各々を組成物Aから形成した。試料Yは、70質量%のNaNO
3、30質量%のKNO
3及び0.05質量%のLiNO
3、470℃で12時間の第1のステップ、次に70質量%のNaNO
3及び30質量%のKNO
3、470℃で1.5時間を含む、従来の2ステップイオン交換処理に供した(線1106及び実施例4Cと同じであり、従来の実施例2と同様である)。試料Zは、40質量%のNaNO
3、60質量%のKNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3、500℃で6時間の第1のステップ、次に、10質量%のNaNO
3、90質量%のKNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3、500℃で5時間を含む、2ステップフリンジなしのイオン交換処理に供した(線1104、実施例4Fと同様)。試料AAは、40質量%のNaNO
3、60質量%のKNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3、500℃で8時間を含む、1ステップのフリンジなしのイオン交換処理に供した(実施例7Lと同じ)。試料BBは、30質量%のNaNO
3、70質量%のKNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3、470℃で8時間を含む、1ステップのフリンジなしのイオン交換処理に供した(7O及び線1204と同じ)。
【0169】
図14A~Cに示されるように、実施例U及びVの2つを除くすべてのガラス系物品は、最高で約250cmの高さまで(平均生存落下高さ160cm~178cm)、80グリットのサンドペーパーへの落下を耐え抜いた。したがって、
図14A~14Cは、本明細書のさまざまな実施形態によるイオン交換したガラスセラミック物品が、従来技術のイオン交換プロセスによる化学的に強化されたガラス物品と統計的に同じ落下性能を示すことを示すことを示している。
【0170】
実施例9
劣化及び腐食に対するさまざまな実施形態によるフリンジなしのイオン交換処理の効果を決定するため、ガラスセラミック物品を調製し、さまざまなイオン交換処理の1つに供した。ガラスセラミック物品の各々を組成物Aから形成した。イオン交換処理条件及び加速劣化試験の結果が下記表4に提示されている。加速劣化の結果を決定するため、試料を、85℃及び85%相対湿度のチャンバ内に一定期間入れ(表4に報告)、腐食について調査した。
【0171】
【0172】
表4に示されるように、さまざまな実施形態で説明されるフリンジなしのIOX処理は、著しく改善された加速老化結果をもたらす。
【0173】
劣化の影響をさらに調査するために、85℃及び85%相対湿度で144時間の加速劣化試験に供する前(
図15A)及び後(
図15B)に、試料CCの光学顕微鏡写真を取得した。組成物Aから形成され、かつ、90質量%のKNO
3、10質量%のNaNO
3、及び0.1質量%のLiNO
3、470℃で12時間、48時間(
図15C)、及び144時間(
図15D)を含む、フリンジなしのイオン交換処理に供されたガラスセラミック物品である、試料JJの光学顕微鏡写真も取得した。光学顕微鏡写真に見られるように、試料CCは144時間で重度の腐食を示すが、
図15C及び15Dに示される試料JJでは腐食は見られない。
【0174】
試料CC及びJJの元素深さプロファイルは、SIMS深さプロファイリングを使用して、最初の300nmの深さで取得した。プロファイルは、それぞれ、
図16A及び16Bに示されている。
図16Aに示されるように、試料CCは、ナトリウムが枯渇し、大気中のCO
2と反応する、水和表面層を発達させた。しかしながら、
図16Bに示されるように、試料JJは水和層を発達させなかった。
【0175】
本明細書に記載されるさまざまな実施形態は、化学的強化を通じて、改善されたガラスセラミック性能、例えば、改善された耐損傷性、改善された化学的耐久性、及び高湿度条件への曝露時の腐食の低減を可能にする。さらには、本明細書に記載されるイオン交換処理は、FSM計測品質管理技術で使用するための1つのフリンジを含む、又はフリンジのない、ガラスセラミック物品の形成を可能にする。本明細書に記載されるさまざまな実施形態は、例えば、イオン交換処理からフリンジが生じない場合、又はガラスセラミック物品が不透明な場合に使用するための追加又は代替の品質管理プロセスをさらに提供する。
【0176】
本明細書に開示される強化物品、例えば、イオン交換したガラスセラミック物品は、ディスプレイ(又はディスプレイ物品)を備えた物品(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステム、ウエアラブルデバイス(例えば、時計)などを含む消費者向け電化製品)、建築用品、輸送用品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、家電機器用品、又は透明度、耐スクラッチ性、耐摩耗性、又はそれらの組合せを必要とする任意の物品などの別の物品に組み込むことができる。本明細書に開示される強化した物品のいずれかを組み込む例示的な物品が
図18A及び18Bに示されている。具体的には、
図18A及び18Bは、前面1804、背面1806、及び側面1808を有する筐体1802;筐体内部に少なくとも部分的に、又は筐体内に全体的にあり、少なくともコントローラと、メモリと、筐体の前面にあるか又はそれに隣接するディスプレイ1810とを含む電気部品(図示せず);並びに、ディスプレイの上方になるように、筐体の前面又はその上にあるカバー基板1812を含む、消費者向け電子機器1800を示している。幾つかの実施形態では、カバー基板1812又は筐体1802の一部のうちの少なくとも一方は、本明細書に開示される強化した物品のいずれかを含みうる。
【0177】
特許請求の範囲に記載の主題の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される実施形態にさまざまな修正及び変更を加えることができることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本明細書は、このような修正及び変更が添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内に入る限り、本明細書、に記載されるさまざまな実施形態の修正及び変更に及ぶことが意図されている。
【0178】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0179】
実施形態1
厚さtを有するイオン交換したガラスセラミック物品であって、
前記ガラスセラミック物品が、前記イオン交換したガラスセラミック物品の外面から中心線に向かって約0.07tの深さから約0.26tの深さまでほぼ線形の関数に従って距離が増加するにつれて低下する応力を含み;
前記応力が、前記イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.18t~約0.25tの深さで圧縮応力から引張応力へと遷移し;かつ
前記イオン交換したガラスセラミック物品の外面における最大圧縮応力の絶対値が、前記イオン交換したガラスセラミック物品の最大中央張力(CT)の絶対値の1.8~2.2倍であり;かつ
前記イオン交換したガラスセラミック物品が、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m以上の破壊靱性を有する、
イオン交換したガラスセラミック物品。
【0180】
実施形態2
前記最大中央張力が70MPa以上である、実施形態1に記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0181】
実施形態3
前記最大中央張力が80MPa~140MPaである、実施形態1に記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0182】
実施形態4
前記最大圧縮応力が180MPa~350MPaである、実施形態1~3のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0183】
実施形態5
前記破壊靱性が、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m~1.5MPa√mである、実施形態1~4のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0184】
実施形態6
前記イオン交換したガラスセラミック物品が、前記外面において10モル%未満のNa2O濃度を有する、実施形態1~5のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0185】
実施形態7
厚さtを有するイオン交換したガラスセラミック物品であって、
前記イオン交換したガラスセラミック物品の外面からの距離が増加するにつれて、Liイオンの濃度が表面Liイオン濃度から最大Liイオン濃度へと増加し、ここで、前記表面Liイオン濃度と前記最大Liイオン濃度との差が5モル%未満であり;
前記イオン交換したガラスセラミック物品の外面からの距離が増加するにつれて、Naイオンの濃度が表面Naイオン濃度から最小Naイオン濃度へと、増加し、次に低下し、ここで、前記表面Naイオン濃度と前記最小Naイオン濃度との差は5モル%未満であり、前記表面Naイオン濃度は10モル%未満であり;かつ
前記イオン交換したガラスセラミック物品が、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m超の破壊靱性を有する、
イオン交換したガラスセラミック物品。
【0186】
実施形態8
Naイオンの濃度が、前記イオン交換したガラスセラミック物品の前記厚さt全体にわたって0モル%より大きい、実施形態7に記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0187】
実施形態9
Naイオンの濃度が0モル%超かつ2.5モル%未満である、実施形態8に記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0188】
実施形態10
Liイオンの最大濃度が19モル%~32モル%である、実施形態7~9のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0189】
実施形態11
前記破壊靱性が、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m~1.5MPa√mである、実施形態7~10のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0190】
実施形態12
0モル%超~6モル%のAl2O3をさらに含む、実施形態7~11のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0191】
実施形態13
0.7モル%~2.2モル%のP2O5をさらに含む、実施形態7~12のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0192】
実施形態14
1.7モル%~4.5モル%のZrO2をさらに含む、実施形態7~13のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0193】
実施形態15
60モル%~72モル%のSiO2をさらに含む、実施形態7~14のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0194】
実施形態16
1%~30%の残留ガラス含有量と、二ケイ酸リチウム、葉長石、β-石英、β-スポジュメン固溶体、及びそれらの組合せからなる群より選択された70%~99%の結晶相とを含む、イオン交換したガラスセラミック物品であって;前記イオン交換したガラスセラミック物品が厚さtを有し、かつ、前記イオン交換したガラスセラミック物品の外面から中心線に向かって距離が増加するにつれて低下する応力を有しており、ここで:
前記応力が、前記イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.07tの深さから約0.26tの深さまで、ほぼ線形の関数に従って低下し;
前記応力が、前記イオン交換したガラスセラミック物品の外面から約0.18t~約0.25tの深さで圧縮応力から引張応力へと遷移し;かつ
前記イオン交換したガラス物品の外面における最大圧縮応力が、前記イオン交換したガラス物品の最大中央張力(CT)の値の1.8~2.2倍である、
イオン交換したガラスセラミック物品。
【0195】
実施形態17
前記イオン交換したガラスセラミック物品が、二重片持梁法に従って測定して1MPa√m~1.5MPa√mの破壊靱性を有する、実施形態16に記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0196】
実施形態18
前記イオン交換したガラスセラミックが不透明である、実施形態16又は実施形態17に記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0197】
実施形態19
前記最大圧縮応力が180MPa~350MPaである、実施形態16~18のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0198】
実施形態20
前記イオン交換したガラスセラミック物品が、前記外面において10モル%未満のNa2O濃度を有する、実施形態16~19のいずれかに記載のイオン交換したガラスセラミック物品。
【0199】
実施形態21
葉長石、二ケイ酸リチウム、及びそれらの組合せからなる群より選択された結晶相を有するガラスセラミック物品を強化する方法であって、該方法が、
前記ガラスセラミック物品にイオン交換媒体を適用する工程を含み、前記イオン交換媒体が、0質量%超20質量%以下のNaNO3、80質量%~100質量%未満のKNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含む、
方法。
【0200】
実施形態22
前記イオン交換媒体が380℃~550℃の温度を有する、実施形態21に記載の方法。
【0201】
実施形態23
前記イオン交換媒体が、2時間~16時間の間、前記ガラスセラミック物品に適用される、実施形態22に記載の方法。
【0202】
実施形態24
前記イオン交換媒体が第2のイオン交換媒体を含み、前記方法が、
第1のイオン交換媒体を前記ガラスセラミック物品に適用する工程をさらに含み、前記第1のイオン交換媒体が、NaNO3、KNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含み、前記第2のイオン交換媒体を適用する工程が、前記第1のイオン交換媒体の適用後に実施される、
実施形態21~23のいずれかに記載の方法。
【0203】
実施形態25
前記第1のイオン交換媒体が20質量%超のNaNO3を含む、実施形態24に記載の方法。
【0204】
実施形態26
前記第2のイオン交換媒体が、95質量%超かつ100質量%未満のKNO3と、0質量%超かつ5質量%未満のNaNO3とを含む、実施形態24又は実施形態25に記載の方法。
【0205】
実施形態27
葉長石、二ケイ酸リチウム、及びそれらの組合せからなる群より選択された結晶相を有するガラスセラミック物品を強化する方法であって、該方法が、
前記ガラスセラミック物品にイオン交換媒体を適用する工程を含み、前記イオン交換媒体が、20質量%超かつ50質量%以下のNaNO3、50質量%~80質量%未満のKNO3、及び0.01質量%~0.5質量%のLiNO3を含む、
方法。
【0206】
実施形態28
前記イオン交換媒体が380℃~550℃の温度を有する、実施形態27に記載の方法。
【0207】
実施形態29
前記イオン交換媒体が、2時間~16時間の間、前記ガラスセラミック物品に適用される、実施形態28に記載の方法。
【0208】
実施形態30
前記イオン交換媒体が、30質量%~50質量%のNaNO3と、50質量%~70質量%のKNO3とを含む、実施形態27~29のいずれかに記載の方法。
【0209】
実施形態31
消費者向け電子製品において、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体内にある電気部品であって、前記電気部品がコントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、前記ディスプレイが前記筐体の前記前面又はそれに隣接している、電気部品;及び
前記ディスプレイの上に配置されたカバー基板
を備えており、
前記筐体の一部又は前記カバー基板のうちの少なくとも一方が、実施形態1~6のいずれかに記載の前記イオン交換したガラスセラミック物品を含む、
消費者向け電子製品。