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特開2023-100759気体動圧軸受、モータおよびファンモータ
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  • 特開-気体動圧軸受、モータおよびファンモータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100759
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】気体動圧軸受、モータおよびファンモータ
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20230711BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20230711BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20230711BHJP
   H02K 7/08 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F16C32/04 Z
F16C17/02 A
H02K7/14 A
H02K7/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072551
(22)【出願日】2023-04-26
(62)【分割の表示】P 2019141391の分割
【原出願日】2019-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2019066217
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福島 和彦
(72)【発明者】
【氏名】玉岡 健人
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スラスト軸受部と回転部のマグネットを配置するスペースを確保しつつ、スラスト軸受部がスラスト方向の負荷を支持できる磁力を確保できる構造を提供する。
【解決手段】動圧部を有するシャフト31と、シャフトに対向する動圧部を有するスリーブ25とを有する気体動圧軸受であって、気体動圧軸受の軸方向一方側には、シャフトに支持された回転側マグネット支持部312およびスリーブに支持された固定側マグネット支持部252により軸方向に位置決め可能なスラスト軸受部5を有する。回転側マグネット311は、軸方向に延びる筒状であって、軸方向に異なる磁極を有する。固定側マグネット251は、軸方向に延びる筒状であって、回転側マグネットと径方向に隙間を介して対向し、回転側マグネットの磁極と径方向に異なる磁極を有する。固定側マグネットの軸方向両端部には、強磁性体の固定側補助部材254を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心に回転可能であり、シャフト動圧部を有するシャフトと、
前記シャフト動圧部と径方向に隙間を介して対向するスリーブ動圧部を有するスリーブと、
を有する気体動圧軸受であって、
前記気体動圧軸受の軸方向一方側には、前記シャフトに支持された回転側マグネットおよび前記スリーブに支持された固定側マグネットにより軸方向に位置決め可能なスラスト軸受部を有し、
前記回転側マグネットは、軸方向に延びる筒状であって、軸方向に異なる磁極を有し、
前記固定側マグネットは、軸方向に延びる筒状であって、前記回転側マグネットと径方向に隙間を介して対向し、前記回転側マグネットの前記磁極と径方向に異なる磁極を有し、
前記回転側マグネットの軸方向一方側の端部にのみ、強磁性体の回転側補助部材を有する。
【請求項2】
請求項1に記載の気体動圧軸受であって、
前記回転側マグネットおよび前記回転側補助部材を合わせた軸方向の長さは、前記固定側マグネットの軸方向の長さよりも長い。
【請求項3】
請求項2に記載の気体動圧軸受であって、
前記回転側補助部材は、前記回転側マグネットよりも径方向外側に突出する。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の気体動圧軸受と、
前記シャフトと一体に回転する回転部と、
前記スリーブと一体の静止部と、を有するモータ。
【請求項5】
請求項4に記載の前記モータと、
前記回転部と一体に回転する羽根を有するインペラと、
前記静止部と一体のハウジングと、を有するファンモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体動圧軸受と、当該気体動圧軸受を有するモータと、当該モータおよびインペラを有するファンモータとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体動圧軸受を用いたモータが知られている。モータの回転部材は、静止部材に対して、気体動圧軸受を介して回転可能に支持される。気体動圧軸受が形成される部位における、回転部材と静止部材との間には、微小な間隙が設けられる。また、回転部材と静止部材の少なくとも一方の、当該間隙を構成する面には、動圧発生溝が設けられる。さらに、モータの回転部材を、静止部材に対してスラスト方向に支持するスラスト軸受が設けられる。モータの回転部材は、スラスト軸受の磁石によりスラスト方向に支持される。従来の気体動圧軸受を用いたモータの構造については、例えば、特開2003-166534公報に記載されている。
【特許文献1】特開2003-166534公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特開2003-166534公報のモータでは、動圧気体軸受装置において、フランジ部の外周側面とフランジ部の外周側面に対向するハブ内面との間に、ハブをスラスト方向に支持するスラスト軸受を設けた構造が開示されている。しかし、上記のスラスト軸受を、軸受付近の限られたスペースに配置する構造を適用すると、スラスト軸受用のマグネットを配置するスペース、またはスラスト方向の負荷を支持できる磁力を確保できない虞がある。
【0004】
本発明の目的は、気体動圧軸受のスラスト方向を支持するスラスト軸受部において、スラスト軸受部用のマグネットを配置するスペース、および回転部を支持するための軸受スペースを確保しつつ、スラスト軸受部がスラスト方向の負荷を支持できる磁力を確保できる構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の例示的な発明は、中心軸を中心に回転可能でありシャフト動圧部を有するシャフトと、前記シャフト動圧部と径方向に隙間を介して対向するスリーブ動圧部を有するスリーブとを有する気体動圧軸受であって、前記気体動圧軸受の軸方向一方側には、前記シャフトに支持された回転側マグネットおよび前記スリーブに支持された固定側マグネットにより軸方向に位置決め可能なスラスト軸受部を有する。前記回転側マグネットは、軸方向に延びる筒状であって、軸方向に異なる磁極を有する。前記固定側マグネットは、軸方向に延びる筒状であって、前記回転側マグネットと径方向に隙間を介して対向し、前記回転側マグネットの前記磁極と径方向に異なる磁極を有する。前記固定側マグネットの軸方向両端部には、強磁性体の固定側補助部材を有する。
【0006】
また、前記気体動圧軸受と、前記シャフトと一体に回転するロータと、前記スリーブと一体のステータとを有するモータ。
【0007】
また、前記ロータと一体に回転する羽根を有するインペラと、前記ステータと一体のハウジングとを有する軸流ファンモータ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の例示的な発明によれば、補助部材によって、気体動圧軸受をスラスト方向に支持するスラスト軸受部の磁石からの磁力をスラスト軸受部に有効に使用することが出来るため、少ないスペースでスラスト負荷の支持に必要な磁力を得ることが出来る。
【0009】
また、本発明で開示するモータは、負荷に対するスラスト方向の変動を小さくすることができる。従って、振動または騒音の低減などが可能となる。
【0010】
また、本発明で開示する軸流ファンモータは、振動または騒音の低減とともに、安定した風量、風圧を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態に係るファンモータの縦断面図である。
図2図2は、第1実施形態に係るスリーブの縦断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係るスラスト軸受部の縦断面図である。
図4図4は、変形例に係るスラスト軸受部の縦断面図である。
図5図5は、他の変形例に係るスラスト軸受部の縦断面図である。
図6図6は、さらに別の変形例に係るスラスト軸受部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、後述するモータの中心軸と平行な方向を「軸方向」、モータの中心軸に直交する方向を「径方向」、モータの中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、本願では、軸方向を上下方向とし、後述するベース部材に対して回転部側を上として、各部の形状や位置関係を説明する。ただし、この上下方向の定義により、本発明に係るモータおよびファンモータの使用時の向きを限定する意図はない。また、本願において「平行な方向」とは、略平行な方向も含む。また、本願において「直交する方向」とは、略直交する方向も含む。また、軸方向の一方側は、図1における下側を指し、軸方向の他方側は、図1における上側を指す。
【0013】
<1.第1実施形態>
<1-1.ファンモータの構成>
本発明の第1実施形態に係るファンモータ1は、例えば、パソコンの筐体の内部に搭載され、冷却用の空気流を供給する装置として使用される。ただし、ファンモータ1は、冷蔵庫等の家電製品、車載用ヘッドライト等の高温となる機器、または複数の電子機器が配置されたサーバシステム等の空間に、冷却用の空気流を供給する装置として用いられてもよい。図1は、本発明の第1実施形態に係るファンモータ1の縦断面図である。図1に示すとおり、ファンモータ1は、モータ10と、インペラ50と、ハウジング60とを有する。
【0014】
<1-2.モータの構成>
続いて、モータ10の構成について説明する。モータ10は、駆動電流に応じてインペラ50を回転させる装置である。図1に示すとおり、モータ10は、静止部2と回転部3とを有する。静止部2は、ハウジング60に固定され、ハウジング60に対して相対的に静止している。回転部3は、静止部2に対して、上下に延びる中心軸9を中心として後述する気体動圧軸受4を介して回転可能に支持される。
【0015】
静止部2は、ベース部材21、ステータ22、回路基板23、および軸受部24を有する。
【0016】
ベース部材21は、ステータ22および回路基板23の一方側において径方向に拡がる板状の部材である。ベース部材21の材料には、例えば、樹脂が用いられる。ただし、ベース部材21の材料には、金属が用いられてもよい。ベース部材21は、中心軸9の周囲において、ベース部材21を軸方向に貫通する貫通孔210を有する。ベース部材21は、後述するハウジング60に、例えば、ねじ止めで固定される。ただし、ベース部材21は、ハウジング60と単一の部材として形成されてもよい。
【0017】
ステータ22は、ステータコア41、複数のコイル42、インシュレータ43、および絡げピン44を有する電機子である。ステータ22は、ベース部材21の少なくとも一部よりも上方に位置する。ステータコア41は、例えば、珪素鋼板等の電磁鋼板が軸方向に積層された積層鋼板からなる。ステータコア41を含むステータ22は、例えば、後述するスリーブ25の外周面に、接着剤で直接的に固定されることによって、ベース部材21に間接的に支持される。なお、ステータ22は、別部材(図示省略)を介して、後述するスリーブ25の外周面に間接的に固定されてもよい。
【0018】
また、ステータコア41は、円環状のコアバック411と、コアバック411から径方向外側へ向けて突出する複数のティース412と、を有する。インシュレータ43は、後述する複数のコイル42を構成する導線とステータコア41とを絶縁するために用いられる。インシュレータ43は、ステータコア41の表面の少なくとも一部を覆う。また、インシュレータ43は、後述するスリーブ25の径方向外側に位置する。インシュレータ43の材料には、絶縁体である樹脂が用いられる。インシュレータ43の詳細な構成については、後述する。複数のコイル42は、複数のティース412の周囲にインシュレータ43を介して巻かれた、導線の集合体である。複数のティース412および複数のコイル42は、好ましくは、中心軸9を中心とした周方向に、円環状に略等間隔に配列される。
【0019】
回路基板23は、ステータ22の少なくとも一部の一方側に位置し、中心軸9に対して略垂直に配置される。回路基板23は、インシュレータ43の一方側端部付近に、例えば、溶着により固定される。回路基板23は、ステータ22と電気的に接続される。回路基板23には、コイル42に駆動電流を供給するための電気回路が搭載される。コイル42を構成する導線の端部は、回路基板23の電気回路と電気的に接続される。モータ10の駆動電流は、外部電源(図示省略)から、回路基板23および導線を介して、コイル42に供給される。
【0020】
ステータ22の絡げピン44は、コイル42を構成する導線の回路基板23への接続を容易にして接続不良を低減するために用いられる。コイル42から引き出された導線の端部は、絡げピン44に絡げられる。絡げピン44の一方側端部は、回路基板23に電気的に接続されるとともに、回路基板23に半田付けにより固定される。また、インシュレータ43は、絡げピン44の外周面の一部を円筒状に覆う。これにより、絡げピン44が支持されるとともに、絡げピン44に絡げられた導線の端部以外のコイル42と絡げピン44とが短絡することによる耐圧不良を防止できる。
【0021】
軸受部24は、後述するシャフト31を回転可能に支持する部位である。軸受部24の材料には、例えば、金属が用いられる。軸受部24は、シャフト31の周囲において、軸方向に円筒状に延びるスリーブ25と、シャフト31とスリーブ25をスラスト方向に支持するスラスト軸受部5と、スリーブ25の一方側端部の開口を塞ぐ円盤状のキャップ26とを有する。スリーブ25の内周面は、シャフト31の外周面と、径方向に対向している。スリーブ25の一方側は、ベース部材21の貫通孔210内に挿入され、例えば接着剤で、ベース部材21に固定される。
【0022】
スリーブ25の一方側の内周面側のスラスト軸受部5には、固定側マグネット251が、例えば、接着剤で固定される。固定側マグネット251は、中心軸9を中心として筒状に配置される。固定側マグネット251の内周面は、N極とS極とが軸方向に配列された磁極面となっている。また、固定側マグネット251の内周面は、後述する回転側マグネット311の外周面と、径方向に間隙を介して対向する。
【0023】
固定側マグネット251の軸方向端面には、固定側補助部材253、254が、例えば接着剤で固定されている。固定側補助部材253、254は、中心軸9を中心として環状に配置される。固定側補助部材253、254の内周面径は、固定側マグネット251の内周面径と略同じである。また、固定側補助部材253、254の内周面は、後述する回転側補助部材313、314の外周面と、径方向に間隙を介して対向する。
【0024】
回転部3は、シャフト31、ロータハブ部32、および駆動マグネット33を有する。
【0025】
シャフト31は、中心軸9に沿って配置され、軸方向に延びる円柱状の部材である。シャフト31は、ロータハブ部32と一体であっても、別の部材であってもよい。シャフト31の材料には、例えば、ステンレス等の金属が使用される。シャフト31の外周面と、スリーブ25の内周面とは、僅かな隙間300を介して径方向に対向する。また、シャフト31の一方側は、一方側へ向かうにつれて段階的に径が小さくなる。シャフト31の一方側端部付近の外周面側に位置するスラスト軸受部5には、回転側マグネット311が、例えば、接着剤で固定される。回転側マグネット311は、中心軸9を中心として筒状に配置される。回転側マグネット311の外周面は、S極とN極とが軸方向に配列された磁極面となっている。また、回転側マグネット311の外周面は、固定側マグネット251の内周面と、径方向に対向する。これにより、回転側マグネット311の外周面と固定側マグネット251の内周面との間の磁力の引き合いにより、固定側マグネット251を含むスリーブ25に対して、回転側マグネット311を含むシャフト31が、軸方向に非接触状態で支持される。その結果、モータ10の駆動時における、回転部3の軸方向の位置が安定する。
【0026】
また、回転側マグネット311の軸方向端面には、回転側補助部材313、314が、例えば接着剤で固定されている。回転側補助部材313、314は、中心軸9を中心として環状に配置される。回転側補助部材313、314の外周面径は、回転側マグネット311の外周面径と略同じである。また、回転側補助部材313、314の外周面は、上記固定側補助部材253、254の内周面と、径方向に間隙を介して対向する。
【0027】
ロータハブ部32は、シャフト31の周囲において環状に拡がる部材である。ロータハブ部32は、ハブ天板部321とハブ筒状部322とを有する。ハブ天板部321は、ステータ22の他方側に位置し、シャフト31の他方側端部付近から径方向外側へ向けて円環状に拡がる部位である。ハブ天板部321の径方向内側には、ロータハブ部32を軸方向に貫くハブ貫通孔320が設けられている。シャフト31の他方側端部付近の部位は、ロータハブ部32の当該ハブ貫通孔320に圧入される。これにより、ロータハブ部32は、インシュレータ43よりも軸方向他方側においてシャフト31に固定される。ただし、シャフト31とロータハブ部32とは、接着または焼き嵌め等の他の方法で、互いに固定されてもよい。ハブ筒状部322は、ハブ天板部321の外縁から一方側へ向けて略円筒状に延びる部位である。ハブ筒状部322は、中心軸9と略同軸に配置される。ハブ筒状部322の内周面には、駆動マグネット33の外周面が固定される。そして、ハブ筒状部322は、駆動マグネット33を支持する。ロータハブ部32の材料には、鉄等の磁性体が用いられる。これにより、駆動マグネット33から発生した磁束が外部に逃げてしまうことを抑制できる。
【0028】
駆動マグネット33は、ロータハブ部32のハブ筒状部322の内周面に、例えば、接着剤で固定される。駆動マグネット33は、略円筒形状であり、ステータ22の径方向外側に位置する。駆動マグネット33の内周面には、N極とS極とが周方向に交互に着磁される。また、駆動マグネット33の内周面は、複数のティース412の径方向外側の端面と、僅かな間隙を介して径方向に対向する。すなわち駆動マグネット33は、ステータ22と径方向に対向する磁極面を有する。ただし、略円筒形状の駆動マグネット33に代えて、複数のマグネットを用いてもよい。複数のマグネットを用いる場合には、N極の磁極面とS極の磁極面とが周方向に交互に並ぶように、ハブ筒状部322の内周面に配置すればよい。なお、駆動マグネット33は、鉄製のヨークを介してハブ筒状部322に間接的に固定されてもよい。
【0029】
このようなモータ10において、コイル42に駆動電流を供給すると、コイル42の磁芯である複数のティース412に磁束が生じる。また、ステータ22および駆動マグネット33を通る磁気回路が形成される。そして、ティース412と駆動マグネット33との間の磁束の作用により、静止部2と回転部3との間に、周方向のトルクが発生する。その結果、静止部2に対して回転部3が、後述する気体動圧軸受4を介して中心軸9の周りを回転する。また、ロータハブ部32に支持された後述するインペラ50は、回転部3とともに中心軸9を中心として回転する。
【0030】
ここで、気体動圧軸受4の構成について説明する。上述のとおり、スリーブ25を含む静止部2と、シャフト31を含む回転部3とは、微小な隙間300を介して径方向に対向している。隙間300には、空気等の気体が介在している。ただし、隙間300には、空気以外の気体、または空気と空気以外の気体との混合気体が介在していてもよい。
【0031】
図2は、スリーブ25の縦断面図である。図2に示すとおり、スリーブ25は、その内周面に、上ラジアル溝列511と下ラジアル溝列512とを有する。上ラジアル溝列511と下ラジアル溝列512とは、軸方向に間隔をあけて設けられている。上ラジアル溝列511は、一方側へ向かうにつれて周方向一方側へ傾斜する複数の溝を有する。当該複数の溝は、互いに平行に配置される。また、下ラジアル溝列512は、他方側へ向かうにつれて周方向一方側へ傾斜する複数の溝を有する。当該複数の溝は、互いに平行に配置される。ここで、周方向一方側は、図2における左側を示し、モータ10の回転部3の回転方向と同方向となる。なお、上ラジアル溝列511および下ラジアル溝列512は、いずれも、軸方向の中央部へ向かうにつれて周方向一方側へ傾斜する、所謂ヘリングボーン状の溝列であってもよい。モータ10の駆動時には、上ラジアル溝列511および下ラジアル溝列512によって、上ラジアル溝列511と下ラジアル溝列512との軸方向の間に動圧が誘起される。これにより、スリーブ25に対するシャフト31の径方向の支持力が発生する。
【0032】
すなわち、このモータ10では、スリーブ25の内周面と、シャフト31の外周面とが、気体が介在する隙間300を介して径方向に対向することにより、気体動圧軸受4であるラジアル軸受部が構成される。なお、上ラジアル溝列511および下ラジアル溝列512は、スリーブ25の内周面およびシャフト31の外周面のいずれか一方に設けられていればよい。
【0033】
上述のとおり、静止部2におけるスリーブ25と、回転部3におけるシャフト31と、これらの間の隙間300に介在する気体とで、気体動圧軸受4が構成されている。回転部3は、気体動圧軸受4によって径方向に支持され、中心軸9を中心として非接触状態で回転する。また、スラスト軸受部5に設けられた固定側マグネット251と回転側マグネット311との間に生じる磁束によって、スリーブ25に対してシャフト31が、軸方向に非接触状態で支持される。
【0034】
<1-3.インペラおよびハウジングの構成>
続いて、インペラ50およびハウジング60の構成について説明する。
【0035】
インペラ50は、インペラカップ51と、複数の羽根52とを有する。インペラカップ51は、ロータハブ部32のハブ天板部321の他方側面とハブ筒状部322の外周面とに固定される。各羽根52は、インペラカップ51から径方向外側に向かって拡がる。複数の羽根52は、互いに周方向に略等間隔に配列されている。インペラカップ51および複数の羽根52は、例えば、樹脂の射出成型により、一繋がりの部材として形成される。ただし、インペラカップ51と複数の羽根52とが、材料の異なる別体の部材で構成されていてもよい。インペラカップ51および複数の羽根52は、モータ10の回転部3とともに、中心軸9を中心として回転する。
【0036】
なお、変形例として、インペラ50は、ロータハブ部32を介さずに、シャフト31に直接固定される構造であってもよい。例えば、インペラ50は、シャフト31の他方側端部に固定され、かつシャフト31の周囲において環状に拡がるインペラカップ51と、インペラカップ51から径方向外側へ拡がる複数の羽根52と、を有していてもよい。そして、インペラ50は、インペラカップ51の内周面に鉄製のヨークを介して駆動マグネット33の外周面が固定されることによって、駆動マグネット33を支持する構造であってもよい。
【0037】
ハウジング60は、モータ10およびインペラ50の周囲において、軸方向に筒状に延びる。ハウジング60は、モータ10およびインペラ50を径方向内側に収容する。ハウジング60の一方側の内周面には、モータ10のベース部材21の外周面が固定される。すなわち、モータ10のベース部材21は、ファンモータ1の一方側面を形成する。ハウジング60の径方向内側の空間は、ハウジング60の他方側の開口600を介して外部に露出する。また、ハウジング60の一方側には、ベース部材21を軸方向に貫通する排気口(図示省略)が設けられている。
【0038】
インペラ50が回転することにより、開口600を介してハウジング60の内部の空間へ、軸方向に気体が吸引される。また、ハウジング60内に吸引された気体は、インペラ50により加速され、インペラ50とハウジング60との間の風洞を、軸方向一方側に流れる。その後、気体は、ベース部材21の排気口(図示省略)を通って、ハウジング60の外部へ排出される。
【0039】
<1-4.スラスト軸受部の詳細な構成>
続いて、スラスト軸受部5の詳細な構成について説明する。
【0040】
図3は、第1実施形態に係るスラスト軸受部の縦断面図である。スラスト軸受部5は、気体動圧軸受4の軸方向一方側で、シャフト31に支持された回転側マグネット311およびスリーブ25に支持された固定側マグネット251により軸方向に位置決め可能な軸受である。
【0041】
スリーブ25は、固定側マグネット251を支持する固定側マグネット支持部252と、シャフト動圧部315と径方向に対向するスリーブ動圧部255と、スリーブ動圧部255と固定側マグネット支持部252とを接続するスリーブ段部256と、を有する。つまり、スリーブ段部256は、スリーブ動圧部255の内径と固定側マグネット支持部252の内径とを接続する、中心軸9に略垂直な部位である。
【0042】
スリーブ動圧部255の内径は、固定側マグネット支持部252の内径よりも小さい。また、固定側マグネット251の内径は後述する回転側マグネット311よりも大きい。その為、固定側マグネット支持部252の内径で支持する固定側マグネット251の外径を大きくすることで、固定側マグネット251の磁力を強くすることが出来る。
【0043】
固定側マグネット251は、軸方向に延びる筒状であって、軸方向に異なる磁極を有する。また、回転側マグネット311と径方向に隙間を介して対向する。固定側マグネット251の少なくとも一つの磁極は、回転側マグネット311の少なくとの一つの磁極と径方向に異なる磁極と対向する。更に、固定側マグネット251の軸方向両端部には、強磁性体の固定側補助部材253、254を備えている。
【0044】
固定側補助部材253、254は、固定側マグネット支持部252と径方向に嵌合することで、スリーブ25との高い同軸度を容易に得ることが出来る。また、固定側補助部材253、254の材質は、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体が望ましい。
【0045】
スリーブ25と固定側マグネット251との組立は、固定側マグネット支持部252の内周面へ接着剤を塗布する。次いで、固定側補助部材253を挿入し、固定側マグネット251を挿入し、更に固定側補助部材254を挿入する。さらに、後述のキャップ26を挿入し、接着剤を硬化する。また、固定側マグネット251と2つの固定側補助部材253、254とを組立後に、固定側マグネット支持部252に挿入接着または圧入してもよい。また、圧入、接着、カシメ等の様々な固定方法を選ぶことができる。また、固定側補助部材253、254は、固定側マグネット251に磁力で固定されてもよい。
【0046】
軸受部24は、スリーブ25の軸方向一方側の開口を覆うキャップ26を有する。固定側補助部材254の軸方向一方側端面は、キャップ26の軸方向他方側と軸方向に当接している。こうすることで、軸方向一方側から、固定側補助部材253、254と回転側補助部材313、314の対向面などへの異物の侵入を抑制できる。
【0047】
スリーブ段部256は、スリーブ動圧部255と固定側マグネット支持部252とを接続する。スリーブ動圧部255の内径は、固定側マグネット支持部252の内径よりも小さい。その為、固定側補助部材253、254を固定側マグネット支持部252に挿入し、スリーブ段部256と軸方向に位置決めすることが出来る。固定側マグネット251は、固定側補助部材253、254を介して、キャップ26とスリーブ段部256との間に支持される。その為、固定側マグネット251を、固定側マグネット支持部252、スリーブ段部256、キャップ26にて支持することが出来るため、径方向、軸方向共に正確な位置に収めることが容易である。また、キャップ26の軸方向位置を、スリーブ段部256からの長さと、固定側補助部材253、254および固定側マグネット251の長さで決めることが出来るので、容易に組み立てることが出来る。
【0048】
また、キャップ26の径方向外面は、スリーブ25の径方向内面と径方向に嵌合している。そのため、キャップ26とスリーブ25との結合力により、固定側マグネット251を軸方向により確実に固定できる。キャップ26の径方向外面と嵌合するスリーブ25の径方向内面は、固定側マグネット支持部252の内径と同じであるが、異なっていてもよい。
【0049】
シャフト31は、回転側マグネット311が支持される回転側マグネット支持部312と、回転側マグネット支持部312の外径よりも外径寸法が大きいシャフト動圧部315とを有する。シャフト動圧部315は、シャフト31の外周面の一部であって、スリーブ25の内周面と気体が介在する隙間300を介して径方向に対向する。つまり、気体動圧軸受4であるラジアル軸受部が構成される部位である。シャフト動圧部315の一部は、上ラジアル溝列511および下ラジアル溝列512と気体が介在する隙間300を介して径方向に対向する。
【0050】
回転側マグネット311は、軸方向に延びる筒状であって、軸方向に異なる磁極を有する。また、固定側マグネット251と径方向に隙間を介して対向する。回転側マグネット311の少なくとも一つの磁極は、固定側マグネット251の少なくとの一つの磁極と径方向に異なる磁極と対向する。更に、回転側マグネット311の軸方向両端部には、強磁性体の回転側補助部材313、314を備えている。
【0051】
回転側補助部材313、314は、回転側マグネット支持部312と径方向に嵌合することで、シャフト31との高い同軸度を容易に得ることが出来る。また、回転側補助部材313、314の材質は、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体が望ましい。また、鉄の場合には、シャフト31との固定方法において、圧入、接着、カシメ等の様々な方法が選ぶことができる。また、回転側補助部材313、314は、回転側マグネット311に接着などで固定されてもよい。
【0052】
シャフト動圧部315は、スリーブ動圧部255の内径とわずかな隙間300を介して対向することで気体動圧軸受4となる。従って、スリーブ動圧部255の内径は、シャフト動圧部315の外径よりも僅かに大きい。一方、シャフト動圧部315の外径は、回転側マグネット311の外径よりも大きい。従って、回転側マグネット311はスリーブ25の内径を通すことが出来るので、組立が容易である。
【0053】
固定側マグネット251の軸方向両端面からは、径方向外側に向かう磁束が発生する。この磁束は、径方向内側に配置された回転側マグネット311と直接干渉せず、スラスト軸受部5として作用しない。固定側補助部材253、254を備えることで、多くの磁束が固定側マグネット251に向かい、スラスト軸受部5に有効な磁束として作用する。したがって、スラスト軸受に必要な磁力をより少ないスペースで得ることができる。
【0054】
同様に、回転側マグネット311の軸方向両端面からは、径方向内側に向かう磁束が発生する。径方向内側に向かう磁束は、径方向外側に配置された固定側マグネット251と直接干渉せず、スラスト軸受部5として作用しない。回転側補助部材313、314を備えることで、径方向内側に向かう磁束が低減し、発生した磁束の多くが径方向外側に配置した固定側マグネット251に向かい、スラスト軸受部5に有効な磁束として作用する。したがって、スラスト軸受に必要な磁力をより少ないスペースで得ることができる。
【0055】
また、回転側マグネット311と、固定側マグネット251の軸方向長さは等しいことが望ましい。径方向に互いに対向する軸方向長さが同じであれば、互いの軸方向位置が変化したときに、元に戻す方向のスラスト方向の力が働きやすく、スラスト軸受部5として機能する。
【0056】
ここで、図1に示すように、シャフト31の軸方向一方側の端面とキャップ26の軸方向他方側の端面との隙間は、静止部2と回転部3との軸方向における隙間の中で最も狭い。より詳細に述べると、シャフト31の軸方向一方側の端面とキャップ26の軸方向他方側の端面との隙間は、インペラカップ51の軸方向一方側の端面と回路基板23の軸方向他方側の端面との隙間よりも狭い。また、シャフト31の軸方向一方側の端面とキャップ26の軸方向他方側の端面との隙間は、ハブ天板部321の軸方向一方側の端面とスリーブ25の軸方向他方側の端面との隙間よりも狭い。これにより、静止部2と回転部3が近づいたとしても、始めにシャフト31とキャップ26が接触するため、インペラカップ51が静止部2と接触することがない。したがって、インペラ50に歪みを生じることを抑えることができる。
【0057】
<2.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0058】
図4は、変形例に係るスラスト軸受部5aの縦断面図である。図3に示すスラスト軸受部5は、固定側マグネット251の磁極と回転側マグネット311の磁極とがそれぞれ径方向に対向した構造である。しかし、すべての磁極が径方向に対向していなくてもよい。たとえは、図4では、固定側マグネット251aの磁極と回転側マグネット311aの磁極とのそれぞれ一つの磁極が径方向に対向した構造である。より具体的には、固定側マグネット251aは、軸方向に他方側からN極、S極の磁極を持っている。また、回転側マグネット311aは、軸方向に他方側からN極、S極の磁極を持っている。そして、固定側マグネット251aのS極と回転側マグネット311aのN極が径方向に対向した構造である。
【0059】
以上のように、本実施形態で開示する固定側補助部材253a、254aおよび回転側補助部材313a、314aを使用することで、スラスト軸受部5aのマグネットを配置するスペース、および回転部を支持するための軸受スペースを確保しつつ、スラスト軸受部5aがスラスト方向の負荷を支持できる磁力を確保できる構造を提供することができる。
【0060】
また、回転方向が決まっている場合や、回転方向によってスラスト負荷の向きや大きさが異なるモータや、ファンモータの気体動圧軸受を支持するスラスト軸受では、スラスト負荷の大きさ、向きに合わせてスラスト軸受部の構成を決めることが出来る。
【0061】
<3.他の変形例>
図5は、他の変形例に係るスラスト軸受部の縦断面図である。なお、上記実施形態と共通の内容については、記載を省略する。
【0062】
図5において、回転側マグネット311の軸方向一方側の端部にのみ、強磁性体の回転側補助部材314を有する。すなわち、回転側マグネット311の軸方向他方側の端部には回転側補助部材313は配置されない。また、固定側マグネット251の軸方向両端部には、固定側補助部材253,254は配置されない。言い換えると、回転側マグネット311の軸方向他方側の端面は、シャフト31の段差面に直接接触する。また、固定側マグネット251の軸方向他方側の端面は、スリーブ25のスリーブ段部256に直接接触する。なお、固定側マグネット251の軸方向一方側の端部は、図1に示すようなキャップ26に接触してもよく、露出してもよい。
【0063】
本実施形態において、軸方向他方側から軸方一方側へと向かって空気が流れる。すなわち、ファンモータ1の軸方向他方側が吸気側であり、軸方向一方側が排気側である。ここで、ファンモータ1が回転する際、スラスト軸受部5における磁力が小さい場合、インペラ50が揚力によって吸気側(軸方向他方側)へ浮上しやすくなる。インペラ50が浮上する量が大きいと、インペラ50がハウジング60の外部に飛び出してしまうという課題が考えられる。一方で、補助部材を多く取り付けることで、部品公差の影響が磁力のばらつきにつながり、回転時にインペラ50が擦れるという課題も考えられる。
【0064】
そこで、本実施形態において、回転側マグネット311の軸方向一方側のみに補助部材を配置することにより、シャフトおよびスリーブに直接マグネットが接触し、補助部材の部品公差による磁力のばらつきを抑えることができる。さらに、マグネットの軸方向一方側はシャフトおよびスリーブに接触しておらず、より磁束をひきつけやすい。したがって、回転側マグネット311の軸方向一方側のみに補助部材を配置することにより、スラスト軸受部5に必要な磁力をより少ないスペースで得ることができる。
【0065】
さらに、回転側マグネット311および回転側補助部材314を合わせた軸方向の長さは、固定側マグネット251の軸方向の長さよりも長い。すなわち、回転側においてオーバーハングとなる。これにより、通常は漏れ磁束となっていた固定側マグネット251の軸方向端面から流れる磁束を、回転側補助部材314により回転側へとひきつけることができる。したがって、スラスト軸受部5における、磁力を上げることができる。
【0066】
図5において、回転側マグネット311の径方向の長さと回転側補助部材314の径方向の長さは同じである。一方で、図6に示すように、回転側補助部材314は、回転側マグネット311よりも径方向外側に突出してもよい。図6は、さらに別の変形例に係るスラスト軸受部の縦断面図である。この時、回転側マグネット311と固定側マグネット251とのエアギャップを広く確保し、磁力のばらつきを抑えることができる。
【0067】
なお、気体動圧軸受、スラスト軸受部、モータおよびファンモータの細部の形状は、本願の各図に示された構成および形状と、相違していてもよい。また、上述の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【0068】
例えば、本実施形態において、単一のファンモータのみを例示しているが、それに限らない。例えば、軸方向に2つのファンが並んだ直列軸流ファンであってもよい。また、上記2つのファンが互いに異なる方向を向く直列反転軸流ファンであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、モータおよびファンモータに利用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 ファンモータ
2 静止部
3 回転部
4 気体動圧軸受
5、5a スラスト軸受部
9 中心軸
10 モータ
21 ベース部材
22 ステータ
23 回路基板
24 軸受部
25 スリーブ
251、251a 固定側マグネット
252 固定側マグネット支持部
253、254 固定側補助部材
255 スリーブ動圧部
256 スリーブ段部
257 円周溝
26 キャップ
300 隙間
31 シャフト
311、311a 回転側マグネット
312 回転側マグネット支持部
313、314 回転側補助部材
315 シャフト動圧部
32 ロータハブ部
33 駆動マグネット
41 ステータコア
411 コアバック
412 ティース
42 コイル
43 インシュレータ
44 ピン
50 インペラ
51 インペラカップ
52 羽根
60 ハウジング
210 貫通孔
320 ハブ貫通孔
321 ハブ天板部
322 ハブ筒状部
600 開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6