(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010079
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/86 20060101AFI20230113BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20230113BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20230113BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20230113BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230113BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A61K8/86
A61K8/81
A61K8/60
A61K8/92
A61K8/06
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113899
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 和樹
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA122
4C083AB051
4C083AC012
4C083AC022
4C083AC122
4C083AC352
4C083AC422
4C083AD041
4C083AD042
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD111
4C083AD112
4C083AD152
4C083AD201
4C083AD202
4C083AD221
4C083AD222
4C083BB11
4C083CC05
4C083DD31
4C083EE06
4C083EE07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高分子乳化剤としてポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを用い、界面活性剤を使用することなく、植物油(極性油)やスクワラン等の非極性油を含む多種類の油剤について、小さな粒子径で乳化でき、油剤を高配合とした場合においてもべたつきが小さく、肌なじみの良い使用感に優れた乳化化粧料を提供する。
【解決手段】以下の(A)~(D)の成分を含む乳化化粧料を提供する。
(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコール
(B)グルコース、スクロース、ポリグリセリンから選ばれる1以上
(C)油剤
(D)水
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(D)の成分を含む乳化化粧料。
(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコール
(B)グルコース、スクロース及びポリグリセリンから選ばれる1以上
(C)油剤
(D)水
【請求項2】
(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールのポリエチレングリコール鎖の平均重合度が9である請求項1に記載の乳化化粧料。
【請求項3】
(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと(C)油剤の質量比率(A):(C)が1:5.5~1:20である請求項1又は2に記載の乳化化粧料。
【請求項4】
(B)グルコース、スクロース及びポリグリセリンから選ばれる1以上を化粧料全量に対し0.1~10質量%含有する請求項1~3のいずれかに記載の乳化化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化化粧料に関する。特に、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを含む乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケアにおいて、肌の水分と油分を適切なバランスで保つことが最も重要な要素である。この重要な要素を満たすために、油剤を界面活性剤で乳化することで水相に均一分散させたクリームや乳液等の乳化化粧料が広く使用されている。乳化剤はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などに代表される一般的な乳化剤(低分子乳化剤)と、PEMULEN等に代表される高分子乳化剤に分類される。
【0003】
低分子乳化剤は、油剤を微細で均一性の高い乳化粒子に形成できることから、安定性が高い乳化組成物を作成できる。一方で、乳化したい油剤に合わせて乳化剤のHLB値の調整が必要になる等、最適な乳化剤の選択に手間がかかった。使用者によっては低分子乳化剤が皮膚刺激となりうる、乳化剤特有のべたつき感が生じる、といった課題もある。
【0004】
このような低分子乳化剤の課題に鑑み、近年、従来の低分子乳化剤に対してより使用性に優れ安全性が高い高分子乳化剤が開発されている。代表的な高分子乳化剤であるPEMULEN TR-1、PEMULEN TR-2(日本ルーブリゾール(株))は、ポリ(メタ)アクリル酸塩に疎水性基を導入した構造を有している。PEMULENは油の種類や量を問わずに中和工程のみで簡便に水中油型エマルションを形成できる利点を有する。また、高分子であるため皮膚に吸収されにくく、皮膚安全性にも優れている。しかしながら、中和工程を経ることで組成物の粘度が上昇するため、ジェル状やクリーム状など粘性を有する剤型には適するものの、化粧水や美容液などの粘度が低い剤型には適さず、PEMULENを用いた乳化では処方のバリエーション化が困難であった。さらに、高分子特有のべたつき感が生じるといった使用感上の課題もあった。一般的に高分子乳化剤は、低分子乳化剤に比べて乳化粒子径が比較的大きくなることが知られているが、PEMULENにおいても、乳化粒子径は大きく、その結果肌馴染みが悪いという課題がある。またアミノ酸塩やクエン酸塩等の電解質を添加すると、中和工程により増粘した組成物の粘度が低下して乳化安定性が悪化する課題もある。このような中、各社が様々な高分子乳化剤の開発、及びそれを含む化粧料の提案を行っている(特許文献1~3)。
【0005】
特許文献1には、特定構造の共重合体である高分子乳化剤を配合することで安定性の高い微細な粒径を有するマイクロエマルジョンが形成されてなる乳化化粧料が開示されている。
特許文献2には、特定構造のビニル系単量体から誘導される1種又は2種以上の構成単位を含む水溶性コポリマーと、アルコールと、を含むことを特徴とする、乳化組成物について開示されている。
特許文献3には、アクリルアミドアルキルスルホン酸および環状N-ビニルカルボキサミド類および/または線状N-ビニルカルボキシアミド類をベースとする架橋した水溶性または水膨潤性コポリマーを含有する化粧料であって、界面活性剤を含まない化粧料が開示されている。
【0006】
しかし、これらはいずれも乳化剤としての性能や、使用感が十分満足できるものではない。
【0007】
出願人は、高分子乳化剤の研究を続けており、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールが乳化剤になることを見出し、該高分子乳化剤を使った乳化組成物を開示した(特許文献4,5)。
特許文献4には、高分子乳化剤としてポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを使用し、いわゆる界面活性剤を使用せずに乳化化粧料を作成することが出来ること、得られた化粧料は皮膚刺激が低く、化粧水など粘度が低い化粧料になることが記載されている。しかしながら、他の界面活性剤を併用せずにポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールのみで乳化させる場合は、油性成分の配合は20%以下が好ましく、特に化粧水や乳液や美容液などの乳化組成物の場合、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと油性成分の質量比率は1:5~100:1が好ましいとするなど、比較的多めにポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを配合する必要があった。
【0008】
特許文献5には、高分子乳化剤としてポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを用い、さらに界面活性剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを併用して乳化組成物とすることを開示した。しかし、当該乳化組成物は、界面活性剤を使用しているため、界面活性剤特有のべたつき感や、刺激性が懸念されるという問題点があった。
出願人は、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと、グルコース、スクロース及びポリグリセリンから選ばれる1以上を組み合わせると、これまでよりもポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールの配合量を減らして油性成分を乳化できること、さらに得られた乳化化粧料は使用感に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-131767号公報
【特許文献2】特開2019-26593号公報
【特許文献3】特許4514013号公報
【特許文献4】特許第5680895号公報
【特許文献5】特許第5689322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高分子乳化剤としてポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを用いた系において、スクワラン(非極性油)や植物油(極性油)を含む多種類の油剤について、油剤を選ばず、小さな粒子径で乳化でき、油剤を高配合とした場合においてもべたつきが小さく、肌なじみの良い使用感に優れた乳化化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと、グルコース、スクロース及びポリグリセリンから選ばれる1以上とを組み合わせることで、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールの単独使用では乳化が難しいとされたスクワラン等の非極性油が、小さな粒子径で乳化でき、べたつきが小さく、肌なじみの良い使用感に優れた乳化化粧料を得ることに成功した。そして、グルコース、スクロース及びポリグリセリンから選ばれる1以上をポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと共に使用すれば、スクワランだけでなく、植物油を含む様々な種類の油剤について同様の効果をもたらすことをも見出だし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)以下の(A)~(D)の成分を含む乳化化粧料。
(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコール
(B)グルコース、スクロース及びポリグリセリンから選ばれる1以上
(C)油剤
(D)水
(2)(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールのポリエチレングリコール鎖の平均重合度が9である(1)に記載の乳化化粧料。
(3)(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと(C)油剤の質量比率(A):(C)が1:5.5~1:20である(1)又は(2)に記載の乳化化粧料。
(4)(B)グルコース、スクロース及びポリグリセリンから選ばれる1以上を化粧料全量に対し0.1~10質量%含有する(1)~(3)のいずれかに記載の乳化化粧料。
【発明の効果】
【0012】
ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを高分子乳化剤として使用する際に、特定の成分(グルコース、スクロース、ポリグリセリン)を組み合わせることで、油剤の種類を選ばずに1.5μmに満たない小さな粒子径で乳化できた。先行技術(特許文献4,特許第5680895号公報)では、油剤を20質量%程度に高配合する場合、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと油剤との質量比率を1:5~100:1とすることが好ましいとし、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールが1/5倍量に満たないと、乳化が不完全になる場合があり好ましくないことが開示されている。このように従来はポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを比較的多く配合することを推奨されていたが、本発明の構成をとることで、油剤に対するポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールの配合比率を下げても、優れた化粧料にすることが出来た。すなわち、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと油剤との質量比率を1:5.5~1:20とした組成においても、乳化粒子径が小さく(体積平均粒子径1.5μm未満)、べたつきが小さくなじみのよい使用感に優れた、皮膚安全性にも優れた乳化化粧料を提供することができた。
また、本発明の構成をとることで、ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールでは難しいとされたスクワランの乳化が可能となった。また、高分子乳剤として第一に選択されるペムレン(PEMULEN)では粘度のある剤型しかできなかったが、本発明の構成をとることで、油剤を多く配合し、かつ低粘度であるか粘度がほとんど無い化粧水等を、安定に提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の乳化化粧料)
本発明の乳化化粧料は、以下の(A)~(D)の各成分を乳化した化粧料である。
(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコール
(B)グルコース、スクロース及びポリグリセリンから選ばれる1以上
(C)油剤
(D)水
乳化のタイプは特に限定されないが、水中油型乳化とすることが好ましい。
本発明の乳化化粧料の乳化状態は、表面に油滴などがなく、均一に乳化している状態である。目視観察により乳化状態を評価することもでき、また、粒度分布計などにより平均粒子径を求めることもできる。この場合の乳化粒子の平均粒子径は、1.5μm未満が好ましい。1.5μm未満であれば、肌なじみがよく使用感に優れるからである。本発明の構成をとることで、乳化粒子径が小さい乳化物(体積平均粒子径1.5μm未満)が得られる。
【0014】
((A)成分:ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコール)
本発明の乳化化粧料に含まれるポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールは、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを単独重合させて得られるものである。ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコールメチルエーテルとメタクリル酸クロリドとを反応させて得ることができる。また、一部は試薬として市販されているものもある。例えば、新中村化学工業株式会社から市販されたNKエステルM-230G(n≒23)、NKエステルM-90G(n≒9)、日油株式会社から市販されたブレンマーPME-1000(n≒23)、ブレンマーPME-400(n≒9)、ブレンマーPME-200(n≒4)をモノマーとして用いることができる。次に、重合体の製造方法については常法に従えば良く、モノマーを溶媒中で重合開始剤の存在下、反応させて得られる。具体的には、特許第5680895号の合成例1,特許第5689322号の合成例1~3に示す方法などが例示できる。
【0015】
本発明に用いるポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールのポリオキシエチレン鎖の平均重合度は9、分子量がポリスチレン換算で1000以上、100000以下であるものが好ましく、さらに好ましくは2500以上、100000以下である
本発明の化粧料では、上記重合体が化粧料全体に対して、0.01~20質量%、好ましくは0.02~20質量%、より一層好ましくは0.1~10質量%、さらに一層好ましくは0.1~9質量%の範囲で含有される。
0.01質量%に満たないと、油性成分を十分に乳化することが困難となる恐れがある。20質量%を超えて配合しても乳化性能は変わらず、不経済であるし、化粧料の使用感に(A)成分の高分子特有のべたつき感を発生させる恐れがある。また、(A)成分は、粘性を持つのでハンドリングも悪くなるので好ましくない。
本発明において、(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールは乳化剤として作用する。本発明において、該重合体と(B)成分を含むことで他の界面活性剤を含まなくても優れた乳化化粧料を得ることができる。本発明において、「他の界面活性剤を含まない」とは、化粧料全量に対し、0.01質量%以下を意味する。本発明の乳化化粧料の性能(使用感等)に影響を与えない範囲で、他の界面活性剤を含ませてもかまわない。
【0016】
((B)成分:グルコース、スクロース、ポリグリセリン)
本発明の乳化化粧料には、グルコース、スクロース及びポリグリセリンからなる群から選ばれる1以上が含まれる。1以上であればよく、2種以上を組み合わせてもよい。これらは乳化の補助として機能し、(C)油剤に対する(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールの必要量を下げる働きをする。ポリグリセリンとしては、ポリグリセリン-3、ポリグリセリン-4、ポリグリセリン-6、ポリグリセリン-10を例示できる。
(A)成分に(B)成分を組み合わせることで、多量の油剤を配合した場合でも小さな粒子径で乳化でき、べたつきが小さくなじみのよい使用感に優れた乳化化粧料を提供することができる。また様々な油剤についても同様の効果をもたらすことができる。
本発明の乳化化粧料中の(B)成分:グルコース、スクロース、ポリグリセリンの単独での含有量は、化粧料全量に対し0.1~10質量%が好ましく、0.2~9質量%がより好ましく、0.5~8質量%がさらに好ましく、1質量%~8質量%が特に好ましい。2種以上配合する場合は、合計量が上記の範囲内であればよい。0.1質量%未満であると、乳化を補助する機能に乏しく、(A)成分を多く配合しなければならなくなって、高分子特有のべたつき感が発生する恐れが高まる。また、10質量%を超えると(B)成分によりべたつきが生じる恐れがある。
【0017】
((C)成分:油剤)
本発明の乳化化粧料に用いる油剤としては、化粧料に配合可能であれば、いずれの油剤も用いることができる。例えば、ホホバ種子油、オリーブ油、ヒマワリ種子油、メドフォーム油、ツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、胚芽油、小麦胚芽油、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ、モクロウ核油、硬化ヒマシ油、ミツロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ等の植物油、スクワラン(非極性油)、トリエチルヘキサノイン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、イソノナン酸イソトリデシル、ミネラルオイル(非極性油)、トリオクタン酸グリセリン、ステアリン酸、硬化油、シリコーン、イソステアリン酸、酢酸ラノリン、液状ラノリン、等も挙げられる。
本発明では、従来(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールの単独使用では乳化が困難とされたスクワランやミネラルオイルといった非極性油の乳化も問題なく乳化できる。
油剤は、化粧料全量に対し0.1~30質量%が好ましい。30質量%を超えるとべたつき、ぎらつき等が生じ、感触的に好ましくない場合がある。
使用感の点において、特にべたつきに留意する製品設計の場合には、(A)のポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと(C)の油剤の質量比率(A):(C)が1:5.5~1:20が好ましく、より好ましくは質量比率(A):(C)が1:5.5~1:16である。(A):(C)が1:5.5~1:20の範囲であれば、乳化粒子も細かく、乳化状態が良好な化粧料が得られることも担保されつつ、より一層(A)のポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールに由来するべたつきが低減されるので好ましい。この比率の範囲外であっても、ただちに著しく使用感が劣るというものではないが、この範囲では乳化状態も安定であることが確認されている。
【0018】
((D)成分:水)
本発明の乳化化粧料に使用できる水は、化粧品、外用医薬品、医薬部外品等で使用できる水を使用することができるが、精製水、蒸留水、膜濾過水、イオン交換水が好ましい。
水は、前記一種類のみを使用することも出来るし、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明で乳化剤として用いる(A)のポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールは粘性を有する物質である。(D)の水の一部をあらかじめ(A)成分と混合・希釈して(A)成分の粘度を下げる工程をとると、ハンドリングが良好となり、(C)の油剤との混和がしやすくなるので好ましい。この時(D)の水の他に、水溶性成分である多価アルコールを任意で含有させても良い。
【0019】
(多価アルコール:任意)
本発明の乳化化粧料は多価アルコールを任意で含んでよい。
多価アルコールとしては、化粧料に配合可能な2価以上のアルコールを指す。多価アルコールは化粧料の保湿性を高めたり、防腐性を高めたりする。具体的にはグリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、1 ,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコールなどのブチレングリコール、プロピレングリコール、イソペンチルジオール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-プロパンジオールなどのプロパンジオール、1 ,2-ペンタンジオール、ソルビトール、ポリグリセリン誘導体、フルクトース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マルトースなどの還元糖、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコールなどがあげられる。
このうち、1 ,3-ブチレングリコールや1,2-ペンタンジオールは、化粧料に防腐効果を付与するので、特に防腐剤フリーの製品にする場合において配合すると好ましい。
【0020】
本発明の乳化化粧料中の任意成分である多価アルコールは、0.01~20質量%であることが好ましく、0.1~15質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることが特に好ましい。
【0021】
(pH)
本発明の乳化化粧料は、使用時に、pH5~8程度に調整されていることが好ましい。使用時のpHが5程度以上であることで、酸による刺激が無く、塗布しても痛みを生じ無い。又、使用時のpHが8程度以下であることで、アルカリによる蛋白変性作用が無い。pHは、本発明の乳化化粧料で使用することができる炭酸塩等、水溶性酸等の他に、有機酸又は無機酸の塩や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、アルギニン等の塩基により、調整することができる。
【0022】
(その他の添加剤)
本発明の効果を損なわない程度に、他の任意の成分を配合してもよい。
例えば、化粧料に通常用いられている成分として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、保香剤、防腐剤、増粘剤、pH調整剤、血行促進剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤その他の美容成分、薬効成分などを配合することができる。
【0023】
本発明の乳化化粧料としては、化粧水、美容液、乳液、クリーム、パックなどが挙げられる。本発明の特性をより発揮できるのは化粧水、美容液、乳液である。
以下、実施例、比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。
【実施例0024】
実施例1~23の組成を表1に、比較例1~5の組成を表2に示す。単位は質量%である。
実施例1~23は(A)、(B)、(C)、(D)の各成分を含む組成である。比較例1~5は、(B)成分を含まず、(A)、(C)、(D)成分を含む組成である。
【0025】
1.乳化化粧料の製法
A成分、B成分と、D成分(水)の一部(実施例1~22ではA成分の2.5倍量のD成分としているが、これに限定されない。実施例23ではA成分、B成分を水の一部ではなく、任意成分である多価アルコールと混合している)を混合し、卓上ホモミキサーで撹拌しながらC成分を添加し、残りのD成分も添加して乳化化粧料を得た。全ての工程は室温下で実施した。任意成分の多価アルコールの添加時期は、乳化の前後のいずれでもよい。
【0026】
2.評価方法
2-1. 乳化粒子径の測定
SALD-7500nano((株)島津製作所製)を用いて粒度分布を測定し、体積平均粒子径を得た。
【0027】
2-2. 使用感評価(べたつきのなさ)
上腕内側部に検体をスポイトで1滴滴下し、指で塗り伸ばして官能評価により検体のべたつきのなさを評価した。官能評価は専門のパネラーにより行った(以下同じ)。
(判定基準)
○:塗布後にべたつきを感じず、なめらかさを感じる
×:塗布後に長時間べたつきを感じる
【0028】
2-3. 使用感評価(なじみやすさ)
官能評価により検体のなじみやすさを評価した。
(判定基準)
○:塗布中に油性成分のぬるつきを感じず、なじみやすい
×:塗布中に油性成分のぬるつきが感じられ、なじみにくい
【0029】
2-4. 乳化状態の評価
目視観察により乳化状態を評価した。
(判定基準)
○:均一に乳化している
△:分離はないが表面に明らかな油滴がある
×:分離していて油層ができる
【0030】
結果を表1、表2に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
3.試験結果
(結果)
実施例1-23より、(A):ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと、(B):グルコース、スクロース、ポリグリセリン(ポリグリセリン-3、ポリグリセリン-4、ポリグリセリン-6、ポリグリセリン-10)から選ばれるいずれか1以上を組み合わせて配合することにより、油剤の種類を選ばずに、目標とした微細な乳化粒子径(1.5μm未満)で乳化ができ、べたつき感のない、肌になじみやすい、良好な使用感の乳化化粧料が得られることがわかった。そして、これまで(A):ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールの単独使用での乳化では乳化が困難とされたスクワラン等の非極性油も、問題なく微細に乳化でき、優れた使用感で乳化できることが分かった。
(B)成分を含まない比較例1~5の乳化化粧料は、いずれかの項目が不良であった。
【0034】
(考察)
表に示した通り、(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと(C)油剤の質量比率(A):(C)は、実施例1~21では(A):(C)=1:6.66、実施例22では(A):(C)=1:10、実施例23では(A):(C)=1:16である。これは特許第5680895号公報で好ましいとされた比率の範囲(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコール:(油性成分)=1:5~100:1をはるかに超えていた。また、特許第5989322号公報では、界面活性剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを一定量以上添加しなければ優れた乳化状態を実現できなかったところ、本願発明では、該ポリグリセリン脂肪酸エステル添加しなくても優れた乳化状態を実現できた。このことは、本発明において、(A)成分と(B)成分を組み合わせたことで、乳化粒子径が小さい優れた乳化状態で使用感を損ねることなく、(A)の高分子乳化剤を減じることができたことを意味している。(A)は高分子の乳化剤であり、多く配合すると若干ではあるがべたつき等の使用感に影響する。したがって、(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールの配合量を減じて、さらに乳化が難しいとされた非極性油をも、良好な使用感で乳化できたことは、処方設計の幅を広げた点で意義が大きい。
上記試験の結果から、(B)を含有させた系において、(A)ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールと(C)油剤の質量比率(A):(C)が1:5.5~1:20が、本発明の効果を十分に発揮する範囲と判断した。
【0035】
(まとめ)
本発明で挙げた(A)~(D)成分を組み合わせることで、一般的な低分子乳化剤を使用せずとも植物油(極性油)やスクワラン等の非極性油を含む多種の油性成分を、量を選ばずに、なおかつ微細に乳化した乳化化粧料ができた。さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの界面活性剤を使用せずに、従来よりも少ない(A)成分の配合量で油剤を選ばず乳化することができた。本発明で得られた乳化化粧料は、一般的な低分子乳化剤を使用していない点からも刺激性が低く安全性の高い化粧料といえる。また、乳化に使用した(A)成分が親水性構成単位のみから成る構造を持つことから、電解質など他の成分を配合した際にもその影響を受けにくく、安定性の高い乳化化粧料であることが期待できる。
ポリメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールを含み、特定の乳化補助成分(グルコース、スクロース、ポリグリセリン)を組み合わせることで、油剤の種類を選ばず、また油剤を高配合してもべたつきが小さくなじみの良い使用感に優れた乳化化粧料を提供することができる。