(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010091
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】ヒートポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20230113BHJP
F25B 49/02 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
F25B1/00 304F
F25B1/00 304P
F25B49/02 510C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113926
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000538
【氏名又は名称】株式会社コロナ
(72)【発明者】
【氏名】上田 真典
(72)【発明者】
【氏名】大川原 巧実
(72)【発明者】
【氏名】眞柄 隆志
(57)【要約】
【課題】暖房運転開始時の冷凍サイクルが安定するまでの期間に蒸発器として機能する熱源側熱交換器の温度を高く保つ事で、短時間で熱源側熱交換器に着霜が生じる事を防止可能なヒートポンプ装置を提供する。
【解決手段】運転開始から第一所定時間T1までの間、膨張弁9の開度を固定の第一膨張弁開度EV1で運転し、第一所定時間T1経過、かつ、圧縮機7の回転数が所定回転数以上となった場合、膨張弁9の開度を第一膨張弁開度EV1よりも小さい開度で、固定の第二膨張弁開度EV2で運転し、さらに第二所定時間T2経過、又は、制御部が凝縮器温度が安定したと判断した場合、膨張弁9の開度を負荷に応じて変更される第三膨張弁開度EV3に切り替えるため、熱源側熱交換器の温度を高く保ち、短時間で熱源側熱交換器8に着霜が生じる事を防止する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器、膨張弁、及び蒸発器を冷媒配管で環状に接続した冷凍サイクルと、前記蒸発器に風を送る送風ファンと、前記凝縮器と前記膨張弁との間の冷媒配管に取り付けられ、前記凝縮器を通過した後の冷媒の温度を検知する冷媒温度センサと、前記冷媒温度センサの温度から凝縮器温度が安定したかを判断する制御部と、が備えられたヒートポンプ装置に於いて、運転開始から第一所定時間までの間、前記膨張弁の開度を固定の第一膨張弁開度で運転し、第一所定時間経過、かつ、前記圧縮機の回転数が所定回転数以上となった場合、前記膨張弁の開度を前記第一膨張弁開度よりも小さい固定の第二膨張弁開度で運転し、さらに第二所定時間経過、又は、前記制御部が前記凝縮器温度が安定したと判断した場合、前記膨張弁の開度を負荷に応じて変更される第三膨張弁開度に切り替える事を特徴とするヒートポンプ装置。
【請求項2】
前記冷凍サイクルにおける前記圧縮機と前記凝縮器との間の冷媒配管に取り付けられ、高圧側の冷媒の温度を検知する吐出温度センサと、目標冷媒吐出温度を決定する目標冷媒吐出温度決定手段とを設け、前記第三膨張弁開度は、前記吐出温度センサの検知する温度が前記目標冷媒吐出温度となるように開度が決定される事を特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ装置。
【請求項3】
前記第一膨張弁開度から前記第二膨張弁開度の切替時の膨張弁開度の変更速度よりも前記第二膨張弁開度から前記第三膨張弁開度の切替時の膨張弁開度の変更速度を遅い速度とする事を特徴とする請求項1又は、請求項2に記載のヒートポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁制御を行うヒートポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種のものでは、圧縮機、四方弁、利用側交換器、膨張弁、熱源側熱交換器を冷媒配管で接続したヒートポンプ回路を備え、液冷媒熱交換器において、冷媒と熱媒とを熱交換させ、熱交換によって加熱された熱媒を利用して、被空調空間を加熱する暖房運転を行うものがあり、暖房運転を行っているときに、外気温度や暖房負荷の大きさ等、条件によっては熱源側熱交換器が着霜することがあり、熱源側熱交換器は着霜すると熱交換効率が低下するため、熱源側熱交換器の除霜をする必要があった。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のものでは、暖房運転開始時の冷凍サイクルが安定するまでの期間に膨張弁が大きく絞られる事によって、蒸発器として機能する熱源側熱交換器の温度が下がりすぎてしまい、暖房開始から短時間で熱源側熱交換器に着霜が生じ、熱交換効率が低下する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1では、圧縮機、凝縮器、膨張弁、及び蒸発器を冷媒配管で環状に接続した冷凍サイクルと、前記蒸発器に風を送る送風ファンと、前記凝縮器と前記膨張弁との間の冷媒配管に取り付けられ、前記凝縮器を通過した後の冷媒の温度を検知する冷媒温度センサと、前記冷媒温度センサの温度から凝縮器温度が安定したかを判断する制御部と、が備えられたヒートポンプ装置に於いて、運転開始から第一所定時間までの間、前記膨張弁の開度を固定の第一膨張弁開度で運転し、第一所定時間経過、かつ、前記圧縮機の回転数が所定回転数以上となった場合、前記膨張弁の開度を前記第一膨張弁開度よりも小さい固定の第二膨張弁開度で運転し、さらに第二所定時間経過、又は、前記制御部が前記凝縮器温度が安定したと判断した場合、前記膨張弁の開度を負荷に応じて変更される第三膨張弁開度に切り替えるものである。
【0006】
また、請求項2では、前記冷凍サイクルにおける前記圧縮機と前記凝縮器との間の冷媒配管に取り付けられ、高圧側の冷媒の温度を検知する吐出温度センサと、目標冷媒吐出温度を決定する目標冷媒吐出温度決定手段とを設け、前記第三膨張弁開度は、前記吐出温度センサの検知する温度が前記目標冷媒吐出温度となるように開度が決定されるものである。
【0007】
また、請求項3では、膨張弁開度の変更速度は、前記第一膨張弁開度から前記第二膨張弁開度の切替時の膨張弁開度の変更速度よりも第二膨張弁開度から第三膨張弁開度の切替時の膨張弁開度の変更速度を遅い速度とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、運転開始から冷凍サイクルが安定するまでの間に適切な膨張弁開度とすることができ、熱源側熱交換器の温度が下がりすぎる事が無い。その結果、暖房開始から熱源側熱交換器に着霜が生じるまでの時間を長くすることができるため、所望の熱交換効率を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態の室外機を備えたヒートポンプ式温調システムの構成例の全体概略構成を示す図
【
図3】室外機の暖房・冷房運転時における冷凍サイクルを模式的に表した図
【
図4】暖房開始時において従来例の膨張弁動作を表すタイミングチャート図
【
図5】暖房時において室外機制御部が実行する制御手順を表すフローチャート図
【
図6】暖房開始時において本実施形態の膨張弁動作を表すタイミングチャート図
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の一実施形態を
図1~
図6に基づいて説明する。
【0011】
<温調システムの一例の構成>
本実施形態のヒートポンプ熱源機を備えたヒートポンプ式温調システムの構成例の全体概略構成を
図1に示す。
図1において、このヒートポンプ式温調システム100は、室外に配置されるヒートポンプ熱源機としての室外機1を備える。このヒートポンプ式温調システム100は、室外機1に対し温水往き管2及び温水戻り管3を介して接続されて室内に配置される、少なくとも1つの室内端末機(この例では、温水パネル51と、ファンコイルユニット52との2つ)とを有する。
【0012】
温水パネル51は、室外機1で加熱された温水を用いて、室内の空気に対し放熱を行い、当該室内の暖房を行う。
【0013】
ファンコイルユニット52は、その内部に、熱交換器(図示せず)、送風ファン(図示せず)、熱動弁V3、を備える。さらに、ファンコイルユニット52は、室内温度を検出する室内温度センサ(図示せず)、ファンコイルユニット52内を流通する温水の温度を検出する水温センサ(図示せず)、及び端末制御部29等を備えている。端末制御部29は、ファンコイルユニット52内部の前記室内温度センサの信号や端末用リモコン装置RC(後述)からの信号を受け、前記送風ファンや前記熱動弁V3の駆動を制御する。これにより、ファンコイルユニット52は、室外機1で加熱された温水を、内部の前記熱交換器に通水させるとともに、前記送風ファンを駆動させて室内空気と熱交換させ、室内の暖房を行う。
【0014】
温水パネル51は、居室に備えられるA室及びB室のうち、前記A室に配置されており、ファンコイルユニット52は前記B室に配置されている。そして、室外機1から延びる温水往き管2の途中に1つの往きヘッダ91が設けられており、温水往き管2のうち往きヘッダ91より上流側部分は、1つの共通往き管2Aとして構成され、室外機1からの温水が供給される。そして、温水往き管2のうち往きヘッダ91より下流側部分2Bは、複数(この例では2つ)の往き管、すなわち、温水パネル51への往き管2B1と、ファンコイルユニット52への往き管2B2と、に分岐する形で往きヘッダ91に接続されている。
【0015】
同様に、室外機1へと延びる温水戻り管3の途中に1つの戻りヘッダ92が設けられている。さらに、温水戻り管3のうち戻りヘッダ92より上流側部分3Bは、複数(この例では2つ)の戻り管、すなわち、温水パネル51からの戻り管3B1と、ファンコイルユニット52からの戻り管3B2と、に分かれている。そして、温水戻り管3のうち戻りヘッダ92より下流側部分は、1つの共通戻り管3Aとして構成されている。すなわち分岐された戻り管3B1,3B2が共通戻り管3Aの上流側に集結する形で戻りヘッダ92に接続されている。戻り管3B1,3B2を介し導入された温水は室外機1へと戻される。
【0016】
そして、温水パネル51への往き管2B1には、熱動弁コントローラCVからの駆動信号により往き管2B1を開閉可能な熱動弁V1が設けられている。
【0017】
そして、この例では、前記A室に、前記室内端末機(この例では温水パネル51及びファンコイルユニット52)の冷暖房運転操作を行うための、メインリモコン装置RMが設けられる。さらに、温水パネル51の冷暖房運転操作を行うための端末用リモコン装置RAと、が設けられている。また、この例では、前記B室に、ファンコイルユニット52を遠隔制御するためのワイヤレス式の端末用リモコン装置RCが設けられている。
【0018】
なお、端末用リモコン装置RAはメインリモコン装置RMと同等の機能を付加し当該メインリモコン装置RMを省略しても良い。
【0019】
メインリモコン装置RMは、ユーザの操作に対応して制御信号SS1を出力する。この制御信号SS1は、室外機1の制御を行う室外機制御部CU(後述)へと入力される。これによって共通往き管2Aへ供給される温水の流量や温度等が制御される。さらにこれに対応して前記室外機制御部CUから熱動弁コントローラCVに制御信号SS2が出力され、これに応じて熱動弁コントローラCVから出力される制御信号S1によって熱動弁V1の開閉動作が制御可能である。また、端末用リモコン装置RAでの操作に対応して出力される制御信号Saは熱動弁コントローラCVへと入力され、これに応じて熱動弁コントローラCVから出力される制御信号S1によって熱動弁V1の開閉動作が制御可能である。
【0020】
一方、温水パネル51からの戻り管3B1には、戻り温度センサ54が設けられている。この戻り温度センサ54は、対応する戻り管3B1における温水の温度(戻り温度)をそれぞれ検出し、検出結果を表す検出信号を熱動弁コントローラCVへと出力する。
【0021】
熱動弁コントローラCVは、メインリモコン装置RM及び端末用リモコン装置RAの操作に対応しつつ、戻り温度センサ54により検出される前記戻り温度に基づき、熱動弁V1の開閉制御を行う。これにより、ユーザは、リモコン装置RM,RAを適宜に操作することで温水パネル51及びファンコイルユニット52の運転状態を制御可能となる。
【0022】
端末用リモコン装置RCは、ファンコイルユニット52に室内を暖房する暖房運転を行わせるための暖房指示手段としての暖房スイッチ24を備える。さらに、端末用リモコン装置RCは、ファンコイルユニット52の運転を停止させる停止スイッチ26と、室内温度を設定する室内温度設定スイッチ27と、室内の設定温度や運転状態を表示する表示部28とを備える。また、端末用リモコン装置RCは、端末制御部29に対し通信可能に接続されている。
【0023】
<メインリモコン装置>
次に、
図1に示した、メインリモコン装置RMの詳細について、説明する。
【0024】
図2は、メインリモコン装置RMの外観を示す。メインリモコン装置RMは、表示部250を備えている。また、メインリモコン装置RMは、室外機1と前記室内端末機(温水パネル51及びファンコイルユニット52のうちの温水パネル51)の運転開始・停止を指示するための「運転/停止」ボタン253を備える。それとともに、メインリモコン装置RMは、前記室内端末機に対しタイマーによる運転を指示するための「タイマー」ボタン254を備える。さらに、メインリモコン装置RMは、前記室内端末機の運転態様(冷房・暖房や通常モード・セーブモード等)の切替を指示する「運転切替」ボタン255と、画面表示を1つ前の画面に戻すための「戻る」ボタン257を備える。さらに、メインリモコン装置RMは、「メニュー/決定」ボタン258と、上下左右方向への十字キー259と、が備えられている。なお、本説明は、「運転/停止」ボタン253、「タイマー」ボタン254、「運転切替」ボタン255、「戻る」ボタン257と、及び、「メニュー/決定」ボタン258を、以下適宜、単に「操作ボタン253等」と称する。さらに、本説明は、これら操作ボタン253等と十字キー259とを総称して、単に「操作部259等」と称する。なお、図示を省略しているが、メインリモコン装置RMには、CPUや記憶手段としてのメモリ等が内蔵されている。
【0025】
表示部250は、CPUの制御により、各種画面を切り替えて表示することができる。図示の例では、表示部250には、温水の温度設定や冷房・暖房切替等を含む、
図1又は
図2に示した温調システム100全体に係わる設定を行うための設定画面200が表示されている。この設定画面200は、中央に配置され、温調システム100全体の運転状態を表す運転状態表示領域200Aと、右端に配置される。さらに、この設定画面200は、室外機1から温調システム100全体に供給される温水の設定温度(ユーザが操作部259等を用いて設定可能)を表示する温度設定表示領域200Bと、を備えている。
【0026】
図示の例では、運転状態表示領域200Aには、室外機1から温水が供給され温調システム100全体として暖房運転が行われている状態を表す「温水暖房 運転中」の表示がなされている。また温度設定表示領域200Bには、暖房用にユーザが予め(可変に)設定した温水の設定温度「40℃」が表示されている。
【0027】
<室外機の構成>
次に、室外機1の概略的なシステム構成を
図3に示す。
図3において、室外機1は、例えばHFCなどの合成化合ガスを冷媒として循環させ室外での吸放熱を行う冷媒循環回路21を備える。さらに、室外機1は、例えば不凍液などを前記温水として循環させ前記室内端末機(温水パネル51及びファンコイルユニット52の2つ)での吸放熱を行う(温水往き管2及び温水戻り管3からなる)温水循環回路22を備える。また、室外機1は、冷媒循環回路21と、温水循環回路22との間における熱交換を行う、ヒートポンプ型の熱源機である。
【0028】
すなわち、冷媒循環回路21は、室外機1に備えられた、前記冷媒の循環方向を切り替える四方弁6と、前記冷媒を圧縮する圧縮機7と、前記冷媒と外気との熱交換を行う空気熱交換器である熱源側熱交換器8とを備える。それとともに、冷媒循環回路21は、前記冷媒を減圧膨張させる膨張弁9と、温水往き管2及び温水戻り管3を循環する前記温水と前記冷媒との熱交換を行う水-冷媒熱交換器11とを備える。さらに、冷媒循環回路21は、前述した構成部品を冷媒配管15で接続して形成されている。なお、冷媒配管15で互いに接続された四方弁6、圧縮機7、熱源側熱交換器8、膨張弁9によってヒートポンプ装置が構成されている。また、熱源側熱交換器8に送風する室外ファン10がさらに設けられている。
【0029】
四方弁6は4つのポートを備える弁であり、(冷媒配管15の一部を構成する)冷媒主経路15a用の2つのポートのそれぞれに対して、(冷媒配管15の一部を構成する)他の冷媒副経路15b用の2つのポートのいずれに接続するかを切り替える。冷媒副経路15b用の2つのポートどうしはループ状に配置された冷媒副経路15bで接続されており、この冷媒副経路15b上に圧縮機7が設けられている。
【0030】
圧縮機7は、低圧ガス状態の冷媒を昇圧して高圧ガス状態にするとともに、室外機1内における冷媒配管15全体の冷媒を循環させるポンプとしても機能する。なお、圧縮機7の吐出側における冷媒副経路15bには、吐出温度センサ55(吐出温度検出手段に相当)が設けられる。また、膨張弁9と水-冷媒熱交換器11との間の冷媒主経路15aには、冷媒温度センサ57が設けられる。さらに、熱源側熱交換器8又はその近傍には、外気温を検出する外気温センサ58(外気温検出手段に相当)が設けられている。
【0031】
また、四方弁6の冷媒主経路15a用の2つのポートどうしは、ループ状に配置された冷媒主経路15aで接続されている。この冷媒主経路15a上に熱源側熱交換器8、膨張弁9、及び水-冷媒熱交換器11が順に(
図3に示す例では冷媒主経路15a左回りの順に)設けられている。
【0032】
熱源側熱交換器8は、その内部を通過する液体状態の前記冷媒の温度が室外の外気温度より低い場合は外気の熱を冷媒に吸熱してガス状態に蒸発させる蒸発器として機能する。
【0033】
室外ファン10は、熱源側熱交換器8に対して送風することで、熱源側熱交換器8の性能を向上させる。
【0034】
膨張弁9は、高圧液体状態の前記冷媒を減圧膨張させて低圧液体状態とするよう機能する。
【0035】
水-冷媒熱交換器11は、前記のように冷媒主経路15aに接続されてその内部に冷媒を通過させるとともに、温水往き管2及び温水戻り管3にも接続されてその内部に温水を通過させる。水-冷媒熱交換器11の内部を通過するガス状態の冷媒の温度が温水の温度より高い場合は、冷媒に対してその熱を温水に放熱し液体状態に凝縮させる凝縮器として機能する。
【0036】
一方、温水循環回路22は、室外機1に備えられた、水-冷媒熱交換器11、前記温水に循環圧力を加える循環ポンプ12、及びシスターンタンク13と、室内端末機(温水パネル51及びファンコイルユニット52の2つ)とを備える。さらに、温水循環回路22は、前述した構成部品を温水往き管2(詳細には共通往き管2A)及び温水戻り管3(詳細には共通戻り管3A)で接続して形成されている。
【0037】
水-冷媒熱交換器11は、温水往き管2及び温水戻り管3に接続されており、温水戻り管3上に、シスターンタンク13及び循環ポンプ12が設けられている。
【0038】
シスターンタンク13は、キャビテーションなどで温水中に生じた気泡の分離(気水分離機能)と、温水循環回路22における膨張温水の吸収及び温水の補給を行う。
【0039】
循環ポンプ12は、温水往き管2及び温水戻り管3全体に温水を循環させるよう機能する。
【0040】
なお、この例では、水-冷媒熱交換器11の入口側(流入側)の温水戻り管3(詳細には共通戻り管3A)には、戻り温度センサ56Bが設けられる。戻り温度センサ56Bは、共通戻り管3Aにおける温水の温度(以下適宜、「実戻り温度」という)を検出し、検出結果を表す検出信号を後述の室外機制御部CUへと出力する。
【0041】
そして、室外機1は、当該室外機1の制御を行う室外機制御部CUを備えている。この室外機制御部CUは、主にCPU、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータで構成されている。室外機制御部CUとメインリモコン装置RMとの間は、双方向通信線で接続されており、信号のやりとりを相互に行うことができる(
図1参照)。これにより、室外機制御部CUは、
図1に示すように、メインリモコン装置RMからの制御信号SS1に基づいて室外機1全体の制御を行う(詳細は後述)とともに、対応する制御信号SS2を熱動弁コントローラCVに出力する。
【0042】
なお、
図1に示した構成例においては特に、室外機制御部CUとファンコイルユニット52の端末制御部29との間が、例えば、端末制御部29からの信号を一方向に伝える端末制御線(いわゆるE-con通信線)で接続されている(
図1参照)。例えば前記端末用リモコン装置RCの暖房スイッチ24がユーザにより操作され運転開始の指示がなされると、端末制御部29は、その指示信号を受信する。そして、受信した指示信号に応じて、端末制御部29は、室外機制御部CUに対し、暖房運転に関連する温水要求信号SCを出力する(
図3中の想像線参照)。なお、前記運転開始された後当該暖房を停止する際には、ユーザによる適宜の停止指示操作(例えば暖房スイッチ24が再度押される、若しくは別途設けた停止スイッチ26が押される、等)がなされる。そのことにより、端末制御部29は、室外機制御部CUに対し、暖房運転の停止要求信号(図示省略)を出力する。
【0043】
なお、
図1に示した構成例は前記のようにファンコイルユニット52を設ける場合、ファンコイルユニット52を、端末用リモコン装置RCによって操作する構成には限られない。すなわち、ファンコイルユニット52は、ファンコイルユニット52自体に、端末用リモコン装置RCのスイッチと同等の機能を有するスイッチや表示部を設け、端末用リモコン装置RCを省略しても良い。この場合、そのファンコイルユニット52のスイッチ等がユーザにより操作されることで運転開始の指示がなされると、端末制御部29がその指示信号を受信し、室外機制御部CUに対し温水要求信号SCを出力する。同様に、ファンコイルユニット52の前記スイッチ等を用いてユーザによる停止指示操作がなされることで、端末制御部29は室外機制御部CUに対し暖房運転の前記停止要求信号を出力する。
【0044】
上記構成の冷媒循環回路21において、圧縮機7は冷媒副経路15b上において一方向に冷媒を循環させるものであり、四方弁6の切り替えによって冷媒主経路15a上の冷媒の循環方向を制御する。
図3は、
図1に示した構成例における暖房運転時の循環方向を示しており、圧縮機7から吐出した冷媒が水-冷媒熱交換器11、膨張弁9、熱源側熱交換器8の順で流通する。これにより、低温・低圧で吸入されたガス状態の冷媒が圧縮機7で圧縮されて高温・高圧のガスとなった後、水-冷媒熱交換器11(凝縮器として機能)において温水戻り管3からの温水に熱を放出しながら高圧の液体に変化する。こうして液体になった冷媒は膨張弁9で減圧されて低圧の液体となり蒸発しやすい状態となる。その後、低圧の液体が熱源側熱交換器8(蒸発器として機能)において蒸発してガスに変化することで外気から吸熱する。そして冷媒は、低温・低圧のガスとして再び圧縮機7へと戻る。
【0045】
このとき、前記のようにして水-冷媒熱交換器11で加熱された温水は、温水往き管2から前記室内端末機(温水パネル51及びファンコイルユニット52の2つ)に供給されて室内空気に対し放熱して室内を加温する。その後に前記温水は、シスターンタンク13を通過して再び循環ポンプ12へ戻る。以上のような冷媒循環回路21の冷凍サイクルと温水循環回路22との間で熱交換を行うことにより、室内空気の温度を上げる暖房運転が行われる。
【0046】
次に、従来例を
図4により説明する。
図3に示す回路構成を備えた室外機1において、
図4に示す比較例では、暖房運転開始時に暖房出力を短い時間で高めるために、圧縮機7が起動してから間もないt1までの時間帯に、膨張弁9の弁開度を大きく絞り込む。膨張弁9の弁開度は、小さい開度で運転することで暖房能力が増加し、所望の暖房出力に達するt2までの時間を短くしていた。しかし、暖房運転開始からt1までの時間帯では、冷凍サイクルが安定しておらず、圧縮機7の回転数に対して膨張弁9の弁開度が小さい開度となる。それにより、冷媒圧力は急激に上昇し、熱源側熱交換器8の温度が著しく低下する事で、暖房運転開始から短時間で熱源側熱交換器8に着霜が生じてしまう場合があった。
【0047】
熱源側熱交換器8に着霜が生じるとt3で熱源側熱交換器8の熱交換不足となり、暖房出力は低下してしまう。そのため、熱源側熱交換器8に着霜が生じた場合には、熱源側熱交換器8に生じた着霜を除去する除霜手段を設けて、除霜手段を実行する必要があった。
【0048】
ここで、前記除霜手段は、温水循環回路22を循環する前記温水に循環圧力を加える循環ポンプ12の運転を停止又は暖房運転時の循環圧力よりも小さい圧力で運転する。この事で、前記除霜手段は、水-冷媒熱交換器11(凝縮器として機能)において、冷媒配管15を循環する冷媒の熱を温水循環回路22を循環する温水に放出しにくくする。さらに、前記除霜手段は、膨張弁9の弁開度を全開とすることにより、水-冷媒熱交換器11(凝縮器として機能)を通過する冷媒の圧力を低く保つことで冷媒配管15を循環する冷媒の熱を温水循環回路22を循環する温水に放出しにくくする。これにより冷媒配管15を循環する冷媒は熱を保ったまま循環し、その熱を利用して、熱源側熱交換器8の着霜を溶かす正サイクル除霜を行うものである。
【0049】
なお、前記除霜手段は、前記正サイクル除霜に限らず、前記正サイクル除霜に対して冷媒配管15を循環する冷媒を逆に循環させる逆サイクル除霜でも良い。該逆サイクル除霜は水-冷媒熱交換器11を蒸発器として利用するとともに、熱源側熱交換器8を凝縮器として利用することで熱源側熱交換器8の着霜を溶かすものである。
【0050】
前述した前記除霜手段は、暖房運転を停止したり、暖房出力を低下させる必要が生じる。また、熱源側熱交換器8は暖房運転開始から間もない時間で着霜が生じると、暖房運転開始から熱源側熱交換器8の熱交換不足に至るt3までの時間が短くなる。すると、熱源側熱交換器8に生じた着霜を除去する除霜手段を実行する頻度は増加し、室内空気の温度を所望の温度に到達させるまでに時間を要する。そればかりでなく、室内空気の温度を所望の温度に到達させることが難しくなってしまう。
【0051】
そこで本実施形態では、
図5に示すステップST1で暖房運転を開始してからから圧縮機7の回転が所望の回転数に到達する第一所定時間T1までの間、ステップST2に示す、膨張弁9の開度を全開に固定した第一膨張弁開度EV1で運転する。その後、ステップST31に示す、第一所定時間経過と、ステップST32に示す、圧縮機7の回転数が所定回転数以上となった場合との、二つの条件をともに満たした時、室外機制御部CUは圧縮機7の回転数が所望の回転数に到達したと判断する。室外機制御部CUは圧縮機7の回転数が所望の回転数に到達したと判断したら、ステップST4に示す、膨張弁9の開度を第一膨張弁開度EV1よりも小さい開度で、固定の第二膨張弁開度EV2に切り替えて運転する。第二膨張弁開度EV2は膨張弁開度特性に基づいて求められ、これ以上開度を小さくすると単位操作量に対する圧力変化量が大きくなるポイントの圧力変化点となるように設定される。ステップST5は、第二所定時間経過した場合と、水-冷媒熱交換器11温度が所定の温度に達した場合との、二つの条件の内、少なくとも一方を満たした時、室外機制御部CUは冷凍サイクルが安定したと判断する。室外機制御部CUは冷凍サイクルが安定したと判断したら、ステップST6に示す、膨張弁9の開度を第一膨張弁開度EV1と、第二膨張弁開度EV2と、の開度に関係無く負荷に応じて変更される第三膨張弁開度EV3に切り替える。
【0052】
また、第三膨張弁開度EV3は、冷凍サイクルにおける圧縮機7と水-冷媒熱交換器11との間の冷媒配管15に取り付けられ、高圧側の冷媒の温度を検知する吐出温度センサ55と、目標冷媒吐出温度を決定する目標冷媒吐出温度決定手段とを備える。第三膨張弁開度EV3は、吐出温度センサ55が検知する高圧側の冷媒温度が、目標冷媒吐出温度となるように開度が決定される。
【0053】
また、図示しないが、膨張弁9の膨張弁開度の変更速度は、第一膨張弁開度EV1から第二膨張弁開度EV2の切替時の変更速度よりも第二膨張弁開度EV2から第三膨張弁開度EV3の切替時の膨張弁開度の変更速度を遅い速度とするものである。
【0054】
このことにより、
図6に示す、暖房運転開始から圧縮機7の回転数が所望の回転数となる第一所定時間T1までの間に膨張弁開度が大きい第一膨張弁開度EV1で固定される。このことにより、冷媒圧力が低い状態を維持する事ができ、また、冷媒蒸発温度が急激に低下する事も無いため、熱源側熱交換器8への着霜を抑制できる。
【0055】
室外機制御部CUは、第一所定時間T1で第一膨張弁開度EV1から第二膨張弁開度EV2に切替を行うが、第二膨張弁開度EV2を第一膨張弁開度EV1よりも小さい開度で、固定の第二膨張弁開度EV2に切り替えて運転する。
【0056】
ここで、第二膨張弁開度EV2が前記圧力変化点よりも大きい場合、第一膨張弁開度EV1から第二膨張弁開度EV2への切り替え時に冷媒圧力は低く保たれるため冷媒圧力がオーバーシュートする事は無い。しかし、安定時の第三膨張弁開度EV3は負荷に応じて変更される開度であるため、第三膨張弁開度EV3は小さい開度の場合がある。その場合、第二膨張弁開度EV2が前記圧力変化点よりも大きいと第二膨張弁開度EV2と第三膨張弁開度EV3の開度の差が大きく、第二膨張弁開度EV2から第三膨張弁開度EV3への切り替え時に短時間で膨張弁開度を小さくしすぎてしまう。このことにより、冷媒圧力は急激に上昇し冷媒圧力のオーバーシュートを防止する事ができず、冷媒蒸発温度が急激に低下するため、熱源側熱交換器8への着霜が生じてしまう恐れがある。
【0057】
一方、第二膨張弁開度EV2が前記圧力変化点よりも小さい場合、第一膨張弁開度EV1と第二膨張弁開度EV2の開度の差が大きく、第一膨張弁開度EV1から第二膨張弁開度EV2への切り替え時に短時間で膨張弁開度を小さくしすぎてしまう。このことにより、冷媒圧力は急激に上昇し冷媒圧力のオーバーシュートを防止する事ができず、冷媒蒸発温度が急激に低下するため、熱源側熱交換器8への着霜が生じてしまう恐れがある。
【0058】
すなわち、本実施形態によれば、第二膨張弁開度EV2は前記圧力変化点となるように設定される。このことにより、第二膨張弁開度EV2は第一膨張弁開度EV1から第二膨張弁開度EV2への切り替え時であっても、第二膨張弁開度EV2から第三膨張弁開度EV3への切り替え時であっても、短時間で膨張弁開度を小さくしすぎる事が無い。このため、第二膨張弁開度EV2は冷媒圧力がオーバーシュートする事を防止でき、冷媒蒸発温度が急激に低下する事も無いため、熱源側熱交換器8への着霜を抑制できる。
【0059】
第一所定時間T1の後、第二所定時間経過した場合と、凝縮器温度が所定の温度に達した場合との、二つの条件の内、少なくとも一方を満たした時、室外機制御部CUは冷凍サイクルが安定したと判断する。室外機制御部CUが冷凍サイクルが安定したと判断したら、第二所定時間T2で、膨張弁9の開度を第一膨張弁開度EV1と、第二膨張弁開度EV2と、の開度に関係無く負荷に応じて変更される第三膨張弁開度EV3に切り替える。これにより、冷凍サイクルの安定を判断してから、負荷に応じて変更される膨張弁制御に移行する事が可能となる。
【0060】
そればかりでなく、膨張弁9は第一膨張弁開度EV1よりも安定時の第三膨張弁開度EV3に近い開度の第二膨張弁開度EV2から安定時の第三膨張弁開度EV3に切り替えることによって、急激に膨張弁開度が小さくなり、冷媒圧力が過剰に上昇する事がない。さらに、冷媒蒸発温度が急激に低下する事も無いため、熱源側熱交換器8への着霜を抑制できる。
【0061】
また、第三膨張弁開度EV3は、冷凍サイクルにおける圧縮機7と水-冷媒熱交換器11との間の冷媒配管15に取り付けられ、高圧側の冷媒の温度を検知する吐出温度センサ55と、目標冷媒吐出温度を決定する目標冷媒吐出温度決定手段とを備える。第三膨張弁開度EV3は、目標冷媒吐出温度となるように開度が決定される。このことにより、冷凍サイクルの状態に最適な膨張弁開度とすることができるため、冷媒圧力が過剰に上昇する事がなく、冷媒蒸発温度が急激に低下する事も無いため、熱源側熱交換器8への着霜を抑制できる。
【0062】
また、膨張弁9の膨張弁開度の変更速度は、第一所定時間T1の第一膨張弁開度EV1から第二膨張弁開度EV2の切替時の変更速度よりも第二所定時間T2の第二膨張弁開度EV2から第三膨張弁開度EV3の切替時の膨張弁開度の変更速度を遅い速度とする。このことにより、運転開始から第一所定時間T1では最小限の時間で冷凍サイクルを安定させることができる。それとともに、第二所定時間T2では膨張弁開度が急激に小さくなることを防止する事ができ、冷媒圧力が過剰に上昇する事がなく、冷媒蒸発温度が急激に低下する事も無いため、熱源側熱交換器8への着霜を抑制できる。
【0063】
ここで、本実施形態の
図6に示す第三所定時間T3は、従来例の
図4に示す、運転開始から、熱源側熱交換器8の着霜による熱源側熱交換器8の熱交換不足に至るt3と同等の時間を示す。本実施形態によれば、熱源側熱交換器8は暖房開始時の着霜が充分に防止されるため、第三所定時間T3であっても、熱源側熱交換器8の熱交換不足に至る事がなく、運転開始から除霜までの時間を長くとることが可能となる。
【0064】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態は、水-冷媒熱交換器11の入口側(流入側)の温水戻り管3(詳細には共通戻り管3A)に戻り温度センサ56Bを設けた。室外機制御部CUは、戻り温度センサ56Bにより検出された温水の前記実戻り温度に応じて、圧縮機7の回転数を制御する、いわゆる戻り温度制御を行った。これによらず、室外機1は、水-冷媒熱交換器11の出口側(流出側)の温水往き管2(詳細には共通往き管2A)に往き温度センサ56A(
図3中2点鎖線参照)を設ける。これを用いて、室外機制御部CUは、往き温度センサ56Aにより検出された温水の前記戻り温度に応じて、圧縮機7の回転数を制御する、いわゆる往き温度制御を行ってもよい。
【0065】
また、上記においては、熱交換端末として、温水パネル51及びファンコイルユニット52が接続される場合を例にとって説明した。これに限られず、熱交換端末は、冷房・暖房機能のうち少なくとも一方、又は両方を備えた他の端末(吸熱・放熱端末)、例えば冷温水パネル、床暖房パネル、ラジエータ、コンベクター等を接続する場合に本発明を適用してもよい。また、上記実施形態では、2台の熱交換端末が接続される場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち3台以上の熱交換端末や1台の熱交換端末のみが接続される構成でも良い。
【0066】
また、上記においては、凝縮器は水熱交換器を利用し、温水を利用した暖房機を例にとって説明したが、これに限らず、凝縮器に空気熱交換器を備え、温水を介さず部屋の暖房を行う、例えばエアコンの冷凍サイクルに本発明を適用してもよい。
【0067】
また、上記においては、凝縮器は水熱交換器を利用し、温水を利用した暖房機を例にとって説明したが、これに限らず、生成した温水を給湯に利用する、例えばヒートポンプ式給湯器の冷凍サイクルに本発明を適用してもよい。
【0068】
また、上記においては、凝縮器に水熱交換器を利用し、温水を利用した暖房機を例にとって説明したが、冷房できる器具でも冷房ができない器具であっても、本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0069】
7 圧縮機
8 熱源側熱交換器
9 膨張弁
EV1 第一膨張弁開度
EV2 第二膨張弁開度
EV3 第三膨張弁開度
T1 第一所定時間
T2 第二所定時間