IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キャン-ファイト バイオファーマ リミテッドの特許一覧

特開2023-100928脂肪減少効果の達成に使用するためのA3アデノシン受容体リガンド
<>
  • 特開-脂肪減少効果の達成に使用するためのA3アデノシン受容体リガンド 図1
  • 特開-脂肪減少効果の達成に使用するためのA3アデノシン受容体リガンド 図2
  • 特開-脂肪減少効果の達成に使用するためのA3アデノシン受容体リガンド 図3
  • 特開-脂肪減少効果の達成に使用するためのA3アデノシン受容体リガンド 図4A
  • 特開-脂肪減少効果の達成に使用するためのA3アデノシン受容体リガンド 図4B
  • 特開-脂肪減少効果の達成に使用するためのA3アデノシン受容体リガンド 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100928
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】脂肪減少効果の達成に使用するためのA3アデノシン受容体リガンド
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4745 20060101AFI20230711BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61K31/7076
A61P3/04
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023078136
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2021539140の分割
【原出願日】2020-01-05
(31)【優先権主張番号】264112
(32)【優先日】2019-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(71)【出願人】
【識別番号】521292962
【氏名又は名称】キャン-ファイト バイオファーマ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Can-Fite Biopharma Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ファーブスタイン,モッティ
(72)【発明者】
【氏名】イツァク,インバル
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,シラ
(72)【発明者】
【氏名】フィシュマン,プニナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】脂肪減少効果を達成するのに使用するための組成物を提供する。
【解決手段】対象の体重を減少させるための医薬組成物であって、当該医薬組成物が、(i)薬学的に許容される担体、及び(ii)有効成分としてのAARリガンドを含み、前記AARリガンドが、N-2-(4-アミノフェニル)エチルアデノシン(APNEA)、N-(4-アミノ-3-ヨードベンジル)アデノシン-5’-(N-メチルウロンアミド)(AB-MECA)、N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(IB-MECA)、及び2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(Cl-IB-MECA)からなる群より選択されるAARアゴニストである;又は特定のAARアロステリックモジュレーターであることを特徴とする医薬組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象の体重を減少させること、
(b)対象の体脂肪量を減少させること、
(c)対象の肥満を治療すること、及び
(d)対象の脂肪細胞の増殖を抑制すること
から選択される、脂肪減少効果の少なくとも1つを達成するのに使用するためのAアデノシン受容体(AAR)リガンド。
【請求項2】
前記対象への毎日の投与に適した剤形である、請求項1に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項3】
前記剤形が1日1回又は2回の投与に適している、請求項2に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項4】
経口投与に適した剤形である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項5】
ARアゴニストである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項6】
前記AARアゴニストが、N-2-(4-アミノフェニル)エチルアデノシン(APNEA)、N-(4-アミノ-3-ヨードベンジル)アデノシン-5’-(N-メチルウロンアミド)(AB-MECA)、N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(IB-MECA)及び2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(Cl-IB-MECA)からなる群より選択される、請求項5に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項7】
前記AARアゴニストがCl-IB-MECAである、請求項6に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項8】
ARのアロステリックモジュレーターである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項9】
前記AARのアロステリックモジュレーターが、
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン、
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘプチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン、
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロブチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン、及び
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘキシル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
からなる群より選択される、請求項8に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項10】
抗肥満治療と組み合わせた、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のためのAARリガンド。
【請求項11】
薬学的に許容される担体及び、有効成分としてAARリガンドを
-対象の体重を減少させること、
-対象の体脂肪量を減少させること、
-対象の肥満を治療すること、
-対象の脂肪細胞の増殖を抑制すること
から選択される、脂肪減少効果の少なくとも1つを達成するのに有効な量で含む医薬組成物。
【請求項12】
前記対象への前記AARリガンドの毎日の投与に適した剤形の請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
1日1回又は2回の投与に適した投与量の請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記対象の長期にわたる治療のための請求項11~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
経口投与に適した剤形である、請求項11~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記AARリガンドがAARアゴニストである、請求項11~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記AARアゴニストがCl-IB-MECAである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記AARリガンドがAARのアロステリックモジュレーターである、請求項11~17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記AARのアロステリックモジュレーターが、N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘキシル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン(CF602)である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
対象を治療するための方法であって、前記対象に、
-前記対象の体重を減少させること、
-前記対象の体脂肪量を減少させること、
-前記対象の肥満を治療すること、
-対象の脂肪細胞の増殖を抑制すること
から選択される脂肪減少効果の少なくとも1つを達成するのに有効な量のAARリガンドを投与することを含む、方法。
【請求項21】
肥満を治療するための請求項20に記載の方法。
【請求項22】
キットであって、
(a)請求項11~19のいずれか一項に記載のAARリガンドを含む医薬組成物、
(b)以下の効果:
-前記対象の体重を減少させること、
-前記対象の体脂肪量を減少させること、
-前記対象の肥満を治療すること、
-対象の脂肪細胞の増殖を抑制すること
の少なくとも1つを達成する前記医薬組成物の使用のための説明書
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、AARリガンドの医療用途に関わる。
【0002】
背景技術文献
ここで開示される主題に対する背景として関連すると考えられる参考文献を以下に列挙する。
-国際特許出願公開第04/007519号
-国際特許出願公開第2013/111132号
-国際特許出願公開第17/090036号
【0003】
本明細書において上記の参考文献を認めることは、それらの文献が、ここで開示される主題の特許性に何らかの形で関連していることを意味するものではない。
【背景技術】
【0004】
肥満は、過剰な量の体脂肪を伴う複合的な疾患であり、欧米社会では主な健康上の問題、時には生命を脅かす問題であると考えられている。
【0005】
肥満は、食物摂取と、基礎代謝、エネルギー消費のバランスが崩れていることに起因する。個人レベルでは、複数の内因性又は環境性の原因が肥満を引き起こしうる。しかし、たいていの場合、過剰なカロリー摂取と、カロリー密度の高い食品(energy-dense meals)が入手可能であることの組み合わせが、肥満の主な誘因と考えられている。
【0006】
減量は、肥満に伴う健康問題を改善又は予防できる一方で、体重減少処置と薬物療法を併用する必要がある場合がある。
【0007】
国際特許出願公開第04/007519号には、部分的又は完全なA1アデノシン受容体アゴニストである化合物、並びに糖尿病性疾患、肥満などのさまざまな疾患状態の哺乳類を治療すること及び脂肪細胞機能に変化させることにおけるそれらの使用が記載されている。
【0008】
国際特許出願公開第2013/111132号には、肝細胞癌(HCC)の治療のための及び慢性肝疾患を有する対象の肝機能を維持するための2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(Cl-IB-MECA、CF102)Cl-IB-MECAの使用が記載されている。
【0009】
国際特許出願公開第17/090036号には、異所性脂肪蓄積、特に脂肪肝での脂肪蓄積を低減するための、具体的には非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を治療するためのAARリガンド、具体的にはCl-IB-MECAの使用が記載されている。
【発明の概要】
【0010】
本開示は、第1のその態様において、以下に示すことのいずれか1つに使用するためのAアデノシン受容体(AAR)リガンドを提供する。
-対象の体重を減少させること、
-対象の体脂肪量を減少させること、
-対象の肥満を治療すること、
-対象の脂肪細胞のレベルを低下させること、及び
-対象の脂肪細胞の増殖を抑制すること。
【0011】
本開示は、第2の態様において、有効成分としてAARリガンドを、以下から選択される脂肪減少効果の少なくとも1つを達成するのに有効な量で含む医薬組成物を提供する。
-対象の体重を減少させること、
-対象の体脂肪量を減少させること、
-対象の肥満を治療すること、
-対象の脂肪細胞のレベルを低下させること、及び
-対象の脂肪細胞の増殖を抑制すること。
【0012】
さらに本開示によって提供されるのは、必要としている対象に、以下から選択される脂肪減少効果の少なくとも1つを達成するのに有効であるAARリガンドの量を投与することを含む治療の方法である。
-対象の体重を減少させること、
-対象の体脂肪量を減少させること、
-対象の肥満を治療すること、
-対象の脂肪細胞のレベルを低下させること、
-対象の脂肪細胞の増殖を抑制すること。
【0013】
いくつかの例では、AARリガンドは、AARアゴニスト、好ましくは2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(Cl-IB-MECA、本明細書ではCF102とも呼ばれる)である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本明細書で開示されている主題をよりよく理解し、実際にどのように実施できるかを例示するために、単に非限定的な例として添付の図面を参照しながら実施形態について説明する。
図1図1は、対照群(RPMI+DMSO)に基準にして、2種類の投与量のCl-IB-MECA(CF102)を用いた脂肪細胞増殖の投与量依存的抑制を示す棒グラフである。
図2図2A~2Bは、3T3-L1脂肪細胞によって生成された脂質滴の蓄積を示す顕微鏡像である。図2Aは、ビヒクルのみを処理した後の蓄積を示し、図2Bは、5nMのCl-IB-MECAで細胞を処理した後の蓄積のレベルを示す。
図3図3は、3T3-L1脂肪細胞を5nMのCl-IB-MECAで処理した後に3T3-L1脂肪細胞によって生成された脂質滴の蓄積の光学濃度を、対照群(DMEM高グルコース+10%FBS)と比較して示す棒グラフである。
図4A図4A~4Bは、試験期間中に通常の飼料を与えたマウスの体重の変化を示す。12週目にCF102又はビヒクルによる投与が開始された(図4A)。又は試験期間中ずっと高脂肪食(HFD)を与えたマウスの体重に変化。
図4B図4A~4Bは、試験期間中に通常の飼料を与えたマウスの体重の変化を示す。12週目にCF102又はビヒクルによる投与が開始された(図4B)。
図5図5は、STZによって誘発された糖尿病実験ラットモデルの体重に及ぼす、AARのアロステリックモジュレーターであるCF602の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、AARに高い親和性及び選択性をもつ、Aアデノシン受容体(AAR)アゴニストである2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(Cl-IB-MECA、本明細書ではCF102とも呼ばれる)が、インビトロ脂肪細胞の増殖モデルにおいて脂肪細胞の増殖を抑制したという発見に基づいている。
【0016】
この意外な抑制効果は、特に、脂肪細胞のレベルの低下(図1)及び3T3-L1脂肪細胞で生成される脂質の蓄積の減少(図2A~2B及び3)によって示された。
【0017】
くわえて、Cl-IB-MECAの意外な効果は、高脂肪飼料マウスの体重の統計的に有意な減少で示された。
【0018】
さらに、意外にも、体重の減少は、肥満の合併症として知られる糖尿病の動物モデルでも、AARのアロステリックモジュレーターN-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘキシル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン(時としてLUF6000又はCF602の略称で呼ばれる)で治療した際に示された。
【0019】
これらの知見に基づき、AARに高い親和性と選択性をもつリガンドは、それがAAR選択的アゴニストであっても、AAR選択的アロステリックモジュレーターであっても、以下のいずれか1つ又は組み合わせにおいて、治療上有益な効果を達成するための有効なツールであることが、本発明者らによって結論づけられている。
-対象の体重を減少させること、
-対象の体脂肪量を減少させること、
-対象の肥満を治療すること、
-対象の脂肪細胞のレベルを低下させること、及び
-対象の脂肪細胞の増殖を抑制すること。
【0020】
理論に縛られないが、上記の効果は、脂肪細胞の増殖に対してリガンドが有する抑制効果によって、直接的又は間接的につながっていると考えられ、まとめて「脂肪減少効果」と呼ばれる。
【0021】
本開示の文脈では、上記の各効果又は2つ以上のそのような効果の組み合わせは、別の実施形態として考慮される。
【0022】
したがって、本開示は、上記の脂肪減少効果のいずれかを達成するのに使用するためのAARリガンド、並びに上記の脂肪減少効果のいずれかを達成するのに使用するためのAARリガンドを含む医薬組成物及び上記の脂肪減少効果のいずれか1つを必要としている対象の治療方法を提供し、その治療は、さらに後述するように、脂肪の増加を防止することも包含する。
【0023】
1つの例では、AARリガンドは、肥満を患っている対象を治療するのに使用するためのものである。
【0024】
他の1つの例では、AARリガンドは、対象の体重減少を誘導又は促進するのに使用するためのものである。
【0025】
さらに他の1つの例では、AARリガンドは、対象の脂肪細胞のレベルを低下させるのに使用するためのものである。
【0026】
さらに1つのさらなる例では、AARリガンドは、脂肪細胞の増殖を抑制するためのものである。
【0027】
本開示の文脈では、体重減少又は肥満の治療に言及する場合、脂肪を貯えることを目的とした脂肪組織などの脂肪からなる組織、すなわち皮下及び/若しくは末梢脂肪を減少させること、及び肝組織の異所性脂肪などの異所性脂肪を除外することを等価的に指すことを理解すべきである。いくつかの例では、本開示は、異所性脂肪組織、特に肝臓の脂肪組織の減少を除外する。
【0028】
1つの好ましい例では、AARリガンドは、過剰の体脂肪を有する対象、特に肥満を患っている対象を治療するために使用される。
【0029】
いくつかの例では、体脂肪量の減少は、末梢脂肪の減少、特に脂肪組織の減少によって示される。
【0030】
他のいくつかの例では、体脂肪量の減少は、3T3-L1脂肪細胞の脂質産生の減少によって示される。
【0031】
過剰の体脂肪は、ボディマス指数(BMI)によって決定することができる。BMIが25を超える対象は、体脂肪が過剰であるとみなされ、BMIが30を超えると対象は肥満を患っているとみなされる。
【0032】
治療の効果、例えば、本開示による測定量、例えば体重、体脂肪量及び/又は脂肪細胞のレベルの減少は、2つの異なる時点で得られたそれらの値によって決定することができる。いくつかの例では、第1の時点は治療前であり、第2の時点は治療中である。
【0033】
いくつかの例では、2つの時点が治療中である。第1の時点と第2の時点との間の時間差は、例えば、1日、1週間、1か月、さらに最大1年であってもよく、その間に、対象は、本開示の実施形態のいずれかによるAARリガンドの投与を受ける。
【0034】
測定値の1つの値の減少に言及する場合、値の減少は、医師によって有意であるとみなされる程度であることを理解すべきである。その程度は、所定の参照時点と比較して、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、又は時には70%超でありうる。参照時点と評価時点の間には、値の測定が行われる複数の時点が存在する可能性があることに留意されたい。
【0035】
いくつかの例では、参照時点は治療が始まる前である。他のいくつかの例では、参照時点は治療中の時点である。
【0036】
いくつかの例では、評価時点は、治療の終了とである決められた時点である。他のいくつかの例では、評価時点は、参照時点の後の治療中の時点である。
【0037】
その2つの時点の間に、対象はAARリガンドの投与を受けていることに留意されたい。しかし、AARリガンドによる治療は、長期的、例えば全期間中である必要はなく、対象は定期的に投与を受ける可能性がある。
【0038】
1つの例では、AARリガンドによる治療は、長期にわたる治療、すなわち、全治療期間中である。
【0039】
本開示の文脈では、「Aアデノシン受容体リガンド」又は「AARリガンド」は、直接的に(例えば受容体結合部位を介して)又は間接的に(例えばアロステリック結合部位を介して)、Aアデノシン受容体の完全又は部分的な活性化を含むAアデノシン受容体の活性に影響を及ぼす任意の化合物を意味する。
【0040】
本開示によるAARリガンドは、その活性化が結合部位を介したか、アロステリック結合部位を介したかにかかわらず、AARの活性化を通してその主要な作用を発揮する分子である。
【0041】
ARリガンドは、AARに高い親和性と選択性を有する。これは、そのリガンドが投与されている投与量では、本質的にAARのみに影響を与えることを意味する。
【0042】
アデノシン受容体に対するリガンドの特異性と高い親和性は、とりわけAARリガンドを使用した場合にはない心血管の副作用を有することが知られているAアデノシン受容体などの他のアデノシン受容体の活性化よりも有益な効果をもたらす。実際、研究により、AARリガンドは、保護作用、とりわけ神経保護作用、化学的保護作用、心保護作用、及び肝保護作用などの保護作用を有することが示されている。
【0043】
1つの例では、「Aアデノシン受容体リガンド」はAARアゴニストである。
【0044】
他の1つの例では、「Aアデノシン受容体リガンド」はAARのアロステリックモジュレーター(アロステリックエフェクターとも呼ばれうる)である。
【0045】
「Aアデノシン受容体アゴニスト」又は「AARアゴニスト」に言及する場合、Aアデノシン受容体に特異的に結合し、それによりAアデノシン受容体を完全又は部分的に活性化できる任意のリガンドを意味することを理解すべきである。
【0046】
本開示の文脈では、AARに対するその親和性が、他のいずれのアデノシン受容体(すなわちA、A2a及びA2b)に対する親和性の少なくとも3倍大きい(すなわちAARに対するそのKiが少なくとも3倍低い)、好ましくは10倍、望ましくは20倍、最も好ましくは少なくとも50倍大きい場合に、分子はAARアゴニスト(すなわちAARの結合と活性化を通してその主要な作用を発揮する分子)とみなされることになる。
【0047】
ARアゴニストのヒトAARに対する親和性、及び他のヒトアデノシン受容体に対する相対的な親和性は、結合アッセイなどの数多くのアッセイによって決定することができる。結合アッセイの例としては、受容体を含有する膜を用意し、結合している放射性アゴニストをAARアゴニストが置換する能力を測定すること、それぞれのヒトアデノシン受容体を提示する細胞を利用し、機能アッセイにおいて、場合によりcAMPレベルの増加又は減少を通して測定されるアデニル酸シクラーゼに対する効果などの下流のシグナル伝達事象をAARアゴニストが活性化又は不活性化する能力を測定することなどが挙げられる。AARアゴニストの投与量を、その血中濃度がA、A2a及びA2bアデノシン受容体のKiに近づくレベルに達するように増加させた場合、そのような投与に続いて、それらの受容体の活性化が、AARの活性化に加えて起こる可能性がある。したがって、AARアゴニストは、本質的にAARのみが活性化されることになるような血中濃度で投与されることが好ましい。
【0048】
1つの例では、AARアゴニストは、ヒトAARに対する結合親和性(K)が100nM未満、典型的には50nM未満、好ましくは20nM未満、より好ましくは10nM未満、理想的には5nM未満の範囲である。特に好ましいのは、ヒトのARに対するKが2nM未満、望ましくは1nM未満であるAARアゴニストである。
【0049】
本開示の文脈では、いくつかのAARアゴニストは、他のアデノシン受容体と相互作用し、活性化することもできるが、より低い親和性(すなわちより高いKi)であることを理解すべきである。
【0050】
いくつかの例では、AARアゴニストはプリン骨格を有する分子である。プリン含有化合物は、許容可能な構造機能活性アッセイに基づいて、AARアゴニストとして決定することができる。
【0051】
本開示に従って使用されるいくつかのAARアゴニストの特徴及びその調製方法は、特に、米国特許第5,688,774号、米国特許第5,773,423号、米国特許第5,573,772号、米国特許第5,443,836号、米国特許第6,048,865号、国際公開第95/02604号、国際公開第99/20284号、国際公開第99/06053号、国際公開第97/27173号及び国際公開第01/19360号に詳細に記載されている。これらの文献はすべて、参照により本明細書に組み込まれる。
【0052】
本開示のいくつかの例によれば、AARアゴニストは次の一般式(I)の範囲に入るプリン誘導体である。
【0053】
【0054】
式中、
-R11は、アルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル又はシアノアルキル、又は次の一般式(II)の基を表し、
【0055】
【0056】
式中、
-Yは、酸素、硫黄又はCHを表し、
-X11は、H、アルキル、RNC(=O)-又はHOR-を表し、式中、
-R及びRは、同じでも異なってもよく、水素、アルキル、アミノ、ハロアルキル、アミノアルキル、BOC-アミノアルキル、及びシクロアルキルからなる群より選択される、又は一緒に結合して2~5個の炭素原子を含有する複素環を形成し、
-Rは、アルキル、アミノ、ハロアルキル、アミノアルキル、BOC-アミノアルキル、及びシクロアルキルからなる群より選択され、
-X12は、H、ヒドロキシル、アルキルアミノ、アルキルアミド又はヒドロキシアルキルであり、
-X13及びX14は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシル、アミノ、アミド、アジド、ハロ、アルキル、アルコキシ、カルボキシ、ニトリロ、ニトロ、トリフルオロ、アリール、アルカリル、チオ、チオエステル、チオエーテル、-OCOPh、-OC(=S)OPhを表す、又はX13とX14の両方は、>C=Sに連結して5員環を形成する酸素である、又はX12とX13が式(III)の環を形成し、
【0057】
【0058】
式中、R’及びR’’は独立してアルキル基を表し、
-R12は、水素、ハロ、アルキルエーテル、アミノ、ヒドラジド、アルキルアミノ、アルコキシ、チオアルコキシ、ピリジルチオ、アルケニル、アルキニル、チオ、及びアルキルチオからなる群より選択され、
-R13は、式-NR1516の基であり、式中、
-R15は、水素原子又はアルキル、置換アルキル又はアリール-NH-C(Z)-から選択された基であり、ZはO、S、又はNRであり、Rは上記の意味を有し、そこにおいてR15が水素である場合、
-R16は、R-及びS-1-フェニルエチル、無置換又は1つ若しくは複数の位置においてアルキル、アミノ、ハロ、ハロアルキル、ニトロ、ヒドロキシル、アセトアミド、アルコキシ、及びスルホン酸若しくはその塩からなる群より選択される置換基で置換されたベンジル、フェニルエチル又はアニリド基、ベンゾジオキサンメチル、フルリル(fururyl)、L-プロピルアラニル-アミノベンジル、β-アラニルアミノベンジル、T-BOC-β-アラニルアミノベンジル、フェニルアミノ、カルバモイル、フェノキシ若しくはシクロアルキルからなる群より選択される、又はR16は次式(IV)の基であり、
【0059】
【0060】
又はR15がアルキル若しくはアリール-NH-C(Z)-である場合、R16は、ヘテロアリール-NR-C(Z)-、ヘテロアリール-C(Z)-、アルカリル-NR-C(Z)-、アルカリル-C(Z)-、アリール-NR-C(Z)-及びアリール-C(Z)-からなる群より選択され、Zは、酸素、硫黄若しくはアミンを表す。
【0061】
例示的なAARアゴニスト(米国特許第5,688,774号の4欄、67行目-6欄、16行目;5欄、40~45行目;6欄、21~42行目;7欄、1~11行目;7欄、34~36行目;及び7欄、60~61行目に開示):
-(3-ヨードベンジル)-9-メチルアデニン、
-(3-ヨードベンジル)-9-ヒドロキシエチルアデニン、
R-N-(3-ヨードベンジル)-9-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アデニン、
S-N-(3-ヨードベンジル)-9-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アデニン、
-(3-ヨードベンジルアデニン-9-イル)酢酸、
-(3-ヨードベンジル)-9-(3-シアノプロピル)アデニン、
2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-9-メチルアデニン、
2-アミノ-N-(3-ヨードベンジル)-9-メチルアデニン、
2-ヒドラジド-N-(3-ヨードベンジル)-9-メチルアデニン、
-(3-ヨードベンジル)-2-メチルアミノ-9-メチルアデニン;
2-ジメチルアミノ-N-(3-ヨードベンジル)-9-メチルアデニン、
-(3-ヨードベンジル)-9-メチル-2-プロピルアミノアデニン、
2-ヘキシルアミノ-N-(3-ヨードベンジル)-9-メチルアデニン、
-(3-ヨードベンジル)-2-メトキシ-9-メチルアデニン、
-(3-ヨードベンジル)-9-メチル-2-メチルチオアデニン、
-(3-ヨードベンジル)-9-メチル-2-(4-ピリジルチオ)アデニン、
(1S、2R、3S、4R)-4-(6-アミノ-2-フェニルエチルアミノ-9H-プリン-9-イル)シクロペンタン-1,2,3-トリオール、
(1S、2R、3S、4R)-4-(6-アミノ-2-クロロ-9H-プリン-9-イル)シクロペンタン-1,2,3-トリオール、
(±)-9-[2α,3α-ジヒドロキシ-4β-(N-メチルカルバモイル)シクロペンタ-1β-イル)]-N-(3-ヨードベンジル)-アデニン、
2-クロロ-9-(2’-アミノ-2’,3’-ジデオキシ-β-D-5’-メチル-アラビノ-フロンアミド)-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
2-クロロ-9-(2’,3’-ジデオキシ-2’-フルオロ-β-D-5’-メチル-アラビノフロンアミド)-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
9-(2-アセチル-3-デオキシ-β-D-5-メチル-リボフロンアミド)-2-クロロ-N(3-ヨードベンジル)アデニン、
2-クロロ-9-(3-デオキシ-2-メタンスルホニル-β-D-5-メチル-リボフロンアミド)-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
2-クロロ-9-(3-デオキシ-β-D-5-メチル-リボフロンアミド)-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
2-クロロ-9-(3,5-1,1,3,3-テトライソプロピルジシロキシル-β-D-5-リボフラノシル)-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
2-クロロ-9-(2’,3’-O-チオカルボニル-β-D-5-メチル-リボフロンアミド)-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
9-(2-フェノキシチオカルボニル-3-デオキシ-β-D-5-メチル-リボフロンアミド)-2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
1-(6-ベンジルアミノ-9H-プリン-9-イル)-1-デオキシ-N,4-ジメチル-β-D-リボフラノシデュロンアミド(ribofuranosiduronamide)、
2-クロロ-9-(2,3-ジデオキシ-β-D-5-メチル-リボフロンアミド)-Nベンジルアデニン、
2-クロロ-9-(2’-アジド-2’,3’-ジデオキシ-β-D-5’-メチル-アラビノ-フロンアミド)-N-ベンジルアデニン、
2-クロロ-9-(β-D-エリスロフラノシド)-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
-(ベンゾジオキサンメチル)アデノシン、
1-(6-フルフリルアミノ-9H-プリン-9-イル)-1-デオキシ-N-メチル-β-D-リボフラノシデュロンアミド、
-[3-(L-プロリルアミノ)ベンジル]アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド、
-[3-(β-アラニルアミノ)ベンジル]アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド、
-[3-(N-T-Boc-β-アラニルアミノ)ベンジル]アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド
6-(N’-フェニルヒドラジニル)プリン-9-β-リボフラノシド-5’-N-メチルウロンアミド、
6-(O-フェニルヒドロキシルアミノ)プリン-9-β-リボフラノシド-5’-N-メチルウロンアミド、
9-(β-D-2’,3’-ジデオキシエリスロフラノシル)-N-[(3-β-アラニルアミノ)ベンジル]アデノシン、
9-(β-D-エリスロフラノシド)-2-メチルアミノ-N-(3-ヨードベンジル)アデニン、
2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-9-(2-テトラハイドロフリル)-9H-プリン-6-アミン、
2-クロロ-(2’-デオキシ-6’-チオ-L-アラビノシル)アデニン、及び
2-クロロ-(6’-チオ-L-アラビノシル)アデニン。
【0062】
他の例示的なAARアゴニストは、米国特許第5,773,423号に開示されており、式(V)の化合物である。
【0063】
【0064】
式中、
はRNC(=O)であり、ここでR及びRは、同じでも異なってもよく、水素、C-C10アルキル、アミノ、C-C10ハロアルキル、C-C10アミノアルキル、及びC-C10シクロアルキルからなる群より選択され、
は、水素、ハロ、C-C10アルキオキシ(alkyoxy)、アミノ、C-C10アルケニル、及びC-C10アルキニルからなる群より選択され、
は、R-及びS-1-フェニルエチル、非置換ベンジル基、並びに1つ又は複数の位置においてC-C10アルキル、アミノ、ハロ、C-C10ハロアルキル、ニトロ、ヒドロキシ、アセトアミド、C-C10アルコキシ、及びスルホからなる群より選択される置換基で置換されたベンジル基からなる群より選択される。
【0065】
より具体的なAARアゴニストとしては、R及びRが、同じでも異なってもよく、水素及びC-C10アルキルからなる群から選択される上記式のもの、特にRが水素又はハロである場合、とりわけ水素であるものが挙げられる。
【0066】
追加の具体的なAARアゴニストは、特にRが非置換ベンジルの場合、Rが水素で、Rが水素である化合物である。
【0067】
より具体的なAARアゴニストは、Rが、C-C10アルキル又はC-C10シクロアルキル、具体的にはC-C10アルキル、より具体的にはメチルであるかかる化合物である。
【0068】
とりわけ具体的なのは、Rが水素、RがC-C10アルキル又はC-C10シクロアルキル、Rが、R-若しくはS-1-フェニルエチル、又は1つ若しくは複数の位置においてハロ、アミノ、アセトアミド、C-C10ハロアルキル、及びスルホからなる群より選択される置換基で置換されたベンジルであり、スルホ誘導体がトリエチルアンモニウム塩などの塩であるそれらのAARアゴニストである。
【0069】
さらに、Rが式R-C=C-のC-C10アルケニレンであり、RがC-Cアルキルであるそれらの化合物も、米国特許第5,773,423号で具体的に記されている。
【0070】
同様に具体的なのは、Rが水素以外である化合物、特にRがハロ、C-C10アルキルアミノ、又はC-C10アルキルチオである化合物、より好ましくは、さらにRが水素であり、RがC-C10アルキルであり、かつ/又はRが置換ベンジルである場合である。
【0071】
米国特許第5,773,423号に開示されているさらに例示的なAARアゴニストは、式(VI)を有する改変されたキサンチン-7-リボシドである。
【0072】
【0073】
式中、
XはOであり、
はRNC(=O)であり、そこにおいてR及びRは、同じでも異なってもよく、水素、C-C10アルキル、アミノ、C-C10ハロアルキル、C-C10アミノアルキル、及びC-C10シクロアルキルからなる群より選択され、
及びR、同じでも異なってもよく、C-C10アルキル、R-及びS-1-フェニルエチル、非置換ベンジル基、並びに1つ又は複数の位置においてC-C10アルキル、アミノ、ハロ、C-C10ハロアルキル、ニトロ、ヒドロキシ、アセトアミド、C-C10アルコキシ、及びスルホからなる群より選択される置換基で置換されたベンジル基からなる群より選択され、
は、ハロ、ベンジル、フェニル、及びC-C10シクロアルキルからなる群より選択される。
【0074】
国際公開第99/06053号は、以下から選択される実施例19~33化合物を開示している。
-(4-ビフェニル-カルボニルアミノ)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(2,4-ジクロロベンジル-カルボニルアミノ)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(4-メトキシフェニル-カルボニルアミノ)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(4-クロロフェニル-カルボニルアミノ)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(フェニル-カルボニルアミノ)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(ベンジルカルバモイルアミノ)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(4-スルホンアミド-フェニルカルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(4-アセチル-フェニルカルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-((R)-α-フェニルエチルカルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-((S)-α-フェニルエチルカルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(5-メチル-イソオキサゾール-3-イル-カルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(1,3,4-チアジアゾール-2-イル-カルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-(4-n-プロポキシ-フェニルカルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、
-ビス-(4-ニトロフェニルカルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド、及び
-ビス-(5-クロロ-ピリジン-2-イル-カルバモイル)-アデノシン-5’-N-エチルウロンアミド。
【0075】
本開示に従って使用されることになる、より具体的に開示されるA3ARアゴニストとしては、以下が挙げられる。
2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-9-[5-(メチルアミド)-β-D-リボフラノシル]-アデニン、2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミドとしても、又はCl-IB-MECAの略称によっても知られる、
-(3-ヨードベンジル)-2-メチルアミノ-9-[5-(メチルアミド)-β-D-リボフラノシル]-アデニン、N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミドとしても知られており、1-デオキシ-1-[6-[[(3-ヨードフェニル)メチル]アミノ]-9H-プリン-9-イル]-N-メチル-D-リボフラヌロンアミドとして、又はIB-MECAの略称によって知られている、
-2-(4-アミノフェニル)エチルアデノシン(APNEA)、
-(4-アミノ-3-ヨードベンジル)アデノシン-5’-(N-メチルウロンアミド)(AB-MECA)。
【0076】
とりわけ好ましいAARアゴニストの例は、2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-2-メチルアミノ-9-[5-(メチルアミド)-β-D-リボフラノシル]-アデニン、2-クロロ-N-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミドとしても、又はCl-IB-MECAの略称によっても知られている。
【0077】
いくつかの例では、Cl-IB-MECAは脂肪減少効果を達成するために使用される。
【0078】
1つの特定の例では、Cl-IB-MECAは肥満の治療のために使用される。
【0079】
「AARのアロステリックモジュレーター」又は「AARM」に言及する場合、内因性リガンドやそのアゴニストの結合部位と異なりうる受容体のアロステリック部位におけるアロステリックモジュレーターの結合による、受容体の活性の正の調節、活性化、又は増加を指すことを理解すべきである。
【0080】
1つの例では、「調節」とは、化合物が受容体のアロステリック部位に結合することによるAアデノシン受容体の効力の少なくとも15%の増加によって、かつ/又はオルソステリック結合部位に対するアデノシン若しくはAARアゴニストの解離速度の低下によって示される受容体に対するAARリガンドの効果を意味する。
【0081】
1つの例では、調節は、イミダゾキノリン誘導体であるAARのアロステリックモジュレーター(AARAM)によるものである。
【0082】
1つの例では、AARAM、又はイミダゾキノリン誘導体は、次の一般式(VII)を有する。
【0083】
【0084】
式中、
-Rは、任意選択で芳香環において、C-C10アルキル、ハロ、C-C10アルカノール、ヒドロキシル、C-C10アシル、C-C10アルコキシル、C-C10-アルコキシカルボニ(alkoxycarbony)、C-C10アルコキシルアルキル、C-C10チオアルコキシ、C-C10アルキルエーテル、アミノ、ヒドラジド、C-C10アルキルアミノ、ピリジルチオ、C-C10アルケニル、C-C10アルキニル、チオ、C-C10アルキルチオ、アセトアミド、スルホン酸からなる群より選択される1つ又は複数の置換基で置換されたアリール又はアルカリルを表す、又は前記置換基は、前記アリールに縮合したシクロアルキル又はシクロアルケニルを一緒に形成でき、そのシクロアルキル又はシクロアルケニルは、任意選択で1つ又は複数のヘテロ原子を含み(ただし、前記アリールは非置換のフェニル基ではない)、
-Rは、水素又はC-C10アルキル、C-C10アルケニル、C-C10アルキニル、C-C10シクロアルキル、C-C10シクロアルケニル、5~7員の複素環式芳香環、C-C15縮合シクロアルキル、二環芳香環若しくはヘテロ芳香環、C-C10アルキルエーテル、アミノ、ヒドラジド、C-C10アルキルアミノ、C-C10アルコキシ、C-C10-アルコキシカルボニ、C-C10アルカノール、C-C10アシル、C-C10チオアルコキシ、ピリジルチオ、チオ、及びC-C10アルキルチオ、アセトアミド、及びスルホン酸、
及びその薬学的に許容される塩からなる群より選択される置換基を表す。
【0085】
いくつかの実施形態によれば、AARAMのR置換基は次の一般式(VIII)を有する。
【0086】
【0087】
式中、nは0又は1~5から選択される整数であり、好ましくは、nは0、1又は2であり、
-X及びXは、同じでも異なってもよく、水素ハロゲン、アルキル、アルカノール又はアルコキシ、インダニル、ピロリンから選択され、ただし、前記nが0である場合、X及びXは水素ではない。
【0088】
さらにいくつかのさらなる例では、AARAMのRは、上記式(VIII)を有する置換基であり、そこにおいてX又はXは、同じでも異なってもよく、水素、クロロ、メトキシ、メタノール又は式(VIIIa)若しくは(VIIIb)を有する置換基から選択される。
【0089】
【0090】
式中、Yは、N又はCHから選択される。
【0091】
いくつかのさらにさらなる例では、AARAMのRは、H、C1-10アルキル、C4-10シクロアルキルから選択され、アルキル鎖は、直鎖でも分岐状でもよく、又は4~7員のシクロアルキル環を形成していてもよい。
【0092】
1つの例では、AARAMのRは、5~7員の複素環式芳香環から選択される。
【0093】
いくつかの例では、AARAMのR置換基は、H、n-ペンチル、又は以下の式(IX)を有する五員複素環式芳香環から選択される。
【0094】
【0095】
式中、ZはO、S又はNHから選択され、好ましくはOである。
【0096】
1つの例において、AARAMのRは、特に二環式置換基を形成するように1つ又は複数の縮合環を含む。
【0097】
ARAMの文脈で置換基を形成するために使用できる二環式化合物の非限定的な例には、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[4.1.0]ヘプタン、ビシクロ[4.1.0]ヘプタン-3-カルボン酸、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-カルボン酸、ビシクロ[4.1.0]ヘプタン-2-カルボン酸、ビシクロ[3.1.0]ヘキサン-2-カルボン酸、及びビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-カルボン酸が含まれる。
【0098】
さらにいくつかの他の例において、AARAMのRは2-シクロヘキセン及び3-シクロヘキセンから選択される。
【0099】
ARのアロステリックモジュレーターとして使用できる具体的なイミダゾキノリン誘導体を以下に列挙する。
N-(4-メチル-フェニル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(4-メトキシ-フェニル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(4-クロロ-フェニル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(3-メタノール-フェニル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-([3,4-c]インダン)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(1H-インダゾール-6-イル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(4-メトキシ-ベンジル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(1H-インドール-6-イル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(ベンジル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(フェニルエチル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘプチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-フリル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロブチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘキシル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2--1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-ペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
【0100】
上記イミダゾキノリン誘導体は、一方では、A及びA2A、A2Bアデノシン受容体のオルソステリック結合部位への親和性がもしあったとしても低下し、Aアデノシン受容体のオルソステリック結合部位への親和性が低下し、他方では、Aアデノシン受容体のアロステリック部位への高い親和性を有するので、アロステリックモジュレーターとみなされている(国際特許出願公開第07/089507号、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0101】
本開示において、具体的に好ましいイミダゾキノリン誘導体は、AARのアロステリックモジュレーターであるN-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘキシル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン(時にはLUF6000又はCF602の略称でも呼ばれる)である。
【0102】
本明細書で開示されている一般式の文脈において、さまざまな用語について以下の意味が考慮される。
【0103】
「アルキル」という用語は、本明細書では、1~10個の炭素原子、より好ましくは1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝状炭化水素鎖を指すのに使用され、例としてメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、n-ヘプチル、オクチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
同様に、「アルケニル」及び「アルキニル」という用語は、それぞれ、2~10個、又は3~10個の炭素原子、より好ましくは2~6個、又は3~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐状炭化水素鎖を意味し、アルケニル又はアルキニルは少なくとも1つの不飽和結合を有する。
【0105】
アルキル、アルケニル又はアルキニル置換基は、ヘテロ原子含有基で置換されていてもよい。したがって、明確には述べられていないが、アルキルチオ、アルコキシ、アカノール、アルキルアミンなど、本明細書において上記及び下記で定義されているアルキル修飾のいずれも、対応するアルケニル又はアルキニル修飾、例えばアケニルチオ、アケニルオキシ、アルケノール、アルケニルアミン、又はそれぞれアキニルチオ、アルキニルオキシ、アルキノール、アルキニルアミンなども含むことを理解すべきである。
【0106】
「アリール」という用語は、単環(例えばフェニル)又は複数の縮合環(例えばナフチル若しくはアントリル)を有する5~14個の炭素原子からなる不飽和芳香族炭素環式基を意味する。好ましいアリールとしては、フェニル、インダニル、ベンズイミダゾールが挙げられる。
【0107】
「アルカリル」という用語は、好ましくはアルキレン部分に1~10個の炭素原子を、アリール部分に6~14個の炭素原子を有する-アルキレン-アリール基を指す。そのようなアルカリル基としては、ベンジル、フェネチルなどが例示される。
【0108】
「置換アリール」という用語は、1~3個の上記で定義された置換基で置換されている芳香族部分を指す。当業者によって理解されるように、さまざまな置換基が可能である。それでもなお、いくつかの好ましい置換基としては、それに限定されることなく、ハロゲン、(置換)アミノ、ニトロ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アシルオキシ又はアルカノール、スルホニル、スルフィニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
「ハロ」又は「ハロゲン」という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを指し、好ましくはクロロを指す。
【0110】
「アシル」という用語は、H-C(O)-基及びアルキル-C(O)-基を指す。
【0111】
「アルカノール」という用語は、-COH基及びアルク-OH基を指し、「アルク」はアルキレン、アルケニレン又はアルキニレン鎖を意味する。
【0112】
「アルコキシ」という用語は、本明細書では-O-アルキルを意味するのに使用され、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
「アルキルチオ」という用語は、本明細書では-S-アルキルを意味するのに使用され、例えばメチルチオ、エチルチオ、n-プロピルチオ、イソプロピルチオ、n-ブチルチオなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0114】
「アルコキシアルキル」という用語は、本明細書では-アルキル-O-アルキルを意味するのに使用され、例えばメトキシメチル、エトキシメチル、n-プロポキシメチル、イソプロポキシメチル、n-ブトキシメチル、イソブトキシメチル、t-ブトキシメチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
「シクロアルキル」という用語は、本明細書では環状炭化水素ラジカルを意味するのに使用され、例としてシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
「アルコキシカルボニル」という用語は、本明細書では-C(O)O-アルキルを意味するのに使用され、例としてメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
「縮合シクロアルキル」という用語は、本明細書において、ただ1つの原子において(スピロ環部分を形成するため)、2つの相互に結合した原子において、又は一連の原子(橋頭)にわたって連結している少なくとも2つの脂肪族環を含む任意の化合物又は置換基を意味するのに使用される。縮合環は、いずれの二環式、三環式、及び多環式部分を含むことができる。本開示のいくつかの実施形態において、二環式置換基が好ましい。
【0118】
本開示はまた、上記化合物などのAAR選択性リガンドの生理学的に許容される塩も利用する。「生理学的に許容される塩」は、製薬業界で一般的に使用されている任意の非毒性のアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム塩を指し、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムアンモニウム及びプロタミン亜鉛塩などが挙げられ、当該技術分野で公知の方法で調製される。また、その用語はリガンドを好適な有機酸又は無機酸と反応させることによって一般的に調製される非毒性の酸付加塩も包含する。酸付加塩は、遊離塩基の生物学的効果と質的特性を保持し、毒性がない、そうでなければ望ましくなくはないものである。例としては、とりわけ、鉱酸に由来する酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタリン酸などが挙げられる。有機酸としては、とりわけ、酒石酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、グリコール酸、グルコン酸、ピルビン酸、コハク酸、サリチル酸、アリールスルホン酸、例えばp-トルエンスルホン酸などが挙げられる。
【0119】
ARリガンドは、単回投与(1回限りの投薬)で、又は数日、数週間にわたる、若しくはさらに数ヶ月にもわたる継続的な治療として投与することができる。
【0120】
1つの例では、AARリガンドは、長期的な治療(長期にわたる治療及び/又は慢性病態の治療)に使用される。
【0121】
本開示の文脈では、長期的な治療とは、例えば、いずれの医師にもよく知られたパラメーターによって十分な脂肪減少が示されるまで、少なくとも数日、数週間、又は数ヶ月間続く治療時間域包含することを理解すべきである。
【0122】
さらに、本開示のいくつかの例の文脈では、長期的な治療は、長期にわたる治療、例えば、時には治療に対する想定エンドポイントがなくても、長期的な毎日の投与を包含する。いくつかの例では、長期的な治療は、AARリガンドを少なくとも1週間の毎日の投与、時には1か月の毎日の投与、時には少なくとも2、3、4、5、6、又はさらに12ヶ月のリガンドの毎日の投与を含む。
【0123】
ARリガンドによる「治療」に言及する場合、肥満の業界(world)で知られているパラメーターによって判断して、対象の健康状態において医学的に有意な改善をもたらす任意の所望の薬理学的及び生理学的効果を指すことを理解すべきである。例えば、対象の総ボディマスのレベル又は体脂肪量のレベルの少なくとも1%、時には5%の減少によって改善と決定することができる。
【0124】
いくつかの例では、治療は、過剰な末梢脂肪の蓄積、例えば脂肪組織の過剰に関連する状態に罹患していると定義される対象に対するものである。
【0125】
いくつかの例では、治療は実際には、体重が増加しやすい体質又は傾向のある対象に対する予防的な治療である。時にはA3ARリガンドによる治療は、ボディマスの増加を(例えば副作用として)引き起こすことが知られている別の治療に続く、又はそれと組み合わせることができる。
【0126】
ARリガンドは、毎日投与することも、又は投与間に1日若しくはそれより多い間隔を空けて投与することもできる。1つの実施形態では、AARリガンドは、長期にわたる治療のために毎日使用される。
【0127】
ARリガンドは、全身又は局所的に投与することができる。この目的のために、AARリガンドは薬学的に許容される担体と組み合わせて、特定の投与の方法に適し、有効量のAARリガンドを含む医薬組成物を形成する。
【0128】
「薬学的に許容される担体」という用語は、AARリガンドと反応せず、リガンドに添加して対象へのその送達を容易しうる不活性で非毒性の材料のいずれか1つを意味する。
【0129】
1つの実施形態では、担体は、経口投与のための単位剤形の調製に許容されるものである。
【0130】
経口製剤は、錠剤の形態、カプセル、シロップの形態、乳剤、芳香性粉末及び他のさまざまな形態であることができる。担体は、時には製剤の所望の形態に基づいて選択される。担体は、有効成分の標的組織への送達又は浸透を向上すること、薬剤の安定性を向上すること、クリアランス速度を遅くすること、徐放性を付与すること、望ましくない副作用を軽減することなどの効果を有することもできる。担体は、製剤を安定化させる物質(例えば防腐剤)、製剤に食用の風味を与えるためのものなどでもあることができる。担体は、従来から使用されているもののいずれでもよく、溶解性度やAARリガンドと反応性がないことなどの化学的、物理的な考慮事項及び投与の経路によってのみ限定される。担体としては、添加剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、崩壊剤、湿潤剤、防腐剤、香味料、薬理学的に適合する担体などを挙げることができる。さらに、担体はアジュバントであってもよく、アジュバントとは、定義によれば、有効成分の作用に予測可能な形で影響を与える物質である。
【0131】
経口投与に適した担体の典型的な例には、以下が含まれる。(a)クレモフォールRH40などの適切な液体、又はメチルセルロース(例えばメトセルA4Mプレミアム)中の懸濁液又は乳剤、(b)カプセル/剤(例えば、界面活性剤、潤滑剤、及び不活性充填剤を含有する通常のハードシェル又はソフトシェルのゼラチンタイプ)、錠剤、トローチ剤(lozenges)(ここで、活性物質はスクロース及びアカシアなどの香味料若しくはトラガカント中にある、又は活性物質はゼラチン及びグリセリンなどの不活性塩基中にある)、トローチ剤(troches)、それぞれ所定量のトラガカントを固体又は顆粒として含有する、(c)粉末、(d)溶液、典型的には溶解促進剤と組み合わせた場合、(e)リポソーム製剤、など。
【0132】
ARリガンドは、少なくとも1つの脂肪減少効果を達成するために有効な量で使用される。「有効量」は、本開示において、複数の試験対象にさまざまな量のAARリガンドを投与し、その後、量の関数として応答(例えばいくつかの有益な効果の組み合わせ)をプロットすることによって、容易に決定することができる。時には、使用される量は、投与の方法、対象の年齢、体重、体表面積、性別、健康状態及び遺伝的要因、他の投与薬物などのさまざまな要因に左右されうる。
【0133】
ARリガンドの有効量は、単位剤形によって画定することができる。「単位剤形」という用語は、ヒト対象及び他の哺乳類への単位投与に適した物理的に別々のユニットで、各ユニットには、望ましい治療効果を発揮するように計算された所定量の活性物質が、適切な医薬品賦形剤とともに入っている。
【0134】
ARリガンドがAARアゴニストである場合、有効量は、例えば、少なくとも約10mg/日の量、例えば、1日1回治療の治療レジメンでは少なくとも約10mg、1日2回では少なくとも約5mg、1日3回では少なくとも約3.3mgなどでありうる。
【0135】
少なくとも約10mg/日の投与量は、少なくとも約15mg/日、少なくとも約20g/日、少なくとも約25mg/日の投与量でありうる。いくつかの実施形態では、投与量は25±5mg/日である。
【0136】
投与回数に関係なく1日に患者に与えられるAARリガンドの総量を、本明細書では「1日治療投与量」と呼ぶ。
【0137】
したがって、1つの一例では、AARリガンドは、少なくとも10mg/日の一日治療投与量を投与するための単位剤形に製剤化される。剤形が、1日n回の投与を含む治療レジメンで対象に投与することを意図される場合、単位剤形は1日治療投与量の1/nの部分を含みうる(例えば、意図される1日治療投与量が20mgで、治療レジメンが1日2回の場合、各単位剤形は10mgの投与量を有することになり、意図される1日治療投与量が25mgで、治療レジメンが1日2回の場合、各単位剤形は12.5mgの投与量を有することになる)。
【0138】
いくつかの例では、AARリガンドは抗肥満治療と組み合わせて投与される。本開示の文脈では、抗肥満治療には、食事計画や特別食、身体活動計画、薬による治療、減量外科手術、体重減少装置(weight loss devices)を含む当該技術分野で公知のいずれの治療も含まれうる。
【0139】
ある例では、AARリガンドは、市販され、医学的に許容される体重減少薬と組み合わせて使用される。市販のFDA承認薬の例としては、オルリスタット(アライ、ゼニカル)、ロルカセリン(Belviq)、フェンテルミンとトピラメート(Qsymia)、ブプロピオンとナルトレキソン(Contrave)、リラグルチド(サクセンダ、ビクトーザ)が挙げられる。
【0140】
肥満を有すると診断された、又はBMI値が30以上のボディマス指数(BMI)を有する対象において、治療開始前の体重と比較して、全体重の少なくとも3%、時には少なくとも4%又は少なくとも5%の体重減少が少なくともある場合、治療は有効であるみなされるべきであることを理解すべきである。いくつかの例では、有効な治療は、治療開始前の全体重の少なくとも3%~6%、又は5%~10%の体重減少がある治療である。
【0141】
本明細書で使用される場合、「a」「an」及び「the」という形式は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、単数のものも、複数のものも含む。例えば、「AARリガンド」という用語には、AARの活性に直接的又は間接的に、完全に又は部分的に特異的に影響を与えることができる1つ又は複数の化合物が含まれる。
【0142】
さらに、本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、組成物が記載の活性物質、すなわちAARリガンドを含むが、生理学的に許容される担体及び賦形剤並びに他の活性物質などの他の要素を除外しないことを意味することを意図する。「本質的にから成る」という用語は、記載の要素を含むが、脂肪減少効果のいずれか1つに対して本質的な重要性を有しうる他の要素を除外する組成物を画定するために使用される。したがって、「からなる」とは、微量要素より多い他の要素を除外することを意味するものとする。これらの移行用語(transition terms)の各々によって画定される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0143】
さらに、例えばAARリガンドを有効成分として含む組成物を構成する構成要素の量又は範囲に言及する場合、数値はすべて、記載された値から(+)又は(-)に最大20%まで、時には最大10%まで変動する近似値である。常に明示されているわけではないが、すべての数字表示の前には「約」という語があることを理解すべきである。
【0144】
次に、本発明に従って実施された実験の以下の説明において本発明を例示する。これらの実施例は、限定ではなく例示の性質を意図したものであることを理解すべきである。明らかに、これらの実施例の多くの修正及び変形が上記の教示に照らして可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲内で、本発明は、以下で具体的に記載される方法以外にも、無数の可能な方法で実行できることを理解すべきである。
【実施例0145】
実施例1-3T3-L1脂肪細胞の増殖に対するCF102の効果
3T3-L1前駆脂肪細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、米国バージニア州マナサス)から購入した。前駆脂肪細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、ハイクローン、米国ユタ州サウスローガン)に、10%新生仔牛血清(ハイクローン)と抗生物質(ハイクローン)を補充し、37℃、5%COで維持した。
【0146】
脂肪細胞の分化を誘導するために、前駆脂肪細胞を24ウェルプレートに播いた。コンフルエンスになった後、培地を交換し、10μg/mlインスリン、1μM DEX、0.5mM IBMXを加えた。2日後に、10%FBSと10μg/mlインスリンを補充した基礎培地に変えた。8~14日の期間、培地を2日ごとに交換した。
【0147】
細胞増殖の評価には、H-チミジン取り込みアッセイを用いた。3T3-L1細胞(5,000個/ウェル)を96ウェルプレートで5nM又は10nMのCF102とともに48時間インキュベートした。最後の24時間、各ウェルを1mCiのH-チミジンでパルスした。細胞を集め、LKB液体シンチレーションカウンター(LKB、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)でH-チミジンの取り込み量を測定した。
【0148】
結果:
図1は、3T3-L1脂肪細胞の増殖に対するCF102の投与量依存的な抑制効果を示す。5nM及び10nMのCF102とインキュベートした脂肪細胞は、対照の測定値と比較して、それぞれ20%及び40%を超える減少を示した。
【0149】
実施例2-3T3-L1脂肪細胞の脂質生成に対するCF102の効果
前駆脂肪細胞を、10μg/mlインスリン、1μM DEX及び0.5mM IBMXを含有する分化培地(DMEM 高グルコース+10%FBS)で培養し、5nM CF102で48時間処理し、その抗脂肪作用の可能性を評価した。
【0150】
脂肪滴の蓄積はオイルレッドOで染色することによって評価した。簡潔に言うと、細胞をPBSで洗浄し、3.7%HCHOで1時間インキュベートし、その後オイルレッドO溶液で45分間インキュベートした。細胞を非常によく洗浄して過剰なオイルレッドOを除去し、ライカのカメラ付きオリンパスの顕微鏡下で視覚化し、写真を撮った。脂質の蓄積を定量するために、細胞をイソプロパノールに溶かし、595nmにおいてDynatech Corp.社のMicroelisaリーダー(バージニア州シャンティリー)で光学濃度を読み取った。脂肪滴の蓄積の度合いは、光学濃度に比例していた。
【0151】
脂質滴の蓄積を顕微鏡下で視覚化した。脂質滴の蓄積は図2A~2Bに見られる。図2Aは対照測定の顕微鏡画像、図2Bは5nMのCF102で処理した前駆脂肪細胞に由来する脂質滴の顕微鏡画像を示す。
【0152】
結果
図3は、5nMのCF102に事前に暴露した細胞の脂質蓄積の抑制を示している。データは、ビヒクル投与群(対照)対CF102投与群の595nmでのOD値で表す(p=0.01)。
【0153】
実施例3-高脂肪食(HFD)マウス対通常飼料を給餌したマウスの体重に対するCF102の効果
糖尿病や心血管疾患などの肥満からくる合併症は通常、数十年を要するので、代用となる動物モデルが、肥満の分子的側面やその病態生理学的影響を研究するために重要である。ますます注目を集めているこれらのモデルの1つは、マウスの食事誘発性肥満モデルである。本プロトコールは、食事誘発性肥満の生体内マウスモデルにおけるCF102の効果を評価するように設計されている。
【0154】
マウス
使用したマウスは、C57BL/6Jオス、4-6週齢(ジャクソン研究所、ストック000664)である。
【0155】
飼料
60kcal%脂肪飼料(リサーチダイエット、D12492i)
【0156】
CF102投与
2種類の投与、予防的と治療的を調べることになる。
【0157】
実験デザイン
群I~II 通常飼料を給餌したナイーブ動物(n=20)を対照群とし、「低脂肪飼料(Lean Diet)」と定義した。12週後、マウスを2群(1群あたりn=10)に分け、第1群にはCF102(キャンファイトバイオファーマ、カタログ番号A14402-10、100μg/Kg)を4週間毎日経口投与し第2群にはビヒクルのみを投与した。
群III~IV ナイーブマウス(n=20)にHFDを12週間給餌した。12週後、マウスを2群(1群あたりn=10)に分け、第1群にはCF102(キャンファイトバイオファーマ、カタログ番号A14402-10、100μg/Kg)を4週間毎日経口投与し、第2群にはビヒクルのみを投与した。
【0158】
結果と分析
低脂肪飼料群では、対照と比較してCF102は動物に体重減少を引き起こした。
【0159】
具体的には、図4Aは、低脂肪飼料下のCF102を投与したナイーブマウスは、未投与のナイーブマウスと比較して体重減少を見せなかったことを示す。しかし、図4Bに示すように、HFD下のマウスは、CF102を投与すると、有意(p<0.001)な体重減少効果を示した(矢印は投与開始点を指し示す)。
【0160】
実施例4-糖尿病ラットの体重に対するA3ARのアロステリックモジュレーターCF602のへの効果
糖尿病は肥満の合併症の1つである。したがって、糖尿病モデルの体重に対するAARリガンドの効果についても評価した。
【0161】
方法
スプラーグドーリー雄ラット(8~10週齢)にストレプトゾトシン(STZ)をクエン酸緩衝液中の60mg/kgの投与量でIP投与して、糖尿病モデルを作り出した。血糖値が250mg/dLより高い動物のみを研究に含めた。アロステリックなA3ARリガンドであるCF602を100μg/kgの投与量で1日2回、5日間経口投与した。5日後に体重をモニターした。
【0162】
結果
図5は、ベースラインからの体重変化、つまり投与の終了時の体重から投与前の体重を差し引いた値(すなわち差)を示している。体重減少は、CF602を投与した動物において体重の有意(p<0.03)な減少であった。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の体重を減少させるための医薬組成物であって、当該医薬組成物が、(i)薬学的に許容される担体、及び(ii)有効成分としてのA ARリガンドを含み、
前記A ARリガンドが、N -2-(4-アミノフェニル)エチルアデノシン(APNEA)、N -(4-アミノ-3-ヨードベンジル)アデノシン-5’-(N-メチルウロンアミド)(AB-MECA)、N -(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(IB-MECA)、及び2-クロロ-N -(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロンアミド(Cl-IB-MECA)からなる群より選択されるA ARアゴニストである;又は
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロペンチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン;
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘプチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン;
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロブチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン;及び
N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘキシル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン
からなる群より選択されるA ARアロステリックモジュレーターである
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物において、当該医薬組成物が、前記対象への前記A ARリガンドの毎日の投与に適した剤形であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の医薬組成物において、当該医薬組成物が、1日1回又は2回の投与に適した投与量であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
前記対象の長期にわたる治療のための請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物において、当該医薬組成物が、経口投与に適した剤形であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物において、前記A ARアゴニストが、Cl-IB-MECAであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物において、前記A ARアロステリックモジュレーターが、N-(3,4-ジクロロ-フェニル)-2-シクロヘキシル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-4-アミン(CF602)であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
キットであって、
(a)請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物、
(b)前記対象の体重を減少させるための前記医薬組成物の使用のための説明書
を含むことを特徴とするキット。
【外国語明細書】