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特開2023-100971緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法
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  • 特開-緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法 図1
  • 特開-緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法 図2A
  • 特開-緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法 図2B
  • 特開-緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法 図2C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100971
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20230711BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230711BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20230711BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12Q1/6869 Z
C12Q1/689 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023079243
(22)【出願日】2023-05-12
(62)【分割の表示】P 2020518732の分割
【原出願日】2018-09-28
(31)【優先権主張番号】17306297.7
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17306717.4
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】512215059
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ブルターニュ・オクシダンタル(ユ・ベ・オ)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BRETAGNE OCCIDENTALE(U.B.O.)
(71)【出願人】
【識別番号】512217400
【氏名又は名称】エタブリスマン フランセ デュ サン
(71)【出願人】
【識別番号】520106334
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・レジオナル・エ・ユニベルシテール・ドゥ・ブレスト
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER REGIONAL ET UNIVERSITAIRE DE BREST
(71)【出願人】
【識別番号】505129079
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシュ・プール・ラグリキュルテュール,ラリマンタシオン・エ・ランヴィロンヌマン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE RECHERCHE POUR L’AGRICULTURE,L’ALIMENTATION ET L’ENVIRONNEMENT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】エリー-アルノー,ジュヌヴィエーヴ
(72)【発明者】
【氏名】ムーニエ,ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ケラヴェック,マルレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】モンド,スタニスラス
(72)【発明者】
【氏名】ルパージュ,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】ギユー,シャルル-アントワーヌ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法を提供する。
【解決手段】65人の患者の痰サンプル由来の気道微生物叢を分析し、微生物叢データを比較し、緑膿菌に非感染のままであろう患者では、他の群と比べてポルフィロモナス属の存在量が3倍多いことを見出した。具体的には、嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法であって、該被験体から得られた生物学的サンプル中のポルフィロモナス属の細菌の存在量を測定することを含む方法を開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法であって、
- 前記被験体から得られた生物学的サンプル中のポルフィロモナス属の細菌の存在量を測定することと;
- ポルフィロモナス属の細菌の存在量が多いと測定された場合、前記被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが低いと結論付けるか、又はポルフィロモナス属の細菌の存在量が少ないと測定された場合、前記被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けることと
を含む方法。
【請求項2】
前記被験体が、小児である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的サンプルが、気管支肺胞洗浄液(BAL)又は痰である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ポルフィロモナス属の細菌の存在量が、16S rRNAディープシーケンシングを使用して測定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における、緑膿菌による肺定着/感染を予防する方法であって、
- 本発明の方法を使用することによって、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測することと;
- 前記被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けられた場合、処置的に有効な量の緑膿菌特異的抗生物質を前記被験体に投与することと
を含む方法。
【請求項6】
嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における、緑膿菌(Pa)による肺定着/感染を予防する方法であって、
- 本発明の方法を使用することによって、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測することと;
- 前記被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けられた場合、処置的に有効な量のポルフィロモナス属プロバイオティクスを前記被験体に投与することと
を含む方法。
【請求項7】
患者のモニタリングを調整する方法であって、
- 本発明の方法を使用することによって、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測することと;
- 前記被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けられた場合、検診の頻度を増加させることと
を含む方法。
【請求項8】
前記存在量が、絶対存在量又は相対存在量である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法に関する。
【0002】
背景技術
呼吸器の複数菌感染は、嚢胞性線維症(CF)の進行において重要な役割を果たしており、そして、疾患の経過中の病原菌の獲得について以下に記載する。実際、CFの肺内微生物叢は、典型的には、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)又は緑膿菌のいずれかが優勢である(Rogers GB, van der Gast C, Serisier DJ (2015) Predominant pathogen competition and core microbiota divergence in chronic airway infection. ISME J 9:217-225)。緑膿菌は、より高頻度の急性増悪を促進するという、肺機能に対して負の影響を有する(Rosenfeld M, Ramsey BW, Gibson RL (2003) Pseudomonas acquisition in young patients with cystic fibrosis: pathophysiology, diagnosis, and management. Curr Opin Pulm Med 9(6):492-497)。~25歳の後、CF病原体の樹立は通常完了し、緑膿菌がCF肺において最も優勢な種になる(Coburn B, Wang PW, Diaz Caballero J, Clark ST, Brahma V, Donaldson S, Zhang Y, Surendra A, Gong Y, Tullis DE, Yau YCW, Waters VJ, Hwang DM, Guttman DS (2015) Lung microbiota across age and disease stage in cystic fibrosis. Sci rep 5:10241)。緑膿菌の定着は、CF患者の疾患経過における重要なターニングポイントであると考えられる。
【0003】
現在の課題は、このターニングポイントに関与する因子を解明することである。人口統計的及び環境的な因子が、緑膿菌獲得のリスクを増大させることが示されている(Maselli JH, Sontag MK, Norris JM, MacKenzie T, Wagener JS, Accurso FJ (2003) Risk factors for initial acquisition of P. aeruginosa in children with cystic fibrosis identified by newborn screening. Pediatr pulmonol 35(4):257-262)。プレボテラ属(Prevotella)及びベイロネラ属(Veillonella)等の嫌気性細菌の大部分もCF痰サンプルで検出されており、そして、呼吸器の機能に対して有害に作用すると推定されている(Zhao J, Schloss PD, Kalikin LM, Carmody LA, Foster BK, Petrosino JF, Cavalcoli JD, Van Devanter DR, Murray S, Li JZ, Young VB, LiPuma JJ (2012) Decade-long bacterial community dynamics in cystic fibrosis airways. Proc Natl Acad Sci USA 109(15):5809-5814)。細菌に加えて、真菌及びウイルスもCF患者の上気道及び下気道に定着し(Wat D, Gelder C, Hibbitts S, Cafferty F, Bowler I, Pierrepoint M, Evans R, Doull I (2008) The role of respiratory viruses in cystic fibrosis. J Cyst Fibros 7(4):320-328) (Mounier J, Gouello A, Keravec M, Le Gal S, Pacini G, Debaets S, Nevez G, Rault G, Barbier G, Hery-Arnaud G (2014) Use of denaturing high-performance liquid chromatography (DHPLC) to characterize the bacterial and fungal airway microbiota of cystic fibrosis patients. J Microbiol 52(4):307-314.)、そして、その発病において重要な役割を果たしている可能性がある。
【0004】
発明の概要:
本発明は、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法に関する。具体的には、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0005】
発明を実施するための形態
本発明者らの目的は、緑膿菌の定着/感染の予測バイオマーカーを同定することであった。
【0006】
88ヶ月間、34人のCF患者(大部分が小児)を追跡し、そして、2群に分けた;一方の群は経過観察中に緑膿菌に感染し、そして、他方の群は非感染のままであった。肺疾患の進行に関与する潜在的宿主因子を考慮しながら、18の呼吸器ウイルスの16S rRNA遺伝子シーケンシング及びRT-PCRスクリーニングを通して、65の痰サンプルから気道微生物叢を分析した。本発明者らは、2群の患者間で微生物叢のデータを比較した。本発明者らは、更に、CFコホートを横断して「プルモタイプ(pulmotypes)」の存在について調べた。複数の統計学的アプローチを実施し、そして、クラスタ強度を試験した。
【0007】
緑膿菌に感染していない患者において多い(p値<0.001)系統型としてのポルフィロモナス属(Porphyromonas genus)(P.カトニアエ(P. catoniae)及びP.エンドドンタリス(P. endodontalis))は、非許容状態の気道微生物叢のバイオマーカーであった。
【0008】
オーダーメイド医療の時代において、本発明者らは、初期の緑膿菌定着/感染のリスクが高いCF患者に対して緊密なモニタリングを提供し、そして、初期緑膿菌除菌の成功という臨床的有用性を改善するためのバイオマーカーを見出すことを意図していた。
【0009】
したがって、本発明の第1の態様は、嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法であって、
- 該被験体から得られた生物学的サンプル中のポルフィロモナス属の細菌の存在量を測定することと;
- ポルフィロモナス属の細菌の存在量が多いと測定された場合、該被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが低いと結論付けるか、又はポルフィロモナス属の細菌の存在量が少ないと測定された場合、該被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けることと
を含む方法に関する。
【0010】
本明細書で使用するとき、嚢胞性線維症(CF)という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、身体の様々な部分、特に肺だけでなく、膵臓、肝臓、腎臓、及び腸でも発症する遺伝性病態を指す。長期にわたる問題点は、高頻度の肺感染の結果としての呼吸困難を含む。他の徴候及び症状は、鼻炎、低成長、脂肪便、手指及び足指のばち指、並びに男性不妊を含み得る。嚢胞性線維症(CF)は、白人集団において最も一般的な重篤な常染色体劣性遺伝障害である。
【0011】
本明細書で使用するとき、用語「緑膿菌による肺定着/感染」とは、緑膿菌によって引き起こされる、肺に関わる任意の感染性疾患に関する。
【0012】
本明細書で使用するとき、用語「緑膿菌」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、一般的なグラム陰性桿菌を指す。
【0013】
本明細書で使用するとき、用語「ポルフィロモナス属」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして、ポルフィロモナス科(family of Porphyromonadaceae)のグラム陰性、非芽胞形成、嫌気性、かつ非運動性の属を指し、これは、リボソームDNAの相同性及び16S rRNAのデータに基づいて別々の分類群として認識される。
【0014】
本明細書で使用するとき、用語「存在量」とは、ある位置/サンプルにおける該細菌の量又は濃度を指す。
【0015】
一実施態様では、該存在量は、絶対存在量である。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「絶対存在量」とは、例えば、1mLあたりのUFC数又は1mLあたりのゲノム当量で表される、ある位置/サンプルにおける該細菌の濃度を指す。
【0017】
一実施態様では、存在量は、相対存在量である。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「相対存在量」とは、所与の位置/サンプルにおける細菌属の合計数に対するある細菌属の成分百分率を指す。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「被験体」は、哺乳類を意味する。本発明の好ましい実施態様では、本発明に係る被験体とは、嚢胞性線維症に罹患しているか又は罹患するリスクのある任意の被験体(好ましくはヒト)を指す。本発明の方法は、例えば、嚢胞性線維症の世界保健機関分類において改訂されており、そして、E84群:胞嚢性繊維症、肺症状を伴う嚢胞性線維症、腸症状を伴う嚢胞性線維症、及び他の症状を伴う嚢胞性線維症から選択される、任意の種類の嚢胞性線維症について実施することができる。
【0020】
一実施態様では、被験体は、新生児である。
【0021】
一実施態様では、被験体は、小児である。一実施態様では、小児の年齢は、12ヶ月未満である。
【0022】
一実施態様では、被験体は、成人である。
【0023】
本明細書で使用するとき、用語「生物学的サンプル」は、本明細書ではその最も広い意味で使用される。生物学的サンプルは、一般的に、被験体から得られる。サンプルは、それを使用して本発明のバイオマーカーをアッセイすることができる任意の生物学的組織又は流体のサンプルであってよい。多くの場合、サンプルは、「臨床サンプル」、すなわち、患者に由来するサンプルである。このようなサンプルは、細胞を含有していてもよく、していなくてもよい体液、例えば、血液(例えば、全血、血清、又は血漿)、滑液、唾液、組織、又は細針生検のサンプル、並びに診断、処置、及び/又は予後の履歴が既知であるアーカイブサンプルを含むが、これらに限定されない。また、生物学的サンプルは、組織学的目的のために採取された凍結切片等の組織の切片も含み得る。用語「生物学的サンプル」は、生物学的サンプルを処理することによって得られる任意の物質も包含する。得られる物質は、サンプルから単離された細胞(又はその後代)、又はサンプルから抽出されたタンパク質、DNA、若しくはRNAを含むが、これらに限定されない。
【0024】
一実施態様では、生物学的サンプルは、気管支肺胞洗浄液(BAL)、又は痰、又は保護された検体ブラシ(気管支鏡によるサンプル採取から)若しくは咽頭用綿棒である。一実施態様では、生物学的サンプルは、自然喀痰又は誘発喀痰のサンプルである。
【0025】
本明細書で使用するとき、用語「予測」とは、被験体が事象を発現する可能性又は見込みを指す。好ましくは、該事象は、本明細書では、緑膿菌による気管支-肺定着/感染である。
【0026】
本明細書で使用するとき、用語「リスク」とは、特定の期間にわたって事象、例えば、緑膿菌による肺定着/感染の発生が生じる可能性を指し、そして、被験体の「絶対」リスク又は「相対」リスクを意味し得る。絶対リスクは、適切な時間コホートについての実際の測定後所見を参照して、又は適切な期間にわたって追跡した統計学的に妥当な歴史的コホートから得られた指標値を参照して測定することができる。相対リスクは、どのように臨床リスク因子を評価するかによって変動し得る、低リスクコホートの絶対リスク又は平均集団リスクのいずれかと比較した、患者の絶対リスクの比を指す。
【0027】
本発明の方法に従って、ポルフィロモナス属細菌の存在量を測定する。当業者に公知の存在量を測定する全ての方法を使用することができる。これら方法の例は、顕微鏡による直接計数、電子計数チャンバ、間接的な生存細胞計数、培養ベースの技術、又は分子法を含むがこれらに限定されない。
【0028】
一実施態様では、ポルフィロモナス属細菌の存在量は、当技術分野において周知の任意の常法によって、そして、典型的には分子法を使用することによって測定される。一実施態様では、ポルフィロモナス属細菌の存在量は、16S rRNAディープシーケンシングを使用して測定される。一実施態様では、ポルフィロモナス属細菌の存在量は、qPCR技術を使用する所与の生物学的サンプル内の全ての細菌の16S rRNA遺伝子の次世代シーケンシングによって作成される存在量表を使用して測定される。核酸は、Diagnostic Molecular Microbiology: Principles and Applications (Persing et al. (eds), 1993, American Society for Microbiology, Washington D.C.)に記載されているもの等のルーチンな技術によってサンプルから抽出することができる。米国特許第4,683,202号、同第4,683,195号、同第4,800,159号、及び同第4,965,188号には、従来のPCR技術が開示されている。PCRは、典型的には、選択された標的核酸配列に結合する2つのオリゴヌクレオチドプライマーを使用する。本発明において有用なプライマーは、標的核酸配列内の核酸合成の開始点として作用することができるオリゴヌクレオチドを含む。qPCRは、熱安定性ポリメラーゼの使用を伴う。用語「熱安定性ポリメラーゼ」とは、熱安定性であるポリメラーゼ酵素を指し、すなわち、該酵素は、テンプレートに対して相補的なプライマー伸長生成物の形成を触媒し、そして、二本鎖テンプレート核酸を変性させるのに必要な時間高温に曝露されたときに不可逆的に変性しない。一般的に、合成は、各プライマーの3’末端で開始され、そして、テンプレート鎖に沿って5’→3’方向に進行する。熱安定性ポリメラーゼは、サーマス・フィアブス(Thermus flavus)、サーマス・ルバー(T. ruber)、サーマス・サーモフィラス(T. thermophilus)、サーマス・アクアチクス(T. aquaticus)、サーマス・ラクテウス(T. lacteus)、サーマス・ルーベンス(T. rubens)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、及びメタノサーマス・フェルビダス(Methanothermus fervidus)から単離されている。それにもかかわらず、酵素が補充されるならば、熱安定性ではないポリメラーゼをPCRアッセイで使用することもできる。典型的には、ポリメラーゼは、Taqポリメラーゼ(すなわち、サーマス・アクアチクスポリメラーゼ)である。プライマー伸長を誘導する反応条件下でプライマーをPCR試薬と合わせる。新規に合成された鎖は、後続の反応工程において使用することができる二本鎖分子を形成する。標的核酸配列分子に対応する増幅生成物を所望の量生成するのに必要な回数、鎖分離、アニーリング、及び伸長の工程を繰り返してよい。反応における律速因子は、反応中に存在するプライマー、熱安定性酵素、及びヌクレオチド三リン酸の量である。循環工程(すなわち、変性、アニーリング、及び伸長)は、好ましくは、少なくとも1回繰り返される。検出において使用する場合、循環工程の数は、例えば、サンプルの性質に依存する。サンプルが核酸の複合混合物である場合、検出に十分な標的配列を増幅させるためにより多くの循環工程が必要になる。一般的に、循環工程は、少なくとも約20回繰り返されるが、40回、60回、又は更には100回繰り返してもよい。
【0029】
16Sディープシーケンシング技術は、例えば、Shendure and Ji. "Next-generation DNA sequencing", Nature Biotechnology, 26(10):1135-1145 (2008))等、当技術分野の現状において十分に記載されている。
【0030】
「次世代DNAシーケンシング」(「NGS」)、「ハイスループットシーケンシング」、「超並列シーケンシング」、及び「ディープシーケンシング」としても知られている16Sディープシーケンシング技術は、並行して複数の核酸をシーケンシングする方法を指す。例えば、Bentley et al, Nature 2008, 456:53-59を参照。Roche/454(Margulies et al, 2005a)、Illumina/Solexa(Bentley et al, 2008)、Life/APG(SOLiD)(McKernan et al, 2009)、及びPacific Biosciences(Eid et al, 2009)によって生産されている主要な市販プラットフォームをディープシーケンシングに使用することができる。例えば、454法では、シーケンスされるDNAを断片化し、そして、アダプターを供給するか、又はアダプターを含有するプライマーを使用してDNAのセグメントをPCR増幅させてもよい。アダプターは、DNAキャプチャービーズへの結合に、そして、エマルションPCR増幅プライマー及びシーケンシングプライマーのアニーリングに必要な25merのヌクレオチドである。DNA断片を一本鎖にし、そして、1つのDNA断片だけが1つのビーズに結合するようにDNAキャプチャービーズに結合させる。次に、DNA含有ビーズを油中水型混合物に乳化させて、ビーズを1つだけ含有するマイクロリアクタを得る。マイクロリアクタ内で、断片をPCR増幅させて、ビーズ1つあたり数百万のコピー数を得る。PCR後、エマルションを破壊し、そして、ピコタイタープレートにビーズをロードする。ピコタイタープレートの各ウェルは、ビーズを1つだけ収容することができる。シーケンシング酵素をウェルに添加し、そして、一定の順序でヌクレオチドをウェルに流す。ヌクレオチドが組み入れられた結果、反応を触媒して化学発光シグナルを生じさせるピロホスファートが放出される。このシグナルをCCDカメラによって記録し、そして、ソフトウェアを使用して該シグナルをDNA配列に翻訳する。lllumina法(Bentley (2008))では、一本鎖のアダプターが供給された断片を光学的に透明な表面に結合させ、そして、「ブリッジ増幅」に供する。この手順の結果、それぞれ独自のDNA断片のコピーを含有する数百万のクラスタが得られる。DNAポリメラーゼ、プライマー、及び4種の標識された可逆性ターミネータヌクレオチドを添加し、そして、レーザー蛍光によって表面を撮像して、標識の位置及び性質を決定する。次いで、保護基を除去し、そして、プロセスを数サイクル繰り返す。SOLiDプロセス(Shendure (2005))は、454シーケンシングに類似しており、DNA断片をビーズの表面上で増幅させる。シーケンシングは、ライゲーション及び標識されたプローブの検出のサイクルを含む。ハイスループットシーケンシングのための幾つかの他の技術が現在開発中である。このような技術の例は、The Helicos system(Harris (2008))、Complete Genomics(Drmanac (2010))、及びPacific Biosciences(Lundquist (2008))である。これは極めて急速に発展している技術分野であるので、ハイスループットシーケンシング法の本発明への適用性は、当業者に明らかであろう。
【0031】
本発明の更なる目的は、嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における、緑膿菌による肺定着/感染を予防する方法であって、
- 本発明の方法を使用することによって、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測することと;
- 該被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けられた場合、処置的に有効な量の緑膿菌特異的抗生物質を該被験体に投与することと
を含む方法に関する。
【0032】
一実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、アミノグリコシド(カナマイシンを除く、ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシン)である。
【0033】
一実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、キノロン(モキシフロキサシンを除く、シプロフロキサシン、レボフロキサシン)である。
【0034】
一実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、セファロスポリン(セフロキシム、セフォタキシム、又はセフトリアキソンを除く、セフタジジム、セフェピム、セフォペラゾン、セフピロム、セフトビプロール)である。
【0035】
一実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、セフタジジム-アビバクタム又はセフトロザン-タゾバクタムである。
【0036】
一実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、抗緑膿菌性ペニシリン:カルボキシペニシリン(カルベニシリン及びチカルシリン)及びウレイドペニシリン(メズロシリン、アズロシリン、及びピペラシリン)である。
【0037】
一実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、カルバペネム(エルタペネムを除く、メロペネム、イミペネム、ドリペネム)である。
【0038】
一実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、ポリミキシン(ポリミキシンB及びコリスチン)である。
【0039】
一実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、モノバクタム(アズトレオナム)である。
【0040】
好ましい実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、経口シプロフロキサシン及び吸入コリスチンである。
【0041】
好ましい実施態様では、緑膿菌特異的抗生物質は、吸入トブラマイシンである。
【0042】
本発明の更なる目的は、嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における、緑膿菌による肺定着/感染を予防する方法であって、
- 本発明の方法を使用することによって、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測することと;
- 該被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けられた場合、処置的に有効な量のポルフィロモナス属プロバイオティクスを該被験体に投与することと
を含む方法に関する。
【0043】
本明細書で使用するとき、用語「予防」とは、所与の病態を獲得又は発現するリスクの減少を指す。
【0044】
本明細書で使用するとき、用語「プロバイオティクス」とは、適切な処置量で投与されたときに被験体に健康上の利益を与える、生存している微生物である。健康上の利益は、プロバイオティクスによる栄養素及び/若しくは補因子の生成、プロバイオティクスと病原体との競合、並びに/又はプロバイオティクスによる被験体における免疫応答の刺激の結果である。
【0045】
用語「投与する」又は「投与」とは、例えば、粘膜、皮内、静脈内、皮下、筋肉内、関節内への送達、及び/又は本明細書に記載されるか若しくは当技術分野において公知である任意の他の物理的送達方法によって、体外に存在する物質を被験体に注射又は他の方法で物理的に送達する行為を指す。疾患又はその症状を処置するとき、物質の投与は、典型的には、疾患又はその症状の発生後に行われる。疾患又はその症状を予防するとき、物質の投与は、典型的には、疾患又はその症状の発生前に行われる。
【0046】
「処置的に有効な量」とは、任意の医学的処置に適用可能な合理的なベネフィット/リスク比で、緑膿菌による肺定着/感染を予防する方法において使用するのに十分な緑膿菌特異的抗生物質の量を意味する。本発明の化合物及び組成物の合計日用量は、適切な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されるであろう。任意の特定の被験体についての具体的な処置的に有効な用量レベルは、被験体の年齢、体重、全身健康、性別、及び食生活;使用される具体的な化合物の投与時間、投与経路、及び排出速度;処置期間;並びに医学分野で周知の類似要因を含む、様々な要因に依存する。例えば、所望の処置効果を達成するのに必要な用量よりも低いレベルの化合物の用量で開始し、そして、該所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、当技術分野の技能の範囲内で周知である。しかし、生成物の日用量は、成人1人当たり1日当たり0.01~1,000mgという広範囲にわたって変動し得る。典型的には、処置される被験体に対する投与量を症状に合わせて調整するために、組成物は、活性成分 0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、及び500mgを含有する。医薬は、典型的には、活性成分 約0.01mg~約500mg、典型的には、活性成分 1mg~約100mgを含有する。有効量の薬物は、通常、1日当たり0.0002mg/kg(体重)~約20mg/kg(体重)、特に、1日当たり約0.001mg/kg(体重)~7mg/kg(体重)の投与量レベルで供給される。
【0047】
本発明の別の目的は、患者のモニタリングを調整する方法であって、
- 本発明の方法を使用することによって、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測することと;
- 該被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けられた場合、検診の頻度を増加させることと
を含む方法に関する。
【0048】
例えば、該被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けられた場合、毎月又は15日間毎に検診を実施してよいが、標準的な患者のモニタリングは3ヶ月間毎の検診を含む。
【0049】
本発明の方法を使用して得られる、嚢胞性線維症に罹患している被験体における緑膿菌による肺定着/感染を発現するリスクの予測を確認するために、qPCRによって緑膿菌を検出することが可能である(Hery-Arnaud et al., CMI 2017: qPCR provides a window of opportunity of 8 months)。
【0050】
本発明の別の目的は、嚢胞性線維症に罹患している被験体を層別化する方法であって、
- 該被験体の気道における存在量の多い細菌種を決定することと;
- 該被験体の気道における存在量の多い細菌種がストレプトコッカス属(Streptococcus)若しくはヘモフィルス属(Haemophilus)である場合、好ましい嚢胞性線維症進行であると結論付けるか、又は該被験体の気道における存在量の多い細菌種がスタフィロコッカス属(Staphylococcus)である場合、好ましくない嚢胞性線維症進行であると結論付けることと、
を含む方法に関する。
【0051】
本発明の別の目的は、嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法であって、
- 該被験体の気道におけるライノウイルスの有無を検出することと;
- ライノウイルスの存在が検出された場合、被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが低いと結論付けるか、又はライノウイルスの非存在が検出された場合、被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けることと
を含む方法に関する。
【0052】
本発明の別の目的は、嚢胞性線維症(CF)に罹患している被験体における、緑膿菌による肺定着/感染の発現リスクを予測する方法であって、
- 該被験体の気道における存在量の多い細菌種を決定することと;
- 該被験体の気道における存在量の多い細菌種がストレプトコッカス属若しくはヘモフィルス属である場合、被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが低いと結論付けるか、又は該被験体の気道における存在量の多い細菌種がスタフィロコッカス属である場合、被験体が緑膿菌の肺定着/感染を発現するリスクが高いと結論付けることと、
を含む方法に関する。
【0053】
以下の図面及び実施例によって本発明を更に説明する。しかし、これら実施例及び図面は、いかなる手段によっても、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】試験の設計。
図2A】a)各セットにおける緑膿菌の正規化された存在量。
図2B】b)各群におけるポルフィロモナス属の正規化された存在量。
図2C】c)精度の平均低下の測定に基づく、各群に対して最も寄与した15個の分類群を示すランダムフォレスト分析の結果。
【0055】
実施例:
材料及び方法
患者コホート、組み入れ基準、及びグローバルデータ。本試験では、年齢中央値13.8歳([IQR:7.8~31歳])の34人のCF患者(17人の女性及び17人の男性)を組み入れ、そして、中央値で8ヶ月間[IQR:1~23ヶ月間]にわたって経過観察した。CF患者を、1回目のサンプリング時の患者の緑膿菌感染状態を定義するLee基準に基づいて、「感染していない(free)」及び「感染したことがない(never)」に分類した。年齢、性別、CFTR突然変異、Priceらによって定義された4つの段階(ベースライン、増悪、処置、又は回復)による臨床状態(DOI: 10.1186/2049-2618-1-27)、抗生物質処置、BMI、Lee状態(DOI: 10.1016/S1569-1993(02)00141-8)、及び痰サンプルの品質(細胞学的パラメータ、上皮細胞及び白血球に従って確立したスコア)を含む、各サンプリング時に収集した他の臨床的及び生物学的データを収集した。2つの時点:登録時(0時点)及び中央値で8ヶ月間後に収集した自然喀痰サンプルに対して、肺内の細菌及びウイルスの群集の分析を実施した(図1)。経過観察の最後に、患者を2群に分けた。群1は(「緑膿菌を有しないままであった患者を含んでいたが、一方、群2の患者は、経過観察中に培養下で緑膿菌陽性になった(図1)。
【0056】
痰サンプルからの核酸抽出。細菌の構成を評価するために、QIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN, Courtaboeuf, France)を使用して全DNAを抽出した。56℃で4時間プロテイナーゼK(10mg/mL) 25μLで処理した後、NUCLISENS(登録商標)easyMAG(商標)自動抽出機(bioMerieux, Marcy l’Etoile, France)を使用して、同じ痰サンプルからウイルスのRNA及びDNAを抽出した。
【0057】
細菌の微生物叢の説明。16S rRNA遺伝子の増幅されたV3及びV4の超可変領域に対して、バーコード付ハイスループット454パイロシーケンシングを実施した(Bioproject PRJNA 297396)。
【0058】
呼吸器系ウイルスのスクリーニング。RespiFinder(登録商標)SMART 22 FAST kit(PathoFinder, Maastricht, The Netherlands)をGeneAmp(登録商標)PCR System 9700(Applied Biosystems, Courtaboeuf, France)において使用して、18のヒト呼吸器系ウイルスを同時に検出した。更に、特異的qPCRを実施して、HRV及びHEVの両方を識別した。
【0059】
バイオインフォマティクス的及び統計的解析。配列を標準的なUPARSEパイプラインを用いて分析した。全ての統計的解析について、有意差の閾値を0.05に設定した。偽陽性率(FDR)を計算して、多重仮説検定を補正した。
【0060】
結果
嚢胞性線維症における気道微生物叢の全体的構成。
細菌群集。5つの優勢門、すなわち、ファーミキューテス門(Firmicutes)(43.11%)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)(32.18%)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)(13.31%)、放線菌門(Actinobacteria)(7.66%)、及びフソバクテリウム門(Fusobacteria)(3.62%)がみられ、そして、11の優勢属(相対存在量≧1%)、すなわち、ストレプトコッカス属(22.73%)、ヘモフィルス属(Haemophilus)(14.80%)、スタフィロコッカス属(10.66%)、ナイセリア属(Neisseria)(10.19%)、プレボテラ属(Prevotella)(7.57%)、ロチア属(Rothia)(7.01%)、ポルフィロモナス属(5.33%)、ベイロネラ属(Veillonella)(4.14%)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)(2.98%)、グラニュリカテラ属(Granulicatella)(1.74%)、及びシュードモナス属(Pseudomonas)(1.26%)がみられた。全てのサンプルの中でストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)群に割り当てられた1つのOTUのみが共有されていた。
【0061】
ウイルス群集。痰サンプルの29.2%(n=19)において呼吸器系ウイルスが検出された。痰サンプルの4.6%(n=3)でウイルスの同時感染(≧2ウイルス)が観察された。HRV/HEVがサンプルの24.6%(HRV、n=7;HEV、n=9)で検出されたので、最も優勢なウイルスであった。アデノウイルス、パラインフルエンザ2、コロナウイルス229E及びNL63は、それぞれ、4.6%(n=3)、3.1%(n=2)、1.5%(n=1)、及び1.5%(n=1)で検出された。ライノウイルス及び/又は非ライノウイルスの存在と肺増悪との間に有意な相関はなかった。
【0062】
性別の影響。推定及び観察された細菌種の豊富さ及び多様性は、女性患者(観察された種:43.78±16.4;H’:2.8±0.95)よりも男性患者(観察された種:54.07±18.4;H’:3.4±1.04)において有意に大きかった。男性及び女性の両コホートについて、患者の年齢ではこの差が説明されなかった(t検定、p値>0.5)。更に、CF肺微生物叢の構成は、Unifrac重み付け分析(adonis検定;p<0.05)によって明らかになった通り、性別によって変動した。セレノモナス属(Selenomonas)、レプトトリキア属(Leptotrichia)、パルビモナス属(Parvimonas)、及びアトポビウム属(Atopobium)の相対存在量(RA)は男性群において有意により重要であり(マンホイットニー検定、p値<0.05)、M/F性比は、それぞれ、3.3、3.1、15.8、及び6.2であったが、一方、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)は、男性群のみでみられた(低存在量、RA<0.1%)。更に、パルビモナス属は、経過観察中に非感染のままであった男性患者において有意により大量に存在していた(マンホイットニー検定、p値=001)。サンプルは0.24+/-0.08のエラー率で分類されたが、これは、ランダム推測のベースラインエラー率(0.49)よりも2倍高い。
【0063】
初期緑膿菌定着の低リスクに関連するバイオマーカーの研究。
群2の患者において、細菌の多様性は、緑膿菌の定着前と同様であった。また、群1の患者においても多様性は経時的に変化しなかった。
【0064】
重要な属であるポルフィロモナス属。予想通り、シュードモナス属のRAは、群1のサンプルにおいて有意に(p値=1.79e10-7)多かった(図2a)。興味深いことに、経過観察中に緑膿菌に非感染のままであった群1の患者では、T0におけるポルフィロモナス属のRAが群2の患者よりも有意に多く(マンホイットニー検定、p値<0.001)(図2b)、平均RAは、群1では252.9リード、そして、群2では130.7リードであった(比1.9)。T0では、緑膿菌に非感染のままであろう群1の患者は、3つの他の群(群1のT1、群2のT0及びT1)と比べてポルフィロモナス属の存在量が3倍多かった。更に、これら結果は、シュードモナス属及びポルフィロモナス属のRA間の重要な関係を示した、ランダムフォレストの観察によって十分に裏付けられた(図2c)。興味深いことに、ポルフィロモナス属は、緑膿菌に非感染のままであった男性群においてより大量に存在しており、これは、この属の重要な潜在的役割を示す。
【0065】
CF気道微生物叢をプルモタイプにクラスタ化した。
【0066】
3つのプルモタイプのドライバーであるストレプトコッカス属、ヘモフィルス属、及びスタフィロコッカス属。コホートサンプルを、ストレプトコッカス属(プルモタイプA)、ヘモフィルス属(プルモタイプB)、又はスタフィロコッカス属(プルモタイプC)のいずれかが優勢な3つのプルモタイプにクラスタ化した。このクラスタ化は、PCA結果と一致しており、そして、クラスカル・ワリス検定を使用して確認された(p値=0.001)。これら3つの優勢属及び他の共存する属のRAの差異によってプルモタイプが駆動された。実際、プルモタイプAは、ストレプトコッカス属(30.0%)、続いて、ナイセリア属(13.3%)、ロチア属(9.2%)、プレボテラ属(8.5%)、及びポルフィロモナス属(6.9%);プルモタイプBは、ヘモフィルス属(62.0%)、ストレプトコッカス属(9.5%)、及びアグリゲイティバクター属(Aggregatibacter)(5.0%);そして、プルモタイプCは、スタフィロコッカス属(54.6%)、ストレプトコッカス属(13.5%)、及びナイセリア属(6.7%)が優勢であった。全体として、痰サンプルの69.2%(n=45)、15.4%(n=10)、及び15.4%(n=10)が、それぞれ、プルモタイプA、B、及びCに割り当てられた。細胞学的スコアがクラスタ化に対して影響を有していなかった(Bray Curtis距離を使用したAnosim検定、p値<0.05;R=0.073)ことは言及する価値がある。
【0067】
プルモタイプは、プルモタイプAのH’(H’:3.39±0.83)がプルモタイプCのH’(H’:2.4±1.18)よりも有意に(p値=0.012)高かった場合のH’を除いて、異なる細菌群集構造(Bray Curtis距離を用いたAdonis検定、p値=0.001)を示したが、α多様性は異なっていなかった。
【0068】
プルモタイプ間の関係を見出すために他のパラメータ(例えば、患者の年齢、BETR分類、CFTR突然変異、BMI)を試験したが、いずれも有意性には達しなかった(データ不掲載)。
【0069】
本発明者らは、重要なプルモタイプ内及びプルモタイプ間のばらつきについても観察した。長期的な経過観察中、5人のCF患者についてプルモタイプの変化が観察された。実際、患者023及び226のプルモタイプは、プルモタイプAからプルモタイプCに変化したが、患者065については逆の変化が観察された。患者253は、患者076とは対照的に、プルモタイプAからBへと変化した。
【0070】
プルモタイプとCFの特徴との関連。本発明者らは、プルモタイプAに属する幾つかのサンプルにおいてポルフィロモナス属の比率が非常に高く、1サンプルあたりの平均RAが6.9%である(平均して、プルモタイプBについては1サンプルあたり2.5%、そして、プルモタイプCについては1サンプルあたり3.8%)ことを観察したが、これら傾向は有意性には達しなかった。興味深いことに、ウイルス群集は、プルモタイプのクラスタ化に有意な影響を与えなかった(クラスカル・ワリス検定、p値>0.1)。しかし、独立性のg検定によれば、ライノウイルスの存在は2つのOUTと相関していた:インフルエンザ菌の存在及び緑膿菌の非存在(p値<0.05)。興味深いことに、プルモタイプCに属するサンプルのうちの90%(10サンプルのうちn=9)が、Lee基準に従って「感染していない」状態であった。2つの他のプルモタイプでは、Lee基準との関連性は観察されなかった。本発明者らは、プルモタイプA及びBと比べてプルモタイプCにおいて、男性バイオマーカーであるレプトトリキア属の保有率が有意に低いことも観察した(クラスカル・ワリス検定、p値<0.01)(詳細についてはSI結果を参照)。
【0071】
考察
このコホート試験は、CFにおける緑膿菌定着の初期バイオマーカーを見つけることであった。本発明者らは、微生物叢がCF気道における緑膿菌に対して多かれ少なかれ許容状態であり得るという仮説を立てた。この仮説を評価するために、本発明者らは、緑膿菌定着の初期段階中に細菌及びウイルスを含むこれら微生物叢の特徴について調べた。驚くべきことに、病原性共生生物の代わりに、本発明者らは、緑膿菌感染のリスクの低いCF肺の特性を同定し、そして、肺疾患の進行に潜在的に相関する3つのプルモタイプを同定した。
【0072】
緑膿菌の慢性感染の段階では、細菌多様性の低さが、CFの進行及び緑膿菌の存在と正の相関を有していた。大部分が緑膿菌に慢性的には感染していないCF小児で構成されていた本コホートでは、緑膿菌を獲得しても、8ヶ月間の経過観察にわたってα多様性指数は低下しなかった。したがって、他のバイオマーカーを探索した。ポルフィロモナス属のRAは、群2の患者よりも群1の患者(緑膿菌に非感染のままである患者)において有意に高かった(p値<0.001)。逆に、5.33%の閾値を下回るポルフィロモナス属のRAを保有している患者は、3.7倍高い緑膿菌獲得のリスクを示した。ポルフィロモナス属の細菌は口腔微生物叢の嫌気性共生生物であり、そして、CF肺のコアな微生物叢の一部であると考えられる。CF気道の微生物叢に対するCFTR増強薬(アイバカフトール)の影響の特性評価を目的とした本発明者らのチームの以前の研究(Hery-Arnaud G (2015) Impact of the CFTR-potentiator ivacaftor on airway in cystic fibrosis patients carrying a G551D mutation. PLoS One 10(4):e0124124)では、処置の開始後にポルフィロモナス属のRAが持続的に増加することが実証され、これは予測努力性呼気一秒量(FEV-1)の百分率と正の相関が認められた。これら結果と合わせると、ポルフィロモナス属がCFにおける好ましい予後バイオマーカーとなり得ることが示唆される。この知見は、この細菌と緑膿菌陰性表現型との間の関係についての問題も提起する。たとえこのように1つの細菌属がCF進行の安定性を完全には説明できない場合であっても、CF気道におけるこの嫌気性細菌の可能性のある好ましい役割を確認するために、ポルフィロモナス属と緑膿菌との間の相互作用について研究するためにインビトロ実験を実施しなければならない。
【0073】
病原体を超えて、宿主因子は、粘液-微生物-宿主のクロストークの中で気道の微生物叢の構成を形作る。本発明者らは、性別がCF気道の微生物叢の構成に影響を与えることを見出した。CF患者の平均余命における男女格差は、米国及び欧州の国々で長年にわたって考証されてきた(Jain R (2014) Gender differences in outcomes of patients with cystic fibrosis. J Women's Health 23(12):1012-1020.)。健康ケア及び処置の著しい向上にもかかわらず、CFの女性は男性よりも依然として転帰が悪く、死亡率が高く、より低年齢で緑膿菌が定着し、そして、緑膿菌の非ムコイド型のムコイド型への変換のリスクが高い。同様に、他の肺疾患においても男女格差が報告されている。免疫応答の男女差が、このような肺疾患における性差に関与している可能性がある。また、性ホルモンも肺機能に影響を有している可能性があり;例えば、エストロゲンは緑膿菌のムコイド表現型を誘導することが示されている(McElvaney NG (2012) Effect of estrogen on Pseudomonas mucoidy and exacerbations in cystic fibrosis. NEJM 366(21):1978-1986.)。しかし、思春期前及び閉経後に男女格差が具体化するという事実は、ホルモンでは完全に説明できない可能性があることを示唆している。呼吸器感染が罹患率及び死亡率への大きな寄与体であることに鑑みて、呼吸器の状態がCFの男女格差において最も重要な要因であるという仮説が最近立てられた。したがって、本研究は、性別格差と易感染性との間のミッシングリンクを提供する(これは、緑膿菌だけではなく、広範な病原体に関係している可能性がある)。また、マイクロバイオーム研究が、CF男女格差に注目した疫学的研究を裏付けるのはこれが初めてである。本発明者らは、偏性嫌気性細菌であり、そして、健康状態と既に関連付けられているセレノモナス属、レプトトリキア属、アトポビウム属、パルビモナス属、及びビフィドバクテリウム属の男性群における過剰出現を同定した(Martinez FJ, for the COMET investigators (2014) Lung microbiome and disease progression in idiopathic pulmonary fibrosis: an analysis of the COMET study. Lancet Respir Med 2:548-556.)。本発明者らは、これら男性に関連する属及びポルフィロモナス属が、特に男性のCF患者において緑膿菌に対する保護バリアとして寄与している可能性があると仮定することができる。この仮説を確認するためには、インビトロ及びインビボの分析が必要である。健常口腔群集ではレプトトリキア属が優勢であることが見出された。放線菌門(アトポビウム属の門)のRAが緑膿菌と負の相関を有していることがこの研究によって観察され、これは、類似の生態学的地位及び挙動についての競合を通じた、細菌病原体に対する常在微生物叢の直接の影響を示唆している。男性では、ビフィドバクテリウム属の存在量が少ない(RA<0.1%)ことが見出されたが、女性では全く存在していなかった。他の研究は、ビフィドバクテリウム属の減少が喘息表現型と関連していることを実証した。また、これら4つの細菌属は、通常、腸で生息する細菌であると説明されており、そして、慢性閉塞性肺疾患の患者でみられる。最近、腸定着が気道定着の前兆となることが見出され、そして、若年期のCFにおける腸微生物叢の構成が肺疾患の進行に直接関与しているという、CFにおける腸-肺の関係が明らかになった。
【0074】
サンプルは3つのプルモタイプに強くクラスタ化され、主なものはストレプトコッカス属が優勢であり(プルモタイプA)、そして、他の2つは、ヘモフィルス属(プルモタイプB)又はスタフィロコッカス属(プルモタイプC)のいずれかが優勢である。小児及び成人のコホートをプールした以前の研究では、緑膿菌又はストレプトコッカス属のいずれかによって表される2つの生態型が検出された(Dalpke AH (2015) Comparison of microbiomes from different niches of upper and lower airways in children and adolescents with cystic fibrosis. PLoS One 10(1):e0116029.)。ここでは、プルモタイプAは、最も高いシャノン多様性を特徴としていた。ストレプトコッカス属の優勢は、高い細菌多様性、呼吸器機能の増大、及びCF患者の人生の最初の月との相関が既に認められている。気道におけるストレプトコッカス群の初期樹立は、CF病原体、より具体的には緑膿菌の獲得モデルにおいて直接及び正の作用を有する、CF進行における好ましいバイオマーカーとしてもみなされている。したがって、ストレプトコッカス属の種は、その初期及び持続性の定着がCFにおける好ましい特性である基盤種として定義することができる。更に、サリバリウス群のストレプトコッカス属は、FEV-1の増加と正の相関が認められた。興味深いことに、ポルフィロモナス属はプルモタイプAに属するサンプルにおいて有意に優勢であることも観察された。
【0075】
ヘモフィルス属は、プルモタイプBの主な寄与体であった。インフルエンザ菌及び緑膿菌は、CF気道の微生物叢の定着について強い種間競合下にある。試験したコホートは大部分が緑膿菌陰性患者で構成されていたにもかかわらず、本発明者らは、ヘモフィルス属がCF気道の微生物叢の構造に対して強い影響を有していることを実際に観察した。更に、ヘモフィルス属は、ライノウイルス陽性サンプルにおいてより大量に存在しており、次に、該サンプルは低RAの緑膿菌を保有していた。この所見に基づいて、本発明者らは、抗生療法の開始又はウイルス感染等の微生物叢の混乱に続いて、プルモタイプBがプルモタイプAの後に出現すると仮定することができる。
【0076】
インフルエンザ菌及び黄色ブドウ球菌(S. aureus)は、小児CF集団において最も優勢な病原体であると考えられ、後に徐々に緑膿菌に置き換わっていく。興味深いことに、クラスタ分析によって定義される最後のプルモタイプは、スタフィロコッカス属によって駆動され、そして、そのドライバーが十分に特性評価されている病原体であることを考慮すれば、病原型であると考えることができる。CFの初期段階では、高RAの黄色ブドウ球菌が、気道炎症の増加と正の関連を示した。更に、黄色ブドウ球菌の定着は、緑膿菌の初期定着のリスク因子であると考えられる。プルモタイプCサンプルの90パーセントは、緑膿菌に「感染していない」状態の患者、言い換えれば、「感染したことがない」患者よりも進行した肺感染の状態にある患者に対応していた。
【0077】
最後に、本発明者らは、プルモタイプとCF進行との間の関係について調べた。長期的な経過観察中、5人のCF患者についてのみプルモタイプの変化が観察された。これら所見は、小児期における経時的なCF気道の微生物叢の相対的安定性を示した。プルモタイプAからプルモタイプCに変化した患者023については、FEV-1の劇的な喪失(わずか3ヶ月間で76.2%から60.5%へ;データに不掲載)が観察された。更なる長期的な研究では、病歴全体にわたるその動態を正確に定義するために、マイクロバイオームの長期にわたる進化及び関連するプルモタイプについて理解することは興味深い。このような研究は、プルモタイプの変化(例えば、AからC)が呼吸器の機能にとって有害であるかどうか、そして、臨床状態と相関し得るかどうかを評価することができる。本発明者らは、プルモタイプ「ストレプトコッカス属」は、安定なCF肺のマイクロバイオームの始祖となる(funder)プルモタイプを表すと仮定し;その境界が、種の構成の観点で区切られることは少なく、そして、健常呼吸器状態と同義である高い多様性を有する。CFに関連して「健常肺」について述べるのは不適切である可能性があるので、本発明者らは、プルモタイプAから別のプルモタイプへの変化をCF肺の主な微生物ディスバイオシスとして定義することを提案する。プルモタイプ「ヘモフィルス属」、「スタフィロコッカス属」(及び成人では「シュードモナス属」)は、撹乱されたCF生態系における入り口に相当し、したがって、病原型と定義される。
【0078】
結論
この研究は、CF患者の管理における微生物叢データの大きな重要性を示した。プルモタイプの概念は、既に多微生物性かつ空間的に不均一であると定義されているCF気道の微生物叢の複雑性を単純化することができる方法である。この概念を使用して、本発明者らは、CF進行の予測において有用であり得る特性を同定することができた。関心対象の細菌の同定は、新たな処置選択肢を同定するための予後バイオマーカーとして該細菌を使用する可能性を開く。これら知見を検証し、そして、因果関係の問題に対処するには、更なるコホート研究が必要である。若年期のCF進行に対する入力微生物叢の影響についても調べなければならない。そう遠くない未来に、生化学的及び微生物学的特性の両方の研究が、CF微生物学を理解するための新たなアプローチを構成するであろう。
【0079】
参照文献:
本願全体を通して、様々な参照文献が、本発明が関連する技術分野の状況について説明している。これら参照文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
図1
図2A
図2B
図2C
【外国語明細書】