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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100980
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20230711BHJP
   F16C 19/28 20060101ALI20230711BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16C19/28
F16C33/34
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079762
(22)【出願日】2023-05-15
(62)【分割の表示】P 2019023210の分割
【原出願日】2019-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
(72)【発明者】
【氏名】為永 淳
(57)【要約】
【課題】偏心体軸受の転動面におけるピーリングを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】内歯歯車と、内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、外歯歯車を揺動させる偏心体と、偏心体と外歯歯車の間に配置される偏心体軸受と、を備える偏心揺動型減速装置であって、偏心体軸受は、ころ60を有し、ころ60は、ころ軸方向の中間部70と、中間部70からころ軸方向の端部に向かって外径が徐々に小さくなるクラウニング部72と、を有し、クラウニング部72の突出山部高さRpkは、0.063μm以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
前記内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、
前記外歯歯車を揺動させる偏心体と、
前記偏心体と前記外歯歯車の間に配置される偏心体軸受と、を備える偏心揺動型減速装置であって、
前記偏心体軸受は、ころを有し、
前記ころは、ころ軸方向の中間部と、前記中間部からころ軸方向の端部に向かって外径が徐々に小さくなるクラウニング部と、を有し、
前記クラウニング部の突出山部高さRpkは、0.063μm以下である偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記クラウニング部の前記突出山部高さRpkは、0.040μm以下である請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記内歯歯車のピッチ円の半径と前記外歯歯車の軸方向寸法の合計値とで表される円柱体の体積を前記内歯歯車及び前記外歯歯車が構成する減速機構の体積とし、本減速装置の許容トルクを前記減速機構の体積で割った値をトルク密度としたとき、前記トルク密度は、2.9×10N/m以上である請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記中間部の突出山部高さRpkは、0.063μm以下である請求項1から3のいずれかに記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
前記中間部の前記突出山部高さRpkは、前記クラウニング部の前記突出山部高さRpkより小さい請求項4に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項6】
前記ころのころ軸方向の中央から端面までの距離をLhとし、前記ころの中央から前記ころ軸方向に前記Lh×80%の位置における前記クラウニング部のドロップ量を前記Lh×80%で割った値を無次元ドロップ量Daとしたとき、前記無次元ドロップ量Daは、0.0026以上0.010以下である請求項1から5のいずれかに記載の偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内歯歯車と、内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、外歯歯車を揺動させる偏心体と、偏心体と外歯歯車の間に配置される偏心体軸受とを備える偏心揺動型減速装置が記載されている。この偏心体軸受は、ころを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-7296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1の開示技術を検討したところ、次の課題があるとの認識を得た。偏心体軸受のころにはクラウニング部を設ける場合がある。この場合、このクラウニング部に対向する転動面にピーリングが生じることがあった。特許文献1の開示技術は、この対策を講じたものではなく、改良の余地があった。
【0005】
本発明のある態様は、こうした状況に鑑みてなされ、その目的の1つは、偏心体軸受の転動面におけるピーリングを抑制できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するための本発明の第1態様は、内歯歯車と、前記内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心体と、前記偏心体と前記外歯歯車の間に配置される偏心体軸受と、を備える偏心揺動型減速装置であって、前記偏心体軸受は、ころを有し、前記ころは、ころ軸方向の中間部と、前記中間部からころ軸方向の端部に向かって外径が徐々に小さくなるクラウニング部と、を有し、前記クラウニング部の突出山部高さRpkは、0.063μm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、偏心体軸受の転動面におけるピーリングを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の減速装置の側面断面図である。
図2】実施形態の減速装置の正面断面図である。
図3】実施形態のころの模式的な側面図である。
図4】偏心体軸受の内側転動面ところの関係を示す模式図である。
図5】Rpkを求めるのに用いられる粗さ曲線と負荷曲線を示すグラフである。
図6】ころのクラウニング部の形状の一例を示す図である。
図7図7(A)は、耐久試験を説明する概要図であり、図7(B)は、耐久試験で行われる動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の一例を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、その寸法を適宜拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1は、実施形態の減速装置10の側面断面図であり、図2は、その正面断面図である。図2では、図1とは外歯歯車16の回転位相が異なる図を示す。減速装置10は、内歯歯車20と噛み合う外歯歯車16を揺動させることで、内歯歯車20及び外歯歯車16の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材50から被駆動装置に出力する偏心揺動型減速装置である。
【0011】
減速装置10は、主に、入力軸12と、クランク軸14と、外歯歯車16と、偏心体軸受18と、内歯歯車20と、キャリヤ22、24と、ケーシング26と、を備える。以下、内歯歯車20の中心軸線CL1に沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線CL1を中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」という。
【0012】
入力軸12は、駆動装置(不図示)と連結され、その駆動装置から入力される回転動力により回転させられる。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0013】
クランク軸14は、入力軸12と一体的に回転させられる。本実施形態のクランク軸14は入力軸12が兼ねている。本実施形態の減速装置10は、クランク軸14の回転中心線CL2が内歯歯車20の中心軸線CL1と同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。クランク軸14は、入力軸12の回転により回転中心線CL2周りに回転する軸体28と、軸体28と一体的に回転可能な複数の偏心体30とを備える。
【0014】
偏心体30は、クランク軸14の回転中心線CL2に対して自らの軸心CL3が偏心しており、外歯歯車16を揺動させることが可能である。本実施形態では3個の偏心体30が設けられ、隣り合う偏心体30の偏心位相は120°ずれている。図1において、複数の偏心体30のうちの真ん中の偏心体30の軸心は、クランク軸14の回転中心線CL2に対して、本図の紙面の奥行方向にずれている。本実施形態の偏心体30は軸体28と同じ部材の一部として構成される。
【0015】
外歯歯車16は、複数の偏心体30のそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車16には、ピン体32が貫通する第1貫通孔34が形成される。第1貫通孔34は、外歯歯車16の中心からオフセットして設けられる。
【0016】
偏心体軸受18は、偏心体30と外歯歯車16の間に配置される。偏心体軸受18は、複数の偏心体30のそれぞれに対応して個別に設けられる。偏心体軸受18は、対応する偏心体30に支持され、かつ、偏心体30に対応する外歯歯車16を支持する。外歯歯車16は、偏心体軸受18を介して対応する偏心体30に回転自在に支持される。偏心体軸受18は、外歯歯車16の中央部を貫通する第2貫通孔36の内側に配置される。偏心体軸受18の詳細は後述する。
【0017】
本実施形態の内歯歯車20は、ケーシング26と一体化される内歯歯車本体38と、内歯歯車本体38とは別体に設けられるとともに内歯歯車20の内歯を構成する外ピン40とを備える。外ピン40は内歯歯車本体38の内周部に形成されるピン溝42に回転自在に支持される。
【0018】
ケーシング26は、全体として筒状をなし、その内側には外歯歯車16が配置される。本実施形態のケーシング26は内歯歯車本体38を兼ねている。
【0019】
キャリヤ22、24には、複数の外歯歯車16に対して軸方向の一方側に設けられる第1キャリヤ22(以下、便宜的に、入力側キャリヤ22という)と、複数の外歯歯車16に対して軸方向の他方側に設けられる第2キャリヤ24(以下、便宜的に、反入力側キャリヤ24という)とが含まれる。キャリヤ22、24は、入力軸受44を介してクランク軸14を回転自在に支持する。
【0020】
ピン体32は、入力側キャリヤ22と反入力側キャリヤ24を連結する。ピン体32は、内歯歯車20の中心軸線CL1周りに間隔を空けて複数(本例では6つ)設けられる。ピン体32には、ピン体32に対して回転自在にローラ46が外嵌される。
【0021】
ピン体32は、外歯歯車16を貫通する本体部32aと、入力側キャリヤ22及び反入力側キャリヤ24のうちの一方のキャリヤに形成される嵌込部に嵌め込まれる端部32bとを備える。本実施形態での「一方のキャリヤ」とは、入力側キャリヤ22である。本実施形態のピン体32は、入力側キャリヤ22及び反入力側キャリヤ24のうちの他方のキャリヤと同じ部材の一部として一体に設けられる。本実施形態での「他方のキャリヤ」とは反入力側キャリヤ24である。
【0022】
被駆動装置(不図示)に回転動力を出力する部材を出力部材50といい、減速装置10を支持するために外部部材(不図示)に固定される部材を被固定部材52という。本実施形態の出力部材50は反入力側キャリヤ24であり、被固定部材52はケーシング26である。
【0023】
出力部材50は、被固定部材52に主軸受54、56を介して回転自在に支持される。主軸受54、56には、ケーシング26と入力側キャリヤ22の間に配置される第1主軸受54(以下、入力側主軸受54ともいう)と、ケーシング26と反入力側キャリヤ24の間に配置される第2主軸受56(以下、反入力側主軸受56ともいう)とが含まれる。
【0024】
以上の減速装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転が伝達されると、入力軸12とともにクランク軸14が回転し、クランク軸14の偏心体30により外歯歯車16が揺動する。このとき、外歯歯車16は、自らの軸心CL3が内歯歯車20の中心軸線CL1周りを回転するように揺動する。外歯歯車16が揺動すると、外歯歯車16と内歯歯車20の噛合位置が順次に周方向にずれる。この結果、入力軸12やクランク軸14が一回転する毎に、外歯歯車16と内歯歯車20の歯数差に相当する分、外歯歯車16及び内歯歯車20の一方の自転が発生する。
【0025】
本実施形態のように反入力側キャリヤ24が出力部材50となる場合、外歯歯車16の自転が発生する。一方、ケーシング26が出力部材50となる場合、内歯歯車20の自転が発生する。出力部材50は、外歯歯車16又は内歯歯車20の自転成分と同期して回転することで、その自転成分を被駆動装置に出力する。このとき、入力軸12の回転は、外歯歯車16と内歯歯車20の歯数差に応じた減速比で減速されたうえで被駆動装置に出力される。
【0026】
偏心体軸受18の説明に移る。偏心体軸受18は、ころ軸受であり、複数のころ60と、リテーナ62を備える。リテーナ62は、複数のころ60の相対位置を保持するとともに複数のころ60を回転自在に支持する。
【0027】
偏心体軸受18は、ころ60の径方向外側に設けられるとともにころ60が転動する外側転動面64と、ころ60の径方向内側に設けられるとともにころ60が転動する内側転動面66とを備える。本実施形態の外側転動面64は、偏心体軸受18に専用の外輪には設けられておらず、ころ60に対して径方向外側に対向する外歯歯車16の第2貫通孔36の内周面に設けられる。本実施形態の偏心体軸受18は外側転動面64が設けられる外輪を備えないということである。本実施形態の内側転動面66は、偏心体軸受18に専用の内輪には設けられておらず、ころ60に対して径方向内側に対向する偏心体30の外周面に設けられる。本実施形態の偏心体軸受18は内側転動面66が設けられる内輪を備えないということである。本実施形態の内側転動面66や外側転動面64は、軸方向に沿った切断面において、直線状に延びるように設けられる。
【0028】
複数のころ60は、周方向に間を置いて設けられる。本実施形態のころ60は円筒ころであり、ころ60の回転中心線CL4が内歯歯車20の中心軸線CL1と平行に設けられる。以下、ころ60の回転中心線CL4に沿った方向をころ軸方向という。
【0029】
図3は、ころ60の模式的な側面図である。ころ60は、ころ軸方向の中間部70と、中間部70からころ軸方向の端部に向かって外径が徐々に小さくなるクラウニング部72と、ころ60の外周面ところ軸方向の端面60aとがなす角部74とを備える。図ではクラウニング部72にハッチングを付す。本実施形態の中間部70は、ころ60の中央部を含む範囲を構成し、ころ60の回転中心線CL4に沿って直線状に延びている。クラウニング部72は、ころ60にミスアライメントが生じたとき、転動面64、66に対するころ60のエッジ当たりを防ぐために設けられる。本実施形態のクラウニング部72は、中間部70に対してころ60のころ軸方向の両側に個別に設けられる。本実施形態の角部74は曲面状の面取り部を構成する。
【0030】
次に、本実施形態の減速装置10を想到するに到った背景を説明する。図4は、偏心体軸受18の内側転動面66ところ60との関係を示す模式図である。ここでは、ころ60の一部の側面図と、偏心体軸受18の内側転動面66を平面的に展開した図を示す。本図では、ピーリングの発生箇所と、その発生箇所に対するころ60の転動箇所とにハッチングを付す。
【0031】
本発明者は、減速装置10に入力されるトルクが増大すると、偏心体軸受18にピーリングが生じ易くなる場合があるとの知見を得た。このピーリングは、ころ60のクラウニング部72の転動箇所にて、偏心体軸受18の転動面64、66、特に、偏心体軸受18の内側転動面66で生じ易くなる傾向があった。
【0032】
本発明者は、この対策を検討した。この結果、ころ60のクラウニング部72の突出山部高さRpk(以下、単に「Rpk」ともいう)と、クラウニング部72の無次元ドロップ量Da(後述する)の調整が有効であることを見出した。
【0033】
Rpkは、測定対象面の表面粗さを表すパラメータの一つであり、JIS B6071-2に規定される。図5は、Rpkを求めるのに用いられる粗さ曲線Crと負荷曲線Clを示すグラフである。Rpkを求めるにあたっては、JIS B6071-1に規定された測定対象面の粗さ曲線Crを取得し、その取得した粗さ曲線Crから負荷曲線Clを算出する。この負荷曲線Clの中央部分に等価な等価直線Leと横軸0%の位置の縦軸との交点のレベルをコア部の上側レベルLuとし、その等価直線Clと横軸100%の位置の縦軸との交点のレベルをコア部の下側レベルLlとする。このとき、粗さ曲線Crにおいてコア部の上側レベルLuより上側の部分が突出山部80となり、コア部の下側レベルLlより下側の部分が突出谷部82となる。
【0034】
Rpkは、粗さ曲線Crにおける突出山部80の平均高さを示す値である。粗さ曲線Crにおける突出山部80の合計断面積をSaとし、横軸0%の位置から負荷曲線Clと上側レベルの直線L1との交点までの負荷長さ率をMr1とする。このとき、Rpkは、負荷曲線Clにおいて底辺をMr1として断面積がSaに等しい直角三角形Taの高さにより表される。
【0035】
表面粗さを表すパラメータは種々ある。これらの中でRpkが偏心体軸受18のピーリングに鋭敏な指標となることを本発明者は新たに見出した。これは、偏心体軸受18のピーリングに対して、粗さ曲線Crにおける突出山部80と突出谷部82のうち、その突出山部80の高さが特に影響しているためと考えられる。この突出山部80の高さが高くなるほど、偏心体軸受18の転動面64、66に対するころ60の転動箇所での面圧が大きくなり、それに起因してピーリングが生じ易くなると考えられる。
【0036】
表面粗さを表す他のパラメータとして、たとえば、算術平均粗さRaがある。これは、基準長さにおける粗さ曲線の高さ方向での絶対値の平均値である。この算術平均粗さRaを指標に用いた場合、偏心体軸受18のピーリングに対する影響が小さいと考えられる突出谷部82の形状が影響してしまう。このため、この場合、偏心体軸受18のピーリングを正確に評価できない。これに対して、本実施形態によれば、Rpkを指標として、ころ60のクラウニング部72のRpkを設定している。このため、粗さ曲線Crの突出谷部82が影響する他のパラメータを用いる場合と比べ、その影響を排除してピーリングを正確に評価でき、ひいてはピーリングを安定して抑制できる。
【0037】
具体的には、ころ60のクラウニング部72のRpkは、0.063μm以下に設定することが有効である。この条件を満たすことで、ころ60のクラウニング部72の転動箇所にて偏心体軸受18の転動面64、66でのピーリングを抑制できる。この観点から、このRpkは、0.040μm以下であると好ましい。これらは、後述の試験的な検討結果に基づき設定している。クラウニング部72のRpkの下限値は、ピーリングとの関係で特に限定するものではない。この下限値は、出願時点における加工技術の水準から、現実的なコストで加工するには、たとえば、0.025μmである。
【0038】
ころ60の中間部70のRpkは、そのクラウニング部72と同様の観点から、0.063μm以下であると好ましい。これにより、ころ60の中間部70の転動箇所にて偏心体軸受18の転動面64、66でのピーリングを抑制できる。中間部70のRpkの下限値は、ピーリングとの関係で特に限定するものではない。この下限値は、出願時点における加工技術の水準から、現実的なコストで加工するには、たとえば、0.013μmである。
【0039】
このようなRpkのころ60は、たとえば、センターレス研磨、バレル研磨、バフ研磨等を用いた研磨工程により得られる。この研磨工程により所望のRpkのころ60を得るうえでは、研磨剤の粒度を調整すればよい。このとき、所定の粒度(たとえば、#1000)となるまで粒度を徐々に大きくするよう研磨剤の粒度を変更すればよい。
【0040】
ころ60の中間部70のRpkは、クラウニング部72のRpkより小さいと好ましい。ころ60の中間部70は、クラウニング部72と比べて研磨加工をし易く、クラウニング部72よりRpkを小さくし易い。よって、前述の構成によれば、クラウニング部72のRpkを中間部70のRpkに合わせるより、その実現が容易となる。
【0041】
(ドロップ量)
ころ60のクラウニング部72の無次元ドロップ量Daは、次の条件を満たす値である。図3を参照する。ころ60のころ軸方向の中央60bから端面60aまでの距離をLhとする。ころ60の中央60bからころ軸方向にLh×80%の位置を評価位置Peという。このとき、無次元ドロップ量Daは、この評価位置Peにおけるころ60のクラウニング部72のドロップ量をLh×80%で割った値となる。ここでの評価位置Peにおけるドロップ量とは、中間部70の半径と評価位置Peでの半径との差で表される。このようにドロップ量を無次元化したのは、ころ60のころ軸方向の長さによらず、そのクラウニング部72のドロップ量を評価するためである。評価位置をLh×80%の位置としたのは、通常、そこにクラウニング部72が設けられ、そこでのドロップ量が偏心体軸受18のピーリングに影響していると考えられるためである。
【0042】
この無次元ドロップ量Daは、0.0026以上に設定することが有効である。これは、後述の試験的な検討結果に基づき設定している。この条件を満たすことで、ころ60のクラウニング部72の転動箇所にて偏心体軸受18の転動面64、66でのピーリングを効果的に抑制できる。また、この条件を満たすことで、ころ60の端部でのエッジ当たりを効果的に防げる利点もある。無次元ドロップ量Daの上限値は、ピーリングとの関係で特に限定するものではないが、0.010にすると好ましい。クラウニング部72のドロップ量が過多になると、クラウニング部72と中間部70の境界部の転動箇所にて偏心体軸受18の転動面64、66での面圧の増大が懸念される。無次元ドロップ量Daを前述の上限値以下にすることで、このような面圧の増大を避けられる。
【0043】
以上のころ60のクラウニング部72のRpkや無次元ドロップ量Daを設定するにあたって、本発明者が行った試験を説明する。この試験では、ころ60のRpkや無次元ドロップ量Daを様々に変えた条件の偏心体軸受18を減速装置10に組み込み、その減速装置10をサンプルに用いた。ころ60の直径は6mm、ころ軸方向の全長Ltは6.5mmである。ころ60のクラウニング部72のRpk、無次元ドロップ量Da及び形状は、表1と図6に示す通りである。図6の矢印は評価位置Peを示す。各サンプルの減速装置10のトルク密度(後述する)は、3.1×10N/mである。
【0044】
【表1】
【0045】
ころ60のRpkの測定方法は次の通りである。まず、接触式表面粗さ測定器の触針を測定対象面上で移動させ、触針の先端部の軌跡を測定して測定曲線を取得し、その測定曲線に基づいて評価長さLnの粗さ曲線Crを取得した。表面粗さ測定器には、東京精密製「SURFCOM 2000DX-14」を用いた。触針の移動方向(測定方向)はころ軸方向であり、その移動速度は0.3mm/sである。触針はダイヤモンド製であり、その先端部は、頂角60°、曲率半径2μmの円錐状をなす。評価長さLnは、基準長さ(0.25mm)の5倍である1.25mmとして、クラウニング部72の突出山部高さRpkを求める場合には、その全範囲にクラウニング部72を含めた。評価長さLnは、中間部70の突出山部高さRpkを求める場合には、その全範囲に中間部70を含めた。このように求めた粗さ曲線Crから、前述の負荷曲線Clを算出し、負荷曲線Clから突出山部高さRpkを求めた。
【0046】
以上のサンプルとなる減速装置10は、次の耐久試験に供した。図7は、耐久試験を説明するための図である。図7(A)に示すように、耐久試験では、減速装置10の出力部材に出力軸84を介してフライホイール86を取り付け、そのフライホイール86に錘88を取り付け。この状況のもと、駆動装置90(サーボモータ)により回転動力を減速装置10の入力軸12に入力した。
【0047】
図7(B)を参照する。加速運転→等速運転→減速運転の順で行う動作を一回のサイクルとする。正回転方向の動力を入力して行われる一サイクルの動作を正サイクル動作といい、逆回転方向の動力を入力して行われる一サイクルの動作を逆サイクル動作という。耐久試験では、合計のサイクル数が所定の基準回数となるまで、五回の正サイクル動作と、五回の逆サイクル動作とを交互に繰り返した。
【0048】
この耐久試験では、次の式(1)で表される負荷トルクTfが減速装置10の許容トルクとなるように、Jf、Jw、nMax、taを調整した。
Tf=(Jf+Jw)×(nMax/(9.55×ta)) ・・・ (1)
Tf:負荷トルク(N×m)
Jf:フライホイール86の慣性モーメント(kgm
Jw:錘88の慣性モーメント(kgm
nMax:出力部材50から出力される出力回転数(r/min)
ta:加速時間または減速時間(秒)
【0049】
また、この耐久試験では、次の式(2)で表される負荷モーメントMfが減速装置10の許容モーメントとなるように、Wf、Ww、L1、L2を調整した。
Mf=Wf×g×L1+Ww×g×L2 ・・・ (2)
Mf:負荷モーメント(N×m)
Wf:フライホイール86の質量(kg)
Ww:錘88の質量(kg)
L1:入力側主軸受54の作用点Paからフライホイール86の軸方向中央位置までの距離(m)
L2:入力側主軸受54の作用点Paから錘88の軸方向中央位置までの距離(m)
【0050】
以上の耐久試験を経たサンプルは、偏心体軸受18の内側転動面66を目視により観察することで、偏心体軸受18のピーリングの有無を評価した。この結果は、表1に記載の通りである。表1のピーリングの項目で「×」は、前述の基準回数が40万回の場合にピーリングが見られたことを示す。「○」は、基準回数が40万回の場合にピーリングが見られず、基準回数が80万回の場合に僅かにピーリングが見られたことを示す。「◎」は、基準回数が80万回の場合にピーリングが見られず、基準回数が100万回の場合に僅かにピーリングが見られたことを示す。「☆」は、基準回数が100万回の場合でもピーリングが見られないことを示す。
【0051】
表1のNo.A、Bに示すように、ころ60のクラウニング部72のRpkが0.063μm超の場合、偏心体軸受18にピーリングが生じていた。一方、No.C~Gに示すように、Rpkが0.063μm以下の場合、偏心体軸受18のピーリングを抑制できていた。また、No.E~Gに示すように、クラウニング部72のRpkが0.040μm以下の場合、よりピーリングを抑制できていた。また、No.D、F、Gに示すように、無次元ドロップ量Daが0.0026以上の場合、0.0026未満の場合と比べ、よりピーリングを抑制できていた。また、No.F、Gに示すように、クラウニング部72のRpkが0.040μm以下で、かつ、無次元ドロップ量Daが0.0026以上の場合、特にピーリングを抑制できていた。
【0052】
次に、本実施形態の減速装置10の他の工夫点を説明する。前述の通り、減速装置10に入力するトルクを増大すると、偏心体軸受18にピーリングが生じ易くなる。このトルクに関するパラメータとして、本実施形態では、次に説明するトルク密度を用いる。
【0053】
図1図2を参照する。内歯歯車20及び外歯歯車16が構成する減速機構92を円柱体とみなす。内歯歯車20のピッチ円Cpの半径を円柱体の半径Rとし、外歯歯車16の軸方向寸法Thの合計値を円柱体の軸方向寸法Ttとする。この円柱体の半径Rと軸方向寸法Ttで表される円柱体の体積(=π×R×Tt)を減速機構92の体積とする。隣り合う外歯歯車16が間隔を空けて配置される場合、その間隔は、ここでの「外歯歯車16の軸方向寸法Thの合計値」に含まない。本実施形態のように三つの外歯歯車16がある場合は、その三つの外歯歯車16の軸方向寸法Thの合計値(Th×3)を用いる。
【0054】
このとき、前述のトルク密度は、減速装置10の許容トルクを減速機構92の体積で割った値となる。このトルク密度は、減速装置10に許容トルクを入力したときに、減速機構92の単位体積当たりの部分に付与されるトルクを意味する。トルク密度が大きくなるほど、減速装置10の許容トルクが大きくなることを意味する。ここでの許容トルクとは、予め定められた許容ピークトルクのことである。詳しくは、減速装置10の起動・停止に伴い回転物に慣性トルクが付与されたとき、第2キャリヤ24に作用するピークトルクに関して予め定められた許容値のことである。
【0055】
このトルク密度は、2.9×10N/m以上に設定することが有効である。これは、試験的な検討結果に基づき設定している。この条件を満たすと、このようなトルク密度を付与する大トルクが減速装置10に入力されることが想定される。このような大トルクが付与された場合、その分、偏心体軸受18にピーリングが生じ易くなる。本実施形態によれば、このような場合でも、ころ60のクラウニング部72のRpkに関して前述の条件を満たすことで、偏心体軸受18のピーリングを抑制できる利点がある。また、このようにピーリングを抑制しつつも、減速装置10の許容トルクを増大できる利点もある。このトルク密度の上限値は、特に限定するものではない。この上限値は、出願時点での技術水準から、たとえば、6.0×10N/m以下となる。
【0056】
このようなトルク密度の条件を満たすうえでは、たとえば、次の(1)~(3)の手法が用いられる。(2)の手法を用いる場合、たとえば、特開2016-98860号公報に記載のような熱処理を行ってもよい。(3)の手法を用いる場合、たとえば、特許文献1に記載のように、内歯歯車20の中心軸線CL1からピン体32の本体部32aの軸心までの距離と、その中心軸線CL1からその端部32bの軸心までの距離とを異ならせてもよい。これにより、ピン体32の根本部での強度の向上が図られる。
(1)減速装置10の構成部品の素材を高強度化する
(2)減速装置10の構成部品に高強度化を図る熱処理を用いる
(3)減速装置10の構造を高強度化する
【0057】
各構成要素の変形例を説明する。
【0058】
偏心揺動型減速装置としてセンタークランクタイプを例に説明したが、内歯歯車20の中心軸線CL1からオフセットした位置に複数のクランク軸14が配置される振り分けタイプでもよい。
【0059】
外歯歯車16の数は特に限られず、単数、二つ、四つ以上の何れでもよい。
【0060】
偏心体軸受18は、外側転動面64が設けられる専用の外輪を備えない例を説明したが、そのような専用の外輪を備えてもよい。偏心体軸受18は、内側転動面66が設けられる専用の内輪を備えない例を説明したが、そのような専用の内輪を備えてもよい。
【0061】
偏心体軸受18のころ60は、円筒ころに限られず、円錐ころ等でもよい。
【0062】
内歯歯車20は、内歯歯車20の内歯が内歯歯車本体38と同じ部材の一部として一体に設けられてもよい。
【0063】
ケーシング26は、内歯歯車本体38と別体に設けられてもよい。
【0064】
偏心体30は、クランク軸14の軸体28と別体に構成されてもよい。
【0065】
ピン体32は、入力側キャリヤ22及び反入力側キャリヤ24のうちの他方のキャリヤと別体に設けられてもよい。
【0066】
以上、本発明の実施形態や変形例について詳細に説明した。前述した実施形態や変形例は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態や変形例の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との記載を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【符号の説明】
【0067】
10…減速装置、16…外歯歯車、18…偏心体軸受、20…内歯歯車、30…偏心体、60…ころ、70…中間部、72…クラウニング部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7