(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010099
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】積層フィルム及び包装袋
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230113BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113953
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐司
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AC07
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB52
3E086BB90
3E086CA35
4F100AB09A
4F100AB22A
4F100AK03B
4F100AK04B
4F100AK07B
4F100AK42A
4F100AR00B
4F100BA02
4F100CB00G
4F100GB16
4F100JA04A
4F100JC00A
4F100JL12B
4F100JL16
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】メカニカルリサイクルPET(M-再生PET)が使用された場合にも再生品に特有の物性低下が解消され、包装袋としての用途に好適に使用される積層フィルムを提供する。
【解決する手段】ポリエチレンテレフタレート層1とシーラント層3とを有する積層フィルムにおいて、ポリエチレンテレフタレート層1は、不可避的金属成分としてSbとGeとを含み、DSCによる結晶化の発熱ピーク(Tc1)が140℃以下の範囲に発現していることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート層とシーラント層とを有する積層フィルムにおいて、
前記ポリエチレンテレフタレート層は、不可避的金属成分としてSbとGeとを含み、DSCによる結晶化の発熱ピーク(Tc1)が140℃以下の範囲に発現していることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレート層は、DSCによる融点ピーク(Tm)が252℃以下の範囲に発現している請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記ポリエチレンテレフタレート層は、1質量%以上のバイオマス成分を含んでいる請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記シーラント層がオレフィン系樹脂により形成されている請求項1~3の何れかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
請求項1~4の何れかの記載の積層フィルムを、貼り合わせて得られる包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、特にPETの再生品(再生PET)を含む積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年における環境保護の重要性から、使用済みプラスチック成形体や成形体製造時に発生するプラスチック廃材などからプラスチックを再生し、再利用するリサイクル技術が種々検討されている。例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル重合によって得られるポリエチレンテレフタレート(PET)の再生品をフィルム等の用途に使用することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、ペットボトルからリサイクルされたポリエステルを50重量%以上95重量%以下の量で含むポリエステルフィルム或いは該ポリエステルフィルムを含む積層フィルムが開示されている。
【0004】
ところで、再生PETの中でも、メカニカルリサイクル法により再生されたものはメカニカル再生PET(M-再生PET)と呼ばれ、ケミカルリサイクル法とは異なり、大掛かりな解重合設備等を必要とせず、安価に得られるという利点がある。しかし、M-再生PETには、再生品に特有の物性低下を示し、強度不足などから包装袋の用途には適当でないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6150125号公報
【特許文献2】特許第6500629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、M-再生PETが使用された場合にも再生品に特有の物性低下が解消され、包装袋としての用途に好適に使用される積層フィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の積層フィルムから得られる包装袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ポリエチレンテレフタレート層とシーラント層とを有する積層フィルムにおいて、
前記ポリエチレンテレフタレート層は、不可避的金属成分としてSbとGeとを含み、DSCによる結晶化の発熱ピーク(Tc1)が140℃以下の範囲に発現していることを特徴とする積層フィルムが提供される。
【0008】
本発明の積層フィルムにおいては、次の態様が好適に採用される。
(1)前記ポリエチレンテレフタレート層は、DSCによる融点ピーク(Tm)が252℃以下の範囲に発現していること。
(2)前記ポリエチレンテレフタレート層は、1質量%以上のバイオマス成分を含んでいること。
(3)前記シーラント層がオレフィン系樹脂により形成されていること。
【0009】
本発明によれば、また、上記の積層フィルムを、貼り合わせて得られる包装袋が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)により形成された層とシーラント層とが積層された層構造を有するものであり、シーラント層のヒートシール性を利用して熱接着するものであるが、PETとして、不可避的金属成分としてSbとGeとを含み、且つDSCによる結晶化の発熱ピーク(Tc1)が140℃以下の範囲に発現しているものを使用することにより、例えばメカニカルリサイクル品(M-再生PET)が使用された場合においても、強度等の物性低下を有効に緩和することができ、例えば包装袋への適用が可能となる。
この結果として、石油由来のプラスチックの使用量を削減し、環境保護を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の積層フィルムの基本層構造を示す概略側断面図。
【
図2】
図1の積層フィルムを用いて形成された包装袋用積層体の層構造を示す概略側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照して、全体として10で示される本発明の包装袋用積層フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)により形成された層1(PET層)にシーラント層3が積層された基本構造を有しており、通常、PET層1とシーラント層3との間には、接着剤層5が設けられており、これによりPET層1とシーラント層3とが強固に接合されている。
このような基本層構造を有する積層フィルム10は、包装袋の作製(製袋)に好適に使用される。
図2において、このような包装袋(パウチ)は20で示されており、シーラント層3同士が対面するように配置して積層フィルム10をヒートシールにより貼り付けることにより得られる。
【0013】
PET層1;
既に述べたように、M-再生PETは、メカニカルリサイクルにより得られた再生ポリエチレンテレフタレートであり、使用済みPET成形品やPET成形品製造時に生じるバリ等の廃材から、分別、粉砕、洗浄、溶融状態でのろ過、有機溶媒による抽出などを経て回収され、さらに気流下或いは減圧下での熱処理(固相重合)を行うことにより得られる。このようなM-再生PETの使用により、省資源や環境保護を実現できるわけである。
【0014】
このようなM-再生PETは、微量ではあるがコンタミを含み、さらには回収元の成形品の種類によっては、共重合成分(例えばイソフタル酸)を含むことから、バージンのPETに比して融点が低い。例えば、DSCによる2回目昇温曲線から算出される融点ピーク(Tm)が250±5℃程度であり(ピークトップ)、同様にしてバージンのPETフィルムから算出される融点に比して2~3℃低い値を示す。
【0015】
本発明においては、上記のようなM-再生PETを用いてPET層1を形成することができるが、このようなPET層1を形成するPETは、不可避的金属成分としてSbとGeとを含み、且つDSCによる結晶化の発熱ピーク(Tc1)が140℃以下の範囲に発現しているものを使用しなければならない。
【0016】
上記のPETに含まれる不可避的金属成分は、ポリエチレンテレフタレート(PET)合成時に使用される触媒に由来するものであり、SbやGe以外にも、Ti、Al、Co、P等がある。本発明で使用されるPETには、Sb及びGeの両方を含んでいるが、通常、バージンのPETには、SbとGeとの両方を含むものはほとんどないといってよい。本発明で用いるPET層1を形成するPETは、Sb及びGeの何れも1ppm以上含んでいることが好適である。勿論、他の不可避的金属成分(Ti,Al,Co,P等)を含んでいてもよい。
尚、不可避的金属成分量は、蛍光X線分析(XRF)により測定することができる。
【0017】
また、DSCによる結晶化の発熱ピーク(Tc1)は、前述した融点ピーク(Tm)と同様、融点以上の温度に昇温させて冷却した後の再度の昇温により得られる2回目昇温曲線に発現するものであり、本発明で用いるPETは、この結晶化発熱ピーク(Tc1)の温度(ピークトップの温度)が140℃以下にある。この結晶化温度が140℃以下ということは、結晶化速度が速いことを意味しており、このような結晶化速度を示すPETの使用により、M-再生PETを用いてPET層1を形成した場合にも、メカニカルリサイクルによるフィルム物性の低下を有効に抑制することが可能となる。
【0018】
即ち、本発明においては、上記の不可避的金属成分を含み且つDSCによる結晶化発熱ピーク温度(Tc1)を満足する限り、M-再生PETを単独で使用してPET層1を形成してもよいし、M-再生PETとバージンのPETとをブレンドしてPET層1を形成することもできる。例えば、M-再生PETを用いる場合、回収元のPET成形品によっては、溶融粘度が高く、押出成形等によるフィルムの成形が困難となることがある。このような場合には、適宜、フィルム形成に使用されるバージンのPET(或いはPET以外の他のポリエステル)をブレンドし、押出成形に適した物性に調整することもできる。この場合、M-再生PET以外のバージンポリマーの配合量が多くなるとリサイクル品の使用により省資源や環境保護を実現するという本発明の目的が損なわれるので、バージンポリマーの使用量はできるだけ少ない方が好ましく、例えばバージンポリマーの使用量は、M-再生PETに対して30質量%以下であることが好ましい。
【0019】
上記のようなPET層1は、強度、剛性を確保するために、一軸或いは二軸方向に延伸されていてもよい。延伸倍率は、過延伸によるフィルム破断が生じない程度であればよく、通常、2倍以上である。
【0020】
また、M-再生PET層1は、バイオマス成分を1質量%以上含有していることが、石化由来の原料使用量を低減させ、環境を保護するという観点から好適である。
このバイオマス成分量(バイオマス度)は、放射性炭素14Cの濃度であり、例えばポリエチレンテレフタレートでは、バイオマス由来のエチレングリコールを用いて合成することにより、バイオマス度を確保することができる。
【0021】
また、このようなPET層1の厚みは、その用途、例えば最終的に形成される包装袋20に収容される内容物の種類や容量などに応じて適宜の範囲に設定されていればよく、一般的には、5~200μmの範囲から用途に応じた厚みに設定される。
【0022】
シーラント層3;
シーラント層3は、ヒートシールのための層であり、ヒートシール可能な熱可塑性樹脂、例えばオレフィン系樹脂により形成される。
【0023】
シーラント層3の形成に使用されるオレフィン系樹脂は、適宜の温度での加熱により溶融し、シーラント層3同士の熱接着が可能となるものであればよく、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)等のポリエチレンや、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)等を挙げることができる。また、非環状オレフィンと環状オレフィンとの非晶質乃至低結晶性の共重合体(COC)も使用することができる。本発明において、特に好適に使用されるオレフィン系樹脂は、プロピレン系樹脂、α-オレフィン・エチレン共重合体、及び直鎖状低密度ポリエチレンである。
上述したオレフィン系樹脂は、それぞれ単独で使用することもできるし、2種以上をブレンドして使用することもできる。
【0024】
本発明においては、前述したPETからなるフィルムと上記オレフィン系樹脂のフィルムとを接着剤により貼り付けることにより、PET層1と共にシーラント層3を形成することができる。
オレフィン系樹脂のフィルムは、PETフィルムに比較して可撓性が高く、このようなオレフィン系樹脂をシーラント層3としてPET層1に積層することにより、耐衝撃性が向上した包装袋20を得る上で有利である。
【0025】
上記のシーラント層3は、オレフィン系樹脂のフィルムを用いて形成されるが、その厚みは、シーラント層3同士の熱接着が可能な厚みであればよく、例えば最終的に得られる包装袋20の用途や容量によっても異なるが、一般的には、5~200μm程度の範囲にあればよい。
【0026】
また、本発明において、レトルト殺菌や電子レンジ加熱などの耐熱性が要求される用途に使用される包装袋20を作製する場合には、耐熱性という点で所謂CPPフィルムを用いてシーラント層3を形成することが好適である。
【0027】
CPPフィルムは、無延伸ポリプロピレンフィルム或いはキャストPPフィルムと呼ばれ、ホモ或いはランダムポリプロピレンにより形成される。このようなポリプロピレンは、フィルムを形成し得るに足る分子量を有していればよい。
【0028】
上記のCPPフィルムには、必要により耐衝撃性を向上させるためにポリプロピレン以外の他のポリマー成分が配合されていてもよい。このような他のポリマー成分が配合されたCPPは、インパクトポリプロピレン(インパクトPP)と呼ばれ、特にホモ或いはランダムポリプロピレンのマトリックス中に、他のポリマー成分が分散された構造を有している。
【0029】
このような他のポリマー成分としては、熱可塑性エラストマー、例えば、エチレン・プロピレン共重合体(EPR)、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体(EPBR)を挙げることができる。中でもエチレン・プロピレン共重合体(EPR)は、特に耐衝撃性を向上させる上で好適である。
【0030】
尚、CPPフィルム中の熱可塑性エラストマー成分含量は、ポリプロピレンによる耐熱性及びヒートシール性を損なわずに耐衝撃性を向上させるという観点から1~30質量%程度が好適である。このような熱可塑性エラストマー成分含量は、例えばフィルムを沸騰キシレン中に溶解させての抽出により測定することができる。
【0031】
さらに、上記のCPPフィルムには、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)等のポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体といったポリプロピレン系樹脂が配合されていることが好ましく、特に直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が配合されていることが好ましい。LLDPEは、ポリプロピレンと熱可塑性エラストマー成分との相溶化剤として機能し、これにより、熱可塑性エラストマー成分の配合による耐衝撃性向上効果を最大限に高めることができる。
【0032】
上記のようなポリエチレン系樹脂が配合されているCPPフィルムは、DSCによる1回目昇温曲線において、プロピレン系樹脂に由来する融点ピークと、前記他のポリエチレン系樹脂由来の融点ピークとを有している。特に耐衝撃性の向上に好適な直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が配合されたCPPフィルムは、上記のDSCによる1回目昇温曲線において、融点ピーク(ピークトップ)を110~125℃の範囲に有している。
【0033】
上記の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、密度が0.860~0.925g/cm3の範囲にあり、例えば、ブテン-1(C4)、ヘキセン-1(C5)、4-メチルペンテン-1(C6)等のα-オレフィンを微量(数%程度)、エチレンに共重合させたことで低密度化されたものであり、分子の線形性が極めて高い。特にコモノマー成分としてC4或いはC6を含むものが好適である。
【0034】
本発明において、上述した熱可塑性エラストマーやLLDPEを含むCPPは、フィルム成形性(押出成形性)等の観点から、MFR(メルトフローレート、230℃)が0.5~10g/10min程度の範囲にある。従って、上記のLLDPEは、フィルム成形性を損なわないようにするために、MFR(190℃)が1.0~15g/10minのものが好適であり、CPP中のLLDPE量が、20質量%以下、特に10質量%以下となるように濃度調整されていることが、ポリプロピレンによる耐熱性向上等の特性を損なわないようにする上で好ましい。
【0035】
上述した熱可塑性エラストマー成分を含むCPPフィルムを用いてシーラント層3が形成されている包装袋20では、高温でのシール強度が高く、電子レンジ加熱によるシール破壊が有効に防止され、電子レンジ加熱を有効に行うことが可能となり、またレトルト殺菌によってもシール強度が低下することはない。
【0036】
また、本発明において、レトルト殺菌のような熱処理が不要であり、シャンプーやリンスなどの液体製品の詰め替え用として使用される包装袋20を製袋するためには、シーラント層3を形成するオレフィン系樹脂フィルムとしては、耐熱性が要求されないため、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のフィルムが好適に使用される。かかるLLDPEの共重合成分としては、ブテン-1(C4)、4-メチルペンテン-1(C6)が好適に使用される。
【0037】
接着剤層5;
接着剤層5は、接着剤を用いて形成される層であり、この接着剤を用いてPET層1を形成するフィルムとシーラント層3を形成するフィルム5とが積層される。
【0038】
このような接着剤としては、所謂ドライラミネート接着剤、例えばウレタン系の接着剤やエポキシ系の接着剤など、公知のドライラミネート接着剤を使用することができる。
【0039】
例えば、ウレタン系のドライラミネート接着剤としては、イソシアネートと(メタ)アクリル化合物やポリエステルポリオールとの反応物からなるものを挙げることができる。この接着剤は、通常、アミン系触媒や金属触媒或いはリン酸変性化合物などの公知の硬化触媒を含んでいる。硬化触媒の量は、下地の樹脂の熱変形を伴わないような温度及び時間で緻密な硬化膜(接着層)が形成し得るように硬化触媒の種類に応じて設定される。
【0040】
また、エポキシ系接着剤は、分子中にエポキシ基を有する液状樹脂とエポキシ硬化剤とを含むものである。
分子中にエポキシ基を有する液状樹脂は、エピクロルヒドリンとフェノール化合物やアミン化合物、カルボン酸などとの反応に得られるもの、ブタジエンなどの不飽和化合物を有機過酸化物などにより酸化することによって得られるものなどが代表的であり、何れのタイプのものも使用することができる。その具体例としては、ビスフェノールA型或いはビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
また、エポキシ硬化剤としては、アミン系、酸無水物、ポリアミドなど、公知のものを使用することができるが、特にメタフェニレンジアミンに代表される芳香族ポリアミンが好適である。
【0041】
エポキシ樹脂と硬化剤との量比は、エポキシ樹脂が有するエポキシ当量に応じて、十分な硬化膜が形成されるように設定すればよい。
【0042】
上述したウレタン系或いはエポキシ系等のドライラミネート接着剤は、炭化水素系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系等の揮発性有機溶剤に溶解ないし分散された塗布液の形で前述したプロピレン樹脂系基材1の表面に塗布され、この後、乾燥して有機溶剤を揮散させた後、後述するヒートシール用フィルムを貼り付け、その後、加熱して硬化させることにより、ヒートシール用フィルムを接着固定することができる。
このようにして形成される接着剤層3の厚みは、通常、0.1~10μm程度である。
【0043】
上述したように、本発明の積層フィルム10は、PET層1を形成するフィルムとシーラント層3を形成するフィルムとが接着剤層5により積層された構造を基本構造とし、シーラント層3同士を熱接着することにより包装袋20を作製する用途に使用されるが、このような基本構造及び用途が損なわれない範囲で種々の層構造を有することができる。
【0044】
例えば、ガスバリア性を高めるために、PET層1には、アルミ箔(AL)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)などのガスバリア性層が積層されていてもよい。このようなガスバリア性の層は、ドライラミネート等の接着剤を用いてガスバリア性樹脂フィルムを貼り付けることにより形成される。
【0045】
また、PET層1上に無機系被膜が設けられていてもよい。無機系被膜はコーティングにより形成されたものであってもよく、蒸着膜でもよい。また、蒸着膜は、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどに代表される物理蒸着や、プラズマCVDに代表される化学蒸着などによって成膜され、形成される無機質の蒸着膜であり、例えばケイ素酸化物やアルミニウム酸化物などの各種金属乃至金属酸化物により形成される。このような蒸着膜は、無機物で形成されていることから、エチレン・ビニルアルコール共重合体などのガスバリア性樹脂に比較してより高い酸素バリア性を示す。
【0046】
さらには、突き刺し強度を高めるために、ドライラミネート接着剤を用いてポリアミド系樹脂の延伸フィルムが積層されていてもよい。
このようなポリアミド系樹脂としては、特に制限されず、種々のものを例示することができるが、一般的には、ナイロン6(NY)、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン13、ナイロン6/ナイロン6,6共重合体、芳香族ナイロン(例えばポリメタキシリレンアジパミド)、アモルファスナイロン(例えばナイロン6I/ナイロン6T)等が好適に使用される。また、同様の目的でブチレンテレフタレート系の延伸フィルムが積層されていてもよく、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が好適に使用される。
【0047】
また、PET層1の外面側には、印刷層を設けることもできる。
さらに、上述した各層には、各層の機能を損なわず且つ内容物の品質を損なわないことを条件として、各種の配合剤が配合されていてよい。代表的な配合剤は、これに限定されるものではないが、脱臭剤、酸化防止剤、顔料である。
【0048】
脱臭剤は、リサイクル材であるM-再生PETが有することがある異臭を捕捉し、異臭による内容物のフレーバー性の低下を防止するものである。このような脱臭剤としては、シリカゲル等のシリカ系粒子やゼオライト等のケイ酸アルミニウム塩係粒子が代表的であるが、特に樹脂に対する分散性や脱臭力が強いことから、MFI型ゼオライト、特にシリカアルミナモル比(SiO2/Al2O3比)が80以上であるシリカリッチのMFI型ゼオライトが好適に使用される。このような脱臭剤は、PET層1よりも内側の層に配合される。
【0049】
酸化防止剤は、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類が代表的であり、従来から樹脂配合剤として使用されている。このような酸化防止剤は、PET、特に再生PETの酸化によるさらなる劣化を防止するために、PET層1に配合されていることが好ましく、通常、M-再生PET100質量部当り0.1~0.3質量部程度の量で使用することが望ましい。
【0050】
また、顔料は、M-再生PETが着色している場合、このような着色による外観不良を防止するために使用されるものであり、特に白色顔料が好適である。このような顔料は、PET層1或いはPET層1の外側の層に配合される。
【0051】
また、本発明の包装袋用積層フィルム10は、上述の基本構造及び用途が損なわれない範囲で種々の機能性樹脂層を有することができる。機能性樹脂層としてはこれに限定されないが、ガスバリア性樹脂層,易引裂き性樹脂層、酸素吸収性樹脂層,水分吸収性樹脂層、UVバリア性樹脂層、可視光バリア性樹脂層、剛性樹脂層、耐衝撃性樹脂層、耐薬品性層、耐突刺性層、耐熱性層等を例示できる。また、再生PET層1、接着剤層5、シーラント層3に従来公知の樹脂用配合剤を公知の処方で配合することによって、これらの機能を兼ね備えさせることもできる。
【0052】
本発明の包装袋用積層フィルム10の積層構造の適当な例は、次の通りである。
例えば、各構造中のPET層の、少なくとも1層以上は再生PET層とすることができる。また、各層は接着剤層5により積層されており、各構造の最右記載層はシーラント層3となる。
各層は記載素材を主たる原料とした共押出多層フィルムであってもよい。
また、上述の通り、各層上にはバリアコーティング層や印刷層を設けることもできる。さらに、各層には従来公知の樹脂用配合剤を公知の処方で配合することによって、各種機能を兼ね備えさせることもできる。
二層構造:
PET/PE、PET/PP、
三層構造:
PET/Ny/PE、Ny/PET/PE、PET/PET/PE、PET/AL/PE、PET/EVOH/PE、PBT/PET/PE、PET/PBT/PE、PET/Ny/PP、Ny/PET/PP、PET/PET/PP、PET/AL/PP、PET/EVOH/PP、PBT/PET/PP、PET/PBT/PP、
四層構造:
PET/Ny/AL/PE、PET/AL/Ny/PE、PET/AL/PET/PE、PET/PET/AL/PE、Ny/AL/PET/PE、PET/EVOH/NY/PE、PET/PET/NY/PE、PET/NY/NY/PE、NY/PET/NY/PE、PET/PET/PET/PE、PET/Ny/AL/PP、PET/AL/Ny/PP、PET/AL/PET/PP、PET/PET/AL/PP、Ny/AL/PET/PP、PET/EVOH/NY/PP、PET/PET/NY/PP、PET/NY/NY/PP、NY/PET/NY/PP、PET/PET/PET/PP、
五層構造:
PET/AL/PET/Ny/PE、PET/AL/PET/Ny/PP、
六層構造:
PET/AL/PET/PET/Ny/PE、PET/AL/PET/PET/Ny/PP、
などである。
【0053】
製袋;
上述した種々の層を含む本発明の積層フィルム10は、シーラント層3でのヒートシールによる貼り付けによって製袋し、包装袋(パウチ)20として使用する。
製袋は、公知の手段により行われる。例えば2枚の積層フィルム10を用いての3方シールにより、空パウチを作製し、開口部から内容物を充填し、最後に開口部をヒートシールにより閉じる。
また、1枚の積層フィルム10を折り返して両側端をヒートシールすることにより空パウチを作製することもできる。この場合、底部をヒートシールする必要はない。さらに、側部或いは底部専用の積層体を使用して空パウチを製造することもできる。このような方法は、パウチの容積を大きくし、あるいはスタンディング性を付与する上で有利である。
【0054】
このようにして本発明の積層フィルム10により製袋され、内容物が充填された包装袋20は、適宜の層構造を選択することにより、例えばレトルト処理(100~130℃での加熱水蒸気による殺菌処理)や電子レンジ加熱などが適用される用途に使用されることもできるし、シャンプーやリンスなどの液体詰め替え用のスタンディングパウチにも使用される。
このような本発明は、リサイクル品(M-再生PET)が使用されている場合にも、リサイクル品に由来する性能低下が有効に抑制される。またM-再生PETの使用により、省資源、環境保護を実現できる。
【符号の説明】
【0055】
1:PET層
3:シーラント層
5:接着剤層